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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特29条の2  B32B
管理番号 1359544
異議申立番号 異議2019-700156  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-27 
確定日 2019-12-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6383796号発明「光学フィルム、導電性フィルム、タッチパネル、表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6383796号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6383796号の請求項2-10に係る特許を維持する。 特許第6383796号の請求項1に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第6383796号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成27年8月27日(優先権主張 平成26年9月24日(以下「本件優先日」という。) 日本国受理)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月10日に特許権の設定登録がされ、同月29日に特許掲載公報の発行がされ、その特許に対し、平成31年2月27日に特許異議申立人 星 正美(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。
2 令和元年5月24日付で当審が取消理由を通知したところ、同年7月29日に意見書の提出とともに訂正の請求がされ、同年9月4日に訂正請求書を補正する手続補正書(方式)が提出された。
3 当審は、申立人に対して、意見書並びに訂正請求書及びその手続補正書(方式)を送付し、意見書を提出するよう通知書を送付したが、期間内に応答がなされなかった。
第2 本件訂正について
1 訂正事項
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせである、請求項1に記載の光学フィルム。」と記載されているのを、
「環状オレフィン系樹脂からなる基材と、
前記基材と隣接して配置された易接着層とを有し、
前記易接着層に、ガラス転移温度が50℃以上のポリウレタン樹脂と、平均粒径が前記易接着層の厚みの1.0?5.0倍である微粒子と、界面活性剤とが含まれ、
前記界面活性剤の含有量が、前記易接着層全質量に対して、0.7?8.0質量%であって、
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせである、光学フィルム。」と訂正する。(請求項2を直接または間接的に引用する請求項3?10も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の光学フィルム。」と記載されているのを、「請求項2に記載の光学フィルム。」と訂正する。(請求項3を直接または間接的に引用する請求項4?10も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルム。」と記載されているのを、「請求項2または3に記載の光学フィルム。」と訂正する。(請求項4を直接または間接的に引用する請求項5?10も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に記載の光学フィルム。」と記載されているのを、「請求項2?4のいずれか1項に記載の光学フィルム。」と訂正する。(請求項5を直接または間接的に引用する請求項6?10も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に記載の光学フィルム。」と記載されているのを、「請求項2?5のいずれか1項に記載の光学フィルム。」と訂正する。(請求項6を直接または間接的に引用する請求項7?10も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項に記載の光学フィルム。」と記載されているのを、「請求項2?6のいずれか1項に記載の光学フィルム。」と訂正する。(請求項7を直接または間接的に引用する請求項8?10も同様に訂正する。)
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8の記載「請求項1?7のいずれか1項に記載の光学フィルムと、導電層を有する導電性フィルム。」を「請求項2?7のいずれか1項に記載の光学フィルムと、導電層を有する導電性フィルム。」と訂正する。(請求項8を引用する請求項9も同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10の記載「請求項1?7のいずれか1項記載の光学フィルムを有する表示装置。」を、「請求項2?7のいずれか1項記載の光学フィルムを有する表示装置。」と訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1?10について、請求項2?10の全ては、請求項1を直接または間接的に引用しているから、訂正前の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は一群の請求項ごとになされたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2の記載を請求項1の記載を引用しないものとする訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とする訂正であって、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3?9について
訂正事項3?9は、訂正前の請求項3?8、10に請求項1を引用する記載があったところ、前記訂正事項1により請求項1が削除されたため、請求項1を引用しないものとするための訂正である。したがって、訂正事項3?9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定された「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものと解され、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
4 訂正についての小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものであり、また、訂正事項1?9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
第3 取消理由についての判断
1 本件発明について
(1)本件発明の認定
本件訂正後の請求項2?9に係る発明(以下「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、次のとおりのものである。
「【請求項2】
環状オレフィン系樹脂からなる基材と、
前記基材と隣接して配置された易接着層とを有し、
前記易接着層に、ガラス転移温度が50℃以上のポリウレタン樹脂と、平均粒径が前記易接着層の厚みの1.0?5.0倍である微粒子と、界面活性剤とが含まれ、
前記界面活性剤の含有量が、前記易接着層全質量に対して、0.7?8.0質量%であって、
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせである、光学フィルム。
【請求項3】
前記易接着層の厚みが、25?400nmである、請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記微粒子が、金属酸化物微粒子である、請求項2または3に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記易接着層が、カルボジイミド系架橋剤由来の架橋構造およびオキサゾリン系架橋剤由来の架橋構造の少なくとも一方を有する、請求項2?4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が、130℃以下である、請求項2?5のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂が、硬化性ポリウレタンを硬化させてなる樹脂であり、
前記硬化性ポリウレタンにシラノール基が含まれる、請求項2?6のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
請求項2?7のいずれか1項に記載の光学フィルムと、導電層を有する導電性フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性フィルムを有するタッチパネル。
【請求項10】
請求項2?7のいずれか1項に記載の光学フィルムを有する表示装置。」
(2)本件明細書の記載
本件明細書には次の記載がある。
ア 「【0053】
<実施例1>
(易接着層形成用組成物(硬化性組成物)の調製)
下記の成分を混合し、易接着層形成用組成物を調製した。
・硬化性ポリウレタン 29.64質量部
(タケラックWS5100、三井化学(株)製、濃度30質量%)
・カルボジイミド系架橋剤 7.24質量部
(カルボジライトV-02-L2、日清紡(株)製、固形分:10質量%)
・オキサゾリン系架橋剤 2.75質量部
(エポクロスWS300、日本触媒(株)製、固形分:10質量%)
・コロイダルシリカ 11.12質量部
(スノーテックスZL、日産化学(株)製、固形分:10質量%水希釈)
・滑り剤:カルナバワックス 13.85質量部
(セロゾール524、中京油脂(株)製、固形分:3%水希釈)
・界面活性剤:アニオン性界面活性剤 23.30質量部
(ラピゾールA-90、日油(株)製、固形分:1%水溶液)
・界面活性剤:ノニオン性界面活性剤 14.58質量部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1%水溶液)
・蒸留水 897.50質量部
【0054】
基材として用いた環状オレフィン系フィルムであるARTON D4540(JSR(株)製、膜厚40μm)の一方の表面上に、5kJ/m^(2)の条件でコロナ放電処理を行った。
基材のコロナ放電処理を行った側の表面に易接着層形成用組成物を、乾燥後の膜厚が50nmになるように塗布し、60℃で1分間乾燥させて、易接着層を有する光学フィルムを得た。
なお、各実施例および比較例のフィルムの易接着層の膜厚(平均厚み)はアンリツ社製の電子マイクロ膜厚計で測定した。」
イ 「【0058】
<実施例2?10、比較例1?7>
使用される基材、バインダー、微粒子、比(微粒子の平均粒径/易接着層の厚み)、界面活性剤の種類および使用量、並びに、架橋剤の種類を表1に従って変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、光学フィルムおよび感光材料付き光学フィルムを作製した。」
ウ 「【0059】
<評価>
各実施例および比較例にて得られた光学フィルムおよび感光材料付き光学フィルムを用いて、以下の各種測定を実施した。
【0060】
(dry引掻き)
・・・
【0062】
(耐ブロッキング性)
・・・
【0063】
(粉落ち)
・・・
【0064】
(易接着層の表面性状)
易接着層形成後の光学フィルムの面状を、目視により観察し、下記の評価基準に従って評価した。このうち、C以上のものを、実用可能レベルと判断した。なお、以下の「ムラ」とは易接着層を目視した際に観察される易接着層表面にて色味が違うように見える部分を意図し、「ハジキ」とは基材上で易接着層が塗れておらず、基材が露出している部分を意図する。
「A」:ムラはほとんど無く、ハジキは確認できなかった。
「B」:ムラはほとんど無いが、一部に(10個/m^(2)未満)ハジキがみられた。
「C」:ムラが見られ、一部に(10個/m^(2)未満)ハジキがみられた。
「D」:ムラが見られ、ハジキが10個/m^(2)以上みられた。」
エ 「【0065】
表1中において、「基材」欄の記号は、以下に示す各社の商品名を表す。
「ARTON」:JSR(株)
「ZENONR」:日本ゼオン(株)
「TOPAS」:ポリプラスチックス(株)
【0066】
表1中において、「バインダー」として使用した、WS5100、WS5000、WS4000、WS6021は三井化学(株)製の硬化性ポリウレタンを、SE1010はユニチカ(株)製のオレフィンを表す。
表1中において、「微粒子」として使用した、スノーテックスZL、スノーテックス50、MP-4540Mは日産化学工業株式会社製である。「微粒子」欄における「A/B」は、「微粒子の平均粒径/易接着層の厚み」を意図する。
表1中において、「界面活性剤」欄に記載される「A」はアニオン性界面活性剤:ラピゾールA-90を表し、「N」はノニオン性界面活性剤:ナロアクティーCL95を表す。また、「界面活性剤」欄において、「A+N」は2種の界面活性剤(AとNとの質量比は、1.6:1)を使用したことを意図する。さらに、「界面活性剤」欄の質量(%)は、易接着層全質量に対する、界面活性剤の含有量を表す。
表1中において、「架橋剤」欄に記載される「K」はカルボジイミド系架橋剤:カルボジライトV-02-L2を表し、「O」はオキサゾリン系架橋剤:エポクロスWS300を表す。また、「架橋剤」欄において、「K+O」は2種の架橋剤(KとOとの質量比は、2.6:1)を使用したことを意図する。さらに、「架橋剤」欄の質量(%)は、樹脂質量に対する、架橋剤の含有量を表す。
なお、表1のTgは、使用した硬化性ポリウレタンのTgを示すが、硬化反応によって得られる易接着層中におけるポリウレタン樹脂のTgも略同じであった。」
オ 「【0067】
【表1】


2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?10に係る発明に対して、当審の通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)本件特許の請求項1、3?6、10に係る発明は、本件優先日前の優先日を有する国際特許出願であって、本件優先日後に国際公開がされた下記の国際特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)先願及び引用文献一覧
以下、申立人が提示した甲第1号証を甲1などという。
ア 前記理由(1)に関する証拠
甲1:再公表WO2015/098750号公報
甲2:特願2013-270289号の願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面
甲3:第一工業製薬株式会社発行、ポリウレタン水分散体スーパーフレックス^((R))のパンフレット
イ 前記理由(2)に関する証拠
甲4:特開2013-132871号公報
甲5:特開2010-80237号公報
甲6:特開2010-195862号公報
甲7:特開2012-32768号公報
甲8:特開2010-274646号公報
甲9:特開2011-256234号公報
甲10:特開平5-78511号公報
甲11:特開2009-234009号公報
甲12:特開2010-80236号公報
甲13:特開2008-208310号公報
3 前記2(1)の理由(先願)について
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
ア 「【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルム上に設けられた易接着層とを備え、
前記易接着層は、ポリウレタンと、前記ポリウレタンを架橋させうる架橋剤と、不揮発性塩基とを含む組成物の硬化物からなり、
前記ポリウレタンの引っ張り弾性率が、1000N/mm^(2)以上5000N/mm^(2)以下である、複層フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムが、脂環式構造含有重合体を含む樹脂からなる層を備える、請求項1記載の複層フィルム。
【請求項3】
前記架橋剤が、エポキシ化合物を含む、請求項1又は2記載の複層フィルム。
【請求項4】
前記組成物が、粒子を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の複層フィルム。
【請求項5】
前記組成物が、濡れ剤を含む、請求項1?4のいずれか一項に記載の複層フィルム。
【請求項6】
前記ポリウレタンが、ポリエーテル系ポリウレタンである、請求項1?5のいずれか一項に記載の複層フィルム。
【請求項7】
基材フィルム上に、ポリウレタンと、前記ポリウレタンを架橋させうる架橋剤と、不揮発性塩基とを含む組成物の膜を形成する工程と、
前記組成物の膜を硬化させる工程とを含み、
前記ポリウレタンの引っ張り弾性率が、1000N/mm^(2)以上5000N/mm^(2)以下である、複層フィルムの製造方法。」
イ 「【0017】
また、基材フィルムは、1層のみを含む単層構造のフィルムであってもよく、2層以上の層を備える複層構造のフィルムであってもよい。基材フィルムが複層構造を有する場合、基材フィルムが備える層のうち1層以上が脂環式構造含有重合体樹脂からなることが好ましく、基材フィルムの少なくとも1つの最外層が脂環式構造含有重合体樹脂からなることが特に好ましい。脂環式構造含有重合体樹脂は接着性が低い傾向があるが、この低い接着性を易接着層によって補うことができる。そのため、基材フィルムが脂環式構造含有重合体樹脂からなる層を備える場合に、接着性を向上させうるという本発明の利点を有効に活かすことができる。」
ウ 「【0056】
従来の易接着層では、一般に、低い引っ張り弾性率を有する重合体が用いられていた。これは、より広い面積で接着面に接触することによって接着性を向上させる観点では、易接着層は、接着面の凹凸に応じて変形しうる程度に柔軟であることが望ましいと考えられていたからである。これに対し、本発明に係る易接着層では、従来とは逆に比較的高い引っ張り弾性率を有するポリウレタンを用いることにより、高い接着性を実現している。」
エ 「【0077】
ポリウレタンとしては、水系ウレタン樹脂として市販されているものを用いてもよい。水系ウレタン樹脂は、ポリウレタン及び水とを含む組成物であり、通常、ポリウレタン及び必要に応じて含まれる任意の成分が水の中に分散している組成物である。水系ウレタン樹脂としては、例えば、ADEKA社製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井化学社製の「オレスター」シリーズ、DIC社製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン(WLS201,WLS202など)」シリーズ、バイエル社製の「インプラニール」シリーズ、花王社製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業社製の「サンプレン」シリーズ、第一工業製薬社製の「スーパーフレックス」シリーズ、楠本化成社製の「NEOREZ(ネオレッズ)」シリーズ、ルーブリゾール社製の「Sancure」シリーズなどを用いることができる。また、ポリウレタンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」
オ 「【0080】
架橋剤としては、例えば、ポリウレタンが有する反応性の基と反応して結合を形成できる官能基を1分子内に2個以上有する化合物を用いうる。中でも、架橋剤としては、ポリウレタンが有するカルボキシル基又はその無水物基と反応しうる官能基を有する化合物が好ましい。
架橋剤の具体例を挙げると、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物等が挙げられる。また、架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」
カ 「【0106】
[3.4.粒子]
ウレタン組成物は、粒子を含むことが好ましい。ウレタン組成物が粒子を含むことにより、そのウレタン組成物の硬化物によって形成される易接着層の表面粗さを大きくできる。これにより、易結着層の表面の滑り性を向上させることができるので、複層フィルムのブロッキングの防止、及び、複層フィルムを巻回する際のシワの発生の抑制が可能となる。
【0107】
粒子としては、無機粒子、有機粒子のいずれを用いてもよい。ただし、水分散性の粒子を用いることが好ましい。無機粒子の材料を挙げると、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物;炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、燐酸カルシウム等が挙げられる。また、有機粒子の材料を挙げると、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、シリカが好ましい。シリカの粒子は、シワの発生を抑制する能力及び透明性に優れ、ヘイズを生じ難く、着色が無いため、本発明の複層フィルムの光学特性に与える影響が小さい。また、シリカはウレタン組成物での分散性および分散安定性が良好である。シリカの粒子の中でも、非晶質コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。
【0108】
粒子の平均粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上であり、通常500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。粒子の平均粒子径を前記範囲の下限値以上にすることにより、易接着層の滑り性を効果的に高めることができる。また、前記範囲の上限値以下にすることにより、易接着層のヘイズを低く抑えることができる。」
キ 「【0110】
[3.5.濡れ剤]
ウレタン組成物は、濡れ剤を含むことが好ましい。濡れ剤を用いることにより、ウレタン組成物を基材フィルムに塗布する際の塗布性を良好にできる。
【0111】
濡れ剤としては、例えば、アセチレン系界面活性剤や、フッ素系界面活性剤等を用いることができる。アセチレン系界面活性剤としては、例えば、エアープロダクツアンドケミカルズ社製サーフィノールシリーズ、ダイノールシリーズ等を用いることができる。また、フッ素系界面活性剤としては、例えば、DIC社製メガファックシリーズ、ネオス社製フタージェントシリーズ、AGC社製サーフロンシリーズ等を用いることができる。濡れ剤としては、重ね塗り性の観点から、アセチレン系界面活性剤を用いることが好ましい。
また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0112】
濡れ剤の配合量は、ウレタン組成物(塗布液)の固形分量に対して、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、通常5重量%以下、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量%以下である。濡れ剤の量を前記範囲の下限値以上にすることにより十分な塗布性を得ることができる。また、上限値以下にすることにより、濡れ剤のブリードアウトを抑制でき、更には重ね塗り性を良好にできる。」
ク 「【0144】
[3.10.易接着層の厚み及び屈折率]
易接着層の厚みは、0.005μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、0.02μm以上が特に好ましく、また、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が特に好ましい。易接着層の厚みが前記範囲内にあると、基材フィルムと易接着層との十分な接着強度が得られ、かつ、本発明の複層フィルムの反りなどの欠陥を無くすことができる。」
ケ 「【0157】
[7.複層フィルムの用途]
本発明の複層フィルムは、通常、光学フィルムとして使用される。複層フィルムの用途となる光学フィルムの例を挙げると、保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどが挙げられる。」
コ 「【0181】
[実施例1]
(1-1.樹脂組成物の製造)
ポリエーテル系ポリウレタンの水分散体(第一工業製薬社製「スーパーフレックス870」)をポリウレタンの量で100部と、架橋剤としてエポキシ化合物(ナガセケムテックス社製「デナコールEX313」)15部と、不揮発性塩基としてアジピン酸ジヒドラジド2部と、滑材としてシリカ粒子の水分散液(日産化学社製「スノーテックスMP1040」;平均粒子径120nm)をシリカ粒子の量で8部及びシリカ粒子の水分散液(日産化学社製「スノーテックスXL」;平均粒子径50nm)をシリカ粒子の量で8部と、濡れ剤としてアセチレン系界面活性剤(エアープロダクツアンドケミカルズ社製「サーフィノール440」)を固形分合計量に対して0.5重量%と、水とを配合して、固形分濃度2%の液状の樹脂組成物1を得た。
【0182】
(1-2.複層フィルムの製造)
コロナ処理装置(春日電機社製)を用いて、出力300W、電極長240mm、ワーク電極間3.0mm、搬送速度4m/minの条件で、製造例1で得た基材フィルムの表面に放電処理を施した。
【0183】
基材フィルムの放電処理を施した表面に、前記の液状の樹脂組成物1を、乾燥厚みが0.1μmになるようにロールコーターを用いて塗布した。その後、温度130℃で60秒間加熱して、基材フィルム上に易接着層を形成した。これにより、基材フィルム及び易接着層を備える複層フィルムを得た。
この複層フィルムについて、上述した方法で、初期カッター剥離試験及び湿熱後カッター剥離試験を行なった。
【0184】
[実施例2]
前記工程(1-1)において、架橋剤としてエポキシ化合物の代わりにカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル社製「カルボジライトV-02」)を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして複層フィルムの製造及び評価を行なった。」
(2)甲3の記載事項
甲3の表から、第一工業製薬社製「スーパーフレックス870」のガラス転移点が78℃であることが視認できる。
(3)甲1発明の認定
前記(1)の甲1の記載、特に(1)コの記載から次の発明(以下「先願発明」という。)が認定できる。
「脂環式構造含有重合体樹脂を成形機により成膜した基材フィルムに、
基材フィルムをコロナ放電処理した面に、易接着層が設けられ、その易接着層にポリウレタン(スーパーフレックス870)と、
乾燥膜厚0.1μmに対し平均粒径120nmのシリカ粒子(スノーテックスMP1040)と、アセチレン系界面活性剤(サーフィノール440)が含まれる光学フィルム。」
(4)本件発明3との一致点・相違点
ア 対比
(ア)甲1発明における「脂環式構造含有重合体樹脂を成形機により成膜した基材フィルム」は、本件発明3における「環状オレフィン系樹脂からなる基材」に相当する。
(イ)技術常識として、「コロナ放電処理」は、表面に化学変化を起こす処理であり、何らかのコーティングを行うものではないから、甲1発明における「基材フィルムをコロナ放電処理した後、易接着層が設けら」れることは、本件発明3における「前記基材と隣接して配置された易接着層」を設けることに相当する。
(ウ)甲1発明における「乾燥膜厚0.1μmに対し平均粒径120nmのシリカ粒子」は、0.1μmが100nmであることから、平均粒径が易接着層の厚みの1.2倍の微粒子に相当する。
(エ)甲1発明におけるアセチレン系界面活性剤「サーフィノール440」は、甲4の段落【0089】?【0090】の記載(サーフィノール400シリーズ)から、非イオン系界面活性剤、すなわちノニオン性界面活性剤であることが読み取れる。
イ 一致点
本件発明3と甲1発明とを対比すると、次の点で一致する。
「環状オレフィン系樹脂からなる基材と、
前記基材と隣接して配置された易接着層とを有し、
前記易接着層の厚みが、25?400nmであり、
前記易接着層に、
ポリウレタン樹脂と、平均粒径が前記易接着層の厚みの1.0?5.0倍である微粒子と、界面活性剤とが含まれる
光学フィルム。」である点。
ウ 相違点
(ア)相違点1-A
界面活性剤について、本件発明3においては、「アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ」であるのに対して、甲1発明においては、ノニオン性界面活性剤である点。
(イ)相違点1-B
ポリウレタン樹脂について、本件発明3においては、ガラス転移温度が50℃以上であるのに対し、甲1発明におけるポリウレタン(スーパーフレックス870)のガラス転移温度が、明らかでない点。
(ウ)相違点1-C
本件発明3においては、「前記界面活性剤の含有量が、前記易接着層全質量に対して、0.7?8.0質量%」であるのに対して、甲1発明においては特定がない点。
エ 相違点1-Aについて
(ア)用いる界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤である甲1発明に対して、本件発明3のように「アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ」とすることは、実質的な相違点である。甲1の記載からは、用いる界面活性剤(濡れ剤)として「アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ」を選択することは記載も示唆もない。
(イ)したがって、相違点1-B及び相違点1-Cについて検討するまでもなく、本件発明3は甲1発明と実質的に同一の発明であるということはできない。
(ウ)また、本件発明4?6、10は、いずれも甲1発明と対比して相違点1-Aを有する発明であるから、本件発明3と同様に甲1発明と実質的に同一の発明であるということはできない。
(5)小括
前記(1)?(4)で検討したとおり、本件発明3?6、10は、甲1発明と実質的に同一の発明ではないから、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないということはできないから、本件発明3?6、10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。
4 前記2(2)の理由(進歩性)について
(1)刊行物記載事項
ア 甲4の記載事項
甲4には次の記載がある。下線は、当審が付した。
(ア)「【請求項1】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムと、ウレタン樹脂層とを備え、
前記ウレタン樹脂層は、
(a)ポリウレタン、
(b)エポキシ化合物、
(c)不揮発性塩基、並びに、
(d)三重結合の二つの隣接炭素原子にいずれも水酸基及びメチル基が置換されたアセチレングリコール及び/又はそのエチレンオキサイド付加物である非イオン系界面活性剤を含む樹脂(A)を硬化させた層である、複層フィルム。
【請求項2】
前記樹脂(A)が(e)微粒子をさらに含有する、請求項1記載の複層フィルム。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂層の厚さが30?250nmである、請求項1または2に記載の複層フィルム。
【請求項4】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂からなる層を表面に有する基材フィルムの前記表面に、
(a)ポリウレタン、
(b)エポキシ化合物、
(c)不揮発性塩基、並びに、
(d)三重結合の二つの隣接炭素原子にいずれも水酸基及びメチル基が置換されたアセチレングリコール及び/又はそのエチレンオキサイド付加物である非イオン系界面活性剤を含む樹脂(A)の水分散体を塗布し、硬化させることを含む、複層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂(A)が(e)微粒子をさらに含有する、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂(A)の水分散体中の、(d)三重結合の二つの隣接炭素原子にいずれも水酸基及びメチル基が置換されたアセチレングリコール及び/又はそのエチレンオキサイド付加物である非イオン系界面活性剤の濃度が、0.01?1重量%である、請求項4または5に記載の製造方法。
・・・」
(イ)「【0056】
ウレタン樹脂層は易接着層として機能し、接着剤を介して基材フィルムを他の部材(例えば、偏光子等)と貼り合わせる際に、接着剤による基材フィルムと他の部材との接着を補強して、より強固に接着させようになっている。すなわち、ウレタン樹脂層は、接着剤の機能を補強する層であり、別称としてプライマー層などと呼ばれる。
【0057】
通常、ウレタン樹脂層は、基材フィルムの脂環式構造含有重合体樹脂からなる層の表面に、接着剤の層等の他の層を介することなく、直接に設けられる。
ウレタン樹脂層は、基材フィルムの一方の表面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。基材フィルムの両面にウレタン樹脂層を設けることにより、基材フィルムの取り扱い性を効果的に改善できる。」
(ウ)「【0089】
〔(d)成分〕
(d)成分は、三重結合の二つの隣接炭素原子にいずれも水酸基及びメチル基が置換されたアセチレングリコール及び/又はそのエチレンオキサイド付加物である非イオン系界面活性剤である。(d)成分の添加により未硬化状態の樹脂(A)の発泡を抑制しつつ濡れ性を改善できるので、基材フィルムに塗布した際のはじきムラの発生を防止できる。
【0090】
(d)成分は具体的には、式:R^(3)-C(CH_(3))(OR^(1))-C≡C-C(CH_(3))(OR^(2))-R^(4)で表される構造を有する。式中、R^(1)およびR^(2)はそれぞれ独立して、-(CH_(2))_(n)-Hを表す。nは0以上の整数を表し、0?400が好ましく、0または20?100であることがより好ましく、40?70であることが特に好ましい。R^(3)およびR^(4)はそれぞれ独立して、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、イソプロピル基が好ましい。かかる(d)成分としては、例えば、日信化学工業社製のサーフィノール104シリーズ、サーフィノール400シリーズなどを用いることができる。
【0091】
(d)成分の添加量は、未硬化状態のウレタン樹脂(A)の総量に対し、重量基準で、好ましくは10ppm以上、より好ましくは100ppm以上であり、好ましくは10,000ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。(d)成分の添加量を下限値以上とすることではじきムラの発生を抑制でき、上限値以下とすることで発泡を抑制し泡起因による不良を防止できる。」
(エ)「【0096】
例えば、未硬化状態のウレタン樹脂は、さらに(e)微粒子を含むことが好ましい。これにより、ウレタン樹脂層も微粒子を含むことになり、ウレタン樹脂層の表面に凹凸を形成できる。これにより、巻回の際にウレタン樹脂層が他の層と接触する面積が小さくなり、その分だけウレタン樹脂層の表面の滑り性を向上させて、本発明の複層フィルムを巻回する際のシワの発生を抑制できる。
【0097】
微粒子の平均粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上であり、通常500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。平均粒子径を前記範囲の下限値以上にすることによりウレタン樹脂層の滑り性を効果的に高めることができ、前記範囲の上限値以下にすることにより、得られる複層フィルムをロール状に巻回する際の巻きズレの発生を防止できる。なお、微粒子の平均粒子径としては、レーザー回折法によって粒径分布を測定し、測定された粒径分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(50%体積累積径D50)を採用する。
【0098】
微粒子としては、無機微粒子、有機微粒子のいずれを用いてもよいが、水分散性の微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の材料を挙げると、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物;炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、燐酸カルシウム等が挙げられる。また、有機微粒子の材料を挙げると、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、シリカが好ましい。シリカの微粒子は、シワの発生を抑制する能力及び透明性に優れ、ヘイズを生じ難く、着色が無いため、本発明の複層フィルムの光学特性に与える影響がより小さいからである。また、シリカはウレタン樹脂への分散性および分散安定性が良好だからである。シリカの微粒子の中でも、非晶質コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。
なお、微粒子は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」
(オ)「【0130】
[偏光板]
本発明の複層フィルムは、光学フィルムとして任意の用途に用いることができる。本発明の複層フィルムは他の部材と接着性に優れ、且つ、その接着性が高温高湿度下においても低下し難いという利点を有するので、この利点を有効に活用する観点からは、他の部材と貼り合せて用いる用途に適用することが好ましい。具体的な用途の例を挙げると、本発明の複層フィルムは、偏光板保護フィルムとして用いることが好ましい。
【0131】
偏光板は、通常、偏光子と偏光板保護フィルムとを備える。したがって、本発明の複層フィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合には、通常、偏光子に本発明の複層フィルムを貼り合わせるようにする。」
(カ)「【0138】
[製造例1:基材フィルムの製造]
脂環式構造含有重合体樹脂(ZEONOR1430、日本ゼオン社製;ガラス転移温度135℃)のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥した。その後、65mm径のスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式のフィルム溶融押出し成形機を使用し、溶融樹脂温度270℃、Tダイの幅500mmの成形条件で、厚さ100μm、長さ1000mの基材フィルムを製造した。この基材フィルムは、脂環式構造含有重合体樹脂からなる基材フィルムである。
【0139】
[製造例2:偏光子の製造]
厚み80μmのポリビニルアルコールフイルムを0.3%のヨウ素水溶液中で染色した。その後、4%のホウ酸水溶液及び2%のヨウ化カリウム水溶液中で5倍まで延伸した後、50℃で4分間乾燥させて偏光子を製造した。
【0140】
[製造例3:接着液の調製]
ゴーセファイマーZ410(日本合成化学工業製、アセトアセチル基を含むポリビニルアルコール)に水を加えて固形分3%に希釈し、接着液を製造した。
・・・
【0145】
[実施例1]
〔ウレタン樹脂の水分散体の製造〕
温度計、攪拌機、窒素導入管および冷却管を備えた反応器に、ポリエステルポリオールであるマキシモールFSK-2000(川崎化成工業社製、水酸基価56mgKOH/g)840部、トリレンジイソシアネート119部、およびメチルエチルケトンを200部入れ、窒素を導入しながら75℃で1時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却し、ジメチロールプロピオン酸35.6部を加え、75℃で反応させて、酸構造を含有するポリウレタンの溶液を得た。前記のポリウレタンのイソシアネート基(-NCO基)の含有量は0.5%であった。
【0146】
次いで、このポリウレタンの溶液を40℃にまで冷却し、水1,500部、イソフタル酸ジヒドラジド(沸点224℃以上)120部(ポリウレタン100部に対し7部)を加え、ホモミキサーで高速撹拌することにより乳化を行った。この乳化液から加熱減圧下にメチルエチルケトンを留去し、中和されたポリウレタンの水分散体を得た。この水分散体の固形分濃度は40%であった。
【0147】
さらに、この水分散体を、含まれるポリウレタンが100部となる量取り、ここにエポキシ化合物であるデナコールEX-313(ナガセケムテックス社製、グリセロール ポリグリシジル エーテル、エポキシ当量141g/eq)15部と、平均粒子径60nmのシリカ微粒子(スノーテックスYL;日産化学工業社製)10部と、(d)成分として非イオン系界面活性剤(d)(4,7-ジヒドロキシ-2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンのエチレンオキサイド(65)付加物;日信化学工業社製「サーフィノール465」)と、水とを配合して、未硬化状態のウレタン樹脂として固形分5%の液状の水系樹脂を得た。なお、(d)成分の添加量は、得られる水系樹脂に対し100ppmとなる量とした。」
(キ)「【0148】
〔複層フィルムの製造〕
コロナ処理装置(春日電機社製)を用いて、出力300W、電極長240mm、ワーク電極間3.0mm、搬送速度4m/minの条件で、製造例1で得た基材フィルムの表面に放電処理を施した。
【0149】
基材フィルムの放電処理を施した表面に、前記の液状の水系樹脂を、乾燥後のウレタン樹脂層の厚さが150nmになるようにロールコーターを用いて塗布し、120℃で3分乾燥してウレタン樹脂を硬化させ、複層フィルム1を得た。この複層フィルム1についてはじきムラおよび接着力を評価した結果を、表1に示す。
【0150】
[実施例2]
(d)成分(サーフィノール465)の添加量を、得られる水系樹脂に対し1,000ppmとなる量とした他は、実施例1と同様にして複層フィルム2を得た。この複層フィルム2についてはじきムラおよび接着力を評価した結果を、表1に示す。
【0151】
[実施例3]
(d)成分(サーフィノール465)の添加量を、得られる水系樹脂に対し10,000ppmとなる量とした他は、実施例1と同様にして複層フィルム3を得た。この複層フィルム3についてはじきムラおよび接着力を評価した結果を、表1に示す。
【0152】
[実施例4]
水系樹脂の塗布量を、乾燥後のウレタン樹脂層の厚さが30nmになるようにした他は、実施例1と同様にして複層フィルム4を得た。この複層フィルム4についてはじきムラおよび接着力を評価した結果を、表1に示す。
【0153】
[実施例5]
水系樹脂の塗布量を、乾燥後のウレタン樹脂層の厚さが250nmになるようにした他は、実施例1と同様にして複層フィルム5を得た。この複層フィルム5についてはじきムラおよび接着力を評価した結果を、表1に示す。
【0154】
[実施例6]
(d)成分として、サーフィノール465に替えて、4,7-ジヒドロキシ-2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンのエチレンオキサイド(40)付加物(日信化学工業社製「サーフィノール440」)を、得られる水系樹脂に対し100ppmとなる量用いた他は、実施例1と同様にして複層フィルム6を得た。この複層フィルム6についてはじきムラおよび接着力を評価した結果を、表1に示す。
【0155】
[実施例7]
(d)成分(サーフィノール440)の添加量を、得られる水系樹脂に対し500ppmとなる量とした他は、実施例6と同様にして複層フィルム7を得た。この複層フィルム7についてはじきムラおよび接着力を評価した結果を、表1に示す。」
イ 甲5の記載事項
甲5には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
支持体上に、1層以上の導電性層を有し、
前記支持体と前記導電性層の間に、少なくとも2種のバインダ樹脂を含む易接着層を有する導電性材料。
・・・
【請求項9】
前記易接着層が、アニオン性の界面活性剤を含有する請求項1?請求項8のいずれか1項に記載の導電性材料。
【請求項10】
前記易接着層のバインダ樹脂が、ポリウレタン樹脂及びアクリル樹脂を含む請求項1?請求項9のいずれか1項に記載の導電性材料。
【請求項11】
前記易接着層のバインダ樹脂が、30℃以上のガラス転移温度を有するポリウレタン樹脂、及び30℃以上のガラス転移温度を有するアクリル樹脂を含む請求項1?請求項9のいずれか1項に記載の導電性材料。
・・・
【請求項13】
前記架橋剤が、カルボジイミド化合物である請求項12に記載の導電性材料。
・・・
【請求項15】
前記易接着層の膜厚が、30nm以上200nm以下である請求項1?請求項14のいずれか1項に記載の導電性材料。
【請求項16】
前記易接着層が、有機又は無機の微粒子と、滑り剤と、を含有する請求項1?請求項15のいずれか1項に記載の導電性材料。
・・・」
(イ)「【0077】
<支持体>
支持体30としては、安定な板状物であって、必要な可撓性、強度、耐久性等を満たせばいずれのものも使用できる。支持体30は可撓性を示すことが望ましい。また、ここで得られた導電性材料を画像表示素子、太陽電池等に用いる場合には、高い透明性を要求されるため、表面平滑性の透明基材を用いることが好ましい。
【0078】
そこで本発明の支持体30としては、プラスチックフィルムが好ましく、たとえば二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類;ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリアリレート、シクロオレフィンポリマー等の樹脂を用いたフィルムなどが挙げられる。さらに、適宜、上記ポリマーは共重合体であってもよい。」
(ウ)「【0090】
更には、環境温度条件によるヘイズの上昇及び白化ムラの発生を著しく抑制することができるという観点から、ガラス転移温度が30℃以上のポリウレタン樹脂と、ガラス転移温度が30℃以上のアクリル樹脂等のポリマーとを併用することが好ましい。
ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、30℃以上であることがより好ましく、30℃以上200℃以下であることが更に好ましく、30℃以上100℃以下であることが更に好ましい。
・・・」
(エ)「【0107】
-界面活性剤-
易接着層20は、界面活性剤を含有することが好ましい。
易接着層20に用いることができる界面活性剤としては、公知のアニオン系、ノニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤については、例えば、「界面活性剤便覧」(西一郎、今井怡知一郎、笠井正蔵編、産業図書(株)、1960年発行)に記載されている。
【0108】
特にアニオン系、ノニオン系界面活性剤が好ましく、更にはアニオン系界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤を添加することで、導電性層中の導電物質のドープ状態を安定にする効果が期待され、易接着層と導電性層の密着性の向上ならびに導電性材料の耐久性の向上が期待される。」
(オ)「【0114】
界面活性剤は、バインダに対して0.0001?50質量%の範囲で添加することが好ましく、より好ましくは、0.001?10質量%の範囲で添加することである。
界面活性剤の添加率が上記範囲内の場合、ハジキの発生が抑えられ、且つ面状が改善する。」
(カ)「【0115】
-その他の添加剤-
易接着層20には、用途に応じて、上記の他に微粒子等の各種添加剤を用いてもよい。
易接着層20には、滑り性の向上や膜強度の観点から、微粒子を添加することが好ましく、このような微粒子としては、有機又は無機微粒子のいずれも使用することができる。
例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリコーン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のポリマー微粒子や、シリカ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の無機微粒子を用いることができる。
これらの中で、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカは、すべり性改良効果やコストの観点から好ましい。
【0116】
無機微粒子としては、例えば、スノーテックスXL、R503、スノーテックスZL(商品名:日産化学(株)製)、アエロジルOX-50、アエロジルOX-90(商品名:日本アエロジル(株)製)等を挙げることができる。」
(キ)「【0147】
[実施例1]
(支持体の作製)
以下の手順により、積層シートの支持体を形成した。
先ず、Geを触媒として重縮合した固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)樹脂を含水率50ppm以下に乾燥させ、ヒーター温度を280?300℃に設定し、押し出し機内で溶融させた。溶融させたPET樹脂をダイ部より静電印加されたチルロール上に吐出させ、非結晶ベースを得た。得られた非結晶ベースをベース進行方向に3.3倍に延伸した後、幅方向に対して3.8倍に延伸し、厚さ188μmの支持体を得た。
【0148】
(易接着層の形成)
上記により形成した厚さが188μmの支持体を搬送速度80m/分で搬送し、両面に対して730J/m^(2)の条件でコロナ放電処理を行った後、この両面に塗布量4.4cm^(3)/m^(2)で、下記処方の易接着層用塗布液をバーコート法により塗布した。そして、これを160℃で1分乾燥して易接着層を形成することで、支持体の両面に易接着層が塗布された積層シートを得た。
【0149】
積層シートの断面を、透過型電子顕微鏡(JEM2010(日本電子化(株))製)を用いて倍率200000倍で観察することにより、易接着層の膜厚を測定したところ70nmであった。」
(ク)「【0150】
〔易接着層用塗布液の処方〕
・ウレタン樹脂バインダ 30.7質量部
(塗布量:55mg/m^(2))
(三井化学(株)製、オレスターUD350、固形分38質量%)
(SP値:10、I/O値:5.5、ガラス転移温度:33℃)
・アクリル樹脂バインダ 4.2質量部
(塗布量:4.5mg/m^(2))
(ダイセルファインケム(株)製、AS563、固形分27.5質量%)
(SP値:9.5、I/O値:2.5、ガラス転移温度47℃)
・架橋剤 5.8質量部
(塗布量:8mg/m^(2))
(日清紡(株)製、カルボジライトV-02-L2、固形分40質量%)
・添加剤(微粒子(フィラー)) 1.9質量部
(塗布量:1mg/m^(2))
(日本アエロジル(株)製、アエロジルOX-50、固形分10質量%)
・添加剤(微粒子(フィラー)) 0.8質量部
(塗布量:2mg/m^(2))
(日産化学(株)製,スノーテックスXL、固形分40質量%)
・添加剤(滑り剤) 1.9質量部
(塗布量:3mg/m^(2))
(中京油脂(株)製、セロゾール524、固形分30質量%)
・界面活性剤1 15.5質量部
(塗布量:0.1mg/m^(2))
(日本油脂(株)製、ラピゾールA-90の1質量%水溶液、アニオン性)
・界面活性剤2 19.4質量部
(塗布量:0.1mg/m^(2))
(三洋化成工業(株)製、ナロアクティーCL-95の1質量%水溶液、ノニオン性)
・蒸留水 合計が1000質量部になるように添加」
ウ 甲12の記載事項
甲12は、甲5と同一出願人による同日の特許出願であって、記載は甲5と同様であるから、摘記は省略する。
エ 甲13の記載事項
甲13には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
ポリエステルからなる支持体と、
前記支持体の少なくとも一方の面に形成され、厚みが200nm以上500nmの第1易接着層と、
前記第1易接着層の面に形成され、厚みが50nm以上200nmの第2易接着層とを備えることを特徴とする光学用易接着フィルム。
【請求項2】
前記第1易接着層は、ポリエステル樹脂を含有するバインダを有し、
前記第2易接着層は、アクリル樹脂またはポリウレタン樹脂を含有するバインダを有することを特徴とする請求項1記載の光学用易接着フィルム。
・・・」
(イ)「【0033】
第1易接着層12に用いることができる界面活性剤としては、公知のアニオン系、ノニオン系、カチオン系のものが挙げられる。界面活性剤については、例えば、「界面活性剤便覧」(西 一郎、今井 怡知一郎、笠井 正蔵編 産業図書(株) 1960年発行)に記載されている。界面活性剤を用いる場合、その添加量は0.1mg/m^(2)以上30mg/m^(2)以下とすることが好ましく、より好ましくは0.2mg/m^(2)以上10mg/m^(2)以下とする。界面活性剤の添加量を0.1mg/m^(2)以上とすることにより、0.1mg/m^(2)未満とする場合に比べて界面活性剤による効果が得られ、第1易接着層12、第2易接着層13においてハジキの発生が抑えられる。また、その添加量を30mg/m^(2)以下とすることにより、30mg/m^(2)を超える場合に比べて、第1易接着層12、第2易接着層13の面状の悪化を抑えることができる。」
(ウ)「【0044】
また、第2易接着層13には、必要に応じて、マット剤やすべり剤、界面活性剤、帯電防止剤等(以下、総称して添加剤とする)を含有させることもできる。この場合、第2易接着層13に用いることができる各種添加剤の種類と量については、前述の第1易接着層と同様のものを使用することができる。なお、各種添加剤の詳細は、第1易接着層12と同様であるため、説明は省略する。」
(エ)「【0053】
〔実施例1〕
以下の手順により、積層フィルム10の支持体11を形成した。先ず、Geを触媒として重縮合した固有粘度0.66のポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)樹脂を含水率50ppm以下に乾燥させ、ヒーター温度が280?300℃設定温度の押し出し機内で溶融させた。溶融させたPET樹脂をダイ部より静電印加されたチルロール上に吐出させ、非結晶ベースを得た。得られた非結晶ベースをベース進行方向に3.3倍に延伸した後、幅方向に対して3.8倍に延伸し、厚さ100μmの支持体を得た。
【0054】
上記により形成した厚さが100μmの支持体の両面を、搬送速度105m/分で搬送し、730J/m^(2)の条件でコロナ放電処理を行った後、この両面に塗布量を7.1cm^(3)/m^(2)として第1易接着層塗布液をバーコート法により塗布した。塗布後の支持体を180℃で1分乾燥して第1易接着層12を形成した後、続けて双方の第1易接着層12の両面に塗布量を7.1cm^(3)/m^(2)として第2易接着層塗布液をバーコート法により塗布した。塗布後の支持体を170℃で1分乾燥することにより、支持体11の両面に第1易接着層12と第2易接着層13とからなる塗布層14を設けた積層フィルム10を製造した。
【0055】
〔第1易接着層塗布液〕
第1易接着層塗布液としては、ポリエステル樹脂バインダ(互応化学工業(株)製Z-687 固形分25%)を154.6質量部と、架橋剤としてカルボジイミド化合物(日清紡(株)製、カルボジライトV‐02‐L2、固形分10%(カルボジイミド当量385)を75.9質量部と、界面活性剤A(日本油脂(株)、ラピゾールB-90、固形分1%水溶液、アニオン性)を12.5質量部と、界面活性剤B(三洋化成工業(株)、ナロアクティー HN-100、固形分5%、ノニオン性)を15.5質量部とに対して、全体が1000質量部となるように蒸留水を添加して調製したものを用いた。
【0056】
〔第2易接着層塗布液A〕
第2易接着層塗布液Aとしては、ポリウレタン樹脂バインダ(三井化学(株)製、オレスターUD350、固形分38%)を22.2質量部と、架橋剤としてカルボジイミド化合物(日清紡(株)製、カルボジライトV‐02‐L2、固形分10%(カルボジイミド当量385)を16.9質量部と、界面活性剤A(日本油脂(株)、ラピゾールB-90、固形分1%水溶液、アニオン性)を11.3質量部と、界面活性剤B(三洋化成工業(株)、ナロアクティー HN-100、固形分5%、ノニオン性)を14.1質量部と、マット剤Aとしてシリカ微粒子分散液(日本アエロジル(株)製、OX-50の水分散物、固形分10%)を1.4質量部と、マット剤Bとしてコロイダルシリカ分散液(日産化学(株)製、スノーテックス-XL、固形分10%)を14.1質量部と、滑り剤としてカルナバワックス(中京油脂(株)製、セロゾール524、固形分3%水溶液)を14.1質量部とに対して、全体が1000質量部となるように蒸留水を添加して調製したものを用いた。」
(2)甲4発明の認定、対比
ア 甲4発明
前記(1)ア(キ)に摘記した甲4における実施例3から、次の発明(以下「甲4発明」という。)が認定できる。
「脂環式構造含有重合体樹脂を成形機により成膜した基材フィルムに、
基材フィルムをコロナ放電処理した面に、易接着層が設けられ、その易接着層に
ポリウレタンと、
乾燥膜厚150nmに対し平均粒子径60nmのシリカ微粒子(スノーテックスYL)と、
非イオン系界面活性剤(サーフィノール465)を得られる樹脂に対して、10,000ppm含む、
光学フィルム。」
イ 本件発明2と甲4発明との対比
(ア)甲4発明における「脂環式構造含有重合体樹脂を成形機により成膜した基材フィルム」は、本件発明2における「環状オレフィン系樹脂からなる基材」に相当する。
(イ)「コロナ放電処理」は、その対象の表面に化学変化を起こす処理であり、何らかのコーティングを行うものではないから、甲4発明における「基材フィルムをコロナ放電処理した後、易接着層が設けら」れることは、本件発明2における「前記基材と隣接して配置された易接着層」を設けることに相当する。
(ウ)甲4発明における「非イオン系界面活性剤」は、本件発明2におけるノニオン系界面活性剤と同義である。
(エ)甲4発明における界面活性剤の含有量が10,000ppmであるとは、含有量が、1.0質量%に相当する。
ウ 一致点
本件発明2と甲4発明とを対比すると、次の点で一致する。
「環状オレフィン系樹脂からなる基材と、
前記基材と隣接して配置された易接着層とを有し、前記易接着層に、
ポリウレタン樹脂と、
微粒子と、
界面活性剤とが含まれ、
前記界面活性剤の含有量が、前記易接着層全質量に対して、0.7?8.0質量%であって、
光学フィルム。」である点。
エ 相違点
本件発明2は、次の点で甲4発明と相違する。
(ア)相違点4-A
界面活性剤に関して、本件発明2においては、「アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ」であるのに対して、甲4発明においては、「ノニオン性界面活性剤」である点。
(イ)相違点4-B
ポリウレタン樹脂に関して、本件発明2においては、「ガラス転移温度が50℃以上」であるのに対し、甲4発明におけるポリウレタンのガラス転移温度が、明らかでない点。
(ウ)相違点4-C
微粒子について、本件発明1においては、「平均粒径が前記易接着層の厚みの1.0?5.0倍である」のに対して、甲4発明においては、「乾燥膜厚150nmに対し平均粒子径60nm」である点。
(3)当審の判断
ア 相違点4-Aについて
前記エ(ア)の相違点4-Aについて検討する。
(ア)前記(1)イ(ク)に摘記したように甲5には、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とを組み合わせる点が記載されており、前記(1)エ(エ)に摘記したように甲13にも、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とを組み合わせる点が記載されており、相違点4-Aは、一見単なる周知技術の適用したものということはできる。
(イ)しかしながら、前記1(2)ア?エに摘記したように、本件明細書における実施例4は、ノニオン性界面活性剤のみを用いた場合であって、その「表面性状」の評価がCであるのに対して、同実施例1は、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを組み合わせて用いた場合であり、その「表面性状」の評価がAとなっている。
(ウ)このような作用効果上の差異が、予測可能であると認めるに足る証拠はないから、相違点4-Aが当業者にとって容易に想到し得るということはできない。
イ 小括
(ア)そうすると、相違点4-B及び相違点4-Cについて検討するまでもなく、本件発明2は、甲4発明及び甲5、甲13に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(イ)本件発明3?10は、本件発明2を包含し、さらに発明特定事項を追加したものであるから、本件発明2と同様に、甲4発明及び甲5、甲13に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(ウ)したがって、本件発明2?10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、特許法第113条第2項の規定により取り消すべきということはできない。
第4 採用しなかった特許異議申立て理由について
申立人は、次の3点により、本件請求項2?10の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないと主張した。
1 ポリウレタン樹脂について
(1)申立人の主張
本件明細書の段落【0028】には、「ポリウレタン樹脂または硬化性ポリウレタンとしては、例えば、商業的に入手できるものとしては、スーパーフレックス830、460、870、420、420NS(第一工業製薬(株)製ポリウレタン)、ハイドランAP-40F、WLS-202、HW-140SF(大日本インキ化学工業(株)製ポリウレタン)、オレスターUD500、UD350(三井化学(株)製ポリウレタン)、タケラックW-615、W-6010、W-6020、W-6061、W-405、W-5030、W-5661、W-512A-6、W-635、WPB-6601が挙げられ、特に自己架橋型のWS-6021、WS-5000、WS-5100、WS-4000、WSA-5920、WF-764(三井武田ケミカル(株)製)が挙げられる。」と記載されているが、本件発明2?10における「ガラス転移温度が50℃以上」でないものが含まれるから、本件発明2?10は明確でない。
(2)検討
しかしながら、上記段落【0028】に記載されたポリウレタンから、ガラス転移温度が50℃以上のものを選択することは、当業者は通常行い得ることであるから、本件発明2?10が明確性要件を欠くということはできない。
2 環状オレフィン系樹脂について
(1)申立人の主張
本件明細書の段落【0011】に記載された飽和ノルボルネン樹脂A及び飽和ノルボルネン樹脂Bとの異同が明らかでなく、また、同段落【0022】における商品名「ARTON」の説明に誤りがあるから、本件発明2?10が不明確であると主張する。
(2)検討
しかしながら、飽和ノルボルネン樹脂Aと飽和ノルボルネン樹脂Bに重複があったとして、ノルボルネン樹脂の説明が不明確になるわけではなく、それらの説明は理解可能である。さらに、商品名「ARTON」の説明に誤りとの主張はその根拠がない。したがって、本件発明2?10が明確性要件を欠くということはできない。
3 シラノール基を有する硬化性ポリウレタンについて
(1)申立人の主張
本件発明7に規定される「硬化性ポリウレタンにシラノール基が含まれる」との特定事項について、本件特許明細書の段落【0028】に具体例が記載されているか明らかでなく、どの程度シラノール基が含有されているかが明らかでなく、本件発明7及び引用する本件発明8?10が不明確である旨主張する。
(2)検討
しかしながら、当業者であれば、仮に本件明細書の段落【0028】に具体例がなかったとしても、適切な硬化性ポリウレタンを選択することは可能であると認められる。また、シラノール基の量が特定されないことが、本件発明7の明確性に影響するとはいえない。したがって、本件発明7及び引用する本件発明8?10が明確性要件を欠くとはいえない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立て理由によっては、本件発明2?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなり、その補正をすることができないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
環状オレフィン系樹脂からなる基材と、
前記基材と隣接して配置された易接着層とを有し、
前記易接着層に、ガラス転移温度が50℃以上のポリウレタン樹脂と、平均粒径が前記易接着層の厚みの1.0?5.0倍である微粒子と、界面活性剤とが含まれ、
前記界面活性剤の含有量が、前記易接着層全質量に対して、0.7?8.0質量%であって、
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせである、光学フィルム。
【請求項3】
前記易接着層の厚みが、25?400nmである、請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記微粒子が、金属酸化物微粒子である、請求項2または3に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記易接着層が、カルボジイミド系架橋剤由来の架橋構造およびオキサゾリン系架橋剤由来の架橋構造の少なくとも一方を有する、請求項2?4のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が、130℃以下である、請求項2?5のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂が、硬化性ポリウレタンを硬化させてなる樹脂であり、
前記硬化性ポリウレタンにシラノール基が含まれる、請求項2?6のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
請求項2?7のいずれか1項に記載の光学フィルムと、導電層を有する導電性フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性フィルムを有するタッチパネル。
【請求項10】
請求項2?7のいずれか1項に記載の光学フィルムを有する表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-27 
出願番号 特願2016-550058(P2016-550058)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 16- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 佐々木 正章
門前 浩一
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6383796号(P6383796)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 光学フィルム、導電性フィルム、タッチパネル、表示装置  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三和 晴子  
代理人 三橋 史生  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三和 晴子  
代理人 三橋 史生  

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