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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J |
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管理番号 | 1361461 |
異議申立番号 | 異議2019-700654 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-08-20 |
確定日 | 2020-03-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6471833号発明「熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6471833号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[3-8]、[9-12]について訂正することを認める。 特許第6471833号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6471833号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)6月30日(優先権主張 平成28年7月1日)を国際出願日とする特許出願であって、平成31年2月1日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、本件特許に対して、次のとおりの手続が行われた。 令和 1年 8月20日 :特許異議申立人 早川いづみ(以下、「特 許異議申立人」という。)による請求項1 ないし12に係る特許に対する特許異議の 申立 令和 1年11月13日付け:取消理由通知 令和 2年 1月17日 :特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、 「特許権者」という。)による意見書の提 出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」 という。) なお、本件訂正請求における訂正は、「第2 訂正の許否についての判断」にあるように、誤記の訂正であって、特許法第120条の5第5項ただし書における特別の事情と認めうる内容であったため、同法120条の5第5項の通知を行っていない。 第2 訂正の許否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について付したものである。) (1) 訂正事項1 訂正前の請求項3の 「JIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際の試験片表面の1000回当たりの下記式(1)から算出した摩耗質量が15g以下である、請求項1又は請求項2に記載の熱収縮性フィルム。 摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗後の質量-摩耗前の質量)・・・式(1)」 との記載を、 「JIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際の試験片表面の1000回当たりの下記式(1)から算出した摩耗質量が15g以下である、請求項1又は請求項2に記載の熱収縮性フィルム。 摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗前の質量-摩耗後の質量)・・・式(1)」 に訂正する。 請求項3の記載を引用する請求項4ないし8も同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 訂正前の請求項4の 「体積固有抵抗が1×1014Ω・cm以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。」 との記載を、 「体積固有抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。」 に訂正する。 請求項4の記載を引用する請求項5ないし8も同様に訂正する。 (3) 訂正事項3 訂正前の明細書の段落【0011】、【0040】、【0070】の 「摩耗質量(g)=1000/試験回数×(摩耗後の質量-摩耗前の質量) ・・・式(1)」 との記載を、 「摩耗質量(g)=1000/試験回数×(摩耗前の質量-摩耗後の質量) ・・・式(1)」 に訂正する。 (4) 訂正事項4 訂正前の明細書の段落【0086】の 「(12)折目引張破断伸び 折目開き角度の測定方法と同様にして、折目を付与した短冊状サンプルを、更に試験片幅15mmになるように切り出した。折目を付与した短冊状試験片の折目部を中心として、チャック間距離20mmで引張試験機にセットし、23℃、200mm/minの試験速度で引張り、下記式(3)により折目引張破断伸び率を算出し、3回の測定値の平均値を求めた。主収縮方向の折目引張破断伸びをE1、主収縮方向と直交する方向の折目引張破断伸びをE2とした。 折目引張破断伸び率(%)=(破断したときのチャック間距離/20mm×100 ・・・式(3)」 との記載を、 「(12)折目引張破断伸び 折目開き角度の測定方法と同様にして、折目を付与した短冊状サンプルを、更に試験片幅15mmになるように切り出した。折目を付与した短冊状試験片の折目部を中心として、チャック間距離20mmで引張試験機にセットし、23℃、200mm/minの試験速度で引張り、下記式(3)により折目引張破断伸び率を算出し、3回の測定値の平均値を求めた。主収縮方向の折目引張破断伸びをE1、主収縮方向と直交する方向の折目引張破断伸びをE2とした。 折目引張破断伸び率(%)=(破断したときのチャック間距離-20mm)/20mm×100 ・・・式(3)」 に訂正する。 (5)一群の請求項について 本件訂正請求は、一群の請求項[3-8]に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項[3-8]、[9-12]について請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 請求項3に係る訂正(訂正事項1)について 請求項3に係る訂正(訂正事項1)は、式(1)における誤記の訂正を目的とするものである。 そして、明細書の段落【0081】の【表1】には、実施例1、2、比較例1?3、参考例1の「摩耗質量(g)」として、正の値が記載されていること、「摩耗質量」は、対象物が摩耗して減少する質量であるから、摩耗前の質量から摩耗後の質量を減算することは自明であることから、請求項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 請求項3の記載を引用する請求項4ないし8も同様である。 (2) 請求項4に係る訂正(訂正事項2)について 請求項4に係る訂正(訂正事項2)は、体積固有抵抗の値の表記における誤記の訂正を目的とするものである。 そして、明細書の段落【0012】や【0042】には、「体積固有抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上である」と記載されていることから、請求項4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 請求項4の記載を引用する請求項5ないし8も同様である。 (3) 訂正事項3について 明細書の段落【0011】、【0040】、【0070】の訂正は、訂正事項1と同じく、式(1)における明らかな誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 (4) 訂正事項4について 明細書の段落【0086】の訂正は、式(3)における誤記の訂正を目的とするものである。 そして、明細書の段落【0094】の【表2】には、「折目引張破断伸び(E1)(%)」の値として、100よりも小さい値のものが示されていること、「折目引張破断伸び率」である以上、もとの長さからどの程度伸びたのかを示すものであり、破断した際のチャック間距離から元の長さ(20mm)を減じ、元の長さ(20mm)で割り、その値に100をかけたものであることは明らかであるから、明細書の段落【0086】の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[3-8]、[9-12]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項[3-8]、[9-12]について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)は、令和2年1月17日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の主面に備えた単層又は複層の熱収縮性フィルムであって、 下記a)?d)を満たすことを特徴とする熱収縮性フィルム。 a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下 b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下 c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上48%以下 d)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下 【請求項2】 全ての層がポリエステルを主成分とする、請求項1に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項3】 JIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際の試験片表面の1000回当たりの下記式(1)から算出した摩耗質量が15g以下である、請求項1又は請求項2に記載の熱収縮性フィルム。 摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗前の質量-摩耗後の質量)・・・式(1) 【請求項4】 体積固有抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項5】 絶縁破壊電圧が8kV以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項6】 絶縁被覆用である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項7】 電池セル被覆用である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項8】 箱状包装資材展開体に裁断されてなる、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項9】 共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の表面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムであって、 下記のe)?g)の少なくとも1つを満たし、箱状包装資材展開体に裁断されてなることを特徴とする、熱収縮性フィルム。 e)主収縮方向の折目開き角度(A1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目開き角度(A2)とが、いずれも30°以下 f)主収縮方向の折目開き角度(A1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目開き角度(A2)との折目開き角度比(A1/A2)が、1.3以下 g)主収縮方向の折目部の引張破断伸び(E1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目部の引張破断伸び(E2)とのいずれも80%以上 【請求項10】 前記表面層は、前記共重合ポリエステルとして、2種類以上のジカルボン酸成分を含む請求項9に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項11】 請求項9または請求項10に記載の熱収縮性フィルムを用いた箱状包装資材であって、折り曲げ加工部及びヒートシール部を備えたことを特徴とする、箱状包装資材。 【請求項12】 請求項11に記載の箱状包装資材で被覆されてなることを特徴とする、電池セル。」 第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について 特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1?12に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。 申立理由1-1 (甲第1号証を根拠とする新規性) 本件特許の訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由1-2 (甲第2号証を根拠とする新規性) 本件特許の訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由1-3 (甲第3号証を根拠とする新規性) 本件特許の訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 なお、特許異議申立書の第77頁「(5)むすび」のアには、「本件特許発明1?5は、甲1から甲3発明に記載された発明であり」と記載されているが、特許異議申立書の第63頁?第65頁の「ウ-13:甲<1>発明を主引例とした本件特許発明5との対比」?「ウ-15:甲<3>発明を主引例とした本件特許発明5との対比」の項では、いずれも本件特許発明5に対する進歩性の理由のみを記載するに留まるため、特許異議申立書の第77頁「(5)むすび」のアの、「本件特許発明1?5は、甲1から甲3発明に記載された発明であり」との記載は、「本件特許発明1?4は、甲1から甲3発明に記載された発明であり」の誤記であると認める。 申立理由2-1 (甲第1号証を主引用例とする進歩性) 本件特許の訂正前の請求項1?8に係る特許は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-2 (甲第2号証を主引用例とする進歩性) 本件特許の訂正前の請求項1?8に係る特許は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証ないし甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-3 (甲第3号証を主引用例とする進歩性) 本件特許の訂正前の請求項1?8に係る特許は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-4 (甲第8号証を主引用例とする進歩性) 本件特許の訂正前の請求項9?12に係る特許は、甲第8号証に記載された発明及び甲第9号証ないし甲第10号証に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 甲第1号証:特公平7-77757号公報 甲第2号証:特開2012-36272号公報 甲第3号証:特開2015-136797号公報 甲第4号証:JIS K7204:1999 プラスチック-摩耗輪による 摩耗試験方法 甲第5号証:特開平7-118376号公報 甲第6号証:特開平9-300452号公報 甲第7号証:特開2009-43621号公報 甲第8号証:再公表2013/035668号 甲第9号証:特開2012-54029号公報 甲第10号証:特開2015-134491号公報 甲第11号証:再公表2003/045690号 甲第12号証:「ポリマー辞典」376頁 甲第13号証:「日本機械学会論文集(A編)」52巻479号(昭61- 7)1643?1648頁 各甲号証の表記は、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。 なお、甲第11号証は、甲第2号証の記載内容を検討する際に参酌した文献であり、甲第12号証、甲第13号証は、甲第1号証の記載内容を検討する際に参酌した文献である。 申立理由3 (実施可能要件) 本件特許の訂正前の請求項1?12についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 そして、その具体的理由の概略は次のとおりである。 申立理由3-1 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明の 「70度の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」 との特定事項について、本件特許の明細書の比較例1に記載のフィルムは、明細書の段落【0025】?【0030】に記載の好ましい共重合ポリエステル、段落【0044】に記載の好ましいフィルム厚み、段落【0045】に記載の好ましいフィルムの層構成、段落【0047】、【0048】に記載の好ましい熱収縮フィルムの製造方法のいずれも満足しているにもかかわらず、「70度の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」との特定事項を満足していない。明細書の比較例3に記載のフィルムは、段落【0044】に記載の好ましいフィルム厚みの範囲からは外れているものの、フィルム厚みがネックイン率の値に影響することは技術的に考えられない(少なくとも、本件特許の明細書の発明の詳細な説明にはそのような事項は記載されていない)。 以上のことから、明細書には当業者が本件特許の訂正前の請求項1に係る発明を実施できる程度に記載されているとはいえない。 本件特許の訂正前の請求項1を引用する、訂正前の請求項2?8に係る発明についても同様である。 申立理由3-2 本件特許の訂正前の請求項3に係る発明の 「JIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際の試験片表面の1000回当たりの下記式(1)から算出した摩耗質量が15g以下である、請求項1又は請求項2に記載の熱収縮性フィルム。 摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗後の質量-摩耗前の質量)・・・式(1)」 との特定事項について、本件特許の明細書の比較例3に記載のフィルムは、明細書の段落【0025】?【0030】に記載の好ましい共重合ポリエステル、段落【0045】に記載の好ましいフィルムの層構成、段落【0047】、【0048】に記載の好ましい熱収縮フィルムの製造方法のいずれも満足しているにもかかわらず、上記摩耗質量に関する特定事項を満足していない。明細書の比較例3に記載のフィルムは、段落【0044】に記載の好ましいフィルム厚みの範囲からは低く外れているものの、フィルム厚みが薄くなることにより、摩耗質量の値を増加させるように影響することは技術的に考えられない(少なくとも、本件特許の明細書の発明の詳細な説明にはそのような事項は記載されていない)。 以上のことから、明細書には当業者が本件特許の訂正前の請求項3に係る発明を実施できる程度に記載されているとはいえない。 本件特許の訂正前の請求項3を引用する、訂正前の請求項4?8に係る発明についても同様である。 申立理由3-3 本件特許の訂正前の請求項9に係る発明の 「共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の表面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムであって、 下記のe)?g)の少なくとも1つを満たし、箱状包装資材展開体に裁断されてなることを特徴とする、熱収縮性フィルム。 e)主収縮方向の折目開き角度(A1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目開き角度(A2)とが、いずれも30°以下 f)主収縮方向の折目開き角度(A1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目開き角度(A2)との折目開き角度比(A1/A2)が、1.3以下 g)主収縮方向の折目部の引張破断伸び(E1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目部の引張破断伸び(E2)とのいずれも80%以上」 との特定事項について、本件特許の明細書の比較例4に記載のフィルムは、明細書の段落【0025】?【0030】に記載の好ましい共重合ポリエステル、段落【0044】に記載の好ましいフィルム厚み、段落【0045】に記載の好ましいフィルムの層構成、段落【0047】、【0048】に記載の好ましい熱収縮フィルムの製造方法のいずれも満足しているにもかかわらず、訂正前の請求項9におけるe)、f)、g)のいずれも満足していない。 以上のことから、明細書には当業者が本件特許の訂正前の請求項9に係る発明を実施できる程度に記載されているとはいえない。 本件特許の訂正前の請求項9を引用する、訂正前の請求項10?12に係る発明についても同様である。 申立理由4 (サポート要件) 本件特許の訂正前の請求項1?8についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 そして、その具体的理由の概略は次のとおりである。 本件特許の訂正前の請求項1の特定事項を全て満足する具体例として記載されているのは、本件特許明細書における実施例1、2に記載の、特定の組成、層構成からなるフィルムのみであり、実施例1、2に記載のフィルム以外のどのようなフィルムが、本件特許の訂正前の請求項1の全ての特定事項を満たすものなのか、発明の詳細な説明に記載されていない。 よって、本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えたものである。 本件特許の訂正前の請求項1を引用する、訂正前の請求項2?8に係る発明についても同様である。 申立理由5 (明確性) 本件特許の訂正前の請求項3?12についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 そして、その具体的理由の概略は次のとおりである。 申立理由5-1 本件特許の訂正前の請求項3には、「摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗後の質量-摩耗前の質量)と定義されており、(摩耗後の質量-摩耗前の質量)は必ず負の値となることは明らかであるが、実施例1、2の記載のフィルムにおける該摩耗質量はいずれも正の値となっており、本件特許の訂正前の請求項に係る発明は不明確である。 なお、仮に訂正されたとしても、本件特許の明細書の実施例1、2に記載のフィルムの厚みはいずれも100μmであり、摩耗試験により試験片全てが摩耗したとしても摩耗質量は約1.1gのはずである。しかしながら、本件特許の明細書の実施例1、2に記載のフィルムはいずれも厚みが100μmであるにもかかわらず、摩耗質量は8.9(g)、8.7(g)であることが記載されており、試験片質量を超えるものであり不合理である。 したがって、本件特許の訂正前の請求項3に係る発明は不明確である。 本件特許の訂正前の請求項3を引用する、訂正前の請求項4?8に係る発明についても同様である。 申立理由5-2 本件特許の訂正前の請求項9には、「主収縮方向の折目部の引張破断伸び(E1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目部の引張破断伸び(E2)とのいずれも80%以上」と特定されているが、明細書の段落【0086】には、 「折目を付与した短冊状試験片の折目部を中心として、チャック間距離20mmで引張試験機にセットし、・・・式(3)により折目引張破断伸び率を算出・・・した。 折目引張破断伸び率(%)=(破断したときのチャック間距離/20mm×100 ・・・式(3)」 と記載されている。ここで、チャック間距離20mmで試験片をセットして引張試験を行うと、破断したときのチャック間距離は初期のチャック間距離である20mm以上となることは明らかであるので、式(3)は必ず100%以上の値となるはずである。しかしながら、本件特許の明細書の実施例3に記載のフィルムは折目引張破断伸び率が97%であることが記載されているから、結果として、本件特許の訂正前の請求項9に係る発明は不明確である。 本件特許の訂正前の請求項9を引用する、訂正前の請求項10?12に係る発明についても同様である。 第5 令和1年11月13日付け取消理由通知に記載した取消理由について 本件特許の訂正前の請求項3ないし12に係る特許に対して、当審が令和1年11月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件特許の訂正前の請求項3ないし12についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 そして、その具体的理由は次のとおりである。 1 摩耗質量の計算式について 本件特許の訂正前の請求項3には、熱収縮性フィルムの摩耗試験における摩耗質量の計算式として、 「摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗後の質量-摩耗前の質量)・・・式(1)」 と記載されている。 式(1)に従えば、摩耗質量は、「摩耗後の質量-摩耗前の質量」を基礎として計算することとなるから、求められる値は負の値になるものと考えられるところ、明細書の発明の詳細な説明の実施例1、2、比較例1?3、参考例1では、何れも正の値が示されている(段落【0081】の【表1】を参照されたい。) このように、本件特許の訂正前の請求項3で示される「式(1)」と、明細書の発明の詳細な説明中の記載の間に齟齬が生じているため、結局のところ、「摩耗質量」をどのように求めているのか明らかであるとはいえないから、本件特許の訂正前の請求項3に係る発明は、明確であるとはいえない。 また、訂正前の請求項3を直接あるいは間接的に引用する、本件特許の訂正前の請求項4?8に係る発明においても同じことがいえる。 なお、当該取消理由は、特許異議申立人が主張する取消理由のうち、理由5-1の前段と同旨である。 2 引張破断伸びの計算式について 本件特許の訂正前の請求項9には、熱収縮性フィルムに関し、 「g)主収縮方向の折目部の引張破断伸び(E1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目部の引張破断伸び(E2)とのいずれも80%以上」 と記載されている。 この折目部の引張破断伸びの計算に関し、明細書の発明の詳細な説明の段落【0086】には、 「(12)折目引張破断伸び 折目開き角度の測定方法と同様にして、折目を付与した短冊状サンプルを、更に試験片幅15mmになるように切り出した。折目を付与した短冊状試験片の折目部を中心として、チャック間距離20mmで引張試験機にセットし、23℃、200mm/minの試験速度で引張り、下記式(3)により折目引張破断伸び率を算出し、3回の測定値の平均値を求めた。主収縮方向の折目引張破断伸びをE1、主収縮方向と直交する方向の折目引張破断伸びをE2とした。 折目引張破断伸び率(%)=(破断したときのチャック間距離/20mm×100・・・式(3)」 と記載されている。 この記載に基づき試験すれば、試験片が破断したときのチャック間距離は、試験片を引張試験機にセットした際のチャック間距離20mmよりも大きな値となる。そして、式(3)に従い算出すると、折目引張破断伸び率は常に100%よりも大きな値が算出されるものといえる。 しかしながら、明細書の発明の詳細な説明の実施例3、比較例4、参考例2では、「折目引張破断伸び(E1)(%)」の値として、それぞれ97、37、60と、100よりも小さな値が示されている(段落【0094】の【表2】を参照されたい)。 このように、段落【0086】の計算式と、段落【0094】の【表2】に示される実施例3、比較例4、参考例2との間には齟齬が生じているため、結局のところ、「折目引張破断伸び率」をどのように求めているのか明らかであるとはいえないから、「引張破断伸び」の値を特定事項とする、本件特許の訂正前の請求項9に係る発明は、明確であるとはいえない。 また、訂正前の請求項9を直接あるいは間接的に引用する、本件特許の訂正前の請求項10?12に係る発明においても同じことがいえる。 なお、当該取消理由は、特許異議申立人が主張する取消理由のうち、理由5-2と同旨である。 3 請求項4と段落【0012】の記載の不一致について 本件特許の請求項4には、 「体積固有抵抗が1×1014Ω・cm以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。」 と記載されているが、 明細書の発明の詳細な説明中の段落【0012】には、 「上記熱収縮性フィルムにおいては、体積固有抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上であることが好ましい。」 と記載されており、体積固有抵抗の下限値が一致していない。 (上付き文字か否かで意味がかわります。) また、請求項4を直接又は間接的に引用する、本件特許の請求項5?8に係る発明においても同じことがいえる。 第6 当審の判断 1 取消理由についての検討 (1)「第5 1 摩耗質量の計算式について」 訂正により、式(1)は、 「摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗前の質量-摩耗後の質量)」 に訂正された。 したがって、当該取消理由は解消した。 (2)「第5 2 引張破断伸びの計算式について」 訂正により、引張破断伸び率を求める式(3)は、 「折目引張破断伸び率(%)=(破断したときのチャック間距離-20mm)/20mm×100」 に訂正された。 したがって、当該取消理由は解消した。 (3)「第5 3 請求項4と段落【0012】の記載の不一致について」 訂正により、請求項4は、 「体積固有抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。」 に訂正された。 したがって、当該取消理由は解消した。 (4) 取消理由についてのまとめ 上記(1)ないし(3)のとおりであるから、本件特許の請求項3ないし12に係る特許は、明確でないとはいえない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)甲第1ないし13号証の記載事項等 ア 甲第1号証の記載事項等 (ア) 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には次の事項が記載されている。 「【請求項1】100℃エアーオーブン中5分でのフィルムの収縮率が縦、又は横のいずれか1方向において20%以上であり、且つ、該方向と直交する方向のフィルムの破断伸度が1%以上100%以下であり、且つ、該フィルムの融解熱が8cal/g以下である事を特徴とするポリエステル系収縮フィルム。」 「〔従来の技術及び発明が解決しようとする問題点〕 従来、ラベル用収縮フィルムの分野では、ポリ塩化ビニル、或いはポリスチレン等からなるフィルムが主として用いられて来た。しかし、かかるフィルムでは廃棄時に燃焼性の問題を有することから、近年PETボトルへの装着後の回収性に優れるポリエステル系収縮フィルムが注目を浴びている。しかしながらポリエステル系収縮フィルムは収縮特性が急激なため、収縮時にラベルが歪む等の問題が発生し、実用化が困難であった。 本発明者らは先に特願昭61-295590号及び特願昭62-145753号にて収縮特性を改良したポリエステル系収縮フィルムを提案して来た。しかしながら、これらの改良も未だ十分とは言えず、例えば耐熱性PETボトルやガラスびんへラベルを装着する場合のように高温、且つ短時間で収縮を完了させると、ラベルの歪み等が発生しやすく問題となっていた。特に耐熱性PETボトルにおいては、近年様々な形状をしたボトルが生産されており、例えばボトルの肩部から首部にかけて急激に細くなるような形状をしたボトルにラベルを装着することは、従来のポリエステル系収縮フィルムでは全く実用に耐えなかった。 このように廃棄性、回収性等に問題がなく、又耐温水性、強度等に優れたポリエステル系収縮フィルムにおいて、収縮特性を改良する事が早急に望まれていた。」(第1欄第12行ないし第3欄第4行) 「本発明におけるポリエステルは、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等、公知のジカルボン酸の一種もしくは二種以上からなり、又、ジオール成分としてエチレングリコール、ネオベンチルグリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等公知のジオール成分の一種又は二種以上からなるいかなるポリエステル又は共重合ポリエステルであっても良い。 共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分及び/又はグリコール成分の一部を他のジカルボン酸又はグリコール成分に置換することにより得られるものが使用できるが、当然の事ながら他の成分、例えば、p-オキシ安息香酸、p-オキシエトキシ安息香酸のごときオキシカルボン酸、安息香酸、ベンゾイル安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールのごとき一官能性化合物、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロール、トリメチレンプロパンのごとき多官能性化合物も、生成物が実質的に線状の高分子を保持し得る範囲内で使用することが出来る。 本発明のポリエステルにおいては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とし、共重合成分として、ジカルボン酸成分にイソフタル酸、フタル酸、ジオール成分にネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、必要に応じて1、4-シクロヘキサンジメタノールを用いた共重合ポリエステルが、工業的に安価に入手出来、且つ収縮性も良好で好ましい。 本発明の共重合ポリエステルにおいては、ジカルボン酸成分の好ましくは70モル%以上、より好ましくは75モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジオール成分の好ましくは70モル%以上、より好ましくは75モル%以上がエチレングリコール単位である。テレフタル酸及び/又はエチレングリコール単位が70モル%未満の共重合ポリエステルは、フィルムにした際の該フィルムの強度、耐溶剤性が劣るので好ましくない。」(第3欄第18行ないし第4欄第7行) 「本発明における構成要件の1つとして、本発明のフィルムの100℃エアーオーブン中5分での収縮率が縦、又は横のいずれか1方向において20%以上であることが必要であり、好ましくは30%以上である。該収縮方向を、以下フィルムの主収縮方向とする。 本発明において、フィルムの主収縮方向の収縮率が20%未満の場合、ラベルとして収縮させたときの収縮量が不十分となり、容器に密着せず好ましくない。 又、本発明のフィルムにおいては、主収縮方向と直交する方向の該収縮率が15%以下であることが好ましく、更に好ましくは10%以下、特に5%以下であることが好ましい。該収縮率が15%を越すフィルムは、ラベルとして収縮させると容器の縦方向に沿ってフィルムが大きく収縮し、図柄の歪み等が発生するため好ましくない。」(第4欄第32ないし45行) 「又、本発明におけるフィルムの融解熱は8cal/g以下であることが必要であり、更に好ましくは6cal/g以下、特に好ましくは2cal/g以上6cal/g以下である事が望ましい。該融解熱が8cal/gを越すフィルムは、収縮特性が悪化するため好ましくない。これは、シュリンクトンネルで加熱されたとき結晶化が進行し、収縮が不均一になる為と思われる。 又本発明のフィルムは、主収縮方向の両端部を固定したときの75℃温水中5秒処理後の該収縮方向と直交する方向への最大収縮率(ネックイン率)が10%以下であることが好ましく、更には5%以下である事が望ましい。該ネックイン率が10%を越すフィルムは、ラベルとしての収縮時に、やはり歪みや斜め被りが多発し、好ましくない。」(第5欄第32ないし第45行) 「上記のようにして得られたフィルムの厚さは特に限定されないが、ラベル用収縮フィルムとして好ましく用いられる厚さは、10?300μmであり、特に好ましくは20?200μmである。」(第6欄第28ないし31行) 「(3) ネックイン率 フィルムを主収縮方向に長さ13cm以上、幅10cmの長方形に切り出し、内寸13cm長×10cm幅の金具に該収縮方向の両端を固定後、該方向と直交する方向の最大の収縮率を求め、該フィルムのネックイン率とした。 (4) フィルムの融解熱(cal/g) パーキンエルマー社製DSC-1Bにより感度4、昇温速度16℃/mm、チャートスピード40mm/mmにて測定した試料の結晶の融解に伴うピークの面積を求め、下記式に従い計算した。 ![]() 」 (第4頁第7欄第5ないし12行) 「実施例1、比較例1 ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコール単位87mol%及びネオペンチルグリコール単位13mol%よりなり、平均粒径1.2μmの無定形シリカを350ppm含む〔η〕=0.66、Tg=75℃の共重合ポリエステルを真空乾燥機により乾燥後、280℃で押出機より押出し、急冷固化して未延伸フィルムを得た。 該未延伸フィルムを縦方向に82℃で1.1倍延伸した後テンターに導き、延伸開始時の該フィルムの表面温度が100℃、延伸終了時の該フィルムの表面温度が65℃となるように加熱して横方向に4.0倍延伸した。延伸後92℃(実施例1)及び86℃(比較例1)にて6秒間熱処理を行ない、その後冷却して巻き取り、平均厚さ約60μmのフィルムを得、各々を実施例1、比較例1とした。」(第8欄第34ないし47行) 「実施例2、比較例3 ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位を80mol%及びイソフタル酸単位を20mol%、またジオール成分としてエチレングリコール単位98mol%及びジエチレングリコール単位2mol%よりなり、平均粒径0.8μmの球状シリカ500ppmを含む〔η〕=0.70、Tg=66℃の共重合ポリエステルを、パドルドライヤーにより予備結晶化後本乾燥を行ない、260℃で押出機より押出し、急冷固化し未延伸フィルムを得た。 該未延伸フィルムを70℃で横方向に3.2倍延伸した後、85℃(実施例2)及び75℃(比較例3)で10秒間熱処理を行ない、冷却して平均厚さ約40μmのフィルムを得た。これを各々実施例2、比較例3とした。」(第9欄第8ないし第20行) 「 ![]() 」(第5頁表1) (イ) 甲第1号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認める。 「共重合ポリエステルを真空乾燥機により乾燥後、280℃で押出機より押出し、急冷固化して未延伸フィルムとし、該未延伸フィルムを縦方向に82℃で1.1倍延伸した後テンターに導き、延伸開始時の該フィルムの表面温度が100℃、延伸終了時の該フィルムの表面温度が65℃となるように加熱して横方向に4.0倍延伸し、延伸後92℃にて6秒間熱処理を行ない、その後冷却して巻き取った収縮フィルムであって、 75℃温水中5秒処理後の該収縮方向と直交する方向への最大収縮率(ネックイン率)が2%であり、融解熱が4.7cal/gであるポリエステル収縮フィルム。」(以下、「甲1発明」という。) イ 甲第2号証の記載事項等 (ア) 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には次の事項が記載されている。 「【請求項1】 フィルムの主収縮方向における75℃の最大収縮応力が4.4MPa以上12.0MPa以下であり、フィルムを60℃×40%RH雰囲気下にて8時間保管したときの主収縮方向の収縮率が2.0%以下であり、かつフィルムを80℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が10%以上80%未満であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。 【請求項2】 全ポリエステル樹脂成分中において、ジカルボン酸成分の主成分をテレフタル酸、ジオール成分の主成分をエチレングリコールとし、かつ(a)イソフタル酸、(b)1,4-シクロヘキサンジメタノール、及び(c)ネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる1種以上を含有した共重合ポリエステルである、請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。 【請求項3】 60℃の温水に5分間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が2.7%以下であり、かつ70℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が3%以下である、請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。」 「【0008】 本発明の課題は、耐自然収縮性に極めて優れると同時に、80℃以上に加熱した時に収縮不足が生じにくい熱収縮性ポリエステル系フィルム、特に、断熱容器用として用いた際に、加熱により速やかに収縮して該断熱容器の断熱把持部を形成し、かつ外気温が上昇する季節においても温度制御下での保管が必要ない熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することにある。」 「【0016】 本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が10%以上80%未満であり、好ましくは15%以上75%未満、より好ましくは20%以上70%未満である。80℃の温水に10秒間浸漬したときの収縮率が10%未満であると、80℃以上に加熱した時に収縮不足が生じて、断熱容器の断熱把持部を完全に形成できない場合があり、好ましくない。また、80%以上であると、フィルムの自然収縮率が高くなってしまうため好ましくない。 【0017】 本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、全ポリエステル樹脂成分中において、ジカルボン酸成分の主成分をテレフタル酸、ジオール成分の主成分をエチレングリコールとし、かつ(a)イソフタル酸、(b)1,4-シクロヘキサンジメタノール、及び(c)ネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる1種以上を含有した共重合ポリエステルであることが好ましい。 【0018】 ポリエステル系樹脂を構成する主なジカルボン酸成分は、前述のとおりテレフタル酸であり、ジカルボン酸成分100モル%に対してテレフタル酸を好ましくは50モル%以上、より好ましくは55モル%以上、更に好ましくは60モル%以上含有する。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アゼライン酸、デカン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリメリット酸等を含有することができるが、中でもイソフタル酸を好適に含有することができる。 【0019】 ポリエステル系樹脂を構成する主なジオール成分は、前述のとおりエチレングリコールであり、ジオール成分100モル%に対してエチレングリコールを好ましくは50モル%以上、より好ましくは55モル%以上、更に好ましくは60モル%以上含有する。エチレングリコール以外のジオール成分としては、例えば、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ノナンジオール、ダイマージオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリシクロデカンジメタノール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール等を含有することができ、中でもネオペンチルグリコールや1,4-シクロヘキサンジメタノールを好適に含有することができる。また、1,4-シクロヘキサンジメタノールにはシス型及びトランス型の2種類の異性体が存在するが、いずれであってもよい。 ただし、1,4-ブタンジオールのように、エチレングリコールに比べてガラス転移温度(Tg)が低下するような成分を含有させる場合は、自然収縮率の上昇を抑える観点から、その含有量をジオール成分100モル%に対して、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3%以下に抑える。 【0020】 本発明において、特に好適に用いられるのは、ジカルボン酸成分がテレフタル酸100モル%であり、ジオール成分がエチレングリコールを主成分とし、第2成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを含有した熱収縮性ポリエステル系フィルムである。ここで言う主成分及び第2成分とは、全ポリエステル樹脂成分中におけるジカルボン酸成分、ジオール成分を各々100モル%(合計200モル%)としたとき、各成分においてモル比率が最も高いものを主成分、2番目に高いものを第2成分という。同様に3番目に高いものを第3成分といい、第3成分以降を含有していても本発明の要件を満たしていれば構わない。 イソフタル酸やネオペンチルグリコールを第2成分として含有した熱収縮性フィルムも好適に用いることができるが、ガラス転移温度をより適切な範囲として、耐自然収縮性、収縮応力、及び収縮率の制御を効率的に行う観点からは、1,4-シクロヘキサンジメタノールを第2成分として含有するフィルムがより好ましい。1,4-シクロヘキサンジメタノールの含有量は、上記観点から、全ジオール成分100モル%中、好ましくは10モル%以上45モル%以下であり、より好ましくは20モル%以上40モル%以下である。」 「【0030】 本発明で得られるポリエステル系熱収縮フィルムの厚みは、特に限定されないが、断熱容器に用いる場合は、断熱把持部の形成の観点並びにフィルムを容器に貼り合わせる加工工程における作業性の観点から、10μm以上200μm以下、好ましくは20μm以上150μm以下とするのがよい。」 「【0034】 [熱収縮率] (1)60℃×40%RH雰囲気×8時間保管後の主収縮方向の熱収縮率 主収縮方向が長手方向となるように幅30mm、長さ600mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ500mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を60℃×40%RHの雰囲気に調整された恒温槽に入れた。8時間保管後に恒温槽より取り出し、標線間A(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。 収縮率(%)=[(500-A)/500]×100 (2)80℃温水×10秒浸漬後の主収縮方向の熱収縮率 主収縮方向が長手方向となるように幅10mm、長さ140mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ100mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を80℃の温水に10秒間浸漬し、その後すばやく冷水で冷却してから標線間B(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。 収縮率(%)=[(100-B)/100]×100 (3)70℃温水×10秒浸漬後の主収縮方向の熱収縮率 主収縮方向が長手方向となるように幅10mm、長さ140mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ100mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を70℃の温水に10秒間浸漬し、その後すばやく冷水で冷却してから標線間C(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。 収縮率(%)=[(100-C)/100]×100 (4)60℃温水×5分浸漬後の主収縮方向の熱収縮率 主収縮方向が長手方向となるように幅30mm、長さ600mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ500mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を60℃の温水に5分間浸漬し、その後すばやく冷水で冷却してから標線間D(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。 収縮率(%)=[(500-D)/500]×100」 「【0036】 以下の実施例及び比較例では、表1に示された組成のポリエステル(A)?(C)を使用した。なお、表1に示されたポリエステル系樹脂の組成は、それぞれNMR(核磁気共鳴装置)により定性定量分析して得られたものである。 【0037】 【表1】 ![]() 【0038】 実施例1 表1記載のポリエステル(A)を押出機で溶融した後、Tダイにて押出し、その溶融体をキャストロールで冷却し、厚さ260μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に88℃で5.8倍延伸した。引き続き90℃で5秒間熱処理した後、85℃で4.6%TD方向に弛緩しながら5秒間再熱処理を施し、厚さ45μmの単層フィルムを作製した。このとき、主収縮方向はTD方向である。 作製したフィルムを、断熱突出部を形成する外スリーブの高さ方向にスリット群を形成し、スリットにより形成された短冊が上下方向に圧縮され突出するように短冊部に山折罫線と谷折り罫線を形成してなる外スリーブに、該スリーブとカップとの間にフィルムがカップ外面側に接するように、かつ、該スリーブのスリットにより形成される短冊群を覆うように添着して、断熱容器を作製した。 得られたフィルム及び断熱容器の評価結果を表2に示す。 【0039】 実施例2 実施例1のTD方向での延伸後における熱処理条件を変更して、88℃で5秒間熱処理した後、85℃で4.6%TD方向に弛緩しながら5秒間再熱処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして厚さ45μmの単層フィルム及び断熱容器を作製した。得られたフィルム及び断熱容器の評価結果を表2に示す。 【0040】 実施例3 実施例1と同様にして厚さ235μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に88℃で5.2倍延伸し、引き続き90℃で5秒間熱処理した後、90℃で5.2%TD方向に弛緩しながら5秒間再熱処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして厚さ45μmの単層フィルム及び断熱容器を作製した。得られたフィルム及び断熱容器の評価結果を表2に示す。」 「【0046】 【表2】 ![]() 」 (イ) 甲第2号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例3の記載を中心に整理すると、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認める。 「TPA(テレフタル酸)100mol%、EG(エチレングリコール)65mol%、CHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール)32mol%、DEG(ジエチレングリコール)3mol%の共重合ポリエステルの単層フィルムからなる熱収縮性フィルムであって、 80℃の温水に10秒浸漬後の主収縮方向の熱収縮率が37%であって、 70℃の温水に10秒浸漬後の主収縮方向の熱収縮率が1.0%である、ポリエステル熱収縮性フィルム。」(以下、「甲2発明」という。) ウ 甲第3号証の記載事項等 (ア) 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には次の事項が記載されている。 「【請求項1】 少なくとも一方向に延伸されてなる熱収縮性フィルムであって、前記フィルムは、波長200?500nmにおいて光線透過率が5%以下となる波長領域の割合が50%以上であり、かつ波長200?500nmにおいて光線反射率が30%以下であり、光沢度が90%以上であり、かつ表面粗さが60nm以下であることを特徴とする熱収縮性フィルム。 【請求項2】 着色剤を含有する層を少なくとも1層有する請求項1に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項3】 前記着色剤を含有する層の厚みが、フィルム全体厚みに対して30?98%である請求項1または2に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項4】 80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%?80%である請求項1から3のいずれかに記載の熱収縮性フィルム。 【請求項5】 ポリエステル系樹脂を主成分とする層を少なくとも1層有する請求項1から4のいずれかに記載の熱収縮性フィルム。 【請求項6】 前記ポリエステル系樹脂が、下記(A)または/および(B)を含有する混合物である請求項5に記載の熱収縮性フィルム。 (A)ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分がエチレングリコールを主成分とし、さらに1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールのうちいずれか1種以上を含むポリエステル系樹脂 (B)ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分として、エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリトリメチレングリコールから選ばれる少なくとも1種以上を含むポリエステル系樹脂 【請求項7】 請求項1から6のいずれかに記載の熱収縮性フィルムを基材として有する成形品。」 「【0026】 本発明のフィルムの全体厚みは、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限はないが、好ましくは10?200μm、より好ましくは12?150μm、更に好ましくは15?120μmとすることができる。 【0027】 <熱収縮率> 熱収縮率とは、後述するように、縦方向あるいは横方向について、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表したものである。これは、ペットボトルの収縮ラベル用途等の比較的短時間(数秒?十数秒程度)での収縮加工工程への適応性を判断する指標となる。なお、「主収縮方向」とは、縦方向と横方向のうち延伸倍率の大きい方を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向である。 本発明のフィルムは、80℃の温水中に10秒間浸漬させたときの主収縮方向の熱収縮率が20%?80%であることが好ましい。80℃の温水中に10秒間浸漬させたときの主収縮方向の熱収縮率の下限は、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上であり、上限は、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下である。 なお、本発明のフィルムをフルシュリンクラベル等の用途に用いる場合は、80℃の温水中に10秒間浸漬させたときの主収縮方向の熱収縮率は40%以上とすることが好ましい。40%以上であれば、ペットボトル全体を覆っても蓋上部まで皺などがなく外観に優れた良好な収縮仕上がり性を得ることができるため好ましい。 本発明のフィルムの80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率は、フィルム製造時における延伸温度および延伸倍率を適宜調整することにより所望の熱収縮率とすることができる。」 「【0029】 さらに、主収縮方向と直交する方向の収縮率を低く抑えることによって、より優れた収縮仕上がり性を得ることができる。本発明のフィルムを、熱収縮性ラベルとして用いる場合は、80℃の温水中で10秒間浸漬したときの主収縮方向と直交する方向の熱収縮率は10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましい。 80℃の温水中で10秒間浸漬したときの主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下であれば、収縮後の主収縮方向と直交する方向の寸法自体が短くなり難く、収縮後の印刷柄や文字の歪み等も生じ難いため好ましい。また、例えば被装着物が角型ボトル等の場合に発生し易い、縦ひけ等のトラブルも発生し難いため好ましい。主収縮方向と直交する方向の熱収縮率もまた、前記主収縮方向の熱収縮率と同様に調整しうる。」 「【0032】 芳香族ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アゼライン酸、デカン酸、ダイマー酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、5-スルホン酸塩イソフタル酸や長鎖脂肪族ジカルボン酸のドデカンジオン酸、エイコ酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリメリット酸等を挙げることができる。中でも、工業的に安価で入手が容易な、テレフタル酸が好適に用いられ、ジカルボン酸成分100モル%に対して、テレフタル酸を好ましくは50モル%以上、より好ましくは55モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上含有するものを用いることができる。 【0033】 芳香族ポリエステルを構成するジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ノナンジオール、ダイマージオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリシクロデカンジメタノール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール等を挙げることができる。これらジオール成分は、2種以上用いてもよい。これらジオール成分の中でも、エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール,1,4-ブタンジオールを用いることが本発明において好適である。」 「【0035】 本発明において、ポリエステル系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。ポリエステル系樹脂として特に好適に用いられるのは、ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分がエチレングリコールを主成分とするポリエステル系樹脂である。中でも、(A)ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分がエチレングリコールを主成分とし、さらに1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールのうちいずれか1種以上を含むポリエステル系樹脂、または、(B)ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分として、エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール,1,4-ブタンジオール、およびポリテトラメチレンエーテルグリコールから選ばれる少なくとも1種以上を含むポリエステル系樹脂、もしくは、(A)および(B)を含有する混合物であることが好ましい。 なお、上記主成分とは、全ポリエステル系樹脂成分中におけるジカルボン酸成分、ジオール成分を各々100モル%(合計200モル%)としたとき、各成分においてモル比率が最も高いものを主成分という。同様に2番目に高いものを第2成分といい、第2成分以降を含有しても構わない。第2成分の含有量は、全ジオール成分100モル%中、好ましくは10モル%以上45モル%以下であり、より好ましくは20モル%以上40モル%以下である。」 「【0051】 (1)収縮率 フィルムの主収縮方向および直交方向の収縮率の測定は下記の方法により行った。収縮率の測定方向に120mm、測定方向と直角する方向に10mmの大きさに切り出したサンプルを作製し、測定方向に100mm間隔の標線を付して、80℃の温水中に10秒間浸漬し、下記の式により収縮率を用いた。 収縮率={(100-L)/100}×100(%) L(単位mm)は収縮後の標線間隔」 「【0058】 各実施例、比較例に用いた原材料は、以下の通りである。 (ポリエステル系樹脂) Pes1:ジカルボン酸残基がテレフタル酸残基100モル%、グリコール残基がエチレングリコール残基65モル%、ジエチレングリコール残基3モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基32モル%で構成される共重合ポリエステル Pes2:ジカルボン酸残基がテレフタル酸残基90モル%、イソフタル酸残基10モル%、グリコール残基が1,4-ブタンジオール残基100モル%で構成される共重合ポリエステル Pes3:ジカルボン酸基がテレフタル酸残基70モル%、イソフタル酸残基30モル%、グリコール残基がエチレングリコール残基100モル%で構成される共重合ポリエステル (着色剤) 赤色マスターバッチ:前記Pes1に対し、C.I. PigmentRed 177 を10?15%含有。 青色マスターバッチ:前記Pes1に対し、C.I. Pigment Blue 15:3を1?5%含有。 緑色マスターバッチ:前記Pes1に対し、C.I. Pigment Green 7 を1?5%、カ-ボンブラックを1%未満、アゾ-ニッケル錯体顔料を5?15%含有。 茶色マスターバッチ:前記Pes1に対し、C.I. Pigment Red 101 を5?10%、カーボンブラックを1%未満、アゾ-ニッケル錯体化顔料を1?5%含有。 白色マスターバッチ:前期Pes1に対し、酸化チタンを60%含有。 (その他) シリカマスターバッチ1:前記Pes1を90質量%、球状シリカ(平均粒径3.0μm)を10質量%含有。 【0059】 (実施例1) 着色剤として、茶色マスターバッチを25質量%配合し、Pes1を60質量%、Pes2を14質量%、シリカマスターバッチを1質量%の割合でドライブレンドしたものを中心層組成物A1とした。 Pes1を85質量%、Pes2を14質量%、シリカマスターバッチを1質量%の割合でドライブレンドしたものを表裏層組成物B1とした。 中心層組成物A1と表裏層組成物B1を別々の押出機で押出し、多層成型用のTダイを用い延伸後の膜厚比率がB/A/B=1/7/1となるように270℃の溶融状態で積層させた後、ダイ温度270℃、ダイ幅240mm、リップギャップ1mmとなるTダイから押出し、キャスト温度65℃の設定でキャスティングし、幅=220mm、平均厚み=200μmのシートを得た。 次に、得られた原反シートの端部をテンタークリップで保持し、テンターオーブン内で、横方向に延伸温度83℃、延伸倍率6倍で延伸を行い、L*値=35、a*値=10、b*値=50となる平均厚み39μmの積層フィルムを得た。これについて評価を行った。結果を表1に示す。」 「【0067】 (実施例9) フィルムの主収縮方向の収縮率を25%となるよう調整した以外は、実施例1と同様に、L*値=34、a*値=10、b*値=49となる平均厚み39μmの積層フィルムを得た。これについて評価を行った。結果を表2に示す。 【0068】 (実施例10) フィルムの主収縮方向の収縮率を18%となるよう調整した以外は、実施例1と同様に、L*値=34、a*値=11、b*値=50となる平均厚み39μmの積層フィルムを得た。これについて評価を行った。結果を表2に示す。」 「【0076】 【表2】 ![]() 」 (イ) 甲第3号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に実施例9の記載を中心に整理すると、甲第3号証には、次の発明が記載されていると認める。 「3層構造の共重合ポリエステルからなる熱収縮性フィルムであって、 表裏層が同じ組成物からなり、 80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の収縮率が25%であり、主収縮方向と直交する方向の収縮率が-8%である、ポリエステル熱収縮性フィルム。」(以下、「甲3発明」という。) エ 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、「プラスチック-摩耗輪による摩耗試験方法」に関して、次の記載がある。 「6. 試験片 6.1 形状及び寸法 試験片は,直径約100 mmの円板か,側長約100 mmの正方形のコーナーを切り取った八角形板。ただし,クランプリング(5.1.6参照)を用いるときは,コーナーを切り取る必要はない。 試験片の厚さは,均一で0.5?10 mmとする。」 オ 甲第5号証の記載事項 甲第5号証には次の記載がある。 「【0002】 【従来の技術】電気絶縁物には、体積抵抗率の比較的高いプラスチックである高密度ポリエチレン、高密度ポリプロピレンおよび塩化ビニル樹脂が、従来より用いられている。しかし、これらの汎用プラスチックは、いずれも体積抵抗率が10^(14)?10^(16)Ω・cm程度の電気絶縁物としては充分なものではなかった。そこで、体積抵抗率を大きくする方法として、特開昭56-159242号公報に、塩化ビニル樹脂にスチレンと無水フタル酸とのコポリマ-を添加する方法が開示されている。しかし、この方法は、塩化ビニル樹脂に加えられる他の添加剤であるDOP等の可塑剤や金属石鹸等の安定剤が、体積抵抗率に悪影響をおよぼしたり、ブリード等を引き起こしたりするため、配合処方を制限する必要があり、多様な用途に不向きとなる。また、該樹脂組成物によって得られる成形品は、廃棄処分に苦慮するという欠点も有している。最近では、体積抵抗率が10^(16)?10^(17)Ω・cmと優れた電気絶縁性を示す割に、比較的低価格で、化学的にも安定で、機械強度が大きく、耐熱性および耐寒性にも良好であることから、電気絶縁物の原料として、ポリエステル材料が注目を浴びるようになり、電気絶縁材料の多くをポリエステルが占めるようになってきた。」 「【0018】実施例1 10Lの四ツ口フラスコに、テレフタル酸(以下、TPAと記す。)を16.10モル、DMHを1.77モル、触媒として酢酸亜鉛を0.011モル、三酸化アンチモンを0.004モル仕込み、該フラスコを窒素気流下で200?205℃に加熱し、3.2モルの水を除去した後、該フラスコにエチレングリコ-ル(以下、EGと記す。)を30.4モル滴下し、同温度で2時間加熱を続け、28.6モルの水を除去した。次に、該フラスコを昇温して270?275℃とし、1時間の加熱を行った後、該フラスコ内を0.3?0.5Torrに減圧し、さらに280?285℃に昇温を行い、未反応のジオ-ル(DMHとEG)を除去しながら、重縮合を行った。得られたポリエステル共重合体は、造粒してペレットとした。該ペレットの水分率は2700ppm、ガラス転移点は74℃、固有粘度は0.76dl/gであった。また、ポリエステル共重合体中のジオール成分のモル比は、EG/DMH=90/10であった。ペレット状ポリエステル共重合体を270?285℃に温度設定した真空雰囲気のTダイ押出機を用いて、加熱溶融し、シ-ト状に押出した後、60℃のキャスティングドラムで急冷固化させ透明な厚さ0.5mmのシ-トを得、該シ-トを90?110℃に温度設定した窒素ガス雰囲気の2軸延伸機を用い、延伸速度300%/minで3倍×3倍の同時二軸延伸を行い0.05mmのフィルムを得、試験片とした。得られた試験片を用いてポリエステル共重合体成形物の物性試験を上記測定方法に準じて測定した。その結果を表1、2に示す。」 「【0024】比較例1 10Lの四ツ口フラスコに、TPAを16.10モル、EGを32.2モル、触媒として酢酸亜鉛を0.011モル、三酸化アンチモンを0.004モル仕込み、該フラスコを窒素気流下で200?205℃に加熱し、2時間加熱を続け、32.0モルの水を除去した。次に、該フラスコを昇温して270?275℃とし、1時間の加熱を行った後、該フラスコ内を0.3?0.5Torrに減圧し、さらに280?285℃に昇温を行い、未反応のジオ-ル(EG)を除去しながら、重縮合を行った。得られたポリエステル共重合体は、造粒してペレットとした。該ペレットの水分率は2100ppm、ガラス転移点は79℃、固有粘度は0.78dl/gであった。ペレット状ポリエステル共重合体を270?285℃に温度設定した真空雰囲気のTダイ押出機を用いて、加熱溶融して押出成形を実施したが、成形不良により目的のシート得られなかった。 【0025】比較例2 ペレット状ポリエステル共重合体として、比較例1で得られたペレット状ポリエステル共重合体を用いた以外は、実施例1に準拠してフィルムを得、試験片とした。得られた試験片を用いてポリエステル共重合体成形物の物性試験を上記測定方法に準じて測定した。その結果を表1、2に示す。 【0026】比較例3 ペレット状ポリエステル共重合体として、比較例1で得られたペレット状ポリエステル共重合体を用い、二軸延伸を実施しなかった以外は、実施例1に準拠して厚さ0.5mmのシ-トを得、試験片とした。得られた試験片を用いてポリエステル共重合体成形物の物性試験を上記測定方法に準じて測定した。その結果を表1に示す。 【0027】比較例4 10Lの四ツ口フラスコに、TPAを16.10モル、NPGを1.77モル、触媒として酢酸亜鉛を0.011モル、三酸化アンチモンを0.004モル仕込み、該フラスコを窒素気流下で200?205℃に加熱し、3.2モルの水を除去した後、該フラスコにEGを30.4モル滴下し、同温度で2時間加熱を続け、28.7モルの水を除去した。次に、該フラスコを昇温して270?275℃とし、1時間の加熱を行った後、該フラスコ内を0.3?0.5Torrに減圧し、さらに280?285℃に昇温を行い、未反応のジオ-ル(NPGとEG)を除去しながら、重縮合を行った。得られたポリエステル共重合体は、造粒してペレットとした。該ペレットの水分率は2300ppm、ガラス転移点は75℃、固有粘度は0.90dl/gであった。また、ポリエステル共重合体中のジオール成分のモル比は、EG/NPG=90/10であった。ペレット状ポリエステル共重合体を270?285℃に温度設定した真空雰囲気のTダイ押出機を用いて、加熱溶融し、シ-ト状に押出した後、60℃のキャスティングドラムで急冷固化させ透明な厚さ0.5mmのシ-トを得、該シ-トを90?110℃に温度設定した窒素ガス雰囲気の2軸延伸機を用い、延伸速度300%/minで3倍×3倍の同時二軸延伸を行い0.05mmのフィルムを得、試験片とした。得られた試験片を用いてポリエステル共重合体成形物の物性試験を上記測定方法に準じて測定した。その結果を表1に示す。」 「【0030】 【表1】 ![]() 」 カ 甲第6号証の記載事項 甲第6号証には次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は電気絶縁材料用に有用なポリエステルフイルムに関し、更に詳しくはモーターのコイルとステーターとの絶縁を行うウエッジ材等に好適な、優れた耐衝撃性、物理的加工性、耐熱性、耐加水分解性、耐フレオン性を有するポリエステルフイルムに関する。」 「【0024】更に、本発明のポリエステルフイルムは、フイルムの中心線平均粗さ(Ra)が2nm以上、50nm以下のものである。この中心線平均粗さ(Ra)が2nm未満ではフイルムの滑り性が悪化し巻取り性が悪くなり、50nmを超えるとフイルム表面の粗さが大きくなり過ぎ、電気絶縁材料として備えておくべき電気特性、例えば絶縁破壊電圧が不良となる。この絶縁破壊電圧は80KV/mm以上であること、特に90KV/mm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧が80KV/mm未満であると、各種の電気絶縁用途に用いた際の実用性が不足することがある。かかる絶縁破壊電圧を有するポリエステルフイルムは、例えばフイルムの中心線平均粗さ(Ra)を前記範囲とすることにより得ることができ、特に中心線平均粗さを、2nm以上、30nm以下とすることにより得ることができる。」 キ 甲第7号証の記載事項 甲第7号証には次の記載がある。 「【請求項1】 電池を被覆するための熱収縮性電池用ジャケットフィルムであって、 ポリエステル系樹脂を含有する表面層(A)、ポリスチレン系樹脂を含有する中間層(B)、及び、ポリエステル系樹脂を含有する裏面層(C)をこの順に有する ことを特徴とする熱収縮性電池用ジャケットフィルム。」 「【請求項6】 請求項1、2、3、4又は5記載の熱収縮性電池用ジャケットフィルムと電池とからなることを特徴とする包装電池。」 「【0002】 1次電池、2次電池等の電池は、一般にその本体側面の負極表面に直接印刷を行うことが困難であることから、商品名、機能等の表示や、電気的な絶縁・保護等を目的として、樹脂フィルムに文字、模様等が印刷されたジャケットフィルムで電池本体を被覆することが行われている。 このような電池用のジャケットフィルムには、被覆する電池の種類に応じて、様々な性能が要求される。特に、2次電池は、300?500回程度の反復充電使用が行われるため、そのジャケットフィルムには、多くの厳しい品質性能が求められている。要求品質の内容は電池メーカー、2次電池の種類等によって様々であるが、一般には次のような性能が必要とされている。」 ク 甲第8号証の記載事項等 (ア) 甲第8号証の記載事項 甲第8号証には次の記載がある。 「【請求項1】 箱状に成形された絶縁性部材と、前記絶縁性部材に収容された電極体と、金属製の角形外装体と、を備えた角形密閉二次電池であって、 前記絶縁性部材は、 略直方体形状を有する六面体の面から、上面が除かれた形状である有底箱形形状であり、前記絶縁性部材における少なくとも対向する一対の側面の幅が、前記一対の側面が対向する電極体の幅よりも小さい、ことを特徴とする角形密閉二次電池。」 「【請求項6】 前記絶縁性部材は、柔軟性を有する絶縁性シートが前記六面体の辺に相当する箇所において折り曲げて成形されていることを特徴とする、請求項1に記載の角形密閉二次電池。」 「【請求項8】 前記絶縁性部材は、前記絶縁性シートの重なり部分が接着されていることを特徴とする、請求項6に記載の角形密閉二次電池。」 「【0001】 本発明は角形密閉二次電池に関し、特に絶縁性部材に収容された電極体と、金属製の角形外装体と、を備えた角形密閉二次電池及びその製造方法に関する。」 「【0009】 下記特許文献1に開示されているような従来の角形二次電池においては、絶縁シートは所定形状に切り出された後、折り曲げられて、角形外装缶の形状に納まる所定形状(以下、所定形状に成形された絶縁シートを「箱状絶縁シート」という)、一般的には直方体形状に成形されて箱状絶縁シートとして用いられている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0010】 【特許文献1】特開2009-170137号公報 【特許文献2】特開2009-277443号公報」 「【0015】 本発明は、上述のような従来の角形二次電池の問題点を解決すべく開発されたものである。すなわち、本発明は、金属製の電池外装缶を備えた角形密閉二次電池であっても、製造時における電極挿入体の電池外装缶への挿入性に優れ、挿入時に生じる絶縁性部材のズレや破損が抑制された、角形密閉二次電池を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0016】 上記目的を達成するため、本発明の角形密閉二次電池は、箱状に成形された絶縁性部材と、前記絶縁性部材に収容された電極体と、金属製の角形外装体と、を備えた角形密閉二次電池であって、前記絶縁性部材は、略直方体形状を有する六面体の面から、上面が除かれた形状である有底箱形形状であり、前記絶縁性部材における少なくとも対向する一対の側面の幅が、前記一対の側面が対向する電極体の幅よりも小さい、ことを特徴とする。 【0017】 本発明の角形密閉二次電池においては、角形外装缶のR形状をした内側角部(以下「R 部」という)と、絶縁性部材の折り目によって形成される角部との間のクリアランスが大きくなり、角形外装缶のR部と絶縁性部材の角部との干渉が抑制される。そのため、本発明の角形二次電池によれば、絶縁性部材で被覆された電極体を外装缶内に挿入する際の挿入性が向上するため、挿入時に生じる絶縁性部材のズレや破損による絶縁不良のリスクが抑制された角形密閉二次電池となる。」 「【0024】 また、本発明の角形密閉二次電池においては、前記絶縁性部材は、柔軟性を有する絶縁性シートが前記六面体の辺に相当する箇所において折り曲げて成形されているものを使用することができる。」 「【0026】 また、本発明の角形密閉二次電池においては、前記絶縁性部材は、前記絶縁性シートの重なり部分が接着されていることが好ましい。 【0027】 絶縁シートの重なり部分が接着されていると、絶縁シートの形状が安定化するため、容易に角形外装缶のR部と絶縁性部材の角部との干渉を抑制できるようにすることができ、上記本発明の効果が良好に奏されるようになる。なお、絶縁シートの重なり部分の接着方法としては、短時間に接着できると共に大量生産に適していることから、熱溶着法が好ましい。」 「【0051】 [絶縁性部材の作製] 本実施形態の角形非水電解質二次電池10で使用する絶縁性部材301の素材としては、厚さが150μmのポリプロピレン製シートを用いた。このシートを、図2に示すように、正面部分30a、背面部分30b、底面部分30c、一対の側面部分30dと、一対の第一の折り返し部30e、及び、一対の小舌片状の第二の折り返し部30fを備えた形状に切り出した後、破線で示す部分にミシン目を形成することで絶縁性部材301を作製した。 【0052】 絶縁性部材301の成形前すなわちシート状の状態での寸法は、正面部分30a及び背面部分30bの幅をA、側面部分30dの幅をB、第一の折り返し部30eの幅をC、高さ(底面から開口部までの長さ)をD、底面部分30cの短辺側の長さをEとし、A=106.7mm、B=10.6mm、C=8mm、D=86mm、E=10.6mmである。」 「【図2】 ![]() 」 (イ) 甲第8号証に記載された発明 上記(ア)の記載、特に請求項1、6、8の記載を中心に整理すると、甲第8号証には、次の発明が記載されていると認める。 「角形密閉二次電池に用いられる箱状に成形された絶縁性部材であって、 前記絶縁性部材は、 略直方体形状を有する六面体の面から、上面が除かれた形状である有底箱形形状であり、前記絶縁性部材における少なくとも対向する一対の側面の幅が、前記一対の側面が対向する電極体の幅よりも小さく、 前記絶縁性部材は、柔軟性を有する絶縁性シートが前記六面体の辺に相当する箇所において折り曲げて成形されており、 前記絶縁性部材は、前記絶縁性シートの重なり部分が接着されている 絶縁性部材。」(以下、「甲8発明」という。) ケ 甲第9号証の記載事項 甲第9号証には次の記載がある。 「【請求項1】 正極集電タブが延出する複数枚の正極板と負極集電タブが延出する複数枚の負極板とがセパレータを介して交互に積層された積層電極体を備える積層式電池であって、 積層された正極集電タブおよび負極集電タブがそれぞれ、前記積層電極体の積層方向における一方側に寄せるようにして集束され、この集束部から先端側へ延びる部位が、前記積層電極体の積層方向における他方側に向けて折り曲げられており、 前記積層電極体が、その積層方向における両端面を覆いながら筒状に包囲するようにして絶縁性を有する絶縁シートで被覆して固定され、 前記絶縁シートの一部が、前記正極集電タブおよび負極集電タブの折り曲げ部と前記積層電極体との間に挿入されるとともに、前記絶縁シートの一部が、前記正極集電タブおよび負極集電タブの折り曲げ部を外側から覆うことを特徴とする積層式電池。」 「【請求項9】 前記積層電極体が、絶縁シートで被覆して固定された後、該絶縁シートが熱収縮させることにより、圧力を掛けて固定されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の積層式電池。」 「【0074】 絶縁シートの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどを用いることができる。絶縁シートの厚さは10?500μm程度が好ましい。また、絶縁シートを熱収縮させる場合は、100?200℃で数秒?数分の熱処理を行うことにより熱収縮する材質の絶縁シートを用いることが好ましい。」 コ 甲第10号証の記載事項 甲第10号証には次の記載がある。 「【請求項1】 合成樹脂からなる第一層と、第一層と同一の又は異なる組成物からなる第二層とを含む積層フィルムであって、 積層フィルムは、隣接する層同士を接着させたものであり、20℃の環境下で1日保管させた後の折畳み保持角度が150度以下であることを特徴とする積層フィルム。」 「【請求項3】 第一層にはポリエステル樹脂が含まれている請求項1又は2に記載の積層フィルム。」 「【0020】 積層フィルムは、デッドホールド性に優れた第一層にシート状である第二層を積層したものであり、第一層の他方の面(第二層が積層されていない側の面)には何も積層しないようにした。また、第二層の上(第一層が積層されていない面)にデッドホールド性に優れた第三層がさらに積層される場合もある。 【0021】 (第一層) 本発明の第一層は合成樹脂からなり、第一層(以下、第一フィルムということもある)を形成する樹脂組成物にはポリエステル樹脂が含まれていることが好ましい。上記ポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とすることが好ましい。エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましい。本発明で用いられるポリエステルを構成する他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環族ジカルボン酸等を挙げることができる。 【0022】 ポリエステルを構成する多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。 【0023】 本発明で用いられるポリエステルは、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の環状ジオールや、炭素数3?6個を有するジオール(例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)のうちの1種以上を共重合させて、ガラス転移点(Tg)を60?70℃に調整したポリエステルが好ましい。 【0024】 また、ポリエステルは、全モノマー成分中(ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中)の非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が15モル%以上であることが好ましく、より好ましくは16モル%以上、さらに好ましくは17モル%以上、特に好ましくは18モル%以上、最も好ましくは19モル%以上である。また非晶質成分となり得るモノマー成分の合計の上限は好ましくは30モル%、より好ましくは27モル%である。 【0025】 非晶質成分となり得るモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸を用いるのが好ましい。」 「【0034】 第一フィルムは、20℃の環境下で1日保管させた後の折畳み保持角度(以下、折畳み保持角度という)が20度以上75度以下であるのが好ましく、より好ましくは45度以下、さらに好ましくは40度以下、最も好ましくは35度以下である。75度を超えると、折り紙や包装紙等で折った際に折り目が開き、きれいな美観を得られなくなるおそれがある。また、第一フィルムの折畳み保持角度が小さいほど積層フィルムの折畳み保持角度も小さくなるので、第一フィルムの折畳み保持角度は小さいほど好ましいが、現状では20度程度が下限であるが、25度以上であっても構わない。折畳み保持角度の測定方法については後述する。 【0035】 第一フィルムの厚みは、3μm以上200μm以下が好ましい。第一フィルムの厚みが薄いほど折畳み保持角度は小さくなるが、3μmより薄いと加工が困難になるおそれがある。また、第一フィルムの厚みが200μmより厚いと、積層フィルムのデッドホールド性が低下してしまうおそれがある。第一フィルムの厚みは、より好ましくは5μm以上、100μm以下であり、さらに好ましくは7μm以上、40μm以下である。第一フィルムの厚みが薄いほど、折畳み保持角度が小さくなる傾向があるので、より好ましくは35μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。」 「【0065】 第二層が、第一層と同一の樹脂組成物からなる場合、積層フィルムの折畳み保持角度は、75度以下であるのが好ましく、より好ましくは60度以下、さらに好ましくは55度以下、特に好ましくは50度以下である。75度を超えると、折り紙や包装紙等で折った際に折り目が開き、きれいな美観を得られなくなるおそれがある。また、積層フィルムの折畳み保持角度は小さいほど好ましいが、現状では25度程度が下限であるが、30度以上であっても構わない。」 「【0099】 (折畳み保持角度(デッドホールド性)) 〔単層フィルム〕 20℃50%RH環境の恒温室で単層フィルムを24時間放置する。その後直ちに、単層フィルムを20℃65%RH環境で10cm×10cmの正方形に裁断し、軽く4つ折り(2.5cm×2.5cmの正方形が重なった状態)にし、テストシーラーで0.5kgの荷重を1秒間かけた。そして、図5に示すように、サンプル41の四隅がガラス板42に接する又はガラス板42近傍に位置する(折り目の頂点(4つ折り前のサンプル41の中央部)がガラス板42から離れたところに位置する)ように4つ折りにしたサンプル41をガラス板42上に置き、1分経過後に折られた単層フィルムが開いた角度43(完全に折りたたまれた状態を0度とした)を測定して折畳み保持角度を求めた。また、フィルム縦方向、横方向の両方の折畳み保持角度を測定し、角度が大きい方の値を折畳み保持角度とした。なお、折畳み保持角度の測定においては、フィルム縦方向と横方向が不明瞭なフィルムサンプルの場合、一方向を仮に縦方向と定め、前記仮の縦方向と直交する方向を仮の横方向とした。」 「【0105】 (ポリエステルフィルムNo.1の製膜) 上記したポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルD、及びポリエステルEを質量比5:66:24:5で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ240μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。しかる後、その未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている。 【0106】 そして、テンターに導かれた未延伸フィルムを、フィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後、横延伸ゾーンで横方向に70℃で4倍に延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、80℃の温度で8秒間に亘って熱処理することによって厚み27μmの横一軸延伸フィルムを得た。 【0107】 さらに、その横延伸したフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が70℃になるまで予備加熱した後に3倍に延伸した。しかる後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。 【0108】 そして、冷却後のフィルムをテンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内で90℃の雰囲気下で10秒間に亘って熱処理した後に冷却し、両縁部を裁断除去することによって、厚みが約9μmの二軸延伸フィルムを所定の長さに亘って連続的に製膜してポリエステルフィルムNo.1(以下、フィルムNo.1という)を得た。 【0109】 (ポリエステルフィルムNo.2?4の製膜) 上記フィルムNo.1の製膜において、溶融押出時における溶融樹脂の吐出量を変更した以外はほぼフィルムNo.1と同様にして、厚み12μmのポリエステルフィルムNo.2、厚み20μmのポリエステルフィルムNo.3、厚み30μmのポリエステルフィルムNo.4(以下、フィルムNo.2、3、4という)を得た。 【0110】 (ポリエステルフィルムNo.5の製膜) 上記フィルムNo.1の製膜において、ポリエステルBに替えてポリエステルCを同質量割合で用いた以外はほぼフィルムNo.1と同様にして、9μmのポリエステルフィルムNo.5(以下、フィルムNo.5という)を得た。」 「【0117】 ![]() 」 サ 甲第11号証の記載事項 甲第11号証には次の記載がある。 「また、表19?表20で使用した各原料は以下の通りである。 ・ノバデュラン 5020S:ホモPBT樹脂 三菱エンジニアリングプラスチック社製(ガラス転移点;45[℃] 結晶融解ピーク温度;223[℃]) ・デュラネックス 500JP:イソフタル酸共重合PBT樹脂 ウィンテックポリマー社製(ガラス転移点;32[℃] 結晶融解ピーク温度;204[℃]) ・co-PET BK-2180:イソフタル酸共重合PET樹脂 三菱化学社製(ガラス転移点;76[℃] 結晶融解ピーク温度;246[℃]) ・コルテラ CP509200:ホモPTT樹脂 シェル社製(ガラス転移点;49[℃] 結晶融解ピーク温度;225[℃]) ・イースター6763:ポリエチレンテレフタレートのエチレングリコール部分の約31%を1、4-シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂 イーストマンケミカル社製(ガラス転移点;81[℃] 結晶融解ピーク温度;観測されず[℃]) ・PCTG5445:ポリエチレンテレフタレートのエチレングリコール部分の約70%を1、4-シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂 イーストマンケミカル(株)製(ガラス転移点;88[℃] 結晶融解ピーク温度;観測されず[℃])」 (第50頁第18ないし30行) 「 ![]() 」 (第52頁) シ 甲第12号証の記載事項 甲第12号証には次の記載がある。 「ポアソンひ[-比;Poisson’s ratio]物体の一方向に単純伸長を与えた場合,物体はこの方向に伸び,これと垂直方向に縮む。単位長さあたりの縮みbと単位長さあたりの伸びaの比b/aをポアソン比(μ)という。」(376頁左欄下から2行ないし同頁右欄第5行) ス 甲第13号証の記載事項 甲第13号証には、「円筒容器の動的座屈に関する実験的研究(第1報,静的座屈評価式の適用性の検討)」に関し、次の記載がある。 「2. 供試体の材料定数および諸元 本実験で用いた円筒容器はポリエステルフィルム(商品名:三菱ダイアホイル)を巻いて製作した。使用したポリエステルフィルムの材料定数を測定するため,図1に示すような引張試験片を製作した。試験片は各板厚のフィルムに対して異方性を考えるためにロール方向とロールに直角な方向の2種類を製作した。試験片の両端は板厚3mmのアクリル板で補強され,標線間の両端には非接触変位計のターゲットとして幅5mmの帯状の部分が黒のペイントで塗られている。これらの試験片に図2のように引張荷重Fを加え,標線間の伸びδを2台の光学式非接触変位計2により測定し,ロードセル5により測定された引張荷重Fとの関係から縦弾性係数Eを算出した。ポアソン比νは今回の測定では求められず,従来用いているν=0.3を用いることにする。測定結果を表1に示す。」(第1644頁左欄第2行ないし同頁右欄第4行) (2)申立理由1-1及び申立理由2-1について(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) ア 本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「収縮フィルム」は熱により収縮するものであるから、本件発明1の「熱収縮性フィルム」に相当する。 また、甲1発明の収縮フィルムは、「共重合ポリエステルを真空乾燥機により乾燥後、280℃で押出機より押出し、急冷固化して未延伸フィルムとし、該未延伸フィルムを縦方向に82℃で1.1倍延伸した後テンターに導き、延伸開始時の該フィルムの表面温度が100℃、延伸終了時の該フィルムの表面温度が65℃となるように加熱して横方向に4.0倍延伸し、延伸後92℃にて6秒間熱処理を行ない、その後冷却して巻き取った」ものであるから、共重合ポリエステルを主成分とする表面層を備えた単層の収縮フィルムであることは明らかであり、表裏が同じ材質であるから、当然に、本件発明1の「b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下」との特定事項を満たす。 さらに、甲1発明の収縮フィルムは、融解熱が4.7cal/gであるが、この値を換算すると、4.7×4.184≒19.7Jに相当するから、本件発明1の「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」との特定事項を満たす。 よって、本件発明1と甲1発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「共重合ポリエステルを主成分とする表面層を備えた単層の熱収縮性フィルムであって、 下記a)?b)を満たす熱収縮性フィルム。 a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下 b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下」 (相違点) ・相違点1 本件発明1の熱収縮フィルムは、「c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上48%以下」であるのに対して、甲1発明では、この点は特定されていない点。 ・相違点2 本件発明1の熱収縮フィルムは、「d)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」であるのに対して、甲1発明の収縮フィルムのネックイン率は、「75℃温水中5秒処理後の該収縮方向と直交する方向への最大収縮率(ネックイン率)が2%」である点。 事案に鑑み、相違点2についてまず検討する。 熱収縮フィルムのネックイン率は、温度や時間により大きく影響を受けるものであるところ、その測定条件について、本件発明1では、「70℃の温水中に10秒間浸漬」するものであるのに対し、甲1発明では「75℃温水中5秒処理」であり、温度も時間も異なるものである。してみると、甲1発明において「75℃温水中5秒処理後の該収縮方向と直交する方向への最大収縮率(ネックイン率)が2%」であったとしても、直ちに「70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」を満たすものと推認することはできない。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の第51頁「f.相違点1について」において、甲第12号証、甲第13号証のポアソン比についての記載を参照しつつ、熱収縮率やネックイン率の推定を試みているが、そもそも、甲第13号証に記載されている「ポリエステルフィルム」が甲1発明の共重合ポリエステルの収縮フィルムと材質、性状が同じであると推認できるものでもないから、特許異議申立人の推定は採用することができない。 よって、相違点2の点で、本件発明1と甲1発明とは明らかに相違する。 また、甲第2号証ないし甲第8号証においても、熱収縮フィルムのネックイン率を「70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」となるようフィルムの性状を制御することについて、何ら記載も示唆もないから、甲1発明において、収縮フィルムのネックイン率を「70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」とすることは、当業者にとって容易になし得たことであるということもできない。 したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明及び甲2号証ないし甲第8号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記アのとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2ないし4もまた、甲第1号証に記載された発明ではなく、さらに、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2ないし8もまた、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立理由1-2及び申立理由2-2について(甲第2号証に基づく新規性・進歩性) ア 本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の熱収縮性フィルムは共重合ポリエステルの単層フィルムであるから、共重合ポリエステルを主成分とする表面層を備えた単層の収縮フィルムであることは明らかであり、表裏が同じ材質であるから、本件発明1の「b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下」との特定事項を満たす。 また、甲2発明の熱収縮性フィルムの80℃の温水に10秒浸漬後の主収縮方向の熱収縮率は37%であるから、本件発明1の「c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上48%以下」との特定事項を満たす。 よって、本件発明1と甲2発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「共重合ポリエステルを主成分とする表面層を備えた単層の熱収縮性フィルムであって、 下記b)?c)を満たす熱収縮性フィルム。 b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下 c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上48%以下」 (相違点) ・相違点3 本件発明1の熱収縮フィルムは、「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」であるのに対して、甲2発明では結晶融解熱量が特定されていない点。 ・相違点4 本件発明1の熱収縮フィルムは、「d)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」であるのに対して、甲2発明ではネックイン率が特定されていない点。 先ず、相違点3について検討する。 甲2発明及び甲第2号証には結晶融解熱量に関しての記載がない。 また、甲2発明は、熱収縮性フィルムの組成が「TPA(テレフタル酸)100mol%、EG(エチレングリコール)65mol%、CHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール)32mol%、DEG(ジエチレングリコール)3mol%の共重合ポリエステルの単層フィルムからなる熱収縮性フィルム」であるが、当該組成の熱収縮フィルムの結晶融解熱量が、本件発明1の「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」との特定事項を満たすものとの根拠もない。 したがって、甲2発明の熱収縮性フィルムが、本件発明1の「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」との特定事項を満たすものであるということはできない。 さらに、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第8号証においても、熱収縮フィルムの結晶融解熱量を「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」となるようフィルムの性状を制御することについて、何ら記載も示唆もないから、甲2発明において、熱収縮フィルムの結晶融解熱量を「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」とすることは、当業者にとって容易になし得たことであるということもできない。 この点について、特許異議申立人は特許異議申立書の第52頁「b.構成要件[B]について」において、 「甲<2>発明の実施例3に記載のフィルムの組成は、TPA//EG/CHDM/DEG=100//65/32/3(モル%)であり(【0037】、【0038】、【0040】)、甲第<11>号証記載の「イースター6763」とほぼ同じであり、該イースター6763のΔHmは観測されない(すなわちゼロ(J/g))ことが記載されているので(50頁27?30行目)、構成要件[B]を満たしていることは明らかである。」と主張する。 しかしながら、甲第11号証記載の「イースター6763」は、「ポリエチレンテレフタレートのエチレングリコール部分の約31%を1、4-シクロヘキサンジメタノールで置換した非晶性ポリエステル系樹脂」であり、その組成は甲2発明の組成と明らかに異なる。 そして、組成が異なれば当然、結晶融解熱量は異なるものと考えられるから、「イースター6763」においてΔHmが観測されないことを根拠に、甲2発明の熱収縮フィルムの結晶融解熱量を推認することはできない。 したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲2発明及び甲第1号証、甲3号証ないし甲第8号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記アのとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲2発明及び甲第1号証、甲第3号証ないし甲第8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2ないし4もまた、甲第2号証に記載された発明ではなく、さらに、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2ないし8もまた、甲2発明及び甲第1号証、甲第3号証ないし甲第8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)申立理由1-3及び申立理由2-3について(甲第3号証に基づく新規性・進歩性) ア 本件発明1について 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の熱収縮性フィルムは「表裏層が同じ組成物」であるから、本件発明1の「b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下」との特定事項を満たす。 また、甲3発明の熱収縮性フィルムは「80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の収縮率が25%」であるから、本件発明1の「c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上48%以下」との特定事項を満たす。 よって、本件発明1と甲3発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「共重合ポリエステルを主成分とする表面層を備えた積層の熱収縮性フィルムであって、 下記b)?c)を満たす熱収縮性フィルム。 b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下 c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上48%以下」 (相違点) ・相違点5 本件発明1の熱収縮フィルムは、「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」であるのに対して、甲3発明では結晶融解熱量が特定されていない点。 ・相違点6 本件発明1の熱収縮フィルムは、「d)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下」であるのに対して、甲3発明ではネックイン率が特定されていない点。 先ず、相違点5について検討する。 甲3発明及び甲第3号証には結晶融解熱量に関しての記載がない。 また、甲第3号証の実施例9、10に記載のフィルムの組成は、Pes1?3の組成及び配合量より計算すると(【0058】、【0076】【表2】)、中間層と表裏層の両層いずれも、TPA/IPA//EG/CHDM/BD=98.6/1.4//54/32/14(モル%)と算出できるものの、本件特許の実施例1の熱収縮性フィルムの組成は段落【0075】の記載より、「共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸98モル%及びイソフタル酸2モル%と、ジオール成分としてのエチレングリコール55モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール30モル%及び1,4-ブタンジオール15モル%」、つまり、略号で示すとTPA/IPA//EG/CHDM/BD=98/2//55/30/15であり、その組成は明らかに異なる。 そして、組成が異なれば当然、結晶融解熱量は異なるものと考えられるから、甲3発明の熱収縮性フィルムが、本件特許の実施例1の熱収縮性フィルムと同程度の結晶融解熱量であると推認することはできない。 さらに、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証においても、熱収縮フィルムの結晶融解熱量を「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」となるようフィルムの性状を制御することについて、何ら記載も示唆もないから、甲3発明において、熱収縮フィルムの結晶融解熱量を「a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下」とすることは、当業者にとって容易になし得たことであるということもできない。 この点について、特許異議申立人は特許異議申立書の第55頁「b.構成要件[B]について」において、 「甲<3>発明の実施例9、10に記載のフィルムの組成を、Pes1?3の組成及び配合量より計算すると(【0058】、【0076】【表2】)、中間層と表裏層の両層いずれも、TPA/IPA//EG/CHDM/BD=98.6/1.4//54/32/14(モル%)であり、本件特許の実施例1に記載のフィルムとほぼ同じである。該本件特許の実施例1に記載のフィルムのΔHmは5.5(J/g)であるので、前記実施例9、10に記載のフィルムは構成要件[B]を満たしている蓋然性が高い。」と主張する。 しかしながら、上記検討のとおり、甲3発明の熱収縮性フィルムが、本件特許の実施例1の熱収縮性フィルムと同程度の結晶融解熱量であると推認することはできない。 したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲3発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲4号証ないし甲第8号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記アのとおり、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲3発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2ないし4もまた、甲第3号証に記載された発明ではなく、さらに、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2ないし8もまた、甲3発明及び甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)申立理由2-4について(甲第8号証を主引用例とする進歩性) ア 本件発明9について 本件発明9と甲8発明とを対比する。 甲8発明の絶縁性部材は「絶縁性シート」からなるものであるから、本件発明9の「フィルム」に相当する。 よって、本件発明9と甲8発明との間の一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「フィルム」 (相違点) ・相違点7 本件発明9のフィルムは、「共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の表面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルム」であるのに対し、甲8発明は絶縁シートの材質が特定されない点。 ・相違点8 本件発明9のフィルムは、 「下記のe)?g)の少なくとも1つを満たし、箱状包装資材展開体に裁断されてなることを特徴とする、熱収縮性フィルム。 e)主収縮方向の折目開き角度(A1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目開き角度(A2)とが、いずれも30°以下 f)主収縮方向の折目開き角度(A1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目開き角度(A2)との折目開き角度比(A1/A2)が、1.3以下 g)主収縮方向の折目部の引張破断伸び(E1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目部の引張破断伸び(E2)とのいずれも80%以上」 であるのに対して、甲8発明にはe)?g)のいずれも特定されない点。 まず、相違点7について検討する。 甲8発明の絶縁性部材は、甲第8号証の段落【0017】にあるように、絶縁不良のリスクを抑制するものでもある。してみると、絶縁性部材を構成する絶縁性シートは、熱収縮性を有するものであると、熱により収縮し電池ケースと電池との間の絶縁不良を発生させることは明らかであるから、甲8発明において「熱収縮性」の部材を用いることには阻害要因があるものといえる。 なお、特許異議申立人は特許異議申立書の第71頁「b.相違点19について」において、「甲<9>発明には、該絶縁シートが熱収縮により固定されていること、すなわち該絶縁シートが熱収縮シートであることが記載されている」点をあげ、甲第10号証の記載事項もあわせて甲8発明と組み合わせることで、本件発明9は当業者が容易に発明できたものである旨主張しているが、甲8発明において「熱収縮性」の部材を用いることに阻害要因がある以上、特許異議申立人の主張は採用することができない。 したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件発明9は、甲8発明及び甲第9号証ないし甲第10号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明10ないし12について 本件発明10ないし12はいずれも、直接又は間接的に請求項9を引用する発明であり、本件発明9の特定事項を全て有するものである。 そして、上記アのとおり、本件発明9は、甲8発明及び甲第9号証ないし甲第10号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明9の特定事項を全て含む発明である、本件発明10ないし12もまた、甲8発明及び甲第9号証ないし甲第10号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)申立理由3について(実施可能要件) 特許異議申立人が主張する申立理由3-1、申立理由3-2、申立理由3-3はいずれも、明細書の発明の詳細な説明中に記載されている好ましい条件を満たすものであるにもかかわらず、ネックイン率、摩耗質量、引張破断伸び率の点で「比較例」とされる例が示されていることから、明細書には当業者が本件特許の訂正前の請求項1ないし12に係る発明を実施できる程度に記載されているとはいえない、つまり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとするものである。 明細書の発明の詳細な説明には、好ましい材質や好ましい製法についての記載はあるが、さらに、実施例・比較例を通じてみれば、材質だけでなく、温度や厚みなどの製法の差で効果に差が生じていることは明らかである。そして、実施例1、2という課題を解決する例も具体的に記載されていることから見ても、当業者が実施できる程度に記載されていないとまではいえない、つまり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 (7)申立理由4について(サポート要件) 特許異議申立人が主張する申立理由4は、要するに、訂正前の請求項1に係る発明の特定事項を満足するものは、明細書の発明の詳細な説明の実施例1及び2しか記載されておらず、他にどのようなフィルムが、訂正前の請求項1に係る発明の特定事項を満足するものなのか記載されていないというものである。 しかしながら、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】?【0008】、【0032】?【0038】、【0075】?【0079】の記載内容を参酌すれば、本件発明1ないし8が、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 してみると、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 (8)申立理由5-1について(明確性) 特許異議申立人が主張する申立理由5-1の後段は、要するに、本件特許の明細書の実施例1、2のフィルムの厚みからすれば、摩耗試験により試験片全量が摩耗しても、摩耗質量は表1に記載されているような値とはならず不合理であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとするものである。 しかしながら、摩耗質量を算出する式(1)は、 「摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗前の質量-摩耗後の質量)」 であるから、実際の試験回転数にかかわりなく、1000回転した場合に換算した値であるから、算出値が、試験片全量の質量を超えたからといって、不合理ではない。 したがって、本件特許の請求項3ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 第7 結論 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セル 【技術分野】 【0001】 本発明は、熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セルに関し、詳しくは、被覆後の耐久性及び被覆保持性に優れた熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セルに関する。 【背景技術】 【0002】 ハイブリッドカー及び電気自動車などに使用される車両用バッテリー、自然エネルギー及び深夜電力を充電するための電源装置などでは、角型電池セルが使用されている。角形電池セルは、絶縁、防水、保護などのために熱収縮性のフィルム及びチューブによって被覆されて用いられる。 【0003】 フィルム及びチューブによって被覆された電池セルの包装体としては、一般的に、図3に示すような帯状のフィルム100などに角型の電池セル101の胴体部102を巻き付けた角型包装体(例えば、特許文献1参照)、及び図4に示すようなチューブ状のフィルム200などの一端側(底)201をシールし、袋状にして角型の電池セル101を挿入する角型包装体400(図6参照)などが提案されている。しかしながら、これらの包装体では、必ずしも十分に電池セル101を被覆できず、結露などで電池セル101を挿入する筐体の底に水がたまった際に、電池セル101が剥き出しになっている部分で短絡が発生する場合がある。 【0004】 また、図4に示した例では、フィルム200によって被覆された電池セル101の底部がシール部と接触するので、フィルム200などを被覆した電池セル101が自立しない場合がある。また、近年では、車中でのバッテリーが配置される空間の占める体積を少なくして、車の小型化を図る傾向がある。バッテリーからの発熱を効率よく放熱する技術としては、電池セル101からの放熱を電池セル101が収納される筐体底面から行う技術が確立されている。しかしながら、図4に示した例では、電池セル101の底面が筐体に十分接触しないので、放熱性が悪い場合がある。これらの改良のために、フィルム200によって被覆された電池セル101が自立できるように底部にガゼットが設けられた角型包装体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】実用新案登録第3200706号公報 【特許文献2】実用新案登録第3195394号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、特許文献2に記載の角型包装体では、フィルムなどの厚みが薄い場合には、底部にガゼットを入れることで底部を平らにすることは可能であるが、フィルムなどの厚みを薄くすると、破れるなどの別の不具合が発生しやすくなる。また、一般的に電池セル被覆用として必要な厚みを有するフィルムなどでは、特許文献2に記載の角型包装体のように、ガゼットを設けて底部を平らにするように折り加工が多いと加工が困難となる場合がある。このような問題に対応するには、図5に示すように、フィルムを断裁して山折り部301(図5の破線参照)及び切り込み部302(図5の実線参照)を設けた箱状包装資材展開体300とし、フィルムの一端側303が箱状包装体400の内側となり、フィルムの他端側304が箱状包装体400の外側となるようにしてヒートシール加工で箱状に組立てた箱状包装体400(図6参照)とすることが有効である。 【0007】 また、これら電池セルの絶縁被覆用のフィルム及びチューブとしては、従来は、塩化ビニル製のものが多く用いられてきたが、近年、環境への配慮などの理由から非塩化ビニル化の要求がある。また、塩化ビニル製のフィルム及びチューブの場合、特に車両用途では長期に振動を与えると、筐体とフィルムなどとが擦れることでフィルムなどが破れる恐れがある。そこで、これらの改良のため、ポリエステル系樹脂製のフィルム及びチューブが検討されている。しかしながら、ポリエステル系樹脂製のチューブ及びフィルムは、一般にヒートシール加工が難しく、袋状及び箱状の包装体に加工する際に、ヒートシール部で接着不良及び穴あきなどが起こりやすい。また、長期耐久性の観点では、塩化ビニル製のフィルム及びチューブと同様に、破れ及び擦れなどが発生する場合もある。さらに、ポリエステル系樹脂製のフィルム及びチューブは、寒暖の繰り返しにより二次収縮が起こり、被覆状態不良が起こりやすいという問題もある。 【0008】 本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、被覆後の耐久性及び被覆保持性に優れた熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セルを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは鋭意検討した結果、上記従来技術の課題を解決し得る熱収縮性フィルムを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。 【0010】 本発明の熱収縮性フィルムは、共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の主面に備えた単層又は複層の熱収縮性フィルムであって、下記a)?d)を満たすことを特徴とする。 a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下 b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下 c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上50%以下 d)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下 【0011】 上記熱収縮性フィルムにおいては、JIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際の試験片表面の1000回当たりの下記式(1)から算出した摩耗質量が15g以下であることが好ましい。 摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗前の質量-摩耗後の質量)・・・式(1) 【0012】 上記熱収縮性フィルムにおいては、体積固有抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上であることが好ましい。 【0013】 上記熱収縮性フィルムにおいては、絶縁破壊電圧が8kV以上であることが好ましい。 【0014】 上記熱収縮性フィルムにおいては、絶縁被覆用であることが好ましい。 【0015】 上記熱収縮性フィルムにおいては、電池セル被覆用であることが好ましい。 【0016】 上記熱収縮性フィルムにおいては、箱状包装資材展開体に裁断されてなることが好ましい。 【0017】 本発明の熱収縮性フィルムは、共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の表面に備えた単層又は積層の熱収縮性フィルムであって、下記のe)?g)の少なくとも1つを満たし、箱状包装資材展開体に裁断されてなることを特徴とする。 e)主収縮方向の折目開き角度(A1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目開き角度(A2)とが、いずれも30°以下 f)主収縮方向の折目開き角度(A1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目開き角度(A2)との折目開き角度比(A1/A2)が、1.3以下 g)主収縮方向の折目部の引張破断伸び(E1)と主収縮方向に直交する直交方向の折目部の引張破断伸び(E2)とのいずれも80%以上 【0018】 本発明の箱状包装資材は、上記熱収縮性フィルムを用いた箱状包装資材であって、折り曲げ加工部及びヒートシール部を備えたことを特徴とする。 【0019】 本発明の電池セルは、上記箱状包装資材で被覆されてなることを特徴とする。 【発明の効果】 【0020】 本発明によれば、被覆後の耐久性及び被覆保持性に優れた熱収縮性フィルム、箱状包装資材及び電池セルを実現できる。 【図面の簡単な説明】 【0021】 【図1】図1は、本発明の実施例に係るヒートサイクル試験における箱状包装体の寸法の説明図である。 【図2】図2は、本発明の実施例に係るヒートサイクル試験で用いられるアルミ金属塊の寸法の説明図である。 【図3】図3は、従来技術のフィルム及びチューブによる電池セルの被覆の説明図である。 【図4】図4は、従来技術のフィルム及びチューブによる電池セルの被覆の説明図である。 【図5】図5は、箱状包装資材展開体の模式図である。 【図6】図6は、箱状包装体の模式図である。 【発明を実施するための形態】 【0022】 以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態によって何ら限定されるものではない。 【0023】 なお、本明細書において、「主成分とする」とは、主成分として含有される樹脂が有する作用及び効果を妨げない範囲で、他の成分を含むことを許容する意味である。また、「主成分とする」とは、具体的な含有率を制限するものではないが、構成成分全体に対する含有率が50質量%以上を占める成分であることが好ましく、70質量%以上を占める成分であることがより好ましく、80質量%以上を占める成分であることが更に好ましく、また100質量%以下の範囲を占める成分である。 【0024】 本実施の形態に係る熱収縮性フィルムは、ジカルボン酸成分とジオール成分との共重合ポリエステルを用いたフィルムを含むものである。まず、熱収縮性フィルムに用いられる共重合ポリエステルについて説明する。 【0025】 (共重合ポリエステル) 共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、かつ、ジオール成分の主成分がエチレングリコールである共重合ポリエステルであるものが好ましい。共重合ポリエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 【0026】 ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、4,4-スチルベンジカルボン酸、4,4-ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4-ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-Naスルホイソフタル酸、エチレン-ビス-p-安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジカルボン酸としては、熱収縮性フィルムのヒートシール部の穴あき及び接着不良を防ぐ観点、被覆後の耐久性及び被覆保持性の観点から、テレフタル酸及びイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸を主成分とすることがより好ましい。 【0027】 共重合ポリエステルにおけるテレフタル酸の配合量は、熱収縮性フィルムのヒートシール部の穴あき及び接着不良を防ぐ観点、被覆後の耐久性及び被覆保持性の観点から、ジカルボン酸成分の総量100モル%に対し、75モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、85モル%以上が更に好ましく、また100モル%以下が好ましい。 【0028】 ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及び1,3-プロパンジオールが挙げられる。これらのジオール成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジオール成分としては、熱収縮性フィルムのヒートシール部の穴あき及び接着不良を防ぐ観点、被覆後の耐久性及び被覆保持性の観点から、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましく、エチレングリコールを主成分とすることがより好ましい。 【0029】 共重合ポリエステルにおけるエチレングリコールの配合量は、ジオール成分総量100モル%に対して、熱収縮性フィルムのヒートシール部の穴あき及び接着不良を防ぐ観点、被覆後の耐久性及び被覆保持性の観点から、40モル%以上が好ましく、45モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましく、また80モル%以下が好ましく、75モル%以下がより好ましく、70モル%以下が更に好ましい。 【0030】 また、共重合ポリエステルはジカルボン酸成分及びジオール成分が所定の成分量になればよく、単独の共重合ポリエステルを用いてもよく、異なる組成の共重合ポリエステルを2種以上混合して用いてもよい。 【0031】 共重合ポリエステルは、本発明の効果を奏する範囲で、必要に応じて各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、安定剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、無機フィラー、各種樹脂などが挙げられる。以下、第1の実施の形態及び第2の実施の形態について詳細に説明する。 【0032】 (第1の実施の形態) 第1の実施の形態に係る熱収縮性フィルムは、共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の表面に備えた単層又は複層の熱収縮性フィルムである。この熱収縮性フィルムは、a)示差走査型熱量測定により、10℃/分で昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下であり、b)一方の表面同士の融着温度(FT1)と他方の表面同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下であり、c)80℃の温水中に10秒間浸漬した際の熱収縮率が最大となる主収縮方向(以下、単に「主収縮方向」という)における熱収縮率が10%以上50%以下であり、d)70℃の温水中に10秒間浸漬した後のネックイン率が2.5%以下である。 【0033】 <結晶融解熱量(△Hm)> 熱収縮性フィルムは、JIS K7122に準拠し、示差熱走査型熱量測定により、昇温速度10℃/分でフィルムを昇温した際の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下である。結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下であれば、ヒートシールが可能な温度が場所によって異なる現象が起こらず、ヒートシールが不安定になることがない。熱収縮性フィルムの結晶融解熱量(△Hm)は、18J/g以下が好ましく、16J/g以下がより好ましい。 【0034】 一般的に、結晶性が低い原材料でフィルムを構成する場合は、フィルムの場所によって結晶性の高いところと低いところという分布ができにくく、フィルム加工方法及び加工条件に制約はない。これに対して、結晶性が高い原材料でフィルムを構成する場合は、フィルムの加工方法及び加工条件によって、表面及び裏面の結晶性が相互に異なり易くなるだけでなく、同一面同士でもフィルムの場所によって結晶性が異なり易いので、フィルム加工方法及び加工条件により結晶性に分布ができてしまう場合がある。そこで、熱収縮フィルムは、原材料の結晶融解熱量(△Hm)が20J/g以下であることにより、フィルム加工方法及び加工条件による結晶性の分布の発生を防ぐことができる。 【0035】 <融着温度差(FT1-FT2)> 熱収縮性フィルムは、一方の主面(例えば、被覆体に対する熱収縮性フィルムの表面)同士の融着温度(FT1)と他方の表面(例えば、被覆体に対する熱収縮性フィルムの裏面)同士の融着温度(FT2)との融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下であり、15℃以下が好ましく、10℃以下が更に好ましい。融解温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下であれば、熱収縮性フィルムの一方の主面(例えば、表面)と他方の主面(例えば、裏面)とをヒートシールする際に、融着温度を低い方の条件に合わせてヒートシール加工を行っても、ヒートシールが不十分になり接着不良が起こるなどの不具合が生じない。また、融着温度を高い方に合わせてヒートシール加工を行っても、融着温度の低い面のシール部に過熱による穴あきなどの不具合が発生することがない。このように、一方の主面と他方の主面とをヒートシールする場合であっても、融解温度差(FT1-FT2)の絶対値が20℃以下であれば、ヒートシール加工を好適に行うことができる。 【0036】 本実施の形態において、融着温度とは、以下の条件で測定したものである。まず、熱収縮性フィルムを横方向(TD:Transverse Direction)60mm、縦方向(MD:Machine Direction)30mmの大きさに切り取り、熱収縮性フィルムの各面同士を重ねた後、10mm幅のヒートシールバーを有するヒートシーラーに、ヒートシールバーの長手方向とTDを合わせてセットする。そして、シール温度を5℃間隔で、各所定の温度で片側より加熱し、0.1MPaの圧力で60秒間ヒートシールした後、10秒間放置してシール部を剥離し、3回繰り返し(N=3)実施して全て破れずに剥離できる最高温度が融着温度である。 【0037】 <熱収縮率> 熱収縮性フィルムの熱収縮率は、80℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向における熱収縮率が10%以上であり、12%以上であることが好ましく、14%以上であることがより好ましく、50%以下であり、48%以下であることが好ましく、46%以下であることがより好ましい。熱収縮性フィルムは、熱収縮性フィルムの熱収縮率が10%以上であれば、図6に示すように、箱状包装体に加工してバッテリーに被せた後、シュリンカーで収縮して電池セルに被覆する工程において、タイトに密着できずに、電池セルと熱収縮性フィルムとの間に結露などにより水分が入り込むリスクが生じることもない。また、熱収縮性フィルムは、熱収縮性フィルムの熱収縮率が50%以下であれば、シュリンカーで収縮させた際に、主収縮方向に直交する直交方向(以下、単に「直交方向」という)に大きな引けが生じることもない。熱収縮性フィルムは、引けが生じると、収縮加工において、バッテリーの一部が被覆できなくなってしまい、絶縁性が低下する場合がある。また、熱収縮性フィルムは、仮にこの段階で被覆できたとしても、寸法形状に余裕がないため、車のバッテリー搭載部の温度の上昇と下降の繰り返しにより、熱収縮性フィルムに二次収縮が発生し、その結果電池セルの一部が被覆できなくなってしまうリスクが高まる。なお、収縮性のコントロール以外にも、熱収縮性フィルムの高さ寸法を大きくすることで対応することも可能である。しかしながら、余分な材料を多く使用することになり、コスト面で好ましくなく、電極等の被覆不要な部分まで被覆してしまうことにもなるので、被覆材の寸法よりも、収縮性を適切なものとすることが品質設計上好ましい。 【0038】 <ネックイン率> 熱収縮性フィルムは、上記熱収縮率と共に、70℃の温水に10秒浸漬した時のネックイン率が2.5%以下であり、2.3%以下であることが好ましく、2.1%以下であることがより好ましい。ネックイン率が2.5%以下であれば、上述したバッテリー搭載部の温度の上昇と下降との繰り返しにより、少しずつ収縮及びネックインが進み、バッテリーの一部が剥き出しになってしまうという不具合が生じることがない。このように、熱収縮性フィルムは、上記熱収縮率及び上記ネックイン率をどちらも満足することで、長期間使用しても被覆不良などが起こらず、優れた絶縁性や防水性を維持することができるものとなる。なお、熱収縮率及びネックイン率は、フィルム製造時の延伸条件などにより調整することができる。 【0039】 本実施の形態において、ネックイン率とは、以下により測定した値である。まず、熱収縮性フィルムを主収縮方向に140mm以上、直交方向に100mmの大きさに切り取り、内寸長さ140mm、幅120mmの固定枠治具に主収縮方向と内寸長さ方向を合わせて、主収縮方向を140mm長さで両端を固定した状態で取り付ける。そして、固定枠治具に取り付けた熱収縮性フィルムを70℃の温水バスに10秒間浸漬した後、30℃以下の冷水に10秒間浸漬して、直交方向の最大の熱収縮率を求めて得らえた熱収縮率を2で割った値がネックイン率である。 【0040】 <耐摩耗性> 熱収縮性フィルムは、JIS K7204に準拠したテーバー摩耗試験において、摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させた際の試験片表面の1000回当たりの下記式(1)から算出した摩耗質量が15g以下であることが好ましく、12g以下であることがより好ましく、10g以下であることが更に好ましい。 摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗前の質量-摩耗後の質量)・・・式(1) 【0041】 熱収縮性フィルムは、摩耗質量が15g以下であれば、バッテリーが挿入される筐体とバッテリーに被覆された絶縁材との振動により擦れが発生した結果、穴あきが発生して絶縁性が担保できなくなることがない。一般に、絶縁性保持の観点から、物理的な擦れによる穴あき等が発生し易い被覆材は好ましくない。特に車両用に使用されるバッテリーにおいては、電池セルを収納する筐体と、電池セルに被覆された絶縁材とが、振動により擦れが発生することがあるため、絶縁材の耐摩耗性は要求品質上重要な要素である。なお、摩耗質量は、適切な材料選択、フィルム製造時の延伸条件などにより、適宜調整することができる。 【0042】 <体積固有抵抗> 熱収縮性フィルムは、体積固有抵抗が、1×10^(14)Ω・cm以上であることが好ましく、1×10^(15)Ω・cm以上であることがより好ましい。熱収縮性フィルムは、体積固有抵抗が1×10^(14)Ω・cm以上であれば、絶縁性能を担保可能であり、バッテリーに過電圧がかかってしまった場合でも、破壊せずに耐性を有することができるので、バッテリーの電気的ショートによるトラブルを防止することができる。 【0043】 <絶縁破壊電圧> 熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧は、8kV以上であることが好ましく、10kV以上であることがより好ましく、11kV以上であることが更に好ましい。熱収縮性フィルムは、絶縁破壊電圧が8kV以上であれば、絶縁性能を担保可能であり、過電圧がかかってしまった場合でも、破壊せずに耐性を有することができるので、バッテリーの電気的ショートによるトラブルを防止することができる。熱収縮性フィルムの絶縁破壊電圧の上限値に特に制限はなく、例えば、20kV以下である。 【0044】 <フィルム厚み> 絶縁性に関する特性については、熱収縮性フィルムのフィルム厚み(絶対厚み)との関係がある。一般的に、フィルム厚みが厚いほど絶縁性は上がり、より絶縁性に関する特性を担保できる。熱収縮性フィルムは、上記体積固有抵抗及び絶縁破壊電圧を満足すれば絶対厚みに特に制限はない。熱収縮性フィルムは、耐摩耗性、絶縁性及び一般的なポリエステル系熱収縮性フィルムの特性などの観点から、フィルム厚み(絶対平均厚み)は、80μm以上であることが好ましく、85μm以上であることがより好ましく、90μm以上であることが更に好ましい。また、フィルム厚みは、折りなどの加工を行う必要性及びコストなどの観点から、120μm以下であることが好ましい。 【0045】 <フィルムの固有粘度> 熱収縮性フィルムの固有粘度は、0.50dl/g以上1.10dl/g以下であることが好ましい。熱収縮性フィルムの固有粘度が、0.50dl/g以上であれば、容易に製膜でき、物性、強度も充分なフィルムが得られる。また、当該固有粘度が、1.10dl/g以下であれば、安定して押出することができる。上述した効果がより一層向上する観点から、熱収縮性フィルムの固有粘度は、0.55dl/g以上であることがより好ましく、0.60dl/g以上であることが更に好ましく、また1.0dl/g以下であることがより好ましく、0.90dl/gであることが更に好ましい。なお、上記フィルムの固有粘度は、測定試料1gを精秤し、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1対1)の混合溶媒に溶解させて濃度が0.01g/cm^(3)の溶液を調製し、30℃における溶媒との相対粘度ηrを測定して求めた値である。 【0046】 <フィルムの層構成> 熱収縮性フィルムは、共重合ポリエステルからなる表面層を少なくとも一方の主面(例えば、表面又は裏面)に備えていればよい。熱収縮性フィルムは、共重合ポリエステルからなる表面層を一方の主面に備えていてもよく、両主面(表面及び裏面)に備えていてもよい。また、熱収縮性フィルムは、共重合ポリエステルからなる表面層の単層フィルムであってもよく、表面層に他の樹脂層が積層された複数層の積層フィルムであってもよい。これら熱収縮性フィルムの層構成は、要求品質や用途の観点等から、必要に応じて適宜選択することができる。なお、熱収縮性フィルムには、さらに必要に応じて、蒸着層や各種コート層などを設けることもできる。 【0047】 <熱収縮性フィルムの製造方法> 熱収縮性フィルムの製造方法は、特に限定されるものではない。単層フィルムの熱収縮性フィルムは、例えば、Tダイ法、チューブラ法など公知の方法により製造することができる。積層フィルムの熱収縮性フィルムは、複数の押出機を用いて共押出しすることにより製造することができる。また、積層フィルムの熱収縮性フィルムは、各層を構成する樹脂を別々にシート化した後に、プレス法、ロールニップ法などを用いて積層して逐次的に製造することもできる。 【0048】 製造された熱収縮性フィルムは、冷却ロール、空気、水などで冷却された後、熱風、温水、赤外線などで再加熱され、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラ延伸法、長間隔延伸法などにより、同時又は逐次に一軸又は二軸延伸される。二軸延伸は、MDとTDの延伸は同時に行われてもよいが、いずれか一方を先に行う逐次二軸延伸が効果的である。逐次二軸延伸では、MD及びTDのどちらが先に延伸してもよい。延伸温度は、熱収縮性フィルムを構成する樹脂の軟化温度及び熱収縮性フィルムの用途によって適宜変更される。延伸温度は、ネックイン率を低減する観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、85℃以上が更に好ましく、90℃以上がより更に好ましく、また130℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。主収縮方向の延伸倍率は、熱収縮性フィルムの構成成分、延伸手段、延伸温度、製品形態に応じて適宜決定される。主収縮方向の延伸倍率は、1.5倍以上であり、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、4倍以上が更に好ましく、また7倍以下であり、6倍以下が好ましい。 【0049】 車載バッテリーに用いられる電池セルの被覆絶縁用のように、ほぼ一方向の収縮特性を必要とする用途の場合でも、主収縮方向に対する直交方向に収縮特性を阻害しない範囲で延伸をすることも効果的となる。延伸温度は、典型的には60℃以上100℃以下の範囲である。また延伸倍率については、大きくなるほど耐破断性は向上するが、それに伴い熱収縮率が上昇し、被覆性に影響を及ぼすことがあるため、1.01倍以上1.2倍以下が好ましい。また、熱収縮性フィルムは、延伸後に延伸フィルムの分子配向が緩和しない時間内に速やかに、熱収縮性フィルムの冷却を行うことにより、収縮性を付与して保持することができる。 【0050】 また、本実施の形態に係る熱収縮性フィルムは、適宜裁断することにより、所望形状の箱状包装資材展開体として用いることもできる。この箱状包装資材展開体は、例えば、電池セルなどの絶縁包装材として好適に用いることができる。また、熱収縮性フィルムは、裁断、折り曲げ、接着等の各種加工を施し、包装資材とすることができる。形状としては、例えば、箱状や袋状とすることができる。具体的には、熱収縮性フィルムを裁断加工して箱状展開断裁体とし、さらに折り曲げ、接着加工を施すことにより、箱状包装資材とすることができる。 【0051】 以上説明したように、第1の実施の形態によれば、結晶融解熱量(ΔHm)、融着温度差(FT1-FT2)、熱収縮率及びネックイン率が所定範囲内となるので、熱収縮フィルム内での結晶性の分布が生じることがなく、熱収縮性フィルムの一方の主面(表面)と他方の主面(裏面)とを接着する場合であっても、接着不良が生じることもなく、熱収縮時の裂けの発生及び急激なネックインを防ぐことができる。これにより、絶縁性、耐摩耗性、被覆保持性、耐久性などの全ての品質において優れたものが得られるので、被覆後の耐久性及び被覆保持性に優れるだけでなく、ヒートシール部の穴あき及び接着不良も防ぐことができる熱収縮性フィルムを実現することが可能となる。 【0052】 (第2の実施の形態) 第2の実施の形態に係る熱収縮性フィルムは、共重合ポリエステルを主成分とする表面層を少なくとも一方の表面に備えた単層又は複層の熱収縮性フィルムを含み、箱状包装資材展開体に裁断されてなるものである。箱状包装資材展開体は、箱状包装資材の展開体に相当するものであり、所定の折り加工を施すことにより、箱型の電池セルなどの箱状包装資材とすることができる。箱状包装資材展開体においては、折り加工などの際に、デットホールド性(折曲易さ)及び折目部の強度が必要とされる。 【0053】 <折目開き角度> 箱状包装資材展開体のデッドホールド性は、熱収縮性フィルムの折目開き角度を測定することにより評価ができる。熱収縮性フィルムの折目開き角度は、熱収縮性フィルムの主収縮方向の折目開き角度(A1)及び直交方向の折目開き角度(A2)が、いずれも30°以下であり、28°以下であることが好ましい。折目開き角度(A1),(A2)がいずれも30°以下であれば、折目が付きやすくなって形状がいびつになることなく、また箱状包装資材への加工が容易となる。 【0054】 熱収縮性フィルムは、折目開き角度(A1),(A2)のバランスが良いことが好ましい。熱収縮性フィルムは、主収縮方向の折目開き角度(A1)及び直交方向の折目開き角度(A2)の折目開き角度比(A1/A2)が、1.3以下であり、1.2以下であることが好ましい。折目開き角度比(A1/A2)が、1.3以下であれば、折り曲げ加工により箱状包装資材にしたとき、所望の形状がいびつになることがなく、また箱状包装資材への加工が容易となる。 【0055】 折目開き角度(A1),(A2)は、熱収縮性フィルムの主収縮方向及び直交方向からそれぞれ短冊状にサンプルを切り出し、サンプルの長辺を2つ折りにし、20℃?25℃の室内(例えば、23℃の環境下)にあるプレス機にて0.1MPaで10秒間の条件で押し潰して折目部を付与し、折曲部の角度を測定することで求められる。 【0056】 <折目引張破断伸び> 箱状包装資材展開体の折目部の伸び強度は、折目引張破断伸びを測定することにより評価ができる。折目引張破断伸びは、熱収縮性フィルムの主収縮方向の折目引張破断伸び(E1)及び直交方向の折目引張破断伸び(E2)が、いずれも80%以上であり、90%以上がより好ましい。折目引張破断伸びが、80%以上であれば、加工途中及び被覆時に、折目部から熱収縮性フィルムが破断することがなく、また電池セルに被覆した後の耐久性の観点から好ましい。 【0057】 折目引張破断伸び(E1),(E2)は、デットホールド性の評価で用いた折目開き角度の測定と同様にして、折目を付与した短冊状試験片を切り出し、折目部を中心として、チャック間距離20mmで引張試験機にセットし、23℃、200mm/minの試験速度で引張ることにより測定できる。 【0058】 熱収縮性フィルムは、上記デットホールド性で評価した、折目開き角度(A1),(A2)、折目開き角度比(A1/A2)及び、折目引張破断伸び(E1),(E2)のいずれかが、好ましい範囲にあれば箱状展開資材展開体として箱状包装資材の製造に好適に用いることができる。また、熱収縮性フィルムは、折目開き角度、折目開き角度比(A1/A2)及び、折目引張破断伸びの2つ以上が、それぞれ好ましい範囲にあることが特に好ましい。 【0059】 (収縮応力) 熱収縮性フィルムは、収縮応力に特に制限はない。熱収縮性フィルムは、80℃のシリコンオイル中に1分間浸漬した際の最大収縮応力が、7.0MPa以下であることが好ましく、5.0Ma以下であることがより好ましく、また1.0MPa以上であることが好ましく、2.0MPa以上であることがより好ましい。熱収縮性フィルムは、収縮応力が7.0MPa以下であれば、被覆対象物を被覆した際にシール部が剥がれるなどの不具合が生じることがなく、また収縮応力が1.0MPa以上であれば、被覆後に熱収縮性フィルムがシワになりにくく、電池セルを電気回路などに組み込む際にシワが配列の障害となることがない。 【0060】 第2の実施の形態に係る熱収縮性フィルムのフィルム厚み、フィルム層構成及び製造方法などは、上述した第1の実施の形態と同様である。 【0061】 以上説明したように、第2の実施の形態によれば、折目開き角度(A1,A2)、折目開き角度比(A1/A2)又は折目引張破断伸び(E1,E2)のいずれか1つが所定範囲内となるので、折り曲げ加工及びヒートシール加工により箱状包材資材とする際に良好なデッドホールド性及び折目部の伸び強度が得られる箱状包材資材展開体を得ることができる。これにより得られた熱収縮性の箱状包装資材は、例えば、電池セルなどの被覆対象物を被覆する際に作業性がよく、被覆後の耐久性及び被覆保持性に優れた箱状包装資材を実現することができる。したがって、第2の実施の形態によれば、箱状包装資材へ加工工程での加工性(折り曲げ性、折り曲げ時のバランス)、被覆後の被覆性及び耐久性(強度)に優れるだけでなく、被覆保持性も優れた熱収縮性フィルムを実現できる。 【0062】 上記各実施の形態に係る熱収縮性フィルムは、被覆後の絶縁性、耐久性、耐摩耗性及び被覆保持性に優れているので、これらの品質を要求される分野、例えば、ハイブリッドカー及び電気自動車などに使用される車両用バッテリー、自然エネルギー及び深夜電力を充電するための電源装置などに使用される電池セルの絶縁被覆用途などに好適に使用することができる。 【実施例】 【0063】 以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例、比較例及びによって何ら限定されるものではない。また、以下の実施例では、積層フィルムの引き取り方向(流れ方向)を「縦方向」(MD:Machine Direction)、「縦方向」に直交する方向を「横方向」(TD:Transverse Direction)と記載する。 【0064】 下記表1、表2に記載された成分を以下に示す。 ジカルボン酸成分A:テレフタル酸 ジカルボン酸成分B:イソフタル酸 ジオール成分A:エチレングリコール ジオール成分B:1,4-シクロヘキサンジメタノール ジオール成分C:1,4-ブタンジオール 【0065】 まず、本発明者らは、上述した第1の実施の形態に係る熱収縮性フィルムを作製し、作製した熱収縮性フィルムの「結晶融解熱量(△Hm)」、「融着温度差(FT1-FT2)」、「熱収縮率」、「ネックイン率」などとヒートサイクル試験との関係を調べた。各種測定条件を以下に示す。 【0066】 <評価方法> (1)結晶融解熱量(△Hm) JIS K7122に準拠し、示差走査型熱量計(型番:「Diamond DSC」、パーキンエルマージャパン社製)により、昇温速度10℃/分で熱収縮性フィルムを昇温した際のサーモグラフのピーク面積から結晶融解熱量(△Hm)を求めた。 【0067】 (2)融着温度(FT) 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムをTD60mm、MD30mmの大きさに切り取り、熱収縮性フィルムの各面同士を2枚重ねて、10mm幅のヒートシールバーを有するヒートシーラーに、ヒートシールバーの長手方向に熱収縮性フィルムのTDを合わせセットした後、所定の温度で片側より加熱し、0.1MPaの圧力で60秒間ヒートシールした。その後、10秒間放置してシール部を剥離した。以上を3回実施(N=3)して、全て破れずに剥離できる最高温度を融着温度とした。シール温度は5℃間隔とした。熱収縮性フィルムの一方の主面(表面)同士の融着温度(FT1)、他方の主面(裏面)同士の融着温度(FT2)、及びFT1-FT2の差の絶対値を測定した。 【0068】 (3)熱収縮率 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムをMD20mm、TD100mmの大きさに切り取り、80℃の温水バスに10秒間浸漬した後、30℃以下の冷水に10秒間浸漬してTDの収縮量を測定した。熱収縮率は、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で示す。 【0069】 (4)ネックイン率 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムを主収縮方向に140mm以上、主収縮方向と直交する直交方向に100mmの大きさに切り取り、内寸長さ140mm、幅120mmの固定枠治具に主収縮方向と内寸長さ方向を合わせて、主収縮方向を140mm長さで両端を固定した状態で取り付けた後、70℃の温水バスに10秒間浸漬した後、30℃以下の冷水に10秒間浸漬した。その後、直交方向の最大の熱収縮率を測定し、測定した値を2で割った値をネックイン率(%)とした。 【0070】 (5)耐摩耗性(摩耗質量) 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムについて、JIS K7204に準拠し、テーバー摩耗試験を行った。テーバー式摩耗試験機(型番:「ロータリーアブレッサーNo.410」、東洋精機製作所製)の回転台に試験片を固定し、規定の摩耗輪CS-17を取付けた。摩耗輪に規定の荷重4.9Nを加え、回転台を一定速度70回転/分で回転させ、試験片表面の摩耗性を1000回当たりの摩耗質量を以下の式(1)から求めた。 摩耗質量(g)=1000/試験回転数×(摩耗前の質量-摩耗後の質量)・・・式(1) 【0071】 (6)体積固有抵抗 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムについて、JIS K6911に準拠し、体積固有抵抗を測定した。熱収縮性フィルムをMD100mm、TD100mmの大きさに切り取り、体積固有抵抗測定機(アドバンテスト社製)を用いて、二つの電極を表面と裏面に接触させ、500Vの直流電圧を印可し、1分後の電極間に流れる電流を測定し体積固有抵抗値を調査した。 【0072】 (7)絶縁破壊電圧 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムについて、JIS C2110に準拠し、絶縁破壊電圧を測定した。絶縁破壊電圧試験機(原口工業社製)の2つの電極間に試験片を挟んだ後、1KV/secで電圧を上昇させ、絶縁破壊の起こる瞬間の電圧を求めた。 【0073】 (8)ヒートサイクル試験評価 図1に示すように、実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルム10を、表1に記載のシール条件で、縦95mm(L1参照)、横25.5mm(L2参照)、奥行き150mm(L3参照)の箱状に加工した後、図2に示すように、角形電池セルを想定した縦90mm(L4参照)、横25mm(L5参照)、奥行き145mm(L6参照)の箱状の大きさのアルミ金属塊20に、120℃で30秒間熱風を当てて被せた。次に、-40℃及び65℃にてそれぞれ0.5時間保持し、昇温、降温にそれぞれ0.5時間かけるヒートサイクルを1000回実施し、アルミ金属塊20の剥き出し状態について評価した。評価基準を以下に示す。 ○:被覆状態正常 △:電池セル一部剥き出し ×:シール部に穴あきが発生し、ヒートサイクル試験ができなかった 【0074】 (9)固有粘度の測定 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムの固有粘度(IV:Intrinsic Viscosity)[dl/g]は、測定試料1gを精秤し、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1対1)の混合溶媒に溶解させて濃度が0.01g/cm^(3)の溶液を調製し、30℃における溶媒との相対粘度ηrを測定して求めた。 【0075】 (実施例1) 共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸98モル%及びイソフタル酸2モル%と、ジオール成分としてのエチレングリコール55モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール30モル%及び1,4-ブタンジオール15モル%の成分量の共重合ポリエステルを用いた。この共重合ポリエステルを用いて、2台の押出機及び2種3層マルチマニホールド口金により、各押出機の設定温度を240℃以上260℃以下で溶融混練後、各層の厚み比が1/6/1(同材料の3層構成)となるように共押出し、55℃のキャストロールで引き取り、冷却固化させて未延伸積層シートを得た。次に、フィルムテンターを用いて、得られたシートを予熱温度100℃、延伸温度90℃で横一軸方向に5.0倍延伸後、75℃にて熱処理を行い、100μmの熱収縮性フィルム(固有粘度:0.77dl/g)を得た。得られた熱収縮性フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)は5.5J/gであり、融着温度差(FT1-FT2)の絶対値は0℃であり、熱収縮率は28%であり、ネックイン率は1.5%であり、摩耗質量は8.9gであり、体積固有抵抗は1.06×10^(17)Ω・cmであり、絶縁破壊電圧は13.3kVであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、180℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表1に示す。 【0076】 (実施例2) 共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸90モル%及びイソフタル酸10モル%と、ジオール成分としてのエチレングリコール65モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール20モル%及び1,4-ブタンジオール15モル%の成分量の共重合ポリエステルを用いた。この共重合ポリエステルを用いて、2台の押出機及び2種3層マルチマニホールド口金により、各押出機の設定温度を240℃以上260℃以下で溶融混練後、各層の厚み比が1/6/1(同材料の3層構成)となるように共押出し、35℃のキャストロールで引き取り、冷却固化させて未延伸積層シートを得た。次に、フィルムテンターを用いて、得られたシートを予熱温度110℃、延伸温度88℃で横一軸方向に2.2倍延伸後、91℃にて熱処理を行い、100μmの熱収縮性フィルム(固有粘度:0.78dl/g)を得た。得られた熱収縮性フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)は7.2J/gであり、融着温度差(FT1-FT2)の絶対値は0℃であり、熱収縮率は24%であり、ネックイン率は1.5%であり、摩耗質量は8.7gであり、体積固有抵抗は2.75×10^(17)Ω・cmであり、絶縁破壊電圧は9.0kVであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、180℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表1に示す。 【0077】 (比較例1) 延伸温度を80℃としたこと以外は、実施例1と同様に熱収縮性フィルム(固有粘度:0.77dl/g)を作製して評価した。得られた熱収縮性フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)は5.7J/gであり、融着温度差(FT1-FT2)の絶対値は0℃であり、熱収縮率は49%であり、ネックイン率は3%であり、摩耗質量は11.7gであり、体積固有抵抗は6.86×10^(16)Ω・cmであり、絶縁破壊電圧は14.7kVであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、180℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表1に示す。 【0078】 (比較例2) 共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸100モル%と、ジオール成分としてのエチレングリコール95モル%、及び1,4-ブタンジオール5モル%の成分量の共重合ポリエステルを用いた。この共重合ポリエステルを用いて、先端に丸ダイを装着した単軸押出機を用いて溶融成形し、直ちに冷水に浸漬させ、チューブ状の成形物を得た。得られたチューブ状の成形物は連続的に次の延伸工程に供給した。延伸工程において、チューブ状の成形物は、一方の端から圧縮気体による圧力を管の内側に加えつつ一定速度で送り出された後、90℃の温水により加熱され、径方向の延伸倍率を規制するために冷却された円筒管の中を通され、MD1.05倍、TD1.67倍の延伸倍率で延伸された。円筒管で冷却された延伸後のチューブは、一対のニップロールにより挟んで延伸張力を保持しながら延伸チューブ(熱収縮性フィルム)として引き取り巻き取った。フィルム厚みは、80μmとなるように延伸した。得られた熱収縮性フィルム(固有粘度:0.72dl/g)の結晶融解熱量(ΔHm)は37.8J/gであり、融着温度差(FT1-FT2)の絶対値は75℃であり、熱収縮率は38%であり、ネックイン率は1.3%であり、摩耗質量は4.1gであり、体積固有抵抗は8.94×10^(15)Ω・cmであり、絶縁破壊電圧は13kVであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、230℃にて1.5秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表1に示す。 【0079】 (比較例3) 共重合ポリエステルとして、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸100モル%と、ジオール成分としてのエチレングリコール65モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノール30モル%及び1,4-ブタンジオール5モル%の成分量の共重合ポリエステルを用いたこと、フィルム厚みを70μmとなるように延伸したこと以外は、比較例2と同様に熱収縮性フィルム(固有粘度:0.76dl/g)を作製して評価した。得られた熱収縮性フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)は3.7J/gであり、融着温度差(FT1-FT2)の絶対値は5℃であり、熱収縮率は43%であり、ネックイン率は6.5%であり、摩耗質量は32.1gであり、体積固有抵抗は8.55×10^(16)Ω・cmであり、絶縁破壊電圧は10.4kVであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、180℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表1に示す。 【0080】 <参考例1> 共重合ポリエステルに代えて、ポリ塩化ビニルを用いたこと及び厚みを100μmとしたこと以外は、比較例2と同様にして熱収縮性フィルムを作製して評価した。得られた熱収縮性フィルムの結晶融解熱量(ΔHm)は検出されず、融着温度差(FT1-FT2)の絶対値は0℃であり、熱収縮率は43.5%であり、ネックイン率は5.8%であり、摩耗質量は16.3gであり、体積固有抵抗は1.77×10^(16)Ω・cmであり、絶縁破壊電圧は11.9kVであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、190℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表1に示す。 【0081】 【表1】 ![]() 【0082】 表1から分かるように、結晶融解熱量(ΔHm)、融着温度差(FT1-FT2)、熱収縮率及びネックイン率が所定範囲となる場合には、ヒートサイクル試験で良好な評価結果が得られた(実施例1及び実施例2)。これに対して、ネックイン率が大きすぎる場合には、ヒートサイクル試験後に電池セルの一部が剥き出しとなった(比較例1、比較例3)。この結果は、ヒートサイクル試験での温度の上昇と下降との繰り返しにより、急激にネックインが進んだためと考えられる。また、結晶融解熱量(ΔHm)及び融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が大きすぎる場合には、ヒートシール時にシール部に穴あきが生じヒートサイクル試験ができなかった(比較例2)。この結果は、結晶融解熱量(ΔHm)が大きすぎたために、熱収縮性フィルム内で結晶性に分布が生じ、ヒートシールが不安定になると共に、融着温度差(FT1-FT2)の絶対値が大きすぎたために、熱収縮性フィルムの表面と裏面とを合わせてシールした際に、接着不良が生じてヒートサイクル試験ができなかったためと考えられる。さらに、ポリ塩化ビニルを用いた場合には、ヒートサイクル試験後に電池セルの一部が剥き出しとなった。この結果は、比較例1、比較例3と同様に、ネックイン率が高すぎたためと考えられる。このように、実施例1及び実施例2に係る熱収縮性フィルムは、絶縁性、耐摩耗性、被覆保持性、耐久性などの全ての品質において、比較例1?比較例3、参考例1に対して優れたものであった。さらに、実施例1及び実施例2に係る熱収縮性フィルムは、比較例3及び参考例1に対して、摩耗質量も少なく、摩耗性が優れていた。 【0083】 次に、本発明者らは、上述した第2の実施の形態に係る熱収縮性フィルムを作製し、作製した熱収縮性フィルムの「折目開き角度(A1),(A2)」、「折目開き角度比(A1/A2)」及び「折目引張破断伸び(E1),(E2)」などとヒートサイクル試験との関係を調べた。各種測定条件を以下に示す。また、ヒートサイクル試験は、実施例1などと同様の条件で評価した。 【0084】 (10)収縮応力 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムを主収縮方向に長さ70mm、幅10mmに切り出し、チャック間距離50mmにてロードセルにタルミが無い様に固定した。その後、80±0.5℃のシリコンバスに試料片を浸漬し、1分間での最大応力を測定した。収縮応力は下記式(2)により算出した。 収縮応力(MPa)=ロードセルにかかる荷重(N)/試料片の断面積(mm^(2))・・・式(2) 【0085】 (11)折目開き角度 実施例及び比較例で得られた熱収縮性フィルムを主収縮方向、及び主収縮方向と直交する直交方向からそれぞれ長さ125mm、幅30mmの短冊状サンプルを切り出した。短冊状サンプルの長辺を2つ折りにし、プレス機にて0.1MPaで10秒間の条件で押し潰して折目を付与した。折目開き角度は、折った後の山折り側のどちらかの平面を水平面に置き、折目の先端から水平にセットした面の1mm部で、浮き上がった面までの長さX(mm)を測定し、tan^(-1)δ=Xからδを求め、3回の測定値の平均値を求めた。主収縮方向の折目開き角度をA1、主収縮方向と直交する方向の折目開き角度をA2とした。 【0086】 (12)折目引張破断伸び 折目開き角度の測定方法と同様にして、折目を付与した短冊状サンプルを、更に試験片幅15mmになるように切り出した。折目を付与した短冊状試験片の折目部を中心として、チャック間距離20mmで引張試験機にセットし、23℃、200mm/minの試験速度で引張り、下記式(3)により折目引張破断伸び率を算出し、3回の測定値の平均値を求めた。主収縮方向の折目引張破断伸びをE1、主収縮方向と直交する方向の折目引張破断伸びをE2とした。 折目引張破断伸び率(%)=(破断したときのチャック間距離-20mm)/20mm×100 ・・・式(3) 【0087】 (13)加工性評価 上述した折目開き角度(A1,A2)及び折目開き角度比(A1/A2)について以下の基準により評価した。下記評価が「○」の場合には、折り曲げ加工時のバランスが向上し、箱状包装資材への加工が容易となった。下記評価が「×」の場合には、折り曲げ加工時のバランスが悪く、箱状包装資材の加工性が悪化した。 ○:折目開き角度(A1,A2)がいずれも30°以下及び折目開き角度比(A1/A2)が1.3以下であった。 ×:折目開き角度(A1,A2)の少なくとも一方が30°超え又は折目開き角度比(A1/A2)が1.3越えであった。 【0088】 (14)耐久性(被覆保持性)評価 上述した折目引張破断伸び(E1,E2)について以下の基準により評価した。下記評価が「○」の場合には、熱収縮時の伸びが適度な範囲となり、箱状包装資材への加工が容易となった。下記評価が「×」の場合には、熱収縮時の伸びが不良となり、被覆後の箱状包装資材の耐久性及び被覆保持性が悪化した。 ○:折目引張破断伸び(E1,E2)がいずれも80%以上であった。 ×:折目引張破断伸び(E1,E2)の少なくとも一方が80%未満であった。 【0089】 (実施例3) 実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを作製した。得られた熱収縮性フィルムを裁断して図5に示すように、切り込み部302及び山折り部301を設けた箱状包装資材展開体300とした後、折り曲げ加工して評価した。得られた折り曲げ加工後の熱収縮性フィルムの折目開き角度(A1)は26.1°であり、折目開き角度(A2)は23.4°であり、折目開き角度比(A1/A2)は1.12であり、折目引張破断伸び(E1)は97%であり、折目引張破断伸び(E2)は613%であり、収縮応力は3.35MPaであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、180℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表2に示す。 【0090】 (実施例4) 実施例2と同様にして熱収縮性フィルムを作製した。得られた熱収縮性フィルムを裁断して図5に示すように、切り込み部302及び山折り部301を設けて箱状包装資材展開体300とした後、折り曲げ加工した後に評価した。得られた折り曲げ加工後の熱収縮性フィルムの折目開き角度(A1)は15.6°であり、折目開き角度(A2)は15.3°であり、折目開き角度比(A1/A2)は1.02であり、折目引張破断伸び(E1)は329%であり、折目引張破断伸び(E2)は284%であり、収縮応力は1.01MPaであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、180℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表2に示す。 【0091】 (実施例5) フィルム厚みを100μmとしたこと以外は比較例3と同様に折り曲げ加工して評価した。得られた折り曲げ加工後の熱収縮性フィルムの折目開き角度(A1)は19.1°であり、折目開き角度(A2)は15.3°であり、折目開き角度比(A1/A2)は1.25であり、折目引張破断伸び(E1)は208%であり、折目引張破断伸び(E2)は447%であり、収縮応力は2.99MPaであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、180℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表2に示す。 【0092】 (比較例4) 比較例1と同様に熱収縮性フィルムを作製したこと以外は実施例2と同様に折り曲げ加工して評価した。得られた折り曲げ加工後の熱収縮性フィルムの折目開き角度(A1)は31.8°であり、折目開き角度(A2)は22.8°であり、折目開き角度比(A1/A2)は1.39であり、折目引張破断伸び(E1)は37%であり、折目引張破断伸び(E2)は643%であり、収縮応力は7.87MPaであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、180℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表2に示す。 【0093】 (参考例2) 参考例1と同様に熱収縮性フィルムを作製したこと以外は実施例2と同様に折り曲げ加工して評価した。得られた折り曲げ加工後の熱収縮性フィルムの折目開き角度(A1)は29.2°であり、折目開き角度(A2)は29.2°であり、折目開き角度比(A1/A2)は1.00であり、折目引張破断伸び(E1)は60%であり、折目引張破断伸び(E2)は127%であり、収縮応力は5.78MPaであった。ヒートサイクル試験のサンプル作製シール条件は、190℃にて1秒保持とした。得られた熱収縮性フィルムの評価結果を下記表2に示す。 【0094】 【表2】 ![]() 【0095】 表2から分かるように、折目開き角度(A1,A2)、折目開き角度比(A1/A2)又は折目引張破断伸び(E1,E2)のいずれか1つが所定範囲内となる場合には、加工性評価及び耐久性評価で良好な評価結果が得られた(実施例3?実施例5)。この結果から、実施例3?実施例5に係る熱収縮性フィルムは、箱状包装資材へ加工工程での加工性(折り曲げ性、折り曲げ時のバランス)、被覆後の被覆性及び耐久性(強度)に優れるだけでなく、更には収縮応力が7.0MPa以下の範囲となり、被覆保持性も優れたものであることが分かった。これに対して、折目開き角度(A1,A2)、折目開き角度比(A1 |