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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C10M 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C10M 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C10M |
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管理番号 | 1359844 |
審判番号 | 訂正2019-390123 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2019-12-10 |
確定日 | 2020-02-10 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5999714号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5999714号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第5999714号に係る特許出願は、平成24年7月27日(優先権主張 平成23年7月28日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年9月9日にその特許権の設定登録がされ、令和元年12月10日に本件訂正審判の請求がなされたものである。 2 請求の趣旨と訂正事項 本件訂正審判の「請求の趣旨」は、「特許第5999714号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。 そして、その訂正の内容は、以下の訂正事項1?8のとおりである(なお、訂正に関連する箇所に下線を付した)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「EV,HEV駆動モータ軸受に封入されるグリース組成物であって、増ちょう剤及び基油を含み、 増ちょう剤が、下記式(A)で示されるジウレア化合物であり、 基油が、トリメチロールプロパンエステル油を、基油の全質量に対して80質量%以上含有し、40℃における動粘度が15?50mm^(2)/sである前記グリース組成物。 【化1】 (式中、R^(2)は炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示す。R^(1)およびR^(3)は同一または異なる基であり、炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基またはシクロへキシル基を示し、炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基とシクロへキシル基の総モル数に対する炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基のモル数の割合[{(アルキル基の数)/(シクロへキシル基の数+アルキル基の数)}×100]が、60?80%である。)」と記載されているのを、 「EV,HEV駆動モータ軸受に封入されるグリース組成物であって、増ちょう剤及び基油を含み、さらにアミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を含み、 増ちょう剤が、下記式(A)で示されるジウレア化合物であり、 基油が、トリメチロールプロパンエステル油であって、40℃における動粘度が19.7mm^(2)/sであり、 アミン系酸化防止剤が、ジフェニルアミンであり、 フェノール系酸化防止剤が、エステル基を有するヒンダードフェノールであり、 増ちょう剤を15質量%含み、 混和ちょう度が235である前記グリース組成物。 【化1】 (式中、R^(2)は炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示す。R^(1)およびR^(3)は同一または異なる基であり、炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基またはシクロへキシル基を示し、炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基とシクロへキシル基の総モル数に対する炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基のモル数の割合[{(アルキル基の数)/(シクロへキシル基の数+アルキル基の数)}×100]が、60?80%である。)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、5、7も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4及び請求項6を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5に 「さらに、過塩基性金属スルホネートを含む、請求項1?4のいずれか1項記載のグリース組成物。」と記載されているのを、 「さらに、過塩基性金属スルホネートを含む、請求項1?3のいずれか1項記載のグリース組成物。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項7も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7に 「請求項1?6のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなり、dmn値が100万以上で使用されることを特徴とする転がり軸受。」と記載されているのを、 「請求項1?3及び5のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなり、dmn値が100万以上で使用されることを特徴とする転がり軸受。」に訂正する。 (5)訂正事項5 明細書の段落0005に 「1.EV,HEV駆動モータ軸受に封入されるグリース組成物であって、増ちょう剤及び基油を含み、 増ちょう剤が、下記式(A)で示されるジウレア化合物であり、 基油が、トリメチロールプロパンエステル油を、基油の全質量に対して80質量%以上 含有し、40℃における動粘度が15?50mm^(2)/sである前記グリース組成物。」と記載されているのを、 「1.EV,HEV駆動モータ軸受に封入されるグリース組成物であって、増ちょう剤及び基油を含み、さらにアミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を含み、 増ちょう剤が、下記式(A)で示されるジウレア化合物であり、 基油が、トリメチロールプロパンエステル油であって、40℃における動粘度が19.7mm^(2)/sであり、 アミン系酸化防止剤が、ジフェニルアミンであり、 フェノール系酸化防止剤が、エステル基を有するヒンダードフェノールであり、 増ちょう剤を15質量%含み、 混和ちょう度が235である前記グリース組成物。」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落0007に 「4.さらに、アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を含有する、前記1?3のいずれか1項記載のグリース組成物。 5.さらに、過塩基性金属スルホネートを含む、前記1?4のいずれか1項記載のグリース組成物。 6.前記グリース組成物の混和ちょう度が200?300である、前記1?5のいずれか1項記載のグリース組成物。 7.前記1?6のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなり、dmn値が100万以上で使用されることを特徴とする転がり軸受。」と記載されているのを、 「4.さらに、過塩基性金属スルホネートを含む、前記1?3のいずれか1項記載のグリース組成物。 5.前記1?4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなり、dmn値が100万以上で使用されることを特徴とする転がり軸受。」に訂正する。 (7)訂正事項7 明細書の段落0022及び0030にそれぞれ 「実施例1?12」と記載されているのを、「実施例1及び参考例2?12」に訂正し、 明細書の段落0028の表1に 「実施例2」?「実施例12」と記載されているのを、それぞれ「参考例2」?「参考例12」に訂正する。 (8)訂正事項8 明細書の段落0017及び0019にそれぞれ 「質量である」と記載されているのを、「質量%である」に訂正する。 3 当審の判断 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1のグリース組成物を、「さらにアミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を含み」、「アミン系酸化防止剤が、ジフェニルアミンであり」、「フェノール系酸化防止剤が、エステル基を有するヒンダードフェノールであり」、「増ちょう剤を15質量%含み」、「混和ちょう度が235である」ものに限定し、さらに、基油を「トリメチロールプロパンエステル油であ」るものに限定し、基油の40℃における動粘度を「19.7mm^(2)/s」に限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ 拡張又は変更の存否 訂正事項1は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。 ウ 新規事項の有無 訂正事項1は、本件特許明細書の段落0028の表1に記載の実施例1のグリース組成物(基油としてエステル油A:動粘度19.7mm^(2)/sのトリメチロールプロパン油、酸化防止剤としてアミン系A:ジフェニルアミン、及びフェノール系A:エステル基を有するヒンダードフェノールを含み、増ちょう剤を15質量%含み、混和ちょう度が235)に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、まとめて「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。 エ 独立特許要件 訂正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるとする理由は見当たらないので、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的 訂正事項2は、特許請求範囲の請求項4及び請求項6を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ 拡張又は変更の存否 訂正事項2は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。 ウ 新規事項の有無 訂正事項2は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、請求項の削除により新規事項が導入されるとはいえないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。 エ 独立特許要件 訂正事項2は、請求項4及び請求項6を削除するものであるから、独立特許要件を充足しなくなるような事情は存在せず、特許法第126条第7項の規定に適合する。 (3)訂正事項3、4 ア 訂正の目的 訂正事項3は、訂正前の請求項1?4のいずれか1項を引用する請求項5の記載について、請求項4の記載を引用しない「請求項1?3のいずれか1項」を引用するものに限定するものであり、 訂正事項4は、訂正前の請求項1?6のいずれか1項を引用する請求項7の記載について、請求項4、6の記載を引用しない「請求項1?3及び5のいずれか1項」を引用するものに限定するものであるから、 訂正事項3、4は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ 拡張又は変更の存否 訂正事項3、4は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。 ウ 新規事項の有無 訂正事項3、4は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、引用する請求項の選択肢の削除により新規事項が導入されるとはいえないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。 エ 独立特許要件 訂正後の請求項5、7に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるとする理由は見当たらないので、訂正事項3、4は、特許法第126条第7項の規定に適合する。 (4)訂正事項5?7 ア 訂正の目的 訂正事項5は、訂正事項1の請求項1の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るために、請求項1の記載に対応する段落0005の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、 訂正事項6は、訂正事項2の請求項4、6を削除する訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るために、請求項4、6の記載に対応する段落0007の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、 訂正事項7は、訂正事項1の請求項1の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るために、訂正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明に該当しない「実施例」を「参考例」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 このように、訂正事項5?7は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。 イ 拡張又は変更の存否 訂正事項5?7は、上記アに示したように「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。 ウ 新規事項の有無 訂正事項5?7は、上記アに示したように「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図ることにより新規事項が導入されるとはいえないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (5)訂正事項8 ア 訂正の目的 明細書の段落0018に「これら酸化防止剤を含む場合、その総量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、2.0?3.0質量%」と記載され、段落0028の表1、及び段落0029の表2に「添加剤 質量%」と記載されているように、訂正前の明細書の段落0017の「これら任意の添加剤の含有量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、通常、0.5?5.0質量である。」及び段落0019の「過塩基性金属スルホネート系硬化抑制剤を含む場合、その含有量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、0.05?1.0質量であるのが好ましい。」における「質量」は「質量%」の誤記であることは、当業者に自明であるから、訂正事項8は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。 イ 拡張又は変更の存否 訂正事項8は、上記アに示したように「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。 ウ 新規事項の有無 訂正事項8は、上記アに示したように「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであって、誤記の訂正により新規事項が導入されるとはいえないから、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。 エ 独立特許要件 訂正事項8の訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるとする理由は見当たらないので、訂正事項8は、特許法第126条第7項の規定に適合する。 4 むすび 以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正事項は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第1ないし3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5ないし7項の規定に適合するものである。 よって、結論の通り審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 EV,HEV駆動モータ軸受用グリース組成物及びEV,HEV駆動モータ軸受 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、EV,HEV駆動モータ軸受用グリース組成物、及びこれを封入したEV,HEV駆動モータ軸受に関する。 【背景技術】 【0002】 電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HEV)で使用される駆動モータの支持軸受は寒冷地の低温雰囲気から、モータ,変速機もしくは減速機起因による高温雰囲気下まで様々な環境で使用されるため、広温度範囲で使用可能であることが求められている。またモータの高出力に伴う高速回転化が進んでおり、回転性能を高めるために、使用される軸受には高速回転での耐久性が求められている。 他方、高温での使用環境の観点から、使用されるグリースには、長い焼付き寿命が求められる。鉱油を基油としたグリースやリチウム石けんを増ちょう剤としたグリースでは、基油の耐熱性や、増ちょう剤の耐熱性が劣るため、高温環境下での焼付き寿命は満足できるものではない。 高温下での焼付き寿命の改善としては、例えば特許文献1では、アルキルジフェニルエーテル油を必須成分とし、特定の増ちょう剤を用いたグリースが提案されている。しかし、このグリースでは、基油動粘度が高いことから、低温流動性が満足するものではない。 低温流動性を満足するためのグリースの改善としては、使用される基油の動粘度を下げて対応することが常套手段とされてきた。例えば、特許文献2では、40℃における動粘度が10mm^(2)/s以上のエステル油を含有する基油を用いたグリースが提案されている。しかし、基油の動粘度を下げると低温流動性は満足するものの、高温下における基油の耐熱性が悪くなり、焼付き寿命を満足できなくなる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開平1-259097号公報 【特許文献2】特開2000-198993号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明が解決しようとする課題は、高温・高速条件下でも軸受潤滑寿命が長く、低温流動性を満足するEV,HEV駆動モータ軸受用グリース組成物を提供することである。 本発明の別の課題は、上記組成物を封入したEV,HEV駆動モータ軸受を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは、高温・高速条件下での軸受潤滑寿命および低温流動性の課題に対し、適切な増ちょう剤及び基油を選定することで、これを改善した。すなわち、本発明により、以下のEV,HEV駆動モータ軸受用グリース組成物及び該組成物を封入したEV,HEV駆動モータ軸受を提供する: 1.EV,HEV駆動モータ軸受に封入されるグリース組成物であって、増ちょう剤及び基油を含み、さらにアミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を含み、 増ちょう剤が、下記式(A)で示されるジウレア化合物であり、 基油が、トリメチロールプロパンエステル油であって、40℃における動粘度が19.7mm^(2)/sであり、 アミン系酸化防止剤が、ジフェニルアミンであり、 フェノール系酸化防止剤が、エステル基を有するヒンダードフェノールであり、 増ちょう剤を15質量%含み、 混和ちょう度が235である前記グリース組成物。 【0006】 【化1】 【0007】 (式中、R^(2)は炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示す。R^(1)およびR^(3)は同一または異なる基であり、炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基またはシクロヘキシル基を示し、炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基とシクロヘキシル基の総モル数に対する炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基のモル数の割合[{(アルキル基の数)/(シクロヘキシル基の数+アルキル基の数)}×100]が、60?80%である。) 2.トリメチロールプロパンエステル油が、トリメチロールプロパンと、炭素数6?14の直鎖または分岐脂肪酸とのエステルである前記1項記載のグリース組成物。 3.増ちょう剤が、式(A)中、R^(1)及びR^(3)のいずれか一方が炭素数18の直鎖又は分岐アルキル基であり、他方がシクロアルキル基である化合物である前記1又は2項記載のグリース組成物。 4.さらに、過塩基性金属スルホネートを含む、前記1?3のいずれか1項記載のグリース組成物。 5.前記1?4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなり、dmn値が100万以上で使用されることを特徴とする転がり軸受。 【発明の効果】 【0008】 本発明のEV,HEV駆動モータ軸受用グリース組成物は、高温・高速条件下でも軸受潤滑寿命が長く、低温流動性にも優れる。 【発明を実施するための形態】 【0009】 〔増ちょう剤〕 本発明で用いる増ちょう剤は、下記式(A)で表される。この増ちょう剤は、高温下でも耐熱性に優れるとともに、耐漏洩性に優れる。従って、本発明のグリース組成物は、高温かつ高速条件下において長い潤滑寿命を示す。 【0010】 【化2】 【0011】 式中、R^(2)は、炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示す。代表例として、以下の構造式で表されるものがあげられる。このうち、真ん中の基が特に好ましい。 【0012】 【化3】 【0013】 R^(1)及びR^(3)は、シクロヘキシル基又は炭素数16?20の直鎖又は分岐アルキル基を示す。直鎖又は分岐アルキル基は、炭素数18の直鎖又は分岐アルキル基が好ましい。シクロヘキシル基と炭素数16?20の直鎖又は分岐アルキル基の総モル数に対する炭素数16?20の直鎖又は分岐アルキル基のモル数の割合[{(C_(16-20)直鎖又は分岐アルキル基の数)/(シクロヘキシル基の数+C_(16-20)直鎖又は分岐アルキル基の数)}×100]は、60?80モル%である。C_(16-20)直鎖又は分岐アルキル基の割合は、式(A)の増ちょう剤を構成する原料の仕込み比を変更することにより調節することができる。 アルキル基のモル数の割合が60%を下回ると、グリースの流動性が悪くなり、高温下の潤滑寿命を満足することができない。一方、アルキル基のモル数の割合が80%を上回ると、高速回転によるグリースの漏洩が多くなり、高温下の潤滑寿命を満足することができない。 また、増ちょう剤量は適宜調整が可能であるが、組成物の全質量に対し、好ましくは13?16%である。増ちょう剤量が多すぎると、グリースの漏洩が抑制されるが、軸受の発熱が大きくなり、潤滑寿命を満足することはできない。逆に増ちょう剤量が少なすぎると、軸受の発熱は抑えられるが、グリースの漏洩が多くなり、同様に潤滑寿命を満足することはできない。 【0014】 〔基油〕 本発明における基油は、トリメチロールプロパンエステル油を、基油の全質量に対して80質量%以上含有し、40℃における動粘度が15?50mm^(2)/sである。40℃における動粘度は、好ましくは15?40mm^(2)/s、より好ましくは15?30mm^(2)/sである。40℃の動粘度が15mm^(2)/sを下回ると、低温流動性は優れるものの、高温下の耐熱性が劣るため、潤滑寿命を満足することはできない。一方、40℃の動粘度が50mm^(2)/sを上回ると、高温下の耐熱性は優れるものの、低温流動性は満足することはできない。 【0015】 本発明のグリース組成物に使用される基油は、トリメチロールプロパンをアルコールとして得られるエステル系合成油である。該エステル系合成基油を構成する脂肪酸としては、炭素数6?14、好ましくは8?12の直鎖又は分岐脂肪酸があげられる。脂肪酸は、単独でも2種以上の混合物でもよいが、混合物が好ましい。直鎖脂肪酸と分岐脂肪酸との混合物がより好ましい。これは、直鎖脂肪酸を単独で構成するよりも、分岐脂肪酸との混合物のほうが低温での流動性に優れるためである。脂肪酸は、飽和でも不飽和でもよいが、飽和脂肪酸が好ましい。 【0016】 本発明の基油は、トリメチロールプロパンエステル油を、基油の全質量を基準として80質量%以上含有していればよく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%である。 上記トリメチロールプロパンエステル油と併用できる基油としては、得られる混合基油の40℃における動粘度が15?50mm^(2)/sになる基油であれば、特に制限なく用いることができる。40℃における動粘度は15?30mm^(2)/sであるのが好ましい。例えばジエステル、ペンタエリスリトールエステル油、アルキルジフェニルエーテル油、合成炭化水素油などがあげられる。 【0017】 〔添加剤〕 本発明のグリース組成物は、転がり軸受用グリース組成物に通常使用される添加剤を使用することができる。具体的には、アミン系酸化防止剤(例えば、ジフェニルアミン、ナフチルアミン)やフェノール系酸化防止剤(例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等のエステル基を有さないヒンダードフェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のエステル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤)等の酸化防止剤、過塩基性金属スルホネート等の硬化抑制剤、錆止め剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤などがあげられる。このうち、アミン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤等の酸化防止剤、過塩基性金属スルホネート系硬化抑制剤を含むのが好ましい。 これら任意の添加剤の含有量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、通常、0.5?5.0質量%である。 【0018】 特に、アミン系酸化防止剤及び少なくとも1種のフェノール系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を含有するのが好ましい。アミン系酸化防止剤はジフェニルアミンであるのが好ましい。フェノール系酸化防止剤は、エステル基を有するヒンダードフェノールであるのが好ましい。少なくとも1種のアミン系酸化防止剤と、少なくとも1種のフェノール系酸化防止剤とを含有するのがより好ましい。ジフェニルアミンと、エステル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤とを含有するのが最も好ましい。これら酸化防止剤を含む場合、その総量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、2.0?3.0質量%であるのが好ましい。 【0019】 過塩基性金属スルホネート系硬化抑制剤を含有するのもまた好ましい。過塩基性金属スルホネート系硬化抑制剤は、全塩基価(TBN)が50?500mgKOH/gであるのが好ましい。過塩基性金属スルホネートの金属としては、Ca、Na、Ba、Li、Zn、Pb、Mg等が挙げられ、好ましいものはCa、Na、Mg、特に好ましくはCaである。なお、本明細書において、TBNは、JIS K 2501に従って測定される値である。過塩基性金属スルホネート系硬化抑制剤を含む場合、その含有量は、本発明のグリース組成物の質量に対して、0.05?1.0質量%であるのが好ましい。 【0020】 〔混和ちょう度〕 本発明のグリース組成物の混和ちょう度は、好ましくは200?300、より好ましくは220?280である。混和ちょう度が300を上回ると、高速回転による漏洩が多くなり、潤滑寿命を満足することができないことがある。一方、混和ちょう度が200を下回ると、グリースの流動性が悪くなり、潤滑寿命を満足することができないことがある。 【0021】 本発明のグリース組成物を封入するEV,HEV駆動モータ軸受としては、dmn値が100万以上で使用可能な軸受があげられる。なお、dmn値とは、軸受の性能を表す値であり、(D+d/2)×n(D=軸受外径(mm)、d=軸受内径(mm)、n=回転数(rpm))なる式で求められる。 【実施例】 【0022】 〔試験グリースの調製〕 以下の基油と、表1及び表2に示した増ちょう剤及び添加剤とを用い、実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。具体的には、基油中で、ジフェニルメタンジイソシアネートと所定のアミンとを反応させ、昇温、冷却し、ベースグリースを得た。ベースグリースに所定の添加剤と基油を加え、3本ロールミルで処理後、混和ちょう度が190?310になるように実施例1及び参考例2?12及び比較例1?8のグリース組成物を得た。なお、混和ちょう度は、JIS K2220 7.に従って測定した。 【0023】 <基油> エステル油A:トリメチロールプロパンエステル油 40℃の動粘度19.7mm^(2)/s エステル油B:トリメチロールプロパンエステル油 40℃の動粘度15.1mm^(2)/s エステル油C:トリメチロールプロパンエステル油 40℃の動粘度74.9mm^(2)/s エステル油D:ジエステル油 40℃の動粘度11.6mm^(2)/s エステル油E:ペンタエリスリトールエステル油 40℃の動粘度30.8mm^(2)/s エーテル油:アルキルジフェニルエーテル油 40℃の動粘度97.0mm^(2)/s 合成炭化水素油:ポリαオレフィン 40℃の動粘度30.5mm^(2)/s 鉱油: 40℃の動粘度40.0mm^(2)/s なお、基油の40℃における動粘度は、JIS K 2220 23.に従って測定した。 【0024】 <酸化防止剤> アミン系A:ジフェニルアミン アミン系B:ナフチルアミン フェノール系A:エステル基を有するヒンダードフェノール フェノール系B:エステル基を有さないヒンダードフェノール 【0025】 上で得られたグリース組成物を用いて以下の試験を行った。 <試験方法> (1)軸受潤滑寿命試験 内径50mm,外径90mm,幅20mmの非接触ゴムシール付き深溝玉軸受に,試験グリースを軸受空間容積の30%封入し,内輪回転速度14300min^(-1),軸受外輪温度120℃,ラジアル荷重1000Nの条件で連続回転させ,軸受外輪温度が設定温度より+10℃温度上昇したときを焼付き寿命時間とした。比較例1の焼付き寿命時間を1とする相対値として,結果を表1及び表2に記した。 評価 ◎:3.0を超える ○:1.5を超え、3.0以下 ×:1.5以下 相対値1.5を超える・・・合格、1.5以下・・・不合格 【0026】 (2)グリース漏洩試験 上記試験条件において軸受回転開始から20時間後のグリース漏れ量を測定した。グリース漏れ量が10質量%以下を合格とした。 評価 ○:10質量%以下 ×:10質量%超 10質量%以下・・・合格、10質量%を超える・・・不合格 【0027】 (3)低温流動性 試験はJIS K2220 18.の低温トルク試験により、-40℃にて行った。回転を10分間続け、最後の15秒間におけるトルク測定装置の読みの平均値より、回転トルクを算出した。比較例1の低温トルク比を1とする相対値として,結果を表1及び表2に記した。 評価 ○:1未満 ×:1以上 相対値1未満・・・合格、1以上・・・不合格 (3)総合評価 軸受潤滑寿命試験、グリース漏洩試験、低温流動性 いずれも合格・・・○ 軸受潤滑寿命試験、グリース漏洩試験、低温流動性 いずれか1つが不合格・・・× 【0028】 【表1】 【0029】 【表2】 【0030】 比較例1?8は、軸受潤滑寿命、グリース漏洩、低温流動性のいずれか1つが満足していないのに対し、実施例1及び参考例2?12のグリースは、軸受潤滑寿命、グリース漏洩、低温流動性のいずれも満足している。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 EV,HEV駆動モータ軸受に封入されるグリース組成物であって、増ちょう剤及び基油を含み、さらにアミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を含み、 増ちょう剤が、下記式(A)で示されるジウレア化合物であり、 基油が、トリメチロールプロパンエステル油であって、40℃における動粘度が19.7mm^(2)/sであり、 アミン系酸化防止剤が、ジフェニルアミンであり、 フェノール系酸化防止剤が、エステル基を有するヒンダードフェノールであり、 増ちょう剤を15質量%含み、 混和ちょう度が235である前記グリース組成物。 【化1】 (式中、R^(2)は炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示す。R^(1)およびR^(3)は同一または異なる基であり、炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基またはシクロヘキシル基を示し、炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基とシクロヘキシル基の総モル数に対する炭素数16?20の直鎖または分岐アルキル基のモル数の割合[{(アルキル基の数)/(シクロヘキシル基の数+アルキル基の数)}×100]が、60?80%である。) 【請求項2】 トリメチロールプロパンエステル油が、トリメチロールプロパンと、炭素数6?14の直鎖または分岐脂肪酸とのエステルである請求項1記載のグリース組成物。 【請求項3】 増ちょう剤が、式(A)中、R^(1)及びR^(3)のいずれか一方が炭素数18の直鎖又は分岐アルキル基であり、他方がシクロアルキル基である化合物である請求項1又は2記載のグリース組成物。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 さらに、過塩基性金属スルホネートを含む、請求項1?3のいずれか1項記載のグリース組成物。 【請求項6】(削除) 【請求項7】 請求項1?3及び5のいずれか1項記載のグリース組成物を封入してなり、dmn値が100万以上で使用されることを特徴とする転がり軸受。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2020-01-15 |
結審通知日 | 2020-01-17 |
審決日 | 2020-01-31 |
出願番号 | 特願2013-525779(P2013-525779) |
審決分類 |
P
1
41・
851-
Y
(C10M)
P 1 41・ 852- Y (C10M) P 1 41・ 853- Y (C10M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 松原 宜史 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
牟田 博一 日比野 隆治 |
登録日 | 2016-09-09 |
登録番号 | 特許第5999714号(P5999714) |
発明の名称 | EV,HEV駆動モータ軸受用グリース組成物及びEV,HEV駆動モータ軸受 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |