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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B60C |
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管理番号 | 1359561 |
異議申立番号 | 異議2018-701062 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-12-27 |
確定日 | 2020-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6353456号発明「空力抵抗を減少させるタイヤのサイドウォール部マーキング」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6353456号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正することを認める。 特許第6353456号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6353456号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)10月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年11月9日 フランス国)を国際出願日とする出願であって、平成30年6月15日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年7月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月27日に特許異議申立人 山本 千惠子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされ、同年4月4日付け(発送日:令和1年8月14日)で取消理由が通知され、令和1年11月6日に特許権者 コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュランから訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月8日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年12月9日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 令和1年11月6日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキングを全く含まず」と記載されているのを、「隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキング、及び0.2mmよりも高いあらゆる凹凸を全く含まず」に訂正する。 併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4ないし6についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「前記第1のセクタ(311)は、1.5mm以下の深さを有する窪んだマーキングを含む、 ことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。」と記載されているのを、「乗用車に装備するためのタイヤ(1)であって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部を外側に有するクラウン部(2)を含み、該クラウン部(2)は、前記タイヤが装着されたリム部(J)に接触するようになっているビード部(4、4’)において終端するサイドウォール部(3、3’)によって横方向に延ばされ、各サイドウォール部(3、3’)は、前記タイヤを膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、前記サイドウォール部の少なくとも一方は、複数の第1のセクタ(311)及び第2のセクタ(312)を含み、該第1及び第2のセクタは、前記クラウン部(2)と、前記タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点(F)との間に位置する第1のサイドウォール部分(31)の前記外壁上に形成され、前記第1のセクタ(311)は、隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキングを全く含まず、前記第2のセクタ(312)は、0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)を含み、前記マーキングを全く含まない前記第1のセクタ(311)は、各々が20°以上の角度を成し、前記第1のセクタの前記角度の合計は120°以上であり、前記第1のセクタ(311)は、1.5mm以下の深さを有する窪んだマーキングを含む、 ことを特徴とするタイヤ。」 2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前において「隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキング」を「全く含ま」ないものであったのを、それに加えて「0.2mmよりも高いあらゆる凹凸」も「全く含ま」ないとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項1は、本件特許明細書の【0039】の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用するものであったのを、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1及び2は、それぞれ、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項1及び2は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正後の請求項2について、当該請求項2についての訂正が認められた場合、別途訂正することの求めがされているが、訂正後の請求項4ないし6が訂正後の請求項1ないし3を直接又は間接的に引用しており、訂正後の請求項1ないし6は一体として確定すべきものであるから、上記求めは認められない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 乗用車に装備するためのタイヤ(1)であって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部を外側に有するクラウン部(2)を含み、該クラウン部(2)は、前記タイヤが装着されたリム部(J)に接触するようになっているビード部(4、4’)において終端するサイドウォール部(3、3’)によって横方向に延ばされ、各サイドウォール部(3、3’)は、前記タイヤを膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、前記サイドウォール部の少なくとも一方は、複数の第1のセクタ(311)及び第2のセクタ(312)を含み、該第1及び第2のセクタは、前記クラウン部(2)と、前記タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点(F)との間に位置する第1のサイドウォール部分(31)の前記外壁上に形成され、前記第1のセクタ(311)は、隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキング、及び0.2mmよりも高いあらゆる凹凸を全く含まず、前記第2のセクタ(312)は、0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)を含み、前記マーキングを全く含まない前記第1のセクタ(311)は、各々が20°以上の角度を成し、前記第1のセクタの前記角度の合計は120°以上の、 ことを特徴とするタイヤ。 【請求項2】 乗用車に装備するためのタイヤ(1)であって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部を外側に有するクラウン部(2)を含み、該クラウン部(2)は、前記タイヤが装着されたリム部(J)に接触するようになっているビード部(4、4’)において終端するサイドウォール部(3、3’)によって横方向に延ばされ、各サイドウォール部(3、3’)は、前記タイヤを膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、前記サイドウォール部の少なくとも一方は、複数の第1のセクタ(311)及び第2のセクタ(312)を含み、該第1及び第2のセクタは、前記クラウン部(2)と、前記タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点(F)との間に位置する第1のサイドウォール部分(31)の前記外壁上に形成され、前記第1のセクタ(311)は、隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキングを全く含まず、前記第2のセクタ(312)は、0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)を含み、前記マーキングを全く含まない前記第1のセクタ(311)は、各々が20°以上の角度を成し、前記第1のセクタの前記角度の合計は120°以上であり、前記第1のセクタ(311)は、1.5mm以下の深さを有する窪んだマーキングを含む、 ことを特徴とするタイヤ。 【請求項3】 前記第1のセクタ(311)の前記窪んだマーキングは、0.5mm以上かつ0.8mm以下の間の深さを有する、 ことを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。 【請求項4】 前記第2のセクタ(312)の前記隆起したマーキングは、1.5mm以下の高さを有する、 ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤ。 【請求項5】 前記第2のセクタ(312)の前記隆起したマーキングは、0.5mm?0.8mmの高さを有する、 ことを特徴とする請求項4に記載のタイヤ。 【請求項6】 0.2mmよりも高いマーキングを含まない前記第1のセクタ(311)と、前記隆起したマーキング(3120)を含む前記第2のセクタ(312)とを有する、車両の外側にくるようになっている前記サイドウォール部は、該サイドウォール部を前記車両の外側に位置付けるようになっている特定のマークを含む、 ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のタイヤ。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要 1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 平成30年12月27日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)で主張する申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性) 本件特許の請求項1及び4に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1号第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、下記の本件特許の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)証拠方法 甲第1号証:特開2009-29379号公報 甲第2号証:特開2002-211214号公報 甲第3号証:特開2012-6531号公報 甲第4号証:特開平10-147114号公報 以下、順に「甲1」のようにいう。 2 取消理由の概要 平成31年4月4日付け(発送日:令和1年8月14日)で通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 (甲1を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1及び4ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物(甲1及び4)に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 1 取消理由について (1)甲1及び4に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項及び甲1発明1 (ア)甲1に記載された事項 甲1には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。 ・「【請求項1】 タイヤサイド部の表面に、タイヤ径方向に沿って延在され、且つタイヤ周方向に沿って間隔を隔てて配置された複数の乱流発生用突条を備える空気入りタイヤであって、 タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向内側に位置する全ての前記乱流発生用突条の側壁面積の総和をSiとし、 前記タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側に位置する全ての前記乱流発生用突条の側壁面積の総和をSoとしたときに、 Si>Soの関係を満足することを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項2】 前記タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向内側に位置する前記乱流発生用突条の数が、前記タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側に位置する前記乱流発生用突条の数よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向内側に位置する前記乱流発生用突条は、タイヤ周方向に沿って等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。 【請求項4】 前記タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向内側に位置し、タイヤ周方向に沿って等間隔に配置された前記乱流発生用突条は、各乱流発生用突条の前記タイヤサイド部表面からの最大高さをhとし、互いに隣接する乱流発生用突条の最大高さhとなる位置同士の間隔をpとしたときに、 1.0≦p/h≦50.0の関係を満足することを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。 【請求項5】 前記タイヤサイド部表面の前記タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側に位置する領域で前記乱流発生用突条が形成されない部分の最大範囲が、タイヤ回転軸を中心とする90°の範囲以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。 【請求項6】 前記乱流発生用突条は、タイヤ径方向の両端部において高さが漸次低くなるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。 【請求項7】 前記乱流発生用突条は、前記タイヤサイド部表面からの最大高さが、1mm?5mmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。 【請求項8】 前記タイヤサイド部は、タイヤ径方向の断面形状が三日月形状の補強ゴムを備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。」 ・「【0004】 その新たなタイヤ温度低減手段として、タイヤサイド部にタイヤ径方向に沿って乱流発生用突条を形成することで、タイヤ表面における流速の速い乱流を発生若しくは促進させて、冷却効果を向上させたものがある(特許文献1参照)。タイヤを構成するゴムは熱伝導性の悪い材料であるため、放熱面積を拡大させて冷却効果を狙うよりも、乱流発生を促進することによる冷却効果のほうが有効であることが知られている。 【特許文献1】国際公開第2007/032405号パンフレット 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、タイヤサイド部表面の全体に亘って乱流発生用突条を高密度で配置すると、ややタイヤ重量が重くなることや、乱流発生用突条により空気抵抗がやや大きくなり転がり抵抗が増大することが判った。 【0006】 そこで、本発明の目的は、タイヤサイド部の温度低減効果を高く維持しつつ、タイヤ重量や転がり抵抗の増大を抑制できる空気入りタイヤを提供することにある。」 ・「【0016】 請求項2に記載の発明では、タイヤ径方向内側に位置する乱流発生用突条の数を、タイヤ径方向外側に位置する乱流発生用突条の数よりも多くする形態とすることで、Si>Soの関係を満足するようにしており、タイヤ径方向外側に配置する乱流発生用突条の数が少なくなるため、乱流発生用突条を配置しないスペースに、文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザインを付することが可能となる。」 ・「【0022】 請求項5に記載の発明では、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側に位置する領域において乱流発生用突条が形成されない範囲が大きすぎると、タイヤ径方向外側の領域において所望の温度低減効果が得られなくなることから、乱流発生用突条が形成されない部分の最大範囲をタイヤ回転軸を中心とする90°の範囲以下とすることで、タイヤ径方向外側においても所望の温度低減効果が得られるようにしている。」 ・「【0026】 請求項7に記載の発明では、特に乗用車用のタイヤへの適用を考えた場合に、乱流発生用突条の最大高さが1mmより低い場合は乱流発生促進効果が小さくなり、5mmより高い場合は乱流発生用突条の可撓性が高まり剛性が低下して乱流発生や乱流促進の効果が低下するとともに走行抵抗が大きくなることから、乱流発生用突条の最大高さを1mm?5mmの範囲内とすることで、乗用車用のタイヤに有効に適用できるようにしている。」 ・「【0039】 〈ランフラットタイヤの概略構成〉 図1および図2に示すように、ランフラットタイヤ1は、路面と接触するトレッド部2と、タイヤ両側のタイヤサイド部3と、それぞれのタイヤサイド部3の開口縁に沿って設けられたビード部4と、を備えて大略構成されている。そして、図1に示すように、タイヤサイド部3の外側表面には、複数の乱流発生用突条20が、タイヤ径方向に沿って延在し、且つタイヤ周方向に沿って間隔を隔てて配置されている。ここで、乱流発生用突条20は、ランフラットタイヤ1の回転時にタイヤサイド部3の外周表面に乱流を発生させる、若しくはタイヤサイド部3の外周表面における乱流を促進させるための長尺状の突起である。 【0040】 図2に示すように、ビード部4は、タイヤサイド部3の開口部の縁部に沿って周回するように設けられた、ビードコア6Aおよびビードフィラー6Bを備えている。ビードコア6Aとしては、具体的にスチールコードなどが用いられている。 【0041】 また、図2に示すように、ランフラットタイヤ1は、タイヤの骨格となるカーカス層7を有している。タイヤサイド部3に位置するカーカス層7の内側(タイヤ幅方向内側)には、補強ゴムとしてのサイドウォール補強層8が設けられている。このサイドウォール補強層8は、タイヤ幅方向断面において三日月形状のゴムストックによって形成されている。 【0042】 カーカス層7のタイヤ径方向外側には、複数層のベルト層(スチールベルト補強層9,10、周方向補強層11)が設けられている。周方向補強層11のタイヤ径方向外側には、路面と接地する上記トレッド部2が設けられている。」 ・「【0043】 〈乱流発生用突条の構成〉 本実施形態のように、三日月形補強ゴムでなるサイドウォール補強層8が設けられたタイヤサイド部3を有するランフラットタイヤ1においては、特にタイヤサイド部3の温度を低減させることが、耐久性向上の観点から有効になる。そこで、本実施形態のランフラットタイヤ1では、上述したように、タイヤサイド部3の外側表面に複数の乱流発生用突条20を突設して乱流を発生させる若しくは乱流を促進することによって、このタイヤサイド部3における冷却効果を高めるようにしている。 【0044】 複数の乱流発生用突条20は、図1に示すように、タイヤサイド部3の外側表面に、タイヤ回転軸を中心として放射状に配置されている。各乱流発生用突条20のそれぞれは、長手方向がタイヤ径方向に沿うように延在しており、タイヤ周方向に隣り合う乱流発生用突条20との間には間隔が設けられている。この乱流発生用突条20のタイヤ周方向の断面は、図3に示すように、矩形状に形成されている。 【0045】 ここで、図3を用いて乱流の発生のメカニズムを説明する。ランフラットタイヤ1の回転に伴い、乱流発生用突条20が形成されていないタイヤサイド部3に接触していた空気の流れS1が乱流発生用突条20でタイヤサイド部3から剥離されて乱流発生用突条20を乗りこえる。このとき、この乱流発生用突条20の背面側には、空気の流れが滞留する部分(領域)S2が生じる。そして、空気の流れS1は、次の乱流発生用突条20との間の底部に再付着して、次の乱流発生用突条20で再び剥離される。このとき、空気の流れS1と次の乱流発生用突条20との間には、空気の流れが滞留する部分(領域)S3が生じる。ここで、乱流S1が接触する領域上の速度勾配(速度)を速くすることが冷却効果を高めるために優位となると考えられる。つまり、タイヤサイド部3の外側表面に乱流発生用突条20を突設し、流速の速い空気の流れS1と滞留部分S2,S3を生じさせて、タイヤサイド部3の外側表面において乱流の発生を促進させることによって、タイヤサイド部3の冷却効果が高められる。 【0046】 乱流発生用突条20は、以上のように、ランフラットタイヤ1の回転時にタイヤサイド部3の外側表面に乱流を発生若しくは促進させて、タイヤサイド部4における冷却効果を高めるためのものであるが、特に、本実施形態では、図1、図2および図4に示すように、この乱流発生用突条20を、タイヤ最大幅位置Wmaxを基準としてタイヤ径方向内側に位置する乱流発生用突条(以下、内側突条20aという。)と、タイヤ最大幅位置Wmaxを基準としてタイヤ径方向外側に位置する乱流発生用突条(以下、外側突条20bという。)とに区分し、外側突条20bと比較して内側突条20aの方が多く配置される構成としている。 【0047】 これは、ランフラットタイヤ1の回転時における遠心力の影響でタイヤ径方向の内側から外側へと向かう空気の流れが生じ、タイヤ径方向内側に設けた乱流発生用突条20がタイヤ径方向外側における放熱にも寄与するので、乱流発生用突条20をタイヤ径方向内側に重点的に配置した方が、タイヤサイド部3表面の全域における冷却効果をより効率良く高めることができ、また、タイヤ径方向外側の乱流発生用突条20を減らすことで走行抵抗の低減の効果も期待できるという知見に基づくものである。 【0048】 ここで、乱流発生用突条20の機能としてはタイヤサイド部3表面から立ち上がった側壁面による作用が支配的であることから、ここでは、乱流発生用突条20の多さを表現する方法として、この乱流発生用突条20の側壁面をタイヤ径方向から見たときの投影面積である側壁面積の総和を用いる。すなわち、本実施形態のランフラットタイヤ1においては、タイヤ最大幅位置Wmaxよりもタイヤ径方向内側に位置する全ての内側突条20aの側壁面積の総和をSiとし、タイヤ最大幅位置Wmaxよりもタイヤ径方向外側に位置する全ての外側突条20bの側壁面積の総和をSoとしたときに、Si>Soの関係を満足する構成としている。具体的には、例えば、全ての内側突条20aの側壁面積の総和Siに対して、全ての外側突条20bの側壁面積の総和Soが、30?80%の範囲となるようにしている。 【0049】 全ての内側突条20aの側壁面積の総和Siを全ての外側突条20bの側壁面積の総和Soよりも大きくする具体的手法としては、例えば、内側突条20aの数を、外側突条20bの数よりも多くすることが考えられる。この場合、タイヤサイド部3の外周表面において、タイヤ最大幅位置Wmaxよりもタイヤ径方向外側に配置される外側突条20bの数が少なくなるため、外側突条20bが配置されないスペースを有効利用して、例えば文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザインを付することが可能となる。」 ・「【0054】 ところで、本実施形態のランフラットタイヤ1では、上述したように、外側突条20bと比較して内側突条20aの方が多く配置される構成としているが、タイヤサイド部3の外側表面におけるタイヤ径方向外側の領域で、外側突条20bが形成されない部分の範囲が大きすぎると、その部分では温度低減効果が全く得られない状態となることが懸念される。タイヤ径方向外側の領域における外側突条20bの配置と温度低減効果との関係を検討したところ、外側突条20bが形成されない範囲が全周の1/4、すなわちタイヤ回転軸を中心とする90°の範囲を超えると、その部分で温度低減効果が得られなくなることが判明した。そこで、本実施形態では、タイヤサイド部3の外側表面におけるタイヤ径方向外側の領域で、外側突条20bが形成されない部分の最大範囲が、タイヤ回転軸を中心とする90°の範囲以下となるように、外側突条20bを配置するようにしている。これにより、タイヤ径方向外側の領域においても、外側突条20bを設けたことによる走行抵抗の増大を極力抑制しながら、所望の温度低減効果を得ることができる。」 ・「【0056】 また、本実施形態のランフラットタイヤ1において、乱流発生用突条20(内側突条20aおよび外側突条20b)のタイヤサイド部表面からの最大高さは、1mm?5mmの範囲とすることが望ましい。本実施形態のランフラットタイヤ1を特に乗用車で使用することを考えた場合、乱流発生用突条20(内側突条20aおよび外側突条20b)の最大高さが1mmより低い場合は乱流の発生若しくは促進の効果が小さくなり、5mmより高い場合は乱流発生用突条20の可撓性が高まり剛性が低下して乱流の発生若しくは促進の効果が低下するとともに走行抵抗が大きくなる。乱流発生用突条20の最大高さを1mm?5mmの範囲内とすれば、乗用車用のタイヤとして使用する場合でも適用できるようにしている。乱流発生によるタイヤサイド部3の温度低減を効果的に実現できるとともに、走行抵抗を抑えることができる。」 ・「【0057】 〈乱流発生用突条の配置パターンの変形例〉 ・・・(略)・・・ 【0060】 さらにまた、図9、図10に示すように、外側突条20bをタイヤ周方向に沿って均等ではなく離散的に配置したパターンとしてもよい。ただし、このように外側突条20bが離散的に配置されるパターンとする場合は、上述したように、外側突条20bが形成されない部分の最大範囲をタイヤ回転軸を中心とする90°の範囲以下となるようにすることが望ましい。」 ・「【図1】 ![]() 」 ・「【図2】 ![]() 」 ・「【図9】 ![]() 」 ・「【図10】 ![]() 」 (イ)甲1発明1 甲1の図9及び図10から、乱流発生用の外側突条20bの群が形成された領域は3つであり、乱流発生用の外側突条20bの群が形成されていない領域は3つであり、それぞれの領域の角度は約60°であることが看取される。 また、甲1に記載された「ビード部4」が、「ランフラットタイヤ1」を装着するためのリム部に接触するようになっていることは、当業者にとって技術常識である。 さらに、甲1に記載された「タイヤサイド部3」が、「ランフラットタイヤ1」を膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含むことも、当業者にとって技術常識である。 したがって、甲1に記載された事項を、【0049】、図9及び図10に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明1> 「乗用車に装備するためのランフラットタイヤ1であって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部2を外面に有するクラウン部を含み、クラウン部は、ランフラットタイヤ1が装着されたリム部に接触するようになっているビード部4において終端するタイヤサイド部3によって横方向に延ばされ、各タイヤサイド部3は、ランフラットタイヤ1を膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、 タイヤサイド部3の少なくとも一方は、乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域及び乱流発生用の外側突条20bの群が形成されていない3つの領域を含み、乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域及び乱流発生用の外側突条20bの群が形成されていない3つの領域は、トレッド部2と、タイヤ最大幅位置Wmaxとの間に位置するタイヤサイド部分の外壁上に形成され、 乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域は、文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザインが付されておらず、乱流発生用の外側突条20bの群が形成されていない3つの領域は、文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザインが付され、 乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域は、各々が約60°の角度を成し、乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域の角度の合計は約180°である、 ランフラットタイヤ1。」 イ 甲4に記載された事項 甲4には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、空気入りタイヤに関するもので、方向性のあるタイヤにおけるサイドウォールの表面に、タイヤの回転方向を示すローテーションマークが表示された空気入りタイヤに関するものである。 【0002】 【従来の技術】方向性のあるタイヤ即ちウエット性能(ぬれた路面で水を排水し摩擦力を高くする性能)やスノー性能(トレッドのブロックで雪を踏みかため、雪上での牽引力を高くする性能)等が考慮され、例えばタイヤのトレッドパターンが幅方向の左右において非対称となっており、タイヤの取付方向(車両に対するタイヤに形成されたトレッドパターンの向き)が予め車両左右方向に決められているタイヤでは、タイヤの回転方向(即ち、タイヤが車両に取付けられた場合におけるタイヤの回転方向)を示すために、ROTATIONの文字とアロー(矢印)とからなるローテーションマークがタイヤのサイドウォールの表面に表示されている。 【0003】以下、従来例1?従来例3を説明する。 (従来例1)図11に示すような空気入りタイヤ70のサイドウォール72の表面には、タイヤ70の軸心Pを中心とした環状の環状帯74に文字、数字、記号又は図形等の標章76が突設されている。これらの標章のうち、メーカー名、製品名、サイズ、ローテーションマーク78等をアピールするためには、これらの標章76の視認性が優れていることが重要である。 【0004】図11及び図12に示すローテーションマーク78はROTATIONの文字78Aとアロー78Bとからなり、アロー78Bは図11及び図12に示す楔形をなしている。即ち、アロー78Bの文字78A側はタイヤ70の周方向に略沿った複数の線体で形成されたV字状の楔体78Dで、かつ、前記線体のタイヤ70の回転方向側に楔体78Dと同一形状の楔体78Eが前記線体に連続して形成されている。 【0005】なお、図12に示すように、ローテーションマーク78はタイヤ70の軸心P(図11参照)から径方向に引き出される径線に対する角度θ21が26°で、アロー78Bの角度θ22は8°である。また、文字78Aの高さ及びアロー78Bの高さ(ここで、高さとは、サイドウォール72の法線に沿って、文字78Aやアロー78Bの表面から外表面輪郭線迄の長さ又はサイドウォール72の接線に沿った、文字78Aやアロー78Bの表面からに垂直な直線の外表面輪郭線迄の長さをいう)は0.4mmで、アロー78Bの幅L20は20mmとなっている。さらに、図11に示すように、ローテーションマーク78は、サイドウォール72の1ヶ所に形成されている。 【0006】(従来例2)図13及び図14に示すように、環状帯74はその内側の内側環状帯74Aと外側の外側環状帯74Bとに2分割され、この外側環状帯74Bにローテーションマーク80が形成されている。 【0007】ローテーションマーク80はROTATIONの文字82とアロー84とからなり、アロー84は図13及び図14に示す矢じり形をなしている。アロー84内には、間隔が0.8mmで高さが0.3mmの縦リッジ86が連続して並設されている。なお、図13及び図14において、従来例1の図11及び図12と対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明は省略する。 【0008】図14に示すように、ローテーションマーク80はタイヤ70の軸心P(図13参照)から径方向に引き出される径線に対する角度θ21が19°で、アロー84の角度θ22は9°である。また、文字82の高さ及びアロー84の高さは0.5mmで、アロー84の幅L20は14mmとなっている。さらに、図13に示すように、ローテーションマーク78は、サイドウォール72の1ヶ所に形成されている。 【0009】(従来例3)図15及び図16に示すように、外側環状帯74Bに形成されたローテーションマーク90はROTATIONの文字92とアロー94とからなり、アロー94は図15及び図16に示す矢じり形をなしている。なお、図15及び図16において、従来例1の図11及び図12と対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明は省略する。 【0010】従来例3は、従来例2(図13及び図14参照)とは逆に、アロー94内にはリッジが形成されておらず、外側環状帯(装飾帯と同義)74Bの全周域に亘って略直線状のリッジ96が0.18°の角度をもって連続して周方向に並設されている。 【0011】図16に示すように、ローテーションマーク90はタイヤ70の軸心P(図15参照)から径方向に引き出される径線に対する角度θ21が16°で、アロー94の角度θ22は7°である。また、文字92の高さ及びアロー94の高さは0.6mmで、アロー94の幅L20は12mmとなっている。」 (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明1を対比する。 甲1発明1における「ランフラットタイヤ1」は、本件特許発明1における「タイヤ(1)」に相当し、以下同様に、「トレッド部2」は「トレッド部」に、「クラウン部」は「クラウン部(2)」に、「リム部」は「リム部(J)」に、「ビード部4」は「ビード部(4、4’)」に、「タイヤサイド部3」は「サイドウォール部(3、3’)」に、「タイヤ最大幅位置Wmax」は「タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点(F)」に、「(トレッド部2と、タイヤ最大幅位置Wmaxとの間に位置する)タイヤサイド部分」は「第1のサイドウォール部分(31)」に、それぞれ相当する。 また、本件特許の発明の詳細な説明の「これらのエネルギー損失の一部は、タイヤのサイドウォール部上の隆起したマーキング(文字、数字、ロゴなど)の存在に関連するように思われる。本明細書では、マーキングがサイドウォール部の外側に向かって突出している場合、これを「隆起している」と言う。」(【0009】)、「規定によれば、販売を目的とするタイヤは、そのサイドウォール部に、特にタイヤのサイズ、製造情報(国、日付)及びその他の様々な有用な情報を示す一定数のマーキングを含まなければならない。サイドウォール部には他の情報も見られ、自身が使用しているタイヤの出所を顧客が知ることができるようにタイヤのブランド及びメーカーのロゴが成形されている。」(【0010】)及び「風洞試験中には、タイヤを販売するために必須であるマーキングが、特にこれらのマーキングが第1の部分(すなわち、サイドウォール部の半径方向最外部)に位置する場合に、空力抵抗に影響を与えないわけではないことが観察された。」(【0012】)という記載によると、本件特許発明1における「隆起したマーキング」は、タイヤを販売するために必須のタイヤのサイズ、製造情報(国、日付)及びその他の様々な有用な情報を示す文字、数字、ロゴなどであるから、甲1発明1における「文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザイン」と本件特許発明1における「隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキング」及び「0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)」とは、「マーキング」という限りにおいて一致する。 さらに、甲1発明1における「乱流発生用の外側突条20b」は、乱流を発生若しくは促進させて冷却効果を向上するためのものであって(甲1の【0004】及び【0022】等を参照。)、「マーキング」にはあたらないから、甲1発明1における「乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域」は、本件特許発明1における「(複数の)マーキングを全く含まない前記第1のセクタ(311)」に相当し、同様に、「乱流発生用の外側突条20bの群が形成されていない3つの領域」は「(複数の)第2のセクタ(312)」に相当する。 さらにまた、甲1発明1における「乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域」の「各々」が「約60°の角度を成」すことは、本件特許発明1における「マーキングを全く含まない前記第1のセクタ(311)」の「各々」が「20°以上の角度を成」すことに相当し、同様に、「乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域」の「角度の合計は約180°」であることは「第1のセクタ」の「角度の合計は120°以上」であることに相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「乗用車に装備するためのタイヤであって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部を外側に有するクラウン部を含み、該クラウン部は、前記タイヤが装着されたリム部に接触するようになっているビード部において終端するサイドウォール部によって横方向に延ばされ、各サイドウォール部は、前記タイヤを膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、前記サイドウォール部の少なくとも一方は、複数の第1のセクタ及び第2のセクタを含み、該第1及び第2のセクタは、前記クラウン部と、前記タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点との間に位置する第1のサイドウォール部分の前記外壁上に形成され、前記第1のセクタは、隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキングを全く含まず、前記第2のセクタは、マーキングを含み、前記マーキングを全く含まない前記第1のセクタは、各々が20°以上の角度を成し、前記第1のセクタの前記角度の合計は120°以上の、 タイヤ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 「第1のセクタ」に関して、本件特許発明1においては、「隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキング、及び0.2mmよりも高いあらゆる凹凸を全く含まず」と特定されているのに対し、甲1発明1においては「乱流発生用の外側突条20bの群が形成された3つの領域」と特定されている点。 <相違点2> 「第2のセクタ」の「マーキング」に関して、本件特許発明1においては、「0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)」と特定されているのに対し、甲1発明1においては、「文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザイン」であり、「0.2mm以上の高さを有する隆起した」ものであるとは特定されていない点。 (イ)判断 そこで、相違点について検討する。 まず、相違点1から検討する。 甲1発明1における「乱流発生用の外側突条20b」は、上記(ア)で示したとおり、本件特許発明1における「マーキング」には相当せず、「凹凸」に相当するものである。 そして、甲4には、「乱流発生用の外側突条20b」の高さを「0.2mm」以下とすることについて記載も示唆もされていないことから、甲1発明1に甲4に記載された事項を適用しても、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項に至らない。 また、そもそも、甲1には、「乱流発生用の外側突条20b」の高さについて、【0026】に「乱流発生用突条の最大高さを1mm?5mmの範囲内とすることで、乗用車用のタイヤに有効に適用できるようにしている。」及び【0056】に「乱流発生用突条20(内側突条20aおよび外側突条20b)のタイヤサイド部表面からの最大高さは、1mm?5mmの範囲とすることが望ましい。」と「1mm?5mmの範囲」とすることが記載されているものの「0.2mm」以下とすることについては記載も示唆もされていない。むしろ、甲1の【0026】の「乱流発生用突条の最大高さが1mmより低い場合は乱流発生促進効果が小さくなり」及び【0056】の「乱流発生用突条20(内側突条20aおよび外側突条20b)の最大高さが1mmより低い場合は乱流の発生若しくは促進の効果が小さくなり」という記載からみて、「乱流発生用の外側突条20b」の高さを1mmよりも小さい値とすること、すなわち、「0.2mm」以下とすることについて、阻害要因があるといえる。 そうすると、仮に、「乱流発生用の外側突条20b」の高さを「0.2mm」以下とすることが公知(以下、「公知技術」という。)であったとしても、上記のとおり、甲1発明1に公知技術を適用することはできない。 したがって、主引用発明である甲1発明1から、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得ることとはいえない。 しかも、本件特許発明1は、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有することにより、「サイドウォール部に隆起したマーキングを含むタイヤを用いて、滑らかなサイドウォール部を有するタイヤの空力抵抗性能に近づけ、さらにはこの空力抵抗性能を達成する」(【0020】)という甲1発明及び甲4に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。 (ウ)まとめ よって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明4ないし6について 請求項4ないし6は請求項1又は2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明4ないし6は、本件特許発明1又は2をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明4ないし6のうち、請求項1を引用する発明については、本件特許発明1と同様に、甲1発明1及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件特許発明4ないし6のうち、請求項2を引用する発明については、取消理由の対象となっていない。 (3)取消理由についてのまとめ したがって、本件特許発明1及び4ないし6は、甲1発明1及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1及び4ないし6に係る特許は、取消理由によっては、取り消すことはできない。 2 特許異議申立書に記載した申立ての理由について (1)甲1ないし4に記載された事項 ア 甲1に記載された事項及び甲1発明2 甲1に記載された事項は、上記1(1)ア(ア)のとおりである。 甲1に記載された事項を、【請求項7】、【0026】、【0056】、図9及び図10に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。 なお、この発明の認定は、特許異議申立人が認定した甲1発明(特許異議申立書第9ページ下から第13行ないし第10ページ第11行)と、表現上多少相違するが、おおむね同旨である。 <甲1発明2> 「乗用車に装備するためのランフラットタイヤ1であって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部2を外面に有するクラウン部を含み、クラウン部は、ランフラットタイヤ1が装着されたリム部に接触するようになっているビード部4において終端するタイヤサイド部3によって横方向に延ばされ、各タイヤサイド部3は、ランフラットタイヤ1を膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、 タイヤサイド部3の少なくとも一方は、乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成された3つの領域及び乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域を含み、乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成された3つの領域及び乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域は、トレッド部2と、タイヤ最大幅位置Wmaxとの間に位置するタイヤサイド部分の外壁上に形成され、 乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域は、各々が約60°の角度を成し、乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域の角度の合計は約180°である、 ランフラットタイヤ1。」 イ 甲2に記載された事項 甲2には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、空気入りタイヤ、なかでもそのサイド部の改良に関するものであり、とくに、そのサイド部に施される文字、記号、図形等の表示を、縁石その他による擦れ摩耗から有効に保護するものである。」 ・「【0006】 【課題を解決するための手段】この発明の空気入りタイヤは、タイヤ横断面内で、タイヤサイド部の半径方向に間隔をおいて位置するとともに、タイヤ周方向に延びる少なくとも2条の凸部を、タイヤ円周の一個所以上に設け、それらの凸部間に、文字、記号、図形等の彫り込みになる凹み表示を設けたものである。」 ・「【0011】なお凹み表示の彫り込み深さは、0.3?2mmの範囲とすることが、サイド文字、記号、図形等の視認性とクラック等に対する耐久性を両立させることができて好適である。」 ウ 甲3に記載された事項 甲3には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、1対のサイドウォール部の少なくとも一方にタイヤ識別用標章が表示された空気入りタイヤに関する。」 ・「【0005】 しかし、タイヤ識別用標章の視認性と空気抵抗の低減とは、絶えずより高い次元での両立が求められている。 本発明は、サイドウォール部に形成されたタイヤ識別用標章の視認性と、走行中の空気抵抗の低減とをより高い次元で両立する空気入りタイヤを提供する。」 ・「【0016】 トレッド部12、ビード部16、カーカス層、インナライナ層、ベルト層等は、公知のものが用いられてもよいし、新規なものが用いられてもよく、本発明において、特に限定されない。 サイドウォール部14の少なくとも一方の表面は、図1及び図2に示すような形態を有し、その表面には、標章表示領域2と、第1の無装飾領域3と、第2の無装飾領域4と、装飾領域5とが形成されている。これら領域2?5は、1対のサイドウォール部14の一方または両方に設けられてよい。一方にのみ設ける場合は、タイヤ10を車両に装着した場合に車両外側に配されるサイドウォール部14に設けられるのが好ましい。 【0017】 (標章表示領域) 標章表示領域2は、文字、記号又はこれらの組み合わせからなる、図2に示されるように、タイヤ識別用標章(以下、標章という)1が表示される領域である。標章表示領域2は、タイヤ周上に1つまたはタイヤ周上に離間して複数配されてよく、本実施形態では、タイヤ周上の反対側位置の2箇所に配置されている。 標章1は、メーカー名、ブランド名、タイヤサイズなどを示す文字、記号またはこれらの組み合わせからなる。記号には数字が含まれる。文字、記号はそれぞれ、図案化されたものも含む。標章1を構成する文字及び記号の数は、1つまたは複数であってよい。図1に示すタイヤ10において、上部の標章表示領域2の標章1は、左端に配された図案化されたyの文字と、この右側に隣接して配された「YOKOHAMA」との文字列とで構成される。また、下部の標章表示領域2の標章1は、上述した図案化されたyの文字と、複数のaの文字からなる文字列とで構成される。標章1を構成する文字、記号は、それぞれ第1の無装飾領域3に囲まれている。 【0018】 標章表示領域2は、図案化されたyの文字の領域を除き、図2及び図3に示すように、第1の無装飾領域3の後述する平滑面3gに対して凹んだ底部1aと、底部1aから突出する多数のリッジ1bと、を有する凹部領域1cを有する。なお、図2は、タイヤ10のサイドウォール部14の一部を拡大して示す図である。図3は、文字列「YOKOHAMA」の「Y」の位置における図2のA-A線断面図である。凹部領域1cは、平滑面3gに対する底部1aの凹み深さが0.3?1mmであるのが好ましい。凹み深さが0.3mm以上であることにより、標章表示領域2が濃く見え、標章1の視認性が上がる。また、凹み深さが1mm以下であることにより、特にカーカス層への方向にクラックが発生するのを抑えることができる。また、凹部領域1cは、多数のリッジ1bを有することにより、隣接する第1の無装飾領域3と比較して濃く見え、標章1の視認性が上がる。例えば、第1の無装飾領域3の平滑面3gにおける光の鏡面反射光等の成分により第1の無装飾領域3の色は白っぽく見え(濃度が淡く見え)、標章表示領域2は光の散乱反射光の成分により標章表示領域2の色は黒く見える(濃度が濃く見える)。また、凹部領域1cは、多数のリッジ1bが形成されることにより、埃、泥等が標章表示領域2に付着して目詰まりを起こしにくくなっている。」 エ 甲4に記載された事項 甲4に記載された事項は、上記1(1)イのとおりである。 (2)申立理由1について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明2を対比する。 甲1発明2における「ランフラットタイヤ1」は、本件特許発明1における「タイヤ(1)」に相当し、以下同様に、「トレッド部2」は「トレッド部」に、「クラウン部」は「クラウン部(2)」に、「リム部」は「リム部(J)」に、「ビード部4」は「ビード部(4、4’)」に、「タイヤサイド部3」は「サイドウォール部(3、3’)」に、「タイヤ最大幅位置Wmax」は「タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点(F)」に、「(トレッド部2と、タイヤ最大幅位置Wmaxとの間に位置する)タイヤサイド部分」は「第1のサイドウォール部分(31)」に、それぞれ相当する。 また、甲1発明2における「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成された3つの領域」は、本件特許発明1における「0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)を含」む「第2のセクタ(312)」と、「0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を含」む「第2のセクタ」という限りにおいて一致する さらに、甲1発明2における「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域」は、本件特許発明1における「隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキング、及び0.2mmよりも高いあらゆる凹凸を全く含」まない「第1のセクタ(311)」と、「0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を全く含」まない「第1のセクタ」という限りにおいて一致する。 さらにまた、甲1発明2における「乱流発生用の高さ1?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域」の「各々」が「約60°の角度を成」すことは、本件特許発明1における「前記第1のセクタ(311)」の「各々」が「20°以上の角度を成」すことに相当し、同様に、「乱流発生用の外側突条20bの群が形成されていない3つの領域」の「角度の合計は約180°」であることは「第1のセクタ」の「角度の合計は120°以上」であることに相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「乗用車に装備するためのタイヤであって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部を外側に有するクラウン部を含み、該クラウン部は、前記タイヤが装着されたリム部に接触するようになっているビード部において終端するサイドウォール部によって横方向に延ばされ、各サイドウォール部は、前記タイヤを膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、前記サイドウォール部の少なくとも一方は、複数の第1のセクタ及び第2のセクタを含み、該第1及び第2のセクタは、前記クラウン部と、前記タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点との間に位置する第1のサイドウォール部分の前記外壁上に形成され、前記第1のセクタは、0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を全く含まず、前記第2のセクタは、0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を含み、前記第1のセクタは、各々が20°以上の角度を成し、前記第1のセクタの前記角度の合計は120°以上の、 タイヤ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点3> 「0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を全く含」まない「第1のセクタ」に関して、本件特許発明1においては、「隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキング、及び0.2mmよりも高いあらゆる凹凸を全く含ま」ない「第1のセクタ」と特定されているのに対し、甲1発明2においては、「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域」と特定されている点。 <相違点4> 「0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を含」む「第2のセクタ」に関して、本件特許発明1においては、「0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)を含」む「第2のセクタ(312)」と特定されているのに対し、甲1発明2においては、「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されている3つの領域」と特定されている点。 (イ)判断 そこで、事案に鑑み、まず相違点4について検討する。 上記1(2)ア(ア)のとおり、本件特許発明1における「隆起したマーキング」は、タイヤを販売するために必須のタイヤのサイズ、製造情報(国、日付)及びその他の様々な有用な情報を示す文字、数字、ロゴなどである。 他方、甲1発明2における「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20b」はその記載どおり、「乱流発生用」の「突条」であって、タイヤを販売するために必須のタイヤのサイズ、製造情報(国、日付)及びその他の様々な有用な情報を示す文字、数字、ロゴなどではない。 したがって、相違点4は実質的な相違点である。 よって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明2であるとはいえない。 イ 本件特許発明4について 請求項4は請求項1又は2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明1又は2をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明4のうち、請求項1を引用する発明については、本件特許発明1と同様に、甲1発明2であるとはいえない。 なお、本件特許発明4のうち、請求項2を引用する発明については、申立理由1の対象となっていない。 ウ 申立理由1についてのまとめ したがって、本件特許発明1及び4は、甲1発明2であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、申立理由1によっては、取り消すことはできない。 (3)申立理由2について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明2との一致点及び相違点は、上記(2)ア(ア)のとおりである。 (イ)判断 そこで、事案に鑑み、まず相違点4について検討する。 甲1の「乱流発生用突条を配置しないスペースに、文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザインを付することが可能となる。」(【0016】)及び「外側突条20bが配置されないスペースを有効利用して、例えば文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザインを付することが可能となる。」(【0049】)という記載によると、甲1発明2において、文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザインを付する箇所は、「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域」であるから、「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20b」をタイヤを販売するために必須のタイヤのサイズ、製造情報(国、日付)及びその他の様々な有用な情報を示す文字、数字、ロゴなどである「隆起したマーキング」にする動機付けはない。 また、甲2ないし4にも上記動機付けとなる記載はない。 したがって、甲1発明2において、甲2ないし4に記載された事項を適用しても、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 そして、本件特許発明1は、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項を有することにより、「サイドウォール部に隆起したマーキングを含むタイヤを用いて、滑らかなサイドウォール部を有するタイヤの空力抵抗性能に近づけ、さらにはこの空力抵抗性能を達成する」(【0020】)という甲1発明2及び甲2ないし4に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。 (ウ)まとめ したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明2及び甲2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2について (ア)対比 本件特許発明2と甲1発明2を対比する。 本件特許発明2は、「第1のセクタ(311)」が「0.2mmよりも高いあらゆる凹凸を全く含まず」という発明特定事項を有することが特定されていないから、該発明特定事項を除き、両者の間には、本件特許発明1と甲1発明2の間と同様の相当関係が成り立つ。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「乗用車に装備するためのタイヤであって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部を外側に有するクラウン部を含み、該クラウン部は、前記タイヤが装着されたリム部に接触するようになっているビード部において終端するサイドウォール部によって横方向に延ばされ、各サイドウォール部は、前記タイヤを膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、前記サイドウォール部の少なくとも一方は、複数の第1のセクタ及び第2のセクタを含み、該第1及び第2のセクタは、前記クラウン部と、前記タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点との間に位置する第1のサイドウォール部分の前記外壁上に形成され、前記第1のセクタは、0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を全く含まず、前記第2のセクタは、0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を含み、前記第1のセクタは、各々が20°以上の角度を成し、前記第1のセクタの前記角度の合計は120°以上である、 タイヤ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点5> 「0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を全く含」まない「第1のセクタ」に関して、本件特許発明2においては、「隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキングを全く含」まない「第1のセクタ」と特定されているのに対し、甲1発明2においては、「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域」と特定されている点。 <相違点6> 「0.2mm以上の高さを有する隆起した部分を含」む「第2のセクタ」に関して、本件特許発明2においては、「0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)を含」む「第2のセクタ(312)」と特定されているのに対し、甲1発明2においては、「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されている3つの領域」と特定されている点。 <相違点7> 本件特許発明2においては、「前記第1のセクタ(311)は、1.5mm以下の深さを有する窪んだマーキングを含む」と特定されているのに対し、甲1発明2においては、そのようには特定されていない点。 (イ)判断 そこで、事案に鑑み、まず相違点6について検討する。 相違点6は、相違点4と同様であり、甲1発明2において、文字や記号などのタイヤに必要な文字情報やデザインを付する箇所は、「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20bの群が形成されていない3つの領域」であるから、「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20b」をタイヤを販売するために必須のタイヤのサイズ、製造情報(国、日付)及びその他の様々な有用な情報を示す文字、数字、ロゴなどである「隆起したマーキング」にする動機付けはない。 また、甲2ないし4にも上記動機付けとなる記載はない。 したがって、甲1発明2において、甲2ないし4に記載された事項を適用しても、相違点6に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 そして、本件特許発明2は、相違点6に係る本件特許発明2の発明特定事項を有することにより、「サイドウォール部に隆起したマーキングを含むタイヤを用いて、滑らかなサイドウォール部を有するタイヤの空力抵抗性能に近づけ、さらにはこの空力抵抗性能を達成する」(【0020】)という甲1発明2及び甲2ないし4に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。 (ウ)まとめ したがって、相違点5及び7について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1発明2及び甲2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件特許発明3ないし6について 請求項3ないし6は請求項1又は2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明3ないし6は、本件特許発明1又は2をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明3ないし6は、本件特許発明1又は2と同様に、甲1発明2及び甲2ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 申立理由2についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし6は、甲1発明2及び甲2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、申立理由2によっては、取り消すことはできない。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は「上述のように本件特許発明1におけるマーキングの目的は、甲1発明における乱流発生用突条の目的と必ずしも同じであるとは言えないものの、本件特許発明1におけるマーキングと甲1発明における乱流発生用突条は、いずれもサイドウォール部の空力抵抗性能(走行抵抗)に影響を及ぼし、空力抵抗性能に対する低減効果を発揮するという効果において共通しており、両者は技術的に等価であると言える。以上より、本件特許発明1は、甲1発明に該当する又は甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。」(特許異議申立書第15ページ第12ないし20行)と主張する。 しかし、本件特許発明1における「隆起したマーキング」と甲1発明2における「乱流発生用の高さ1mm?5mmの外側突条20b」は、上記(2)ア(イ)で検討のとおり、その目的及び機能が大きく異なるものであり、両者は技術的に等価であるとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 第6 結語 上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 乗用車に装備するためのタイヤ(1)であって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部を外側に有するクラウン部(2)を含み、該クラウン部(2)は、前記タイヤが装着されたリム部(J)に接触するようになっているビード部(4、4’)において終端するサイドウォール部(3、3’)によって横方向に延ばされ、各サイドウォール部(3、3’)は、前記タイヤを膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、前記サイドウォール部の少なくとも一方は、複数の第1のセクタ(311)及び第2のセクタ(312)を含み、該第1及び第2のセクタは、前記クラウン部(2)と、前記タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点(F)との間に位置する第1のサイドウォール部分(31)の前記外壁上に形成され、前記第1のセクタ(311)は、隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキング、及び0.2mmよりも高いあらゆる凹凸を全く含まず、前記第2のセクタ(312)は、0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)を含み、前記マーキングを全く含まない前記第1のセクタ(311)は、各々が20°以上の角度を成し、前記第1のセクタの前記角度の合計は120°以上の、 ことを特徴とするタイヤ。 【請求項2】 乗用車に装備するためのタイヤ(1)であって、回転時に路面に接するようになっているトレッド部を外側に有するクラウン部(2)を含み、該クラウン部(2)は、前記タイヤが装着されたリム部(J)に接触するようになっているビード部(4、4’)において終端するサイドウォール部(3、3’)によって横方向に延ばされ、各サイドウォール部(3、3’)は、前記タイヤを膨張させる空気に接する内壁と、外気に接する外壁とを含み、前記サイドウォール部の少なくとも一方は、複数の第1のセクタ(311)及び第2のセクタ(312)を含み、該第1及び第2のセクタは、前記クラウン部(2)と、前記タイヤがその装着リムに装着されてその使用圧まで膨張した時の軸方向最外地点である地点(F)との間に位置する第1のサイドウォール部分(31)の前記外壁上に形成され、前記第1のセクタ(311)は、隆起したマーキング、すなわち0.2mmを上回る高さの隆起したマーキングを全く含まず、前記第2のセクタ(312)は、0.2mm以上の高さを有する隆起したマーキング(3120)を含み、前記マーキングを全く含まない前記第1のセクタ(311)は、各々が20°以上の角度を成し、前記第1のセクタの前記角度の合計は120°以上であり、前記第1のセクタ(311)は、1.5mm以下の深さを有する窪んだマーキングを含む、 ことを特徴とするタイヤ。 【請求項3】 前記第1のセクタ(311)の前記窪んだマーキングは、0.5mm以上かつ0.8mm以下の間の深さを有する、 ことを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。 【請求項4】 前記第2のセクタ(312)の前記隆起したマーキングは、1.5mm以下の高さを有する、 ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤ。 【請求項5】 前記第2のセクタ(312)の前記隆起したマーキングは、0.5mm?0.8mmの高さを有する、 ことを特徴とする請求項4に記載のタイヤ。 【請求項6】 0.2mmよりも高いマーキングを含まない前記第1のセクタ(311)と、前記隆起したマーキング(3120)を含む前記第2のセクタ(312)とを有する、車両の外側にくるようになっている前記サイドウォール部は、該サイドウォール部を前記車両の外側に位置付けるようになっている特定のマークを含む、 ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のタイヤ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-12-25 |
出願番号 | 特願2015-541068(P2015-541068) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B60C)
P 1 651・ 113- YAA (B60C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 増田 亮子、河島 拓未 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 植前 充司 |
登録日 | 2018-06-15 |
登録番号 | 特許第6353456号(P6353456) |
権利者 | コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン |
発明の名称 | 空力抵抗を減少させるタイヤのサイドウォール部マーキング |
代理人 | 和田 幸大 |
代理人 | 和田 幸大 |