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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特29条の2  A61K
管理番号 1362313
異議申立番号 異議2018-700299  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-11 
確定日 2020-03-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6210584号発明「ロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6210584号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6210584号の請求項1及び6に係る特許を取り消す。 同請求項2?4に係る特許を維持する。 同請求項5に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6210584号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年7月14日に出願された特願2015-140208号(優先権主張 平成27年 3月13日)の一部を新たな出願として、平成29年5月23日に出願され、平成29年9月22日にその特許権の設定登録がされ、平成29年10月11日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 4月11日受付: 特許異議申立人早速晴邦による請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年 4月11日受付: 特許異議申立人前川卓己による請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年 8月16日付け: 取消理由通知書
平成30年10月22日受付: 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年12月19日受付: 特許異議申立人早速晴邦による意見書の提出
平成30年12月19日受付: 特許異議申立人前川卓己による意見書の提出
平成31年 2月27日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
平成31年 5月 7日受付: 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年 7月 8日受付: 特許異議申立人早速晴邦による意見書の提出
令和 1年 7月 8日受付: 特許異議申立人前川卓己による意見書の提出
令和 1年 9月30日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
特許権者には、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。


第2 令和1年5月7日受付の訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
(1)特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(訂正事項(1))。
「【請求項1】
無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び錠剤全重量に対して5.0?40.0%の範囲の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く)。」

(2)特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(訂正事項(2))。
「【請求項2】
無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対してマンニトールが59.0?85.0%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが5.0?30.0%の範囲で含まれる、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除き、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除く。)。」

(3)特許権者は、特許請求の範囲の請求項3を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(訂正事項(3))。
「【請求項3】
無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対してマンニトールが59.0?85.0%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが5.0?30.0%の範囲で含まれる、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、口腔内崩壊錠である錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除き、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除く。)。」

(4)特許権者は、特許請求の範囲の請求項4を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(訂正事項(4))。
「【請求項4】無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び錠剤全重量に対して5.0?40.0%の範囲の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、口腔内崩壊錠である錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く)。」

(5)特許権者は、特許請求の範囲の請求項5を削除することを請求する(訂正事項(5))。

なお、訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?6について請求されている。
また、平成30年10月22日受付訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項(1)について
訂正事項(1)は、「錠剤」がクロスポビドンである崩壊剤と、ステアリン酸マグネシウムである滑沢剤を含むことを特定すると共に、「錠剤」から塩基性アミノ酸を含む錠剤を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項(2)について
訂正事項(2)は、「錠剤」がクロスポビドンである崩壊剤と、ステアリン酸マグネシウムである滑沢剤を含むことを特定し、「錠剤」から、塩基性アミノ酸を含む錠剤及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除くと共に、引用形式から独立形式へ記載を変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項(3)について
訂正事項(3)は、「錠剤」から、塩基性アミノ酸を含む錠剤及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除き、錠剤が口腔内崩壊錠であることを特定すると共に、引用形式から独立形式へ記載を変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項(4)について
訂正事項(4)は、「錠剤」がクロスポビドンである崩壊剤と、ステアリン酸マグネシウムである滑沢剤を含むことを特定し、「錠剤」から、塩基性アミノ酸を含む錠剤及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除くと共に、引用形式から独立形式へ記載を変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項(5)について
請求項5の削除は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
上記のとおり、訂正事項1?6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?6]について訂正することを認める。


第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6210584号の請求項1?4、6に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」、「本件発明6」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?4、6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、請求項5は、本件訂正により削除されている。)。
「【請求項1】
無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び錠剤全重量に対して5.0?40.0%の範囲の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く)。」
【請求項2】
無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対してマンニトールが59.0?85.0%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが5.0?30.0%の範囲で含まれる、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除き、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除く。)。
【請求項3】
無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対してマンニトールが59.0?85.0%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが5.0?30.0%の範囲で含まれる、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、口腔内崩壊錠である錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除き、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除く。)。
【請求項4】無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び錠剤全重量に対して5.0?40.0%の範囲の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、口腔内崩壊錠である錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く)。
【請求項5】(削除)
【請求項6】直接打錠法によって、請求項1?4のいずれかに記載の錠剤を、製造する方法。」


第4 平成30年8月16日付け取消理由の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、当審が平成30年8月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1
請求項1?3、5、6に係る発明は、先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)に記載された発明と同一であるから、請求項1?3、5、6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

理由2
請求項1、2、5に係る発明は、先願2の明細書等に記載された発明と同一であるから、請求項1、2、5に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

理由3
請求項1?5に係る発明は、文献3に記載された発明に、周知技術(要すれば、文献4?11等参照)を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由4
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
本件発明は、カチオンが多価である無機塩の安定化剤を含まずとも、高湿度環境下での保存において、化学的に安定で、かつ溶出性の低下しない錠剤の提供を解決しようとする課題とするものである(段落0009)。
そして、段落0010及び実施例に記載されるように、特定の賦形剤を使用する錠剤において上記課題を解決できたと記載されているが、口腔内崩壊錠については実施例等の具体的な記載はなされていない。
一般に、製剤の急速な崩壊、薬物のすみやかな溶出及び吸収が治療上求められる場合に、剤形を口腔内崩壊錠とすることは、当該分野における周知技術であるが、口腔内崩壊錠とするためには、賦形剤の組成を変化させることもまた、当該分野における技術常識である。
本件特許明細書においては、口腔内崩壊錠の組成について具体的な記載もなされておらず、どのような組成とすれば、本件発明の課題である、化学的に安定かつ溶出性の低下しない、ロスバスタチンカルシウムを成分とする口腔内崩壊錠とすることができるかが、本件特許出願時における技術常識を参照しても不明である。
よって、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
請求項4の引用形式等で記載される請求項5及び6に係る発明についても同様である。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特願2014-196100号(特開2016-65028号公報) 2.特願2014-201711号(特開2016-69382号公報)
3.中国特許出願公開第101336920号明細書
4.日本の新薬 第4巻 循環器官用薬(2)(薬効216,217,218)、2006.04.発行、p.1-5(技術常識を示すための文献)
5.クレストール錠添付文書、2010.03.発行(技術常識を示すための文献)6.中国特許出願公開第1886383号明細書(周知技術を示すための文献)
7.国際公開第2010/081861号(周知技術を示すための文献)
8.添加剤の特性・選び方・使い方ノウハウ集、2012.01.31発行、p.30-32(周知技術を示すための文献)
9.改訂 医薬品添加物ハンドブック、2004.02.28発行、p.587(周知技術を示すための文献)
10.ベーシック薬学教科書シリーズ20 薬剤学(第2版)、2013.04.10発行、p.177-178(周知技術を示すための文献)
11.国際公開第2012/057103号(周知技術を示すための文献)

第5 平成31年2月27日付け取消理由(決定の予告)
平成30年10月22日受付訂正書により訂正された請求項1?6に係る特許に対して、当審が平成31年2月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりであり、平成30年8月16日付け取消理由通知の理由4に相当するものである。

理由1
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
本件発明は、カチオンが多価である無機塩の安定化剤を含まずとも、高湿度環境下での保存において、化学的に安定で、かつ溶出性の低下しない錠剤の提供を解決しようとする課題とするものである(段落0009)。
そして、段落0010及び実施例に記載されるように、特定の賦形剤を使用する錠剤において上記課題を解決できたと記載されているが、口腔内崩壊錠については実施例等の具体的な記載はなされていない。
一般に、製剤の急速な崩壊、薬物のすみやかな溶出及び吸収が治療上求められる場合に、剤形を口腔内崩壊錠とすることは、当該分野における周知技術であるが、口腔内崩壊錠とするためには、賦形剤の組成を変化させることもまた、当該分野における技術常識である。
本件特許明細書においては、口腔内崩壊錠の組成について具体的な記載もなされておらず、どのような組成とすれば、本件発明の課題である、化学的に安定かつ溶出性の低下しない、ロスバスタチンカルシウムを成分とする口腔内崩壊錠とすることができるかが、本件特許出願時における技術常識を参照しても不明である。
よって、請求項1?3、5、6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

引 用 文 献 等 一 覧
12(PLCM(耕薬)研究会編 PHARM TECH JAPAN 2012臨時増刊号(第28巻2号)平成24年1月27日発行「すべてがわかる口腔内崩壊錠ハンドブック」p.14、 37-40、177-180(技術常識を示すための文献、新たに提示された文献)


第6 令和1年9月30日付け取消理由(決定の予告)
令和1年5月7日受付訂正請求書により訂正された請求項1及び6に係る特許に対して、当審が令和1年9月30日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、次のとおりであり、平成30年8月16日付け取消理由通知の理由1に相当するものである。

請求項1及び6に係る発明は、下記の先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)に記載された発明と同一であるから、請求項1及び6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

1 先願1、先願発明1’について
先願1の明細書等には、類縁物質を抑制し安定性が向上したロスバスタチンまたはその塩と、塩基性アミノ酸を含む医薬組成物であって、錠剤であるもの(請求項1、4、段落0008)が記載されている。
具体的には、実施例1及び比較例1として、以下の記載がなされると共に、表5に各成分の一覧が記載されている。
「【0054】 (実施例1)
表5に示す通り、ロスバスタチンカルシウム5.20mgとL-アルギニン3.00mgと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30.00mgとD-マンニトール102.50mgとクロスポピドン7.50mgとをタンブラー型混合機(昭和化学機械工作所社製)に入れ、10分混合した。その後、ステアリン酸マグネシウム1.80mgをタンブラー型混合機(昭和化学機械工作所製)に入れ、2分混合し、均質な粉末混合物を得た。
上記記載した方法によりpH値を測定したところ、pH9.82であった。

【0055】
次いで、得られた粉末混合物を表1に示した処方にて、ロータリー打錠機(VIRGO24 菊水製作所社製)にて打錠圧14.3kg/cm2にて打錠し、圧縮成形して、直径約7mm、厚さ約3.6mm、1錠あたりの重量150.00mgの錠剤(素錠)を直接打錠法にて作製した。
(中略)

【0060】
(比較例1;L-アルギニンの添加なし)
表5に示す通り、実施例1の錠剤でL-アルギニンを添加せず、D-マンニトールを105.50mg添加した以外は、実施例1と同様にして錠剤を作製した。(中略)
【表5】(略)」

ここで、実施例1の錠剤は、ロスバスタチンカルシウムを5.2mg、D-マンニトールを68.3重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを20重量%、L-アルギニン、クロスポビドン及びステアリン酸マグネシウムを含むものである。また、比較例1の錠剤は、ロスバスタチンカルシウムを5.2mg、D-マンニトールを70.3重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを20重量%、クロスポビドン及びステアリン酸マグネシウムを含むものである。
すると、先願1の明細書等には、「ロスバスタチンカルシウムを5.2mg、マンニトールを70.3重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを20重量%含有し、さらに、クロスポビドンと、ステアリン酸マグネシウムを含む錠剤」の発明(以下、「先願発明1’」という。)が記載されていると認められる。

2 本件発明1について
先願1の明細書段落【0035】には、崩壊剤としてクロスポビドンを用いることが、また段落【0036】には、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを用いることが記載されている。
本件発明1と先願発明1’を対比すると、両者は、
「ロスバスタチンカルシウム、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び錠剤全重量に対して5.0?40.0%の範囲の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く)。」の点で一致するものであり、
(1) 本件発明1ではロスバスタチンカルシウムが無晶形であることが記載されているのに対して、先願発明1’ではその点が特定されていない点 、及び、
(2) 本件発明1ではロスバスタチンカルシウムが2.6mgであるのに対して、先願発明1’では5.2mgである点
で一応相違するものである。

上記一応の相違点について検討する。
相違点(1)について
本件特許明細書の段落0005に、「現在市販されているロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤に使用されている有効成分は無晶形であり」と記載されるように、本件特許の優先日当時、臨床的に使用されているロスバスタチンカルシウムが非晶質であることは、技術常識である(文献4の特に第5頁第12?18行等も参照)。加えて、先願1の明細書等段落0015には、「ロスバスタチンカルシウムは、結晶であっても、非晶質であってもよいが、非晶質であることが好ましい。」と記載されていることからみて、先願発明1’のロスバスタチンカルシウムが非晶質であることは、先願1の明細書等に記載されているに等しいものである。

相違点(2)について
先願1の明細書等段落0044には、「本医薬組成物の投与量は、患者の重篤度、年齢にもよるが、成人1日あたりの投与量は、ロスバスタチンカルシウムが2.5mg?20mgとなる量である。」と記載されている。
ここで、本件特許明細書の段落0003には、「現在市販されているロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤は、アルミニウムラミネートフィルム素材でPTP包装されている(非特許文献1)。」と記載され、段落0008には、非特許文献1として、「クレストール(登録商標)錠2.5mg、クレストール(登録商標)錠5mg インタビューフォーム、2015年1月(改訂13版)」が記載されている。
上記非特許文献1とは発行年の異なるものではあるが、文献5の、販売名:クレストール錠2.5mgまたはクレストール錠5mg、成分・含量(一錠中):ロスバスタチン2.5mg(ロスバスタチンカルシウムとして2.6mg)またはロスバスタチン5mg(ロスバスタチンカルシウムとして5.2mg)との記載からみて、ロスバスタチンカルシウムは一錠中の含量が2.6mgまたは5.2mgの単位で市販されて用いられていたことは、本件特許の優先日当時、当該分野における技術常識であったと認められる。
すると、錠剤中のロスバスタチンカルシウムの含量を、先願1の明細書等におけるロスバスタチンの最低投与量に相当し、かつ、5.2mgと同様に市販されて広く用いられていたことが技術常識である2.6mgとする態様は、本件特許の優先日当時の技術常識を参酌することにより当業者が先願1の明細書等に記載されている事項から導き出せる事項であるから、先願1に記載されている事項に等しいものである。
したがって、本件発明1は先願発明1’である。

3 本件発明6について
先願1の明細書段落【0055】、【0060】及び【表5】の記載からみて、先願1には、「ロスバスタチンカルシウムを5.2mg、マンニトールを70.3重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを20重量%含有し、さらに、クロスポビドンと、ステアリン酸マグネシウムを含む錠剤を直接打錠法により製造する方法」の発明(以下、「先願発明1’’」という。)が記載されていると認められる。
本件発明6と先願発明1’’を対比すると、本件発明6は相違点(1)及び(2)の点で、先願発明1’’と異なるものであり、これらの相違点については、上記2で検討したとおりである。
したがって、本件発明6は、先願発明1’’である。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特願2014-196100号(特開2016-65028号公報)


第7 当審の判断
1 令和1年9月30日付け取消理由通知(決定の予告)(前記第6)について
前記第6の取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者から何ら応答がなかった。
そして、前記第6の取消理由は妥当なものと認められるので、本件請求項1及び6に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。

2 本件発明2?4について、令和1年9月30日付け取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった取消理由について
(1)前記第4の「本件発明2は先願発明1であるから、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである」との趣旨の取消理由1について
本件発明2は、上記第6 2で検討した相違点(1)及び(2)に加え、以下の点でさらに相違するものである。
ア 本件発明2は錠剤が「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」を5.0?30.0重量%の範囲で含むものであり、「錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含むものを除く」ものであるのに対して、先願発明2は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して20重量%含むものである点。

相違点アについて検討する。
先願1の明細書には、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して5重量%以上15重量%未満、または25重量%より多く30重量%の範囲で含むことは先願1の明細書には記載されていない。
そして、先願発明1の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量を、錠剤全重量に対して5重量%以上15重量%未満、または25重量%より多く30重量%の範囲とすることは、「周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの」とも「課題解決のための具体化手段における微差」ともいえない。
したがって、本件発明2は先願発明1ではない。

(2)前記第4の「本件発明2は先願発明2であるから、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである」との趣旨の取消理由2について
(2-1)先願2、先願発明2について
先願2の明細書等には、長期にわたり安定なHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む医薬製剤であって、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤と、糖アルコールと、セルロース誘導体(結晶セルロースを除く)を含み、実質的に結晶セルロースを含まない医薬製剤(段落0009、請求項1)が記載され、具体的には実施例として、以下の組成を有する錠剤が記載されている。

「【0037】
【表3】



さらに実施例5?9に関して、以下のように記載されている。
「【0038】
[実施例5]
ロスバスタチンカルシウム78mg、D-マンニトール3492mgを混合し、精製水により湿式造粒を実施した。得られた造粒物を60℃の棚式乾燥機にて3時間乾燥し、得られた乾燥顆粒と低置換度ヒドロキシプロピルセルロース900mgとを混合した。前記混合物とステアリン酸マグネシウム30mgとを混合し打錠用顆粒とした。前記打錠用顆粒をオートグラフ(株式会社島津製作所製)により1錠あたり150mg,φ8mmの錠剤に圧縮成型した。
[実施例6]
ロスバスタチンカルシウム65g、D-マンニトール222.5gを混合した。流動層造粒機(MP-01,株式会社パウレック製)により、ヒドロキシプロピルセルロース9gを含む水溶液を噴霧し湿式造粒を実施した。得られた造粒物を70℃で流動層乾燥し、得られた乾燥顆粒192.7gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース48.58gとを混合した。前記混合物とステアリン酸マグネシウム1.62gとを混合し打錠用顆粒とした。前記打錠用顆粒をロータリー打錠機(菊水製作所製)により1錠あたり120mg,φ7.5mmの錠剤に圧縮成型した。
【0039】
【表4】(略)
【0040】
表4に示すように、実施例5及び6は密栓条件及び開放条件ともに最大の類縁物質生成率は0.5%を下回り、特に開放条件下では、前記試験例2の参考例1?4の最大の類縁物質生成率よりも低い数値であった。このように、本発明の医薬製剤は、錠剤に圧縮成型した場合においても、良好なロスバスタチンカルシウムの安定性を示した。また、湿式造粒法により顆粒化した後に錠剤に圧縮成型した場合においても、ロスバスタチンカルシウムは同様の安定性を示すことが判明した。
【0041】
試験例4<フィルムコート錠の安定性検討>
以下に示す実施例7?9を製造(1錠あたりの各成分含有量を表5に示す)し、前述の実施例6と共に、それぞれ30錠を遮光ガラス瓶に入れ40℃75%相対湿度条件下にて開放して1箇月保存した。別に、前記実施例それぞれ30錠を25℃2000lux/時間条件下にて密栓して25日間保存し、累計120万luxの光を照射した。開始時、40℃75%相対湿度1箇月保存後、及び25℃2000lux/時間25日保存後のロスバスタチンカルシウムの類縁物質生成率を、HPLCを用いて測定した。類縁物質生成率は、ロスバスタチン及びその類縁物質由来の総ピーク面積に対する面積百分率(%)として算出した。算出した各類縁物質生成率のうち最も高いものを最大の類縁物質生成率(%)として評価した。
【0042】
【表5】(略)
【0043】
[実施例7]
ヒプロメロース52.50g、マクロゴール6000 9.75g、酸化チタン12.75g、黄色三二酸化鉄0.75g、及び三二酸化鉄0.1875gを含むコーティング液を調製した。前述の実施例6の錠剤を、当該コーティング液を用いてコーティング機(アクアコータ?,フロイント産業製)によりフィルムコート錠に製した。
[実施例8]
実施例7のコーティング液で、マクロゴール6000の代わりにトリアセチンを用いて、実施例7と同様の方法にてフィルムコート錠を得た。
[実施例9]
実施例7のコーティング液で、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄を除き、実施例7と同様の方法にてフィルムコート錠を得た。」

ここで、実施例5、6におけるD-マンニトールの含有量は、76.3重量%、74.2重量%であり、実施例7?9におけるD-マンニトールの含有量は、72.3重量%である。また、実施例5、6における低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、20重量%であり、実施例7?9における低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、ほぼ20重量%である。

すると、先願2の明細書等には、「ロスバスタチンカルシウムを2.6mg、D-マンニトールを76.3、74.2又は72.3重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを20重量%含有し、ステアリン酸マグネシウムを含む錠剤」の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されていると認められる。

本件発明2と先願発明2を対比する。
ステアリン酸マグネシウムが潤沢剤であることは技術常識であるから、両者は、
「ロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び錠剤全重量に対して5.0?40.0%の範囲の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、ステアリン酸マグネシウムである潤沢剤を含み、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く)」に係る発明であるという点で一致するものであり、
ア 本件発明1ではロスバスタチンカルシウムが無晶形であることが記載されているのに対して、先願発明2ではその点が特定されていない点、
イ 本件発明1はクロスポビドンである崩壊剤を含むのに対して、先願発明2はクロスポビドンである崩壊剤を含まない点、及び、
ウ 本件発明2は錠剤が「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」を5.0?30.0重量%の範囲で含むものであり、「錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含むものを除く」ものであるのに対して、先願発明2は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して20重量%含むものである点で相違する。

上記相違点について検討する。
相違点イについて
先願2の明細書には、崩壊剤について段落【0019】に「本発明においては、(中略)崩壊剤として、水不溶性セルロース誘導体が好適に用いられる」と記載され、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含まない点で本件発明2とは異なる実施例16の錠剤について、クロスポビドンが配合されていることは記載されているものの、当該記載をもって、先願発明2の錠剤にクロスポビドンである崩壊剤を含ませることが開示されていたとはいえない。すると、先願発明2にクロスポビドンである崩壊剤を含ませることは、「周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの」とも「課題解決のための具体化手段における微差」ともいえない。
相違点ウについて
先願2の明細書には、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して5重量%以上15重量%未満、または25重量%より多く30重量%の範囲で含むことは記載されていない。
そして、先願発明2の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量を、錠剤全重量に対して5重量%以上15重量%未満、または25重量%より多く30重量%の範囲とすることは、「周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの」とも「課題解決のための具体化手段における微差」ともいえない。
したがって、本件発明2は先願発明2ではない。

(3)前記第4の「本件発明2?4は、文献3に記載された発明に周知技術(要すれば、文献4?11参照)を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものである」との趣旨の取消理由3について
(3-1)引用文献3、引用発明3
引用文献3には、ロスバスタチンカルシウムの安定な薬学的組成物が記載され、実施例2として以下の記載がなされている(訳は、異議申立人前川卓己によるもの。)。
ア 「適切な潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、精製水素化植物油、パルミチン酸、タルク、グリコール、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸マグネシウムのうちの1又は複数から選択され、特に、ステアリン酸マグネシウムである。」(6頁第9?11行)

イ 「実施例2
原料・補助材料の名称 1000錠あたりの用量(g)
ロスバスタチンカルシウム 5.2(ロスバスタチン5gに相当)
微粉末シリカゲル 5
アルファ澱粉 60
マンニトール 75
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 5
3%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(E5)水溶液 適量
ステアリン酸マグネシウム 1
胃溶性フィルムコーティングプレミックス剤 適量

ロスバスタチンカルシウムと微粉末シリカゲルを100メッシュの篩にかけてから均一に混合した。これに80メッシュの篩にかけた処方量のアルファ澱粉、マンニトール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを添加して十分均一に混合した。続いて、粉末に3%のヒドロキシプロピルメチルセルロース水溶液を適量加えて軟質材料とし、20メッシュの篩にかけて造粒してから45℃で温風乾燥した。乾燥粒子は20メッシュの篩にかけて整粒し、処方量のステアリン酸マグネシウムを加えてから均一に混合した。そして、中間体の含有量と水分を検出してから打錠し、錠芯から微粉末を除去した後にフィルムコーティングした。」

ここで、実施例2におけるマンニトールの含有量は約49.6重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は約3.3重量%である。

上記記載イからみて、引用文献3には、「ロスバスタチン5mgに相当するロスバスタチンカルシウム5.2mg、微粉末シリカゲル、アルファ澱粉、マンニトールを約49.6重量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを約3.3重量%、3%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(E5)水溶液、ステアリン酸マグネシウムを含み、打錠された後にフィルムコーティングされた錠剤」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。

(3-2)本件発明2について
引用文献3の上記アには、「適切な潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウム・・のうちの1又は複数から選択され、特に、ステアリン酸マグネシウムである」と記載されている。
本件発明2と引用発明3を対比すると、両者は、
「ロスバスタチンカルシウム、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、カチオンが多価である無機塩を含有せず、潤沢剤がステアリン酸マグネシウムである錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く。)。」に係る発明であるという点で一致するものであり、
ア 本件発明2ではロスバスタチンカルシウムが無晶形であることが記載されているのに対して、引用発明3ではその点が特定されていない点
イ 本件発明2ではロスバスタチンカルシウムが2.6mgであるのに対して、引用発明3では5.2mgである点、及び、
ウ 本件発明2は錠剤が「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」を5.0?30.0重量%の範囲で含むものであり、「錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含むものを除く」ものであるのに対して、引用発明3では約3.3重量%である点、及び、
エ 本件発明2では、クロスポビドンである崩壊剤を含むのに対して、引用発明3は含まない点
で相違するものである。

上記相違点について、検討する。
相違点ウについて
本件特許の優先日当時において、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、医薬品錠剤のための崩壊剤として周知であり、崩壊剤として一般的に2?20%、または5?25%程度配合することも知られていたものである(要すれば、引用文献8の第31頁下から3行?第32頁第7行、引用文献9の第587頁右欄第1行?最終行等参照)。
してみれば、引用発明3において、安定性に考慮しつつ、より適切な崩壊性を持たせるために、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの配合量を決定することは、当業者が容易に想到し得るものである。
相違点エについて
引用文献3の第6頁第4?5行には、「適切な崩壊剤は、クロスポビドン、澱粉グリコール酸ナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、架橋ヒドロキシプロピルメチルセルロースのうち1又は複数から選択され、好ましくはクロスポビドンである。」と記載されている。
引用発明3は、引用文献3において適切な崩壊剤としてクロスポビドンと択一的に記載される低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを約3.3重量%含む錠剤の発明であるところ、いずれの甲号証を参照しても、上記のように低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量を調整した上で、さらにクロスポビドンを添加することを、当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
したがって、本件発明2は、引用発明3、引用文献3の記載及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(3-3)本件発明3?4について
本件発明3?4は、少なくとも上記相違点ウ及びエにおいて、引用発明3と相違するものであるから、上記(3-2)のとおり、本件発明3?4は、引用発明3、引用文献3の記載及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(4)「本件特許は、口腔内崩壊錠に係る本件発明3?4について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」という趣旨の、前記第4の取消理由4及び前記第5の取消理由(決定の予告)について
(4-1)本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
【0003】
ロスバスタチンカルシウムの原薬は湿度及び熱に対して不安定であることから、湿度に対して安定な錠剤の設計が困難であるという問題を有しており、主に分解物の増加及び溶出性の低下が確認される。湿度に対して不安定な錠剤は、高防湿のフィルム素材でPTP包装した後に、そのPTPシートをアルミニウム製のピロー袋に封入して湿度の影響を受けない形態とするのが一般的である。現在市販されているロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤は、アルミニウムラミネートフィルム素材でPTP包装されている(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、薬局で包装が開封された錠剤が患者に手渡されることを考慮すれば、無包装の状態でも保存安定性に優れていることが望ましい。
【0005】
原薬由来の分解物の増加については、ロスバスタチンカルシウムを含むHMG-CoA還元酵素を含有する錠剤について、塩基性化合物又はカチオンが多価である無機塩、金属塩などを含有する錠剤が幾つかの先行技術文献で示されている。特許文献1ではロスバスタチンと多価カチオン塩である第三リン酸カルシウムを含む錠剤が示され、特許文献2ではロスバスタチンカルシウムとアルカリ土類金属塩である塩化カルシウムや塩化マグネシウムを含む錠剤が示され、特許文献3ではHMG-CoA還元酵素であるプラバスタチンナトリウムと塩基性化合物である炭酸ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムを含む錠剤が示される。先行技術では、ロスバスタチンカルシウム由来の分解物であるラクトン体(下記式(a))の発生を抑制するために、上記記載の塩基性化合物又はカチオンが多価である無機塩、金属塩を安定化剤として使用していることが述べられている。
原薬の溶出性の低下については、HMG?CoA還元酵素を含有する錠剤について、D-マンニトールを含有する錠剤が先行技術文献で示されている。特許文献4ではピタバスタチンカルシウムとD-マンニトールを含む錠剤が示される。先行技術文献では、製剤中のピタバスタチンの含有量の低下が溶出遅延の原因であり、分解物の生成の抑制のため糖アルコールを使用することが述べられている。しかしながら、現在市販されているロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤に使用されている有効成分は無晶形であり、吸湿により水和物へ転移することが直接的な溶出性低下の原因である可能性は否めない。
【0006】
医薬品製剤を保存する上での、原薬由来の分解物生成の抑制は、安定した品質の医薬品を患者に提供する上で達成すべき重要な課題である。そのため、先ずロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤に含まれる医薬品添加物の処方を考案する上では、ラクトン体の発生を抑制するために、前記の安定化剤を使用することが第一に検討される。しかしながら、ロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤についてラクトン体の発生及び溶出性の低下を同時に抑制する発明は見当たらない。さらに、高品質な製剤を設計する上で解決しなければならない課題としては、ラクトン体の発生及び溶出性の低下の抑制以外にも、崩壊性の改善、着色防止、匂いの抑制などがあり、それらの課題を解決する上では先行技術の安定化剤を使用することが必ずしも好ましいとは限らない。そこで、本発明者は、前記の安定化剤を含まずとも、ロスバスタチンカルシウム由来の分解物の発生が抑制され、溶出性が低下しない錠剤を製造することを目的とし鋭意検討を重ねた。
(中略)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤において、カチオンが多価である無機塩の安定化剤を含まずとも、高湿度環境下での保存において、化学的に安定で、かつ溶出性の低下しない錠剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤において、その分解物であるラクトン体の生成及び溶出性の低下が抑制された錠剤を開発するため、汎用の添加剤(賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等)を用い、常法により錠剤を製造して、その錠剤の品質を評価した。鋭意検討を重ねて、本発明者らは、意外にも、カチオンが多価である無機塩の安定化剤を使用せずとも、下記の特定の賦形剤(糖アルコール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等)を使用することで、高湿度環境下での保存においてラクトン体の生成やロスバスタチンカルシウムの溶出性の低下を抑制させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
(中略)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤について、高湿度環境下での保存において安定な錠剤を医療現場に提供できる。本発明の錠剤は、たとえば無包装の状態で60℃75%RH環境下で1週間保存しても、錠剤中のラクトン体の増加量が1.00%以下であり、溶出性の低下量が2.0%以下である。
(中略)
【0018】
本発明の錠剤の製造に用いられる、医薬的に許容可能な添加剤としては、通常使用されている賦形剤、崩壊剤、滑択剤、流動化剤、遮光剤等が使用できる。なお、本発明における賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、遮光剤とは「医薬品添加物辞典(日本医薬品添加剤協会編集、薬事日報社、2007年発行)」の「用途別索引」で当該名に分類されたものを指す。以下で本発明で用いられる具体的な添加物名称が列挙されるが、本発明で使用可能な医薬的に許容可能な添加剤はそれらに限定されない。本発明の錠剤は普通錠又は口腔内崩壊錠とすることが可能である。
【0019】
使用可能な賦形剤としては、トウモロコシ澱粉、バレイショ澱粉、糖アルコール(マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、イソマルト、マルチトール、ラクチトール等)、白糖、ショ糖、ブドウ糖、アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポビドン、エチルセルロース等を挙げる事ができるが、好ましくは糖アルコール又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む賦形剤であり、より好ましくはマンニトール又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む賦形剤であり、さらにより好ましくはマンニトールと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む賦形剤であり、最も好ましくはマンニトールと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる賦形剤である。錠剤全重量に対して賦形剤は、好ましくは60.0?90.0%の範囲で含まれ、より好ましくは80.0?90.0%の範囲で含まれる。錠剤全重量に対してマンニトールは、好ましくは45.0?89.0%の範囲で含まれ、より好ましくは49.0?85.0%の範囲で含まれ、最も好ましくは59.0?85.0%の範囲で含まれる。錠剤全重量に対して低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、好ましくは1.0?45.0%の範囲で含まれ、より好ましくは5.0?40.0%の範囲で含まれ、最も好ましくは5.0?30.0%の範囲で含まれる。
【0020】
使用可能な崩壊剤としては、例えばトウモロコシ澱粉、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、カンテン末等を挙げる事ができ、好ましくはクロスポビドンである。錠剤全重量に対して崩壊剤は1.0?10.0%の範囲で含まれることが好ましく、最も好ましくは3.0?5.0%である。

(中略)
【0041】
〔試験例1〕賦形剤間の安定性及び溶出性への影響の評価
実施例3の錠剤並びに比較例1、2、3、4の錠剤について、60度75%相対湿度条件下で1週間、無包装状態で保存した検体のラクトン体の生成量及び溶出性を測定した結果を図1に示した。
実施例3の錠剤並びに比較例1、2、3の錠剤について、ラクトン体の増加量を二元配置分散分析により評価した。その結果、乳糖水和物及びD-マンニトール間で有意確率(以後、p値)は0.012であり、結晶セルロース及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース間でp値は0.032とそれぞれの群間で有意な差を示し、D-マンニトールと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせ(実施例1)が最もラクトン体の生成を抑制する結果となった。さらにD-マンニトールと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせ(実施例1)は、カチオンが多価である無機塩(第三リン酸カルシウム)を配合している比較例4よりもラクトン体の増加量が抑制された。
また、ロスバスタチンカルシウムの溶出性の低下量についても、二元配置分散分析により評価した。その結果、乳糖水和物及びD-マンニトール間でp値は0.5であり有意な差でなかったが、結晶セルロース及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース間でp値が0.037と有意な差を示し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースでは溶出が低下しなかった。このことから、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースには溶出性の低下を抑制する効果を有することが確認された。
また、実施例6、7、8の錠剤について、50度75%相対湿度条件下で1週間、無包装状態で保存した検体のラクトン体の生成量を測定した結果を図3に示した。マンニトールを使用した実施例6に比べて、イソマルトを使用した実施例7及びラクチトールを使用した実施例8はラクトン体の生成量が幾分か多いため、本発明の糖アルコールとしてはマンニトールを使用することが好ましいと考えられる。
以上より、糖アルコール(D-マンニトール等)や低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを使用することで、加湿条件下でのラクトン体の生成や溶出性の低下を抑制することが可能であることが明らかとなった。
【0042】
〔試験例2〕糖アルコールと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの添加量の違いによる安定性及び溶出性の低下への影響の評価
実施例1、2、3、4、5の錠剤について、60度75%相対湿度条件下で1週間、無包装状態で保存した検体のラクトン体の生成量及び溶出性を測定した結果を図2に示した。
実施例1、2、3、4、5の錠剤について、D-マンニトールの添加量を減少させていくことでラクトン体の生成量が増加していく傾向が得られ、D-マンニトールの添加量が49.3%の実施例5では、比較例1、4のラクトン体増加量を上回った。
また、溶出性の低下については、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの添加量が5.0?40.0%の範囲であれば溶出遅延を起こさず、良好な溶出性を示した。
以上のことから、錠剤全重量に対して糖アルコール(D-マンニトール等)が49.0?85.0%の範囲の処方において加湿条件下でのラクトン体の生成を抑制しうる効果があり、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが5.0?40.0%の範囲の処方において溶出性の低下を抑制しうる効果があることを見出した。

(4-2)本件発明3及び4の課題
上記(4-1)のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】?【0006】には、ロスバスタチンカルシウムの原薬の湿度及び熱に対する不安定性、湿度に対して安定な錠剤の設計の困難性、並びに、ロスバスタチンカルシウムによる吸湿による水和物への転移による溶出性低下の可能性等の問題点が挙げられている。その上で、段落【0009】には、本発明の課題は、カチオンが多価である無機塩の安定化剤を含まずとも、高湿度環境下での保存において、化学的に安定で、かつ溶出性の低下しない錠剤を提供することであると記載されている。

(4-3)判断
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものである。
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると解される(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決参照)。
そこで、この観点に立って検討する。

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、口腔内崩壊錠に関しては、段落【0018】に、「本発明の錠剤は普通錠又は口腔内崩壊錠とすることが可能である。」との記載がなされているのみであり、それ以外に一般的な記載及び実施例等を含め、口腔内崩壊錠に関する記載は一切なされていない。
なお、訂正前の請求項4の「錠剤が口腔内崩壊錠である?錠剤。」との記載は、本件特許出願の審査過程の平成29年6月27日受付手続補正書における補正により追加されたものである。
特許権者は当該補正に関して「明細書段落【0018】等の記述を根拠として」と主張しており、手続補正の際にも、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0018】以外の記載を補正の根拠として挙げるものではない。

本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】に記載の「カチオンが多価である無機塩の安定化剤を含まずとも、高湿度環境下での保存において、化学的に安定で、かつ溶出性の低下しない錠剤を提供する」との課題に対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】には、「下記の特定の賦形剤(糖アルコール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等)を使用することで、高湿度環境下での保存においてラクトン体の生成やロスバスタチンカルシウムの溶出性の低下を抑制させることが可能である」と記載されている。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】に加え、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0041】に「マンニトールを使用した実施例6に比べて、イソマルトを使用した実施例7及びラクチトールを使用した実施例8はラクトン体の生成量が幾分か多いため、本発明の糖アルコールとしてはマンニトールを使用することが好ましいと考えられる。以上より、糖アルコール(D-マンニトール等)や低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを使用することで、加湿条件下でのラクトン体の生成や溶出性の低下を抑制することが可能であることが明らかとなった。」と、また、段落【0042】に「D-マンニトールの添加量を減少させていくことでラクトン体の生成量が増加していく傾向が得られ、(中略)、溶出性の低下については、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの添加量が5.0?40.0%の範囲であれば溶出遅延を起こさず、良好な溶出性を示した。以上のことから、錠剤全重量に対して糖アルコール(D-マンニトール等)が49.0?85.0%の範囲の処方において加湿条件下でのラクトン体の生成を抑制しうる効果があり、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが5.0?40.0%の範囲の処方において溶出性の低下を抑制しうる効果があることを見出した。」と記載されているように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、一貫して「特定の賦形剤(糖アルコール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等)」を、錠剤における高湿度環境下での保存におけるラクトン体の生成や溶出性の低下抑制のために用いることは記載されているものの、錠剤の中でも特に口腔内崩壊錠の賦形剤として、これらの特定の賦形剤を用いることは記載されていない。

本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】には、使用可能な崩壊剤に関する記載もなされているが、これらの崩壊剤が口腔内崩壊錠の製造のために記載されていたものと認めることもできない。
そもそも、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0019】と【0020】には、トウモロコシ澱粉と低置換度ヒドロキシプロピルセルロースに関して、使用可能な賦形剤と使用可能な崩壊剤の両者として挙げられており、両者の関係も必ずしも明確なものでもない。

また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】には「本発明の錠剤の製造に用いられる、医薬的に許容可能な添加剤としては、通常使用されている賦形剤、崩壊剤、滑択剤、流動化剤、遮光剤等が使用できる。」と記載されているところ、一般的な錠剤と口腔内崩壊錠が同じ組成の賦形剤であることが本件特許出願時の技術常識であったともいえないため、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、一般的な錠剤と口腔内崩壊錠双方において、同一の賦形剤等を同程度用いることが記載されていたということもできない。

さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には実施例1?8が記載されるものの、これらのいずれかが口腔内崩壊錠の実施例であることが明記されているものではなく、崩壊特性についても何ら具体的な記載はなされておらず、実施例1?8の錠剤の各々がどの程度の崩壊特性を有するものであるかが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて明らかともいえない。
また、口腔内崩壊錠には、一般的に口当たりや味等を考慮して、香料等を配合することや、薬物の苦味のマスキング技術が付与されることが本件特許出願時の技術常識であるところ(要すれば、文献12のp.177左欄第1行?右欄最終行、p.39右欄第4?16行等参照)、いずれの実施例にも香料等の配合や苦味マスキング技術が施されていない以上、本件出願時の技術常識に照らしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明のいずれかの実施例が口腔内崩壊錠の実施例であったと認識することはできない。

特許権者は、平成30年10月22日受付の意見書において、以下のように主張する。
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0018】?【0020】、【0029】?【0031】)のように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、其の段落0018において本発明の錠剤を「口腔内崩壊錠とすることが可能である。」とあらかじめ記載した上で、其の次ぎの段落0019にて「使用可能な賦形剤としては、・・最も好ましくはマンニトールと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる賦形剤である。・・錠剤全重量に対してマンニトールは、好ましくは45.0?89.0%の範囲で含まれ、・・錠剤全重量に対して低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、・・、より好ましくは5.0?40.0%の範囲で含まれ、」との本件発明の賦形剤の組成が示されてあることから、当該組成を有する本件発明の錠剤を口腔内崩壊錠とすることが可能であることが容易に把握できるように記載されていたと認められるべきである。

ここで、特許権者が指摘する本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、以下の通りである。
「【0018】
本発明の錠剤の製造に用いられる、医薬的に許容可能な添加剤としては、通常使用されている賦形剤、崩壊剤、滑択剤、流動化剤、遮光剤等が使用できる。なお、本発明における賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、遮光剤とは「医薬品添加物辞典(日本医薬品添加剤協会編集、薬事日報社、2007年発行)」の「用途別索引」で当該名に分類されたものを指す。以下で本発明で用いられる具体的な添加物名称が列挙されるが、本発明で使用可能な医薬的に許容可能な添加剤はそれらに限定されない。本発明の錠剤は普通錠又は口腔内崩壊錠とすることが可能である。
【0019】
使用可能な賦形剤としては、トウモロコシ澱粉、バレイショ澱粉、糖アルコール(マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、イソマルト、マルチトール、ラクチトール等)、白糖、ショ糖、ブドウ糖、アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポビドン、エチルセルロース等を挙げる事ができるが、好ましくは糖アルコール又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む賦形剤であり、より好ましくはマンニトール又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む賦形剤であり、さらにより好ましくはマンニトールと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む賦形剤であり、最も好ましくはマンニトールと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる賦形剤である。錠剤全重量に対して賦形剤は、好ましくは60.0?90.0%の範囲で含まれ、より好ましくは80.0?90.0%の範囲で含まれる。錠剤全重量に対してマンニトールは、好ましくは45.0?89.0%の範囲で含まれ、より好ましくは49.0?85.0%の範囲で含まれ、最も好ましくは59.0?85.0%の範囲で含まれる。錠剤全重量に対して低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、好ましくは1.0?45.0%の範囲で含まれ、より好ましくは5.0?40.0%の範囲で含まれ、最も好ましくは5.0?30.0%の範囲で含まれる。
【0020】
使用可能な崩壊剤としては、例えばトウモロコシ澱粉、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、カンテン末等を挙げる事ができ、好ましくはクロスポビドンである。錠剤全重量に対して崩壊剤は1.0?10.0%の範囲で含まれることが好ましく、最も好ましくは3.0?5.0%である。

【実施例1】
【0029】
ロスバスタチンカルシウム2.6g、D-マンニトール63.25g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース3.75g、クロスポビドン4.0g及び軽質無水ケイ酸0.4gをポリエチレン製の袋に投入し、混合した。次いで、この混合物にステアリン酸マグネシウム1.0gを加え、ポリエチレン製の袋にて混合した。次いで、この混合物を、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ロスバスタチンカルシウム2.6
D-マンニトール63.25
低置換ヒドロキシプロピルセルロース3.75
クロスポピドン 4.0
軽質無水ケイ酸 0.4
ステアリン酸マグネシウム1.0
【実施例2】
【0030】
ロスバスタチンカルシウム2.6g、D-マンニトール59.5g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース7.5g、クロスポビドン4.0g及び軽質無水ケイ酸0.4gをポリエチレン製の袋に投入し、混合した。次いで、この混合物にステアリン酸マグネシウム1.0gを加え、ポリエチレン製の袋にて混合した。次いで、この混合物を、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ロスバスタチンカルシウム2.6
D-マンニトール59.5
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース7.5
クロスポピドン 4.0
軽質無水ケイ酸 0.4
ステアリン酸マグネシウム1.0
【実施例3】
【0031】
ロスバスタチンカルシウム2.6g、D-マンニトール52.0g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース15.0g、クロスポビドン4.0g及び軽質無水ケイ酸0.4gをポリエチレン製の袋に投入し、混合した。次いで、この混合物にステアリン酸マグネシウム1.0gを加え、ポリエチレン製の袋にて混合した。次いで、この混合物を、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形し、下記組成の錠剤を得た
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ロスバスタチンカルシウム2.6
D-マンニトール52.0
低置換ヒドロキシプロピルセルロース15.0
クロスポピドン 4.0
軽質無水ケイ酸 0.4
ステアリン酸マグネシウム1.0」

イ また参考に、第17改正日本薬局方に定められた崩壊試験法(試験疫:水)(乙第1号証)に準拠して求めた、本件発明に係る実施例1?3の錠剤と市販の口腔内崩壊錠(ロスバスタチンOD錠2.5mg「オーハラ」)の崩壊時間の試験結果(平均)を下記に記載する。当該実施例の錠剤は市販の口腔内崩壊錠と同等の良好な崩壊性を示すものであり、本件特許明細書から示されるように本件発明の錠剤を口腔内崩壊錠とすることが可能なことが当該試験結果により裏付けられる。
実施例1:約13秒
実施例2:約14秒
実施例3:約20秒
市販品 :約14秒

なお、上記乙第1号証は、平成30年10月22日受付の意見書に添付して提出された「第17改正日本薬局方」に定められた「6.09崩壊試験法」である。

さらに特許権者は、令和1年5月7日受付意見書において以下ウ?オのように主張する。
ウ 本件特許発明の錠剤を口腔内崩壊錠とすることが可能なことは、本特許の明細書(段落0018)に記載されており、その記載に基づいて実施例に記載の錠剤が口腔内崩壊錠であることは、出願時の技術常識を踏まえても、容易に把握可能である。
例えば、本実施例1?3等において主体的に含まれるマンニトールは、圧縮成形性に劣るが口腔内崩壊錠に適した崩壊性と冷涼感を供えた添加剤であること(乙第1号証)が一般的に知られているものである。また、当該実施例において使用されるマンニトールはグラニュトール(登録商標)S(段落番号0028)であり、当該マンニトールは口腔内崩壊錠に最適なものとしてメーカーから提供されるものであり、そのことは当業者にとって周知の事柄である。また当該実施例において使用されるクロスポビドンはスーパー崩壊剤として知られており、その崩壊性は強く、口腔内崩壊錠に適したものであることもまた同様に周知の事柄であり(乙第1号証)、其の崩壊性が良好なことは当業者であれば認識しているものである。また上記のグラニュトールSは圧縮成形性に優れ、実用上問題ない高度を示し得るものであり、また適度な甘みと清涼感を有するもの(乙第2号証)であるから、口腔内崩壊錠としての各種の課題(味、硬度等)に対する配慮が実施例に欠如していたわけではない。

エ 平成30年10月22日受付の意見書において提示した実施例1?3の錠剤の試験結果(崩壊時間)が本件特許明細書に当該錠剤の詳細な製造条件を提示していないことをもって本件特許明細書の記載を裏付けるものでないとの判断は誤りである。
処方や製造方法などの崩壊時間に関わる主要な製造条件の情報は本件特許明細書に記載されている通りであり、当該情報によって特定される錠剤においては、その他の詳細な製造条件(例えば打錠圧)の設定如何によって多少の崩壊時間の幅が生じ得るとしても、崩壊時間に著しい差を生ずるものとは通常認められない(乙第2号証)。したがって、当該詳細な製造条件の記載がないことは、実施例1?3の錠剤が口腔内崩壊錠であることが認識できるとする判断に変更を生じさせるものではなく、当該試験結果は本件特許明細書の記載を裏付けるものに変わりはない。

オ たとえ形式的に実施例の錠剤が口腔内崩壊錠である記載はなくても、実施例の錠剤は口腔内崩壊錠と大差ない構成のものであることは当業者であれば容易に認識できるものであり、当該実施例の錠剤に関する安定性・溶出性試験の結果から本願特許発明を降雨内崩壊錠とした場合に本願特許発明の課題を解決できることもまた容易に認識できる範囲内のものである。
なお、そもそも錠剤形態を口腔内崩壊錠に限定することは、本発明の課題である「ロスバスタチンを含有する錠剤において、カチオンが多価である無機塩の安定化学剤を含有せずとも、高湿度環境下での保存において、化学的に安定で、かつ溶出性の低下しない錠剤を提供すること」を解決する上で必須な特徴というわけでなく、当該課題を解決する上での構成の単なる一態様にすぎないものである。

なお、ウ?オで引用された乙第1及び第2号証は、令和1年5月7日受付の意見書に添付して提出された以下のとおりのものである。
乙第1号証:すべてがわかる口腔内崩壊錠ハンドブック2012Vol.28 No.2
乙第2号証:すべてがわかる口腔内崩壊錠ハンドブック-添加剤編-2015Vol.31 No.4)

特許権者の主張について検討する
カ 主張アについて
特許権者が主張するとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】には、「本発明の錠剤は普通錠又は口腔内崩壊錠とすることが可能である。」との記載がなされ、段落【0019】には使用可能な賦形剤が列挙されている。
しかしながら、賦形剤としてのD-マンニトールと低置換ヒドロキシプロピルセルロースに関しては、上記検討のとおりであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、糖アルコール(D-マンニトール等)や低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと、「加湿条件下でのラクトン体の生成や溶出性の低下の抑制」との関係が述べられ、崩壊性や口腔内崩壊錠との関連については何ら記載はなされておらず、出願時の技術常識に照らしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0019】の記載が、口腔内崩壊錠として用いるべき賦形剤に関する記載であったと認識することはできない。
このように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、D-マンニトールと低置換ヒドロキシプロピルセルロースが口腔内崩壊錠の賦形剤として記載されていたとはいえない。

キ 主張イ及びエについて
36条6項1号違反の取消理由通知に対して、特許権者は技術常識の提示の他、実験成績証明書により主張を裏付けることができる場合もあるが、発明の詳細な説明の記載が不足しているために、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができるといえない場合には、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことによって、請求項に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できると主張したとしても、拒絶理由は解消されない(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)10042号同年11月11日特別部判決)。

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?3に続いて、以下の記載がなされている。
「【実施例4】
【0032】
ロスバスタチンカルシウム2.6g、D-マンニトール44.5g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース22.5g、クロスポビドン4.0g及び軽質無水ケイ酸0.4gをポリエチレン製の袋に投入し、混合した。次いで、この混合物にステアリン酸マグネシウム1.0gを加え、ポリエチレン製の袋にて混合した。次いで、この混合物を、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ロスバスタチンカルシウム 2.6
D-マンニトール 44.5
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 22.5
クロスポピドン 4.0
軽質無水ケイ酸 0.4
ステアリン酸マグネシウム 1.0
【実施例5】
【0033】
ロスバスタチンカルシウム2.6g、D-マンニトール37.0g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30.0g、クロスポビドン4.0g及び軽質無水ケイ酸0.4gをポリエチレン製の袋に投入し、混合した。次いで、この混合物にステアリン酸マグネシウム1.0gを加え、ポリエチレン製の袋にて混合した。次いで、この混合物を、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ロスバスタチンカルシウム 2.6
D-マンニトール 37.0
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 30.0
クロスポピドン 4.0
軽質無水ケイ酸 0.4
ステアリン酸マグネシウム1.0
【実施例6】
【0034】
ロスバスタチンカルシウム5.4g、D-マンニトール103.8g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30.0g、クロスポビドン8.0g及び軽質無水ケイ酸0.8gをポリエチレン製の袋に投入し、混合した。次いで、この混合物にステアリン酸マグネシウム2.0gを加え、ポリエチレン製の袋にて混合した。次いで、この混合物を、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形し、下記組成の錠剤を得た
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ロスバスタチンカルシウム 2.7
D-マンニトール 51.9
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 15.0
クロスポピドン 4.0
軽質無水ケイ酸 0.4
ステアリン酸マグネシウム 1.0
【実施例7】
【0035】
ロスバスタチンカルシウム5.4g、イソマルト103.8g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30.0g、クロスポビドン8.0g及び軽質無水ケイ酸0.8gをポリエチレン製の袋に投入し、混合した。次いで、この混合物にステアリン酸マグネシウム2.0gを加え、ポリエチレン製の袋にて混合した。次いで、この混合物を、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形し、下記組成の錠剤を得た
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ロスバスタチンカルシウム 2.7
イソマルト 51.9
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 15.0
クロスポピドン 4.0
軽質無水ケイ酸 0.4
ステアリン酸マグネシウム 1.0
【実施例8】
【0036】
ロスバスタチンカルシウム5.4g、ラクチトール103.8g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30.0g、クロスポビドン8.0g及び軽質無水ケイ酸0.8gをポリエチレン製の袋に投入し、混合した。次いで、この混合物にステアリン酸マグネシウム2.0gを加え、ポリエチレン製の袋にて混合した。次いで、この混合物を、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形し、下記組成の錠剤を得た
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ロスバスタチンカルシウム 2.7
ラクチトール 51.9
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 15.0
クロスポピドン 4.0
軽質無水ケイ酸 0.4
ステアリン酸マグネシウム 1.0」

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、個々の実施例で製造された錠剤の種類について、何ら記載はなされておらず、実施例1?8は全て同様の形式で記載されている。
口腔内崩壊錠には、一般的に口当たりや味等を考慮して、香料等を配合することや苦味マスキング技術を付与することが本件特許出願時の技術常識であることに鑑みれば、実施例1?3が直ちに口腔内崩壊錠に対応する実施例であったということはできず、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の他の記載をみても、特に実施例1?3等の特定の実施例が、口腔内崩壊錠が製造できることを裏付けるため、または、良好な崩壊性を示すために記載されたものであることが明らかとはいえない。
加えて、本件特許明細書の実施例1?3には、いずれも、原料をポリエチレン製の袋で混合後、ロータリー式打錠機(菊水製作所:VELA5-M型)を用いて直径5.5mmに圧縮成形したと記載されるのみで、打錠の条件等の製造条件は不明である。
意見書において提示された実施例1?3の結果なるものも、どのような製造条件で製造された錠剤に関するものか不明であるが、そもそも本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例において製造条件が具体的に記載されていない以上、平成30年10月22日受付の意見書で提示された試験結果が本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を裏付けるものとはいえない。

そして、詳細な製造条件の記載がない以上、本件特許の明細書の記載から、実施例1?3の錠剤が口腔内崩壊錠であることが認識できるとも、平成30年10月22日受付の意見書において提示された崩壊試験の結果が実施例1?3に対応するものであることが明らかともいえない。

ク 主張ウ及びオについて
上記キで検討したとおり、本件特許明細書に口腔内崩壊錠に関する実施例が記載されていたことが明らかとはいえない。
しかしながら、特許権者が令和1年5月7日受付の意見書に添付して提出した乙第1号証には、口腔内崩壊錠では崩壊性が重視されることから、マンニトールが適した糖アルコールであること、糖アルコールの中で乳糖並みの吸湿安定性を持つのはマンニトールだけであり、製剤の安定性が重要視される医薬固形製剤にはうってつけの糖アルコールといえること、及び、クロスポビドンは、直打法口腔内崩壊剤製剤における添加剤として、幅広く使用されていることが記載されている。さらに乙第2号証には、D-マンニトールは、ショ糖の60?70%の甘みを持ち冷涼感もあることから、近年では服薬コンプライアンスの改善を目的とした口腔内崩壊錠(OD錠)の賦形剤として汎用されており、グラニュトールは、D-マンニトールの優れた特長を具備しつつ、容易に直接打錠可能であり、OD錠に適用されていることが記載されている。

これらの特許権者が提出した資料によれば、マンニトールやクロスポビドンが口腔内製剤における適切な添加剤であることは、本件特許出願時の技術常識であり、本件特許明細書に記載の実施例が口腔内崩壊錠の実施例であることが明らかではないとしても、実施例1及び2等の記載からみて、本件発明3及び4は、「カチオンが多価である無機塩の安定化剤を含まずとも、高湿度環境下での保存において、化学的に安定で、かつ溶出性の低下しない錠剤を提供する」との課題を解決するものと認められる。

したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に反して特許されたものとはいえない。


第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第2項(直接打錠法による錠剤の製造方法に係る本件発明6について)
特許異議申立人前川卓己は、特許異議申立書において、本件発明6は、甲第18号証に記載された発明に、甲第2?3、4、5?13、14?15及び19号証を参照することにより、当業者が容易に想到し得たものである旨主張する。
しかしながら、甲第18号証には、1錠あたりプラバスタチン5mg、マンニトール及びステアリン酸Mgを含有する錠剤の直接打錠法による製造方法の発明が記載されているところ(段落【0013】?【0015】)、本件発明6とは、薬効成分が異なり、特定割合の低置換度合ヒドロキシプロピルセルロースや、クロスポビドンが含まれないという点においても異なるものであり、これらの相違点について甲第2?3、4、5?13、14?15及び19号証を参照することにより、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、本特許異議申立理由によっては、本件発明6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

2.特許法第36条第4項第1号(口腔内崩壊錠に係る本件発明3、4及び6について)
また、異議申立人前川卓己は、特許異議申立書において、本件の発明の詳細な説明は、当業者が、口腔内崩壊錠に係る特許を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない旨主張する。
しかしながら、例えば特許権者が令和1年5月7日受付の意見書に添付して提出した乙第1及び第2号証にあるように、口腔内崩壊錠は、当業者が周知技術に基づいて製造し得るものである。
したがって、特許異議申立人前川卓己のかかる主張は、採用することができない。


第9 むすび
以上のとおり、請求項1及び6に係る発明は、先願1に記載された発明である。
したがって、請求項1及び6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。

請求項2ないし4に係る発明については、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2ないし4に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項2ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、請求項5は、前記のとおり、訂正の請求により削除された。これにより、特許異議申立人による、請求項5に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び錠剤全重量に対して5.0?40.0%の範囲の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く)。
【請求項2】無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対してマンニトールが59.0?85.0%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが5.0?30.0%の範囲で含まれる、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除き、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除く。)。
【請求項3】無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対してマンニトールが59.0?85.0%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが5.0?30.0%の範囲で含まれる、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、口腔内崩壊錠である錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除き、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤全重量に対して15重量%以上25重量%以下含む錠剤を除く。)。
【請求項4】無晶形であるロスバスタチンカルシウム2.6mg、錠剤全重量に対して49.0?85.0%のマンニトール及び錠剤全重量に対して5.0?40.0%の範囲の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有し、カチオンが多価である無機塩を含有しない錠剤であって、さらに崩壊剤および滑沢剤を含み、崩壊剤がクロスポビドンであり、滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、口腔内崩壊錠である錠剤(但し、塩基性アミノ酸を含む錠剤を除く。)。
【請求項5】削除
【請求項6】直接打錠法によって、請求項1?4のいずれかに記載の錠剤を、製造する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-22 
出願番号 特願2017-101298(P2017-101298)
審決分類 P 1 651・ 537- ZDA (A61K)
P 1 651・ 536- ZDA (A61K)
P 1 651・ 113- ZDA (A61K)
P 1 651・ 16- ZDA (A61K)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 渡部 正博  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 光本 美奈子
前田 佳与子
登録日 2017-09-22 
登録番号 特許第6210584号(P6210584)
権利者 大原薬品工業株式会社
発明の名称 ロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤  
代理人 謝 卓峰  
代理人 謝 卓峰  
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