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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1363163
異議申立番号 異議2019-700405  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-21 
確定日 2020-04-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6425484号発明「電池用セパレータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6425484号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6425484号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6425484号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成26年9月30日を出願日とするものであって、平成30年11月2日付けでその特許権の設定登録がなされ、同年11月21日に特許掲載公報が発行され、その後、令和1年5月21日付けで特許異議申立人星正美(以下、「申立人」という。)より請求項1?4(全請求項)に対して特許異議の申立てがなされ、同年7月29日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年9月27日付けで特許権者より意見書が提出され、同年11月8日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、令和2年1月10日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年2月19日に申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6425484号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。

請求項1について、本件訂正前の「前記分散剤は、前記無機フィラー100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部以下の割合で存在し、」を「前記分散剤は、前記無機フィラー100質量部に対し、0.1質量部以上1.5質量部以下の割合で存在し、」と訂正する。

2 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「分散剤」の「前記無機フィラー100質量部に対」する「存在」「割合」について、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0074】を]根拠として、本件訂正前の「0.1質量部以上5質量部以下」を「0.1質量部以上1.5質量部以下」とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書、及び、特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。

3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?4は請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?4は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?4〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

4 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

5 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和2年1月10日に特許権者が行った本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕についての訂正を認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
(1)本件発明1?4
令和2年1月10日に特許権者が行った請求項1?4についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
多孔基材膜(A)の少なくとも片面に、無機フィラー、樹脂バインダー、及び分散剤を含む多孔層(B)を備える電池用セパレータであって、
前記無機フィラーのメジアン径が、0.55μm以上1.2μm以下であり、
前記分散剤は、前記無機フィラー100質量部に対し、0.1質量部以上1.5質量部以下の割合で存在し、
前記分散剤は、質量平均分子量が300以上9,000以下のポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)であり、かつ
前記分散剤を固形分が10質量%になるように水に分散又は溶解したときの25℃でのpHが、3?9である、
前記電池用セパレータ。
【請求項2】
前記分散剤は、水溶性ポリマー分散剤である、請求項1に記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
前記無機フィラーは、アルミナ、シリカ、カオリン及びベーマイトから成る群から選択される、請求項1又は2に記載の電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の電池用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを備える、非水電解液電池。」

(2)令和1年9月27日付けの意見書での主張について
令和1年9月27日付けの意見書において、特許権者は、請求項1の「ポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)」について、請求項1の「発明特定事項における「ポリカルボン酸塩」は、「分子内にカルボキシル基COOHを2個またはそれ以上もつ有機化合物」の塩であると解することができることを認めます」(第3頁下から2行?第4頁第1行)と述べるとともに、請求項1の発明特定事項において除かれる「ポリ(メタ)アクリル酸塩」は、その100%がポリ(メタ)アクリル酸塩から成る単独重合体であることが明らかです」(第3頁第13?15行)と述べている。
そして、これらの主張は、本件明細書の記載と整合するものであり、何ら不合理な点が見当たらないので、上記(1)の本件発明1?4の解釈は、これらの主張に基づいて行うこととする。

2 令和1年11月8日付けの取消理由(決定の予告)の概要
(1) 本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2) 本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<刊行物>
国際公開第2014/148577号
(申立人が提出した甲第1号証:以下、「甲1」という。)

3 引用刊行物の記載事項及び引用刊行物に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。下線は、当審が付した。以下、同じ。
「[0001] 本発明は、リチウムイオン二次電池多孔膜用スラリー及びその製造方法、並びに、それを用いたリチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池に関する。」
「[0005] 近年、リチウムイオン二次電池に対する性能の要求水準が高くなってきており、例えばリチウムイオン二次電池の高温サイクル特性を改善できる技術が求められている。また、セパレータに関しては、安全性を向上させる観点から、リチウムイオン二次電池の短絡を防止できることが求められる。
[0006] 本発明は前記の課題に鑑みて創案されたもので、高温サイクル特性及び安全性の両方に優れたリチウムイオン二次電池を実現できるリチウムイオン二次電池多孔膜用スラリー及びその製造方法;高温サイクル特性及び安全性の両方に優れたリチウムイオン二次電池を実現できるリチウムイオン二次電池用セパレータ;並びに、高温サイクル特性及び安全性の両方に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。」
「[0014][1.多孔膜用スラリーの概要]
本発明のリチウムイオン二次電池多孔膜用スラリー(以下、適宜「多孔膜用スラリー」ということがある。)は、非導電性粒子、水溶性重合体及び粒子状重合体を含む。また、この多孔膜用スラリーは、通常、溶媒を含む。多孔膜用スラリーが溶媒を含む場合、通常は、非導電性粒子及び粒子状重合体は溶媒中に分散しており、水溶性重合体は溶媒に溶解している。」
「[0019] また、多孔膜用スラリーにおける非導電性粒子のD50は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上であり、好ましくは0.9μm以下である。ここで、D50とは、非導電性粒子の累積粒度分布において、小径側からの累積体積が50%である粒子径を示す。非導電性粒子のD50を前記範囲の下限値以上にすることにより、非導電性粒子のうち過度に小さい粒子の量を減らして、高温サイクル特性等の電池特性を良好にできる。また、上限値以下にすることにより、非導電性粒子のうち過度に大きい粒子の量を減らして、多孔膜の機械的強度を高めることができ、更に通常は耐熱性を高めることができる。」
「[0025] このような非導電性粒子としては、無機粒子を用いてもよく、有機粒子を用いてもよい。
[0026] 無機粒子は溶媒中での分散安定性に優れ、多孔膜用スラリーにおいて沈降し難く、通常は、均一なスラリー状態を長時間維持することができる。また、無機粒子を用いると、通常は多孔膜の耐熱性を効果的に高くできる。非導電性粒子の材料としては、電気化学的に安定な材料が好ましい。このような観点から、非導電性粒子の無機材料として好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウムの水和物(ベーマイト(AlOOH)、水酸化アルミニウム(Al(OH)_(3))、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO_(3)、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。これらの中でも、電解液中での安定性と電位安定性の観点から酸化物粒子が好ましく、中でも吸水性が低く耐熱性(例えば180℃以上の高温に対する耐性)に優れる観点から硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化アルミニウムの水和物、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムがより好ましく、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化アルミニウムの水和物、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムが更に好ましく、硫酸バリウム及び酸化アルミニウムが特に好ましい。」
「[0033][1.2.水溶性重合体]
水溶性重合体としては、酸性基含有単量体単位を有する水溶性の重合体を用いる。ここで、酸性基含有単量体単位とは、酸性基含有単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を示す。また、酸性基含有単量体とは、酸性基を含む単量体を示す。
[0034] 酸性基含有単量体単位を有する水溶性重合体は、当該水溶性重合体自体も酸性基を含む。この酸性基の作用により、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができる。このような利点が得られる理由は必ずしも定かでは無いが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。一般に非導電性粒子のD10、D50及びD90は、多孔膜用スラリーを調製する前と多孔膜用スラリーに含まれた状態とで異なる。これは、多孔膜用スラリー中においては、非導電性粒子は凝集し易い傾向があるためと考えられる。これに対し、本発明の多孔膜用スラリーにおいては、水溶性重合体は非導電性粒子の表面に吸着しうる。そのため、非導電性粒子の多孔膜用スラリーにおける分散性を高めることができ、ひいては多孔膜における非導電性粒子の分散性を高めることができると推察される。具体例を挙げると、多孔膜用スラリーが水等の水系溶媒を含む場合、多孔膜用スラリーにおいて水溶性重合体は水系溶媒に溶解する。この際、水溶性重合体の一部は水系溶媒中に遊離するが、別の一部は非導電性粒子の表面に吸着することによって、非導電性粒子の表面が水溶性重合体の安定な層で覆われる。この安定な層の作用により、非導電性粒子の分散性を高めることができるものと推察される。
本発明の多孔膜用スラリーでは、このように非導電性粒子の分散性が良好であることにより、非導電性粒子の凝集を防止できるので、多孔膜用スラリーにおける非導電性粒子のBET比表面積、D10、D50及びD90を前記の好適な範囲に容易に収めることができる。また、非導電性粒子の凝集を防止できるので、凝集で生じうる巨大粒子による多孔膜及び有機セパレータ層の破損を防止できる。そのため、短絡を防止してリチウムイオン二次電池の安全性を向上させることができる。
[0035] 酸性基としては、例えば、-COOH基(カルボン酸基);-SO_(3)H基(スルホン酸基);-PO_(3)H_(2)基及び-PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)等のリン酸基;などが挙げられる。したがって、酸性基含有単量体としては、例えば、これらの酸性基を有する単量体が挙げられる。また、例えば、加水分解により前記の酸性基を生成しうる単量体も、酸性基含有単量体として挙げられる。そのような酸性基含有単量体の具体例を挙げると、加水分解によりカルボン酸基を生成しうる酸無水物などが挙げられる。」
「[0044] 水溶性重合体の重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上であり、好ましくは15000以下、より好ましくは10000以下である。水溶性重合体の重量平均分子量を前記範囲の下限値以上にすることにより、非導電性粒子への水溶性重合体の吸着性を高めることができるので、非導電性粒子の分散性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、水溶性重合体の凝集による粘度の上昇を抑制できるので、非導電性粒子の安定性を高めることができる。
ここで、水溶性重合体の重量平均分子量は、展開液をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の値として測定しうる。」
「[0047] 酸性基含有単量体単位を有する水溶性重合体を水系溶媒中に含む前記の分散液は、通常は酸性である。そこで、必要に応じて、pH7?pH13にアルカリ化してもよい。これにより、溶液の取り扱い性を向上させることができ、また、多孔膜用スラリーの塗工性を改善することができる。pH7?pH13にアルカリ化する方法としては、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液;水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等のアルカリ土類金属水溶液;アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を混合する方法が挙げられる。前記のアルカリ水溶液は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」
「[0049] [1.3.粒子状重合体]
粒子状重合体は、通常、多孔膜用スラリーにおいては粒子状で分散している。したがって、多孔膜用スラリーが溶媒として水等の水系溶媒を含む場合、通常は、粒子状重合体は非水溶性の重合体である。また、粒子状重合体は、多孔膜においてはバインダーとして機能できるようになっている。したがって、多孔膜において粒子状重合体は、通常、非導電性粒子同士を結着させる機能を発揮し、また、非導電性粒子と有機セパレータ層とを結着させる機能を発揮する。」
「[0082] 例えば、多孔膜用スラリーは、増粘剤を含みうる。増粘剤を含むことにより、多孔膜用スラリーの粘度を高めて、多孔膜用スラリーの塗布性を良好にできる。また、増粘剤は、通常、多孔膜に残留し、非導電性粒子を結着する機能も発揮できる。
[0083] 増粘剤としては、例えば水溶性の多糖類が挙げられ、中でもセルロース系半合成系高分子化合物を用いることが好ましい。セルロース系半合成系高分子化合物としては、例えば、ノニオン性のセルロース系半合成系高分子化合物、アニオン性のセルロース系半合成系高分子化合物、及び、カチオン性のセルロース系半合成系高分子化合物が挙げられる。
[0084] ノニオン性のセルロース系半合成系高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、マイクロクリスタリンセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、アルキルヒドロキシエチルセルロース、ノノキシニルヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;などが挙げられる。
[0085] アニオン性のセルロース系半合成系高分子化合物としては、例えば、上記のノニオン性のセルロース系半合成系高分子化合物を各種誘導基により置換したアルキルセルロース並びにそのナトリウム塩及びアンモニウム塩などが挙げられる。具体例を挙げると、セルロース硫酸ナトリウム、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びそれらの塩等が挙げられる。
[0086] カチオン性のセルロース系半合成系高分子化合物としては、例えば、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(ポリクオタニウム-4)、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム-10)、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム-24)等が挙げられる。
また、増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
[0087] セルロース系半合成系高分子化合物のエーテル化度は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上であり、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下である。ここで、エーテル化度とは、セルロース中の無水グルコース単位1個当たりの水酸基(3個)の、カルボキシメチル基等への置換体への置換度のことをいう。エーテル化度は、理論的には0?3の値を取りうる。エーテル化度が上記範囲にある場合は、セルロース系半合成系高分子化合物が非導電性粒子の表面に吸着しつつ水への相溶性も見られることから、分散性に優れ、非導電性粒子を高度に分散させることができる。
[0088] さらに、増粘剤として重合体を使用する場合、ウベローデ粘度計より求められる極限粘度から算出される増粘剤の平均重合度は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上であり、好ましくは2500以下、より好ましくは2000以下、特に好ましくは1500以下である。増粘剤の平均重合度は、多孔膜用スラリーの流動性、多孔膜の膜均一性、及び、工程上のプロセスへ影響することがある。平均重合度を前記の範囲にすることにより、多孔膜用スラリーの経時的な安定性を向上させて、凝集物がなく厚みムラのない塗布が可能になる。」
「[0110][3.セパレータ]
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータ(以下、適宜「セパレータ」ということがある。)は、有機セパレータ層と多孔膜とを備える。
[0111] [3.1.有機セパレータ層]
有機セパレータ層としては、例えば、微細な孔を有する多孔性基材を用いうる。このような有機セパレータ層を用いることにより、二次電池において電池の充放電を妨げることなく電極の短絡を防止することができる。有機セパレータ層の具体例を挙げると、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられる。」
「[0113] [3.2.多孔膜]
多孔膜は、本発明の多孔膜用スラリーを前記有機セパレータ層上に塗布及び乾燥して得られる。この際、多孔膜は、有機セパレータ層の片方の面に形成してもよく、両方の面に形成してもよい。」
「[0123][4.リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、本発明のセパレータ、及び電解液を備える。具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、本発明のセパレータ及び負極をこの順に備え、更に電解液を備える。本発明のリチウムイオン二次電池は、安全性及び高温サイクル特性のいずれにも優れる。」
「[0158][実施例1]
[1.1.アルミナ粒子の製造]
バイヤー法で得られた体積平均粒子径2.8μmの水酸化アルミニウムを、0.61g/cm^(3)の仕込み密度で箱型匣鉢に仕込んだ。この箱型匣鉢を、定置型電気炉(シリコニット高熱工業株式会社製「シリコニット炉」)の炉内に設置し、焼成温度1180℃で10時間焼成した。その後、生成したαアルミナの粒子を炉内から取り出した。
[0159] 6リットルのポット内に直径15mmのアルミナボール7.8kgが収容された振動ボールミル(中央化工機株式会社製「振動ミル」)を用意した。そのポット内に、前記のαアルミナの粒子1.0kgとエタノール15gとを充填し、36時間粉砕して、体積平均粒子径0.6μmのαアルミナ粒子を得た。αアルミナ粒子の体積平均粒子径は、ナノ粒子分布測定装置(島津製作所社製「SALD-7100」)を用いて測定した。
得られたαアルミナ粒子のアスペクト比及び一次粒子径を、上述した要領で測定した。
[0160] [1.2.粒子状重合体Aの製造]
攪拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製「エマール2F」)0.15部及び過硫酸アンモニウム0.5部を供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
[0161] 一方、別の容器で、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル2部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてブチルアクリレート93.8部、エチレン性不飽和酸単量体としてメタクリル酸2部、架橋性単量体としてアリルグリシジルエーテル1部、N-メチロールアクリルアミド1.2部、及び、キレート剤(キレスト社製「キレスト400G」(エチレンジアミン4酢酸ナトリウム4水和物))0.15部を混合して、単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して、重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加の終了後、さらに70℃で3時間攪拌してから反応を終了し、粒子状重合体Aの水分散液を製造した。
[0162] [1.3.水溶性重合体Aの製造]
水50部、アクリル酸80部、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸19.92部及び2-(N-アクリロイル)アミノ-2-メチル-1,3-プロパン-ジスルホン酸0.08部を混合して、単量体組成物を得た。
[0163] 温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに水150部を仕込み、80℃まで昇温した。次いで、攪拌下に、前記の単量体組成物と、30%過硫酸ナトリウム水溶液10部とを、それぞれ3時間にわたって定量ポンプでフラスコに連続的に滴下供給し、80℃で重合反応を行った。滴下終了後、更に系を80℃に保ったまま1時間熟成し、重合反応を完了した。その後、32%水酸化ナトリウム水溶液120部をフラスコ中に加えて反応液を完全に中和させて、水溶性重合体Aの水溶液を得た。水溶性重合体Aの重量平均分子量は、6000であった。
[0164] [1.4.非導電性粒子の分散体の調製]
前記工程[1.1]で得たαアルミナ粒子100部、前記工程[1.3]で得た水溶性重合体Aの水溶液を水溶性重合体Aの量で0.5部、及び、カルボキシメチルセルロースの4%水溶液37.5部(カルボキシメチルセルロースの量で1.5部)を混合し、更に電気伝導度が10μS/cmの水を添加して固形分濃度を50重量%に調整することにより、非導電性粒子の分散体を得た。
[0165] [1.5.非導電性粒子の分散体の分散]
前記工程[1.4]で得た非導電性粒子の分散体を、メディアレス分散装置(IKA社製、「インライン型粉砕機MKO」)によって4000回転、5.4Wh/kgのエネルギーで1時間分散させた。
[0166] [1.6.多孔膜用スラリーの製造]
前記工程[1.5]で分散処理を施した非導電性粒子の分散体、前記工程[1.2]で得た粒子状重合体Aの水分散液を13.3部(粒子状重合体Aの量で6部)、及び、ノニオン系界面活性剤の水溶液を固形分換算で0.5部混合し、分散体を得た。前記のノニオン系界面活性剤は、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドを重合比50:50で重合させた界面活性剤である。
得られた分散体に対しプレフィルター(目開き20μm)でろ過した後、さらに磁気フィルター(トックエンジニアリング株式会社製)を介し、室温、磁束密度8000ガウスの条件で、ろ過して、多孔膜用スラリーを得た。
得られた多孔膜用スラリーを用いて、その多孔膜用スラリーに含まれる非導電性粒子のD10、D50、D90、及びBET比表面積、並びに、その多孔膜用スラリーの分散性を、上述した要領で測定した。また、上述した要領で、多孔膜用スラリーの鉄イオン濃度を測定した。
[0167] [1.7.セパレータの製造]
ポリエチレン製の多孔基材からなる有機セパレータ層(厚み16μm、ガーレー値210s/100cc)を用意した。用意した有機セパレータ層の両面に、前記の多孔膜用スラリーを塗布し、50℃で3分間乾燥させた。これにより、有機セパレータ層及び厚み3μmの多孔膜を備えるセパレータを製造した。得られたセパレータを用いて、セパレータの水分量及び多孔膜の粉落ち性を評価した。
[0168] [1.8.正極の製造方法]
正極活物質としての95部のLiCoO_(2)に、正極用のバインダーとしてPVDF(ポリフッ化ビニリデン、呉羽化学社製「KF-1100」)を固形分換算量で3部となるように加え、さらに、導電材としてアセチレンブラック2部及び溶媒としてN-メチルピロリドン20部を加えて、これらをプラネタリーミキサーで混合して、正極用スラリーを得た。この正極用スラリーを厚さ18μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、120℃で3時間乾燥した。その後ロールプレスで圧延して、正極活物質層を有する全厚みが100μmの正極を得た。
[0169] [1.9.負極の製造方法]
攪拌機を備えた反応器に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、過硫酸カリウム0.5部、単量体として1,3-ブタジエン33部、スチレン63.5部及びイタコン酸3.5部、並びにイオン交換水を200部入れて混合した。これを50℃で12時間重合させた。その後、スチームを導入して未反応の単量体を除去した。これにより、負極用のバインダーとして、粒子状の負極用重合体を含む水分散体を得た。
[0170] ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積4m^(2)/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm)70部、及びSiOx(信越化学社製;体積平均粒子径5μm)30部、並びに、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬株式会社製「BSH-12」)を固形分換算で1部を加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した。その後、25℃で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した。その後、さらに25℃で15分攪拌し、混合液を得た。この混合液に、前記の負極用重合体を含む水分散液を固形分換算で1.0重量部入れ、イオン交換水を入れて最終固形分濃度50%となるように調整し、さらに10分間攪拌した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い負極用スラリーを得た。
[0171] 前記の負極用スラリーを、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、厚み80μmの負極活物質層を備える負極を得た。
[0172] [1.10.リチウムイオン二次電池の製造方法]
前記工程[1.8]で得られた正極を幅40mm×長さ40mmに切り出して、正方形の正極を得た。前記工程[1.9]で得られた負極を幅42mm×長さ42mmに切り出して、正方形の負極を得た。また、前記工程[1.7]により製造されたセパレータを用意し、このセパレータを幅46mm×長さ46mmに切り出して、正方形のセパレータを得た。
[0173] 前記の正方形の正極の正極活物質層側の面上に、正方形のセパレータを配置した。さらに、セパレータ上に正方形の負極を、負極活物質層側の面がセパレータに対向するように配置した。これにより、正極、セパレータ及び負極をこの順に備える積層体を得た。
[0174] 前記の積層体をアルミニウム包材中に配置した。このアルミニウム包材の中に、電解液を空気が残らないように注入した。さらに150℃のヒートシールを行うことで、アルミニウム包材の開口を密封してラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。電解液は、濃度1.0MのLiPF_(6)溶液にビニレンカーボネート(VC)を2容量%添加したものを用いた。また、LiPF_(6)溶液の溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、容量比EC/DEC=1/2で含む混合溶媒を用いた。
こうして製造したリチウムイオン二次電池について、上述した要領で、高温サイクル特性を評価した。
[0175][実施例2]
前記工程[1.5]における非導電性粒子の分散体の分散の際に加えるエネルギーの大きさを6Wh/kgに変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。」
「[0183][実施例7]
攪拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製「エマール2F」)0.15部及び過硫酸アンモニウム0.5部をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器で、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として、アクリル酸エチル35部、アクリル酸ブチル34.2部、メタクリル酸30部及びエチレングリコールメタクリル酸ジエステル0.8部、並びにキレート剤(キレスト社製「キレスト400G」)0.15部を混合して、単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して、重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間攪拌して反応を終了し、粒子状重合体の水分散液を製造した。この水分散液を、pH8となるよう水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、粒子状重合体を水に溶かして、水溶性重合体Cの水溶液を得た。
[0184] 前記工程[1.4]において、この水溶性重合体Cの水溶液を水溶性重合体Aの代わりに用いた。以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。」
「[0198][表1]


[0199][表2]



(2)甲1に記載された発明
(2)-1 甲1の実施例1に記載された発明
ア 上記(1)より、甲1には、リチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池について記載されている。

イ 上記(1)の[0167]より、リチウムイオン二次電池用セパレータは、多孔基材からなる有機セパレータ層の両面に多孔膜用スラリーを塗布、乾燥させたものである。

ウ 上記(1)の[0166]より、リチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、上記イの多孔膜用スラリーは、非導電性粒子の分散体、粒子状重合体Aの水分散体、及び、ノニオン系界面活性剤の水溶液を含むものである。

エ 上記(1)の[0049]より、上記ウの粒子状重合体Aは、バインダーとして機能できるものである。

オ 上記(1)の[0164]より、リチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、上記ウの非導電性粒子の分散体は、αアルミナ粒子100部、水溶性重合体Aの水溶液を水溶性重合体Aの量で0.5部、カルボキシメチルセルロースの4%水溶液37.5部(カルボキシメチルセルロースの量で1.5部)を含むものである。

カ 上記(1)の[0159]より、リチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、上記オのαアルミナ粒子は体積平均粒子径が0.6μmである。
なお、上記(1)の[0198]の[表1]には、実施例1のD50が0.87μmであることが示されており、上記(1)の[0159]の体積平均粒子径が0.6μmであるとの記載と異なる値となっている。ここで、実施例1と実施例2とは、αアルミナ粒子を粉砕して得た時点では、体積平均粒子径は0.6μm([0159])で粒径が同一であったが、その後の、水溶性重合体Aの水溶液を含む非導電性粒子の分散体([0164])の分散の際に加えるエネルギーを、それぞれ5.4Wh/kg([0165])、6Wh/kg([0175])とすることによって、[表1]によれば、実施例1のD50は0.87μmで実施例2のD50は0.71μmと異なる値になったと考えられる。すなわち、[表1]のD50は、少なくとも、水溶性重合体Aの水溶液を含む非導電性粒子の分散体の分散の後に測定された値であって、本件明細書の「多孔膜用スラリーが水等の水系溶媒を含む場合、・・・(略)・・・水溶性重合体の一部は水系溶媒中に遊離するが、別の一部は非導電性粒子の表面に吸着することによって、非導電性粒子の表面が水溶性重合体の安定な層で覆われる」([0034])との記載に照らせば、水溶性重合体Aが表面に吸着されたαアルミナの粒径であると考えられる。一方、本件発明1の「無機フィラーのメジアン径」は、「無機フィラーを蒸留水に加え、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を少量添加してから超音波ホモジナイザーで1分間分散させた後、レーザー式粒度分布測定装置」「を用いて」「測定し」(本件明細書【0118】)たものであって、表面吸着物がない無機フィラーのメジアン径であると考えられることから、ここでは、αアルミナ粒子のD50として、上記2つの値のうち、粉砕して得た時点の体積平均粒子径である0.6μmを採用した。

キ 上記(1)の[0162]?[0163]より、リチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、上記オの水溶性重合体Aの水溶液は、水50部、アクリル酸80部、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸19.92部及び2-(N-アクリロイル)アミノ-2-メチル-1,3-プロパン-ジスルホン酸0.08部を混合して、得た単量体組成物を重合した後、32%水酸化ナトリウム水溶液120部を加えて反応液を完全に中和させて得たものである。

ク 上記キより、上記オの水溶性重合体Aの水溶液は、アクリル酸を含む単量体組成物を重合して得たものであるところ、上記(1)の[0034]より、リチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、酸性基含有単量体単位を有する水溶性重合体は、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができるから、上記オの水溶性重合体Aは、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができるものであるといえる。

ケ 上記(1)の[0163]より、上記オの水溶性重合体Aの重量平均分子量は、6000である。

コ 上記ア?ケより、甲1の実施例1のリチウムイオン二次電池に使用されているセパレータに注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されている。
「多孔基材からなる有機セパレータ層の両面に多孔膜用スラリーを塗布、乾燥させたリチウムイオン二次電池用セパレータであって、
上記多孔膜用スラリーは、非導電性粒子の分散体、粒子状重合体Aの水分散体、及び、ノニオン系界面活性剤の水溶液を含むものであり、
上記粒子状重合体Aは、バインダーとして機能できるものであり、
上記非導電性粒子の分散体は、αアルミナ粒子100部、水溶性重合体Aの水溶液を水溶性重合体Aの量で0.5部、カルボキシメチルセルロースの4%水溶液37.5部(カルボキシメチルセルロースの量で1.5部)を含むものであり、
上記αアルミナ粒子は体積平均粒子径が0.6μmであり、
上記水溶性重合体Aの水溶液は、水50部、アクリル酸80部、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸19.92部及び2-(N-アクリロイル)アミノ-2-メチル-1,3-プロパン-ジスルホン酸0.08部を混合して、得た単量体組成物を重合した後、32%水酸化ナトリウム水溶液120部を加えて反応液を完全に中和させて得たものであり、
上記水溶性重合体Aは、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができるものであり、
上記水溶性重合体Aの重量平均分子量は6000である、リチウムイオン二次電池用セパレータ。」

サ 上記(1)の[0172]?[0174]より、実施例1のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、上記コのリチウムイオン二次電池用セパレータと、電解液とを備えるものである。

シ 上記コ、サより、甲1の実施例1のリチウムイオン二次電池に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1電池発明1」という。)が記載されている。
「正極と、負極と、甲1発明1のリチウムイオン二次電池用セパレータと、電解液とを備えるリチウムイオン二次電池。」

(2)-2 甲1の実施例7に記載された発明
ア 上記(1)の[0184]より、実施例7のリチウムイオン二次電池用セパレータは、「工程[1.4]において、この水溶性重合体Cの水溶液を水溶性重合体Aの代わりに用いた」事項以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池用セパレータと同様にして製造したものである。

イ 上記(1)の[0183]より、上記アの水溶性重合体Cの水溶液は、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として、アクリル酸エチル35部、アクリル酸ブチル34.2部、メタクリル酸30部及びエチレングリコールメタクリル酸ジエステル0.8部、並びにキレート剤(キレスト社製「キレスト400G」)0.15部を混合して単量体混合物を得て、得られた単量体混合物を重合して粒子状重合体の水分散液を製造し、さらに、pH8となるよう水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、粒子状重合体を水に溶かして得たものである。

ウ 上記イより、上記アの水溶性重合体Cの水溶液は、アクリル酸を含む単量体組成物を重合して得たものであるところ、上記(1)の[0034]より、リチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、酸性基含有単量体単位を有する水溶性重合体は、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができるから、上記アの水溶性重合体Cは、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができるものであるといえる。

エ 上記(1)の[0199]の[表2]によれば、実施例7の水溶性重合体のMwは6000であるから、上記アの水溶性重合体Cの重量平均分子量は6000である。

オ 上記(2)-1のア?ケ、及び、上記ア?エより、甲1の実施例7のリチウムイオン二次電池に使用されているセパレータに注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されている。
「多孔基材からなる有機セパレータ層の両面に多孔膜用スラリーを塗布、乾燥させたリチウムイオン二次電池用セパレータであって、
上記多孔膜用スラリーは、非導電性粒子の分散体、粒子状重合体Aの水分散体、及び、ノニオン系界面活性剤の水溶液を含むものであり、
上記粒子状重合体Aは、バインダーとして機能できるものであり、
上記非導電性粒子の分散体は、αアルミナ粒子100部、水溶性重合体Cの水溶液を水溶性重合体Cの量で0.5部、カルボキシメチルセルロースの4%水溶液37.5部(カルボキシメチルセルロースの量で1.5部)を含むものであり、
上記αアルミナ粒子は体積平均粒子径が0.6μmであり、
上記水溶性重合体Cの水溶液は、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として、アクリル酸エチル35部、アクリル酸ブチル34.2部、メタクリル酸30部及びエチレングリコールメタクリル酸ジエステル0.8部、並びにキレート剤(キレスト社製「キレスト400G」)0.15部を混合して単量体混合物を得て、得られた単量体混合物を重合して粒子状重合体の水分散液を製造し、さらに、pH8となるよう水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、粒子状重合体を水に溶かして得たものであり、
上記水溶性重合体Cは、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができるものであり、
上記水溶性重合体Cの重量平均分子量は6000である、リチウムイオン二次電池用セパレータ。」

カ 上記(1)の[0184]、上記(2)-1のシ、及び、上記オより、甲1の実施例7のリチウムイオン二次電池に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1電池発明2」という。)が記載されている。
「正極と、負極と、甲1発明2のリチウムイオン二次電池用セパレータと、電解液とを備えるリチウムイオン二次電池。」

(3)参考文献の記載事項
ア 申立人が令和2年2月19日付けの意見書とともに提出した参考文献(「カルボキシメチルセルロース(4)(SB-806M HQ)」昭和電工テクニカルレポート(公知日不明)(https://www.shodex.com/ja/dc/03/06/47.html))には、次の記載がある。




イ 上記アの記載から、カルボキシメチルセルロースについて、粘度が1,500?3,000cPのときに質量平均分子量(Mw)が6,940,500であり、粘度が400?800cPのときに質量平均分子量(Mw)が2,126,000であり、粘度が50?200cPのときに質量平均分子量(Mw)が402,000であることが理解できる。

4 対比・判断
(1)甲1発明1及び甲1電池発明1に対する新規性進歩性
(1)-1 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明1とを対比する。

イ 甲1発明1の「多孔基材からなる有機セパレータ層」、「αアルミナ粒子」、「リチウムイオン二次電池用セパレータ」は、本件発明1の「多孔基材膜(A)」、「無機フィラー」、「電池用セパレータ」にそれぞれ相当する。

ウ 甲1発明1の「粒子状重合体Aは、バインダーとして機能できるものであ」るから、甲1発明1の「粒子状重合体A」は、本件発明1の「樹脂バインダー」に相当する。

エ 甲1発明1の「水溶性重合体Aは、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができる」ものであるから、甲1発明1の「水溶性重合体A」は、本件発明1の「分散剤」に相当する。
また、甲1発明1の「多孔膜」は、「αアルミナ粒子」及び「水溶性重合体Aの水溶液」「を含む」「非導電性粒子の分散体」並びに「粒子状重合体Aの水分散体」「を含む」「多孔膜用スラリー」を「塗布、乾燥させ」て形成するものであるから、本件発明1の「無機フィラー、樹脂バインダー、及び分散剤を含む多孔層(B)」に相当する。

オ 甲1発明1の「非導電性粒子の分散体」は、「αアルミナ粒子」及び「水溶性重合体Aの水溶液」「を含むものであ」るから、甲1発明1の「多孔基材からなる有機セパレータ層の両面に多孔膜用スラリーを塗布、乾燥させたリチウムイオン二次電池用セパレータであって、上記多孔膜用スラリーは、非導電性粒子の分散体、粒子状重合体Aの水分散体、及び、ノニオン系界面活性剤の水溶液を含むものであり、上記粒子状重合体Aは、バインダーとして機能できるものであ」る事項は、本件発明1の「多孔基材膜(A)の少なくとも片面に、無機フィラー、樹脂バインダー、及び分散剤を含む多孔層(B)を備える電池用セパレータであ」る事項に相当する。
また、甲1発明1の「非導電性粒子の分散体は、αアルミナ粒子100部、水溶性重合体Aの水溶液を水溶性重合体Aの量で0.5部、カルボキシメチルセルロースの4%水溶液37.5部(カルボキシメチルセルロースの量で1.5部)を含むものであ」る事項は、本件発明1の「前記分散剤は、前記無機フィラー100質量部に対し、0.1質量部以上1.5質量部以下の割合で存在」する事項に含まれる。
なお、特許権者は、令和2年1月10日付けの意見書において、この点を反論しているが、これについては、(3)において後述する。

カ 技術常識に照らせば、甲1発明1の「体積平均粒子径」と本件発明1の「メジアン径」とは同義であるから、甲1発明1の「αアルミナ粒子は体積平均粒子径が0.6μmであ」る事項は、本件発明1の「無機フィラーのメジアン径が、0.55μm以上1.2μm以下であ」る事項に含まれる。

キ 甲1発明1の「水溶性重合体Aの水溶液は、水50部、アクリル酸80部、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸19.92部及び2-(N-アクリロイル)アミノ-2-メチル-1,3-プロパン-ジスルホン酸0.08部を混合して、得た単量体組成物を重合した後、32%水酸化ナトリウム水溶液120部を加えて反応液を完全に中和させて得たものであ」って、甲1発明1の「水溶性重合体A」は、カルボキシル基COOHを有するアクリル酸80部を含む単量体組成物を重合したものであり、その100%がポリ(メタ)アクリル酸塩からなる単独重合体ではないから、上記1の(2)の主張に照らせば、本件発明1の「ポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)」に相当する。また、甲1発明1の「水溶性重合体Aの水溶液」は、「反応液を完全に中和させて得たものであ」るから、本件発明1の「分散剤を」「溶解したときの25℃でのpHが、3?9である」事項を満たすものであると考えられる。
そうすると、甲1発明1の「水溶性重合体Aの水溶液は、水50部、アクリル酸80部、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸19.92部及び2-(N-アクリロイル)アミノ-2-メチル-1,3-プロパン-ジスルホン酸0.08部を混合して、得た単量体組成物を重合した後、32%水酸化ナトリウム水溶液120部を加えて反応液を完全に中和させて得たものであり、」「上記水溶性重合体Aの重量平均分子量は6000である」事項は、本件発明1の「分散剤は、質量平均分子量が300以上9,000以下のポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)であり、かつ前記分散剤を固形分が10質量%になるように水に分散又は溶解したときの25℃でのpHが、3?9である」事項に含まれる。

ク 上記ア?キより、本件発明1と甲1発明1とは、
「多孔基材膜(A)の少なくとも片面に、無機フィラー、樹脂バインダー、及び分散剤を含む多孔層(B)を備える電池用セパレータであって、
前記無機フィラーのメジアン径が、0.55μm以上1.2μm以下であり、
前記分散剤は、前記無機フィラー100質量部に対し、0.1質量部以上1.5質量部以下の割合で存在し、
前記分散剤は、質量平均分子量が300以上9,000以下のポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)であり、かつ
前記分散剤を固形分が10質量%になるように水に分散又は溶解したときの25℃でのpHが、3?9である、
前記電池用セパレータ。」で一致し、相違点はない。
よって、本件発明1は甲1発明1である。

(1)-2 本件発明2について
甲1発明1の「水溶性重合体Aの水溶液」は、「水50部、アクリル酸80部、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸19.92部及び2-(N-アクリロイル)アミノ-2-メチル-1,3-プロパン-ジスルホン酸0.08部を混合して、得た単量体組成物を重合した後、32%水酸化ナトリウム水溶液120部を加えて反応液を完全に中和させて得たものであ」るから、甲1発明1の「水溶性重合体A」は、「本件発明2の「水溶性ポリマー分散剤」に相当する。
よって、本件発明2は甲1発明1である。

(1)-3 本件発明3について
甲1発明1の「多孔膜用スラリー」は、「非導電性粒子の分散体」「を含むものであり、」「非導電性粒子の分散体は、αアルミナ粒子」「を含むものであ」るから、甲1発明1の「αアルミナ粒子」「を含む」事項は、本件発明3の「無機フィラーは、アルミナ、シリカ、カオリン及びベーマイトから成る群から選択される」事項に含まれるものである。
よって、本件発明3は甲1発明1である。

(1)-4 本件発明4について
本件発明4と甲1電池発明1とを対比すると、本件発明4の全ての発明特定事項で一致し、相違点はない。
よって、本件発明4は甲1電池発明1である。

(2)甲1発明2及び甲1電池発明2に対する新規性進歩性
(2)-1 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明2とを対比する。

イ 甲1発明2の「多孔基材からなる有機セパレータ層」、「αアルミナ粒子」、「リチウムイオン二次電池用セパレータ」は、本件発明1の「多孔基材膜(A)」、「無機フィラー」、「電池用セパレータ」にそれぞれ相当する。

ウ 甲1発明2の「粒子状重合体Aは、バインダーとして機能できるものであ」るから、甲1発明1の「粒子状重合体A」は、本件発明1の「樹脂バインダー」に相当する。

エ 甲1発明2の「水溶性重合体Cは、多孔膜用スラリーにおいて非導電性粒子の分散性を向上させることができる」ものであるから、甲1発明2の「水溶性重合体C」は、本件発明1の「分散剤」に相当する。
また、甲1発明2の「多孔膜」は、「αアルミナ粒子」及び「水溶性重合体Cの水溶液」「を含む」「非導電性粒子の分散体」並びに「粒子状重合体Aの水分散体」「を含む」「多孔膜用スラリー」を「塗布、乾燥させ」て形成するものであるから、本件発明1の「無機フィラー、樹脂バインダー、及び分散剤を含む多孔層(B)」に相当する。

オ 甲1発明2の「非導電性粒子の分散体」は、「αアルミナ粒子」及び「水溶性重合体Cの水溶液」「を含むものであ」るから、甲1発明2の「多孔基材からなる有機セパレータ層の両面に多孔膜用スラリーを塗布、乾燥させたリチウムイオン二次電池用セパレータであって、上記多孔膜用スラリーは、非導電性粒子の分散体、粒子状重合体Aの水分散体、及び、ノニオン系界面活性剤の水溶液を含むものであ」る事項は、本件発明1の「多孔基材膜(A)の少なくとも片面に、無機フィラー、樹脂バインダー、及び分散剤を含む多孔層(B)を備える電池用セパレータであ」る事項に相当する。
また、甲1発明2の「非導電性粒子の分散体は、αアルミナ粒子100部、水溶性重合体Cの水溶液を水溶性重合体Cの量で0.5部、カルボキシメチルセルロースの4%水溶液37.5部(カルボキシメチルセルロースの量で1.5部)を含むものであ」る事項は、本件発明1の「前記分散剤は、前記無機フィラー100質量部に対し、0.1質量部以上1.5質量部以下の割合で存在」する事項に含まれる。
なお、特許権者は、令和2年1月10日付けの意見書において、この点を反論しているが、これについては、(3)において後述する。

カ 技術常識に照らせば、甲1発明2の「体積平均粒子径」と本件発明1の「メジアン径」とは同義であるから、甲1発明2の「αアルミナ粒子は体積平均粒子径が0.6μmであ」る事項は、本件発明1の「無機フィラーのメジアン径が、0.55μm以上1.2μm以下であ」る事項に含まれる。

キ 甲1発明2の「水溶性重合体Cの水溶液は、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として、アクリル酸エチル35部、アクリル酸ブチル34.2部、メタクリル酸30部及びエチレングリコールメタクリル酸ジエステル0.8部、並びにキレート剤(キレスト社製「キレスト400G」)0.15部を混合して単量体混合物を得て、得られた単量体混合物を重合して粒子状重合体の水分散液を製造し、さらに、pH8となるよう水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、粒子状重合体を水に溶かして得たものであ」って、甲1発明2の「水溶性重合体C」は、カルボキシル基COOHを有するメタクリル酸30部を含む重合性単量体を重合したものであって、その100%がポリ(メタ)アクリル酸塩からなる単独重合体ではないから、上記1の(2)の主張に照らせば、本件発明1の「ポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)」に相当する。また、甲1発明2の「水溶性重合体Cの水溶液」は、「pH8となるよう水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、粒子状重合体を水に溶かして得たものであ」って、「水酸化ナトリウム水溶液」なるアルカリ性の水溶液を添加してpH8としているから、甲1発明2の「水溶性重合体Cの水溶液」は、本件発明1の「分散剤を」「溶解したときの25℃でのpHが、3?9である」事項を満たすものであると考えられる。
そうすると、甲1発明2の「水溶性重合体Cの水溶液は、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として、アクリル酸エチル35部、アクリル酸ブチル34.2部、メタクリル酸30部及びエチレングリコールメタクリル酸ジエステル0.8部、並びにキレート剤(キレスト社製「キレスト400G」)0.15部を混合して単量体混合物を得て、得られた単量体混合物を重合して粒子状重合体の水分散液を製造し、さらに、pH8となるよう水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、粒子状重合体を水に溶かして得たものであり、」「上記水溶性重合体Cの重量平均分子量は6000である」事項は、本件発明1の「分散剤は、質量平均分子量が300以上9,000以下のポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)であり、かつ前記分散剤を固形分が10質量%になるように水に分散又は溶解したときの25℃でのpHが、3?9である」事項に含まれる。

ク 上記ア?キより、本件発明1と甲1発明2とは、
「多孔基材膜(A)の少なくとも片面に、無機フィラー、樹脂バインダー、及び分散剤を含む多孔層(B)を備える電池用セパレータであって、
前記無機フィラーのメジアン径が、0.55μm以上1.2μm以下であり、
前記分散剤は、前記無機フィラー100質量部に対し、0.1質量部以上1.5質量部以下の割合で存在し、
前記分散剤は、質量平均分子量が300以上9,000以下のポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)であり、かつ
前記分散剤を固形分が10質量%になるように水に分散又は溶解したときの25℃でのpHが、3?9である、
前記電池用セパレータ。」で一致し、相違点はない。
よって、本件発明1は甲1発明2である。

(2)-2 本件発明2について
甲1発明2の「水溶性重合体C」は、本件発明2の「水溶性ポリマー分散剤」に相当する。
よって、本件発明2は甲1発明2である。

(2)-3 本件発明3について
甲1発明2の「多孔膜用スラリー」は、「非導電性粒子の分散体」「を含むものであり、」「非導電性粒子の分散体は、αアルミナ粒子」「を含むものであ」るから、甲1発明2の「αアルミナ粒子」「を含む」事項は、本件発明3の「無機フィラーは、アルミナ、シリカ、カオリン及びベーマイトから成る群から選択される」事項に含まれるものである。
よって、本件発明3は甲1発明2である。

(2)-4 本件発明4について
本件発明4と甲1電池発明2とを対比すると、本件発明4の全ての発明特定事項で一致し、相違点はない。
よって、本件発明4は甲1電池発明2である。

(3)令和2年1月10日付けの意見書の主張について
ア 特許権者は、令和2年1月10日付けの意見書において、甲1の実施例では、いずれも増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」という。)を使用して分散体を形成しており、CMCはポリカルボン酸に含まれるから、甲1に記載された発明は、非導電性粒子100重量部に対するポリカルボン酸塩の正確な存在割合について判然としないし、甲1の実施例において、水溶性重合体とCMCとの合計は2重量部であるから、本件発明1の上限である1.5重量部を超える蓋然性が高いものと思料しますと主張している(第5頁第6行?第6頁第11行参照。)。

イ しかしながら、以下の理由により、上記アの主張は採用できない。

ウ 確かに、特許権者が主張するように、CMCはポリカルボン酸に含まれるものである。

エ しかしながら、甲1の実施例において、CMCが増粘剤として用いられていることは、上記アで述べたように、特許権者も認めているところ、本件明細書には、「多孔層(B)の形成方法としては、多孔基材膜(A)の少なくとも片面に、無機フィラー、樹脂バインダー、及ぶ分散剤を含む塗工液を塗工して、多孔層(B)を形成する方法を挙げることができる」(【0088】)、「塗工液には、分散安定化や塗工性の向上のために、・・・(略)・・・増粘剤・・・(略)・・・等の各種添加剤を加えてもよい」(【0092】)と記載されており、分散剤とは別に添加剤として増粘剤を加えることとしているから、増粘剤である、甲1の実施例におけるCMCは、本件発明1の「分散剤」には相当しないと考えられる。

オ また、本件発明1において、「分散剤は、質量平均分子量が300以上9,000以下」であるところ、例えば、上記3の(3)の参考文献によれば、CMCについて、粘度が1,500?3,000cPのときに質量平均分子量(Mw)が6,940,500であり、粘度が400?800cPのときに質量平均分子量(Mw)が2,126,000であり、粘度が50?200cPのときに質量平均分子量(Mw)が402,000であって、CMCの質量平均分子量は、本件発明1の「分散剤」の「質量平均分子量」である「300以上9,000以下」よりも桁違いに大きい。

カ さらに、甲1の実施例におけるCMCの質量平均分子量が、本件発明1の「分散剤」の「質量平均分子量」である「300以上9,000以下」よりもかなり大きいことは、次のキ?サで述べるように、甲1の記載からも理解できる。

キ 甲1には、「多孔膜用スラリーは、増粘剤を含みうる」([0082])、「増粘剤としては、例えば水溶性の多糖類が挙げられ、中でもセルロース系半合成系高分子化合物を用いることが好ましい。セルロース系半合成系高分子化合物としては、例えば、・・・(略)・・・アニオン性のセルロース系半合成系高分子化合物・・・(略)・・・が挙げられる」([0083])、「アニオン性のセルロース系半合成系高分子化合物としては、例えば、・・・(略)・・・カルボキシメチルセルロース(CMC)・・・(略)・・・が挙げられる」([0085])と、多孔膜用スラリーに、増粘剤としてセルロース系半合成系高分子化合物であるCMCを含み得ることが記載されている。

ク また、甲1には、「セルロース系半合成系高分子化合物のエーテル化度は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上であり、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下である。ここで、エーテル化度とは、セルロース中の無水グルコース単位1個当たりの水酸基(3個)の、カルボキシメチル基等への置換体への置換度のことをいう」([0087])、「増粘剤の平均重合度は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上であり、好ましくは2500以下、より好ましくは2000以下、特に好ましくは1500以下である」([0088])と記載されている。

ケ ここで、甲1発明1の「水溶性重合体Aの水溶液」、甲1発明2の「水溶性重合体Cの水溶液」は、いずれも「水酸化ナトリウム水溶液」によってpHの調整を行っているから、CMCはナトリウム塩となっていると考えられる。

コ そして、CMCのナトリウム塩の分子式は、[C_(6)H_(7)O_(2)(OH)_(X)(OCH_(2)COONa)_(y)]_(n)であるところ、上記クの「エーテル化度とは、セルロース中の無水グルコース単位1個当たりの水酸基(3個)の、カルボキシメチル基等への置換体への置換度のことをいう」との記載より、yがCMCのエーテル化度であり、x+y=3であることが理解でき、また、nが平均重合度であることは明らかである。

サ そうすると、上記クに記載されたエーテル化度及び平均重合度の範囲では、yが0.5であり、nが500であるときに、CMCの質量平均分子量が最小となり、その値を求めると101,000であるから、甲1の実施例におけるCMCの質量平均分子量は、101,000以上であると考えられ、本件発明1の「分散剤」の「質量平均分子量」である「300以上9,000以下」よりもかなり大きいといえる。

シ したがって、甲1の実施例におけるCMCは、本件発明1の「分散剤」に相当するものとはいえないから、上記(1)の(1)-1及び(2)の(2)-1で検討したように、甲1発明1の「水溶性重合体A」及び甲1発明2の「水溶性重合体C」が、本件発明1の「分散剤」に相当し、その含有量は、αアルミナ粒子100部に対し、0.5部であるといえる。

ス よって、上記アの特許権者の意見は採用できない。

第4 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1?4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔基材膜(A)の少なくとも片面に、無機フィラー、樹脂バインダー、及び分散剤を含む多孔層(B)を備える電池用セパレータであって、
前記無機フィラーのメジアン径が、0.55μm以上1.2μm以下であり、
前記分散剤は、前記無機フィラー100質量部に対し、0.1質量部以上1.5質量部以下の割合で存在し、
前記分散剤は、質量平均分子量が300以上9,000以下のポリカルボン酸塩(ただし、ポリ(メタ)アクリル酸塩を除く。)であり、かつ
前記分散剤を固形分が10質量%になるように水に分散又は溶解したときの25℃でのpHが、3?9である、
前記電池用セパレータ。
【請求項2】
前記分散剤は、水溶性ポリマー分散剤である、請求項1に記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
前記無機フィラーは、アルミナ、シリカ、カオリン及びベーマイトから成る群から選択される、請求項1又は2に記載の電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の電池用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを備える、非水電解液電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-09 
出願番号 特願2014-202325(P2014-202325)
審決分類 P 1 651・ 113- ZAA (H01M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 立木 林  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 土屋 知久
池渕 立
登録日 2018-11-02 
登録番号 特許第6425484号(P6425484)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 電池用セパレータ  
代理人 三橋 真二  
代理人 三間 俊介  
代理人 齋藤 都子  
代理人 中村 和広  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 中村 和広  
代理人 三間 俊介  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  

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