• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16L
管理番号 1361454
異議申立番号 異議2019-700098  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-08 
確定日 2020-03-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6370340号発明「配管または機器用耐火性断熱被覆材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6370340号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔7、8〕について訂正することを認める。 特許第6370340号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許6370340号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、2015年2月27日(優先権主張2014年2月27日、日本国)を国際出願日とする特願2015-516344号の一部を平成28年7月7日に新たな特許出願としたものであって、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月8日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成31年 2月 8日:特許異議申立人河井清悦による請求項1?8に 係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 4月22日:取消理由通知書
令和 1年 7月 2日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年 8月 9日:特許異議申立人河井清悦による意見書の提出
令和 1年 9月30日:取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年11月25日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年12月27日:特許異議申立人河井清悦による意見書の提出

なお、令和1年11月25日付けで訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、令和1年7月2日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなす。

2 訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者は、特許請求の範囲の請求項7を以下のとおり訂正することを請求する(下線は訂正箇所である。この訂正を「訂正事項1」という)。

本件特許の特許請求の範囲の請求項7の「赤リンを含み」を、
「赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含み」
に訂正する。(請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。)

(2)訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の拡張・変更について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「赤リンを含み」を、「赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含み」に添加剤を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書の段落【0054】、【0055】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)まとめ
上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔7、8〕について訂正することを認める。

3 本件発明について
請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明8」ということがある。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備え、
難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層が、前記発泡ポリウレタン断熱層を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする、配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項2】
前記発泡ポリウレタン断熱層を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項3】
難燃性ウレタン組成物において、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲であり、
添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、
添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、請求項1又は2に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項4】
ポリイソシアネートおよびポリオールからなるウレタン樹脂のイソシアネートインデックスが120?1000であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆された配管または機器。
【請求項6】
配管または機器の外周を、請求項1?4のいずれかに記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆することからなる配管または機器用耐火性断熱被覆材の施工方法。
【請求項7】
難燃性ウレタン組成物であって、前記難燃性ウレタン組成物は、ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含み、
前記難燃性ウレタン組成物からなる難燃性ポリウレタン発泡体を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする難燃性ウレタン組成物。
【請求項8】
前記難燃性ウレタン組成物からなる難燃性ポリウレタン発泡体を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする請求項7に記載の難燃性ウレタン組成物。」

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
請求項7、8に係る特許に対して、当審が令和1年9月30日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許の特許請求の範囲の請求項7、8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。よって、本件特許の請求項7、8に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)当審の判断
ア 本件特許明細書の段落【0055】には、「この場合、使用する添加剤の好ましい組み合わせとしては、例えば、下記の(a)? (n)のいずれか等が挙げられる。
(a)赤リンおよびリン酸エステル
(b)赤リンおよびリン酸塩含有難燃剤
(c)赤リンおよび臭素含有難燃剤
(d)赤リンおよびホウ素含有難燃剤
(e)赤リンおよびアンチモン含有難燃剤
(f)赤リンおよび金属水酸化物
(g)赤リンおよび針状フィラー
(h)赤リン、リン酸エステルおよびリン酸塩含有難燃剤
(i)赤リン、リン酸エステルおよび臭素含有難燃剤
(j)赤リン、リン酸エステルおよびホウ素含有難燃剤
(k)赤リン、リン酸エステルおよび針状フィラー
(l)赤リン、リン酸塩含有難燃剤および臭素含有難燃剤
(m)赤リン、リン酸塩含有難燃剤およびホウ素含有難燃剤
(n)赤リン、臭素含有難燃剤およびホウ素含有難燃剤
(n)赤リン、臭素含有難燃剤およびホウ素含有難燃剤
(o)赤リン、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤および臭素含有難燃剤
(p)赤リン、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤およびホウ素含有難燃剤
(q)上記の(l)?(p)にさらに針状フィラーを加えたもの
(r) 赤リンと;リン酸エステルおよびリン酸塩含有難燃剤と;ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つ
(s)赤リンと;リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、および臭素含有難燃剤から選択される1つまたは2つと;ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つ
(t) 赤リンと;リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、および臭素含有難燃剤と;ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つ」と記載されている。
一方、訂正後の特許請求の範囲の請求項7は、「添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含み」と特定されているから、添加剤が本件特許明細書に記載したものとなった。
よって、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、請求項7を引用する請求項8に係る発明も発明の詳細な説明に記載したものである。

イ 特許異議申立人の意見について
(ア)特許異議申立人は、令和1年12月27日付けの意見書において、取消理由1(特許法第36条第6項第1号)が解消していないとし、請求項7、8について、赤リン以外の添加剤である「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラー」について、具体的にいかなる物質であるのか、何ら特定されていないから、本件特許明細書の実施例で用いられているリン酸二水素アンモニウム、TMCPP、TCP、CDP、HBB、ホウ酸亜鉛、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、針状フィラーに限定されるべきである旨主張する(第2頁(B)「(1)赤リン以外の添加剤が具体的に特定されるべきこと」)。
しかしながら、本件発明1は、「ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む」といった組成要件に加えて、「難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層が、前記発泡ポリウレタン断熱層を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下である」といった物性要件により特定されており、これらの特定により、「耐火性に優れた発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材を提供する」(段落【0007】)という本件発明の課題を解決できることを当業者が十分に認識できるものである。そして、添加剤として、上記組成要件を満たす添加剤を用いれば、相応の難燃性能を発揮し、加熱時に発熱量を減少させることは実施例によっても裏付けられているといえる。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(イ)また、特許異議申立人は、同意見書において、取消理由1(特許法第36条第6項第1号)が解消していないとし、請求項7、8について、本件特許明細書の実施例では、赤リンが2重量部(比較例14)では判定「NG」であり、赤リン6重量部(実施例12)では判定「OK」であるため、少なくとも赤リンの添加量を6重量部以上に限定すべきと主張する(第3頁「(2)赤リンの添加量が限定されるべきこと(比較例14と実施例12の比較)」)。
しかしながら、実施例に記載された赤リンは必ずしも6重量部以上となるものではなく、例えば実施例13では、赤リンが3重量部であっても上記の物性要件を満たしている。
このように、赤リンの量は、選択された赤リン以外の添加剤の種類や量等によって変化するものであり、上記の物性要件を満たすように当業者が適宜決定すべきものである。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)そして、特許異議申立人は、同意見書において、取消理由1(特許法第36条第6項第1号)が解消していないとし、請求項7、8について、本件特許明細書の実施例では、針状フィラーが1重量部(比較例15)では判定「NG」であり、針状フィラー6重量部(実施例12)では判定「OK」であるため、添加剤として針状フィラーの添加量を6重量部以上に限定すべきと主張する(第3頁「(3)針状フィラーの添加量が限定されるべきこと(比較例15と実施例12の比較)」)。
しかしながら、実施例に記載された針状フィラーは必ずしも6重量部以上となるものではなく、例えば、実施例13では、針状フィラーが1.5重量部であっても上記の物性要件を満たしている。
このように、針状フィラーの量は、他の添加剤の種類や量等によって変化するものであり、上記の物性要件を満たすように当業者が適宜決定すべきものである。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)さらに、特許異議申立人は、同意見書において、請求項1?6についても同様の取消理由が存在すると主張するが(第5頁「(2)請求項1乃至6についても同様の取消理由が存在することについて」)、上記(ア)?(ウ)と同様に採用できない。

ウ 以上のとおり、請求項7、8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
5-1 特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と周知技術(甲第2号証?甲第9号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項7?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と周知技術(甲第2号証?甲第6号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張するので以下のとおり検討する。

(1)甲第1号証
異議申立人が提出した甲第1号証(特公昭41-13514号公報)には、以下の事項が記載されている。

(1-a)「その際例えば第3級アミンの様な適当な触媒を選択することが重要である。これらの触媒は、ヒドロキシル基及び(又は)カルボキシル基とイソシアナート基との間の反応並に水とイソシアナート基との間の反応を促進するために、更に又種々の並行して連行する反応を連続して調整するために重要である。」(第1頁右欄第2?8行)

(1-b)「「本発明の対象は、反応性水素原子を有する有機化合物、ポリイソシアナート、水及び(又は)その他の発泡剤からウレタン基含有の耐焔性泡化物質を製造する方法である。而してこの方法の特徴とするところは泡化を元素状赤燐の存在下に行うことである。
この発見は、周知の如く赤燐自体は極めてよく燃焼するものであるが故に、全く驚くべきことである。実際赤燐の使用下に製造されたポリウレタン泡化物質はなお僅かな表面燃焼性を有するが、これは少量のハロゲン含有化合物の添加によって完全に抑制され、その結果泡化物質はこの場合自己消火性となる」(第1頁右欄下から4行?第2頁左欄第9行)

(1-c)「ハロゲン合有化合物としては、種々の化学構造の物質を使用することが出来る。この場合ハロゲン含有化合物は無機のものでも有機のものでもよい。例えば三塩化アンチモン、三塩化砒素、五塩化アンチモン、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ハロゲン化された天然生成物(例えば塩素化又は臭素化されたヒマシ油)、更にハロゲン化炭化水素(例えばテトラブロムエタン及びテトラクロルエタン、ポリクロルジフェニル)、更にヘキサクロルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸のエステル又はペンタブロムジフェニルエーテルが使用される。
本発明の意味に於けるハロゲン含有有機化合物なる概念は分子中にハロゲンの他に燐原子をも含有する如き有機化合物をも含むことを了解すべきことは勿論である。この様な化合物としては例えばトリス-(2-クロルエチル)-フオスフアート、トリス-(2,3?ジブロムプロピル)-フオスフアート、更にエピクロルヒドリンと燐酸との附加生成物が挙げられる。ハロゲン含有物質は、火焔防護の所望度に適応した量で使用され、一般には得られた泡化物質が0.5?30%、しかし好ましくは1?5%のハロゲンを含有する様にする。勿論前記ハロゲン含有物質の各種のものを相互に組合せて使用しても好結果を得ることが出来る。」(第2頁左欄下から11行?同頁右欄第15行)

(1-d)例1?10及び比較試験I?Xでは、出発原料として「ポリシロキサンポリアルキレン-グリコールエステル」を添加することが記載されている(第4頁)。

(1-e)「特許請求の範囲
1 ポリイソシアナート、反応性水素原子含有の有機化合物、水及び(又は)その他の発泡剤より耐焔性泡化物質を製造するに当り、その泡化を赤燐の存在下に行うことを特徴とする耐焔性泡化物質の製造法。
2 ポリイソシアナート、反応性水素原子含有の有機化合物、水及び(又は)その他の発泡剤より耐焔性泡化物質を製造するに当り、その泡化を赤燐とハロゲン含有有機化合物及び(又は)ハロゲン含有有機化合物との組合物の存在下に行うことを特徴とする耐焔性泡化物質の製造法。」(第5頁特許請求の範囲)

以上の記載事項を総合すれば、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリイソシアナート、反応性水素原子含有の有機化合物、第3級アミンの様な適当な触媒、水及び(又は)その他の発泡剤、ポリシロキサンポリアルキレン-グリコールエステル、および添加剤として赤燐及びハロゲン含有有機化合物を含み、前記添加剤が、赤燐と、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、トリス-(2-クロルエチル)-フオスフアート、トリス-(2,3?ジブロムプロピル)-フオスフアートなどの物質を含む、ウレタン基含有耐焔性泡化物質。」

(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリイソシアナート」、「反応性水素原子含有の有機化合物」、「水及び(又は)その他の発泡剤」、「ポリシロキサンポリアルキレン-グリコールエステル」、「赤燐」、「三塩化アンチモン、五塩化アンチモン」、「トリス-(2-クロルエチル)-フオスフアート、トリス-(2,3?ジブロムプロピル)-フオスフアート」、「ウレタン基含有耐焔性泡化物質」は、それぞれ、本件発明1の「ポリイソシアネート」、「ポリオール」、「発泡剤」、「整泡剤」、「赤リン」、「アンチモン含有難燃剤」、「リン酸エステル」、「難燃性ウレタン組成物」に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリイソシアネート、ポリオール、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備える」
点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本件発明1は、三量化触媒を含むのに対し、甲1発明は、第3級アミンの様な適用な触媒を含む点。

[相違点2]
本件発明1は、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層が、前記発泡ポリウレタン断熱層を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

[相違点3]
本件発明1は、配管または機器用耐火性断熱被覆材であるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

(3)検討
相違点1について検討する。
特許異議申立人は、甲第2号証及び甲第3号証に記載のとおり、ウレタン化を促進するアミン触媒を、イソシアヌレート結合形成を促進する三量化触媒と併用することは、当業者であれば容易に想到できるというべきであり、甲第4号証乃至甲第6号証には、難燃剤としての赤りんの存在下三量化触媒を用いてポリイソシアネートと活性水素原子を有する化合物の重合反応を行うことが記載されているから、当業者であれば赤リンやアミン触媒を三量化触媒と組み合わせて用いることを容易に想到できると主張する(第36頁「(ウの1の3)相違点1について」)。
しかしながら、甲第2号証及び甲第3号証は、いずれもポリオール化合物として芳香族系ポリオールを含む所定の組成に特徴を有するものであり(甲第2号証の【請求項1】、【0008】、甲第3号証の【請求項1】、【0017】)、当該組成のうち三量化触媒のみに着目して、上記組成とは異なる甲1発明に適用する動機付けがない。
また、甲第4号証?甲第6号証は、いずれもイソシアヌレート基を含有する樹脂の樹脂表面が燃焼し易い等の問題を解決するためにイソシアヌレート基を含有するフォーム樹脂を製造する方法において、赤りんを添加するものであるから(甲第4号証の特許請求の範囲、第1頁右欄第6?12行、甲第5号証の特許請求の範囲、第1頁右欄第6?12行、甲第6号証の特許請求の範囲、第1頁右欄第16行?第2頁左上欄第2行、第2頁右下欄第11行?第3頁左上欄第1行)、イソシアヌレート基を含有しない甲1発明に適用する動機付けがない。
したがって、甲1発明に甲第2号証?甲第6号証を適用し、上記相違点1に係る本件発明1とすることは当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、甲第7号証?甲第9号証は、ポリウレタンフォームやポリイソシアヌレートフォームを配管や機器用の耐火性断熱被覆材として用いることが開示されているものの、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項に関する開示はない。
よって、相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第9号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明2?本件発明6についても同様に、甲1発明及び甲第2号証?甲第9号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明7、本件発明8についても同様に、甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5-2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項7に関し、比較例2及び比較例14は、上記の物性要件で特定した発明特定事項以外は請求項1及び請求項7に係る発明の発明特定事項を含むが、上記の物性要件で特定した発明特定事項を満たさないから、各成分のより具体的な種類及び/又は配合割合等が特定されていない請求項1及び請求項7に係る発明のものを作製するには、相当の試行錯誤が必要となるため、本件明細書の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1及び請求項7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、請求項1を引用する請求項2?請求項6及び請求項7を引用する請求項8も同様である旨主張する(第50頁「(エの2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)」)。
しかしながら、発明の詳細な説明には、請求項1及び請求項7に係る発明の発明特定事項を全て満たす具体的な物質及びその配合割合が実施例1?実施例19として記載されているから、当業者は、請求項1及び請求項7に係る発明を実施することができる。
なお、比較例14のように上記の物性要件で特定した発明特定事項以外は請求項1及び請求項7に係る発明の発明特定事項を含むが、上記の物性要件で特定した発明特定事項を満たさないものがあったとしても(なお、比較例2は、三量化触媒が含まれていないから、上記の物性要件で特定した発明特定事項以外は請求項1及び請求項7に係る発明の発明特定事項を含むものではない。)、例えば、赤リンの量を、実施例に示された量を基本にして適宜増減させることで上記物性要件を満たすように当業者が適宜決定し得るから、請求項1及び請求項7に係る発明のものの作製は、通常行われる試行錯誤の範囲内で行うことができるものである。
以上を踏まえると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。

5-3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項7に関し、請求項1に係る発明及び請求項7に係る発明は、「三量化触媒」との発明特定事項を有しているが、本件明細書の実施例(実施例1?19)において、用いられている架橋剤は、オクチル酸カリウム(東京化成工業社製、製品コード:P0048)、3量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TR20)のみであり、三量化触媒として、実施例で用いた以外の化合物を用いた場合にも、発泡後の組成物が同様の物性や難燃性等を示すことを合理的に推測することは困難であるため、請求項1に係る発明及び請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、請求項1を引用する請求項2ないし請求項6及び請求項7を引用する請求項8も同様である旨主張する(第52頁「(エの3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)」)。
しかしながら、三量化触媒とは、イソシアヌレート環の生成を促進させる機能をもつ触媒として知られており、実施例に記載されたオクチル酸カリウム(東京化成工業社製、製品コード:P0048)、3量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TR20)以外のものを用いても同様の機能を有することは、当業者であれば十分に理解できるものである。
よって、本件明細書の実施例において三量化触媒の全てについて記載されていないとしても、当業者は発明の課題を解決できると認識できる。
以上を踏まえると、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備え、
難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層が、前記発泡ポリウレタン断熱層を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする、配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項2】
前記発泡ポリウレタン断熱層を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項3】
難燃性ウレタン組成物において、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲であり、
添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、
添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、請求項1又は2に記載の配管または機器用耐火性断熱被
覆材。
【請求項4】
ポリイソシアネートおよびポリオールからなるウレタン樹脂のイソシアネートインデックスが120?1000であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆された配管または機器。
【請求項6】
配管または機器の外周を、請求項1?4のいずれかに記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆することからなる配管または機器用耐火性断熱被覆材の施工方法。
【請求項7】
難燃性ウレタン組成物であって、前記難燃性ウレタン組成物は、ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含み、
前記難燃性ウレタン組成物からなる難燃性ポリウレタン発泡体を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする難燃性ウレタン組成物。
【請求項8】
前記難燃性ウレタン組成物からなる難燃性ポリウレタン発泡体を、ISO-5660の試験方法に準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、20分経過時の総発熱量が8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする請求項7に記載の難燃性ウレタン組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-19 
出願番号 特願2016-134724(P2016-134724)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (F16L)
P 1 651・ 537- YAA (F16L)
P 1 651・ 121- YAA (F16L)
P 1 651・ 536- YAA (F16L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 賢司柳本 幸雄  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 槙原 進
平城 俊雅
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6370340号(P6370340)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 配管または機器用耐火性断熱被覆材  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 田口 昌浩  
代理人 田口 昌浩  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ