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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B25J
管理番号 1359513
審判番号 不服2019-4822  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-10 
確定日 2020-02-05 
事件の表示 特願2016-183274「ロボットハンド装置およびロボットハンド装置を用いた搬送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年3月29日出願公開、特開2018-47515〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年9月20日の出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月25日付け:拒絶理由通知書
平成30年11月26日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 1月 9日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成31年 4月10日 :審判請求と同時に手続補正書(以下、「本件補正」という。)の提出


第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)平成30年11月26日提出の手続補正書により補正された(以下、「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1ないし16のうち、請求項1ないし3は、以下のとおりである。

「【請求項1】
シャフトを介して連結される複数のブロックを含み、対象物を下から支える複数のアームと、
前記複数のアーム毎に回転可能に設けられ、前記連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことにより、前記アームを伸縮させる複数のスプロケットと、
前記複数のアームを伸縮させるために前記スプロケットを回転させる駆動用のモータと、
前記複数のアームのうちの選択されたアームを伸縮させるために、前記モータの動力を前記選択されたアームに対応する前記スプロケットに伝達可能なクラッチと、
を有するロボットハンド装置。」
「【請求項2】
前記複数のアームに対応する前記複数のスプロケットは、前記対象物の幅方向に沿って設けられ、前記連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことにより、前記複数のアームを、同一平面内において前記対象物の幅方向と交差する方向に伸縮させる請求項1に記載のロボットハンド装置。」
「【請求項3】
前記クラッチは、前記対象物の幅に応じて、前記複数のアームのうちの選択されたアームに対応する前記スプロケットに前記モータの動力を伝達する請求項2または3に記載のロボットハンド装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)は以下のとおりである。(下線は、補正箇所について,請求人が付したもの。)

「【請求項1】
シャフトを介して連結される複数のブロックを含み、対象物を下から支える複数のアームと、
前記対象物の幅方向に沿ってかつ前記複数のアーム毎に回転可能に設けられ、前記連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことにより、前記アームを同一平面内において前記対象物の幅方向と交差する方向に伸縮させる複数のスプロケットと、
前記複数のアームを伸縮させるために前記スプロケットを回転させる駆動用のモータと、
前記複数のアームのうちの選択されたアームを伸縮させるために、前記モータの動力を、前記対象物の幅に応じて、前記選択されたアームに対応する前記スプロケットに伝達可能なクラッチと、
を有するロボットハンド装置。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項3に係る発明(請求項2を引用する場合)と、本件補正後の請求項1に係る発明とは、発明として実質的に相違するところはないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項3を独立形式に書き改めて記載したものである。そうすると、請求項1に係る本件補正は、本件補正前の請求項1、2を削除して、本件補正前の請求項3(請求項2を引用する場合)を本件補正後の請求項1としたものであるから、請求項1に係る本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる、同法第36条第5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。
また、請求項2-14に係る本件補正は、本件補正前の請求項1、2の削除に伴い、本件補正前の請求項4-16を本件補正後の請求項2-14として繰り上げたものであるから、請求項2-14に係る本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とする補正である。
したがって、請求項1-14に係る本件補正は適法になされたものである。


第3 本件補正発明
上記第2のとおり、本件補正は適法になされたものであるところ、請求項1に係る発明は上記第2の1(2)に記載されたとおりである。


第4 原査定の拒絶の理由
原査定(平成31年1月9日付け拒絶査定)の拒絶の理由は、次のとおりである。
本件補正前の請求項1に係る発明は、以下の引用文献2又は3に記載された発明及び引用文献4-7にみられる周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
同様に、本件補正前の請求項2-6、8-12に係る発明は引用文献2-7に基づき、本件補正前の請求項13-16に係る発明は以下の引用文献1-9に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件補正前の請求項7に係る発明についても、進歩性を有しない旨の付記がなされている。

引用文献等一覧
1.特開平6-320464号公報
2.特開昭48-2675号公報
3.特開2002-173202号公報
4.特開昭59-194998号公報(周知技術を示す文献)
5.米国特許第3930587号明細書(周知技術を示す文献)
6.特開2001-130869号公報(周知技術を示す文献)
7.特許第5317362号公報(周知技術を示す文献)
8.特開2007-130711号公報
9.特開平9-255158号公報


第5 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献3の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2002-173202号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は当審合議体が付した。以下、同様である。)

ア 「【0001】
【発明の利用分野】この発明は、複数のサイズの物品を収納できるようにした自動倉庫に関する。」

イ 「【0011】
【実施例】図1?図7に、実施例とその変形とを示す。図1?図5に、実施例の自動倉庫2とその各部分とを示すと、4は搬送装置としてのスタッカークレーンで、マストに沿って昇降する昇降台6を備え、例えば一対のスライドフォーク7,8を昇降台6に設けてある。スライドフォークは一対に限らず3個以上設けてもよく、またスライドフォークに代えてドロワ等の他の移載装置を設けてもよい。」

ウ 「【0013】図2(a)に、大型の物品W1を例えば2個ラックの1つの間口に収容する際の動作を模式的に示し、図2(b)に小型の物品W2を例えば3個1つの間口に収容する際の動作を示す。7,8は前記のスライドフォークで、それぞれ例えば3個の個別フォーク20?25を備え、これらの個別フォーク20?25は選択的に駆動することができる。Lはラック10等での間口を示し、d1は物品間のクリアランスを示し、d2は物品とラックの支柱との間のクリアランスを示す。図2(a),(b)に示すように、大型の物品W1の場合も小型の物品W2の場合も、物品間のクリアランスd1をほぼ等しくするように収容し、小型の物品では1間口当たりの物品の数を増加させて、収容効率を向上させる。
【0014】実施例では一対のスライドフォーク7,8を用いて、1つの間口に対して例えば2個の物品を同時に移載する。大型の物品W1を移載する場合、図2(a)に示すように、各スライドフォークの各3個の個別フォークを全て駆動して移載する。これに対して小型の物品を移載する場合、図2(b)に示すように、各3個の個別フォークのうち中央寄りの各2個の個別フォーク20,21,23,24を駆動して、両端の個別フォーク22,25は休止させて、物品を移載する。例えば図2(b)で、左端の個別フォーク22を前進させると、ラック10の支柱と干渉するおそれがある。右端の個別フォーク25を駆動すると、移載対象となっていない物品と干渉する恐れがある。そこで複数の個別フォークを選択的に駆動できるようにして、ラックの先入れ品や柱等との干渉を防止する。なお、各スライドフォーク7,8の各3個の個別フォーク20?25を選択的に駆動するのではなく、個別フォーク22,25をなくし、個別フォーク21,24を中央寄りの個別フォーク20,23に対して接離自在としてもよい。」

エ 「【0017】図4に、入庫ステーション12での物品の位置決めを示す。大型の物品W1の場合、最初の物品がストッパ33を通過するのを待ってストッパ33を上昇させ、第2の物品をストッパ33で位置決めする。最初の物品は奥側のストッパ31で位置決めし、ストッパ32は没状態を保つようにする。そしてこれに対応して、スライドフォーク毎に各3本の個別フォーク20?22,23?25を作動させて、入庫ステーション12から物品W1をスタッカークレーンへ移載する。
【0018】小型の物品W2の場合、最初の物品がストッパ33を通過するのを待って、ストッパ33を上昇させる。次にストッパ32で最初の物品を位置決めする。この結果、大型の物品でも小型の物品でも、物品間のクリアランスd1をほぼ一定に近づけることができる。そしてスライドフォーク毎に、例えば各2本の個別フォーク20,21と個別フォーク23,24を作動させて、2個の物品をスタッカークレーンへ移載する。
【0019】図5に、スライドフォーク7,8での、個別フォーク20?25を選択的に駆動するための機構を示す。40,41はスタッカークレーンのマストで、昇降台6はマスト40,41に沿って昇降する。前記の個別フォーク20?25は、通常のようにボトムプレートとミドルプレートとトッププレートとを設け、チェーン等で作動させるようにしたものである。
【0020】昇降台6にモータ42,43を設けて、その動力をクラッチ44,45を介して、中央寄りの個別フォーク20の駆動軸から,中間の個別フォーク21の駆動軸,端部の個別フォーク22の駆動軸へとこの準に伝達する。同様にクラッチ46,47を用いて、中央寄りの個別フォーク23の駆動軸,中間の個別フォーク24の駆動軸,端部の個別フォーク25の駆動軸の順に伝達する。ここでクラッチ44?47を入り切りすると、端部の個別フォーク22,25を休止させて、中央側2本の個別フォーク20,21,23,24を駆動する、あるいは中央寄りの個別フォーク20,23のみを駆動して、4本の個別区フォーク21,22,24,25を休止させることができる。ただしクラッチ44,46を設けず、中央寄りの2本の個別フォーク20,21や個別フォーク23,24を、常時連動させてもよい。なおクラッチ44?47の種類は任意である。」

オ 「【0021】図1?5を参照して、実施例の動作を説明する。入庫ステーション12に物品が到着し、コンベヤで搬送されて来ると、大型の物品の場合、ストッパ31,33で2個の物品を位置決めし、小型の物品の場合、ストッパ32,33で物品を位置決めする。このため入庫ステーション12では、物品のサイズが異なっても、物品間の間隔をほぼ一定に近づけることができる。なお物品のサイズは、入庫設定での品番や、物流コンベヤからの搬送指令、物品のサイズ検出用のセンサの信号などから求めるものとする。
【0022】スタッカークレーンは、一対のスライドフォーク6,7のうちで、駆動する個別フォークの数を物品のサイズに応じて変化させ、入庫ステーション12から一括して2個の物品を昇降台上へ移載する。物品を移載したスタッカークレーンは、ラック10,11の間口へと走行し、ここで大型の物品の場合と小型の物品の場合とで、駆動する個別フォークの数を変更して物品を移載する。このため小型物品を移載する場合で、同じ間口に別の先入れ品が存在してもスライドフォークと干渉することがなく、またラックの支柱とスライドフォークが干渉することがない。」

カ 上記ウの段落【0013】の記載事項及び図2(a)、図2(b)から、物品W1、W2の幅方向の大きさが異なることが看取される。

キ 上記ウの段落【0014】の記載事項及び図2(a)、図2(b)から、複数の個別フォーク20?25は、物品W1、W2の幅方向に沿って設けられていること、及び、個別フォーク20?25は、物品W1、W2の幅方向と交差する方向に駆動することが看取される。

ク 図4から、個別フォーク20?25は、高さが同じ位置に配置されていると読み取れるから、同一平面内に駆動されることが看取される。

ケ 図5及び上記エの記載事項から、複数の個別フォーク20?25毎に、複数の駆動軸が、モータ42、43により回転可能に設けられており、個別フォーク20?22の駆動軸の間にクラッチ44、45が設けられ、個別フォーク23?25の駆動軸の間にクラッチ46、47が設けられていることが看取される。

[図2(a)、図2(b)]


[図4]


[図5]


したがって、上記引用文献3には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「物品W1、W2を移載する複数の個別フォーク20?25と、
前記物品W1、W2の幅方向に沿ってかつ前記複数の個別フォーク20?25毎に回転可能に設けられ、前記個別フォーク20?25を同一平面内において物品W1、W2の幅方向と交差する方向に駆動させる複数の個別フォーク20?25の駆動軸と、
前記複数の個別フォーク20?25を駆動するために前記駆動軸を回転させるモータ42、43と、
前記複数の個別フォーク20?25のうちの選択された個別フォークを駆動するために、前記モータ42、43の動力を、物品W1、W2に応じて、前記選択された個別フォークに対応する個別フォーク20?25の駆動軸に伝達可能なクラッチ44?47と、
を有するスタッカークレーン4。」

(2)周知の技術的事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開昭59-194998号公報)には、図面(特に、第2-3図参照。)とともに次の事項が記載されている。

(ア)「本発明は荷役機械の一つであるフォークリフトに関するものであって、特にそのフォーク本体の構造に係るものである。」(第1ページ左下欄第12-14行)
(イ)「そしてこのフレーム10の下方にはフォーク本体11が設けられるものであり、このフォーク本体11は多数の駒12によって構成され、各駒12にはピンジョイント13によって回動自在に構成されるものである。」(第2ページ左上欄第12-16行)
(ウ)「これら各駒12はその先端部が上方に向かう方向にのみ回動し得るように構成されているものであって、各駒にはストッパ部12a及びストッパ受け12bとが形成され、平常時はそれぞれ隣り合う駒12において、ストッパ部12aに対し他の駒のストッパ受け12bとが当接することによりフォーク本体11は水平に直線状に伸びた状態を維持するように構成されると共に、上方への屈曲は自由になし得るように構成されているのである。そしてこの各駒12は、前記フレーム10の下方に設けた巻上スプロケット14によって引き出され乃至は格納されるものであって、該巻上スプロケット14に対してはその上方の油圧モータ15によって回転が伝達されるものである。」(第2ページ左上欄第19行-右上欄第13行)
(エ)上記(ウ)の「各駒12は、前記フレーム10の下方に設けた巻上スプロケット14によって引き出され乃至は格納される」という記載について、第2図をみると、連結されている複数の駒12が巻上スプロケット14に巻き掛けてあり、該巻上スプロケット14を回転することにより、該連結されている複数の駒12を引き出し又は巻き戻されて、フォーク本体11が伸縮することが理解できる。
[第2図]


イ また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(米国特許第3930587号明細書)のFig.1から、リフティングデバイス18は荷物を下方から支持することが看取され、Fig.7等から、リフティングデバイス18のチェーンフォーク26は、ピンを介して連結されている複数のリンクを含み、該連結されている複数のリンクをスプロケット82、87に巻き掛けて、該スプロケット82、87を回転することにより該連結されている複数のリンクを引き出し又はスプロケット82、87に巻き取り、チェーンフォーク26が伸縮することが理解される。
[Fig.7]


ウ 上記引用文献4-5の記載事項及び図面から、「荷物を下方から支持するアームが、シャフトを介して連結されている複数のブロックを含み、該連結されている複数のブロックをスプロケットに巻き掛けて、該スプロケットを回転することにより該連結されている複数のブロックを引き出し又はスプロケットにより巻き戻して、アームを伸縮させること」は、従来周知の技術的事項であると認められる。


第6 対比・判断
1 引用文献3を主引例とした場合
(1)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「複数の個別フォーク20?25」は、本件補正発明の「複数のアーム」に相当し、以下同様に、「物品W1、W2」は「対象物」に、「モータ42、43」は「駆動用のモータ」に、「複数の個別フォーク20?25のうちの選択された個別フォーク」は「複数のアームのうちの選択されたアーム」に、「物品W1、W2に応じて」は、物品W1とW2とは幅が異なるものであるから、「前記対象物の幅に応じて」に、「クラッチ44?47」は「クラッチ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における、「物品W1、W2を移載する個別フォーク20?25」は、物品を移載する際にフォークが物品を下から支えて移載することは明らかであるから、本件補正発明における、「対象物を下から支える複数のアーム」に相当する。
また、引用発明において、「個別フォーク」を「駆動」することは、個別フォークで物品を移載するとの機能及び上記エの記載事項の「前記の個別フォーク20?25は、通常のようにボトムプレートとミドルプレートとトッププレートとを設け、チェーン等で作動させるようにしたものである。」との記載に鑑みれば、本件補正発明における、「アーム」を「伸縮」することに相当する。さらに、引用発明の「個別フォーク20?25の駆動軸」と、本件補正発明の「スプロケット」とは、モータからの動力によりアームを伸縮する機能の点では共通するから、「アーム伸縮手段」である限りでは共通している。
また、引用発明における「スタッカークレーン4」は、フォークで物品を移動させる物品移動手段であるから、その限りにおいて、本件補正発明の「ロボットハンド装置」に相当する。

したがって、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「対象物を下から支える複数のアームと、
前記対象物の幅方向に沿ってかつ前記複数のアーム毎に回転可能に設けられ、前記アームを同一平面内において前記対象物の幅方向と交差する方向に伸縮させる複数のアーム伸縮手段と、
前記複数のアームを伸縮させるために前記アーム伸縮手段を回転させる駆動用のモータと、
前記複数のアームのうちの選択されたアームを伸縮させるために、前記モータの動力を、前記対象物の幅に応じて、前記選択されたアームに対応する前記アーム伸縮手段に伝達可能なクラッチと、
を有する物品移動手段。」

また、本件補正発明と引用発明とは、以下の相違点1-2で相違する。
<相違点1>
本件補正発明では、アームが「シャフトを介して連結される複数のブロックを含」むとともに、アーム伸縮手段が「スプロケット」であることにより、該スプロケットで「前記連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことにより」、該アームを伸縮させているのに対し、引用発明では、個別フォーク20?25をアーム伸縮手段(駆動軸)で伸縮させているものの、該個別フォーク20?25は、連結された複数のブロックを含むものではなく、アーム伸縮手段がスプロケットではなく、連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことによりアームを伸縮させるものではない点。
<相違点2>
本件補正発明では、「物品移動手段」が、「ロボットハンド装置」であるのに対し、引用発明ではスタッカークレーンである点。

(2)判断
ア 相違点1について
上記第5の(2)に示したとおり、荷物を下方から支持するアームが、シャフトを介して連結されている複数のブロックを含み、該連結されている複数のブロックをスプロケットに巻き掛けて、該スプロケットを回転することにより該連結されている複数のブロックを引き出し又は巻き戻して、アームを伸縮させることは、従来周知の技術的事項(以下、「従来周知の技術的事項1」という。)である。
そして、該従来周知の技術的事項1における、「該連結されている複数のブロックをスプロケットに巻き掛けて、該スプロケットを回転することにより該連結されている複数のブロックを引き出し又は巻き戻し」することは、本件補正発明の「スプロケット」で「前記連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出す」ことに相当する。そうすると、アームが荷物を支持する点及びアームが伸縮する点で共通する引用発明に該従来周知の技術的事項1を適用して、個別フォーク20?25がシャフトを介して連結される複数のブロックを含むものとし、アーム伸縮手段をスプロケットとして、該スプロケットで該連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことにより、個別フォークを伸縮する構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
なお、本件補正発明における、複数のブロックを「巻き取り又は送り出す」ことについて具体的な態様は明細書に定義されていないところ、上記のとおり、複数のブロックをスプロケットに巻き戻すことは従来周知の技術的事項といえる。仮に、複数のブロックを1つのスプロケットで「巻き取り又は送り出す」ことが、複数のブロックをスプロケットの外周に沿って多重巻きに巻き取り又は送り出すことを意味するものであると限定的に解釈して、上記従来周知の技術的事項1における「該連結されている複数のブロックをスプロケットに巻き掛けて、該スプロケットを回転することにより該連結されている複数のブロックを引き出し又は巻き戻し」することが、本件補正発明の「スプロケット」で「前記連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出す」ことに相当しないとしても、連結される複数のブロックを軸心に対して多重巻きで巻き取り又は送り出すことは従来周知の技術的事項(例えば、原査定で引用した引用文献6(特開2001-130869号公報)の図5、原査定で引用した引用文献7(特許第5317362号公報)の図15等を参照。以下、「従来周知の技術的事項2」という。)であるから、引用発明に従来周知の技術的事項1を適用する際に、従来周知の技術的事項2を合わせ鑑みれば、個別フォーク20?25がシャフトを介して連結される複数のブロックを含むものとし、アーム伸縮手段をスプロケットとして、スプロケットで該連結される複数のブロックを多重巻きで巻き取り又は送り出すことにより個別フォークを伸縮する構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。

イ 相違点2について
引用発明の物品移動手段はフォークを用いて重量物品を下から支えて搬送するものであって移動手段自体をスタッカークレーン以外の用途にも用いることが可能であることは明らかであるから、重量物品の搬送装置として一般的なロボットハンドに用いることにも困難性はない。

ウ 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明(引用文献3に記載された発明)、引用文献4-5にみられる従来周知の技術的事項1、及び、引用文献6-7にみられる従来周知の技術的事項2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。

2 引用文献2を主引例とした場合
(1)対比
ア 原査定で引用した引用文献2(特開昭48-2675号公報)には、その第1ページ左下欄第12行-第2ページ右上欄第16行、第2ページ左下欄第5行-右下欄第1行、第2ページ右下欄第8行-第3ページ左上欄第5行の記載及び第1-4図等を参照すると、第1図から、複数の荷受渡し具7a-7dは、同一平面内において出退動作がなされることが看取され、第2図等から、荷受渡し具7a-7dは、荷17a-17cの巾方向と交差する方向に出退動作することが看取されるから、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

[第1図]


[第2図]


<引用発明2>
「巾の異なる荷17a-17cを支持する複数の荷受渡し具7a-7dと、
前記巾の異なる荷17a-17cの巾方向に沿ってかつ前記複数の荷受渡し具7a-7d毎に設けられ、前記複数の荷受渡し具7a-7dを同一平面内において巾の異なる荷17a-17cの巾方向と交差する方向に駆動させる複数のチエン機構8a-8dと、
前記複数の荷受渡し具7a-7dを出退動作させるために前記チエン機構を動作させるモータ9と、
前記複数の荷受渡し具7a-7dのうちの選択された荷受渡し具を出退動作させるために、前記モータ9の動力を、巾の異なる荷17a-17cの巾に応じて、前記選択された複数の荷受渡し具7a-7dに対応するチエン機構8a-8dに伝達可能な電磁クラッチ12a-12dと、
を有する運搬装置。」

イ 本件補正発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「複数の荷受渡し具7a-7d」は、本件補正発明の「複数のアーム」に相当し、以下同様に、「巾の異なる荷17a-17c」は「対象物」に、「巾方向」は「幅方向」に、「荷受渡し具7a-7dを出退動作」させることは「アームを伸縮」させることに、「モータ9」は「駆動用のモータ」に、「複数の荷受渡し具7a-7dのうちの選択された荷受渡し具」は「複数のアームのうちの選択されたアーム」に、「巾の異なる荷17a-17cの巾に応じて」は「前記対象物の幅に応じて」に、「電磁クラッチ12a-12d」は「クラッチ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明2において、「巾の異なる荷17a-17cを支持する複数の荷受渡し具7a-7d」は、荷を受渡す際に荷渡し具が荷を下から支持して受渡すことは技術常識であるから、本件補正発明における、「対象物を下から支える複数のアーム」に相当する。
また、引用発明2の「チエン機構8a-8d」を「動作」することと、本件補正発明の「スプロケット」を「回転」することとは、モータからの動力によりアームを伸縮する動作を行う点では共通するから、両者は、「アーム伸縮手段」を「動作」する点では共通している。
また、引用発明2の「運搬装置」は、物品運搬装置である限りにおいて、本件補正発明の「ロボットハンド装置」に相当する。

したがって、本件補正発明と引用発明2とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「対象物を下から支える複数のアームと、
前記対象物の幅方向に沿ってかつ前記複数のアーム毎に設けられ、前記アームを同一平面内において前記対象物の幅方向と交差する方向に伸縮させる複数のアーム伸縮手段と、
前記複数のアームを伸縮させるために前記アーム伸縮手段を動作させる駆動用のモータと、
前記複数のアームのうちの選択されたアームを伸縮させるために、前記モータの動力を、前記対象物の幅に応じて、前記選択されたアームに対応する前記アーム伸縮手段に伝達可能なクラッチと、
を有する物品運搬装置。」

また、本件補正発明と引用発明2とは、以下の相違点3-4で相違する。
<相違点3>
本件補正発明では、アームが「シャフトを介して連結される複数のブロックを含」むとともに、アーム伸縮手段が「回転」する「スプロケット」であることにより、該スプロケットで「前記連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことにより」、該アームを伸縮させているのに対し、引用発明2では、荷受渡し具7a-7dをアーム伸縮手段(チエン機構)で伸縮させているものの、該荷受渡し具7a-7dが連結された複数のブロックを含むものではなく、アーム伸縮手段が回転するスプロケットでなく、連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことによりアームを伸縮させていない点。
<相違点4>
本件補正発明では、「物品運搬装置」が、「ロボットハンド装置」であるのに対し、引用発明2では運搬装置である点。

(2)判断
ア 相違点3について
上記相違点3は、上記1(1)で示した相違点1と実質的に同じであるから、上記1(2)で示したのと同様の判断により、アームが荷物を支持する点及びアームが伸縮する点で共通する引用発明2に上記従来周知の技術的事項1を適用して、荷受渡し具7a-7dがシャフトを介して連結される複数のブロックを含むものとし、アーム伸縮手段を回転するスプロケットとして、該スプロケットで該連結される複数のブロックを巻き取り又は送り出すことにより、荷受渡し具7a-7dを伸縮する構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
また、本件補正発明における、複数のブロックをスプロケットで「巻き取り又は送り出す」ことが、複数のブロックを1つのスプロケットの外周に沿って多重巻きに巻き取り又は送り出すことを意味するものであると限定的に解釈しても、引用発明2に従来周知の技術的事項1を適用する際に、従来周知の技術的事項2を合わせ鑑みれば、荷受渡し具7a-7dがシャフトを介して連結される複数のブロックを含むものとし、アーム伸縮手段を回転するスプロケットとして、スプロケットで該連結される複数のブロックを多重巻きで巻き取り又は送り出すことにより荷受渡し具7a-7dを伸縮する構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。

イ 相違点4について
引用発明2の運搬装置は荷受渡し具7a-7dを用いて重量物品を下から支えて搬送するものであって移動手段自体を運搬装置以外の用途にも用いることが可能であることは明らかであるから、重量物品の搬送装置として一般的なロボットハンドにも用いることにも困難性はない。

ウ 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明2(引用文献2に記載された発明)、引用文献4-5にみられる従来周知の技術的事項1、及び、引用文献6-7にみられる従来周知の技術的事項2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものであるともいえる。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の3-3.において、大略、以下のア?エの点を主張している。
ア 引用文献1-3は、シャフトを介して連結される複数のブロックを含むアームを開示せず、これを伸縮させるための本件補正発明のスプロケット、モータ、及びクラッチの構成も開示していない。
イ 引用文献4、5は、対象物の幅に応じて、複数のアームのうちの選択されたアームを伸縮させることを開示していない。従って引用文献4、5は、少なくとも本件補正発明のクラッチの構成を開示していない。
ウ 引用文献6、7のアームは、対象物を下から支えるアームではない。従って引用文献6、7は、本件補正発明のアームを開示するものではない。故に引用文献6、7は、シャフトを介して連結される複数のブロックを含みかつ対象物を下から支えるアームを伸縮させるためのアームを伸縮させるための本件補正発明のスプロケット、モータ、及びクラッチも開示していない。
エ 本件補正発明は、引用文献にはない構成を有する。そして本件補正発明は、これにより、荷物の幅に応じて、クラッチで複数のアームの何れかを選択して使用するときに、下支えする荷物に対してアームの位置ずれがおきないように伸縮直進性を高めることができるという格別な作用効果を奏する。また、引用文献には、上述の作用効果、例えばアームの直進伸縮時に、対象物(荷物)のバランスを取りながら、下支えすべき支持位置からのずれを抑えることを想起させる技術思想を開示したものもない。従って各引用文献に記載の技術を組み合わせることにより、本件補正発明を容易に想到することも困難である。

上記主張について検討する。
請求人は、本件補正発明と引用文献のそれぞれとを個々に対比して、本件補正発明は引用文献にはない構成を有する旨を主張しているが、本件補正発明が、引用発明(引用文献3に記載された発明)又は引用発明2(引用文献2に記載された発明)、引用文献4-5にみられる従来周知の技術的事項1、及び、引用文献6-7にみられる従来周知の技術的事項2の組合せに基づいて、当業者が容易に想到し得たものであることは上述したとおりである。
また、請求人は、本願発明により、下支えする荷物に対してアームの位置ずれがおきないように伸縮直進性を高めることができるという格別な作用効果や、アームの直進伸縮時に対象物(荷物)のバランスを取りながら下支えすべき支持位置からのずれを抑えることが出来る旨の主張もしているが、下支えする荷物に対してアームの位置ずれがおきないことや、伸縮直進性を高める旨の作用効果は、本願の明細書に記載された効果ではない上、連結された複数のブロックを含むアームとすることと下支えする荷物に対するアームの位置ずれがおきない及び伸縮直進性を高めることとの関係については必ずしも理解できないところであるが、引用発明又は引用発明2に従来周知の技術的事項1-2を組み合わせたものにおいても、同様の構成を有するものであるから、当然に同様の効果を有するものである。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。


第7 むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明(引用文献3に記載された発明)又は引用発明2(引用文献2に記載された発明)、引用文献4-5にみられる従来周知の技術的事項1、及び、引用文献6-7にみられる従来周知の技術的事項2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願発明2-14について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-29 
結審通知日 2019-12-02 
審決日 2019-12-13 
出願番号 特願2016-183274(P2016-183274)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B25J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松井 裕典  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 青木 良憲
大山 健
発明の名称 ロボットハンド装置およびロボットハンド装置を用いた搬送装置  
代理人 井上 正則  

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