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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1361820
審判番号 不服2019-5573  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-25 
確定日 2020-05-12 
事件の表示 特願2014- 86095「インバータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月19日出願公開、特開2015-208071、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成26年4月18日の出願であって,平成29年1月27日付けで審査請求がなされ,同年11月20日付けで拒絶理由通知(同年11月28日発送)がなされ,平成30年1月19日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされ,同年6月4日付けで拒絶理由通知(同年6月12日発送)がなされ,同年8月6日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたが,平成31年1月25日付けで拒絶査定(同年2月5日謄本送達)がなされた。
これに対して,「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として,平成31年4月25日付けで審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,令和元年7月23日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成31年1月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし5に係る発明は,以下の引用文献1,2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-268629号公報
2.特開2007- 82355号公報

第3 審判請求時の補正について

ア 審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

イ 審判請求時の補正によって,補正前の請求項1に「前記演算部は、前記瞬時値と、前記瞬時値を検出した前記所定の電圧ベクトルの出力継続時間と、前記PWM生成器におけるパルスシフト量とに基づいて、前記パルスシフトを実行する時の前記PWM周期における直流母線電流の平均値を演算する」という事項を追加する補正は,補正前の請求項2に記載されている事項を追加するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ また,上記イ記載の補正に伴い,補正前の請求項2を削除する補正は,請求項の削除を目的とするものである。

エ そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1ないし4に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明

本願請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,平成31年4月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
電源の正極側に接続される正極側端子と、
前記電源の負極側に接続される負極側端子と、
モータに接続され、前記モータを駆動する三相のインバータ回路と、
平滑コンデンサと、
前記正極側端子と、前記インバータ回路と、前記平滑コンデンサと、を電気的に接続する正極側接続点と、
前記負極側端子と、前記インバータ回路と、前記平滑コンデンサと、を電気的に接続する負極側接続点と、
三相のPWM波を生成するPWM生成器と、
前記PWM波に基づいて、前記PWM生成器がパルスシフトを実行する第1指令、または、前記PWM生成器がパルスシフトを実行しない第2指令を生成するパルスシフト部と、
前記インバータ回路が駆動することで前記正極側接続点と前記インバータ回路の間または前記負極側接続点と前記インバータ回路との間を流れる直流母線電流を検出する電流検出器と、
PWM周期内における所定の電圧ベクトルの出力継続時間のそれぞれの所定の時点で検出された前記直流母線電流の瞬時値に基づいて、前記PWM周期における直流母線電流の平均値を演算する演算部と、
前記PWM周期における直流母線電流の平均値を、前記PWM周期内において前記正極側端子と前記正極側接続点の間または前記負極側端子と前記負極側接続点の間を流れる電源入力電流として推定する電源入力電流推定部と、を備え、
前記PWM生成器は、前記パルスシフト部が前記第1指令を生成すると前記PWM波をパルスシフトして前記インバータ回路に出力し、前記パルスシフト部が前記第2指令を生成すると前記PWM波を前記インバータ回路に出力し、
前記演算部は、前記瞬時値と、前記瞬時値を検出した前記所定の電圧ベクトルの出力継続時間と、前記PWM生成器におけるパルスシフト量とに基づいて、前記パルスシフトを実行する時の前記PWM周期における直流母線電流の平均値を演算するインバータ装置。
【請求項2】
電源の正極側に接続される正極側端子と、
前記電源の負極側に接続される負極側端子と、
三相のモータに接続され、前記モータを駆動する三相のインバータ回路と、
平滑コンデンサと、
前記正極側端子と、前記インバータ回路と、前記平滑コンデンサと、を電気的に接続する正極側接続点と、
前記負極側端子と、前記インバータ回路と、前記平滑コンデンサと、を電気的に接続する負極側接続点と、
三相のPWM波を生成するPWM生成器と、
前記PWM波に基づいて、前記PWM生成器がパルスシフトを実行する第1指令、または、前記PWM生成器がパルスシフトを実行しない第2指令を生成するパルスシフト部と、
前記インバータ回路が駆動することで前記正極側接続点と前記インバータ回路の間または前記負極側接続点と前記インバータ回路との間を流れる直流母線電流を検出する電流検出器と、
前記直流母線電流の瞬時値と、前記瞬時値の検出時の所定の電圧ベクトルに基づいて、前記モータの三相の電流であるモータ電流を推定し、前記所定の電圧ベクトルでの前記パルスシフトによる電流誤差を、前記モータ電流から除去することで、前記モータ電流を補正し、前記補正されたモータ電流と、前記PWM波の各相のパルス幅とに基づいて、前記パルスシフトを実行する時のPWM周期における直流母線電流の平均値を演算する演算部と、
前記PWM周期における直流母線電流の平均値を、前記PWM周期内において前記正極側端子と前記正極側接続点の間または前記負極側端子と前記負極側接続点の間を流れる電源入力電流として推定する電源入力電流推定部とを備え、
前記PWM生成器は、前記パルスシフト部が前記第1指令を生成すると前記PWM波をパルスシフトして前記インバータ回路に出力し、前記パルスシフト部が前記第2指令を生成すると前記PWM波を前記インバータ回路に出力する、インバータ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインバータ装置において、
前記パルスシフトによる前記モータ電流に含まれる電流誤差は、前記PWM生成器が各相のPWMデューティ比を互いに等しくしてパルスシフトを実行し、前記電流検出器により検出される前記直流母線電流の瞬時値であるインバータ装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインバータ装置において、
前記推定された電源入力電流に基づいて、前記インバータ回路を制御するインバータ装置。」

第5 引用文献,引用発明等

1 引用文献1について

ア 本願の出願日前に頒布され(又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である),原審の拒絶の査定の理由である上記平成30年6月4日付けの拒絶理由通知において引用された上記引用文献1には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1には、本実施形態におけるインバータ装置10の回路構成を示す。図1に示すように、インバータ装置10には、高圧バッテリ1と交流モータ5が接続されている。インバータ装置10は、直流電源である高圧バッテリ1から電力を入力して交流モータ5を駆動制御する。交流モータ5は、三相同期モータであるとともに、本実施形態では自動車のエアコン用モータ(エアコンコンプレッサ用モータ)として使用している。
【0014】
インバータ装置10は、コンデンサ20と、スイッチング回路30と、モータ制御部40を備えている。また、インバータ装置10にはバッテリコントローラ70が接続されている。
【0015】
高圧バッテリ1の正極端子にコンデンサ20の一方の端子が接続されているとともにスイッチング回路30の正側配線が接続されている。また、高圧バッテリ1の負極端子にコンデンサ20の他方の端子が接続されているとともにスイッチング回路30の負側配線が接続されている。そして、高圧バッテリ1からコンデンサ20を介してスイッチング回路30に直流が供給される。
【0016】
スイッチング回路30は、6つのスイッチング素子Q1?Q6と6つのダイオードD1?D6を備えている。スイッチング素子Q1?Q6としてIGBTを用いている。正側配線と負側配線との間において、U相用のスイッチング素子Q1とQ2、V相用のスイッチング素子Q3とQ4、W相用のスイッチング素子Q5とQ6が、それぞれ直列に接続されている。各スイッチング素子Q1?Q6には各ダイオードD1?D6が逆並列接続されている。スイッチング素子Q1とQ2との間、スイッチング素子Q3とQ4との間、スイッチング素子Q5とQ6との間からモータ5の各相のコイル6,7,8が接続されている。各コイル6,7,8はY結線されている。
【0017】
スイッチング回路30の電源入力側において、正側配線と負側配線との間には抵抗61,62が直列接続されている。抵抗61,62間の電圧Vdcにより入力電圧を検知することができる。また、スイッチング回路30の電源入力側において、負側配線にはシャント抵抗63が接続されている。シャント抵抗63によりモータ5に流れる電流を検知することができる。
【0018】
モータ制御部40は、交流モータ5をベクトル制御する機能を有し、uvw/dq変換部41と位置・速度推定部42と減算器43と速度制御部44と減算器45,46と電流制御部47とdq/uvw変換部48と入力電流算出部49とを備えている。」

B 「【0025】
抵抗61,62による入力電圧(Vdc)がdq/uvw変換部48に供給される。そして、dq/uvw変換部48は、入力されるロータ推定位置、励磁成分電圧Vd、トルク成分電圧Vq、および抵抗61,62による入力電圧(Vdc)に基づいて、モータ5の各相のコイル6,7,8に対する駆動電圧Vu,Vv,Vwを算出し、その駆動電圧Vu,Vv,Vwを得るのに必要な駆動波形信号(PWM信号)を生成する。この駆動波形信号により、上記スイッチング回路30の各スイッチング素子Q1?Q6がオン,オフ駆動される。」

C 「【0029】
図3において周期をTとしている。U相のPWM信号について、t1のタイミングで立ち下がり、t2のタイミングで立ち上がり、t7のタイミングで立ち下がっている。従って、t2?t7の期間が、U相のスイッチング素子Q1のオン期間Tonとなり、周期Tに対するオン期間Ton(=オンパルスPu)がデューティ比Pu/Tとなっている。
【0030】
また、図3のV相のPWM信号について、t2後のt3のタイミングで立ち上がり、t7の前のt6のタイミングで立ち下がっている。従って、t3?t6の期間が、V相のスイッチング素子Q3のオン期間Tonとなり、周期Tに対するオン期間Ton(=オンパルスPv)がデューティ比Pv/Tとなっている。
【0031】
さらに、図3のW相のPWM信号について、t3後のt4のタイミングで立ち上がり、t6の前のt5のタイミングで立ち下がっている。従って、t4?t5の期間が、W相のスイッチング素子Q5のオン期間Tonとなり、周期Tに対するオン期間Ton(=オンパルスPw)がデューティ比Pw/Tとなっている。」

D 「【0040】
図1の入力電流算出部49は、高圧バッテリ(直流電源)1からスイッチング回路30に入力される入力電流Iinを、交流モータ5に流れる電流とPWM制御用デューティ比(Pu/T、Pv/T、Pw/T)とから推定する。詳しくは、Iu値、Iv値、Iw値、U相のスイッチング素子Q1のデューティ比Pu/T、V相のスイッチング素子Q3のデューティ比Pv/T、W相のスイッチング素子Q5のデューティ比Pw/Tから、次式により、入力電流Iinを算出(推定)する。
(中略)
【0043】
S2=-Iw×(Pv-Pw)
・・・(式2)
入力電流Iinは、図3の周期Tにおけるシャント抵抗63に流れる電流Isの平均値Is(ave)であり、
Iin=Is(ave)
・・・(式3)
となる。」

E 「

」(当審注:上記図中のA及びBは,説明の都合上,当審で付与したものである。)

イ 上記Eから,インバータ回路10は,「高圧バッテリ1の正極端子と,スイッチング回路30と,コンデンサ20と,を電気的に接続する正極側接続点A」と,「高圧バッテリ1の負極端子と,スイッチング回路30と,コンデンサ20と,を電気的に接続する負極側接続点B」を備えることが読み取れる。

ウ 上記AないしDの記載内容(特に,下線部を参照),及び上記イの認定からすると,上記引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

高圧バッテリ1と交流モータ5が接続されているインバータ装置10であって,
前記インバータ装置10は,コンデンサ20と,スイッチング回路30と,モータ制御部40を備え,
前記インバータ装置10は,
前記高圧バッテリ1の正極端子と,前記スイッチング回路30と,前記コンデンサ20と,を電気的に接続する正極側接続点Aと,
前記高圧バッテリ1の負極端子と,前記スイッチング回路30と,前記コンデンサ20と,を電気的に接続する負極側接続点Bとを備え,
前記モータ制御部40は,dq/uvw変換部48と入力電流算出部49を備え,
前記高圧バッテリ1の正極端子に前記コンデンサ20の一方の端子が接続されているとともに前記スイッチング回路30の正側配線が接続され,また,前記高圧バッテリ1の負極端子に前記コンデンサ20の他方の端子が接続されているとともに前記スイッチング回路30の負側配線が接続され,
前記スイッチング回路30は,U相用のスイッチング素子Q1とQ2,V相用のスイッチング素子Q3とQ4,W相用のスイッチング素子Q5とQ6が,それぞれ直列に接続され,スイッチング素子Q1とQ2との間,スイッチング素子Q3とQ4との間,スイッチング素子Q5とQ6との間からモータ5の各相のコイル6,7,8が接続されており,
また,前記スイッチング回路30の電源入力側において,負側配線にはシャント抵抗63が接続されており,当該シャント抵抗63によりモータ5に流れる電流を検知することができ,
前記dq/uvw変換部48は,前記モータ5の各相のコイル6,7,8に対する駆動電圧Vu,Vv,Vwを算出し、その駆動電圧Vu,Vv,Vwを得るのに必要な駆動波形信号(PWM信号)を生成し,この駆動波形信号により、前記スイッチング回路30の各スイッチング素子Q1?Q6がオン,オフ駆動され,
U相のPWM信号について周期Tに対するオン期間Ton(=オンパルスPu)をデューティ比Pu/Tとし,V相のPWM信号について周期Tに対するオン期間Ton(=オンパルスPv)をデューティ比Pv/Tとし,W相のPWM信号について周期Tに対するオン期間Ton(=オンパルスPw)をデューティ比Pw/Tとし,
前記入力電流算出部49は,前記高圧バッテリ1から前記スイッチング回路30に入力される入力電流Iinを,前記交流モータ5に流れる電流とPWM制御用デューティ比(Pu/T、Pv/T、Pw/T)とから算出(推定)し,
前記入力電流Iinは,周期Tにおけるシャント抵抗63に流れる電流Isの平均値Is(ave)である
ことを特徴とするインバータ装置10。

2 引用文献2について

ア 本願の出願日前に頒布され(又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である),原審の拒絶の査定の理由である上記平成30年6月4日付けの拒絶理由通知において引用された上記引用文献2には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F 「【請求項1】
直流電源の正極端と負極端とにそれぞれ接続される直流母線間に配置した複数の半導体スイッチング素子を用いて前記直流電源が供給する直流電力を三相交流電力に変換するインバータ主回路と、前記インバータ主回路を制御するインバータ制御部とを備えるインバータ制御装置において、
前記インバータ制御部は、
前記直流母線の一方に流れる直流電流を検出する直流電流検出手段と、
前記直流電流検出手段にて検出された直流電流から得られる相電流情報に基づいて各相のタイマ値を演算するタイマ値演算手段と、
前記タイマ値演算手段にて求められた各相のタイマ値に基づいて前記複数の半導体スイッチング素子をオン・オフ制御するためのPWM信号を生成するPMW信号生成手段と、
1キャリア周期毎に前記PWM信号をシフトしてから前記インバータ主回路に供給するか否かを判定するPWM信号シフト判定手段と、
前記PWM信号シフト判定手段が前記PWM信号をシフトしてから出力すると判定した場合に1キャリア周期内で前記直流電流から得られる相電流情報の数が増えるように前記PWM信号をシフトするPWM信号シフト手段と、
最終的に前記インバータ主回路に供給する前記PWM信号に基づいて前記直流電流から前記相電流情報を検出するタイミングを生成する検出タイミング生成手段と
を備えていることを特徴とするインバータ制御装置。」

G 「【0010】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであり、インバータ主回路の母線に流れる直流電流に基づいてPWM信号を生成する場合に、電圧ゼロベクトルの制約を受けずに、また、1つの瞬時電流情報をPWM信号の1キャリア周期の前半周期で検出し、残りの瞬時電流情報を1キャリア周期の後半周期で検出するという制約を受けずに、信頼性のある安定した運転が実現できるインバータ制御装置を得ることを目的とする。」

第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比

ア 本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「高圧バッテリ1」は,本願発明1の「電源」に相当する。そして,引用発明の「正極端子」及び「負極端子」は,それぞれ本願発明1の「正極側端子」及び「負極側端子」に相当する。
また,引用発明の「正極端子」が,「高圧バッテリ1」の正極側に接続されるものであり,引用発明の「負極端子」が,「高圧バッテリ1」の負極側に接続されるものであることは自明の事項である。
してみると,引用発明の「高圧バッテリ1の正極端子」が本願発明1の「電源の正極側に接続される正極側端子」に相当し,引用発明の「高圧バッテリ1の負極端子」が本願発明1の「電源の負極側に接続される負極側端子」に相当するといえる。

(イ)引用発明の「スイッチング回路30」は,本願発明1の「インバータ回路」に対応すると認められるところ,当該「スイッチング回路30」の構成要素であるU相用のスイッチング素子Q1とQ2,V相用のスイッチング素子Q3とQ4,W相用のスイッチング素子Q5とQ6が,それぞれ直列に接続されていることから,引用発明の「スイッチング回路30」は,三相のインバータ回路であるといえる。また,引用発明の「スイッチング素子Q1とQ2との間,スイッチング素子Q3とQ4との間,スイッチング素子Q5とQ6との間からモータ5の各相のコイル6,7,8が接続されて」いるから,引用発明の「スイッチング回路30」は,モータ5に接続してモータを駆動するものであると認められる。
してみると,引用発明と本願発明1は,“モータに接続され,前記モータを駆動する三相のインバータ回路”である点で共通する。

(ウ)引用発明の「コンデンサ20」は,本願発明1の「平滑コンデンサ」に相当する。

(エ)引用発明の「前記高圧バッテリ1の正極端子と,前記スイッチング回路30と,前記コンデンサ20と,を電気的に接続する正極側接続点A」は,本願発明1の「前記正極側端子と、前記インバータ回路と、前記平滑コンデンサと、を電気的に接続する正極側接続点」に相当する。

(オ)引用発明の「前記高圧バッテリ1の負極端子と,前記スイッチング回路30と,前記コンデンサ20と,を電気的に接続する負極側接続点B」は,本願発明1の「前記負極側端子と、前記インバータ回路と、前記平滑コンデンサと、を電気的に接続する負極側接続点」に相当する。

(カ)引用発明の「駆動波形信号(PWM信号)」は,スイッチング回路30のU相用のスイッチング素子Q1とQ2,V相用のスイッチング素子Q3とQ4,W相用のスイッチング素子Q5とQ6をオン,オフ駆動するものであることから,本願発明1の「三相のPWM波」に相当する。
してみると,引用発明の「駆動波形信号(PWM信号)を生成」する「dq/uvw変換部48」は,本願発明1の「三相のPWM波を生成するPWM生成器」に相当する。

(キ)引用発明の「シャント抵抗63に流れる電流」は,電源の負極端子とスイッチング回路との間を流れる電流であることから,本願発明1の「直線母線電流」に相当する。また,引用発明の「シャント抵抗63」は,「シャント抵抗63によりモータ5に流れる電流を検知することができ」るものであることから,何らかの“電流検知部”を備えるものであると認められる。そして,引用発明の「シャント抵抗63」に電流が流れるのは,スイッチング回路が駆動しているときに他ならない。
してみると,引用発明の「前記スイッチング回路30の電源入力側において,負側配線にはシャント抵抗63が接続されており,当該シャント抵抗63によりモータ5に流れる電流を検知することができ」る“電流検知部”と,本願発明1の「前記インバータ回路が駆動することで前記正極側接続点と前記インバータ回路の間または前記負極側接続点と前記インバータ回路との間を流れる直流母線電流を検出する電流検出器」とは,“前記インバータ回路が駆動することで前記負極側接続点と前記インバータ回路との間を流れる直流母線電流を検出する電流検出器”である点で共通する。

(ク)引用発明の「入力電流算出部49は,前記高圧バッテリ1から前記スイッチング回路30に入力される入力電流Iinを,前記交流モータ5に流れる電流とPWM制御用デューティ比(Pu/T、Pv/T、Pw/T)とから算出(推定)」及び「入力電流Iinは、周期Tにおけるシャント抵抗63に流れる電流Isの平均値Is(ave)」からすると,引用発明の「入力電流算出部49」は,周期Tにおけるシャント抵抗63に流れる電流Isの平均値Is(ave)を算出(推定)するものである。
してみると,引用発明の「周期Tにおけるシャント抵抗63に流れる電流Isの平均値Is(ave)」「を算出(推定)する」「入力電流算出部49」と本願発明1の「PWM周期内における所定の電圧ベクトルの出力継続時間のそれぞれの所定の時点で検出された前記直流母線電流の瞬時値に基づいて、前記PWM周期における直流母線電流の平均値を演算する演算部」とは,後記する点で相違するものの,“前記PWM周期における直流母線電流の平均値を演算する演算部”である点で共通する。
また,上記(キ)の検討内容も踏まえると,引用発明の「周期Tにおけるシャント抵抗63に流れる電流Isの平均値Is(ave)」「を算出(推定)する」「入力電流算出部49」と,本願発明1の「前記PWM周期における直流母線電流の平均値を、前記PWM周期内において前記正極側端子と前記正極側接続点の間または前記負極側端子と前記負極側接続点の間を流れる電源入力電流として推定する電源入力電流推定部」とは,後記する点で相違するものの,“前記PWM周期における直流母線電流の平均値を,前記PWM周期内において電源入力電流として推定する電源入力電流推定部”である点で共通する。

(ケ)引用発明の「インバータ装置10」は,「高圧バッテリ1と交流モータ5が接続され」,「コンデンサ20と,スイッチング回路30と,モータ制御部40を備え」るものであるから,本願発明1の「インバータ装置」に相当する。

イ 以上(ア)ないし(ケ)から,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

電源の正極側に接続される正極側端子と,
前記電源の負極側に接続される負極側端子と,
モータに接続され,前記モータを駆動する三相のインバータ回路と,
平滑コンデンサと,
前記正極側端子と,前記インバータ回路と,前記平滑コンデンサと,を電気的に接続する正極側接続点と,
前記負極側端子と,前記インバータ回路と,前記平滑コンデンサと,を電気的に接続する負極側接続点と,
三相のPWM波を生成するPWM生成器と,
前記インバータ回路が駆動することで前記負極側接続点と前記インバータ回路との間を流れる直流母線電流を検出する電流検出器と,
前記PWM周期における直流母線電流の平均値を演算する演算部と,
前記PWM周期における直流母線電流の平均値を,前記PWM周期内において電源入力電流として推定する電源入力電流推定部とを備える
インバータ装置。

(相違点1)

本願発明1の「インバータ装置」が,「前記PWM波に基づいて、前記PWM生成器がパルスシフトを実行する第1指令、または、前記PWM生成器がパルスシフトを実行しない第2指令を生成するパルスシフト部」を備えるものであるのに対し,引用発明のインバータ装置10は,そのようなものを備えていない点。

(相違点2)

本願発明1の「演算部」が,「PWM周期内における所定の電圧ベクトルの出力継続時間のそれぞれの所定の時点で検出された前記直流母線電流の瞬時値に基づいて」前記PWM周期における直流母線電流の平均値を演算するものであるのに対し,引用発明は,「前記交流モータ5に流れる電流とPWM制御用デューティ比(Pu/T、Pv/T、Pw/T)とから」周期Tにおけるシャント抵抗63に流れる電流Isの平均値Is(ave)を算出するものである点。

(相違点3)

本願発明1の「電源入力電流推定部」が,PWM周期における直流母線電流の平均値を,「前記PWM周期内において前記正極側端子と前記正極側接続点の間または前記負極側端子と前記負極側接続点の間を流れる電源入力電流」として推定するものであるのに対し,引用発明は,どのような区間を流れる入力電流であるか明記されていない点。

(相違点4)

本願発明1は,「前記PWM生成器は、前記パルスシフト部が前記第1指令を生成すると前記PWM波をパルスシフトして前記インバータ回路に出力し、前記パルスシフト部が前記第2指令を生成すると前記PWM波を前記インバータ回路に出力」するものであるのに対し,引用発明は,そのようなものではない点。

(相違点5)

本願発明1の演算部は,「前記瞬時値と、前記瞬時値を検出した前記所定の電圧ベクトルの出力継続時間と、前記PWM生成器におけるパルスシフト量とに基づいて、前記パルスシフトを実行する時の前記PWM周期における直流母線電流の平均値を演算する」ものであるのに対し,引用発明は,そのようなものではない点。

(2)相違点についての判断

事例に鑑み,先に相違点1,相違点4及び相違点5について検討する。

上記引用文献2は,上記Gに記載されるように,「インバータ主回路の母線に流れる直流電流に基づいてPWM信号を生成する場合に、電圧ゼロベクトルの制約を受けずに、また、1つの瞬時電流情報をPWM信号の1キャリア周期の前半周期で検出し、残りの瞬時電流情報を1キャリア周期の後半周期で検出するという制約を受けずに、信頼性のある安定した運転が実現できるインバータ制御装置を得ること」を目的として,上記Fに「1キャリア周期毎に前記PWM信号をシフトしてから前記インバータ主回路に供給するか否かを判定するPWM信号シフト判定手段と」「前記PWM信号シフト判定手段が前記PWM信号をシフトしてから出力すると判定した場合に1キャリア周期内で前記直流電流から得られる相電流情報の数が増えるように前記PWM信号をシフトするPWM信号シフト手段と」「を備えていることを特徴とするインバータ制御装置」と記載されるように,インバータ制御装置において,PWM信号をシフトするか否かを判定し,シフトしてから出力すると判定した場合にPWM信号をシフトする技術は,本願の出願日前において周知技術であったといえる。

しかしながら,PWM信号を必要に応じてシフトする技術が周知技術であったとしても,交流モータ5に流れる電流とPWM制御用デューティ比(Pu/T、Pv/T、Pw/T)とから入力電流Iinを高精度に推定できる引用発明において,当該周知技術を適用する動機づけがあったとは言えず,引用発明に上記相違点1,相違点4及び上記相違点5に係る構成を採用することが,当業者にとって容易であったとは言えない。

したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について

本願発明2は,本願発明1と同様に,「前記PWM波に基づいて、前記PWM生成器がパルスシフトを実行する第1指令、または、前記PWM生成器がパルスシフトを実行しない第2指令を生成するパルスシフト部」を備え,「前記PWM生成器は、前記パルスシフト部が前記第1指令を生成すると前記PWM波をパルスシフトして前記インバータ回路に出力し、前記パルスシフト部が前記第2指令を生成すると前記PWM波を前記インバータ回路に出力」するものであるから,上記1(2)と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明3及び本願発明4について

本願発明3及び本願発明4は,いずれも本願発明1または本願発明2を減縮した発明であり,本願発明1と同様に,「前記PWM波に基づいて、前記PWM生成器がパルスシフトを実行する第1指令、または、前記PWM生成器がパルスシフトを実行しない第2指令を生成するパルスシフト部」を備え,「前記PWM生成器は、前記パルスシフト部が前記第1指令を生成すると前記PWM波をパルスシフトして前記インバータ回路に出力し、前記パルスシフト部が前記第2指令を生成すると前記PWM波を前記インバータ回路に出力」するものであるから,上記1(2)と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について

上記第6で検討したとおり,本願発明1ないし本願発明4は,「前記PWM波に基づいて、前記PWM生成器がパルスシフトを実行する第1指令、または、前記PWM生成器がパルスシフトを実行しない第2指令を生成するパルスシフト部」を備え,「前記PWM生成器は、前記パルスシフト部が前記第1指令を生成すると前記PWM波をパルスシフトして前記インバータ回路に出力し、前記パルスシフト部が前記第2指令を生成すると前記PWM波を前記インバータ回路に出力」する構成を有するものであるから,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1及び引用文献2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-04-21 
出願番号 特願2014-86095(P2014-86095)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 田中 秀人
山田 正文
発明の名称 インバータ装置  
代理人 特許業務法人サンネクスト国際特許事務所  
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