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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61C |
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管理番号 | 1359535 |
異議申立番号 | 異議2019-700380 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-05-10 |
確定日 | 2019-12-23 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6424368号発明「歯列装具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6424368号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6424368号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6424368号(以下,「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は,平成30年6月4日に出願され,平成30年11月2日にその特許権の設定登録がされ,平成30年11月21日に特許掲載公報が発行された。 その後,その特許について,令和1年5月10日に特許異議申立人▲高▼山嘉成により特許異議の申立てがされ,当審は,令和1年7月23日付けで取消理由を通知した。特許権者はその指定期間である令和1年9月4日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して,当審は,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,特許異議申立人からの応答はなかった。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容(下線は訂正箇所を示す。) 本件訂正請求による訂正は,特許請求の範囲の請求項1を,以下の事項により特定されるとおりに訂正するものである。 「 弾性を有する実質的に透明又は半透明の材料によって構成され、装着する人体の歯列の一部又は全部を覆う平面視で略U字形状に形成された装具本体を備え、 前記装具本体には、金属製ワイヤーが埋め込まれており、前記ワイヤーが歯列を矯正する方向に弾性力を付勢するものであり、 前記装具本体は、 歯列の唇側部分を覆う唇側部と、 歯列の舌側部分を覆う舌側部とを有し、 前記ワイヤーは、 前記装具本体の前記舌側部を通る舌側部分と、 前記舌側部と前記唇側部の間を接続する接続部分と、 前記唇側部を通る唇側部分とを有し、 前記装具本体の前記唇側部における中切歯、側切歯及び犬歯に対応する部位には、前記ワイヤーの前記唇側部分は配置されず、前記装具本体の前記舌側部における中切歯、側切歯及び犬歯に対応する部位に、前記ワイヤーの前記舌側部分が配置されるとともに,中切歯,側切歯及び犬歯に対応する部位に配置される前記ワイヤーの前記舌側部分が,前記接続部分を介して,第一小臼歯に対応する部位を通る唇側部分に移行するよう構成されている、歯列装具。」 本件特許の特許請求の範囲の請求項2?4は,請求項1を引用するものであるところ,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1?4〕に対して請求されたものである。 (2)訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件訂正請求による訂正は,「ワイヤー」について,その態様を更に特定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また,「中切歯,側切歯及び犬歯に対応する部位に配置される前記ワイヤーの前記舌側部分が,前記接続部分を介して,第一小臼歯に対応する部位を通る唇側部分に移行するよう構成されている」点は,明細書の段落【0041】,【0044】及び【図2A】?【図2C】等に記載されている。 そして,本件訂正請求による訂正は,上述のとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認められる。 (3)小括 以上のとおり,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 3 訂正後の本件発明 上記2のとおり本件訂正請求による訂正が認められるから,本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記2(1)に記載したとおりのものである。 また,本件特許の請求項2?4に係る発明(以下「本件発明2」,「本件発明3」及び「本件発明4」という。)は,同じく訂正特許請求の範囲の請求項2?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 本件発明2「 前記装具本体が、弾性を有する第一の材料と、前記第一の材料よりも硬い第二の材料の2層構造からなる、請求項1に記載の歯列装具。」 本件発明3「 前記ワイヤーにおける前記舌側部分は、前記装具本体における前記舌側部の中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯及び第一大臼歯に対応する部位を通り、 前記接続部分は、 犬歯と第一小臼歯との間を通り前記ワイヤーを前記装具本体の前記舌側部と前記唇側部との間に配置させる第一接続部分と、 第一大臼歯と第二大臼歯との間を通り前記ワイヤーを前記装具本体の前記唇側部と前記舌側部との間に配置させる第二接続部分とを含み、 前記ワイヤーにおける前記唇側部分は、前記装具本体における前記唇側部の第一小臼歯及び第一大臼歯に対応する部位を通る、請求項1又は2に記載の歯列装具。」 本件発明4「 前記ワイヤーがブラケット用のワイヤーである、請求項1から3のいずれかに記載の歯列装具。」 4 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 本件請求項1?4に係る特許に対して,当審が令和1年7月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。 ア 請求項1?4に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当する。よって,請求項1及び2に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 イ 請求項1?3に係る発明は甲第1号証に記載された発明に基いて,請求項4に係る発明は甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,請求項1?4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 (2)甲号証の記載 甲第1号証:鈴木善雄ほか,SOLリテーナーの製作法 審美と把持力を兼ね備えた新しい可撤式保定装置の考案 甲第2号証:鈴木善雄,辻田秀俊,高山嘉成,証明願,平成31年4月26日 甲第3号証:第76回日本矯正歯科学会学術大会プラグラム・抄録集,表紙,目次,248ページ「審美と把持力を兼ね備えた新しい可撤式保定装置の考案」,平成29年10月18日,日本矯正歯科学会 甲第4号証:谷村里枝ほか,舌側矯正治療におけるインダイレクトボンディング法のブラケットトルクの設定,第75回日本矯正歯科学会大会プログラム・抄録集,240ページ,平成28年11月7日,公益社団法人日本矯正歯科学会 甲第2号証に記載された鈴木善雄氏の証明の1.,甲第2号証に記載された辻田秀俊氏の証明,及び甲第3号証に記載された「第76回日本矯正歯科学会学術大会」の開催会場,会期並びに248ページの「審美と把持力を兼ね備えた新しい可撤式保定装置の考案」の記載によれば,甲第1号証は,2017年10月18日?20日にさっぽろ芸文館等で開催された第76回日本矯正歯科学会学術大会の学術展示210ブースにおいて頒布された印刷物であって,遅くとも2017年10月20日には日本国内において頒布された刊行物であると認められる。 ア 甲第1号証の記載 (ア)甲第1号証には,次の記載がある。 a「可撤式保定装置には、ホーレータイプ・ベッグタイプのようなレジン床を用いる装置と、クリアリテーナーのようなプラスチックシートを用いる装置がある。 ホーレータイプ、ベッグタイプは、歯牙同士が直接咬合するという利点を持つが唇側線が目立つため審美的でなく、歯牙の把持力は弱い。 ホーレータイプは唇側線によって小臼歯部にスペースができることがあり,ベッグタイプは下顎の大臼歯の遠心部にワイヤーの入るスペースがないと装置の製作は困難である。 一方、クリアリテーナーは審美的で歯牙の把持力はあるが、プラスチックシートが咬合面を覆うため矯正終了時の咬頭嵌合が失われ顎位が変化する可能性がある。また使用中に咬合面が破損して再製作が必要になることがある。 今回、私達は、これらの保定装置の利点を併せ持った新しい可撤式保定装置SOL(Simple Occlusal Less)Retainerを考案したので報告する。」(【目的】) b「4.熱可塑性プラスチックシート(1.5mm) ・キャプチャーシート ハード/PET ポリエチレンテレフタレート(松風) ・デュラン+/PET-G (SCHEO-DENTAL・RM) 5.矯正線(ホッチキスクラスプ,補強線) ・.016インチレッドエルジロイワイヤー(RM) ・0.9mm線 SSデンタルワイヤー (斎藤歯研・Ciメディカル)」(【資料および方法】) c「1)上下顎模型を咬合させて、装置の外形線と歯間部を通過する保持用ホッチキスクラスプを付ける場所を左右4ヶ所、犬歯、第一小臼歯間と第一、第二大臼歯間に設定する。」(製作手順) d「5)ヒートカッターでプラスチックシートの咬合面を削除する。」(製作手順) e「7)ホッチキスクラスプと補強線0.9mm線を屈曲してレジンで固定する。 *.016インチレッドエルジロイワイヤーをホッチキス状の形に曲げておくと簡単に歯間部に合わせることが出来る。 *ホッチキスクラスプはプラスチックシートの保持が目的であり、即時重合レジンで固定するため、クラスプの端は、特別なベンドや完璧な適合は必要ない。 *補強線0.9mm線はプラスチックシートのたわみを防ぐため、口蓋・舌側に即時重合レジンで固定する。そのためホッチキスクラスプ同様完璧な適合は必要ない。」(製作手順) f「8)ヒートカッターで外形を切り取り研磨・完成する。」(製作手順) g「装置の製作は容易で、保持ワイヤーに.016インチを用いるため咬頭嵌合が緊密な症例でも製作できる。プラスチックシートが咬合面を覆わないため咬頭嵌合が保持され、使用時の違和感や破損がなくなった。」(【結果および考察】) h「(1)即時重合レジンにオーソクリスタルを使用する。」(第11ページ【より綺麗に製作するには】) (イ)また,甲第1号証には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 a 製作手順の5)?8)の画像から,プラスチックシートが透明又は半透明であることがみてとれる。 b 上記(ア)d,eの記載及び製作手順の8)の右下の画像から,プラスチックシートの咬合面が削除された結果,プラスチックシートが歯列の唇側部分を覆う唇側プラスチックシートと歯列の舌側部分を覆う舌側プラスチックシートとに分離し,これら分離した唇側プラスチックシートと舌側プラスチックシートとがホッチキスクラスプにより接続されている。 また,製作手順の8)の右下の画像から,完成したプラスチックシートは平面視で略U字形状と認められる。 c 上記(ア)eのホッチキスクラスプについての記載,製作手順の7)の左側「クラスプを1ヶ所ずつ仮着する」との画像中のワイヤ配置の記載,製作手順の7)の右側「小臼歯用と大臼歯用ホッチキスクラスプ」との画像中のワイヤ形状の記載,及び製作手順の8)右下の画像中のワイヤの記載から見て,ホッチキスクラスプは,その中間部が唇側プラスチックシートと舌側プラスチックシートとの間に位置し,両側部がそれぞれ,唇側プラスチックシート又は舌側プラスチックシートと即時重合レジンで固定されている。 d 製作手順の7)の左側「クラスプを1ヶ所ずつ仮着する」との画像中のワイヤ配置の記載,製作手順の7)の右側「小臼歯用と大臼歯用ホッチキスクラスプ」との画像中のワイヤ形状の記載,製作手順の12の左下及び右下の画像中のワイヤ配置の記載から見て,ホッチキスクラスプの唇側プラスチックシートに固定されている側部は,犬歯と第1小臼歯との間から第1小臼歯側に延び,第1大臼歯と第2大臼歯との間から第1大臼歯側に延びている。そして,第1大臼歯と第2大臼歯との間を通るホッチキスクラスプの唇側プラスチックシートに固定されている側部が中切歯,側切歯及び犬歯に対応する部分にまで延びていないことはホッチキスクラスプの形状や上記画像中のワイヤ配置から見て明らかである。 つまり,前記プラスチックシートの前記唇側プラスチックシートに固定されているホッチキスクラスプの他方の側部は,中切歯,側切歯及び犬歯に対応する部位には存在しない。 e 上記(ア)eの補強線についての記載,製作手順の7)の5ページの左側及び右側の画像中のワイヤの記載から見て,補強線は中切歯から第1大臼歯の範囲にかけて存在し,舌側プラスチックシートに即時重合レジンで固定されている。ここで,中切歯から第1大臼歯の範囲にかけて存在するということは,当然に,中切歯,側切歯及び犬歯に対応する範囲にかけても存在している。 イ 上記ア(ア),(イ)より,甲第1号証には次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「透明又は半透明のポリエチレンテレフタレートによって構成され,歯列の唇側部分と舌側部分とを覆う平面視で略U字形状に形成されたプラスチックシートを備え,前記プラスチックシートには,矯正線(ホッチキスクラスプ,補強線)が即時重合レジンで固定されており, 前記プラスチックシートは, 歯列の唇側部分を覆う唇側プラスチックシートと 歯列の舌側部分を覆う舌側プラスチックシートとを有し, 前記矯正線(ホッチキスクラスプ,補強線)は, 前記プラスチックシートの前記舌側プラスチックシートに即時重合レジンで固定されている,ホッチキスクラスプの一方の側部及び補強線と, 前記舌側プラスチックシートと前記唇側プラスチックシートとを接続するホッチキスクラスプの中間部と, 前記唇側プラスチックシートに即時重合レジンで固定されているホッチキスクラスプの他方の側部とを有し, 前記プラスチックシートの前記唇側プラスチックシートに固定されているホッチキスクラスプの他方の側部は,中切歯,側切歯及び犬歯に対応する部位には存在せず,前記プラスチックシートの前記舌側プラスチックシートに固定されている補強線は,中切歯,側切歯及び犬歯に対応する範囲にかけて存在する,可撤式保定装置SOLリテーナー」 (3)対比 ア 本件発明1と,甲1発明とを対比する。 (ア)ポリエチレンテレフタレートからなるシートが弾性を有することが技術常識であるから,甲1発明の「透明又は半透明のポリエチレンテレフタレート」は,本件発明1の「弾性を有する実質的に透明又は半透明の材料」に相当する。 (イ)甲1発明の「歯列の唇側部分と舌側部分とを覆う」は,本件発明1の「装着する人体の歯列の一部又は全部を覆う」に相当する。 (ウ)甲1発明の「プラスチックシート」は,その構成からみて本件発明1の「装具本体」に相当する。 (エ)甲1発明の「矯正線(ホッチキスクラスプ,補強線)」は,ワイヤーであって,金属であるエルジロイまたはステンレススチール(SS)からなるものであるから(上記ア(ア)b参照。),本件発明1の「金属製ワイヤー」に相当する。 (オ)甲1発明の「即時重合レジンで固定されており」は,即時レジンで固定するためには即時重合レジンにより覆う必要があることが明らかであるから,本件発明1の「埋め込まれており」に相当する。 (カ)甲1発明の矯正線(ホッチキスクラスプ,補強線)は,矯正のための線であることから,本件発明1の「前記ワイヤーが歯列を矯正する方向に弾性力を付勢するもの」であるといえる。 (キ)甲1発明の「唇側プラスチックシート」は,本件発明1の「唇側部」に相当する。 (ク)甲1発明の「舌側プラスチックシート」は,本件発明1の「舌側部」に相当する。 (ケ)甲1発明の「前記プラスチックシートの前記舌側プラスチックシートに即時重合レジンで固定されている,ホッチキスクラスプの一方の側部及び補強線」は,舌側部に即時重合レジンで固定されている態様は舌側部を「通る」ものであるから,本件発明1の「前記装具本体の前記舌側部を通る舌側部分」に相当する。 (コ)甲1発明の「前記舌側プラスチックシートと前記唇側プラスチックシートとを接続するホッチキスクラスプの中間部」は,本件発明1の「前記舌側部と前記唇側部の間を接続する接続部分」に相当する。 (サ)甲1発明の「前記唇側プラスチックシートに即時重合レジンで固定されているホッチキスクラスプの他方の側部」は,唇側部に即時重合レジンで固定されている態様は唇側部を「通る」ものであるから,本件発明1の「前記唇側部を通る唇側部分」に相当する。 (シ)甲1発明の「前記プラスチックシートの前記唇側プラスチックシートに固定されているホッチキスクラスプの他方の側部は,中切歯,側切歯及び犬歯に対応する部位には存在せず」は,本件発明1の「前記装具本体の前記唇側部における中切歯、側切歯及び犬歯に対応する部位には、前記ワイヤーの前記唇側部分は配置されず」に相当する。 (ス)甲1発明の「前記プラスチックシートの前記舌側プラスチックシートに固定されている補強線は,中切歯,側切歯及び犬歯に対応する範囲にかけて存在する,」は,本件発明1の「前記総合本体の前記舌側部における中切歯,側切歯及び犬歯に対応する部位に,前記ワイヤーの前記舌側部分が配置される」に相当する。 (セ)甲1発明の「可撤式保定装置SOLリテーナー」は,歯列に装着するものであるから,本件発明1の「歯列装具」に相当する。 オ 以上より,本件発明1と,甲1発明との一致点,相違点は次のとおりである。 【一致点】 「弾性を有する実質的に透明又は半透明の材料によって構成され、装着する人体の歯列の一部又は全部を覆う平面視で略U字形状に形成された装具本体を備え、 前記装具本体には、金属製ワイヤーが埋め込まれており、前記ワイヤーが歯列を矯正する方向に弾性力を付勢するものであり、 前記装具本体は、 歯列の唇側部分を覆う唇側部と、 歯列の舌側部分を覆う舌側部とを有し、 前記ワイヤーは、 前記装具本体の前記舌側部を通る舌側部分と、 前記舌側部と前記唇側部の間を接続する接続部分と、 前記唇側部を通る唇側部分とを有し、 前記装具本体の前記唇側部における中切歯、側切歯及び犬歯に対応する部位には、前記ワイヤーの前記唇側部分は配置されず、前記装具本体の前記舌側部における中切歯、側切歯及び犬歯に対応する部位に、前記ワイヤーの前記舌側部分が配置される、歯列装具。」 【相違点】 本件発明1は,「中切歯,側切歯及び犬歯に対応する部位に配置される前記ワイヤーの前記舌側部分が,前記接続部分を介して,第一小臼歯に対応する部位を通る唇側部分に移行するよう構成されている」のに対し,甲1発明は,そのような構成を有しない点。 (4)当審の判断 (4-1)理由ア 新規性(特許法第29条第1項第3号)について ア 本件発明1について 上述のとおり,本件発明1と甲1発明とは,上記相違点で相違し,当該相違点1及び2は,実質的な相違点というべきものであるから,本件発明1は甲1発明ではない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は、本件発明1の範囲を更に減縮したものであるから、上記「ア 本件発明1について」の理由と同様の理由により、甲1発明ではない。 ウ まとめ 以上のとおりであるから,本件発明1?4は,甲1発明でない。 (4-2)理由イ 進歩性(特許法第29条第2項)について ア 本件発明1について 上記相違点は,甲第1号証に記載されておらず,本件出願前に周知でもない。また,単なる設計的事項と言うべきものでもない。 そして,上記相違点により,本件発明1は,「ワイヤー3は,樹脂製の装具本体2の矯正力を補強する効果,装具本体2の唇側部21と舌側部22とを接続する効果と,歯列装具1を歯列に押し付ける方向に付勢する効果との両方を同時に奏する」(【0049】)という甲1発明にはない効果を奏するものである。 よって,本件発明1は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の範囲を更に減縮したものであるから、上記「ア 本件発明1について」の理由と同様の理由により、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 ウ 本件発明4について 本件発明4は,本件発明1の範囲を更に減縮したものであり,また,甲第4号証にも上記相違点は記載されていないから,本件発明4は,上記「ア 本件発明1について」の理由と同様の理由により、甲1発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 エ まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1?4は、甲1発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人▲高▼山嘉成は,特許異議申立書において,請求項1に係る発明は,本件特許出願前に日本国内において公然と知られた甲1発明である,請求項3に係る発明は,特許出願前に日本国内において公然と知られた甲1発明である,請求項1に係る発明は,特許出願前に日本国内において公然と実施された甲1発明である,請求項3に係る発明は,特許出願前に日本国内において公然と実施された甲1発明である,と主張している。 しかしながら,上述のとおり,甲第1号証には上記相違点に係る事項が記載されていないから,甲1発明が,日本国内において公然と知られた発明,あるいは日本国内において公然と実施された発明であったとしても,本件発明1及び3は,特許法第29条第1項第1号あるいは第2号に該当せず,本件発明1及び3に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。 また,特許異議申立人▲高▼山嘉成は,特許異議申立書において,請求項2に係る発明は,日本国内において公然と知られた甲1発明,日本国内において公然と実施された甲1発明,又は甲第1号証に記載された甲1発明,甲第8号証,及び甲第9号証に記載の事項に基づいて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができた発明である,請求項3に係る発明は,日本国内において公然と知られた甲1発明,日本国内において公然と実施された甲1発明,又は甲第1号証に記載された甲1発明,甲第8号証,及び甲第9号証に記載の事項に基づいて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができた発明である,とも主張する。 甲第8号証:株式会社松風,キャプチャーシートハード カタログ,平成2 4年5月 甲第9号証:株式会社ニッシン,機械器具58 整形用器具器械 管理医療 機器 歯科矯正用レジン材料 70730000オーソクリスタル,平 成26年5月23日 しかしながら,甲第8号証にも甲第9号証にも,上記相違点に係る事項は記載されていないから,本件発明2及び3は,甲1発明,甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件発明1及び3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。 また,特許異議申立人▲高▼山嘉成は,特許異議申立書において,請求項4に係る発明は,日本国内において公然と知られた甲1発明,日本国内において公然と実施された甲1発明,又は甲第1号証に記載された甲1発明,甲第4号証に記載の事項,及び甲第5号証に記載の事項に基づいて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができた発明である,請求項4に係る発明は,日本国内において公然と知られた甲1発明,日本国内において公然と実施された甲1発明,又は甲第1号証に記載された甲1発明,甲第4号証,甲第5号証,甲第8号証,及び甲第9号証の記載に基づいて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができた発明である,とも主張する。 甲第5号証:特表2004-515261号公報 しかしながら,甲第5号証にも上記相違点に係る事項は記載されていないから,本件発明4は,甲1発明,甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて,または甲1発明,甲第4号証,甲第5号証,甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件発明4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。 また,特許異議申立人▲高▼山嘉成は,特許異議申立書において,予備的主張として,ワイヤー形状を限定する訂正がなされたとしても,本件明細書に記載のワイヤー形状は出願時の技術常識より容易に想到するものである旨主張し,出願時の技術水準を示すものとして甲第11号証を挙げている。 甲第11号証:歯科技工士のための実践矯正装置製作法,平成19年4月1 0日発行,尾▲崎▼順男他3名,クインテッセンス出版株式 会社 しかしながら,甲第11号証にも,相違点に係る事項は記載されていないから,本件発明1?4は,甲1発明及び出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件発明1?4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。 したがって,特許異議申立人▲高▼山嘉成のかかる主張はいずれも当を得たものではなく,採用することができない。 6 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 弾性を有する実質的に透明又は半透明の材料によって構成され、装着する人体の歯列の一部又は全部を覆う平面視で略U字形状に形成された装具本体を備え、 前記装具本体には、金属製ワイヤーが埋め込まれており、前記ワイヤーが歯列を矯正する方向に弾性力を付勢するものであり、 前記装具本体は、 歯列の唇側部分を覆う唇側部と、 歯列の舌側部分を覆う舌側部とを有し、 前記ワイヤーは、 前記装具本体の前記舌側部を通る舌側部分と、 前記舌側部と前記唇側部の間を接続する接続部分と、 前記唇側部を通る唇側部分とを有し、 前記装具本体の前記唇側部における中切歯、側切歯及び犬歯に対応する部位には、前記ワイヤーの前記唇側部分は配置されず、前記装具本体の前記舌側部における中切歯、側切歯及び犬歯に対応する部位に、前記ワイヤーの前記舌側部分が配置されるとともに、中切歯、側切歯及び犬歯に対応する部位に配置される前記ワイヤーの前記舌側部分が、前記接続部分を介して、第一小臼歯に対応する部位を通る唇側部分に移行するよう構成されている、歯列装具。 【請求項2】 前記装具本体が、弾性を有する第一の材料と、前記第一の材料よりも硬い第二の材料の2層構造からなる、請求項1に記載の歯列装具。 【請求項3】 前記ワイヤーにおける前記舌側部分は、前記装具本体における前記舌側部の中切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯及び第一大臼歯に対応する部位を通り、 前記接続部分は、 犬歯と第一小臼歯との間を通り前記ワイヤーを前記装具本体の前記舌側部と前記唇側部との間に配置させる第一接続部分と、 第一大臼歯と第二大臼歯との間を通り前記ワイヤーを前記装具本体の前記唇側部と前記舌側部との間に配置させる第二接続部分とを含み、 前記ワイヤーにおける前記唇側部分は、前記装具本体における前記唇側部の第一小臼歯及び第一大臼歯に対応する部位を通る、請求項1又は2に記載の歯列装具。 【請求項4】 前記ワイヤーがブラケット用のワイヤーである、請求項1から3のいずれかに記載の歯列装具。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-12-13 |
出願番号 | 特願2018-106969(P2018-106969) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61C)
P 1 651・ 113- YAA (A61C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 立花 啓 |
特許庁審判長 |
林 茂樹 |
特許庁審判官 |
関谷 一夫 寺川 ゆりか |
登録日 | 2018-11-02 |
登録番号 | 特許第6424368号(P6424368) |
権利者 | 株式会社TAKK |
発明の名称 | 歯列装具 |
代理人 | 備後 元晴 |
代理人 | 備後 元晴 |