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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A41D
管理番号 1361111
審判番号 不服2019-10426  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-07 
確定日 2020-03-26 
事件の表示 特願2015-24324「サポーター」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月18日出願公開、特開2016-148119〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年2月10日の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成30年11月27日付け:拒絶理由通知書
平成31年1月7日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年5月9日付け :拒絶査定
令和元年8月7日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和2年1月6日 :上申書の提出

第2 令和元年8月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年8月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
人体の関節や筋肉部分に装着して締め付け保護可能なサポーターであって、伸縮性を有する布状のサポーター本体に、パスカルの原理によって前記関節や筋肉部分のうちの覆った部位を均一に加圧可能な加圧袋が止着され、該加圧袋は、その袋内部に非圧縮性の流体が収容されたことを特徴とするサポーター。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成31年1月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
人体の関節や筋肉部分に装着して締め付け保護可能なサポーターであって、伸縮性を有する布状のサポーター本体に、パスカルの原理によって前記関節や筋肉部分を均一に加圧可能な加圧袋が止着され、該加圧袋は、その袋内部に非圧縮性の流体が収容されたことを特徴とするサポーター。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「加圧袋」について、上記のとおり限定事項「のうちの覆った部位」を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布された引用文献である、特開2008-178618号公報には、図面とともに、次の記載がある(下線は、理解の便宜のため、当審が付した。)。
「【0001】
本発明は、関節の周囲(前面、側面、後面)を締め付けるようにして装着し、関節に対するサポート力を得ることができる関節用サポータに関し、更に詳しくは、該関節用サポータに組み込まれた中空弾発部材に関するものである。」
「【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
先ず、本発明の中空弾発部材Tを装着するための対象となる関節用サポータ1について述べる。
【0018】
(関節用サポータ)
ここでは、関節用サポータ1として膝関節用のサポータを例に示す。
図1は、その膝の関節用サポータ1を示す図である。
図1(A)は正面図を、また図1(B)はその裏側面を示す。
この関節用サポータ1は、筒状に形成されたサポータであって、足先から挿入して取り付けるもので、膝関節部に装着した場合、丁度、関節の前面、側面、後面を包み込んで締め付けるように作用する。
着用者は、それにより膝を支えるサポート力を得ることができる。
【0019】
関節用サポータ1の材質としては、表地及び裏地とも伸縮性のある布材が使われ、両地間にクッション材が介挿されていることが好ましい。
具体的な布材の例としては、伸縮性の観点から、ダブルニット等の編み地を使用することが好ましい。
・・・
【0022】
ところで、関節用サポータ1の裏面には、膝蓋保護部2を囲むように両側の位置に一対のポケット3が形成されている。
このポケット3は中空弾発部材Tと略同じ形とされ、外側へ湾曲してその両端は後方へ向けられており、ほぼ中央付近には開口部3Aが形成されている。
中空弾発部材Tはこの開口部3Aを介してポケット3内にそれぞれ収納することができ、また、開口部3Aから取り出すことも可能である。 中空弾発部材Tは、先細りであるので収納がし易い。」
「【0024】
(中空弾性部材)
上述したような、関節用サポータ1に使用される中空弾性部材について以下述べる。
図2は、中空弾性部材を示す図で、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)はX-X断面図である。
中空弾発部材Tは、中空部T1とその周囲に形成された外周縁T2とよりなり、全体的に扁平且つ三日月状(弓形状、くの字状、ブーメラン状)を呈している。
そして、両端部にかけてやや先細りとなっている。
中空部T1の外周縁T2の肉は、その他の部分(すなわち中空部T1)より肉厚となっている。
【0025】
また、中空部T1で形成される空間にはエアー等の流動性物質が封入されている。
この流動性物質としては水等の液体、空気等のガスが好適であるが、それ以外の液体やガスも当然使用可能である。
更にはゲル状物質も採用が可能である。
この中空弾発部材Tは関節用サポータ1を膝関節に装着した状態で膝を屈曲した場合、サポート力、すなわち、屈曲時の支え力(復帰力)を生ずるものである。
具体的に言うと、装着時、中空弾発部材Tは膝関節の両側面に当接した状態にあるが、三日月形の両端は後方へ向いている。
・・・
【0027】
中空弾発部材Tは、関節の屈曲時に屈曲変形し、内圧が0.01?0.05MPaの範囲で増加することが、復帰力が関節へ与える負荷の観点から好ましい。
中空弾発部材Tは、中空部T1のエアー圧が皮膚表面に柔らかく当接し膝を局所的に締め付けることがない。
他方、中空部T1の周囲には外周縁T2が形成されているので、この部分が特有の作用を発揮する。
【0028】
図4は、その外周縁T2の作用を模式的に示す図である。
すなわち三日月形の中空弾発部材Tの両端部が互いに接近するように屈曲すると、外周縁T2は、図4(B)のように歪む。
そして、この歪みを元に戻そうとして復帰力が働くのである。
このように、外周縁T2の部分はその材質、形状および肉厚に由来する弾性作用を発揮する。
本発明の中空弾発部材Tは、前述した線状の弾性体からなるリング体と異なり皮膚面を面で押すことができ局所的に強く押圧することはない。
従って痛みを感じることもない。
このように、膝関節を屈曲した場合、中空弾発部材Tの中空部T1による作用や外周縁T2による作用の相乗効果によって、元の状態に戻す力である復帰力がより大きく安定したものとなり着用者の膝関節への負担が軽減されるのである。」
「【0035】
(装着方法)
図6は、関節用サポータ1を膝関節に装着した状態を示し、(A)膝関節を伸ばした状態、(B)は膝関節を曲げた状態を示す。
関節用サポータ1を膝関節に装着するには、先ず、着用者の足先を関節用サポータ1に挿入し、そのまま引き上げて膝蓋骨に装着する。
この場合、膝蓋保護部に膝蓋骨の一部が当接されることで、より取り付け位置が安定する。
【0036】
この状態では、膝関節の両側面に沿うように関節用サポータ1に組み込まれた中空弾発部材Tが当接している[図6(A)参照]。
今、膝関節を伸ばした状態から少し曲げた状態にすると、三日月形の中空弾発部材Tの両端部が互いに接近するようにして湾曲する[図6(B)参照]。
中空弾発部材Tの湾曲と共に中空部T1のエアー圧が高まり、今度は湾曲を解消するように(端部が離反するように)復帰力そして作用する。
更に、外周縁T2による復帰力も加えて発揮され、膝関節をサポートする力は、強化される。」

(イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「関節の周囲(前面、側面、後面)を締め付けるようにして装着し、関節の前面、側面、後面を包み込んで締め付けるように作用する関節用サポータ1であって、関節用サポータ1の材質としては、表地及び裏地とも伸縮性のある布材が使われ、中空弾発部材Tが、膝関節の両側面に沿うように関節用サポータ1に組み込まれ、中空弾発部材Tは、中空部T1とその周囲に形成された外周縁T2とよりなり、中空部T1で形成される空間には水等の液体が封入されており、装着時、中空弾発部材Tは膝関節の両側面に当接した状態にあるが、皮膚面を面で押すことができ局所的に強く押圧することはない
、関節用サポータ1。」

(3)本件補正発明と引用発明との対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「関節の周囲(前面、側面、後面)を締め付けるようにして装着し、関節の前面、側面、後面を包み込んで締め付けるように作用する」という態様は、その機能や構成からみて、本件補正発明の「人体の関節や筋肉部分に装着して締め付け保護可能」という態様に相当するから、引用発明の「関節用サポータ1」は、本件補正発明の「サポーター」に相当する。
引用発明の「関節用サポータ1の材質としては、表地及び裏地とも伸縮性のある布材が使われ」という態様は、「伸縮性」という性状からみて、本件補正発明の「サポーター本体」が「伸縮性を有する布状」である態様に相当するから、引用発明の「中空弾発部材Tが、膝関節の両側面に沿うように関節用サポータ1に組み込まれ」たことは、本件補正発明の「伸縮性を有する布状のサポーター本体に、」「加圧袋が止着され」たことに相当する。
引用発明の「中空弾発部材Tは、中空部T1とその周囲に形成された外周縁T2とよりなり、中空部T1で形成される空間には水等の液体が封入されており」という態様は、本件補正発明の「加圧袋は、その袋内部に非圧縮性の流体が収容された」という態様に相当するから、引用発明の「中空弾発部材T」の「装着時、中空弾発部材Tは膝関節の両側面に当接した状態にあるが、皮膚面を面で押すことができ局所的に強く押圧することはない」という機能・作用は、「パスカルの原理」が「密閉した静止流体は、その一部に受けた圧力を、増減なくすべての部分に伝達するというもの。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)であることを勘案すれば、本件補正発明の「加圧袋」の「パスカルの原理によって前記関節や筋肉部分を均一に加圧可能」であるという機能・作用に相当する。
以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、全ての点で一致する。
したがって、本件補正発明は、引用発明であり、特許法第29条第1項第3項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件審判請求人の主張について
本件審判請求人は、令和元年8月7日に提出された審判請求書において、次のとおりの主張をしている。
「イ)本願発明と引用文献との比較
上記の通り、引用文献1の関節用サポーターの中空弾発部材Tは、その中空部に流動性物質を密封充填することにより、関節の曲げに伴う湾曲によって中空部の内圧を高め、この内圧によって湾曲を解消する復帰力を得て関節をサポートするものです。
しかしながら、中空弾発部材Tは、中空部に流動性物質を密封充填した上で、関節の曲げに伴って湾曲させるものであり、湾曲した際に、いわゆる座屈を生じて歪な形状に変形します。
したがって、引用文献1の中空弾発部材Tは、関節や筋肉部分の形状に馴染むように変形して、覆う部位の全面に接触することができず、本願発明における加圧袋のごとく、パスカルの原理によって関節や筋肉部分のうちの覆った部位を均一に加圧することはできません。」
また、令和2年1月6日に提出された上申書において、次のとおりの主張をしている。
「<審判請求人の主張について>
審判請求人は、審判請求書において「しかしながら、中空弾発部材Tは、・・・、湾曲した際に、いわゆる座屈を生じて歪な形状に変形します。・・・覆う部位の全面に接触することができず、・・・覆った部位を均一に加圧することはできません。」と主張しています。 上記の主張に対し、前置報告書では、引用文献1について、少なくとも関節を曲げていない状態では、「均一に加圧可能」と認められるとしています。
また、請求項1が、どのような状態で「均一に加圧可能」であるかを特定していないことから、引用文献1の構成も、請求項1の「パスカルの原理によって前記関節や筋肉部分のうちの覆った部位を均一に加圧可能」に含まれるとしています。
しかしながら、本願発明は「人体の間接や筋肉部分に装着して締め付け保護可能なサポーター」であるので、関節を曲げている状態でも「均一に加圧可能」であることを意味しているのは自明であるといえます(段落0008をご参照ください)。
しかも、引用文献1の中空弾発部材Tは、関節の屈曲に伴って内圧を高め、硬くなると共に復帰力を発揮するものであるので(引用文献1の段落0016、0025、0026)、関節を曲げていない状態においても、その状態から柔軟に変形できるものではなく、関節や筋肉部分の形状に馴染むように変形して、パスカルの原理によって関節や筋肉部分を均一に加圧することはできません。」
しかし、本件補正発明の「加圧袋」は、請求項1に記載されたとおり「パスカルの原理によって前記関節や筋肉部分のうちの覆った部位を均一に加圧可能な」ものであって、「加圧袋」によって、どの「関節や筋肉部分」に対して、どのように、どの程度覆うのかを特定しているわけではないから、「関節や筋肉部分」がどのような状態においても「均一に加圧可能」であることを特定するものではない。
また、本願の明細書段落0008には、「加圧袋で均一に加圧することによ」る効果が記載されているだけであって、「関節や筋肉部分」がどのような状態においても「均一に加圧可能」であることを特定するものではない。
したがって、前記主張は、特許請求の範囲の記載に基いたものとは認められず、前記主張を採用できない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年8月7日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成31年1月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由1は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2008-178618号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「加圧袋」に係る限定事項「のうちの覆った部位」を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明であるから、本願発明も、引用発明である。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-01-20 
結審通知日 2020-01-21 
審決日 2020-02-12 
出願番号 特願2015-24324(P2015-24324)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 龍平  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 横溝 顕範
石井 孝明
発明の名称 サポーター  
代理人 小羽根 孝康  
代理人 藤原 清隆  
代理人 稗苗 秀三  

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