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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F25B
管理番号 1359579
異議申立番号 異議2019-700341  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-25 
確定日 2020-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6413100号発明「冷凍サイクル装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6413100号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1?15]について訂正することを認める。 特許第6413100号の請求項1、2、7及び9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6413100号の請求項1、2、7及び9に係る特許についての出願は、平成27年5月8日(優先権主張 平成26年5月12日 平成27年3月9日)を国際出願日としたものであって、平成30年10月12日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月31日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年4月25日:特許異議申立人 辰巳 雄一(以下「異議申立人」という。)により請求項1、2、7及び9に係る特許に対する異議の申立て
令和1年7月4日付け:取消理由通知書
令和1年9月5日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年9月11日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
令和1年10月16日:異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和1年9月5日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項よりなる。(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い」とあるのを、
「前記冷凍サイクルの冷媒として、共沸もしくは擬共沸の1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記圧縮機の吐出部と前記膨張弁の入口との間に設けられた高圧側圧力検知部を備え、
前記作動流体の臨界圧力と前記高圧側圧力検知部で検知される圧力との差が、0.4MPa以上となるように、前記膨張弁の開度を制御する請求項1に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを、
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、前記圧縮機の吐出部と前記膨張弁の入口との間に設けられた高圧側圧力検知部を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように、前記作動流体の臨界圧力と前記高圧側圧力検知部で検知される圧力との差が、0.4MPa以上となるように、前記膨張弁の開度を制御する冷凍サイクル装置。」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記凝縮器と前記膨張弁との間と、前記膨張弁と前記蒸発器との間と、を接続するバイパス流路と、前記バイパス流路を開閉するためのバイパス開閉弁とを備え、前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記バイパス開閉弁を開とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを、
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記凝縮器と前記膨張弁との間と、前記膨張弁と前記蒸発器との間と、を接続するバイパス流路と、前記バイパス流路を開閉するためのバイパス開閉弁とを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記バイパス開閉弁を開とする冷凍サイクル装置。」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記圧縮機を停止する請求項1に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを、
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記圧縮機を停止する冷凍サイクル装置。」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記冷凍サイクルの外部の空間と連通するリリーフ弁を備え、前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記リリーフ弁を開とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを、
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記冷凍サイクルの外部の空間と連通するリリーフ弁を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記リリーフ弁を開とする冷凍サイクル装置。」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、
「前記電動機への供給電流が、前記電動機の停動トルク時の電流値に達した時間が所定時間を越えた場合に、前記異常発熱時と判断する請求項7に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを、
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、前記圧縮機は電動機を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記電動機への供給電流が、前記電動機の停動トルク時の電流値に達した時間が所定時間を越えた場合に、前記異常発熱時と判断する冷凍サイクル装置。」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に、
「前記圧縮機は前記電動機を収納する密閉容器を備え、前記密閉容器のうち前記電動機の固定子が配置された付近に設けられたシェル温度検知部と、前記圧縮機の吐出部に設けられた吐出温度検知部とを備え、
前記吐出温度検知部の検知値と前記シェル温度検知部の検知値との差が所定値以上となる時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する請求項7に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを、
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、前記圧縮機は電動機と、
前記圧縮機は前記電動機を収納する密閉容器を備え、前記密閉容器のうち前記電動機の固定子が配置された付近に設けられたシェル温度検知部と、前記圧縮機の吐出部に設けられた吐出温度検知部とを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記吐出温度検知部の検知値と前記シェル温度検知部の検知値との差が所定値以上となる時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する冷凍サイクル装置。」と訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に、
「前記電動機の固定子の温度を検出する固定子温度検知部を備え、
前記固定子温度検知部の検知値が所定値に達した時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する請求項7に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、前記圧縮機は電動機と、
前記電動機の固定子の温度を検出する固定子温度検知部を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記固定子温度検知部の検知値が所定値に達した時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する冷凍サイクル装置。」と訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12に、
「前記圧縮機の吐出部に設けられた吐出部圧力検知部を備え、
前記吐出部圧力検知部の検知値が所定値に達した時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する請求項7に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを、
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記圧縮機は電動機と、
前記圧縮機の吐出部に設けられた吐出部圧力検知部を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記吐出部圧力検知部の検知値が所定値に達した時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する冷凍サイクル装置。」と訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項13に、
「前記圧縮機から吐出される冷媒の流れを切り替える四方弁を備え、
前記異常発熱時と判断した場合には、前記四方弁の連通を、異常発熱前とは逆方向へと切り替える請求項7に記載の冷凍サイクル装置。」とあるのを、
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、前記圧縮機は電動機と、
前記圧縮機から吐出される冷媒の流れを切り替える四方弁を備え、
記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記異常発熱時と判断した場合には、前記四方弁の連通を、異常発熱前とは逆方向へと切り替える冷凍サイクル装置。」と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体」に対して、「共沸もしくは擬共沸」であることを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件明細書に、「【0020】また、R1123とR32の混合冷媒は、R32が30重量%、R1123が70%で共沸点を持ち、温度すべりがなくなる。そのため、混合冷媒でありながら、単一冷媒と同様な取り扱いが可能となる。一方、R32を60重量%以上混合すると、温度すべりが大きくなる。そのため、単一冷媒と同様な取り扱いが困難となるので、R32を60重量%以下で混合することが望ましい。さらに、R32を40重量%以上、50重量%以下で混合すると、より望ましい。これにより、不均化反応の防止とともに、共沸点(azeotropic point)に近づくため、温度すべりがより小さくなる。その結果、冷凍サイクル装置などの機器の設計が容易となる。」、「【0089】なお、上述の制御方法は、凝縮温度検知部10aで計測した凝縮温度から、間接的に凝縮器3内の圧力を把握し、膨張弁4の開度を制御している。つまり、凝縮圧力の代わりに、凝縮温度を指標として用いる。そのため、R1123を含む作動流体が、共沸(azeotropic)もしくは擬共沸(pseudo azeotropic)で、凝縮器3内のR1123を含む作動流体の露点と沸点に温度差(温度勾配)がないか、小さい場合の制御方法として、好ましい。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1に記載された事項をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項3の記載が、訂正前の請求項1を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項2は、上記アに記載したとおりであって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項4の記載が、訂正前の請求項1を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項3は、上記アに記載したとおりであって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項5の記載が、訂正前の請求項1を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項4は、上記アに記載したとおりであって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項6の記載が、訂正前の請求項1を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項5は、上記アに記載したとおりであって、何ら実質的な内容、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、訂正前の請求項8の記載が、訂正前の請求項1を引用する請求項7を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1及び請求項7の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項6は、上記アに記載したとおりであって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(7)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、訂正前の請求項10の記載が、訂正前の請求項1を引用する請求項7を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1及び請求項7の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項7は、上記アに記載したとおりであって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(8)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、訂正前の請求項11の記載が、訂正前の請求項1を引用する請求項7を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1及び請求項7の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項8は、上記アに記載したとおりであって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(9)訂正事項9
ア 訂正の目的について
訂正事項9は、訂正前の請求項12の記載が、訂正前の請求項1を引用する請求項7を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1及び請求項7の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項9は、上記アに記載したとおり、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(10)訂正事項10
ア 訂正の目的について
訂正事項10は、訂正前の請求項13の記載が、訂正前の請求項1を引用する請求項7を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1及び請求項7の記載を引用しないものとして、独立形式で記載された請求項としたものである。
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項10は、上記アに記載したとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項10は、上記アに記載したとおりであって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号または第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?15]について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正発明
本件訂正の請求により訂正された請求項1、2、7及び9係る発明(以下それぞれ「訂正発明1」、「訂正発明2」、「訂正発明7」、「訂正発明9」という。また、これらを総称して「訂正発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1、2、7及び9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、共沸もしくは擬共沸の1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御する冷凍サイクル装置。」
「【請求項2】
前記凝縮器に設けられた凝縮温度検知部を備え、
前記作動流体の臨界温度と前記凝縮温度検知部で検知される凝縮温度の差が、5K以上になるように、前記膨張弁の開度を制御する請求項1に記載の冷凍サイクル装置。」
「【請求項7】
前記圧縮機は電動機を備え、前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止する請求項1に記載の冷凍サイクル装置。」
「【請求項9】
前記電動機の回転子の回転動が停止したことを検出した場合に、前記異常発熱時と判断する請求項7に記載の冷凍サイクル装置。」
2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2、7及び9に係る特許に対して、当審が令和1年7月4日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)[理由1]本件特許の請求項1、2、7及び9に係る発明は、以下のとおり、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、7及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<甲号証一覧>
・甲第1号証:国際公開第2012/157764号
・甲第2号証:特開2010-156524号公報
・甲第3号証:特開平5-240511号公報
・甲第4号証:特開2001-72966号公報
・甲第5号証:国際公開第2013/113785号
・甲第6号証:特開平11-316057号公報
・甲第7号証:特開平9-14805号公報
・甲第8号証:実願昭60-161454号(実開昭62-69767号)のマイクロフィルム
・甲第9号証:特開2009-144950号公報
(当審注:以下、甲第1号証?甲第9号証を、それぞれ甲1?甲9という。)
ア 請求項1について
請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術事項及び甲3?甲5に示される周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 請求項2について
請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術事項及び甲3?甲6に示される周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 請求項7について
請求項7に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術事項及び甲3?5、7?8に示される周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 請求項9について
請求項9に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術事項及び甲3?5、7?9に示される周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 取消理由についての判断
(1)甲1?甲9の記載
ア 甲1の記載
甲1には、「冷凍サイクルシステム」に関して、図面とともに次の記載がある。(下線は理解の一助のために当審にて付したものである。以下同様。)
「[0010] 本発明は、熱サイクル用作動媒体(以下、作動媒体とも記す。)として、1,1,2-トリフルオロエチレン(以下、HFO-1123とも記す。)を含むことを特徴とする。
本発明の作動媒体は、炭化水素をさらに含むのが好ましい。
本発明の作動媒体は、HFCをさらに含むのが好ましい。
本発明の作動媒体は、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)またはクロロフルオロオレフィン(CFO)をさらに含むのが好ましい。
本発明の熱サイクルシステムは、本発明の作動媒体を用いたものであることを特徴とする。」
「[0011] 本発明の作動媒体は、大気中のOHラジカルによって分解されやすい炭素-炭素二重結合を有するHFO-1123を含むため、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少ない。また、HFO-1123を含むため、サイクル性能(能力)に優れる熱サイクルシステムを与える。
本発明の熱サイクルシステムは、熱力学性質に優れる本発明の作動媒体を用いているため、サイクル性能(能力)に優れる。さらに、能力が優れていることから、システムを小型化できる。」
「[0017] HFCとしては、炭素数が1?5であるのが好ましく、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。
HFCとしては、具体的には、ジフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。なかでもオゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい点から、ジフルオロメタン(HFC-32)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)およびペンタフルオロエタン(HFC-125)が特に好ましい。
HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」
「[0049] 図1は、本発明の冷凍サイクルシステムの一例を示す概略構成図である。冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。」
「[0066]〔例1〕
図1の冷凍サイクルシステム10に、HFO-1123と表1に示すHFCとからなる作動媒体を適用した場合の冷凍サイクル性能(冷凍能力および成績係数)を評価した。
評価は、蒸発器14における作動媒体の平均蒸発温度を0℃、凝縮器12における作動媒体の平均凝縮温度を50℃、凝縮器12における作動媒体の過冷却度を5℃、蒸発器14における作動媒体の過熱度を5℃として実施した。」



「[0069] 表1の結果から、HFO-1123に、HFC-32を添加することによって、HFO-1123の成績係数と冷凍能力を改善できることが確認された。HFC-134aの添加では、成績係数が改善された。HFC-125の添加では、成績係数と冷凍能力が低下するが、冷凍能力は1.0以上を維持した。HFC-125は、燃焼性を抑制する効果が優れており、作動媒体の燃焼性を充分に抑えることができることから、燃焼性の抑制が作動媒体に要求される場合には有効であると考えられる。」



イ 甲1発明
上記ア から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14とを備え、
HFΟ-1123とHFC-32とからなる作動媒体を用いた冷凍サイクルシステム10。」
ウ 甲2の記載
甲2には、「冷凍サイクル装置」に関して、図面とともに次の記載がある。
「【請求項1】
圧縮機、四方弁、凝縮器、第1の絞り装置、レシーバー、第2の絞り装置、及び蒸発器が環状に接続され、冷媒としてテトラフルオロプロペンと該テトラフルオロプロペンよりも沸点の低いハイドロフルオロカーボン系冷媒とを含む非共沸混合冷媒を用いたことを特徴とする冷凍サイクル装置。」
「【0001】
本発明は、冷媒として非共沸混合冷媒を用いた冷凍サイクル装置に関する。」
「【0004】
しかしながら、従来の冷凍サイクル装置において、冷媒としてテトラフルオロプロペンと、このテトラフルオロプロペンよりも沸点の低いHFC(ハイドロフルオロカーボン)系冷媒とを含む非共沸混合冷媒を用いた場合、冷凍サイクル内の冷媒が不足した状態で運転したり、運転条件によって絞り装置の開度が過度に小さい状態で運転すると、圧縮機を吐出する冷媒ガス温度が上昇し、2重結合を有するテトラフルオロプロペンは分解しやすくなるという問題点があった。
【0005】
また、絞り装置の開度を大きくしても、圧縮機吸入側にアキュムレーターを有するため、液冷媒を圧縮機吸入側に戻すことができず、吐出温度の低下に時間を要し、その間にテトラフルオロプロペンの分解が進んでしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、前記のような課題を解消するためになされたもので、テトラフルオロプロペンの分解を抑制することができる冷凍サイクル装置を得ることを目的とする。」
「【0016】
次に、本実施形態の冷凍サイクル装置の動作について図1に基づき冷房運転を例に挙げ説明する。圧縮機1の起動後、圧縮機1は高温高圧のガス冷媒を吐出する。この冷媒は、四方弁2を通って凝縮器3に入る。室外熱交換器は、凝縮器3として動作し、冷媒は空気と熱交換を行い凝縮して液冷媒となり、第1の絞り装置4aに入る。第1の絞り装置4aで冷媒は減圧され、中温中圧の飽和液冷媒となってレシーバー5に入る。
【0017】
レシーバー5を流出した中温中圧の飽和液冷媒は第2の絞り装置4bに入る。第2の絞り装置4bで冷媒は再び減圧され、低温低圧の二相冷媒となって蒸発器6に入る。室内熱交換器は蒸発器6として動作し、冷媒は空気と熱交換を行い蒸発して乾き度1以上の低温低圧のガス冷媒となり、四方弁2を経由して圧縮機1に吸入される。
【0018】
次に、第2の絞り装置の制御動作について図2のフローチャートに基づき図1を参照しながら説明する。前述のように圧縮機1を起動すると、圧縮機1は蒸発器6内の低圧のガス冷媒を吸入し、高圧のガス冷媒を吐出する(ステップS11)。
【0019】
また、圧縮機1が起動すると、制御手段100Aは、吐出温度センサー10により検出された圧縮機1の吐出温度(Td)を取り込み(ステップS12)、取り込んだ吐出温度(Td)を基準値と比較する(ステップS13)。この基準値は、例えばHFO-1234yfの分解を抑制できる吐出温度(分解抑制温度)に設定されている。
【0020】
そして、ステップS13にて吐出温度(Td)が基準値より小さいと判定されればステップS12に戻る。また、ステップS13にて吐出温度(Td)が基準値より大きいと判定されれば、第2の絞り装置4bの開度を大きくする(ステップS14)。これにより、第2の絞り装置4bを通過する冷媒量が増加し、低温低圧二相冷媒となって蒸発器6を通過した後、配管のみで構成される圧縮機吸入管までの経路を通って圧縮機1に吸入される。すなわち、圧縮機1の吸入冷媒は、第2の絞り装置4bの開度を大きくすることで、短時間でガス冷媒から液冷媒とガス冷媒が混合した二相冷媒となる。そして、圧縮機1に吸引された二相冷媒は、圧縮工程の中で、蒸発してガス冷媒となるため、ガス冷媒の温度上昇を抑制することが可能となり、結果的に圧縮機1を吐出する吐出温度を低下させることができる。」
エ 甲2記載技術
上記ウ から、甲2には、次の技術(以下「甲2記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「冷媒としてテトラフルオロプロペンと該テトラフルオロプロペンよりも沸点の低いハイドロフルオロカーボン系冷媒とを含む非共沸混合冷媒を用いた冷凍サイクル装置において、圧縮機の吐出温度が基準値より大きいと判定されると、第2の絞り装置の開度を大きくし、低温低圧二相冷媒を圧縮機に吸入することにより、圧縮機の吐出温度を低下させ、テトラフルオロプロペンの分解を抑制する技術。」
オ 甲3の記載
甲3には、【0005】等の記載から、次の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「冷媒には、周知のとおり、その種類に応じて熱分解温度があるため、冷凍装置は吐出ガス冷媒温度がこの熱分解温度を越えることがないように十分に余裕をもって設計されなければならないこと。」
カ 甲4の記載
甲4には、【0015】等の記載から、次の事項(以下「甲4記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「分子構造に二重結合をもつR1270は、高温における熱分解に注意する必要があること。」
キ 甲5の記載
甲5には、[0002]及び[0003]等の記載から、次の事項(以下「甲5記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「トリフルオロエチレンは激しく爆燃し易く、多量の熱を放出しながら不均化し、それによって著しい圧力の上昇と爆発を引き起こすこと。」
ク 甲6の記載
甲6には、【0004】、【0022】及び【0023】等の記載から、次の事項(以下「甲6記載事項1」という。)が記載されていると認められる。
「臨界温度が72.13℃であるR410A冷媒を使用する時の凝縮温度の設定値を60℃とし、凝縮温度が該設定値となるよう空調能力を制御すること。」
また、甲6には、【0020】等の記載から、次の事項(以下「甲6記載事項2」という。)が記載されていると認められる。
「絞り装置4の開度を変化させることにより空調能力を制御すること。」ケ 甲7の記載
甲7には、【0007】及び【0022】等の記載から、次の事項(以下「甲7記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「圧縮機モータの温度が異常になると保護スイッチが開作動し、圧縮機マグネットへの通電が停止され、圧縮機が停止すること。」
コ 甲8の記載
甲8には、第3ページ第11行?第5ページ第12行等の記載から、次の事項(以下「甲8記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「モータの固定子の巻線の温度が115℃に達すると感温素子からの信号を制御器が入力して電源ターミナルへの給電を止め圧縮機を停止して固定子の巻線が焼損するのを防止すること。」
サ 甲9の記載
甲9には、【0005】?【0007】等の記載から、次の事項(以下「甲9記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「磁石温度が高温になると減磁と呼ばれる磁力の低下が起こり、圧縮機が停止すること。」
(2)訂正発明1について
ア 訂正発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11」、「圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12」、「凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13」及び「膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、それぞれ訂正発明1の「圧縮機」、「凝縮器」、「膨張弁」及び「蒸発器」に相当する。
そうすると、甲1発明の「作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14とを備え」る態様は、訂正発明1の「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルを備え」る態様に相当する。
また、甲1発明の「HFΟ-1123」、「HFC-32」及び「作動媒体」は、それぞれ訂正発明1の「1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)」、「ジフルオロメタン(R32)」及び「作動流体」に相当する。
そうすると、甲1発明の「HFΟ-1123とHFC-32とからなる作動媒体を用い」る態様は、訂正発明1の「冷凍サイクルの冷媒として」、「1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い」る態様に相当する。
さらに、甲1発明の「冷凍サイクルシステム10」は、訂正発明1の「冷凍サイクル装置」に相当する。
したがって、訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点(以下、「相違点1」及び「相違点2」という。)は、以下のとおりである。
[一致点]
「圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用いる冷凍サイクル装置。」
[相違点1]
「1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体」について、訂正発明1においては、「共沸もしくは擬共沸」であると特定されているのに対して、甲1発明においては、そのように特定されていない点。
[相違点2]
訂正発明1においては、「前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御する」のに対して、甲1発明においては、そのような構成が特定されていない点。
イ 相違点についての判断
上記相違点1について判断する。
甲1の記載、特に【表1】を参酌すると、甲1には、「HFΟ-1123」と「HFC-32」とを、80質量%と20質量%及び60質量%と40質量%となるように混合することが記載されており、このような混合冷媒は「共沸もしくは擬共沸」であるので、相違点1に係る訂正発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。
上記相違点2について判断する。
甲2記載技術は、圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように膨張弁の開度を制御する技術であるとは言えるものの、「1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体」に関するものではなく、「テトラフルオロプロペンと該テトラフルオロプロペンよりも沸点の低いハイドロフルオロカーボン系冷媒とを含む非共沸混合冷媒」を用いた冷凍サイクルを前提とするものである。これに対し、甲1発明は、「HFΟ-1123とHFC-32とからなる作動媒体」を用いたものであって、上記、相違点1についての判断で述べたように、「共沸もしくは擬共沸」混合冷媒とすることは、当業者が容易に想到し得たところ、甲1発明に前提とする冷媒が異なる甲2記載の技術を適用する動機付けはない。
また、甲3記載事項及び甲4記載事項に示されるように、圧縮機の吐出温度が冷媒の熱分解温度を超えないように冷凍サイクル装置を設計することは当業者にとって周知のことである。しかし、その対策は、例えば、圧縮機の吸込ガス冷媒を冷却することや(甲3)、混合冷媒とすること(甲4)であって、圧縮機吸入部で冷媒が二相となるように膨張弁を制御するものではない。さらに、甲5には、トリフルオロエチレンは激しく爆燃し易く、多量の熱を放出しながら不均化し、それによって著しい圧力の上昇と爆発を引き起こすことが記載されているが、その対策として示されているのは、重合抑制剤を添加することやトリフルオロエチレンと塩化水素の組成物とすることであって、圧縮機吸入部で冷媒が二相となるように膨張弁を制御するものではなく、また、トリフルオロエチレンとジフルオロメタンの組成物の危険性を示すものでもない。そうすると、甲3?甲5記載事項を踏まえても、甲1発明に甲2記載技術を適用する動機付けは見いだせない。
甲6?甲9は、相違点2に係る訂正発明1の構成を示すものではなく、甲1発明に甲2記載技術を適用する動機付けを示すものでもない。
したがって、甲1発明において、甲2記載技術を適用し、上記相違点2に係る発明特定事項とすることは、甲3?甲9記載事項を考慮しても、動機付けがなく、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、訂正発明1は、甲1発明、甲2に記載された技術事項及び甲3?9に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)訂正発明2、7及び9について
請求項2、7及び9は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく直接又は間接的に引用して記載したものであるから、訂正発明2、7及び9は、訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、訂正発明2、7及び9は、訂正発明1と同様の理由で、甲1発明、甲2に記載された技術事項及び甲3?9に示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、訂正発明1は、甲2に記載の発明に甲1に記載の事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。しかし、3(2)で検討したように、甲2記載の発明は、「テトラフルオロプロペンと該テトラフルオロプロペンよりも沸点の低いハイドロフルオロカーボン系冷媒とを含む非共沸混合冷媒」を用いた冷凍サイクルを前提とするから、その冷媒を甲1の「HFΟ-1123とHFC-32とからなる作動媒体」に変更する動機付けは認められない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、7及び9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、7及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、共沸もしくは擬共沸の1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御する冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記凝縮器に設けられた凝縮温度検知部を備え、
前記作動流体の臨界温度と前記凝縮温度検知部で検知される凝縮温度の差が、5K以上になるように、前記膨張弁の開度を制御する請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記圧縮機の吐出部と前記膨張弁の入口との間に設けられた高圧側圧力検知部を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように、前記作動流体の臨界圧力と前記高圧側圧力検知部で検知される圧力との差が、0.4MPa以上となるように、前記膨張弁の開度を制御する冷凍サイクル装置。
【請求項4】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記凝縮器と前記膨張弁との間と、前記膨張弁と前記蒸発器との間と、を接続するバイパス流路と、前記バイパス流路を開閉するためのバイパス開閉弁とを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記バイパス開閉弁を開とする冷凍サイクル装置。
【請求項5】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記圧縮機を停止する冷凍サイクル装置。
【請求項6】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記冷凍サイクルの外部の空間と連通するリリーフ弁を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記膨張弁の開度が全開となった状態で、前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相とならない場合には、前記リリーフ弁を開とする冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記圧縮機は電動機を備え、前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止する請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項8】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記圧縮機は電動機を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記電動機への供給電流が、前記電動機の停動トルク時の電流値に達した時間が所定時間を越えた場合に、前記異常発熱時と判断する冷凍サイクル装置。
【請求項9】
前記電動機の回転子の回転動が停止したことを検出した場合に、前記異常発熱時と判断する請求項7に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項10】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記圧縮機は電動機と、
前記圧縮機は前記電動機を収納する密閉容器を備え、前記密閉容器のうち前記電動機の固定子が配置された付近に設けられたシェル温度検知部と、前記圧縮機の吐出部に設けられた吐出温度検知部とを備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記吐出温度検知部の検知値と前記シェル温度検知部の検知値との差が所定値以上となる時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する冷凍サイクル装置。
【請求項11】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記圧縮機は電動機と、
前記電動機の固定子の温度を検出する固定子温度検知部を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記固定子温度検知部の検知値が所定値に達した時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する冷凍サイクル装置。
【請求項12】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記圧縮機は電動機と、
前記圧縮機の吐出部に設けられた吐出部圧力検知部を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記吐出部圧力検知部の検知値が所定値に達した時間が所定時間を超えた場合に、前記異常発熱時と判断する冷凍サイクル装置。
【請求項13】
圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを接続した冷凍サイクルと、
前記圧縮機は電動機と、
前記圧縮機から吐出される冷媒の流れを切り替える四方弁を備え、
前記冷凍サイクルの冷媒として、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)とジフルオロメタン(R32)とを含む作動流体を用い、
前記圧縮機の吸入部で冷媒が二相となるように前記膨張弁の開度を制御し、
前記電動機が所定値より高温となる異常発熱時には、前記冷媒の不均化反応を抑制するために、前記圧縮機への電力供給を停止し、
前記異常発熱時と判断した場合には、前記四方弁の連通を、異常発熱前とは逆方向へと切り替える冷凍サイクル装置。
【請求項14】
前記四方弁と前記圧縮機の吸入部の間と、前記四方弁と前記圧縮機の吐出部の間とを連通するバイパス流路と、前記バイパス流路に設けられたバイパス開閉弁とを備え、
前記異常発熱時と判断した場合には、前記バイパス開閉弁を開とする請求項13に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項15】
前記四方弁と前記圧縮機の吐出部との間に設けられ、冷媒を周囲大気へ開放する大気開放部を備え、
前記異常発熱時と判断した場合には、前記大気開放部を開動作させる請求項13に記載の冷凍サイクル装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-26 
出願番号 特願2016-519101(P2016-519101)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (F25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 紀本 孝
塚本 英隆
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6413100号(P6413100)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 冷凍サイクル装置  
代理人 野村 幸一  
代理人 野村 幸一  
代理人 前田 浩夫  
代理人 鎌田 健司  
代理人 前田 浩夫  
代理人 鎌田 健司  

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