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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1361946
審判番号 不服2017-8973  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-20 
確定日 2020-04-22 
事件の表示 特願2014-510900「鼻腔内テストステロン生体付着性ゲル製剤および男性の性腺機能低下症の治療のためのその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日国際公開、WO2012/156820、平成26年 6月 5日国内公表、特表2014-513716〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年5月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2011年5月15日、(US)アメリカ合衆国、2011年5月16日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続は次のとおりである。

平成28年 3月 9日付け:拒絶理由通知
平成29年 2月13日付け:拒絶査定
平成29年 6月20日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年 6月23日 :審判請求書の手続補正書の提出
平成30年 2月21日付け:当審の拒絶理由通知
平成30年 8月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 4月26日付け:当審の拒絶理由通知
令和 1年11月 5日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、令和1年11月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項2に係る発明は、以下のとおりである。

「【請求項2】
(a)8.0重量%のテストステロンを含む経鼻投与テストステロンゲル製剤、および
(b)テストステロン補充療法のために、または性腺機能低下症もしくはテストステロン欠乏症の治療に、前記テストステロンゲル製剤を使用するための、付属の説明書、
を含み、
前記ゲル製剤が溶媒、湿潤剤、および増粘剤を含み、
前記溶媒がヒマシ油であり、
前記湿潤剤がオレオイルポリオキシルグリセリドであり、
前記増粘剤がコロイド状二酸化ケイ素である、
包装医薬品。」(以下「本願発明」という。)

第3 当審の拒絶理由通知の概要
平成31年4月26日付けで通知した当審の拒絶理由は、次のとおりである。
理由1 この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36項第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2 この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3 この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36項第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

上記理由のうち、理由2及び3の概略は、以下のとおりである。
請求項1-9に係る発明については、下記(1)及び(2)のとおりの不備が認められ、本願明細書の記載は,当業者が請求項1-9に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないし,当業者が請求項1-9に係る発明の課題を解決できると認識できるともいえない。

(1)請求項:1-9
8重量%ものテストステロンが、溶媒、湿潤剤及び増粘剤として、それぞれヒマシ油、オレオイルポリオキシルグリセリド及びコロイド状二酸化ケイ素を用いたゲル製剤中に完全に溶解するとは考えられないから、請求項1-9に係る発明は、経鼻投与テストステロンゲル製剤として使用に供することができる程度に、発明の詳細な説明中に開示されているとはいえない。

(2)請求項:7-9
請求項7-9に記載されるテストステロン拡散速度の数値範囲は、8重量%テストステロンゲル製剤の拡散速度として実質的に開示されていない低い値の範囲も包含している。

第4 本願の発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明の記載には、以下の記載がある(下線は、合議体が付した。)。

(摘1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、男性へのテストステロンの持続的鼻腔内送達を提供するための4.0%および4.5%鼻腔内テストステロン生体付着性ゲル、および徐放テストステロンを安全に提供し、性腺機能低下症の男性を治療するための経鼻治療法に関する。特に、本発明は、男性の性腺機能低下症を治療するための改善されたテストステロン補充療法(TRT)および持続性鼻腔内テストステロンゲル製剤に関する。本発明は、また、男性の各鼻孔内の最適解剖学的部位に対し、このようなゲルをより少ない投与量で経鼻的に正確に分注するシステムに関し、それにより、例えば、性腺機能低下症などの男性対象のテストステロン欠乏症を効果的に治療するための、TRT用の有効量のテストステロンが各鼻孔内の最適解剖学的部位内で沈積される。」

(摘2)「【背景技術】
【0002】
アンドロゲンは、生殖器の男性化および男性の二次性徴の発生と持続の原因となるC19ステロイドのグループに属する。また、アンドロゲンは、男性の筋肉量、骨量、性欲、および性的能力に関与する。テストステロンは、精巣のライディッヒ細胞により分泌される主要アンドロゲンであり、その産生は、思春期の間に増加する。例えば、「ティーツ:臨床化学および分子診断学テキスト(Tietz:Textbook of Clinical Chemistry and Molecular Diagnostics)」、第4版、編者:Burtis CA、Ashwood ER、およびBruns DE(2006)、を参照されたい。現在では、アンドロゲン欠乏は、相対的に見れば、老化男性における共通の状態であると認識されている。例えば、Wang C、Swerdloff R.S.:「アンドロゲン補充療法(Androgen replacement therapy)」、Ann Med、29:365-370(1997);Matsumoto A.M.:男性更年期:「男性の老化に伴う血清テストステロンレベル減少の臨床的意味(Andropause:clinical implications of the decline in serum Testosterone levels with aging in men)」、J Gerontol A Med Sci、57:M76-M99(2002);およびHaren Mt et al.:「男性更年期:高齢男性の生活の質の問題(Andropause:a qual
ity-of-life issue in older males)」、Med Clin North Am、90:1005-1023(2006)、を参照されたい。例えば、男性の性腺機能低下症を治療するために、補充療法、および内在性テストステロンの欠乏または非存在に関連する状態の男性に対し、テストステロンホルモン療法が必要である。これは、性機能障害、筋力低下、脂肪の増加、不妊症、髭および体毛の減少、などを引き起こす可能性がある。
【0003】
性腺機能低下症は、テストステロン欠乏症として定義されている。男性の性腺機能低下症は、先天性である場合も、または、中年期以降に、例えば、傷害、外傷、手術、感染症、疾患、薬剤および/または老化が原因で発病する場合もある。一般的に、小児発症型男性性腺機能低下症の影響は最小限にとどまり、通常、思春期が遅くなるまで診断未確定のままである。未治療のまま放置した場合の、小児発症型男性性腺機能低下症に関連する症状または徴候には、筋力低下および、少ない髭、陰毛、胸毛および腋毛成長を含む低体毛成長、高音の声、身体の胴体に比べて腕および足の過剰成長、小陰嚢、異常陰茎および精巣成長、ならびに他の発育障害、例えば、前立腺および精嚢の発達および成熟障害、などが含まれる。成人発症型男性性腺機能低下症では、症状には、精子産生不足、骨粗鬆症、筋力低下、体筋肉組織または脂肪分布の変化、疲労および気力減退、衰弱、貧血、気分変動、例えば、うつ状態および怒り、記憶喪失および集中力の欠如を含む認知能力の低下、睡眠障害、女性化乳房、髭および体毛の減少、インポテンス、勃起不全、射精量減少、不妊症、性的衝動の減少(性欲減退)、および他の二次性徴の退行、が含まれる場合もある。
【0004】
男性性腺機能低下症は、精巣の障害に起因する原発性性腺機能低下症、または、視床下部下垂体軸の障害が原因である中枢性もしくは続発性性腺機能低下症とて表される。原発性性腺機能低下症では、精巣がFSHおよびLHに反応しないことによる、精巣でのテストステロン産生不足がある。結果として、原発性男性性腺機能低下症では、FSHおよびLHの両ホルモンの上昇が観察される。原発性男性性腺機能低下症の最も多い原因は、クラインフェルター症候群である。原発性男性性腺機能症の他の先天性原因には、例えば、両側の先天性無睾丸症、ライディッヒ細胞低形成、(ライディッヒ細胞無形成)、陰嚢に下がっていない睾丸(停留睾丸)、ヌーナン症候群、筋緊張性ジストロフィー(MD)およびテストステロン酵素合成不足、が含まれうる。成人発症型原発性性腺機能低下症の原因には、老化、自己免疫障害、手術、化学療法、照射、感染症、疾患、手術、アルコール依存症、薬物療法および快楽を得るための麻薬の使用、が含まれうる。
【0005】
続発性もしくは中枢性性腺機能低下症では、不十分な量のFSHおよびLHしか視床下部で産生されない。続発性もしくは中枢性性腺機能低下症の生殖器の関与する原因には、例えば、カルマン症候群、プラダー・ウィリー症候群(PWS)、ダンディ・ウォーカー症候群、黄体形成ホルモン(LH)単独欠損症および特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(IHH)、が含まれる。成人発症型続発性もしくは中枢性性腺機能低下症の原因には、老化、疾患、感染、腫瘍、出血、栄養障害、アルコール依存症、肝硬変、肥満症、体重減少、クッシング症候群、下垂体機能低下症、高プロラクチン血症、血色素症、手術、外傷、薬物療法、および快楽を得るための麻薬の使用、が含まれうる。
【0006】
原発性男性性腺機能低下症では、テストステロンの観察レベルは、正常値より低いが、通常、FSHおよびLHは、正常値を超える。続発性もしくは中枢性男性性腺機能低下症では、テストステロン、FSHおよびLHの観察レベルは、正常値より低い。従って、原発性または続発性男性性腺機能低下症の診断は、典型的な例では、ホルモンレベルにより確認され、検査の際には、原発性および続発性性腺機能低下症の両方のテストステロンの血中濃度が低いことにより特徴付けられ、補充されるべきである。治療は、原因により変わるのが通例であるが、典型的な例には、テストステロン補充療法が含まれる。米国では、テストステロンは、筋肉内注射、経皮パッチまたは経皮ゲルとして投与可能である。他の国では、テストステロンの経口剤を利用できる。
【0007】
米国、ならびに世界中で数百万人の男性が性腺機能低下症に罹患しているという事実を考えれば、この障害を治療し、これらの個人の生活の質を改善できる効果的で簡便な医学療法に対する現実的、かつ、緊急なニーズがある。この緊急なニーズを解決するためのこのような療法の1つの目標は、テストステロン欠乏症によると考えられる性腺機能低下症に関連付けられることが多い症状を軽減することを願って、男性のテストステロンレベルを若年成人期レベルに戻すことであろう。」

(摘3)「【0008】
本発明は、テストステロン補充療法(TRT)のための、および性腺機能低下症を治療するための、新規経鼻テストステロンゲルおよび使用方法の発見を通して、現在のTRT、および、特に、男性の対象の性腺機能低下症を治療するための現在のテストステロン療法に関連する制限と欠点を克服する。特に、本発明は、テストステロンの治療有効量を送達し、テストステロン欠乏症を罹患している男性、および/または、性腺機能低下症を含むテストステロン欠乏症と診断された男性を治療するために、特に鼻腔内投与用に設計された新規で、改善された有効性成分含量のテストステロンゲル製剤の発見を通して、現在利用可能なテストステロンオプションの制限と欠点を克服する。
【0009】
用語の「治療有効量」は、男性のテストステロン欠乏症、すなわち、男性の性腺機能低下症を治療するためにテストステロン補充または補給療法に使用し、治療または予防効果を誘導するのに十分なテストステロンの量を意味する。
【0010】
従って、一般的に言えば、本発明は、新規で改善された実質的に刺激がより少ない約4重量%?8.0重量%の間、好ましくは、約4.0重量%?約4.5重量%の間、より好ましくは、約4.0重量%、約4.5重量%および8.0重量%の量のテストステロンを配合した、治療有効量のストステロンを経鼻投与で送達し、性腺機能低下症等のテストステロン欠乏症と診断された男性を効果的に治療するための新規有効性成分含量のテストステロンゲル製剤を提供する。」

(摘4)「【0014】
一般的に言えば、本発明の鼻腔内テストステロンゲル製剤は、約4重量%および4.5重量%のテストステロンを配合され、このようなゲル製剤が性機能低下症の対象に経鼻投与される場合、テストステロンがよく吸収される。より具体的には、テストステロンは、経鼻投与後急速に吸収され、鼻腔内投与後36分?1時間6分(平均Tmax)以内にピーク濃度に達し、経鼻投与後、約1?2時間で最大血清濃度に達する。性機能低下症の男性の内の約57%?71%において、最初の投与(0?10時間)の間に、24時間中の最大テストステロン濃度が観察され、一方、約29%?43%の対象で、次の投与の間に最大24時間テストステロン濃度になる。
【0015】
4重量%および4.5重量%のテストステロンを含む製剤は、驚くべき特性を示す。重要なのは、テストステロンの純粋なヒマシ油中の溶解度は、最大3.6%で、4%のLabrafilを加えると約3.36%に低下することである。ヒュームドシリカ(アエロジル、CabOsil)の添加により、4.0%のLabrafilを加えたとしても、テストステロンのヒマシ油中の溶解度を4.5%まで高めることができる。これは、当業者にとって、直感に反したことである。しかし、いずれか特定の理論に拘泥することを望むものではないが、シリカの存在下での溶解度のこの増加は、少なくとも一部は、SiO2が約10%のテストステロンを吸着するという事実によると考えられている。」

(摘5)「【0063】
本明細書で使用される「経鼻投与テストステロンゲル製剤」は、溶媒、湿潤剤、および増粘剤と組み合わせたテストステロンを含む製剤を意味する。」

(摘6)「【0078】
本発明のテストステロンゲル製剤用のテストステロンは、白または少し乳白色の結晶または結晶質粉末の外観である。それは、メタノールおよびエタノールに制限なく溶解し、アセトンおよびイソプロパノールに可溶であり、n-ヘプタンには不溶である。また、それは、水に不溶であると見なせ(S20℃=2.41x10-2g/L±0.04x10-2g/L)、そのn-オクタノール/水分配係数(HPLCにより測定されたlog POW)は2.84である。テストステロンの油中溶解度は、イソプロピルミリスタート中で0.8%、ピーナッツ油中で0.5%、大豆油中で0.6%、トウモロコシ油中で0.5%、綿実油中で0.7%であり、ヒマシ油中で4%に達すると測定された。
【0079】
テストステロンは、本発明の製剤中で完全に溶解されるので、原薬の物理的特性は、本発明の製剤のテストステロンゲル製剤の動作には影響しない。しかし、本発明のテストステロンゲル製剤の製造性は、テストステロンの粒径により影響を受ける。25ミクロン以下が50%、50ミクロン以下が90%の粒径を使う場合に、マトリックス中の原薬の溶解度は、特に好ましい。」

(摘7)「【0301】
実施例9
4%および8%バルクゲルについてのTBS1A報告
目的:
IMP臨床バッチの製造を追求するため。主要点は、安定性に関してのプロセスフローおよびバルク外観に関する。
・プロセスフローの改善
・バルクゲルの粘度
・安定性(再結晶化)
・代替材料の供給源とグレード
・インビボでの結果、放出の開始に影響を与えるために製剤の変更
・フランツセルを用いる臨床試験の試験、臨床試験の選択
【0302】
【表49】

【0303】(略)
【0304】
IMPバッチ製造に関する背景情報
IMP臨床バッチ製造中の観察には、PVPK17/S640、KlucelHFおよび微粒子化テストステロンからなるDMI/トランスクトール共溶媒混合のプレミックス物を調製する間の高粘度が含まれる。高せん断ミキサーのセットアップを使用して、ヒマシ油に添加すると粘着性のある塊の混合物がもたらされる。同じ高せん断ミキサーのセットアップで、Cab-O-Sil(以後SiO2と称する)を添加すると、材料を取り入れるボルテックスを得ることができず、かつ添加段階中、さらに手作業での混合が必要であった。したがってプロペラ型混合ユニットを推奨する。その添加段階中、粘着性のある材料であって、さらなる混合時に最終バルクゲルの粘度は、約1,500?2,000cpsまで落ちる。混合時間および速度は、目標ゲル温度を飛び越えないように制御する必要がある(非冷却システム)。
【0305】
臨床試験の概略:
初期の臨床試験(プラセボ)は、粘度への影響を特定するために、添加の順番を変えることに集中した。以前のプロセスには、最終段階でSiO2の添加が含まれ(上記コメントを参照されたい)、代替の活性混合物を添加する前に、ヒマシ油中にSiO2を分散させるように変えた。種々のパーセンテージを用いたヒマシ油/SiO2の混合物が与える粘度は、Arlasolve(DMI)をごく少量加えると増加した。
【0306】
次のステップは、活性混合物(共溶媒/PVP/HPC/活性混合物)を用いて、これらの結果を再現することであり、その混合物をヒマシ油とSiO2のプレミックスに加えた。だが、これは、低粘度の溶液をもたらし、粘性ゲルの形成に対する活性混合物の影響を示唆した。
【0307】
さらなる材料を加えることなく、共溶媒の混合は、粘度の増加をもたらしたので、溶媒の量を、溶媒混合のみをヒマシ油混合物に添加する部と、PVP、HPCおよび活性混合物を分散させるのに使用する残りの溶媒混合との2つの部に分けた。共溶媒を減らした活性混合物は、ヒマシ油プレミックスに添加すると、粘着性が増加し、加えて同程度の低粘度になった。さらなる臨床試験では、DMIのみ(PVPは含まず)での活性混合物の調製が含まれ、良好な粘度が得られた。HPCを、TranscutolP中で別々に調製し、混合物(IMP観察結果と類似した)に添加すると、糸引きの問題が生じた。0.1?0.3%のレベルでSiO2を添加すると、この問題は解消した。
【0308】
共溶媒中の活性を溶解する上記のプロセスは、十分であり、4%製剤の溶解度を増加させるためにPVPを必要としないが、8%の有効成分含量の製剤の溶解度を達成するための製剤中の共溶媒には十分でない。8%製剤での試験では、その混合物にSiO2を入れることによって、PVPを含有する活性分散液を調製するための別のアプローチに首尾よく含めた。DMI並びにTranscutolPに添加したSiO2の影響を評価する評価試験で示したように、もたらされる良好な粘度は、DMIと形成されるが、Transcutolとでは形成されない。したがって、活性分散は、PVPをDMIのみに溶解させ、続いて55℃(50?60℃)で活性混合物と利用できるSiO2の一部を添加することによって調製される。
【0309】
このプロセスは、8%製剤での試験作業中に開発されただけであり、したがってPVPがさらなる機能性を示す場合、4%の有効成分含量の製剤に比例的に減らすことができることに留意されたい(フランツセル試験)。
【0312】
プロセスの変更(共溶媒を加えての粘度増加の反応など)の影響を特定するために、DMIまたはTrsnscutolPに関連するかの影響を試験するために、臨床試験を行った。臨床試験は、DMIのみに、並びにTranscutolPのみにSiO2(ヒマシ油混合物で用いたのと同じ比で)を分散させることから開始した。DMIとの混合物は、粘着性のある混合物をもたらしたが、TranscutolPの混合物は極めて流動的であった。
【0313】
TranscutolPの減少が予想される高分子混合物ならびに活性混合物の溶解度を試験するために、同様の臨床試験を、共溶媒を個々に用いて開始した。4%の有効成分含量で該混合物または個々の溶媒を用いての溶解度に目立った差異はなかった。だが、PVPおよびHPCをDMIのみで調製すると、一晩保存した場合、これら2つの材料の分離が観察された(共溶媒混合物中で混合した場合、明らかでない)。」

(摘8)「【0364】
TBS1A8%製剤/組成
【表52】



第5 判断
本願発明については、平成31年4月26日付けで通知した拒絶理由のうち、上記「第3 当審の拒絶理由通知の概要」で示した、理由2(実施可能要件違反)及び理由3(サポート要件違反)の(1)の拒絶理由は、依然として解消していないと判断する。

(1)サポート要件違反について
いわゆるサポート要件については、特許請求の範囲が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。
以下、請求項2の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるかどうか検討する。

上記(摘1)、(摘2)、(摘3)によれば、本願発明の課題は、男性の性腺機能低下症の典型的な治療法であるテストステロン補充療法に用いる、鼻腔内投与用に設計された新規で、改善された有効性成分含量の経鼻投与テストステロンゲル製剤を提供することにあると認める。
そして、本願発明における「経鼻投与テストステロンゲル製剤」については、溶媒、湿潤剤、および増粘剤と組み合わせたテストステロンを含む製剤を意味するところ(摘5参照)、テストステロンが製剤中で完全に溶解していることを前提としていることは、(摘6)(特【0079】)の記載からも明らかである。
しかしながら、溶媒がヒマシ油であり、湿潤剤がオレオイルポリオキシルグリセリドであり、増粘剤がコロイド状二酸化ケイ素である本願発明においては、製剤中に溶解するテストステロンの最大濃度は、4.5重量%にとどまる((摘4)の段落【0015】、(摘6)の段落【0078】を参照)。
実際、8重量%のテストステロンを含むゲルに関して記載される実施例9においては、溶媒、湿潤剤及び増粘剤としてのヒマシ油、オレオイルポリオキシルグリセリド及びコロイド状二酸化ケイ素以外に、PVPや共溶媒(DMIやTranscutolP)も用いられているところである((摘7)、(摘8)参照)。
そうしてみると、本願発明における「経鼻投与テストステロンゲル製剤」については、8重量%ものテストステロンが、溶媒、湿潤剤及び増粘剤として、それぞれヒマシ油、オレオイルポリオキシルグリセリド及びコロイド状二酸化ケイ素を用いるが、前記PVPや共溶媒(DMIやTranscutolP)を用いないゲル製剤中に完全に溶解するとは考えられないから、本願発明は、経鼻投与テストステロンゲル製剤として使用に供することができる程度に、すなわち、出願時の技術常識に照らし、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるように発明の詳細な説明中に開示されているとはいえない。
よって、請求項2の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。

(2)実施可能要件違反について
いわゆる実施可能要件を定めた特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明にかかる物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。

しかしながら、上記(1)で検討したとおり、本願発明における「経鼻投与テストステロンゲル製剤」については、8重量%ものテストステロンが、溶媒、湿潤剤及び増粘剤として、それぞれヒマシ油、オレオイルポリオキシルグリセリド及びコロイド状二酸化ケイ素を用いるが、前記PVPや共溶媒(DMIやTranscutolP)を用いないゲル製剤中に完全に溶解するとは考えられないから、本願発明は、経鼻投与テストステロンゲル製剤として使用に供することができる程度に、すなわち、当業者が本願発明を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明中に開示されているとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のことから、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-21 
結審通知日 2019-11-26 
審決日 2019-12-11 
出願番号 特願2014-510900(P2014-510900)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 貴子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 前田 佳与子
滝口 尚良
発明の名称 鼻腔内テストステロン生体付着性ゲル製剤および男性の性腺機能低下症の治療のためのその使用  
代理人 高岡 亮一  

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