• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
管理番号 1360467
異議申立番号 異議2019-700067  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-30 
確定日 2020-02-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6379249号発明「摩擦材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6379249号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6379249号の請求項1?2に係る特許を維持する。 特許第6379249号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6379249号(以下「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成24年7月17日〔優先権主張:平成23年9月14日(JP)日本国〕を出願日とする特願2012-158743号の一部を、平成29年4月17日に新たな特許出願としたものであって、平成30年8月3日に特許権の設定登録がなされ、同年8月22日に特許掲載公報が発行され、その特許に対し、平成31年1月30日に特許異議申立人である日高康博(以下「申立人A」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年2月20日に特許異議申立人である柴田秀子(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和元年 5月28日付け 取消理由通知
同年 7月30日 意見書(特許権者)
同年 9月10日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年11月12日 意見書・訂正請求書
同年11月14日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、申立人A及び申立人Bは、令和元年11月14日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。

第2 訂正の適否
1.訂正請求の趣旨及び内容
令和元年11月12日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6379249号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?7のとおりである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「チタン酸化合物」を「アメーバー状のチタン酸化合物」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「10?20体積%」を「10.0?20.0体積%」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「生体溶解性無機繊維」を「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「1?20体積%」を「1.0?20.0体積%」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2の「チタン酸化合物」を「アメーバー状のチタン酸化合物」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2の「生体溶解性無機繊維」を「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

2.訂正事項1?7の適否
(1)訂正事項1及び5について
ア.訂正の目的
訂正事項1及び5は、訂正前の請求項1及び2の「チタン酸化合物」を「アメーバー状のチタン酸化合物」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項1及び5は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
本件特許明細書の段落0015には「本発明のチタン酸化合物…図1に記載の…アメーバー状」との記載があるから、訂正事項1及び5は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2及び4について
ア.訂正の目的
訂正事項2及び4は、訂正前の請求項1の「10?20体積%」及び「1?20体積%」との記載を、本件特許明細書の段落0035の表1における、チタン酸カリウムの体積%の欄の「10.0」及び「20.0」との記載、並びに生体溶解性無機繊維の体積%の欄の「1.0」及び「20.0」との記載に整合させて、それぞれ「10.0?20.0体積%」及び「1.0?20.0体積%」との記載にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項1及び5は、上記ア.に示したように「明瞭でない記載の釈明」を目的として記載を整合させたにすぎないものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
上記ア.に示したように、本件特許明細書の段落0035の表1には「10.0」及び「20.0」並びに「1.0」及び「20.0」との記載があるから、訂正事項1及び5は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項3及び6について
ア.訂正の目的
訂正事項3及び6は、訂正前の請求項1及び2「生体溶解性無機繊維」を「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項3及び6は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
本件特許明細書の段落0011には「生体溶解性無機繊維の3次元網目構造中に引っかかり定着しやすく」との記載があり、同段落0038には「SiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」との記載があるから、訂正事項3及び6は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)訂正事項7について
ア.訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項7は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項7は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、新規事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(5)一群の請求項について
訂正事項1?7に係る訂正前の請求項1?3について、その請求項2?3はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?7による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

3.訂正の適否のまとめ
以上総括するに、訂正事項1?7による本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された訂正後の請求項1?3に係る発明(以下「本1発明」?「本3発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

「【請求項1】結合材、摩擦調整材及び繊維基材を含有する摩擦材であって、銅成分を含有せず、複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物の少なくとも1種を10.0?20.0体積%及び3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維を1.0?20.0体積%含有する摩擦材。
【請求項2】前記結合材を10?30体積%、前記複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物を含めて摩擦調整材を30?80体積%、及び前記3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維を含めて繊維基材を2?35体積%含有する、請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】(削除) 」

第3 取消理由の概要
令和元年9月10日付けの取消理由通知で通知された取消理由の概要は、次の理由1?3からなるものである。

〔理由1〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物2(甲1B)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?7に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の(あ)及び(い)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
(あ)「複数の凸部形状」の点
(い)「生体溶解性無機繊維」の点
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
1.理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開2011-16877号公報(甲1A)
刊行物2:特開2007-277418号公報(甲1B)
刊行物3:国際公開第2008/123046号(甲2A=甲2B)
刊行物4:特開2006-194441号公報(甲4B)
刊行物5:国際公開第2011/049575号(甲5B)
刊行物6:特開2010-242002号公報
刊行物7:特開2009-91422号公報

なお、上記刊行物1?5のうち、甲1A及び甲2Aは申立人A(日高康博)が提出した甲第1号証及び甲第2号証に同じであり、甲1B、甲2B、甲4B及び甲5Bは申立人B(柴田秀子)が提出した甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に同じである。

上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】被接触部と接触して摩擦力を発生させる摩擦材であって、
繊維基材として生体溶解性繊維を含有すること、
を特徴とする摩擦材。」

摘記1b:段落0005、0026?0027及び0037
「【0005】この発明の課題は、代替可能な繊維基材によって摩擦係数を安定化させフェードやビルドアップの発生を抑えることができる摩擦材及びブレーキ装置の制輪子を提供することである。…
【0026】【表1】


【0027】表1に示す試料A(実施例)は、繊維基材としてアラミド繊維を5mass%、生体溶解性繊維を10mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてフェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する。試料Aは、シリカ(SiO_(2))-マグネシア(MgO)-カルシア(CaO)系の生体溶解性繊維(ニチアス株式会社製の商品名:ファインフレックス-Eファイバー)を含有し、この生体溶解性繊維は化学成分としてSiO_(2)を76mass%、MgO+CaOを22mass%、Al_(2)0_(3)を2mass%含有し、色調が白色、平均繊維径が3.5μm、かさ密度が282kg/m^(3)、耐熱温度が1260℃、ショット含有率が0.29%である。…
【0037】…図4に示すように、ブレーキ試験後の試料A,Dの摩耗量を比較すると、試料Aの摩耗量のほうが試料Dの摩耗量よりも僅かに少なく、試料A(実施例)のほうが試料D(現行品)に比べて耐摩耗性が優れていることが確認された。」

上記刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1、4及び6
「【請求項1】繊維基材と充填材を結合剤によって結着させた摩擦材であって、
非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維を有しており、
前記非ウィスカー状のチタン酸化合物塩は、非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属塩と、非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つを含んでおり、
前記無機繊維は、生体溶解性であるとともに、平均繊維径が2?7μm、アスペクト比が3以上であることを特徴とする摩擦材。…
【請求項4】請求項1?3のいずれかに記載の摩擦材であって、
生体溶解性の無機繊維の添加量が、摩擦材全体の1?7重量%であることを特徴とする摩擦材。…
【請求項6】請求項1?5のいずれかに記載の摩擦材であって、
チタン酸化合物塩の総添加量が、摩擦材全体の6?38重量%であることを特徴とする摩擦材。」

摘記2b:段落0006、0009?0011、0013及び0016
「【0006】また生体溶解性の無機繊維は、ゼオライトのように吸湿性が高い物質ではないために湿度によって影響を受け難い。したがって本摩擦材の摩擦係数は、ゼオライトを含む従来の摩擦材に比べて湿度によって大きく変化しない。
また上記無機繊維は、生体溶解性であって、人体に残留しない。またチタン酸化合物塩は、非ウィスカー状であるために人体への発ガン性などの心配がない。したがって本発明に係る摩擦材は、環境衛生上良好な原料から形成される。
また生体溶解性の無機繊維は、チタン酸化合物塩によって得られる高い耐磨耗性をほとんど阻害することがないことが実験結果からわかった。…
【0009】請求項4に記載の発明によると、生体溶解性の無機繊維の添加量が、摩擦材全体の1?7重量%である。…生体溶解性の無機繊維の添加量が7重量%以下であるために、摩擦材の気孔率が高くなりすぎて摩擦材の強度が低下することを防止することができる。
【0010】…摩擦材は、チタン酸化合物塩を6重量%以上有しているために、チタン酸化合物塩によって得られる耐摩耗性を十分に得ることができる。…
【0011】本発明にかかる摩擦材は、繊維基材と充填材(摩擦調整剤)と結合剤を主体に有している。…
【0013】非ウィスカー状とは、ウィスカーを含んでいないことを意味しており、板状、フレーク状(薄片状、魚鱗状)、粉状などであることを意味する。したがってチタン酸化合物塩は、環境衛生上好ましくない長さ5μm以上、直径3μm以下、アスペクト比(長さ/直径)3を超えるウィスカー状(針状結晶、ひげ結晶)のものを含んでいない。…
【0016】生体溶解性の無機繊維は、気孔率を増加させるために加えられるものであって、生体溶解性のセラミックスファイバー、生体溶解性の人造鉱物繊維などを使用することができる。
生体溶解性のセラミックスファイバーとしては、シリカ・カルシア系繊維、シリカ・カルシア・マグネシア系繊維などを使用することができる。生体溶解性の人造鉱物繊維としては、高炉スラグや玄武岩やその他の天然鉱物などを主原料とするロックウールなどを使用することができる。」

摘記2c:段落0020?0021
「【0020】繊維基材としては、金属繊維、有機繊維を適宜選択して含まれる。金属繊維としては、銅繊維,鉄繊維などを使用することができる。有機繊維としては、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、耐炎性アクリル繊維などを使用することができる。これら繊維基材は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
繊維基材の添加量は、摩擦材全体の5?30重量%であることが好ましく、10重量%以上、20重量%以下であることがより好ましい。
【0021】…結合剤の添加量は、摩擦材全体の5?30重量%であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましい。]

摘記2d:段落0036
「【0036】また板状6チタン酸カリウムに代えて、他の非ウィスカー状のチタン酸化合物塩を利用することが可能である。例えば、フレーク状の8チタン酸カリウム(大塚化学(株)製のTERRACESSTF-LまたはTERRACESSTF-S)、フレーク状のチタン酸リチウム・カリウム(大塚化学(株)製のTERRACESSL)、フレーク状のチタン酸マグネシウム・カリウム(大塚化学(株)製のTERRACESSPS)、粉末状チタン酸カリウム(JFEミネラル(株)製のTIBREX-AF)等を利用することが可能である。」

摘記2e:図1及び図2







上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:請求項3及び11
「[3]不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載のチタン酸カリウム。…
[11]摩擦調整剤として、請求項1?6のいずれか1項のチタン酸カリウムまたは請求項7?10のいずれか1項の方法で製造されたチタン酸カリウムを含有することを特徴とする摩擦材。」

摘記3b:段落0002?0004、0006及び0009
「[0002]摩擦材に用いる摩擦調整剤としては、アスベストのような発癌性を持たないチタン酸カリウム繊維が、主に自動車用ブレーキパッドとして広く使用されている。チタン酸カリウム繊維を含む摩擦剤は、摺動性に優れ、良好な制動効果を発揮するにもかかわらず、ブレーキディスクを傷つけないという非常に好ましい利点を有している。
[0003]しかしながら、チタン酸カリウム繊維は、繊維形状を有しているため、嵩高く、流動性に劣り、製造時において供給路の壁に付着して、供給路を閉塞させるという問題点を有している。このような問題点を解消するため、板状8チタン酸カリウム、板状6チタン酸カリウム、及び板状4チタン酸カリウムなどの板状形状を有するチタン酸カリウムが提案されている(特許文献1及び2など)。
[0004]しかしながら、耐摩耗性、特に高温域での耐摩耗性をさらに改善することができる摩擦調整剤が求められている。…
[0006]本発明の目的は、新規な形状を有し、摩擦材における優れた耐摩耗性や、樹脂組成物における優れた補強性能を有するチタン酸カリウム及びその製造方法並びに該チタン酸カリウムを含有する摩擦材及び樹脂組成物を提供することにある。…
[0009]本発明のチタン酸カリウムは、一般に、不定形の形状を有している。すなわち、繊維状や、板状や、粒状の形状ではなく、不規則な形状を有している。具体的には、不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有しているものであることが好ましい。すなわち、アメーバ状の形状や、ジグソーパズルのピースのような形状を有しているものであることが好ましい。」

摘記3c:段落0026?0028
「[0026]本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸カリウムを摩擦調整剤として含むことを特徴としている。その含有量としては、1?80重量%の範囲であることが好ましい。本発明のチタン酸カリウムの含有量が1重量%未満であると、摩擦係数の安定等、摩擦調整剤としての効果を発現しにくい場合がある。80重量%を越えると、パッド成形が出来にくい場合がある。
[0027]本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸カリウムを摩擦調整剤として含有しているので、低温から高温域にわたって極めて安定な摩擦摩耗特性(耐摩耗性、摩擦係数等)を発揮し得る。本発明のチタン酸カリウムを含有することにより、良好な摩擦摩耗特性が得られる理由の詳細については明らかでないが、本発明のチタン酸カリウムが、上記のような特定の形状を有しているため、良好な耐摩耗性及び摩擦係数が得られるものと思われる。
[0028]従って、本発明の摩擦材は、例えば、自動車、鉄道車両、航空機、各種産業用機器類等に用いられる制動部材用材料、例えばクラッチフェーシング用材料及びブレーキライニングやディスクパッド等のブレーキ用材料等として用いることができるものであり、制動機能の向上、安定化、耐用寿命の改善効果を得ることができる。」

摘記3d:段落0030及び0033
「[0030]本発明の摩擦材は、繊維状物を含んでいてもよい。繊維状物としては従来からこの分野で常用されているものをいずれも使用でき、例えば、アラミド繊維等の樹脂繊維、スチール繊維、黄銅繊維等の金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール、木質パルプ等を挙げることができる。これらの繊維状物は1種を単独で使用でき又は2種以上を併用できる。また、これらの繊維状物には、分散性、結合材との密着性向上等のために、アミノシラン系、エポキシシラン系、ビニルシラン系等のシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、リン酸エステル等で表面処理を施してもよい。
[0033]本発明の摩擦材における各成分の配合割合は、使用する結合材の種類、必要に応じて配合する繊維状物、従来の摩擦調整剤、その他の添加剤等の種類、得ようとする摩擦材に求める摺動特性や機械的特性、その用途等の種々の条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常、摩擦材全量に対し、結合材を5?60重量%(好ましくは10?40重量%)、摩擦調整剤を1?80重量%(好ましくは3?50重量%)、繊維状物を60重量%まで(好ましくは1?40重量%)、その他の添加剤を60重量%までとすればよい。」

摘記3e:段落0099?0101及び0112
「[0099]…以下に示す「部」は「重量部」である。…
[0100](応用例1)(8チタン酸カリウム)実施例1で得られたK_(2)Ti_(7.9)O_(16.8)のアメーバ状チタン酸カリウム20部、アラミド繊維10部、フェノール樹脂20部、硫酸バリウム50部を混合し、25MPaの圧力下にて1分間予備成形をした後、20MPaの圧力下および170℃の温度で5分間、金型による結着成形を行い、引き続き180℃で3時間熱処理した。成型物を金型から取り出し、研磨化工を施してディスクパッドA(JIS D 4411試験片)を製造した。
[0101](応用例2)(6チタン酸カリウム)実施例2で得られたK_(2)Ti_(6.1)O_(13.2)のアメーバ状チタン酸カリウム20部、アラミド繊維10部、フェノール樹脂20部、硫酸バリウム50部を混合し、…ディスクパッドB(JIS D 4411試験片)を製造した。…
[0112]表3から明らかなように、本発明のアメーバ状チタン酸カリウムを用いた試験片は、従来の6チタン酸カリウム繊維に比べ、比摩耗量が少なく、また相手材(炭素鋼、S45C)の比摩耗量も無いことがわかる。」

上記刊行物4には、次の記載がある。
摘記4a:請求項1
「【請求項1】鉄ファイバ、アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つを含む摩擦材料を有し、摩擦材料中の鉄ファイバの量は約1?10体積%の範囲内にあり、アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つの量は約1?5体積%の範囲内にあり、摩擦材料には元素銅が含まれていないことを特徴とするブレーキ要素。」

上記刊行物5には、和訳にして、次の記載がある。
摘記5a:請求項1
「1.以下からなるブレーキ用の摩擦材:
体積比で約12?24%の少なくとも一つの結合材;
体積比で2?10%の少なくとも一つの繊維;
体積比で5%未満の少なくとも一つの潤滑剤
体積比で15?30%の少なくとも一つの研磨材;
体積比で10?24%の少なくとも一つのチタン酸塩;及び
材の中にアスベスト及び銅が実質的に含まれていない。」

上記刊行物6には、次の記載がある。
摘記6a:段落0001及び0006
「【0001】本発明は、摩擦調整材及びそれを含む摩擦材に関するものであり、特に自動車、荷物車両、産業機械などに用いられるものに関し、より具体的には前記の用途に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング等に関するものである。…
【0006】本発明は、耐摩耗性に優れたブレーキ性能を有し、かつノイズの少ない摩擦材を提供できる摩擦調整材及びそれを用いた摩擦材を提供することができる。また、本発明は生体溶解性無機繊維を用いるため環境保全に寄与するものである。」

摘記6b:段落0007、0012及び0014?0015
「【0007】…本発明において、生体溶解性無機繊維とは、生体内で溶解可能と考えられる繊維である(ただし、このことについては実証の有無は問わないものとする)が、IARC(国際がん研究機関)において、人に対する発がん性について分類しえないグループ3のもの或いはEU指令971691ECで発がん性分類の適用から除外されているものを言う。…具体的には、ロックウール、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。…
【0012】…本発明の摩擦調整材は、摩擦材全体に対し1?50体積%配合されていることが好ましく、5?30体積%配合されていることが更に好ましい。…
【0014】…繊維基材は、摩擦材全体に対して、通常、2?40体積%、好ましくは5?20体積%用いられる。
【0015】…結合材は、摩擦材全体に対して、通常、10?30体積%、好ましくは14?20体積%用いられる。なお、上記熱硬化性樹脂は、本発明の摩擦調整材に併用し得る。」

上記刊行物7には、次の記載がある。
摘記7a:段落0031?0032
「【0031】本発明の摩擦材組成物は人体への影響を考慮し、生体溶解性無機繊維を含有することを特徴とするが、その含有量は摩擦材としての基本特性、例えば、耐摩耗性、強度、摩擦係数等を確保する観点で、摩擦材組成物全量に対して1.5?7.5質量%である必要がある。また、生体溶解性無機繊維の含有量は摩擦材組成物全量に対して、2.5?6.5質量%であることが好ましく、3.0?6.0質量%であることがより好ましい。この含有量が1.5質量%未満であると摩擦材とした場合に十分な補強効果が得られず強度が低下しやすく、摩耗し易くなるため、錆落とし性が低下する傾向にある。また、この含有量が7.5質量%を超えると、摩擦材中での繊維の分散性が悪化する傾向にある。
【0032】上記含有量で生体溶解性無機繊維を含有させ、各々のモース硬度の無機物の含有量を本発明の範囲内とすることで、繊維径が小さく、アスペクトが大きい生体溶解性無機繊維を摩擦材に含有した場合でも人体に悪影響がなく、且つ摩擦材に補強効果及び錆落とし性を持たせ、且つ耐摩耗性を持たせることができる。」

(2)刊行物1?3に記載された発明
ア.刊1発明
摘記1aの「繊維基材として生体溶解性繊維を含有する…摩擦材」との記載、
摘記1bの「表1」及び「表1に示す試料A(実施例)は、繊維基材としてアラミド繊維を5mass%、生体溶解性繊維を10mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてフェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する。試料Aは、シリカ(SiO_(2))-マグネシア(MgO)-カルシア(CaO)系の生体溶解性繊維…を含有し、…試料A(実施例)のほうが試料D(現行品)に比べて耐摩耗性が優れていることが確認された。」との記載からみて、刊行物1には、
『繊維基材としてアラミド繊維を5mass%、生体溶解性繊維(シリカ-マグネシア-カルシア系の生体溶解性繊維)を10mass%、チタン酸カリウムを15mass%含有し、結合材としてフェノール樹脂を5mass%、ニトリルゴムを10mass%含有し、摩擦調整剤として鉄粉を20mass%、カシューダストを12mass%、黒鉛を23mass%含有する耐摩耗性に優れた摩擦材。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

イ.刊2発明
摘記2aの「繊維基材と充填材を結合剤によって結着させた摩擦材であって、非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維を有…する摩擦材。…生体溶解性の無機繊維の添加量が、摩擦材全体の1?7重量%である…チタン酸化合物塩の総添加量が、摩擦材全体の6?38重量%である…摩擦材。」との記載、
摘記2bの「摩擦材は、チタン酸化合物塩を6重量%以上有しているために…耐摩耗性を十分に得ることができる。…本発明にかかる摩擦材は、繊維基材と充填材(摩擦調整剤)と結合剤を主体に有している。…生体溶解性のセラミックスファイバーとしては、シリカ・カルシア系繊維、シリカ・カルシア・マグネシア系繊維などを使用することができる。生体溶解性の人造鉱物繊維としては、高炉スラグや玄武岩やその他の天然鉱物などを主原料とするロックウールなどを使用することができる。」との記載、及び
摘記2dの「板状6チタン酸カリウムに代えて、他の非ウィスカー状のチタン酸化合物塩を利用することが可能である。例えば、フレーク状の8チタン酸カリウム(大塚化学(株)製の…TERRACESSTF-S)…フレーク状のチタン酸マグネシウム・カリウム(大塚化学(株)製のTERRACESSPS)…等を利用することが可能である。」との記載からみて、刊行物2には、
『繊維基材と充填材(摩擦調整剤)を結合剤によって結着させた摩擦材であって、非ウィスカー状のチタン酸化合物塩(製品名「TERRACESSTF-S」や製品名「TERRACESSPS」など)と、生体溶解性の無機繊維(シリカ・カルシア・マグネシア系繊維やロックウールなど)を有する摩擦材であって、生体溶解性の無機繊維の添加量が摩擦材全体の1?7重量%であり、チタン酸化合物塩の総添加量が摩擦材全体の6?38重量%である摩擦材。』についての発明(以下「刊2発明」という。)が記載されているといえる。

ウ.刊3発明
摘記3aの「不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有する…チタン酸カリウム…摩擦調整剤として…チタン酸カリウムを含有する…摩擦材。」との記載、
摘記3bの「本発明のチタン酸カリウムは…アメーバ状の形状…が好ましい。」との記載、
摘記3cの「本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸カリウムを摩擦調整剤として含むことを特徴としている。その含有量としては、1?80重量%の範囲であることが好ましい。」との記載、及び
摘記3dの「繊維状物としては…アラミド繊維等の樹脂繊維、スチール繊維、黄銅繊維等の金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール、木質パルプ等を挙げることができる。…本発明の摩擦材における各成分の配合割合は、…通常、摩擦材全量に対し、結合材を5?60重量%(好ましくは10?40重量%)、摩擦調整剤を1?80重量%(好ましくは3?50重量%)、繊維状物を60重量%まで(好ましくは1?40重量%)、その他の添加剤を60重量%までとすればよい。」との記載からみて、刊行物3には、
『摩擦材全量に対し、結合材を5?60重量%、摩擦調整剤を1?80重量%、繊維状物(アラミド繊維等の樹脂繊維、スチール繊維、黄銅繊維等の金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール、木質パルプ等)を60重量%まで含有し、摩擦調整剤として不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有するアメーバー状のチタン酸カリウムを1?80重量%の範囲で含む摩擦材。』についての発明(以下「刊3発明」という。)が記載されているといえる。

(3)刊行物1を主引用例とした場合の検討
ア.対比
本1発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「繊維基材としてアラミド繊維…、生体溶解性繊維…、チタン酸カリウムを…含有」は、本1発明の「繊維基材を含有」に相当し、
刊1発明の「結合材としてフェノール樹脂…、ニトリルゴムを…含有」は、本1発明の「結合材…を含有」に相当し、
刊1発明の「摩擦調整剤として鉄粉…、カシューダスト…、黒鉛を…含有」は、本1発明の「摩擦調整材…を含有」に相当し、
刊1発明の「チタン酸カリウムを…含有」は、本1発明の「チタン酸化合物の少なくとも1種を…含有」に相当し、
刊1発明の「耐摩耗性に優れた摩擦材」は、本1発明の「摩擦材」に相当し、
刊1発明の「摩擦材」は、その組成に「銅」が全く含まれていないから、本1発明の「銅成分を含有せず」に相当する。
また、刊1発明の「生体溶解性繊維(シリカ-マグネシア-カルシア系の生体溶解性繊維)を…含有」と、本1発明の「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維を…含有」は、両者とも「生体溶解性無機繊維を含有」する点で共通する。

してみると、本1発明と刊1発明は、両者とも『結合材、摩擦調整材及び繊維基材を含有する摩擦材であって、銅成分を含有せず、チタン酸化合物の少なくとも1種を及び生体溶解性無機繊維を含有する摩擦材。』という点において一致し、次の(a1)?(a4)の4つの点において相違する。

(a1)チタン酸化合物の種類が、本1発明は「複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物」であるのに対して、刊1発明は「繊維基材」としての「チタン酸カリウム」である点。

(a2)チタン酸化合物の含有量が、本1発明は「10.0?20.0体積%」であるのに対して、刊1発明は「15mass%」である点。

(a3)生体溶解性無機繊維の含有量が、本1発明は「1.0?20.0体積%」であるのに対して、刊1発明は「10mass%」である点。

(a4)生体溶解性無機繊維の種類が、本1発明は「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」であるのに対して、刊1発明は「シリカ-マグネシア-カルシア系の生体溶解性繊維」である点。

イ.判断
本1発明は、本件特許明細書の段落0011の「本発明に用いる複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の形状に着目すると、板状や鱗状のチタン酸化合物に比べ、その凸部形状によって、相手材(ディスクロータ)との摩擦の過程で生体溶解性無機繊維の3次元網目構造中に引っかかり定着しやすく、脱落しにくいため、結果として、チタン酸化合物の材料自体の耐摩耗性が持続しやすく、板状や鱗片状のチタン酸化合物を使用した従来の摩擦材と比べて相手材(ディスクロータ)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が少なく、錆落とし性が改善されたものと推測される。」との記載にあるように、チタン酸化合物の種類が「複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物」であると同時に、生体溶解性無機繊維の種類が「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」であることにより「チタン酸化合物の材料自体の耐摩耗性が持続しやすく、板状や鱗片状のチタン酸化合物を使用した従来の摩擦材と比べて相手材(ディスクロータ)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が少なく、錆落とし性が改善され」るという顕著な効果を奏するものといえるものである。
これに対して、上記1.(1)に示した刊行物1?7には、上記(a4)の相違点に係る「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」について示唆を含めて記載がない。
してみると、上記(a4)の相違点は、実質的な差異であり、その構成を想到し、効果を予測することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、上記(a1)?(a3)の相違点について検討するまでもなく、本1発明は、刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

ウ.本2発明について
本2発明は、本1発明を引用し、さらに限定したものであるから、本1発明が刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本2発明が刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本2発明は、刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(4)刊行物2を主引用例とした場合の検討
ア.対比
本1発明と刊2発明とを対比する。
刊2発明の「繊維基材」、「充填材(摩擦調整剤)」及び「結合剤」の各々は、本1発明の「繊維基材」、「摩擦調整材」及び「結合材」の各々に相当し、
刊2発明の「繊維基材と充填材を結合剤によって結着させた摩擦材」は、本1発明の「結合材、摩擦調整材及び繊維基材を含有する摩擦材」に相当する。
刊2発明の「非ウィスカー状のチタン酸化合物塩(製品名「TERRACESSTF-S」や製品名「TERRACESSPS」など)」は「粒子の3次元形状」を有するものである(申立人Bが提出した甲第6号証の「TERRACESSTF-S」及び甲第7号証の「TERRACESSPS」の電子顕微鏡写真を参酌した。)から、刊2発明の「非ウィスカー状のチタン酸化合物塩(製品名「TERRACESSTF-S」や製品名「TERRACESSPS」など)」と本1発明の「複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物の少なくとも1種」は、両者とも「複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種」という点で共通する。
また、刊2発明の「生体溶解性の無機繊維(シリカ・カルシア・マグネシア系繊維やロックウールなど)」と、本1発明の「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維を…含有」は、両者とも「生体溶解性無機繊維」という点で共通する。

してみると、本1発明と刊2発明は、両者とも『結合材、摩擦調整材及び繊維基材を含有する摩擦材であって、複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種及び生体溶解性無機繊維を含有する摩擦材。』という点において一致し、次の(b1)?(b4)の4つの点において相違する。

(b1)複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の種類と含有量が、本1発明は「アメーバー状」のものを「10.0?20.0体積%」含有するのに対して、刊2発明はアメーバー状ではないものを「摩擦材全体の6?38重量%」含有する点。

(b2)生体溶解性無機繊維の含有量が、本1発明は「1.0?20.0体積%」であるのに対して、刊2発明は「摩擦材全体の1?7重量%」である点。

(b3)摩擦材が、本1発明は「銅成分を含有せず」とされているのに対して、刊2発明においては「銅成分を含有せず」と明示されていない点。

(b4)生体溶解性無機繊維の種類が、本1発明は「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」であるのに対して、刊2発明は「生体溶解性の無機繊維(シリカ・カルシア・マグネシア系繊維やロックウールなど)」である点。

イ.判断
本1発明は、本件特許明細書の段落0011の「本発明に用いる複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の形状に着目すると、板状や鱗状のチタン酸化合物に比べ、その凸部形状によって、相手材(ディスクロータ)との摩擦の過程で生体溶解性無機繊維の3次元網目構造中に引っかかり定着しやすく、脱落しにくいため、結果として、チタン酸化合物の材料自体の耐摩耗性が持続しやすく、板状や鱗片状のチタン酸化合物を使用した従来の摩擦材と比べて相手材(ディスクロータ)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が少なく、錆落とし性が改善されたものと推測される。」との記載にあるように、チタン酸化合物の種類が「複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物」であると同時に、生体溶解性無機繊維の種類が「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」であることにより「チタン酸化合物の材料自体の耐摩耗性が持続しやすく、板状や鱗片状のチタン酸化合物を使用した従来の摩擦材と比べて相手材(ディスクロータ)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が少なく、錆落とし性が改善され」るという顕著な効果を奏するものといえるものである。
これに対して、上記1.(1)に示した刊行物1?7には、上記(b4)の相違点に係る「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」について示唆を含めて記載がない。
してみると、上記(b4)の相違点は、実質的な差異であり、その構成を想到し、効果を予測することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、上記(b1)?(b3)の相違点について検討するまでもなく、本1発明は、刊行物2に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
また、本1発明は、刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

ウ.本2発明について
本2発明は、本1発明を引用し、さらに限定したものであるから、本1発明が刊行物2に記載された発明であるといえない以上、本2発明が刊行物2に記載された発明であるとはいえず、また、本1発明が刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本2発明が刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本2発明は、刊行物2に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
また、本2発明は、刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(5)刊行物3を主引用例とした場合の検討
ア.対比
本1発明と刊3発明とを対比する。
刊3発明の「結合材」、「摩擦調整剤」、「繊維状物」及び「摩擦材」の各々は、本1発明の「結合材」、「摩擦調整材」、「繊維基材」及び「摩擦材」の各々に相当し、
刊3発明の「繊維状物(アラミド繊維等の樹脂繊維、スチール繊維、黄銅繊維等の金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール、木質パルプ等)」は、刊行物2の段落0016(摘記2b)の「生体溶解性の人造鉱物繊維としては…ロックウールなど」との記載、及び刊行物6の段落0007の「生体溶解性無機繊維…ロックウール…等が挙げられる。」との記載にあるように、刊3発明の「ロックウール」等と、本1発明の「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」とは、両者とも「無機繊維」という点において共通し、
刊3発明の「不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有するアメーバー状のチタン酸カリウム」は、本1発明の「複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物の少なくとも1種」に相当し、
刊3発明の「摩擦材」は、その応用例1?2(摘記3e)を参酌すると、その組成に「銅」を必須成分としていないと解されるから、本1発明の「銅成分を含有せず」に相当する。

してみると、本1発明と刊3発明は、両者とも『結合材、摩擦調整材及び繊維基材を含有する摩擦材であって、銅成分を含有せず、複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の少なくとも1種及び無機繊維を含有する摩擦材。』という点において一致し、次の(c1)及び(c2)の2つの点において相違する。

(c1)複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物の少なくとも1種を、本1発明は「10.0?20.0体積%」含有するのに対して、刊3発明は「1?80重量%」含有する点。

(c2)繊維基材として、本1発明は「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維を1.0?20.0体積%」含有するのに対して、刊3発明は「繊維状物(アラミド繊維等の樹脂繊維、スチール繊維、黄銅繊維等の金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール、木質パルプ等)を60重量%まで」含有する点。

イ.判断
本1発明は、本件特許明細書の段落0011の「本発明に用いる複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の形状に着目すると、板状や鱗状のチタン酸化合物に比べ、その凸部形状によって、相手材(ディスクロータ)との摩擦の過程で生体溶解性無機繊維の3次元網目構造中に引っかかり定着しやすく、脱落しにくいため、結果として、チタン酸化合物の材料自体の耐摩耗性が持続しやすく、板状や鱗片状のチタン酸化合物を使用した従来の摩擦材と比べて相手材(ディスクロータ)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が少なく、錆落とし性が改善されたものと推測される。」との記載にあるように、チタン酸化合物の種類が「複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物」であると同時に、生体溶解性無機繊維の種類が「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」であることにより「チタン酸化合物の材料自体の耐摩耗性が持続しやすく、板状や鱗片状のチタン酸化合物を使用した従来の摩擦材と比べて相手材(ディスクロータ)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が少なく、錆落とし性が改善され」るという顕著な効果を奏するものといえるものである。
これに対して、上記1.(1)に示した刊行物1?7には、上記(c2)の相違点に係る「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」について示唆を含めて記載がない。
してみると、上記(c2)の相違点は、実質的な差異であり、その構成を想到し、効果を予測することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、上記(c1)の相違点について検討するまでもなく、本1発明は、刊行物1?7に記載された発明(並びに甲3B1?甲3B2及び甲6B?甲8Bの刊行物等に記載の事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

ウ.本2発明について
本2発明は、本1発明を引用し、さらに限定したものであるから、本1発明が刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本2発明が刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本2発明は、刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

2.理由3(サポート要件)について
(1)本件特許の請求項1?2に係る発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0009を含む発明の詳細な説明の記載からみて『作業環境衛生や自然環境に配慮し、錆落とし性及び摩擦材強度に優れた、特に高温域での摩擦材強度を向上させた摩擦材の提供』にあるものと認められる。

(2)また、本件特許明細書の段落0011の「本発明に用いる複数の凸部形状を有するチタン酸化合物の形状に着目すると、板状や鱗状のチタン酸化合物に比べ、その凸部形状によって、相手材(ディスクロータ)との摩擦の過程で生体溶解性無機繊維の3次元網目構造中に引っかかり定着しやすく、脱落しにくいため、結果として、チタン酸化合物の材料自体の耐摩耗性が持続しやすく、板状や鱗片状のチタン酸化合物を使用した従来の摩擦材と比べて相手材(ディスクロータ)の錆落とし時の摩擦材の摩耗が少なく、錆落とし性が改善されたものと推測される。」との記載からみて、当該課題は、その「生体溶解性無機繊維」が「3次元網目構造」を有し、なおかつ、その「チタン酸化合物」の「凸部形状」が「生体溶解性無機繊維の3次元網目構造中に引っかかり定着しやすく、脱落しにくい」ようになる特定の「形状」を有することで、解決できると認識できるものと認められる。

(3)そして、上記(あ)の「複数の凸部形状」の点、及び上記(い)の「生体溶解性無機繊維」の点について、訂正後の請求項1の発明特定事項が「複数の凸部形状を有するアメーバー状のチタン酸化合物」及び「3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維」に限定された。

(4)してみると、上記段落0011の「作用機序」の説明に照らし、訂正後の請求項1に記載された「複数の凸部形状」及び「生体溶解性無機繊維」の範囲が、サポート要件を満たし得ない範囲にあるということはできない。

(5)したがって、理由3の(あ)及び(い)に指摘した点について、本件特許の請求項1及び2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人Aの申立理由1(進歩性)
申立人A(日高康博)が主張する申立理由1は、本1?本3発明は、甲1A及び甲2Aに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に違反するというものである。
そして、申立人Aの申立理由1(進歩性)は、上記第3〔理由2〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(2)申立人Bの申立理由1(新規性)
申立人B(柴田秀子)が主張する申立理由1は、本1?本3発明は、甲1Bに記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)に違反するというものである。
そして、申立人Bの申立理由1(新規性)は、上記第3〔理由1〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(3)申立人Bの申立理由2(進歩性)
申立人B(柴田秀子)が主張する申立理由2は、本1?本3発明は、甲1B及び甲2Bに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に違反するというものである。
そして、申立人Bの申立理由2(進歩性)は、上記第3〔理由2〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

第5 まとめ
以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1及び本2発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本1及び本2発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項3は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、摩擦調整材及び繊維基材を含有する摩擦材であって、銅成分を含有せず、複数の凸部形状を有するアメーバ状のチタン酸化合物の少なくとも1種を10.0?20.0体積%及び3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維を1.0?20.0体積%含有する摩擦材。
【請求項2】
前記結合材を10?30体積%、前記複数の凸部形状を有するアメーバ状のチタン酸化合物を含めて摩擦調整材を30?80体積%、及び前記3次元網目構造を有するSiO_(2)-MgO-SrO系の生体溶解性無機繊維を含めて繊維基材を2?35体積%含有する、請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-29 
出願番号 特願2017-81603(P2017-81603)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 啓二  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 木村 敏康
川端 修
登録日 2018-08-03 
登録番号 特許第6379249号(P6379249)
権利者 曙ブレーキ工業株式会社
発明の名称 摩擦材  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ