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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C07C
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C07C
管理番号 1359541
異議申立番号 異議2019-700124  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-15 
確定日 2020-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6373964号発明「HF及び1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6373964号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6373964号の請求項1ないし8、10ないし12に係る特許を維持する。 特許第6373964号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6373964号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、2014年2月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月20日 フランス(FR))を国際出願日とする出願であって、平成30年7月27日にその特許権の設定登録がなされ、同年8月15日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許の全請求項について、平成31年2月15日に特許異議申立人 鈴木 愛子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和1年5月23日付けで取消理由が通知され、同年8月26日に意見書の提出及び訂正の請求がなされたものである。
なお、同年9月25日付けで、訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、申立人に対し相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである。(なお、下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される」
と記載されているのを、
「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3及び10?12も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される」
と記載されているのを、
「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選択される」
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3及び10?12も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
ア 特許請求の範囲の請求項4に、
「1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、請求項1から3の何れか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、
共沸又は共沸様組成物。」
に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項10?12も同様に訂正する)。

イ 特許請求の範囲の請求項5に、
「フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペンと、任意選択的に、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、請求項1から4の何れか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペンと、任意選択的に、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。」
に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項10?12も同様に訂正する)。

ウ 特許請求の範囲の請求項6に、
「フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペンと、任意選択的に、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、請求項1から5の何れか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペンと、任意選択的に、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項10?12も同様に訂正する)。

エ 特許請求の範囲の請求項7に、
「フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロプロペンと、任意選択的に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、請求項1から6の何れか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロプロペンと、任意選択的に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。」
に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項10?12も同様に訂正する)。

オ 特許請求の範囲の請求項8に、
「フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンと、任意選択的に2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを含む、請求項1から7の何れか一項に記載の組成物。」
と記載されているのを、
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンと、任意選択的に2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを含む、
共沸又は共沸様組成物。」
に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項10?12も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(5)訂正事項5
ア 特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1から9の何れか一項」と記載されているのを、「請求項1から8の何れか一項」に訂正する

イ 特許請求の範囲の請求項11に、「請求項1から10の何れか一項」と記載されているのを、「請求項1から8及び10の何れか一項」に訂正する。

ウ 特許請求の範囲の請求項12に、「請求項1から11の何れか一項」と記載されているのを、「請求項1から8、10及び11の何れか一項」に訂正する。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項1?12について、請求項2?12はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される一群の請求項である。
したがって、訂正前の請求項1?12に対応する訂正後の請求項1?12に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

4 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物」の選択肢から「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正後の請求項2、3及び10?12は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、請求項2、3及び10?12についての訂正も同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された「少なくとも一又は複数の有機化合物」の選択肢から「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正後の請求項3及び10?12は、訂正後の請求項2を引用するものであるから、請求項3及び10?12についての訂正も同様である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3のア?オは、それぞれが訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項4?8について、いずれも独立形式の請求項に改めるとともに、訂正前の請求項1以外の請求項を引用するものを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正後の請求項10?12は、訂正後の請求項4?8を引用するものであるから、請求項10?12についての訂正も同様である。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5のア?ウは、訂正事項4に伴い、それぞれ請求項9を引用しないものとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?8、10?12に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8、10?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
なお、以下、本件特許の請求項1?8、10?12に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」などといい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。

「【請求項1】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様である、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項2】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、並びに、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選択される少なくとも一又は複数の有機化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項5】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペンと、任意選択的に、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項6】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペンと、任意選択的に、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項7】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロプロペンと、任意選択的に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項8】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンと、任意選択的に2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを含む、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
1から95重量%のフッ化水素及び合計99から5重量%の有機化合物を含む、請求項1から8の何れか一項に記載の組成物。
【請求項11】
5から85重量%のフッ化水素及び合計95から15重量%の有機化合物を含む、請求項1から8及び10の何れか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物の沸点が、0.1から44barの絶対圧で-20℃から80℃である、請求項1から8、10及び11の何れか一項に記載の組成物。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3及び訂正前の請求項1?3を引用する請求項9?12に係る特許に対して、当審が令和1年5月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。

取消理由(新規性)
本件特許の請求項1?3及び9?12に係る発明は、本件特許の出願に係る優先日前に日本国内において、頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 甲号証の記載
甲1(特表2011-513228号公報)には、次の記載がある。

(甲1a)「【技術分野】
【0001】
本開示は概してフルオロオレフィンからのHFの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロオレフィンの化学的製造は、所望のフルオロオレフィンとフッ化水素(HF)との混合物を生成する可能性がある。フルオロオレフィンとHFとの分離は常に容易に成し遂げられるわけではない。蒸留およびデカンテーションの既存の方法は、非常に多くの場合にこれらの化合物の分離には効果がない。水性洗浄は有効であり得るが、大量の洗浄液の使用を必要とし、後で乾燥しなければならない湿潤生成物だけでなく過度の廃棄物を生み出す。それ故、HFをフルオロオレフィンから分離する新規方法が必要とされている。」

(甲1b)「【図面の簡単な説明】
【0012】
・・・
【図6】第1塔の凝縮器を出る2相混合物がデカンテーションされ、それぞれ、HFC-1234zeおよびHF塔に供給されるHFC-1234zeに富む流れおよびHFに富む流れへ分離される図3に示されるプロセスの別の実施形態を例示する。」

(甲1c)「【0032】
本明細書で用いるところでは、フルオロオレフィンは、炭素、フッ素および任意選択的に水素ならびにまた少なくとも1個の二重結合を含有する化合物である。フルオロオレフィンには、とりわけ、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze、CF_(3)CF=CH_(2))、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf、CF_(3)CF=CH_(2))、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFC-1225ye、CF_(3)CH=CHF)、および3,3,3-トリフルオロプロペン(HFC-1243zf、CF_(3)CH=CH_(2))が含まれるが、それらに限定されない。さらに、フルオロオレフィンに富む相について言及するとき、これは、単一フルオロオレフィンまたは2つ以上のフルオロオレフィンの混合物を意味してもよい。」

(甲1d)「【0114】
5.HFC-1234zeおよびHFC-1234yfの同時生産物からの生成物の分離
HFC-1234yf/HF共沸混合物はまた、HFC-1234yfおよびHFC-1234zeの同時生産に役立つために使用されてもよいことが分かった。HFC-1234yfは、HFC-245eb(CF_(3)CHFCH_(2)F、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン)および/またはHFC-245cb(CF_(3)CF_(2)CH_(3)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン)の脱フッ化水素によって製造されてもよい。HFC-245ebおよび/またはHFC-245cbならびにHFC-245faおよび/またはHFC-245ebが、好適な脱フッ化水素触媒を含有する、そして好適な温度で動作する反応器に同時供給される場合、HFC-1234yf、HFC-1234ze、HF、未反応のHFC-245ebおよび/またはHFC-245cb、ならびに未反応のHFC-245faを含む混合物が生成するであろう。脱フッ化水素反応は、PCT公開番号国際公開第2008/002500号パンフレット(出願番号PCT/US07/14645)に詳細に記載されている。HFC-1234yfからのHFC-1234zeの分離は、通常の蒸留プロセスでは困難であろう。
【0115】
一実施形態では、HFC-1234zeからのHFC-1234yfの分離方法であっって、a)HFC-245ebおよび/またはHFC-245cb、および/またはHFC-245fa、HFC-1234ze、HFC-1234yf、およびHFの混合物を第1蒸留塔に供給する工程と;b)HFC-1234yfおよびHFを含む共沸混合物組成物を第1留出物組成物として取り去る工程と;c)HFC-245ebおよび/またはHFC-245cb、および/またはHFC-245fa、およびHFC-1234zeを含む組成物を第1ボトム組成物として取り去る工程とを含む方法が提供される。
【0116】
別の実施形態では、第1ボトム組成物は、HFC-245ebおよび/またはHFC-245cb、および/またはHFC-245fa、およびHFを本質的に含まないHFC-1234zeを含んでもよい。この実施形態のためには、混合物中のHFの全てと共沸混合物を形成するのに十分なHFC-1234yfが存在しなければならない。一実施形態では、精製HFC-1234yfが混合物と一緒に蒸留塔に供給されてもよい。別の実施形態では、第1留出物組成物は、本明細書で先に記載されたように凝縮して2つの液相を形成し、デカンターに供給されてもよい。次に、デカンターからのHFC-1234yfに富む相が第1蒸留塔にフィードバックされてもよい。
・・・
【0119】
一実施形態では、HFC-245ebのみが脱フッ化水素反応器に供給される。この実施形態では、脱フッ化水素反応器からの供給物中に含有されるHFC-1234yfは、HF/HFC-1234yf共沸混合物が供給混合物中のHF共沸混合物の全てのうちで最低沸点を有するので、HFC-245eb、HFC-1234ze、HFC-1234yf、およびHFを含有する、供給混合物からHFを除去するためのエントレーナーとして使用される。
【0120】
ここで図6について言及すると、未反応のHFC-245eb、HF、HFC-1234yf、およびE-HFC-1234zeを含む、脱フッ化水素反応器を出た供給流れ10が第1蒸留塔20に供給される。塔20は、供給物中のHFC-245ebの本質的に全て、E-HFC-1234zeのほとんど、および供給物中の比較的少量のHFC-1234yfが、HFを本質的に含まず、流れ30によって塔のボトムから取り去られるように運転される。流れ30は、さらなる精製を任意選択的に受けても、または脱フッ化水素反応器にリサイクルされてもよい。HFの本質的に全て、HFC-1234yfの大部分および、任意選択的に、変動する量のHFC-245ebおよび/またはE-HFC-1234zeが、流れ40によって塔のトップから取り去られ、凝縮器50で凝縮し、冷却器60で冷却され、第1デカンター70に供給され、そこで第1のHFに富む相および第1のフルオロオレフィンに富む相画分が形成される。第1のフルオロオレフィンに富む相画分が流れ90によって取り去られ、2つの部分に分けられる。第1部分は流れ95によって還流として第1塔20に戻され、残りの部分は流れ100によって第2蒸留塔110に送られる。流れ95の流量は、流れ10中に存在するHFの本質的に全てが低沸点HF/HFC-1234yf共沸混合物の存在のために塔20のトップから蒸留されることが可能であるのに十分な追加のHFC-1234yfを流れ95が含有するように調節される。
流れ100(デカンター70からの第1のフルオロオレフィンに富む相の一部)が第2蒸留塔110に供給され、そこでそれは、流れ120によって取り去られる、HFを本質的に含まないフルオロオレフィンボトム生成物と、流れ130によって取り去られる、HF/HFC-1234yf共沸混合物に近い留出物組成物とに分離される。
【0122】
第1のHFに富む相画分(第1デカンター70からの)が、流れ200による第2デカンター180からの第2のHFに富む相と一緒に流れ80によって第3蒸留塔210に供給される。第3蒸留塔210への両供給物(流れ80および200)は、HFC-1234yfを本質的に含まないHFボトム生成物が塔210で得られ、流れ220によって取り去られ得るようにHF/HFC-1234yf共沸混合物と比べて過剰のHFを含有する組成を有する。第3塔からの留出物は、HF/HFC-1234yf共沸混合物に近い組成を有し、流れ230によって取り去られる。塔110および210からの留出物(流れ130および230)は、それぞれ、凝縮器140および240で凝縮し、流れ150および250を形成し、一緒に混合され、先ず第2冷却器160に、次に第2デカンター180に送られ、そこで第2のフルオロオレフィンに富むおよび第2のHFに富む液相画分が形成される。第2のフルオロオレフィンに富む画分は、流れ190によってデカンター180から取り去られ、さらなる分離のために第2塔110に供給される。第2のHFに富む画分は、流れ200によってデカンター180から取り去られ、さらなる分離のために第3塔210に供給される。」

(甲1e)「【0161】
実施例9
実施例9は、HFC-245ebの気相脱フッ化水素によるフルオロオレフィンHFC-1234yfおよびE-HFC-1234zeの同時生産のための分離方法を実証する。本プロセスへの供給は、HFC-1234yfへの90%選択率およびE-HFC-1234zeへの10%選択率で、HFC-245ebの75%転化率を仮定している。本実施例の目的のためには、蒸留プロセスへの供給物中に存在する少量のZ-HFC-1234ze異性体は無視される。
【0162】
脱フッ化水素反応器からの供給物中に含有されるHFC-1234yfを、HFC-245eb、E-HFC-1234ze、HFC-1234yfを含有する供給混合物からHFを除去するためのエントレーナーとして使用する。これは、HF/HFC-1234yf共沸混合物が供給混合物中の他のHF共沸混合物のどれよりも低い沸点を有するので可能である。
【0163】
ここで図6について言及すると、未反応のHFC-245eb、HF、HFC-1234yf、およびE-HFC-1234zeを含む、脱フッ化水素反応器を出た供給流れ10を、40理論段を含有する第1蒸留塔20のトップから30番目の段に供給する。塔20は、供給物中のHFC-245ebの本質的に全て、E-HFC-1234zeのほとんど、および供給物中の比較的少量のHFC-1234yfを、HFを本質的に含まずに、流れ30によって塔のボトムから取り去るように運転する。流れ30は、さらなる精製を任意選択的に受けても、または脱フッ化水素反応器にリサイクルされてもよい。HFの本質的に全て、HFC-1234yfの大部分および、任意選択的に、変動する量のHFC-245ebおよび/またはE-HFC-1234zeを、流れ40によって塔のトップから取り去り、凝縮器50で凝縮させ、冷却器60で冷却し、第1デカンター70に供給し、そこで第1のHFに富むおよび第1のフルオロオレフィンに富む相画分を形成する。第1のフルオロオレフィンに富む相画分を流れ90によって取り去り、2つの部分に分ける。第1部分を流れ95によって還流として第1塔に戻し、残りの部分を流れ100によって第2蒸留塔110に送る。流れ95の流量を、流れ10中に存在するHFの本質的に全てを低沸点HF/HFC-1234yf共沸混合物の存在のために塔20のトップから蒸留させることができるのに十分な追加のHFC-1234yfを流れ95が含有するように調節する。
【0164】
流れ100を、流れ190による第2デカンター180からの第2のフルオロオレフィンに富む相画分と一緒に第2蒸留塔110(19理論段を含有する)のトッププレートに供給する。組み合わせた流れ100および190は、流れ120によって取り去られる、HFを本質的に含まないフルオロオレフィンボトム生成物と、流れ130によって取り去られる、HF/HFC-1234yf共沸混合物に近い留出物組成物とに分離される。これは、塔110への組み合わせた供給物がHF/HFC-1234yf共沸組成物と比べて過剰のHFC-1234yfを含有するので起こる。
【0165】
第1デカンター70からの第1のHFに富む相画分を、流れ200による第2デカンター180からの第2のHFに富む相画分と一緒に流れ80によって第3蒸留塔210(9理論段を含有する)のトップ段に供給する。第3塔への両方の供給物(流れ80および200)は、HFC-1234yfを本質的に含まないHFボトム生成物が塔210で得られ、流れ220によって取り去られ得るようにHF/HFC-1234yf共沸混合物と比べて過剰のHFを含有する組成を有する。第3塔からの留出物は、HF/HFC-1234yf共沸混合物に近い組成を有し、流れ230によって取り去られる。塔110および210からの留出物(流れ130および230)を、それぞれ、凝縮器140および240で凝縮させ、流れ150および250を形成し、混ぜ合わせ、先ず第2冷却器160に、次に第2デカンター180に送り、そこで第2のフルオロオレフィンに富むおよび第2のHFに富む液相画分を形成する。第2のフルオロオレフィンに富む画分を、流れ190によってデカンター180から取り去り、さらなる分離のために第2塔110に供給する。第2のHFに富む画分を、流れ200によってデカンター180から取り去り、さらなる分離のために第3塔210に供給する。
【0166】
表9のデータは、測定および計算された熱力学的特性を用いる計算によって得た。
【0167】
【表9】



(甲1f)「



3 当審の判断
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1は、フルオロオレフィンからのフッ化水素(以下、「HF」ともいう。)の分離方法に関する技術を開示するものである(上記(甲1a))。
そして、甲1には、フルオロオレフィンを化学的に生成する際に、所望のフルオロオレフィンとHFとの混合物が生成されることがあるが、これらの分離は容易ではなく、新規な分離方法が必要とされていることが記載されており(上記(甲1a))、その分離方法の具体例の一つとして、実施例9に、HFC-245ebを気相脱フッ化水素して、HFC-1234yf及びE-HFC-1234zeを同時に生産し、分離することに関する事項が記載されている(上記(甲1e))。

イ そして、実施例9について、特に、図6(上記(甲1b)、(甲1d)、(甲1f))及び表9(上記(甲1e)【0166】?【0167】)の記載から、次のことが理解できる。
脱フッ化水素反応器からの未反応のHFC-245eb、HF、HFC-1234yf及びE-HFC-1234zeを含む流れ10を第1蒸留塔20に供給し、HFC-245ebの本質的に全て、E-HFC-1234zeのほとんど、及び比較的少量のHFC-1234yfを、第1蒸留塔20のボトムからの流れ30として取り去り、HFの本質的に全て、HFC-1234yfの大部分、及び変動する量のE-HFC-1234zeを第1蒸留塔20のトップからの流れ40として取り去る。
流れ40を、凝縮器50で凝縮させ、冷却器60で冷却し、第1デカンター70に供給し、第1デカンター70で、HFに富む相とフルオロオレフィン(HFC-1234yf及びE-HFC-1234ze)に富む相との相画分を形成し、HFに富む相画分を流れ80とし、フルオロオレフィン(HFC-1234yf及びE-HFC-1234ze)に富む相画分を流れ90として取り去る。

ウ ここで、実施例9における各流れに関する表9によると、第1デカンター70で分離される流れ80及び流れ90は、いずれも、HF、HFC-1234yf及び少量のE-HFC-1234zeを含んでいること、実施例9全体の記載からみて第1デカンター70へ供給される流れ及び分離される流れのいずれにも他の物質の出入りはないことから、第1デカンター70へ供給される流れ40にも、HF、HFC-1234yf及び少量のE-HFC-1234zeが含まれているといえる。

エ よって、甲1には、実施例9の流れ40からみて、次の甲1発明が記載されているものと認められる。

甲1発明:
「HF、HFC-1234yf、E-HFC-1234zeを含む組成物。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「E-HFC-1234ze」は、上記(甲1c)に記載されているとおり「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」のE異性体である。
一方、本件特許発明1の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」について、本件特許明細書【0014】に「化合物1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、化合物E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は化合物Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの何れかを含むか、或いは化合物E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと化合物Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの混合物を含む。」と記載されているから、甲1発明の「E-HFC-1234ze」は、本件特許発明1の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に相当するといえる。
以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点1-1?1-2を有する。

一致点:
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物。」である点。

相違点1-1:
「組成物」について、本件特許発明1は「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物」を含むと特定しているのに対し、甲1発明は「HFC-1234yf」を含むと特定している点。

相違点1-2:
「組成物」について、本件特許発明1は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲1発明は不明な点。

イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲1発明の「HFC-1234yf」は、前記(甲1c)に記載されているとおり「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」であるところ、この化合物は本件特許発明1の「・・・から選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物」のいずれとも異なる化合物である。
また、甲1全体の記載を参酌しても、甲1には、HFとE-HFC-1234zeを含むとともに、相違点1-1に係る本件特許発明1の化合物を含む組成物は記載も示唆もされていない。
したがって、両発明は、組成物を構成する成分が異なっているから、相違点1-1は実質的な相違点である。
よって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明でない。

(3)本件特許発明2?3及び本件特許発明1?3を引用する本件特許発明10?12について
本件特許発明2?3及び本件特許発明1?3を引用する本件特許発明10?12はいずれも本件特許発明1の発明特定事項をさらに限定するものである。
したがって、本件特許発明1が甲1に記載された発明でない以上、本件特許発明2?3及び本件特許発明1?3を引用する本件特許発明10?12も同様に甲1に記載された発明でない。
なお、訂正前の請求項9は、本件訂正により削除された。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?3及び本件特許発明1?3を引用する本件特許発明10?12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

4 小括
よって、取消理由通知に記載した取消理由には理由がない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
訂正前の請求項1?12に係る特許に対して、申立人が主張した特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

申立理由(新規性)
本件特許の請求項1?12に係る発明は、本件特許の出願に係る優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲1、甲2又は甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 甲号証の記載
(1)甲1の記載は、前記第4 2のとおりである。

(2)甲2(米国特許出願公開第2010/0072415号明細書)には、次の記載がある。なお、甲2は英文のため翻訳文で示す。

(甲2a)「フルオロプロパン及びハロプロペンの製造方法、並びに、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンとHF及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンとHFの共沸組成物」(1頁左欄1?6行「発明の名称」)

(甲2b)「[0001]本発明は、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、及び/又は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンの製造方法に関する。」

(甲2c)「[0055]本発明の一実施形態では、生成物混合物は、HFC-245cb、HFC-245fa、HFC-1234yf、HFC-1234ze、HCFC-1233zd及びHCFC-1233xfを含む。
[0056]本発明の方法によって製造される生成物混合物が(i)生成物化合物HFC-245cb、HFC-245fa、HFC-1234yf、HFC-1234ze、HCFC-1233zd及びHCFC-1233xf、(ii)HF及びHCl、(iii)副生成物及び(iv)未反応出発物質を含む場合、分離ステップ(a)?(e)はそのような生成物混合物から生成物化合物を回収するために行ってもよい。
[0057]分離ステップ(a)で、生成物混合物を蒸留カラムに送って生成物混合物からHClを分離することができる。
[0058]分離ステップ(b)で、分離ステップ(a)からの生成物混合物を1つ以上の蒸留カラムに送って、HFC-1234yfとHFの共沸組成物を残りの生成物混合物から分離する。回収されたHFC-1234yfとHFの共沸組成物は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2006/0106263号(A1)に記載されているのと同様の手順を使用することによって個々の成分にさらに分離することができる。
[0059]分離ステップ(c)で、分離ステップ(b)からの生成物混合物を1つ以上の蒸留カラムに送って、そこで、HF、HFC-245cb、HFC-1234ze、HCFC-1233xf、HCFC-1233zd及びHFC-245faを蒸留カラムの頂部から回収し、CF_(3)CHClCH_(2)Cl、CF_(3)CHClCH_(2)Fのような高沸点出発物質を蒸留カラムの底部から除去する。CF_(3)CHClCH_(2)Cl及びCF_(3)CHClCH_(2)Fは、他の副生成物及び未反応出発物質から、例えば蒸留によってさらに分離することができ、気相フッ素化反応器にリサイクルして戻される。
[0060]分離ステップ(d)で、分離ステップ(c)で蒸留カラムの頂部から回収されるHF、HFC-245cb、HFC-1234ze、HCFC-1233xf、HCFC-1233zd及びHFC-245faを含む生成物混合物を1つ以上の蒸留カラムに送って、蒸留カラムの頂部からHFC-245cb/HFの共沸組成物及びHFC-1234ze/HFの共沸組成物を回収する。次いで、回収されたHFC-245cb/HF及びHFC-1234ze/HFの共沸組成物は、米国特許出願公開第2006/0106263号明細書に記載されているのと同様の手順を使用することによって個々の成分にさらに分離され得る。
[0061]また、分離ステップ(d)の別の実施態様では、分離ステップ(c)で蒸留カラムの頂部から回収されるHF、HFC-245cb、HFC-1234ze、HCFC-1233xf、HCFC-1233zd及びHFC-245faを含む生成物混合物は、気相フッ素化反応器の反応ゾーンにリサイクルして戻される。
[0062]分離ステップ(e)で、分離ステップ(d)で蒸留カラムの底部から回収されるHCFC-1233xf、HCFC-1233zd及びHFC-245faを含む生成物混合物、並びに任意のHFを蒸留カラムに送って、HCFC-1233xf、HCFC-1233zd及びHFC-245faを分離することができる。HCFC-1233xfをフッ素化して、HFC-245cb及びHFC-1234yfの少なくとも一方を製造することができる。HCFC-1233zdをフッ素化して、HFC-245fa及びHFC-1234zeの少なくとも一方を製造することができる。
[0063]分離ステップ(e)でHCFC-1233xfを単離すると、HCFC-1233xfがHFと共沸混合物を形成することが観察される。
[0064]上記に述べたように、本発明のある実施形態では、本発明の方法に従って製造されたHF、HFC-245cb及びHFC-1234zeの混合物は、液相フッ素化反応器中で、場合により液相フッ素化触媒存在下で追加のHFと接触させて、HF、HFC-245cb及びHFC-245faの混合物を製造させられる。」

(甲2d)「[0073]当技術分野で認識されているように、共沸組成物は、所定の圧力下で液体形態である実質的に一定の温度で沸騰する2つ以上の異なる成分の混合物であり、その温度は、個々の成分の沸点よりも高くても低くても良く、沸騰する液体組成物と本質的に同一の蒸気組成物を提供する。
[0074]したがって、共沸組成物の本質的な特徴は、所定の圧力で液体組成物の沸点が固定され、沸騰組成物より上の蒸気の組成が本質的に沸騰液体組成物の組成であることである。(すなわち、液体組成物の成分の分別は行われない。)共沸組成物を異なる圧力で沸騰させると、共沸組成物の各成分の沸点及び重量%の両方が変化し得ることも当技術分野において認識されている。したがって、共沸組成物は、特定の圧力での固定沸点を特徴とする、成分間に存在する固有の関係に関して、又は成分の組成範囲に関して、或いは組成物の各成分の正確な重量%に関して定義することができる。様々な共沸組成物(特定の圧力でのそれらの沸点を含む)を計算できることも当該分野で認識されている(例えば、W.Schotte Ind.Eng.Chem.Process Des.Dev.(1980)19,432?439を参照)。同じ成分を含む共沸組成物の実験的同定は、そのような計算の正確さを確認するために及び/又は同じ又は他の温度及び圧力で計算を修正するために使用され得る。」

(甲2e)「実施例
98%クロム/2%コバルト触媒の調製
[0086]・・・
製品分析の一般手順
[0087]・・・

実施例1-5
CF_(3)CHClCH_(2)Clのフッ素化
[0088]上記で調製した98%クロム/2%コバルト触媒(21.4g、15mL、-12?+20メッシュ、(1.68?0.84mm))を直径5/8インチ(1.58cm)の流動砂浴で加熱したInconel(商標)ニッケル合金反応器に入れた。以下のように、触媒をHFで処理することによって予備フッ素化した。触媒を窒素流(50cc/分)で約1.5時間かけて45℃から175℃に加熱した。次いで、HFを、175℃の温度で1.3時間、50cc/分の流速で反応器に入れた。反応器の窒素流を20cc/分に減少させ、HF流を80cc/分に増加させた。この流れを0.3時間維持した。その後、反応器の温度を1時間かけて徐々に400℃に上げた。この期間の後、HFと窒素の流れを止め、反応器を所望の運転温度にした。次いで、HF蒸気及びCF_(3)CHClCH_(2)Clの流れを、反応器を通して開始した。反応器流出物の一部をオンラインGC/MSによって分析した。
[0089]様々な操作温度での98/2 Cr/Co触媒上でのCF_(3)CHClCH_(2)Clのフッ素化の結果、及びHFとCF_(3)CHClCH_(2)Clとの指定モル比を表1に示す。分析データは、GC面積%の単位で提供される。公称触媒床容積は15cc、接触時間(CT)は15秒であった。実施例1は触媒の非存在下で実施した。



(甲2f)「16.CF_(3)CH_(2)CHF_(2)、CF_(3)CH=CHF及びCF_(3)CH=CHClからなる群から選択される少なくとも1種の生成物化合物の製造方法であって、
式CX_(3)CHClCH_(2)Xのハロプロパン、式CX_(3)CCl=CH_(2)のハロプロペン及び式CX_(2)=CClCH_(2)Xのハロプロペン(ここで各Xは独立してF及びClからなる群から選択される)からなる群から選択される少なくとも1種の出発材料を、場合によりフッ素化触媒の存在下でHFを含む反応帯域で反応させて、HF、HCl、CF_(3)CH_(2)CHF_(2)、CF_(3)CH=CHF及びCF_(3)CH=CHClを含む生成物混合物を生成させ、ここで反応帯域に供給される出発材料の総量に対するHFのモル比は少なくとも化学量論的であり、そして、
生成物混合物から前記少なくとも1つの生成物化合物を回収することを含む方法。
・・・
31.以下を含む組成物。
(a)CF_(3)CCl=CH_(2)、及び
(b)HF、ここで、HFはCF_(3)CCl=CH_(2)と共沸混合物を形成するのに有効な量で存在する。
32.以下を含む組成物。
(a)CF_(3)CF_(2)CH_(3)、及び
(b)HF、ここで、HFはCF_(3)CF_(2)CH_(3)と共沸混合物を形成するのに有効な量で存在する。」(8頁右欄34行?9頁右欄最終行)

(3)甲3(特開2012-82189号公報)には、次の記載がある。

(甲3a)「【請求項1】
少なくとも水を含む気体状態のヒドロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボンを熱交換器で冷却し、ヒドロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボンを凝縮させ液化し、且つ前記水を氷結凝固させることを含む、ヒドロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボンの脱水方法。
・・・
【請求項4】
ヒドロフルオロカーボンが1,3,3,3-テトラフルオロプロペンであることを特徴とする、請求項1及至請求項3のいずれか1項に記載の脱水方法。
【請求項5】
少なくとも水を含む気体状態の1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンをフッ化水素によりフッ素化し水洗されてなる1,3,3,3-テトラフルオロプロペンであり、不純物を含むことを特徴とする、請求項4に記載の脱水方法。
【請求項6】
不純物として、少なくとも1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのシス体、トランス体またはその混合物を含む、請求項5に記載の脱水方法。
・・・
【請求項10】
請求項1及至請求項9のいずれか1項に記載の脱水方法により1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを脱水する脱水工程と、脱水された、不純物を含む1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを蒸留精製する蒸留精製工程を含む、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【請求項11】
1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンをフッ化水素によりフッ素化し、未反応の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、フッ化水素、塩化水素および副生成物を含む1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの混合物を得る合成工程と、混合物のフッ化水素および塩化水素を除去する酸除去工程と、をさらに含む、請求項10に記載の製造方法。
・・・
【請求項13】
酸除去工程が、合成工程で得られた混合物を、硫酸、水または塩基性水溶液と接触させフッ化水素を除去する工程であることを特徴とする、請求項11または請求項12に記載の製造方法。」

(甲3b)「【0010】
通常、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合成方法において、反応工程から取り出された反応物は、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、原料化合物および副生等の不純物に加え、上述のように酸性成分を含むので、水洗浄、塩基性水溶液で洗浄し、酸性成分を除去するための水洗を行う酸除去工程が必要となる。また、フッ酸を含有する場合は、濃硫酸等と接触させることで、濃硫酸等に吸収させることが好ましい。
・・・
【0012】
蒸留工程において、粗1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが水を含むと、不純物を除去し難いばかりか、水と1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが共沸し、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンに水が混入したままとなる。・・・そのためには、酸除去工程の後、且つ蒸留工程の前に、言い換えれば、酸除去工程と蒸留工程の間に脱水工程を設けることが好ましい。・・・
・・・
【0018】
本発明は、大掛かりな装置を必要とせず、簡便な装置を用いることが可能あり、プラントにおける工業的商業生産に用いるのに好適な、ヒドロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボンの脱水方法を提供することを目的とする。・・・」

(甲3c)「【0109】
[実施例2]
(1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合成)
リボンヒーターにより加熱ができる、内径23mm、長さ300mmのステンレス鋼(SUS-316)製管型反応器を用意した。前記管型反応器に、触媒としてのクロム担持アルミナを50ml充填し、200℃おいて、フッ化水素を0.2g/minの供給速度で供給した。この後、フッ化水素を供給しながら、50℃ずつ段階的に温度を上昇させて、最終的に400℃まで昇温した。200℃?400℃の温度範囲において、合計8時間かけてフッ化水素による触媒の活性化を行った。
【0110】
管型反応器内の温度が340℃になるように加熱した後、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを0.16g/minの速度で管型反応器内に連続供給し、フッ化水素を0.24g/minの速度で管型反応器内に連続導入し、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンをフッ化水素によりフッ素化し1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る反応を10時間継続した。
【0111】
反応後のガスを、酸吸収用の水の入ったトラップにバブリングさせ、未反応のフッ化水素および塩化水素を吸収除去した後に、ガスクロマトグラフィーにて組成分析を行ったところ表2の結果を得た。組成分析の結果、反応後のガス中の未反応のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの含有率は40.4質量%、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの含有率は5.6質量%、合成されたトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有率は33.0質量%、シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは8.0質量%、その他0.3質量%であった。
【表2】



3 当審の判断
(1)甲1を主引用例とする本件特許発明の新規性について
ア 甲1に記載された発明
前記第4 3(1)で認定した、次のとおりのものである。

甲1発明:
「HF、HFC-1234yf、E-HFC-1234zeを含む組成物。」

イ 本件特許発明1?3及び本件特許発明1?3を引用する本件特許発明10?12について
前記第4 3(2)及び(3)のとおりである。

ウ 本件特許発明4について
(ア)対比
本件特許発明4と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「E-HFC-1234ze」は、前記(甲1c)に記載されているとおり「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」のE異性体である。
一方、本件特許発明4の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」について、本件特許明細書【0014】に「化合物1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、化合物E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は化合物Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの何れかを含むか、或いは化合物E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと化合物Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの混合物を含む。」と記載されているから、甲1発明の「E-HFC-1234ze」と、本件特許発明4の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」かつ「1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである」とは、「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」である点で共通する。
甲1発明の「HFC-1234yf」は、前記(甲1c)に記載されているとおり「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」である。
そして、本件特許発明4は、「フッ化水素」及び「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」とともに、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を含む9種類の(ヒドロ)ハロカーボン化合物から選択される少なくとも一の化合物を含んでいればよいものである。
以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点1-3?1-4を有する。

一致点:
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含む、組成物。」である点。

相違点1-3:
「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」について、本件特許発明4は「Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」と特定しているのに対し、甲1発明は「E-HFC-1234ze」(E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)である点。

相違点1-4:
「組成物」について、本件特許発明4は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲1発明は不明な点。

(イ)判断
相違点1-3について検討する。
本件特許発明4の「Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」と、甲1発明の「E-HFC-1234ze」(E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)とは、同じ分子式で表されるが、二重結合に対する置換基の結合位置が違う異なる化合物である。
また、甲1全体の記載を参酌しても、甲1には「Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を含む組成物は記載も示唆もされていない。
したがって、両発明は、組成物を構成する成分が異なっているから、相違点1-3は実質的な相違点である。
よって、相違点1-4について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1に記載された発明でない。

エ 本件特許発明5について
(ア)対比
本件特許発明5と甲1発明とを対比する。
前記第4 3(2)アと同様の理由により、甲1発明の「E-HFC-1234ze」は、本件特許発明5の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に相当するといえる。
また、甲1発明の「HFC-1234yf」は、前記(甲1c)に記載されているとおり「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」である。
本件特許発明5は、「フッ化水素」及び「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」とともに、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」を含む9種類の(ヒドロ)ハロカーボン化合物から選択される少なくとも一の化合物を必ず含んでおり、かつ、「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」を必ず含むものである。
以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点1-5?1-6を有する。

一致点:
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1, 1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、任意選択的に、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、組成物。」である点。


相違点1-5:
「組成物」について、本件特許発明5は「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」を含むと特定しているのに対し、甲1発明はこれを含まない点。

相違点1-6:
「組成物」について、本件特許発明5は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲1発明は不明な点。

(イ)判断
相違点1-5について検討するに、甲1発明は、本件特許発明5の組成物が含む「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」を含まないのであるから、両発明は、組成物を構成する成分が異なっており、相違点1-5は実質的な相違点である。
また、甲1全体の記載を参酌しても、甲1には、HFとE-HFC-1234zeを含むとともに、「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」を含む組成物は記載も示唆もされていない。
よって、相違点1-6について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1に記載された発明でない。

オ 本件特許発明6?8について
(ア)対比
本件特許発明6?8は、いずれも本件特許発明5と「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物」を含む組成物である点で一致し、それぞれ順に、sらに、「E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」、「3,3,3-トリフルオロプロペン」又は「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン」を必ず含むものである。
したがって、本件特許発明6?8と甲1発明とは、いずれも上記エ(ア)で検討した一致点及び相違点1-6と同様の一致点及び相違点を有するとともに、それぞれ、次の相違点1-7?1-9を有する。

相違点1-7:
「組成物」について、本件特許発明6は「E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」を含むと特定しているのに対し、甲1発明はこれを含まない点。

相違点1-8:
「組成物」について、本件特許発明7は「3,3,3-トリフルオロプロペン」を含むと特定しているのに対し、甲1発明はこれを含まない点。

相違点1-9:
「組成物」について、本件特許発明8は「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン」を含むと特定しているのに対し、甲1発明はこれを含まない点。

(イ)判断
相違点1-7?1-9について検討するに、甲1発明は、本件特許発明6?8の組成物がそれぞれ含む「E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」、「3,3,3-トリフルオロプロペン」及び「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン」のいずれも含まない。
また、甲1全体の記載を参酌しても、甲1には、HFとE-HFC-1234zeを含むとともに、「E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」、「3,3,3-トリフルオロプロペン」及び「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン」のいずれかを含む組成物は記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許発明6?8と甲1発明とは、いずれも組成物を構成する成分が異なっており、相違点1-7?1?9は実質的な相違点である。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6?8は、甲1に記載された発明でない。

カ 本件特許発明4?8を引用する本件特許発明10?12について
本件特許発明10?12はいずれも本件特許発明4?8の発明特定事項をさらに限定するものである。
したがって、本件特許発明4?8が甲1に記載された発明でない以上、本件特許発明10?12も同様に甲1に記載された発明でない。
なお、訂正前の請求項9は、本件訂正により削除された。

キ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?8、10?12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

(2)甲2を主引例とする本件特許発明の新規性について
ア 甲2に記載された発明
甲2は、フルオロプロパン及びハロプロペンの製造方法、並びに、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンとHF及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンとHFの共沸組成物に関する技術を開示するものである(上記(甲2a)、(甲2b))。
そして、実施例1-5で、CF_(3)CHClCH_(2)Cl(243db)のフッ素化を、異なる温度及び異なるHF/243dbのモル比で実施し、反応器からの流出物をGC/MSで分析した結果が表1に示されている(上記(甲2e))。
表1には、流出物中のHFについて記載されていないが、流出物にHFが含まれることは甲2の上記(甲2c)及び上記(甲2f)の請求項16から理解できる。
よって、甲2には、表1の実施例3?5からみて、次の甲2発明が記載されているものと認められる。

甲2発明:
「HF、1234yf、245cb、1233xf、1233zd、1234ze及び245faを含む組成物。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
上記(甲2e)の凡例からみて、甲2発明の「1234ze」は、本件特許発明1の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に相当する。
また、甲2発明の「245cb」及び「1233xf」は、それぞれ、本件特許発明1の「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン」及び「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」に相当する。
そして、甲2発明の「1233zd」はE体とZ体の混合物といえるから、そのうちのE体は、本件特許発明1の「E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」に相当する。
本件特許発明1は、「フッ化水素」及び「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」とともに、「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン」、「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」及び「E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」を含む8種類の(ヒドロ)ハロカーボン化合物から選択される少なくとも一の化合物を含んでいればよく、他の(ヒドロ)ハロカーボン化合物が含まれることを排除していない。
以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点2-1を有する。

一致点:
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含む、組成物。」である点。

相違点2-1:
「組成物」について、本件特許発明1は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲2発明は不明な点。

(イ)判断
相違点2-1について検討する。

a 本件特許発明1の「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」について、本件特許明細書【0007】?【0008】に「不均一共沸混合物又は不均一共沸様混合物は、凝縮液体が、例えばデカンテーションによって容易に分離され得る二の非混和性溶液を形成する、共沸又は共沸様混合物である。この特性は、HFの回収にとってかなりの利点である。『共沸様(quasi-azeotropic)』又は『不均一共沸様(quasi-heteroazeotropic)』という用語は、広い意味を有し、厳密に共沸又は厳密には不均一共沸である組成物、及び共沸混合物又は不均一共沸混合物のように働く組成物を含むことが意図される。」と記載されている。
また、同【0036】?【0037】に「本出願人は、本発明の組成物が、特に反応工程におけるHFの再利用にとって有利な特性を有することを見出した。したがって、本発明の組成物の凝縮相は、場合によって組成物が蒸留工程及び/又は(例えばデカンテーションによる)液体/液体分離工程に供される場合、二の非混和性液相を形成する。例として、フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、並びに、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン及びE-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペンから選択される化合物を含有する三元化合物について、二の液相(一方はHFに富み、他方はHFが枯渇した相)によって特徴付けられる不均一共沸混合物の外観は、組成物中のHFの量に依存する。」と記載されている。
これらの記載から、本件特許発明1の「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」とは、共沸蒸留後の凝集液体が、例えばHFに富む相とHFが枯渇した相にデカンテーションなどによって容易に分離され得る二の非混和性液相を形成するかそのように働く組成物であるといえる。

b 甲2には、共沸組成物についての説明が記載されているが(上記(甲2d))、不均一共沸についての記載はない。
甲2には、「フッ化水素とHFC-245cb(1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン)」、「フッ化水素とHFC-1234ze(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)」又は「フッ化水素とHCFC-1233xf(3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン)」の2成分からなる共沸混合物が記載されているに留まり(上記(甲2c)の[0060]、[0063]、上記(甲2f)の請求項31及び32)、これらであっても不均一共沸又は不均一共沸様であることが理解できる記載はなく、他に共沸組成物となる組成物についても記載されていない。

c 甲2の共沸組成物についての説明の記載からも理解できるとおり、共沸組成物は、組成物を構成する成分間の固有の関係、成分の組成範囲や組成物の各成分の正確な重量%によって、実質的に一定の温度で沸騰し、沸騰する液体組成と蒸気の組成とが同一となるものであり、単に組成物を構成する成分の数や種類が同一であることだけで共沸組成物となるものではないことが当該技術分野における技術常識といえる。

d そうすると、上記(甲2e)の表1に示される実施例3?5の「フッ化水素と1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に加え他の成分を含む7成分からなる組成物が、組成物を構成する成分の種類としては本件特許発明1の発明特定事項に含まれるからといって、甲2発明の組成物が、不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物であるかは不明である。
したがって、上記相違点2-1は実質的な相違点であり、本件特許発明1は、甲2に記載された発明でない。

ウ 本件特許発明2?3について
本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の発明特定事項をさらに限定するものである。
したがって、本件特許発明1が甲2に記載された発明でない以上、本件特許発明2?3も同様に甲2に記載された発明でない。

エ 本件特許発明4について
(ア)対比
本件特許発明4と甲2発明とを対比すると、上記イ(ア)で検討したのと同様のことに加え、甲2発明の「1234ze」は、上記(甲2e)の凡例からみて、本件特許発明4の「Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」であるものも含んでいるといえるから、両発明は、次の一致点及び相違点2-2を有する。

一致点:
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、かつ、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、組成物。」である点。

相違点2-2:
「組成物」について、本件特許発明4は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲2発明は不明な点。

(イ)判断
上記相違点2-2は、上記イ(イ)で検討した相違点2-1と同じ相違点であるから、相違点2-2も同様の理由により、実質的な相違点である。
よって、本件特許発明4は、甲2に記載された発明でない。

オ 本件特許発明5について
(ア)対比
本件特許発明5と甲2発明とを対比すると、上記イ(ア)で検討したのと同様のことに加え、甲2発明が「1233xf」(3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン)を含むことは、本件特許発明5における「かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」を含むことに相当するといえるから、両発明は、次の一致点及び相違点2-3を有する。

一致点:
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペンとを含む、組成物。」である点。

相違点2-3:
「組成物」について、本件特許発明5は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲2発明は不明な点。

(イ)判断
上記相違点2-3は、上記イ(イ)で検討した相違点2-1と同じ相違点であるから、相違点2-3も同様の理由により、実質的な相違点である。
よって、本件特許発明5は、甲2に記載された発明でない。

カ 本件特許発明6及び8について
本件特許発明6及び8と甲2発明とを対比すると、上記イ(ア)で検討したのと同様のことに加え、甲2発明が「1233zd」(E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペンを含む)及び「245cb」(1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン)を含むことは、それぞれ、本件特許発明6における「かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」を含むこと及び本件特許発明8における「かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン」を含むことに相当するといえるから、本件特許発明6及び8と甲2発明とは、上記オ(ア)で認定したのと同様の一致点及び相違点を有するといえる。
そしてこの相違点は、上記イ(イ)で検討した相違点2-1と同じ相違点であるから、同様の理由により、実質的な相違点である。
よって、本件特許発明6及び8は、甲2に記載された発明でない。

キ 本件特許発明7について
(ア)対比
本件特許発明7と甲2発明とを対比すると、両発明は、上記イ(ア)で検討したのと同様の理由より、次の一致点及び相違点2-4?2-5を有する。

一致点:
「フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含む、組成物。」である点。

相違点2-4:
「組成物」について、本件特許発明7は「かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロプロペンと、任意選択的に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む」、すなわち「3,3,3-トリフルオロプロペン」を必ず含むと特定しているのに対し、甲2発明はこれを含まない点。

相違点2-5:
「組成物」について、本件特許発明7は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲2発明は不明な点。

(イ)判断
相違点2-4について検討するに、甲2発明は、本件特許発明7の組成物が含む「3,3,3-トリフルオロプロペン」を含まないのであるから、両発明は、組成物を構成する成分が異なっており、相違点2-4は実質的な相違点である。
また、甲2全体の記載を参酌しても、甲2には、HFと1233zd(E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペンを含む)を含むとともに、「3,3,3-トリフルオロプロペン」を含む組成物は記載も示唆もされていない。
よって、相違点2-5について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲2に記載された発明でない。

ク 本件特許発明10?12について
本件特許発明10?12はいずれも本件特許発明1?8の発明特定事項をさらに限定するものである。
したがって、本件特許発明1?8が甲2に記載された発明でない以上、本件特許発明10?12も同様に甲2に記載された発明でない。

ケ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?8、10?12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

(3)甲3を主引例とする本件特許発明の新規性について
ア 甲3に記載された発明
甲3は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンをフッ化水素によりフッ素化し、未反応の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、フッ化水素、塩化水素及び副生成物を含む1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの混合物を得る合成工程と、混合物のフッ化水素及び塩化水素を硫酸、水又は塩基性水溶液と接触させフッ化水素を除去する酸除去工程と、特定の脱水方法により1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを脱水する脱水工程とを含む、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法に関する技術を開示するものである(上記(甲3a))。
そして、その具体例として、実施例2に、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンをフッ化水素によりフッ素化し1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る反応を10時間継続し、反応後のガスを、酸吸収用の水の入ったトラップにバブリングさせ、未反応のフッ化水素及び塩化水素を吸収除去した後に、ガスクロマトグラフィーにて組成分析を行った結果が表2に示されている(上記(甲3c))。
よって、甲3には、実施例2の表2からみて、次の甲3発明が記載されていると認められる。

甲3発明:
「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを含む組成物。」

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」について、本件特許明細書【0014】に「化合物1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、化合物E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は化合物Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの何れかを含むか、或いは化合物E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと化合物Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとの混合物を含む。」と記載されているから、甲3発明の「トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」及び「シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」は、本件特許発明1の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に相当するといえる。
甲3発明の「トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」は、本件特許発明1の「E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」に相当する。
そして、本件特許発明1は、「フッ化水素」及び「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」とともに、「E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」を含む8種類の(ヒドロ)ハロカーボン化合物から選択される少なくとも一の化合物を含んでいればよく、他の(ヒドロ)ハロカーボン化合物が含まれることを排除していない。
以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点3-1?3-2を有する。

一致点:
「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含む、組成物。」

相違点3-1:
「組成物」について、本件特許発明1は「フッ化水素」を含むと特定しているのに対し、甲3発明はこれを含まない点。

相違点3-2:
「組成物」について、本件特許発明1は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲3発明は不明な点。

(イ)判断
a 相違点3-1について
甲3は、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合成方法において、反応工程からの酸性成分を水洗浄などにより酸除去工程が必用となるところ、粗1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが水を含むと、続く蒸留工程で不純物の除去などが難しくなることから、蒸留工程に先だって、特定の脱水工程を設けたことものである(上記(甲3b))。
すなわち、甲3は、フッ素化工程後に、未反応のHFを水洗することを前提とするものであるから、甲3発明においてHFを含むことについては、記載も示唆もない。
そうすると、両発明は、組成物を構成する成分が異なっているから、相違点3-1は実質的な相違点である。

b 相違点3-2について
甲3の実施例2では、反応後のガスであって酸吸収用の水に接触させる前のガスはHFを含んでいることから、その状態のときについてみれば、HFを含む組成物も記載されているということもでき、その場合は、本件特許発明1と甲3発明との上記相違点3-1は、相違点とはならないともいえる。
しかしながら、仮にそのような発明を認定できたとしても、上記(2)イcで甲2について検討したのと同様に、組成物を構成する成分の数や種類が同一であることだけで共沸組成物となるものではないから、上記相違点3-2も実質的な相違点である。

c よって、本件特許発明1は甲3に記載された発明でない。

ウ 本件特許発明2?3について
本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の発明特定事項をさらに限定するものである。
したがって、本件特許発明1が甲3に記載された発明でない以上、本件特許発明2?3も同様に甲3に記載された発明でない。

エ 本件特許発明4について
(ア)対比
本件特許発明4と甲3発明とを対比すると、上記イ(ア)で検討したのと同様のことに加え、甲3発明の「シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」は、本件特許発明1の「1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである」ことに相当するから、両発明は、次の一致点及び相違点3-3?3-4を有する。

一致点:
「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、かつ、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、組成物。」である点。

相違点3-3:
「組成物」について、本件特許発明4は「フッ化水素」を含むと特定しているのに対し、甲3発明はこれを含まない点。

相違点3-4:
「組成物」について、本件特許発明4は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲3発明は不明な点。

(イ)判断
上記相違点3-3及び3-4は、上記イ(イ)で検討した相違点3-1及び3-2と同様な相違点であるから、これら相違点も同様の理由により、実質的な相違点である。
よって、本件特許発明4は、甲3に記載された発明でない。

オ 本件特許発明6について
(ア)対比
本件特許発明6と甲3発明とを対比すると、上記イ(ア)で検討したことに加え、甲3発明が「トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン」を含むことは、本件特許発明6において、「かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」とを含むことと、「1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン」を含む点で共通する。
よって、両発明は、次の一致点及び相違点3-5?3-6を有する。

一致点:
「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペンとを含む、組成物。」である点。

相違点3-5:
「組成物」について、本件特許発明6は「フッ化水素」を含むと特定しているのに対し、甲3発明はこれを含まない点。

相違点3-6:
「組成物」について、本件特許発明6は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲3発明は不明な点。

(イ)判断
上記相違点3-5及び3-6は、上記イ(イ)で検討した相違点3-1及び3-2と同様な相違点であるから、これら相違点も同様の理由により、実質的な相違点である。
よって、本件特許発明6は、甲3に記載された発明でない。

カ 本件特許発明5について
(ア)対比
本件特許発明5と甲3発明とを対比すると、両発明は、上記イ(ア)で検討したのと同様の理由より、次の一致点及び相違点3-7?3-9を有する。

一致点:
「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含む、組成物。」である点。

相違点3-7:
「組成物」について、本件特許発明5は「フッ化水素」を含むと特定しているのに対し、甲3発明はこれを含まない点。

相違点3-8:
「組成物」について、本件特許発明5は「かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペンと、任意選択的に、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む」、すなわち「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」を必ず含むと特定しているのに対し、甲3発明はこれを含まない点。

相違点3-9:
「組成物」について、本件特許発明5は「不均一共沸又は不均一共沸様である、共沸又は共沸様組成物」であると特定しているのに対し、甲3発明は不明な点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点3-8について検討するに、甲3発明は、本件特許発明5の組成物が含む「3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン」を含まないのであるから、両発明は、組成物を構成する成分が異なっており、相違点3-8は実質的な相違点である。
また、甲3全体の記載を参酌しても、甲3には、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと3,3,3-トリフルオロプロペンを含む組成物は記載も示唆もされていない。
よって、相違点3-7及び3-9について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲3に記載された発明でない。

キ 本件特許発明7及び8について
(ア)対比
本件特許発明7及び8と甲3発明とを対比すると、上記カ(ア)で認定した一致点、相違点3-7及び3-9と同様の一致点及び相違点を有するとともに、それぞれ、次の相違点3-10、3-11を有するといえる。

相違点3-10:
「組成物」について、本件特許発明7は「かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロプロペンと、任意選択的に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む」、すなわち「3,3,3-トリフルオロプロペン」を必ず含むと特定しているのに対し、甲3発明はこれを含まない点。

相違点3-11:
「組成物」について、本件特許発明8は「かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンと、任意選択的に2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを含む」、すなわち「1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン」を必ず含むと特定しているのに対し、甲3発明はこれを含まない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点3-10及び3-11について検討するに、これら相違点は、上記カ(イ)で検討した相違点3-8と同様の理由により、実質的な相違点である。
よって、本件特許発明7及び8は、甲3に記載された発明でない。

ク 本件特許発明10?12について
本件特許発明10?12はいずれも本件特許発明1?8の発明特定事項をさらに限定するものである。
したがって、本件特許発明1?8が甲3に記載された発明でない以上、本件特許発明10?12も同様に甲3に記載された発明でない。

ケ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?8、10?12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

4 小括
よって、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?8、10?12に係る特許を取り消すことはっできない。
また、他に請求項1?8、10?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により請求項9に係る特許は削除されたため、異議申立人の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、請求項9に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様である、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項2】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、並びに、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選択される少なくとも一又は複数の有機化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがE-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンがZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項5】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペンと、任意選択的に、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項6】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペンと、任意選択的に、3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項7】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロプロペンと、任意選択的に、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから選択される一又は複数の有機化合物とを含む、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項8】
フッ化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロプロペン、E-3,3,3-トリフルオロ-1-クロロプロペン、トリフルオロプロピン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン及び2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンから選択される1から3個の炭素原子を含む一又は複数の(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含み、
不均一共沸又は不均一共沸様であり、かつ、フッ化水素と、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンと、任意選択的に2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを含む、
共沸又は共沸様組成物。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
1から95重量%のフッ化水素及び合計99から5重量%の有機化合物を含む、請求項1から8の何れか一項に記載の組成物。
【請求項11】
5から85重量%のフッ化水素及び合計95から15重量%の有機化合物を含む、請求項1から8及び10の何れか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物の沸点が、0.1から44barの絶対圧で-20℃から80℃である、請求項1から8、10及び11の何れか一項に記載の組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-18 
出願番号 特願2016-503699(P2016-503699)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C07C)
P 1 651・ 851- YAA (C07C)
P 1 651・ 857- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
登録日 2018-07-27 
登録番号 特許第6373964号(P6373964)
権利者 アルケマ フランス
発明の名称 HF及び1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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