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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1361459 |
異議申立番号 | 異議2019-700053 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-01-24 |
確定日 | 2020-02-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6361159号発明「二軸配向ポリエステルフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6361159号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。 特許第6361159号の請求項1ないし3及び5ないし9に係る特許を維持する。 特許第6361159号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6361159号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成26年2月19日の出願であって、平成30年7月6日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成31年1月24日に特許異議申立人 早川 いづみ(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされ、同年4月5日付けで取消理由が通知され、令和1年6月7日に特許権者 東レ株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年同月18日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月4日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年9月3日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年10月30日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年11月28日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、特許異議申立人から何ら応答がなかったものである。 なお、令和1年6月7日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 令和1年10月30日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に記載される「グリコール成分としてエチレングリコール成分を60モル%以上含有および/またはジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分を60モル%以上含有」する「A層およびB層を構成するポリエステル」を、「グリコール成分としてエチレングリコール成分を85モル%以上含有」する「A層およびB層を構成するポリエステル」に訂正する。 併せて、特許請求の範囲の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3及び5ないし9についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5における「請求項1?4」の記載を「請求項1?3」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6における「請求項1?5」の記載を「請求項1?3および5」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7における「請求項1?6」の記載を「請求項1?3および5?6」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項8における「請求項1?7」の記載を「請求項1?3および5?7」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項9における「請求項1?8」の記載を「請求項1?3および5?8」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「グリコール成分としてエチレングリコール成分を60モル%以上含有および/またはジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分を60モル%以上含有」とされていたのを、ジカルボン酸成分の含有割合の如何によらず、エチレングリコール成分の含有率を「60モル%以上」から「85モル%以上」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3ないし7について 訂正事項3ないし7は、いずれも引用請求項数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項3ないし7は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1ないし7は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項1ないし7は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項2ないし9は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし9は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし7は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし9に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、令和1年10月30日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくともポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルA層が少なくとも一方の最外層に位置し、前記A層およびB層を構成するポリエステルがともにグリコール成分としてエチレングリコール成分を85モル%以上含有し、かつポリエステルB層の融点がポリエステルA層の融点よりも低く、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、以下の特性を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。 I.25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下 II.引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満 III.150℃における100%延伸時の応力の平均値が30MPa?130MPa 【請求項2】 フィルムを150℃で任意の一方向(X方向)に100%延伸した後の、X方向と、X方向と直交する方向(Y方向)の引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項3】 ポリエステルA層とポリエステルA層より融点の低いポリエステルB層とを有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルA層が、少なくとも一方の最外層に位置する請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 フィルムの厚みムラが10%以下である請求項1?3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項6】 融解二次ピーク(Tmeta)が210℃以上235℃以下である、請求項1?3および5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項7】 フィルム両面における面配向係数のうち、高い方の面における面配向係数が0.12以上0.17以下である請求項1?3および5?6のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項8】 成型加工用途に使用される請求項1?3および5?7のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項9】 光学用途に使用される請求項1?3および5?8のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由(決定の予告)の概要 1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 平成31年1月24日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1-1(甲第1号証に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた下記の文献に記載された発明であり、特許法第29条第1号第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由1-2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた下記の文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由2-1(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記ア及びイの点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 発明の詳細な説明に記載された比較例1は、本件特許の請求項1に記載された組成や積層構造に関する条件を満足し、また、発明の詳細な説明に記載された実施例1で採用された製造方法で製造されたものであるにもかかわらず、本件特許の請求項1に記載された「I.」、「II.」及び「III.」の特性条件を満足していない。 したがって、発明の詳細な説明に当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし9も同様である。 イ 請求項4に「式(1)で表されるフィルム面内の複屈折率Δnが35以下である」と記載され、発明の詳細な説明に記載された実施例1ないし17においては、該Δnが24?36の範囲内であることが記載されているが、一般にポリエステルの屈折率は1.6程度の数値であるので、該Δnが24?36となることはありえない。 また、発明の詳細な説明の【0047】に「(8)の測定にて得られたn_(x)の最大値をn_(α)とし」と記載されているが、(8)の測定方法は25℃におけるヤング率の測定方法であるので、該記載では、複屈折率Δnの測定方法は明確でない。 したがって、発明の詳細な説明に当業者が本件特許発明4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 請求項4を直接又は間接的に引用する本件特許発明5ないし9も同様である。 (4)申立理由2-2(明確性) 本件特許の請求項4ないし9に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 請求項4に「式(1)で表されるフィルム面内の複屈折率Δnが35以下である」と記載されているが、上記(3)イで示したように、複屈折率Δnが24?36となることはありえず、また、複屈折率Δnの測定方法も明確でないので、本件特許発明4は明確でない。 請求項4を直接又は間接的に引用する本件特許発明5ないし9も同様である。 (5)証拠方法 甲第1号証:国際公開第2013/099608号 甲第2号証:特開2002-103443号公報 甲第3号証:特開2009-154296号公報 甲第4号証:特開2009-235231号公報 甲第5号証:特開2013-63650号公報 甲第6号証:特開2002-361737号公報 (甲号証の記載はおおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」にようにいう。) 2 取消理由(決定の予告)の概要 令和1年9月3日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。 なお、該取消理由(決定の予告)は、申立理由2-1(実施可能要件)アと同旨である。 (実施可能要件)本件特許の請求項1ないし3及び5ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 第5 当審の判断 1 取消理由(決定の予告)について 取消理由(決定の予告)について検討する。 (1)実施可能要件の判断基準 物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ・「【発明の効果】 【0010】 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、150℃における成型応力が低いため、易成型性が良好であり、また、ヤング率、および成型前後の引き裂き伝播抵抗が高いため、剥離工程における取り扱い性に優れることから、建材、モバイル機器、電機製品、自動車部品、遊技機部品などの成型加飾用途、偏光板等の光学用フィルム等に好適に用いることができる。」 ・「【0016】 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、複雑な形状への賦形性、工程フィルムごと成型する際の易成型性を満たすため、150℃におけるフィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、100%延伸時の応力の平均値が30MPa以上130MPa以下である必要がある。 【0017】 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、150℃におけるフィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、100%延伸時の応力の平均値を上記の範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば本発明のポリエステルフィルムを構成するグリコール成分として、エチレングリコール成分を60モル%以上含有し、ジエチレングリコール成分、1,3-プロパンジオール成分、1,4-ブタンジオール成分、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上のグリコール成分を含むことが好ましい。なかでも、ジエチレングリコール成分、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上含まれることが好ましい。また、本発明のポリエステルフィルムを構成するジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分を60モル%以上含有し、イソフタル酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分の少なくとも1種類以上のジカルボン酸成分を含むことが好ましい。成型性、成型後の耐破れ性の観点から、150℃における100%延伸時の応力の平均値は、50MPa以上90MPa以下であればさらに好ましく、60MPa以上80MPa以下であれば最も好ましい。 【0018】 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、150℃における100%延伸時の応力を上記の範囲とする特に好ましい構成として、グリコール成分として、エチレングリコール成分を85モル%以上97モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上を3モル%以上15モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、85モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。さらに好ましくは、グリコール成分として、エチレングリコール成分を90モル%以上95モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上を5モル%以上10モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、90モル%以上がテレフタル酸成分、さらに好ましくは、ジカルボン酸成分の95モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。」 ・「【0021】 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、引き裂き伝播抵抗の平均値がフィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、4.5N/mm以上7.0N/mm未満である必要がある。引き裂き伝播抵抗の平均値が4.5N/mm未満では、成型時の配向増加により剥離時に破れが発生しやすくなる。また、7.0N/mm以上の場合には、成型倍率、成型温度が高い場合に剥離破れが顕著に増加するため好ましくない。ポリエステルフィルムの引き裂き伝播抵抗は、フィルム中の非晶配向度が低くなるのに従いその値が大きくなる傾向があり、引き裂き伝播抵抗が7.0N/mm以上の場合には、高成型倍率、高成型温度における、折りたたみ結晶の増加に伴うフィルムの極端な脆化により、成型後の剥離破れが増加すると考えられる。このようなポリエステルフィルムの構造と加熱成型工程における構造変化の関係から、引き裂き伝播抵抗の有効な範囲が上記のように限定される。 【0022】 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下である必要がある。好ましくは、3300MPa以上4100MPa以下であり、3500MPa以上4000MPa以下であると最も好ましい。加熱成型後の耐破れ性は、フィルム単体の引き裂き伝播抵抗だけでなくフィルムの剛性とも相関があり、本発明者らは、特にフィルムの引き裂き伝播抵抗の平均値とヤング率がともに上記範囲の場合となる場合に、成型後の耐破れ性が特異的に向上することを見出した。引き裂き伝播抵抗の平均値とヤング率をともに上記の範囲とする方法としては、 ・フィルムをポリエステルA層とポリエステルA層より融点の低いポリエステルB層とを有し、ポリエステルA層が少なくとも一方の最外層に位置する積層構成とする方法(なお、本発明において、ポリエステルA層と、ポリエステルB層とを有する積層フィルムの場合、融点の高い方の層をポリエステルA層とする。)、 ・幅方向延伸後の熱処理工程において、2%以上10%以下の微延伸を行う方法、 を併用することが挙げられる。 【0023】 融点の高いA層と融点がA層より低いB層とを有することにより、A層が剛直な層として、25℃におけるヤング率の平均値を3000MPa以上4200MPa以下に保ち、一方、B層が運動性の高い層として、150℃における100%延伸時応力の平均値を50MPa?130MPaとすることが容易にでき、易成形性を達成する役割を果たす。加えて、A層の高結晶構造とB層の緩和した非晶構造、および積層界面における引き裂き時の界面破壊エネルギーの増加により引き裂き伝播抵抗が高まり、単膜構成では困難であった特性の両立が可能となる。なお、フィルムのカール抑制の観点から、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルA層とポリエステルB層とを有する積層ポリエステルフィルムの場合、A層/B層/A層の3層構成であることが好ましい。 【0024】 また、幅方向延伸後の熱処理工程において、2%以上10%以下の微延伸を行うことにより、熱処理による非晶相の折りたたみ結晶成長が抑制され、フィルムの耐引き裂き性が向上する。特に、共重合成分添加時には、配向が低下することで自由体積が増加し、折りたたみ結晶の成長速度が上昇するためフィルムの脆化が著しい。そのため、単に積層構成にしただけでは、脆化による耐引き裂き性の低下を抑制することは困難であるが、熱処理工程における微延伸を行うことにより、耐引き裂き性を実用に耐えうる水準へと引き上げることが可能となる。熱処理工程における微延伸倍率は、好ましくは4%以上8%以下であり、5%以上7%以下であると最も好ましい。また、熱処理温度については特に限定されないが、ボーイングによる幅方向での物性ムラ抑制と配向緩和を両立する観点から、210℃以上230℃以下であると好ましい。ここで好ましい熱処理温度とは、二軸延伸後に行う熱処理温度の中で、最も高温となる温度を示す。」 ・「【0031】 次に本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの具体的な製造方法の例について記載するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。 【0032】 ポリエステルA層とポリエステルB層とを有する積層ポリエステルフィルムとする場合、まず、ポリエステルA層に使用するポリエステルAとして、ポリエチレンテレフタレート樹脂(a)と1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(b)を所定の割合で計量する。また、ポリエステルB層に使用するポリエステルBとして、ポリエチレンテレフタレート樹脂(c)と1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(d)を所定の割合で計量する。 【0033】 そして、混合したポリエステル樹脂をベント式二軸押出機に供給し溶融押出する。この際、押出機内を流通窒素雰囲気下で、酸素濃度を0.7体積%以下とし、樹脂温度は265℃?295℃に制御することが好ましい。ついで、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を各々行い、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出する。その際、高電圧を掛けた電極を使用して静電気で冷却ドラムと樹脂を密着させる静電印加法、キャスティングドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けるキャスト法、キャスティングドラム温度をポリエステル樹脂のガラス転移点?(ガラス転移点-20℃)にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくは、これらの方法を複数組み合わせた方法により、シート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、ポリエステルを使用する場合は、生産性や平面性の観点から、静電印加する方法が好ましく使用される。 【0034】 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、耐熱性、寸法安定性の観点から二軸配向フィルムとすることが必要である。二軸配向フィルムは、未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができる。 【0035】 かかる延伸方法における延伸倍率としては、長手方向に、好ましくは、2.8倍以上3.4倍以下、さらに好ましくは2.9倍以上3.3倍以下が採用される。また、延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。また長手方向の延伸温度は、70℃以上90℃以下とすることが好ましい。また、幅方向の延伸倍率としては、好ましくは3.1倍以上4.5倍以下、さらに好ましくは、3.5倍以上4.2倍以下が採用される。幅方向の延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。また、25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4500MPa以下としつつ、引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満とするために、幅方向の延伸は複数ゾーンに分けて段階的に昇温しながら延伸する方法が好ましく、例えば延伸前半温度を90℃以上120℃以下、延伸中盤温度を100℃以上130℃以下、さらに延伸後半温度を110℃以上150℃以下で、延伸前半温度、延伸中盤温度、延伸後半温度の順に温度を高くしていく方法が挙げられる。 【0036】 さらに、二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行う。熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。熱処理時間は特性を悪化させない範囲において任意とすることができ、好ましくは5秒以上60秒以下、より好ましくは10秒以上40秒以下、最も好ましくは15秒以上30秒以下で行うのがよい。また、25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4500MPa以下としつつ、引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満とするために、熱処理を複数のゾーンに分けて段階的に昇温・降温する方法や、熱処理工程で幅方向に微延伸する方法が好ましく採用される。例えば熱処理前半温度を180℃以上210℃以下で幅方向に1%以上10%以下、好ましくは3%以上10%以下微延伸し、熱処理中盤温度を200℃以上240℃以下で幅方向に1%以上10%以下、好ましくは3%以上10%以下微延伸し、熱処理後半温度を150℃以上200℃未満とする方法が挙げられる。熱処理後半温度は熱収縮率を低くするために1%以上10%以下弛緩しながら実施することも好ましい。さらに、印刷層や接着剤、蒸着層、ハードコート層、耐候層といった各種加工層との接着力を向上させるため、少なくとも片面にコロナ処理を行ったり、易接着層をコーティングさせることもできる。コーティング層をフィルム製造工程内のインラインで設ける方法としては、少なくとも一軸延伸を行ったフィルム上にコーティング層組成物を水に分散させたものをメタリングリングバーやグラビアロールなどを用いて均一に塗布し、延伸を施しながら塗剤を乾燥させる方法が好ましく、その際、易接着層厚みとしては0.01μm以上1μm以下とすることが好ましい。また、易接着層中に各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、顔料、染料、有機または無機粒子、帯電防止剤、核剤などを添加してもよい。易接着層に好ましく用いられる樹脂としては、接着性、取扱い性の点からアクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。さらに、140?200℃条件下でオフアニールすることも好ましく用いられる。」 ・「【0050】 (13)成型加工性 本発明のポリエステルフィルムを、450℃の遠赤外線ヒーターを用いて、表面温度が150℃の温度になるように加熱し、70℃に加熱した円筒形金型(底面直径50mm、高さ20mm)に沿って真空成型を行った。円筒形金型は、エッジ部分のRを1mm、2mm、3mmの3種類準備して真空成型を行った。金型に沿って成型できた状態を以下の基準で評価した。 S:R1mmで成型できた(R1mmを再現できた)。 A:R2mmで成型できた(R2mmを再現できた)が、R1mmでは成型できなかった。 B:R3mmで成型できた(R3mmを再現できた)が、R2mmは成型できなかった。 C:R3mmで成型できなかった。 B以上を合格とした。 【0051】 (14)剥離破れ試験 本発明のポリエステルフィルム表面に、ポリアリレート/MEK分散体をダイコーターにて塗工・乾燥を行った(乾燥温度:150℃、乾燥時間:1分、巻出張力:200N/m、巻取張力:100N/m)。得られたポリアリレートが塗布されたポリエステルフィルムを、熱風オーブンに投入し、長手方向に100%の一軸延伸を行った(オーブン温度:150℃、幅方向フリー)。その後、ポリアリレート層を剥離し、剥離の様子、および剥離後のポリエステルフィルムの状態を以下の基準で評価した。 S:問題なく剥離が可能である。 A:破れはあるが方向によっては剥離が可能。 B:破れてしまい剥離が困難。 A以上を合格とした。」 ・「【0060】 (実施例1) A/B/Aの3層積層フィルムとした。各層の組成を表の通りとして、A層用の原料とB層用の原料をそれぞれ酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に供給し、A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を277℃で溶融し、A層とB層合流後の短管温度を277℃、口金温度を280℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させA層/B層/A層からなる3層積層未延伸フィルムを得た。次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、延伸温度85℃で長手方向に3.1倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却化した。 【0061】 次いでテンター式横延伸機にて延伸前半温度100℃、延伸中盤温度130℃、延伸後半温度150℃で幅方向に3.7倍延伸し、そのままテンター内にて、熱処理前半部を210℃として、このゾーンにて5.3%の微延伸を行い、熱処理中盤温度220℃でさらに恒温の熱処理を行った後、熱処理後半にて幅方向に3%のリラックスを掛けながら温度200℃で熱処理を行い、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。 ・・・(略)・・・ 【0078】 (比較例1) 組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。 ・・・(略)・・・ 【0083】 【表1】 ![]() 【0084】 【表2】 ![]() ・・・(略)・・・ 【0089】 【表7】 ![]() 【0090】 【表8】 ![]() 【0091】 表中の略語の意味は以下のとおりである。 EG:エチレングリコール CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール DEG:ジエチレングリコール NPG:ネオペンチルグリコール TPA:テレフタル酸 IPA:イソフタル酸 NDC:2,6-ナフタレンジカルボン酸」 (3)実施可能要件の判断 発明の詳細な説明の記載は、上記(2)のとおりであって、【0016】には、「150℃における100%延伸時の応力の平均値が30MPa?130Mpa」の特性を満足させるために「グリコール成分として、エチレングリコール成分を85モル%以上含有」させることが好ましいことが記載され、【0022】には、「25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下」及び「引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満」の特性を満足させるために、「フィルムをポリエステルA層とポリエステルA層より融点の低いポリエステルB層とを有し、ポリエステルA層が少なくとも一方の最外層に位置する積層構成とする方法(なお、本発明において、ポリエステルA層と、ポリエステルB層とを有する積層フィルムの場合、融点の高い方の層をポリエステルA層とする。)」及び「幅方向延伸後の熱処理工程において、2%以上10%以下の微延伸を行う方法」を併用することが記載されている。 また、【0031】ないし【0036】には、具体的な製造方法の例が詳細に記載されている。 そして、【0060】ないし【0091】には、本件特許発明1の発明特定事項を満足する「二軸配向ポリエステルフィルム」を具体的に製造した実施例1ないし17及び本件特許発明1の発明特定事項を満足しない「二軸配向ポリエステルフィルム」を具体的に製造した比較例1ないし5が記載され、実施例1ないし17が、比較例1ないし5と比べて、「成形加工性」に優れ、「剥離破れ試験」が合格に達していること、すなわち「易成型性が良好」及び「剥離工程における取り扱い性に優れる」という効果を奏することを確認している。 したがって、本件特許発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 また、請求項1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2、3及び5ないし9についても同様である。 なお、本件訂正により、発明の詳細な説明に記載された比較例1は、請求項1に記載された組成や積層構造に関する条件を満足しないものとなったので、取消理由(決定の予告)で指摘した不備は解消している。 (4)取消理由(決定の予告)についてのまとめ したがって、取消理由(決定の予告)によっては、請求項1ないし3及び5ないし9に係る特許は取り消すことはできない。 2 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立ての理由について 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立ての理由は、申立理由1-1(甲第1号証に基づく新規性)、申立理由1-2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)、申立理由2-1(実施可能要件)イ及び申立理由2-2(明確性)である。 (1)申立理由1-1(甲第1号証に基づく新規性)及び申立理由1-2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)について 申立理由1-1及び1-2は、いずれも甲1に記載された発明を主引用発明とするものであって、本件特許発明1との対比に際し、一致点及び相違点の認定は共通することから、併せて検討する。 ア 甲1ないし6に記載された事項等 (ア)甲1に記載された事項及び甲1発明 a 甲1に記載された事項 甲1には、「成型用二軸配向ポリエステルフィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。 ・「[請求項1]100℃におけるフィルム長手方向および幅方向の貯蔵弾性率がそれぞれ100MPa以上1000MPa以下であり、180℃におけるフィルム長手方向および幅方向の貯蔵弾性率がそれぞれ41MPa以上400MPa以下であり、かつ150℃におけるフィルム長手方向および幅方向の100%伸長時応力(F100値)がそれぞれ5MPa以上60MPa以下である成型用二軸配向ポリエステルフィルム。 [請求項2]ポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、示差走査熱量測定(DSC)による1stRunにおける、ポリエステルA層の結晶融解ピーク温度(TmA)が246℃以上254℃以下、ポリエステルB層の結晶融解ピーク温度(TmB)が235℃以上246℃未満である請求項1に記載の成型用二軸配向ポリエステルフィルム。 ・・・(略)・・・ [請求項4]ポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、 ポリエステルA層が、ジオール由来の構造単位に対して、エチレングリコール由来の構造単位を90モル%以上99モル%以下、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構造単位および/または、ネオペンチルグリコール由来の構造単位を1モル%以上10モル%以下含有し、 ポリエステルB層が、ジオール由来の構造単位に対して、エチレングリコール由来の構造単位を80モル%以上90モル%以下、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構造単位および/または、ネオペンチルグリコール由来の構造単位を10モル%以上20モル%以下含有してなる請求項1?3のいずれかに記載の成型用二軸配向ポリエステルフィルム。 ・・・(略)・・・ [請求項9]前記ポリエステルA層が、少なくとも一方の最外層に位置する請求項1に記載の成型用二軸配向ポリエステルフィルム。」 ・「[0010] 本発明の課題は上記した従来技術の問題点を解消することにある。すなわち、成型性、寸法安定性、耐熱性、成型後の品位に優れており、成型加工を施して、様々な成型部材へ好適に使用することのできる成型用二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。」 ・「[0031] さらに二軸延伸後の熱処理はオーブン中、加熱したロール上などの任意の方法により行うことができるが、この熱処理は220℃以上240℃以下であり、かつポリエステルB層の結晶融解ピーク温度から2℃以上15℃以下低い温度とすることが好ましく、2℃以上10℃以下低い温度とすることがさらに好ましく、2℃以上7℃以下低い温度とすることが最も好ましい。なお、熱処理温度は、示差走査型熱量計(DSC)において窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で測定したときのDSC曲線に熱履歴に起因する結晶融解ピーク温度前の微小吸熱ピーク温度(Tmeta)により求めることができる。」 ・「[0093] (実施例1) A/B/Aの3層積層フィルムとした。各層の組成を表の通りとして、A層用の原料とB層用の原料をそれぞれ酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に供給し、A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を277℃で溶融し、A層とB層合流後の短管温度を277℃、口金温度を280℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させA層/B層/A層からなる3層積層未延伸フィルムを得た。次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、予熱温度を80℃、延伸温度を85℃で長手方向に3.6倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却化した。 [0094] その後、コロナ放電処理を施し、基材フィルムの両面の濡れ張力を55mN/mとし、その処理面(フィルム両面)に、以下の塗剤A、B、C、Dを超音波分散させながら混合し、#4メタリングバーにて均一に塗布した。 ・テレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸/セバシン酸/エチレングリコール/ネオペンチルグリコール/1,4-ブタンジオール=28/9/10/3/15/18/17モル%の共重合組成から成るポリエステル樹脂: 6.0質量% ・メラミン架橋剤: 0.3質量% ・コロイダルシリカ粒子(平均粒径:80nm): 0.06質量% ・ブチルセロソルブ: 1.36質量% ・水: 92.28質量% 次いでテンター式横延伸機にて予熱温度85℃、延伸温度95℃で幅方向に3.8倍延伸し、そのままテンター内にて温度234℃で5秒間の熱処理を行い、その後、幅方向に5%のリラックスを掛けながら150℃にて3秒間熱処理を行い、フィルム厚み188μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。」 ・「[0102] (実施例9) A層の組成を表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルム厚み188μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。 [0103] (実施例10) 実施例9のフィルムを、180℃の熱風オーブン中で幅方向フリー(フィルムをフィルム幅方向に拘束していない状態)、長手方向の巻き取り速度を巻きだし速度より1.5%低下させながらオフアニール処理を行い、フィルム厚み188μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。」 ・「[0125] (実施例29) A層、B層の組成を表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルム厚み188μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。」 ・「[0135] (実施例39) 幅方向延伸後の熱処理温度を215℃に変更した以外は、実施例29と同様にして、フィルム厚み188μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。」 ・「[0156] [表15] ![]() [0157] [表16] ![]() 」 ・「[0162] 表中の略語の意味は以下のとおりである。 EG:エチレングリコール CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール DEG:ジエチレングリコール NPG:ネオペンチルグリコール TPA:テレフタル酸 IPA:イソフタル酸」 b 甲1発明 甲1に記載された事項を、特に請求項1、2、4及び9に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「ポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルA層が少なくとも一方の最外層に位置し、ポリエステルA層が、ジオール由来の構造単位に対して、エチレングリコール由来の構造単位を90モル%以上99モル%以下、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構造単位および/または、ネオペンチルグリコール由来の構造単位を1モル%以上10モル%以下含有し、ポリエステルB層が、ジオール由来の構造単位に対して、エチレングリコール由来の構造単位を80モル%以上90モル%以下、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構造単位および/または、ネオペンチルグリコール由来の構造単位を10モル%以上20モル%以下含有し、示差走査熱量測定(DSC)による1stRunにおける、ポリエステルA層の結晶融解ピーク温度(TmA)が246℃以上254℃以下、ポリエステルB層の結晶融解ピーク温度(TmB)が235℃以上246℃未満であり、100℃におけるフィルム長手方向および幅方向の貯蔵弾性率がそれぞれ100MPa以上1000MPa以下であり、180℃におけるフィルム長手方向および幅方向の貯蔵弾性率がそれぞれ41MPa以上400MPa以下であり、かつ150℃におけるフィルム長手方向および幅方向の100%伸長時応力(F100値)がそれぞれ5MPa以上60MPa以下である成型用二軸配向ポリエステルフィルム。」 (イ)甲2に記載された事項 甲2には、「成形加工用二軸延伸ポリエステルフィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 エチレンテレフタレート単位及び/またはエチレンナフタレート単位を主たる構成成分とするポリエステルからなり、融点が245?265℃、面配向係数が0.11?0.15であり、表面ヘーズが0?1.5%であることを特徴とする成形加工用二軸延伸ポリエステルフィルム。 ・・・(略)・・・ 【請求項3】 該フィルムの弾性率が、2.5?3.5GPaであることを特徴とする請求項1または2に記載の成形加工用二軸延伸ポリエステルフィルム。」 ・「【0015】本発明において、面配向係数が0.11?0.15、好ましくは0.12?0.15、さらに好ましくは0.13?0.145であることが、優れた成形加工性、折曲げ時の白化防止や高温成形時の弛み防止の点から必要である。」 ・「【0023】本発明において、成形時の追従性、均一成形性等の点からフィルムの25℃での弾性率は、2.5?3.5GPaが好ましく、特に好ましくは3?3.5GPaである。」 (ウ)甲3に記載された事項 甲3には、「樹脂シート」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 樹脂フィルムAと樹脂フィルムBが接着剤層または粘着剤層を介して積層された樹脂シートであり、接着剤部での90°剥離強度が0.3kg/cm以上であり、加熱処理前のヘイズ値と150℃の雰囲気下で30分加熱処理後のヘイズ値の差が3%以下であり、かつ、100℃における長手方向および/または幅方向の伸度が100%以上であることを特徴とする樹脂シート。」 ・「【0004】 本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、意匠性、高温成形加工性に優れ、かつ、接着面での剥離が生じない樹脂シートを提供することを課題とする。」 ・「【0035】 本発明の樹脂シートは、150℃雰囲気下におけるフィルム長手方向と幅方向の熱収縮率差が3%以下であることが好ましい。より好ましくは1.5%以下である。熱収縮率差が3%より大きい場合、成型時の長手方向と幅方向の熱収縮率の差が大きく、位置精度が求められる様な意匠用途では使いづらく好ましくない。1.5%以下であれば、熱収縮率がほぼ同程度であるため位置精度が保たれ、かつ、3次元成型を行う際には長手方向、幅方向関係なくバランスよく延伸されるため好ましいものである。 本発明の樹脂シートは引き裂き強度が5N/mm以上であることが好ましい。より好ましくは10N/mm以上である。5N/mm未満の場合、成形後のトリミング工程により樹脂シートが裂けてしまう可能性があり好ましくない。」 (エ)甲4に記載された事項 甲4には、「離型用ポリエステルフィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 配向角が10°以下で、かつ配向角の変動が幅方向1mあたり5°以下であり、エレメンドルフ引裂伝播抵抗が長手方向および幅方向ともに5N/mm以上であるポリエステルフィルムであり、 かつ150℃で30分間加熱処理後のフィルムの少なくとも一方のフィルム表面において、大きさ15μm^(2)以上20μm^(2)未満のオリゴマー欠点が5000個/mm^(2)以下、大きさ20μm^(2)以上のオリゴマー欠点が1000個/mm^(2)以下である離型用ポリエステルフィルム。」 ・「【0001】 本発明は、光学用途部材に使用されるポリエステルフィルムに関するものであり、特に、偏光板用の離型フィルムまたは偏光板保護フィルムに使用される異物欠点の少ないポリエステルフィルムに関するものである。」 ・「【0010】 本発明は上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、光学用途部材、特に偏光板に用いられる離型フィルムおよび偏光板保護フィルムとして好適な、表層におけるオリゴマー起因の異物が少なく、配向角の変動が小さく、さらには引裂伝播抵抗が特定範囲で取り扱い性に優れたポリエステルフィルムを提供することにある。」 ・「【0020】 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、少なくともポリエステルA層およびポリエステルB層からなる積層フィルムであることが好ましい。A/Bの2層であっても、3層の場合、フィルム表裏で構成が異なるA/C/Bの3層であっても良いが、製造工程の簡略性からA/B/Aの3層が有利である。」 ・「【0026】 さらに本発明のポリエステルフィルムは、エレメンドルフ引裂伝播抵抗が長手方向および幅方向ともに5N/mm以上である。5N/mm未満では、離型用フィルムの使用工程で、例えば、熱圧着後あるいは、製品や金属製品などの成型の際に金型から剥離する場合など、剥離時の引っ張り圧力が掛かった場合に破れる懸念があり、実用とならない場合が多い。エレメンドルフ引裂伝播抵抗を10N/mm以上とすることは、ポリエステルフィルムの場合、困難を伴い、エレメンドルフ引裂伝播抵抗が長手方向および幅方向とも7?9N/mmである場合が好ましく、エレメンドルフ引裂伝播抵抗が長手方向および幅方向とも7.5?8.5N/mmで、長手方向のエレメンドルフ引裂伝播抵抗が幅方向に対し0.1?0.5N/mm大きい場合がさらに好ましい。」 ・「【0042】 (8)エレメンドルフ引裂伝播抵抗 東洋精機製作所のエレメンドルフ引裂機を用い、JIS K7128-2・1998に基づいて引裂強さ(N)を測定した。この計測値を測定したフィルム厚みで除して引裂伝播抵抗(N/mm)とした。なお、引裂強度は縦方向および横方向それぞれ20サンプルの試験結果の平均値を用いた。」 ・「【0048】 実施例1 ・・・(略)・・・ 【0053】 実施例2?4、比較例1?3 ポリエステルA層、B層中の不活性粒子の種類、含有量、ポリエステルAの加熱処理条件、フィルム厚み条件を変更する以外実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1、表2、表3に示した。 【0054】 ・・・(略)・・・ 【0055】 【表2】 ![]() 【0056】 【表3】 ![]() 」 (オ)甲5に記載された事項 甲5には、「インモールド成型用二軸延伸ポリエステルフィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 120℃における破断伸度が350%?500%、破断応力が10MPa?30MPaであり、厚み斑が5%以下であることを特徴とするインモールド成型用二軸延伸ポリエステルフィルム。」 (カ)甲6に記載された事項 甲6には、「ポリエステルフィルムの製造方法及びポリエステルフィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 未延伸フィルムを長手方向に延伸し、次いで幅方向に延伸した後に熱固定するポリエステルフィルムの製造方法において、長手方向に延伸した後かつ幅方向に延伸する前のポリエステルフィルムのMOR値を1.5?2.85の範囲とし、かつ、熱固定する際に、熱固定温度180?230℃の範囲で、幅方向に下記式(1)で定義される再延伸率が2?15%の再延伸を与えることを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。 再延伸率(%)=[(最大フィルム幅-熱固定温度に入った時のフィルム幅)/熱固定温度に入った時のフィルム幅]×100 ・・・式(1)」 イ 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「ポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルム」は本件特許発明1における「少なくともポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルム」に相当し、以下同様に、「ポリエステルA層が、ジオール由来の構造単位に対して、エチレングリコール由来の構造単位を90モル%以上99モル%以下、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構造単位および/または、ネオペンチルグリコール由来の構造単位を1モル%以上10モル%以下含有し、ポリエステルB層が、ジオール由来の構造単位に対して、エチレングリコール由来の構造単位を80モル%以上90モル%以下、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構造単位および/または、ネオペンチルグリコール由来の構造単位を10モル%以上20モル%以下含有し」は「前記A層およびB層を構成するポリエステルがともにグリコール成分としてエチレングリコール成分を85モル%以上含有し」に、「示差走査熱量測定(DSC)による1stRunにおける、ポリエステルA層の結晶融解ピーク温度(TmA)が246℃以上254℃以下、ポリエステルB層の結晶融解ピーク温度(TmB)が235℃以上246℃未満であり」は「ポリエステルB層の融点がポリエステルA層の融点よりも低く」に、それぞれ相当する。 甲1発明における「150℃におけるフィルム長手方向および幅方向の100%伸長時応力(F100値)がそれぞれ5MPa以上60MPa以下である」は本件特許発明1における「フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、」「III.150℃における100%延伸時の応力の平均値が30MPa?130MPa」「の特性を示す」と、「フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、」「150℃における100%延伸時の応力の平均値」が「30MPa以上60MPa以下」で重複一致する。 甲1発明における「成型用二軸配向ポリエステルフィルム」は本件特許発明1における「二軸配向ポリエステルフィルム」に相当する。 なお、甲1発明は、「100℃におけるフィルム長手方向および幅方向の貯蔵弾性率がそれぞれ100MPa以上1000MPa以下であり、180℃におけるフィルム長手方向および幅方向の貯蔵弾性率がそれぞれ41MPa以上400MPa以下であり」という発明特定事項を有するものであるが、本件特許発明1は上記発明特定事項を有することを排除していないので、この点は本件特許発明1と甲1発明の対比に際し、相違点とはならない。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「少なくともポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルA層が少なくとも一方の最外層に位置し、前記A層およびB層を構成するポリエステルがともにグリコール成分としてエチレングリコール成分を85モル%以上含有し、かつポリエステルB層の融点がポリエステルA層の融点よりも低く、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、 150℃における100%延伸時の応力の平均値が30MPa以上60MPa以下 の特性を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、「フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、」「I.25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下」の特性を満たすのに対し、甲1発明においては、そのようなものか不明な点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、」「II.引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満」の特性を満たすのに対し、甲1発明においては、そのようなものか不明な点。 (イ)判断 甲1には、25℃におけるヤング率の平均値及び引裂伝播抵抗の平均値に関して記載も示唆もなく、また、甲1発明が、相違点1及び2に係る本件特許発明1の特性を満足する蓋然性が高いともいえない。 したがって、相違点1及び2は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。 次に相違点1及び2の容易想到性について検討する。 事案に鑑み、相違点2から検討する。 まず、甲3には、「意匠性、高温成形加工性に優れ、かつ、接着面での剥離が生じない樹脂シートを提供する」ために、「引裂強度」(本件特許発明1における「引裂伝播抵抗」に相当する。)を5N/mm以上とすることが記載されているが、「接着面での剥離が生じない」という課題は、本件特許発明1の「成型後の耐剥離破れ性に優れ」るフィルムを提供するという課題とは異なるものであるし、甲3には、「より好ましくは10N/mm以上である」と記載されている。 したがって、甲1発明において、甲1発明とは課題の異なる甲3に記載された事項を適用する動機付けはないし、仮に適用することができたとしても、引裂伝播抵抗はより好ましいとされる「10N/mm以上」とされると考えるべきであり、「4.5N/mm以上7.0N/mm未満」とすることには至らない。 次に、甲4には、「エレメンドルフ引裂伝播抵抗」(本件特許発明1における「引裂伝播抵抗」に相当する。)を「長手方向および幅方向ともに5N/mm以上」とすること及び「5N/mm未満では、離型用フィルムの使用工程で、例えば、熱圧着後あるいは、製品や金属製品などの成型の際に金型から剥離する場合など、剥離時の引っ張り圧力が掛かった場合に破れる懸念があり、実用とならない場合が多いこと」が記載され、「エレメンドルフ引裂伝播抵抗」が、長手方向5.2N/mm、幅方向5.6N/mmである実施例4も記載されている。 しかし、甲4には、「エレメンドルフ引裂伝播抵抗」は「長手方向および幅方向とも7?9N/mmである場合が好ましく」、さらに「長手方向および幅方向とも7.5?8.5N/mmで、長手方向のエレメンドルフ引裂伝播抵抗が幅方向に対し0.1?0.5N/mm大きい場合がさらに好ましい」ことが記載されており、すなわち7N/mm以上とすることが好ましいことが記載されている一方で、本件特許明細書の【0021】に「引き裂き伝播抵抗が7.0N/mm以上の場合には、高成型倍率、高成型温度における、折りたたみ結晶の増加に伴うフィルムの極端な脆化により、成型後の剥離破れが増加すると考えられる。」と記載されているような引裂伝播抵抗を7.0N/mm未満とすることの動機付けとなる記載はない。また、甲4に記載された実施例4以外の実施例1ないし3の「エレメンドルフ引裂伝播抵抗」は「長手方向および幅方向とも7?9N/mm」の範囲内にあり、実施例4が実施例1ないし3より加工適性評価が優れているわけではない(実施例1及び2は、実施例4よりも優れている。)。 したがって、甲1発明において、甲4に記載された事項を適用したとしても、引裂伝播抵抗はより好ましいとされる「7?9N/mm以上」又は「7.5?8.5N/mm」とされると考えるべきであり、「4.5N/mm以上7.0N/mm未満」とすることには至らない。 さらに、甲2には、「25℃におけるヤング率」に相当する「25℃での弾性率」(【0023】)及び「面配向係数」(【0015】)に関する記載はあるが、引裂伝播抵抗に関する記載はない。 甲5には、本件特許発明5で特定される「フィルムの厚みムラ」に相当する「厚み斑」(【請求項1】)に関する記載はあるが、引裂伝播抵抗に関する記載はない。 甲6には、熱固定する際に、熱固定温度180?230℃の範囲で、再延伸率が2?15%の再延伸を与えることポリエステルフィルムの製造方法が記載されているが、引裂伝播抵抗に関する記載はない。 したがって、甲1発明において、甲2ないし6に記載された事項を適用しても、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1は「易成型性が良好」及び「剥離工程における取り扱い性に優れる」という格別顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 本件特許発明2、3及び5ないし8について 本件特許発明2、3及び5ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ 本件特許発明9について 本件特許発明9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び甲2ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 オ 申立理由1-1及び1-2についてのまとめ よって、申立理由1及び2によっては、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 (2)申立理由2-1(実施可能要件)イについて 申立理由2-1(実施可能要件)イは、要するに本件訂正前の請求項4の「式(1)で表されるフィルム面内の複屈折値Δnが35以下である」という記載が不明確であること及び本件訂正前の請求項5ないし9が請求項4を引用していることに基づくものである。 そして、本件訂正により請求項4が削除され、また、訂正後の請求項5ないし9は請求項4を引用しないものとなったことから、発明の詳細な説明に本件特許発明5ないし9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえず、申立理由2-1(実施可能要件)イによっては、本件特許の請求項5ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 (3)申立理由2-2(明確性)について 申立理由2-2(明確性)は、要するに本件訂正前の請求項4の「式(1)で表されるフィルム面内の複屈折値Δnが35以下である」という記載が不明確であること及び本件訂正前の請求項5ないし9が請求項4を引用していることに基づくものである。 そして、本件訂正により請求項4が削除され、また、訂正後の請求項5ないし9は請求項4を引用しないものとなったことから、本件特許発明5ないし9は明確でないとはいえず、申立理由2-2(明確性)によっては、本件特許の請求項5ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 第6 結語 上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし9に係る特許は取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし3及び5ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくともポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルA層が少なくとも一方の最外層に位置し、前記A層およびB層を構成するポリエステルがともにグリコール成分としてエチレングリコール成分を85モル%以上含有し、かつポリエステルB層の融点がポリエステルA層の融点よりも低く、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、以下の特性を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。 I.25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下 II.引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満 III.150℃における100%延伸時の応力の平均値が30MPa?130MPa 【請求項2】 フィルムを150℃で任意の一方向(X方向)に100%延伸した後の、X方向と、X方向と直交する方向(Y方向)の引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項3】 ポリエステルA層とポリエステルA層より融点の低いポリエステルB層とを有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルA層が、少なくとも一方の最外層に位置する請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 フィルムの厚みムラが10%以下である請求項1?3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項6】 融解二次ピーク(Tmeta)が210℃以上235℃以下である、請求項1?3および5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項7】 フィルム両面における面配向係数のうち、高い方の面における面配向係数が0.12以上0.17以下である請求項1?3および5?6のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項8】 成型加工用途に使用される請求項1?3および5?7のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項9】 光学用途に使用される請求項1?3および5?8のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-02-17 |
出願番号 | 特願2014-29153(P2014-29153) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J) P 1 651・ 536- YAA (C08J) P 1 651・ 113- YAA (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 深谷 陽子 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 渕野 留香 |
登録日 | 2018-07-06 |
登録番号 | 特許第6361159号(P6361159) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 二軸配向ポリエステルフィルム |
代理人 | 伴 俊光 |
代理人 | 伴 俊光 |
代理人 | 細田 浩一 |
代理人 | 細田 浩一 |