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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D21H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
管理番号 1361442
異議申立番号 異議2018-700934  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-22 
確定日 2020-02-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6326730号発明「不織布及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6326730号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6326730号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6326730号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年6月20日に出願され、平成30年4月27日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月23日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
平成30年11月22日 :特許異議申立人落合憲一郎(以下「申立人」という。)により本件特許異議の申立て(以下本件特許異議申立書を、「申立書」という。)
平成31年2月22日付け :取消理由通知
平成31年4月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和元年6月19日 :申立人による意見書の提出
令和元年8月29日付け :取消理由通知(決定の予告)
令和元年11月5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
(なお、令和元年11月7日付けで、「訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)」を、期間を指定して行ったが、申立人からは当該指定した期間内において何らの応答もなかった。)

上記平成31年4月26日にした訂正の請求は、令和元年11月5日にした訂正の請求により、特許法第120条の5第7項の規定にしたがい、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
訂正の内容
上記令和元年11月5日にした訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
訂正前の請求項1の「数平均繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、数平均繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維とを含有し、」という記載を、「固形分としては、繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維と、所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填材、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみからなり、」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2、3、5も同様に訂正する。)

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の、「第1の繊維の数平均繊維幅が100nm以上1000nm未満」という記載を、「第1の繊維の繊維幅が100nm以上1000nm未満」に訂正する。(請求項2を引用する請求項3、5も同様に訂正する。)

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の、「第2の繊維がポリエステル繊維である、請求項1から3の何れか1項に記載の不織布。」という記載を、「数平均繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維とを含有し、第1の繊維と第2の繊維の質量比が90/10?60/40であり、比引裂強度が3.0mN^(2)/g以上であり、かつ引張強度が10MPa以上であり、第1の繊維が、製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維であり、第2の繊維がポリエステル繊維である、不織布。」に訂正する。(請求項4を引用する請求項5も同様に訂正する。)

(4) 訂正事項4
訂正前の請求項5の「数平均繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維(ここで、第1の繊維は製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維である)と、数平均繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維とを含有し、」という記載を、「繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維(ここで、第1の繊維は製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維である)と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維と、分散媒と、所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填材、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみからなる分散液であって、」に訂正する。

2. 一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 一群の請求項
本件訂正前の請求項2?5は、直接あるいは間接に請求項1を引用するものであって、訂正事項1による請求項1の訂正によって、連動して訂正されるものである。よって、訂正前の請求項1?5に対応する訂正後の請求項〔1ー5〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2) 訂正事項1について
ア. 訂正事項1-1
(ア) 訂正事項1のうち、第1の繊維を「数平均繊維幅2nm以上1000nm未満」であるものから「繊維幅2nm以上1000nm未満」であるものとし、また、第2の繊維を「数平均繊維幅1000nm以上100000nm以下」であるものから「繊維幅1000nm以上100000nm以下」であるものとするもの(以下「訂正事項1-1」という。)は、訂正前の第1の繊維は、「数平均繊維幅」が「2nm以上1000nm未満」であれば、「繊維幅2nm以上1000nm未満」の範囲外の個々の繊維を含み得るものであったのに対し、訂正後の第1の繊維は、個々の繊維が全て「繊維幅2nm以上1000nm未満」であるから、訂正前には含まれ得た「繊維幅2nm以上1000nm未満」の範囲外の個々の繊維を含まないものである。また、個々の繊維が全て「繊維幅2nm以上1000nm未満」である第1の繊維の「数平均繊維幅」は「2nm以上1000nm未満」の範囲内であることが明らかであるから、個々の繊維に着目すると、訂正後の第1の繊維は、訂正前の第1の繊維に含まれていたものである。そうすると、訂正によって、第1の繊維が含み得るものの範囲は減縮されているといえる。
同様に、訂正後の第2の繊維は、訂正前には含まれ得た「繊維幅1000nm以上100000nm以下」の範囲外の個々の繊維を含まないものであるとともに、訂正前の第2の繊維に含まれていたものであるから、訂正によって、第2の繊維が含み得るものの範囲も減縮されているといえる。
よって、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1-1は、第1の繊維と第2の繊維の両方が同じセルロース繊維である場合に第1の繊維と第2の繊維がどのように区別して把握されるのかが不明確である旨の取消理由を受けて、第1の繊維と第2の繊維を個々の繊維の繊維幅の違いで区別できるようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
(イ) 上記(ア)で示したとおり、訂正事項1-1は、第1の繊維及び第2の繊維が含み得るものの範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。したがって、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(ウ) 上記ア.で示したとおり、訂正事項1-1による訂正後の第1の繊維及び第2の繊維は、訂正前の第1の繊維及び第2の繊維に含まれていたものである。また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、個々の繊維が全て「繊維幅2nm以上1000nm未満」である第1の繊維や個々の繊維が全て「繊維幅1000nm以上100000nm以下」である第2の繊維の明示的な記載はないけれども、本件特許出願時の技術常識に照らせば、訂正前の第1の繊維及び第2の繊維の具体的な態様として、第1の繊維について個々の繊維が全て「繊維幅2nm以上1000nm未満」であるものや第2の繊維について個々の繊維が全て「繊維幅1000nm以上100000nm以下」であるものを当然に認識できるというべきである。そして、訂正事項1による訂正によって、第1の繊維から「繊維幅2nm以上1000nm未満」の範囲外の個々の繊維が除かれ、第2の繊維から「繊維幅1000nm以上100000nm以下」の範囲外の個々の繊維が除かれたとしても、それにより新たな技術上の意義が追加されることはない。したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

イ. 訂正事項1-2について
(ア) 訂正事項1のうち、「第1の繊維と、・・・第2の繊維とを含有し、」という記載を「固形分としては、・・・第1の繊維と、・・・第2の繊維と、所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填材、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみからなり、」と訂正するもの(以下「訂正事項1-2」という。)は、請求項1の「不織布」が、「第1の繊維」と「第2の繊維」とを「含有し」、他の成分を含みうる記載であったのを、訂正事項1-2によって、「不織布」の「固形分」として、「第1の繊維」と「第2の繊維」に、さらに「所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填材、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみ」を含み得るものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(イ) 本件特許明細書には、「本発明の不織布には、用途に応じた添加剤、例えば、サイズ剤、ワックス、無機充填剤、着色剤、安定化剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤など)、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などを含有させもよい。」(【0033】)という記載がある。また、本件特許明細書の「本発明の不織布の厚みは特に限定されず、一般的には1?100μm」(【0034】)、及び、「例えば、本発明では、第1の繊維と第2の繊維を含有する分散液を用いて、湿式抄紙により、不織布を製造することができる。分散液は、第1の繊維と第2の繊維と分散媒とを含有する液である。分散媒としては、水、有機溶剤を使用することができるが、取り扱い性やコストの点から、水のみが好ましいが、特には限定されない。・・・分散液における固形分濃度は、特に限定されないが、0.05?10質量%であることが好ましく、0.1?5質量%であることがより好ましい。上記した分散液をろ過し、ろ過後の湿紙状態の不織布を乾燥することによって本発明の不織布を製造することができる。」(【0037】)という記載から、第一の繊維、第二の繊維、並びに添加剤が不織布において固形分として存在し得ることは当業者には明らかである。
そうすると、訂正事項1-2は、新規事項を追加するものであるとはいえない。
(ウ)訂正事項1-2は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。

(3) 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2の第1の繊維を「数平均繊維幅が100nm以上1000nm未満」であるものから「繊維幅が100nm以上1000nm未満」であるものとする訂正であるので、上記(2)に示したのと同様な理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、新規事項を追加するものではなく、、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。

(4) 訂正事項3について
ア. 訂正事項3は、訂正前の請求項1を引用する請求項4を、他の請求項の記載を引用しないものとし、あわせて、訂正前の第2の繊維の「数平均繊維幅」との記載を、「繊維幅」に訂正するものである。よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。さらに、上記(2)ア.(ア)に示したのと同様な理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当に該当する。
イ. 訂正事項3は、訂正前の請求項1を引用する請求項4に基づくものであり、かつ、上記(2)ア.(ウ)に示したのと同様な理由により、新規事項を追加するものではなく、上記(2)ア.(イ)で示したのと同様な理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。

(5) 訂正事項4について
訂正事項4のうち、訂正前の請求項5の第1の繊維に関する「数平均繊維幅2nm以上1000nm未満」という記載を、「繊維幅2nm以上1000nm未満」とする訂正(以下「訂正事項4-1」という。)は、上記(2)ア.(ア)に示したのと同様な理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。さらに、上記(2)ア.(イ)及び(ウ)に示したのと同様な理由により、訂正事項4-1は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。
訂正事項4のうち、訂正前の請求項5の第1の繊維と第2の繊維を含有する分散液を、「分散媒と、所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填材、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみからなる分散液であって」とする訂正(以下「訂正事項4-2」という。)は、上記(2)イ.(ア)に示したのと同様な理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。さらに、上記(2)イ.(イ)及び(ウ)に示したのと同様な理由により、訂正事項4-2は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。

3. 訂正についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6号の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明
上記第2に示したとおり、本件訂正請求は認められたから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】 固形分としては、繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維と、所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填材、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみからなり、第1の繊維と第2の繊維の質量比が90/10?60/40であり、比引裂強度が3.0mN・m^(2)/g以上であり、かつ引張強度が10MPa以上であり、第1の繊維が、製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維である、不織布。
【請求項2】 第1の繊維の繊維幅が100nm以上1000nm未満である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】 坪量が3?200g/m^(2)である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】 数平均繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維とを含有し、第1の繊維と第2の繊維の質量比が90/10?60/40であり、比引裂強度が3.0mN^(2)/g以上であり、かつ引張強度が10MPa以上であり、第1の繊維が、製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維であり、第2の繊維がポリエステル繊維である、不織布。
【請求項5】 繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維(ここで、第1の繊維は製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維である)と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維と、分散媒と、所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填材、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみからなる分散液であって、第1の繊維と第2の繊維の質量比が90/10?60/40である分散液をろ過し、ろ過後の湿紙状態の不織布を乾燥する工程を含む、請求項1から4の何れか1項に記載の不織布の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
本件発明1?5に対して、当審が令和元年8月29日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

理由
理由1(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2(進歩性)
本件特許の請求項1?3、5に係る発明は、下記<引用文献等一覧>に示される、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



<引 用 文 献 等 一 覧>
1.国際公開第2013/054884号(以下「引用文献1」という。)
2.国際公開第01/93350号(以下「引用文献2」という。)
3.特開2011-26760号公報(以下「引用文献3」という。)
4.特表2011-503880号公報(以下「引用文献4」という。)

なお、引用文献1?2は、特許異議申立書に添付された甲第1?2号証である。また、引用文献3?4は、当審の職権調査で発見した、周知技術を示すための文献である。



理由1(明確性)
ア. 「引張強度」について
請求項1の「引張強度」は、JIS P 8113に準じて測定され、その測定値を「MPa」を単位として表したものであると本件明細書に記載されている(段落【0053】)。しかし、JIS P 8113における「引張強さ」は、その単位が例えば「N/mm」または「N/m」(軽量紙)で表されるべきものであって、本件明細書の記載と整合するものではないから、請求項1の「引張強度」は不明確である。(以下「理由1-ア」という。)
イ. 「第2の繊維」の「数平均繊維幅」の定義について
本件明細書の記載を参酌すると、微細セルロース繊維の「数平均繊維幅」の定義については理解できるものの、請求項1の「第2の繊維」は、微細セルロース繊維に該当するとは限らないものであるから、請求項1の「第2の繊維」の「数平均繊維幅」の定義が不明確である。(以下「理由1-イ」という。)
ウ. 「第1の繊維」と「第2の繊維」の両方が同じセルロース繊維である場合の両者の区別について
請求項1及び5において「第1の繊維」と「第2の繊維」の両方が同じセルロース繊維である場合、第1の繊維と第2の繊維がどのように区別して把握されるのかが不明確である。(以下「理由1-ウ」という。)

(2)理由2(進歩性)について
ア. 本件特許の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ. 本件特許の請求項2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ. 本件特許の請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1の記載事項及び引用文献2?4に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ. 本件特許の請求項5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 当審の判断
1. 理由1(明確性)について
(1) 理由1-アについて
引っ張り強さの単位として、パルカス(Pa)は一般的なものであり、技術常識である。ここで、JIS P 8113で規定される引っ張り強さの単位はkN/mであるところ、これをシートの厚さにより除することにより、引張強さのSI単位であるパスカル(Pa)に変換したものであることが理解できる。
さらに、シートの厚さの平均値は、JIS P 8113において引用されているJIS P 8118にしたがって計測できるから、理由1-アによって、本件発明1が明確ではないとはいえない。
(2) 理由1-イについて
上記第2の2.(2)イ.で示したとおり訂正事項1-2の訂正が認められたことにより、請求項1の「第2の繊維」の「数平均繊維幅」は、「第2の繊維」の「繊維幅」となり、この「第2の繊維」の「繊維幅」については、「第2の繊維」中の個々の繊維の幅を意味するものとして明確に理解することができるから、理由1-イは解消した。
(3) 理由1-ウについて
上記第2の2.(2)イ.及び(5)で示したとおり本件訂正1-2及び訂正4の訂正が認められたことにより、請求項1及び5の「第1の繊維」と「第2の繊維」は、両方が同じセルロース繊維であっても、個々の繊維の繊維幅の違いにより区別できるものとなったから、理由1-ウは解消した。

2. 理由2(進歩性)について
(1) 本件発明1について
引用文献1に記載された発明を、以下引用発明という。
引用文献1の段落【0054】?【0056】には、「微多孔膜」が、孔を形成するために、「親水性開孔剤」を使用するものである旨が記載されている。一方、「親水性開孔剤」を用いることなく孔をあけた「微多孔膜」は、引用文献1には記載されていないし、示唆する記載もない。ここで、本件発明1?3及び5の不織布は、いずれも、「第1の繊維」と「第2の繊維」、並びに、「所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填材、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤」のみからなるものであるから、「親水性開孔剤」を含まないものである。
そうすると、本件発明1と引用発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。

<相違点>
本件発明1の「不織布」は、「親水性開孔剤」を含まないものであるのに対し、引用発明は、「親水性開孔剤」を含むものである点。

そこで検討する。引用発明の「親水性開孔剤」は、「微多孔膜」の製造において、「セルロース繊維からなるシートの多孔質化の手段」(段落【0056】)である。そうすると、引用発明を「親水性開孔剤」を含まないものとすることは、引用発明が「多孔」となることを妨げるものであるから、そうすることの動機付けが引用発明にはないし、むしろそうすることの阻害事由が存在するといえる。
よって、引用発明において、上記<相違点>に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではない。

(2) 本件発明2、3、5について
本件発明2、3、5は、いずれも本件発明1を引用するものであって、「親水性開孔剤」を含まないものである。そうすると、上記<相違点>において、本件発明2、3、5の各々と引用発明との間においても少なくとも相違する。そうすると、上記(1)に示したのと同様に、本件発明2、3、5の各々も、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3. 小括
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第2項の規定に適合するので、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当することを理由として取り消すことができない。
また、本件発明1?3、5は、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許を受けたものではないので、本件発明1?3、5に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消すことができない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、申立書において、以下1及び2、の取消理由も主張しているが、令和元年8月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)第4の3(1)及び(2)に示したように、当該申立ての理由によっては、本件発明1、3及び4を取り消すことはできない。
1.特許法第29条第1項第3号について
申立人は、本件発明1及び3は、甲第1号証(引用文献1)に記載された引用発明と同一である旨主張する。
しかしながら、上記上記取消理由(決定の予告)の第4の2(2)で示したとおり、本件発明1と引用発明との間には、実質的な相違点があるのであるから、本件発明1及び3は、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明と同一であるとはいえない。

2.特許法第29条第2項について
申立人は、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明である微多孔膜において、その第2の繊維を、太さが同じ範囲にある甲第2号証(引用文献2)に記載されたポリエステル繊維に代えてみることは、当業者が容易になし得た事項であるから、本件発明4は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、上記取消理由(決定の予告)の第3の4(1)の記載のとおり、引用文献1は、強度特性に優れるセルロース製の微多孔膜を提供することを目的としたものであるところ、上記取消理由(決定の予告)の第3の4(3)?(5)に摘記した引用文献1の記載からみて、引用発明における1μm以上の太さであるセルロース繊維(第2の繊維)は、優れた強度特性を得るために必須の構成であると解されるから、これを甲第2号証(引用文献2)に記載されたポリエステル繊維に代える動機付けはない。

第7 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?5に係る特許は、令和元年8月29日付け取消理由通知に記載した取消理由及び申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 固形分としては、繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維と、所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填剤、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみからなり、第1の繊維と第2の繊維の質量比が90/10?60/40であり、比引裂強度が3.0mN・m^(2)/g以上であり、かつ引張強度が10MPa以上であり、第1の繊維が、製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維である、不織布。
【請求項2】 第1の繊維の繊維幅が100nm以上1000nm未満である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】 坪量が3?200g/m^(2)である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】 数平均繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維とを含有し、第1の繊維と第2の繊維の質量比が90/10?60/40であり、比引裂強度が3.0mN・m^(2)/g以上であり、かつ引張強度が10MPa以上であり、第1の繊維が、製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維であり、第2の繊維がポリエステル繊維である、不織布。
【請求項5】 繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維(ここで、第1の繊維は製紙用パルプ由来のセルロース繊維であり、かつI型の結晶構造を有する繊維である)と、繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1?20mmである第2の繊維と、分散媒と、所望によりサイズ剤、ワックス、無機充填剤、着色剤、安定化剤、可塑剤、帯電防止剤及び難燃剤から選択される1種以上の添加剤のみからなる分散液であって、第1の繊維と第2の繊維の質量比が90/10?60/40である分散液をろ過し、ろ過後の湿紙状態の不織布を乾燥する工程を含む、請求項1から4の何れか1項に記載の不織布の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-13 
出願番号 特願2013-129182(P2013-129182)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (D21H)
P 1 651・ 121- YAA (D21H)
P 1 651・ 537- YAA (D21H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 久保 克彦
杉山 悟史
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6326730号(P6326730)
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 不織布及びその製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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