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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A47C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A47C
管理番号 1362319
異議申立番号 異議2018-700800  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-02 
確定日 2020-03-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6308905号発明「クッションパッド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6308905号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6308905号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6308905号の請求項2?9に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6308905号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成26年8月5日に出願され、平成30年3月23日にその特許権の設定登録がされ、同年4月11日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年10月 2日付け:特許異議申立人 山崎 裕士(「崎」の文字は異体字であるが、ここでは正字の「崎」とした。以下「申立人」という。)による請求項1?9に係る特許に対する特許異議の申立て(受付日10月4日)
平成30年12月14日付け:取消理由通知書
平成31年 2月18日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(受付日2月19日)
平成31年 3月13日付け:訂正拒絶理由通知書
平成31年 4月17日付け:特許権者による意見書の提出(受付日4月18日)
令和 1年 5月13日付け:審尋
令和 1年 6月11日付け:特許権者による回答書(以下「回答書」という。)の提出(受付日6月12日)
令和 1年 7月 3日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年 8月28日付け:手続続行通知書
令和 1年 9月 9日付け:特許権者による意見書の提出(受付日9月10日)
令和 1年 9月27日付け:取消理由通知書
令和 1年11月27日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(受付日11月28日)
令和 2年 1月 8日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
令和 2年 2月 4日付け:申立人による意見書の提出(受付日2月6日)


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和1年11月27日になされた訂正請求の趣旨は、本件特許第6308905号の願書に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下それぞれ「明細書」及び「特許請求の範囲」という。)を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

なお、特許法第120条の5第7項の規定により、平成31年2月18日付けの訂正請求書による訂正は、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「静ばね定数が25N/mm以下である」と記載されているのを、
「静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)である」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0008】?【0016】に記載された事項を削除する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0047】に
「引張試験時の荷重-たわみ曲線(負荷と標線間距離との関係)を測定し」と記載されているのを、
「引張試験時の荷重-たわみ曲線(負荷と標線間の変形との関係)を測定し」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0071】に
「動ばね定数」(三箇所)と記載されているのを、
「静ばね定数」に訂正する。

なお、本件訂正による訂正前の請求項1?9(以下「本件訂正による訂正前」を単に「訂正前」ということもある。)は一群の請求項に該当するから、訂正事項1?9に係る請求項1?9についての訂正は、一群の請求項である請求項1?9について請求されており、訂正事項10?12に係る明細書の訂正は、一群の請求項である請求項1?9について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1の「静ばね定数が25N/mm以下である」という記載について、明細書の段落【0049】の記載や静ばね定数が0N/mmでは引張荷重が0Nで変形が生じるという起こり得ない現象であることに基づいて「静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)である」という記載に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2?9について
訂正事項2?9に係る請求項2?9についての訂正は、それぞれ訂正前の請求項2?9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項10について
訂正事項10に係る明細書についての訂正は、訂正事項2?9によって削除される請求項2?9に対応する段落【0008】?【0016】に記載された事項を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項11について
ア 訂正請求書における主張
特許権者は、令和1年11月27日付け訂正請求書(第12頁4行?第13頁末行)において、明細書の段落【0047】の「引張試験時の荷重-たわみ曲線(負荷と標線間距離との関係)」という記載が「引張試験時の荷重-たわみ曲線(負荷と標線間の変形との関係)」という記載の誤記であるのは自明であることから、訂正事項12は特許法第120条の5第2項ただし書第2号の誤記の訂正を目的とするものであり、また新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである旨主張する。

イ 検討
令和1年7月3日付け取消理由通知書(決定の予告)の「第2 2(5)エ」にも示したように、明細書の段落【0044】の「次に図6を参照して、サポート部2(後部サポート部3)の荷重(圧縮および引張)とたわみとの関係について説明する。図6はコア部から採取した第1試験片の圧縮時および引張時の荷重-たわみ曲線である。」という記載及び段落【0047】の「引張試験時の荷重-たわみ曲線(負荷と標線間距離との関係)を測定し」という記載における該「荷重-たわみ曲線」について、図6(後記「第3 2」の記載事項B)をみるにその縦軸は荷重すなわち負荷であり、その横軸は変位であるたわみであることを踏まえると、段落【0047】の「荷重-たわみ曲線」に対する括弧書きとして「(負荷と標線間距離との関係)」より「(負荷と標線間の変形との関係)」が適切であるといえるから、訂正事項12は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の誤記の訂正を目的とするものといえ、また願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(5)訂正事項12について
訂正事項12に係る明細書についての訂正は、段落【0071】に「動ばね定数」(三箇所)と記載されているのを、その段落【0071】で説明する段落【0066】における表1に「静ばね定数」と記載されていること等に基づいて「静ばね定数」に訂正するものであるから、誤記の訂正を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1?3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。


第3 本件発明及び本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
1 本件発明
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

なお、本件訂正により請求項2?9は削除された。

「【請求項1】
着座者が着座する着座面およびその反対側の底面を有するサポート部を備え、
前記サポート部は、前記着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部から採取した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片について、JISK6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠して測定した圧縮時の荷重100Nに対するたわみが30mm以下であり、
前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)であることを特徴とするクッションパッド。」

2 本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
明細書及び図面には、次の事項が記載されている。

A「【0044】
次に図6を参照して、サポート部2(後部サポート部3)の荷重(圧縮および引張)とたわみとの関係について説明する。図6はコア部から採取した第1試験片の圧縮時および引張時の荷重-たわみ曲線である。第1試験片は、サポート部2の硬さ分布を測定するための第2試験片とは異なる試験片である。第1試験片は、着座面11(図2参照)を含む着座部21と底面12を含む底面部24との中間部位に位置するコア部(中央上部22及び中央下部23)の左右方向の中央から採取される。第1試験片は、厚さ中央13を含むように、長さ100mm、幅100mm、厚さ50mmの四角柱形状に形成される。第1試験片は、表面スキンを有しておらず、クッションパッド1の上下方向(矢印U-D方向)と厚さ方向が平行であり、長さ方向および幅方向がクッションパッド1の上下方向(矢印U-D方向)と直角である。
【0045】
採取された第1試験片は、JIS K6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠した試験方法で、荷重100Nに対する圧縮時のたわみが測定される。この試験方法によれば、第1試験片より大きい支持板(図示せず)の上に上下方向(矢印U-D方向)を向けて置かれた第1試験片が、第1試験片の上面(100mm×100mmの面)より大きい加圧面をもった加圧板(図示せず)により予備圧縮された後、厚さの75±2.5%まで毎分100±20mmの速度で加圧されて減圧される。加圧時(圧縮時)の荷重100Nに対する第1試験片のたわみを測定する。このときの第1試験片のたわみが30mm以下となるようにクッションパッド1は成形される。
【0046】
次に、第1試験片を用いた引張試験について説明する。まず、第1試験片の上面(100mm×100mmの面)に第1試験片が変形しないように中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線を付ける。次いで、第1試験片の中央の断面に均一に引張力が加わるように、引張試験機のつかみ具に第1試験片の長さ方向の両端(100mm×50mmの面を含む部分)を左右対称に取り付ける。予備張力を加えずに、20mm/分の速度でつかみ具を移動させて引張試験を行い、300N負荷時の静ばね定数を求める。本実施の形態では、負荷290Nのときの標線間の距離L1(mm)と、負荷310Nのときの標線間の距離L2(mm)とを測定し、以下の「式1」により300N負荷時の静ばね定数を求める。
【0047】
静ばね定数[N/mm]=(310-290)/(L2-L1)…式1
このときの静ばね定数が25N/mm以下となるようにクッションパッド1は成形される。なお、この静ばね定数の求め方は一例であり、他の方法により静ばね定数を求めることは当然可能である。静ばね定数を求める他の方法としては、例えば、引張試験時の荷重-たわみ曲線(負荷と標線間距離との関係)を測定し、負荷300Nのときの荷重-たわみ曲線の接線の正接の値(又は、荷重-たわみ曲線の傾き)を静ばね定数とするものが挙げられる。
【0048】
このようにクッションパッド1は、第1試験片について、圧縮時の荷重100Nに対するたわみが30mm以下であり、300N負荷時の引張荷重に対する静ばね定数が25N/mm以下であるように成形される。なお、圧縮時の荷重100Nに対するたわみは、25mm以上かつ30mm以下が好適である。圧縮時の荷重100Nに対するたわみが25mmより小さくなるとソフト感が乏しく座り心地が悪くなり、たわみが30mmを超えるとホールド性が乏しくなるからである。
【0049】
また、300N負荷時の引張荷重に対する静ばね定数は、25N/mm以下かつ15N/mm以上が好適である。300N負荷時の引張荷重に対する静ばね定数が25N/mmより大きくなるとぐらつき感が大きくなり、静ばね定数が15N/mmより小さくなるとホールド性が乏しくなるからである。
・・・
【0066】



なお、表1に示す各成分は以下のとおりである。
・・・
【0069】
また、実施例1、実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2におけるクッションパッドは、後部サポート部のコア部から、厚さ中央を含むように第1試験片(長さ100mm幅100mm厚さ50mm)を採取した。採取した第1試験片を用いて、JIS K6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠した試験方法で荷重100Nに対する圧縮時のたわみ(mm)を測定した。
【0070】
また、中心から等間隔に標線を付けた第1試験片の中央の断面に均一に引張力が加わるように、引張試験機のつかみ具に第1試験片の長さ方向の両端(100mm×50mmの面を含む部分)を左右対称に取り付けた。次いで、予備張力を加えずに、20mm/分の速度でつかみ具を移動させて引張試験を行った。負荷290Nのときの標線間の距離L1(mm)と、負荷310Nのときの標線間の距離L2(mm)とを測定し、(310-290)/(L2-L1)の計算式により、300N負荷時の静ばね定数(N/mm)を求めた。
【0071】
表1に示すように、ぐらつき感の評価は実施例1?3が◎、実施例4が○、比較例1?4が×であった。たわみは、実施例1、実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2いずれも30mm以下であった。動ばね定数は、実施例1、実施例3及び実施例4が25N/mm以下であり、比較例1及び比較例2は25N/mmを超えていた。この試験から、たわみが30mm以下であって動ばね定数が25N/mm以下の実施例1、実施例3及び実施例4は、ぐらつき感の評価が○以上であることがわかった。従って、第1試験片のたわみを30mm以下、且つ、動ばね定数を25N/mm以下にすることで、ぐらつき感を抑制できることがわかった。」

B 「




第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 令和1年7月3日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して当審が令和1年7月3日付けで通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

(1)本件特許の請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり(以下「取消理由1」、「取消理由1(実施可能要件)」などという。)、
(2)請求項1?9に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載について同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから(以下「取消理由2」、「取消理由2(明確性)」などという。)、
同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。

2 令和1年9月27日付け取消理由通知に記載した取消理由について
当審が令和1年9月27日付けで通知した取消理由(以下「取消理由A」ともいう。)の要旨は、次のとおりである。

本件特許は、発明の詳細な説明について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 当審の判断
1 令和1年9月27日付けの取消理由について
(1)取消理由の概要
令和1年9月27日付けの取消理由(取消理由A)の概要は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】?【0047】の記載に関し、「静ばね定数[N/mm]=(310-290)/(L2-L1)…式1」(段落【0047】)の分母(L2-L1)について、「負荷310Nのときの標線間の距離L2(mm)」と「負荷290Nのときの標線間の距離L1(mm)」である場合の(L2-L1)の値(以下「標線間の距離とした場合」という。)、及び「負荷310Nのときの標線間の変形L2(mm)」と「負荷290Nのときの標線間の変形L1(mm)」である場合(以下「標線間の変形とした場合」という。)の(L2-L1)の値がどのように異なるのであって、どのような値となるのか不明確であるというものである。

(2)判断
ア 「標線間の距離とした場合」と「標線間の変形とした場合」の値がどのように異なるのか不明確であること、及び、「標線間の変形とした場合」に(L2-L1)の値がどのような値となるのか不明確であること(以下「理由A1」という。)について
(ア)
上記(1)の「標線間の変形とした場合」は、平成31年2月18日付け訂正請求書による訂正事項11において、明細書の段落【0046】に「負荷290Nのときの標線間の距離L1(mm)と、負荷310Nのときの標線間の距離L2(mm)とを測定し」と記載されているのを、「負荷290Nのときの標線間の変形L1(mm)と、負荷310Nのときの標線間の変形L2(mm)とを測定し」に訂正することにより生じるものである。
(イ)
しかし、上記第2に示すとおり、平成31年2月18日付けの訂正請求書による訂正は取り下げられたものとみなされ、前提となる上記(1)の「標線間の変形とした場合」が明細書に記載のない事項となり理由A1の根拠はなくなったから、当該理由A1は解消した。

イ 「標線間の距離とした場合」に(L2-L1)の値がどのような値となるのか不明確であること(以下「理由A2」という。)について
後述の「2(1-2)ア」及び「2(2-2)ア」に示すとおり、「標線間の距離とした場合」に(L2-L1)の値がどのような値となるのか示されていないとはいえないため、当該理由A2は解消した。

2 令和1年7月3日付け取消理由通知(決定の予告)について
(1)取消理由1(実施可能要件)について
(1-1)取消理由1の概要
ア 請求項1の「前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数」について、発明の詳細な説明の段落【0046】?【0071】の記載(記載事項A)を参照するに、「第1試験片を用いた引張試験」において「中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線」を用い、「負荷290Nのときの標線間の距離L1(mm)と、負荷310Nのときの標線間の距離L2(mm)とを測定」して「静ばね定数[N/mm]=(310-290)/(L2-L1)…式1」により求められるものと理解されるものの、「中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線」の「標線間の距離」が具体的に示されておらず、また「第1試験片を用いた引張試験」がJIS規格等に準拠することも示されていないために該「300N負荷時の静ばね定数」による特性を一意に定められないことから、発明の詳細な説明は、請求項1の「前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下であること」という記載に係る事項に基づく特性を定量的に決定するための試験方法を十分に示したものといえない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?9に係る発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものと認められない(以下「理由1ア」という。)。

イ 請求項1の「静ばね定数が25N/mm以下であること」という記載と、発明の詳細な説明の段落【0071】の「動ばね定数」を「25N/mm以下」とする記載とが整合せず、不明確であるために、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?9に係る発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものと認められない(以下「理由1イ」という。)。

ウ 請求項2?8に係る発明は要するに「クッションパッド」における硬さ分布に関する特定をしており、発明の詳細な説明において特定の硬さ分布に「クッションパッド」を製造するための具体的な手法についての記載がないために、発明の詳細な説明は、当業者が請求項2?8及び請求項2?8を直接又は間接的に引用する請求項9に係る発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものと認められない(以下「理由1ウ」という。)。

(1-2)検討・判断
ア 理由1アについて
(ア)令和1年5月13日付けの審尋の趣旨について
訂正前の請求項1の「前記サポート部は、前記着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部から採取した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片について、・・・前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下であることを特徴とするクッションパッド。」という記載に関して、上記「(1-1)ア」で述べたように発明の詳細な説明の段落【0046】?【0071】(特に【0046】?【0047】,【0070】)の記載を参照するに、請求項1の「前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数」は、「第1試験片を用いた引張試験」において「中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線」を用い、「負荷290Nのときの標線間の距離L1(mm)と、負荷310Nのときの標線間の距離L2(mm)とを測定」して「静ばね定数[N/mm]=(310-290)/(L2-L1)…式1」により求められるものと理解されるものの、「中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線」の「標線間の距離」が具体的に示されておらず、また「第1試験片を用いた引張試験」がJIS規格等に準拠することも示されていない。
一方で発明の詳細な説明の段落【0047】には「なお、この静ばね定数の求め方は一例であり、他の方法により静ばね定数を求めることは当然可能である。」という記載があり、静ばね定数は他の方法でも求められるものと一応理解される。
そこで当審は、「第1試験片を用いた引張試験」において「中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線」を用いない他の方法で静ばね定数を求めても、本件の発明の詳細な説明の段落【0066】の表1と同等の「静ばね定数(N/mm)」が求められるのかについて特許権者に釈明を求めるために審尋を通知した。

(イ)令和1年6月11日付け回答書による釈明
審尋に対し、特許権者は乙第1号証(木村宏著、改訂材料強度の考え方、株式会社アグネ技術センター発行、2002年3月25日改訂、第8?10頁)を提出した上で、回答書において、乙第1号証の記載を踏まえて「つまり、乙第1号証には、試験片の伸び(変形)を試験機のクロスヘッドの移動距離として測定できることが記載されています。なお、乙第1号証には、試験片のつかみ部および肩の部分の変形、及び、ロードセルを含めた試験機全体の弾性変形は、誤差の原因となることも記載されています。」(第2頁第14行?17行)と述べ、その「誤差の原因」となる「試験片のつかみ部および肩の部分の変形による誤差」については、第1試験片は長さ100mm、幅100mm、厚さ50mmの四角柱状(明細書の段落【0044】)であって断面積が長さ方向の全長に亘って一定なので、第1試験片の変形をクロスヘッドの移動距離として測定した場合に、つかみ部および肩の部分の変形が原因となる誤差が生じない旨述べ、またその「誤差の原因」となる「ロードセルを含めた試験機全体の弾性変形による誤差」については、第1試験片に試験機が加える力は、乙第1号証の多結晶材料の試験片に試験機が加える力よりも著しく小さい300Nでロードセルを含めた試験機全体の弾性変形がほとんど生じないので、第1試験片の変形をクロスヘッドの移動距離として測定したときに、試験機全体の弾性変形による誤差は無視できる旨を述べた上で、「(4)結び 以上のことから、第1試験片の変形は、試験機のクロスヘッドの移動距離に等しいとみなすことができます。なお、クロスヘッドの移動距離は、レーザ変位計やダイヤルゲージ等の公知の測定機を用いて測定できます。従って、第1試験片を用いた引張試験において、第1試験片に付した標線間の変形の代わりに、試験機のクロスヘッドの移動距離を用い、第1試験片に加えた力を試験機のクロスヘッドの移動距離で除して、発明の詳細な説明の段落【0066】の表1と同等の静ばね定数を求めることができます。発明の詳細な説明には、第1試験片をクッションパッドから採取する位置や第1試験片の大きさ、試験のときの引張速度が記載されていますので、当業者は、発明の詳細な説明の記載および出願時の技術常識に基づき、第1試験片に付した標線間の変形や引張試験機のクロスヘッドの移動距離を用いて、300N負荷時の静ばね定数を一意に定められると確信致します。」(第3頁第5?17行)という主張をしている。

(ウ)令和1年11月27日付けの特許権者による意見書について
特許権者は、該意見書において、「願書に最初に添付した明細書の段落【0046】,【0070】には、負荷290Nのときの標線間の距離L1と負荷310Nのときの標線間の距離L2との差(標線間の変形)を、段落【0047】の(式1)に代入して300N負荷時の静ばね定数を求めることが記載されていますから、当業者が本件発明を実施可能な程度に明確かつ十分に発明が説明されています。」(第2頁第9?13行)と主張している。

(エ)判断
上記(ア)でも述べたように、発明の詳細な説明の段落【0047】には「なお、この静ばね定数の求め方は一例であり、他の方法により静ばね定数を求めることは当然可能である。」という記載があることから、静ばね定数は他の方法でも求められるものと理解されるところ、上記(イ)に示す回答書における該主張を踏まえると、試験機のクロスヘッドの移動距離を用い、第1試験片に加えた力を試験機のクロスヘッドの移動距離で除すと、発明の詳細な説明の段落【0066】の表1と同等の静ばね定数を求めることができ、当該静ばね定数が求められるように「中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線」の「標線間の距離」を定め得るものと理解される。
付言すると、JISに定められた試験方法を参考として、例えば試験片における試験機のつかみ部のつかむ寸法の調整を行う等、発明の詳細な説明の段落【0066】の表1と同等の静ばね定数を求め、当該静ばね定数が求められるように「中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線」の「標線間の距離」を定めるよう、試験機のクロスヘッド移動距離を用いることは、文献解析、実験、分析、製造等を含む研究開発のための通常の技術的手段の利用であり、当業者の通常の創作能力の発揮に留まる事項といえる。
してみると、発明の詳細な説明は、本件発明1、特に、本件発明1の「前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)であること」を実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、上記理由1アの点で当業者が本件発明1を実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。よって、理由1アは解消した。

(オ)令和2年2月4日付けで申立人から提出された意見書について
a 申立人は、該意見書において以下の旨主張している。
発明の詳細な説明の段落【0047】の式1の標線間の変形から求める静ばね定数は、初期標線間距離により値が異なり、標線間の変形から求める静ばね定数の値と、クロスヘッドの移動距離から求める静ばね定数の値とが異なり、同等の静ばね定数を求めることができないから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない(第2頁下から7行?第5頁11行、以下「意見1」という。)。

発明の詳細な説明の段落【0046】、【0047】に記載された標線間の変形を使った方法(2点から静ばね定数を求める方法)で求められる静ばね定数、接線の正接を使った方法(任意の1点から静ばね定数を求める方法)で求められる静ばね定数と、令和1年7月3日付け取消理由通知書で審判官の認めたクロスヘッドの移動距離を使った方法(2点から静ばね定数を求める方法)で求められる静ばね定数は、それぞれ値が異なり一意に決まらないから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない(第5頁13行?第6頁13行、以下「意見2」という。)。

クロスヘッドの移動距離を使って算出した静ばね定数は、標線間の変形を使って算出した静ばね定数よりも必ず小さな値となるため、標線間の変形を使って静ばね定数を算出することに代えてクロスヘッドの移動距離を使って静ばね定数を算出することを許容すると、請求項1に係る発明の技術的範囲が実質的に拡張されるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の趣旨に反する(第6頁15行?第7頁15行、以下「意見3」という。)。

b 検討
上記(エ)に示すとおり、発明の詳細な説明は、本件発明1、特に、本件発明1の「前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)であること」を実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、上記理由1アの点で当業者が本件発明1を実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえず、請求人の上記意見1?3は採用できない。

イ 理由1イについて
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められ、かかる訂正によって訂正前の請求項2?9が削除された。また、訂正前の明細書の段落【0071】における「動ばね定数」を「25N/mm以下」とする記載は、「静ばね定数」を「25N/mm以下」とするものと訂正され、当該記載は訂正後の請求項1の「静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)であること」という記載と整合するから、理由1イは解消した。

ウ 理由2ウについて
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められ、かかる訂正によって訂正前の請求項2?9は削除されるものであるから、訂正前の請求項2?9に係る理由1ウは解消した。

(2)取消理由2(明確性)について
(2-1)取消理由2の概要
ア 請求項1の「前記サポート部は、前記着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部から採取した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片について・・・前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下であること」という記載に係る事項は、上記「(1-1)ア」で述べたように「300N負荷時の静ばね定数」が一意に定まらないためにその構成が技術的に明らかでなく、不明確であるために、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?9に係る発明は不明確である(以下「理由2ア」という。)。

イ 請求項1の「前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下であることを特徴とするクッションパッド。」という記載では、静ばね定数が0N/mmである場合を請求項1に係る発明は含むが、静ばね定数が0N/mmである場合が具体的にどのようなものであるのか不明確であるために、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?9に係る発明は不明確である(以下「理由2イ」という。)。

ウ 請求項5の「請求項1から4のいずれかにクッションパッド。」という記載は、日本語として不適切であって該記載に係る事項は不明確であるために、請求項5及び請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6?9に係る発明は不明確である(以下「理由2ウ」という。)。

エ 請求項6の「前記第1部および前記第2部」という記載について、請求項6が請求項1を引用する請求項5を引用する場合において、「第1部」及び「第2部」は既出の用語でないこと、及び請求項7の「前記第1サイド部および前記第2サイド部」という記載及び請求項8の「前記第2部」という記載についても、同様に引用形式によって既出の用語でないことから、請求項6?8及び請求項6?8を直接又は間接的に引用する請求項9に係る発明は不明確である(以下「理由2エ」という。)。

オ 請求項9の「前記サポート部は、単一の発泡合成樹脂材料により一体に成形されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のクッションパッド。」という記載について、上記「1(1)ウ」で述べたように請求項9が直接又は間接的に引用する請求項2-8に係る発明において特定される硬さ分布を有する「クッションパッド」を製造するための手法が発明の詳細な説明に十分に記載されていないことをも踏まえると、「単一の発泡合成樹脂材料」とは材料の成分及び比率が全て同じことであるのか、それとも成分が同じであるものの比率が異なるものをも含むのか、添加剤の有無で異なるものを含むのか、それとも別の定義によるものか不明確であるために、請求項9に係る発明は不明確である(以下「理由2オ」という。)。

(2-2)判断
ア 理由2アについて
上記「(1-1)ア」に係る取消理由1の理由1アは上記「(1-2)ア」のとおり、解消し、請求項1の「300N負荷時の静ばね定数」が一意に定まるものと理解されるので理由2アは解消した。

イ 理由2イについて
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められ、訂正後の請求項1は「静ばね定数が」「0N/mmは除く」ものとされたから、訂正前の請求項1に係る発明が「静ばね定数が0N/mmである場合」を含むことを根拠とする理由2イは解消した。

ウ 理由2ウについて
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められ、かかる訂正によって訂正前の請求項5?9は削除されるものであるから、訂正前の請求項5?9に係る理由2ウは解消した。

エ 理由2エについて
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められ、かかる訂正によって訂正前の請求項6?9は削除されるものであるから、訂正前の請求項6?9に係る理由2エは解消した。

オ 理由2オについて
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められ、かかる訂正によって訂正前の請求項9は削除されるものであるから、訂正前の請求項9に係る理由2オは解消した。

3 令和1年9月27日付け取消理由通知及び令和1年7月3日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
3-1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として、次の甲第1?3号証(以下「甲1?3」ということもある。)を提出し、以下の申立理由1及び2により、特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開2000-79037号公報
甲第2号証:特開2014-74637号公報
甲第3号証:特開2006-149466号公報

(1)申立理由1 特許法第29条第1項(同法113条2項)
本件発明1は、甲1発明と同一であり、新規性を有さない。

(2)申立理由2 特許法第29条第2項(同法113条2項)
ア 本件発明1は、甲1発明、甲2に記載された事項から容易想到である。
イ 請求項2?9に係る発明は、甲1発明、甲2?3に記載された事項から容易想到である。

3-2 各甲号証の記載事項等
(1)甲1の記載事項、認定事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)

(1a)「【請求項1】 自動車用シートクッションパッドであって、
座面部の少なくとも一部がハイレジリエンスフォームからなり、
前記座面部において測定される「25%歪み時荷重」及び「3%歪み時荷重」を用いて次式(1)から算出される「3%ISR」値が約6以上であることを特徴とする自動車用シートクッションパッド。
「3%ISR」=「25%歪み時荷重」/「3%歪み時荷重」・・・(1)
(上記において、「25%歪み時荷重」は直径60mmの加圧板で押圧した際に、厚みが25%圧縮される荷重をいい、「3%歪み時荷重」は前記加圧板で押圧した際に、厚みが3%圧縮される荷重をいう。)」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は自動車用シートクッションパッド(以下、単に「クッションパッド」ともいう)に関する。」

(1c)「【0005】本発明は上記に鑑みてなされたものであり、表面が柔軟な感触を与えるため座り心地がよく、かつ長時間の運転によっても疲労が生じにくく、しかも二層構造にする必要がないため、低コストで製造でき、デザインの自由度も大きいクッションパッドを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1のクッションパッドは、上記の課題を解決するために、自動車用シートクッションパッドであって、座面部の少なくとも一部がハイレジリエンスフォームからなり、前記座面部において測定される「25%歪み時荷重」及び「3%歪み時荷重」を用いて次式(1)から算出される「3%ISR」値が約6以上であるものとする。
【0007】
「3%ISR」=「25%歪み時荷重」/「3%歪み時荷重」・・・(1)
ここで、「25%歪み時荷重」とは、直径60mmの加圧板で押圧した際に、厚みが25%圧縮される荷重をいい、「3%歪み時荷重」とは、前記加圧板で押圧した際に、厚みが3%圧縮される荷重をいう。」

(1d)「【0011】
【発明の実施の形態】本発明のクッションパッドAは、例えば、図1に示すような自動車用のフロントシート又はリヤシートを構成するものであって、座面部1の一部又は全部がハイレジリエンスフォームからなる。本発明でいうハイレジリエンスフォームとは、高弾性フォーム、すなわちコア反発弾性率が50%以上のものを言う。コア反発弾性率は、次の測定方法により測定される。
・・・
【0019】本発明のクッションパッドを構成するハイレジリエンスフォームとしては、イソシアネートと、ポリオール、水などの活性水素化合物とから合成されるポリウレタンフォームが好適に用いられる。
・・・
【0028】
【実施例】以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0029】1.クッションパッドの製造
下記表1に記載の成分を同表に記載の割合で配合し、均一に混合したのち、モールド内に注入し発泡・硬化させて、図2及び図3に示す端面形状を有する成形品を得た。その際にモールド内に裏面支持部材をセットし、一体に成形させた。裏面支持部材としては、実施例1及び比較例1では、ポリプロピレン製ネット(日石合樹製品(株)製日石コンウエドネット)をそれぞれ用い、実施例2及び比較例2では、ウレタン繊維(鐘紡(株)製エスパンシオーネ)をそれぞれ用いた。
【0030】なお、図2は、クッションパッドの中心線における端面図であり、図3(a)?(c)は、図2のa線?c線のそれぞれにおける端面図である。a線は、ヒップポイントを通過する線であり、直径約15mmの窪み3が設けられている。
【0031】図2において符号4及び5で示された吊り込み溝は、それぞれクッションシートの幅方向に設けられている。これらの吊り込み溝は、クッションシートの据え付け時における重力方向に設けられており、クッションシートの表面からの鉛直線となす角θは、それぞれ12.6゜である。また、吊り込み溝の深さは40mmであり、2本の吊り込み溝間の距離dは148mmである。
【0032】また、図3における寸法α、β、γは、それぞれα=65mm、β=80mm、γ=85mmであって、a線とb線の間隔は150mm、b線とc線の間隔は100mmである。
【0033】
【表1】



【0034】2.3%ISR値及び5%ISR値の測定
上記で得られた成形品の座面部における3%ISR値、5%ISR値を、図2のa線とb線の間の座面部であって、吊り込み溝の設けられていない平滑な部分において測定した。
【0035】測定は、(株)島津製作所製オートグラフにより、直径60mmの円盤を用いて、クロスヘッド速度100mm/分で行った。
【0036】結果を測定部位の初期厚さと共に表2に示す。
【0037】
【表2】



【0038】表2に示されたように、実施例1及び2のクッションパッドでは、3%ISR値が約6以上であり、5%ISR値が約4以上であるが、比較例1及び2のものは、いずれもこの基準を満たしていない。
【0039】なお、これらの結果から、本発明のクッションパッドでは、裏面支持部材として実施例1のポプロピレン製ネットのような硬質素材と実施例2のウレタン繊維のような軟質素材のいずれをも用いることができるが、硬質素材を用いた場合の方が本発明の特長がより顕著に現れることが分かる。
【0040】3.荷重-たわみ曲線の測定
上記実施例1及び比較例1により得られたクッションパッドの座面部における荷重-たわみ曲線を、図2のa線(ヒップポイント)を中心として測定した。測定部位の初期厚さは、実施例1のものが64.2mm、比較例1のものが66.1mmであった。
【0041】測定は、(株)島津製作所製オートグラフにより、直径200mmの円盤を用いて、クロスヘッド速度100mm/分で行った。
【0042】結果を図4及び図5に示す。
【0043】これらの結果から、実施例1のものは比較例1のものと比較して表面が柔軟であり、かつ走行時の突き上げ感が小さい(フイット感が大きい)ことが分かる。
・・・
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のクッションパッドが適用される自動車用シートの一例を示す斜視図である。
【図2】実施例及び比較例で製造したクッションパッドの中心線における縦端面図である。
【図3】図2のa線、b線及びc線のそれぞれにおける横端面図である。
【図4】実施例1のクッションパッドの荷重-たわみ曲線を示す図である。
・・・(以下省略)・・・」

甲1には以下の図が示されている。








イ 甲1の認定事項
a 甲1には、「クッションパッド」(摘示(1b))に関し開示されているところ、
【0029】に「下記表1に記載の成分を同表に記載の割合で配合し、均一に混合したのち、モールド内に注入し発泡・硬化させて、図2及び図3に示す端面形状を有する成形品を得た。その際にモールド内に裏面支持部材をセットし、一体に成形させた。裏面支持部材としては、実施例1及び比較例1では、ポリプロピレン製ネット(日石合樹製品(株)製日石コンウエドネット)をそれぞれ用い、・・・」と記載され、
【0030】に「なお、図2は、クッションパッドの中心線における端面図であり」との記載及び「a線は、ヒップポイントを通過する線であり、直径約15mmの窪み3が設けられている。」と記載され、
【0038】に「・・・実施例1及び2のクッションパッドでは、3%ISR値が約6以上であり」と記載され、
【0040】に「上記実施例1及び比較例1により得られたクッションパッドの座面部における荷重-たわみ曲線を、図2のa線(ヒップポイント)を中心として測定した。測定部位の初期厚さは、実施例1のものが64.2mm、比較例1のものが66.1mmであった。」と記載され、
【0041】に「測定は、(株)島津製作所製オートグラフにより、直径200mmの円盤を用いて、クロスヘッド速度100mm/分で行った。」と記載され、
【0042】に「結果を図4及び図5に示す。」と記載され、
【0029】の「下記表1に記載の成分を同表に記載の割合で配合し」との記載から、【0033】の表1には実施例として「イソシアネートとしてC-MDIを90、TDI-80を10、ポリオールとしてPPG-Aを80、POP-Bを20、架橋剤を2.0、水を3.0、整泡剤を1.0、触媒Aを0.5、触媒Bを0.2の割合で配合」することが示されているということができ、
【図面の簡単な説明】【図4】の「実施例1のクッションパッドの荷重-たわみ曲線を示す図である。」との記載から、図4には横軸のたわみが30mmの位置において縦軸の押し込み方向のクッションパッドの荷重を示すプロットが少なくとも300Nと400Nの半分よりも上方である350N以上であることが示されているといえるから、次の事項が認定できる。
「クッションパッドであって、
イソシアネートとしてC-MDIを90、TDI-80を10、ポリオールとしてPPG-Aを80、POP-Bを20、架橋剤を2.0、水を3.0、整泡剤を1.0、触媒Aを0.5、触媒Bを0.2の割合で配合し、
均一に混合したのち、モールド内に注入し発泡・硬化させ、成形品を得るものであって、その際にモールド内に裏面支持部材をセットし、一体に成形させ、裏面支持部材としては、ポリプロピレン製ネット(日石合樹製品(株)製日石コンウエドネット)を用いたものであり、
3%ISR値が約6以上であり、
中心線における端面図において直径約15mmの窪み3が設けられているヒップポイントを通過するa線を中心として測定したクッションパッドの座面部1の荷重-たわみ曲線であって、測定部位の初期厚さは64.2mmであり、測定を直径200mmの円盤を用いて、クロスヘッド速度100mm/分で行った結果において、横軸のたわみが30mmの位置において縦軸の押し込み方向のクッションパッドの荷重が350N以上である、
クッションパッド。」

b 摘示(1d)【0011】の「本発明のクッションパッドAは、例えば、図1に示すような自動車用のフロントシート又はリヤシートを構成するものであって、座面部1の一部又は全部がハイレジリエンスフォームからなる。」との記載を踏まえると図1には「クッションパッドA」が「着座者が着座する面及びその反対側の面を有する座面部1」を備えることが示されているといえる。
そして、当該「クッションパッドA」は上記(a)の「クッションパッド」といえることから、上記「a」の「クッションパッド」に関し、次の事項が認定できる。
「着座者が着座する面及びその反対側の面を有する座面部1を備え」ること。

ウ 甲1に記載された発明(甲1発明)
上記「ア」及び「イ」から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「クッションパッドであって、
着座者が着座する面及びその反対側の面を有する座面部1を備え、
イソシアネートとしてC-MDIを90、TDI-80を10、ポリオールとしてPPG-Aを80、POP-Bを20、架橋剤を2.0、水を3.0、整泡剤を1.0、触媒Aを0.5、触媒Bを0.2の割合で配合し、
均一に混合したのち、モールド内に注入し発泡・硬化させ、成形品を得るものであって、その際にモールド内に裏面支持部材をセットし、一体に成形させ、裏面支持部材としては、ポリプロピレン製ネット(日石合樹製品(株)製日石コンウエドネット)を用いたものであり、
3%ISR値が約6以上であり、
中心線における端面図において直径約15mmの窪み3が設けられているヒップポイントを通過するa線を中心として測定した荷重-たわみ曲線であって、測定部位の初期厚さは64.2mmであり、測定を直径200mmの円盤を用いて、クロスヘッド速度100mm/分で行った結果において、横軸のたわみが30mmの位置において縦軸の押し込み方向のクッションパッドの荷重が350N以上である、
クッションパッド。」

(2)甲2の記載事項及び認定事項
ア 甲2の記載事項
甲2には以下の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、シートに使用される支持部材の支持力解析方法に関する。詳しくは、車両用シートに使用される弾性変形可能な支持部材の支持力解析方法に関する。」

「【0006】
本発明は、上記した点に鑑みて創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、弾性材料が変形する際に生じる角度変化を考慮した支持力の解析を行えるようにすることにある。」

「【0014】
【図1】シートクッションをブロックに分けた概念図である。
【図2】シートクッションが変形した際にブロックの形状が変わる概念図である。
【図3】シートクッションと荷重実験に使用するブロック片との関係を表す概念図である。
【図4】高傾斜角度でブロック片を配置した場合の加圧実験の概念図である。
【図5】低傾斜角度でブロック片を配置した場合の加圧実験の概念図である。
【図6】加圧部材の移動距離と負荷荷重の関係を表した実験データ線図である。
【図7】補正式の記号の意味を表す図である。
【図8】図6で示した実験データを補正したデータ線図である。
【図9】ブロック片の角度と荷重値との関係をひずみ毎に比較したデータ線図である。
【図10】ウレタンフォームの特性を示したデータ線図である。
【図11】初期状態からの角度変化と支配的な応力との関係を表す概念図である。
【図12】実験で使用したブロック片の設定角度と支配的な応力との関係を表す概念図である。」

「【0015】
以下に、本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。先ず、弾性変形が可能な部材のどの部分に着目して解析を行うのかを説明する。
図1はシートクッション1の断面図であり、当該断面図を縦線と横線を所定の間隔で引いて区分けして示している。当該線は上下方向の縦線と、左右方向の横線と、の2方向に各々複数延ばして示されている。なお、図1は説明に使用される概念図であるため、線の間隔は比較的大きくしている。よって、図面に示した線の間隔と、解析するために適切な間隔と、は関係が無い。
この線により構成された最小の正方形を一つのブロック2と考える。図1には複数のブロック2が記載されているが、その中の対角線を付した1つのブロック2について着目して、説明する。ブロック2はシートクッション1のいわゆる天板部の下部に位置するブロックである。
図2は着座荷重を上方から受けてシートクッション1が変形することにより図1で対角線を付したブロック2がどのように変形するのかを表す概念図である。なお、着座荷重は白抜き矢印で表しており、2点鎖線はシートクッション1に着座荷重が負荷されていない状態を表している。
図1で示されているように、シートクッション1に負荷がかかっていない状態では、ブロック2は正方形である。当該状態を第1状態と考える。また、図2に示す負荷がかかりシートクッション1が変形した状態を第2状態と考える。第2状態の場合、図2に示すようにブロック2は正方形を維持できず変形する。このような変形状態は各部位が変位することによりもたらされるため、従前の解析においては、単に位置が変わっていると捉えることが通常である。しかし、本発明においては、単に位置が変わっているという視点に立つのではなく、角度も変わっているという視点を取り入れることが最大の特徴である。
【0016】
次に支持部材の弾性変形経緯における第1状態と第2状態との間で生じる角度変化量をどのように求めるのかを例示する。
図1に示すブロック2の第1状態における正方向の頂点A、B、C、D部分が、図2に示す第2状態になった際に、この4つのA、B、C、D部分で囲われた領域での角度がどのように変位したかを把握してシート性能の評価解析に用いる。角度の把握は、例えば、第1状態では正方形のブロック2の対角線X、Yの傾き角度で把握する。この時の傾き角度の読み取りは、例えば、図2に示す基準線Lを基準として読み取る。基準線Lは図1に示す第1状態における横線と平行な線として定められている。
ブロック2の対角線X、Yの傾き角度の第1状態から第2状態への変化の把握の仕方を次に説明する。先ず、図1に示す第1状態ではブロック2は正方形であるので、対角線X、Yの傾き角度は基準線Lを基準として把握すると、45度と-45度となる。すなわち、図1に示すブロック2の正方形の頂点AとBを結ぶ対角線X、及び頂点CとDを結ぶ対角線Yと基準線Lとのなす角は、時計回り方向で読み取った場合、対角線Xが45度、対角線Yが-45度となっている。
これが、図2に示す第2状態では、ブロック2は荷重がかかって圧縮されて変形し、正方形ではない四角形に変形した状態となる。そして、この状態におけるブロック2の対角線X、Yは図2に示すθa1の傾き角度とθb1の傾き角度となる。このθa1の傾き角度とθb1の傾き角度は、第1状態の角度の45度及び-45度より小さい角度、例えば40度と-40度となっている。ブロック2はシートクッション1の中央位置下部にあることから、ブロック2の左右の変位量も同じとなっており、そのため、対角線X、Yの傾き角度も絶対値が同じとなっている。
そして、第1状態と第2状態における対角線X、Yのそれぞれの傾き角度を適宜検知手段で把握して、傾きの進行状態すなわち角度変化をシート性能の解析評価に用いる。本実施形態例の場合は、対角線X、Yの角度変化量は、対角線Xの場合は、45度(第1状態)-40度(第2状態)=5度(変化量)であり、対角線Yの場合は、(-45度(第1状態))-(-40度(第2状態))=-5度である。この変化量を用いてシート性能の解析評価を行う。これにより解析評価の精度の向上を図ることが可能となった。
また、上記に加えて、或いは上記の別の解析要素として、ブロック2の互いの対角線X、Yが持つ傾き角度の合計値をブロック2自体の傾き角度の変化指標として用いることもできる。例えば、図1に示す第1状態の正方形の場合は、45度と-45度の合計値である0度が第1状態におけるブロック2自体の傾き角度であり、ブロック2は傾いていないことを示している。図2に示す状態の場合はθa1とθb1の合計値が第2状態におけるブロック2自体の角度である。θa1とθb1の合計値はやはり0度であり、ブロック2は傾いていないことを示している。したがって、このブロック2の場合は第1状態と第2状態ではブロック2自体の傾きの変化はないと把握される。
次にシートクッション1の異なる位置のブロック2aについての、図1に示す第1状態と図2に示す第2状態の角度変化状態について説明する。ブロック2aの位置は、シートクッション1の天板部の右側位置にある。したがって、着座者の着座荷重が作用すると、図2に示すようにブロック2aの右側と左側とでは撓み変形量が異なり、右側より左側の撓み変形量が多くなっている。すなわちブロック2自体も左下がり方向に傾いた状態となる。ブロック2aのこの角度変化状態も上述したブロック2の場合と同様にして把握する。すなわち、ブロック2aの図1に示す第1状態は、前述のブロック2の場合と同様にして対角線X、Yの角度で把握する。また、対角線X、Yの角度の合計値からブロック2a自体の傾きを把握することもできる。なお、この場合に把握されるブロック2aの角度は、前述のブロック2と同様の傾きの無い正方形状態であるので、ブロック2と実質的に同じである。
ブロック2aの図2に示す第2状態における把握も、同様に対角線X、Yの角度で把握する。この場合、対角線Xの角度はθa2として把握され、対角線Yの角度はθb2として把握される。この把握されるθa2とθb2の絶対値はブロック2aが傾いた状態であることから異なっている。これにより、対角線Xの第1状態から第2状態への角度変位量と、対角線Yの第1状態から第2状態への角度変位量とは、異なった変位量として把握される。
つまり、図2に示す第2状態における対角線X、Yの角度θa2、θb2の合計値はブロック2の場合のように0とはならない。よって、0ではないある数値として示される。この数値の大きさによってブロック2a自体の傾き角度が把握される。このブロック2aの場合は、θa2のプラス角度数値よりもθb2のマイナス角度数値の方が大きく把握されるので、合計値はマイナス角度数値として示される。このマイナス角度数値によりブロック2aは左下がり方向に傾いていることを示すものである。この数値も適宜シート性能の解析評価に用いる。
【0017】
次に、上述のようにして把握されるシートクッション1の角度変位を、シート性能の解析評価指標として用いるのが有用であると、発明者が認識した内容について説明する。
先ず、弾性変形可能なシート部材、例えば、ウレタンフォームなどからなるシートクッションが加圧される場合に、支持部材の角度がどのように反発力(支持力)に影響するのかを、以下に実験結果を示し説明する。
図3は、ブロック片5への荷重実験とシートクッション1との関連性を説明するための概念図である。ここで、ブロック片5は図1及び図2で説明したブロック2、2aに相当するものである。図3のシートクッション1に示されるブロック片5の傾きは説明の都合上、誇張して傾かせて示した。
図3に示したようにシートクッション1の一部に傾斜した状態でブロック片5が配置されていると考える。当該ブロック片5が上方からの荷重に対してどのような挙動を示すのかを測定したいため、傾斜台3の上にブロック片5を載せ、その上から加圧部材4で加圧する実験を行った。具体的な実験条件は以下の通り。
【0018】
ブロック片5として、テスト発泡したウレタンフォームのコア部から100×100×50mmのサイズで切り出したものを使用した。当該ブロック片5を図4、5に示すような傾斜台3上に配置し、両面テープで固定した。なお、図4は傾斜台3の傾斜角度が比較的大きい場合であり、図5は傾斜台3の傾斜角度が比較的小さい場合を表している。当該状態において、傾斜台3の傾斜面と平行な傾斜側面を有する加圧部材4を上方から100m/minの速度で下方に動かし、初期厚みから40mm下方に変位する(変位量S)まで負荷するが、予負荷として50%圧縮を1回実施した。
傾斜台3の角度を11.25度、22.5度、33.75度、45度の4種類に設定して実験を行った。また、水平状態のブロック片5についても加圧部材4を上方から100m/minの速度で下方に動かして加圧する実験を行った。
・・・
【0023】
上記したデータが示すように、ブロック片5の傾斜角度を変化させることで特性が変化していくことが理解される。
一方、ウレタンフォームなどのフォーム材は引っ張り領域と圧縮領域においては撓み特性(バネ定数)に違いがあることが知られている。例えば、図10に示されたウレタンフォームの特性曲線から分かるように、引っ張り領域のバネ定数が圧縮領域のバネ定数の約17倍となることもある。
上記実験結果が示す特性の変化は、この引っ張り領域のバネ定数と圧縮領域のバネ定数がもたらしているものと考えられる。体積変化を伴っているので、単純せん断試験ではないが、この特性の変化は、次のように捉えると理解しやすい。
角度をつけたブロック片5に対して下方向に荷重をかけて圧縮していくとき、上下方向に圧縮が進むが、ここでは、その際の左右方向の動きに着目する。
図11には、傾斜角度が22.5度である傾斜台3を使用した場合の概念図を示している。以下においては、図11におけるブロック片5の左上角A点と右下角B点との相対距離を考える。
初期状態から7.9mm下方に加圧部材4を移動させるまでの間はブロック片5の左上角A点と右下角B点との相対距離が減少していく。すなわち圧縮されていく。
更に加圧部材4を下方に移動させていくと上記A点とB点の相対距離は拡大して行き、圧縮された応力が緩和され加圧部材4が初期状態から15.9mmまで移動した地点で上記A点とB点の相対距離は初期状態と等しくなる。
更に下方に加圧部材4を移動させると上記A点とB点の相対距離は初期状態よりも拡大して行き、引っ張り応力が増加していく。
【0024】
この圧縮、緩和、引っ張りの変化を図12に示す。圧縮、緩和、引っ張りの変化は22.5度の条件では発生するが、33.75度の条件では初期から引っ張りである。また、11.25度の条件では圧縮と緩和までで変化が終了する。
上記変化が発生する閾値は、ブロック片5の寸法とブロック片5の角度との関係から必然的に発生するものであるが、このことから前記角度変化がウレタンフォーム内の応力分布変化にどの様に影響するのかを理解することができる。
【0025】
上記したように、弾性変形可能な支持部材の角度が当該支持部材の支持力に影響する。このため、当該事項を考慮して支持力を解析すれば、従来よりも、より効果的な解析を行えることが理解できる。」

甲2には、以下の図が示されている。







イ 甲2の認定事項
上記「ア」【0023】の「図10に示されたウレタンフォームの特性曲線から分かるように、引っ張り領域のバネ定数が圧縮領域のバネ定数の約17倍となることもある」との記載と、図10から、以下の事項が認定できる。
「ウレタンフォームの特性曲線から引っ張り領域のバネ定数12.67N/mmが圧縮領域のバネ定数0.75N/mmの約17倍となることもあることが分か」ること、及び、
「ウレタンフォームの特性曲線における引っ張り領域側の荷重が60Nまで示され」ていること。

また、上記「ア」【0015】の「図2は着座荷重を上方から受けてシートクッション1が変形することにより図1で対角線を付したブロック2がどのように変形するのかを表す概念図である。なお、着座荷重は白抜き矢印で表しており、2点鎖線はシートクッション1に着座荷重が負荷されていない状態を表している。」との記載から、図2のシートクッション1の図面左方側(白抜き矢印の位置する側)が着座荷重を受ける面であり、シートクッション1の図面右方側が着座荷重を受ける面の反対側の面であるということができる。
そして、同【0015】の「次にシートクッション1の異なる位置のブロック2aについての、図1に示す第1状態と図2に示す第2状態の角度変化状態について説明する。」との記載、図1及び図2を勘案すると、以下の事項が認定できる。
「ブロック2aが、シートクッション1の着座荷重を受ける面となる部位および着座荷重を受ける面の反対側の面となる部位の中間部位に位置」すること。

(3)甲第3号証の記載事項
甲3には以下の事項が記載されている

「【0001】
この発明はシート用パッドおよびその製造方法に関し、更に詳細には、異なった硬度を発現する2つの発泡原料を使用し、高い硬度の発現された発泡体および低い硬度の発現された発泡体が一体的に混在し、かつその硬度がシート用パッドの厚み方向に沿って連続的に変化した構造となることで、座り心地等を良好とした座席に好適に使用し得るシート用パッドおよびその製造方法に関するものである。」

「【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本発明に係るシート用パッドは、乗員が着座して直接接触する前部サポート部および後部サポート部と、この両側に位置し、該乗員のサイドサポートにより姿勢を保持するサイドサポート部とから構成されるシート用パッドにおいて、
少なくとも前記前部サポート部または後部サポート部には、その一部または全体に硬度の異なる2種類の発泡体が一体的に混在し、シート用パッドの表面側の硬度が低くなるよう、該シート用パッドの厚み方向に沿って連続的に変化した構造となっていることを特徴とする。」

「【0013】
そしてこのような構造を備えるシート用パッド12の製造工程は、図2に示す如く、発泡原料準備工程S1、低比重発泡体原料注入工程S2、高比重発泡体原料注入工程S3、反応進行工程S4および最終工程S5から構成される。ここで発泡原料準備工程S1は、製造されるシート用パッド12の外部輪郭形状に合致する内部輪郭形状を備え、その底面部52aがシート用パッド12の表面12aを成形する成形型50内(図9参照)に順序をもって注入され、発泡・硬化反応完了時(以下、単に反応完了時と云う)に高い硬度を発現する発泡体となる第1の発泡原料M1と、反応完了時に低い硬度を発現する発泡体となる第2の発泡原料M2とを、夫々の発現すべき物性および比重を考慮してポリオールおよびイソシアネートと、各副原料とを適宜選択し、反応・硬化しない状態として準備する工程である。また成形型50内のサイドサポート部38,38に対応する側部領域56C,56Cには、第1の発泡原料M1および第2の発泡原料M2とは異なる第3の発泡原料を注入することで別途、発泡体を成形している。この他、(a)第1の発泡原料M1および第2の発泡原料M2を注入し、前部サポート部34および後部サポート部36と同一の構成としたり、(b)第1の発泡原料M1または第2の発泡原料M2の何れか一方だけを注入して、夫々第1の発泡原料M1または第2の発泡原料M2から得られる発泡体を成形したり、(c)第1の発泡原料M1を成形型50に注入し、所要部分にだけ第2の発泡原料M2を注入したり、(d)更には予め別途成形した発泡体がインサートするようにしてもよい。
・・・
【0020】
そしてこのような構成となるシート用パッド12の製造においては、第1の発泡原料M1および第2の発泡原料M2の注入のタイミング、比重の差および硬度の差等の諸条件の適正化が必要となるが、本実施例においては、後に注入される第2の発泡原料M2の注入時点は、第1の発泡原料M1が注入後、反応を開始して発泡が始まって比重差が発現しやすくなる、所謂クリームタイム経過後で、樹脂化反応が進み粘度増加が顕著に進む以前、具体的には5秒前後の経過後から、10?20秒に達するまでの間での実施が好適である。このように第2の発泡原料M2の注入タイミングだけを調整することで、双方の発泡原料M1およびM2の反応進行中の比重差を利用して、本発明に係る硬度差が厚み方向に連続的に変化したシート用パッド12を容易に製造し得る。また硬度については、厚みに対して直線的、すなわち比例的に変化させたり、または曲線的に、すなわち等差または等比級数的変化させたりするように設定することも可能である。なお硬度の連続的な変化の度合い、すなわち単位厚み当たりの硬度の変化量は、双方の発泡原料M1およびM2の反応性(反応速度)、得られる発泡体の比重の設定および注入量等を変化させることでも制御可能である。」

3-3 判断
(1)申立理由1(特許法第29条第1項)について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)
a 甲1発明の「クッションパッド」は、本件発明1の「クッションパッド」に相当する。

b 甲1発明の「着座者が着座する面及びその反対側の面を有する座面部1」は、本件発明1の「着座者が着座する着座面およびその反対側の底面を有するサポート部」に相当する。

以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、

「着座者が着座する着座面およびその反対側の底面を有するサポート部を備える、クッションパッド。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
サポート部に関し、本件発明1は、「前記着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部から採取した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片について、JISK6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠して測定した圧縮時の荷重100Nに対するたわみが30mm以下であり、前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)である」のに対して、
甲1発明は、「中心線における端面図において直径約15mmの窪み3が設けられているヒップポイントを通過するa線を中心として測定した」「荷重-たわみ曲線であって、測定部位の初期厚さは64.2mmであり、測定を直径200mmの円盤を用いて、クロスヘッド速度100mm/分で行った結果において、横軸のたわみが30mmの位置において縦軸の押し込み方向のクッションパッドの荷重が350N以上である」点。

イ 判断
相違点について検討する。

(ア)甲2には、上記「2-2(2)ア」及び上記「2-2(2)イ」から、以下の技術的事項が記載されているといえる。

<甲2技術事項1>
「ウレタンフォームなどのフォーム材は引っ張り領域と圧縮領域においては撓み特性(バネ定数)に違いがあることが知られ、例えば、ウレタンフォームの特性曲線から引っ張り領域のバネ定数12.67N/mmが圧縮領域のバネ定数0.75N/mmの約17倍となることもあることが分かり、ウレタンフォームの特性曲線には引っ張り領域側の荷重が60Nまで示されること。」

(イ)甲2技術事項1には、「ウレタンフォームなどのフォーム材」の「例えば」のものが、甲1発明の「3%ISR値が約6以上」との構成を備えることは特定されていないから、甲1発明の「クッションパッド」の「座面部1」と甲2技術事項1の「ウレタンフォームなどのフォーム材」とが同じ特性を有するとはいえず、「引っ張り領域のバネ定数12.67N/mm」なる事項は、甲1発明の「座面部1」の具備する事項とはいえない。

(ウ)仮に甲2技術事項1の「引っ張り領域のバネ定数12.67N/mm」なる事項が、甲1発明の「座面部1」の具備する事項であったとしても、当該「引っ張り領域のバネ定数12.67N/mm」なる事項は、「引っ張り領域側の荷重が60Nまで」における数値であって、「当該バネ定数」の測定時の引張速度が不明であり、また、荷重を300Nとした際の数値も不明であって、本件発明1の「20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数」に相当する数値がどのようになるのか不明であるから、甲1発明の「座面部1」が上記相違点に係る本件発明1の構成を具備していたということはできない。

(エ)したがって、本件発明1と甲1発明とは上記相違点において相違するといえる。

(オ)申立人の主張について
a 主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の旨を主張する。
<主張1>(第18頁第8行?第19頁第12行)
甲2の図10には、引張り時におけるバネ定数:12.67N/mmが明示されているものの、図10のグラフの縦軸マイナス方向には、引張荷重が-60Nまでしか示されておらず、図10から引張荷重:-300Nの場合を直接的に読み取ることができないが、
本件特許の図6からも明らかである、「引張り時の荷重-たわみ特性は概ね線形的である」とのウレタンフォームの一般的な特性傾向として知られたことを考慮すると、
引張荷重が-20Nあたりと-300Nあたりとで特性線の傾きにあまり差がないとの推測が成り立ち、図10のウレタンフォームは、引張荷重が-300N付近をも含めて引張荷重付与時のバネ定数が12.67N/mm(つまり25N/mm以下)のものであるとでき、
本件発明1の「20mm/分の引張速度」は、引張荷重を付与する試験において通常選択される引張速度範囲にあるものであり、何ら特別なものでないから、
甲2には、「ウレタンフォームの試験片について、所定の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が12.67N/mm(すなわち25N/mm以下)であるもの」が記載されているといえる。

<主張2>(第22頁20行?第23頁11行)
甲1発明に係るポリウレタンフォーム製クッションパッドには、本件特許の図6に相当する荷重-たわみ特性が必然的に存在し、仮に荷重-たわみ特性における引張領域での特性を紙面に顕在化させた場合、少なくとも本件特許の図6の第3象限と同様の形になることは間違いなく、甲2の図10とほとんど同じになる蓋然性が高いものであって、なぜなら、甲1の特許出願人と甲2の特許出願人の一方が同じ東洋ゴム工業株式会社であって、甲2の出願時点で公知となっていた自社製品(甲1記載のウレタンフォーム製クッションパッド)を使って図10の特性データを取得したと考えても何ら不自然ではないからであり、以上のとおり、甲2を参酌しつつ甲1を読み解くことにより、甲1には甲2の内容が黙示的に内在していると認められるから、甲1発明と本件発明1との間に実質的な相違点を見いだすことは困難である。

b 検討
(a)主張1について
本件特許の図6の縦軸及び横軸には具体的数値の記載がなく、300N負荷時においても引張り時の荷重-たわみ特性が概ね線形的であることまでは示されていないことに加えて、本件特許の図6の引張り時の荷重-たわみ特性と甲2の図10に示された「ウレタンフォームの特性曲線」が同じであることを一義的に示す証拠もないから、主張1の「引張荷重が-20Nあたりと-300Nあたりとで特性線の傾きにあまり差がないとの推測」には十分な証拠が示されているとはいえず、主張1の「本件発明1の『20mm/分の引張速度』は、引張荷重を付与する試験において通常選択される引張速度範囲にあるものであり、何ら特別なものでない」ことについても、何ら具体的な証拠が示されていない。
そうすると、甲2技術事項1の「引っ張り領域のバネ定数12.67N/mm」なる事項は、「引っ張り領域側の荷重が60Nまで」における数値であって、「当該バネ定数」の測定時の引張速度が不明であり、また、荷重を300Nとした際の数値も不明であるため、本件発明1の「20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数」に相当する数値がどのようになるのか不明であるから、主張1は採用できない。

(b)主張2について
主張2における「甲1の特許出願人と甲2の特許出願人の一方が同じ東洋ゴム工業株式会社であって、甲2の出願時点で公知となっていた自社製品(甲1記載のウレタンフォーム製クッションパッド)を使って図10の特性データを取得したと考えても何ら不自然ではない」ことは、例えば「甲1の特許出願人と甲2の特許出願人の一方が同じ東洋ゴム工業株式会社であって」も、「甲2の出願時点で公知となっていた自社製品(甲1記載のウレタンフォーム製クッションパッド)」とは別の自社製品を使って「図10の特性データ」を取得したと考えても何ら不自然ではないともいえるところ、当該主張2の「甲1発明に係るポリウレタンフォーム製クッションパッド」の「荷重-たわみ特性における引張領域での特性を紙面に顕在化させた場合」に「甲2の図10とほとんど同じになる蓋然性が高い」ことを一義的に導出する根拠とはいえない。
そして、上記(イ)に示したように、甲2技術事項1には、「ウレタンフォームなどのフォーム材」の「例えば」のものが、甲1発明の上記前提構成Aを備えることは特定されていないから、甲1発明の「クッションパッド」の「座面部1」と甲2技術事項1の「ウレタンフォームなどのフォーム材」とが同じ特性を有するとはいえず、上記主張2の「甲1発明に係るポリウレタンフォーム製クッションパッド」の「荷重-たわみ特性における引張領域での特性を紙面に顕在化させた場合」に「甲2の図10とほとんど同じになる蓋然性が高い」との主張はあたらない。
したがって、「甲2を参酌しつつ甲1を読み解くことにより、甲1には甲2の内容が黙示的に内在していると認められるから、甲1発明と本件発明1との間に実質的な相違点を見いだすことは困難である」との主張も妥当しないから、主張2は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は甲1発明と上記相違点において相違するものであるから、本件発明1と甲1発明とは同一とはいえない。

(2)申立理由2(特許法第29条第2項)について
(2-1)申立理由2-ア(本件発明1)について
ア 対比
本件発明1と甲1発明との対比、一致点及び相違点については、上記「(1)ア」に示したとおりである。

イ 判断
相違点について検討する。

(ア)甲1について
a 上記「2-2(1)a(1c)」に示すように、甲1【0005】には「表面が柔軟な感触を与えるため座り心地がよく、かつ長時間の運転によっても疲労が生じにくく、しかも二層構造にする必要がないため、低コストで製造でき、デザインの自由度も大きいクッションパッドを提供すること」との甲1発明の解決しようとする課題が記載されている。
また、同甲1【0006】には、当該課題を解決するための手段として、「前記座面部において測定される『25%歪み時荷重』及び『3%歪み時荷重』を用いて」「算出される『3%ISR』値が約6以上であるものとする」ことが記載されている。

b そして、甲1発明は、「3%ISR値が約6以上」との構成(以下「前提構成A」ということもある。)を前提とし、当該前提構成Aを、「クッションパッドであって、イソシアネートとしてC-MDIを90、TDI-80を10、ポリオールとしてPPG-Aを80、POP-Bを20、架橋剤を2.0、水を3.0、整泡剤を1.0、触媒Aを0.5、触媒Bを0.2の割合で配合し、均一に混合したのち、モールド内に注入し発泡・硬化させ、成形品を得るものであって、その際にモールド内に裏面支持部材をセットし、一体に成形させ、裏面支持部材としては、ポリプロピレン製ネット(日石合樹製品(株)製日石コンウエドネット)を用いたもの」との構成で実現しているといえる。

c 一方、甲1発明の「中心線における端面図において直径約15mmの窪み3が設けられているヒップポイントを通過するa線を中心として測定した」、「測定部位の初期厚さは64.2mmであ」る部位は「着座者が着座する面及びその反対側の面」の中間部位に位置する部位を含み、甲1発明の「着座者が着座する面及びその反対側の面」の中間部位に位置する部位は、本件発明1の「前記着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部」に相当するといえる。
しかしながら、甲1には、甲1発明の「着座者が着座する面及びその反対側の面」の中間部位に位置する部位から「長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片」を採取し、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)となるよう構成することで上記相違点に係る本件発明1の構成を具備させることはそもそも記載も示唆もされておらず、また、上記前提構成Aを維持しつつ上記相違点に係る本件発明1の構成を具備させることの動機付けとなる記載もない。

(イ)甲2について
a 甲2には、上記「2-2(2)ア」及び上記「2-2(2)イ」から、以下の技術事項が記載されているといえる。

<甲2技術事項2>
「ブロック片5はブロック2、2aに相当するものであり、
ブロック2aが、シートクッション1の着座荷重を受ける面となる部位および着座荷重を受ける面の反対側の面となる部位の中間部位に位置し、
シートクッション1の一部に傾斜した状態でブロック片5が配置されていると考え、当該ブロック片5が上方からの荷重に対してどのような挙動を示すのかを測定したいため、傾斜台3の上にブロック片5を載せ、その上から加圧部材4で加圧する実験を行ったものであって、ブロック片5として、テスト発泡したウレタンフォームのコア部から100×100×50mmのサイズで切り出したものを使用し、ブロック片5の傾斜角度を変化させることで特性が変化していくことが理解されるものであって、
ウレタンフォームなどのフォーム材は引っ張り領域と圧縮領域においては撓み特性(バネ定数)に違いがあることが知られ、例えば、引っ張り領域のバネ定数12.67N/mmが圧縮領域のバネ定数0.75N/mmの約17倍となることもあることが分かり、引っ張り領域側の荷重が60Nまで示されるウレタンフォームの特性曲線の引っ張り領域のバネ定数と圧縮領域のバネ定数が、実験結果が示す圧縮、緩和、引っ張りの特性の変化をもたらし、
上記変化が発生する閾値は、ブロック片5の寸法とブロック片5の角度との関係から必然的に発生するものであるが、このことから前記角度変化がウレタンフォーム内の応力分布変化にどの様に影響するのかを理解することができ、弾性変形可能な支持部材の角度が当該支持部材の支持力に影響するため、当該事項を考慮して支持力を解析すれば、従来よりも、より効果的な解析を行えることが理解できること。」

b 甲2技術事項2の「シートクッション」は本件発明1の「クッションパッド」に相当する。
また、前者の「着座荷重を受ける面」は後者の「着座面」に相当し、前者の「着座荷重を受ける面の反対側の面となる部位」は後者の「その反対側の底面」に相当し、前者の「着座荷重を受ける面となる部位および着座荷重を受ける面の反対側の面となる部位の中間部位に位置」する「ブロック2a」を含む「シートクッション1」の部位は後者の「サポート部」に相当し、前者の「着座荷重を受ける面となる部位および着座荷重を受ける面の反対側の面となる部位の中間部位」は後者の「コア部」に相当する。
さらに、前者の「シートクッション1の着座荷重を受ける面となる部位および着座荷重を受ける面の反対側の面となる部位の中間部位に位置」した「ブロック2aに相当するものであり」「テスト発泡したウレタンフォームのコア部から100×100×50mmのサイズで切り出したものを使用し」た「ブロック片5」と、後者の「前記着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部から採取した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片」とは、「着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部に関連した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片」であることにおいて共通する。
加えて、前者の「シートクッション1の一部に傾斜した状態でブロック片5が配置されていると考え、当該ブロック片5が上方からの荷重に対してどのような挙動を示すのかを測定したいため、傾斜台3の上にブロック片5を載せ、その上から加圧部材4で加圧する実験を行ったものであって、ブロック片5として、テスト発泡したウレタンフォームのコア部から100×100×50mmのサイズで切り出したものを使用し、ブロック片5の傾斜角度を変化させることで特性が変化していくことが理解されるものであって、ウレタンフォームなどのフォーム材は引っ張り領域と圧縮領域においては撓み特性(バネ定数)に違いがあることが知られ、例えば、引っ張り領域のバネ定数12.67N/mmが圧縮領域のバネ定数0.75N/mmの約17倍となることもあることが分かり、引っ張り領域側の荷重が60Nまで示されるウレタンフォームの特性曲線の引っ張り領域のバネ定数と圧縮領域のバネ定数が、実験結果が示す圧縮、緩和、引っ張りの特性の変化をもたらし、上記変化が発生する閾値は、ブロック片5の寸法とブロック片5の角度との関係から必然的に発生するものであるが、このことから前記角度変化がウレタンフォーム内の応力分布変化にどの様に影響するのかを理解することができ、弾性変形可能な支持部材の角度が当該支持部材の支持力に影響するため、当該事項を考慮して支持力を解析すれば、従来よりも、より効果的な解析を行えることが理解できること」と、後者の「前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)であること」とは、「前記第1試験片について、測定を行った」ことにおいて共通する。

以上から、甲2技術事項2は、本件発明1と、「着座者が着座する着座面およびその反対側の底面を有するサポート部を備え、前記サポート部は、前記着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部と関連した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片について、測定を行ったクッションパッド」との共通する構成を備えたものといえる。

c 一方、甲2技術事項2の「ウレタンフォームなどのフォーム材」の「例えば」として示されたものは、上記「(ア)b」及び「(ア)c」に示す甲1発明の前提構成Aを具備することが特定されていないから、本件発明1に甲2技術事項2を適用する動機付けがあるとはいえない。

d また、甲2技術事項2の「引っ張り領域のバネ定数12.67N/mm」なる事項は、「ウレタンフォームなどのフォーム材」の「例えば」の数値であって、「ブロック2a」を含む「着座荷重を受ける面となる部位および着座荷重を受ける面の反対側の面となる部位の中間部位に位置」する本件発明1の「コア部」に相当する部位から、本件発明1と同様に「長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片」として採取したものでない。
また、甲2技術事項1の「引っ張り領域のバネ定数12.67N/mm」なる事項は、「引っ張り領域側の荷重が60Nまで」における数値であるところ、「当該バネ定数」の測定時の引張速度が不明であり、荷重を300Nとした際の数値も不明であるところ、本件発明1の「20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数」に相当する数値がどのようになるのか不明である。
したがって、甲2技術事項2の「ウレタンフォームなどのフォーム材は引っ張り領域と圧縮領域においては撓み特性(バネ定数)に違いがあることが知られ、例えば、引っ張り領域のバネ定数12.67N/mmが圧縮領域のバネ定数0.75N/mmの約17倍となることもあることが分かり、引っ張り領域側の荷重が60Nまで示されるウレタンフォームの特性曲線」における「引っ張り領域のバネ定数12.67N/mm」なる事項は、本件発明1の「前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)であること」に相当する構成とはいえない。
よって、甲2技術事項2は、上記相違点に係る本件発明1の構成を備えたものとはいえないから、仮に本件発明1に甲2技術事項2を適用したとしても、上記相違点に係る本件発明1の構成には至らない。

(ウ)以上のとおり、甲1発明に、甲2に記載された事項(甲2技術事項2)を適用する動機付けはなく、また、甲1発明に、甲2に記載された事項(甲2技術事項2)を適用したとしても上記相違点に係る本件発明1の構成には至らない。

(エ)付言(甲3について)
なお、上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められるところ、甲3は、かかる訂正によって削除された訂正前の請求項2?9に係る発明の構成の容易想到性を示すために申立人に引用された文献であって、上記相違点に係る本件発明1の構成を具備させることは記載されていない。

(オ)申立人の主張について
a 主張の概要
申立人は、上記「(1)イ(オ)a」に示した甲2についての上記主張1に加えて、特許異議申立書において、概略、以下の旨を主張する。

<主張3>(第23頁19行?第24頁16行)
甲1は自動車用シートクッションパッドに関し、甲2もシートクッションパッドを念頭に置いた技術であるから、両者の技術分野は共通し、また、両者の出願人も共通し、
甲1のシートクッションパッドを構成する材料はハイレジリエンスフォームであり、中でもポリウレタンフォームが好適であるところ、甲2の図10もウレタンフォームに関するものであるから、甲1と甲2の間には使用する素材又は材料の共通性が認められ、
甲1は座り心地の良さ等の確保を課題とし(【0005】、要約)、甲2はシートの乗り心地の改善(【0002】)を文脈としており、両者の間に目的・課題の共通性が認められ、
本件特許の課題の「ぐらつき感の低減」は、乗り心地の改善のための検討要素として当業者に知られ、乗り心地又は座り心地の下位概念であって課題として新規なものでなく、
当業者が「ぐらつき感の低減」を課題に据え甲1及び甲2を考慮することに不自然はなく、甲1と甲2との結びつきを積極的に阻害する要因も見あたらないから、
本件発明1は、甲1及び甲2を勘案することで当業者が容易に想到できるものである。

b 検討
主張1が採用できないことは、上記「(1)イ(オ)b(a)」のとおりである。

主張3につき検討する。
上記「(ア)c」及び「(イ)c」に示したように、甲1発明の「3%ISR値が約6以上」との前提構成Aを維持しつつ上記相違点に係る本件発明1の構成を具備させることは、甲1及び甲2のいずれにも記載がない。
また、上記「(ア)c」に示したように甲1には上記相違点に係る本件発明1の構成を具備させることは記載も示唆もなく、「(イ)d」に示したように、甲2技術事項2は、上記相違点に係る本件発明1の構成を備えたものとはいえない。
よって、上記(ウ)に示したように、甲1発明に、甲2に記載された事項(甲2技術事項2)を適用する動機付けはなく、また、甲1発明に、甲2に記載された事項(甲2技術事項2)を適用したとしても上記相違点に係る本件発明1の構成には至らない。
そうすると、本件発明1は、甲1発明、甲2に記載された事項(甲2技術事項2)から容易想到とはいえないから、主張3は採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、甲1発明に、甲2に記載された事項(甲2技術事項2)を適用する動機付けはなく、また、甲1発明に、甲2に記載された事項(甲2技術事項2)を適用したとしても上記相違点に係る本件発明1の構成には至らないから、本件発明1は、甲1発明、甲2に記載された事項(甲2技術事項2)から容易想到とはいえない。

(2-2)申立理由2-イ(請求項2?9に係る発明)について
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められ、かかる訂正によって訂正前の請求項2?9は削除されるものであるから、請求項2?9に係る申立理由2-イは解消した。

3-4 小括
上記3-3から、申立人の申立理由1及び2に係る上記主張は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項2?9に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2?9に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
クッションパッド
【技術分野】
【0001】
本発明はクッションパッドに関し、特にぐらつき感を抑制できるクッションパッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両や船舶、航空機等の乗物に装備される座席や家具等の椅子などに用いられるクッションパッドでは、着座者が横方向のぐらつき感を覚えることがある。例えば、車両に取り付けられるクッションパッドでは、車両が緩いカーブを走行したり車線変更したりするときの低周波数帯(例えば1Hz程度)の振動入力により、クッションパッドが変形して、横滑りやロール軸回りの横揺れ等のぐらつき感が生じることがある。ぐらつき感は、操縦安定性に影響を与える要因である。このぐらつき感を抑制するために、低周波数帯の振動に対するtanδを所定範囲に設定する技術がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-45104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術に対して、ぐらつき感をさらに抑制したいという要求がある。
【0005】
本発明は上述した要求に応えるためになされたものであり、ぐらつき感を抑制できるクッションパッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載のクッションパッドによれば、着座者が着座する着座面およびその反対側の底面を有するサポート部は、着座面側となる部位および底面側となる部位の中間部位に位置するコア部から採取した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片について、JISK6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠して測定した圧縮時の荷重100Nに対するたわみが30mm以下である。さらに、第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下である。
【0007】
ここで、横方向に低周波数帯の振動入力があった場合、着座者の体重による鉛直方向の圧縮応力、及び、横方向の振動入力による引張応力がサポート部に作用する。サポート部は、コア部から採取した第1試験片の引張方向の静ばね定数が25N/mm以下なので、静ばね定数がそれより大きい場合と比較して、引張応力を小さくすることができる。その結果、圧縮応力および引張応力を合成した合力の方向(傾き)を鉛直方向へ近づけることができる。これにより、振動入力によって着座者の臀部(坐骨)が鉛直方向に対して傾く角度を小さくできるので、ぐらつき感を抑制できる効果がある。
【0008】(削除)
【0009】(削除)
【0010】(削除)
【0011】(削除)
【0012】(削除)
【0013】(削除)
【0014】(削除)
【0015】(削除)
【0016】(削除)
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施の形態におけるクッションパッドの平面図である。
【図2】サポート部を等分に分割した試験片を図1のII-II線におけるクッションパッドの断面図に重ねた模式図である。
【図3】サポート部の硬さ分布を示す図である。
【図4】着座者が着座した状態を示すクッションパッドの模式図である。
【図5】(a)はクッションパッドの硬さを示す図であり、(b)は比較例におけるクッションパッドの硬さを示す図である。
【図6】コア部から採取した試験片の圧縮時および引張時の荷重-たわみ曲線である。
【図7】(a)はクッションパッドに作用する応力を示す模式図であり、(b)は比較例におけるクッションパッドに作用する応力を示す模式図である。
【図8】第2実施の形態におけるクッションパッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施の形態におけるクッションパッド1の平面図である。本実施の形態では、振動を伴う車両(特に自動車)に搭載されるクッションパッド1について説明する。なお、図1の矢印U-D,L-R,F-Bは、クッションパッド1が搭載された車両(図示せず)の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している(図2、図4及び図7において同じ)。
【0019】
図1に示すようにクッションパッド1は、軟質ポリウレタンフォーム(発泡合成樹脂材料の一種)により一体に成形される基材であり、着座者Hの臀部および大腿部裏側を支持するサポート部2と、サポート部2の左右方向(矢印L-R方向)両側に配置されるサイドサポート部5とを備えている。サイドサポート部5は、大腿部および臀部の側部を支持する部位である。
【0020】
サポート部2は、左右方向に延びる横溝8により、臀部を支持する後部サポート部3及び大腿部裏側を支持する前部サポート部4に区画される。後部サポート部3により、着座した着座者Hの左右の坐骨結節部T1,T2を含む臀部が支持される。後部サポート部3及び前部サポート部4は、横溝8と平行に溝部7,9がそれぞれ凹設されている。サポート部2とサイドサポート部5との境界部分には、前後方向(矢印F-B方向)に延びる一対の縦溝6が形成される。一対の縦溝6は横溝7,8,9の両端がそれぞれ接続されている。縦溝6及び横溝7,8,9は、ファブリックや合成皮革または皮革等の表皮(図示せず)をクッションパッド1に引張固定するための部位である。
【0021】
クッションパッド1は、サポート部2(後部サポート部3)の上下方向(矢印U-D方向)及び左右方向(矢印L-R方向)の硬さ分布に特徴を有している。本実施の形態では後部サポート部3(成形品)から採取した小さな試験片を用いて硬さを測定し、硬さ分布を求めている。図2を参照して試験片の採取位置を説明する。図2はサポート部2(後部サポート部3)を等分に分割して採取された試験片(第2試験片)を図1のII-II線におけるクッションパッド1の断面図に重ねた模式図である。
【0022】
図2に示すように後部サポート部3は、一対の溝部6,6の左右方向内側に形成される部位であり、着座者Hが着座する着座面11と、その反対側の底面12を有し、断面が横長の略矩形状に形成されている。後部サポート部3は、硬さ測定のために、上下方向(矢印U-D方向)及び左右方向(矢印L-R方向)に等分に分割され、複数の試験片が採取される。
【0023】
本実施の形態では、後部サポート部3の上下方向(矢印U-D方向)が等分に4層に区分され(厚さ各20mm)、それらの左右方向(矢印L-R方向)が等分に15個(幅各20mm)に区分される。各層の前後方向(図2紙面垂直方向)の長さが20mmにされることで、1辺が20mmの四角柱状(立方体)の試験片が60個採取される。後部サポート部3が上下方向(矢印U-D方向)に4等分されて形成される4層は、着座面11を含む着座部21、着座部21の下に位置する中央上部22、中央上部22の下に位置する中央下部23、中央下部23の下に位置すると共に底面12を含む底面部24である。着座部21及び中央上部22は、後部サポート部3の厚さ方向の中央である厚さ中央13より着座面11側に位置し、中央下部23及び底面部24は、厚さ中央13より底面12側に位置する。
【0024】
採取された試験片は、JIS K6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠して25%圧縮時の力が測定される。この試験方法によれば、試験片より大きい支持板(図示せず)の上に上下方向(矢印U-D方向)を向けて置かれた試験片が、試験片の上面より大きい加圧面をもった加圧板(図示せず)により予備圧縮された後、厚さの75±2.5%まで毎分100±20mmの速度で加圧される。試験片が25±1%の厚さに加圧されたときの力が、その試験片の25%圧縮時の力S_(25)(単位:N)とされる。この明細書では25%圧縮時の力(以下「S_(25)」と称す)を「硬さ」と定義する。
【0025】
なお、底面部24から採取される試験片は、底面12に一体成形される補強布(図示せず)が除去された後、支持板(図示せず)側に底面12側を向けて置かれ、硬さが測定される。補強布の影響を小さくするためである。また、中央下部23及び底面部24の左右方向の両端から採取される試験片(図2において×が付されたもの)は、硬さが、他の試験片の硬さと比較して大きいので、除外した。
【0026】
また、便宜上、後部サポート部3の左右方向(矢印L-R方向)の中央に位置する部位であって、厚さ中央13より着座面11側に位置する部位(試験片)を第1部25と称し、第1部25を通る鉛直線(矢印U-D方向の直線)上に位置する部位であって、厚さ中央13より底面12側に位置する部位(試験片)を第2部26と称す。第1部25を通る水平線(矢印L-R方向の直線)上(中央上部22内)に位置する部位であって、第1部25より左右方向外側に位置する部位(試験片)を第1サイド部27と称し、第1サイド部27を通る鉛直線上の部位であって、厚さ中央13より底面12側に位置する部位(試験片)を第2サイド部28と称す。着座部21の左右方向の中央に位置する部位(試験片)を着座中央部21aと称し、底面部24の左右方向の中央に位置する部位(試験片)を底中央部24aと称す。
【0027】
次に図3を参照して、各試験片のS_(25)(測定値)に基づくサポート部2(後部サポート部3)の硬さ分布を説明する。図3はサポート部の硬さ分布を示す図である。なお図3では、各試験片の硬さ(単位:N)を試験片の断面積(単位:cm^(2))で除した値(単位:N/cm^(2))を4つの区間に分け、その区間を4段階の濃淡で表示した。図3では、色が濃いほど硬さが大きいことを示している。
【0028】
図3に示すように後部サポート部3は、着座部21、中央上部22、中央下部23、底面部24の順に硬さが大きくなるように形成されている。また、中央上部22、中央下部23及び底面部24は、左右方向の中央より外側の硬さが大きくなるように形成されている。その結果、後部サポート部3は、着座面11から底面12に向かうにつれて硬さが大きく、且つ、左右方向の中央より外側の硬さが大きい擂鉢状の硬さ分布を有している。
【0029】
次に図4を参照して、着座者Hが着座したクッションパッド1について説明する。図4は着座者Hが着座した状態を示すクッションパッド1の模式図である。なお、図4では、サイドサポート部5の図示が省略される。
【0030】
図4に示すようにクッションパッド1(後部サポート部3)に着座者Hが着座すると、この着座者Hの体重により後部サポート部3は上下方向(矢印U-D方向)に圧縮される。後部サポート部3は、着座面11から底面12に向かうにつれて硬さが大きくなるように設定されているので(図3参照)、主に着座部21及び中央上部22によりソフト感を発揮させながら、臀部への密着感(フィット感)を発揮させることができる。さらに、着座部21、中央上部22、中央下部23及び底面部24が変形することによって臀部の左右方向(矢印L-R方向)のホールド性(拘束性)が確保されるので、ぐらつき感を抑制できる。
【0031】
特に後部サポート部3は、中央上部22、中央下部23及び底面部24が、左右方向中央より左右方向外側の硬さが大きくなる擂鉢状の硬さ分布を有しているので、臀部のホールド性を向上させることができる。
【0032】
なお、図4に示すように第1サイド部27及び第2サイド部28は、着座者Hの臀部の座圧によって上下方向に圧縮される部位であって、着座した着座者Hの左右の坐骨結節部T1,T2より左右方向(矢印L-R方向)外側に位置する。
【0033】
次に図5(a)を参照して、クッションパッド1(後部サポート部3)の硬さ分布について詳細に説明する。図5(a)はクッションパッド1(後部サポート部3)の硬さを示す図である。図5(a)では、着座中央部21a(着座部21の左右方向中央の部位)の25%圧縮時の力S_(25)を1としたときの各試験片のS_(25)(着座中央部21aの硬さに対する比率)をプロットした。図5(a)において、横軸(X軸)は後部サポート部3における各試験片の左右方向の採取位置を示し、縦軸(Y軸)はS_(25)(比率)を示す。実線は着座部21の各試験片のS_(25)、一点鎖線は中央上部22の各試験片のS_(25)、二点鎖線は中央下部23の各試験片のS_(25)、破線は底面部24の各試験片のS_(25)を示す。
【0034】
なお、図5(a)では、着座部21、中央上部22、中央下部23及び底面部24の左右方向両端から採取される試験片の硬さはプロットされていない。他の試験片の硬さと比較して大きいからである。
【0035】
図5(a)に示すように、着座部21は、左右方向に亘って硬さが略一定であるのに対し、中央上部22、中央下部23及び底面部24は、左右方向外側に向かうにつれて硬さが次第に大きくなる硬さ勾配を有している。中央上部22の硬さ勾配と比較して、中央下部23及び底面部24の硬さ勾配が大きく設定されているので、着座者Hに違和感のないホールド性を与えることができる。
【0036】
また、厚さ中央13(図2参照)より着座面11側に位置する第1部25の硬さは、厚さ中央13より底面12側に位置する第2部26の硬さより小さい値に設定され、第1サイド部27の硬さは、第2サイド部28の硬さより小さい値に設定される。着座面11側に位置する第1部25及び第1サイド部27の硬さが、底面12側に位置する第2部26及び第2サイド部28の硬さより小さい値に設定されるので、着座時のソフト感を着座者Hに与えることができる。また、第1部25及び第1サイド部27は厚さ中央13より着座面11側に位置するので、臀部との密着性を確保できる。さらに、第2部26及び第2サイド部28は厚さ中央13より底面12側に位置するので、臀部のホールド性を向上させつつぐらつき感を抑制できる。
【0037】
第1部25の硬さに対する第1サイド部27の硬さの比率は、第2部26の硬さに対する第2サイド部28の硬さの比率より小さい値に設定される。その結果、第1部25及び第1サイド部27によって座圧を軽減できるので、ソフト感を向上させることができ、座り心地を良くできる。
【0038】
第1サイド部27及び第2サイド部28(図4参照)は、着座者Hの座圧によって上下方向(矢印U-D方向)に圧縮される部位に位置する。通常、着座面11に着座した着座者Hの坐骨結節部T1,T2は最も座圧が高くなるが、第1サイド部27及び第2サイド部28は着座面11に着座した着座者Hの左右の坐骨結節部T1,T2より左右方向外側に位置するので、最も座圧が高くなる部分の座圧を軽減できる。さらに、第1サイド部27及び第2サイド部28によって左右の坐骨結節部T1,T2を左右方向外側から拘束できるので、臀部のホールド性を向上させて、ぐらつき感を抑制しつつ座り心地を良好にできる。
【0039】
ここで、底面部24の左右方向の中央に位置する底中央部24aの硬さは、着座部21の左右方向の中央に位置する着座中央部21aの硬さの1.1倍以上に設定される。これにより、底面部24によって臀部をしっかりと支えることができ、臀部の沈み込みを抑制できる。なお、底中央部24aの硬さは、着座中央部21aの硬さの2倍以下、好ましくは1.5倍以下に設定される。底中央部24aが硬くなり過ぎると、座り心地が悪くなるからである。
【0040】
図5(a)に示すように、第1部25及び第2部26を通る鉛直線上(Y軸に平行な直線上)に位置する各部位の硬さは、着座部21(中央上部22)、中央下部23、底面部24の順に次第に大きくなる。その結果、着座面11(図2参照)側によって着座時のソフト感を得つつ、底面12側によって臀部の沈み込みを抑制できる。
【0041】
また、第1サイド部27及び第2サイド部28を通る鉛直線上(Y軸に平行な直線上)に位置する各部位の硬さは、着座部21、中央上部22、中央下部23、底面部24の順に次第に大きくなる。その結果、着座面11側によって着座時のソフト感を得つつ、底面12側によって臀部のホールド性を向上できる。
【0042】
第2部26を通る水平線上に位置する各部位の硬さ(中央下部23の各試験片の硬さ)は、第2部26から左右方向外側へ向かうにつれて次第に大きくなる。その結果、後部サポート部3の底面12側(中央下部23)によって、着座者Hの臀部のホールド性を確保してぐらつき感を抑制できる。
【0043】
なお、後部サポート部3は、単一の発泡合成樹脂材料により一体に成形されているので、クッションパッドの製造工程において、硬さの大きいインサート材を埋設したり硬さの異なる複数の層を積層したりする工程を不要にできる。よって、クッションパッド1の製造コストを削減できる。
【0044】
次に図6を参照して、サポート部2(後部サポート部3)の荷重(圧縮および引張)とたわみとの関係について説明する。図6はコア部から採取した第1試験片の圧縮時および引張時の荷重-たわみ曲線である。第1試験片は、サポート部2の硬さ分布を測定するための第2試験片とは異なる試験片である。第1試験片は、着座面11(図2参照)を含む着座部21と底面12を含む底面部24との中間部位に位置するコア部(中央上部22及び中央下部23)の左右方向の中央から採取される。第1試験片は、厚さ中央13を含むように、長さ100mm、幅100mm、厚さ50mmの四角柱形状に形成される。第1試験片は、表面スキンを有しておらず、クッションパッド1の上下方向(矢印U-D方向)と厚さ方向が平行であり、長さ方向および幅方向がクッションパッド1の上下方向(矢印U-D方向)と直角である。
【0045】
採取された第1試験片は、JIS K6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠した試験方法で、荷重100Nに対する圧縮時のたわみが測定される。この試験方法によれば、第1試験片より大きい支持板(図示せず)の上に上下方向(矢印U-D方向)を向けて置かれた第1試験片が、第1試験片の上面(100mm×100mmの面)より大きい加圧面をもった加圧板(図示せず)により予備圧縮された後、厚さの75±2.5%まで毎分100±20mmの速度で加圧されて減圧される。加圧時(圧縮時)の荷重100Nに対する第1試験片のたわみを測定する。このときの第1試験片のたわみが30mm以下となるようにクッションパッド1は成形される。
【0046】
次に、第1試験片を用いた引張試験について説明する。まず、第1試験片の上面(100mm×100mmの面)に第1試験片が変形しないように中心から等間隔かつ長さ方向と直角に平行な2本の標線を付ける。次いで、第1試験片の中央の断面に均一に引張力が加わるように、引張試験機のつかみ具に第1試験片の長さ方向の両端(100mm×50mmの面を含む部分)を左右対称に取り付ける。予備張力を加えずに、20mm/分の速度でつかみ具を移動させて引張試験を行い、300N負荷時の静ばね定数を求める。本実施の形態では、負荷290Nのときの標線間の距離L1(mm)と、負荷310Nのときの標線間の距離L2(mm)とを測定し、以下の「式1」により300N負荷時の静ばね定数を求める。
【0047】
静ばね定数[N/mm]=(310-290)/(L2-L1)…式1
このときの静ばね定数が25N/mm以下となるようにクッションパッド1は成形される。なお、この静ばね定数の求め方は一例であり、他の方法により静ばね定数を求めることは当然可能である。静ばね定数を求める他の方法としては、例えば、引張試験時の荷重-たわみ曲線(負荷と標線間の変形との関係)を測定し、負荷300Nのときの荷重-たわみ曲線の接線の正接の値(又は、荷重-たわみ曲線の傾き)を静ばね定数とするものが挙げられる。
【0048】
このようにクッションパッド1は、第1試験片について、圧縮時の荷重100Nに対するたわみが30mm以下であり、300N負荷時の引張荷重に対する静ばね定数が25N/mm以下であるように成形される。なお、圧縮時の荷重100Nに対するたわみは、25mm以上かつ30mm以下が好適である。圧縮時の荷重100Nに対するたわみが25mmより小さくなるとソフト感が乏しく座り心地が悪くなり、たわみが30mmを超えるとホールド性が乏しくなるからである。
【0049】
また、300N負荷時の引張荷重に対する静ばね定数は、25N/mm以下かつ15N/mm以上が好適である。300N負荷時の引張荷重に対する静ばね定数が25N/mmより大きくなるとぐらつき感が大きくなり、静ばね定数が15N/mmより小さくなるとホールド性が乏しくなるからである。
【0050】
このように設定されるクッションパッド1のぐらつき感を、図7を参照して説明する。図7(a)はクッションパッド1に作用する応力を示す模式図であり、図7(b)は比較例におけるクッションパッドCに作用する応力を示す模式図である。図7(a)、図7(b)はいずれもクッションパッド1,Cに着座者Hが着座した状態を示している。
【0051】
クッションパッド1,Cに着座者Hがそれぞれ着座すると、その体重によってクッションパッド1,Cに鉛直方向(矢印U-D方向)の圧縮応力F1,F4及び横方向(矢印L-R方向)の引張応力F2,F5がそれぞれ作用する。クッションパッド1の後部サポート部3(第1試験片)の引張荷重に対する静ばね定数は、クッションパッドCの後部サポート部(第1試験片)の引張荷重に対する静ばね定数より小さい値に設定されているので、クッションパッド1に作用する引張応力F2の大きさはクッションパッドCに作用する引張応力F5の大きさより小さい。クッションパッド1,Cに作用する鉛直方向の圧縮応力F1,F4はほぼ同じ大きさなので、圧縮応力F1及び引張応力F2を合成した合力F3の鉛直方向に対する傾きを、圧縮応力F4及び引張応力F5を合成した合力F6の鉛直方向に対する傾きより小さくできる。
【0052】
ここで、車両が緩いカーブを走行したり車線変更したりするときの横方向(矢印L-R方向)の低周波数帯(例えば1Hz程度)の振動入力があると、引張応力F2,F5の方向や大きさが変化する。それに伴い合力F3,F6の方向や大きさが変化するが、クッションパッド1は、合力F3の方向(傾き)をクッションパッドCの合力F6の方向と比較して鉛直方向へ近づけることができる。その結果、振動入力によって着座者Hの臀部(坐骨)が鉛直方向に対して傾く角度を、クッションパッド1は、クッションパッドCと比較して小さくできる。その結果、ぐらつき感を抑制できる。
【0053】
次に、クッションパッド1の製造方法について説明する。クッションパッド1は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤および触媒を含有する混合液(発泡原液)が成形型(下型)へ注入され、成形型(下型および上型)内で発泡成形されて製造される。なお、クッションパッド1は、粗毛布や不織布等の補強布を成形型(上型)に予め装着して、底面12に一体成形することができる。また、クッションパッド1の成形後に補強布を底面12に接着することもできる。
【0054】
ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ラクトン系ポリオールが挙げられ、このうちの1種または2種以上の混合物を使用することができる。この中でも、原料費が安価で耐水性に優れている点で、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0055】
必要に応じて、ポリマーポリオールを併用できる。ポリマーポリオールとしては、例えば、ポリアルキレンオキシドからなるポリエーテルポリオールにポリアクリルニトリル、アクリロニトリル-スチレン共重合体等のポリマー成分をグラフト共重合させたものが挙げられる。
【0056】
ポリオール成分の重量平均分子量は6000?10000であることが好ましい。重量平均分子量が6000未満の場合、得られるフォームの柔軟性が失われ、物性の悪化や弾性性能の低下が発生しやすい。重量平均分子量が10000を超える場合は、フォームの硬度が低下しやすい。
【0057】
ポリイソシアネート成分としては、公知の各種多官能性の脂肪族、脂環族および芳香族のイソシアネートを用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリフェニルジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、オルトトルイジンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等を挙げることができ、これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0058】
ジフェニルメタンジイソシアネートに代表されるMDI系イソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(ピュアMDI)、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、これらのポリメリック体、これらのウレタン変性体、ウレア変性体、アロファネート変性体、ビウレット変性体、カルボジイミド変性体、ウレトンイミン変性体、ウレトジオン変性体、イソシアヌレート変性体、更にこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0059】
また、末端イソシアネートプレポリマーを用いることも可能である。末端イソシアネートプレポリマーは、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール等のポリオールとポリイソシアネート(TDI系イソシアネートやMDI系イソシアネート等)とを予め反応させたものである。末端イソシアネートプレポリマーを用いることにより、混合液(発泡原液)の粘度やポリマーの一次構造、相溶性を制御することができるので好適である。
【0060】
本実施の形態では、ポリイソシアネート成分として、TDI系イソシアネートによる弾性フォームに比べて反発弾性の小さい弾性フォームを成形できるMDI系イソシアネートが好適に用いられる。MDI系イソシアネートとTDI系イソシアネートとの混合物を用いる場合、その質量比はMDI系:TDI系=100:0?75:25好ましくは100:0?80:20とされる。ポリイソシアネート成分中のTDI系の質量比が20/100より大きくなるにつれ、得られる製品のぐらつき感が低下する傾向がみられ、TDI系の質量比が25/100より大きくなると、その傾向が著しくなる。なお、ポリイソシアネート成分のイソシアネートインデックス(活性水素基に対するイソシアネート基の等量比の百分率)は、例えば85?130に設定される。
【0061】
発泡剤としては、主に水が用いられる。必要に応じて、少量のシクロペンタンやノルマルペンタン、イソペンタン、HFC-245fa等の低沸点有機化合物を併用することや、ガスローディング装置を用いて原液中に空気、窒素ガス、液化二酸化炭素等を混入溶解させて成形することもできる。発泡剤の好ましい添加量は、得られる製品の設定密度によるが、通常、ポリオール成分に対して0.5?15質量%である。
【0062】
触媒としては、当該分野において公知である各種ウレタン化触媒が使用できる。例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ジメチルベンジルアミン、N,N,N′,N′-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N′,N′,N″-ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス-(2-ジメチルアミノエチル)エーテル等の反応性アミン、又は、これらの有機酸塩;酢酸カリウム、オクチル酸カリウム等のカルボン酸金属塩、スタナスオクトエート、ジブチルチンジラウレート、ナフテン酸亜鉛等の有機金属化合物等が挙げられる。また、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン等の活性水素基を有するアミン触媒も好ましい。触媒の好ましい添加量は、ポリオール成分に対して、0.01?10質量%である。
【0063】
必要に応じて、低分子量の多価活性水素化合物が架橋剤として使用される。架橋剤により、クッションパッドのばね特性の調整が容易になる。架橋剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコール類、並びにこれらの多価アルコール類を開始剤としてエチレンオキシドやプロピレンオキシドを重合させて得られる化合物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられる。これらの化合物は単独で、又は2種以上を混合して使用される。
【0064】
また、必要に応じて整泡剤が使用される。整泡剤としては当該分野において公知である有機珪素系界面活性剤が使用可能である。整泡剤の好ましい添加量は、ポリオール成分に対して0.1?10質量%である。さらに必要に応じて、難燃剤、可塑剤、セルオープナー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、各種充填剤、内部離型剤、その他の加工助剤が用いられる。
【0065】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例におけるクッションパッドを成形する混合液(発泡原液)の配合を表1に示す。表1に示す数値は単位質量(質量比率)である。また、表1のイソシアネート量は、ポリオールに対するイソシアネートの(ポリオール100に対する)質量比率であり、イソシアネート1?3は、全イソシアネートに対する構成比率である。
【0066】
【表1】

なお、表1に示す各成分は以下のとおりである。
【0067】
ポリオール1:ポリエーテルポリオール EP828(三井化学株式会社製)、重量平均分子量6000
ポリオール2:ポリエーテルポリオール EP330N(三井化学株式会社製)、重量平均分子量5000
ポリオール3:ポリマーポリオール POP3623(三井化学株式会社製)
架橋剤1:ジエタノールアミン
架橋剤2:EL980(旭硝子株式会社製)
セルオープナー:EP505S(三井化学株式会社製)
整泡剤1:SZ1336(東レダウコーニングシリコン株式会社製)
整泡剤2:SZ1325(東レダウコーニングシリコン株式会社製)
触媒1:TEDA L33(東ソー株式会社)
触媒2:ToyocatET(東ソー株式会社)
イソシアネート1:トリレンジイソシアネート TDI-80(三井化学株式会社製)
イソシアネート2:ポリメリックMDI 2,4′-MDI・4,4′-MDI混合物
イソシアネート3:ポリメリックMDI MR200(日本ポリウレタン株式会社製)
これらの各成分を表1に示す質量比率で常法にて配合し、均一に混合した後、所定量を所定形状のクッションパッドの成形型(下型)に注入し、キャビティ内で発泡硬化させて実施例1?4、比較例1?4におけるクッションパッドを得た。全てのクッションパッドは、被験者が着座して行う官能試験によりぐらつき感を評価した。ぐらつき感の評価は、◎:ぐらつき感が小さく非常に良好、○:良好、×:ぐらつき感が大きいの3段階であり、その結果を表1に記した。
【0068】
また、実施例3及び比較例1におけるクッションパッドは、後部サポート部を等分に区分して60個の第2試験片(長さ20mm幅20mm厚さ20mmの大きさの四角柱)を採取し(図2参照)、JIS K6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠して25%圧縮時の力S_(25)を測定した。
【0069】
また、実施例1、実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2におけるクッションパッドは、後部サポート部のコア部から、厚さ中央を含むように第1試験片(長さ100mm幅100mm厚さ50mm)を採取した。採取した第1試験片を用いて、JIS K6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠した試験方法で荷重100Nに対する圧縮時のたわみ(mm)を測定した。
【0070】
また、中心から等間隔に標線を付けた第1試験片の中央の断面に均一に引張力が加わるように、引張試験機のつかみ具に第1試験片の長さ方向の両端(100mm×50mmの面を含む部分)を左右対称に取り付けた。次いで、予備張力を加えずに、20mm/分の速度でつかみ具を移動させて引張試験を行った。負荷290Nのときの標線間の距離L1(mm)と、負荷310Nのときの標線間の距離L2(mm)とを測定し、(310-290)/(L2-L1)の計算式により、300N負荷時の静ばね定数(N/mm)を求めた。
【0071】
表1に示すように、ぐらつき感の評価は実施例1?3が◎、実施例4が○、比較例1?4が×であった。たわみは、実施例1、実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2いずれも30mm以下であった。静ばね定数は、実施例1、実施例3及び実施例4が25N/mm以下であり、比較例1及び比較例2は25N/mmを超えていた。この試験から、たわみが30mm以下であって静ばね定数が25N/mm以下の実施例1、実施例3及び実施例4は、ぐらつき感の評価が○以上であることがわかった。従って、第1試験片のたわみを30mm以下、且つ、静ばね定数を25N/mm以下にすることで、ぐらつき感を抑制できることがわかった。
【0072】
次にクッションパッドの硬さについて説明する。図3及び図5(a)は実施例3におけるクッションパッドの硬さを示す図であり、図5(b)は比較例1におけるクッションパッドの硬さを示す図である。比較例1におけるクッションパッドは、実施例におけるクッションパッド1と同様に、着座者Hが着座する着座面から底面に向かって、着座部L1、中央上部L2、中央下部L3、底面部L4を有している。着座部L1は成形型の下型に接する部位であり、底面L4は成形型の上型に接する部位である。
【0073】
図5(b)は、図5(a)と同様に、着座部L1の左右方向中央の部位のS_(25)を1としたときの各試験片のS_(25)をプロットした図である。図5(b)において、横軸(X軸)は後部サポート部における各試験片の左右方向の採取位置を示し、縦軸(Y軸)はS_(25)(比率)を示す。実線は着座部L1の各試験片のS_(25)、一点鎖線は中央上部L2の各試験片のS_(25)、二点鎖線は中央下部L3の各試験片のS_(25)、破線は底面部L4の各試験片のS_(25)を示す。
【0074】
図5(b)に示すように、比較例1におけるクッションパッドは、着座部L1の硬さが一番大きく、底面部L4の硬さが次に大きいことがわかった。また、中央上部L2及び中央下部L3は、それらに対して硬さが小さいことがわかった。さらに、底面部L4は、左右方向外側の硬さが左右方向中央の硬さと比較して少し大きいが、着座部L1、中央上部L2及び中央下部L3は、左右方向に亘って硬さが略一定であることがわかった。比較例1におけるクッションパッドは、着座部L1が最も硬いのでフィット感が乏しく、さらに着座部L1及び底面部L4(表層)が硬く、中央上部L2及び中央下部L3(コア層)が軟らかいので、着座者が横方向のぐらつき感を覚えるものと推察される。
【0075】
これに対し実施例3におけるクッションパッドは、図5(a)に示すように、着座部21が最も軟らかく、中央上部22、中央下部23、底面部24の順に硬くなるように設定されているので、フィット感に優れると共に、中央上部22、中央下部23及び底面部24によりしっかりサポートされるので、ぐらつき感を抑制できると推察される。さらに、中央上部22、中央下部23及び底面部24は、左右方向外側の硬さが左右方向中央の硬さより大きいので、ホールド性を向上できると推察される。
【0076】
次に図8を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、軟質ポリウレタンフォームにより一体的に形成されるクッションパッドについて説明した。これに対し第2実施の形態では、複数の層状の部材を積層して形成されるクッションパッドについて説明する。図8は第2実施の形態におけるクッションパッド30の断面図である。
【0077】
図8に示すようにクッションパッド30は、着座者に着座される着座部31と、着座部31の下部に配置される中央上部32と、中央上部32の下部に配置される中央下部33と、中央下部33の下部に配置される底面部34とを備えている。着座部31の左右方向外側にサイドサポート部35が配置される。着座部31、中央上部32、中央下部33及び底面部34は、互いに接着され積層される。サイドサポート部35は、中央上部32の左右両側に接着される。
【0078】
着座部31、中央上部32、中央下部33及び底面部34は、この順に25%圧縮時の力S_(25)が大きくなるように材質が選択される。本実施の形態では、着座部31、中央上部32、中央下部33及び底面部34は、いずれも軟質ポリウレタンフォーム(モールドウレタン)により平板状に形成される。着座部31、中央上部32、中央下部33及び底面部34の硬さ分布は、第1実施の形態におけるクッションパッド1(後部サポート部3)の硬さ分布と同様に設定されるので、説明を省略する。第2実施の形態におけるクッションパッド30によれば、第1実施の形態におけるクッションパッド1と同様の作用・効果を実現できる。
【0079】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた形状は一例であり、他の形状を採用することは当然可能である。
【0080】
上記各実施の形態では、車両(自動車)に搭載されるクッションパッド1,30について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。クッションパッド1,30を自動車以外の他の車両(例えば鉄道車両)や船舶、航空機等の乗物に装備されるクッション材に適用したり、家具等のクッション材に適用したりすることは当然可能である。
【0081】
上記第1実施の形態では、便宜上、一体に成形された発泡合成樹脂製(軟質ポリウレタンフォーム製)のクッションパッド1(後部サポート部3)を上下方向に4層に区分して、その各層を左右方向に15個に区分し、60個の試験片を採取して硬さを測定する場合について説明したが、試験片の数(層数や左右方向の区分数)や大きさはこれに限られるものでない。試験片の大きさは、硬さを測定可能な大きさに適宜設定することができる。また、試験片の数は、硬さを測定可能な試験片の大きさを勘案して、その大きさの試験片を採取できる数に適宜設定できる。なお、クッションパッド1(後部サポート部3)の大きさを考慮すると、後部サポート部3を4層または5層に区分するのが適当である。また、試験片の大きさは、四角柱の1辺の長さを20?25mmにするのが好適である。
【0082】
また、上記第1実施の形態では、便宜上、第1部25及び第1サイド部27が中央上部22に設けられると共に、第2部26及び第2サイド部28が中央下部23に設けられる場合について説明した。しかし、第1部25、第1サイド部27、第2部26及び第2サイド部28の位置は、これに限られるものではない。これらの位置は、クッションパッド1(後部サポート部3)を上下方向に区分する層数に応じて、適宜設定される。
【0083】
上記各実施の形態では、クッションパッド1,30にサイドサポート部5,35が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、サイドサポート部5,35を省略することは可能である。クッションパッド1,30(サポート部2)は左右方向、即ち臀部および太腿の側部のホールド性(拘束性)に優れるからである。
【0084】
上記各実施の形態では、後部サポート部3が所定の硬さ分布をもつものについて説明したが、前部サポート部4も後部サポート部3と同様の硬さ分布をもつように設定することができる。これにより、臀部のぐらつき感だけでなく太腿のぐらつき感も抑制できる。
【0085】
上記各実施の形態では、表面に凹設された縦溝6及び横溝7,8,9を利用して表皮(図示せず)を引張固定するクッションパッド1,30について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、表面に接着剤を塗布して表皮を接着(装着)するクッションパッドに適用することは当然可能である。
【0086】
上記第2実施の形態では、着座部31、中央上部32、中央下部33及び底面部34が、いずれも所定形状の成形型で成形された軟質ポリウレタンフォーム(モールドウレタン)により形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の材質を採用することは当然可能である。他の材質としては、例えば、成形された軟質ポリウレタンフォームを切断して形成されるスラブウレタン、軟質ポリウレタンフォームの製造工程で生じる端材等を粉砕して形成されたチップウレタン、3次元的に絡み合う複数の合成樹脂製繊維で構成される立体網状体、固綿等の繊維体、ウレタンゴムや熱可塑性エラストマー等の合成樹脂製の弾性体が挙げられる。これらを積層することで、所定の硬さ分布を得ることができる。着座部31、中央上部32、中央下部33及び底面部34の硬さや密度、形状は、材質を選択すると共に、成形型のキャビティ形状の設計や裁断、切削等により適宜設定できる。
【0087】
また、上記第2実施の形態では、着座部31、中央上部32、中央下部33及び底面部34の各層が平板状に形成された場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、湾曲板状に形成することは当然可能である。着座部31、中央上部32、中央下部33及び底面部34は、モールド成形や裁断等によって所定の形状に成形することができるからである。これらの層を湾曲板状に形成することで、着座者の臀部の側方に硬さの大きい部分が配置されるようにすることは当然可能である。
【符号の説明】
【0088】
1,30 クッションパッド
2 サポート部
3 後部サポート部(サポート部)
11 着座面
12 底面
13 厚さ中央
21,31 着座部
22,32 中央上部(コア部)
23,33 中央下部(コア部)
24,34 底面部
25 第1部
26 第2部
27 第1サイド部
28 第2サイド部
H 着座者
T1,T2 坐骨結節部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者が着座する着座面およびその反対側の底面を有するサポート部を備え、
前記サポート部は、前記着座面側となる部位および前記底面側となる部位の中間部位に位置するコア部から採取した長さ100mm幅100mm厚さ50mmの第1試験片について、JISK6400-2(2012年版)に規定されるE法に準拠して測定した圧縮時の荷重100Nに対するたわみが30mm以下であり、
前記第1試験片について、20mm/分の引張速度で測定した300N負荷時の静ばね定数が25N/mm以下(0N/mmは除く)であることを特徴とするクッションパッド。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-11 
出願番号 特願2014-159210(P2014-159210)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A47C)
P 1 651・ 121- YAA (A47C)
P 1 651・ 113- YAA (A47C)
P 1 651・ 536- YAA (A47C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大谷 謙仁  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 島田 信一
岡▲さき▼ 潤
登録日 2018-03-23 
登録番号 特許第6308905号(P6308905)
権利者 株式会社東洋クオリティワン
発明の名称 クッションパッド  
代理人 関口 一哉  
代理人 関口 一哉  
代理人 特許業務法人しんめいセンチュリー  
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