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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1362127
審判番号 不服2018-14321  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-29 
確定日 2020-05-07 
事件の表示 特願2016-166519「ビジョンシステムカメラのための定倍率レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月19日出願公開,特開2017- 16139〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成25年12月25日(パリ条約による優先権主張20012年12月26日 米国,2013年12月23日 米国)に出願した特願2013-266417号の一部を平成28年8月29日に新たな特許出願とした外国語書面出願であって,平成28年8月31日に外国語書面の翻訳文(特許法36条の2第8項の規定により,願書に添付して提出した明細書,特許請求の範囲及び図面とみなす。)が提出され,平成29年6月28日付けで拒絶理由が通知され,平成30年1月4日に意見書及び手続補正書が提出され,同年6月22日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件拒絶査定不服審判事件は,原査定を取り消し,本件出願の発明は特許すべきものとするとの審決を求めて,同年10月29日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出された。

第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成30年10月29日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 平成30年10月29日に提出された手続補正書による補正の内容
平成30年10月29日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,同年1月4日に提出された手続補正書による補正後(本件補正前)の特許請求の範囲及び明細書について補正するものであるところ,本件補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するためのビジョンシステムであって,
前記ビジョンシステムは,ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサと,シーンから光を受け取り,光軸に沿って向けられているイメージセンサに送る定倍率レンズアセンブリとを有し,
該定倍率レンズアセンブリ及びイメージセンサは該光軸に沿って相対運動するよう構成されている,
ビジョンシステム。
【請求項2】
定倍率レンズアセンブリは前部レンズアセンブリ及び後部レンズアセンブリを含んでいる,請求項1記載のビジョンシステム。
【請求項3】
前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリは両者間の固定した空間的関係に配置されている請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項4】
前部レンズアセンブリは焦点距離がf1である第1のレンズを有し,後部レンズアセンブリは焦点距離がf2である第2のレンズを有し,f1とf2についてはf1>f2である,請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項5】
前部レンズアセンブリの焦点と後部レンズアセンブリの焦点とが一致する請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項6】
定倍率レンズアセンブリの開口絞りが前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの焦点との間にある請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項7】
アセンブリの倍率は一定であり,後部レンズアセンブリの焦点距離(f2)/前部レンズアセンブリの焦点距離(f1)に等しい,請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項8】
アセンブリの焦点位置の変位は(f1/f2)^(2)*(光軸に沿った定倍率レンズアセンブリの移動)に比例する請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項9】
さらに,定倍率レンズアセンブリに向かう方向と離れる方向にイメージセンサをを動かすアクチュエータを有する,請求項1記載のビジョンシステム。
【請求項10】
定倍率レンズアセンブリとイメージセンサとの距離が視野への焦点距離に逆比例する請求項1記載のビジョンシステム。
【請求項11】
視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するためのビジョンシステムであって,
ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサと,
シーンから光を受け取ってイメージセンサに送る,光軸に沿って向けられている定倍率レンズアセンブリとを有し,該定倍率レンズアセンブリはイメージセンサと前部レンズアセンブリとの間に向けられている液体レンズアセンブリを含み,
さらに当該ビジョンシステムは焦点距離の範囲にわたる各焦点距離で対象物上の焦点を一定のシステム倍率Mに維持するために液体レンズアセンブリの倍率m2を選択的に調整するコントローラを有している,ビジョンシステム。
【請求項12】
前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリは両者間の固定した空間的関係に配置されている請求項11記載のビジョンシステム。
【請求項13】
前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリは,前部レンズアセンブリの焦点と液体レンズアセンブリの前部主面が一致するように構成および配置されている,請求項11記載のビジョンシステム。
【請求項14】
前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリは,定倍率レンズアセンブリの倍率が一定であり液体レンズアセンブリからイメージセンサまでの距離(d2)と前部レンズアセンブリと液体レンズアセンブリ間の距離(d1)の比に等しくなるように構成および配置されている,請求項11記載のビジョンシステム。
【請求項15】
視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するための方法であって,
前記方法は,ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサと,シーンから光を受け取ってイメージセンサに送る,光軸に沿って向けられている定倍率レンズアセンブリとを提供するステップを含み,
さらに前記方法は,対象物がイメージセンサで所望の焦点を達成するまで定倍率レンズアセンブリを反復調整するステップからなる方法。
【請求項16】
定倍率レンズアセンブリは前部レンズアセンブリを有し,前部レンズアセンブリとイメージセンサとの間に向けられている液体レンズアセンブリを設置するステップをさらに含む,請求項15記載の方法。
【請求項17】
定倍率レンズアセンブリは前部レンズアセンブリ及び後部レンズアセンブリを有し,前部レンズアセンブリの焦点と後部レンズアセンブリの前部主面が一致する(d1=f1),請求項15記載の方法。
【請求項18】
定倍率レンズアセンブリは前部レンズアセンブリ及び後部レンズアセンブリを有し,後部レンズアセンブリが可変屈折力を有する,請求項15記載の方法。
【請求項19】
定倍率レンズアセンブリは前部レンズアセンブリ及び後部レンズアセンブリを有し,定倍率レンズアセンブリの開口絞りが前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの焦点との間に設けられている,請求項15記載の方法。
【請求項20】
定倍率レンズアセンブリは前部レンズアセンブリ及び後部レンズアセンブリを有し,アセンブリの倍率は一定で後部レンズグループからセンサまでの距離d2と2つのレンズグループ間の距離d1との比に等しい,請求項15記載の方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するためのビジョンシステムであって,
ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサと,
光軸に沿って向けられていて,前部レンズアセンブリを有し,光をシーンから受け取って前記光をイメージセンサに送る,定倍率レンズアセンブリと,
前記前部レンズアセンブリの裏面と前記前部レンズアセンブリの焦点との間にある前記定倍率レンズアセンブリの開口絞りと,
を備える上記ビジョンシステム。
【請求項2】
定倍率レンズアセンブリはさらに後部レンズアセンブリを含んでいる,請求項1記載のビジョンシステム。
【請求項3】
前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリは両者間の固定した空間的関係に配置されている請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項4】
前部レンズアセンブリは焦点距離がf1である第1のレンズを有し,後部レンズアセンブリは焦点距離がf2である第2のレンズを有し,f1とf2についてはf1>f2である,請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項5】
前部レンズアセンブリの焦点と後部レンズアセンブリの焦点とが一致する請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項6】
アセンブリの倍率は一定であり,後部レンズアセンブリの焦点距離(f2)/前部レンズアセンブリの焦点距離(f1)に等しい,請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項7】
アセンブリの焦点位置の変位は(f1/f2)^(2)*(光軸に沿った定倍率レンズアセンブリの移動)に比例する請求項2記載のビジョンシステム。
【請求項8】
さらに,定倍率レンズアセンブリに向かう方向と離れる方向にイメージセンサをを動かすアクチュエータを有する,請求項1記載のビジョンシステム。」

2 補正の適否の判断
(1)補正の目的について
ア 本件補正前後の各請求項の記載からみて,本件補正後の請求項1は,本件補正前の請求項1に対応するものと解される。なお,請求人も,審判請求書において,本件補正後の請求項1ないし5,6ないし8が,それぞれ本件補正前の請求項1ないし5,7ないし9に対応し,本件補正前の請求項6,請求項10ないし20は削除された旨,説明している。
しかるに,本件補正は,本件補正前の請求項1に記載されていた「定倍率レンズアセンブリ及びイメージセンサは光軸に沿って相対運動するよう構成されている」との発明特定事項を,本件補正後の請求項1から削除する補正事項を含んでいるが,当該発明特定事項を削除する補正が,特許法17条の2第5項1号に掲げる請求項の削除,同項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮,同項3号に掲げる誤記の訂正,及び同項4号に掲げる明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。
したがって,前記補正事項を含む本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反する。

イ 審判請求書(平成30年12月11日に提出された手続補正書により補正された。)において,請求人は,本件補正後の請求項1は,本件補正前の請求項1を限定的に減縮したものである旨主張する。
しかしながら,本件補正前の請求項1に係る発明が,定倍率レンズアセンブリ及びイメージセンサが光軸に沿って相対運動するよう構成されたビジョンシステムに限定されていたのに対して,本件補正後の請求項1に係る発明は,定倍率レンズアセンブリ及びイメージセンサが光軸に沿って相対運動することができないビジョンシステム,すなわち,定倍率レンズアセンブリ及びイメージセンサのいずれもが固定されていて移動できないものや,定倍率レンズアセンブリとイメージセンサが同時に光軸方向に移動できるが,互いの相対距離は変更できないよう構成されたものなどをも包含しているのであるから,本件補正後の請求項1は,本件補正前の請求項1を限定的に減縮したものではない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(2)新規事項の追加について
ア 本件補正によって,イメージセンサと,定倍率レンズアセンブリと,定倍率レンズアセンブリ中の前部アセンブリの裏面と当該前部アセンブリの焦点との間にある開口絞りとを有するビジョンシステムであれば,定倍率レンズアセンブリ及びイメージセンサの光軸に沿った相対運動の有無や,液体レンズの使用の有無に限らず,本件補正後の請求項1に係る発明に包含されることとなった。

イ 一方,特許法36条の2第8項の規定により明細書,特許請求の範囲及び図面とみなされた外国語書面の翻訳文(以下,「当初明細書等」という。)には,開口絞りに関連して,次の記載がある。
(ア) 「【請求項1】
視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するためのビジョンシステムであって,
前記ビジョンシステムは,ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサと,シーンから光を受け取り,光軸に沿って向けられているイメージセンサに送る定倍率レンズアセンブリとを有し,
該定倍率レンズアセンブリは前部レンズアセンブリを含んでおり,
該前部レンズアセンブリは面積が視野の面積より小さい,
ビジョンシステム。
【請求項2】
定倍率レンズアセンブリはさらに後部レンズアセンブリを含んでおり,前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリは両者間の固定した空間的関係に配置されている,請求項1記載のビジョンシステム。
【請求項3】
前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリは,(a)前部レンズアセンブリの焦点と後部レンズアセンブリの焦点が一致し,(b)定倍率レンズアセンブリの開口絞りが前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの焦点との間にあり,(c)アセンブリの倍率は一定で後部レンズアセンブリの焦点距離(f2)/前部レンズアセンブリの焦点距離(f1)に等しく,そして(d)アセンブリの焦点位置の変位は(f1/f2)^(2)*(光軸に沿った定倍率レンズアセンブリの移動)であるように構成および配置されている,請求項2記載のビジョンシステム。」

(イ) 「【0002】
発明の分野
本発明はマシンビジョンシステム,より具体的には手持ち式のシンボロジーリーダで使用される光学系,およびそのような光学系を使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
測定,検査,対象物の整列および/またはシンボロジー(例えばバーコード)のデコーディングを実行するビジョンシステムは,広範な用途と産業で使用されている。・・・(中略)・・・シンボロジー(バーコード)リーダの例において,自動化されたプロセスの使用者は,1以上のバーコードを含んでいると思われる対象物の画像を取得する。画像は処理されてバーコード特徴が特定され,次にバーコードがデコーディングプロセスによってデコーディングされ,および/またはプロセッサがコードによって表現された固有の英数字データを取得する。別のタイプのビジョンシステムでは,システムプロセッサによって種々のビジョンシステムツール(例えばエッジ検出器,キャリパ,ブロブ解析)を用いてエッジおよびその他の特徴を検出し,それによって対象物の特徴の認識が可能になり,さらにこれらの特徴に基づき所望の情報-例えば対象物に欠陥があるか,または対象物は適切に整列されているか判定することが可能になる。
・・・(中略)・・・
【0006】
・・・(中略)・・・遠い対象物中のシンボルはこの長い焦点距離を前提とすると光学系の開口角が大きすぎるために視野全体に対して小さく見えることがある。このように画像全体においてシンボルのサイズが小さいと,センサによって把捉される視野全体と比べて十分な分解能に欠けるため適切にデコーディングすることが困難になることがある(すなわち離れると着目した特徴/シンボルが小さすぎる)。
【0007】
それゆえ短い焦点距離と長い焦点距離のいずれでもシンボルまたはその他の着目した特徴をより効率的に解像できるビジョンシステムカメラアセンブリを提供することが望ましい。このカメラアセンブリは,手持ち式の装置および/または固定式の装置に適応可能であることが望ましい。」

(ウ) 「【発明の概要】
【0008】
本発明は先行技術の短所を,手持ち式のシンボロジーリーダ等のビジョンシステムのために,長短両方の焦点距離における定倍率を可能ならしめるレンズアセンブリを提供することによって克服する。レンズアセンブリは(一般に光軸に対して垂直に設けられた)イメージセンサからの所定の距離で光軸に沿って可動および/または調整可能に存在している。例示的な実施形態において,レンズアセンブリは光軸に沿って互いに離隔した2個のレンズL1およびL2からなる。実施形態では,L1およびL2はレンズグループで表すことができる。2個のレンズL1およびL2はそれぞれ焦点距離f1およびf2を画定する。これらのレンズは次の関係を満たしている。すなわち,(a)L1とL2の焦点が一致し,(b)アセンブリの開口絞りがL1の裏面とL1の焦点との間にあり,(c)アセンブリの倍率は一定でf2/f1に等しく,(d)アセンブリの焦点位置の変位は(f1/f2)^(2)*(アセンブリの光軸に沿った移動)である。一つの実施形態において,レンズはアクチュエータ(例えばギア付きステッピングモータまたはサーボモータ)により光軸に沿ってセンサに対して選択された位置に動かされる。アクチュエータは慣用または特注のオートフォーカスプロセスを用いるビジョンプロセッサからの命令に応答して動き,現在ある焦点距離で対象物上の着目した特徴(例えばシンボル)の鮮明な画像を解像する。着目した特徴は最大焦点距離と最小焦点距離の各々およびその間のすべての範囲でほぼ同じ分解能で現れよう。センサの固有のピクセル分解能は,作動距離の範囲でシンボルを特定およびデコーディングするのに十分なディテールを提供する。」

(エ) 「【0010】
例示的な実施形態において,視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するためのビジョンシステムは,ビジョンプロセッサと作動的に結合されたイメージセンサを含んでいる。定倍率レンズアセンブリは光軸に沿って向けられ,シーンから光を受け取ってイメージセンサに送る。定倍率レンズアセンブリはイメージセンサと前部レンズアセンブリとの間に延びる液体レンズアセンブリを含んでいる。・・・(中略)・・・前部レンズアセンブリは,1以上の固定されたレンズを含んでおり,(後部)液体レンズアセンブリは,入力された電気的エネルギーを用いて液体レンズアセンブリの倍率m2を変化させる境界面を含んでいる。コントローラは液体レンズアセンブリの倍率m2を選択的に調整して,焦点距離の範囲にわたる各焦点距離で対象物上の焦点を一定のシステム倍率Mに維持する。例示的には,前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリは,(a)前部レンズアセンブリの焦点と液体レンズアセンブリの前部主要面が一致し,(b)倍率は一定で,液体レンズアセンブリからイメージセンサまでの距離(d2)と,前部レンズアセンブリと液体レンズアセンブリとの間の距離(d1)の比に等しくなるように構成および配置されている。コントローラはまた一定のシステム倍率Mで所望の焦点が提供されるまで液体レンズアセンブリの倍率m2を反復調整するように配置されている。
【0011】
例として,本明細書中の任意の実施形態において,前部レンズアセンブリと液体(または後部)レンズアセンブリは,(a)前部レンズアセンブリの焦点と後部レンズアセンブリの前部主要面が一致し(d1=f1),(b)定倍率レンズアセンブリの開口絞りが前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの焦点との間にあり,(c)倍率は一定で,液体レンズアセンブリからイメージセンサまでの距離(d2)と,前部レンズアセンブリと液体レンズアセンブリとの間の距離(d1)の比に等しくなるように構成および配置されている。」

(オ) 「【発明を実施するための形態】
【0024】
I.全般的な考察
【0025】
図1は,図示されているように手持ち式か,または撮像されるシーンに対して位置が固定された少なくとも1個のシンボロジーリーダ110を含むビジョンシステム100を示す。・・・(中略)・・・
【0026】
リーダは,焦点距離の範囲にわたって一定の倍率を提供するレンズアセンブリ150(窓116の後ろに仮想線で示す)も含んでいる。・・・(中略)・・・とりわけ例示的な実施形態に従い定倍率レンズアセンブリ150を使用すると,関連する視野FOV2内の第2のシンボルS2のスケールは,S1およびFOV1のスケールとほぼ同じである。したがって,所定の距離範囲内における距離に関わりなく,視野および視野内のシンボルのサイズは同じままであり,良好な読取りを得るのに十分なディテールを可能にする。
・・・(中略)・・・
【0028】
II.機械的に駆動されるレンズによる定倍率
【0029】
ここで例示的な実施形態に従い定倍率レンズアセンブリ150をさらに詳細に示す図4および図5を参照する。アセンブリ150は,センサ410を基準にして光軸OAに沿って整列された前部レンズL1(焦点距離f1)と後部レンズL2(焦点距離f2)からなる。センサ410は典型的には軸OAに対して垂直な画像面を画定する。この実施形態におけるレンズL1,L2は互いに対して固定された距離SLでバレル420,またはそれらの相対的な整列および間隔を維持するその他の支持構造に位置決めされている。2個のレンズL1,L2の各々は,特に焦点距離の範囲にわたって定倍率を保証する一連の関係を確立するように設計されている。より具体的に言うと,これらの関係は次の通りである。
(a)L1とL2の焦点が描画された面で一致している(d1=f1+f2)。
(b)アセンブリの開口絞り(AS)がL1の裏面とL1の焦点との間にある。
(c)アセンブリの倍率は一定でf2/f1に等しい。
(d)アセンブリの焦点位置の変位は(f1/f2)^(2)*(アセンブリの光軸に沿った移動)である。
【0030】
開口絞りを上記(b)に定義された位置に配置すると,前部レンズのサイズを直径,面積等に関して,撮像される対象物および付随する視野の面積,長さ,幅等より小さくできる点で有利であることに留意されたい。反対に絞りを他の場所(例えば焦点f1)に配置すると,所望の視野のサイズにほぼ等しい前部レンズを-例えばテレセントリックレンズの方式で使用することが必要となろう。そのような大きいレンズは典型的にはサイズと配置の制約が存在する場合は不利である。
・・・(中略)・・・
【0036】
図6をさらに参照すると,定倍率レンズアセンブリ150はカメラの本体/フレームに対して固定できることが明確に想定されている。そのような実施形態においてセンサアセンブリ630(またはその一部(例えばセンサ138))は,光軸OAに沿って位置が固定された定倍率レンズアセンブリ150に向かう方向と離れる方向に動かすことができる。」

(カ) 「【0039】
IV.液体レンズを使用する定倍率
【0040】
あるビジョンシステムの応用で望ましいことがある範例的なレンズ構成は,いわゆる液体レンズアセンブリである。・・・(中略)・・・
【0042】
図8は,ビジョンシステム(図1参照)のための一般化したレンズシステム構成800を表わしており,光軸OALに沿って向けられた液体レンズ素子L2Lを含んでいる。この例示的な構成において全体のレンズシステム800は,少なくとも2個のレンズまたは2グループのレンズからなる。第1の(前部)グループL1Lは固定屈折力を有し,第2の(後部)グループL2Lは可変屈折力を有する液体レンズ素子からなり,またはこれを含んでいる。この実施形態では前部レンズアセンブリと(後部)液体レンズアセンブリは,光軸OALに沿って固定した空間的関係に配置されていることに留意されたい。この液体レンズL2Lはレンズに電流を供給するドライバまたは類似のプロセッサ810によって駆動され,レンズ焦点プロセス820に基づいて焦点を調整する。・・・(中略)・・・
【0043】
非限定的な例によれば,レンズL1LとレンズL2Lのそれぞれの光学面の間の距離d1,および液体レンズL2Lの光学面とイメージセンサ840の間の距離d2は固定できる。・・・(中略)・・・
【0045】
・・・(中略)・・・このシステムの総倍率Mは次に減少する。
M=m1*m2=d2/d1 (式5)
ここに,Mはシステム倍率,m1は固定されたレンズグループ/アセンブリの倍率,m2は液体レンズグループ/アセンブリの倍率,d1はレンズL1LとレンズL2Lのそれぞれの光学面の間の距離,およびd2は液体レンズL2Lの光学面とイメージセンサ840の間の距離である。
【0046】
したがって,この構成は対象物距離に依存しない(独立の)一定の倍率を生み出す。・・・(中略)・・・
【0048】
ここで,別の実施形態に従う液体レンズアセンブリL2Lを有する定倍率レンズシステム1100を示す図11を参照する。図8?図10を参照すると,上述した構造および/または機能と類似した素子には同様の参照番号が付されている。例として,開口絞りASL(上記の機械的に動かされるレンズに関する説明も参照)は,前部レンズアセンブリL1Lと後部液体レンズアセンブリL2Lとの間に置くことができる。この開口絞りASLの光軸OALに沿った位置により,レンズ(グループ/アセンブリ)L1LおよびL2Lのサイズが決まる。開口絞りASLが前部レンズアセンブリL1Lに近い位置に置かれたら,液体レンズアセンブリL2Lのサイズ(直径)は増加されなければならない。反対に開口絞りASLが液体レンズアセンブリL2Lに近い位置に置かれたら,前部レンズアセンブリL1Lのサイズ(直径)が増加されなければならない。現在,市販の液体レンズは一般に直径が比較的小さいため,開口絞りは通常は液体レンズに近い位置に置かれ,または液体レンズアセンブリ(それ自体)がシステムにおいて開口絞りとして働く。」

(キ) 「【0050】
以上は,本発明の例示的な実施形態に関する詳細な説明である。本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変容および追加を行うことが可能である。・・・(中略)・・・例えば液体レンズ素子を使用する実施形態において,固定されたレンズアセンブリを前部に置き,液体レンズアセンブリを後部に置くのは例示に過ぎない。適当なサイズの液体レンズアセンブリが利用できる場合は,これをアセンブリの前部に配置し,固定された(またはその他の)レンズアセンブリを後部(すなわちイメージセンサにより近く,撮像される対象物からより遠い位置)に設けることができる。」

ウ 前記イ(イ)で摘記した当初明細書等の記載から,本件出願の各請求項に係る発明が解決しようとする課題は,バーコードを含んでいる対象物の画像を取得し,バーコードのデコーディングを実行するビジョンシステムや,対象物の画像から,エッジ及びその他の特徴を検出し,対象物に欠陥があるか又は対象物が適切に整列されているかを判定するビジョンシステムにおいて,対象物が遠い場合には,対象物の画像のサイズが視野全体に対して小さくなってしまい,適切なデコーディングや特徴の検出が困難になる場合があることと理解される。
そして,前記イ(ウ)で摘記した当初明細書等の記載から,本件出願の各請求項に係る発明は,前記課題を解決するために,「長短両方の焦点距離における定倍率を可能ならしめるレンズアセンブリ」を採用したものと理解されるところ,当該「長短両方の焦点距離における定倍率を可能ならしめるレンズアセンブリ」が,前記イ(ア)で摘記した当初明細書等の請求項1に記載された「シーンから光を受け取り,光軸に沿って向けられているイメージセンサに送る定倍率レンズアセンブリ」に該当するものと認められる。
さらに,前記イ(ウ)及び(オ)で摘記した当初明細書等の記載中には,前部レンズアセンブリと,前部レンズアセンブリの(後側)焦点が(前側)焦点となる位置に設けられた後部レンズアセンブリとから構成され,イメージセンサに対して光軸に沿って相対移動するよう構成されたレンズアセンブリを,前記「定倍率アセンブリ」として用いる形態(以下,「第1形態」という。)が開示されており,前記イ(エ)及び(カ)で摘記した当初明細書の記載中には,固定屈折力を有する前部レンズアセンブリと,当該前部レンズアセンブリの(後側)焦点の位置に設けられた可変屈折力を有する後部レンズアセンブリとから構成され,前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリの光学面間の距離及び後部レンズアセンブリの光学面とイメージセンサ間の距離を固定した(すなわち,前部レンズアセンブリ及び後部レンズアセンブリを固定した)レンズアセンブリを,前記「定倍率レンズアセンブリ」として用いる形態(以下,「第2形態」という。)が開示されており,前記イ(キ)には,液体レンズアセンブリを前部レンズアセンブリとし,固定されたレンズアセンブリを後部レンズとしたレンズアセンブリを,前記「定倍率アセンブリ」として用いる形態(以下,「第3形態」という。)が開示されている。
一方,「開口絞り」について,当初明細書等には,第1形態では,前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間に設けることが記載され(前記イ(オ)の【0029】),第2形態では,前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリの間(後部レンズアセンブリが前部レンズアセンブリの(後側)焦点の位置に設けられているから,前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間である。)に設けることが記載されているが(前記イ(カ)の【0048】),第3形態において,「開口絞り」をどのような位置に設けるのかは,記載も示唆もされていない。
そこで,第3形態における開口絞りの位置について,技術的に検討してみると,開口絞りを前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間に設けた場合には,液体レンズアセンブリである前部レンズアセンブリの屈折力にかかわらず所望の絞りを実現するためには,設定された屈折力に応じて,開口絞りの位置又は絞り径を変更しなければならない。したがって,設定された屈折力に応じて開口絞りの位置又は絞り径を変更するための駆動機構や制御部等を設ける必要が生じてしまう。また,前述の位置に開口絞りを設けた場合,直径を大きくすることが困難な液体レンズアセンブリ(前部レンズアセンブリ)の有効面積を,開口絞りによって絞ってしまうこととなる。
これに対して,第3形態において,当初明細書等の【0048】に記載されているように,液体レンズアセンブリ(前部レンズアセンブリ)自体を開口絞りとして機能させる(すなわち,開口絞りを設けない)か,開口絞りを液体レンズアセンブリ(前部レンズアセンブリ)よりも前側(物体側)に設けると,設定された液体レンズアセンブリ(前部レンズアセンブリ)の屈折力に応じて開口絞りの位置や絞り径を変更する必要はなく,特に,液体レンズアセンブリ(前部レンズアセンブリ)自体を開口絞りとして機能させた場合には,液体レンズアセンブリ(前部レンズアセンブリ)の有効面積を開口絞りによって絞ってしまうこともない。
そうすると,技術的な観点からは,第3形態においては,液体レンズアセンブリ(前部レンズアセンブリ)自体を開口絞りとして機能させるか,さもなければ,開口絞りを液体レンズアセンブリ(前部レンズアセンブリ)よりも前側(物体側)に設けるのが自然であって,当初明細書等の記載や技術常識から,当業者が,開口絞りを前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間に設けた第3形態を把握することはできないというべきである。
また,仮に,第3形態において,第2形態における位置を参考にして,開口絞りを前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリの間に設けることが想定できるとした場合でも,第3形態における前部レンズアセンブリは焦点距離が可変な液体レンズアセンブリであって,その(後側)焦点の位置が後部レンズアセンブリの位置と必ず一致するものではないから,第2形態とは異なり,第3形態においては,開口絞りを前部レンズアセンブリと後部レンズアセンブリの間に設けたからといって,開口絞りが必ず前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間に位置することになるわけではない。したがって,たとえ第2形態における位置を参考にしたとしても,当業者が,当初明細書等の記載や技術常識から,開口絞りが前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間に設けられた第3形態を把握することはできない。
以上によれば,当初明細書等の記載から,第1形態及び第2形態の「定倍率レンズアセンブリ」において,開口絞りを前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間に設けることは記載されているといえるものの,第3形態の「定倍率レンズアセンブリ」において,開口絞りを前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間に設けることについては記載されておらず,かつ,そのことが技術常識等から自明のことと認めることもできない。

エ 前記アないしウで述べたことに照らせば,本件補正によって,当初明細書等には記載されておらず,かつ,技術常識等から自明のものと認めることもできない,開口絞りを前部レンズアセンブリの裏面と前部レンズアセンブリの(後側)焦点の間に設けた第3形態のレンズアセンブリを有するビジョンシステムが,補正後の請求項1に包含されることとなったのであるから,本件補正は,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ない。
したがって,本件補正は,新規事項を追加する補正であって,特許法17条の2第3項の規定に違反する。

3 補正却下のまとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第3項及び5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって,〔補正却下の決定の結論〕のとおり決定する。


第3 本件出願の請求項11に係る発明について
1 請求項11に係る発明
本件補正は前記第2〔補正却下の決定の結論〕のとおり却下されたので,本件出願の請求項1ないし20に係る発明は,それぞれ,前記第2〔理由〕1(1)において,本件補正前の特許請求の範囲として示した請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,そのうちの請求項11について再掲すると,次のとおりである。

「視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するためのビジョンシステムであって,
ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサと,
シーンから光を受け取ってイメージセンサに送る,光軸に沿って向けられている定倍率レンズアセンブリとを有し,該定倍率レンズアセンブリはイメージセンサと前部レンズアセンブリとの間に向けられている液体レンズアセンブリを含み,
さらに当該ビジョンシステムは焦点距離の範囲にわたる各焦点距離で対象物上の焦点を一定のシステム倍率Mに維持するために液体レンズアセンブリの倍率m2を選択的に調整するコントローラを有している,ビジョンシステム。」(以下,「本件発明」という。)

2 原査定の拒絶の理由の概要
本件発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略次の理由(以下,「査定理由」という。)を含んでいる。
本件発明は,その優先権主張の日より前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,当該発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をするものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができない。

前記査定理由で引用された引用例は,次のとおりである。
引用文献3:特開2004-29685号公報

3 引用例
(1)引用文献3の記載
査定理由で引用された引用文献3(特開2004-29685号公報)は,本件出願の最先の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前の平成16年1月29日に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には,次の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,種々の監視システム,交通計測システム,自動走行車,製品の外観形状を自動検査する装置などの画像応用の分野で利用されるもので,各システムあるいは各装置が対象とする物体に焦点を合わせてその像を得るための方法と装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
焦点合わせを行う方法は,一般のカメラに見られるように,物体の位置に応じてレンズを前後させる方法がこれまで一般的であった。しかし,近年,透明液体をガラス製の円形薄板で挟んでレンズ作用をもつ構造体を形成し,ピエゾアクチュエータによりこのレンズ構造体に圧力を加えてガラス面の曲率を変え,レンズ構造体の焦点距離を高速度に変化させることができる可変焦点レンズが実現された。・・・(中略)・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来の技術には以下のような問題点がある。・・・(中略)・・・
【0004】
可変焦点レンズを用いる焦点合わせ方法では,レンズの焦点距離が変わるため焦点を合わせることはできても結像倍率も変化し,像の大きさが変わる。このため,寸法や形状の測定を行う分野では,得られた画像データの寸法補正を行う必要があり,画像データの計算機処理に多大の時間を要し,高速化に不利である。
・・・(中略)・・・
【0006】
本発明は,このような事情のもとでなされたものであって,奥行きをもつ立体に対して,テレビジョン方式における画像取得速度と同様な高速度で,しかも結像倍率を一定に保った状態で立体の各部に焦点合わせを行うことができる簡素な焦点合わせ方法を実現することを発明の課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために,本発明においては,収束レンズの物体焦点(前側焦点とも言う)を基準とし,この焦点から任意の距離に配置された物体に対して物体の各点から生じる光を前記収束レンズに入射させ,この収束レンズの出射光を収束レンズの像焦点(後側焦点とも言う)に設置された可変焦点レンズに入射させる。そして焦点を合わせる物体位置の距離に応じて前記可変焦点レンズの焦点距離を設定することによって,焦点を合わせる物体の位置に関わらず,物体の像を一定倍率で一定した位置に結像するようにしたものである。」

イ 「【0008】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の好ましい実施の形態を,図面を参照して具体的に説明する。
【0009】
図1は,本発明にかかる,定倍率で焦点合わせを行い物体の像を得る方法と装置の構成を示すために,結像光学系の断面図を模式的に表現したものである。1は焦点合わせの対象となる物体,2は収束レンズ,3は収束レンズ2により生ずる物体1の像,4は可変焦点レンズ,5は収束レンズ2と可変焦点レンズ4により得られる物体の像である。6は光学系の中心軸となる光軸である。F1とF2は,それぞれ収束レンズ2の物体焦点(前側焦点ということもある)と像焦点(後側焦点ということもある)である。Sは物体像5の光軸上の位置を示す。可変焦点レンズ4の焦点距離は符号つきとし,凸レンズのとき正の値,凹レンズのとき負の値をとるものとすると,同じレンズの結像公式を凸レンズと凹レンズの両方に適用できる。
【0010】
物体1が,収束レンズ2の物体空間(物空間とも言う)において,物体焦点F1から距離pの位置にあるとき,その像3は収束レンズ2の像焦点F2から距離qの位置に生じ,その距離関係は,収束レンズ2の焦点距離をfとすると,レンズの結像公式によりf/p=q/fとして与えられる。ここで,記号/は除算を表している。またp>0は焦点合わせ位置が物体焦点F1から前方(収束レンズ2から離れる方向)に,p<0は物体焦点F1から後方にあることを表す。物体像3を形成する光は可変焦点レンズ4により再結像され,最終的に物体像5を形成する。ここで可変焦点レンズ4の焦点距離をfc,可変焦点レンズ4の図には示されていない物体主点(前側主点ともいう)と収束レンズ2の図には示されていない像主点との間の距離をd,可変焦点レンズ4の図には示されていない像主点(後側主点ともいう)から物体像5の位置Sに至る光路長をsとすると,物体像5の位置Sを決定する光路長sは,レンズの結像公式から,方程式1/(d-f-q)+1/s=1/fcを満たす値として与えられる。そこで光路長sが一定になるように,物体の焦点合わせ面の位置p(=f×f/q)に応じて上式を満たすように可変焦点レンズ4の焦点距離fcを設定することにより,定位置Sに物体像を結像させることができる。このとき結像倍率mは,収束レンズ2の結像倍率(-f)/pと可変焦点レンズ4の結像倍率(-s)/(d-f-q)の積から,m=(-s/f)/{1-(d-f)/q}として与えられる。ここでd=fのとき,すなわち可変焦点レンズ4の物体主点を収束レンズ2の像焦点F2に一致させることにより,結像倍率mは,物体位置p(=f×f/q)に関わらず,一定値(-s)/fとすることができる。負号は倒立像を示す。実際には,可変焦点レンズ4の物体主点と収束レンズ2の像焦点を一致させるときの許容設定誤差は,結像倍率mの許容される変動量の限界値で定められる。本発明では,一致させるとは,許容誤差の範囲で一致させることを意味する。可変焦点レンズ4が焦点距離fcを変えるときは,一般的には主点位置も変わるが,主点位置の変動が収束レンズ2の焦点距離fに比べて十分小さければ,倍率の変動は実用上無視できる。一定倍率の条件において,可変焦点レンズ4の物体主点と収束レンズ2の像焦点が一致し,d=fであるとき,焦点合わせのために,可変焦点レンズ4の焦点距離fcはq×s/(q-s)またはf/{(f/s)-(p/f)}で表される値に設定する。ここで,p×s<f×fの関係が成立しているときは,焦点距離fcは正の値となるので可変焦点レンズ4は凸レンズ(一般に収束レンズ)とし,p×s>f×fの関係が成立しているときは,焦点距離fcは負の値となるので可変焦点レンズ4は凹レンズ(一般に発散レンズ)とし,p×s=f×fであれば焦点距離fcは無限大になるので,可変焦点レンズ4は屈折力のない平行平面板と等価な光学媒体とする。」

ウ 「【0013】
これまで前記の実施の形態において,焦点距離の調節が可能な可変焦点レンズ4の具体的な構成については述べていないが種々の構成で実現できる。実施形態の一つの例としては,図3に断面図を,図4に正面図を示すような,前記において従来の技術について言及した際に引用したものと類似の構成が考えられる。シリコンオイルのような透明な液体8を充填して密閉したレンズ容器9の対向する二つの円形開口部10をそれぞれガラス薄板11で覆い,それらガラス薄板11を円形開口部10の周辺で固定しレンズ構造体を構成する。12は円形開口部10の中心を通るレンズの光軸である。13は金属あるいはガラス製の弾性板で,積層型ピエゾアクチュエータ14により加圧され,封入された透明液体8の内圧を制御する。この内圧と大気圧との差圧によりガラス薄板11は球面状に弾性変形を起こし,陽圧であれば凸レンズを,負圧であれば凹レンズを形成し,変形の程度により種々の焦点距離の値を実現する。差圧が零であれば焦点距離無限大の透明な平行平面板となる。15は積層型ピエゾアクチュエータ14にガラス薄板11の変形に必要な電圧を加えるための電圧増幅器で,16は電圧信号を電圧増幅器15に送り,ガラス薄板11の変形により可変焦点レンズの焦点距離を制御するためのコントローラである。」

エ 「【0019】
【発明の効果】
本発明は,以上説明したような形態で実施されるとき,以下に記載されるような効果を奏する。
【0020】
収束レンズの像焦点に可変焦点レンズの物体主点を一致させるようにして焦点合わせを行うので,可変焦点レンズの焦点距離を制御することにより,像を得ようとする物体の任意の位置に焦点を合わせることができると同時に,物体の像を一定の倍率で得ることができる。
【0021】
したがって,本発明の応用システムとして,焦点合わせされた物体の像をCCDカメラで受像し,画像情報を計算機処理して物体の形状計測や形状欠陥検査を行う画像計測システムにおいて,物体の位置による像の大きさの変化を補正する必要がなく,物体の形状計測を高速に効率良く行うことができる。また倍率補正に伴う補正誤差の発生を避けることができるから,高精度の形状計測を行うことができる。」

オ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における定倍率可変焦点結像方法および装置の光学系の実施形態を示す模式的な断面図である。
・・・(中略)・・・
【図3】透明な液体をレンズ媒質とする可変焦点レンズの実施形態を示す断面図である。
【図4】透明な液体をレンズ媒質とする可変焦点レンズの実施形態を示すレンズ開口部の正面図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図3】

【図4】



(2)引用文献3の記載から把握される発明
引用文献3の図3から,レンズ容器9の一側面が弾性板13により構成されていることが看取される。
しかるに,前記(1)アないしオで摘記した引用文献3の記載及び前述した看取される事項から,可変焦点レンズ4として【0013】に記載された実施形態のものを用いた結像光学系(【0009】,【0010】)を具備する画像計測システム(【0021】)に関する発明を把握できるところ,当該発明の構成は次のとおりである。

「焦点合わせされた物体の像をCCDカメラで受像し,画像情報を計算機処理して物体の形状計測や形状欠陥検査を行う画像計測システムであって,
収束レンズ2と可変焦点レンズ4とを有し,前記可変焦点レンズ4の物体主点を前記収束レンズ2の像焦点F2に一致させることにより,物体位置pに関わらず,結像倍率mが一定値となるように構成された結像光学系を具備し,
前記可変焦点レンズ4は,
透明な液体8を充填して密閉し,一側面が金属あるいはガラス製の弾性板13により構成されたレンズ容器9の対向する二つの円形開口部10をそれぞれガラス薄板11で覆い,それらガラス薄板11を円形開口部10の周辺で固定することにより構成されたレンズ構造体と,
前記弾性板13を加圧して,封入された透明な液体8の内圧を制御する積層型ピエゾアクチュエータ14と,
前記積層型ピエゾアクチュエータ14に前記ガラス薄板11の変形に必要な電圧を加えるための電圧増幅器15と,
電圧信号を前記電圧増幅器15に送り,前記ガラス薄板11の変形により可変焦点レンズの焦点距離を制御するコントローラ16とを有するものであり,
前記可変焦点レンズ4の焦点距離を制御することにより,像を得ようとする物体の任意の位置に焦点を合わせることができると同時に,物体の像を一定の倍率で得ることができる,
画像計測システム。」(以下「引用発明」という。)

4 対比
本件発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「物体」,「画像計測システム」及び「収束レンズ2」は,本件発明の「対象物」,「ビジョンシステム」及び「前部レンズアセンブリ」にそれぞれ対応する。

(2) 引用発明の「画像計測システム」(本件発明の「ビジョンシステム」に対応する。以下,「4 対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を表す。)では,収束レンズ2の焦点距離と可変焦点レンズ4が設定できる焦点距離の範囲とによって,焦点合わせされた像を取得できる物体までの距離の範囲が定まるところ,当該「焦点合わせされた像を取得できる物体までの距離の範囲」が,本件発明の「視野内の焦点距離の範囲」に相当する。
そして,引用発明の「画像計測システム」(ビジョンシステム)は,「焦点合わせされた像を取得できる物体の位置の範囲」にわたって「物体」(対象物)の焦点合わせされた像を取得するためのものであるといえるから,引用発明の「画像計測システム」と,本件発明の「ビジョンシステム」とは,「視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するための」ものである点で一致する。

(3) 引用発明のCCDカメラが,CCDイメージセンサを有していることは自明であるところ,当該「CCDイメージセンサ」が,本件発明の「イメージセンサ」に対応する。
また,引用発明の「画像計測システム」では,CCDカメラで受像した画像情報を計算機処理して物体の形状計測や形状欠陥検査を行うところ,画像情報を計算機処理するからには,「画像計測システム」が,画像情報を処理するプロセッサを具備する計算機を有していること,また,受像した画像情報を送るために,計算機の「画像情報を処理するプロセッサ」とCCDカメラの「CCDイメージセンサ」(イメージセンサ)とが接続されていることは自明である。そして,引用発明の「画像情報を処理するプロセッサ」が,本件発明の「ビジョンプロセッサ」に相当する。
ここで,本件発明の「ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサ」との発明特定事項が,ビジョンプロセッサとイメージセンサがどのように結合されていることを特定しているのかは,特許請求の範囲の記載からは明確に理解し難いものの,本件明細書の【0025】の「ビジョンプロセッサ136として(仮想線で)示されている。このプロセッサは種々の画像処理および画像データ操作/記憶機能を実行する。例示すると,プロセッサ136はイメージセンサ(やはり仮想線で示す)から把捉された画像フレームレートをカラーまたはグレースケールピクセル(またはその他の形式)で受け取る。」という記載を参酌すると,「ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサ」とは,把捉した画像情報をビジョンプロセッサに送ることができるように,ビジョンプロセッサに接続されたイメージセンサのことを指していると解するのが相当である。
そうすると,引用発明の「CCDイメージセンサ」は,受像した画像情報を送るために,「画像情報を処理するプロセッサ」(ビジョンプロセッサ)に接続されているのであるから,引用発明の「CCDイメージセンサ」と本件発明の「イメージセンサ」とは,「ビジョンプロセッサに作動的に結合された」点で一致する。

(4) 引用発明の「結像光学系」は,物体位置pに関わらず,結像倍率mが一定値となるように,すなわち定倍率となるように構成され,収束レンズ2と可変焦点レンズ4とを有するアセンブリであるから,「定倍率レンズアセンブリ」といえる。
そして,技術的にみて,引用発明の「結像光学系」(定倍率レンズアセンブリ)が,物体空間から入射した光のうち画角内の光を,前記(3)で述べたCCDイメージセンサの受光面に向けて出射するものと認められるから,当該「結像光学系」は,画角内の物体空間から光を受け取って「CCDイメージセンサ」(イメージセンサ)に送るものといえる。そして,引用発明の「画角内の物体空間」が本件発明の「シーン」に相当する。
また,引用発明の「結像光学系」が,光軸6に沿って設けられていることは明らかである(引用文献3の図1を参照。)。
したがって,引用発明の「結像光学系」と,本件発明の「定倍率レンズアセンブリ」とは,「シーンから光を受け取ってイメージセンサに送る,光軸に沿って向けられている定倍率レンズアセンブリ」である点で一致する。

(5) 引用発明の「可変焦点レンズ4」は,透明な液体8を充填して密閉し,一側面が金属あるいはガラス製の弾性板13により構成されたレンズ容器9の対向する二つの円形開口部10をそれぞれガラス薄板11で覆い,それらガラス薄板11を円形開口部10の周辺で固定することにより構成されたレンズ構造体を有し,積層型ピエゾアクチュエータ14によってガラス薄板11を変形させて焦点距離を制御するものであるところ,当該「可変焦点レンズ4」は,本件明細書の【0010】の「定倍率レンズアセンブリはイメージセンサと前部レンズアセンブリとの間に延びる液体レンズアセンブリを含んでいる。このレンズアセンブリは,エレクトロウェッティング理論に基づいて相互作用を変化させる少なくとも2種類の等密度液に基づいてもよいし,あるいはレンズは液体で満たされた膜の形状を変えるアクチュエータを含んでいてもよい。」という記載中の「レンズは液体で満たされた膜の形状を変えるアクチュエータを含」むレンズアセンブリに該当する。
したがって,引用発明の「可変焦点レンズ4」は,本件発明の「液体レンズアセンブリ」に相当する。
そして,引用発明の「結像光学系」(定倍率レンズアセンブリ)は,「CCDイメージセンサ」(イメージセンサ)と「収束レンズ2」(前部レンズアセンブリ)との間に設けられている「可変焦点レンズ4」(液体)を含んでいるから,引用発明の「結像光学系」と本件発明の「定倍率レンズアセンブリ」とは,「イメージセンサと前部レンズアセンブリとの間に向けられている液体レンズアセンブリを含」む点で一致する。

(6) 本件発明の「ビジョンシステムは焦点距離の範囲にわたる各焦点距離で対象物上の焦点を一定のシステム倍率Mに維持するために液体レンズアセンブリの倍率m2を選択的に調整するコントローラ」という発明特定事項については,特許請求の範囲の記載からは,これがどのようなコントローラを指しているのかを明確に理解し難いものの,本件明細書の【0044】ないし【0046】に,液体レンズL2L(本件発明の「液体レンズアセンブリ」)をレンズL1L(本件発明の「前部レンズアセンブリ」)の後焦点に置くことによって,総倍率Mを対象物距離に依存しない一定の値にし,液体レンズL2Lの屈折力A_LLを適切な値に調整することで,中間画像をセンサ840(本件発明の「イメージセンサ」)に投影することができるようにした実施形態が記載されていることを参酌すると,前記発明特定事項は,少なくとも,
「定倍率レンズアセンブリが,前部レンズアセンブリと当該前部レンズアセンブリの後焦点に配置された液体レンズアセンブリとから構成され,対象物との距離にかかわらず倍率が一定値Mの像を結像するものであり,液体レンズアセンブリの屈折力を変化させると,その結像位置を変化させることができるものである場合に,前記定倍率レンズアセンブリによる結像位置がイメージセンサの受光面となるように,前記液体レンズアセンブリの屈折力を調整するコントローラ」,
を包含するものと解するのが相当である。
そして,引用発明の「結像光学系」(定倍率レンズアセンブリ)は,「収束レンズ2」(前部レンズアセンブリ)と「可変焦点レンズ4」(液体レンズアセンブリ)とを有し,前記「可変焦点レンズ4」の物体主点を前記「収束レンズ2」の「像焦点F2」(後焦点)に一致させることにより,物体位置pに関わらず,「結像倍率m」(倍率)が一定値となるように構成されたものであるから,前述した発明特定事項の解釈のうち「定倍率レンズアセンブリが,前部レンズアセンブリと当該前部レンズアセンブリの後焦点に配置された液体レンズアセンブリとから構成され,対象物との距離にかかわらず倍率が一定値Mの像を結像するものであり,液体レンズアセンブリの屈折力を変化させると,その結像位置を変化させることができるものである場合」に該当する。
また,引用発明は,「焦点合わせされた物体の像をCCDカメラで受像し,画像情報を計算機処理して物体の形状計測や形状欠陥検査を行う画像計測システム」であるところ,「焦点合わせされた物体の像」を受像する以上,「結像光学系」(定倍率レンズアセンブリ)による物体の像の結像位置が,「CCDイメージセンサ」(イメージセンサ)の受光面となるように,「可変焦点レンズ4」(液体レンズアセンブリ)の焦点距離が調整される(可変焦点レンズ4の屈折力が調整されることと同義である。)ことは明らかである。
そうすると,引用発明と本件発明とは,「定倍率レンズアセンブリが,前部レンズアセンブリと当該前部レンズアセンブリの後焦点に配置された液体レンズアセンブリとから構成され,対象物との距離にかかわらず倍率が一定値Mの像を結像するものであり,液体レンズアセンブリの屈折力を変化させると,その結像位置を変化させることができるものである場合に,前記定倍率レンズアセンブリによる結像位置がイメージセンサの受光面となるように,前記液体レンズアセンブリの屈折力を調整するよう構成されている」点,すなわち「ビジョンシステムは焦点距離の範囲にわたる各焦点距離で対象物上の焦点を一定のシステム倍率Mに維持するために液体レンズアセンブリの倍率m2を選択的に調整するよう構成されている」点で共通する。


(7) 前記(1)ないし(6)に照らせば,本件発明と引用発明とは,
「視野内の焦点距離の範囲にわたって対象物の画像を取得するためのビジョンシステムであって,
ビジョンプロセッサに作動的に結合されたイメージセンサと,
シーンから光を受け取ってイメージセンサに送る,光軸に沿って向けられている定倍率レンズアセンブリとを有し,該定倍率レンズアセンブリはイメージセンサと前部レンズアセンブリとの間に向けられている液体レンズアセンブリを含み,
さらに当該ビジョンシステムは焦点距離の範囲にわたる各焦点距離で対象物上の焦点を一定のシステム倍率Mに維持するために液体レンズアセンブリの倍率m2を選択的に調整するよう構成されている,ビジョンシステム。」である点で一致し,次の点で相違する,又は一応相違する。

相違点1:
「ビジョンシステムは焦点距離の範囲にわたる各焦点距離で対象物上の焦点を一定のシステム倍率Mに維持するために液体レンズアセンブリの倍率m2を選択的に調整する」という動作を行うために,
本件発明では,コントローラを有しているのに対して,
引用発明では,コントローラを有しているのか否かは特定されていない点。

5 判断
(1)新規性欠如について
引用文献3の【0001】には,引用発明が属する技術分野として,「製品の外観形状を自動検査する装置」が例示されている。しかるに,当該技術分野で用いられる場合に,引用発明の「画像計測システム」において,「結像光学系による物体の像の結像位置が,CCDイメージセンサの受光面となるように,可変焦点レンズ4の焦点距離を調整する」という動作(いわゆるピント合わせ動作のことである。)が手動で行われたのでは,「自動検査」とはいえないから,少なくとも,前記「製品の外観形状を自動検査する装置」として,引用発明が用いられる場合,ピント合わせ動作を自動的に行うためのコントローラを有しているはずである。
したがって,引用発明が,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものであることは,引用文献3に示唆されているというべきであるから,相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)進歩性欠如について
また仮に,引用発明において,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備させることは,引用文献3に示唆されているとまでいえないとしても,撮像装置の技術分野において,ピント合わせ動作をコントローラにより自動的に行う技術は,本件優先日より前に例示するまでもなく周知・慣用の技術(いわゆるオートフォーカス(AF)として知られている。)であるところ,可変焦点レンズ4の焦点距離を制御することによりピント合わせを行うタイプの引用発明においても,当該周知・慣用の技術が適用可能であることは,当業者に自明である。
しかるに,引用発明において,ピント合わせ動作が手動で行われるのでは,物体の形状計測や形状欠陥検査が効率的に行えないことは明らかであるから,物体の形状計測や形状欠陥検査を効率的に行うために,引用発明に,前記周知・慣用の技術を適用して,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,本件発明の奏する効果は,引用文献3の記載,及び前記周知・慣用の技術から,当業者が予測できた程度のものである。

(3)まとめ
したがって,本件発明は,引用発明と実質的に同一であるか,引用発明及び周知・慣用の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本件発明は,引用発明と実質的に同一であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるか,引用発明及び周知・慣用の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-29 
結審通知日 2019-12-02 
審決日 2019-12-19 
出願番号 特願2016-166519(P2016-166519)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 57- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀井 康司  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 清水 康司
畑井 順一
発明の名称 ビジョンシステムカメラのための定倍率レンズ  
代理人 栗原 弘幸  

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