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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
管理番号 1362365
異議申立番号 異議2019-700608  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-31 
確定日 2020-04-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6471564号発明「光学フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6471564号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6471564号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6471564号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年3月20日の出願であって、平成31年2月1日にその特許権の設定登録(請求項の数1)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和1年7月31日に特許異議申立人 山本 龍郎(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立てがされ、同年11月5日付けで取消理由が通知され、令和2年1月7日に特許権者 日本ゼオン株式会社(以下、「特許権者」という。)より意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」という。)がなされたものである。なお、本件訂正請求について、同年同月15日付で特許法第120条の5第5項の通知を特許異議申立人に行ったところ、特許異議申立人からは何ら応答がなかった。


第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)

(訂正事項)
特許請求の範囲の請求項1に、「キャスティングドラムの表面の周速度V(m/分)が30?150m/分」とあるのを、「キャスティングドラムの表面の周速度V(m/分)が50?150m/分」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

キャスティングドラムの表面の周速度V(m/分)について、「30?150m/分」を「50?150m/分」に変更する訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、明細書の段落【0026】の、「周速度Vは、好ましくは30m/分以上、より好ましくは50m/分以上であり」との記載、実施例7ないし9における、周速度Vとして50m/分との記載から、請求項1に係る当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

3 小括

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。


第3 本件発明

請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
ガラス転移温度がTg(℃)である熱可塑性樹脂を加熱溶融状態でダイスから押し出し、溶融樹脂フィルムを連続的に成形する溶融樹脂フィルム成形工程、及び
前記溶融樹脂フィルムを、回転するキャスティングドラムに連続的に導き、前記キャスティングドラムの回転により前記溶融樹脂フィルムを前記キャスティングドラムの周面上の搬送経路に沿って搬送し、前記溶融樹脂フィルムを冷却する冷却工程
を含む、光学フィルムの製造方法であって、
前記キャスティングドラムの表面の周速度V(m/分)が50?150m/分であり、
前記ダイスから吐出される前記溶融樹脂フィルムが前記キャスティングドラムの表面に到達する時点の前記溶融樹脂フィルムの表面温度がTp(℃)であり、
前記V、Tp及びTgが、以下の式(I)を満たす、光学フィルムの製造方法。
13.6×ln(V)+Tg+50≦Tp≦Tg+155℃ 式(I)」


第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について

特許異議申立人が特許異議申立書において、訂正前の請求項1に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

申立理由1-1(新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

申立理由1-2(新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・甲第1号証:特開2008-273138号公報
・甲第2号証:特開2009-292871号公報


第5 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要

訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審が令和1年11月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。(なお、異議申立理由はいずれも、取消理由と同旨である。)

取消理由1-1(新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由1-2(新規性欠如) 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由についての検討

上記の取消理由について順次検討する。

(1)取消理由1-1(甲第1号証を根拠とする新規性欠如)について

ア 甲第1号証の記載事項等

(ア) 甲第1号証の記載事項

甲第1号証には次の事項が記載されている。(各段落冒頭のタイトルにあたる部分以外の下線は合議体が付したものである。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融した熱可塑性樹脂を冷却ロールとタッチロールとによって押し付けて押出し成形して得られる熱可塑性フイルム及びその製造方法に関する。また、本発明は、光学特性に熱可塑性フイルムを用いた偏光板、液晶表示板用光学補償フイルム、反射防止フイルム及び液晶表示装置に関する。」

「【0007】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、溶融製膜法にて製膜される熱可塑性フイルムの脆性を改善することができ、特に、高速製膜(巻き取り、延伸)における熱可塑性フイルムのひび割れやクラック等が発生し難い熱可塑性フイルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明においては、前記熱可塑性フイルムを用いた偏光板、液晶表示板用光学補償フイルム、反射防止フイルム、及びこれらを用いた液晶表示装置を提供することを目的とする。」

「【実施例1】
・・・
【0394】
2.製膜
2-1.溶融製膜
2-1-1.ペレット化
前記セルロースアシレート100質量部、安定剤(住友化学(株)製スミライザーGP)0.1質量部、アデカスタブ AO-60(旭電化工業株製)0.25質量部、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量部、紫外線吸収剤(2-(2’-ヒドロキシ-3’、5-ジ-tert-ブチルフェニル)-ベンゾトリアゾール0.05質量部、2,4-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン0.1質量部)を混合した。
【0395】
これらを100℃で3時間乾燥し含水率を0.1質量%以下にした後、2軸混練機を用い180℃で溶融した後、60℃の温水中に押し出しストランドとした後裁断し、直径3mm長さ5mmの円柱状のペレットに成形した。
【0396】
2-1-2.製膜
前記方法で調製したセルロースアシレートペレットを、露点温度-40℃の脱湿風を用いて100℃で5時間乾燥し含水率を0.01質量%以下にした。これを80℃のホッパーに投入し、180℃(入口温度)から230℃(出口温度)に調整した押出機14で溶融した。なお、これに用いたスクリューの直径は60mm、L/D=50、圧縮比4であった。押出機14から押出された溶融樹脂90はギアポンプ16で一定量計量され送り出されるが、この時ギアポンプ前の樹脂圧力が10MPaの一定圧力で制御できるように、押出機の回転数を変更させた。
【0397】
ギアポンプ16から送り出されたメルト樹脂90は濾過精度5μmのフィルタ18(リーフディスクフィルタ)にて濾過し、スタティックミキサを経由してハンガーコートダイ20から、第1冷却ロール28とタッチロール24との間に導入される。溶融樹脂90は、表1記載の条件で、第1冷却ロール28とタッチロール24とによって押し付けられて押出し成形された。これをガラス転移温度(Tg)-5℃、Tg、Tg-10℃の設定した3連のキャストロール上に押し出し、最上流側のキャストロールに表1記載の条件でタッチロールを接触させ、未延伸フイルムを製膜した。なお、タッチロールは特開平11-235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg-5℃に調温した。但し薄肉金属外筒厚みは2mm、押さえ圧は1MPaで行った。
【0398】
固化したメルトをキャスティングドラムから剥ぎ取り、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、30m/分で幅1.5m、長さ3000mの未延伸フイルムFaを得た。
【0399】
【表1】



「【実施例2】
【0425】
1.飽和ノルボルネン樹脂
1-1.飽和ノルボル樹脂-A
6-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレンに、重合触媒としてトリエチルアルミニウムの15%シクロヘキサン溶液10部、トリエチルアミン5部、及び四塩化チタンの20%シクロヘキサン溶液10部を添加して、シクロヘキサン中で開環重合し、得られた開環重合体をニッケル触媒で水素添加してポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をイソプロピルアルコール中で凝固させ、乾燥し、粉末状の樹脂を得た。この樹脂の数平均分子量は40,000、水素添加率は99.8%以上であり、Tgは139℃であった。
【0426】
1-2.飽和ノルボル樹脂-B
8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12.5,17.10]-3-ドデセン(特定単量体B)100質量部と、5-(4-ビフェニルカルボニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(特定単量体A)150質量部と、1-ヘキセン(分子量調節剤)18部と、トルエン750質量部とを窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒としてトリエチルアルミニウム(1.5モル/l)のトルエン溶液0.62質量部と、t-ブタノール及びメタノールで変性した六塩化タングステン(t-ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(濃度0.05モル/l)3.7質量部とを添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であり、得られた開環重合体について、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度(ηinh)は0.65dl/gであった。
【0427】
このようにして得られた開環重合体溶液4,000質量部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C_(6)H_(5))_(3)]_(3)0.48部を添加し、水素ガス圧100kg/cm^(2)、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体(特定の環状ポリオレフィン系樹脂)を得た。このようにして得られた水素添加重合体について400MHz、^(1)H-NMRを用いてオレフィン性不飽和結合の水素添加率を測定したところ99.9%であった。GPC法(溶媒:テトラヒドロフラン)によりポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定したところ、数平均分子量(Mn)は39,000、重量平均分子量(Mw)は126,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.23であった。また、Tgは110℃であった。
【0428】
1-3.飽和ノルボル樹脂-C
特開2005-330465号公報の実施例2に記載の飽和ノルボルネン化合物(Tg127℃)である。
【0429】
1-4.飽和ノルボル樹脂-D
特表平8-507800号公報の実施例1に記載の飽和ノルボルネン化合物(Tg181℃)である。
【0430】
1-5.飽和ノルボル樹脂-E
三井化学(株)製APL6015T(Tg145℃)である。
【0431】
1-6.飽和ノルボル樹脂-F
ポリプラスチックス(株)製TOPAS6013(Tg130℃)である。
【0432】
1-7. 飽和ノルボル樹脂-G
特許第3693803号公報の実施例1に記載の飽和ノルボルネン化合物(Tg140℃)である。
【0433】
2.製膜
前記飽和ノルボルネン樹脂-A?Gの100質量部に、安定剤アデカスタブAO-60(旭電化工業株式会社製)1.1質量部を添加し、直径3mm長さ5mmの円柱状のペレットに成形した。これを110℃の真空乾燥機で乾燥し、含水率を0.1%以下とした後、Tg-10℃になるように調整したホッパに投入した。
【0434】
混練押出し機で260℃で溶融した後、ギアポンプから送り出されたメルトは濾過精度5μmのリーフディスクフィルタにて濾過し、スタティックミキサを経由してハンガーコートダイから、キャスティングドラム(CD)上にメルト(溶融樹脂)を押出した。これを、ガラス転移温度(Tg)-5℃、Tg、Tg-10℃に設定した3連のキャストロール上に押し出し、最上流側のキャストロールに表1に記載の条件でタッチロールを接触させ、未延伸フイルムを製膜した。なお、タッチロールは特開平11-235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg-5℃に調温した。但し、薄肉金属外筒厚みは2mm、押さえ圧は1MPaで行った。
【0435】
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。」

(イ)甲第1号証に記載された発明

実施例1、2は、その記載から、いわゆる光学フィルムを連続的に製造しているものといえる。してみると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ガラス転移温度がTg(℃)である熱可塑性樹脂を加熱溶融状態でハンガーコートダイから押し出し、溶融樹脂フィルムを連続的に製膜する溶融樹脂フィルム製膜工程、及び
前記溶融樹脂フィルムを、回転するキャスティングドラムに連続的に導き、前記溶融樹脂フィルムを冷却する冷却工程
を含み、
製膜速度V、樹脂Tg、溶融樹脂のダイの出口温度及び上記V、Tgに関する関係式(13.6×ln(V)+Tg+50)について次の表の条件となる、光学フィルムの製造方法。



イ 本件発明と甲1発明との対比・判断

本件発明と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「ハンガーコートダイ」、「溶融樹脂フィルム製膜工程」はそれぞれ、本件発明の「ダイス」、「溶融樹脂フィルム成形工程」に相当する。また、甲1発明では、溶融樹脂フィルムはキャスティングドラムに連続的に導かれるものであるから、「前記キャスティングドラムの回転により前記溶融樹脂フィルムを前記キャスティングドラムの周面上の搬送経路に沿って搬送し」との本件発明の特定事項を満たすものであることは明らかである。

したがって、両者は、
「ガラス転移温度がTg(℃)である熱可塑性樹脂を加熱溶融状態でダイスから押し出し、溶融樹脂フィルムを連続的に成形する溶融樹脂フィルム成形工程、及び
前記溶融樹脂フィルムを、回転するキャスティングドラムに連続的に導き、前記キャスティングドラムの回転により前記溶融樹脂フィルムを前記キャスティングドラムの周面上の搬送経路に沿って搬送し、前記溶融樹脂フィルムを冷却する冷却工程
を含む、光学フィルムの製造方法」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本件発明のキャスティングドラムの周速度は「50?150m/分」であるのに対して、甲1発明の製膜速度(キャスティングドラムの周速度に相当)は「30m/分」である点。

・相違点2
本件発明は、「前記ダイスから吐出される前記溶融樹脂フィルムが前記キャスティングドラムの表面に到達する時点の前記溶融樹脂フィルムの表面温度がTp(℃)」と特定されるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない(甲1発明では「溶融樹脂のダイの出口温度」である)点。

・相違点3
本件発明は、ガラス転移温度がTg(℃)、キャスティングドラムの表面の周速度V(m/分)、ダイスから吐出される溶融樹脂フィルムがキャスティングドラムの表面に到達する時点の前記溶融樹脂フィルムの表面温度がTp(℃)とするとき、「13.6×ln(V)+Tg+50≦Tp≦Tg+155℃ 式(I)」を満たすものであるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

まず、相違点1について検討するに、甲1発明の製膜速度(キャスティングドラムの周速度に相当)は「30m/分」であり、本件発明のキャスティングドラムの周速度の条件を満たすものではなく、実質的にも相違点であることは明らかである。
してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は甲第1号証に記載された発明とはいえない。

(2)取消理由1-2(甲第2号証を根拠とする新規性欠如)について

ア 甲第2号証の記載事項等

(ア)甲第2号証の記載事項

甲第2号証には次の事項が記載されている。(下線は合議体が付したものである。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用アクリルフィルムおよびその製造方法に関し、特に、膜厚が薄く、ダイライン、表面粗さおよびフィルムシワが良好な光学用アクリルフィルムおよびその製造方法および、この光学用アクリルフィルムを用いた光漏れの少ない偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置に関する。」

「【0007】
すなわち、本発明の第一の目的は、膜厚が薄く、ダイライン、表面粗さおよびフィルムシワが良好なアクリルフィルムおよびその製造方法を提供することである。さらに、本発明の第二の目的は、前記アクリルフィルムを用いた光もれが起き難い偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、およびこれらを用いた液晶表示装置を提供することである。」

「【0255】
(アクリル樹脂の調製)
[製造例1、2]
ラクトン環単位を含む下記アクリル樹脂LA-1?LA-3の調製を行った。
特開2008-9378号公報[0222]?[0224]の製造例1に従い、メタクリル酸メチル7500g、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2500gから合成し、ラクトン化率98%、Tg=134℃のアクリル樹脂LA-1を得た。
【0256】
LA-2:特開2008-58768号公報[0105]?[0106]の製造例2に従いメタクリル酸メチル=8000g、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2000gから合成しラクトン化率97%、Tg=130℃のアクリル樹脂LA-2を得た。
【0257】
[製造例3]
無水マレイン酸単位を含む下記アクリル酸樹脂MA-2の調製を行った。
MA-2:特開2007-113109号公報の[0049]記載の「耐熱アクリル樹脂」に従い無水マレイン酸10モル%、スチレン16モル%、メタクリル酸メチル74モル%の樹脂を合成した。このTgは112℃であった。
【0258】
[製造例4?6]
グルタル酸無水物単位を含む下記アクリル酸樹脂GU-1?GU-3の調製を行った。
GU-1:特開2006-241263号公報の[0130]?[0135]に従い、グルタル酸無水物単位32重量%、メタクリル酸メチル単位65重量%、メタクリル酸単位3重量単位、Tg=138℃のアクリル樹脂GU-1を得た。
【0259】
GU-2:特開2008-74918号公報[0114]に記載のTg=140℃のアクリル樹脂GU-2を得た。
【0260】
GU-3:特開2008-83285号公報の実施例2に記載のアクリル系ポリマー(a2)(Tg=124℃)の樹脂を得た。
【0261】
そのほか、無水マレイン酸単位を含むアクリル樹脂MA-1として旭化成ケミカルズ(株)製デルペット980Nを準備した。このアクリル樹脂のTgは117℃であり、全モノマー中無水マレイン酸15モル%、スチレン18モル%、メタクリル酸メチル67モル%含有している。
【0262】
また、上記構造を有しない樹脂として、PMMA樹脂(旭化成ケミカルズ(株)製デルペット80N)を使用した。このアクリル樹脂のTgは107℃であり、メタクリル酸メチル96モル%とアクリル酸メチル4モル%から成る。」

「【0263】
[実施例1]
(アクリルフィルムの製膜)
調製した前記アクリル樹脂LA-1を90℃の真空乾燥機で乾燥して含水率を0.03%以下とした後、安定剤(イルガノックス1010(チバガイギ(株)製)0.3重量%添加し230℃において窒素気流中下、ベント付2軸混練押出し機を用い、水中に押出しストランド状にした後、裁断し直径3mm長さ5mmのペレットを得た。
【0264】
これらのペレットを90℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.03%以下とした後、1軸混練押出し機を用い供給部210℃、圧縮部230℃、計量部230℃で混練し押出した。このとき押し出し機とダイの間に300メッシュのスクリーンフィルター、ギアポンプ、濾過精度7μmのリーフディスクフィルターをこの順に配置し、これらをメルト配管で連結した。さらにスタチックミキサーをダイ直前のメルト配管内に設置した。このメルト(溶融樹脂)をダイリップ温度とダイ温度の差20℃、C/T比=16の条件を満たすハンガーコートダイに導入した。
【0265】
この後、3連のキャストロール(上流から順にCD1?CD3)上にメルトを押出した。ここで、ダイリップから最上流側のキャストロール(CD1、すなわちチルロール)までの間に保温装置を設けておき、チルロール接触時のメルト温度を245℃となるようした。このように保温したメルトをチルロールに接触させ、その後3MPaのタッチ圧でタッチロールを接触させた。タッチロールは特開平11-235747号公報の実施例1に記載のロールRa25mmの弾性ロール(二重抑えロールと記載のあるもの、但し薄肉金属外筒厚みは2mmとした)を用い、タッチロールの温度はTg-5℃で使用した。また、タッチロールとチルロールの周速差は0.6%とした。なお、チルロールを含む3連のキャストロール(上流から順にCD1?CD3)の温度は、CD1=タッチロール温度と同一(Tg-5℃)、CD2=タッチロール温度-7℃、CD3=タッチロール温度-9℃とした。また、チルロールによってメルトはフィルム化された後、CD2およびCD3との温度差0.4℃となるように制御した。
【0266】
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各5cm)をトリミングした後、両端に耳部幅50mm、耳部厚み差30μmの耳部を作製(ナーリング加工)した。また製膜幅を1mとし、製膜速度30m/分で3000m巻き取った。製膜後の未延伸フィルムの厚みは60μmとした。このとき、残留溶媒は検出されなかった。このアクリルフィルムを本発明の実施例1のアクリルフィルムとした。」

「【0271】
[実施例2?47および比較例1?10]
アクリル樹脂、膜厚、耳部幅、フィルムと2本目以降のキャストロールとの温度差、ロール接触時メルト温度、ダイリップからロール接触時までの保温および/または加温の有無、タッチロール種類、タッチ圧、タッチロールとチルロール(CD1)とのロール周速差、タッチロールとチルロール(CD1)の温度、タッチロールとチルロール(CD1)のロールRa、ダイリップのクリアランス(C)と製膜後のフィルム膜厚(T)の比C/T、ダイリップ温度とダイ温度の差を下記表1および表2に記載の通りとした以外は実施例1と同様にして、実施例2?47および比較例1?10のアクリルフィルム、実施例2?47および比較例1?10の偏光板を作成した。なお、実施例2?47および比較例1?10において、残留溶媒は検出されなかった。」

「【0274】
【表1】

【0275】
【表2】


(イ) 甲第2号証に記載された発明

実施例はその記載から、光学用アクリルフィルムを連続的に製造しているものといえる。してみると、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「ガラス転移温度がTg(℃)であるアクリル樹脂を加熱溶融状態でハンガーコートダイから押し出し、溶融樹脂フィルムを連続的に製膜する溶融樹脂フィルム化工程、及び
前記溶融樹脂フィルムを、回転するキャストロールに連続的に導き、前記溶融樹脂フィルムを冷却する冷却工程
を含み、
製膜速度V、樹脂Tg、溶融樹脂のロール接触時メルト温度Tp及び上記V、Tg、Tpに関する関係式(13.6×ln(V)+Tg+50)について次の表の条件となる、光学用アクリルフィルムの製造方法。



イ 本件発明と甲2発明との対比・判断

本件発明と甲2発明とを対比する。

甲2発明の「ハンガーコートダイ」、「溶融樹脂フィルム化工程」、「キャストロール」、「光学用アクリルフィルムの製造方法」はそれぞれ、本件発明の「ダイス」、「溶融樹脂フィルム成形工程」、「キャスティングドラム」、「光学フィルムの製造方法」に相当する。また、甲2発明では、溶融樹脂フィルムはキャストロール(キャスティングドラム)に連続的に導かれるものであるから、「前記キャスティングドラムの回転により前記溶融樹脂フィルムを前記キャスティングドラムの周面上の搬送経路に沿って搬送し」との本件発明の特定事項を満たすものであることは明らかである。

したがって、両者は、
「ガラス転移温度がTg(℃)である熱可塑性樹脂を加熱溶融状態でダイスから押し出し、溶融樹脂フィルムを連続的に成形する溶融樹脂フィルム成形工程、及び
前記溶融樹脂フィルムを、回転するキャスティングドラムに連続的に導き、前記キャスティングドラムの回転により前記溶融樹脂フィルムを前記キャスティングドラムの周面上の搬送経路に沿って搬送し、前記溶融樹脂フィルムを冷却する冷却工程
を含む、光学フィルムの製造方法」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点4
本件発明のキャスティングドラムの周速度は「50?150m/分」であるのに対して、甲2発明の製膜速度(キャスティングドラムの周速度に相当)は「30m/分」である点。

・相違点5
本件発明は、ガラス転移温度がTg(℃)、キャスティングドラムの表面の周速度V(m/分)、ダイスから吐出される溶融樹脂フィルムがキャスティングドラムの表面に到達する時点の前記溶融樹脂フィルムの表面温度がTp(℃)とするとき、「13.6×ln(V)+Tg+50≦Tp≦Tg+155℃ 式(I)」を満たすものであるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。

まず、相違点4について検討するに、甲2発明の製膜速度(キャスティングドラムの周速度に相当)は「30m/分」であり、本件発明のキャスティングドラムの周速度の条件を満たすものではなく、実質的にも相違点であることは明らかである。
してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は甲第2号証に記載された発明とはいえない。


第6 結論

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度がTg(℃)である熱可塑性樹脂を加熱溶融状態でダイスから押し出し、溶融樹脂フィルムを連続的に成形する溶融樹脂フィルム成形工程、及び
前記溶融樹脂フィルムを、回転するキャスティングドラムに連続的に導き、前記キャスティングドラムの回転により前記溶融樹脂フィルムを前記キャスティングドラムの周面上の搬送経路に沿って搬送し、前記溶融樹脂フィルムを冷却する冷却工程
を含む、光学フィルムの製造方法であって、
前記キャスティングドラムの表面の周速度V(m/分)が50?150m/分であり、
前記ダイスから吐出される前記溶融樹脂フィルムが前記キャスティングドラムの表面に到達する時点の前記溶融樹脂フィルムの表面温度がTp(℃)であり、
前記V、Tp及びTgが、以下の式(I)を満たす、光学フィルムの製造方法。
13.6×ln(V)+Tg+50≦Tp≦Tg+155℃ 式(I)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-04-01 
出願番号 特願2015-57879(P2015-57879)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辰己 雅夫  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大畑 通隆
植前 充司
登録日 2019-02-01 
登録番号 特許第6471564号(P6471564)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 光学フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 酒井 宏明  
代理人 酒井 宏明  

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