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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G01B
審判 一部申し立て 2項進歩性  G01B
管理番号 1360497
異議申立番号 異議2019-700468  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-11 
確定日 2020-02-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6450450号発明「眼鏡装用パラメータ測定装置、眼鏡装用パラメータ測定プログラムおよび位置指定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6450450号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕、〔3?4〕、5、6について訂正することを認める。 特許第6450450号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第6450450号の請求項5、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6450450号(以下、「本件特許」という。)に係る日本語特許出願(特願2017?505401号)は、平成28年3月10日になされたものであり(優先権主張 平成27年3月10日、日本国)、平成30年12月14日にその特許権の設定の登録がされ、平成31年1月9日にその特許掲載公報が発行された。本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の数は6である。
これに対して、令和元年6月11日に特許異議申立人小松一枝及び前田知子(以下、両者を併せて「申立人」という。)は、証拠として甲第1号証及び甲第2号証(いずれも枝番を含む)を提出し、本件特許の請求項1、5、6について特許異議の申立てをした。
審判長は、令和元年9月17日付けで本件特許の請求項1、5、6について取消しの理由を通知し(以下、この通知を「取消理由通知」という。)、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたところ、特許権者から、令和元年12月23日に訂正請求書が提出された。
(以下、この訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)


第2 本件訂正について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであって、その内容は次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。

(1)一群の請求項〔1?4〕に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3について、請求項1及び請求項2の削除に伴い、独立形式に改める訂正をする(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)。

なお、上記訂正事項1?3は、一群の請求項〔1?4〕に係るものであるところ、上記一群の請求項〔1?4〕を構成する請求項3及び4についての上記訂正事項3に関しては、「別の訂正単位とする求め」が本件訂正請求書においてなされているから、上記訂正事項3が訂正要件を満たすときは、上記請求項3及び4についての訂正事項3が、上記一群の請求項〔1?4〕の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることになり、上記訂正事項1及び2の判断とは独立して、その訂正が認められることになる。

(2)請求項5に係る訂正
訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「表示画面部および操作部を備え、眼鏡フレームを装用する被検者の眼鏡装用パラメータについて測定を行う際に用いられるコンピュータを、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とのそれぞれを関連付けた第3の画像を準備する画像処理手段と、
前記画像処理手段が準備した前記第3の画像を前記表示画面部に表示させる表示制御手段と、
前記表示画面部が表示する前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を前記操作部で行わせる操作制御手段と、
指定された前記測定基準点のデータを用いて前記眼鏡装用パラメータを算出する計測演算手段、
として機能させ、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されている
ことを特徴とする眼鏡装用パラメータ測定プログラム。」
と記載されているのを
「表示画面部および操作部を備え、眼鏡フレームを装用する被検者の眼鏡装用パラメータについて測定を行う際に用いられるコンピュータを、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とのそれぞれを関連付けた第3の画像を準備する画像処理手段と、
前記画像処理手段が準備した前記第3の画像を前記表示画面部に表示させる表示制御手段と、
前記表示画面部が表示する前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を前記操作部で行わせる操作制御手段と、
指定された前記測定基準点のデータを用いて前記眼鏡装用パラメータを算出する計測演算手段、
として機能させ、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されており、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、当該合成画像中から前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除したものであり、
前記合成画像は、前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像である
ことを特徴とする眼鏡装用パラメータ測定プログラム。」
に訂正する。

(3)請求項6に係る訂正
訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に
「眼鏡フレームを装用した状態の被検者の顔画像を用いて前記被検者に関する眼鏡装用パラメータを測定する際に、前記測定に必要となる前記顔画像上の測定基準点を指定するための位置指定方法であって、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とをそれぞれ取得しておき、
前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを関連付けた第3の画像を準備して表示し、
前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を行い、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されている
ことを特徴とする位置指定方法。」
と記載されているのを
「眼鏡フレームを装用した状態の被検者の顔画像を用いて前記被検者に関する眼鏡装用パラメータを測定する際に、前記測定に必要となる前記顔画像上の測定基準点を指定するための位置指定方法であって、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とをそれぞれ取得しておき、
前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを関連付けた第3の画像を準備して表示し、
前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を行い、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されており、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、当該合成画像中から前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除したものであり、
前記合成画像は、前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像である
ことを特徴とする位置指定方法。」
に訂正する。


2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的
ア 訂正事項1及び2
上記訂正事項1及び2は、それぞれ請求項1及び2を削除するものであるから、上記訂正事項1及び2に係る訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 訂正事項3
上記訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が請求項2を引用する記載であり、本件訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、請求項1及び請求項2を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、上記訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当する。

ウ 訂正事項4及び5
上記訂正事項4及び5は、それぞれ本件訂正前の請求項5及び6に対して、本件訂正前の請求項2及び本件訂正前の請求項3の発明特定事項を付加するものであるから、上記訂正事項4及び5に係る訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(2)新規事項の追加
上記訂正事項1?5に係る訂正は、いずれも特許法120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当しないから、この訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、特許権の設定の登録がされた時点での願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「特許明細書等」という。)である。

ア 訂正事項1及び2
上記訂正事項1及び2は、それぞれ請求項1及び2を削除するものであるから、上記訂正事項1及び2に係る訂正は、いずれも特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

イ 訂正事項3
上記訂正事項3は、本件訂正前の請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であり、実質的な内容変更を伴うものではないから、上記訂正事項3に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

ウ 訂正事項4及び5
上記訂正事項4及び5は、それぞれ本件訂正前の請求項5及び6に対して、本件訂正前には請求項1の従属項であった請求項2及び本件訂正前には請求項2の従属項であった請求項3の発明特定事項を付加するものである。
ここで、本件訂正前の請求項1、5及び6に係る発明は、発明のカテゴリーが相違するのみで実質的には同じ内容であるといえるから、本件訂正前の請求項2及び3の発明特定事項を、本件訂正前の請求項5及び6に対して付加しても、本件訂正後の請求項5及び6に係る発明は、いずれも本件訂正前の請求項3に係る発明とカテゴリーが相違するのみで実質的には同じ内容である。
したがって、上記訂正事項4及び5に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張・変更
ア 訂正事項1及び2
上記訂正事項1及び2は、それぞれ請求項1及び2を削除するものであるから、上記訂正事項1及び2に係る訂正は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

イ 訂正事項3
上記訂正事項3は、本件訂正前の請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であり、実質的な内容変更を伴うものではないから、上記訂正事項3に係る訂正は、訂正後の請求項3に係る特許発明の技術的範囲の一部または全部について、訂正前の特許発明の技術的範囲外のものも含むとはいえない。
よって、上記訂正事項3に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

ウ 訂正事項4及び5
上記訂正事項4及び5は、それぞれ本件訂正前の請求項5及び6に対して、本件訂正前には請求項1の従属項であった請求項2及び本件訂正前には請求項2の従属項であった請求項3の発明特定事項を付加するものである。
ここで、本件訂正前の請求項1、5及び6に係る発明は、発明のカテゴリーが相違するのみで実質的には同じ内容であるといえるから、本件訂正前の請求項2及び3の発明特定事項を、本件訂正前の請求項5及び6に対して付加しても、本件訂正後の請求項5及び6に係る発明は、いずれも本件訂正前の請求項3に係る発明とカテゴリーが相違するのみで実質的には同じ内容である。
したがって、かかる付加により、訂正後の請求項5及び6に係る特許発明の技術的範囲の一部または全部について、訂正前の特許発明の技術的範囲外のものも含むとはいえないから、上記訂正事項4及び5に係る訂正は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(4)独立特許要件
ア 訂正事項1、4、5
この特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1、5、6について特許異議の申立てがされているところ、上記訂正事項1、4及び5はそれぞれ請求項1、5、6に係るものであるから、本件訂正後における請求項1、5、6に記載されている事項により特定される発明について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、特許異議の申立てがされていない請求項2に係るものであり、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件に違反しないことは明らかである。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、特許異議の申立てがされていない請求項3に係るものであるが、上記訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当するから、本件訂正後における請求項3に記載されている事項により特定される発明について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(5)まとめ
上記(1)?(4)において検討した訂正要件についての判断をまとめると、本件訂正は適法なものである。
よって、結論のとおり本件訂正を認める。


第3 本件特許に係る発明
上記第2により本件訂正が認められたことから、本件特許に係る請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、本件発明1、5及び6はそれぞれ以下のとおりである。
なお、本件発明5及び6は、特許異議の申立てがされていない請求項3に係る発明(本件発明3)と、発明のカテゴリーが相違するのみで、実質的には同じ内容である。

[本件発明1]
「【請求項1】(削除)」

[本件発明5]
「【請求項5】
表示画面部および操作部を備え、眼鏡フレームを装用する被検者の眼鏡装用パラメータについて測定を行う際に用いられるコンピュータを、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とのそれぞれを関連付けた第3の画像を準備する画像処理手段と、
前記画像処理手段が準備した前記第3の画像を前記表示画面部に表示させる表示制御手段と、
前記表示画面部が表示する前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を前記操作部で行わせる操作制御手段と、
指定された前記測定基準点のデータを用いて前記眼鏡装用パラメータを算出する計測演算手段、
として機能させ、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されており、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、当該合成画像中から前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除したものであり、
前記合成画像は、前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像である
ことを特徴とする眼鏡装用パラメータ測定プログラム。」

[本件発明6]
「【請求項6】
眼鏡フレームを装用した状態の被検者の顔画像を用いて前記被検者に関する眼鏡装用パラメータを測定する際に、前記測定に必要となる前記顔画像上の測定基準点を指定するための位置指定方法であって、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とをそれぞれ取得しておき、
前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを関連付けた第3の画像を準備して表示し、
前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を行い、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されており、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、当該合成画像中から前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除したものであり、
前記合成画像は、前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像である
ことを特徴とする位置指定方法。」


第4 特許異議申立ての理由及び取消しの理由の概要
1 特許異議申立ての理由の概要
申立人は、下記の文書を証拠方法として、請求項1、5及び6に係る特許に対して特許異議の申立てをしているところ、その理由の概要は、次のとおりである。

申立ての理由 その1
請求項1、5及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、5及び6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
請求項1、5及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立ての理由 その2
請求項1、5及び6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1、5及び6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
請求項1、5及び6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



甲第1号証 :仏国特許出願公開第2931001号明細書
甲第1号証の2:甲第1号証の一部の翻訳文
甲第2号証 :米国特許第7845797号明細書
甲第2号証の2:甲第2号証の一部の翻訳文


2 取消しの理由の概要
請求項1、5及び6に係る特許に対して、取消理由通知で通知した取消しの理由の概要は、次のとおりである。

「本件特許の請求項1、5及び6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



刊行物1:仏国特許出願公開第2931001号明細書(甲第1号証)
刊行物2:特許第3976925号公報(周知技術を示す文献)」


第5 当審の判断
1 引用刊行物
(1)刊行物1
上記刊行物1(甲第1号証)には、図面とともに以下の記載がある。
なお、日本語訳については、申立人が提出した甲第1号証の一部の翻訳文(甲第1号証の2)に基づいて当審で作成した。下線は、当審が付したものである。

ア 第1頁(明細書部分)



(日本語訳)
「本発明は、眼鏡フレームに対する眼の位置を測定する方法に関する。

眼鏡フレームに対する眼の位置を測定するための現在の方法は、眼鏡フレーム付きの被検者の単一の正面像または側面像を使用する。太いフレーム枠やサングラスの場合、眼鏡フレームや眼鏡で隠されている眼を正しく視覚化することは不可能である。その場合、測定は不可能であるか、または非常に困難である。

本発明はこれらの欠点を改善することを可能にする。実際、好ましい形態によれば、本発明に係る方法は、眼鏡フレーム装用状態および眼鏡フレーム非装用状態で、被検者の2枚の写真を使用するステップを含む。ソフトウェアは、透明レンダリングのために画像を優先的な形式で処理し、透明度は、より快適な結果を得て、より正確な測定を実現するために可変である(図1)。好ましい形態では、ソフトウェアは、一の画像を他の画像に対して移動させ、それを回転させて完全に一致させることを可能にする(図2)。
眼鏡フレームまたは眼鏡フレームに適用された標準タブによって、測定を達成するために画像を拡大縮小することが可能である(図2C)。
側面像の場合、可能な測定値は、装用時前傾角(図2A)、眼鏡と眼との距離(図2B)、および眼鏡を通過する注視線の高さである。
正面像の場合、可能な測定値は、眼鏡フレームの底部に対する高さ、および眼と眼鏡フレームの中央との間の距離である。

当該処理の特定の形態では、立体写真法によって形成され、ファイルの形式で復元された2つの三次元画像を連結して単一の三次元画像を明らかにし、眼鏡フレームの任意の点で眼の中心をベクトル座標に分離する距離を測定する。立体写真法の使用は基準を必要としないので、スケーリングはその適切な較正によって自動的に行われる。」

イ 第2頁(請求の範囲部分)



(日本語訳)
「請求の範囲
1)眼鏡フレーム非装用状態の被検者の側面像の半透明画像と、眼鏡フレーム装用状態の被検者の側面像の半透明画像とを重ね合わせることにより、眼鏡レンズから眼までの距離と眼鏡フレームの装用時前傾角とを測定する方法。

2)眼鏡フレーム非装用状態の被検者の正面像の半透明画像と、眼鏡フレーム装用状態の被検者の正面像の半透明画像とを重ね合わせることにより、眼鏡フレームに対する瞳孔を測定する方法。

3)眼鏡フレーム非装用状態の被検者の立体画像と、眼鏡フレーム装用状態の被検者の立体画像とを重ね合わせることにより、眼鏡フレームに対する瞳孔を測定する方法。

4)前記画像の較正が前記眼鏡フレーム自体を介して実行される、請求項1、2、または3に記載の方法。

5)前記画像の較正が、特に画像較正のために前記眼鏡フレームに取り付けられたマークによって実行される、請求項1、2、または3に記載の方法。

6)各画像に適用される透明度が可変である、請求項1または2に記載の方法。」

ウ 第1図




エ 第2図




オ 上記ウの図示内容から、「被検者の側面像の半透明画像」には、「眼鏡フレーム非装用状態」及び「眼鏡フレーム装用状態」のいずれの状態においても、「顔画像」が含まれていると認められる。

カ 上記エの図示内容から、「眼鏡フレーム非装用状態」及び「眼鏡フレーム装用状態」の「被検者の側面像の半透明画像」を「一致」させた画像を得て、この一致させた画像を表示することが読み取れる。また、この一致させた画像では、眼鏡フレームのテンプル部は、被検者の眼が視認可能な程度に透明化されており、眼鏡フレームの前枠部は、視認可能な程度に透明化されていることが読み取れる。さらに、この一致させた画像を用いて、眼鏡と眼との距離を測定していることが読み取れる。

キ 上記ア及びイの記載内容、上記オ及びカの認定事項を総合すると、上記刊行物1(甲第1号証)には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像と、眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像とを重ね合わせ、眼鏡フレームに対する眼の位置を測定する方法において、
眼鏡フレーム装用状態および眼鏡フレーム非装用状態での被検者の2枚の写真を使用して、ソフトウェアが、透明レンダリングのために画像を優先的な形式で処理し、一の画像を他の画像に対して移動させ、それを回転させて完全に一致させることにより、眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像と、眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像とを一致させた画像を得て、この一致させた画像を表示し、
前記一致させた画像では、眼鏡フレームのテンプル部は、被検者の眼が視認可能な程度に透明化されており、眼鏡フレームの前枠部は、視認可能な程度に透明化されており、
前記一致させた画像を用いて、眼鏡と眼との距離を測定する方法。」

(2)刊行物2
上記刊行物2には、図面とともに以下の記載がある。
なお、下線は、当審が付したものである。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被検者の眼の瞳孔中心間距離、被検者が装用した眼鏡フレームに対する眼の位置(アイポジション)等の眼位置を測定する眼位置測定装置に関する。」

「【0018】
1は装置本体であり、被検者に対向する側には測定窓2が配置されている。3は画像表示部であり、テレビカメラ10で撮影される画像や測定情報をディスプレイ3aに表示する。ディスプレイ3aにはLCD等の一般的なものが使用される。また、ディスプレイ3aは矢印A方向に倒すことが可能であり、携帯し易いようになっている。画像表示部3は図1(b)に示すように取り外して使用することができる。画像表示部3と本体1とは接続ケーブル3bによって接続されている。4はポインティングデバイスとして使用されるマウスであり、画像表示部3に接続して使用する。」

「【0030】
〈側面測定〉
この測定は装用した眼鏡フレームの前傾角、眼鏡フレームと角膜頂点との頂点間距離を知るために行う。
【0031】
ディスプレイ3aにて測定モードを側面測定モードにしておく。図5に示すように、モードの設定はマウス4を使用してカーソルマーク40を測定モード項目42上まで移動させておき、ボタン4aを押してモードを設定する。マウス4を使用せずタッチパネル形式やタッチペンでも項目等の選択ができるようにすることも可能である。
【0032】
側面測定モードに選択後、検者は装置本体1を手に取り、測定窓2を被検者顔の側面に向け、(又は、撮影部5を装置本体1の底面側に90度回転して直接カメラ10で撮像する)ディスプレイ3aに被検者の眼鏡フレームを掛けた顔側面が映るようにその位置を決定させる。装置本体1の位置が決定したらスイッチ7を押す。スイッチ7が押されると演算制御部30は被検者の顔側面映像を画像データとしてメモリ31に記憶する。
【0033】
図5はメモリ31に記憶された画像例を示す図である。側面測定モードでは次のようにして、眼鏡フレームFの前傾角θ、頂点間距離62の測定結果を得る。まず、画面上の基準測定用項目43をマウス4にて選択した後、カーソルマーク40を移動させてスケール板像22′上の2つの基準点像24′をそれぞれ指定する(カーソルマーク40を基準点像24′に合せてボタン4aを押す)。カーソルマーク40により指定されると、演算制御部30は基準点像24′の2点間を結ぶ直線と、ディスプレイ3a上の水平線とがなす角度(以後、基準角度とする)を算出し、これをメモリ32に記憶する。さらにスケール板22に付された基準点24の2点間の距離51は予め決定されているため、演算制御部30は距離51と距離51′とを比較して補正比率を算出する。
【0034】
次に、角度検出項目44を選択して、水平視線に対する鉛直面とレンズ面とのなす角度(前傾角)θを求める。検者は眼鏡フレーム像F′の前枠上にカーソルマーク40を合わせ、任意の2点60a、60bをそれぞれ指定する。演算制御部30はこの2点を結ぶ直線と、先に指定したスケール板22′上の基準点が結ぶ直線とがなす角度を算出する。この算出された角度より眼鏡枠の前傾角θを算出し、その値をメモリ32に記憶すると共にディスプレイ3aにその角度を表示する。
【0035】
また、角膜頂点から眼鏡フレームFの枠の内側までの距離(頂間距離)を求める場合は、距離測定項目41を選択した後、角膜頂点像とその水平方向に位置する眼鏡枠の内側とをカーソルマーク40にてそれぞれ指定し、距離62を求める。得られた距離62と先程求めておいた補正比率より、その実距離が算出される。得られた頂間距離を利用して、例えば一般的な頂間距離(12mm)になっていなかった場合には、頂間距離を12mmになるように眼鏡を再調整することができる。また、わざと頂間距離を変えて矯正効果を上げたい場合に、得られた頂間距離によりどれだけ矯正効果が変化するかの算出手段等にも使用できる。」

「【図4】



「【図5】




2 対比・判断
(1)本件発明6について
事案に鑑み、まず、本件発明6について検討を行うこととする。
なお、請求項1は本件訂正により削除されているから、本件発明1についての対比・判断は不要である。

ア 対比
本件発明6と甲1発明とを対比すると、以下の(ア)?(ケ)のとおりである。

(ア)甲1発明の「眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像」は、本件発明6の「眼鏡フレームを装用した状態の被検者の顔画像」に相当し、甲1発明の「眼鏡フレームに対する眼の位置」は、本件発明6の「被検者に関する眼鏡装用パラメータ」に相当するから、甲1発明の「眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像と、眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像とを重ね合わせ、眼鏡フレームに対する眼の位置を測定する」ことは、本件発明6の「眼鏡フレームを装用した状態の被検者の顔画像を用いて前記被検者に関する眼鏡装用パラメータを測定する」ことに相当する。

(イ)甲1発明の「眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像」及び「眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像」は、それぞれ本件発明6の「前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像」及び「眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像」に相当する。
また、甲1発明では、「眼鏡フレーム装用状態および眼鏡フレーム非装用状態での被検者の2枚の写真を使用して」いるところ、これら「2枚の写真」を「それぞれ取得」しているといえるから、このことは、本件発明6の「前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とをそれぞれ取得して」おくことに相当する。

(ウ)甲1発明では、「ソフトウェアが、透明レンダリングのために画像を優先的な形式で処理し、一の画像を他の画像に対して移動させ、それを回転させて完全に一致させることにより、眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像と、眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像とを一致させた画像を得」るから、「眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像」と「眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像」とを、それぞれの「半透明画像」を「一致」させることにより関連付けているといえる。
そうすると、甲1発明の「一致させた画像」は、本件発明6の「前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを関連付けた第3の画像」に相当し、甲1発明の「一致させた画像を得」ることは、本件発明6の「第3の画像を準備」することに相当し、甲1発明の「この一致させた画像を表示」することは、本件発明6の「第3の画像」を「表示」することに相当する。
したがって、甲1発明の「眼鏡フレーム装用状態および眼鏡フレーム非装用状態での被検者の2枚の写真を使用して、ソフトウェアが、透明レンダリングのために画像を優先的な形式で処理し、一の画像を他の画像に対して移動させ、それを回転させて完全に一致させることにより、眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像と、眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像の半透明画像とを一致させた画像を得て、この一致させた画像を表示」することは、本件発明6の「前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを関連付けた第3の画像を準備して表示」することに相当する。

(エ)甲1発明の「前記一致させた画像」では、「眼鏡フレームのテンプル部は、被検者の眼が視認可能な程度に透明化されて」いるところ、この「被検者の眼」は、「眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像」(「第2の画像」に相当)上にあるものである。
また、甲1発明では、「前記一致させた画像を用いて、眼鏡と眼との距離を測定する」から、「被検者の眼」の位置に「距離を測定する」ための測定位置があり、その測定位置は「前記一致させた画像」(「第3の画像」に相当)において「視認可能」であるといえる。
そうすると、本件発明6と甲1発明とは、「前記第3の画像は、前記被検者の眼球に関して、前記第2の画像上での測定位置を視認可能にする」という点で共通する。

(オ)甲1発明の「前記一致させた画像」では、「眼鏡フレームの前枠部は、視認可能な程度に透明化されている」ところ、この「眼鏡フレームの前枠部」は、「眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像」(「第1の画像」に相当)上にあるものである。
また、甲1発明では、「前記一致させた画像を用いて、眼鏡と眼との距離を測定する」から、「眼鏡フレームの前枠部」の位置に「距離を測定する」ための測定位置があり、その測定位置は「前記一致させた画像」(「第3の画像」に相当)において「視認可能」であるといえる。
そうすると、本件発明6と甲1発明とは、「前記第3の画像は、前記眼鏡フレームに関して、前記第1の画像上での測定位置を視認可能にする」という点で共通する。

(カ)上記(エ)及び(オ)で検討したとおり、甲1発明の「前記一致させた画像」では、「眼鏡フレームの前枠部」は、「眼鏡フレーム装用状態の被検者の顔画像を含む側面像」(「第1の画像」に相当)上にあり、「被検者の眼」は、「眼鏡フレーム非装用状態の被検者の顔画像を含む側面像」(「第2の画像」に相当)上にあるから、甲1発明の「表示」される「前記一致させた画像」は、本件発明6の「前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されて」いる「前記第3の画像」に相当する。

(キ)甲1発明の「一致させた画像」(本件発明6の「第3の画像」に相当)は、「眼鏡フレーム装用状態および眼鏡フレーム非装用状態での被検者の2枚の写真を使用して、ソフトウェアが、透明レンダリングのために画像を優先的な形式で処理し、一の画像を他の画像に対して移動させ、それを回転させて完全に一致させることにより」得られるものであるから、本件発明6の「前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した」「合成画像」に相当する。
そして、上記(エ)及び(オ)で検討したとおり、甲1発明では、測定位置が「一致させた画像」において「視認可能」であるといえるから、甲1発明の「一致させた画像」は、本件発明6の「少なくとも測定位置を含む合成画像」に相当する。

(ク)甲1発明の「一致させた画像」(本件発明6の「少なくとも測定位置を含む合成画像」に相当)では、「眼鏡フレームのテンプル部は、被検者の眼が視認可能な程度に透明化されて」いるから、被検者の眼に関する測定位置を隠す眼鏡フレームのテンプル部の画像部分については、当該一致させた画像において当該被検者の眼に関する測定位置が隠れないような処理がされているといえる。
そして、上記(キ)を踏まえると、本件発明6と甲1発明とは、「前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分については、当該合成画像において当該被検者の眼球に関する測定位置が隠れないような処理がされている」点で共通する。

(ケ)本件発明6と甲1発明とは、「方法」の発明である点で共通する。

イ 一致点及び相違点
上記アの対比内容を踏まえると、本件発明6と甲1発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点1及び2において相違する。

[一致点]
「眼鏡フレームを装用した状態の被検者の顔画像を用いて前記被検者に関する眼鏡装用パラメータを測定する際に、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とをそれぞれ取得しておき、
前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを関連付けた第3の画像を準備して表示し、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレームに関して、前記第1の画像上での測定位置と、前記被検者の眼球に関して、前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されており、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分については、当該合成画像において当該被検者の眼球に関する測定位置が隠れないような処理がされている、方法。」

[相違点1]
「眼鏡フレームを装用した状態の被検者の顔画像を用いて前記被検者に関する眼鏡装用パラメータを測定する」に際して、本件発明6の「方法」は、「前記測定に必要となる前記顔画像上の測定基準点を指定するための位置指定方法」であり、「前記測定基準点の指定にあたり」、「第3の画像を準備して表示し」、「前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を行い」、「前記眼鏡フレームに関して」「前記第1の画像上での測定位置」を「指定」し、「前記被検者の眼球に関して」「前記第2の画像上での測定位置」を「指定」するものであるのに対して、甲1発明の「方法」は、そのような位置指定方法ではない点。

[相違点2]
「当該被検者の眼球に関する測定位置が隠れないような処理」について、本件発明6は、「合成画像中から前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除したものであり、前記合成画像は、前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像である」のに対して、甲1発明の「一致させた画像」(「合成画像」に相当)では、そのような処理がなされていない点。

ウ 判断
(ア)上記相違点1について
上記刊行物2には、眼鏡フレームに対する眼の位置を測定する装置が、演算制御部30と、画像表示部3に接続されたポインティングデバイスとして使用するマウス4を備えることが記載されており、眼鏡フレームと角膜頂点との頂点間距離を求める場合は、前記マウス4を用いて、前記画像表示部3のディスプレイ3aに表示された角膜頂点像とその水平方向に位置する眼鏡枠の内側とをカーソルマーク40にてそれぞれ指定し、カーソルマーク40にて指定された箇所の間の距離62を求め、得られた距離62と補正比率より、その実距離を算出することが記載されている(上記「1 引用文献」の「(2)刊行物2」を参照。)。
このように眼鏡フレームに対する眼の位置を測定するに際し、表示される画像上で測定基準点の指定を行い、指定された前記測定基準点のデータを用いて測定値を算出するようにし、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して画像上での測定位置を指定し、被検者の眼球に関して画像上での測定位置を指定する、位置指定方法は、周知の技術である(以下、「周知技術」という。)。
そして、甲1発明と上記周知技術とは、眼鏡フレームに対する眼の位置について測定を行う点で共通するから、上記周知技術を甲1発明に適用して、「前記測定に必要となる前記顔画像上の測定基準点を指定するための位置指定方法」として構成し、「前記測定基準点の指定にあたり」、「第3の画像を準備して表示し」、「前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を行い」、「前記眼鏡フレームに関して」「前記第1の画像上での測定位置」を「指定」し、「前記被検者の眼球に関して」「前記第2の画像上での測定位置」を「指定」するようにして、上記相違点1に係る本件発明6の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分について、合成画像において当該被検者の眼球に関する測定位置が隠れないようにする処理が、「前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除」することであり、「前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像」となるようにすることは、上記刊行物1、2のいずれにも記載されておらず、示唆もされていない。
また、甲1発明は、「透明レンダリング」という透明化処理をした上で合成画像を作成しているから、本件発明6のごとく、合成前の2つの画像のそれぞれについて、一部の画像の削除処理をした上で、合成画像を作成する技術を甲1発明に適用する契機も見当たらない。
したがって、本件発明6は、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(2)本件発明5についての対比・判断
本件発明5についても、本件発明6について述べた理由と同様の理由により、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(3)小括
以上より、本件発明5及び6は甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、取消理由通知で通知した取消しの理由により、請求項5及び6に係る特許を取り消すことはできない。


3 取消しの理由としなかった特許異議の申立ての理由について
(1)甲第1号証に基づく特許法第29条第1項第3号
申立人は、「申立ての理由 その1」において、請求項1、5及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である旨主張している。
しかしながら、上記「2 対比・判断」において検討したとおり、本件発明5及び6と甲1発明とは、上記相違点1及び2において相違するから、本件発明5及び6は特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
なお、請求項1は本件訂正により削除されており、請求項1に係る申立人の上記主張も採用されない。

(2)甲第2号証に基づく特許法第29条第1項第3号及び同条第2項
ア 申立人は、「申立ての理由 その2」において、請求項1、5及び6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、また、仮に、相違があるとしても、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。

イ 甲第2号証(米国特許第7845797号明細書)には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

[甲2発明]
「一方は眼鏡フレーム非装用状態であり、他方は眼鏡フレーム装用状態である、被検者の2つの側面画像を取り込み、この2つの画像を整列させて、眼鏡フレームを識別するために画像の差を決定し、
エッジ検出及びブロブ分析を使用して、眼鏡フレームの輪郭を識別して、装用時の眼鏡フレームの前傾角を定義する接線を決定するにあたり、
上記側面画像を操作者に表示し、
操作者がコンピュータマウスのような入力装置を使用して引いた、装用時の眼鏡フレームの前傾角を定義する接線に対応するデータを取得して、装用時の眼鏡フレームの前傾角を決定する、
フレームフィッティングシステム。」(第12欄第35?47行)

ウ 本件発明5及び6と、甲2発明とを対比すると、前者は、合成画像において被検者の眼球に関する測定位置が隠れないように、合成前の2つの画像のそれぞれについて、一部の画像を削除する処理を行っているのに対して、後者は、そのような処理を行っていない点で少なくとも相違する。

エ この点に関し、甲2発明は、そもそも、合成画像において被検者の眼球に関する測定位置が隠れないようにするための処理を行うものではないから、甲2発明に基づいて本件発明5及び6のごとく構成することが当業者であっても容易に想到し得たものであるとはいえない。

オ したがって、本件発明5及び6は甲2発明であるとはいえないし、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
なお、請求項1は本件訂正により削除されており、請求項1に係る申立人の上記主張も採用されない。

(3)小括
以上より、取消しの理由としなかった特許異議の申立ての理由によっても、請求項5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
請求項1は、上述のとおり本件訂正により削除された。これにより、請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては、当該申立てに係る特許が存在しないこととなったため、不適法な特許異議の申立てであって、その補正をすることができないものであるといえるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
また、請求項5及び6に係る特許は、上述のとおり特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできない。他に、請求項5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
眼鏡フレームを装用する被検者の眼鏡装用パラメータについて測定を行う際に用いられる眼鏡装用パラメータ測定装置であって、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とをそれぞれ取得し、前記第1の画像と前記第2の画像とを関連付けた第3の画像を準備する情報処理部と、
前記情報処理部が準備した前記第3の画像を表示する表示画面部と、
前記表示画面部が表示する前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を行う操作部と、
指定された前記測定基準点のデータを用いて眼鏡装用パラメータを算出する演算部と、
を備え、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されており、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、当該合成画像中から前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除したものであり、
前記合成画像は、前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像である
ことを特徴とする眼鏡装用パラメータ測定装置。
【請求項4】
前記一部領域は、前記被検者の顔を側面から撮像して得られた第1の画像上で前記被検者が装用する眼鏡フレームのリム部分を含む領域であり、
前記該当領域は、前記被検者の顔を側面から撮像して得られた第2の画像上で前記被検者の眼球角膜部分を含まない領域である
ことを特徴とする請求項3記載の眼鏡装用パラメータ測定装置。
【請求項5】
表示画面部および操作部を備え、眼鏡フレームを装用する被検者の眼鏡装用パラメータについて測定を行う際に用いられるコンピュータを、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とのそれぞれを関連付けた第3の画像を準備する画像処理手段と、
前記画像処理手段が準備した前記第3の画像を前記表示画面部に表示させる表示制御手段と、
前記表示画面部が表示する前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を前記操作部で行わせる操作制御手段と、
指定された前記測定基準点のデータを用いて前記眼鏡装用パラメータを算出する計測演算手段、
として機能させ、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されており、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、当該合成画像中から前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除したものであり、
前記合成画像は、前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像である
ことを特徴とする眼鏡装用パラメータ測定プログラム。
【請求項6】
眼鏡フレームを装用した状態の被検者の顔画像を用いて前記被検者に関する眼鏡装用パラメータを測定する際に、前記測定に必要となる前記顔画像上の測定基準点を指定するための位置指定方法であって、
前記被検者の眼鏡フレーム装用状態における顔画像である第1の画像と眼鏡フレーム非装用状態における顔画像である第2の画像とをそれぞれ取得しておき、
前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを関連付けた第3の画像を準備して表示し、
前記第3の画像上で前記眼鏡装用パラメータの測定基準点の指定を行い、
前記第3の画像は、前記測定基準点の指定にあたり、前記眼鏡フレームに関して指定する前記第1の画像上での測定位置と前記被検者の眼球に関して指定する前記第2の画像上での測定位置とをそれぞれ視認可能にするとともに、前記第1の画像と前記第2の画像との関連性を認識し得るように生成されており、
前記第3の画像は、前記眼鏡フレーム装用状態における第1の画像と前記眼鏡フレーム非装用状態における第2の画像とを合成した少なくとも測定位置を含む合成画像であり、当該合成画像中から前記被検者の眼球に関する測定位置を隠す眼鏡画像部分を削除したものであり、
前記合成画像は、前記第1の画像について一部領域を抽出し当該一部領域を除く他の領域を削除したものと、前記第2の画像について前記一部領域に対応する該当領域を削除したものとの合成画像である
ことを特徴とする位置指定方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-31 
出願番号 特願2017-505401(P2017-505401)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (G01B)
P 1 652・ 113- YAA (G01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 梶田 真也  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 小林 紀史
濱野 隆
登録日 2018-12-14 
登録番号 特許第6450450号(P6450450)
権利者 ホヤ レンズ タイランド リミテッド
発明の名称 眼鏡装用パラメータ測定装置、眼鏡装用パラメータ測定プログラムおよび位置指定方法  
代理人 阿仁屋 節雄  
代理人 橘高 英郎  
代理人 阿仁屋 節雄  
代理人 橘高 英郎  
代理人 奥山 知洋  
代理人 奥山 知洋  
代理人 福岡 昌浩  
代理人 福岡 昌浩  

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