ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D |
---|---|
管理番号 | 1362089 |
審判番号 | 不服2019-5229 |
総通号数 | 246 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-19 |
確定日 | 2020-05-01 |
事件の表示 | 特願2015-530859「硬化膜形成組成物、配向材および位相差材」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月12日国際公開、WO2015/019962〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年8月1日(優先権主張 2013年8月9日 日本)を国際出願日とする出願であって、平成30年7月4日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年9月5日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月4日付けで拒絶理由(最後)が通知され、その指定期間内の同年12月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年1月21日に平成30年12月20日付けの手続補正が却下されるとともに、拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月19日に拒絶査定不服の審判が請求される同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成31年4月19日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成31年4月19日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 特許法第17条の2第1項第4号に該当する手続補正である、平成31年4月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、そのうち請求項1についての補正は以下のとおりである。 (1-1)本件補正前の請求項1(すなわち、平成30年9月5日付け手続補正書の請求項1) 「 【請求項1】 (A)垂直配向性基と熱架橋可能な官能基とを有するポリマー、並びに (B)架橋剤 を含有する硬化膜形成組成物を硬化させて得られる配向材であって、 前記垂直配向性基はアクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸のアルキルエステル、アルキルビニルエーテル、2-アルキルスチレン、3-アルキルスチレン、4-アルキルスチレン又はN-アルキルマレイミドであって、当該アルキル基が炭素原子数6?20であるモノマーに由来する基であることを特徴とする配向材。」 (1-2)本件補正後の請求項1(すなわち、平成31年4月19日付け手続補正書の請求項1) 「 【請求項1】 (A)垂直配向性基と熱架橋可能な官能基とを有するポリマー、並びに (B)メチロール基またはアルコキシメチル基を有する架橋剤 を含有する硬化膜形成組成物を加熱により硬化させて得られる配向材であって、 前記ポリマーを得るために用いる各モノマーの使用量は、全モノマーの合計量に基づいて、3乃至90モル%の垂直配向性基を有するモノマー、3乃至90モル%の熱架橋可能な官能基を有するモノマー、0乃至94モル%の特定の官能基を有さないその他のモノマー(但しこれらモノマーの合計は100モル%である)であり、 前記垂直配向性基はアクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸のアルキルエステル、アルキルビニルエーテル、2-アルキルスチレン、3-アルキルスチレン、4-アルキルスチレン又はN-アルキルマレイミドであって、当該アルキル基が炭素原子数6?20であるモノマーに由来する基であることを特徴とする配向材。」(以下、「本件補正発明」ともいう。) 本件補正の前後の両請求項を対比すると、本件補正は、補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である「架橋剤」、「硬化膜形成組成物を硬化させて得られる配向材」、「ポリマー」なる事項について、それぞれ、「(メチロール基またはアルコキシメチル基を有する架橋剤」、「硬化膜形成組成物を加熱により硬化させて得られる配向材」、「ポリマーを得るために用いる各モノマーの使用量は、全モノマーの合計量に基づいて、3乃至90モル%の垂直配向性基を有するモノマー、3乃至90モル%の熱架橋可能な官能基を有するモノマー、0乃至94モル%の特定の官能基を有さないその他のモノマー(但しこれらモノマーの合計は100モル%である)であり」に限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号にいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 そこで、上記本件補正発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(すなわち、いわゆる独立特許要件を満たすか)について以下検討する。 2.独立特許要件の検討 (2-1)引用刊行物及びその記載事項 刊行物A:特開2002-98828号公報(原査定の引用文献3) 刊行物B:国際公開第2012/018121号(原査定の引用文献5) 刊行物A (1a)「【請求項3】 支持体上に、下記式(I)で表される繰り返し単位と、下記式(II)または(III)で表される繰り返し単位とを含むアクリル酸コポリマーまたはメタクリル酸コポリマーの溶液を塗布して塗布膜を形成する工程;塗布膜を乾燥する工程;塗布膜の表面をラビング処理する工程;そして、ラビング処理後の塗布膜を50乃至300℃の範囲の温度に加熱する工程からなることを特徴とする液晶配向膜の製造方法: 【化2】 ![]() [式中、R^(1) は、水素原子またはメチルであり;R^(2) は、水素原子、ハロゲン原子または炭素原子数が1乃至6のアルキル基であり;Mは、プロトン、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンであり;L^(0) は、-O-、-CO-、-NH-、-SO_(2) -、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり;R^(0) は、炭素原子数が10乃至100の炭化水素基または炭素原子数が1乃至100のフッ素原子置換炭化水素基であり;Cyは、脂肪族環基、芳香族基または複素環基であり;mは、10乃至99モル%であり;そして、nは、1乃至90モル%である]。」 (1b)「【0006】本発明の目的は、液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)を実質的に垂直に配向させる機能を有する配向膜を提供することである。また、本発明の目的は、特にSTN型液晶表示装置に適した光学補償シートを提供することである。さらに、本発明の目的は、高コントラストの鮮明な画像が得られるSTN型液晶表示装置を提供することでもある。さらにまた、本発明の目的は、ディスコティック液晶性分子を垂直かつ均一な方向に安定に配向させる方法を提供することでもある。 ・・・ 【0014】 【発明の効果】本発明者は研究の結果、炭素原子数が10乃至100の炭化水素基を含む側鎖、フッ素置換炭化水素基を含む側鎖、または主鎖に直結している環状構造を有する(メタ)アクリル酸コポリマーを配向膜に用いて、液晶性分子を実質的に垂直かつ均一な方向に安定に配向させることに成功した。この配向膜は、ディスコティック液晶性分子を配向させるために用いると特に効果がある。ディスコティック液晶性分子を実質的に垂直かつ均一な方向に安定に配向させる手段が得られたことで、STN型液晶表示装置に適した光学補償シートを製造することが可能になった。ディスコティック液晶性分子を実質的に垂直に配向させた(好ましくは、さらにねじれ配向させた)光学補償シートを用いることで、STN型液晶表示装置の表示画像の着色が解消され、高コントラストの鮮明な画像を得ることができる。」 (1c)「【0025】[配向膜]配向膜は、下記式(I)で表される繰り返し単位と、下記式(II)または下記(III)で表される繰り返し単位とを含むアクリル酸コポリマー(式(I)におけるR^(1) が水素原子)またはメタクリル酸コポリマー(式(I)におけるR^(1) がメチル)からなる。本発明者の研究によれば、液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)を実質的に垂直に配向させるためには、配向膜に含まれるポリマーの側鎖の機能が重要である。具体的には、ポリマーの官能基により配向膜の表面エネルギーを低下させ、これにより液晶性分子を立てた状態にする。配向膜の表面エネルギーを低下させる官能基としては、炭素原子数が10乃至100の炭化水素基またはフッ素原子置換炭化水素基(式(II)におけるR^(0) )、あるいは主鎖に直結している環状基(式(III)におけるCy)が有効である。これらの官能基を配向膜の表面に存在させるために、ポリマーの側鎖末端に炭化水素基またはフッ素原子置換炭化水素基を導入するか、環状基を主鎖に直結させる。」 (1d)「【0204】二種類以上の(メタ)アクリル酸コポリマーを併用してもよい。(メタ)アクリル酸コポリマーを架橋させて使用することもできる。架橋反応は、配向膜の塗布液の塗布と同時または塗布後に実施することが好ましい。例えば、架橋剤を用いて、(メタ)アクリル酸コポリマーのカルボキシル基と架橋剤との架橋反応により、(メタ)アクリル酸コポリマーを架橋させることができる。架橋剤については、山下晋三、金子東助編「架橋剤ハンドブック」(大成社)に詳細が記載されている。架橋剤の例には、メチロールフェノール樹脂、アミノ樹脂(例えば、メラミン、ベンゾクアナミンあるいは尿素に、ホルムアルデヒドあるいはアルコールを付加重合させてなる樹脂)、アミン化合物、トリアジン化合物、イソシアナート化合物、エポキシ化合物、金属酸化物、金属ハロゲン化合物、有機金属ハロゲン化合物、有機酸金属塩、金属アルコキシド、およびオキサゾリン基を含む化合物が含まれる。架橋剤の使用量は、配向膜の塗布量の0.1乃至20重量%であることが好ましく、0.5乃至15重量%であることがさらに好ましい。なお、未反応のまま配向膜中に残存する架橋剤の量は、配向膜の塗布量の1.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好ましい。」 (1e)「【0245】 【実施例】[実施例1]厚さ100μm、サイズ270mm×100mmのトリアセチルセルロースフイルム(フジタック、富士写真フイルム(株)製)を透明支持体として用いた。下記のアクリル酸コポリマー(PA1)およびトリエチルアミンを、トリエチルアミンがアクリル酸コポリマーに対して20重量%となるように、メタノールと水との混合溶媒(容量比=30/70)に溶解し、5重量%溶液を調製した。この溶液ををバーコーターを用いて透明支持体の上に1μmの厚さに塗布した。塗布層を、100℃の温風で5分間乾燥し、その表面をラビング処理して、配向膜を形成した。 【0246】 【化122】 ![]() 」 刊行物B (2a)[請求項1] (A)疎水性基からなる光二量化部位と親水性基からなる熱架橋部位とを有するアクリル共重合体と、 (B)芳香環部位を有するポリイミド前駆体と、 (C)該(A)成分と該(B)成分とを架橋する架橋剤とを含有する樹脂組成物。 ・・・ [請求項12]前記(C)成分の架橋剤は、メチロール基またはアルコキシメチロール基を有する架橋剤であることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。 ・・・ [請求項16] 請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする液晶配向材。」 (2b)「[0098]<(C)成分> 本実施の形態の(C)成分は架橋剤である。この架橋剤は、(A)成分と(B)成分を架橋するものとすることができる。 [0099] (C)成分である架橋剤としては、例えば、エポキシ化合物、メチロール化合物またはイソシアナート化合物などが挙げられるが、好ましくは、メチロール基またはアルコキシメチロール基を2個以上有するメチロール化合物である。 [0100] 具体的には、メトキシメチル化グリコールウリル、メトキシメチル化ベンゾグアナミンおよびメトキシメチル化メラミンなどの化合物が挙げられる。また、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、テトラメトキシメチルベンゾグアナミン、1,3,4,6-テトラキス(ブトキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(ヒドロキシメチル)グリコールウリル、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)尿素、1,1,3,3-テトラキス(ブトキシメチル)尿素、1,1,3,3-テトラキス(メトキシメチル)尿素、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)-4,5-ジヒドロキシ-2-イミダゾリノンおよび1,3-ビス(メトキシメチル)-4,5-ジメトキシ-2-イミダゾリノンなどが挙げられる。さらに、市販品としては、日本サイテックインダストリーズ(株)製メトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350)、ブトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名マイコート506、マイコート508)、グリコールウリル化合物(商品名サイメル1170、パウダーリンク1174)などの化合物、メチル化尿素樹脂(商品名UFR65)、ブチル化尿素樹脂(商品名UFR300、U-VAN10S60、U-VAN10R、U-VAN11HV)およびDIC(株)製尿素/ホルムアルデヒド系樹脂(高縮合型、商品名ベッカミンJ-300S、ベッカミンP-955、ベッカミンN)なども挙げることができる。さらに、このようなアミノ基の水素原子がメチロール基またはアルコキシメチル基で置換されたメラミン化合物、尿素化合物、グリコールウリル化合物およびベンゾグアナミン化合物を縮合させて得られる化合物であってもよい。例えば、米国特許6,323,310号に記載されている、メラミン化合物(商品名サイメル303)とベンゾグアナミン化合物(商品名サイメル1123)から製造される高分子量の化合物を挙げることもできる。」 (2c)「[0140][実施例で用いる略記号] 以下の実施例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。 <アクリル重合体> HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート CIN:4-(6-メタクリルオキシヘキシル-1-オキシ)ケイ皮酸メチルエステル AIBN:α、α’-アゾビスイソブチロニトリル <ポリイミド前駆体> BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 ODPA:4,4’-オキシジフタル酸無水物 CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物 TFMB:2,2’-トリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル <架橋剤> CYM:サイメル303(三井サイテック製) <酸または熱酸発生剤> PTSA:p-トルエンスルホン酸1水和物 <溶剤> CHN:シクロヘキサノン NMP:N-メチルピロリドン」 (2-2)刊行物Aに記載された発明 上記刊行物Aの請求項3には、「下記式(I)で表される繰り返し単位と、下記式(II)または(III)で表される繰り返し単位とを含むアクリル酸コポリマーまたはメタクリル酸コポリマーの溶液を塗布して形成し、乾燥させた塗布膜を50乃至300℃の温度で加熱して得られる液晶配硬膜: 【化2】 ![]() [式中、R^(1) は、水素原子またはメチルであり;R^(2) は、水素原子、ハロゲン原子または炭素原子数が1乃至6のアルキル基であり;Mは、プロトン、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンであり;L^(0) は、-O-、-CO-、-NH-、-SO_(2) -、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり;R^(0) は、炭素原子数が10乃至100の炭化水素基または炭素原子数が1乃至100のフッ素原子置換炭化水素基であり;Cyは、脂肪族環基、芳香族基または複素環基であり;mは、10乃至99モル%であり;そして、nは、1乃至90モル%である]。」の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されている(摘記1a参照)。 (2-3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「L^(0)-R^(0)」は、刊行物Aの「液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)を実質的に垂直に配向させるためには、配向膜に含まれるポリマーの側鎖の機能が重要である。具体的には、ポリマーの官能基により配向膜の表面エネルギーを低下させ、これにより液晶性分子を立てた状態にする。配向膜の表面エネルギーを低下させる官能基としては、炭素原子数が10乃至100の炭化水素基またはフッ素原子置換炭化水素基(式(II)におけるR^(0) )」(摘記1c参照)という記載からみて、本件補正発明の「垂直配向性基」に相当する。 引用発明の「COO・M」は、具体的には刊行物Aの実施例1におけるCOOHであり(摘記1e参照)、刊行物Aの「(メタ)アクリル酸コポリマーを架橋させて使用することもできる。」という記載(摘記1d参照)、及び、(メタ)アクリル酸コポリマーを50乃至300℃の温度で加熱していることからみて、これは熱架橋性基であることは明らかであるので、本件補正発明の「熱架橋性基」に相当する。 引用発明の「溶液を塗布して形成し、乾燥させた塗布膜を50乃至300℃の温度で加熱して得られる液晶配硬膜」は、本件補正発明の「硬化膜形成組成物を加熱により硬化させて得られる配向材」に相当する。 そうすると、本件補正発明と上記引用発明は、 「(A)垂直配向性基と熱架橋可能な官能基とを有するポリマー を含有する硬化膜形成組成物を加熱により硬化させて得られる配向材」である点で一致し、下記の点で相違する。 <相違点1> 本件補正発明は、(B)メチロール基またはアルコキシメチル基を有する架橋剤を含有することが特定されているのに対し、引用発明はそのような特定がない点。 <相違点2> 本件補正発明は「前記ポリマーを得るために用いる各モノマーの使用量は、全モノマーの合計量に基づいて、3乃至90モル%の垂直配向性基を有するモノマー、3乃至90モル%の熱架橋可能な官能基を有するモノマー、0乃至94モル%の特定の官能基を有さないその他のモノマー(但しこれらモノマーの合計は100モル%である)であり」と特定されているのに対し、引用発明はそのような特定がない点。 <相違点3> 本件補正発明は「前記垂直配向性基はアクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸のアルキルエステル、アルキルビニルエーテル、2-アルキルスチレン、3-アルキルスチレン、4-アルキルスチレン又はN-アルキルマレイミドであって、当該アルキル基が炭素原子数6?20であるモノマーに由来する基である」と特定されているのに対し、引用発明はそのような特定がない点。 (2-4)相違点の検討 <相違点1>について 刊行物Aには(メタ)アクリル酸コポリマーを架橋させて使用することもできることが記載され(摘記1d参照)、架橋剤の例にはメチロールフェノール樹脂が記載されている(摘記1d参照)。 また、刊行物Bには液晶配向材に使用する樹脂組成物に含まれる架橋剤としてメチロール基またはアルコキシメチロール基を2個以上有するメチロール化合物が記載されている(摘記2a、2b、2c参照)。 そうすると、引用発明の配向材において、架橋剤を含むものとすること、そして、架橋剤としてメチロール基またはアルコキシメチロール基を2個以上有するメチロール化合物を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 <相違点2>について 引用発明において mは、10乃至99モル%であり;そして、nは、1乃至90モル%であることが、特定されており、これは、本件補正発明の「ポリマーを得るために用いる各モノマーの使用量は、全モノマーの合計量に基づいて、3乃至90モル%の垂直配向性基を有するモノマー、3乃至90モル%の熱架橋可能な官能基を有するモノマー、0乃至94モル%の特定の官能基を有さないその他のモノマー(但しこれらモノマーの合計は100モル%である)であり」と重複する。そして、引用発明を具体化した刊行物Aの実施例1(摘記1a参照)には、【化122】のとおり、これに該当するものが記載されているから、この点は実質的な相違点とはならない。 また、仮に相違するとしても、当業者であれば、「前記ポリマーを得るために用いる各モノマーの使用量は、全モノマーの合計量に基づいて、3乃至90モル%の垂直配向性基を有するモノマー、3乃至90モル%の熱架橋可能な官能基を有するモノマー、0乃至94モル%の特定の官能基を有さないその他のモノマー(但しこれらモノマーの合計は100モル%である)であり」とすることは容易に想到し得ることである。 <相違点3>について 引用発明において「L^(0)-R^(0)」は、その定義からみて、炭素原子数が10乃至100の炭化水素基を有するカルボン酸エステルを含むものであり、刊行物Aの実施例1には、引用発明の「L^(0)-R^(0)」の具体例としてCO-O-n・C_(17)H_(35)が記載されており(摘記1e参照)、これはアクリル酸のアルキルエステルであるから、この点は実質的な相違点とはならない。 また、仮に相違するとしても、当業者であれば、前記垂直配向性基としてアクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸のアルキルエステル等を選択することは容易に想到し得ることである。 (2-5)本件補正発明の効果 本願明細書の実施例からみて、垂直配向性基を有するモノマーがLAA又はEHAであり、熱架橋可能な官能基を有するモノマーがHEMA、HEA又はMAAであり、特定の官能基を有さないその他のモノマーがBMAAであり、メチロール基またはアルコキシメチル基を有する架橋剤がCYM303である配向材を用いた場合には、ガラス又はPET上で、良好な垂直配向性という効果を奏すると認められる。 しかしながら、本件補正発明は、垂直配向性基としてアクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸のアルキルエステル、アルキルビニルエーテル、2-アルキルスチレン、3-アルキルスチレン、4-アルキルスチレン又はN-アルキルマレイミドであって、当該アルキル基が炭素原子数6?20であるモノマーに由来する基を包含し、熱架橋可能な官能基としてあらゆるものを包含し、特定の官能基を有さないその他のモノマーとしてあらゆるものを包含し、架橋剤としてメチロール基またはアルコキシメチル基を有するあらゆるものを包含しており、本件明細書のその他の記載や出願時の技術常識を参酌しても、実施例以外の配向材については、そのような効果を奏するとは認められない。 また、本件補正発明においては、基材は特に限定されていないところ、引用発明においても良好な配向性が得られることが示されているから(摘記1b参照)、本件補正発明の効果は当業者の予測外のものとすることはできない。 (2-6)審判請求人の主張 審判請求人は、「(A)垂直配向性基と熱架橋可能な官能基とを有するポリマーと、(B)メチロール基またはアルコキシメチル基を有する架橋剤を組み合わせることにより初めて奏される本願請求項1に係る配向材の効果、即ち、ガラス上及びPET上で、重合性液晶を良好に垂直配向させることができるという優れた効果は、引用文献3-5に記載の発明から、例えこれらを組み合わせたとしても、当業者といえども容易に予測できたものではありません。」と主張する。 しかし、効果については(2-5)で検討したとおりである。 また、本件補正発明には、基材としてガラスあるいはPETを用いるという発明特定事項は含まれていないので、上記主張は本件補正発明に基づく効果ともいえない。 よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 (2-7)小括 したがって、本件補正発明は、刊行物A、Bに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年9月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1は次のとおりである。 「 【請求項1】 (A)垂直配向性基と熱架橋可能な官能基とを有するポリマー、並びに (B)架橋剤 を含有する硬化膜形成組成物を硬化させて得られる配向材であって、 前記垂直配向性基はアクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸のアルキルエステル、アルキルビニルエーテル、2-アルキルスチレン、3-アルキルスチレン、4-アルキルスチレン又はN-アルキルマレイミドであって、当該アルキル基が炭素原子数6?20であるモノマーに由来する基であることを特徴とする配向材。」(以下、「本願発明」という。) 2 原査定の拒絶理由 原査定の拒絶の理由は、「平成30年10月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由1」であって、要するに、この出願の請求項1?7に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 そして、該拒絶の理由において引用された刊行物は次のとおりである。 <引用文献等一覧> 3.特開2002-98828号公報(新たに引用された文献) 4.特開2002-98836号公報(新たに引用された文献) 5.国際公開第2012/018121号(周知技術を示す文献) 3 引用刊行物 査定の拒絶の理由で引用された刊行物3、5は、上記刊行物A、Bにほかならず、刊行物A、Bの記載事項は、前記「2(2-1)A、B」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記「第2 1(1-1)」で検討した本件補正発明の配向材について、「「(メチロール基またはアルコキシメチル基を有する架橋剤」、「硬化膜形成組成物を加熱により硬化させて得られる配向材」との事項が「架橋剤」、「硬化膜形成組成物を硬化させて得られる配向材」にそれぞれ拡張され、「ポリマーを得るために用いる各モノマーの使用量は、全モノマーの合計量に基づいて、3乃至90モル%の垂直配向性基を有するモノマー、3乃至90モル%の熱架橋可能な官能基を有するモノマー、0乃至94モル%の特定の官能基を有さないその他のモノマー(但しこれらモノマーの合計は100モル%である)であり」という特定がされなくなったものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記事項によって限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2(2-7)」に記載したとおり、当該刊行物A、Bに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当該刊行物A、Bに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-03-03 |
結審通知日 | 2020-03-04 |
審決日 | 2020-03-17 |
出願番号 | 特願2015-530859(P2015-530859) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C09D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 牟田 博一、川嶋 宏毅、井上 能宏 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
瀬下 浩一 木村 敏康 |
発明の名称 | 硬化膜形成組成物、配向材および位相差材 |
代理人 | 特許業務法人はなぶさ特許商標事務所 |