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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1361204
審判番号 不服2018-17159  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-25 
確定日 2020-03-25 
事件の表示 特願2016-180007「液晶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 9日出願公開、特開2017- 31420〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年3月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年3月29日、(DE)独国)を国際出願日とする特願2014-501467号の一部を、平成28年9月14日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は、概略以下のとおりのものである。

平成28年10月13日 :手続補正書
平成29年10月12日付け:拒絶理由通知書
平成30年 4月16日 :手続補正書・意見書
同年 8月24日付け:拒絶査定
同年12月25日 :審判請求書・手続補正書

第2 平成30年12月25日付け手続補正についての補正の却下の決定

1 補正の却下の決定の結論
平成30年12月25日付け手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

2 理由
(1) 補正の内容
ア 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正は、特許請求の範囲の全文を補正しようとするものであり、そのうち、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(下線部は、補正箇所である)。
「【請求項1】
式I-1、I-13、I-73およびI-85からなる群より選ばれる1種以上の化合物、および
式B-1?B-4からなる群より選ばれる1種以上の化合物
を含み、
ただし、式AY、C2Y、FEFおよびBXBXの化合物の群から選択する少なくとも1種類の化合物を含むものを除き、
ただし、N種類の式I-1の化合物およびM種類の本願式I-73の化合物を含み、その合計はZ種類であると表現した場合、(Z:N:M)が(3:0:3)、(3:1:2)、(4:2:2)および(5:2:3)のものを除き、
ただし、(Z:N:M)が(1:1:0)であって、6重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-73の化合物および7重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物を含むものを除き、
ただし、(Z:N:M)が(1:0:1)であって、7重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-1の化合物および6重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-73の化合物を含むものを除き、
ただし、(Z:N:M)が(1:0:1)、(2:0:2)または(3:0:3)であって、左末端のalkylがペンチルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物の含有量が5重量%、6重量%、7重量%、8重量%または9重量%であるものを除き、
ただし、(Z:N:M)が(2:0:2)または(3:0:3)であって、左末端のalkylがペンチルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物の含有量が5重量%または8重量%であるものを除き、
ただし、両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)またはalkoxyである式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物を一切含まず、
ただし、両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物を一切含まず、
ただし、式B-1?B-4の化合物の合計濃度は15.5%以下である
ことを特徴とする極性化合物の混合物を基礎とする液晶媒体。
【化1】

(式中、alkylおよびalkyl^(*)は、それぞれ互いに独立に、1?6個のC原子を有する直鎖状のアルキル基を表し、
alkoxyは、1?6個のC原子を有する直鎖状のアルコキシ基を表す。)
【化2】

(式中、alkylおよびalkyl^(*)は、それぞれ互いに独立に、1?6個のC原子を有する直鎖状のアルキル基を表し、および
alkoxyは、1?6個のC原子を有する直鎖状のアルコキシ基を表し、
alkenylおよびalkenyl^(*)は、それぞれ互いに独立に、2?6個のC原子を有する直鎖状のアルケニル基を表す。)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】



イ 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、平成30年4月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
式I-1、I-13、I-73およびI-85からなる群より選ばれる1種以上の化合物、および
式B-1?B-4からなる群より選ばれる1種以上の化合物
を含み、
ただし、式AY、C2Y、FEFおよびBXBXの化合物の群から選択する少なくとも1種類の化合物を含むものを除き、
ただし、N種類の式I-1の化合物およびM種類の本願式I-73の化合物を含み、その合計はZ種類であると表現した場合、(Z:N:M)が(3:0:3)、(3:1:2)、(4:2:2)および(5:2:3)のものを除き、
ただし、(Z:N:M)が(1:1:0)であって、6重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-73の化合物および7重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物を含むものを除き、
ただし、(Z:N:M)が(1:0:1)であって、7重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-1の化合物および6重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-73の化合物を含むものを除き、
ただし、(Z:N:M)が(1:0:1)、(2:0:2)または(3:0:3)であって、左末端のalkylがペンチルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物の含有量が5重量%、6重量%、7重量%、8重量%または9重量%であるものを除き、
ただし、(Z:N:M)が(2:0:2)または(3:0:3)であって、左末端のalkylがペンチルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物の含有量が5重量%または8重量%であるものを除く
ことを特徴とする極性化合物の混合物を基礎とする液晶媒体。
【化1】

(式中、alkylおよびalkyl^(*)は、それぞれ互いに独立に、1?6個のC原子を有する直鎖状のアルキル基を表し、
alkoxyは、1?6個のC原子を有する直鎖状のアルコキシ基を表す。)
【化2】

(式中、alkylおよびalkyl^(*)は、それぞれ互いに独立に、1?6個のC原子を有する直鎖状のアルキル基を表し、および
alkoxyは、1?6個のC原子を有する直鎖状のアルコキシ基を表し、
alkenylおよびalkenyl^(*)は、それぞれ互いに独立に、2?6個のC原子を有する直鎖状のアルケニル基を表す。)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】



(2) 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の液晶媒体について、上記のとおり「ただし、両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)またはalkoxyである式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物を一切含まず」、「ただし、両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物を一切含まず」、「ただし、式B-1?B-4の化合物の合計濃度は15.5%以下である」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、について検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記「第2 2(1)ア」に示した請求項1により特定されるとおりのものである。

イ サポート要件について
(ア) サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものである。
このような観点に立って、以下検討する。

(イ) 特許請求の範囲の記載
本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は上記「第2 2(1)ア」に示したとおりである。

(ウ) 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。

摘記ア:段落0027、0030
「【0027】
よって、非常に高い比抵抗を有すると同時に、広い動作温度範囲、短い応答時間および低い閾電圧を有しており、これらのおかげで各種の中間調(灰色遮光)を生成することができるMLCディスプレイが引き続き強く要求されている。更に、VA、IPSおよびFFS、PALCと、また、PS-VA、PSA、PS-IPS、PS-FFSとの両者のディスプレイにおいて、液晶混合物を用いることが可能でなければならず、液晶媒体は上記の不具合を示してはならないか、僅かな程度にのみ示し、同時に、改良された特性を有していなければならない。PS-VAおよびPSAディスプレイにおいては、重合性成分を含む液晶媒体はMLCディスプレイ中に適切なプレチルトを確立できなければならず、比較的高い電圧保持率(voltage holding ratio:VHRまたはHR)を有していなければならない。」
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は、特に、IPS、FFS、VAと、また、PS-VAとの両者のディスプレイにおいて用いることができ、特に、モニターおよびテレビ用途に適しており、上で示した不具合を有していないか、低減された程度にのみ有する液晶媒体を提供する目的を基礎とする。特に、極度の高温および極度の低温においてもモニターおよびテレビが動作し、同時に短い応答時間を有し、同時に改良された信頼性挙動を有し、特に、長い動作時間後に画像の固着を示さないか、著しく低減されていることが保証されなければならない。」

摘記イ:段落0031
「【課題を解決するための手段】
【0031】
驚くべきことに、液晶混合物中において、特に、負の誘電異方性を有するLC混合物中において、好ましくは、VAディスプレイ用に一般式Iの極性化合物を使用すれば、回転粘度、よって、応答時間を改良することが可能である。更に驚くべきことに、本発明による液晶媒体をPS-VAおよびPSAディスプレイにおいて使用することで、特に、低いプレチルト角および所望のチルト角を迅速に確立できることが見出された。これは、本発明による媒体の場合において、プレチルトを測定することで示された。特に、光開始剤を添加することなく、プレチルトを達成することが可能であった。加えて、プレチルト角の曝露時間依存性を測定することで示された通り、先行技術から既知の材料と比較して、本発明による媒体は、プレチルト角の著しく迅速な生成を示す。」

摘記ウ:段落0413、0427?0460
「【実施例】
【0413】
以下の例は、本発明を制限することなく説明することを意図する。
・・・(中略)・・・
【0427】
<混合物例>
【0428】?【0460】引用略。(当審注:すべての混合物例について、式I-1の化合物及び/又は式I-73の化合物は含まれているが、式B-1?B-4からなる群より選ばれる1種以上の化合物は含まれていない)」

(エ) 本件補正発明の解決すべき課題について
本願明細書の発明の詳細な説明の段落0027(摘記ア)には、従来技術の課題として、「非常に高い比抵抗を有すると同時に、広い動作温度範囲、短い応答時間および低い閾電圧を有しており、これらのおかげで各種の中間調(灰色遮光)を生成することができるMLCディスプレイが引き続き強く要求されている。」こと、及び「PS-VAおよびPSAディスプレイにおいては、重合性成分を含む液晶媒体はMLCディスプレイ中に適切なプレチルトを確立できなければならず、比較的高い電圧保持率(voltage holding ratio:VHRまたはHR)を有していなければならない。」ことが記載されており、このため、本件補正発明は、段落0030(摘記ア)に記載されているように、「特に、IPS、FFS、VAと、また、PS-VAとの両者のディスプレイにおいて用いることができ、特に、モニターおよびテレビ用途に適しており、上で示した不具合を有していないか、低減された程度にのみ有する液晶媒体を提供する」こと、及び「特に、極度の高温および極度の低温においてもモニターおよびテレビが動作し、同時に短い応答時間を有し、同時に改良された信頼性挙動を有し、特に、長い動作時間後に画像の固着を示さないか、著しく低減されていることが保証され」ることを課題(以下、「本件補正発明の課題」という)とするものと解される。

(オ) 本件補正発明の課題を解決するための手段
本願明細書の発明の詳細な説明の段落0031(摘記イ)の記載からみて、本件補正発明は、その課題を解決するための手段として、「負の誘電異方性を有するLC混合物中において、好ましくは、VAディスプレイ用に一般式Iの極性化合物を使用すること」を規定しているものと認められる。

(カ) サポート要件に適合するか否かの検討
しかし、本願明細書の発明な詳細な説明には、「一般式Iの極性化合物」を使用することによって、どのような原理により本件補正発明の課題を解決することになるのかといった作用機序が記載されていない。また、本願明細書の実施例(摘記ウ)は、すべて「一般式Iの極性化合物」を含むものであって、その有無による、粘度の変化やPS-VAおよびPSAディスプレイに使用した際のプレチルト角の変化を比較できる対照実験のデータが示されていないから、「一般式Iの極性化合物」を使用することと上記課題の解決との関係を理解することはできない。
さらに、当該実施例には本件補正発明の要件を満たす液晶媒体が記載されていないから、本件補正発明において上記課題が解決できることは認識できない。そして、一般に、液晶組成物の分野においては、液晶化合物の環の種類、数や置換基の種類によって、粘度、誘電率異方性等の様々な特性が変化することが知られており、また、化学構造が異なる液晶化合物を組み合わせて用いる場合、液晶組成物全体としての特性がどのようなものになるか、及び表示素子として実用的な特性を有するものになるかを予測することは困難であるというのが本願出願時における技術常識であるから、上記実施例の記載及び技術常識を参酌しても、本件補正発明の範囲において、上記課題を解決することができるものと理解することはできない。

(キ) 請求人の主張の検討
請求人は、平成30年12月25日に提出した審判請求書において、サポート要件について、
「本願実施例において式B-1?B-4から選ばれる1種類以上の化合物を含む液晶化合物の効果は実際には確認されていないとのご指摘については、以下の通り先の意見書で反論したところです。
・本願発明において式I-1、I-13、I-73およびI-85の化合物(実施例中のCOY/CCOY)との関係においては、本願式B-1?B-4の化合物は同じ2環化合物である式CCの化合物と同等である。
・本願式B-1?B-4の化合物は実施例で効果が確認された同じ2環化合物である式CCの化合物と共通の化学構造を多数有しており、従って両化合物は同等視できる。
・よって多数の実施例によって式CCの化合物で効果が確認されている以上、本願式B-1?B-4の化合物についても実施例で効果が確認されているに等しいものである。
しかしながら審査官殿は、式CCの化合物と式B-1?B-4の化合物との上記同等性を認められませんでした。
そこで式CCの化合物と式B-1?B-4の化合物との同等性を認めていただくために、本願式B-1?B-4の化合物の液晶媒体における濃度の上限を十分に低い値に限定し、式CCの化合物と式B-1?B-4の化合物との特性の相違を無視できる程度であって両化合物の同等性が成立する程度にまで本願式B-1?B-4の化合物の濃度を低下させることとしました。
より具体的には実施例で効果が確認された式CCの化合物と本願式B-1?B-4の化合物との同等性が認められる式B-1?B-4の化合物の濃度範囲の上限として、本願式B-1?B-4の化合物の液晶媒体における合計濃度を15.5%以下に限定しました。なお「15.5%以下」の数値の根拠は、以下の通りです。
先ず、式CCの化合物(実施例中のCCHおよびCC-V)の効果が確認されている本願実施例<例M1>において式CCの化合物の合計濃度は28%であり、<例M2>において28%であり、<例M3>において28%であり、<例M7>において20%であり、<例M8>において20%であり、<例M9>において38.5%であり、<例M10>において34.5%であり、<例M12>において37%であり、<例M13>において39%であり、<例M15>において28%であり、<例M16>において40%であり、<例M17>において40%であり、<例M18>において29%であり、<例M19>において30%であり、<例M21>において37%であり、<例M22>において38%であり、<例M23>において39%であり、<例M24>において25%であり、<例M25>において25%であり、<例M26>において15.5%です。
ここで式CCの化合物と式B-1?B-4の化合物との同等性が認められる範囲に式B-1?B-4の化合物の濃度の上限を限定すると考えれば、上記実施例中の式CCの化合物の濃度のうち最低である<例M26>の15.5%を採用できます。
よって、式B-1?B-4の化合物の合計濃度を15.5%以下に限定しました。
そして、このような低濃度の範囲においては式CCの化合物と式B-1?B-4の化合物との特性の相違は無視できて両化合物は同等視できることから、多数の実施例によって式CCの化合物で効果が確認されている以上、本願式B-1?B-4の化合物についても実施例で効果が確認されているに等しいものであると主張するものです。」と主張する。
しかし、「式B-1?B-4の化合物の合計濃度」が「15.5%以下」という「低濃度の範囲」において、「式CCの化合物と式B-1?B-4の化合物との特性の相違は無視できて両化合物は同等視できる」とする主張の根拠は不明であるし、そのような技術常識が存在するとも認められない。
そして、上記(カ)に記載したとおり、一般に、液晶組成物の分野においては、液晶化合物の環の種類、数や置換基の種類によって、粘度、誘電率異方性等の様々な特性が変化することが知られており、また、化学構造が異なる液晶化合物を組み合わせて用いる場合、液晶組成物全体としての特性がどのようなものになるか、及び表示素子として実用的な特性を有するものになるかを予測することは困難であるというのが本願出願時における技術常識であるから、2環化合物である等の共通点を有していても、式B-1?B-4の化合物と式CCの化合物とが同一の効果を発揮するとは認められないし、式CCの化合物を含む液晶媒体において所定の効果が発揮されることが確認されていても、式B-1?B-4の化合物を含む液晶媒体においても同様の効果が発揮されることを当業者が認識できるとは認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(ク) 小括
以上のように、本願の発明の詳細な説明に接した当業者が、本件補正発明が、本件補正発明の課題を解決できると認識することは不可能というべきであるし、また、本願出願日時点の技術常識を参酌しても本件補正発明の課題を解決できると認識することは不可能というべきである。よって、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するということはできない。

ウ 拡大先願について
(ア) 引用出願
1.特願2010-224520号(以下、「先願」という。国際公開第2012/046590号参照)

先願は、本願の優先権主張の日(2011年3月29日)前である2010年10月4日に出願され、その後、国際特許出願(PCT/JP2011/071971号、出願日:2011年(平成23年)9月27日)の、特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、本願の出願後に国際公開され(国際公開日2012年4月12日)、その後、同法第184条の5第1項に規定する手続がされ(特願2012-537642号、国内書面提出日平成25年2月6日)、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により出願公開されたものとみなされた。
なお、先願の発明者は松村良成、外1名であり、本願の出願日における先願の出願人はJNC株式会社、外1名であり、いずれも本願の発明者及び出願人と同一ではない。

(イ) 先願の記載
先願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。

摘記a:請求項1、2、4、7
「【請求項1】
第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第三成分として式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、そして負の誘電率異方性を有する液晶組成物。

ここで、R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から12のアルキルであり;R^(3)、R^(4)、R^(5)、およびR^(6)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルであり;環Aは、1,4-シクロへキシレンまたは1,4-フェニレンであり;X^(1)およびX^(2)は独立して、フッ素または塩素であり;Z^(1)は独立して、単結合、エチレン、またはメチレンオキシであり;Z^(2)は、単結合またはエチレンであり;kは2または3である。
【請求項2】
第二成分が式(2-1)から式(2-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物であり、第三成分が式(3-1)から式(3-3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項1に記載の液晶組成物。

ここで、R^(3)、R^(4)、R^(5)、およびR^(6)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルである。
・・・(中略)・・・
【請求項4】
第二成分が式(2-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項2に記載の液晶組成物。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
液晶組成物の全重量に基づいて、第一成分の割合が5重量%から50重量%の範囲であり、第二成分の割合が10重量%から90重量%の範囲であり、そして第三成分の割合が5重量%から85重量%の範囲である請求項1から6のいずれか1項に記載の液晶組成物。」

摘記b:段落0055?0059
「【0055】
第四に、成分化合物の好ましい形態を説明する。
R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から12のアルキルであり、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(9)、R^(10)、R^(11)、およびR^(12)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルであり、R^(7)およびR^(8)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
【0056】
好ましいR^(1)またはR^(2)は、下限温度を下げるために炭素数1から5のアルキルである。さらに好ましいR^(1)またはR^(2)は、粘度を下げるために炭素数1から3のアルキルである。好ましいR^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(9)、R^(10)、R^(11)、またはR^(12)は、下限温度を下げるために、または粘度を下げるために、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルである。さらに好ましいR^(4)、R^(6)、R^(10)、またはR^(12)は、誘電率異方性の絶対値を上げるために、炭素数1から12のアルコキシである。好ましいR^(7)またはR^(8)は、下限温度を下げるために、または粘度を下げるために、炭素数2から12のアルケニルであり、紫外線または熱に対する安定性を上げるために、炭素数1から12のアルキルである。
【0057】
好ましいアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、またはオクチルである。さらに好ましいアルキルは、粘度を下げるためにエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、またはヘプチルである。
【0058】
好ましいアルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、またはヘプチルオキシである。粘度を下げるために、さらに好ましいアルコキシは、メトキシまたはエトキシである。
【0059】
好ましいアルケニルは、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、または5-ヘキセニルである。さらに好ましいアルケニルは、粘度を下げるためにビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルである。これらのアルケニルにおける-CH=CH-の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。粘度を下げるためなどから1-プロペニル、1-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ペンテニル、3-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはトランスが好ましい。2-ブテニル、2-ペンテニル、2-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはシスが好ましい。これらのアルケニルにおいては、分岐よりも直鎖のアルケニルが好ましい。」

摘記c:段落0103?0104、0112?0113
「【0103】
実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は下記の実施例によって限定されない。比較例および実施例における化合物は、下記の表3の定義に基づいて記号により表した。
表3において、1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は化合物の番号に対応する。(-)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物の割合(百分率)は、液晶組成物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)であり、液晶組成物には不純物が含まれている。最後に、組成物の特性値をまとめた。
【0104】

・・・(中略)・・・
【0112】
[実施例5]
1-BB-3 (1-1) 8%
5-HH2B(2F,3F)-O2 (2-3-1) 10%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-4-1) 8%
3-H2B(2F,3F)-O4 (3-2-1) 5%
3-HH-V (4-1-1) 24%
1-HH-2V1 (4-1-1) 5%
3-HH-VFF (4-1) 2%
3-HHEH-5 (4-3-1) 4%
3-HBB-2 (4-5-1) 5%
5-HBB(2F,3F)-O2 (5-1-1) 8%
1V2-HBB(2F,3F)-O2 (5-1-1) 3%
2-BB(2F,3F)B-4 (5-2-1) 6%
3-H2Cro(7F,8F)-5 (6-1-1) 3%
3-H1OCro(7F,8F)-5 (6-2-1) 3%
3-HH1OCro(7F,8F)-5 (6-4-1) 6%
NI=83.7℃;Tc≦-20℃;Δn=0.104;η=18.5mPa・s;Δε=-3.1;VHR-1=99.6%;VHR-2=98.1%;VHR-3=97.7%.
【0113】
[実施例6]
3-BB-5 (1-1) 8%
3-HHB(2CL,3F)-O2 (2) 3%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-4-1) 7%
3-HH1OB(2F,3F)-1 (2-4-1) 3%
3-BB(2F,3F)-O2 (3-3-1) 8%
V2-BB(2F,3F)-O2 (3-3-1) 3%
1V2-BB(2F,3F)-O2 (3-3-1) 5%
3-HH-V (4-1-1) 16%
3-HH-2V1 (4-1-1) 6%
3-HH-VFF (4-1) 7%
3-HHB-O1 (4-4-1) 3%
5-B(F)BB-2 (4-7-1) 5%
3-HHEBH-3 (4-8-1) 3%
3-HBBH-3 (4-9-1) 3%
5-HBB(2F,3F)-O2 (5-1-1) 8%
1V2-HBB(2F,3F)-O2 (5-1-1) 3%
5-HB1OCro(7F,8F)-5 (6-5-1) 4%
4O-Cro(7F,8F)H-3 (6) 5%
NI=83.4℃;Tc≦-20℃;Δn=0.119;η=18.6mPa・s;Δε=-3.0;VHR-1=99.1%;VHR-2=98.0%;VHR-3=97.5%.」

(ウ) 先願に記載された発明
先願の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項7(摘記a参照)には、「第一成分として式(1)で表される化合物(具体的な化合物は摘記a参照。以下同様)の群から選択された少なくとも1つの化合物、第二成分として式(2-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第三成分として式(3-1)から式(3-3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、液晶組成物の全重量に基づいて、第一成分の割合が5重量%から50重量%の範囲であり、第二成分の割合が10重量%から90重量%の範囲であり、第三成分の割合が5重量%から85重量%の範囲である、負の誘電率異方性を有する液晶組成物。ここで、R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から12のアルキルであり;R^(3)、R^(4)、R^(5)、およびR^(6)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルである。」の発明が記載されている。
また、各化合物のR^(1)?R^(6)について、段落0055?0059(摘記b参照)には、「さらに好ましいR^(1)またはR^(2)は、粘度を下げるために炭素数1から3のアルキルである」こと、「好ましいR^(3)、…R^(5)…は、下限温度を下げるために、または粘度を下げるために、炭素数1から12のアルキルまたは炭素数2から12のアルケニルであ」り、「さらに好ましいアルキルは、粘度を下げるためにエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、またはヘプチルであ」り、「さらに好ましいアルケニルは、粘度を下げるためにビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルである」こと、及び「さらに好ましいR^(4)、R^(6)…は、誘電率異方性の絶対値を上げるために、炭素数1から12のアルコキシであ」り、「粘度を下げるために、さらに好ましいアルコキシは、メトキシまたはエトキシである」ことが記載されている。そうすると、先願には
「第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第二成分として式(2-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第三成分として式(3-1)から式(3-3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、液晶組成物の全重量に基づいて、第一成分の割合が5重量%から50重量%の範囲であり、第二成分の割合が10重量%から90重量%の範囲であり、第三成分の割合が5重量%から85重量%の範囲である、負の誘電率異方性を有する液晶組成物。ここで、R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から3のアルキルであり;R^(3)およびR^(5)は独立して、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘプチル、ビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルであり;R^(4)およびR^(6)は独立してメトキシまたはエトキシである。」発明(以下、「先願発明」という)が記載されているものと認められる。

(エ) 対比・判断
先願発明の「R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から3のアルキルであ」る「式(1)で表される化合物」は、本件補正発明の式B-1の化合物に相当する。
先願発明の「R^(3)はエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘプチル、ビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルであ」り「R^(4)は独立してメトキシまたはエトキシであ」る「式(2-4)で表される化合物」は、本件補正発明の「式I-73の化合物」を包含している。
先願発明の「式(3-2)で表される化合物」は、本件補正発明において含有しないとされている「式C2Yの化合物」に相当する。
先願発明の「式(2-4)で表される化合物」、「式(3-1)から式(3-3)で表される化合物」はいずれも、置換基としてフッ素を有するから、「極性化合物」に相当し、それら化合物の混合物を有意の量含む先願発明の液晶組成物は、本件補正発明でいう「極性化合物の混合物を基礎とする」ものと認められる。また、先願発明の「液晶組成物」は本件補正発明の「液晶媒体」に相当する。
してみると、本件補正発明と先願発明とは、
「式B-1の化合物を含む、極性化合物の混合物を基礎とする液晶媒体。」
である点において一致し、以下の点において一応の相違が認められる。

(一応の相違点1)
本件補正発明は「式I-1、I-13、I-73およびI-85からなる群より選ばれる1種以上の化合物」を含むのに対し、先願発明は「R^(3)はエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘプチル、ビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルであ」り「R^(4)は独立してメトキシまたはエトキシであ」る「第二成分として式(2-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」を含む点。
(一応の相違点2)
本件補正発明は「式AY、C2Y、FEFおよびBXBXの化合物の群から選択する少なくとも1種類の化合物を含」まないのに対し、先願発明はそれら化合物を含有しないことが明示されていない点。
(一応の相違点3)
本件補正発明は「N種類の式I-1の化合物およびM種類の本願式I-73の化合物を含み、その合計はZ種類であると表現した場合、(Z:N:M)が(3:0:3)、(3:1:2)、(4:2:2)および(5:2:3)のものを除き」、「(Z:N:M)が(1:1:0)であって、6重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-73の化合物および7重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物を含むものを除き」、「(Z:N:M)が(1:0:1)であって、7重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-1の化合物および6重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-73の化合物を含むものを除き」、「(Z:N:M)が(1:0:1)、(2:0:2)または(3:0:3)であって、左末端のalkylがペンチルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物の含有量が5重量%、6重量%、7重量%、8重量%または9重量%であるものを除き」、「(Z:N:M)が(2:0:2)または(3:0:3)であって、左末端のalkylがペンチルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物の含有量が5重量%または8重量%であるものを除」くのに対し、先願発明はそれら態様を除外することが明示されていない点。
(一応の相違点4)
本件補正発明は「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)またはalkoxyである式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物を一切含まず」、「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物を一切含ま」ないのに対し、先願発明はそれら化合物を含有しないことが明示されていない点。
(一応の相違点5)
本件補正発明は「式B-1?B-4の化合物の合計濃度は15.5%以下である」のに対し、先願発明は「式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」である「第一成分の割合が5重量%から50重量%の範囲であ」る点。

そこで、それら一応の相違点について検討する。
一応の相違点1について、先願発明の「式(2-4)で表される化合物」はR^(3)がプロピル、R^(4)はエトキシであってよく、先願の明細書の段落0113(摘記c参照)には当該化合物(「3-HH1OB(2F,3F)-O2」)を用いた具体例が記載されているから、当該一応の相違点1は実質的な相違点ではない。また、一応の相違点4について、先願発明の明細書等には「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)またはalkoxyである式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物」や、「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物」が必須成分であることは記載されておらず、先願の明細書の段落0112?0113(摘記c参照)には「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物」を含有しない具体例、「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)またはalkoxyである式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物」を含有しない具体例が記載されているから、それらを含有しないことは先願の明細書等に実質的に記載された事項であるといえ、当該一応の相違点4も実質的な相違点ではない。
一応の相違点2について、先願の明細書等には、本件補正発明の式AY、FEF、BXBXの化合物を含むことが記載も示唆もされていない。また、上述のように、先願発明の「式(3-2)で表される化合物」は、本件補正発明の式C2Yの化合物に相当するものの、先願発明において当該化合物は必須成分ではないし、先願の明細書の段落0113(摘記c参照)には「式(3-2)で表される化合物」を含有しない具体例が記載されているから、それを含有しないことは先願の特許請求の範囲又は明細書に実質的に記載された事項であるといえ、当該一応の相違点2も実質的な相違点ではない。
一応の相違点3について、先願の明細書等には、本件補正発明の式I-1の化合物を含むことが記載も示唆もされていないから、本件補正発明の「N」は「0」の態様しか記載されていない。また、先願発明の「式(2-4)で表される化合物」(本件補正発明の「式I-73の化合物」に対応)を何種類含むかについて、先願の明細書等には特段の記載がないし、明細書の段落0112?0113(摘記c参照)には「式(2-4)で表される化合物」を1種類又は2種類用いた具体例が記載されているから、先願発明の「式(2-4)で表される化合物」を3種類としない(本件補正発明の(Z:N:M)を(3:0:3)としない)ことは、先願の明細書等に実質的に記載された事項である。同様に、「(Z:N:M)が(1:0:1)であって、7重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-1の化合物および6重量%の左末端のalkylがエテニルで右末端のalkoxyがメトキシである式I-73の化合物を含む」としない、「(Z:N:M)が(1:0:1)、(2:0:2)または(3:0:3)であって、左末端のalkylがペンチルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物の含有量が5重量%、6重量%、7重量%、8重量%または9重量%である」としない、「(Z:N:M)が(2:0:2)または(3:0:3)であって、左末端のalkylがペンチルで右末端のalkoxyがエトキシである式I-73の化合物の含有量が5重量%または8重量%である」としないことは、先願の明細書等に実質的に記載された事項である。よって、当該一応の相違点3も、実質的な相違点ではない。
一応の相違点5について、先願発明の式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(本件補正発明の式B-1の化合物に相当)の合計濃度は、第一成分の割合である「5重量%から50重量%の範囲」であって、本件補正発明の式B-1?B-4の化合物の合計濃度「15.5%(当審注:本願明細書の記載から重量%であると認められる)以下」と重複している。また、先願の明細書の段落0112?0113(摘記c参照)には式(1)で表される化合物の割合を15.5%以下である8重量%とした具体例も記載されているから、当該一応の相違点5は実質的な相違点ではない。

(オ) 請求人の主張の検討
請求人は、平成30年12月25日に提出した審判請求書において、先願に該当する「引用文献9」について、
「上の第3-2節(1)で説明した通り本願発明の特徴を更に明らかにするために、本願発明において必須の構成要素である式I-1、I-13、I-73およびI-85の化合物および式B-1?B-4の化合物について少なくともいずれか一方の末端に炭素数が5以上の長鎖末端基を有する化合物を一切含まないものに本願発明の液晶媒体を限定しました。
これについては先ず例えば本願明細書[0010]、[0024]、[0031]、[0033]、[0042]、[0224]、[0226]、[0238]、[0239]および[0255]において粘度が十分に低い液晶媒体を実現することが本願発明の重要な課題の1つであることが記載されていますが、特に[0042]に以下の通り記載されています。

[0042]
本発明は、更に、LCディスプレイを製造する方法であって、本発明によるLC混合物を、1種類以上の重合性化合物と、任意成分として、更なる液晶化合物および/または添加剤および/または安定剤と混合し、このようにして得られる混合物を、上および下に記載される通りの2枚の基板および2個の電極を有するLCセル中に導入し、電極に電圧を好ましくは印加しながら、重合性化合物(1種類または多種類)を重合する方法に関する。本発明による混合物は、好ましくは、70℃以上、好ましくは75℃以上、特には80℃以上の透明点を有する非常に広いネマチック相範囲と、非常に好ましい容量閾値と、比較的高い値の保持率と、同時に、-20℃および-30℃における非常に良好な低温安定性と、ならびに、非常に低い回転粘度値および短い応答時間とを示す。本発明による混合物は、更に、回転粘度γ_(1)の改良に加えて、応答時間を改良するための弾性定数K33の比較的高い値を観測できるという事実によって区別される。

ここで液晶媒体の回転粘度γ_(1)の実際の値は極めて多数の要因に左右されますが、その中の1つに使用する液晶化合物の末端基の構造が挙げられ、末端基の炭素数が増加してその鎖長が長くなると液晶分子間の絡み合いが増加し、得られる液晶媒体の回転粘度γ_(1)が増加する結果となります。
そこで本願発明の重要な課題の1つである「低い値の回転粘度γ_(1)」を確実に実現するために、本願発明において必須の構成要素である式I-1、I-13、I-73およびI-85の化合物および式B-1?B-4の化合物について少なくともいずれか一方の末端に炭素数が5以上の長鎖末端基を有する化合物を一切含まないものに本願発明の液晶媒体を限定しました。
ここで当該補正の根拠としては本願実施例を挙げることができ、実際に本願実施例の全てにおいて少なくともいずれか一方の末端に炭素数が5以上の長鎖末端基を有する液晶化合物、特に式I-1、I-13、I-73およびI-85の化合物は一切採用されておらず、低い回転粘度γ_(1)が実現されています。
一方審査官がご指摘の先願4および9の当初明細書などのいずれの箇所にも上記特徴は記載されておらず、特に同明細書の実施例および比較例は本願発明と異なるものです。
・・・(中略)・・・
更に先願9の比較例1、2、4は本願式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物を含まず;実施例1?9および比較例3は1-BB-5または3-BB-5を含み、当該化合物は本願式B-1においてalkylが5個の炭素を含む化合物に対応し、5-HH10B(2F,3F)-O2を含み、当該化合物は本願式I-73においてalkylが5個の炭素を含む化合物に対応します。
また先願9の当初明細書などの他のいずれの箇所にも、
・液晶媒体が「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)またはalkoxyである式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物を一切含まない」、および
・液晶媒体が「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物を一切含まない」
との技術的特徴は記載されていません。
よって先願9の当初明細書など全体において、本願発明は記載されていません。
以上より先願4および9を引例とする拡大先願についての拒絶理由は、解消したと思料します。」と主張する。
当該主張は、本件補正発明が式I-1、I-13、I-73およびI-85の化合物および式B-1?B-4の化合物について少なくともいずれか一方の末端に炭素数が5以上の長鎖末端基を有する化合物を一切含まないものとすることで「低い値の回転粘度γ_(1)」を実現している一方で、先願の明細書等には当該手段による「低い値の回転粘度γ_(1)」の実現について記載されていないこと、先願の明細書の実施例、比較例は、式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物を含まないか末端基のalkylが5個の炭素を含む化合物を含むこと、及び先願の明細書等には末端基が5個以上のC原子を有する化合物を一切含まないことが記載されていないことから、本件補正発明と先願の明細書等に記載された発明が異なることを主張しているものと認められる。
しかし、まず、本願明細書には「末端基の炭素数が増加してその鎖長が長くなると液晶分子間の絡み合いが増加し、得られる液晶媒体の回転粘度γ_(1)が増加する結果とな」ることについて記載も示唆もなく、また当該事項、すなわち「末端基の炭素数が増加」すると得られる液晶媒体の回転粘度γ_(1)が必ず増加することが、本願優先日当時の技術常識とは認められないから、当該事項に関する請求人の主張は参酌し得ない。また、仮に参酌するとしても、上記(ウ)に記載したように、先願の明細書には、所定の液晶化合物の末端の置換基を所定の基とすることで粘度を下げることができる旨記載されている。
次に、上記(エ)に記載したとおり、先願の明細書等には、「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物」や「両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物」を含有しないことが実質的に記載されている。
よって、請求人の主張は採用できない。

(カ) 小括
したがって、本件補正発明は、先願の明細書等に記載された発明と同一である。

エ まとめ
したがって、本件補正発明は、先願の明細書等に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により(同法第184条の13参照)、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。また、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成30年12月25日付けでなされた本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1?19に係る発明は、平成30年4月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記「第2 2(1)イ」に示した本件補正前のものである。

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、「平成29年10月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由4、5」であって、要するに、
理由4.(拡大先願)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。
理由5.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
というものである。
そして、該理由4において引用された先願は次のとおりである。
<引用文献等一覧>
9.PCT/JP2011/071971号(国際公開第2012/046590号)優先日;平成22年10月4日

3 理由4に対する判断
原査定の拒絶の理由で引用された先願は、上記「第2 2(2)ウ(ア)」に示した先願にほかならず、その明細書等の記載事項は、上記「第2 2(2)ウ(イ)」に記載したとおりである。
そして、本願発明は、上記「第2 2(2)」で検討した本件補正発明の液晶媒体について、「ただし、両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)またはalkoxyである式I-1、I-13、I-73またはI-85の化合物を一切含まず、ただし、両末端基の少なくともいずれか一方が5個以上のC原子を有するalkyl、alkyl^(*)、alkoxy、alkenylまたはalkenyl^(*)である式B-1?B-4の化合物を一切含まず、ただし、式B-1?B-4の化合物の合計濃度は15.5%以下である」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記限定事項によって限定したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 2(2)ウ(エ)」に記載したとおり、先願の明細書等に記載された発明であるから、本願発明も、先願の明細書等に記載された発明である。

4 理由5に対する判断
上記「第2 2(2)イ」において説示したとおり、本件補正発明は、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」を超えるものである。
そして、本願発明は、上記3に記載したように本件補正発明を含み、それよりもさらに広いのであるから、本願発明も、「発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲」を超えるものであることは明らかである。
したがって、特許請求の範囲の記載(旧特許請求の範囲の記載)は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件に適合しないといえる。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条の2、または特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-25 
結審通知日 2019-10-29 
審決日 2019-11-12 
出願番号 特願2016-180007(P2016-180007)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C09K)
P 1 8・ 161- Z (C09K)
P 1 8・ 575- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 瀬下 浩一
牟田 博一
発明の名称 液晶媒体  
代理人 伊藤 克博  
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