• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1360459
異議申立番号 異議2018-700833  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-11 
確定日 2020-02-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6311049号発明「背中用にきび予防及び/又は治療薬」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6311049号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正後の請求項〔1-4〕、5について訂正することを認める。 特許第6311049号の請求項1ないし3及び5に係る特許を維持する。 特許第6311049号の請求項4に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6311049号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成29年3月23日(国内優先権主張 平成28年11月25日)を出願日とする出願であって、平成30年3月23日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月11日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年10月11日付け:特許異議申立人大島裕子による特許異議申立て
平成30年12月 7日付け:取消理由通知
平成31年 2月 8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 4月 5日 :特許異議申立人大島裕子による意見書の提出
令和 1年 5月22日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 1年 7月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年 9月20日 :令和1年7月26日提出の訂正請求書の手続補正書及び意見書の提出
令和 1年11月18日 :特許異議申立人大島裕子による意見書の提出


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正事項1
(1)訂正の内容
令和1年9月20日提出の手続補正書により補正された令和1年7月26日提出の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)による訂正事項1の内容は、以下のア、イ、ウ、エのとおりである。
ア 請求項1に係る「(A)サリチル酸及びその塩、イソプロピルメチルフェノール、イブプロフェンピコノール、グリチルレチン酸並びにアラントインからなる群より選択される少なくとも1種、並びに、」を「(A)イソプロピルメチルフェノール、及び」に訂正する。

イ 請求項1に「pHが、3.6?8である」との記載を追加する。

ウ 請求項1において「(ただし、
(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、
イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物、及び、
にきび予防用医薬部外品
を除く。)」との限定により、除く訂正を行う。

エ 訂正前の請求項4を削除する。

本件訂正請求による訂正事項1は、一群の請求項〔1?4〕に対して請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 「訂正事項1 ア」について
「訂正事項1 ア」は、訂正前の請求項1に記載の(A)成分「サリチル酸及びその塩、イソプロピルメチルフェノール、イブプロフェンピコノール、グリチルレチン酸並びにアラントインからなる群」から、「サリチル酸及びその塩、イブプロフェンピコノール、グリチルレチン酸並びにアラントイン」を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0113】の【表6】及び【0150】の【表16】には、実施例7、8、31、32として、無水エタノールを9または3重量%、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)を0.3重量%、POE(20)オレイルエーテルまたはPOE(60)硬化ヒマシ油を4重量%含み、残部が精製水である組成物が記載されていることから、アの訂正は、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 「訂正事項1 イ」について
「訂正事項1 イ」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0150】の実施例31、32等の記載に基づきpHの下限値を規定し、段落【0048】の記載に基づきpHの上限値を規定することで、訂正前の請求項1に記載される背中用にきび予防及び/又は治療薬の「pHが3.6?8である」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 「訂正事項1 ウ」について
「訂正事項1 ウ」は、請求項1から、引用例1に記載の、凍結復元時に出現するイソプロピルメチルフェノールの析出を、エタノールを高濃度に配合することなく解決できるにきび外用組成物である、「(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物」、
引用例1(特開2011-231082)の段落[0041]の比較例5?7に記載された「イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む,pHが3.0であるにきび用外用物」、及び、
引用例8の「にきび予防用医薬部外品」を除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 「訂正事項1 エ」について
訂正事項エは、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2 訂正事項2
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正事項2の内容は、以下のア?ウのとおりである。
ア 請求項5に係る「(A)サリチル酸及びその塩、イソプロピルメチルフェノール、イブプロフェンピコノール、グリチルレチン酸並びにアラントインからなる群より選択される少なくとも1種、並びに、」を「(A)イソプロピルメチルフェノール、及び」に訂正する。

イ 請求項5に「pHが、3.6?8である」との記載を追加する。

ウ 請求項5において、「(ただし、
(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、
イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物、及び、
にきび予防用医薬部外品
を除く。)」との限定により、除く訂正を行う。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 「訂正事項2 ア」について
訂正前の請求項5に記載される「サリチル酸及びその塩、イソプロピルメチルフェノール、イブプロフェンピコノール、グリチルレチン酸並びにアラントインからなる群」から、「サリチル酸及びその塩、イブプロフェンピコノール、グリチルレチン酸並びにアラントイン」を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0113】の【表6】及び【0150】の表【16】には、実施例7、8、31、32として、無水エタノールを9または3重量%、イソプロピルメチルフェノールを0.3重量%、POE(20)オレイルエーテルまたはPOE(60)硬化ヒマシ油を4重量%含み、残部が精製水である組成物が記載されていることから、アの訂正は、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 「訂正事項2 イ」について
「訂正事項1 イ」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0150】の実施例31、32等の記載に基づきpHの下限値を規定し、段落【0048】の記載に基づきpHの上限値を規定することで、訂正前の請求項5に記載される背中におけるマラセチア属真菌の増殖抑制用外用組成物の「pHが3.6?8である」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 「訂正事項1 ウ」について
「訂正事項1 ウ」は、請求項5から、引用例1に記載の、凍結復元時に出現するイソプロピルメチルフェノールの析出を、エタノールを高濃度に配合することなく解決できるにきび外用組成物である、「(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物」、
引用例1(特開2011-231082)の段落[0041]の比較例5?7に記載された「イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む,pHが3.0であるにきび用外用物」、及び、
引用例8の「にきび予防用医薬部外品」を除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、請求項1?5は特許異議の申立てがされた請求項であるから、その訂正に特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正することを認める。
なお、平成31年2月8日付け訂正請求書による訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第3 本件発明
本件訂正後の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(A)イソプロピルメチルフェノール、及び
(B)エタノールを3重量%以上9重量%以下含有し、
該(A)成分の総含有量が、0.2?3重量%であり、
pHが、3.6?8である、
背中用にきび予防及び/又は治療薬(ただし、
(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、
イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物、及び、
にきび予防用医薬部外品
を除く。)。
【請求項2】
スプレー型容器に収容される、請求項1に記載の背中用にきび予防及び/又は治療薬。
【請求項3】
さらに1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを含有する、請求項1又は2に記載の背中用にきび予防及び/又は治療薬。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(A)イソプロピルメチルフェノール、及び
(B)エタノールを3重量%以上9重量%以下含有し、
該(A)成分の総含有量が、0.2?3重量%であり、
pHが、3.6?8である、
背中におけるマラセチア属真菌の増殖抑制用外用組成物(ただし、
(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、
イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物、及び、
にきび予防用医薬部外品
を除く。)。」


第4 取消理由通知(決定の予告)、並びに、新規性及び進歩性に関する平成30年12月7日付け取消理由の概要
1 令和1年7月26日付け訂正請求書による訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が令和1年5月22日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

取消理由1 請求項1、3?5に係る特許は、引用例1に記載された発明(以下、「引用発明1’」という。)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。
よって、請求項1、3?5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

取消理由2 請求項1?5に係る特許は、引用例1に記載された発明(引用発明1’)、引用例1、9の記載又は引用例1、8、9の記載、並びに周知技術(引用例4、6等参照)に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。
また、請求項1?5に係る発明は、引用例8に記載された発明(以下、「引用発明8」という。)、引用例1、9の記載、並びに、周知技術(引用例4、6等参照)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 また、本件特許時の請求項1?5に係る特許に対して、当審が平成30年12月7日付けで特許権者に通知した新規性及び進歩性に関する取消理由通知の要旨は、次のとおりである。

取消理由1 請求項1、3、4及び5に係る特許は、引用例1に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3、4及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

取消理由2 請求項1?5に係る特許は、引用例1に記載された発明(引用発明1)、引用例8の記載及び周知技術(引用例6等参照)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用例等一覧
1.特開2011-231082号公報(甲第1号証)
2.美容皮膚科プラクティス、株式会社南山堂、2000.01.20発行、p.372-379(技術常識を示すための引用例)(甲第2号証)
3.特開平10-95733号公報(技術常識を示すための引用例)(甲第3号証)
4.メディアージュクリニック、顔以外にできるニキビ、https://web.archive.org/web/20160421081103/https://www.mediage-daikanyama.jp/nikibi-point/、2016.04.21検索(技術常識を示すための引用例)(甲第4号証)
6.ロート製薬、大人ニキビに。『アクネス25』シリーズ誕生!、https://www.rohto.co.jp/news/release/2014/0529_01/、2014.05.29掲載(技術常識を示すための引用例)(甲第6号証)
8.日本化粧品検定2級・3級対策テキスト コスメの教科書、株式会社主婦の友社、2016.04.30発行、p.80(甲第8号証)
9.特開2011-11993号公報(平成31年4月5日付け意見書に添付された甲第9号証)


第5 当審の判断
当審は、令和1年5月22日付け取消理由(決定の予告)、及び、平成30年12月7日付けの新規性及び進歩性に関する取消理由について、以下のとおり判断する。
1 引用例1に記載された発明を主引例とする取消理由(決定の予告)1、2及び取消理由1、2について
(1)引用例の記載及び引用発明
(1-1)引用例1(甲第1号証)の記載
引用例1には、以下の記載がなされている。
ア「【背景技術】
【0002】
にきびや手指の殺菌を目的とした外用剤には、クリーム、乳液、液剤等があり、これらの中でも液剤は、広く塗布できる上べたつきが少ないため、広範に用いられている。
ところで、殺菌成分の中でイソプロピルメチルフェノール(以下、IPMPと略すことがある。)は、塩化ベンザルコニウムのようなカチオン性殺菌成分と比較して抗菌スペクトルが広い特徴を有することから、殺菌消毒剤やにきび治療薬に用いられている。
しかし、IPMPは水への溶解性が極めて低いため、従来は各種界面活性剤の配合やエタノールの配合により可溶化させていた。例えば、口腔用組成物として提案されている液剤では、IPMPの配合量が少ないので、HLBの高い界面活性剤のみで可溶化させていたが、にきび治療における有効量を配合すると、低温で析出してしまうという問題があった。エタノールを可溶化剤として加えることで、IPMPの析出は改善されるが、エタノールを可溶化に必要な配合量とすると、高濃度のエタノールにより使用時及び使用後に皮膚刺激感を伴うので、できるだけエタノールの使用量を抑えてIPMPを可溶化した外用剤が望まれていた。」

イ「【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、殺菌成分としてイソプロピルメチルフェノールを含有するにきび用外用剤組成物に、エタノールを多量に配合することなく、低温での外観安定性に優れ、皮膚刺激感を抑制したにきび用外用剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、IPMPの可溶化剤として界面活性剤の添加だけでは解決できなかった凍結復元時に出現するIPMPの析出を、エタノールを高濃度に配合することなく、1,3-ブチレングリコールとグリセリンとを特定比率で配合することにより解決することができ、しかも皮膚刺激感を抑えたにきび用外用剤組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。」

ウ「【0009】
[(A)イソプロピルメチルフェノール(IPMP)]
イソプロピルメチルフェノールは、本発明のにきび用外用剤組成物の有効成分であり、殺菌剤として配合する。イソプロピルメチルフェノールは、湿疹、皮膚炎、にきび等の細菌や真菌等の菌による悪化が懸念される疾病に有効な殺菌剤であり、特ににきび治療に有効である。
【0010】
にきび治療に有効な(A)成分の配合量は、にきび用外用剤組成物全体に対して0.2?1.0質量%が好ましく、0.3?1.0質量%がより好ましく、0.3?0.8質量%がさらに好ましい。0.2質量%未満だと殺菌効果が弱くなり、1.0質量%を超えると、皮膚刺激等が生じる。0.2?1.0質量%であれば、にきび治療に有効な殺菌力を得ることができる。」

エ「【0011】
[(B)1,3-ブチレングリコール]
1,3-ブチレングリコールは、IPMPの析出防止、可溶化剤、湿潤剤として配合する。1,3-ブチレングリコールは、保湿効果や抗菌作用、溶解性を有する液状成分であり、乳液やクリーム、軟膏剤など様々な医薬品や化粧品に、保湿剤や溶剤、粘度低下剤、香料などとして配合される。本発明品が医薬品に該当する場合は、医薬品添加物規格に適合するものを、医薬部外品や化粧品に属する場合は、医薬部外品原料規格に適合するものを用いる。」

オ「【0013】
[(C)グリセリン]
グリセリンは、IPMPの析出防止、可溶化剤、湿潤剤として配合する。グリセリンは、三価のアルコールで毒性が極めて低く、吸湿性を有する液状成分である。保湿効果を有し、医薬品や化粧品では主に保湿・湿潤剤や保水剤として配合されるほか、粘度低下剤、皮膚保護剤、溶剤などとしても配合される。本発明品が医薬品に該当する場合は、医薬品添加物規格に適合するものを、医薬部外品や化粧品に属する場合は、医薬部外品原料規格に適合するものを用いる。」

カ「【0019】
[(E)エタノール]
本発明のにきび用外用剤組成物にエタノールを配合する場合、IPMPの可溶化剤として配合する。本発明のにきび用外用剤組成物中のエタノールの含有量は10質量%以下(10?0質量%)、好ましくは8質量%以下、特に6質量%以下、とりわけ4質量%以下であり、少量のエタノールを添加することで、良好な使用感を維持したまま低温安定性をより改善することができる。エタノールの添加量が10質量%を超えると皮膚刺激等が発生する。エタノールとしては、変性、未変性にかかわらず使用することができるが、本発明品が医薬品に該当する場合は、日本薬局方に適合するものを、医薬部外品や化粧品に属する場合は、医薬部外品原料規格に適合するものを用いる。具体的には、甘糟化学産業(株)製の無水エタノール、三菱化学(株)製の一般アルコール95度合成無変性、信和アルコール(株)製の政府所定エタノール等を好適に使用することができる。」

キ「【0027】
[pH]
本発明のにきび用外用剤組成物のpHは、(F)サリチル酸を配合した場合の角層剥離、溶解作用及び皮膚刺激性の観点から、2?5がより好ましく、2?4が更に好ましい。pH2より酸性領域とすると皮膚刺激を起こす場合があり、pH5よりアルカリ領域にするとサリチル酸の効果が発揮されにくい場合がある。なお、本発明において、pHは、日本薬局方一般試験法、pH測定法により測定した値である。」

ク「【0032】
[実施例1?27、比較例1?9]
表2?5に記載した配合割合でにきび用外用剤組成物を下記方法で調製した。
<調製方法>
表2?5に記載した配合成分量を図り取った。(C)グリセリン、(B)1,3-ブチレングリコール、精製水を混合して均一に溶解し、別に、(A)イソプロピルメチルフェノールと(D)界面活性剤を均一に溶解させたものを加え均一になるまで撹拌した。MILLIPORE(株)製OMNIPOREメンブランフィルターJHWP04700でろ過し、本発明のにきび用外用剤組成物を得た。
(中略)
【表2】


【表3】(略)
【表4】(略)」

ケ「【0041】
【表5】



コ「【請求項1】
(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物。
【請求項2】
更に、(F)サリチル酸を含有し、pHが2?5の範囲である請求項1記載のにきび用外用剤組成物。」

サ 引用例1のアには、背景技術として、以下の事項が記載されている。
・殺菌成分の中でイソプロピルメチルフェノールは、抗菌スペクトルが広い特徴を有することから、殺菌消毒剤やにきび治療薬に用いられているが、水への溶解性が極めて低いため、従来は各種界面活性剤の配合やエタノールの配合により可溶化させていたこと。
・にきび治療におけるイソプロピルメチルフェノールの有効量を配合すると、HLBの高い界面活性剤のみで可溶化させた場合には、低温で析出するとの問題があったこと。
・エタノールを可溶化剤として加えることで、イソプロピルメチルフェノールの析出は改善されるが、エタノールを可溶化に必要な配合量とすると、使用時及び使用後に皮膚刺激感を伴うので、できるだけエタノールの使用量を抑えてイソプロピルメチルフェノールを可溶化した外用剤が望まれていたこと。

そして、これらの背景技術にある課題を踏まえた上で、引用例1には、イにあるように、凍結復元時に出現するイソプロピルメチルフェノールの析出を、エタノールを高濃度に配合することなく、1,3-ブチレングリコールとグリセリンとを特定比率で配合することにより解決したことが記載されている。

また、ウ及びアにあるように、イソプロピルメチルフェノールを、にきび等の細菌や真菌等の菌による悪化が懸念される疾病、特ににきび治療に有効な殺菌剤として用いること、及び、エタノールをイソプロピルメチルフェノールの可溶化剤として配合することは、当該分野において広く行われていたものであり、エタノールを可溶化に必要な量配合すると、使用時及び使用後に皮膚刺激感を伴うため、できるだけエタノールの使用量を抑えてイソプロピルメチルフェノールを可溶化した外用剤を提供することも、本件特許出願の優先日前に既に認識されていたものであったと認められる。その上でカには、エタノールをイソプロピルメチルフェノールの可溶化剤として配合する際に、エタノールの添加量が10重量%を超えると皮膚刺激等が発生することが記載されている。

引用例1のケに記載される、凍結復元性や-5℃安定性を有さないにきび用外用剤組成物は、引用例1のクの実施例としては評価されないものではあるが、ウ、ア及びカの記載、並びに、引用例1において使用感(皮膚刺激感)と殺菌効果が確認されている実施例7は、イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%及びエタノールを6質量%含むものであることからみて、同程度のイソプロピルメチルフェノールとエタノールを含む、比較例5?7として記載されるにきび用外用剤組成物も、使用感(皮膚刺激感)に優れ、殺菌効果を有するものであると認められる。

以上をふまえ、クの比較例5?7の記載からみて、引用例1には、
「イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用剤組成物」の発明(引用発明1’)が記載されていると認める。

シ また、引用例1のクの実施例及びコの特許請求の範囲の記載からみて、引用例1には、
「エタノール4.0質量%若しくは8.0質量%、1,3-ブチレングリコール、グリセリン及びイソプロピルメチルフェノール0.3質量%に加えて、イブプロフェンピコノールを3.0質量%、または、
エタノール4.0質量%、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、イソプロピルメチルフェノール0.3質量とサリチル酸0.2?1.0質量%に加えて、アラントインを0.2質量%若しくはグリチルレチン酸を0.3質量%含む、
pHが3.0?4.0であるにきび用外用剤組成物」の発明(引用発明1)が記載されていると認める。

(1-2)引用例2(甲第2号証)には、以下の記載がなされている。
「尋常性ざ瘡acne vulgarisは、通称「にきび」といわれ、思春期によくみられる皮膚疾患である。本症は、脂腺性毛包に病変を生じるため、これが存在する顔面、胸背部が好発部位となっている。」(p.372第3?5行)

(1-3)引用例3(甲第3号証)には、以下の記載がなされている。
「にきび(尋常性ざそう)は思春期に生ずる、毛包脂腺の慢性病変である。病変の場となるのは脂腺性毛包(sebaceous follicle) であり、よく発達した脂腺と細い軟毛より成っている。脂腺性毛包は前額、頬、背中および胸の中央部など、にきびの発生しやすい部位に分布している。)(段落【0002】)

(1-4)引用例4(甲第4号証)には、以下の開示がなされている。
「背中のニキビ
原因:
基本的には顔にできるにきびと機序は同じです。アクネ菌は皮脂をエサとして増殖しますが、酸素が苦手です。背中は比較的皮脂や汗が多く出る場所で同時に服や寝ているときの圧迫などで蒸れやすく、この状態は空気に触れないため酸素が届きにくい状態となりアクネ菌の増殖を助けます。またお風呂できれい洗いにくいため古い角質が溜まって毛穴が塞がりやすくなります。これらの状態がそろうとにきびができます。マラセチアというカビの一種による毛包炎は蒸れた背中にできやすく、これが背中にきびの原因菌の人もいます。

ケア:
顔のにきびと同様、しっかりお風呂で洗い清潔な状態を保つこと、夜間寝ている時などに蒸れないよう通気性を確保すること、そしてしっかりとした睡眠とバランスの取れた食生活、ストレスフリーの環境作りを行うことです。一度できると場所的に自分でケアしにくく、またお顔の次に女性にとっては気になる部分ですので、早めにしっかりとした専門治療を行うことをお勧めします。」

(1-5)引用例6(甲第6号証)には、以下の開示がなされている。
「ロート製薬株式会社(略)は、売上個数No.1のニキビケアブランド「メンソレータム アクネス」から、「大人ニキビ」に着目した治療ブランド『アクネス25』シリーズ(クリーム・ローション・スプレーの3種類)を2014年6月9日(月)、全国の薬局・薬店で新発売します。(中略)[2]「メディカルローション」はフェイスライン等、広い範囲にお使いいただける医薬品ローションです。[3]「メディカルミスト」は逆さにしても使えるミストタイプの治療薬で、手の届きにくい背中ニキビの治療にもおすすめです。」

(1-6)引用例8(甲第8号証)には、以下の開示がなされている。
「ニキビ予防における医薬部外品の有効成分
(中略)
イソプロピルメチルフェノール
合成。
アクネ菌や背中のニキビの原因となるマラセチア菌の殺菌作用がある。
効果→殺菌。」

(1-7)引用例9(平成31年4月5日に意見書と共に提出された甲第9号証)には、以下の記載がなされている。
ア「【請求項1】
(A)イブプロフェンピコノール
(B)イソプロピルメチルフェノール
(C)サリチル酸
を含有することを特徴とするニキビ治療薬。」

イ「【0009】
本発明で用いられるイソプロピルメチルフェノールは、医薬外用剤として使用されるものであれば特に制限なく用いることができる。イソプロピルメチルフェノールの濃度は、本発明のニキビ治療薬組成物中、0.01?5質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05?3質量%である。イソプロピルメチルフェノールの濃度が0.01質量%未満では、ニキビの原因菌であるアクネ菌に対する殺菌効果が弱くなるため、治療効果が十分でない場合がある。また、イソプロピルメチルフェノールの濃度が高いと、患部への刺激が強くなるため好ましくない。」

ウ「【0012】
本発明のニキビ治療薬中には、上記成分の他に、通常医薬外用剤に配合される各種成分、例えば、ニキビ治療薬に配合され得る各種薬物、界面活性剤、溶解補助剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類、溶媒、油性基材等を配合することができる。
【0013】
本発明のニキビ治療薬は、上記成分を適切に配合することにより、各種の皮膚外用剤、例えば、クリーム、乳液、液剤(ローション、化粧水)、軟膏、硬膏、リニメント、ジェル、プラスター、パック、スプレー、美容液等の製品形態として用いることができる。」

エ「実施例9
【0024】
【表4】 (略)」

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
(2-1-1)本件発明1と取消理由(決定の予告)の引用発明1’との対比・判断
本件発明1と引用発明1’を対比すると、両者は、「(A)イソプロピルメチルフェノール、及び(B)エタノールを3重量%以上9重量%以下含有し、該(A)成分の総含有量が、0.2?3重量%である、にきび予防及び/又は治療薬(ただし、(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、及び、
にきび予防用医薬部外品を除く。)。」の点で一致し、

本件発明1は、さらに「イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物」が除かれたものであるのに対して、引用発明1’は、本件発明1から訂正により除かれた「イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物」そのものであるという点(以下、「相違点1」という。)、
本件発明1は、にきび予防及び/又は治療薬が背中用であるのに対して、引用発明1’は背中用であることが特定されていない点(以下、「相違点2」という。)、並びに、
本件発明1は、予防及び/又は治療薬について「pHが、3.6?8である」ことが特定されているのに対して、引用発明1’ではpHが3.0である点(以下、「相違点3」という。)で相違するものである。

上記相違点について検討する。
相違点1について
上記(1)(1-1)サのとおり、引用例1は凍結復元時に出現するイソプロピルメチルフェノールの析出抑制を解決しようとする課題とするものであり、当該課題を解決するための手段として、本件発明3において配合量や配合比について何ら具体的な特定もなく含まれる1,3-ブチレングルコール及び/又はグリセリンについて、HLB15以上の非イオン性界面活性剤の含有量と合わせて特定の配合比とすることを採用したものである。
引用例1において、比較例として記載される引用発明1’では、-5℃安定性や凍結復元性という効果こそ確認されていないものの、比較対象といえる従来技術としての引用発明1’において、イソプロピルメチルフェノール及びエタノールのそれぞれを、上記(1)(1-1)コに記載されるように0.2?1.0質量%及び10質量%以下程度とすることは記載されているに等しい事項といえる。

相違点2について
引用例2?4の開示からみて、「にきび」は脂腺性毛包が存在する顔、背中、胸が好発部位であり、背中のにきびと顔のにきびの機序は基本的に同じであることは、本件特許出願の優先日前の技術常識である。
また、引用例4及び6の開示からみて、顔や背中と発生部位が異なっても、にきびのケアや治療方針は同じであり、市販されているにきび治療薬はにきびの発生部位に広く使用され得るものであることも、本件特許出願の優先日前の技術常識である。
このように、背中とその他の部位のにきびでは機序が重複しており、にきび治療薬はにきびの発生部位に広く使用され得るものであるという本件特許出願の優先日前の技術常識に鑑みると、「背中用」という用途が、引用発明1’の「にきび用外用剤組成物」について、新たな用途を提供したとはいえない。

相違点3について
引用例1には、上記(1)キのとおり、サリチル酸を配合した際のpHが2?5がより好ましいことが記載されているが、それ以外にpHの最適値に関する記載はなされておらず、異議申立人からは、引用発明1’において組成物のpHを3.6?8の範囲をすることの動機付けまたはそれを示唆する甲号証や、pHを3.6?8の範囲とすることが本件特許出願時の技術常識であったことを示す甲号証の提出はなされておらず、引用発明1’においてpHを3.6?8の範囲とすることを当業者が想起したとまではいえない。

以上のとおりであるから、本件出願時の技術常識(引用例2及び3等)を参酌しても、本件発明1は、引用発明1’ではなく、また、引用発明1’、引用例1、9の記載又は引用例1、8、9の記載、並びに、周知技術(引用例4等参照)に基づいて当業者が容易に想到し得たものということもできない。

(2-1-2)本件発明1と取消理由の引用発明1との対比・判断
本件発明1と引用発明1を対比すると、両者は、「(A)イソプロピルメチルフェノール、及び(B)エタノールを3重量%以上9重量%以下含有し、
該(A)成分の総含有量が、0.2?3重量%であり、pHが、3.6?8である、にきび予防及び/又は治療薬(ただし、イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物、及び、にきび予防用医薬部外品を除く。)。」の点で一致し、

本件発明1は、さらに「(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物」が除かれたものであるのに対して、引用発明1は、本件発明1から訂正により除かれた「(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物」そのものであるという点(以下、「相違点1」という。)、及び、
本件発明1は、にきび予防及び/又は治療薬が背中用であるのに対して、引用発明1は背中用であることが特定されていない点(以下、「相違点2」という。)
で相違するものである。

上記相違点について検討する。
相違点1について
上記(1)(1-1)サのとおり、引用例1は凍結復元時に出現するイソプロピルメチルフェノールの析出抑制を解決しようとする課題とするものであり、当該課題を解決するための手段として、本件発明3において配合量や配合比について何ら具体的な特定もなく含まれる1,3-ブチレングルコール及び/又はグリセリンについて、HLB15以上の非イオン性界面活性剤の含有量と合わせて特定の配合比とすることを採用したものである。
引用発明1では、当該課題を解決するための手段として「(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下である」ことが特定されているところ、引用発明1において、あえて課題を解決できない態様に変更する動機付けがあったということはできない。
すると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1ではなく、また、引用発明1、引用例8の記載、及び、周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2-1-3)小括
したがって、本件発明1は引用例1(甲第1号証)に記載された発明ではなく、また、引用例1(甲第1号証)に記載された発明、引用例1、9、引用例1、8、9又は引用例8の記載、並びに、周知技術(要すれば、引用例4等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2-2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、上記(2-1)で説示したとおり、引用例1(甲第1号証)に記載された発明ではなく、また、本件発明1が引用例1、9、引用例1、8、9又は引用例8の記載、並びに、周知技術(要すれば、引用例4等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2及び3も、引用例1(甲第1号証)に記載された発明、引用例1、9、引用例1、8、9又は引用例8の記載、並びに、周知技術(要すれば、引用例4、6等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2-3)本件発明5について
(2-3-1)本件発明5と取消理由(決定の予告)の引用発明1’との対比・判断
本件発明5と引用発明1’を対比すると、両者は、「(A)イソプロピルメチルフェノール、及び(B)エタノールを3重量%以上9重量%以下含有し、
該(A)成分の総含有量が、0.2?3重量%である、外用組成物(ただし、(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、及び、にきび予防用医薬部外品を除く。)。」の点で一致し、
本件発明5は、さらに「イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物」が除かれたものであるのに対して、引用発明1’は、本件発明1から訂正により除かれた「イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物」そのものであるという点(以下、「相違点1」という。)、
本件発明5は、外用組成物が背中におけるマラセチア属真菌の増殖抑制用であるのに対して、引用発明1’はにきび用である点(以下、「相違点2」という。)、並びに、
本件発明5は、外用組成物について「pHが、3.6?8である」ことが特定されているのに対して、引用発明1’ではpHが3.0である点(以下、「相違点3」という。)で相違するものである。

上記相違点について検討する。
相違点1について
上記(1)(1-1)サのとおり、引用例1は凍結復元時に出現するイソプロピルメチルフェノールの析出抑制を解決しようとする課題とするものであり、当該課題を解決するための手段として、本件発明3において配合量や配合比について何ら具体的な特定もなく含まれる1,3-ブチレングルコール及び/又はグリセリンについて、HLB15以上の非イオン性界面活性剤の含有量と合わせて特定の配合比とすることを採用したものである。
引用例1において、その比較例である引用発明1’では、-5℃安定性や凍結復元性という効果こそ確認されていないものの、比較対象といえる従来技術としての引用発明1’において、イソプロピルメチルフェノール及びエタノールのそれぞれを、上記(1)(1-1)コに記載されるように0.1?1.0質量%及び10質量%以下程度とすることは記載されているに等しい事項といえる。

相違点2について
引用例1には、上記(1)(1-1)ウのとおり、イソプロピルメチルフェノールが、湿疹、皮膚炎、にきび等の細菌や真菌等の菌による悪化が懸念される疾病に有効な殺菌剤であることが記載されている。
上記(2-1-1)で検討したとおり、背中とその他の部位のにきびでは機序が重複しており(引用例2?4等参照)、にきび治療薬はにきびの発症部位に広く使用され得るものであること(要すれば、引用例4及び6等参照)、及び、にきび等の代表的な真菌がマラセチア属真菌であることは、本件特許出願の優先日前、当該分野における技術常識(要すれば、引用例4及び8等参照)であることに鑑みると、引用発明1’の用途を「背中におけるマラセチア属真菌増殖抑制用」と特定することをもって、引用発明’1の「にきび用外用剤組成物」について、新たな用途を提供したとはいえない。

相違点3について
引用例1には、上記(1)キのとおり、サリチル酸を配合した際のpHが2?5がより好ましいことが記載されているが、それ以外にpHの最適値に関する記載はなされておらず、異議申立人からは、引用発明1’において組成物のpHを3.6?8の範囲をすることの動機付けまたはそれを示唆する甲号証や、pHを3.6?8の範囲とすることが本件特許出願時の技術常識であったことを示す甲号証の提出はなされておらず、引用発明1’においてpHを3.6?8の範囲とすることを当業者が想起したとまではいえない。

(2-3-2)本件発明5と取消理由の引用発明1との対比・判断
本件発明5と引用発明1を対比すると、両者は、「(A)イソプロピルメチルフェノール、及び(B)エタノールを3重量%以上9重量%以下含有し、該(A)成分の総含有量が、0.2?3重量%であり、pHが、3.6?8である、外用組成物(ただし、イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物、及び、にきび予防用医薬部外品を除く。)。の点で一致し、

本件発明5は、さらに、「(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物」が除かれたものであるのに対して、引用発明1は、本件発明5から訂正により除かれた「(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物」そのものであるという点(以下、「相違点1」という。)、及び、
本件発明5は、外用組成物が背中におけるマラセチア属真菌の増殖抑制用であるのに対して、引用発明1はにきび用である点(以下、「相違点2」という。)で相違するものである。

上記相違点について検討する。
上記(1)(1-1)サのとおり、引用例1は凍結復元時に出現するイソプロピルメチルフェノールの析出抑制を解決しようとする課題とするものであり、当該課題を解決するための手段として、本件発明3において配合量や配合比について何ら具体的な特定もなく含まれる1,3-ブチレングルコール及び/又はグリセリンについて、HLB15以上の非イオン性界面活性剤の含有量と合わせて特定の配合比とすることを採用したものである。
引用発明1では、当該課題を解決するための手段として「(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下である」ことが特定されているところ、引用発明1において、あえて課題を解決できない態様に変更する動機付けがあったということはできない。
すると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明5は、引用発明1ではなく、また、引用発明1、引用例8の記載、及び、周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-3-3)小括
したがって、本件発明5は引用例1(甲第1号証)に記載された発明ではなく、また、引用例1(甲第1号証)に記載された発明、引用例1、9、引用例1、8、9又は引用例8の記載、並びに、周知技術(要すれば、引用例4等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 引用例8に記載された発明を主引例とする取消理由(決定の予告)2について
(1)引用例の記載、及び、引用発明8
(1-1)引用例1?4、6、8及び9の記載は、上記1(1)の通りである。
上記1(1)(1-6)からみて、引用例8には「アクネ菌や背中のにきびの原因となるマラセチア菌の殺菌作用を有するイソプロピルメチルフェノールを有効成分とする、ニキビ予防における医薬部外品」の発明(引用発明8)が記載されていると認める。

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
本件発明1と引用発明8を対比すると、両者は、「イソプロピルメチルフェノールを含有する背中用にきび予防及び/又は治療薬(ただし、(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、及び
イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物。)を除く。」の点で一致し、
本件発明1は、にきび予防及び/又は治療薬について「pHが3.6?8である」ことが特定されているのに対して、引用発明8ではpHが特定されていない点(以下、「相違点1」という。)、
本件発明1はさらに「にきび予防用医薬部外品」が除かれたものであるのに対して、引用発明8は、本件発明1から訂正により除かれた「にきび予防用医薬部外品」であるという点(以下、「相違点2」という。)、
本件発明1は、イソプロピルメチルフェノールの含有量が0.2?3重量であるのに対して、引用発明8では含有量が特定されていない点(以下、「相違点3」という。)、並びに、
本件発明1は、エタノールを3重量%以上9重量%以下含有するものであるのに対して、引用発明8はエタノールを特定量含有することは特定されていない点(以下、「相違点4」という。)で相違するものである。

上記相違点について検討する。
相違点4について
引用例1の(1)(1-1)アには背景技術として、イソプロピルメチルフェノールはにきび治療薬等に用いられているが、水への溶解性が極めて低いため、従来は各種界面活性剤の配合やエタノールの配合により可溶化させていたことが記載されている。
また、上記(1)(1-4)の引用例4には、背中のニキビに関して、背中は比較的皮脂や汗が多く出る場所であり、お風呂できれいに洗いにくいため古い角質が溜まって毛穴が塞がりやすくなることが記載されており、毛穴とは脂腺性毛包であって皮脂により閉塞することは当該分野における技術常識であるところ(要すれば、引用例2及び3等参照)、エタノールが皮脂を除去して毛穴の閉塞の改善作用を有することを当業者であれば認識するものと認められる。
すると、エタノールの配合量が多い方が、よりイソプロピルメチルフェノールが溶解すると共に、背中の毛穴の閉塞が改善されることが想起されることから、引用発明8において、エタノールを3重量%以上9重量%以下という比較的低範囲の用量で配合させることを、当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
そして、本件特許明細書の段落【0112】?【0114】(試験例1-4.皮脂なじみ試験4)には、【表6】の組成を有する組成物について、エタノールを22.84重量%含む比較例の組成物よりも、エタノールを9または3重量%含む実施例7及び8の皮脂除去効果が優れている(図4)ことが開示されており、このような効果は、当業者が予測し得るものとはいえない。
以上のとおりであるから、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明8、引用例1、9の記載、並びに、周知技術(引用例4等参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2-2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、上記(2-1)で説示したとおり、本件発明1が引用発明8、引用例1、9の記載、並びに、周知技術(引用例4等参照)に基づいて当業者が容易に想到し得たものでない以上、本件発明2及び3も、引用発明8、引用例1、9の記載、並びに、周知技術(引用例4、6等参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2-3)本件発明5について
本件発明5と引用発明8を対比すると、両者は、「イソプロピルメチルフェノールを含有する外用組成物(ただし、(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、及び
イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物を除く。)。」の点で一致し、
本件発明5は、外用組成物について「pHが、3.6?8である」ことが特定されているのに対して、引用発明8ではpHは特定されていない点(以下、「相違点1」という。)、
本件発明5は、さらに「にきび予防用医薬部外品」が除かれたものであるのに対して、引用発明8は、本件発明5から訂正により除かれた「にきび予防用医薬部外品」であるという点(以下、「相違点2」という。)、
本件発明5は、イソプロピルメチルフェノールの含有量が0.2?3重量であるのに対して、引用発明8では含有量が特定されていない点(以下、「相違点3」という。)、並びに、
本件発明5は、エタノールを3重量%以上9重量%以下含有するものであるのに対して、引用発明8はエタノールを特定量含有することは特定されていない点(以下、「相違点4」という。)で相違するものである。

上記相違点について検討する。
相違点4について
引用例1の(1)(1-1)アには背景技術として、イソプロピルメチルフェノールはにきび治療薬等に用いられているが、水への溶解性が極めて低いため、従来は各種界面活性剤の配合やエタノールの配合により可溶化させていたことが記載されている。
また、上記(1)(1-4)の引用例4には、背中のニキビに関して、背中は比較的皮脂や汗が多く出る場所であり、お風呂できれいに洗いにくいため古い角質が溜まって毛穴が塞がりやすくなることが記載されており、毛穴とは脂腺性毛包であって皮脂により閉塞することは当該分野における技術常識であるところ(要すれば、引用例2及び3等参照)、エタノールが皮脂を除去して毛穴の閉塞の改善作用を有することを当業者であれば認識するものと認められる。
すると、エタノールの配合量が多い方が、よりイソプロピルメチルフェノールが溶解すると共に、背中の毛穴の閉塞が改善されることが想起されることから、引用発明8において、エタノールを3重量%以上9重量%以下という比較的低範囲の用量で配合させることを、当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
そして、本件特許明細書の段落【0112】?【0114】(試験例1-4.皮脂なじみ試験4)には、【表6】の組成を有する組成物について、エタノールを22.84重量%含む比較例の組成物よりも、エタノールを9または3重量%含む実施例7及び8の皮脂除去効果が優れている(図4)ことが開示されており、このような効果は、当業者が予測し得るものとはいえない。
以上のとおりであるから、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明5は、引用発明8、引用例1、9の記載、並びに、周知技術(引用例4等参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は令和1年11月18日提出の意見書において、引用例9(甲第9号証)に基づき、「引用例9の実施例9には、イソプロピルメチルフェノール0.5質量%、エタノール5.0質量%を含有するニキビ治療薬(化粧水)が記載されている。この処方であれば、pHは3.6?8の範囲である蓋然性が高く、上記の構成は、引用例1の請求項1の範囲及び引用発明1‘の範囲が除外された訂正発明1と相違点はない。」と主張する。
引用例9に記載の化粧水は、肌へ適用可能なpH範囲であろうことを当業者が認識するとしても、引用例9には化粧水のpHまたはそれ以外でもpH範囲に関する記載はなされていない。すると、引用発明1’において、引用例9の記載に基づき、pHを3.6?8の範囲とする動機づけがあったとはいえない。
なお、引用例9(甲第9号証)は、平成31年4月5日に意見書に添付して提出されたものであり、引用例9(甲第9号証)に記載された発明に基づく新規性または進歩性の欠如は、本件特許異議申立書に記載された申立て理由でない。


第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった、特許異議申立書において異議申立人により主張された特許異議申立理由は、以下のとおりである。

1 特許法第36条第4項第1号違反
本件特許発明は、背中にきびに特有の課題を解決する発明であると述べているが、実際に背中にきびに適用したときの薬効の評価は何ら記載されていない。本件特許明細書には、背中にきびについて特有の従来技術にない課題がそもそも記載されているとはいえず、そもそも課題が存在しないため、本件特許請求の範囲に記載された発明は、その課題を解決する手段として実施不能である。

2 特許法第36条第6項第1号違反
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比した場合、発明の詳細な説明の記載から、たとえ出願時の技術常識を参酌したとしても、「イソプロピルメチルフェノール」以外の(a)成分については、当業者が当該発明の課題を解決できると認識することはできず、本件特許発明5は、サポート要件を満たしていない。

3 特許法第29条第2項違反
(1)本件特許発明1?5は、以下のとおり、甲第6号証(引用例6)に記載された発明に、甲第1号証(引用例1)及び甲第7号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものである。
甲第6号証(引用例6)のロート製薬株式会社『メンソレータム アクネス25メディカミルミスト』は、エタノール22.84%、サリチル酸0.5%、アラントイン0.2%、1,3-ブチレングリコール、キサンタンガム及びパラベンエタノールを含有する、背中のニキビにも使いやすいミストタイプのニキビ治療薬である。
甲第7号証の『メンソレータム アクネス25メディカルミスト』の口コミには、「お風呂上がりに背中やデコルテ、お尻に全部で合わせて毎回4?5プッシュ使って一本で約三か月もちます。・・・
特に香りもなく、逆さにスプレーしても大丈夫なので、使いやすいですが、火気厳禁の注意書きがある位アルコールが強いのでお肌が弱い方は要注意です。(2015年4月30日のsunbellさんの口コミ)」「夏になると背中のぶつぶつが醜くなるので買ってみました。・・・
とりあえず、アルコールが多分に含まれているようで、結構ヒリヒリします。敏感肌の人は厳禁。(2014年7月26日のゆた丸さんの口コミ)」との記載がある。
甲第6号証に対して、エタノールによる皮膚刺激性に関する甲第1号証及び甲第7号証の記載に基づいて、エタノール量を低減することは容易想到である。
(2)また、イブプロフェンピコノールは甲第2号証に抗炎症剤としてにきび薬に使用されることが記載され、グリチルレチン酸も甲第5号証に記載のように、にきび薬に使用される抗炎症剤であるから、本件特許発明1?5は、甲第6号証(引用例6)に記載された発明に、甲第1号証(引用例1)、甲第7号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものである。

取消理由通知において採用しなかった各主張についての当審の判断を、以下に示す。
4 特許法第36条第4項第1号違反について
本件発明1?3は、背中用にきび予防及び/又は治療薬に係る発明であり、本件発明5は、背中におけるマラセチア属真菌の増殖抑制用外用組成物に係る発明である。
本件特許明細書には試験例として、無水エタノールを9重量%、アラントインを0.2重量%、サリチル酸を0.5重量%及びイソプロピルメチルフェノールを0.3重量%含む実施例24の組成物がマラセチア属真菌に対して抗菌効果を示したことが記載されている。
甲第8号証に記載されるように、マラセチア属真菌は、特に背中において問題となりやすい菌種であることは、当該分野における技術常識であるから、上記本件特許明細書の発明の実施例の結果は、背中用にきびの予防及び/又は治療、並びに、背中におけるマラセチア属真菌の増殖抑制作用を示すものといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3及び5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。

5 訂正請求により、本件特許の請求の範囲から「イソプロピルメチルフェノール」以外の(A)成分が削除され、本件発明5は「イソプロピルメチルフェノール」以外の(A)成分を含むものではないため、2の指摘は解消している。

6(1)本件発明1?3及び5は、イソプロピルメチルフェノールを0.2?3重量%含む組成物に係る発明であるところ、甲第6号証の『メンソレータム アクネス25メディカルミスト』はイソプロピルメチルフェノールを含むものではないため、本件発明1?3及び5は、甲第6号証(引用例6)に記載された発明に、甲第1号証(引用例1)及び甲第7号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものということはできない。
(2)訂正請求により、本件特許の請求の範囲の(A)成分から「イブプロフェンピコノール」及び「グリチルレチン酸」が削除され、本件発明1?5の(A)は「イブプロフェンピコノール」及び「グリチルレチン酸」を含むものではないため、(2)の指摘は解消している。

以上4?6に説示したとおり、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての特許異議申立人の主張は、採用することができない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、平成30年12月7日付け取消理由通知及び令和1年5月22日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、並びに、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?3及び5に係る特許を取り消すことはできず、他に本件発明1?3及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4は、前記のとおり、訂正の請求により削除された。これにより、特許異議申立人による、請求項4に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソプロピルメチルフェノール、及び
(B)エタノールを3重量%以上9重量%以下含有し、
該(A)成分の総含有量が、0.2?3重量%であり、
pHが、3.6?8である、
背中用にきび予防及び/又は治療薬(ただし、
(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、
イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物、及び、
にきび予防用医薬部外品
を除く。)。
【請求項2】
スプレー型容器に収容される、請求項1に記載の背中用にきび予防及び/又は治療薬。
【請求項3】
さらに1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを含有する、請求項1又は2に記載の背中用にきび予防及び/又は治療薬。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
(A)イソプロピルメチルフェノール、及び
(B)エタノールを3重量%以上9重量%以下含有し、
該(A)成分の総含有量が、0.2?3重量%であり、
pHが、3.6?8である、
背中におけるマラセチア属真菌の増殖抑制用外用組成物(ただし、
(A)イソプロピルメチルフェノール0.2?1.0質量%、(B)1,3-ブチレングリコール、(C)グリセリン、及び(D)HLB15以上の非イオン性界面活性剤を含有し、
{(B)+(C)}/(A)で表される(A)成分に対する(B)及び(C)成分の合計量の含有質量比が40以上であり、(B)/(C)で表される(C)成分に対する(B)成分の含有質量比が1.5?3.5の範囲であり、かつ(E)エタノールの含有割合が10質量%以下であることを特徴とするにきび用外用剤組成物、
イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%、エタノールを4.0質量%含み、1,3-ブチレングリコール及び/又はグリセリンを15.0質量%含む、pHが3.0であるにきび用外用組成物、及び、
にきび予防用医薬部外品
を除く。)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-24 
出願番号 特願2017-57617(P2017-57617)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
最終処分 維持  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 光本 美奈子
藤原 浩子
登録日 2018-03-23 
登録番号 特許第6311049号(P6311049)
権利者 ロート製薬株式会社
発明の名称 背中用にきび予防及び/又は治療薬  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ