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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  F04B
管理番号 1360452
異議申立番号 異議2019-700037  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-21 
確定日 2020-01-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6368517号発明「液圧回転機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6368517号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1?3],4,5,6について訂正することを認める。 特許第6368517号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6368517号の請求項1?7に係る特許についての出願は,平成26年 3月28日の特許出願であって,平成30年 7月13日にその特許権の設定登録がされ,平成30年 8月 1日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許の請求項1?7について,平成31年 1月21日付けで特許異議申立人 恒川 朱美により特許異議の申立てがされ,同年 3月26日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である令和 1年 5月30日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ,同年 7月11日付けで特許異議申立人により意見書の提出があり,同年 7月31日付けで取消理由(決定の予告)が通知され,その指定期間内である同年10月 4日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ,同年11月25日付けで特許異議申立人により意見書の提出があった。

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
令和 1年10月 4日付けの訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項1?5のとおりである(下線部は,訂正箇所を示し,当審で付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられることを特徴とする液圧回転機。」とあるのを,「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,前記凹部は,前記シリンダの内周において円環状に形成されることを特徴とする液圧回転機。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記凹部は,前記シリンダの内周において環状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。」とあるのを,「前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成されることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記第一側面部は,階段状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。」とあるのを,独立形式に改め,「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,前記第一側面部は,階段状に形成されることを特徴とする液圧回転機。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「前記第一側面部は,曲面状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。」とあるのを,独立形式に改め,「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,前記第一側面部は,曲面状に形成され,前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成されることを特徴とする液圧回転機。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「前記凹部は,前記シリンダの前記開口部側から前記凹部の底に向かって形成される第二側面部を有し,前記第二側面部は,前記シリンダの軸に対して少なくとも一部が垂直に形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の液圧回転機。」とあるうち,請求項1を引用するものについて,独立形式に改め,「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部側から前記凹部の底に向かって形成される第二側面部を有し,前記第二側面部は,前記シリンダの軸に対して少なくとも一部が垂直に形成されることを特徴とする液圧回転機。」に訂正する。

なお,訂正事項1?5に係る訂正前の請求項1?6について,請求項2?6は,いずれも請求項1を引用しているものであり,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?6に対応する訂正後の請求項1?6は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また,訂正後の請求項4については,引用関係の解消を目的とする訂正であるから,この訂正が認められる場合には,請求項4は,請求項1?3とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
次に,訂正後の請求項5については,引用関係の解消を目的とする訂正であるから,この訂正が認められる場合には,請求項5は,請求項1?4とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
さらに,訂正後の請求項6ついては,引用関係の解消を目的とする訂正であるから,この訂正が認められる場合には,請求項6は,請求項1?5とは別の訂正単位として扱われることを求めている。

2.訂正要件についての判断
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明は,「内周に凹部が形成されるシリンダ」として,凹部が,シリンダの内周に形成されることは特定していたが,シリンダの内周にどのように形成されるかという具体的態様を特定していない。
これに対し,訂正後の請求項1は,「前記凹部は,前記シリンダの内周において円環状に形成される」との記載によって,シリンダの内周に形成される凹部をより具体的に特定し,更に限定するものであるため,訂正事項1による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書(以下,「特許明細書」という。)の段落【0020】等には,凹部が環状溝20であることが記載されている。また,特許明細書の段落【0037】には,環状溝20(凹部)の溝底部21が,環状溝20の軸を中心とした円筒面として形成されることが記載されている。また,特許明細書の段落【0038】には,環状溝20の規制部が,環状溝20の軸に対して垂直な鉛直面であることが記載されている。これらの記載から,特許明細書に記載された「環状溝20」が円環状であることは明らかであり,訂正事項1における「前記凹部は,前記シリンダの内周において円環状に形成される」ことは,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「特許明細書等」という。)に記載した事項から導出される構成である。
以上より,訂正事項1による訂正は,特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように,訂正事項1による訂正は,発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2に係る発明では,「内周に凹部が形成されるシリンダ」として,凹部が,シリンダの内周に形成されることは特定していたが,シリンダの内周にどのように形成されるかという具体的態様を特定していない。
これに対し,訂正後の請求項2に係る発明は,「前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成される」との記載によって,凹部の形状をより具体的に特定し,更に限定するものであるため,訂正事項2による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
特許明細書の段落【0037】段落には,「環状溝20の溝底部21は,環状溝20の深さを規定する部位である。溝底部21は,環状溝20の軸を中心とした円筒面として形成される。」ことが記載されている。これらの記載から,訂正事項2における「前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成される」とは,特許明細書等に記載された事項から導出される構成である。
以上より,訂正事項2による訂正は,特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように,訂正事項2による訂正は,発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア.訂正の目的について
訂正事項3は,訂正前の請求項4が請求項1の記載を引用する記載であるところ,請求項間の引用関係を解消し,請求項1を引用しないものとして,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
イ.特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること,及び,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3による訂正は,何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア.訂正の目的について
訂正事項4は,訂正前の請求項5が請求項1の記載を引用する記載であるところ,請求項間の引用関係を解消し,請求項1を引用しないものとして,独立形式請求項へ改めるための訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また,上記目的に加え,訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項5に係る発明では,凹部の具体的態様を特定していないところ,訂正後の請求項5に係る発明では,「前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成される」との記載によって,凹部の形状をより具体的に特定し,更に限定するものであるため,訂正事項4による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ.特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
特許明細書の段落【0037】には,「環状溝20の溝底部21は,環状溝20の深さを規定する部位である。溝底部21は,環状溝20の軸を中心とした円筒面として形成される。」ことが記載されている。これらの記載から,訂正事項4における「前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成される」とは,特許明細書等に記載された事項から導出される構成である。
以上より,訂正事項4による訂正は,特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記ア.の理由から明らかなように,訂正事項4による訂正は,発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア.訂正の目的について
訂正事項5は,訂正前の請求項6が請求項1?5のいずれか一つの記載を引用する記載であるところ,請求項1を引用するものについては,請求項間の引用関係を解消し,請求項1を引用しないものとして,独立形式請求項へ改めるための訂正であり,請求項2?5を引用するものについては削除する訂正であって,特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正及び同項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ.特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること,及び,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5による訂正は,引用している請求項のうちの1つを選択して独立形式の請求項にしたものにすぎないから,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(6)小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項,第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項[1?3],4,5,6について訂正を認める。
第3.訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明及び訂正のない請求項7に係る発明(以下,「本件発明1」?「本件発明7」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,
前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,
前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,
前記凹部は,前記シリンダの内周において円環状に形成されることを特徴とする液圧回転機。
【請求項2】
前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成されることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。
【請求項3】
前記第一側面部は,傾斜状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。
【請求項4】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,
前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,
前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,
前記第一側面部は,階段状に形成されることを特徴とする液圧回転機。
【請求項5】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,
前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,
前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,
前記第一側面部は,曲面状に形成され,
前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成されることを特徴とする液圧回転機。
【請求項6】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,
前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,
前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,
前記凹部は,前記シリンダの前記開口部側から前記凹部の底に向かって形成される第二側面部を有し,
前記第二側面部は,前記シリンダの軸に対して少なくとも一部が垂直に形成されることを特徴とする液圧回転機。
【請求項7】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって,
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,
前記ブッシュの内周と摺動自在に挿入されるピストンと,を備え,
前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成される共に,前記ピストンが摺動する軸方向の範囲外に形成されることを特徴とする液圧回転機。」

第4.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1.取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正請求前の請求項2,3,5に対して,当審が令和 1年 7月31日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。
請求項2,3は,引用発明1(甲第1号証に記載された発明)及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,請求項2,3に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
さらに,請求項5は,甲第2号証に記載された発明(引用発明2)であり,特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当するから,請求項5に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって,請求項2,3,5に係る特許は,特許法第113条第2項に該当するから取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開平7-217742号公報
甲第2号証:特開昭59-103974号公報

2.甲号証の記載
(1)甲第1号証
ア.記載事項
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ボディボアの内壁に凹部を設けるとともに,このボディボアに円筒状のブッシュを挿入し,さらにブッシュをその内側から押し広げ塑性変形させることによって,上記ボディボアに形成した凹部にブッシュ外周を埋没させるブッシュの取り付け方法。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,ピストンポンプ,ピストンモーター等のボディボア内に合金材ブッシュを挿入設置する方法に関するものである。」
(ウ)「【0003】
・・・本発明の目的は,低コストで,高い固着力と,抜け止めに対する高信頼性を有するブッシュの取り付け方法を実現することである。」
(エ)「【0006】
【実施例】本発明の方法によりブッシュを取り付けた図1に示す第1実施例は,シリンダブロック1に形成されたボディボア2と,ブッシュ4とからなり,ブッシュ4の外周は,ボディボア2に形成した環状の凹部5に埋没して固着している。そして,ブッシュ4の内壁が,ピストンとの摺動部3になる。ブッシュ取り付け手順を,図2?6により説明する。ボディボア2の内壁に凹部5を形成し(図4(a)),図2,3に示す取り付け前の単体の銅合金製のブッシュ4を,段部8に当接するまで挿入する(図4(b))。この時,ブッシュ4の外径D2は,ボディボア2の内径D1とは,D1≧D2に設定してあるので,挿入は簡単である。もちろん,D2>D1としてブッシュ4をボディボア2内に圧入させてもよい。この場合にも,単に圧入する場合に比べて,さほど細かい圧入精度は要求されない。
【0007】次に,図5に示すローラー6を用いて,拡管を行う(図4(c))。ローラー6は,テーパー状になっていて,軸7を中心に回転する。ボディボア2の中に挿入したブッシュ4に,ローラー6を回転させながら,圧入していくと,ブッシュ4は,ボディボア2の内部形状に沿って,図2のブッシュ4から図6に示すブッシュ4の形状に塑性変形する。これによって,ボディボア2の凹部5には,ブッシュ4の外周が埋没して固着する。さらに,ブッシュ4を塑性変形させたとき,ブッシュ4は軸方向にも多少延伸するので,ブッシュ4端部の段部8への密着力が大きくなる。したがって,単に圧入する場合に比べて,格段にシール機能が向上するとともに,圧抜き用の穴等をシリンダブロック1に形成する必要もなくなる。最後に,ブッシュ4の内径を調整し,ボディボア2の開口部分の端面加工を行って仕上げる(図4(d))。
【0008】図7に示す第2実施例では,ボディボア2内に円形や楕円形などの凹部11を点在させている。なお,ブッシュの取付手順は第1実施例と同様であり,その詳細な説明は省略する。図8に示す第3実施例では,ボディボア2内にメネジ溝状の凹部9を形成するとともに,ブッシュ4を挿入している。そして,ブッシュ4をその内側から押し広げ,塑性変形させることは第1実施例と同様である。図9に示す第4実施例では,ボディボア2内に螺旋状の凹部10を形成しているとともに,第1実施例同様,ブッシュ4をその内側から押し広げ塑性変形させている。以上のように,凹部は,どのような形状であっても良いし,ボディボア2のブッシュ4を取り付け位置であれば,どこに加工されていてもかまわない。この発明の方法では,ブッシュ4をボディボア2内に挿入するとともに,ローラー6により押し広げるので,ブッシュ4は,ボディボア2に形成した凹溝に埋没し固着するので,圧入精度を細かく制御する必要がない。なお,本発明は,実施例のようにピストンポンプ等のボディボアの他,回転軸の軸受け部のブッシュを取り付ける際にも利用できる。
【0009】
【発明の効果】本発明のブッシュ取り付け方法によれば,ボディボアに設けた凹部にブッシュの一部が埋没して固着するので,高い固着力と,抜け止めに対する高信頼性を得ることができた。」
(オ)上記(ア),(エ)の下線部の記載事項と図8の図示内容からみて,「ボディボア2」が「シリンダブロック1の一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部9が形成される」こと,「ブッシュ4」が「ボディボア2の開口部から挿入されて前記ボディボア2の内側に設けられる」こと,「ブッシュ4」が「塑性変形によって凹部9に埋没された部分を有する」ことが理解できる。
さらに,上記(エ)の下線部の記載事項と図8の図示内容からみて,「凹部9」は「深さ方向に向かうにつれてボディボア2の軸方向に沿った幅が小さくなるようにメネジ溝状に形成され」ること,「凹部9」は「ボディボア2の開口部とは逆側からメネジ溝状である凹部9の谷底に向かって形成される傾斜状の第一側面部を有し」ていること,及び,「凹部9の最も底側(図8の凹部9の最右端)に位置する,ボディボア2の内周面と前記第一側面部との境界は,メネジ溝状である前記凹部9の谷底よりも前記ボディボア2の開口部とは逆側に設けられ」ていることが理解できる。
イ.甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には,図8の第3実施例に着目すると,以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「ピストンポンプ,ピストンモーター等であって,
シリンダブロック1と,
前記シリンダブロック1の一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部9が形成されるボディボア2と,
前記ボディボア2の前記開口部から挿入されて前記ボディボア2の内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部9に埋没された部分を有するブッシュ4と,を備え,
前記凹部9は,深さ方向に向かうにつれて前記ボディボア2の軸方向に沿った幅が小さくなるようにメネジ溝状に形成され,
前記凹部9は,前記ボディボア2の前記開口部とは逆側からメネジ溝状である前記凹部9の谷底に向かって形成される傾斜状の第一側面部を有し,
凹部9の最も底側(図8の凹部9の最右端)に位置する,前記ボディボア2の内周面と前記第一側面部との境界は,メネジ溝状である前記凹部9の谷底よりも前記ボディボア2の前記開口部とは逆側に設けられ,
前記凹部9は,ボディボア2内にメネジ溝状に形成される,ピストンポンプ,ピストンモーター等。」

(2)甲第2号証
ア.記載事項
(ア)「この発明は主として液圧ピストンポンプ又はモーターのシリンダーライナの構造およびその製造方法に関するものである。」(1ページ右欄1行?3行)
(イ)「先ず,この発明の理解を助けるために示した第1図及び第2図について説明する。第1図はアキシャルプランジャポンプ又はモーターの1例で回転軸(1)はその端面に同一円周上に同一間隔で穿けられた凹半球部を有し,該凹半球部にピストン(3)の端部にある球部(2)を嵌入しピストンを回転軸端面に連接する。回転軸(1)を回転せしめると,シリンダー(4)に嵌挿されているピストン(3)が回転しつつシリンダー内を往復動する。回転軸(1)が1回転する毎にピストン(3)はシリンダ一部(5)で1往復の摺動運動を行う。これによりバルブプレート(6)を介して作動液体を吸入,排出せしめるポンプ又はモーターである。第2図はシリンダー(4)の断面構造の1例を示すもので,鉄基合金シリンダー母体(8)のシリンダー部(5)に軸受性合金による円筒体(9)をシリンダーライナとして適用しバイメタルシリンダーを形成したものである。第1の発明は母体シリンダ一部内面とライナ外面とが塑性変形による密着面を有することを特徴とするもので,その様子は第3図(ロ)に示される。」(2ページ左上欄14行?右上欄14行)
(ウ)「母体(8)の内面と円筒体(9)の外面とは塑性変形によって密着しており両面の凹凸嵌合状態は従来の圧入バイメタルに比し極めて粗であるので抜け出し抵抗が極めて大きい。更に本発明を適用するときには第4図に示す如く,母体(8)の内径を直円筒状にせず(a)(b)図の如く円筒体(9)の挿入端が拡径するように加工しておくと,加工時に円筒体(9)の端部にフランジ部(10)が成形されて円筒体(9)の抜け出し抵抗を極めて大きくすることができる。又(c)(d)図に示す如く母体(8)の内径の途中を湾曲せしめた形状にしても円筒体(9)の抜け出し抵抗を極度に大きくすることができるものである。」(2ページ右下欄3行?15行)
(エ)上記(イ)の下線部の記載事項と第1図及び第2図の図示内容からみて,「回転軸1が連結されて前記回転軸1と共に回転する母体8」,「母体8の一端側に開口部を有して形成されるシリンダー部5」及び「シリンダー部5の開口部から挿入されて前記シリンダー部5の内側に設けられる円筒部9」が理解できる。
(オ)上記(ウ)の下線部の記載事項と第2図及び第4図(c)(d)の図示内容からみて,母体8に形成された「シリンダー部5」には「内径の途中に湾曲せしめた形状が形成される」こと,及び,「円筒体9」が「塑性変形によって前記湾曲せしめた形状に充填される部分を有する」ことが理解できる。
(カ)上記(ウ)の下線部の記載事項と第4図(c)(d)の図示内容からみて,「前記湾曲せしめた形状は」,「深さ方向に向かうにつれてシリンダー部5の軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され」るととともに,「前記シリンダー部5の前記開口部とは逆側から前記湾曲せしめた形状の底に向かって形成される湾曲した第一側面部を有」すること,及び,「シリンダー部5の径方向内側の第一側面部の端部はシリンダー部5の径方向外側の第一側面部の端部よりもシリンダー部5の開口部とは逆側に設けられる」ことが理解できる。
イ.甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には,第4図(c)(d)の実施例及びその説明の記載に着目すると,以下の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「液圧ピストンポンプ又はモーターであって,
回転軸1が連結されて前記回転軸1と共に回転する母体8と,
前記母体8の一端側に開口部を有して形成されると共に内径の途中に湾曲せしめた形状が形成されるシリンダー部5と,
前記シリンダー部5の開口部から挿入されて前記シリンダー部5の内側に設けられると共に,塑性変形によって前記湾曲せしめた形状に充填される部分を有する円筒体9と,を備え,
前記湾曲せしめた形状は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダー部5の軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,
前記湾曲せしめた形状は,前記シリンダー部5の前記開口部とは逆側から前記湾曲せしめた形状の底に向かって形成される湾曲した第一側面部を有し,
シリンダー部5の径方向内側の第一側面部の端部はシリンダー部5の径方向外側の第一側面部の端部よりもシリンダー部5の開口部とは逆側に設けられる,液圧ピストンポンプ又はモーター。」

3.当審の判断
(1)本件発明1について
本件発明1は,取消理由通知(決定の予告)の対象となった本件訂正請求前の請求項2の発明特定事項である「環状に形成されること」を「円環状に形成されること」としたものでもあるから,まず,本件発明1について検討する。
本件発明1と引用発明1とを対比すると,後者の「シリンダブロック1」は前者の「シリンダブロック」に,以下同様に「ボディボア2」は「シリンダ」に,「凹部9に埋没された部分」は「凹部に充填された突起部」に,それぞれ相当する。
後者の「ピストンポンプ,ピストンモーター等」と前者の「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機」又は「液圧回転機」とは,「作動流体の給排によって作動する液圧機」又は「液圧機」において共通する。
後者の「メネジ溝状である凹部9の谷底」は,前者における「前記凹部の底」又は「前記第一側面部と前記凹部の底との境界」に相当する。
よって,後者の「凹部9の最も底側(図8の凹部9の最右端)に位置する,前記ボディボア2の内周面と前記第一側面部との境界は,メネジ溝状である前記凹部9の谷底よりも前記ボディボア2の前記開口部とは逆側に設けられ」ることは,前者の「シリンダの内周面と第一側面部との境界は,第一側面部と凹部の底との境界よりもシリンダの開口部とは逆側に設けられ」ることに相当する。
後者は「前記凹部9は,ボディボア2内にメネジ溝状に形成され」ているからボディボア2の内周面に螺旋状に形成されているといえ,後者の「前記凹部9は,ボディボア2内にメネジ溝状に形成される」ことと,前者の「前記凹部はシリンダの内周において円環状に形成されること」とは,「前記凹部はシリンダの内周において形成されること」において共通する。
そうすると,本件発明1と引用発明1とは,
「作動流体の給排によって作動する液圧機であって,
シリンダブロックと,
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,
前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,
前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,
前記凹部は,前記シリンダの内周において形成される,液圧機。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では,「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機」及び「液圧回転機」であって,「シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロック」を備えるのに対して,引用発明1では,「ピストンポンプ,ピストンモーター等」であるものの,「回転作動する液圧回転機」であるか,シリンダブロックが「シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転する」かは特定されていない点。
<相違点2>
前記凹部はシリンダの内周において形成されることに関して,本件発明1では,「円環状」に形成されるのに対して,引用発明1では,メネジ溝状(螺旋状)に形成される点。
<相違点1について>
ピストンポンプ,ピストンモーター等において,シリンダブロックを「シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転する」ものとして,「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機」とすることは,甲第2号証に例示されるように周知の事項であるから,引用発明1において相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは,当業者が適宜なし得る事項である。
<相違点2について>
甲第1号証では,凹部は,シリンダ(ボディボア2)の開口部からメネジ溝状に形成されており(図8参照),甲第1号証の凹部は,シリンダの開口部に連なるものである。
ここで,一般に,液圧回転機では,シリンダ内のブッシュの内側に挿入されるピストンは,シリンダブロックの回転によりシリンダ内で回転することがある。よって,このようなピストンの回転により,ブッシュにもシリンダの軸回りに回転するような力が作用する。このため,ボディボア2の開口部から形成されるメネジ溝状(螺旋状)の凹部によって抜け止めを構成する引用発明1では,ブッシュは,シリンダの軸方向に沿って作用する力によってシリンダから抜ける可能性があると共に,シリンダの軸回りに回転するように作用する力によってもシリンダから抜ける可能性が生じる。つまり,引用発明1では,ネジが緩む現象のように,ブッシュがシリンダから抜け出る可能性がある。
また,メネジ溝状の凹部に対してブッシュを塑性変形で充填させる場合,ブッシュは,凹部内において,ネジの底に向けて流動すると共に,メネジ溝の形状に応じて螺旋状にも流動することとなる。このような螺旋状のブッシュの流動によって,円環状の凹部と比較して,凹部の底部に向けたブッシュの流動が阻害されるため,欠肉が生じやすくなる。
さらに,メネジ溝状とは,シリンダの軸方向に沿ってねじの山と谷が繰り返される形状である。ブッシュを拡径してメネジ溝状の凹部にブッシュを充填する際,メネジの谷に対向する部分ではブッシュをより充填するために大きな加工力が求められる一方,山に対向する部分ではメネジの山が破損しないよう加工力は比較的小さいことが望まれる。このように,甲第1号証の図8のような凹部では,メネジの山を破損させないようブッシュを凹部に充填させる必要から加工力に制限があり,適切な加工力を設定することが難しく,これに伴い凹部内へ効果的にブッシュを充填させることが難しくなる。このような観点からも,甲第1号証の図8の凹部では,欠肉が発生しやすいといえる。
これに対し,本件発明1の凹部は,円環状に形成されるものであり,螺旋状ではない。このため,本件発明1では,軸回りに回転するような力がブッシュに作用したとしても,ブッシュがシリンダから抜け出ることはない。したがって,本件発明1によれば,より効果的にブッシュの抜け止めを行うことができる。
また,円環状の凹部では,螺旋状のブッシュの流動は生じないため,凹部の底部に向けたブッシュの流動を促しやすく,凹部内での欠肉の発生を抑制することができる。
さらに,メネジ溝状のように山と谷が繰り返される形状ではないため,山部の破損を防止するための加工力の制限を受けず,凹部内にブッシュを効果的に充填させることができる。よって,凹部内での欠肉の発生が抑制される。
このように,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項により,本件発明1は,格別な効果を奏するものである。
また,令和1年7月31日(起案日)付けの取消理由通知書(決定の予告)においては,「また,仮に,「螺旋状」が「環状」でないことをもって相違点としても,引用例1(甲第1号証)の段落【0006】及び図1には,凹部5を環状に形成することが記載されているから,「螺旋状」の凹部を「環状」に形成することは,当業者にとって容易である。」と指摘したが,甲第1号証には,凹部内での欠肉の発生による抜け止め性能の低下という本件発明1の解決しようとする課題は,記載されていないから,甲第1号証の段落【0008】及び図8の記載は,せいぜい機械要素として一般的なメネジを凹部として利用するといった思想を開示しているにすぎず(甲第1号証の図8の凹部の形状は,単に一般的なメネジの形状を一例として表しているにすぎず),凹部の角部周辺の欠肉の発生を防止するために凹部の第一側面部によって凹部の軸方向へ材料を導いて凹部の角部周辺へ材料を促す,という本件発明1の技術的思想によりなされたものではない。
さらに言えば,甲第1号証の明細書には,図8の凹部の説明として,単にメネジ溝状であるとの記載しかなく(段落【0008】),その断面形状に関しては一切説明されていない。また,一般的に,ネジとは,「螺旋状の溝」を指すものであり,ネジとしての機能を効果的に発揮するために,その断面が所定の形状に形成される。つまり,図8に記載される凹部の断面形状は,ネジとしての機能を発揮するための形状としての意義しか含んでおらず,凹部内の角部周辺への材料の流れを促すという技術的思想を含むものではないといえる。言い換えれば,図8の凹部は,メネジ溝として形成されるからこそ,図8に示すような断面形状を有するものであるといえる。以上のように,甲第1号証の図8の凹部は,凹部内の角部周辺への材料流れを促すという技術的思想を包含するものではなく,単にメネジ溝状の凹部の一例を示しているにすぎないことから,当業者が図8の凹部の断面形状にのみ着目し,凹部内での材料流れを促すために図8の凹部の断面形状と図1の環状の凹部と組み合わせて本件発明1のような凹部を構成することは,容易に想到し得るものではない。
また,仮に,当業者が甲第1号証の図1における凹部と図8における凹部とを組み合わせることを考えたとしても,図8の凹部における「螺旋状の溝」という構成と図1の凹部における断面が矩形の凹部という構成とを組み合わせるにすぎず,せいぜい断面が矩形であって螺旋状に形成される凹部にしか想到し得ない。
また,本件発明1は,さらに,引用発明2を考慮しても,引用発明2には,湾曲せしめた形状を円環状にすることについての開示はないから,当業者が容易になし得たものではない。
したがって,本件発明1は,引用発明1,前記周知の事項及び引用発明2に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2,3について
本件発明2,3は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定して発明を特定するものであるから,本件発明1と同じ理由により,引用発明1,周知の事項及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明5について
本件発明5と引用発明2とを対比すると,後者の「回転軸1」は前者の「シャフト」に相当し,以下同様に,「母体8」は「シリンダブロック」に,「シリンダー部5」は「シリンダ」に,「円筒体9」は「ブッシュ」に,「内径の途中」は「内周」に,「湾曲せしめた形状」は「凹部」に,「湾曲せしめた形状に充填される部分」は「凹部に充填された突起部」に,それぞれ相当する。
後者の「液圧ピストンポンプ又はモーター」は「回転軸1が連結されて前記回転軸1と共に回転する母体8」を備えるから,前者の「作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機」又は「液圧回転機」に相当する。
後者の「シリンダー部5の径方向内側の第一側面部の端部」は前者の「前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界」に相当し,後者の「シリンダー部5の径方向外側の第一側面部の端部」は前者の「前記第一側面部と前記凹部の底との境界」に相当する。
後者の「湾曲した第一側面部」は前者の「第一側面部は,曲面状に形成されること」に相当する。
そうすると,両者は,
「作動流体の給排によって作動する液圧回転機であって,
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと,
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと,
前記シリンダの開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に,塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと,を備え,
前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,
前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ,
前記第一側面部は,曲面状に形成される,液圧回転機。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
<相違点>
本件発明5では,「前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成される」のに対して,引用発明2では,そのような特定はなされていない点。

<相違点について>
甲第1号証には,本件発明5において規定する「前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し」との構成,「前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ」との構成,及び「前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成される」構成を一体的に備える構成は開示されていない。
また,甲第2号証にも,底がシリンダの軸を中心とした円筒面である凹部は記載されていない。甲第2号証の第4図(c)(d)に記載される凹部の底は,円筒面状ではないことは,その図面の記載からも明らかである。
してみれば,本件発明5は,引用発明1及び引用発明2とは相違するものであり,さらに,本件発明5は,上記の3つの構成を一体的に備えるものであることによって,第一側面部によって案内されたブッシュの一部が,軸に平行な断面を有する底部によって凹部の角部に向けて軸方向に案内されて凹部の角部に導かれため,角部周辺の欠肉を抑制できる,という優れた効果を奏するものである。したがって,上記構成を一体的に備えるものではない引用発明1及び引用発明2からは,上記の本件発明5の効果を奏することは予測されない。
よって,本件発明5は,引用発明2及び引用発明1に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)特許異議申立人の意見について
ア.本件発明1について
特許異議申立人は,訂正請求により追加された「前記凹部は,前記シリンダの内周において円環状に形成されること」について,甲第2号証の第4図(b)の凹部が円環状であることは,第4図(b)の凹部により円筒体にフランジ部が形成されることから明らかであり,本件発明1と甲第2号証の第4図(b)の構成との間に相違点は存在しない旨主張している。
しかしながら,甲第2号証の第4図(b)からでは,本件特許明細書の比較例(従来例)としての図10の記載のものとの差が判然とせず,「前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ」ることが明らかではないから,特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ.本件発明2,5について
特許異議申立人は訂正請求により追加された「前記凹部の底は,前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成されること」について,甲第2号証の第4図(d)には円筒状に形成された凹部の底が示されているから,本件発明2,5は甲2記載の発明により新規性を有さず,また,甲第2号証の第4図(d)の凹部の底が円筒面と認められなかったとしても,凹部の底を円筒面としたものは甲第2号証の第4図(a)や甲第1号証の図1に示されており,甲第2号証の第4図(d)に示された凹部の底を円筒面とすることに格別の困難性はないから,本件発明2,5は,進歩性を有さない旨主張する。
しかしながら,甲第2号証の第4図(d)について,母体の内径を湾曲せしめた形状であることの記載はあるが,第4図(d)の図面自体を参照しても凹部の底を円筒面としていることは認められず,また,凹部の底を円筒面としたものが甲第2号証の第4図(a)や甲第1号証の図1に示されていても,これらを湾曲せしめた形状を特徴とする第4図(d)の凹部の底に適用することはできない。

第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.本件発明4について
本件発明4は,「前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ」た構成を備えた上で,さらに「第1側面部が階段状に形成される」という構成を備えるが,引用発明1及び引用発明2は,そのような構成を備えていないから,本件発明4は,引用発明1及び引用発明2に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
特許異議申立人は,甲第2号証の第3図(ロ)には,複数の凹部が示されており,ある凹部の第1側面部は階段状に示されている旨主張しているが,第3図(ロ)は,第3図(イ)の母体シリンダー表面にバイメタル加工した状態を示す拡大断面図であって,母体シリンダー部内面とライナ外面とが塑性変形による密着面を有するというものであり,本件発明4の凹部において幅が小さい底側である角部周辺には,軸に対して垂直方向からの材料流れに加えて軸方向からの材料流れによってもブッシュが充填され,凹部におけるシリンダ開口部側で角部でのブッシュ突起部における欠肉の発生を防止することができるという技術思想を何ら有さないものであるから,特許異議申立人の上記主張は採用できない。
2.本件発明6について
本件発明6は,「前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ」た構成を備えた上で,さらに,「前記凹部は,前記シリンダの前記開口部側から前記凹部の底に向かって形成される第二側面部を有し,前記第二側面部は,前記シリンダの軸に対して少なくとも一部が垂直に形成される」構成を備えるものであるが,引用発明1及び引用発明2には,そのような構成を備えていないから,本件発明6は,引用発明1及び引用発明2に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
特許異議申立人は,甲第2号証の第3図(ロ)には,その拡大図からも明らかなように,第一側面部と第二側面部とを有する凹部を多数備えており,その内のいくつかの第二の側面部は,部分的にシリンダの軸方向に対して垂直な方向に形成されているから,本件発明6は,甲第2号証の第3図(ロ)記載の発明と同一であり,新規性なく,また,甲第1号証の図1に凹部の第二側面部の前部が垂直に形成されている例が示されているとともに甲第1号証の段落【0008】には,「凹部は,どのような形状であっても良い」ことが記載されているから,甲第1号証の図8発明,甲第2号証の第4図(b)発明,及び,甲第2号証の第4図(d)発明の各々に対して第二側面部の全部をシリンダの軸に対して垂直にすることは当業者であれば容易に想到し得る旨主張している。
前記1.で述べたように,甲第2号証の第3図(ロ)は,第3図(イ)の母体シリンダー表面にバイメタル加工した状態を示す拡大断面図であって,母体シリンダー部内面とライナ外面とが塑性変形による密着面を有するというものであり,本件発明1(本件発明6)の凹部において幅が小さい底側である角部周辺には,軸に対して垂直方向からの材料流れに加えて軸方向からの材料流れによってもブッシュが充填され,凹部におけるシリンダ開口部側で角部でのブッシュ突起部における欠肉の発生を防止することができるという技術思想を何ら有さないものであり,本件発明6は甲第2号証の第3図(ロ)に記載された発明より新規性がないとする特許異議申立人の上記主張は採用できない。
甲第1号証の図8は,凹部をメネジ溝状とすることにより,「「前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ」た構成と認定できるものであるから,メネジ溝状が必須であって,甲第1号証の段落【0008】には,「凹部は,どのような形状であっても良い」ことが記載されていても,当業者はメネジ溝状の第二側面部をシリンダの軸に対して垂直にしようとはしない。
また,甲第2号証の第4図(b)は,前記(4)ア.で述べたように,本件特許明細書の比較例(従来例)としての図10の記載のものとの差が判然とせず,「前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し,前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ」ることが明らかではないから,第4図(b)の第二側面部の全部をシリンダの軸に対して垂直にしたとしても,本件発明6の構成にはならない。
さらに,甲第2号証の第4図(d)については,前記(4)イで述べたように,母体の内径を湾曲せしめた形状であることの記載があり,その記載によって,「前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され,」るとの構成,「前記凹部は,前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し」との構成,「前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は,前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ」との構成を認定できるものであって,当業者は,その第二側面部をシリンダの軸に対して垂直にしようとはしない。
よって,特許異議申立人の上記主張は採用できない。
3.本件発明7について
本件発明7は,「前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成される共に,前記ピストンが摺動する軸方向の範囲外に形成される」構成を備えるものである。
甲第2号証の第4図(b)について「凹部」に関する記載はなく,第4図(b)の図面からでは,「凹部」が「深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成される」ことは明らかでない。
次に,甲第2号証の第1図を参照すると,第1図の下側のピストン(3)はシリンダボアのボア底まで到達しておらず,また,本技術分野において,シリンダのボア底までピストンが摺動しないことは周知であるから,シリンダ内周面におけるボア底側の端部は,ピストン(3)の摺動範囲外である可能性はある。
一方,甲第2号証の第4図(b)の凹部は,シリンダ内周面におけるボア底の端部に形成されているが,第4図(b)の端部に設けた凹部の軸方向の長さとピストン(3)が摺動する範囲の関係は不明であるから,第4図(b)の凹部が前記ピストンが摺動する軸方向の範囲外に形成されるか否かは明らかではない
したがって,甲第2号証の第1図及び第4図(b)から把握される発明では,「前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成される共に,前記ピストンが摺動する軸方向の範囲外に形成される」構成を認定できない。
また,甲第2号証の第4図(c)(d)の湾曲された形状(凹部)は,シリンダ内周面におけるボア底の端部に形成されていないから,湾曲された形状(凹部)はピストン(3)が摺動する軸方向の範囲外に形成されているとはいえない。
そうすると,甲第2号証から把握される発明には,前記凹部は,深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成される共に,前記ピストンが摺動する軸方向の範囲外に形成される」構成は記載されていない。
そして,これらの第4図(b)の実施例と第4図(c)(d)の実施例のそれぞれを組み合わせる動機付けもない。
したがって,本件発明7は甲第2号証の第1図及び第4図(b)から把握される発明と同一ではなく,また,甲第2号証の第1図及び第4図(b)から把握される発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6.むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない
また,他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって、
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと、
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に、塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと、を備え、
前記凹部は、深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され、
前記凹部は、前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し、
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は、前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ、
前記凹部は、前記シリンダの内周において円環状に形成されることを特徴とする液圧回転機。
【請求項2】
前記凹部の底は、前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成されることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。
【請求項3】
前記第一側面部は、傾斜状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。
【請求項4】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって、
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと、
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に、塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと、を備え、
前記凹部は、深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され、
前記凹部は、前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し、
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は、前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ、
前記第一側面部は、階段状に形成されることを特徴とする液圧回転機。
【請求項5】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって、
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと、
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に、塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと、を備え、
前記凹部は、深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され、
前記凹部は、前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し、
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は、前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ、
前記第一側面部は、曲面状に形成され、
前記凹部の底は、前記シリンダの軸を中心とした円筒面として形成されることを特徴とする液圧回転機。
【請求項6】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって、
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと、
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に、塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと、を備え、
前記凹部は、深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成され、
前記凹部は前記シリンダの前記開口部とは逆側から前記凹部の底に向かって形成される第一側面部を有し、
前記シリンダの内周面と前記第一側面部との境界は、前記第一側面部と前記凹部の底との境界よりも前記シリンダの前記開口部とは逆側に設けられ、
前記凹部は、前記シリンダの前記開口部側から前記凹部の底に向かって形成される第二側面部を有し、
前記第二側面部は、前記シリンダの軸に対して少なくとも一部が垂直に形成されることを特徴とする液圧回転機。
【請求項7】
作動流体の給排によって回転作動する液圧回転機であって、
シャフトが連結されて前記シャフトと共に回転するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの一端側に開口部を有して形成されると共に内周に凹部が形成されるシリンダと、
前記シリンダの前記開口部から挿入されて前記シリンダの内側に設けられると共に、塑性変形によって前記凹部に充填された突起部を有するブッシュと、
前記ブッシュの内周と摺動自在に挿入されるピストンと、を備え、
前記凹部は、深さ方向に向かうにつれて前記シリンダの軸方向に沿った幅が小さくなるように形成される共に、前記ピストンが摺動する軸方向の範囲外に形成されることを特徴とする液圧回転機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-07 
出願番号 特願2014-68754(P2014-68754)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (F04B)
P 1 651・ 121- YAA (F04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 所村 陽一  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 藤井 昇
佐々木 芳枝
登録日 2018-07-13 
登録番号 特許第6368517号(P6368517)
権利者 KYB株式会社
発明の名称 液圧回転機  
代理人 須藤 淳  
代理人 飯田 雅昭  
代理人 飯田 雅昭  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 後藤 政喜  
代理人 後藤 政喜  
代理人 須藤 淳  

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