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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C21D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C21D
管理番号 1361445
異議申立番号 異議2019-700105  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-08 
確定日 2020-02-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6369626号発明「一方向性電磁鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6369626号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6369626号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6369626号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2016年(平成28年) 4月 1日(優先権主張 平成27年 4月 2日)を国際出願日として特許出願され、平成30年 7月20日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月 8日に特許掲載公報が発行されたものであり、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成31年 2月 8日 : 特許異議申立人JFEスチール株式会社(以下、「申立人」という。)による請求項1?5に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 4月10日付: 取消理由通知
令和 元年 6月12日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 元年 8月 1日 : 申立人による意見書の提出
令和 1年 8月19日付: 取消理由通知(決定の予告)
令和 元年10月28日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 元年12月10日 : 特許権者との面接審理の実施
令和 元年12月27日 : 特許権者による上申書の提出
令和 2年 1月 6日 : 申立人による意見書の提出

第2 令和 元年10月28日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、令和 元年 6月12日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定に基づき、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、5分以上30時間以下保持した後、」
とあるのを、
「1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、1時間以上30時間以下保持した後、」
に訂正する。(訂正事項1。下線部は訂正箇所を表す。以下同様。)

(2)訂正事項2
明細書の【0031】に「また、T1℃からT2℃への温度の低下は、水冷、空冷等のいずれの方法で行ってもよいが、空冷(放冷)とすることが好ましい。」
とあるのを、
「また、T1℃からT2℃への温度の低下は、空冷(放冷)とすることが好ましい。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の【0049】に「(実施例1)」とあるのを「(参考例1)」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の【0054】に「合格の基準は、実施例1と同じとした。」とあるのを、「合格の基準は、参考例1と同じとした。」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の【0066】に「上記実施例1、実施例2と同様にして評価した。」とあるのを「上記参考例1、実施例2と同様にして評価した。」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の【0066】に「上記実施例1?3と同様にして評価した結果を、」とあるのを、「上記参考例1及び実施例2?3と同様にして評価した結果を、」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の【0064】に「(実施例4)」とあるのを「(参考例4)」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の【0055】の【表2】中について、鋼板No.17の130-300℃の時効処理回数欄が「5」となっているのを、「8」に訂正し、式(1)を満たす時効回数欄が「1」となっているのを、「4」に訂正する。
また、【表2】の鋼板No.18の式(1)を満たす時効回数が「4」となっているのを、「3」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に「5分以上30時間以下」と記載されていた保持時間の範囲について、「1時間以上30時間以下」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。さらに、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書」という。)の【0058】に「スラブ表面温度が1180℃(T1℃)になるまで加熱し、1時間保持した。」と記載されていることから、この訂正は、新規事項の追加にも該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2に係る訂正は、本件明細書の【0031】に「また、T1℃からT2℃への温度の低下は、水冷、空冷等のいずれの方法で行ってもよいが、空冷(放冷)とすることが好ましい。」とあるのを、「また、T1℃からT2℃への温度の低下は、空冷(放冷)とすることが好ましい。」に訂正するものであり、本件特許の請求項に係る発明において、T1℃からT2℃への温度を低下させる手段として空冷(放冷)が好ましいことを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、本件明細書に記載した事項の範囲内でした訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3?7
訂正事項3?7は、いずれも、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図る訂正にすぎないから、本件明細書に記載した事項の範囲内でした訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2?8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項8
訂正事項8に係る訂正は、本件明細書の【0055】の【表2】中について、鋼板No.17の130-300℃の時効処理回数欄が「5」となっているのを、「8」に訂正し、式(1)を満たす時効回数欄が「1」となっているのを、「4」に訂正するものであり、また、【表2】の鋼板No.18の式(1)を満たす時効回数が「4」となっているのを、「3」に訂正するものであり、訂正前の【表2】の鋼板No.17と鋼板No.18に係る「130-300℃の時効処理回数」欄の記載と、「式(1)を満たす時効回数」欄の記載との不整合を正して明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、本件明細書に記載した事項の範囲内でした訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項及び明細書の訂正に関係する請求項について
ア 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?5について、訂正前の請求項2?5はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1?5は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1?5〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

イ 明細書の訂正に関係する請求項について
訂正事項2?8は、訂正前の請求項1に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正前の請求項2?5は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項2?8と関係する請求項は訂正前の請求項1?5である。
そうすると、本件訂正請求は、訂正事項2?8と関係する請求項の全てを請求の対象としているものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3 本件訂正請求についての結言
上記のとおり、本件訂正は、請求項〔1?5〕について、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
また、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
よって、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の本件発明
本件訂正請求によって訂正された請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
質量%で、
C:0.030?0.150%、
Si:2.50?4.00%、
Mn:0.02?0.30%、
S及びSeの1種または2種:合計で0.005?0.040%、
酸可溶性Al:0.015?0.040%、
N:0.0030?0.0150%、
Bi:0.0003?0.0100%、
Sn:0?0.50%、
Cu:0?0.20%、
Sb及びMoの1種または2種:合計で0?0.30%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、1時間以上30時間以下保持した後、前記スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃まで低下させ、その後、前記スラブを、1280℃以上1450℃以下のT3℃に加熱し、5分以上60分以下保持する加熱工程と;
加熱された前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板を得る熱延工程と;
前記熱延鋼板に、複数パスの冷間圧延を行って板厚0.30mm以下の冷延鋼板を得る冷延工程と;
前記冷延工程前、または、前記冷延工程を一旦中断して前記冷延工程の最終パスより前に、前記熱延鋼板に少なくとも1回の中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と;
前記冷延鋼板を脱炭焼鈍する脱炭焼鈍工程と;
前記脱炭焼鈍後の前記冷延鋼板に焼鈍分離材を塗布する焼鈍分離材塗布工程と;
前記焼鈍分離材塗布工程後の前記冷延鋼板に仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と;
前記仕上げ焼鈍後の前記冷延鋼板に、絶縁被膜を塗布する二次被膜塗布工程と;
を有し、
前記中間焼鈍工程では、1000℃以上1200℃以下の温度で5秒以上180秒以下保持する前記中間焼鈍を行い、
前記冷延工程では、前記複数パスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行い、
前記保持処理のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下であり、
前記脱炭焼鈍工程における加熱速度が、50℃/秒以上である
ことを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1)
ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。
【請求項2】
前記スラブが、質量%で、Sn:0.05?0.50%含有することを特徴とする請求項1に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記スラブが、質量%で、Cuを0.01?0.20%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記スラブが、質量%で、Sb及びMoのうち1種または2種を、合計で0.0030?0.30%含有することを特徴とする請求項1?3の何れか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記仕上げ焼鈍工程において、下記式(2)で算出されるX値を、0.0003Nm^(3)/(h・m^(2))以上とすることを特徴とする請求項1?4の何れか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
X=雰囲気ガス流量/鋼板総表面積 ・・・(2)」

2 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として後記する甲第1?4号証を提出し、以下の申立理由により、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨申し立てた。

(1)申立理由1(取消理由として不採用)
本件請求項1?5に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明、及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項に規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(取消理由として採用)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1?5に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(取消理由として採用)
本件請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(取消理由として不採用)
本件請求項1?5に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確でないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
・甲第1号証:特開2001-303131号公報
・甲第2号証:特開平3-87316号公報
・甲第3号証:特開昭61-37917号公報
・甲第4号証:特開2003-96520号公報

3 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
請求項1?5に係る特許に対して、平成31年 4月10日付け取消理由通知、及び令和 1年 8月19日付け取消理由通知(決定の予告)により当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである(なお、「・・・」は記載の省略を意味する。以下、同様。)。

ア 取消理由1(1)(実施可能要件)(申立理由2に対応)
本件請求項1?5に係る発明は、「スラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、・・・保持した後、前記スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃まで低下させ」ることを特定しているが、本件明細書には、実施例1?4において具体的にどのようにしてT1℃からT2℃へ温度を低下させたのかは明らかにされていないので、本件請求項1?5に係る発明を当業者が実施しようとした場合、本件明細書の記載からは、どのようにしてスラブの温度をT1℃からT2℃まで低下させることができるか理解することができず、その実施において過度の試行錯誤を要するものといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1?5に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
よって、本件請求項1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 取消理由1(2)(委任省令要件)及び取消理由2(2)(サポート要件)(職権による)
本件請求項1?5に係る発明では、「前記冷延工程では、前記複数パスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行」うこと、及び「前記保持処理のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下であり、・・・
170+[Bi]×5000≦T≦300・・・(1)
ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。」ことを特定しているが、本件明細書の【0049】?【0051】に記載された実施例1では、冷延工程について「冷間圧延を行って0.22mm厚の冷延鋼板を得た。」と記載されるのみであり、上記「保持処理」については何ら記載されていない。それにも関わらず、「発明例」として所望の磁気特性及び被膜密着性を得たものが記載されているが、冷延工程における上記「保持処理」が及ぼす影響の程度(奏する効果の程度)は具体的に明らかでない。
そうすると、当業者は本件請求項1?5に係る発明において特定された、冷延工程における上記「保持処理」の技術的意義を理解することができないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件請求項1?5に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。
また、本件請求項1?5に係る発明において特定された、冷延工程における上記「保持処理」は、発明の課題を解決するために必要な技術的事項として発明の詳細な説明において具体的に裏付けられているとはいえないことから、本件請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないということもできる。
したがって、本件請求項1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
また、本件請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

ウ 取消理由2(1)(サポート要件)(申立理由3に対応)
本件明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できるように記載された範囲は、スラブ加熱温度T1℃の保持時間について少なくとも「1時間」以上としたものであるのに対し、本件請求項1?5に係る発明は、スラブ加熱温度T1℃の保持時間について、「1時間」より短い時間のものも含むことから、上記課題を解決しないものを含む。
したがって、本件請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

エ 取消理由3(明確性要件)(職権による)
発明の詳細な説明の実施例2の【表2】に「発明例」として記載されている「鋼板No.17」及び「鋼板No.18」に関し、「時効処理条件」の記載と、「式(1)を満たす時効処理回数」の記載とで不整合が生じていることにより、「式(1)を満たす時効処理回数」の意味が不明確となっており、本件請求項1?5に係る発明は、明確でない。
したがって、本件請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

オ 取消理由4(委任省令要件)及び取消理由5(サポート要件)(職権による)
本件請求項1?5に係る発明は、「脱炭焼鈍工程における加熱速度が、50℃/秒以上である」ことを特定しているが、本件明細書の【0064】には、実施例4に関して、「その後、これらの冷延鋼板に800℃の温度で180秒保持する脱炭焼鈍を施した。」とのみ記載され、当該脱炭焼鈍工程の加熱速度については記載されていない。それにも関わらず、「発明例」として所望の磁気特性及び被膜密着性を得たものが記載されているが、脱炭焼鈍工程における加熱速度を「50℃/秒以上」とすることが及ぼす影響の程度(奏する効果の程度)は具体的に明らかでない。
そうすると、当業者は本件請求項1?5に係る発明において特定された、脱炭焼鈍工程における加熱速度を「50℃/秒以上」とすることの技術的意義を理解することができないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件請求項1?5に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。
また、本件請求項1?5に係る発明において特定された、脱炭焼鈍工程における加熱速度を「50℃/秒以上」とすることは、発明の課題を解決するために必要な技術的事項として発明の詳細な説明において具体的に裏付けられているとはいえないことから、本件請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないということもできる。
したがって、本件請求項1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
また、本件請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は本件訂正により訂正された箇所を示すものである。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向性電磁鋼板の製造方法に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能な、一方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、スラブ加熱条件、冷間圧延工程における鋼板の保持条件、及び、脱炭焼鈍における加熱速度の影響等を、詳細に調査した。その結果、スラブ加熱時に一旦温度を低下させ、再加熱して圧延すること、冷間圧延工程において、鋼板を所定の温度域に保持すること、及び脱炭焼鈍工程において加熱速度を適正に制御することによって、一次被膜の密着性が向上することを見出した。」

エ 「【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能となる。」

オ 「【0026】
[Sn:0?0.50%]
Sn(スズ)は、必ずしも含有させる必要はないが、薄手製品の二次再結晶を安定して得るのに有効な元素である。また、Snは、二次再結晶粒を小さくする作用を有する元素でもある。これらの効果を得るためには、0.05%以上のSnの含有が必要である。従って、Snを含有させる場合、Snの含有量を、0.05%以上とすることが好ましい。また、Snの含有量を0.50%超過としても効果が飽和する。そのため、コストの点から、含有させる場合でも、Snの含有量を0.50%以下とすることが好ましい。Snの含有量は、より好ましくは、0.08?0.30%である。
【0027】
[Cu:0?0.20%]
Cu(銅)は、必ずしも含有させる必要はないが、Snを含有する鋼の一次被膜向上に有効な元素である。Cuの含有量が0.01%未満である場合には、上記一次被膜向上効果が少ないので、この効果を得る場合、Cuの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cuの含有量が0.20%超過となると、磁束密度が低下するので、好ましくない。従って、含有させる場合でも、Cuの含有量を、0.01?0.20%とすることが好ましい。Cuの含有量は、より好ましくは、0.03?0.18%である。
【0028】
[Sb及び/又はMo:合計で0?0.30%]
Sb(アンチモン)及びMo(モリブデン)は、必ずしも含有させる必要はないが、薄手製品の二次再結晶を安定して得る元素として有効である。上記効果をより確実に得るためには、Sb及び/又はMoの含有量の合計(Sb及びMoのうち1種または2種の含有量の合計)を0.0030%以上とすることが好ましい。SbとMoとは、何れか一方が含有されていてもよく、Sb及びMoの双方が含有されていてもよい。一方、Sb及び/又はMoの含有量の合計が0.30%超過となると、上記効果が飽和する。従って、含有させる場合でも、Sb及び/又はMoの含有量の合計は、0.30%以下とすることが好ましい。Sb及びMoの含有量の合計は、より好ましくは、0.0050?0.25%である。」

カ 「【0029】
(一方向性電磁鋼板の製造工程について)
続いて、本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法が含む製造工程について、詳細に説明する。以下で詳述する製造工程を含む製造方法によれば、トランスなどの鉄心材料に用いられる磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板を安価に提供することが可能となる。
【0030】
<加熱工程>
熱間圧延に先立って、上記の範囲に成分を調整したスラブを加熱する。・・・
【0031】
本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法では、上記のような成分を有するスラブを加熱する際に、スラブを1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、T1℃で5分以上30時間以下保持(均熱)する。その後、スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃(すなわち、T1-T2≧50)まで低下させる。その後に、再びスラブを1280℃?1450℃のT3℃に加熱し、T3℃に5分以上60分以下保持する。T1が1150℃よりも低い、T3が1280℃よりも低い、もしくは、T1℃及び/又はT3℃での保持時間が5分未満と短い場合には、所望の磁気特性を得られない。特に、磁気特性は、再加熱後の保持温度の影響が大きいので、T3は好ましくは1300℃以上である。一方、加熱温度が高すぎると特殊な設備が必要となり、製造コストが増加する。そのため、T3は、好ましくは1400℃以下である。
また、T1℃、又はT3℃での保持時間が長いと生産性が劣化し、製造コストが増加する。そのため、T1℃での保持時間は、30時間以下であり、25時間以下であることが好ましい。また、T3℃での保持時間は、60分以下であり、50分以下であることが好ましい。
また、T1-T2が50℃未満(T1-T2<50)の場合、被膜密着性が劣化する。このメカニズムは明らかではないが、スラブ加熱および熱間圧延中のスケール形成および脱スケールの挙動が変化することで、鋼板の表面性状が変化することに起因すると考えられる。一方、T1-T2が大きすぎると、T2℃からT3℃に加熱するために特殊な設備が必要となる。したがって、T1-T2は200℃以下とするのが好ましい。すなわち、50≦T1-T2≦200であることが好ましい。
本実施形態において、スラブの温度は表面温度である。また、T1℃からT2℃への温度の低下は、空冷(放冷)とすることが好ましい。」

キ 「【0033】
<冷延工程>
冷延工程においては、複数パスを含む冷間圧延を実施し、板厚が0.30mm以下の冷延鋼板を得る。冷延工程後の板厚が0.30mm超過である場合には、鉄損が劣化する。従って、冷延工程後の板厚は、0.30mm以下とする。冷延工程後の板厚は、好ましくは、0.27mm以下である。なお、冷延工程後の板厚の下限値は、特に限定するものではないが、例えば0.10mm以上とすることが好ましく、より好ましくは0.15mm以上である。
【0034】
また、冷延工程においては、パス間において、鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下保持する保持処理(時効処理)を1回以上行う。ただし、上記保持のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での3分以上120分以下の保持処理(時効処理)を、1回以上4回以下行う必要がある。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1)
ここで、上記の式(1)において、[Bi]は、スラブにおけるBiの含有量[単位:質量%]である。
【0035】
時効処理を行わない、時効処理の温度が130℃未満である、又は、保持時間が3分未満である場合には、所望の磁気特性を得られない。一方、時効処理温度を300℃超過とする場合、特殊な設備が必要となり、製造コストが増加するので好ましくない。また、保持時間を120分超過とすると、生産性が劣化して製造コストが増加するので好ましくない。
【0036】
また、上記のような条件の時効処理を1回以上施した場合でも、式(1)を満たす時効処理を含まない、又は、式(1)を満たす時効処理を4回超過実施すると、被膜密着性が劣化する。」

ク 「【0040】
<脱炭焼鈍工程>
冷延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を施す。ここで、脱炭焼鈍の加熱の際の、加熱速度を50℃/秒以上とする。脱炭焼鈍の加熱温度、時間等は、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される条件を採用すればよい。
脱炭焼鈍の際の加熱速度が50℃/秒未満の場合には、所望の磁気特性及び被膜密着性を得ることができない。従って、加熱速度を、50℃/秒以上とする。加熱速度は、好ましくは80℃/秒以上である。加熱速度の上限については、特に限定するものではないが、過度に加熱速度を高めるには特殊な設備が必要となるため、2000℃/秒以下とすることが好ましい。」

ケ 「【0046】
以上のようにして製造される一方向性電磁鋼板は、磁束密度B8の値が1.92T以上と、優れた磁束密度を有し、被膜密着性も良好となる。
加熱条件、最終冷延前の中間焼鈍条件、冷間圧延での時効処理条件、脱炭焼鈍での加熱速度等を適正な範囲にすることで被膜密着性が改善される理由は明らかではないが、鋼板の表面性状の変化に起因すると推察される。」

コ 「【0049】
(参考例1)
C:0.080%、Si:3.20%、Mn:0.07%、S:0.023%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.0090%、Bi:0.0015%を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを、表面温度で、1130℃以上1280℃以下の温度T1℃まで加熱し、5時間保持した。その後、スラブを表面温度で1050℃以上1220℃以下の温度T2℃まで低下させた。その後、スラブを表面温度で1350℃まで昇温して20分保持した。その後、スラブに熱間圧延を行って2.3mm厚の熱延コイルを得た。
そして、上記の熱延コイルに対し、1120℃の温度で20秒保持する中間焼鈍(熱延板焼鈍)を施した後、冷間圧延を行って0.22mm厚の冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に対して、加熱温度が850℃で保持時間が120秒となる条件で脱炭焼鈍を施した。この際の加熱速度は300℃/秒とした。
次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を冷延鋼板に塗布した後、窒素:水素=3:1で構成された雰囲気ガス中で、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0008Nm^(3)/(h・m^(2))として、仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜(絶縁被膜)の塗布を行った。
【0050】
得られた鋼板を利用して、JIS C 2556に規定されている単板磁気測定(SST)により800A/mで磁化した際の磁束密度B8を測定するとともに、被膜の密着性の評価を行った。被膜密着性は、以下の評点A?Dで評価した。すなわち、10φ曲げ試験で剥離しなかった場合をA、20φ曲げ試験で剥離しなかった場合をB、30φ曲げ試験で剥離しなかった場合をC、30φ曲げ試験で剥離した場合をDと評価し、A及びBを合格とした。また、磁束密度B8は、1.92T以上を合格とした。
結果を表1に示す。鋼板No.3、5、6は、本発明範囲を満たす製造方法であり、磁束密度、被膜評点が、目標値を満足している。一方、鋼板No.1は加熱時のスラブ表面温度(T1)が所定の温度よりも低く、所望の磁気特性が得られていない。鋼板No.2は加熱時のスラブ表面温度(T1)が所定の温度よりも低く、かつT1とT2の温度差が小さかったので、所望の磁気特性と被膜評点とが得られていない。鋼板No.4はT1とT2との温度差が所定の範囲よりも小さく、所望の被膜評点が得られていない。」

サ 「【0051】
【表1】



シ 「【0052】
(実施例2)
C:0.080%、Si:3.20%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.024%、N:0.0080%、Bi:0.0007%以上0.015%以下を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを、表面温度で、1200℃(T1℃)まで昇温し、5時間保持した。その後、スラブを、表面温度で1100℃(T2℃)まで低下させた後、1350℃(T3℃)まで昇温して30分保持した後、熱間圧延により2.3mm厚の熱延コイルとした。
【0053】
上記の熱延コイルに対し、1100℃の温度で30秒保持する熱延板焼鈍を施し、時効処理を含む冷間圧延によって0.22mm厚の冷延鋼板とした。この際、時効処理の温度、時間、回数を種々変化させた。
その後、冷延鋼板に対して、850℃で保持時間が150秒となるように脱炭焼鈍を施した。脱炭焼鈍の加熱速度は350℃/秒とした。
次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=3:1で構成された雰囲気ガス中にて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0006Nm^(3)/(h・m^(2))として、仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜塗布を行った。
表2に、Bi含有量と、冷延工程における時効処理条件とを示す。
【0054】
得られた鋼板を利用して、単板磁気測定(SST)により800A/mで磁化した際の磁束密度B8を測定するとともに、被膜の密着性の評価を行った。評価の方法、合格の基準は、参考例1と同じとした。
磁束密度B8及び被膜密着性を示す評点を、表2に示した。」

ス 「【0055】
【表2】



セ 「【0056】
鋼板No.7に示すように、時効処理を施さなかった場合は、所望の磁気特性を得られなかった。鋼板No.8?10に示すように、式(1)を満たす温度での時効処理を施さなかった、又は、回数が多かった場合には、被膜評点がCもしくはDとなり、劣位であった。また、鋼板No.11に示すように、Bi含有量が0.0100%を超えた場合には、被膜評点がCとなり、劣位であった。
【0057】
一方、鋼板No.12?18に示すように、時効処理条件が適正である場合には、磁気特性、被膜評点ともに優れていた。」

ソ 「【0058】
(実施例3)
C:0.078%、Si:3.25%、Mn:0.07%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.0082%、Bi:0.0024%を含有するスラブを、スラブ表面温度が1180℃(T1℃)になるまで加熱し、1時間保持した。その後、スラブ表面温度を1090℃(T2℃)になるまで低下させたのち、スラブ表面温度が1360℃(T3℃)となるまで昇温して45分保持した。その後、スラブを熱間圧延により2.3mm厚の熱延コイルとした。
【0059】
上記の熱延コイルに対し、950℃以上1150℃以下の温度で50秒保持する熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により、板厚0.22mmの冷延鋼板とした。なお、冷間圧延において、160℃の温度で30分保持する時効処理を2回、及び240℃の温度で30分保持する時効処理を1回行った。
その後、この冷延鋼板に対して、820℃で150秒保持する脱炭焼鈍を施した。この際、脱炭焼鈍時の加熱速度を、20℃/秒以上400℃/秒以下とした。次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=2:1で構成された雰囲気ガスにて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0010Nm^(3)/(h・m^(2))として仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜塗布を行った。
【0060】
また、得られた鋼板の磁束密度B8及び一次被膜の被膜評点を、上記参考例1、実施例2と同様にして評価した。結果を表3に示す。また、脱炭焼鈍での加熱速度と熱延板焼鈍温度との好ましい範囲を、図3に示す。」

タ 「【0061】
【表3】



チ 「【0062】
鋼板No.19?20に示すように、熱延板焼鈍温度が低いと、被膜評点がCとなり、劣位であった。また、鋼板No.21に示すように、脱炭焼鈍での加熱速度が遅いと、磁気特性及び被膜評点の双方が劣位であった。
【0063】
一方で、鋼板No.22?26に示すように、熱延板焼鈍条件と脱炭焼鈍での加熱速度とが適正な範囲である場合には、磁気特性及び被膜評点ともに優れていた。」

ツ 「【0064】
(参考例4)
表4に示す成分のスラブ(残部Feおよび不純物)を、表面温度が1210℃(T1℃)になるまで加熱し、2時間保持した。その後、表面温度を1100℃(T2℃)に低下させた後、表面温度を1320℃以上1450℃以下の温度(T3℃)まで加熱し、10分保持した後、熱間圧延を施して板厚2.0mm以上2.4mm以下の熱延鋼板とした。これらの熱延鋼板に、1000℃以上1150℃以下の温度で10秒保持する中間焼鈍(熱延板焼鈍)を施した。これらの焼鈍鋼板の一部を冷間圧延によって板厚0.22mmとし、残りは板厚1.9mm以上2.1mm以下の中間板厚とし、1080℃以上1100℃以下の温度で20秒保持する中間焼鈍を施した後、冷間圧延によって板厚0.22mmとした。なお、最終板厚とする冷間圧延において、160℃の温度で20分保持する時効処理を1回及び250℃の温度で5分保持する時効処理を1回施した。その後、これらの冷延鋼板に800℃の温度で180秒保持する脱炭焼鈍を施した。
次に、冷延鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=1:2で構成された雰囲気ガス中にて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積が0.0025Nm^(3)/(h・m^(2))となるようにして仕上げ焼鈍を施した。
その後、二次被膜塗布及びレーザー照射による磁区細分化処理を施した。
・・・
【0066】
表5に、各工程における処理条件を示す。また、磁束密度B8及び被膜評点を、上記参考例1及び実施例2?3と同様にして評価した結果を、併せて表5に示す。」

テ 「【0067】
【表5】



ト 「【0068】
表5から明らかなように、鋼板No.27?34は、成分及び製造工程の条件が所定の範囲内であるため、所望の磁気特性及び被膜評点を得ることができた。」

(3)当審の判断
ア 取消理由1(1)(実施可能要件)について
(ア)特許権者は、令和 元年10月28日提出の意見書の「5 意見の内容(4)取消理由1(1)(実施可能要件)について」において、「ここで重要なのはスラブの温度履歴を制御することであり、その方法は特に限定されるものではない。そもそも、熱処理工程において加熱や冷却という処理は、通常行われる処理であり、その具体的手段は多くの公知の技術が存在している。本件発明においても通常知られた方法によってT1℃からT2℃へ温度を低下させるものである。・・・しかしながら、当該分野において、スラブ加熱温度を制御することは通常行われており、また、加熱炉抽出後、圧延開始までの温度低下等を考慮して、スラブ加熱温度が決定されることも多い。・・・すなわち、当業者であれば、スラブ加熱時または冷却時のスラブの温度変化を予測できるものであって、そのため、本件特許明細書の記載を見た当業者は、過度の試行錯誤を要することなく、適宜温度履歴に沿った機構を決定して発明を実施することができるものである。」と主張している。

(イ)また、特許権者は、令和 元年12月27日提出の上申書の「4 上申の内容」において、『第5版 鉄鋼便覧 第2巻 圧延・二次加工 98?99頁(一般社団法人日本鉄鋼協会、2014年8月31日発行)』(参考資料1)の「図3・50 鋼板放冷カーブ」を示しつつ、「板厚が80mmの場合、温度域にもよるが、600℃から500℃までの冷却にかかる時間はおよそ10分程度である。このように、スラブのようにある程度の厚みを持った鋼板が一瞬で冷却されることはなく、放冷(空冷)であれば、一定の時間を要するものである。・・・すでに意見書で説明したように加熱したスラブを炉から外気中に出して空気に触れさせることによりスラブを冷却する。そして上記のようにスラブを空冷することにより冷却する場合の一般的な冷却挙動は知られているのであるから、どの程度外気に触れればどの程度冷却されるかは、板厚等スラブの大きさや冷却開始温度などが定まれば所望の温度まで冷却させることは以下のように容易に管理できるものである」と述べるとともに、実施例2の条件に基づいて、スラブがどのように冷却されるか計算した結果を示すことにより、「1200℃で加熱したスラブを1100℃まで冷却するには、今回のような加速条件下のモデルであっても少なくとも50秒程度を要するものであって、一瞬で冷却されるようなことはない。」と述べ、さらに、「以上のように、当業者であれば、スラブ加熱時または冷却時のスラブの温度変化を予測できるものであって、そのため、本件特許明細書の記載を見た当業者は、過度の試行錯誤を要することなく、適宜温度履歴に沿った機構を決定して発明を実施することができるものである。」と述べている。

(ウ)そこで、上記意見書における主張及び上記上申書における上申の内容を参酌しつつ、以下、検討する。

(エ)上記(イ)のとおり、上記参考資料1の記載を参酌すれば、スラブのようにある程度の厚みを持った鋼板が一瞬で冷却されることはなく、特に放冷(空冷)であれば、一定の時間を要するものであることは、本件特許の出願時における技術常識といえる。そうであるとすれば、当業者にとって、スラブの冷却時における温度変化を予測することに格別の困難性が存在するとまではいえず、スラブの温度履歴に沿った機構を決定して所望の冷却を行うことは、十分可能なことといえる。

(オ)確かに、本件発明1?5は、「スラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、1時間以上30時間以下保持した後、前記スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃まで低下させ」ることを特定している一方で、本件明細書では、実施例について、T1℃からT2℃へ温度を低下させるための具体的な手段が明らかにされていない。

(カ)しかしながら、上記(エ)のとおり、本件特許の出願時における技術常識を前提とすれば、本件明細書にスラブの温度をT1℃からT2℃へ低下させる具体的な手段が開示されていないからといって、本件発明1?5を当業者が実施しようとした場合に、過度の試行錯誤を要するとまではいえず、十分実施可能であるといえる。

(キ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?5について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

(ク)よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

イ 取消理由1(2)(委任省令要件)及び取消理由2(2)(サポート要件)について
(ア)本件発明が解決しようとする課題について、上記(2)イのとおり、本件明細書の【0010】には、「本発明の目的は、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能な、一方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。」と記載されており、したがって、本件発明が解決しようとする課題は、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能な、一方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにあるといえる。

(イ)そして、上記(ア)の課題を解決するために手段に関して、上記(2)キのとおり、本件明細書の【0034】?【0036】には、「冷延工程においては、パス間において、鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下保持する保持処理(時効処理)を1回以上行う。ただし、上記保持のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での3分以上120分以下の保持処理(時効処理)を、1回以上4回以下行う必要がある。
170+[Bi]×5000≦T≦300・・・(1)
ここで、上記の式(1)において、[Bi]は、スラブにおけるBiの含有量[単位:質量%]である。」、「時効処理を行わない、時効処理の温度が130℃未満である、又は、保持時間が3分未満である場合には、所望の磁気特性を得られない。一方、時効処理温度を300℃超過とする場合、特殊な設備が必要となり、製造コストが増加するので好ましくない。また、保持時間を120分超過とすると、生産性が劣化して製造コストが増加するので好ましくない。」、「また、上記のような条件の時効処理を1回以上施した場合でも、式(1)を満たす時効処理を含まない、又は、式(1)を満たす時効処理を4回超過実施すると、被膜密着性が劣化する。」と記載されている。

(ウ)他方、本件発明1?5では、「前記冷延工程では、前記複数パスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行」うこと、及び、「前記保持処理のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下であり、・・・
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1)
ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。」ことが特定されている。

(エ)ここで、上記(2)コ、サのとおり、本件明細書の【0049】?【0051】に記載された「参考例1」では、「発明例」として、所望の磁気特性及び被膜密着性を得たものが記載されているが、当該参考例1は、冷延工程において「保持処理」を行ったものであるかどうかは明らかではない。

(オ)しかしながら、本件発明1?5における冷延工程における「保持処理(時効処理)」が、生産性を確保し、製造コストを抑制しつつ、所望の磁気特性を得るために必要な処理であるとの技術上の意義を有することは十分理解できるといえる。

(カ)また、本件発明1?5において特定された、冷延工程における上記「保持処理」は、上記(ア)の課題を解決するために必要な技術的事項として発明の詳細な説明において具体的に裏付けられているともいえる。

(キ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?5について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
また、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(ク)よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

ウ 取消理由2(1)(サポート要件)について
(ア)上記イ(ア)の課題を解決するための手段に関して、上記(2)カのとおり、本件明細書の【0031】には、スラブ加熱温度T1℃の保持時間について、「本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法では、上記のような成分を有するスラブを加熱する際に、スラブを1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、T1℃で5分以上30時間以下保持(均熱)する。・・・T1℃・・・での保持時間が5分未満と短い場合には、所望の磁気特性を得られない。・・・また、T1℃・・・での保持時間が長いと生産性が劣化し、製造コストが増加する。そのため、T1℃での保持時間は、30時間以下であり、25時間以下であることが好ましい。」と記載される一方、上記(2)シ?チのとおり、【0052】?【0063】に記載される実施例では、T1℃での保持時間について、実施例2では「5時間」、実施例3では「1時間」保持したものについて、「1.92T以上」の「磁束密度B8」を達成したことが記載されている。

(イ)ここで、上記【0031】の記載から、スラブ加熱温度T1℃の保持時間の上限については、生産性との関係で選択されるものであるが、同下限については、磁気特性に影響する製造条件であるから、本件明細書の発明の詳細な説明において、上記イ(ア)の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲は、スラブ加熱温度T1℃の保持時間について少なくとも「1時間」以上としたものであるといえる。

(ウ)一方、本件発明1?5は、「・・・スラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、1時間以上30時間以下保持した後、前記スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃まで低下させ、その後、前記スラブを、1280℃以上1450℃以下のT3℃に加熱し、5分以上60分以下保持する加熱工程と;・・・」との発明特定事項を備えるものであるので、本件発明1?5には、スラブ加熱温度T1℃の保持時間について、「1時間」より短い時間のもの、すなわち、発明の課題を解決しないものは含まれないといえる。

(エ)したがって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものではないから、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(オ)よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

エ 取消理由3(明確性要件)について
(ア)上記(2)スのとおり、発明の詳細な説明の実施例2の【表2】には、「発明例」として記載されている「鋼板No.17」に関し、「Bi含有量[%]」として、「0.0080」と記載され、「時効処理条件」として、「160℃15分×4回+290℃15分×4回」と記載され、「130℃-300℃の時効処理回数」である「8」と記載され、「式(1)を満たす時効処理回数」として、「4」と記載されている。

(イ)ここで、Bi含有量として「0.0080%」を式(1)に代入して計算すると、170+0.0080×5000=210≦T≦300となるので、この条件を満たす温度である290℃で行った時効処理回数である「4」が、「式(1)を満たす時効処理回数」であり、「130℃-300℃の時効処理回数」は「8」であるところ、上記(ア)のとおり、【表2】の「鋼板No.17」に関して、「130℃-300℃の時効処理回数」として、「8」と記載され、「式(1)を満たす時効処理回数」として、「4」と記載されているから、これらの記載は、【表2】の「鋼板No.17」に関する「時効処理条件」の記載と整合するものである。

(ウ)また、上記(2)スのとおり、発明の詳細な説明の実施例2の【表2】には、「発明例」として記載されている「鋼板No.18」に関し、「Bi含有量[%]」として、「0.0030」と記載され、「時効処理条件」として、「160℃90分×1回+250℃5分×3回」と記載され、「式(1)を満たす時効処理回数」として、「3」と記載されている。

(エ)ここで、Bi含有量として「0.0030%」を式(1)に代入して計算すると、170+0.0030×5000=185≦T≦300となるので、この条件を満たす温度である250℃で行った時効処理回数である「3」が、「式(1)を満たす時効処理回数」であり、「130℃-300℃の時効処理回数」は「4」となるところ、上記(ア)のとおり、【表2】の「鋼板No.18」に関して、「130℃-300℃の時効処理回数」として、「4」と記載され、「式(1)を満たす時効処理回数」として、「3」と記載されているから、これらの記載は、【表2】の「鋼板No.18」に関する「時効処理条件」の記載と整合するものである。

(オ)上記(イ)、(エ)のとおりであるから、本件明細書の【表2】の「鋼板No.17」及び「鋼板No.18」に関する記載には、何ら不整合は生じておらず、本件発明1?5の「式(1)を満たす時効処理回数」の意味は明確であるといえる。

(カ)したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1?5について、特許を受けようとする発明が明確に把握できるものであり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

(キ)よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

オ 取消理由4(委任省令要件)及び取消理由5(サポート要件)について
(ア)上記イ(ア)の課題を解決するために手段に関して、上記(2)クのとおり、本件明細書の【0040】には、「脱炭焼鈍の際の加熱速度が50℃/秒未満の場合には、所望の磁気特性及び被膜密着性を得ることができない。従って、加熱速度を、50℃/秒以上とする。」と記載されており、他方、本件発明1?5には、「前記脱炭焼鈍工程における加熱速度が、50℃/秒以上である」ことが特定されている。

(イ)ここで、上記(2)ツ?トのとおり、本件明細書の【0064】?【0068】に記載された「参考例4」では、「発明例」として、所望の磁気特性及び被膜密着性を得たもの(鋼板No.27?34)が記載されているが、当該参考例4は、上記脱炭焼鈍工程に加熱速度を「50℃/秒以上」としたものかどうかは明らかではない。

(ウ)しかしながら、本件発明1?5において、脱炭焼鈍工程の加熱速度を50℃/秒以上とすることが、所望の磁気特性及び被膜密着性を得るために必要な処理であるとの技術上の意義を有することは十分理解できるといえる。

(エ)また、本件発明1?5において特定された、脱炭焼鈍工程の加熱速度を50℃/秒以上とすることは、上記イ(ア)の課題を解決するために必要な技術的事項として発明の詳細な説明において具体的に裏付けられているともいえる。

(オ)なお、申立人は、令和 2年 1月 6日提出の意見書において、本件訂正によって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていた「実施例1」及び「実施例4」が、それぞれ「参考例1」及び「参考例4」と訂正されたことに伴い、本件発明1?5のうち、鋼組成が「Sn」、「Cu」、「Sb」及び「Mo」の各々を含有する場合について、所望の磁気特性及び被膜密着性が得られることを具体的に実証したものは存在しないこととなり、そのため、本件発明1?5の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張しているので、この点について以下、検討する(なお、以下において、「%」は「質量%」を意味する。)。

a.上記(2)シのとおり、「実施例2」の鋼組成は、「C:0.080%、Si:3.20%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.024%、N:0.0080%、Bi:0.0007%以上0.015%以下を含有し、残部がFe及び不純物」であり、また、上記(2)ソのとおり、「実施例3」の鋼組成は、「C:0.078%、Si:3.25%、Mn:0.07%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.0082%、Bi:0.0024%を含有する」ものであり、いずれの実施例も「Sn」、「Cu」、「Sb」及び「Mo」のいずれかを含有するものではない。

b.一方、上記(2)ツ?トのとおり、「参考例4」の鋼組成は、「表4に示す成分のスラブ(残部Feおよび不純物)」であって、「鋼A」は、「0.03%のSb」を含有し、「鋼B」は、「0.10%のSn」を含有し、「鋼C」は、「0.06%のSn」及び「0.10%のCu」を含有し、「鋼D」は、「0.01%のSb」及び「0.02%のMo」を含有し、「鋼E」は、「0.02%のMo」を含有し、「鋼F」は、「0.15%のCu」を含有するものであり、上記「鋼A」乃至「鋼F」を加工して得た「鋼板No.27?34」については、所望の磁気特性及び被膜密着性が得られている。

c.ここで、上記(イ)のとおり、上記「参考例4」は、「脱炭焼鈍工程における加熱速度が、50℃/秒以上」としたものかどうかは明らかではないものの、「実施例2」及び「実施例3」の鋼組成のものと比較したときに、「Sn」、「Cu」、「Sb」及び「Mo」の添加の有無が磁気特性や被膜密着性に大きく影響しているとまではいえない。また、上記(2)オのとおり、本件明細書の【0026】?【0028】には、上記「Sn」、「Cu」、「Sb」及び「Mo」が、任意に付加することができる元素であることが記載されている。

d.そうすると、上記のとおり、本件発明1?5のうち、鋼組成が「Sn」、「Cu」、「Sb」及び「Mo」の各々を含有する場合について、所望の磁気特性及び被膜密着性が得られることを具体的に実証したものは存在しないとはいえ、「実施例2」及び「実施例3」において、所望の磁気特性及び被膜密着性が得られているのであれば、本件明細書の【0026】?【0028】の記載のほか、「参考例4」で得られた結果も考慮すれば、これに「Sn」、「Cu」、「Sb」及び「Mo」を付加したものであっても、同様の磁気特性及び被膜密着性が得られるであろうことは、当業者であれば十分に予測し得ることである。

e.したがって、本件発明1?5は、その範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を十分に拡張ないし一般化できるものであって、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものではないから、発明の詳細な説明に記載したものである。

f.よって、上記主張は、採用しない。

(カ)以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?5について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
また、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(キ)よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

4 取消理由としなかった申立理由について
(1)申立理由1について
ア 刊行物の記載事項及び刊行物発明
(ア)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-303131号公報(甲第1号証)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与したものである。以下、同様。)。

a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、変圧器や発電機等の鉄心に用いて好適な方向性電磁鋼板の製造方法に関し、特に表面性状および磁気特性の有利な改善を図ろうとするものである。」

b.「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、公知のインヒビターとりわけAlとNと共に、Biを併せて含有する方向性電磁鋼板を製造する場合における2次再結晶の不安定性を解消して、極めて高い磁束密度B8が得られるだけでなく、Bi含有鋼に本質的に内在する被膜特性不良を効果的に解消することができる、表面欠陥が極めて少なくかつ磁気特性に優れる高磁束密度方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。」

c.「【0010】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、Biの2次再結晶および被膜形成に及ぼす影響について鋭意研究を進めた結果、熱間圧延工程における温度履歴が被膜特性および磁気特性に対して極めて重要であることを新たに知見し、本発明の完成させるに至ったのである。
【0011】すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.Si:2.5 ?4.5 mass%と、CとNiのうちから選んだ1種または2種を0.03≦C+(Ni/30) ≦0.10mass%の範囲で含み、かつBi:0.005 ?0.05mass%と、インヒビター元素を含有する組成になる鋼スラブを、熱間圧延、冷間圧延および熱処理を組み合わせた一連の工程によって処理してなる方向性電磁鋼板の製造方法において、熱間圧延に際し、粗圧延開始前に、1125℃以上の温度で1時間以上、10時間以下の加熱処理を、平均酸素濃度:100 ?50000 ppm の雰囲気中で行い、かつ粗圧延開始から仕上げ圧延終了までの時間を30秒以上 300秒以内とし、しかも上記の圧延中、圧延材の表面温度を板厚中心温度より常に低い状態に保持することを特徴とする、表面欠陥が極めて少なくかつ磁気特性に優れる高磁束密度方向性電磁鋼板の製造方法。」

d.「【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の基礎となった実験結果について説明する。まず、Bi添加鋼の磁気特性に及ぼす熱延条件の影響を明らかにする目的で、次の実験を行った。なお、以後、各元素の含有量の表示に用いる「%」は、特に断わりがない限り質量百分率(mass%)を表すものとする。C:0.06%, Si:3.33%, Mn:0.06%, Se:0.024 %, Al:0.028 %, N:0.0090%, Bi:0.025 %およびCu:0.08%を含有する組成になる連鋳スラブを、表1に示す種々のスラブ加熱条件および熱延条件で 2.7mm厚の熱延板とした。スラブ加熱は、ガス加熱炉で加熱後、引き続き電気式(誘導式)加熱炉で加熱した。ついで、950℃,1分間の熱延板焼鈍を施し、急冷処理を経てから、酸洗し、ついで冷間圧延により1.8mmの中間厚としたのち、1120℃,120 秒間の中間焼鈍および35℃/sの冷却速度での急冷処理を経て、 200℃の温間圧延を含む冷間圧延(圧延ロール径:70mm)によって最終板厚:0.22mmの冷延板に仕上げた。その後、840℃で2分間の脱炭焼鈍後、860 ℃で表面層をSiO_(2)に還元した後、MgOを主成分とする焼純分離剤を片面当たり6g/m^(2)塗布してから、窒素雰囲気中で 850℃まで8℃/hの速度で昇温し、その後窒素:25 vol%と水素:75 vol%の雰囲気中にて10℃/hの昇温速度で1200℃まで加熱し、1200℃で5時間のH_(2)純化焼鈍を行った。
【0016】かくして得られた方向性電磁鋼板の磁気特性および被膜特性について調べた結果を、表2に示す。なお、磁気特性は、800 A/m で磁化したときの磁束密度B8(T)および磁束密度:1.7 T、周波数:50Hzにおける鉄損W17/50(W/kg) で評価した。また、被膜特性は、製品板を丸棒に巻付けた時の被膜の剥離限界直径で判断する曲げ剥離特性で評価した。」

e.「【0017】
【表1】



f.「【0018】
【表2】



g.「【0033】Bi:0.005 ?0.05%
Biの添加は、本発明の特徴の一つである。ここに、Bi量が 0.005%未満では、上記したような期待する効果が得られず、一方0.05%を超えると均一分散が困難となるので、Biは 0.005?0.05%の範囲で含有させるものとした。なお、このBiは、酸化反応を強く抑制し、脱炭焼鈍板に形成されるSiO_(2)の形態を大きく変えてしまうため、従来技術の延長では被膜生成が困難になると予想された元素である。」

h.「【0037】また、インヒビター補強元素については次のとおりである。すなわち、Cu,Sn, Sb, Mo, B, As, Te, PおよびB等は、公知のインヒビターの抑制力を強化する補助的働きを有するので、鋼中に随時添加することが好ましい。このために必要な好適添加量については、Cu, Snは0.05?0.5 %、Sb, As, Mo, Te, Pは 0.005?0.10%、Bは0.0010?0.01%である。その他の添加元素については、例えばGe, Co等は、鋼板の表面性状を改善する効果があるので適宜含有させることが好ましい。」

i.「【0041】冷延工程については、熱延板焼鈍後、1回の冷間圧延により最終板厚とする冷延1回法、または必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施す冷延2回法を採用できる。冷間圧延の圧下率については、従来公知なように冷延2回法の第1回目の圧延は15?60%程度とすることが好ましい。というのは、圧下率が15%未満の場合は圧延再結晶の機構が作用せず結晶組織の均一化が得られず、一方60%を超えると集合粗繊の集積化が起り第2回目の圧延の効果が得られなくなるからである。また、最終圧延の圧下率は80?90%程度とすることが好ましい。というのは、圧下率が90%を超えた場合、2次再結晶が困難となり、一方80%未満では良好な2次再結晶粒の方位が得られず製品の磁束密度が低下するからである。」

j.「【0043】さらに、最終冷間圧延を、公知のように 100?350 ℃での温間圧延としたり、または100?350 ℃で10?60分間のパス間時効処理を付加することにより、1次再結晶の集合組織を一層改善することができる。また、最終冷間圧延後、公知のように磁区細分化のため鋼板表面に線状の溝を設ける処理を行うことも可能である。
【0044】ついで、最終板厚とした鋼板は、公知の手法による脱炭・1次再結晶焼鈍を施したのち、MgOを主成分とする焼純分離剤を鋼板表面に塗布してから最終仕上げ焼鈍に供されるが、その時Ti化合物を添加したり、CaやBを焼鈍分離剤中に含有させることは磁気特性をさらに向上させる効果があり、好ましい。
【0045】最終仕上げ焼鈍において、昇温途中少なくとも1050℃以上、好ましくは 900℃以上の温度域については、H_(2)を含有する雰囲気中で昇温することが必要である。すなわち、H_(2)雰囲気は、最終仕上げ焼鈍中に形成される被膜中の酸化物や窒化物の形成に重要な作用を及ぼし、900℃以上の焼鈍の中期から後期において特に還元性を強めておくことが有効である。最終仕上げ焼鈍後は、未反応分離剤を除去したのち、鋼板表面に絶縁コーティングを塗布して製品とするが、必要に応じてコーティング塗布前に鋼板表面を鏡面化してもよいし、また絶縁コーティングとして張力コーティングを用いてもよい。さらに、コーティングの塗布焼き付処理を平坦化処理と兼ねてもよい。また、2次再結晶後の鋼板には鉄損低減効果を得るため、公知の磁区細分化処理、すなわちプラズマジェットやレーザー照射を線状領域に施したり、突起ロールによる線状のへこみ領域を設けたりする処理を施すこともできる。」

k.「【0058】
【表8】



(イ)甲第1号証に記載された発明
上記(ア)の各摘記事項を総合勘案し、特に【表1】、【表2】の「No.6」に着目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲第1号証発明」という。)。

「質量%で、
C:0.06%、
Si:3.33%、
Mn:0.06%、
Se:0.024%、
Al:0.028%、
N:0.0090%、
Bi:0.025%、
Cu:0.08%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを、
ガス加熱炉において、最高温度が1170℃で、かつ1125℃以上の時間が1.0時間となるように加熱した後、引き続き電気式(誘導式)加熱炉において、最高温度が1450℃で、かつ1125℃以上の時間が0.8時間となるように加熱し;
所定の条件で熱延して、2.7mm厚の熱延板とし;
ついで、950℃,1分間の熱延板焼鈍を施し、急冷処理を経てから、酸洗し、ついで冷間圧延により1.8mmの中間厚としたのち、1120℃,120 秒間の中間焼鈍および35℃/sの冷却速度での急冷処理を経て、200℃の温間圧延を含む冷間圧延(圧延ロール径:70mm)によって最終板厚:0.22mmの冷延板に仕上げ;
その後、840℃で2分間の脱炭焼鈍し;
860 ℃で表面層をSiO_(2)に還元した後、MgOを主成分とする焼純分離剤を片面当たり6g/m^(2)塗布し;
窒素雰囲気中で850℃まで8℃/hの速度で昇温し、その後窒素:25 vol%と水素:75 vol%の雰囲気中にて10℃/hの昇温速度で1200℃まで加熱し、1200℃で5時間のH_(2)純化焼鈍を行う;
各工程を備えた方向性電磁鋼板の製造方法。」

(ウ)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平-87316号公報(甲第2号証)には、以下の事項が記載されている。

a.「【特許請求の範囲】
1、含けい素鋼スラブを1380℃以上の温度に加熱した後、熱間圧延を施し、その後1回もしくは中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施したのち、脱炭焼鈍を施し、次いで鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布してから仕上焼鈍を施す一連の工程によって方向性けい素鋼板を製造するに当たり、
上記のスラブ加熱段階において、スラブ表面温度が1230?1350℃の温度域に到達した時点で、一旦該スラブを表面温度で50?150℃低下させ、しかるのちスラブ中心温度で1400℃以上の温度まで再加熱することを特徴とする磁気特性の安定した方向性けい素鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)

b.「(実施例)
実施例1
連続鋳造によって得たC:0.037%、Si:3.25%、Mn:0.077%およびS:0.017%を含有し、残部実質的にFeの組成になる厚さ200mmのけい素鋼スラブ25本を、熱間圧延に先立ち、ガス燃焼式加熱炉で12QO℃まで加熱した後、スラブ誘導加熱炉にて、高温加熱した。その際、5グループに分けて、それぞれ
第1グループ: 1200℃まで表面温度を昇温させた後、-時冷却し、再び昇温開始、
第2グループi 1230℃まで表面温度を昇温させた後、-時冷却し、再び昇温開始、
第3グループ: 1280℃まで表面温度を昇温させた後、-時冷却し、再び昇温開始、
第4グループ: 1350℃まで表面温度を昇温させた後、-時冷却し、再び昇温開始、
第5グループ: 1380℃まで表面温度を昇温させた後、-時冷却し、再び昇温開始させた。
また各グループについて一時冷却の温度降下分を20℃、50℃,100℃,150℃,200℃と変更した。
ついで各スラブは、1430℃で30分間の保持を行った後、常法に従って2.6mm厚の熱延鋼帯に仕上げた。各熱延鋼帯は、酸洗後、冷間圧延で0.80mmの中間厚となし、次いで900℃で2分間の中間焼鈍を行った後、冷間圧延で0.30mmの最終板厚に仕上げた。
その後、湿水素中で800℃,3分間の脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布してから、水素中で1200℃、15時間の仕上焼鈍を施した。
かくして得られた最終製品の磁気特性についてコイルの位置による変動を評価するため、コイルの長手方向で400mごとにサンプルを採取し、これらの平均値と標準偏差を求めた。その結果を表2に示す。
表2から明らかなように、この発明に従って得られた製品の磁気特性はコイルの位置によらず均一でかつ優れたものであることがわかる。
さらに、スラブ加熱昇温時の適性条件として、温度降下開始時の表面温度として1230?1350℃が良く、この時の温度降下量としては50?150℃とすべきであることがわかる。」(第5頁左上欄第5行?第6頁左上欄第7行)

c.「



(エ)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭-37917号公報(甲第3号証)には、以下の事項が記載されている。

a.「【特許請求の範囲】
1、燃焼炉と誘導加熱炉とに鋼材を順次通して所定の温度に均熱するに当り、
誘導加熱炉装入前に、鋼材表面の温度分布を測定し、その測定値から局部的な低温域の温度平準化に必要な、投入熱量および加熱時時間を演算すること、
得られた結果に基づき該低温域に局部加熱を施して、上記温度分布を均一にすること、しかるのち、誘導加熱炉による急熱を施すこと
の結合を特徴とする鋼材の均熱昇温制御方法。」(特許請求の範囲)

b.「第1図は、この発明による均熱昇温制御系統図であり、Aは燃焼炉、Bは鋼材、Cは放射温度計からなる測温装置、Dは演算器で上位プロセスコンピュタ-(図示省略)と接続されている。またEは、補助加熱熱手段であり、この例では誘導加熱コイルを用いている。そしてFは誘導加熱炉である。」(第2頁左上欄第17行?同頁右上欄第3行)

c.「(実施例)
第8図にこの発明に従う鋼材の均熱昇温制御方法の具体的な適用の一例を図解し、横軸に時間、縦軸に温度をとって、実線にて鋼材表面の一般的な温度(イ)の推移、また破線にて局部低温域(ロ)の推移を区別して示した。
この事例で、温度域(イ)はスキッド中間部、そして温度域(ロ)はスキッド接触部に相当し、それぞれの板厚方向平均温度の較差Δtが60℃であることが、燃焼炉から抽出した時点の計測によって検出された。このハンドリングに2分を要しこの間、各温度域(イ)(ロ)とも、放冷によりやや降温する。
温度域(ロ))に対し誘導加熱コイルをもってする局部加熱によってその板厚方向平均温度につき25°Cだけ所要加熱時間70秒にて昇温すると、温度域(イ)は放冷による降温により上記温度較差は局部加熱の完了の際に15℃となった。つまり温度域(イ)は20℃の降温、同(ロ)は25℃の昇温を生じたわけである。引続き1分のハンドリングにて誘導炉に装入して1250℃の均熱温度まで80分にわたって急熱し、その後5分間均熱保持を行ったところ、上記の温度較差は、さらに縮って、5?10℃となった。」(第3頁右上欄第16行?同頁左下欄第18行)

d.「



(オ)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-96520号公報(甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。

a.「【請求項1】 質量%で、C:0.10%以下、Si:2?7%、Mn:0.02?0.30%、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種の合計:0.001?0.040%、酸可溶性Al:0.010?0.065%、N:0.0030?0.0150%、Bi:0.0005?0.05%を基本成分とし、残部Feおよび不可避的不純物よりなる一方向性電磁鋼熱延板に、必要に応じて焼鈍を施し、1回あるいは2回以上または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行い、脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布、乾燥し仕上げ焼鈍を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、最終板厚まで冷延された鋼板を、700℃以上の温度域へ10秒以内あるいは100℃/s以上の加熱速度により加熱後、脱炭焼鈍を行うことを特徴とする皮膜特性と高磁場鉄損に優れる高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。」

b.「【0066】
さらに、得られたストリップを脱炭焼鈍する際、850℃まで昇温した際の、300℃?850℃までの昇温速度を300℃/秒で加熱後、840℃の均一温度、湿潤水素中で脱炭焼鈍した。その後、MgO:100重量部に対して、TiO_(2):15重量部とした焼鈍分離剤を片面当り8g/m^(2)塗布して、最高到達温度1200℃で20時間、水素ガス雰囲気中で高温焼鈍を施した。得られた鋼板の余剰MgOを除去し、形成されたフォルステライト皮膜上にコロイダルシリカと燐酸塩を主体とする絶縁皮膜を形成し、製品とした。得られた製品の皮膜密着性(コイル板幅方向中央部で評価)は、30mmφの丸棒に沿って製品を曲げても皮膜の剥離はなく、また、磁束密度:1.95Tという良好な磁気特性を示した。
<実施例2>
質量%で、C:0.075%、Si:3.25%、Mn:0.083%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.0085%を含有し、かつBi:0.0060%を含有するすスラブを、1350℃で加熱した後、2.3mm厚にまで熱間圧延した熱延板に1100℃で1分間焼鈍を施した。この後、冷間圧延により最終板厚0.22mmに圧延した。
【0067】
さらに、得られたストリップを脱炭焼鈍する際、850℃まで昇温した際の、300℃?850℃までの昇温速度を20、300℃/秒の2水準とし、850℃での予備焼鈍時間を0.5、10、30秒の3水準として昇温予備焼鈍した後、840℃の均一温度、湿潤水素中で脱炭焼鈍した。その後、MgO:100重量部に対して、TiO_(2):15重量部とした焼鈍分離剤を片面当り 8g/m^(2)塗布して、最高到達温度1200℃で20時間、水素ガス雰囲気中で高温焼鈍を施した。得られた鋼板の余剰MgOを除去し、形成されたフォルステライト皮膜上にコロイダルシリカと燐酸塩を主体とする絶縁皮膜を形成し、製品とした。皮膜密着性はコイル板幅方向中央部で評価し、20mmφの丸棒に沿って製品を曲げても皮膜剥離しない場合をA、30mmφの丸棒に沿って製品を曲げても剥離しない場合をB、剥離をする場合をC、コイル展開時に剥離したものをDとした。表2に示すように、本発明条件を満足する条件で製造されたコイルは、皮膜特性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板となっている。」

c.「【0068】
【表2】



イ 対比・判断
(ア)そこで、本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明において、スラブをガス加熱炉及び電気式(誘導式)加熱炉で加熱する工程は、本件発明1の「加熱工程」に対応し、以下同様に、甲第1号証発明の「熱延」、「冷間圧延」、「中間焼鈍」、「脱炭焼鈍」、「焼鈍分離剤」を塗布すること、及び「H_(2)純化焼鈍」は、それぞれ、本件発明1の「熱延工程」、「冷延工程」、「中間焼鈍工程」、「脱炭焼鈍工程」、「焼鈍分離材塗布工程」、及び「仕上げ焼鈍工程」に対応する。

(イ)また、本件発明1の「スラブ」と、甲第1号証発明の「スラブ」とは、「質量%で、C:0.030?0.150%、Si:2.50?4.00%、Mn:0.02?0.30%、S及びSeの1種または2種:合計で0.005?0.040%、酸可溶性Al:0.015?0.040%、N:0.0030?0.0150%、Cu:0?0.20%、及びBiを含有し、残部がFe及び不純物からなる」ものである点で共通する。

(ウ)そうすると、本件発明1と甲第1号証発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「質量%で、
C:0.030?0.150%、
Si:2.50?4.00%、
Mn:0.02?0.30%、
S及びSeの1種または2種:合計で0.005?0.040%、
酸可溶性Al:0.015?0.040%、
N:0.0030?0.0150%、
Cu:0?0.20%、
及びBiを含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、1時間以上30時間以下保持した後、前記スラブを、1280℃以上1450℃以下のT3℃に加熱し、5分以上60分以下保持する加熱工程と;
加熱された前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板を得る熱延工程と;
前記熱延鋼板に、複数パスの冷間圧延を行って板厚0.30mm以下の冷延鋼板を得る冷延工程と;
前記冷延工程前、または、前記冷延工程を一旦中断して前記冷延工程の最終パスより前に、前記熱延鋼板に少なくとも1回の中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と;
前記冷延鋼板を脱炭焼鈍する脱炭焼鈍工程と;
前記脱炭焼鈍後の前記冷延鋼板に焼鈍分離材を塗布する焼鈍分離材塗布工程と;
前記焼鈍分離材塗布工程後の前記冷延鋼板に仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と;
を有し、
前記中間焼鈍工程では、1000℃以上1200℃以下の温度で5秒以上180秒以下保持する前記中間焼鈍を行う、
ことを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。」

(エ)一方、本件発明1と甲第1号証発明とは、次の各点で相違する。
<相違点1>
本件発明1のスラブは、Biを質量%で「0.0003?0.0100%」含有するのに対して、甲第1号証発明のスラブは、Biを「0.025%」含有する点。

<相違点2>
本件発明1のスラブは、Snを質量%で「0?0.50%」、Sb及びMoの1種または2種を質量%で「0?0.30%」、それぞれ含有するのに対して、甲第1号証発明のスラブは、Sn、Sb及びMoの1種または2種をどの程度含有するのか不明な点。

<相違点3>
加熱工程において、本件発明1は、スラブをT1℃に加熱した後、前記スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃まで低下させ、その後、T3℃に加熱、保持する工程を有しているのに対して、甲第1号証発明は、上記「スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃まで低下させ」る工程を有していない点。

<相違点4>
本件発明1は、「前記冷延工程では、前記複数のパスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行い、かつそのうち、「式(1)」「170+[Bi]×5000≦T≦300」「(ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。)」「を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下」であるのに対して、甲第1号証発明は、そのような保持処理を行うことについて規定されていない点。

<相違点5>
脱炭焼鈍工程について、本件発明1では、加熱速度が「50℃/秒以上」と規定されているのに対して、甲第1号証発明では、加熱速度が不明な点。

<相違点6>
本件発明1は、「仕上げ焼鈍後の前記冷延鋼板に、絶縁被膜を塗布する二次被膜塗布工程」を有しているのに対して、甲第1号証発明では、そのような工程について規定されていない点。

(オ)そこで、事案に鑑み、上記相違点1、4について検討する。
a.上記ア(ア)g.のとおり、甲第1号証には、Biの含有量に関して、「Bi:0.005 ?0.05% Biの添加は、本発明の特徴の一つである。ここに、Bi量が 0.005%未満では、上記したような期待する効果が得られず、一方0.05%を超えると均一分散が困難となるので、Biは 0.005?0.05%の範囲で含有させるものとした。」と記載されていることから、甲第1号証発明におけるBi含有量を「0.005?0.05%」の範囲で変更することに格別の困難性が存在するとはいえない。

b.また、上記ア(ア)j.のとおり、甲第1号証には、「最終冷間圧延を、・・・または、100?350℃で10?60分間のパス間時効処理を付加することにより、1次再結晶の集合組織を一層改善することができる。」ことが記載されている。

c.しかしながら、上記3(2)シ?セのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からすると、本件発明1は、Bi含有量を「0.0003?0.0100%」とし、かつ冷延工程における保持処理を「130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下」で行ううち、170+[Bi]×5000≦T≦300を満たす温度T℃で1回以上4回以下保持することにより、磁束密度B8の値が1.92T以上の優れた磁束密度、すなわち所望の磁気特性を得られるとともに、被膜密着性も良好となるという効果が奏されるものであり、このような効果は、甲第1号証の記載、甲第2?4号証の記載、及び本件出願時の技術常識を参酌しても、当業者が予測可能なものとはいえない。

d.したがって、上記相違点1、及び相違点4に係る本件発明1の構成は、甲第1号証発明及び甲第2?4号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(カ)よって、上記相違点2、3、5、6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証発明及び甲第2?4号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(キ)また、本件発明2?5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1について上記(カ)で判断したのと同様の理由によって、甲第1号証発明及び甲第2?4号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小活
以上のとおりであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第2項に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

(2)申立理由4について
ア 上記第3の1のとおり、本件発明1は、「前記冷延工程では、前記複数パスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行い、前記保持処理のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下であり、・・・
ことを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1)
ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。」ことを発明特定事項とするものである。

イ 一方、上記3(2)コ、サのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、「参考例1」(本件訂正前の「実施例1」)として、本件発明1において特定されている上記「冷延工程」乃至「保持処理」が実施されているかどうか明らかではない例、すなわち「鋼板No.3、5、6」が「発明例」として記載されている。

ウ しかしながら、上記参考例1は、本件発明1において特定されている「冷延工程」乃至「保持処理」が実施されているかどうか明らかではなく、本件訂正によって「参考例1」とされたものであって、「発明例」として記載される上記「鋼板No.3、5、6」が本件発明1の実施例となっていない(参考例とされている)ことは、明らかであり、当該「発明例」の記載により、本件発明1が当業者の把握を困難にする程不明確なものとなるわけではない。そして、このことは、本件発明1を引用する本件発明2?5についても同様である。

エ したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1?5について、特許を受けようとする発明が明確に把握できるものであり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

オ よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

5 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
一方向性電磁鋼板の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
本願は、2015年04月02日に、日本に出願された特願2015-075839号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
一方向性電磁鋼板は、主として変圧器等の静止誘導器の鉄心材料として利用される。そのため、一方向性電磁鋼板には、その特性として、交流で励磁した時のエネルギー損失(すなわち、鉄損)が低いことや透磁率が高く容易に励磁できること、騒音の原因となる磁歪が小さいことが求められる。従来、これらの諸特性を満足する一方向性電磁鋼板を製造するために、多くの開発がなされてきた。その結果、例えば特許文献1に記載されているように、鋼板における{110}<001>方位集積度を向上させることが、特に効果が大きいことが明らかとなっている。
【0003】
鋼板における{110}<001>方位集積度を向上させるには、一次再結晶における正常粒成長を抑制し、引き続く二次再結晶において{110}<001>方位粒のみを異常粒成長させることが重要である。これには、インヒビターと呼ばれる鋼中微細析出物や粒界析出元素を、精密に制御することが効果的である。
【0004】
かかる制御を実現する手法として、スラブ加熱によってインヒビターを溶体化し、引き続く熱間圧延工程、熱延板焼鈍工程、及び中間焼鈍工程においてインヒビターを均一微細析出させる技術がよく知られている。このようなインヒビターとして、例えば、特許文献1にはMnSとAlNとを制御する手法、特許文献2にはMnSとMnSeとを制御する手法、特許文献3にはCuxS、CuxSe又はCux(Se,S)と(Al,Si)Nとを制御する手法が報告されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1?3の技術では、十分に優れた磁気特性を安定して得られないという問題があった。
【0006】
特許文献4には、超高磁束密度一方向性電磁鋼板を安定して得るための製造方法において、スラブ中にBiを含有させる手段が開示されている。しかしながら、鋼中にBiを含むと、含有されたBiに起因すると考えられる一次被膜の密着性の劣化や、一次被膜が形成され難くなるという問題がある。そのため、特許文献4の技術では、良好な磁気特性が得られても、一次被膜の形成が不十分である場合がある。
【0007】
また、以下の特許文献5には、Biを含有する熱延板焼鈍後の鋼板を目的の板厚まで冷間圧延する工程にて時効処理を施すことで、磁気特性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、特許文献5では、被膜密着性について検討されておらず、時効処理が一次被膜にどのような影響を及ぼすかは明らかではない。
【0008】
特許文献6には、Biを含有する冷延板を100℃/秒以上の速度で700℃以上まで加熱もしくは10秒以内に700℃以上まで加熱し、その後700℃以上の温度で1秒以上20秒以下保持する予備焼鈍を施した後に脱炭焼鈍を施し、その後塗布する焼鈍分離剤中に添加するTiO_(2)量を増加させることによって、良好な一次被膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、特許文献6の技術では、20mmφの丸棒に沿って製品を曲げても被膜が剥離しないようにするためには、TiO_(2)添加量や焼鈍分離剤の塗布量を極端に増加させる必要があるなど課題が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特公昭40-15644号公報
【特許文献2】日本国特公昭51-13469号公報
【特許文献3】日本国特開平10-102149号公報
【特許文献4】日本国特開平6-88171号公報
【特許文献5】日本国特開平8-253816号公報
【特許文献6】日本国特開2003-096520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能な、一方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、スラブ加熱条件、冷間圧延工程における鋼板の保持条件、及び、脱炭焼鈍における加熱速度の影響等を、詳細に調査した。その結果、スラブ加熱時に一旦温度を低下させ、再加熱して圧延すること、冷間圧延工程において、鋼板を所定の温度域に保持すること、及び脱炭焼鈍工程において加熱速度を適正に制御することによって、一次被膜の密着性が向上することを見出した。
以下で詳述する本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、以下の通りである。
【0012】
(1)本発明の一態様に係る一方向性電磁鋼板の製造方法は、質量%で、C:0.030?0.150%、Si:2.50?4.00%、Mn:0.02?0.30%、S及びSeの1種または2種:合計で0.005?0.040%、酸可溶性Al:0.015?0.040%、N:0.0030?0.0150%、Bi:0.0003?0.0100%、Sn:0?0.50%、Cu:0?0.20%、Sb及びMoの1種または2種:合計で0?0.30%、を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、5分以上30時間以下保持した後、前記スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃まで低下させ、その後、前記スラブを、1280℃以上1450℃以下のT3℃に加熱し、5分以上60分以下保持する加熱工程と;加熱された前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板を得る熱延工程と;前記熱延鋼板に、複数パスの冷間圧延を行って板厚0.30mm以下の冷延鋼板を得る冷延工程と;前記冷延工程前、または、前記冷延工程を一旦中断して前記冷延工程の最終パスより前に、前記熱延鋼板に少なくとも1回の中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と;前記冷延鋼板を脱炭焼鈍する脱炭焼鈍工程と;前記脱炭焼鈍後の前記冷延鋼板に焼鈍分離材を塗布する焼鈍分離材塗布工程と;前記焼鈍分離材塗布工程後の前記冷延鋼板に仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と;前記仕上げ焼鈍後の前記冷延鋼板に、絶縁被膜を塗布する二次被膜塗布工程と;を有し、前記中間焼鈍工程では、1000℃以上1200℃以下の温度で5秒以上180秒以下保持する前記中間焼鈍を行い、前記冷延工程では、前記複数パスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行い、前記保持処理のうち、下記式(a)を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下であり、前記脱炭焼鈍工程における加熱速度が、50℃/秒以上である。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(a)
ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。
(2)上記(1)に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法は、前記スラブが、質量%で、Sn:0.05?0.50%含有してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法は、前記スラブが、質量%で、Cuを0.01?0.20%含有してもよい。
(4)上記(1)?(3)のいずれか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法は、前記スラブが、質量%で、Sb及びMoのうち1種または2種を、合計で0.0030?0.30%含有してもよい。
(5)上記(1)?(4)のいずれか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法は、前記仕上げ焼鈍工程において、下記式(b)で算出されるX値を、0.0003Nm^(3)/(h・m^(2))以上としてもよい。
X=雰囲気ガス流量/鋼板総表面積 ・・・(b)
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例における時効処理の最高温度とBi含有量との関係を示したグラフである。
【図2】実施例における式(1)を満たす時効処理回数と130?300℃での時効処理回数との関係を示したグラフである。
【図3】実施例における脱炭焼鈍での加熱速度及び熱延板焼鈍温度の好ましい範囲を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法(本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法と言う場合がある)について詳細に説明する。
【0016】
(鋼の化学組成について)
まず、本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法で用いられる鋼の化学組成(化学成分)について、説明する。
【0017】
本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法では、質量%で、C:0.030?0.150%、Si:2.50?4.00%、Mn:0.02?0.30%、S及びSeのうち1種または2種:合計で0.005?0.040%、酸可溶性Al:0.015?0.040%、N:0.0030?0.0150%、Bi:0.0003?0.0100%を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを用いる。
【0018】
本実施形態に係る一方向性電磁の製造方法で用いられるスラブは、上記元素を含み、残部がFe及び不純物からなることを基本とするが、上記スラブは、Feの一部に代えて、更に、Snを0.05?0.50質量%含有していてもよい。また、上記スラブは、Feの一部に代えて、更に、Cuを0.01?0.20質量%含有していてもよい。また、上記スラブは、Feの一部に代えて、更に、Sb及びMoのうち1種または2種を、合計で0.0030?0.30質量%含有していてもよい。ただし、Sn、Cu、Sb、Moは含有されなくてもよいので、その下限は0%である。
【0019】
[C:0.030?0.150%]
C(炭素)の含有量が0.030%未満であると、熱間圧延に先立ってスラブを加熱する際、結晶粒が異常粒成長し、その結果、製品において線状細粒と呼ばれる二次再結晶不良が生じる。一方、Cの含有量が0.150%超過であると、冷延工程後に行われる脱炭焼鈍において、脱炭時間が長時間必要となり、経済的でないばかりでなく、脱炭が不完全となりやすい。脱炭が不完全であると、製品において磁気時効と呼ばれる磁性不良が生じるので、好ましくない。従って、Cの含有量を、0.030?0.150%とする。Cの含有量は、好ましくは、0.050?0.100%である。
【0020】
[Si:2.50?4.00%]
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗を高めて鉄損の一部を構成する渦電流損失を低減するのに、極めて有効な元素である。しかしながら、Siの含有量が2.50%未満である場合には、製品の渦電流損失を抑制できない。一方、Siの含有量が4.00%超過である場合には、鋼の加工性が著しく劣化して、常温での冷延が困難になる。従って、Siの含有量を、2.50?4.00%とする。Siの含有量は、好ましくは、2.90?3.60%である。
【0021】
[Mn:0.02?0.30%]
Mn(マンガン)は、二次再結晶を左右するインヒビターと呼ばれる化合物であるMnS及び/又はMnSeを形成する、重要な元素である。Mnの含有量が0.02%未満である場合には、二次再結晶を生じさせるのに必要なMnS及び/又はMnSeの絶対量が不足するため、好ましくない。一方、Mnの含有量が0.30%超過である場合には、スラブ加熱時にMnを固溶させることが困難になり、その後に析出するMnS及び/又はMnSeの量が減少するばかりでなく、析出サイズが粗大化しやすくなってインヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれる。従って、Mnの含有量を、0.02?0.30%とする。Mnの含有量は、好ましくは、0.05?0.25%である。
【0022】
[S及び/又はSe:合計で0.005?0.040%]
S(硫黄)は、上記Mnと反応することで、インヒビターであるMnSを形成する重要な元素であり、Se(セレン)は、上記Mnと反応することで、インヒビターであるMnSeを形成する重要な元素である。MnSとMnSeとはインヒビターとして同様の効果を有するので、SとSeとは、合計の含有量が0.005?0.040%の範囲にあれば、何れか一方のみが含有されていてもよく、S及びSeの双方が含有されていてもよい。一方、S及び/又はSeの含有量の合計(S及びSeのうち1種または2種の含有量の合計)が0.005%未満である場合や、S及びSeの含有量の合計が0.040%超過である場合には、十分なインヒビター効果を得ることができない。従って、S及び/又はSeの含有量の合計を、0.005?0.040%とする必要がある。S及び/又はSeの含有量の合計は、好ましくは、0.010?0.035%である。
【0023】
[酸可溶性Al:0.015?0.040%]
酸可溶性アルミニウム(sol.Al)は、高磁束密度一方向性電磁鋼板を得るための主要インヒビターであるAlNの構成元素である。酸可溶性Alの含有量が0.015%未満であると、インヒビターが量的に不足し、インヒビター強度が不足する。一方、酸可溶性Alの含有量が0.040%超過である場合には、インヒビターとして析出するAlNが粗大化し、結果としてインヒビター強度が低下する。従って、酸可溶性Alの含有量を、0.015?0.040%とする。酸可溶性Alの含有量は、好ましくは、0.018?0.035%である。
【0024】
[N:0.0030?0.0150%]
N(窒素)は、上記の酸可溶性Alと反応してAlNを形成する、重要な元素である。Nの含有量が0.0030%未満である場合や、Nの含有量が0.0150%超過である場合には、十分なインヒビター効果を得ることができない。従って、Nの含有量を、0.0030?0.0150%に限定する。Nの含有量は、好ましくは、0.0050?0.0120%である。
【0025】
[Bi:0.0003?0.0100%]
Bi(ビスマス)は、本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造において、優れた磁束密度を得るためにスラブ中に含有させる必須の元素である。Biの含有量が0.0003%未満であると、磁束密度向上効果を十分に得られない。一方、Biの含有量が0.0100%超過であると、磁束密度向上効果が飽和するだけでなく、一次被膜の密着不良の可能性が高まる。したがって、Biの含有量を0.0003?0.0100%とする。Biの含有量は、好ましくは、0.0005?0.0090%であり、更に好ましくは、0.0007?0.0080%である。
【0026】
[Sn:0?0.50%]
Sn(スズ)は、必ずしも含有させる必要はないが、薄手製品の二次再結晶を安定して得るのに有効な元素である。また、Snは、二次再結晶粒を小さくする作用を有する元素でもある。これらの効果を得るためには、0.05%以上のSnの含有が必要である。従って、Snを含有させる場合、Snの含有量を、0.05%以上とすることが好ましい。また、Snの含有量を0.50%超過としても効果が飽和する。そのため、コストの点から、含有させる場合でも、Snの含有量を0.50%以下とすることが好ましい。Snの含有量は、より好ましくは、0.08?0.30%である。
【0027】
[Cu:0?0.20%]
Cu(銅)は、必ずしも含有させる必要はないが、Snを含有する鋼の一次被膜向上に有効な元素である。Cuの含有量が0.01%未満である場合には、上記一次被膜向上効果が少ないので、この効果を得る場合、Cuの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cuの含有量が0.20%超過となると、磁束密度が低下するので、好ましくない。従って、含有させる場合でも、Cuの含有量を、0.01?0.20%とすることが好ましい。Cuの含有量は、より好ましくは、0.03?0.18%である。
【0028】
[Sb及び/又はMo:合計で0?0.30%]
Sb(アンチモン)及びMo(モリブデン)は、必ずしも含有させる必要はないが、薄手製品の二次再結晶を安定して得る元素として有効である。上記効果をより確実に得るためには、Sb及び/又はMoの含有量の合計(Sb及びMoのうち1種または2種の含有量の合計)を0.0030%以上とすることが好ましい。SbとMoとは、何れか一方が含有されていてもよく、Sb及びMoの双方が含有されていてもよい。一方、Sb及び/又はMoの含有量の合計が0.30%超過となると、上記効果が飽和する。従って、含有させる場合でも、Sb及び/又はMoの含有量の合計は、0.30%以下とすることが好ましい。Sb及びMoの含有量の合計は、より好ましくは、0.0050?0.25%である。
【0029】
(一方向性電磁鋼板の製造工程について)
続いて、本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法が含む製造工程について、詳細に説明する。以下で詳述する製造工程を含む製造方法によれば、トランスなどの鉄心材料に用いられる磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板を安価に提供することが可能となる。
【0030】
<加熱工程>
熱間圧延に先立って、上記の範囲に成分を調整したスラブを加熱する。スラブは、上記の範囲に成分を調整した溶鋼を鋳造することによって得られるが、鋳造方法は、特に限定されるものではなく、一般的な一方向性電磁鋼板製造用の溶鋼の鋳造方法を適用することができる。
【0031】
本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法では、上記のような成分を有するスラブを加熱する際に、スラブを1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、T1℃で5分以上30時間以下保持(均熱)する。その後、スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃(すなわち、T1-T2≧50)まで低下させる。その後に、再びスラブを1280℃?1450℃のT3℃に加熱し、T3℃に5分以上60分以下保持する。T1が1150℃よりも低い、T3が1280℃よりも低い、もしくは、T1℃及び/又はT3℃での保持時間が5分未満と短い場合には、所望の磁気特性を得られない。特に、磁気特性は、再加熱後の保持温度の影響が大きいので、T3は好ましくは1300℃以上である。一方、加熱温度が高すぎると特殊な設備が必要となり、製造コストが増加する。そのため、T3は、好ましくは1400℃以下である。
また、T1℃、又はT3℃での保持時間が長いと生産性が劣化し、製造コストが増加する。そのため、T1℃での保持時間は、30時間以下であり、25時間以下であることが好ましい。また、T3℃での保持時間は、60分以下であり、50分以下であることが好ましい。
また、T1-T2が50℃未満(T1-T2<50)の場合、被膜密着性が劣化する。このメカニズムは明らかではないが、スラブ加熱および熱間圧延中のスケール形成および脱スケールの挙動が変化することで、鋼板の表面性状が変化することに起因すると考えられる。一方、T1-T2が大きすぎると、T2℃からT3℃に加熱するために特殊な設備が必要となる。したがって、T1-T2は200℃以下とするのが好ましい。すなわち、50≦T1-T2≦200であることが好ましい。
本実施形態において、スラブの温度は表面温度である。また、T1℃からT2℃への温度の低下は、空冷(放冷)とすることが好ましい。
【0032】
<熱延工程>
上記加熱工程で加熱されたスラブを熱間圧延して、熱延鋼板を得る。熱間圧延の条件は、特に限定する必要はなく、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される条件を採用すればよい。
【0033】
<冷延工程>
冷延工程においては、複数パスを含む冷間圧延を実施し、板厚が0.30mm以下の冷延鋼板を得る。冷延工程後の板厚が0.30mm超過である場合には、鉄損が劣化する。従って、冷延工程後の板厚は、0.30mm以下とする。冷延工程後の板厚は、好ましくは、0.27mm以下である。なお、冷延工程後の板厚の下限値は、特に限定するものではないが、例えば0.10mm以上とすることが好ましく、より好ましくは0.15mm以上である。
【0034】
また、冷延工程においては、パス間において、鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下保持する保持処理(時効処理)を1回以上行う。ただし、上記保持のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での3分以上120分以下の保持処理(時効処理)を、1回以上4回以下行う必要がある。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1)
ここで、上記の式(1)において、[Bi]は、スラブにおけるBiの含有量[単位:質量%]である。
【0035】
時効処理を行わない、時効処理の温度が130℃未満である、又は、保持時間が3分未満である場合には、所望の磁気特性を得られない。一方、時効処理温度を300℃超過とする場合、特殊な設備が必要となり、製造コストが増加するので好ましくない。また、保持時間を120分超過とすると、生産性が劣化して製造コストが増加するので好ましくない。
【0036】
また、上記のような条件の時効処理を1回以上施した場合でも、式(1)を満たす時効処理を含まない、又は、式(1)を満たす時効処理を4回超過実施すると、被膜密着性が劣化する。好ましい時効処理条件は、以下の(1’)に示した通りである。
【0037】
冷間圧延工程の保持処理(時効処理)においては、上記の条件に代えて、以下の条件で行うことが好ましい。すなわち、140℃以上300℃以下の温度で5分以上120分以下保持する時効処理を2回以上行い、かつ、その時効処理のうち、下記式(1’)を満たす温度T℃で5分以上120分以下保持する時効処理を1回以上4回以下とすることが好ましい。この条件を満足することで、より安定して被膜密着性が向上する。
175+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1’)
【0038】
<中間焼鈍工程>
冷延工程前(熱延工程と冷延工程との間)、または、冷延工程の複数パスの間、(冷延工程を一旦中断して冷延工程の最終パスより前)に、熱延鋼板に少なくとも1回(好ましくは1回または2回)の中間焼鈍を行う。すなわち、冷間圧延前の熱延鋼板に焼鈍(いわゆる熱延板焼鈍)した後に冷間圧延を行う、もしくは、熱延板焼鈍を実施せずに中間焼鈍を含む複数パスの冷間圧延を行う、もしくは、熱延板焼鈍後に中間焼鈍を含む複数パスの冷間圧延を実施することになる。
【0039】
中間焼鈍工程では、1000℃以上1200℃以下の温度で5秒以上180秒以下保持する焼鈍を施す。焼鈍温度が1000℃未満の場合には、所望の磁気特性および被膜密着性を得られない。一方、温度が1200℃超過の場合には、特殊な設備が必要となり製造コストが増加する。従って、焼鈍温度を1000℃以上1200℃以下とする。焼鈍温度は、好ましくは、1030℃以上1170℃以下である。
また、焼鈍時間が5秒未満の場合には、所望の磁気特性及び被膜密着性を得られない。一方、焼鈍時間が180秒超過の場合には、特殊な設備が必要となり製造コストが増加する。従って、本実施形態では、焼鈍時間は、5秒以上180秒以下とする。焼鈍時間は、好ましくは、10秒以上120秒以下である。
【0040】
<脱炭焼鈍工程>
冷延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を施す。ここで、脱炭焼鈍の加熱の際の、加熱速度を50℃/秒以上とする。脱炭焼鈍の加熱温度、時間等は、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される条件を採用すればよい。
脱炭焼鈍の際の加熱速度が50℃/秒未満の場合には、所望の磁気特性及び被膜密着性を得ることができない。従って、加熱速度を、50℃/秒以上とする。加熱速度は、好ましくは80℃/秒以上である。加熱速度の上限については、特に限定するものではないが、過度に加熱速度を高めるには特殊な設備が必要となるため、2000℃/秒以下とすることが好ましい。
【0041】
<焼鈍分離材塗布工程>
<仕上げ焼鈍工程>
脱炭焼鈍後の冷延鋼板に、焼鈍分離材を塗布し、仕上げ焼鈍を行う。これにより、冷延鋼板の表面に被膜(一次被膜)が形成される。
仕上げ焼鈍時に用いる雰囲気ガスは、特に限定されるものではなく、窒素と水素とが含有されたガス等、一般的に用いられる雰囲気ガスを使用すればよい。また、焼鈍分離材塗布、及び仕上げ焼鈍の方法や条件は、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される方法や条件を採用すればよい。焼鈍分離材は、例えば、MgOを主成分とした焼鈍分離材を用いればよく、この場合、仕上げ焼鈍後に形成される被膜は、フォルステライト(Mg_(2)SiO_(4))を含むものとなる。
【0042】
仕上げ焼鈍工程においては、以下の式(2)で算出されるX値を、0.0003Nm^(3)/(h・m^(2))以上とすることが好ましい。X値が0.0003Nm^(3)/(h・m^(2))以上であると、より被膜密着性が向上する。
X=雰囲気ガス流量/鋼板総表面積 ・・・(2)
ここで、雰囲気ガス流量とは、箱焼鈍を行った場合には雰囲気ガスの投入量である。また、鋼板総表面積とは、雰囲気と接触する鋼板の面積であり、薄鋼板においては、鋼板の表裏面の面積の合計である。
【0043】
上記式(2)で算出されるX値は、より好ましくは0.0005Nm^(3)/(h・m^(2))以上である。一方、X値の上限については、特に限定されるものではないが、製造コストの観点から0.0030Nm^(3)/(h・m^(2))以下とすることが好ましい。
【0044】
<二次被膜塗布工程>
一次被膜が形成された鋼板(冷延鋼板)に、絶縁被膜を塗布する。これにより、鋼板上に二次被膜が形成される。塗布の方法については、特に限定されず、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される方法や条件を採用すればよい。
【0045】
<レーザー照射工程>
二次被膜が形成された鋼板に、任意で、レーザー照射を行ってもよい。レーザーの照射によって、被膜に溝を形成する、または被膜に歪を付与することで、磁区細分化により、一方向性電磁鋼板の磁気特性を更に向上させることができる。
【0046】
以上のようにして製造される一方向性電磁鋼板は、磁束密度B8の値が1.92T以上と、優れた磁束密度を有し、被膜密着性も良好となる。
加熱条件、最終冷延前の中間焼鈍条件、冷間圧延での時効処理条件、脱炭焼鈍での加熱速度等を適正な範囲にすることで被膜密着性が改善される理由は明らかではないが、鋼板の表面性状の変化に起因すると推察される。
【0047】
なお、上記の磁束密度や、各種鉄損などといった磁気特性の測定方法については、特に限定されるものではなく、例えば、JIS C 2550に規定されているエプスタイン試験に基づく方法や、JIS C 2556に規定されている単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)など、公知の方法により測定することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を示しながら、本発明に係る一方向性電磁鋼板の製造方法について、具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明に係る一方向性電磁鋼板の製造方法の一例に過ぎない。そのため、本発明に係る一方向性電磁鋼板の製造方法は、以下に示す実施例に限定されない。
【0049】
(参考例1)
C:0.080%、Si:3.20%、Mn:0.07%、S:0.023%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.0090%、Bi:0.0015%を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを、表面温度で、1130℃以上1280℃以下の温度T1℃まで加熱し、5時間保持した。その後、スラブを表面温度で1050℃以上1220℃以下の温度T2℃まで低下させた。その後、スラブを表面温度で1350℃まで昇温して20分保持した。その後、スラブに熱間圧延を行って2.3mm厚の熱延コイルを得た。
そして、上記の熱延コイルに対し、1120℃の温度で20秒保持する中間焼鈍(熱延板焼鈍)を施した後、冷間圧延を行って0.22mm厚の冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に対して、加熱温度が850℃で保持時間が120秒となる条件で脱炭焼鈍を施した。この際の加熱速度は300℃/秒とした。
次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を冷延鋼板に塗布した後、窒素:水素=3:1で構成された雰囲気ガス中で、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0008Nm^(3)/(h・m^(2))として、仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜(絶縁被膜)の塗布を行った。
【0050】
得られた鋼板を利用して、JIS C 2556に規定されている単板磁気測定(SST)により800A/mで磁化した際の磁束密度B8を測定するとともに、被膜の密着性の評価を行った。被膜密着性は、以下の評点A?Dで評価した。すなわち、10φ曲げ試験で剥離しなかった場合をA、20φ曲げ試験で剥離しなかった場合をB、30φ曲げ試験で剥離しなかった場合をC、30φ曲げ試験で剥離した場合をDと評価し、A及びBを合格とした。また、磁束密度B8は、1.92T以上を合格とした。
結果を表1に示す。鋼板No.3、5、6は、本発明範囲を満たす製造方法であり、磁束密度、被膜評点が、目標値を満足している。一方、鋼板No.1は加熱時のスラブ表面温度(T1)が所定の温度よりも低く、所望の磁気特性が得られていない。鋼板No.2は加熱時のスラブ表面温度(T1)が所定の温度よりも低く、かつT1とT2の温度差が小さかったので、所望の磁気特性と被膜評点とが得られていない。鋼板No.4はT1とT2との温度差が所定の範囲よりも小さく、所望の被膜評点が得られていない。
【0051】
【表1】

【0052】
(実施例2)
C:0.080%、Si:3.20%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.024%、N:0.0080%、Bi:0.0007%以上0.015%以下を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを、表面温度で、1200℃(T1℃)まで昇温し、5時間保持した。その後、スラブを、表面温度で1100℃(T2℃)まで低下させた後、1350℃(T3℃)まで昇温して30分保持した後、熱間圧延により2.3mm厚の熱延コイルとした。
【0053】
上記の熱延コイルに対し、1100℃の温度で30秒保持する熱延板焼鈍を施し、時効処理を含む冷間圧延によって0.22mm厚の冷延鋼板とした。この際、時効処理の温度、時間、回数を種々変化させた。
その後、冷延鋼板に対して、850℃で保持時間が150秒となるように脱炭焼鈍を施した。脱炭焼鈍の加熱速度は350℃/秒とした。
次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=3:1で構成された雰囲気ガス中にて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0006Nm^(3)/(h・m^(2))として、仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜塗布を行った。
表2に、Bi含有量と、冷延工程における時効処理条件とを示す。
【0054】
得られた鋼板を利用して、単板磁気測定(SST)により800A/mで磁化した際の磁束密度B8を測定するとともに、被膜の密着性の評価を行った。評価の方法、合格の基準は、参考例1と同じとした。
磁束密度B8及び被膜密着性を示す評点を、表2に示した。また、時効処理の最高温度とBi含有量との関係を図1に示し、式(1)を満たす時効処理回数と130?300℃の時効処理回数との関係を図2に示した。
【0055】
【表2】

【0056】
鋼板No.7に示すように、時効処理を施さなかった場合は、所望の磁気特性を得られなかった。鋼板No.8?10に示すように、式(1)を満たす温度での時効処理を施さなかった、又は、回数が多かった場合には、被膜評点がCもしくはDとなり、劣位であった。また、鋼板No.11に示すように、Bi含有量が0.0100%を超えた場合には、被膜評点がCとなり、劣位であった。
【0057】
一方、鋼板No.12?18に示すように、時効処理条件が適正である場合には、磁気特性、被膜評点ともに優れていた。
【0058】
(実施例3)
C:0.078%、Si:3.25%、Mn:0.07%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.0082%、Bi:0.0024%を含有するスラブを、スラブ表面温度が1180℃(T1℃)になるまで加熱し、1時間保持した。その後、スラブ表面温度を1090℃(T2℃)になるまで低下させたのち、スラブ表面温度が1360℃(T3℃)となるまで昇温して45分保持した。その後、スラブを熱間圧延により2.3mm厚の熱延コイルとした。
【0059】
上記の熱延コイルに対し、950℃以上1150℃以下の温度で50秒保持する熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により、板厚0.22mmの冷延鋼板とした。なお、冷間圧延において、160℃の温度で30分保持する時効処理を2回、及び240℃の温度で30分保持する時効処理を1回行った。
その後、この冷延鋼板に対して、820℃で150秒保持する脱炭焼鈍を施した。この際、脱炭焼鈍時の加熱速度を、20℃/秒以上400℃/秒以下とした。次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=2:1で構成された雰囲気ガスにて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0010Nm^(3)/(h・m^(2))として仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜塗布を行った。
表3に、中間焼鈍(熱延板焼鈍)温度及び脱炭焼鈍工程における加熱速度を示す。
【0060】
また、得られた鋼板の磁束密度B8及び一次被膜の被膜評点を、上記参考例1、実施例2と同様にして評価した。結果を表3に示す。また、脱炭焼鈍での加熱速度と熱延板焼鈍温度との好ましい範囲を、図3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
鋼板No.19?20に示すように、熱延板焼鈍温度が低いと、被膜評点がCとなり、劣位であった。また、鋼板No.21に示すように、脱炭焼鈍での加熱速度が遅いと、磁気特性及び被膜評点の双方が劣位であった。
【0063】
一方で、鋼板No.22?26に示すように、熱延板焼鈍条件と脱炭焼鈍での加熱速度とが適正な範囲である場合には、磁気特性及び被膜評点ともに優れていた。
【0064】
(参考例4)
表4に示す成分のスラブ(残部Feおよび不純物)を、表面温度が1210℃(T1℃)になるまで加熱し、2時間保持した。その後、表面温度を1100℃(T2℃)に低下させた後、表面温度を1320℃以上1450℃以下の温度(T3℃)まで加熱し、10分保持した後、熱間圧延を施して板厚2.0mm以上2.4mm以下の熱延鋼板とした。これらの熱延鋼板に、1000℃以上1150℃以下の温度で10秒保持する中間焼鈍(熱延板焼鈍)を施した。これらの焼鈍鋼板の一部を冷間圧延によって板厚0.22mmとし、残りは板厚1.9mm以上2.1mm以下の中間板厚とし、1080℃以上1100℃以下の温度で20秒保持する中間焼鈍を施した後、冷間圧延によって板厚0.22mmとした。なお、最終板厚とする冷間圧延において、160℃の温度で20分保持する時効処理を1回及び250℃の温度で5分保持する時効処理を1回施した。その後、これらの冷延鋼板に800℃の温度で180秒保持する脱炭焼鈍を施した。
次に、冷延鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=1:2で構成された雰囲気ガス中にて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積が0.0025Nm^(3)/(h・m^(2))となるようにして仕上げ焼鈍を施した。
その後、二次被膜塗布及びレーザー照射による磁区細分化処理を施した。
【0065】
【表4】

【0066】
表5に、各工程における処理条件を示す。また、磁束密度B8及び被膜評点を、上記参考例1及び実施例2?3と同様にして評価した結果を、併せて表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
表5から明らかなように、鋼板No.27?34は、成分及び製造工程の条件が所定の範囲内であるため、所望の磁気特性及び被膜評点を得ることができた。
【0069】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態、及び実施例について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能となる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.030?0.150%、
Si:2.50?4.00%、
Mn:0.02?0.30%、
S及びSeの1種または2種:合計で0.005?0.040%、
酸可溶性Al:0.015?0.040%、
N:0.0030?0.0150%、
Bi:0.0003?0.0100%、
Sn:0?0.50%、
Cu:0?0.20%、
Sb及びMoの1種または2種:合計で0?0.30%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、1時間以上30時間以下保持した後、前記スラブの温度をT1-50℃以下のT2℃まで低下させ、その後、前記スラブを、1280℃以上1450℃以下のT3℃に加熱し、5分以上60分以下保持する加熱工程と;
加熱された前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板を得る熱延工程と;
前記熱延鋼板に、複数パスの冷間圧延を行って板厚0.30mm以下の冷延鋼板を得る冷延工程と;
前記冷延工程前、または、前記冷延工程を一旦中断して前記冷延工程の最終パスより前に、前記熱延鋼板に少なくとも1回の中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と;
前記冷延鋼板を脱炭焼鈍する脱炭焼鈍工程と;
前記脱炭焼鈍後の前記冷延鋼板に焼鈍分離材を塗布する焼鈍分離材塗布工程と;
前記焼鈍分離材塗布工程後の前記冷延鋼板に仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と;
前記仕上げ焼鈍後の前記冷延鋼板に、絶縁被膜を塗布する二次被膜塗布工程と;
を有し、
前記中間焼鈍工程では、1000℃以上1200℃以下の温度で5秒以上180秒以下保持する前記中間焼鈍を行い、
前記冷延工程では、前記複数パスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行い、
前記保持処理のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下であり、
前記脱炭焼鈍工程における加熱速度が、50℃/秒以上である
ことを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1)
ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。
【請求項2】
前記スラブが、質量%で、Sn:0.05?0.50%含有することを特徴とする請求項1に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記スラブが、質量%で、Cuを0.01?0.20%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記スラブが、質量%で、Sb及びMoのうち1種または2種を、合計で0.0030?0.30%含有することを特徴とする請求項1?3の何れか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記仕上げ焼鈍工程において、下記式(2)で算出されるX値を、0.0003Nm^(3)/(h・m^(2))以上とすることを特徴とする請求項1?4の何れか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
X=雰囲気ガス流量/鋼板総表面積 ・・・(2)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-14 
出願番号 特願2017-510252(P2017-510252)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C21D)
P 1 651・ 536- YAA (C21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 陽一  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 粟野 正明
井上 猛
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6369626号(P6369626)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 一方向性電磁鋼板の製造方法  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 蜂谷 浩久  
代理人 寺本 光生  
代理人 伊東 秀明  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 山口 洋  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 寺本 光生  
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