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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1360326
審判番号 不服2018-14167  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-25 
確定日 2020-03-02 
事件の表示 特願2015-530952「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月12日国際公開、WO2015/020143〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成26年8月7日(優先権主張 平成25年8月9日(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月3日に手続補正書が提出され、同年12月13日付けで拒絶理由が通知され、平成29年4月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月29日付けで拒絶理由が通知され、平成30年2月5日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月23日付けで拒絶査定がされ、同年10月25日に拒絶査定不服審判が請求され、同年12月6日に審判請求書を補正する手続補正書(方式)が提出され、令和1年7月2日付けで当審から審尋がなされ、同年9月2日に回答書が提出されたものである。
なお、刊行物等提出書が平成29年5月16日、平成30年5月24日、平成31年3月8日及び令和1年10月23日にそれぞれ提出されている。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成30年2月5日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載されたとおりのものであるところ、請求項1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
塩素原子を含む原料を使用せず、かつ、ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄と、下記一般式(1):
【化1】

(式中、Xは水素原子またはアルカリ金属原子を表す。)
で表される基を有する重合禁止剤とを、前記ジヨード芳香族化合物、前記単体硫黄及び前記重合禁止剤を含む溶融混合物中で反応させることを含む方法により得ることのできるものであること、一般式(1)の基は、主鎖の末端の芳香族環に、直接、又は重合禁止剤に由来する部分構造を介して結合していること、かつ、ポリアリーレンスルフィド樹脂が塩素原子を実質的に含まないこと、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」(以下、請求項1の記載により特定された発明を、「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、平成29年9月29日付け拒絶理由通知における理由3を含むものであり、その理由3の概要は、この出願の請求項1?17に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた下記の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)というものである。

PCT/KR2013/007081号(国際公開第2014/025190、特表2015-524510号)

そして、拒絶査定がされた請求項1に係る発明、すなわち本願発明は、上記請求項1に係る発明に、塩素原子を含む原料を使用しないこと、及びポリアリーレンスルフィド樹脂が塩素原子を実質的に含まないことを限定したものである。

第4 当審の判断
当審は、拒絶理由のとおり、本願発明は、この出願の優先権主張日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲(以下「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第184条の13の規定において読み替えて準用する同法第29条の2の規定により、特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 先願及び先願明細書等の記載事項
(1)PCT/KR2013/007081号について
PCT/KR2013/007081号(以下「先願」という。)は、この出願の優先日(平成25年8月9日)前の平成25年8月6日を国際出願日とする出願であって、発明者を、イ セホ及びキム スンギとし、出願人をエスケー ケミカルズ カンパニー リミテッドとして特許協力条約に基づいてなされた、日本国を指定国に含む国際特許出願であり、この出願の優先日の後である平成26年2月13日に国際公開第2014/025190号として国際公開がされた。

(2)先願明細書等の記載事項
以下、先願明細書等の記載事項を訳文で示す。訳文は、先願明細書等の翻訳文が掲載された特表2015-524510号公報に拠った。

(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)の少なくとも一部が、カルボキシ基(-COOH)またはアミノ基(-NH_(2))であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド。
・・・
【請求項11】
ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階と、
前記重合反応段階を進行させながら、カルボキシ基またはアミノ基を有する化合物を追加的に添加する段階とを含むことを特徴とする、請求項1?10のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項12】
カルボキシ基またはアミノ基を有する化合物は、2-ヨード安息香酸(2-Iodobenzoic acid)、3-ヨード安息香酸(3-Iodobenzoic acid)、4-ヨード安息香酸(4-Iodobenzoic acid)、2,2’-ジチオ安息香酸(2,2’-Dithiobenzoic acid)、2-ヨードアニリン(2-Iodoaniline)、3-ヨードアニリン(3-Iodoaniline)、4-ヨードアニリン(4-Iodoaniline)、2,2’-ジチオアニリン(2,2’-Dithiodianiline)、および4,4’-ジチオアニリン(4,4’-Dithiodianiline)からなる群より選択された1種以上を含むことを特徴とする、請求項11に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。」

(b)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、他の高分子素材や充填材などとのより向上した相溶性を示すポリアリーレンスルフィド(polyarylene sulfide)およびその製造方法を提供する。」

(c)「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)の少なくとも一部が、カルボキシ基(-COOH)またはアミノ基(-NH_(2))であるポリアリーレンスルフィドを提供する。
【0011】
また、本発明は、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階と、前記重合反応段階を進行させながら、カルボキシ基またはアミノ基を有する化合物を追加的に添加する段階とを含む前記ポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供する。」

(d)「【0018】
これに対し、一実施形態のポリアリーレンスルフィドの場合、主鎖末端の少なくとも一部にカルボキシ基(-COOH)またはアミノ基(-NH_(2))のような反応性基が導入されることにより、他の高分子素材や、充填材などとの優れた相溶性を示すことが確認された。その結果、一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、様々な高分子素材または充填材などと好ましくコンパウンディングでき、多様な用途に適した最適化した物性を示す樹脂組成物および成形品の提供を可能にする。これと同時に、前記ポリアリーレンスルフィドは、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた耐熱性、耐薬品性および優れた機械的物性を示すことができる。
【0019】
前記一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、FT-IR分光法で分析した時、FT-IRスペクトルにおいて、前記主鎖末端のカルボキシ基由来の約1600?1800cm^(-1)のピークまたはアミノ基由来の約3300?3500cm^(-1)のピークを示すことができる。この時、前記1600?1800cm^(-1)または3300?3500cm^(-1)のピークの強度は、主鎖末端基に結合されたカルボキシ基またはアミノ基の含有量に対応することができる。
【0020】
一例によれば、前記一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、FT-IRスペクトル上で、約1400?1600cm^(-1)で現れるRing stretchピークの高さ強度を100%とした時、前記約1600?1800cm^(-1)または約3300?3500cm^(-1)のピークの相対的高さ強度が約0.001?10%、あるいは約0.01?7%、あるいは約0.1?4%、あるいは約0.5?3.5%となってよい。この時、前記1400?1600cm^(-1)で現れるRing stretchピークは、ポリアリーレンスルフィドの主鎖中に含まれているフェニレンなどのアリーレン基由来のものとなってよい。前記カルボキシ基由来の約1600?1800cm^(-1)のピークまたはアミノ基由来の約3300?3500cm^(-1)のピークが、アリーレン基(例えば、フェニレン基)由来のピークの高さ強度に対して、約0.001?10%、あるいは約0.01?7%、あるいは約0.1?4%、あるいは約0.5?3%の高さ強度を示すことにより、一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、他の高分子素材または充填材などとのより優れた相溶性を示しながらも、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた物性を維持することができる。」

(e)「【0025】
上述した一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、またはポリエステル系樹脂などの多様な熱可塑性樹脂;ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、またはポリブタジエン系エラストマーなどの多様な熱可塑性エラストマー;またはガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルク、または炭酸カルシウムなどの多様な強化材/充填材と優れた相溶性を示すことができる。したがって、前記一実施形態のポリアリーレンスルフィドは、これら多様な他の高分子素材や充填材などとコンパウンディングされて優れた相乗効果を示すことができ、多様な用途に合った最適化した物性の実現が可能になる。」

(f)「【0028】
一方、発明の他の実施形態により、上述したポリアリーレンスルフィドの製造方法が提供される。このような他の実施形態の製造方法は、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階と、前記重合反応段階を進行させながら、カルボキシ基またはアミノ基を有する化合物を追加的に添加する段階とを含むことができる。
【0029】
このような他の実施形態の製造方法において、前記カルボキシ基またはアミノ基を有する化合物は、目標粘度に対する現在粘度の割合で重合反応の進行程度を測定した時、前記ジヨード芳香族化合物と硫黄元素との間の重合反応が約90%以上、あるいは約90%以上100%未満で進行した時(例えば、重合反応後期に)添加されてよい。前記重合反応の進行程度は、得ようとするポリアリーレンスルフィドの分子量およびこれに応じた重合産物の目標粘度を設定し、重合反応の進行程度に応じた現在粘度を測定して、前記目標粘度に対する現在粘度の割合として測定することができる。この時、現在粘度を測定する方法は、反応器のスケールに応じて当業者に自明な方法で決定することができる。例えば、相対的に小型重合反応器で重合を進行させる場合、反応器で重合反応が進行中のサンプルを採取して粘度計で測定することができる。これとは異なり、大型の連続重合反応器で重合を進行させる場合、反応器自体に設けられた粘度計で連続的、リアルタイムに現在粘度が自動測定できる。
【0030】
このように、前記ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる過程で、重合反応後期にカルボキシ基またはアミノ基を有する化合物を添加して反応させることにより、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)の少なくとも一部に、カルボキシ基(-COOH)またはアミノ基(-NH_(2))が導入された一実施形態のポリアリーレンスルフィドを製造することができる。特に、前記重合反応後期にカルボキシ基またはアミノ基を有する化合物を追加的に添加して、主鎖末端基に適切な含有量のカルボキシ基またはアミノ基が導入され、他の高分子素材または充填材などとの優れた相溶性を示しながらも、ポリアリーレンスルフィド特有の優れた物性を有する一実施形態のポリアリーレンスルフィドが効果的に製造できる。
【0031】
一方、前記他の実施形態の製造方法において、前記カルボキシ基またはアミノ基を有する化合物としては、カルボキシ基またはアミノ基を有する任意のモノマー(単分子)形態の化合物を使用することができる。このようなカルボキシ基またはアミノ基を有する化合物のより具体的な例としては、2-ヨード安息香酸(2-Iodobenzoic acid)、3-ヨード安息香酸(3-Iodobenzoic acid)、4-ヨード安息香酸(4-Iodobenzoic acid)、2,2’-ジチオ安息香酸(2,2’-Dithiobenzoic acid)、2-ヨードアニリン(2-Iodoaniline)、3-ヨードアニリン(3-Iodoaniline)、4-ヨードアニリン(4-Iodoaniline)、2,2’-ジチオアニリン(2,2’-Dithiodianiline)、または4,4’-ジチオアニリン(4,4’-Dithiodianiline)などが挙げられ、その他にも、多様なカルボキシ基またはアミノ基を有する化合物を使用することができる。」

(g)「【0038】
一方、このような重合反応途中、重合がある程度行われた時点で重合中止剤を添加することができる。この時、使用可能な重合中止剤は、重合される高分子に含まれるヨードグループを除去して重合を中止させられる化合物であれば、その構成の限定はない。具体的には、ジフェニルスルフィド(diphenyl suldife)、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)、ジフェニル(diphenyl)、ベンゾフェノン(benzophenone)、ジベンゾチアゾールジスルフィド(dibenzothiazole disulfide)、モノヨードアリール化合物(monoiodoaryl compound)、ベンゾチアゾール類(benzothiazole)類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド(benzothiazolesulfenamide)類、チウラム(thiuram)類、ジチオカルバメート(dithiocarbamate)類、およびジフェニルジスルフィドからなる群より選択される1種以上であってよい。
【0039】
より好ましくは、前記重合中止剤は、ヨードビフェニル(iodobiphenyl)、ヨードフェノール(iodophenol)、ヨードアニリン(iodoaniline)、ヨードベンゾフェノン(iodobenzophenone)、2-メルカプトベンゾチアゾール(2-mercaptobenzothiazole)、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾール(2,2’-dithiobisbenzothiazole)、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(N-cyclohexylbenzothiazole-2-sulfenamide)、2-モルホリノチオベンゾチアゾール(2-morpholinothiobenzothiazole)、N,N-ジシクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(N,N-dicyclohexylbenzothiazole-2-sulfenamide)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(tetramethylthiuram monosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(tetramethylthiuram disulfide)、亜鉛ジメチルジチオカルバメート(Zinc dimethyldithiocarbamate)、亜鉛ジエチルジチオカルバメート(Zinc diethyldithiocarbamate)、およびジフェニルジスルフィド(diphenyl disulfide)からなる群より選択される1種以上であってよい。
【0040】
一方、重合中止剤の投与時点は、最終重合させようとするポリアリーレンスルフィドの分子量を考慮して、その時期を決定することができる。例えば、初期反応物内に含まれているジヨード芳香族化合物が約70?100重量%反応して消耗した時点で投与することができる。」

(h)「【0041】
そして、このような重合反応は、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物の重合が開示できる条件であれば、いずれの条件でも進行できる。例えば、前記重合反応は、昇温減圧反応条件で進行できるが、この場合、温度約180?250℃および圧力約50?450torrの初期反応条件で温度上昇および圧力降下を行って、最終反応条件の温度約270?350℃および圧力約0.001?20torrに変化させ、約1?30時間進行させることができる。より具体的な例として、最終反応条件を温度約280?300℃および圧力約0.1?0.5torrとして、重合反応を進行させることができる。
・・・
【0044】
そして、上述した他の実施形態にかかるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、重合反応は、ニトロベンゼン系触媒の存在下で進行できる。また、上述のように、重合反応前に溶融混合段階を経る場合、前記触媒は、溶融混合段階で追加されてよい。ニトロベンゼン系触媒の種類としては、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、または1-ヨード-4-ニトロベンゼンなどが挙げられるが、上述した例に限定されるものではない。」

(i)「【0045】
一方、発明のさらに他の実施形態により、上述した一実施形態のポリアリーレンスルフィドを含む成形品が提供される。このような成形品は、ポリアリーレンスルフィド単独で行われたり、他の高分子素材および/または強化材/充填材などを含むことができる。前記ポリアリーレンスルフィドは、これら他の高分子素材および/または強化材/充填材などとの優れた相溶性を示すものであって、これらと混合(例えば、コンパウンディング)されて優れた物性を示す樹脂組成物または成形品の提供を可能にする。この時、前記ポリアリーレンスルフィドとコンパウンディングできる高分子素材および/または強化材/充填材などについては、すでに上述した通りである。
【0046】
また、このような成形品は、前記ポリアリーレンスルフィドの約10?99重量%、あるいは約50?90重量%と、前記熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、および充填材からなる群より選択された1種以上の約1?90重量%、あるいは約10?50重量%とを含むことができる。このような含有量範囲を満たす樹脂組成物を二軸押出などの方法で成形して、多様な用途に好ましく適用可能な優れた物性を有する成形品を得ることができる。」

(j)「【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるのではない。
【0055】
実施例1:カルボキシ基またはアミノ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器に、パラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450g、反応開始剤として1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン4gを含む反応物を、180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件から始まって、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行いながら、重合反応を進行させた。前記重合反応が80%進行した時(このような重合反応の進行程度は、「(現在粘度/目標粘度)*100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対割合として測定し、現在粘度は、重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合中止剤として2,2’-ジチオビスベンゾトリアゾールを25g添加し、1時間反応を進行させた。次に、前記重合反応が90%進行した時、4-Iodobenzoic acid51gを添加し、10分間窒素雰囲気下で反応を進行させた後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて1時間反応を進行させた後、終了して、カルボキシ基またはアミノ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を、小型ストランドカッター機を用いてペレット形態で製造した。
【0056】
このような実施例1のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析して、スペクトル上で、約1600?1800cm^(-1)のカルボキシ基のピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400?1600cm^(-1)で現れるRing stretchピークの高さ強度を100%とした時、前記約1600?1800cm^(-1)のピークの相対的高さ強度は約3.4%であることが確認された。
・・・
【0074】
試験例1:ポリアリーレンスルフィドの基本物性評価
実施例1?8および比較例1のポリアリーレンスルフィドの諸物性を、次の方法で評価した。
【0075】
融点(Tm)
示差走査熱量分析器(Differential Scanning Calorimeter;DSC)を用いて、30℃から320℃まで10℃/minの速度で昇温後、30℃まで冷却した後に、再び30℃から320℃まで10℃/minの速度で昇温しながら、融点を測定した。
【0076】
数平均分子量(Mn)および分子量分布(PDI)
1-chloronaphthaleneに、0.4wt%の濃度で、250℃で25分間撹拌溶解したサンプルを、高温GPC(Gel permeation chromatography)システム(210℃)で1-chloronaphthaleneを1mL/minの流速で流しながら、分子量の異なるポリアリーレンスルフィドを順次にカラム内で分離しながら、RI detectorを用いて、分離されたポリアリーレンスルフィドの分子量別強度(Intensity)を測定し、予め分子量を知っている標準試料(Polystyrene)で検量線を作成して、測定サンプルの相対的な数平均分子量(Mn)および分子量分布(PDI)を計算した。
【0077】
溶融粘度(Poise)
溶融粘度(melt viscosity、以下、「MV」)は、回転円板粘度計(rotating disk viscometer)によって300℃で測定した。Frequency sweep方法で測定するにあたり、angular frequencyを0.6から500rad/sまで測定し、1.84rad/sでの粘度を溶融粘度(M.V.)として定義した。
【0078】
このような方法で測定された物性を、下記の表1にまとめて示した。
【0079】
【表1】



(k)「【0086】
ポリアリーレンスルフィドとElastomerとのコンパウンディング
押出Dieの温度300℃、Screw rpm200の条件下で、前記樹脂90重量部にエラストマーのLotader(Grade AX-8840、Arkema製)を10重量部添加し、混合押出を実施した。
【0087】
前記コンパウンディング試験片の機械的物性を、ポリアリーレンスルフィド試験片と同様の方法で評価して、下記の表3にまとめて示した。また、商用化されたコンパウンディング試験片に相当する比較例2の物性を、実施例および比較例1と共に比較して、下記の表3に示した。
【0088】
【表3】



2 先願明細書等に記載された発明
先願明細書等の請求項1には、「ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基(End Group)の少なくとも一部が、カルボキシ基(-COOH)またはアミノ基(-NH_(2))であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド」が記載され(摘記(a))、同請求項11には、このポリアリーレンスルフィドの製造方法として、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階と、前記重合反応段階を進行させながら、カルボキシ基またはアミノ基を有する化合物を追加的に添加する段階とを含むことが記載され(摘記(a))、カルボキシ基を有する化合物として、同請求項12には、2-ヨード安息香酸、3-ヨード安息香酸、4-ヨード安息香酸、2,2’-ジチオ安息香酸が記載されている(摘記(a))。

より具体的な製造方法の記載としては、カルボキシ基を有する化合物は、目標粘度に対する現在粘度の割合で重合反応の進行程度を測定した時、前記ジヨード芳香族化合物と硫黄元素との間の重合反応が約90%以上、あるいは約90%以上100%未満で進行した時(例えば、重合反応後期)に添加されてよいことが記載され(摘記(f))、重合反応後期にカルボキシ基またはアミノ基を有する化合物を添加して反応させることにより、ポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基の少なくとも一部に、カルボキシ基(-COOH)が導入された一実施形態のポリアリーレンスルフィドを製造することができることが記載され(摘記(f))、また、重合がある程度行われた時点で重合中止剤を添加することができ、具体的な重合中止剤として、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールが記載され(摘記(g))、重合中止剤は、例えば、初期反応物内に含まれているジヨード芳香族化合物が約70?100重量%反応して消耗した時点で投与することができることが記載されている(摘記(g))。

製造方法における温度や圧力条件については、重合反応初期では、温度約180?250℃および圧力約50?450torrで行い、温度上昇および圧力降下を行って、重合の最終反応条件は温度約270?350℃および圧力約0.001?20torrに変化させ、約1?30時間進行させることができるとの記載がされている(摘記(h))。

さらに、ポリアリーレンスルフィドの主鎖末端に導入されるカルボキシ基(-COOH)は、先願明細書等には、FT-IR分光法で分析した際の、約1600?1800cm^(-1)で示されるピークにより確認できる旨の記載され(摘記(d))、FT-IRスペクトルにおける約1600?1800cm^(-1)におけるピーク強度は、約1400?1600cm^(-1)で現れるリングストレッチ(Ring stretch)ピークの高さ強度を100%とした時の相対的高さ強度が約0.001?10%であることが記載されている(摘記(d))。

加えて、このポリアリーレンスルフィドは、主鎖末端の一部にカルボキシ基が導入されることにより、熱可塑性エラストマーが例示される他の高分子素材や、充填材と優れた相溶性を示すことが記載され(摘記(d)(e))、他の高分子素材との樹脂組成物が提供できることが記載されている(摘記(i))。

そして、先願明細書等に記載された具体例である実施例1では、「カルボキシ基またはアミノ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィドの合成」と題し、「反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器に、パラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450g、反応開始剤として1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン4gを含む反応物を、180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件から始まって、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行いながら、重合反応を進行させた。前記重合反応が80%進行した時(このような重合反応の進行程度は、「(現在粘度/目標粘度)*100%」の式で、目標粘度に対する現在粘度の相対割合として測定し、現在粘度は、重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合中止剤として2,2’-ジチオビスベンゾトリアゾールを25g添加し、1時間反応を進行させた。次に、前記重合反応が90%進行した時、4-Iodobenzoic acid51gを添加し、10分間窒素雰囲気下で反応を進行させた後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて1時間反応を進行させた後、終了して、カルボキシ基またはアミノ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を、小型ストランドカッター機を用いてペレット形態で製造した。
このような実施例1のポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析して、スペクトル上で、約1600?1800cm^(-1)のカルボキシ基のピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400?1600cm^(-1)で現れるRing stretchピークの高さ強度を100%とした時、前記約1600?1800cm^(-1)のピークの相対的高さ強度は約3.4%であることが確認された。」ことが記載され(摘記(j))、さらに、「ポリアリーレンスルフィドとElastomerとのコンパウンディング」と題し、「押出Dieの温度300℃、Screw rpm200の条件下で、前記樹脂90重量部にエラストマーのLotader(Grade AX-8840、Arkema製)を10重量部添加し、混合押出を実施した。」と記載され(摘記(k))、この組成物の引張強度等の値が表3に具体的な数値と共に記載されている(摘記(k))。

このように実施例1においては、ポリアリーレンスルフィドの製造方法が具体的に記載され、また、製造されたポリアリーレンスルフィドの融点等の物性が記載され、さらに、ポリアリーレンスルフィドの主鎖の末端基の一部がカルボキシ基であることが、FT-IR分析により確認されていることが記載されている。

なお、実施例1において使用された「4-Iodobenzoic acid」は、4-ヨード安息香酸であることは明らかである。また、実施例1において重合中止剤として用いられた「2,2’-ジチオビスベンゾトリアゾール」は化合物として存在しないことは明らかであり、先願明細書等の段落【0039】に記載された「2,2’-ジチオビスベンゾチアゾール」(摘記(g))の誤記であることは明らかである。

そうすると、先願明細書等に記載された実施例1で製造されたポリアリーレンスルフィド90重量部とエラストマー10重量部の組成物に着目すると、先願明細書等には、以下の発明が記載されていると認められる。

「反応器の内温測定が可能なサーモカップル、そして窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器に、パラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450g、反応開始剤として1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン4gを含む反応物を、180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件から始まって、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行いながら、重合反応を進行させ、前記重合反応が80%進行した時、重合中止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを25g添加し、1時間反応を進行させた。次に、前記重合反応が90%進行した時、4-ヨード安息香酸51gを添加し、10分間窒素雰囲気下で反応を進行させた後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて1時間反応を進行させた後、終了して、カルボキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成し、反応が完了した樹脂を、小型ストランドカッター機を用いてペレット形態で製造し、このポリアリーレンスルフィド樹脂90重量部にエラストマーのLotader(Grade AX-8840、Arkema製)を10重量部を添加して混合押出をした組成物」(以下「先願発明」という。)

3 対比・判断
(1)発明者、出願人について
まず、発明者について検討すると、この出願の発明者は、「芳野 泰之」、「川村 聡」、「渡辺 創」及び「檜森 俊男」であり、先願の発明者である「イ セホ」及び「キム スンギ」と同一ではない。
次に、この出願の時における出願人について検討すると、この出願の出願人は「DIC株式会社」であり、先願の出願人である「エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド」と同一ではない。

(2)本願発明について
ア 対比
先願発明の合成された「ポリアリーレンスルフィド樹脂」及び「エラストマーのLotader(Grade AX-8840、Arkema製)」は、本願発明の「ポリアリーレンスルフィド樹脂」及び「エラストマー」に相当することは明らかであるから、先願発明の「ポリアリーレンスルフィド樹脂」に「エラストマーのLotader(Grade AX-8840、Arkema製)を」「添加して混合押出をした組成物」は、本願発明の「ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」に相当する。
また、先願発明の「パラジヨードベンゼン」及び「硫黄」は、本願発明の「ジヨード化合物」及び「単体硫黄」に相当することは明らかであるから、先願発明の「パラジヨードベンゼン」、「硫黄」を「完全に溶融および混合した後」「重合反応を進行させ」「終了して」「ポリアリーレンスルフィド樹脂を合成し」は、本願発明の「ポリアリーレンスルフィド樹脂が、ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄とを、前記ジヨード芳香族化合物及び前記単体硫黄を含む溶融混合物中で反応させることを含む方法により得ることのできるものであること」に相当する。

そうすると、本願発明と先願発明とでは、
「ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄とを、前記ジヨード芳香族化合物、前記単体硫黄を含む溶融混合物中で反応させることを含む方法により得ることのできるものであること、
とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」である点で一致し、次の点で一応相違する。

(相違点1)ポリアリーレンスルフィド樹脂が、本願発明では、塩素原子を含む原料を使用せずとしているのに対して、先願発明では、明らかでない点

(相違点2)ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄とを反応させることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を得る方法が、本願発明では、さらに、下記一般式(1):
【化1】

(式中、Xは水素原子またはアルカリ金属原子を表す。)
で表される基を有する重合禁止剤を反応させているのに対して、先願発明では、明らかでない点

(相違点3)ポリアリーレンスルフィド樹脂を得るためのジヨード芳香族化合物と、単体硫黄とを含む溶融混合物が、本願発明では、さらに、下記一般式(1):
【化1】

(式中、Xは水素原子またはアルカリ金属原子を表す。)
で表される基を有する重合禁止剤を含むとしているのに対して、先願発明では、明らかでない点

(相違点4)本願発明1では、一般式(1)の基は、主鎖の末端の芳香族環に、直接、又は重合禁止剤に由来する部分構造を介して結合していることとしているのに対して、先願発明では、カルボキシ基を主鎖末端に含むとしている点

(相違点5)本願発明では、ポリアリーレンスルフィド樹脂が塩素原子を実質的に含まないこととしているのに対して、先願発明では、明らかでない点

イ 判断
(ア)相違点1及び5について
先願発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂の原料は、パラジヨードベンゼン、硫黄、反応開始剤としての1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、重合中止剤としての2,2’-ジチオビスベンゾチアゾール、4-ヨード安息香酸であり、いずれも塩素原子を含む原料を使用していないから、相違点1は実質的な相違点ではない。
そうすると、先願発明において合成されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、塩素原子を実質的に含まないといえるから、相違点5も実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について
先願発明は、重合反応が90%進行したときに4-ヨード安息香酸を添加し、反応を進行させ、主鎖末端にカルボキシ基を含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成しているということからすると、ポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖末端に安息香酸の4位にあるヨード基が反応し、主鎖末端にカルボキシ基を有する安息香酸が結合したポリアリーレンスルフィド樹脂が合成されたということができる。そして、このことは、甲1の実施例1において、製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析して、約1600?1800cm^(-1)のカルボキシ基のピークの存在を確認したという記載と符合する。
このように、先願発明の製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、ジヨード芳香族化合物及び単体硫黄に、さらに、4-ヨード安息香酸を反応させているといえる。そして、4-ヨード安息香酸は、COOH基を有するベンゼン環の4位の炭素原子にヨウ素が結合した化合物であり、本願発明の一般式(1)で表される基(式中、Xは水素原子)を有する化合物に相当し、また、4-ヨード安息香酸は、重合禁止剤との明示はないが、本願明細書の段落【0021】には、「式(1)で表される重合禁止剤(・・・)としては、一般式(1)で表される基を1又は2以上有し、且つポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応において当該重合反応を禁止又は停止する化合物であれば、特に制限なく用いることができる。」と記載されているところ、先願発明における4-ヨード安息香酸も、一般式(1)で表される基を1つ有し、且つポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応において重合反応を禁止又は停止する化合物であることは明らかであるから、重合禁止剤に相当するということができる。
そうすると、相違点2は、実質的な相違点ではない。

(ウ)相違点3について
先願発明は、パラジヨードベンゼンと硫黄を完全に溶融および混合した後重合反応を進行させているから、パラジヨードベンゼンと硫黄とは溶融混合物を形成し、その溶融混合物中でポリアリーレンスルフィド樹脂が製造されているということができる。
先願発明は、重合反応が90%進行したときに4-ヨード安息香酸を添加し、反応を進行させ、主鎖末端にカルボキシ基を含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成しているということからすると、4-ヨード安息香酸は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を合成している場所である溶融混合物中に存在していると考えることが自然である。
そうすると、先願発明においても、ポリアリーレンスルフィド樹脂を得るためのジヨード芳香族化合物と、単体硫黄とを含む溶融混合物に、4-ヨード安息香酸が含まれているといえる。そして、上記(イ)で述べたとおり、4-ヨード安息香酸は、一般式(1)で表される基を1つ有する、重合禁止剤に相当する。
以上のとおりであるから、相違点3は、実質的な相違点ではない。

(エ)相違点4について
先願発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖は、パラジヨードベンゼン及び硫黄から製造されており、重合禁止剤が結合する前の主鎖の末端は、パラジヨードベンゼンのベンゼン環にヨウ素原子が結合した構造であるといえる。
そして、上記(イ)で検討したとおり、この主鎖の末端に、重合禁止剤である4-ヨード安息香酸のヨード基が反応し、主鎖末端にカルボキシ基を有する安息香酸が結合したポリアリーレンスルフィド樹脂が合成されたということができる。
そうすると、先願発明では、一般式(1)の基は、主鎖の末端の芳香族環に、重合禁止剤に由来する部分構造を介して結合していることに相当し、相違点4は、実質的な相違点ではない。

4 特許出願人の主張について
(1)特許出願人の主張
出願人は、平成30年2月5日付けの意見書、同年12月6日付けの審判請求書の手続補正書(方式)及び令和1年7月2日付けの審尋に対する回答書において、概略、以下のような主張をしている。

ア 先願明細書等には、重合反応が約90%進行した時にカルボキシ基を有する化合物を添加することが記載されており、重合反応が90%進行していると反応系の粘度が上昇し、ポリマー末端の数も減少し、他の化合物との重合性が悪くなるから、カルボキシ基を有する化合物がポリマー鎖と反応できるのか当業者であっても理解できない旨を主張する(以下「主張ア」という。)。

イ 先願明細書等には、ポリアリーレンスルフィド樹脂がカルボキシ末端を有することが、FT-IRにより分析されているが、未反応物等を分離・精製して測定する旨の測定条件の記載がなく、未反応物のカルボキシ基を測定したのか、ポリアリーレンスルフィド樹脂のカルボキシ末端を測定したのか区別がつかないから、先願明細書等にFT-IRによる分析結果が記載されていたとしても、この分析結果がポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖末端にカルボキシ基が結合している証明にはならない旨を主張する(以下「主張イ」という。)。

ウ 先願明細書等の実施例1では、重合反応が300℃で90%進行した時に4-ヨード安息香酸を添加しているところ、4-ヨード安息香酸は、270.55℃付近で分解するから、300℃で添加した場合には、4-ヨード安息香酸が分解すると解され、ポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖末端に4-ヨード安息香酸が結合するのか理解できない旨を主張する(以下「主張ウ」という。)。

エ 令和1年7月2日付けの回答書で示した文献には、ジヨード芳香族化合物と硫黄化合物と重合停止剤を一緒に重合装置に導入し、昇温し、溶解させて重合反応させポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することが記載され、これが技術常識であるから、先願明細書等の記載のように、重合反応が300℃で90%進行した時点で4-ヨード安息香酸を添加しても、この化合物は分解してしまうと考えるのが普通であるし、ポリマー鎖の末端に結合することが明らかとはいえない旨を主張する(以下「主張エ」という。)。

(2)特許出願人の主張の検討
ア 主張アについて
先願明細書等に記載された実施例1には、重合反応が90%進行した時に、4-ヨード安息香酸を添加する記載されているが、その後、10分間窒素雰囲気下で反応を進行させ、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて1時間反応を進行させた後、反応を終了したこと、カルボキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成したしたこと、このポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析して、約1600?1800cm^(-1)のカルボキシ基のピークの存在を確認したことが記載され、技術的にみて、矛盾する内容はないといえる。
これに対して、特許出願人の主張は、定性的な説明をするにとどまり、上記先願明細書等の記載を覆すものとはいえないから、特許出願人の主張アを採用することはできない。

イ 主張イについて
先願明細書等には、FT-IRにより分析する際の、未反応物等の分離・精製に関する測定条件の記載はない。しかしながら、例えば、特許出願人が提出した令和1年7月2日付けの回答書中で挙げた特許文献である特許第3219824号公報には、その特許請求の範囲に、ポリアリーレンスルフィドとポリアミドよりなる組成物が記載され、段落【0026】には、実施例として、ポリアリーレンスルフィドの製造方法が記載され、反応混合液から共重合体であるポリアリーレンスルフィドを分離した後、アセトンで洗浄、ついで水洗、脱水、乾燥を経たPAS共重合体Cについて、赤外吸収スペクトルを測定していることが記載されている。また、同じく特許第3141459号公報には、その特許請求の範囲に、アミノ基含有ポリアリーレンスルフィドの製造方法が記載され、段落【0046】には、実施例として、アミノ基含有ポリアリーレンスルフィドを製造し、得られた灰白色の生成物であるポリマーを30℃で1-クロロナフタレン250mlに再溶解させ、室温に冷却し白色の沈澱を得、この沈澱を濾過、洗浄(塩化メチレン、メタノ-ル)、乾燥し、白色粉末を得たことが記載され、この得られたポリマ-についてFT-IRを測定したことが記載されている。さらに、同じく特許第2988827号公報には、その特許請求の範囲に、スルホン化ポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法が記載され、段落【0034】、【0035】には、反応生成物であるポリアリーレンスルフィドを濾過した後、濾過物をエタノールで洗浄し、濾過物を100mlの水に溶解し、水酸化ナトリウム2g、塩化ナトリウム2gを水20mlに溶解したものと混合し、室温で1時間撹拌した後、80℃下で3時間撹拌し、反応生成物をすべて透析膜に入れて透析を行い、4.8gの反応生成物を得て、この得られた反応生成物をIRスペクトルで分析することが記載されている。
このような文献をみると、通常、IR分析やFT-IR分析をする際には、得られた重合体を精製することは技術常識であるといえるから、先願明細書等にFT-IRにより分析する際の、未反応物等の分離・精製に関する測定条件の記載はないとしても、当然に分離・精製した後でFT-IR分析をするといえ、特許出願人の主張イを採用することはできない。

ウ 主張ウについて
特許出願人は、先願明細書等に記載された実施例1は、重合反応の温度が300℃の時に4-ヨード安息香酸を添加しているということを前提に主張ウを行っている。そこで、この実施例1について、特に温度に関する記載をみてみると、220℃の初期反応条件から始まって、最終反応温度は300℃まで段階的に温度上昇を行いながら重合反応を進行させた、という記載はあるといえるが、4-ヨード安息香酸を添加する重合反応が90%進行した時の温度については明示的な記載はない。そうすると、実施例1において、4-ヨード安息香酸を添加する際の温度は300℃とはいうことはできないから、特許出願人がする主張ウは、その前提において誤りがある。
そして、上記アで述べたように、実施例1には、重合反応が90%進行した時に、4-ヨード安息香酸を添加して反応を進行させ、カルボキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成したしたこと、このポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析して、約1600?1800cm^(-1)のカルボキシ基のピークの存在を確認したことが記載されているのであるから、4-ヨード安息香酸を添加する重合反応が90%進行した時の温度について明示的な記載がないとしても、4-ヨード安息香酸が分解するような高温で添加するものではないことは技術常識であるといえ、化合物が分解してしまうような高温で4-ヨード安息香酸を添加するなどという主張はそもそも技術的に矛盾する主張である。
なお、特許出願人は、平成30年12月6日付けの審判請求書の手続補正書(方式)において、非特許文献3を挙げて、ここには、4-ヨード安息香酸は、融点(270.55℃)付近で分解することが記載されていると主張するが、非特許文献3には、4-ヨード安息香酸の3重点が270.55℃であることが記載され、4-ヨード安息香酸の融解エンタルピーを測定する際に、4-ヨード安息香酸の3重点から2ケルビン高い温度で少し化合物が分解することが記載されているだけであり、先願明細書等の実施例1とは関係のないものである。
以上のとおりであるから、特許出願人の主張ウを採用することはできない。

エ 主張エについて
特許出願人が令和1年7月2日付けの回答書で示した文献に、ジヨード芳香族化合物と硫黄化合物と重合停止剤を一緒に重合装置に導入し、昇温し、溶解させて重合反応させポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することが記載され、これが技術常識であったとしても、上記アで述べたように、先願明細書等に記載された実施例1では、重合反応が90%進行した時に、4-ヨード安息香酸を添加し、その後、10分間窒素雰囲気下で反応を進行させ、カルボキシ基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を合成したしたこと、このポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析して、約1600?1800cm^(-1)のカルボキシ基のピークの存在を確認したことにはかわりはない。
また、この実施例1において、300℃で4-ヨード安息香酸を添加したものでないことは、上記ウで述べたとおりである。
よって、特許出願人の主張エを採用することはできない。

5 まとめ
したがって、本願発明は、この出願の優先権主張日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第184条の13の規定において読み替えて準用する同法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その他の請求項について検討するまでもなく、この出願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-24 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2015-530952(P2015-530952)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大▲わき▼ 弘子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 佐藤 健史
橋本 栄和
発明の名称 ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその成形品  
代理人 大野 孝幸  
代理人 小川 眞治  
代理人 岩本 明洋  
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