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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1359571
異議申立番号 異議2018-700877  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-01 
確定日 2019-12-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6321314号発明「光安定性を向上したシロドシン含有着色錠剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6321314号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6、7、8について訂正することを認める。 特許第6321314号の請求項1?6、8に係る特許を取り消す。 特許第6321314号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6321314号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年3月4日に出願された特願2016-41968号(優先権主張 平成27年4月28日、同年5月29日)の一部を、平成30年1月9日に新たな出願としたものであって、同年4月13日にその特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1?8に係る特許について、同年11月1日に特許異議申立人西野千明(以下「異議申立人」という。)により特許異議申立書が提出されたものである。
その後の主な手続の経緯は、次のとおりである。

平成31年 1月16日付け :取消理由通知書
平成31年 3月20日 :訂正請求書及び意見書
令和 1年 7月 2日付け :取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年10月 7日 :訂正請求書及び意見書

なお、平成31年3月20日にされた訂正の請求について、異議申立人は意見書を提出しなかった。また、当該訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和1年10月7日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる、口腔内崩壊錠。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄である、口腔内崩壊錠。」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を、「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.001?10.0重量%である、口腔内崩壊錠。」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を、「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01?1.0重量%である、口腔内崩壊錠。」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を、「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する、口腔内崩壊錠。」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を、「シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、シロドシンの含有量が錠剤全重量に対して、0.5?10.0重量%である、口腔内崩壊錠。」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を、「遮光剤とシロドシンを含む造粒物を賦形剤および滑沢剤と混合して打錠する工程を含む、シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠を製造する方法であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる、方法。」と訂正する。

なお、本件訂正は、一群の請求項1?8について請求されたものであり、特許権者は、訂正後の請求項2?6、8については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の遮光剤である「黄酸化鉄、褐色酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号」を削除し、本件明細書の【0009】及び【0022】の記載に基づいて、口腔内崩壊錠が「素錠」であることをさらに特定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし独立形式請求項へ改めるものであり、また、訂正前の請求項2の記載の「三二酸化鉄」を削除するものである。
したがって、訂正事項2は、引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1?2のいずれかを引用する記載であったものを、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めるものである。
したがって、訂正事項3は、引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1?2のいずれかを引用する記載であったものを、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めるものである。
したがって、訂正事項4は、引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1?4のいずれかを引用する記載であったものを、請求項2?4を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めるものである。
したがって、訂正事項5は、引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項6が訂正前の請求項1?5のいずれかを引用する記載であったものを、請求項2?5を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めるものである。
したがって、訂正事項6は、引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項7
訂正事項7は、請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項8が訂正前の請求項1?6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項2?6を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めるものである。
したがって、訂正事項8は、引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6、7、8について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる、口腔内崩壊錠。
【請求項2】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄である、口腔内崩壊錠。
【請求項3】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.001?10.0重量%である、口腔内崩壊錠。
【請求項4】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01?1.0重量%である、口腔内崩壊錠。
【請求項5】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する、口腔内崩壊錠。
【請求項6】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、シロドシンの含有量が錠剤全重量に対して、0.5?10.0重量%である、口腔内崩壊錠。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
遮光剤とシロドシンを含む造粒物を賦形剤および滑沢剤と混合して打錠する工程を含む、シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠を製造する方法であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる、方法。 」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
平成31年3月20日付け訂正請求書により訂正された請求項1?8に係る特許に対して、令和1年7月2日付けで当審が特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

請求項1?4に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項5、6、8に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知文献Eに記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

甲1:国際公開第2014/157137号
甲2:特開2008-44960号公報
甲3:特開2006-306754号公報
周知文献A:「医薬品添加物事典 2007」、2009年11月6日第2刷発行、編集 日本医薬品添加剤協会、株式会社薬事日報社、48頁、122頁
周知文献B:特開2000-7583号公報
周知文献C:国際公開第2010/087462号
周知文献D:特開2005-263790号公報
周知文献E:特開2010-229075号公報
周知文献F:特許第4648491号公報

※取消理由通知書(決定の予告)において引用した甲号証等の文献は、いずれも、本件優先日(平成27年4月28日)より前に公開されたものである。
甲1?3は、異議申立人が提出した文献であり、周知文献A?Fは、当合議体が周知技術を示すために追加した文献である。

第5 当審の判断
1 甲号証等について
(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、次のとおりの記載がある(なお、下線部は当合議体が付したものがある。以下同様。)。
(i)「[請求項1] シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を、非腸溶性高分子を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られるマスキング粒子であって、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部?400質量部である、マスキング粒子。」

(ii)「発明が解決しようとする課題
[0005] 本発明は、極めて苦味の強い薬剤であるシロドシンを、異物感なく水なしでも服用でき、かつ前立腺肥大症に伴う排尿障害等の治療に有効な血中濃度を再現できる溶出性を備えた、新規な経口投与製剤を提供することを課題とする。」

(iii)「[0012] 薬物粒子に用いられる添加剤としては、シロドシンと配合変化を起こさない種々の添加剤が用いることができ、例えば、崩壊剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、甘味剤、酸味剤、発泡剤、香料、着色剤等を適宜用いることができる。…賦形剤としては、例えば、…トウモロコシデンプン、…等が挙げられる。…滑沢剤としては、例えば、…フマル酸ステアリルナトリウム、…等が挙げられる。…着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号等の食用色素、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、カラメル色素、酸化チタン等が挙げられる。」

(iv)「[0018] (経口投与製剤)
本発明のマスキング粒子を用いて種々の剤形の経口投与製剤を製造することができる。…
[0019] 本発明の経口投与製剤は、本発明のマスキング粒子と口腔内速崩壊製剤に一般的に使用される医薬品添加物を用いて、製剤分野において慣用の方法により製造することができる。
[0020] 例えば、錠剤の場合には、本発明のマスキング粒子を、口腔内速崩壊製剤に一般的に使用される医薬品添加物と共に、直接粉末圧縮法(直打法)、造粒法等の公知の方法又はそれに準じた方法で錠剤化することにより、経口投与製剤を製造することもできる。

[0036] 本発明の経口投与製剤において、単位製剤当たりのシロドシン含量は、通常、2?8 mgであり、好ましくは、2 mg、4 mg又は8 mgである。
本発明の経口投与製剤は、例えば、錠剤の場合、1錠当たりの質量として50?500 mg、50?300 mg、100?250 mg、100?200 mg等を挙げることができ、その際のシロドシン含量としては、0.4?16%を挙げることができる。」

(v)「発明の効果
[0038] 本発明のマスキング粒子は、製剤学的に安定であり、シロドシンの極めて強烈な苦味を抑制し、市販のシロドシンの錠剤(ユリーフ(登録商標)錠)と同様の速やかな溶出性を有するので、水なしでも、異物感がなく服用できる経口投与製剤に用いることができる。また本発明の経口投与製剤は、シロドシン特有の苦味を抑制し、市販のシロドシンの錠剤(ユリーフ(登録商標)錠)と同様の速やかな溶出性及び生物学的同等性を有することから、水なしでも異物感がなく服用できるシロドシン含有製剤として有用である。」

(vi)「[0051] 〔試験例9〕
生物学的同等性試験
(1)試験方法
健康成人男性を対象として、空腹時に、シロドシン4mgを含有する試験製剤を口腔内で崩壊させて水なしで単回経口投与した場合と、シロドシン4mgを含有する市販錠(標準製剤)を水とともに単回経口投与した場合の血漿中シロドシン濃度を測定し、両製剤間の生物学的同等性を検討した。
(2)被験薬
標準製剤は、市販のユリーフ(登録商標)4mg錠を使用した。
試験製剤は、実施例10の方法に準じて表3記載の組成の錠剤を作製した。
[表3]



[0062] 実施例9

一方、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(エボニックデグサジャパン社製)6825 g、ラウリル硫酸ナトリウム(花王社製)682.5 g、ステアリン酸(マリンクロット社製)1023.8 g及びタルク(松村産業社製)2388.8 gを精製水に添加し、コーティング液(c-4)を得た。
また、D-マンニトール(三菱フードテック社製)3000 gを精製水に添加し、コーティング液(c-5)を得た。

[0063] 実施例10
シロドシン4400 g、部分アルファー化デンプン(日本カラコン社製)16192 g及びタルク(松村産業社製)1100 gを、流動層造粒乾燥機(NFLO-30SJC、フロイント産業社製)を用いて混合し、ここへヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製)308gを精製水に添加した溶液をスプレーノズルで噴霧しながら造粒を行った。得られた造粒物を、整粒機(P-02S、ダルトン社製)を用いて、スクリーンサイズφ1.0 mmにて整粒し、薬物粒子を得た。
得られた薬物粒子16250 gを、流動層造粒乾燥機(NFLO-30SJC、フロイント産業社製)に入れ、コーティング液(c-4)をスプレーし、シロドシン100質量部に対して、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEとして175質量部を被覆し、マスキング粒子を得た。
次に得られたマスキング粒子にコーティング液(c-5)をスプレーし、マスキング粒子100質量部に対して、10質量部を被覆した。得られた顆粒を30号の篩を用いて篩過し、オーバーコートしたマスキング粒子(a-10)を得た。
D-マンニトール(フロイント産業社製)19399 g、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ社製)4095 g及びクロスポビドン(ISP社製)1706 gを用いて、常法に従い造粒物(b-4)を得た。
オーバーコートしたマスキング粒子(a-10)171.5 g、造粒物(b-4)738.5 g、トウモロコシデンプン(日本食品化工社製)70 g及びフマル酸ステアリルナトリウム(PHARMATRANS SANAQ AG社製)20 gを混合し、打錠用混合物を得た。この打錠用混合物を、ロータリー打錠機(CLEANPRESS Correct 12HUK、菊水製作所社製)を用い、杵臼8 mm、打錠圧約7 kNの条件で打錠し、1錠当たりシロドシン4 mgを含有する質量200.0 mgの錠剤を得た。」

イ 上記アの記載(特に、摘記(vi))によれば、試験製剤として表3記載の組成を有する錠剤を、実施例10の方法に準じて作製したこと、及び、当該試験製剤は、口腔内で崩壊させて水なしで経口投与するものであることが記載されていることから、甲1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「シロドシンを含有する、口腔内で崩壊させて水なしで経口投与する錠剤であって、以下の組成を有する、錠剤。

<マスキング粒子>
シロドシン :4mg
部分アルファー化デンプン :14.72mg
タルク :3.45mg
ヒドロキシプロピルセルロース :0.28mg
アミノアルキルメタクリレートコポリマーE:7mg
ラウリル硫酸ナトリウム :0.7mg
ステアリン酸 :1.05mg
<医薬品添加物>
D-マンニトール、結晶セルロース、クロスポビドン、トウモロコシデンプン、フマル酸ステアリルナトリウム、着色剤、甘味剤、香料:合計169.4mg
(マスキング粒子と医薬品添加物の合計 200.6mg)」(以下「甲1発明」という。)

「甲1発明を製造する方法であって、
シロドシン、部分アルファー化デンプン、タルク、ヒドロキシプロピルセルロースを含む造粒物に、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを被覆し、更にD-マンニトールをオーバーコートしたマスキング粒子に、D-マンニトール、結晶セルロース及びクロスポビドンを含む造粒物と共に、トウモロコシデンプン及びフマル酸ステアリルナトリウムを混合して、打錠する方法。」(以下「甲1’発明」という。)

(2)甲2の記載
ア 甲2には、次のとおりの記載がある。

「【請求項1】a)活性成分として式:
【化1】


で表される化合物、b)D-マンニトール、c)コーンスターチ、d)低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、およびe)ヒドロキシプロピルセルロースを含有してなる錠剤であって、該錠剤は、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)で水を試験液とし、回転数を50回/分とする溶出試験における85%溶出時間が60分以下であることを特徴とする錠剤。

【請求項5】
さらに滑沢剤を含むことを特徴とする、請求項1記載の錠剤。

【請求項8】
遮光性コーティングの施された、請求項1?7のいずれか一項記載の錠剤。
【請求項9】
遮光性コーティング剤が、酸化チタンを配合した、請求項8記載の錠剤。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は排尿障害治療用経口固形医薬に関するものである。詳しくは、活性成分として、α1-アドレナリン受容体(以下、α1-ARという)遮断作用を有する、式(I)(合議体注:省略。請求項1記載の式)で表されるインドリン化合物(以下、KMD-3213という)、そのプロドラッグ、若しくはそれらの薬理学的に許容される塩、またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を含有する排尿障害治療用医薬であって、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)で、水を試験液とし、回転数を50回/分とする溶出試験における85%溶出時間が60分以下である経口固形医薬に関するものである。」

「【0011】
KMD-3213は光に対して比較的不安定であり、また、医薬品添加物の種類によっては配合変化を起こして分解物を生じやすく、さらに、賦形剤として最も一般的な乳糖との相性も悪く、乳糖を使用した場合、良好な溶出特性が得られにくく、錠剤の硬度が低くなるなどの問題を有している。また、KMD-3213は付着性が強く、錠剤またはカプセル剤の製造において滑沢剤が不可欠である一方で、この滑沢剤添加による溶出時間の遅延を生じやすいなどの問題を有している。従って、KMD-3213若しくはその薬理学的に許容される塩、またはそれらの薬理学的に許容される溶媒和物を含有する経口固形医薬は、通常の製造方法によっては、実用に供されうる製剤を製造することが困難である。」

「【0040】
本発明の経口固形医薬に活性成分として含有されるKMD-3213は光に対して比較的不安定で、保存方法によっては経時的に活性成分の含有量が減少するため、保存及び取扱いに注意を要する。従って、通常の製剤の場合、遮光性の包装での保存が必須であるが、不透明の包装では異物等の混入の判別が困難で、不良品の検査に支障をきたす危険性が高く、さらに、実際に服用する患者は、遮光包装から取り出した状態で保管することも予想されるため、遮光包装の必要のない光安定性の高い製剤が望まれる。
【0041】
このため、カプセルまたはコーティング剤に配合させるに好適な遮光性物質について検討した結果、遮光性物質としては酸化チタンが最も好適であり、酸化チタンを配合したカプセルまたは酸化チタンを配合したコーティング剤を使用することによって、極めて良好な、光安定性の高いカプセル剤または錠剤を製造できることを見出した。
【0042】
光安定性は、各光分解物(類縁物質、以下類縁物質という)の量(%)および全類縁物質の総量(%)について各々上限規格を設定し、基準曝光量における類縁物質の生成量が設定規格以下であるかなどによって判定される。病院薬局の照明の基準は、JIS規格に、300?750ルクス/時間とされている。…一方、医療用医薬品のガイドラインには、光安定性試験の曝光量として、総照度120万ルクス/時間以上とされている。従って、医療用医薬品の場合、この約120万ルクス/時間の曝光量での安定性試験において安定であることが求められる。」

「【0081】
実施例1
KMD-3213 2.0mg含有カプセル剤
KMD-3213 2.0部、D-マンニトール 134.4部、部分α化デンプン「PCS(登録商標)」(旭化成株式会社製) 26.0部および部分α化デンプン「スターチ1500(登録商標)」(日本カラコン株式会社製) 9.0部の混合物をよく混合し、これに適量の水を加えて練合し、造粒した。造粒物を流動層造粒乾燥機により、給気60℃で排気40℃まで乾燥し、篩過して顆粒を製した。これにステアリン酸マグネシウム 1.8部およびラウリル硫酸ナトリウム 1.8部の混合物を添加し、5分間混合し、カプセルに充填して、1カプセル中2.0mgのKMD-3213を含有するカプセル剤を製した。」

「【0088】
試験例6
酸化チタン配合カプセルの光安定性試験
酸化チタン1.2%配合カプセル(カプセルA)、酸化チタン2.4%配合カプセル(カプセルB)および酸化チタン3.6%配合カプセル(カプセルC)を用い、実施例1記載の方法に従ってそれぞれのカプセルに充填したカプセル剤について光安定性試験を行った。対照として、酸化チタン1.2%配合カプセル(カプセルA)のPTP包装品をアルミ袋に入れて遮光したものを同様に試験した。
各カプセル剤について、試験開始前、約67.2万ルクス/時間の曝光後および約120万ルクス/時間の曝光後、内容物を取り出し、外観観測および光分解物(類縁物質)の定量を行った。なお、光分解物は下記HPLC分析方法により定量し、変色は肉眼観察で行った。

【0091】
結果は図5および表6に示すとおり、カプセルA(酸化チタン1.2%配合)では、約67.2万ルクス/時間の曝光量でも外観および類縁物質総量において設定規格に適合せず、カプセルB(酸化チタン2.4%配合)では、約120万ルクス/時間の曝光量で設定規格限界乃至は不適合であり、カプセルC(酸化チタン3.6%配合)では、120万ルクス/時間の曝光量でも外観および類縁物質総量共に安定で、設定規格に適合した。
【0092】
【表6】




イ 上記アの記載によれば、甲2には、「KMD-3213は光に対して比較的不安定であり」(【0011】)と記載され、KMD-3213は、【請求項1】【0001】の構造式からみてシロドシンである。また、甲2には、試験例6(【0088】?【0092】)において、シロドシンを含むカプセルA及びBに対する曝光量を増加させると、シロドシンの光分解物である類縁物質の量が増加し、色調が白色から帯黄白色、淡黄色へと変化することが記載されている。
したがって、シロドシンが、光に対して比較的不安定であり、光照射により分解し類縁物質の量が増加したり、色調が変化することは、当業界において知られていた事項である。

(3)着色剤に関する周知技術
ア 甲3の記載
甲3には、次のとおりの記載がある。

「【請求項1】
(a)アムロジピンまたはその薬学上許容される塩、および(b)酸化鉄を含有し、かつ被覆層を有しない経口固形組成物。
【請求項2】
実質的に酸化チタンを含有しない経口固形組成物である、請求項1記載の経口固形組成物。
【請求項3】
口腔内崩壊型製剤である、請求項1または2記載の経口固形組成物。

【請求項7】
酸化鉄が黄色三二酸化鉄である、請求項1?6のいずれかに記載の経口固形組成物。

【請求項9】
(a)アムロジピンまたはその薬学上許容される塩、および(b)酸化鉄の混合物を造粒して得られる組成物を含有する、請求項1?8のいずれかに記載の経口固形組成物。」

「【背景技術】
【0002】
ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬であるアムロジピンは充分かつ恒常的な血管拡張作用と頻脈をきたし難い性質から、降圧療法の中心的な役割を果たしている。しかし、アムロジピンはジヒドロピリジン系化合物の中では光分解を受けにくい化合物ではあるが、曝光量が多い場合には分解を受け、活性物質としての効力が低下することがある。このため、アムロジピン含有経口固形組成物には光に対する安定性を確保するための技術が必要であった。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、アムロジピンまたはその薬学上許容される塩の光による変色及び分解を簡便に防止し、光安定化した経口固形組成物を提供することである。」

「【0009】
さらに本発明者らは、後述する試験例に示したように、アムロジピンに酸化チタンを配合した場合には光による分解は逆に促進され、安定性は改善されないことを見出した。」

「【発明の効果】
【0013】
本発明によって、非常に簡便に光に安定なアムロジピン含有の経口経口固形組成物を提供することが可能である。また、これによってコーティングを施すことが出来ないアムロジピンの口腔内崩壊錠等の易服用性製剤の光安定化による品質維持が可能となり、高齢者等の嚥下困難な患者や多忙な社会生活を送る人々がどのような場面においても容易に服用することが可能な、光に対して安定なアムロジピン経口固形組成物を提供できる。」

「【実施例1】
【0031】
錠剤処方(mg)
【0032】



実施例1?3および比較例1?8に関しては表1の処方に従い、処方の12倍量の各成分を乳鉢にてよく混合した後、1錠処方量を秤取して油圧式プレス機(理研製)を用いて50kgfの圧力で圧縮し、直径7mmの錠剤を得た。
【0033】
試験例
実施例1?3および比較例1?8の製剤について光安定性試験を実施した。蛍光灯4000ルクス×2週間における外観及び酸化体の生成量の結果を表2に示す。なお、酸化体(2-[(2-アミノエトキシ)メチル]-4-(o-クロロフェニル)-6-メチル-3,5-ピリジンジカルボン酸 3-エチルエステル 5-メチルエステル)の定量は液体クロマトグラフ法により分析した。 …
【0034】
【表2】

(酸化体量は、HPLCの面積百分率値に補正係数の2をかけた数値(酸化体のUV吸収強度がアムロジピンの1/2であるため))」

イ 周知文献A
周知文献Aには、次のとおりの記載がある。

「黄色三二酸化鉄

【概要】黄色?帯褐黄色の粉末.においはない.水にほとんど溶けない.加温した塩酸に溶ける.

【用途】着色剤
【投与経路・最大使用量】経口投与5.67mg,一般外用剤0.8mg/g.」(48頁)

「三二酸化鉄

【概要】赤色?赤褐色又は暗赤紫色の粉末.においはない.水にほとんど溶けない.加温した塩酸に溶ける.

【用途】着色剤
【投与経路・最大使用量】経口投与95.4mg,一般外用剤93mg/g,舌下適用微量」(122頁)

ウ 周知文献B
周知文献Bには、次のとおりの記載がある。

「【請求項1】光に不安定な脂溶性薬物に黄色及び赤色の着色剤から選ばれる1種以上の物質を配合してなる光安定性の向上した組成物。
【請求項2】黄色の着色剤が黄色三二酸化鉄、黄酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用黄色4号アルミニウムレーキ及びベンガラ、赤色の着色剤が三二酸化鉄、食用赤色2号、食用赤色3号及び食用赤色102号である請求項1記載の組成物。
【請求項3】光に不安定な脂溶性薬物が、ビタミンKである請求項1記載の組成物。
【請求項4】ビタミンKがメナテトレノン、フィトナジオン又はメナジオンである請求項3記載の組成物。
【請求項5】光に不安定な脂溶性薬物、油状成分並びに、黄色及び/又は赤色の着色剤を水溶性高分子溶液中に均一に乳化、分散又は懸濁させ、製剤化助剤を加えて混合、造粒又はコーティングし、乾燥してなる光安定性の向上した製剤。

【請求項8】製剤が、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、硬カプセル剤である請求項5記載の製剤」

「【0009】
【発明の効果】本発明によるとメナテトレノン、フィトナジオン等のビタミンKに代表される光に非常に不安定な脂溶性薬物の安定化が可能である。その効果例を以下に示す。
実験例
【0010】本願発明に係る細粒中に添加された着色剤による光安定化効果
着色剤未添加の細粒剤を対照にして、下記に示す実施例1?3で得られた着色剤の添加された細粒剤を透明な瓶に入れ、光波長特性の異なる蛍光燈とキセノンランプ照射の2光源下で保存し、高速液体クロマトグラフィーにより含量を測定した。表1に対照例と実施例1?3の処方を示した。また、冷暗所保存品の含量を100%としたときの各条件下における残存率を表2に示した。なお、蛍光燈1000Lux光の照射は、2週間照射(336000 Lux・hr照射)および30日間照射(720000 Lux・hr照射)を、キセノンランプ20000Lux光照射は2日間照射(336000Lux・hr照射)と4日間照射(720000 Lux・hr照射)を行った。
【0011】
【表1】

【0012】
【表2】

【0013】表1?2より、本願発明に係る食用黄色4号、食用黄色5号、食用黄色4号アルミニウムレーキは、メナテトレノン、フィトナジオン、メナジオン等のビタミンKに代表される光に非常に不安定な脂溶性薬物を安定化することが明らかである。」

エ 周知文献C
周知文献Cには、次のとおりの記載がある。

「[請求項1] 内核とその表面を覆う外層を有する口腔内崩壊錠であって、内核が光に不安定な薬物を含有し、外層が光吸収物質を含有する口腔内崩壊錠。
[請求項2] 光吸収物質が、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄、カルミン、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィル及びベンガラからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の口腔内崩壊錠。

[請求項4] 光吸収物質が、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄および黒酸化鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1?3のいずれかに記載の口腔内崩壊錠。

[請求項11] 光に不安定な薬物を含む錠剤を、光吸収物質を含有する外層で被覆することを特徴とする、該光に不安定な薬物の安定化方法。」

「[0004]…酸化チタンは光触媒作用があり、薬物によっては光によって分解促進することもある。」

「[0015] 本発明において、「光に不安定な薬物」とは、例えば、その薬物に光吸収物質や光遮蔽物質等の光安定化物質を添加せずに薬物含量5重量%の素錠としたもの(但し、本発明のような有核錠は含まない)を、「STABILITY TESTING: PHOTOSTABILITY TESTING OF NEW DRUG SUBSTANCES AND PRODUCTS」 (Recommended for Adoption at Step 4 of the ICH Process on 6 November 1996 by the ICH Steering Committee)の記載にもとづいて、総照度120万lux・hr、総近紫外放射エネルギーとして200W・h/m^( 2) の光を照射したときに、分解物を認め、含量低下が1.0%以上認められるもの、あるいは素錠の表面に変色等の外観変化、例えば分光式色差計を用い、L*^( )a* b* 表色系で測定した場合の色差ΔEの値が3以上である薬物である。光に不安定な薬物としては、例えばニフェジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、ベニジピン、マニジピン、バルニジピン、エホニジピン、ニルバジピンなどのジヒドリピリジン骨格を持つ薬物、ノルフロキサシン、オフロキサシン、ロメフロキサシン、スパルフロキサシンなどのニューキノロン系の薬物、ビタミンA、B2、B6、B12、D、Kなどのビタミン剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
[0016] 本発明において「光吸収物質」としては、薬物の光分解に関与する波長を吸収することで白色以外の着色作用を有する物質を意味し、具体的には医薬品添加物に用いることのできる白色顔料を除く着色剤、色素等が挙げられる。例えば、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄、カルミン、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィル、ベンガラ等が挙げられる。これら1種または2種以上を混合して用いることができる。…さらに好ましくは黄色三二酸化鉄および三二酸化鉄が挙げられ、これらを混合して用いることもできる。」

「[実験例1]
錠剤処方(mg)
[0036]
[表1]




「[0041] 試験例1
実施例1?3および比較例1?4の錠剤について光安定性試験を実施した。
[0042] 錠剤への光照射の条件を以下に示す。錠剤を、光安定性試験装置(ナガノ科学機械製作所、型式:LT-120D3CJ)、色比較・検査用D65昼光色(20W、FLR20S-D-EDL-D65/M)を用いて、3500Lux にて8日間光を照射した。
[0043] 光照射後の錠剤中のニフェジピンの分解物(酸化体)を液体クロマトグラフ法(HPLC)により定量した。
[0044] 光照射後の錠剤の外観の変化は、色の変化を目視で観察した。その結果を表2に示す。」

「[0050]
[表2]




オ 周知文献D
周知文献Dには、次のとおりの記載がある。

「【請求項1】
(1)ワルファリンカリウムを含有する核と、(2)三ニ酸化鉄及び/または黄色三ニ酸化鉄を含有し、前記核を被覆する被膜とを含む医薬組成物。
【請求項2】
前記核は、三ニ酸化鉄及び/または黄色三ニ酸化鉄を、さらに含有する請求項1に記載の医薬組成物。」

「【0003】
また、ワルファリンカリウムは光により含量低下を生じたり、変色することが知られている。」

「【0036】
(試験例2)
試験例1と同様な保存方法並びに評価方法を用いて、実施例7?8、参考例2?3を評価した。評価結果を表2に示した。その結果、黄色三ニ酸化鉄、あるいは黄色三ニ酸化鉄及び三ニ酸化鉄を含有する皮膜で被覆したワルファリンカリウム含有医薬組成物はワルファリンカリウム含量及び製剤の外観変化は少なく、光安定性に優れていた。一方、タール系色素で被覆した医薬組成物は、三ニ酸化鉄や黄色三ニ酸化鉄を含有した医薬組成物と比較して、光安定性に対する効果は低く、さらに外観観察では、商品性や識別性に影響を与えるほど著しい退色が認められた。
【0037】
【表2】



カ 周知文献E
周知文献Eには、次のとおりの記載がある。

「【請求項1】
イミダフェナシン含有顆粒を圧縮成型する製剤において、顆粒中のイミダフェナシンの濃度が0.001?3質量%であり、かつ錠剤中に三二酸化鉄を0.05質量%以上含有することを特徴とする口腔内崩壊錠。」

「【0014】
また、光安定化のため三二酸化鉄で配合する。本発明で使用される三二酸化鉄は、黄色三二酸化鉄又は赤色三二酸化鉄であり、これらは単独若しくは混合して用いることができる。
三二酸化鉄の含有量は、錠剤中0.001質量%以上が好ましく、さらに好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。」

「【0023】
実施例1
イミダフェナシン4.0g、コリドン90F(BASF)4g及び三二酸化鉄(癸巳化成)4gを精製水194g、エタノール194gの混液に溶解分散した。スターチ1500G(日本カラコン)388gを流動層造粒機(ダルトン製、NQ‐160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:159μm)。さらに、この造粒物25g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)374.5g、ポリプラスドンXL-10(ISP)45g及びカープレックス#67(DSLジャパン)1gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)4.5gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧850kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5kg(n=5)を示した。

【0028】
試験例1
実施例1?5及び比較例1の製剤について純度試験を実施した。光線照射前後の分解物の生成量の結果を表1に示す。…
【0030】
【表1】

顆粒中に三二酸化鉄を配合した実施例1?3の製剤や顆粒を三二酸化鉄でコーティングした実施例4,5の製剤は、三二酸化鉄を配合していない比較例1と比べて光線照射による分解物の生成量は小さかった。」

キ 周知文献F
周知文献Fには、次のとおりの記載がある。

「【請求項1】
(i)式(I)



[式中、Aは、単結合、-CH=CH-または(CH2)_(n)-(式中、nは1?3の整数を表す)を表し、R^(1)およびR^(2)は同一または異なって水素または低級アルキルを表すか、または隣接する窒素原子と一緒になって複素環基を形成する]で表されるジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩、(ii)酸化鉄、ならびに(iii)糖、デンプン、デンプン誘導体、セルロース、セルロース誘導体および糖アルコールから選ばれる1以上を含有する薬物含有顆粒を含有し、該薬物含有顆粒中のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩の量が、該薬物含有顆粒の量100質量部に対して0.1?30質量部であり、該薬物含有顆粒中の酸化鉄の量が、該薬物含有顆粒中のジベンゾ[b,e]オキセピン誘導体またはその薬学的に許容される塩の量1質量部に対して0.01?1質量部であり、該薬物含有顆粒内で(i)?(iii)が混ざり合っている、固形製剤。

【請求項4】
酸化鉄が、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄またはそれらの組み合わせである、請求項1?3のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項5】
薬物含有顆粒が、酸化チタンを含まない薬物含有顆粒である、請求項1?4のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項6】
固形製剤が、ドライシロップまたは口腔内崩壊錠である、請求項1?5のいずれかに記載の固形製剤。」

「【0016】
本発明における酸化鉄としては、特に限定されないが、例えば、三二酸化鉄(ベンガラ、Fe_(2)O_(3))、黄色三二酸化鉄(Fe_(2)O_(3)・H_(2)O)、黄酸化鉄、鉄黒酸化鉄等があげられ、好ましくは、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄またはそれらの組合せがあげられる。」

「【実施例4】
【0046】
遠心転動型造粒装置(CF-360;CFグラニュレーター360、フロイント産業製、以下同じ)を用いて、核粒子としての精製白糖球状顆粒2000gに、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液(5.9重量%)をスプレーしながら、化合物(A)23.6gと表3に示した組成比に従った量の各添加剤との混合物(固体)を粉末コーティングし、本発明における薬物含有顆粒を得た。
次いで、得られた薬物含有顆粒に対し、同様にヒドロキシプロピルセルロース水溶液(5.9重量%)をスプレーしながら、表3に示した組成比に従った量の各添加剤の混合物(固体)を粉末コーティングし、乾燥を経て、本発明における酸化鉄含有部を製し、本発明における薬物含有顆粒および本発明における酸化鉄含有部を含有する素顆粒を得た。
表3の組成比に従って、フィルムコーテング層の成分を精製水に溶解および分散し、固形分濃度11.6重量%のスプレー液を用意した。上記で得られた素顆粒にスプレー液をスプレーして、フィルムコーテングし、乾燥後、表3に示した組成比に従った量の軽質無水ケイ酸を添加し、ポリ袋内、手動で振とう混合し、本発明の固形製剤を得た。
【0047】
【表3】



「【0052】
試験例2
実施例1?7で得られた各固形製剤について、光安定性を評価した。各固形製剤(顆粒)をプラスチックシャーレに厚さ3 mmになるように仕込み、光安定性試験装置(LTX-01、光源:キセノンランプ)内で30000 Lux -25℃/60%RHの条件下で20時間(60万Lux・時)及び40時間(120万Lux・時))照射した。曝光後、試験例1と同様に高速液体クロマトグラフィーにより、化合物(A)の類縁物質生成量を求めた。結果を表5に示す。
【表5】



ク 上記イの記載によれば、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄は、それぞれ、医薬品に添加される着色剤として周知である(周知文献A)。
そして、上記ア、ウ?キの記載によれば、光に対して不安定である様々な構造の有効成分を含む医薬製剤において、黄色三二酸化鉄や三二酸化鉄などの着色剤を添加することにより、有効成分の光安定性を向上させて、有効成分の分解や類縁体の生成を抑制したり(甲3、周知文献B?F)、医薬製剤の色調変化を抑制することは(甲3、周知文献C、D)、当業界において広く行われていた周知技術であり、必ずしも、あらゆる構造の有効成分に対して、全ての着色剤が光安定性を向上させるわけではないものの、着色剤である黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄は、有効成分の光安定性を向上させる手段として主要なものであったといえる。

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「口腔内で崩壊させて水なしで経口投与する錠剤」は、本件発明1の「口腔内崩壊錠」に相当するから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。<一致点>
「シロドシンを含有する口腔内崩壊錠。」
<相違点1-1>
本件発明1においては、口腔内崩壊錠が「素錠」であるのに対し、甲1発明においては、「素錠」であることは特定されていない点。
<相違点1-2>
本件発明1においては、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる」「遮光剤」を含有するのに対し、甲1発明においては、「着色剤」を含有する点。

(2)判断
ア 相違点1-1について
甲1発明に係る錠剤は、当該錠剤を何らかの材料でコーティングすることは特定されていないから「素錠」であると認められる。
したがって、相違点1-1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点1-2について
甲1には、「着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号等の食用色素、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、カラメル色素、酸化チタン等が挙げられる。」(摘記(iii))と記載されている。
そうすると、甲1発明における着色剤として、甲1に具体的に記載された7つの着色剤のうち「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いることは、当業者が適宜なし得たことといえる。
そして、本件発明1における「遮光剤」は、「特定の遮光剤によって特定の色で着色されたシロドシン含有口腔内崩壊錠」(本件明細書【0008】)との記載によれば、シロドシン含有口腔内崩壊錠を「特定の色で着色」するものであるから、甲1発明における「着色剤」は、本件発明1における「遮光剤」と実質的に区別はできない。
したがって、甲1発明における着色剤として、甲1に具体的に記載された着色剤である「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いて、相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 効果について
(ア)上記1(2)イのとおり、甲2の記載によれば、シロドシンが、光に対して比較的不安定であり、光照射により分解し類縁物質の量が増加したり、色調が変化することは、当業界において知られていた事項である。
また、上記1(3)クのとおり、光に対して不安定である様々な構造の有効成分を含む医薬製剤において、黄色三二酸化鉄や三二酸化鉄などの着色剤を添加することにより、有効成分の光安定性を向上させて、有効成分の分解や類縁体の生成を抑制したり、医薬製剤の色調変化を抑制することは、当業界において広く行われている周知技術であり、必ずしも、あらゆる構造の有効成分に対して、全ての着色剤が光安定性を向上させるわけではないものの、着色剤である黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄は、有効成分の光安定性を向上させる手段として主要なものであったといえる。
そうすると、甲1発明における着色剤として、光安定性を向上させる手段として主要なものであった「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いた場合に、シロドシンの光安定性が向上し、シロドシン由来の分解産物(類縁体)の発生量が抑制され、錠剤の色調変化が防止されるという効果は、当業者が予測可能な範囲内のものということができる。

(イ)本件明細書の【0020】には、黄酸化鉄等の具体的に挙げられた10個の遮光剤のうち、好ましいものとして「食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」、より好ましいものとして「黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄」が記載されている。
そして、本件明細書の図1?6には、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキのいずれかを用いた実施例1?7の錠剤と、遮光剤を用いないか酸化チタンを用いた比較例1?4の錠剤とについて、光照射前後のデヒドロ体(図1、4)と総類縁物質(図2、5)の含有量の変化と、光照射前後の錠剤色差(図3、6)が記載されている。
これらの記載によれば、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いると、遮光剤を用いない場合や酸化チタンを用いた場合に比べて、光照射後のデヒドロ体と総類縁物質の含有量が少なく、錠剤色差が小さいという効果を奏するが、食用黄色4号又は食用黄色4号アルミニウムレーキを用いた場合とは、デヒドロ体・総類縁物質の含有量と錠剤色差はそれほど変わらないことが理解できる。

しかし、甲3(【0009】)や周知文献C([0004])に記載されるように、酸化チタンは光触媒作用があり、薬物によっては光によって分解促進することもある旨が記載されていることから、酸化チタンを用いた比較例2、3の錠剤に比べ、光触媒作用のない黄色三二酸化鉄や三二酸化鉄を用いた実施例1?5の錠剤が、光安定性に優れることは、当業者が予測可能な程度のものといえる。
そして、令和1年10月7日付け意見書で示された追加の実験結果を含む図A.?H.をみると、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」は、甲1に記載された食用黄色5号、食用赤色2号、カラメル色素に比べ、光照射後のデヒドロ体・総類縁物質の含有量及び錠剤色差が小さいことが示されているが、これらの差は、着色剤の種類によって生じる差として当業者が想定する程度のものにすぎず、この差をもって、本件発明1の効果が、進歩性を肯定できる程に格別顕著であるということはできない。

(ウ)したがって、本件発明1において「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いたことによる効果は、当業者が予測可能であり格別顕著なものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件発明2について
(1)対比
本件発明2と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「シロドシンを含有する口腔内崩壊錠。」
<相違点2-1>
本件発明2においては、口腔内崩壊錠が「素錠」であるのに対し、甲1発明においては、「素錠」であることは特定されていない点。
<相違点2-2>
本件発明2においては、「黄色三二酸化鉄である」「遮光剤」を含有するのに対し、甲1発明においては、「着色剤」を含有する点。

(2)判断
ア 相違点2-1について
相違点1-1と同様の理由により、相違点2-1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点2-2について
相違点1-2と同様の理由により、甲1発明における着色剤として、甲1に具体的に記載された着色剤である黄色三二酸化鉄を用いて、相違点2-2に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 効果について
本件発明1と同様の理由により、本件発明2において「黄色三二酸化鉄」を用いたことによる効果は、当業者が予測可能なものであり格別顕著なものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 本件発明3、4について
(1)対比
本件発明3、4と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「シロドシンを含有する口腔内崩壊錠。」
<相違点3・4-1>
本件発明3、4においては、口腔内崩壊錠が「素錠」であるのに対し、甲1発明においては、「素錠」であることは特定されていない点。
<相違点3・4-2>
本件発明3、4においては、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる」「遮光剤」を含有するのに対し、甲1発明においては、「着色剤」を含有する点。
<相違点3・4-3>
本件発明3においては、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して「0.001?10重量%」、本件発明4においては「0.01?1.0重量%」と特定されているのに対し、甲1発明においては、着色剤の含有量が特定されていない点。

(2)判断
ア 相違点3・4-1について
相違点1-1と同様の理由により、相違点3・4-1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点3・4-2について
相違点1-2と同様の理由により、甲1発明における着色剤として、甲1に具体的に記載された着色剤である「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いて、相違点3・4-2に係る本件発明3、4の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 相違点3・4-3について
遮光剤の含有量である「0.001?10.0重量%」又は「0.01?1.0重量%」という数値は、着色剤の含有量として一般的な範囲のものであるから、甲1発明における着色剤の含有量を、「0.001?10.0重量%」又は「0.01?1.0重量%」の範囲内とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

エ 効果について
本件発明1と同様の理由により、本件発明3、4において「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いたことによる効果は、当業者が予測可能なものであり格別顕著なものとはいえない。
また、遮光剤の含有量に臨界的意義があるとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明3、4は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 本件発明5について
(1)対比
本件発明5と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「シロドシンを含有する口腔内崩壊錠。」
<相違点5-1>
本件発明5においては、口腔内崩壊錠が「素錠」であるのに対し、甲1発明においては、「素錠」であることは特定されていない点。
<相違点5-2>
本件発明5においては、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる」「遮光剤」を含有するのに対し、甲1発明においては、「着色剤」を含有する点。
<相違点5-3>
本件発明5においては、「遮光剤とシロドシンを含む造粒物」を含有するのに対し、甲1発明においては、対応する事項が特定されていない点。

(2)判断
ア 相違点5-1について
相違点1-1と同様の理由により、相違点5-1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点5-2について
相違点1-2と同様の理由により、甲1発明における着色剤として、甲1に具体的に記載された着色剤である「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いて、相違点5-2に係る本件発明5の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 相違点5-3について
錠剤において、着色剤を、有効成分と共に造粒物として存在させる手法も一般的であるから(周知文献E:実施例1等参照)、甲1発明において、着色剤をシロドシンと共に造粒物としてから錠剤とし、相違点5-3に係る本件発明5の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

エ 効果について
本件発明1と同様の理由により、本件発明5において「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いたことによる効果は、当業者が予測可能なものであり格別顕著なものとはいえない。
また、本件発明5において、シロドシンと遮光剤を造粒物とすることによる効果も、当業者の予測可能な程度のものである。

(3)小括
以上のとおり、本件発明5は、甲1に記載された発明及び周知文献Eに記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 本件発明6について
(1)対比
甲1発明における錠剤全重量に対するシロドシンの含有量は、約2.0重量%(4mg÷200.6mg)であり、本件発明6のシロドシンの含有量「0.5?10.0重量%」と重複一致している。
そうすると、本件発明6と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「シロドシンを含有する口腔内崩壊錠であって、シロドシンの含有量が錠剤全重量に対して、0.5?10.0重量%である、口腔内崩壊錠。」
<相違点6-1>
本件発明6においては、口腔内崩壊錠が「素錠」であるのに対し、甲1発明においては、「素錠」であることは特定されていない点。
<相違点6-2>
本件発明6においては、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる」「遮光剤」を含有するのに対し、甲1発明においては、「着色剤」を含有する点。

(2)判断
ア 相違点6-1について
相違点1-1と同様の理由により、相違点6-1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点6-2について
相違点1-2と同様の理由により、甲1発明における着色剤として、甲1に具体的に記載された着色剤である「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いて、相違点6-2に係る本件発明6の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 効果について
本件発明1と同様の理由により、本件発明6において「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を用いたことによる効果は、当業者が予測可能なものであり格別顕著なものとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明6は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 本件発明8について
本件発明8と甲1’発明とを対比すると、甲1の摘記(iii)の記載によれば、甲1’発明の「トウモロコシデンプン」「フマル酸ステアリルナトリウム」は、それぞれ本件発明8の「賦形剤」「滑沢剤」に相当する。
そうすると、本件発明8と甲1’発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「シロドシンを含む造粒物を賦形剤及び滑沢剤と混合して打錠する工程を含む、シロドシンを含有する口腔内崩壊錠の製造方法。」
<相違点8-1>
本件発明8においては、口腔内崩壊錠が「素錠」であるのに対し、甲1’発明においては、「素錠」であることは特定されていない点。
<相違点8-2>
本件発明8においては、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる」「遮光剤」を含有するのに対し、甲1’発明においては、「着色剤」を含有する点。
<相違点8-3>
本件発明8においては、遮光剤がシロドシンを含む造粒物に含まれているのに対し、甲1’発明においては、対応する事項が特定されていない点。

(2)判断
ア 相違点8-1について
相違点1-1と同様の理由により、相違点8-1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点8-2について
相違点1-2と同様の理由により、甲1’発明において、着色剤を「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」とし、相違点8-2に係る本件発明8の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

ウ 相違点8-3について
錠剤において、着色剤を、有効成分と共に造粒物として存在させる手法も一般的であるから(周知文献E:実施例1 等参照)、甲1’発明において、シロドシンと着色剤を共に造粒物としてから錠剤とし、相違点8-3に係る本件発明8の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

エ 効果について
本件発明8の特定の製造方法としたことにより、格別優れた効果を奏するとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明8は、甲1に記載された発明及び周知文献Eに記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 令和1年10月7日付け意見書における特許権者の主張について
(1)特許権者は、甲2においては、原薬自体の光安定性について述べるか(【0011】)又はカプセル剤についての試験結果が記載される(試験例6)に留まり、錠剤におけるシロドシンの光安定性について何ら示唆しておらず、また、甲2の【請求項8】には、シロドシンを含有する錠剤に、遮光性コーティングを施すことが記載されているとしても、そのことが、錠剤においてシロドシンが光に不安定であることを前提として記載されているものと当業者が理解するとはいえない旨を主張する(意見書6頁7行?7頁8行)。

しかしながら、甲2には、シロドシンの原薬自体が光に対して比較的不安定であり(【0011】)、経口固形製剤に活性成分として含有されるシロドシンも光に対して比較的不安定なため、通常の製剤の場合、遮光包装での保存が必須であったところ、遮光包装の必要のない光安定性の高い製剤が望まれており(【0022】【0040】)、このため、カプセル又はコーティング剤に配合される遮光性物質について検討し、遮光性コーティングの施された錠剤としたことが記載されている(【0041】【請求項8】)。
これらの記載によれば、錠剤においてもシロドシンが光に不安定であることを前提としていることは当業者において明らかであり、これに反する特段の事情は見出せない。
したがって、特許権者の上記主張は採用できない。

(2)特許権者は、製剤設計は主薬の物理化学的性質を考慮して、個別の製剤ごとに設計がなされる(乙1?2)という技術常識を踏まえれば、甲3及び周知文献B?Fに記載された、物理化学的性質が異なる他の化合物における遮光剤による光安定性の挙動から、シロドシンにおける光安定性の挙動を予測して把握するといったことは、当業者において一般的に行われるとは認められないから、本件発明の効果が、甲3及び周知文献B?Fを参照して予測可能であるということはできない旨を主張する(意見書8頁4?17行)。

しかしながら、甲3及び周知文献B?Fのいずれも、光照射により、有効成分の分解、類縁体の生成や色調変化が生じることから、光安定性を向上させるために、医薬品に添加できる周知の着色剤である黄色三二酸化鉄や三二酸化鉄等を添加したものであって、様々な構造の有効成分(特に、周知文献Bは「脂溶性薬物」を対象したものであり、薬物の構造は特定していない。)について着色剤により光安定性が向上しているのであるから、甲3及び周知文献B?Fに具体的に記載された特定の有効成分だけでなく、化学構造や物理化学的性質が異なる他の有効成分についても着色剤による光安定性の向上の作用が期待できることを、当業者が認識していたとするのが相当である。
特許権者が提示した乙3(ピタバスタチンカルシウム)、乙4(ソファルコン)、乙5(ラフチジン)、乙6(イルベサルタン、アムロジピンベシル酸塩)には、甲3及び周知文献B?Fと異なる有効成分に対しても、着色剤である黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄が、光照射による類縁体の生成や色調の変化を抑制することが記載されていることも、上記の当業者の認識を裏付けるものといえる。
そして、特許権者が主張する「製剤設計は主薬の物理化学的性質を考慮して、個別の製剤ごとに設計がなされる(乙1?2)という技術常識」は、医薬品の製剤設計の一般論であり、上記の当業者の認識が誤りであることを直接示すものではない。
そうすると、上記2(2)ウ(ア)に示したとおり、光照射により分解し類縁物質の量が増加したり色調が変化することが知られていたシロドシンに対しても、着色剤である黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄が、光照射による類縁体の生成と色調の変化を抑制するという本件発明の効果は、当業者が予測可能であるということができる。
したがって、特許権者の上記主張は、採用できない。

(3)特許権者は、当該技術分野においては、類縁体の生成の抑制と色調変化の抑制とは必ずしも相関しないということが技術常識であり(乙8?11)、追加の実験データを含む図A.?H.に示されるように、本件発明に係る口腔内崩壊錠が、様々な遮光剤を用いた製剤の中でも、類縁体の生成の抑制と製剤の色調変化の抑制とを同時に優れたレベルで示すことができるということは、本件発明の予想外に顕著に有利な効果であり、本件発明の進歩性を肯定する要素として参酌されるべきものである旨を主張する(意見書13頁下から5行?30頁下から2行)。

しかしながら、特許権者が示す乙8?11は、いずれも、光照射による類縁体の生成と色調変化を、着色剤(遮光剤)により抑制する技術に関する文献ではないから、本件には直接は関係がない。
また、甲3、周知文献B?F、乙3?6をみると、光照射による類縁体の生成の抑制と色調変化の抑制とは、相反する作用効果を示す指標ではなく、両者とも抑制する事例も多数存在する(例えば、甲3、周知文献C、D)。
そうすると、意見書に示された追加の実験データ(図A.?H.)により示された程度の差では、甲1発明の着色剤として、甲1に具体的に記載された7つの着色剤のうちの「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄」を選択することに進歩性を肯定するほどの、格別顕著な効果であるということはできない。
したがって、特許権者の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、請求項1?4、6に係る発明は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項5、8に係る発明は、甲1発明及び周知文献Eに記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1?6、8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項7は、上記のとおり訂正により削除され、異議申立人による請求項7に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなっため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる、口腔内崩壊錠。
【請求項2】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄である、口腔内崩壊錠。
【請求項3】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.001?10.0重量%である、口腔内崩壊錠。
【請求項4】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤の含有量が錠剤全重量に対して、0.01?1.0重量%である、口腔内崩壊錠。
【請求項5】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、遮光剤とシロドシンを含む造粒物を含有する、口腔内崩壊錠。
【請求項6】
シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれ、シロドシンの含有量が錠剤全重量に対して、0.5?10.0重量%である、口腔内崩壊錠。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
遮光剤とシロドシンを含む造粒物を賦形剤および滑沢剤と混合して打錠する工程を含む、シロドシン及び遮光剤を含有する素錠の口腔内崩壊錠を製造する方法であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる、方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-13 
出願番号 特願2018-921(P2018-921)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (A61K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山村 祥子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 穴吹 智子
藤原 浩子
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6321314号(P6321314)
権利者 大原薬品工業株式会社
発明の名称 光安定性を向上したシロドシン含有着色錠剤  
代理人 謝 卓峰  
代理人 難波 早登至  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 健策  
代理人 山本 健策  
代理人 向野 颯馬  
代理人 元山 忠行  
代理人 福永 聡  
代理人 山本 秀策  
代理人 福永 聡  
代理人 向野 颯馬  
代理人 元山 忠行  
代理人 謝 卓峰  
代理人 難波 早登至  
代理人 山本 秀策  
代理人 石川 大輔  

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