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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E06B
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:546  E06B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E06B
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:547  E06B
管理番号 1363151
異議申立番号 異議2019-700340  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-24 
確定日 2020-04-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6431226号発明「横型ブラインド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6431226号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ー8]について訂正することを認める。 特許第6431226号の請求項1、3、5ないし8に係る特許を維持する。 特許第6431226号の請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6431226号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成25年6月18日を国際出願日とする特願2014-521481号の一部を、平成30年3月13日に新たな特許出願としたものであって、平成30年11月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月28日に特許掲載公報が発行された、その後、その特許について、平成31年4月24日に特許異議申立人加藤浩志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和1年8月9日付けで取消理由を通知した(8月15日発送)。特許権者は、その指定期間内である令和1年10月11日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行った。なお、当審は、その訂正の請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、何らの応答もなかった。


第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである。
(下線は、訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記ラダーコードの各段の横糸は一方の横糸と他方の横糸とを備え、
前記スラットの閉回動時、一方の横糸は、張った状態となりスラットを支持し、他方の横糸は、切欠部に入り込む」とあるのを、
「前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、一方の縦糸は前記一方の横糸が前記他方の横糸より下方に形成され、他方の縦糸は前記他方の横糸が前記一方の横糸より下方に形成され、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、
前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入され、
前記スラットの閉回動時、前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の横型ブラインド。」と記載されているのを、「請求項1に記載の横型ブラインド。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項4に記載の横型ブラインド。」と記載されているのを、「請求項3に記載の横型ブラインド。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記スラットの閉回動時、前記交差部は、前方から見て、前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項4または5に記載の横型ブラインド。」と記載されているのを、
「前記スラットの閉回動時、前記交差部が、前方から見て、当該交差部を形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。」
に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記スラットの全閉回動時、前記切欠部が前記スラットの下側に位置する箇所において、前記交差部は、前方から見て、前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項4または5に記載の横型ブラインド。」と記載されているのを、
「前記スラットの全閉回動時、前記切欠部が前記スラットの下側に位置する箇所において、前記交差部が、前方から見て、当該交差部を形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。」
に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「前記スラットの長手方向の両側に位置するラダーコードであって、前記スラットの正全閉回動時、前記切欠部が前記スラットの下側に位置する箇所において、前記交差部は、前方から見て、前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項4または5に記載の横型ブラインド。」と記載されているのを、
「前記スラットの長手方向の両側に位置するラダーコードであって、前記スラットの正全閉回動時、前記切欠部が前記スラットの下側に位置する箇所において、前記交差部が、前方から見て、当該交差部を形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。」
に訂正する。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「ラダーコードの各段」について、「横糸は一方の横糸と他方の横糸とを備え」るものを、横糸と縦糸の関係を特定して、「一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、一方の縦糸は前記一方の横糸が前記他方の横糸より下方に形成され、他方の縦糸は前記他方の横糸が前記一方の横糸より下方に形成され、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成」するものに限定し、また、「スラット」について、横糸との位置関係を「前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入され」るものに限定し、さらに、「スラットの閉回動時」について、「一方の横糸は、張った状態となりスラットを支持し、他方の横糸は、切欠部に入り込む」ものを、スラットと横糸との関係をさらに特定して、「前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する」ものに限定する訂正であるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的と訂正である。

イ 特許請求の範囲の拡張または変更
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項
本件特許明細書に、
「【0011】
請求項2に記載の発明では、前記スラットは、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入される。」、
「【0013】
請求項4に記載の発明では、前記一方の横糸と前記他方の横糸は、交差部を備え、前記交差部は、前記切欠部側にある。」、
「【0028】
各横糸6a,6bは、中間部で互いに交差する交差部7が形成されるように、縦糸5a,5bに対し上下方向に一定の間隔を隔てた位置に形成されている。すなわち、一方の縦糸5aでは横糸6bが横糸6aより下方に形成され、他方の縦糸5bでは横糸6aが横糸6bより下方に形成されている。よって、例えば、前記操作装置16の操作によって、図5に示すように、縦糸5aが下方へ移動し、縦糸5bが上方へ移動する場合には、横糸6aが若干弛むのに反して、横糸6bは張った状態、即ちテンションが掛かった状態とされる。」、
「【0037】
操作装置16の操作によって、図9(a)?図9(c)に示すように、後方側の縦糸5aが下方へ移動し、前方側の縦糸5bが上方へ移動する正閉回動時には、横糸6aが若干弛み、横糸6bは張った状態、即ちテンションが掛かった状態となる。」、
「【0038】
このとき、昇降コード11,13の垂下箇所の上部側(最上段から5段目まで)では、図9(a)に示すように、スラット4の切欠部4aに横糸6aが入り込み、スラット4の後方側縁部(下端縁部)が下方に落ち込むことで、スラット4の起き上がり度合いが大きくなる。」と記載され、
そして、本件特許の図9の(a)、(b)や図10の(c)、(d)をみると、横糸6aの弛み部分が、スラット4の切欠部4aに入り込んでいることが看取できる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項の記載を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3が、訂正前の請求項1または2を引用する記載であったものを、請求項2の削除に伴って、請求項1のみを引用する記載に改める訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項の記載を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項5が、訂正前の請求項4を引用する記載であったものを、請求項4の削除に伴って、訂正前の請求項4が引用する請求項1ないし3のうちの何れか1項のうちの請求項3を引用する記載に改める訂正である。そして、本件訂正により、訂正前の請求項2及び請求項4の記載は、削除されて実質的に請求項1に加えられており、また、請求項3は請求項1を引用するものであるから、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的
(ア)「当該交差部を形成する横糸が支持する」を加える訂正について
当該訂正は、訂正前の請求項6に係る発明を特定する事項である「前記スラットの閉回動時、前記交差部が、前方から見て、」その「後方に隠れて位置する」とされる「スラット」について、「当該交差部を形成する横糸が支持する」ものに特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

(イ)「請求項4または5」を「請求項1,3,5のうち何れか1項」とする訂正について
当該訂正は、訂正前の請求項6が請求項4または5を引用する記載について、そのうち、訂正前の請求項4が請求項1ないし3の何れか1項を引用していたところ、請求項2及び4が削除されて請求項1に加えられたことに伴い、「請求項1,3,5のうち何れか1項」を引用する記載に改める訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更
訂正事項6は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項
本件特許の図9の(a)、(b)や図10の(c)、(d)において、縦糸5b方向から見ると、交差部4aを形成する一対の横糸6a、6bによって挟まれているスラット4により、該交差部が隠れていることが看て取れる。
そして、本件特許明細書に、「【0037】操作装置16の操作によって、図9(a)?図9(c)に示すように、後方側の縦糸5aが下方へ移動し、前方側の縦糸5bが上方へ移動する正閉回動時には、横糸6aが若干弛み、横糸6bは張った状態、即ちテンションが掛かった状態となる。」と記載されているから、上記図9の(a)、(b)や図10の(c)、(d)の縦糸5b側は前方ということができる。
したがって、訂正事項6は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(7)訂正事項7、8
訂正事項7、8は、その訂正箇所が訂正事項6の訂正箇所と同様の訂正であるから、上記(6)で説示したことと同様に、訂正事項7、8は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は、それぞれ請求項1を直接または間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8は、一群の請求項である。

3 訂正請求のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-8]について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ヘッドボックスから吊下支持される複数本のラダーコードに複数段のスラットを支持し、前記ヘッドボックスから垂下される複数本の昇降コードを前記スラットの前方及び後方にそれぞれ垂下し、操作装置の操作により前記ラダーコードを介してスラットを回動可能とするとともに、前記昇降コードを昇降して前記スラットを昇降可能とした横型ブラインドにおいて、
前記スラットは、前後方向における少なくとも一方の縁部に切欠部を備え、
前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、一方の縦糸は前記一方の横糸が前記他方の横糸より下方に形成され、他方の縦糸は前記他方の横糸が前記一方の横糸より下方に形成され、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、
前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入され、
前記スラットの閉回動時、前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する
横型ブラインド。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記昇降コードは、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入される
請求項1に記載の横型ブラインド。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記一方の縦糸と、前記一方の横糸および前記他方の横糸と、前記交差部とで囲まれる空間に前記昇降コードが挿通される
請求項3に記載の横型ブラインド。
【請求項6】
前記スラットの閉回動時、前記交差部が、前方から見て、当該交差部が形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。
【請求項7】
前記スラットの全閉回動時、前記切欠部が前記スラットの下側に位置する箇所において、前記交差部は、前方から見て、当該交差部が形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。
【請求項8】
前記スラットの長手方向の両側に位置するラダーコードであって、前記スラットの正全閉回動時、前記切欠部が前記スラットの下側に位置する箇所において、前記交差部は、前方から見て、当該交差部を形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が令和1年8月9日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
「1.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(実施可能要件)本件出願は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.(新規性)本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
5.(進歩性)本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、また、請求項1、2に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、請求項3ないし8に係る発明は、下記の甲第2号証及び甲第1号証に記載の発明、及び甲第3号証に記載の事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:国際公開第2011/138960号
甲第2号証:特開2011-256578号公報
甲第3号証:米国特許第5727613号明細書」

2 甲号証の記載
(1) 甲第1号証
取消理由通知で引用された甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(下線は、決定で付した。以下同様。)
ア 「[0001] 本発明は、スラットの前後方向中心部からオフセットされた位置に昇降コードが配設される横型ブラインドに関する。」

イ 「[0024](第1実施形態)
図1ないし図10は、本発明の第1実施形態を表す。この実施形態は、特に重い製品に適用するのに適したものである。
[0025] この横型ブラインドにおいては、ブラケット11により窓枠等に固定されるヘッドボックス10の一端から無端状の操作コード(操作部)14が垂下しており、操作コード14はヘッドボックス10内に配設されるプーリ(操作部)15に巻掛けられて、これを回転駆動可能である。プーリ15の回転はクラッチを介して、ヘッドボックス10内に回転可能に支持されている回転軸12に伝達可能である。クラッチによって、回転軸12からの回転は阻止され、プーリ15からの回転のみが回転軸12に伝達される。回転軸12にはこれの回転に連動して回転する3個の昇降ドラム20がヘッドボックス10の左右方向に間隔を空けて設けられている。
[0026] 各昇降ドラム20の配置位置からヘッドボックス10の下方に、ラダーコード16がそれぞれ垂下しており、各ラダーコード16は回転軸12の所定範囲角度の回転に連動して傾動するようになっている。各ラダーコード16は、ヘッドボックス10の前後方向に所定間隔を空けてそれぞれ垂下する前後の垂直コード16a及び16bと、上下方向に所定間隔を空けた位置において前後の垂直コード16a及び16b間に架設される中段コード16cとから成る。各中段コード16cは、さらに、一対の僅かに上下に離れた上コード及び下コードから成る。
[0027] ラダーコード16は、各中段コード16cの上コードと下コードの上下関係を中間で逆にして一対の交叉部分を形成して、その交叉部分の間にスラット18を挿入することにより、多数のスラット18を整列状態に支持しており、ラダーコード16の下端は、最下段に位置するスラット18の下方に配置されるボトムレール24に固定される。」

ウ 「[0035] 図10に示すように、スラット18の後側の側縁には少なくとも1つの切欠部18aが形成されており、ラダーコード16の中段コード16cの交叉部分が切欠部18aに引っ掛るようになっており、これによって、スラット18の水平方向へのずれを防止するようになっている。」

エ 「 特許請求の範囲
[請求項1] ヘッドボックス(10)内に回転可能に支持される回転軸(12)と、回転軸の回転に連動して傾動する複数のラダーコード(16)と、ラダーコードに整列状態に支持される多数のスラット(18)と、スラットを昇降可能な複数の昇降コード(22)と、を備え、昇降コードがスラットの前後方向中心部からオフセットされた位置に配設された、横型ブラインドにおいて、
回転軸の回転に連動して回転する複数の昇降ドラム(20)を備え、該昇降ドラムに昇降コードの一端が巻取り及び巻解き可能に連結されており、
少なくとも一つの昇降コード(22a)がヘッドボックスの前後方向における一方側からヘッドボックス内に導入されるとともに、他の昇降コード(22b)がヘッドボックスの前後方向における他方側からヘッドボックス内に導入され、
ヘッドボックスの前後方向における異なる位置からそれぞれヘッドボックス内に導入された全ての昇降コード(22a、22b)を、それぞれの一端が連結される昇降ドラム(20a、20b)によって同一方向に巻き取ることを特徴とする横型ブラインド。
[請求項2] 各昇降ドラムは、昇降コードの一端が巻取り及び巻解き可能に連結されるドラム部(26)と、ドラム部を回転自在に支持するドラム受け(28)と、から構成され、ドラム受けは、昇降コードをスラットの前後方向中心部からオフセットされた位置に垂下させるための昇降コードガイド部(28c、28d)を有することを特徴とする請求項1記載の横型ブラインド。
[請求項3] ドラム受けは、ラダーコードの前後の垂直コードが所定量以上前後方向に開かないよう規制するラダーコードガイド部(28a、28b)をさらに有し、昇降コードガイド部は、ラダーコードガイド部の前後方向の外側に形成されることを特徴とする請求項2記載の横型ブラインド。
[請求項4] スラットの側縁には少なくとも1つの切欠部(18a)が形成されており、少なくとも1つの切欠部に沿ってラダーコードの前後の垂直コード(16a、16b)のうちの一方が配されており、少なくとも1つの切欠部において、昇降コードは切欠部と垂直コードとの間を挿通するように配設されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の横型ブラインド。」

オ [図16](a)?(c)を参照すると、切欠部(18a)において、昇降コード(22a)は、垂直コード(16b)、上コード、下コード、上コードと下コードの交叉部分とで囲まれる空間に挿通されていること、
及び、切欠部(18a)がスラット(18)の上側または下側に位置するときに、切欠部(18a)は、隣接するスラット(18)の後方に位置していること、が看取できる。

カ 上記アないしオからみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「ヘッドボックス(10)内に回転可能に支持される回転軸(12)と、回転軸の回転に連動して傾動する複数のラダーコード(16)と、ラダーコードに整列状態に支持される多数のスラット(18)と、スラットを昇降可能な複数の昇降コード(22)と、を備え、昇降コードがスラットの前後方向中心部からオフセットされた位置に配設された、横型ブラインドにおいて、
無端状の操作コード(操作部)(14)をプーリ(操作部)(15)に巻掛けて、これを回転駆動可能とし、プーリ(15)の回転をクラッチを介して回転軸(12)に伝達可能であり、
回転軸の回転に連動して回転する複数の昇降ドラム(20)を備え、該昇降ドラムに昇降コードの一端が巻取り及び巻解き可能に連結されており、
ヘッドボックスの前後方向における異なる位置からそれぞれヘッドボックス内に導入された全ての昇降コード(22a、22b)を、それぞれの一端が連結される昇降ドラム(20a、20b)によって同一方向に巻き取るものであって、
各ラダーコード(16)は、ヘッドボックス(10)の前後方向に所定間隔を空けてそれぞれ垂下する前後の垂直コード(16a、16b)と、上下方向に所定間隔を空けた位置において前後の垂直コード(16a、16b)間に架設される中段コード(16c)とから成り、各中段コード(16c)は、さらに、一対の僅かに上下に離れた上コード及び下コードから成っており、各中段コード(16c)の上コードと下コードの上下関係を中間で逆にして一対の交叉部分を形成して、その交叉部分の間にスラット(18)を挿入することにより、多数のスラット(18)を整列状態に支持しており、
スラット(18)の後側の側縁には少なくとも1つの切欠部(18a)が形成されており、ラダーコード(16)の中段コード(16c)の交叉部分が切欠部(18a)に引っ掛るようになっており、
少なくとも1つの切欠部に沿ってラダーコードの前後の垂直コード(16a、16b)のうちの一方が配されており、少なくとも1つの切欠部において、昇降コードは切欠部と垂直コードとの間であって、垂直コード(16b)、上コード、下コード、上コードと下コードの交叉部分とで囲まれる空間に挿通され、
切欠部(18a)がスラット(18)の上側または下側に位置するときに、切欠部(18a)は、隣接するスラット(18)の後方に位置している、
横型ブラインド。」

(2)甲第2号証
取消理由通知で引用された甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドボックス(10)から垂下する複数のラダーコード(16)と、ラダーコードに整列状態に支持される多数のスラット(18)と、を備え、ラダーコードによってスラットの傾斜を可変とした、横型ブラインドにおいて、
ラダーコードは、前後に配置される垂直コード(16a、16b)と、前後の垂直コードの上下方向に所定間隔を空けた複数位置に、前後の垂直コードに渡って設けられる中段コード(16c)とから成り、
少なくとも1つのラダーコード(16)の中段コード(16c)は一対のコード(16d、16e)から構成され、一対のコード(16d、16e)同士が一重以上絡み合う重合部(16j)が中段コードに形成された状態で、一対のコード(16d、16e)間にスラット(18)が挿通され、スラットの側縁に形成した切欠部(18a)に重合部が係合されることを特徴とする横型ブラインド。
【請求項2】
前記中段コード(16c)を構成する一対のコード(16d、16e)は、前後の垂直コード(16a、16b)の間に平行に架設された上コード(16d)と下コード(16e)であり、上下のコード(16d、16e)の上下関係を逆にした後、上下のコードが絡み合う方向に向かって上下関係を元に戻すことで重合部(16j)が形成されることを特徴とする請求項1記載の横型ブラインド。
【請求項3】
前記中段コード(16c)を構成する一対のコード(16d、16e)は、前後の垂直コード(16a、16b)の間に交差した状態で架設されたコードであり、交差した部分から一方側の一対のコードの上下関係を逆にすることによって交差した部分に重合部(16j)が形成されることを特徴とする請求項1記載の横型ブラインド。

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ラダーコードからのスラットの抜けを防止する構造を有する横型ブラインドに関する。」

ウ 「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中段コードを構成する一対のコード同士が一重以上絡み合う重合部を形成することによって、スラットの畳み込みに伴って垂直コード部分が横たわるような状態になっても、重合部は少なくとも中段コード同士が交差した状態を維持しており、重合部とスラットの切欠部との係合を維持することができるため、スラットの水平方向のずれを防止することができる。

エ 「【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0015】
図1ないし図5は、本発明の実施形態を表す。
本実施形態による横型ブラインドは、ブラケット11により窓枠等に固定されるヘッドボックス10を有しており、ヘッドボックス10の一端から無端状の操作コード14が垂下している。操作コード14はヘッドボックス10内に配設されるプーリ15に巻掛けられて、これを回転駆動可能である。プーリ15の回転はクラッチを介して、ヘッドボックス10内に回転可能に支持されている回転軸12に伝達可能である。クラッチによって、回転軸12からの回転は阻止され、プーリ15からの回転のみが回転軸12に伝達される。回転軸12にはこれの回転に連動して回転する3個の回転ドラム20がヘッドボックス10の左右方向に間隔を空けて設けられている。
【0016】
各回転ドラム20の配置位置からヘッドボックス10の下方に、ラダーコード16がそれぞれ垂下しており、各ラダーコード16は回転軸12の所定範囲角度の回転に連動して傾動するようになっている。各ラダーコード16は、ヘッドボックス10の前後方向に所定間隔を空けてそれぞれ垂下する前後の垂直コード16a及び16bと、上下方向に所定間隔を空けた位置において前後の垂直コード16a及び16bに架設される中段コード16cとから成る。各中段コード16cは、更に、僅かに上下に離れた一対の上コード16d及び下コード16eから成る。」

オ 「【0021】
各回転ドラム20にはさらに、昇降コード22の一端を巻取り及び巻解き可能に連結されることができる。昇降コード22の他端は、ヘッドボックス10から垂下し、ボトムレール24に連結される。」

カ 「【0023】
操作コード14を操作して回転軸12を回転することにより、ラダーコード16が傾動して中段コード16c及びスラット18が傾斜することができるようになっている。また、操作コード14を操作して回転軸12をさらに回転することにより、昇降コード22が回転ドラム20に巻き取られまたは巻き解かれ、ボトムレール24及びスラット18が畳み込まれて上昇または自重により下降することができるようになっている。」

キ 上記アないしカからみて、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。
「ヘッドボックス(10)から垂下する複数のラダーコード(16)と、ラダーコードに整列状態に支持される多数のスラット(18)と、を備え、ラダーコードによってスラットの傾斜を可変とした、横型ブラインドにおいて、
ラダーコードは、前後に配置される垂直コード(16a、16b)と、前後の垂直コードの上下方向に所定間隔を空けた複数位置に、前後の垂直コードに渡って設けられる中段コード(16c)とから成り、
少なくとも1つのラダーコード(16)の中段コード(16c)は平行に架設された上コード(16d)と下コード(16e)から構成され、上下のコード(16d、16e)の上下関係を逆にした後、上下のコードが絡み合う方向に向かって上下関係を元に戻すことで形成される重合部(16j)が中段コードに形成された状態で、一対のコード(16d、16e)間にスラット(18)が挿通され、スラットの側縁に形成した切欠部(18a)に重合部(16j)が係合される
横型ブラインドにおいて、
無端状の操作コード(14)がプーリ(15)に巻掛けられて、これを回転駆動可能とし、プーリ(15)の回転をクラッチを介して回転軸(12)に伝達可能であり、回転軸(12)にはこれの回転に連動して回転する3個の回転ドラム(20)が設けられ、
各回転ドラム(20)の配置位置からヘッドボックス(10)の下方に、ラダーコード(16)がそれぞれ垂下しており、各ラダーコード(16)は回転軸(12)の所定範囲角度の回転に連動して傾動するようになっており、
各回転ドラム(20)にはさらに、昇降コード(22)の一端を巻取り及び巻解き可能に連結され、他端は、ヘッドボックス(10)から垂下し、ボトムレール(24)に連結され、
操作コード(14)を操作して回転軸(12)を回転することにより、ラダーコード(16)が傾動して中段コード(16c)及びスラット(18)が傾斜し、回転軸(12)をさらに回転することにより、昇降コード(22)が回転ドラム(20)に巻き取られまたは巻き解かれる、
横型ブラインド。」

(3)甲第3号証
取消理由通知で引用された甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「Therefore, lift cord 26 may freely pass between threads 23 and 24 of each rung 22.」(2欄66?67行)
「したがって、昇降コード26は、各ラング22の横糸23と横糸24の間を自由に通過することができる。」(申立人による仮訳)

イ Fig.3及びFig.4は以下のとおり。



ウ Fig.3及びFig.4を参照すると、横糸23及び横糸24の間を昇降コード26が通っていることが看取できる。

(4)甲第5号証
取消理由通知で引用したものではないが、申立人が特許異議申立書に添付した実公平7-6477号公報(以下「甲第5号証」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「〔実施例〕
以下、この考案を具体化した第一実施例を図面に基づいて説明する。尚、前記従来とと同一構成部分は同一番号を付して説明する。
第1図、第2図に示すように、ラダーコード1の縦糸2間には所定間隔毎に二本ずつの横糸7a,7bが張設され、その横糸7a,7bは中央部で交差するように互いに傾きの異なる斜状に張設されている。
この横糸7a,7b間に支持されるスラット5はラダーコード1係合位置に係止凹部8が形成されている。その係止凹部8は釣針状に一方へ深くなる形状でスラット5両端に点対称状に形成されている。
さて、このように構成されたラダーコード1にスラット5を組付けるには、スラット5の端隅部を横糸7a,7b間において交差部4の一方へ挿入し、そのスラット5の端縁で交差部4を一方へ移動させながら第2図に示すように横糸7a,7b間にスラット5を挿通し、縦糸2を係止凹部8内に位置させる。すると、互いに他方へ深くなる係止凹部8の形状によりいずれか一方の縦糸2が係止凹部8に確実に係合してスラット5の長手方向の移動が確実に阻止される。
以上のようなスラット支持構造では、横糸7a,7bがあらかじめ交差するように設けられているので、スラット5の同横糸7a,7b間への挿通に際し作業者が横糸7a,7bを上下に引っ繰り返す必要がない。そして、スラット5の端隅部で交差部4と一方の縦糸2との間を押し広げながらスラット5を横糸7a,7b間に挿通することができる。従って、ラダーコード1へのスラット5の組み付けを容易に行うことができる。」(3欄10?38行)

イ 【図1】、【図2】は以下のとおり。
【図1】


【図2】



ウ 上記イの図1及び図2を参照すると、横糸7a,7bにより、交差部4が1つ形成されていること、及び交差部4は、スラット5の係合凹部8に入り込んだ状態となっていることが看取できる。


第5 取消理由についての当審の判断
1 理由1(明確性:特許法第36条第6項第2号)
(1)理由1の指摘箇所
取消理由通知で明確ではないと指摘した特許請求の範囲の記載は、以下のア及びイである。
ア 請求項1に記載された「前記スラットは、前後方向における少なくとも一方の縁部に切欠部を備え、
前記ラダーコードの各段の横糸は一方の横糸と他方の横糸とを備え、
前記スラットの閉回動時、一方の横糸は、張った状態となりスラットを支持し、他方の横糸は、切欠部に入り込む」について、a)横糸が「張った状態」、及び、b)「一方の横糸は、張った状態となりスラットを支持し、他方の横糸は、切欠部に入り込む」は不明確である。

イ 請求項6?請求項8に記載される「前記交差部は、前方から見て、前記スラットの後方に隠れて位置する」ことについて、どのように隠れるのか不明確である。

(2)判断
ア 上記(1)アのa)及びb)は、それぞれ、本件訂正請求により、「前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態」、「前記スラットの閉回動時、前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する」と訂正されたことにより、「張った状態」である横糸が明確に特定され、また、「スラットを支持」する横糸と、「切欠部に入り込む」横糸とが明確に特定されたので、特許請求の範囲の上記の記載は、明確性要件を満たすものとなった。

イ 上記(1)イは、本件訂正請求により、「前記交差部が、前方からみて、当該交差部を形成する横糸が支持するスラットの後方に隠れて位置する」と訂正されたことにより、交差部を隠すスラットが、交差部を形成する横糸が支持するスラットに明確に特定されたので、特許請求の範囲の上記記載は、明確性要件を満たすものとなった。

ウ 以上のことから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。

2 理由2(サポート要件:特許法第36条第6項第1号)
取消理由通知では、請求項1の「一方の横糸は、張った状態となりスラットを支持し、他方の横糸は、切欠部に入り込む」ことは、発明の詳細な説明に記載されたものではないとした。
本件訂正請求により、請求項1の上記記載が「前記スラットの閉回動時、前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する」と訂正されたことにより、「スラットを支持」する横糸と、「切欠部に入り込む」横糸とが、本件明細書及び図面に記載されたものとなったので、特許請求の範囲の上記の記載は、サポート要件を満たすものとなった。
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。

3 理由3(実施可能要件:特許法第36条第4項第1号)
取消理由通知では、請求項1に記載の「一方の横糸は、張った状態となりスラットを支持し、他方の横糸は、切欠部に入り込む」ことは、当業者が実施可能な程度に、発明の詳細な説明に記載されていないとした。
本件訂正請求により、請求項1の上記記載は、「前記スラットの閉回動時、前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する」と訂正されたことにより、「スラットを支持」する横糸と、「切欠部に入り込む」横糸とが、本件明細書及び図面に記載されたものとなったので、特許請求の範囲の上記記載は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が実施可能なものとなり、実施可能要件を満たすものとなった。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。

4 理由4,5(新規性,進歩性:特許法第29条第1項第3号,第2項)
1 甲第1号証を主引用例として検討
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「横型ブラインド」、「ヘッドボックス(10)」、「ラダーコード(16)」、「垂直コード(16a、16b)」、「中段コード(16c)」、「スラット(18)」、「昇降コード(22)」及び「昇降コード(22a)、(22b)」、「操作コード(操作部)(14)」及び「プーリ(操作部)(15)」、「切欠部(18a)」は、その構造及び機能からみて、本件発明1の「横型ブラインド」、「ヘッドボックス」、「ラダーコード」、「縦糸」、「横糸」、「スラット」、「昇降コード」、「操作装置」、「切欠部」に相当する。
同じく、「上コード」または「下コード」も、「横糸」であって、「一方の横糸」または「他方の横糸」に相当する。

(イ)甲1発明において、「各ラダーコード(16)は、ヘッドボックス(10)の前後方向に所定間隔を空けてそれぞれ垂下する前後の垂直コード(16a、16b)と、上下方向に所定間隔を空けた位置において前後の垂直コード(16a、16b)間に架設される中段コード(16c)とから成り、」「各中段コード(16c)の上コードと下コードの上下関係を中間で逆にして一対の交叉部分を形成して、その交叉部分の間にスラット(18)を挿入」し、「交叉部分が切欠部(18a)に引っ掛かるようになって」いることと、本件発明1の「前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、一方の縦糸は前記一方の横糸が前記他方の横糸より下方に形成され、他方の縦糸は前記他方の横糸が前記一方の横糸より下方に形成され、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入され」ることとは、「前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、」「前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入され」ることで共通する。

(ウ)よって、本件発明1と甲1発明とは、
「ヘッドボックスから吊下支持される複数本のラダーコードに複数段のスラットを支持し、前記ヘッドボックスから垂下される複数本の昇降コードを前記スラットの前方及び後方にそれぞれ垂下し、操作装置の操作により前記ラダーコードを介してスラットを回動可能とするとともに、前記昇降コードを昇降して前記スラットを昇降可能とした横型ブラインドにおいて、
前記スラットは、前後方向における少なくとも一方の縁部に切欠部を備え、
前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、
前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入される、
横型ブラインド。」で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点1〕
本件発明1は、「一方の縦糸は前記一方の横糸が前記他方の横糸より下方に形成され、他方の縦糸は前記他方の横糸が前記一方の横糸より下方に形成され、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し」ているのに対し、甲1発明は、「垂直コード(16a、16b)間に架設される」「各中段コード(16c)の上コードと下コードの上下関係を中間で逆にして一対の交叉部分を形成して」いる点。
〔相違点2〕
本件発明1は、「前記スラットの閉回動時、前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する」のに対し、甲1発明は、中段コード(16c)の下コードに弛む部分が存在するのか不明であって、さらに、切欠部(18a)が引っ掛かる箇所が交叉部分である点。

よって、本件発明1と甲1発明とは、実質的な相違点が存在するから、本件発明1は甲1発明と同一ではない。

相違点の判断
上記相違点1及び2について検討する。
甲1発明は、上コードと下コードの上下関係を中間で逆にして交叉部分を一対(2個)形成するものであるが、甲第1号証には、上記相違点1に係る本件発明1の構成のような縦糸と横糸の関係及び交差部を1つとすることを示唆する記載はない。
また、甲1発明は、中段コード(16c)の下コードに弛む部分が存在するのか不明であって、さらに、切欠部(18a)が引っ掛かる箇所が交叉部分であるが、甲第1号証には、下コードに弛む部分を設け、該弛む部分が交叉部分に入り込むものとすることを示唆する記載はない。
そして、上記相違点1及び2に係る本件発明1の構成が、本件特許の出願前に周知及び公知の技術であることを示す証拠は提出されていない。
よって、上記相違点1及び2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではないから、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3、5?8
本件発明3、5?8は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、本件発明3、5?8は、甲1発明と同一ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 甲第2号証を主引用例として検討
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
(ア)甲2発明の「横型ブラインド」、「ヘッドボックス(10)」、「ラダーコード(16)」、「垂直コード(16a、16b)」、「中段コード(16c)」、「スラット(18)」、「昇降コード(22)」、「操作コード(14)」及び「プーリ(15)」、「切欠部(18a)」は、その構造及び機能からみて、本件発明1の「横型ブラインド」、「ヘッドボックス」、「ラダーコード」、「縦糸」、「横糸」、「スラット」、「昇降コード」、「操作装置」、「切欠部」に相当する。
同じく、「上コード(16d)」または「下コード(16e)」も、「横糸」であって、「一方の横糸」または「他方の横糸」に相当する。

(イ)甲2発明において、「ラダーコードは、前後に配置される垂直コード(16a、16b)と、前後の垂直コードの上下方向に所定間隔を空けた複数位置に、前後の垂直コードに渡って設けられる中段コード(16c)とから成り、」「中段コード(16c)」の「上下のコード(16d、16e)の上下関係を逆にした後、上下のコードが絡み合う方向に向かって上下関係を元に戻すことで形成される重合部(16j)が中段コードに形成された状態で、一対のコード(16d、16e)間にスラット(18)が挿通され、スラットの側縁に形成した切欠部(18a)に重合部が係合される」ことと、本件発明1の「前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、一方の縦糸は前記一方の横糸が前記他方の横糸より下方に形成され、他方の縦糸は前記他方の横糸が前記一方の横糸より下方に形成され、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入され」ることとは、「前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、」「前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入され」ることで共通する。

(ウ)よって、本件発明1と甲2発明とは、
「ヘッドボックスから吊下支持される複数本のラダーコードに複数段のスラットを支持し、前記ヘッドボックスから垂下される複数本の昇降コードを前記スラットの前方及び後方にそれぞれ垂下し、操作装置の操作により前記ラダーコードを介してスラットを回動可能とするとともに、前記昇降コードを昇降して前記スラットを昇降可能とした横型ブラインドにおいて、
前記スラットは、前後方向における少なくとも一方の縁部に切欠部を備え、
前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、
前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入される、
横型ブラインド。」で一致し、以下の点で相違する。
〔相違点3〕
本件発明1は、「一方の縦糸は前記一方の横糸が前記他方の横糸より下方に形成され、他方の縦糸は前記他方の横糸が前記一方の横糸より下方に形成され、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成」するのに対し、甲2発明は、「上下のコード(16d、16e)の上下関係を逆にした後、上下のコードが絡み合う方向に向かって上下関係を元に戻すことで形成される重合部(16j)が中段コードに形成される」点。
〔相違点4〕
本件発明1は、「前記スラットの閉回動時、前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する」のに対し、甲2発明は、中段コード(16c)の下コード(16e)に弛む部分が存在するのか不明であって、さらに、切欠部(18a)が係合される箇所が重合部(16j)である点。

よって、本件発明1と甲2発明とは、実質的な相違点が存在するから、本件発明1は甲2発明と同一ではない。

相違点の判断
上記相違点3及び4について検討する。
甲2発明は、「上下のコード(16d、16e)の上下関係を逆にした後、上下のコードが絡み合う方向に向かって上下関係を元に戻すことで形成される重合部(16j)が中段コードに形成される」もの、つまり、重合部(16j)を2箇所形成するものであるが、甲第2号証には、上記相違点3に係る本件発明1の構成のような縦糸と横糸の位置関係及び交差部を1つとすることを示唆する記載はない。
また、甲2発明は、中段コード(16c)の下コード(16e)に弛む部分が存在するのか不明であって、さらに、切欠部(18a)が係合する箇所が重合部(16j)であるが、甲第2号証には、下コード(16e)に弛む部分を設け、該弛む部分が重合部(16j)に入り込むものとすることを示唆する記載はない。
そして、上記相違点3及び4に係る本件発明1の構成が、本件特許の出願前に周知及び公知の技術であることを示す証拠は提出されていない。
よって、上記相違点3及び4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではないから、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3、5?8
本件発明3、5?8は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、甲2発明と同一ではなく、また、甲2発明、甲1発明及び甲第3号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。


第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人は、特許異議申立書において、本願が分割要件を満たさないことを前提として、訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、甲第4号証(国際公開第2013/191186号)に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を有しない旨、主張する。
本願の分割要件について、申立人は、訂正前の請求項1に記載された「一方の横糸は、張った状態となりスラットを支持し、他方の横糸は、切欠部に入り込む」は原出願の当初明細書に記載した範囲内でないから、本願の出願日は遡及せず、現実の出願日であることを理由として主張しているが、上記記載は、上記第2の1(1)のとおり訂正されており、当該訂正は本願の明細書等の記載の範囲内の訂正であって、本願の明細書等は、原出願の当初明細書と同様のものであるから、本願は分割要件を満たしている。
よって、本願が分割要件を満たさないことを前提とする上記進歩性の主張は、採用することができない。

(2)また、訂正前の本件発明4に対し、ラダーコードの交差部がスラットの係止凹部(切欠部)側にあることの周知例として、甲第5号証(実公平7-6477号公報)を提出しているが、訂正前の本件発明4を実質的に含む訂正後の本件発明1は、上記第5で説示したとおり、新規性及び進歩性を有しているから、甲第5号証を周知例とする申立人の主張は採用できない。
なお、申立人が主張することではないが、甲1発明または甲2発明への甲第5号証の記載事項の適用についても確認する。
甲第5号証には、一方の横糸と他方の横糸の交差部について記載されているものの、スラットの係止凹部は、交差部または縦糸に確実に係合するものであるから、仮に、甲第5号証に記載の技術事項を甲1発明または甲2発明に適用しても、本件発明1の「スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分」及び、該「弛む部分」が「下側に位置する切欠部に入り込んだ状態」との構成と齟齬が生じるので、甲1発明または甲2発明への適用を阻害するものと認められる。


第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、3、5?8は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由により取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1、3、5?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件発明2、4に係る特許は、上記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2、4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドボックスから吊下支持される複数本のラダーコードに複数段のスラットを支持し、前記ヘッドボックスから垂下される複数本の昇降コードを前記スラットの前方及び後方にそれぞれ垂下し、操作装置の操作により前記ラダーコードを介してスラットを回動可能とするとともに、前記昇降コードを昇降して前記スラットを昇降可能とした横型ブラインドにおいて、
前記スラットは、前後方向における少なくとも一方の縁部に切欠部を備え、
前記ラダーコードの各段は、一対の縦糸との間に一方の横糸と他方の横糸とを備え、一方の縦糸は前記一方の横糸が前記他方の横糸より下方に形成され、他方の縦糸は前記他方の横糸が前記一方の横糸より下方に形成され、前記一方の横糸と前記他方の横糸とは交差部を形成し、
前記スラットは、前記交差部が前記切欠部と対向するように、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入され、
前記スラットの閉回動時、前記スラットの上方の面に位置する横糸が張った状態となるとともに前記スラットの下方の面に位置する横糸の弛む部分が起き上がった状態の前記スラットの下側に位置する切欠部に入り込んだ状態となって、前記起き上がった状態のスラットを支持する
横型ブラインド。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記昇降コードは、前記一方の横糸と前記他方の横糸との間に挿入される
請求項1に記載の横型ブラインド。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記一方の縦糸と、前記一方の横糸および前記他方の横糸と、前記交差部とで囲まれる空間に前記昇降コードが挿通される
請求項3に記載の横型ブラインド。
【請求項6】
前記スラットの閉回動時、前記交差部が、前方から見て、当該交差部を形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。
【請求項7】
前記スラットの全閉回動時、前記切欠部が前記スラットの下側に位置する箇所において、前記交差部が、前方から見て、当該交差部を形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。
【請求項8】
前記スラットの長手方向の両側に位置するラダーコードであって、前記スラットの正全閉回動時、前記切欠部が前記スラットの下側に位置する箇所において、前記交差部が、前方から見て、当該交差部を形成する横糸が支持する前記スラットの後方に隠れて位置する
請求項1,3,5のうち何れか1項に記載の横型ブラインド。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-04-17 
出願番号 特願2018-45772(P2018-45772)
審決分類 P 1 651・ 546- YAA (E06B)
P 1 651・ 547- YAA (E06B)
P 1 651・ 113- YAA (E06B)
P 1 651・ 121- YAA (E06B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鳥井 俊輔  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 住田 秀弘
秋田 将行
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6431226号(P6431226)
権利者 立川ブラインド工業株式会社
発明の名称 横型ブラインド  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 博宣  

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