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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1363184
異議申立番号 異議2020-700143  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-03 
確定日 2020-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6570382号発明「研磨用シリカ添加剤及びそれを用いた方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6570382号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6570382号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年9月9日の出願であって、令和元年8月16日にその特許権の設定登録がされ、同年9月4日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?6に係る特許に対し、令和2年3月3日に特許異議申立人宮本俊明(以下、「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
1 特許第6570382号の請求項1?6の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
粒子密度が2.0g/cm^(3)以上、比表面積が20m^(2)/g以上100m^(2)/g以下、粒子径50nm以上の粒子の平均球形度が0.80以上であることを特徴とする研磨用シリカ添加剤。
【請求項2】
累積体積80%の粒子径(A)と累積体積20%の粒子径(B)の比(A)/(B)が1.5以上5.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨用シリカ添加剤。
【請求項3】金属Si量が10ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨用シリカ添加剤。
【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の研磨用シリカ添加剤を含有することを特徴とする研磨スラリー。
【請求項5】 請求項4に記載の研磨スラリーを用いて被研磨材料を研磨する工程を含む被研磨材料の研磨方法。
【請求項6】
請求項4に記載の研磨スラリーを用いてサファイア表面を研磨する工程を含むサファイア表面の研磨方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、下記3の甲第1?13号証及び参考資料1を提出し、次の1及び2について主張している(以下、甲号証は、単に「甲1」などと記載する。)。
1 特許法第29条第1項第3号又は第2項について(同法第113条第2号)
(1)同法第29条第1項第3号について
ア 本件発明1は、甲1、甲2または甲3に記載された発明と同一であり、
イ 本件発明2は、甲1または甲3に記載された発明と同一であり、
ウ 本件発明3は、甲1または甲2に記載された発明と同一であって、
本件発明1?3は、同法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)同法第29条第2項について
ア 本件発明1は、甲1または甲2に記載された発明と、甲3もしくは甲10に記載の発明またはその組み合わせとに基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得る発明であり、
イ 本件発明2は、甲1、甲2または甲3に記載された発明と、甲3、甲10もしくは甲11に記載された発明またはその組み合わせとに基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得る発明であり、
ウ 本件発明3は、甲1、甲2または甲3に記載された発明と、甲3、甲10もしくは甲11のいずれかに記載された発明またはその組み合わせとに基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得る発明であり、
エ 本件発明4は、甲1、甲2または甲3に記載された発明と、甲3、甲10もしくは甲11のいずれかに記載の発明またはその組み合わせと、技術常識とに基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得る発明であり、
オ 本件発明5は、甲1、甲2または甲3に記載された発明と、甲3、甲10もしくは甲11のいずれかに記載の発明またはその組み合わせと、技術常識とに基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得る発明であり、
カ 本件発明6は、甲1、甲2または甲3に記載された発明と、甲3、甲10もしくは甲11のいずれかに記載の発明またはその組み合わせと、技術常識とに基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得る発明であって、
本件発明1?6は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 特許法第36条第4項1号又は同条第6項第1、2号に係る申立理由について(同法第113条第4号)
(1)同法第36条第4項1号について
本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、金属Si以外を原料として本件発明1に係る研磨用シリカ添加剤を作ることは困難である。
よって、出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは言えない。また、本件発明1を直接または間接に引用する本件発明2?6も同様である。

(2)同法第36条第6項第1号について
金属Si以外を原料とした場合に、どのように本件発明1に係る研磨用シリカ添加剤を製造できるのか、当業者は本件明細書の発明の詳細な説明の記載から理解することができず、金属Siを原料とした得られた研磨用シリカ添加剤について、「発明の課題」を解決できるか否か、当業者は本件明細書の記載から理解することができない。
よって、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明の内容を拡張ないし一般化することができないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものとは言えない。また、本件発明1を直接または間接に引用する本件発明2?6も同様である。

(3)同法第36条第6項第2号について
本件発明の構成要件である「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度が0.80以上であること」について、どの程度の大きさの粒子までの平均球形度が0.80以上であればよいのかについて明確ではない。本件発明1には、研磨用シリカ添加剤の粒子径の範囲は規定されていないことから、極端に大きな粒子が含まれている場合も含まれ得る。そのため当業者は、本件発明1の当該構成要件からは、どの程度までの大きさの粒子について、平均球形度を調整すればよいのか理解できず、またどの程度の割合の粒子について平均球形度を調整すればよいのかも理解できない。また、本件発明1を直接または間接に引用する本件発明2?6も同様である。

3 証拠方法
甲1:特開2008-019157号公報
甲2:特開2002-060214号公報
甲3:特開2003-257903号公報
甲4:特開2014-028738号公報
甲5;フィラー活用事典 フィラー研究会編、株式会社大成社、P65-69,P158
甲6:非晶質シリカの中距離構造、粟津浩一、応用物理 第74巻 第7号(2005)、P917-923
甲7:特開2000-247626号公報
甲8:三宅新一・木野村暢一・鈴木喬・諏訪俊雄、球状シリカの比表面積におよぼすバーナー火炎特性の影響、無機マテリアル、Vol.5、P225-230(1998)
甲9:坂下攝、「色材技術者のための“粉体技術の基礎”第1章 粉粒体の物理的性質」、Journal of the Japan Society of Colour Material、Vol.78、No.4、P168-184(2005)
甲10:特開2000-306869号公報
甲11:特開2001-323254号公報
甲12:国際公開第2012/141111号
甲13:椿淳一郎・鈴木道隆・神田良照、「入門 粒子・粉体工学」、日刊工業新聞社、P32-37
参考文献1:短径と長径の比が0.85の粒子の球形度について(申立人作成)

第4 甲1?6、8、10の記載
1 甲1
甲1には、「乾式シリカ微粒子」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項 1】
分子中にハロゲンを含まないシロキサン化合物の火炎内反応によって得られる乾式シリカ微粒子であって、BET比表面積が20?55m^(2)/gであり、且つ該シリカ微粒子を1.5重量%濃度で含有する水懸濁物の波長700nmの光に対する吸光度τが下記式(1)を満足していることを特徴とする乾式シリカ微粒子。
τ≦240S^(-1.4)-0.07 (1)
(式中、Sは、乾式シリカ微粒子のBET比表面積(m^(2)/g)である)」-0.07
「【0047】
<乾式シリカ微粒子の製造>
上述した本発明の乾式シリカ微粒子は、例えば図1に示されているような多重管構造を有するバーナを用いて製造される。このバーナは、中心管1を有しており、この中心管1の外周には、第1環状管3が形成されており、第1環状管3の周囲には、必要により第2環状管5が形成されている。
【0048】
即ち、シリカ源として分子中にハロゲンを含まないシロキサン化合物を使用し、このシロキサン化合物のガスと酸素ガスとを含む混合ガスを、バーナの中心管1に供給し、且つ水素ガスまたは炭化水素ガスを可燃性成分として含む補助燃料ガスを、上記バーナの第1環状管3に供給して燃焼を行うことにより本発明の乾式シリカ微粒子を製造する。
【0049】
かかる製造方法において、シリカのケイ素源として使用されるシロキサン化合物は、ハロゲン原子を含まないものでなければならない。先にも述べたように、クロロシランのように分子中にハロゲン原子を含むものを使用した場合には、得られるシリカ中にハロゲン原子が残留し、このようなハロゲン原子により金属腐食などを生じるおそれがあり、シリカの用途が制限されることとなるからである。また、燃焼に際して十分な火炎温度を確保することができず、シリカの粒子成長が抑制され、樹脂充填材やトナー外添剤の用途に適当な大きさの粒子径を有するシリカ粒子を得ることが困難となってしまうという不都合もある。
【0050】
ケイ素源として用いられる分子中にハロゲンを含まないシロキサン化合物としては、これに限定されるものではないが、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等を挙げることができる。これらの中でも、分子中に含まれる炭素原子数とケイ素原子数の比(C/Si)が2以下のシロキサン(即ち、環状シロキサン)が好ましい。この原子比(C/Si)が2を超えると、ケイ素原子に対する炭素原子の数が多すぎるため、シリカ微粒子の生成以外に消費される酸素の量が増え、二酸化炭素等が多く副生してしまい、また、燃焼熱が大きいため燃焼ガスを冷却する工程が大規模になってしまうなどの問題を生じ、工業的生産には適当でないからである。
【0051】
また、上記のシロキサン化合物としては、高純度のものを用いる必要がある。不純物含有量が多いと、得られるシリカ微粒子は、鉄等の含有量が多いものとなってしまうからである。
【0052】
さらに、上記のシロキサン化合物は、ガス状態でバーナに供給されなければならないが、これはシロキサン化合物を加熱気化することによって容易に実施できる。この場合、沸点の低いシロキサン化合物のほうが加熱気化しやすいため、上記のシロキサン化合物の中でも、沸点が100?250℃のもの、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン及びオクタメチルシクロテトラシロキサンが最も好適である。
【0053】
尚、分子中にハロゲンを含まないシロキサン化合物を気化し、バーナに供給する際、キャリアガスを使用することもできる。かかるキャリアガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が好適である。
【0054】
本発明においては、上記のシロキサン化合物のガスは、酸素との混合ガスの形で前述したバーナの中心管1に供給し、同時に水素ガスまたは炭化水素ガスを可燃性成分として含む補助燃料ガスを、中心管1を取り囲む第1環状管3に供給して燃焼を行い、かかる燃焼によりシリカ微粒子が得られる。」
「【0083】
また、本発明の乾式シリカ微粒子は、前述した半導体封止用、液晶シール用あるいは積層基板の絶縁層形成用の樹脂組成物としての用途やトナー用外添剤としての用途に限定されるものでなく、単独で或いは他の粒子と組み合わせて、その他の用途に使用することも可能である。例えば、石英るつぼ、光ファイバー等の石英ガラス部材、CMP等の研磨材、光反応性接着剤等の接着剤、化粧品、精密樹脂成形品充填材、歯科材用充填材、LED用シール剤、ICのテープオートメイティッドボンディング用キャリアテープフィルム、ICのリードフレーム固定用テープ、インクジェット紙コート層、電子写真用感光体保護層、電子写真用感光体クリーニング材、各種の樹脂フィルム、塗料艶消し剤等の塗料添加剤、アンチブロッキング剤、ハードコート剤、反射用成型体の原材料等の用途にも好適に使用することができる。」

2 甲2
甲2には、「球状シリカ微粒子及びその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】 ハロゲンを含まないシロキサンを原料とし、これを燃焼させることにより得られ、実質的にハロゲンを含まず、ケイ素以外の金属不純物含有量が1ppm以下で、粒子径が10nm?10μm、比表面積が3?300m^(2)/gであることを特徴とする球状の非晶質シリカ微粒子。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、IC用エポキシ樹脂封止剤の充填剤、トナー内添剤、研磨剤、ゴムの充填補強剤等として有用とされる球状シリカ微粒子及びその製造方法に関するものである。」
「【0008】以下、本発明につき更に詳しく説明する。本発明の球状シリカ微粒子は、ハロゲン原子を含まないシロキサンを原料とし、これを燃焼させることにより得られるもので、実質的にハロゲン原子を含まず、ケイ素以外の金属不純物(特に、Fe,Al,Ca,Na,K,Mg)の金属不純物含有量が1ppm以下のものである。また、粒子径(平均粒子径)が10nm?10μmであり、BET法による比表面積が3?300m^(2)/gのものである。」
「【0014】燃焼により生成したシリカの核粒子は、火炎の温度とシリカ濃度、火炎内での滞留時間により合体成長し、最終の粒子径と形状が決定される。・・・」
「【0023】
【実施例】以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0024】[実施例1?3]ヘキサメチルジシロキサンを室温下、液状で図1の竪型燃焼炉の頂部に設けられたバーナー6に供給し、バーナー先端部に取り付けられた噴霧ノズルにおいて噴霧媒体の空気により微細液滴に噴霧し、プロパンの燃焼による補助火炎により燃焼させた。支燃性ガスとしてバーナー6から酸素、空気を供給した。このときのヘキサメチルジシロキサン、噴霧空気、プロパン、酸素空気の供給量及び断熱火炎温度を表1に記す。ここで、実施例1における断熱火炎温度の計算例を表2に記載した。生成したシリカ微粒子はサイクロン10、バグフィルター12で捕集した。捕集したシリカ微粒子に含まれる塩素分はイオンクロマトグラフィーで測定したが0.1ppm未満であり、ケイ素以外の金属不純物は原子吸光で測定したがFe,Al,Caなど含めて1ppm未満であった。粒子径の測定は透過型電子顕微鏡を用い、得られた写真は粒子形状解析装置(ニレコ社製、ルーゼックスF)を用いて粒子形状を解析した結果、粒子は全て短径と長径の比が0.85以上の球状であった。粒子径を表1に記す。また比表面積の測定値を併記する。」
「【0027】[実施例4?6]ヘキサメチルジシロキサンを図2の蒸発器に供給し、蒸発させて窒素と混合し、バーナー6に供給し、水素の燃焼による補助火炎により燃焼させた。バーナー6から供給したヘキサメチルジシロキサン、窒素、水素、酸素、空気の量及び断熱火炎温度を表3に記す。そのほかは実施例1と同様にしてシリカ微粒子を得た。粒子形状は短径と長径の比が0.85以上の球状であり、ハロゲン、金属不純物含有量は各々0.1ppm未満、1ppm未満であった。粒子径及び比表面積の測定値を表3に併記する。」

3 甲3
甲3には、「研磨剤の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【要約】
【課題】球状シリカ微粉を水系溶媒に安定分散させた、スクラッチ発生が激減し、研磨速度が高まる、研磨剤を提供すること。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、研磨剤の製造方法に関する。詳しくは、例えば半導体基板上に形成されたケイ素またはケイ素酸化膜の研磨において、研磨表面の性状を損なうことなく効率よく研磨し得る研磨剤の製造方法に関する。」
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、更に詳しく本発明について説明する。
【0010】本発明で用いられる球状シリカ微粉は、一次粒子が単分散した球状シリカ微粉である。具体的には、比表面積5?150m^(2)/g、平均一次粒子径200nm以下の球状シリカ微粉である。この球状シリカ微粉は、一次粒子が数個?数十個凝集し、鎖構造の二次粒子を形成しているヒュームドシリカとは異なるものである。
【0011】球状シリカ微粉の「球状」の程度としては、平均球形度が0.85以上、特に0.90以上が好ましい。平均球形度が高いものほど、媒体への安定分散化が容易となり、スクラッチ発生がより激減可能な研磨剤となる。」
「【0016】球状シリカ微粉は、金属シリコン粒子を火炎中に投じて酸化反応させながら球状化する方法(特公平1-55201号公報)、シリカ粉末と金属シリコン又は炭素粉末と水とを含む混合原料を還元雰囲気下で熱処理する方法(特開2000-247626号公報)、不定形の粒子を粉砕機の中で粒子の角を取り疑似球状化する方法、シリカ粉末を高温火炎中で溶融又は軟化する方法、などによって製造することができる。なお、これらの市販品があるのでそれを用いることもできる。」
「【0023】
【実施例】以下、実施例、比較例をあげて更に具体的に本発明を説明する。
【0024】実施例1
特開2000-247626号公報の実施例に準じて、球状シリカ微粉を製造した。球状シリカ微粉は、比表面積80m^(2)/g、平均一次粒子径40nmの単分散であり、平均球形度99%以上、非晶質率98%以上である。これをTEOS(信越化学社製商品名「KBM-04」)で表面処理した。表面処理は、球状シリカ微粉を流動槽に入れ、窒素ガスで浮遊させた状態でTEOSをシリカ100gに対して5gの割合でスプレー噴霧した後、50分間の浮遊状態を保持することによって行った。
【0025】ついで、100℃に保たれた横型管状炉にアンモニアガスを流通させながら、TEOSで表面処理された球状シリカ微粉を接触時間3時間として供給した。その後、得られた球状シリカ微粉10質量部、水80質量部、エタノール10質量部を循環式の媒体撹拌型湿式粉砕機(三井鉱山社製商品名「SCミル」型式SC220/70-XU)で混合して研磨剤(pH8)を製造した。」
「【0027】比較例1
TEOS処理もアンモニアガス処理も行わない球状シリカ微粉を用いたこと以外は、実施例1と同様にして研磨剤を製造した。」

4 甲4
甲4には、「乾式シリカ微粒子」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物の充填剤・増粘剤・補強剤或いは電子写真用トナーの外添剤として好適に使用できる新規な乾式シリカに関する。
【背景技術】
【0002】
一次粒子が球形である比表面積20?60m^(2)/gの乾式シリカ微粒子(以下、「球形シリカ微粒子」ともいう。)は、半導体封止剤や半導体実装用接着剤に添加される充填剤として、また、電子写真用トナー粒子の外添剤としての需要が見込まれる。
【0003】
即ち、近年、半導体デバイスの小型化、薄型化に伴い、エポキシ樹脂組成物である半導体封止剤や半導体実装用接着剤に添加される充填剤の粒子径が小さくなっていく傾向があり、比表面積20?60m^(2)/g、一次粒子径に換算すると50?150nm程度を有する球形シリカ微粒子が好適に用いられる(特許文献1参照)。
【0004】
上記球形シリカ微粒子は、クロロシランの火炎加水分解法によって製造されるヒュームドシリカに比して、一次粒子径が大きく、且つ、形状が球形であることより、かかる一次粒子が構成する凝集粒子の構造は単純でかつ弱く、これを樹脂充填剤として用いた場合、樹脂組成物の粘度は低いものとなる。このため、当該シリカ微粒子を樹脂に充填した場合の増粘効果が小さく、樹脂への充填率を不必要に高くする必要があった。
【0005】
一方、一次粒子が球形である比表面積20?60m^(2)/gの乾式シリカ微粒子は、電子写真用トナー粒子の外添剤として使用されたとき、長期の使用でもトナー樹脂粒子への埋没することがないため、長期の使用にわたって優れた流動性をトナー粒子に付与できることが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
電子写真用トナー粒子の外添剤には、良好に目的の粒度に分散され、なおかつ分散時の粒度分布がシャープであるという特性が要求されるが、既存の比表面積20?60m^(2)/gの乾式シリカ微粒子は、前記したように分散性に優れたものはあるものの、電子写真用トナー粒子の外添剤として適用されるには、外添・混合工程における分散処理によって得られる分散粒子の粒度分布がさらに狭いものが要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-19157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、一次粒子が球形で、比表面積が20?60m^(2)/gの範囲にありながら、既存の同サイズの乾式シリカ微粒子よりも樹脂粘度に対する増粘性があり、なおかつ分散性に優れ、分散粒子の粒度分布がシャープであるという、前記樹脂用充填剤とトナー用乾式シリカ微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、珪素化合物の燃焼によって生成し、火炎中および火炎近傍において成長、凝集する乾式シリカ微粒子について、鋭意検討を行なった結果、火炎条件のみならずその冷却条件を調整することで、前記目的を達成した乾式シリカ微粒子を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。」
「【実施例】
【0073】
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
なお、以下の実施例および比較例における各種の物性測定等は以下の方法による。
【0075】
(1)比表面積
柴田理化学社製比表面積測定装置SA-1000を用い、窒素吸着BET1点法により測定した。
【0076】
(2)粒度分布
(測定サンプルの調製)
測定サンプルであるシリカ濃度1.5質量%水懸濁液を、以下のように調製した。
シリカ0.3gと蒸留水20mlをガラス製のサンプル管瓶(アズワン社製、内容量30ml、外径約28mm)に入れ、超音波細胞破砕器(BRANSON社製SonifierII Model 250D、プローブ:1.4インチ)のプローブチップ下面が水面下15mmになるように試料入りサンプル管瓶を設置し、出力20W、分散時間3分の条件でシリカ微粒子を蒸留水に分散し、測定サンプルであるシリカ濃度1.5質量%水懸濁液を調製した。
【0077】
(粒度分布測定)
CPSInstruments Inc.製のディスク遠心式粒度分布測定装置(DC24000)を用いて、重量基準粒度分布を測定した。なお測定条件は、回転数18000rpm、温度32℃、シリカ真密度を2.2g/cm^(3)とした。
【0078】
得られた重量基準粒度分布からメジアン径を算出した。メジアン径とBET比表面積とから、メジアン径/BET比表面積相当径を求めた。なお、BET比表面積相当径は下記式で求められる。
BET比表面積相当径[nm]
=6000/シリカ真密度[g/cm^(3)]/BET比表面積[m^(2)/g]
上式でもシリカ真密度を2.2g/cm^(3)とした。」
「【0089】
(円相当径の計測、円相当比表面積)
試料の10万倍画像と旭エンジニアリング製の画像解析ソフトIP-1000PCを用い、シリカ微粒子を任意に2000個以上選択し、その円相当径を計測した。計測したシリカ微粒子は円相当径を直径する真球シリカ微粒子とみなし、計測した全てのシリカ微粒子のデータを使って、円相当比表面積を求めた。なお、シリカ微粒子の真密度は、2.2g/cm^(3)とした。」

5 甲5
甲5には、「合成シリカ」(表題)について、次の記載がある。
「3.製造方法
表1に示した各種シリカの製造方法を以下に示す。
(1)乾式法
1000℃以上の高温下で,微粉無水ケイ酸粒子を生成させるもので,燃焼法と加熱法がある。
燃焼法は,気化させた四塩化ケイ素と水素を混合させたものを1000?1200℃にて,空気中で燃焼させる方法で,10nm程度の非常に微細な粒子を得ることができる。」(65頁右欄4?13行)
また、「表2 合成シリカの一般的性質」(66頁右中)には、「乾式シリカ」(燃焼法)の「密度(g/cm^(3))」の欄に「2.2」と記載されている。

6 甲6
甲6には、「非晶質シリカの中距離構造」(表題)について、次の記載がある。
「しばしば,非晶質シリカを石英と表現されることがあるが,非晶質シリカの密度が2.2g/cm^(3)であるのに対して,石英は結晶であり,密度が2.65g/cm^(3)と全く異なり、中距離構造を見ても,非晶質シリカと石英はまったく異なる。」(917頁左欄14?18行)

7 甲8
甲8には、「球状シリカの比表面積におよぼすバーナー火炎特性の影響」(表題)について、次の記載がある。
「非晶質シリカの場合,粒径D[μm]と比表面積S[m^(2)/g]の間には次式
S=2.71/D (1)
の関係が成立し,比表面積と粒径とは反比例し,粒径1μmの粒子の比表面積は2.7m^(2)/gだが,粒径0.1μmでは27m^(2)/gであり,サブミクロンの微粒子の含有量は球状シリカの比表面積の値を大きく変化させる.」(225頁右欄6行?226頁左欄3行)

8 甲10
甲10には、「研磨剤および研磨方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る研磨剤及び研磨方法を詳細に説明する。
【0015】本発明は、砥粒として比表面積が20m^(2)/g以上、80m^(2)/g未満の範囲、好ましくは、25?80m^(2)/gにあるシリカを使用することが、それ自身の濃度、他の成分であるシュウ酸及び酸化剤の濃度を変えて、選択比を任意に調整するために重要である。例えば、上記比表面積の範囲の上限である80m^(2)/g以上のシリカを使用した場合、バリア膜及び絶縁膜の研磨速度が十分上がらず、金属膜とバリア膜、或いは、金属膜、バリア膜及び絶縁膜の研磨においては、殆ど使用することができない。また、20m^(2)/g未満のシリカを使用する場合は、シリカが沈降し易くなり、研磨剤の安定性が低下すると共に、スクラッチが増えることが懸念される。
【0016】また、砥粒として、シリカ以外の砥粒、例えば、アルミナを使用した場合は、上記問題に加えて、研磨傷(スクラッチ)の発生が多いという他の問題がある。CMP研磨工程においてスクラッチが発生すると、デバイスの配線が断線したりショートしたりするため、デバイスの歩留まりを大幅に低下させる原因となる。
【0017】本発明に使用されるシリカは、前記比表面積を満足する範囲において、公知のものが特に制限なく使用される。例えば、火炎中で四塩化ケイ素やシラン系ガスを燃焼させて製造されるヒュームドシリカ、アルコキシシランを原料に用いて加水分解して製造されるゾル-ゲルシリカ(以下、高純度コロイダルシリカとも言う)、珪酸ソーダを原料にして鉱酸で中和して製造される湿式シリカ、同じく珪酸ソーダを原料にしてオストワルド法で製造されるコロイダルシリカなどが挙げられる。上記の中でも、高純度コロイダルシリカは純度が高い上に粒子の形状が球状のためにスクラッチが発生し難いなどの特徴を有しており、極めて好適である。」

第5 判断
1 特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に係る申立理由について
(1)甲1?3に記載された発明
ア 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1には、その請求項1からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「分子中にハロゲンを含まないシロキサン化合物の火炎内反応によって得られる乾式シリカ微粒子であって、BET比表面積が20?55m^(2)/gであり、且つ該シリカ微粒子を1.5重量%濃度で含有する水懸濁物の波長700nmの光に対する吸光度τが下記式(1)を満足している乾式シリカ微粒子。
τ≦240S^(-1.4)-0.07 (1)
(式中、Sは、乾式シリカ微粒子のBET比表面積(m^(2)/g)である)」

イ 甲2に記載された発明(甲2発明)
甲2には、その請求項1からみて、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「 ハロゲンを含まないシロキサンを原料とし、これを燃焼させることにより得られ、実質的にハロゲンを含まず、ケイ素以外の金属不純物含有量が1ppm以下で、粒子径が10nm?10μm、比表面積が3?300m^(2)/gである球状の非晶質シリカ微粒子。」

ウ 甲3に記載された発明(甲3発明)
甲3の実施例1は、「比表面積80m^(2)/g、平均一次粒子径40nmの単分散であり、平均球形度99%以上、非晶質率98%以上である」「球状シリカ微粉」を、「TEOS(信越化学社製商品名「KBM-04」)で表面処理し」、「ついで、100℃に保たれた横型管状炉にアンモニアガスを流通させながら、TEOSで表面処理された球状シリカ微粉を接触時間3時間として供給し」、「その後、得られた球状シリカ微粉10質量部、水80質量部、エタノール10質量部を循環式の媒体撹拌型湿式粉砕機(三井鉱山社製商品名「SCミル」型式SC220/70-XU)で混合して研磨剤(pH8)を製造した」(【0024】?【0025】)ものであり、比較例1は、「TEOS処理もアンモニアガス処理も行わない球状シリカ微粉を用いた」(【0027】)ものであるから、「TEOS(信越化学社製商品名「KBM-04」)で表面処理」することを、単に、「TEOS処理」といい、「100℃に保たれた横型管状炉にアンモニアガスを流通させながら、TEOSで表面処理された球状シリカ微粉を接触時間3時間として供給」することを、単に、「アンモニアガス処理」というと、当該「球状シリカ微粉」は「研磨剤」に用いられるものであるから、甲3の実施例1及び比較例1には、それぞれ、次の発明が記載されていると認められる。
「比表面積80m^(2)/g、平均一次粒子径40nmの単分散であり、平均球形度99%以上、非晶質率98%以上の球状シリカ微粉をTEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉。」(以下、「甲3発明1」という。)、及び、
「比表面積80m^(2)/g、平均一次粒子径40nmの単分散であり、平均球形度99%以上、非晶質率98%以上の研磨剤用球状シリカ微粉。」(以下、「甲3発明2」という。)

(2)本件発明1と甲1?3発明との対比
本件発明1と甲1発明?甲3発明1、2とを対比する。
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1の「研磨用シリカ添加剤」と、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」とは、「シリカ」である点で共通する。
また、本件発明1の「比表面積」は、本件明細書の【0013】に、「本発明の研磨用シリカ添加剤の比表面積は、BET法に基づく値であり、・・・」と記載されていることから、BET比表面積であるといえる。そうすると、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の「BET比表面積」の範囲は、本件発明1の「比表面積」に含まれる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「比表面積が20m^(2)/g以上100m^(2)/g以下であるシリカ」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
[相違点1]
シリカの粒子密度について、本件発明1は「2.0g/cm^(3)以上」であるのに対し、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子密度は不明な点。
[相違点2]
シリカの粒子径50nm以上の粒子の平均球形度について、本件発明1は「0.80」以上であるのに対し、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度は不明な点。
[相違点3]
シリカの用途について、本件発明1は「研磨用シリカ添加剤」であるのに対し、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の用途は規定されていない点。

ここで、相違点について検討する。
[相違点1について]
甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子密度について、甲1には記載も示唆もない。
また、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」は、「分子中にハロゲンを含まないシロキサン化合物の火炎内反応によって得られる」ものであるところ、そのようにして得られた乾式シリカ微粒子では、シリカのSi-O-Si構造の違いによって粒子密度が異なるものとなることは明らかであり、そのような構造の違いは、火炎内反応における、火炎の温度、シロキサン化合物の種類やその単位時間あたりの供給量、燃焼の際に用いられるガスの種類等によってもたらされることも明らかである。
また、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子密度が、2.0g/cm^(3)以上であるという技術常識が存在するとはいえない。
そうすると、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子密度は、不明というほかない。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。

また、甲4には、「シリカ真密度を2.2g/cm^(3)とした。」(【0077】、【0078】)、「シリカ微粒子の真密度は、2.2g/cm^(3)とした。」(【0089】)という記載は認められるものの、これらは、シリカのBET比表面積相当径等の特定の値を算出するために用いた(【0078】のBET比表面積相当径を求める式を参照。)理論的な数値というべきであって、甲4に記載されたシリカの真密度又は粒子密度を示すものではない。まして、甲4の「シリカ微粒子の真密度」と甲1発明の「乾式シリカ微粒子」との関連は明らかではないことから、甲4の当該真密度の値は、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子密度を示唆するものでもない。
そして、甲5には、「合成シリカの一般的性質」として、燃焼法による乾式シリカの密度が2.2(g/cm^(3))であることが記載されているものの、当該密度の値は、乾式シリカの一般的性質を示すにとどまり、あらゆる燃焼法による乾式シリカの密度を示すものとまではいえない。しかも、甲5の燃焼法による乾式シリカと甲1発明との関連は明らかではない上に、甲5においては、乾式シリカは、「気化させた四塩化ケイ素と水素を混合させたものを1000?1200℃にて,空気中で燃焼させる」ことによって得られるものであるといえるところ、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」は、「分子中にハロゲンを含まないシロキサン化合物の火炎内反応によって得られる」ものであるから、「四塩化ケイ素」のような塩素(ハロゲン)を含むものを原料から排除するものであるから、甲5の乾式シリカの密度の値は、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子密度を示唆するものではない。
また、甲6には、「非晶質シリカの密度が2.2g/cm^(3)」という記載は認められるものの、甲6には、当該密度を有する「非晶質シリカ」がどのように生成されるものであるかについては明確に記載されておらず、当該「非晶質シリカ」が微粒子であるかどうかも明らかではない。さらに、甲6の「非晶質シリカを石英と表現されることがあるが,・・・石英は結晶であり,密度が2.65g/cm^(3)とまったく異なり」という記載からみて、甲6においては、シリカの密度の値について、非晶質シリカと石英とを対比するものであって、「非晶質シリカ」の微粒子の密度について言及したものであるかどうかは判然としない。そうすると、甲6の「非晶質シリカ」と、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」との関連が明らかではない以上、甲6の「非晶質シリカ」の密度の値は、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子密度を示唆するものではないというべきである。
以上のことから、甲4?6の記載を参照しても、甲1に記載された「乾式シリカ微粒子」の粒子密度が、2.0g/cm^(3)以上であるとも、2.2g/cm^(3)であるともいうことはできない。

また、真密度又は粒子密度の値によって、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の特性がどのように変化するのかは当業者にとって明らかではないことから、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子密度を2.0g/cm^(3)以上とする動機付けはない、というべきである。

[相違点2について]
甲1には、「乾式シリカ微粒子」の平均球形度についての記載はなく、「分子中にハロゲンを含まないシロキサン化合物の火炎内反応によって得られる乾式シリカ微粒子」には、様々な球形度のものが生成されることは明らかであるから、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度は、不明というほかない。
また、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」が、0.80以上であるという技術常識が存在するとはいえない。
そうすると、上記相違点2は実質的な相違点である。

ここで、甲4には、「一次粒子が球形である比表面積20?60m^(2)/gの乾式シリカ微粒子」(【0005】)という記載があり、当該記載は甲1(特開2008-19157号公報)について言及したものだとしても、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」は、「一次粒子が球形である」ことを示すにとどまり、具体的な球形度は不明であって、まして、「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」は明らかではない。
そして、甲2には、ヘキサメチルジシロキサンを燃焼して得られた粒子について、全て短径と長径の比が0.85以上の球状であることが記載されている(【0024】、【0027】)。しかしながら、粒子の形状は様々なものが存在し、粒子を平面画像化した場合に常に楕円になるとは限らないことから、短径と長径の比から、粒子を平面画像化した場合に常に楕円になると仮定した参考資料1に示された計算のように平均球形度を直ちに求めることができないことは明らかである。そうすると、甲2を参照しても、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」は明らかではない。
また、甲10には、「高純度コロイダルシリカは純度が高い上に粒子の形状が球状のためにスクラッチが発生し難いなどの特徴を有しており、極めて好適である。」(【0015】)という記載があることから、研磨剤において、高純度コロイダルシリカのような粒子の形状が球状のものを用いれば、スクラッチが発生し難いことは理解できるものの、当該「高純度コロイダルシリカ」にどのような粒子径のものが含まれるか、及び、その平均球形度は明らかではなく、甲10の他の記載をみても、当該「高純度コロイダルシリカ」の粒子径及び平均球形度は明らかとはいえない。
そうすると、甲10に「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度が0.80」である粒子を研磨用粒子に用いることが記載されているということはできず、甲10を参照したとしても、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」を、0.80以上とすることは、当業者が容易に想到し得ることである、ということはできない。

さらに、粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」の値によって、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の特性がどのように変化するのかは当業者にとって明らかではないことから、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」を、0.80以上とする動機付けはない、というべきである。

[相違点3について]
甲1発明の「乾式シリカ微粒子」の用途は規定されておらず、「研磨用シリカ添加剤」として用いることが当業者にとって自明なことであるとはいえない。
そうすると、上記相違点3は実質的な相違点である。

また、甲1の【0083】には、用途の一例として、「CMP等の研磨材」が示されているものの、甲1発明は「半導体封止用、液晶シール用あるいは積層基板の絶縁層形成用の樹脂組成物としての用途やトナー用外添剤としての用途」を主な用途として想定しているものであり、樹脂組成物やトナー用外添剤としての用途と、CMP等の研磨材としての用途とは、大きく異なるものであり、用途の一例として、「CMP等の研磨材」が示されているからといって、直ちに、甲1発明の「乾式シリカ微粒子」を「研磨用シリカ添加剤」として用いることが、当業者にとって容易に想到し得ることであるとすることはできない。

[まとめ]
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明であるとすることはできないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

イ 甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
本件発明1の「研磨用シリカ添加剤」と、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」とは、「シリカ」である点で共通する。
また、本件発明1の「研磨用シリカ添加剤」の「比表面積」は、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の「比表面積」は重複する。

したがって、本件発明1と甲2発明とは、「比表面積が20m^(2)/g以上100m^(2)/g以下であるシリカ」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
[相違点2-1]
シリカの粒子密度について、本件発明1は「2.0g/cm^(3)以上」であるのに対し、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の粒子密度は不明な点。
[相違点2-2]
シリカの粒子径50nm以上の粒子の平均球形度について、本件発明1は「0.80」以上であるのに対し、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度は不明な点。
[相違点2-3]
シリカの用途について、本件発明1は「研磨用シリカ添加剤」であるのに対し、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の用途は規定されていない点。
[相違点2-4]
シリカの比表面積について、本件発明1は「20m^(2)/g以上100m^(2)/g以下」であるのに対し、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」は「3?300m^(2)/g」である点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点2-1及び相違点2-2について検討する。
[相違点2-1について]
甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の粒子密度について、甲2には記載も示唆もない。
また、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」は、「ハロゲンを含まないシロキサンを原料とし、これを燃焼させることにより得られ」るものであるところ、そのようにして得られた非晶質シリカ微粒子では、シリカのSi-O-Si構造の違いによって粒子密度が異なるものとなることは明らかであり、そのような構造の違いは、火炎内反応における、火炎の温度、シロキサン化合物の種類やその単位時間あたりの供給量、燃焼の際に用いられるガスの種類等によってもたらされることも明らかである。
また、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の粒子密度が、2.0g/cm^(3)以上であるという技術常識が存在するとはいえない。
そうすると、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の粒子密度は、不明というほかない。
したがって、上記相違点2-1は実質的な相違点である。

また、甲4の「シリカ微粒子」、甲5の「乾式シリカ」及び甲6の「非晶質シリカ」と甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」との関連は明らかではなく、上記相違点1で述べた理由と同様な理由から、甲4?6の記載を参照しても、甲2に記載された「非晶質シリカ微粒子」の密度が、2.0g/cm^(3)以上であるとも、2.2g/cm^(3)であるともいうことはできない。
そして、真密度又は粒子密度の値によって、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の特性がどのように変化するのかは当業者にとって明らかではないことから、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の粒子密度を2.0g/cm^(3)以上とする動機付けはない、というべきである。

[相違点2-2について]
甲2には、全て短径と長径の比が0.85以上の球状であることが記載されているとしても、「非晶質シリカ微粒子」の平均球形度についての記載はなく、「ハロゲンを含まないシロキサンを原料とし、これを燃焼させることにより得られ」る「非晶質シリカ微粒子」には、様々な球形度のものが生成されることは明らかであり、上記相違点2において述べたように、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度は、不明というほかない。
また、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」が、0.80以上であるという技術常識が存在するとはいえない。
そうすると、上記相違点2-2は実質的な相違点である。

そして、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」の値によって、甲1発明の「非晶質シリカ微粒子」の特性がどのように変化するのかは当業者にとって明らかではないことから、甲2発明の「非晶質シリカ微粒子」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」を、0.80以上とする動機付けはない、というべきである。

[まとめ]
以上のとおり、相違点2-3及び2-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるとすることはできないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

ウ 甲3発明1との対比
本件発明1と甲3発明1とを対比する。
甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉」は、研磨用シリカ添加剤と呼べることは明らかであり、本件発明1の「研磨用シリカ添加剤」に相当する。

したがって、本件発明1と甲3発明1とは、「研磨用シリカ添加剤」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
[相違点3-1]
研磨用シリカ添加剤の粒子密度について、本件発明1は「2.0g/cm^(3)以上」であるのに対し、甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度は不明な点。
[相違点3-2]
研磨用シリカ添加剤の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度について、本件発明1は「0.80」以上であるのに対し、甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度は不明な点。
[相違点3-3]
研磨用シリカ添加剤の比表面積について、本件発明1は「20m^(2)/g以上100m^(2)/g以下」であるのに対し、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の比表面積は不明な点。

ここで、相違点について検討する。
[相違点3-1について]
甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度について、甲3には記載も示唆もない。
また、甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉」の「TEOS処理及びアンモニアガス処理」する前の「球状シリカ微粉」は、具体的には、【0024】の「特開2000-247626号公報の実施例に準じて、球状シリカ微粉を製造した。」という記載によれば、「シリカ粉末と金属シリコン又は炭素粉末と水とを含む混合原料を還元雰囲気下で熱処理する方法(特開2000-247626号公報)」(【0016】)によって得られた球状シリカ微粉であるといえる。
しかしながら、特開2000-247626号公報(甲7)を参照しても、当該球状シリカ微粉の粒子密度は明らかではなく、まして、「TEOS処理及びアンモニアガス処理」によって、真密度又は粒子密度がどのように変化するかは明らかではないことから、それらの処理によって得られた「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度は明らかではない。
また、甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度が、2.0g/cm^(3)以上であるという技術常識が存在するとはいえない。
そうすると、甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度は、不明というほかない。
したがって、上記相違点3-1は実質的な相違点である。

また、甲4の「シリカ微粒子」、甲5の「乾式シリカ」及び甲6の「非晶質シリカ」と、甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理」する前の「球状シリカ微粉」との関連、まして、「TEOS処理及びアンモニアガス処理して得られた研磨剤用球状シリカ微粉」との関連は明らかではなく、甲4?6の記載を参照しても、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度が、2.0g/cm^(3)以上であるとも、2.2g/cm^(3)であるともいうことはできない。
そして、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度によって、研磨剤の特性がどのように変化するかは明らかではないことから、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度を2.0g/cm^(3)以上とする動機付けはない、というべきである。

[相違点3-2について]
甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理」する前の「球状シリカ微粉」は「平均球形度99%以上」であるとしても、「TEOS処理及びアンモニアガス処理」によって、平均球形度がどのように変化するかは明らかではないことから、それらの処理によって得られた「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度は明らかではない。
また、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」が、0.80以上であるという技術常識が存在するとはいえない。
したがって、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度は、不明というほかない。
そうすると、上記相違点3-2は実質的な相違点である。

そして、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」の値によって、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の特性がどのように変化するのかは当業者にとって明らかではないことから、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度」を、0.80以上とする動機付けはない、というべきである。

[相違点3-3について]
甲3発明1の「TEOS処理及びアンモニアガス処理」する前の「球状シリカ微粉」の比表面積は80m^(2)/gであるとしても、「TEOS処理及びアンモニアガス処理」によって、比表面積がどのように変化するかは明らかではないことから、それらの処理によって得られた「研磨剤用球状シリカ微粉」の比表面積は明らかではない。
また、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の比表面積が、「20m^(2)/g以上100m^(2)/g以下」であるという技術常識が存在するとはいえない。
したがって、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の比表面積は、不明というほかない。
そうすると、上記相違点3-3は実質的な相違点である。

そして、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の比表面積の値によって、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の特性がどのように変化するのかは当業者にとって明らかではないことから、甲3発明1の「研磨剤用球状シリカ微粉」の比表面積を、「20m^(2)/g以上100m^(2)/g以下」とする動機付けはない、というべきである。

[まとめ]
以上のとおり、本件発明1は、甲3発明1であるとすることはできないし、甲3発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

エ 甲3発明2との対比
本件発明1と甲3発明2とを対比する。
甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」は、添加されて研磨剤として用いられることから、研磨用シリカ添加剤と呼べることは明らかであり、本件発明1の「研磨用シリカ添加剤」に相当する。
また、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の「比表面積80m^(2)/g」は、本件発明1の比表面積の範囲に含まれる。

したがって、本件発明1と甲3発明2とは、「比表面積が20m^(2)/g以上100m^(2)/g以下である研磨用シリカ添加剤」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
[相違点3-2-1]
研磨用シリカ添加剤の粒子密度について、本件発明1は「2.0g/cm^(3)以上」であるのに対し、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度は不明な点。
[相違点3-2-2]
研磨用シリカ添加剤の粒子径50nm以上の粒子の平均球形度について、本件発明1は「0.80」以上であるのに対し、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の平均球形度は0.99以上であるところ、粒子径50nm以上の粒子が含まれるかどうかは不明な点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点3-2-1について検討する。
甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度について、甲3には記載も示唆もない。
また、甲3の【0016】、【0024】において引用されている特開2000-247626号公報(甲7)の記載を参照しても、当該「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度は明らかではない。
また、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度が、2.0g/cm^(3)以上であるという技術常識が存在するとはいえない。
そうすると、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度は、不明というほかない。
したがって、上記相違点3-2-1は実質的な相違点である。

そして、甲4の「シリカ微粒子」、甲5の「乾式シリカ」及び甲6の「非晶質シリカ」と、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」との関連は明らかではなく、甲4?6の記載を参照しても、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度が、2.0g/cm^(3)以上であるとも、2.2g/cm^(3)であるともいうことはできない。

また、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度によって、それを含有する研磨剤の特性がどのように変化するかは明らかではなく、しかも、甲3発明2は、甲3において比較例として示されているものであって、当該「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度を調整することによって研磨剤の特性を向上させることは想定されるものではないことから、甲3発明2の「研磨剤用球状シリカ微粉」の粒子密度を2.0g/cm^(3)以上とする動機付けはない、というべきである。

[まとめ]
以上のとおり、相違点3-2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明2であるとすることはできないし、甲3発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

オ 本件発明1の効果について
本件発明1は、本件明細書に、「本発明の研磨用シリカ添加剤、及びそれを含有してなる研磨スラリーを用いることで、表面粗さ、スクラッチ性を悪化させること無く、研磨速度に優れた研磨を達成することが出来る。したがって、本発明の研磨用シリカ添加剤、及びそれを含有してなる研磨スラリーを利用することで、各種被研磨材料、特にサファイア表面の研磨を効率的に行うことが可能となり、サファイア基板等の生産性向上に寄与することが出来る。」(【0036】)と記載されるように、格別顕著な作用効果を奏するものであり、その作用効果は、実施例1?10において確認されているといえる。

カ まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明1、2と同一であるとも、甲1発明、甲2発明及び甲3発明1、2に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである、とすることはできない。

(3)本件発明2?6と甲1?3発明との対比
本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明、甲2発明及び甲3発明1、2と同一であるとも、甲1発明、甲2発明及び甲3発明1、2に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである、とすることはできない。

(4)まとめ
以上のとおり、申立人の特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に係る申立理由には、理由がない。

2 特許法第36条第4項1号又は同条第6項第1、2号に係る申立理由について
(1)同法第36条第4項1号について
本件発明1について、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、特許法第36条第4項1号実施可能要件を満たすということができるものであるといえるところ、本件明細書には、金属Siを原料とした実施例について、本件発明1に係る研磨用シリカ添加剤を作ることができることが記載されていると認められる。
そうすると、仮に、申立人の主張するように、本件明細書の記載から、金属Si以外を原料として本件発明1に係る研磨用シリカ添加剤を作ることは困難であるといえたとしても、本件明細書の記載が、特許法第36条第4項1号実施可能要件を満たしていないとすることはできない。本件発明2?6についても同様である。

(2)同法第36条第6項第1号について
本件発明の課題は、本件明細書の【0006】の記載からみて、「表面粗さ、スクラッチ性を悪化させること無く、研磨速度に優れた研磨を達成することが出来る研磨用シリカ添加剤を提供すること」及び「それを含有してなる研磨スラリーを提供すること」と解することができる。
そして、本件発明1は、研磨用シリカ添加剤に関する発明に関し、粒子密度、比表面積及び粒子径50nm以上の粒子の平均球形度について特定したものであるところ、金属Si以外を原料とした場合に、粒子密度、比表面積及び粒子径50nm以上の粒子の平均球形度について、本件発明1の規定を満たすものが得られないという具体的根拠があるとは認められない。
そうすると、仮に、申立人の主張するように、金属Si以外を原料とした場合に、得られた研磨用シリカ添加剤について、「発明の課題」を解決できるか否か、当業者は本件明細書の記載から理解することができないとしても、本件明細書の記載が、特許法第36条第6項1号のサポート要件を満たしていないとすることはできない。本件発明2?6についても同様である。

(3)同法第36条第6項第2号について
本件発明1の「粒子径50nm以上の粒子の平均球形度が0.80以上であること」という発明特定事項は、「粒子径50nm以上の粒子」についての規定であって、粒子径の範囲について規定するものではない。
そして、本件発明1において、粒子径の範囲が規定されていないとしても、本件発明1が不明確なものとなる具体的根拠があるとは認められない。
したがって、本件請求項1の記載が、特許法第36条第6項2号明確性要件を満たしていないとすることはできない。本件請求項2?6についても同様である。

(4)まとめ
以上のとおり、申立人の特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1、2号に係る申立理由には、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2020-06-03 
出願番号 特願2015-177226(P2015-177226)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09K)
P 1 651・ 537- Y (C09K)
P 1 651・ 113- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 木村 敏康
川端 修
登録日 2019-08-16 
登録番号 特許第6570382号(P6570382)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 研磨用シリカ添加剤及びそれを用いた方法  

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