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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1363351
審判番号 無効2016-800117  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-09-30 
確定日 2020-04-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5893950号発明「化学療法誘導嘔吐を治療するためのパロノセトロン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5893950号の特許請求の範囲を平成30年 2月 1日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、4、6]、[2、7、8]、[3、9、10]、5について訂正することを認める。 特許第5893950号の請求項5に係る発明の特許についての特許無効審判請求は、却下する。 特許第5893950号の請求項1?4、6?10に係る発明の特許についての特許無効審判請求は、成り立たない。 審判の費用は、参加によって生じた費用を含めて、請求人及びその参加人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5893950号は、平成15年11月 6日(パリ条約による優先権主張 平成14年11月15日 米国(US))を国際出願日として出願された特願2004-553037号の一部を、平成24年 2月20日に新たな特許出願として出願され、平成28年 3月 4日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人から、平成28年 9月30日付け審判請求書によって、本件特許の全ての請求項1?6に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判が請求された。そして、被請求人は、平成29年 3月 6日付けで答弁書、及び訂正請求書を提出して訂正を求めた。また、請求人から、平成29年 5月11日付けで弁駁書が提出された。
そして、被請求人は、平成29年 9月12日付け口頭審理陳述要領書を、また、請求人は、平成29年10月10日付け口頭審理陳述要領書を提出し、平成29年 10月24日に行われた第1回口頭審理において、請求人、被請求人各々により、第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされた。被請求人は、平成29年10月26日付けで上申書を提出した。
当合議体は、平成29年11月17日付けで審決の予告により、平成29年 3月 6日付け訂正請求は認められない、本件特許の請求項2に係る発明の特許についての特許無効審判請求は却下する、同請求項1、3?6に係る発明の特許を無効にする旨を通知した。
これに対し、被請求人は、平成30年 2月 1日に、上申書、及び訂正請求書(第2回)を提出して訂正を求めた(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」、この訂正請求書を「本件訂正請求書」という。)。
そして、当合議体より、平成30年 3月 6日付けで、被請求人の提出した、上記書面の副本を送付したところ、請求人より、平成30年 4月11日付けで弁駁書(第2回)(以下、この弁駁書を「本件弁駁書」ともいう。)が提出された。
その後、平成30年10月15日に参加申請書(高田製薬株式会社)が提出され、平成30年12月10日付けで、参加許否の決定がなされた。

2.訂正請求
前記1に記載のとおり、本件訂正請求がなされたので、平成29年 3 月 6日付けの訂正請求は特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。
そして、本件訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容は、それぞれ以下のとおりのものである。

2-1.訂正請求の趣旨
特許第5893950号の設定登録時の特許請求の範囲(以下、「本件特許請求の範囲」という。)を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求める。

2-2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(8)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の最初のパラグラフに「注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物」とあるのを「注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の最初のパラグラフに「注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物」とあるのを「注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」に限定する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1に記載の」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「前記パロノセトロンが」とあるのを「前記パロノセトロンまたはその医薬として許容された塩が」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1又は4に記載の」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲に請求項4及び6に対応する請求項7及び8を新たに加える。当該新たに加える請求項7及び8は、それらが従属する請求項の番号以外は、それぞれ、請求項4及び6と同一である。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲に、請求項4及び6に対応する請求項9及び10を新たに加える。当該新たに加える請求項9及び10は、それらが従属する請求項の番号以外は、それぞれ、請求項4及び6と同一である。

2-3.訂正の適否の判断
2-3-1.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
(1)訂正事項1、2について
訂正事項1、2に係る訂正は、各々、請求項1、3の注射用液体医薬組成物におけるパロノセトロンの濃度を「0.01?0.2mg/ml」とすることを求めるものである。

ア 特許第5893950号の設定登録時の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には、注射用液体医薬組成物におけるパロノセトロン又はその医薬として許容される塩の濃度について以下の記載がある。

(ア)「【0016】
・・・
・ また、パロノセトロンの効力は、減少した濃度における薬剤の処方を可能とする。パロノセトロンはより低い濃度において最も安定であることが見出されたので、この利点はパロノセトロンの処方において特に有意である。・・・」

(イ)「【0036】
パロノセトロンの必要なより低い投与量の特に驚くべき利点は、パロノセトロンの濃度が減少するにつれて、溶液中のパロノセトロンの安定性が増加するという事実に由来する。こうして、このパロノセトロンの効力のために、広い範囲のパロノセトロン濃度、好ましくは約0.01 mg/ml?約0.20 mg/mlのパロノセトロン、最も好ましくは約0.05 mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる安定な組成物に処方することができる。こうして、1つの特定の態様において、パロノセトロンは5 mlの溶液を含んでなるアンプルで供給され、ここでこの量は約0.05 mg/mlの濃度における約0.25 mgのパロノセトロンに等しい。」

イ 当審の判断
上記(イ)に摘示した本件特許明細書の記載によれば、本件特許明細書には、溶液中のパロノセトロンの濃度として、約0.01 mg/ml?約0.20 mg/mlのパロノセトロンが好ましいことが記載されている。
したがって、訂正事項1、2に係る訂正は、本件特許明細書の記載の範囲内においてするものであるといえる。
また、訂正前の請求項1、3には、パロノセトロンの濃度についての規定はないが、注射用液体医薬組成物において、その成分であるパロノセトロンがなんらかの濃度で存在していることは当然であるといえるから、訂正事項1、2に係る訂正は、請求項1、3において、特定されていないパロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlという特定の範囲に限定したものであるといえる。
請求人は、本件訂正請求は、訂正前の「嘔吐を抑制或いは軽減する注射用液体医薬組成物」の提供を目的とした発明から、「パロノセトロンの貯蔵安定性を改善した注射用液体医薬組成物」の提供を目的とした発明へと、発明の目的を変更するものであるから、発明を実質上変更するものに当たる、と主張する。
しかしながら、請求人の主張する、パロノセトロンの貯蔵安定性の改善は、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlという特定の範囲に限定したことによるものであるものの、当該限定を付しても、「嘔吐を抑制或いは軽減する注射用液体組成物」の提供という発明の目的は、何ら変更されていないから、請求人の上記主張は採用できない。
なお、平成 7年 7月 1日以降の出願に係る特許については、発明の詳細な説明に発明の目的が必要的記載事項でなくなったことに鑑み、従来の「具体的目的内の減縮」でなくてはならないという考え方は採られなくなっている。
以上のとおりであるから、訂正事項1、2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項4と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、請求項の削除を求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項5について
訂正前の請求項6の「前記パロノセトロンがパロノセトロン塩酸塩として存在する」との記載は、それ自体不明瞭な記載であり、また、「パロノセトロン塩酸塩」は、引用請求項である請求項1の、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩」との記載のうち、「その医薬として許容される塩」の下位概念に相当することは明らかであるといえる。
よって、この訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項6について
訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6と先行請求項との引用関係を一部解消し、引用請求項の数を減少することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項7について
訂正事項7に係る訂正は、請求項2を引用する訂正前の請求項4を新たに、請求項2を引用する請求項7とし、また、請求項2又は4を引用する訂正前の請求項6を新たに、請求項2又は7を引用する請求項8とするものである。よって、この訂正は、引用関係を一部解消し、一つの請求項の記載を、引用請求項の数を減少した二つの請求項に変更することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項8について
訂正事項8に係る訂正は、請求項3を引用する訂正前の請求項4を新たに、請求項4を引用する請求項9とし、また、請求項3又は4を引用する訂正前の請求項6を新たに、請求項3又は9を引用する請求項10とするものである。よって、この訂正は、引用関係を一部解消し、一つの請求項の記載を、引用請求項の数を減少した二つの請求項に変更することを求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?6は、請求項4?6が先行する全ての請求項を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

2-3-2.むすび
したがって、上記訂正請求書による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第3項、及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するので、訂正後の請求項1?10について訂正することを認める。。
訂正事項3、6に係る訂正は、引用関係の一部解消を目的とする訂正であって、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、引用関係の一部解消を目的とする訂正事項3、6が認められる場合は、[1、4、6]、[2、7、8]、[3、9、10]を別の訂正単位として取り扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項[1、4、6]、[2、7、8]、[3、9、10]、5について訂正することを認める。

3.本件訂正発明
上記訂正の結果、本件特許第5690461号の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、順に、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明10」という。)。

【請求項1】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前10時間より短い時間内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
削除
【請求項6】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項1又は4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項2又は7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項3又は9に記載の医薬組成物。

4.当事者の主張、及び、提出した証拠方法
4-1.請求人側の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法
請求人は、平成30年 4月11日付け弁駁書(第2回)において、平成30年 2月 1日付け訂正請求書による訂正は適法でないと主張し、たとえば、本件訂正発明1?4、6?10と甲号証記載の発明との対比、検討に基づくいわゆる新規性進歩性についての主張を行っていないなど、本件訂正発明1?4、6?10について、各無効理由と対応させた上での主張を行っていない。
しかし、上記訂正請求が適法なものとして認められたことは上記説示のとおりである。そこで、以下においては、訂正前後の請求項の対応関係等も踏まえ、本件訂正発明1?3に対して本件特許発明1?3についてした主張を、本件訂正発明4、7及び9に対して本件特許発明4についてした主張を、また、本件訂正発明6、8及び10に対して本件特許発明6についてした主張を行っているものとして検討する。

請求人が提出した審判請求書、平成29年 5月11日付け弁駁書、平成29年10月10日付け口頭審理陳述要領書、及び平成30年 4月11日付け弁駁書(第2回)によれば、請求人は、本件訂正発明1?10についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1?5を主張し、証拠方法として、甲第1号証?甲第27号証(以下、各々、「甲1」、「甲2」・・・「甲27」と表記する場合がある。)を提出している。

(無効理由1)
本件訂正発明1?10は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1?10に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由2)
本件訂正発明1?10は、甲第1号証に記載された発明、及び周知技術に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1?10に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由3)
発明の詳細な説明には、本件訂正発明1?10を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないことから、本件訂正発明1?10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1?10に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由4)
本件訂正発明1?10は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件訂正発明1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1?10に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(無効理由5)
本件訂正発明1?10は、明確でないから、本件訂正発明1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件訂正発明1?10に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(証拠方法)
甲第1号証:Proceedings of American Society of Clinical Oncology, Vol.21, p.371a, 左上欄, Abs.1480, 2002年5月20日
甲第2号証:Evaluate(TM),MGI PHARMA Reports 2002 Second Quarter Results,インターネット記事,2002年 7月17日,[2016.9.23検索](http://www.evaluategroup.com/Universal/View.aspx?type=Story&id=28687)
甲第3号証:国際公開第2004/045615号
甲第4号証:甲第1号証と甲第3号証の各記載の対比表
甲第5号証:原出願(特願2004-553037号)に係る平成26年11月13日付け意見書
甲第6号証:平成26年2月28日付け誤訳訂正書
甲第7号証:平成26年2月28日付け意見書
甲第8号証:平成27年4月21日付け意見書
甲第9号証:平成27年11月6日付け拒絶査定不服審判請求書
甲第10号証:原出願(特願2004-553037号)に係る平成26年5月1日付け拒絶理由通知
甲第11号証:特開平3-176486号公報
甲第12号証:「慶應義塾大学信濃町メディアセンター/図書館について/建物・沿革」のHP、http://www.med.lib.keio.ac.jp/about/history.html)
(以上、審判請求書に添付。)
甲第13号証:Current Opinion in Investigation Drugs, 2002, 3(10): 1502-1507
甲第14号証:Proceedings of American Society of Clinical Oncology, Vol.21 no.449, 2002
甲第15号証:International Journal of Pharmaceutics 121, p.95-105, 1995
甲第16号証:TANG, J. et al., ANESTHESIA & ANALGESIA, 1998, Vol. 87, No.2, p.462-467
(以上、弁駁書に添付。)
甲第17号証:安定性試験ガイドラインについて(平成6年4月21日薬新薬第30号 各都道府県衛生主管部(局)長あて 厚生省薬務局新医薬品課長通知)
甲第18号証:平成3年2月15日薬審第43号「医薬品の製造(輸入)承認申請に際して添付すべき安定性試験成績の取り扱いについて(通知)」
甲第19号証:安定性データの評価に関するガイドラインについて(平成15年6月3日、医薬審発第0603004号)
甲第20号証:「安定性データの評価に関するガイドライン(案)」について(平成14年6月7日 大薬協発第196号)
甲第21号証:「注射薬調剤」、162頁?167頁、矢後和夫監修、平成14年3月31日、株式会社じほう
甲第22号証:「プレフォーミュレーションと薬物物性試験」、267頁?271頁、後藤茂編集、医薬品の開発、16巻、平成2年1月15日、株式会社廣川書店)
甲第23号証:Proceedings of ASCO, Volume 20, 2001 p400a, 1595
甲第24号証:British Journal of Pharmacology, 114, p860-866, (1995)
甲第25号証:平成23年12月5日付け不服2006-27319号審決
(以上、口頭審理陳述要領書に添付。)
甲第26号証:特許第5551658号に係る平成25年11月14日付け意見書に添付された参考資料3の訳文(抜粋)
甲第27号証:特許・実用新案審査基準第II部第2章第2節サポート要件
(以上、弁駁書(第2回)に添付。)
なお、参加人 高田製薬株式会社は、無効理由について特段の主張はしていない。

4-2.被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人は、訂正の請求を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、請求人の本件特許が無効であるとの主張には理由がない旨を主張し、証拠方法として、乙第1号証の1?乙第9号証(以下、各々、「乙1の1」、「乙1の2」・・・「乙9」と表記する場合がある。)を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証の1:Preformulation Book(1993年2月)及びその訳文
乙第1号証の2:FDAに提出されたパロノセトロン塩酸に関するDMF(提出日2013年7月19日)及びその抄訳
乙第2号証の1:Daniele Bonadeoのデクラレーション及びその訳文
乙第2号証の2:実験成績証明書(報告日平成29年2月28日)
乙第3号証の1:M. Saito, et al. Oncology, Vol.10, February 2009, p.115-124及びその抄訳
乙第3号証の2:ルーベン ギオルギノ博士のデクラレーション及び訳文
乙第3号証の3:P. Eizenberg et al., CANCER, December 1, 2003, Vol.98, No.11, p.2473-2482
(以上、答弁書に添付。)
乙第2号証の3:乙第2号証の2の修正版
乙第4号証:平成21年(行ケ)第10238号(平成22年7月15日判決)
乙第5号証:知財高裁の平成21年(行ケ)第10033号判決(判決日平成22年1月28日)
乙第6号証:知財高裁の平成17年(行ケ)第10042号判決(判決日平成17年11月11日)
乙第7号証:抗嘔吐剤ZOFRAN注射剤の添付文書(PRODUCT INFORMATION)及びその抄訳(発行日:1999年10月)
乙第8号証:抗嘔吐剤ANZEMET注射剤の添付文書(Prescribing Information)及びその抄訳
(以上、口頭審理陳述要領書に添付。)
乙第9号証:HIGHLIGHTS OF PRESCRIBING INFORMATION及びその抄訳
(以上、平成29年10月26日付け上申書に添付。)

5.証拠の記載事項
5-1.甲号証の記載事項
甲第1号証、甲第6号証、甲第7号証、甲11号証、甲第13号証?甲第17号証、甲第21号証、甲第23号証、及び甲第24号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。

甲第1号証
(摘示事項1A)
表紙
慶応義塾大学医学メディアセンター受け入れ印(2002年7月8日付け)の記載がみられる。

(摘示事項1B)
1?12行
「1480 一般ポスター 月曜日、午前8時-午後12時
高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導される悪心および嘔吐を防止する単一静脈内用量のパロノセトロンを評価するためのフェーズ第2相用量範囲の研究
A.マッチオッチ,(中略),ヘルシン ヘスルケア SA,ルガーン スイス国,(以下略))


パロノセトロンは、強い結合親和性を有する、強力で高度に選択的な5-HT3レセプターアンタゴニストである。先の第1相試験において、パロノセトロンは、約40時間の半減期を示した。
ランダム化二重盲検マルチセンター用量範囲第2相臨床試験を実施して、0.3?90mcg/kgの範囲にわたるパロノセトロンの単一静脈内用量の間における用量反応関係を確認した。」

(摘示事項1C)
12?32行
「方法:一般に遅延嘔吐に関係付けられる、シクロホスファミド(>1100mg/m2)およびシスプラチン(>70mg/m2)を含む高度に嘔吐発生性の化学療法を受けた患者を、パロノセトロンの単一静脈内投与の5投与量群の1つに割り当てた。化学療法投与の30分前に、パロノセトロンを単独で(デキサメタゾンを使用しないで)30秒の静脈内注射として投与した。主要評価項目は24時間の完全な応答(嘔吐なし、レスキューなし)(CR)であった。副次的評価項目は完全な抑制(嘔吐なし、レスキューなし、軽度の悪心)(CC)および5日のCRを含んだ。
安全性及び効能評価は、パロノセトロン投与後の最初の24時間とその後の6日間の患者日記において記録された。
結果:161人の患者(32人の女性、129人の男性)が参加した。主要な効能パラメーターおよび結果を下記表に要約する。悪い事象の大部分(83.9%)は軽度または中程度であり、そして投薬の研究に起因しなかった(86.0%)。
投薬の研究に関係づけられる通常報告される悪い事象は下記のものを含む:頭痛(19.3%)、便秘(8.7%)、眩暈感(2.5%)および異常な疼痛(2.5%)。薬剤に関係する重大な事象は報告されなかった。
結論:これらの患者において、パロノセトロンは、急性嘔吐の治療において安全かつ有効であったこと、活性を5日目に至るまで維持したこと、そして、第3相試験におけるさらなる検証を正当化することを、結果は示している。」

(摘示事項1D)
33行?最終行
投与量による応答者%




甲第6号証
(摘示事項6A)
1頁下から2行?2頁12行
「【訂正の理由等】
1.外国語(英語)明細書の第7頁第26?28行目には、「emesis」、「vomiting」、「nausea」及び「retching」なる用語が記載されており、英文明細書のこの部分の記載に対応する本願明細書の段落〔0025〕の最終文章には、「emesis」が『嘔吐』と訳され、「vomiting」も『嘔吐』と訳され、「nausea」が「悪心」と訳され、そして「retching」が『むかつき』と訳されており、その結果「emesis」及び「vomiting」がいずれも同じ用語である『嘔吐』と訳されており、意味が不明瞭で誤訳となっています。
英文明細書の上に引用した部分の記載ら明らかなとおり、本願の目的に関する限り、「emesis」は、「vomiting」、「nausea」及び「retching」を含む上位概念であり、「emesis」と「vomiting」とは異なります。
上記の関係を明確にするため、「emesis」を『嘔吐(emesis)』と、「vomiting」を『嘔吐(vomiting)』と、「nausea」を『悪心(nausea)』と、そして「retching」を『retching」を『むかつき(retching)』と、それぞれ、英語をカッコ書きで付すことにより誤訳訂正します。」

甲第7号証
(摘示事項7A)
2頁8行?26行
「(3)本願発明
(イ)本願発明は、パロノセトロンにより、化学療法により惹起される「悪心(nausea)、嘔吐(vomiting)及びむかつき(retching)を治療すること、特に「悪心(nausea)」を治療することを特徴としています。
なお、この意見書と共に提出する誤訳訂正書の「訂正の理由等」の項目でご説明致したとおり、また、明細書の段落〔0025〕の最終段落に記載されているとおり、本願発明に関する限り、『嘔吐(vomiting)』、『悪心(nausea)』及び『むかつき(retching)』を包含する上位概念として嘔吐(emesis)なる語が使用されており、本願発明の治療の対象となる症状は、『嘔吐(vomiting)、悪心(nausea)及びむかつき(retching)』であり、引用文献との関係で特に重要なのは「悪心(nausea)」です。
(ロ)本願発明を支持する実施例5には、「完全奏功」(Complete Response)(CR)に関して、悪心(nausea)に対して有効であった旨の明示の記載は存在しませんが、少なくとも、「完全抑制」(Complete Control)(CC)に関し、悪心(nausea)が軽度となったことが記載されており、高度に嘔吐発生性の化学療法からの「悪心」に対して、パロノセトロンが有効であったことが、明示的に記載されています。
なお、段落〔0070〕には、完全奏功(CR)及び完全抑制(CC)の何れにも「レスキューなし」なる記載が存在しますが、「レスキュー」とは、被験物質の効果が不十分で被験患者が苦痛を感じた場合に患者を救斉(レスキュー)するために被験物質以外の薬物を投与することを意味し、「レスキューなし」とは、パロノセトロンが十分に有効であったために、上記の意味での「レスキュー」が必要でなかったことを意味します。」

甲第11号証
(摘示事項11A)
特許請求の範囲
「(1)式(I)




・・・
(24)R^(3)が、
1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-3-イル、
1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-4-イル、
エンド-9-メチル-9-アザビシクロ[3.3.1]ノナ-3-イル、
エンド-8-メチル-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル、
エキソ-8-メチル-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル、または
エンド-1-アザビシクロ[3.3.1]ノナ-4-イル
である、請求項23記載の化合物。
(25)nが1である、請求項24記載の化合物。
(26)nが2である、請求項24記載の化合物。
(27)R^(3)が1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-3-イル、すなわち2-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-3-イル)-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1-オン特にその(3aS,3’S)異性体およびその塩酸塩である、請求項26記載の化合物。
(28)nが3であり、pが0、1または2であり、qが0であり、R^(1)がハロゲン、低級アルコキシまたはアミノであり、R^(3)がR^(4)およびR^(5)を含む場合それらは各々低級アルキルである、請求項1記載の化合物。
・・・
(32)好ましくは医薬的に許容し得る賦形剤と組み合わせた形で請求項1?31または40?43記載の化合物の治療有効量を含む医薬組成物。
(33)処置を必要とする動物における、おう吐、胃腸疾患、CNS疾患、心臓血管疾患およびとう痛から選ばれた状態の処置方法であって、前記動物に請求項1?31または40?43記載の化合物または請求項32記載の組成物の治療有効量を投与することを含む方法。
・・・
(38)おう吐誘発に充分なレベルでの細胞毒性薬剤または放射線を用いた癌の処置を受けているひとにおけるおう吐の処置方法であって、前記ひとに請求項1?31または40?43記載の化合物または請求項32記載の組成物の抗おう吐量を投与することを含む方法。
・・・」

(摘示事項11B)
8頁左下欄1行?右下欄5行
「「医薬的に許容し得る塩類」は、所望の薬理活性を有し、生物学的またはその他の点で許容される塩類を包含する。それらの塩類には、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、燐酸など、または有機酸・・・などにより形成された酸付加塩類がある。好ましい医薬的に許容し得る塩類は、塩酸により形成された塩類である。」

(摘示事項11C)
14頁左下欄6行?右下欄末行
「(投与および医薬組成物)
この発明の化合物は、単独またはこの発明の別の化合物もしくは別の治療剤と組み合わせた形で、当業界で周知の許容され得る常用方法のいずれかにより投与され得る。一般に、この発明の化合物は、医薬的に許容し得る賦形剤と組み合わせた医薬組成物として投与され、経口的、全身的(例、経皮的、経鼻的または架剤による)または非経口的(例、筋肉内[im]、静脈内[iv]または皮下的[sc]に投与される。すなわち、この発明の化合物は、後述されている通り、半固体、粉末、エアロゾル、溶層、懸濁夜である組成物または他の適当な組成物で投与され得る。
医薬組成物は、式(I)(ただし、各置換基は前記の意味を有する)で示される化合物を、好ましくは医薬的に許容し得る賦形剤と組み合わせた形で含む。前記賦形剤は、非毒性であり、この発明の化合物の投与において補助的に作用するものである。前記賦形剤は、一般に当業界の熟練者に利用可能であり、有効成分の活性に悪影響を与えない固体、液体、半固体、気体(エアロゾルの場合)賦形剤であればよい。
一般に、この発明の医薬組成物は、治療有効量の化合物を少なくとも1種の賦形剤と組み合わせて含有する。製剤のタイプ、単位用量のサイズ、賦形剤の種類および製薬科学分野の熟練者に知られた他の因子により、この発明の化合物の量は、組成物中で広い範囲にわたって変化し得る。一般に、最終組成物に含まれるこの発明の化合物の割合は約0.001重量%?約99.5重量%であり、残りは賦形剤(複数も可)である。好ましくは、活性化合物のレベルは、約0・01重量%?約10.0重量%および最も好ましくは約0.1重量%?約1.0重量%であり、残りは適当な賦形剤(複数も可)である。」

(摘示事項11D)
31頁左上欄16行?右上欄6行
「(3aS、3’S)-2-(1-アザビシク[2.2.2]-オクタ-3-イル)-2,3,3a、4,5,6-ヘキサヒドロ-IH-ベンゾ[de]イソキノリン-1-オンおよび(3aR,3’S)-ジアステレオマーのHCI塩が沈澱した。エタノールから2回再結晶化すると、(3aS 、 3°S)-ジアステレオマーの純粋なHCI塩[化合物M(HCl)]が得られた、mp296-297℃、[α]_(D) -98(c0.5、H_(2)O収量6グラム)。遊離塩基(化合物M)は、87-88℃の融点、[α]_(D) -136°(c0.25、クロロホルム)を有する。」

(摘示事項11E)
34頁左上欄下から3行?左下欄末行
「実施例13
ケナガイタチにおけるシスプラチン誘発性おう吐。
この試験は、ケナガイタチにおけるシスプラチン誘発性おう吐に対する、静脈内投与された場合の式(1)で示される化合物の効果を示す。
試験期間の前および期間中共に雄の成熟去勢ケナガイタチに対し無制限に食物および水を与える。各動物を無作為に選択し、メトファン/酸素混合物により麻酔し、秤量し、3つの試験群の一つに割り当てる。麻酔中、腹部頚部領域に沿って長さ約2?4cmの切開を行う。次いで、頚静脈を摘出し、続いて蓋を取り付け、食塩水を満たしたPE-50ポリエチレン管によりカニューレを挿入する。カニューレを頭蓋骨の基部から体外に出し、創傷クリップで切り口を閉じる。次いで、動物をケージに戻し、賦形剤(1.0ml/kg)または試験化合物(1.00mg/kg)の静脈内(iv)投与の前に麻酔から回復させる。試験化合物投与(静脈内)の2.0分以内に、静脈内用量のシスプラチン(10mg/kg)を与える。次いで、動物を5時間(服用後)観察し、おう吐反応(すなわち、おう吐および/または吐き気)を記録する。この実施例および実施例16の意図としては、おう吐(vomiting)は、胃内容物の連続的排出として定義されるが、1回の吐き気症状の発現は、急速で連続的なおう吐努力(1分間以内)として定義される。この観察期間の最後に、各動物を致死的バルビツール剤注射により安楽死させる。
おう吐反応は、(1)おう吐開始までの時間、(2)全部のおう吐症状の発現および(3)全部の吐き気症状の発現として表される。試験群の平均および標準偏差を、レファレンス群の場合と比較する。
単一処置群を賦形剤対照と比較するときはスチューデントのt-試験により、または複数の処置群を単一賦形剤の場合と比較するときはデュネットの比較分析により有意性を測定する。
下記結果が示す通り、静脈内投与された式(1)の化合物は、この検定において抗おう吐性を示す。




甲第13号証
(摘示事項13A)
1502頁左欄タイトル?右欄12行
「パロノセトロン ヘルシン
・・・
合成及び構造活性相関
・・・パロノセトロンは他の5-HT_(3)アンタゴニストのようにラセミ体として存在するのでなく、むしろ単一の光学異性体として存在する。・・・

薬効薬理
パロノセトロンは、一連のin vitro試験において有望な、選択的5-HT_(3)受容体アンタゴニストであることが示された[173464]。取り出されたモルモット回腸の5-HTへの収縮反応を仲介する5-HT_(3)受容体において、4つのエナンチオマー、パロノセトロン(S,S)、RS-25259-198(R,R)、RS-25233-197(S,R)、及びRS-25244-198(R,S)の5-HT_(3)受容体に対する親和性が試験された。

主催者 ロシュ バイオサイエンス
実施権者 ヘルシン ヘルスケア SA, MGIファーマ・インク
ステータス 第3相臨床
症状 嘔吐
作用 5-HT3拮抗薬、抗嘔吐
同義、類似物質 RS-25233-197,RS-25233-198,RS-25259-007,RS-25259-197,RS-25259-198,RS-42358,RS-42358-197,RS-42358-198
CAS 1H-ベンズ[de]イソキノリン-1-オン,2-(3S)-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクト-3-イル-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-モノヒドロクロリド
登録番号:135729-61-2,135729-62-3




(摘示事項13B)
第2相臨床試験、1503頁右欄下から8行?2行
「化学療法を受ける予定であり、それまで化学療法を受けたことがない、組織学的に証明された癌の患者37人において、パロノセトロンの単回投与(0.3、3、10、30及び90μg/kg)の薬物動態プロフィールを、無作為二重盲検研究で評価した[452078]。シスプラチン(>70mg/m^(2))またはシクロホスファミド(>1l00mg/m^(2))の初回投与の30分前に、パロノセトロンが静脈内投与された。」

(摘示事項13C)
第2相臨床試験、1503頁右欄下から2行?1504頁左欄8行
「注射後、最初の24時間、及び48、72、120及び168時間後、11の血液サンプルが採決され、そして、0.020ng/ml精度のバリデーションされたプラズマアッセイを使用して分析された。血漿濃度の曲線下面積は、投与量に比例して増加した。最大の血漿濃度に達した時間は、投与後8.6分から49.6分にわたり;最大の血紫濃度は0.880から336ng/mlであり;排出半減期は、43.7時間から128時間であり(すなわち、他の5-HT_(3)受容体拮抗薬の排出半減期よりも有意に長い)、・・・」

(摘示事項13D)
第3相臨床試験、1504頁左欄16行?20行
「この試験において、569人の患者は、中程度に嘔吐発生性の化学療法レジメンの投与の30分前に、パロノセトロン(0.25または0.75mgの静脈内投与)またはドラセトロン(100mg)の投与を受けた。」

(摘示事項13E)
第3相臨床試験、1504頁左欄25行?31行
「パロノセトロンの両用量についての遅延期間の完全応答率(24時間から120時間の期間内に、嘔吐を経験することなく、いかなるレスキュー薬も必要としなかった患者の割合)(低用量の場合の54%、高用量の場合の56.6%)は、ドラセトロンの遅延期間の完全応答率(38.7%)よりも有意に優れていた。」

(摘示事項13F)
1506頁右欄、参照番号「452078」
「452078 パロノセトロン. 高度に嘔吐発生性の化学療法を受けている患者において、パロノセトロンの単一用量薬物動態プロフィールを7日間の期間にわたって評価する第2相用量範囲研究。 ピラシーニ G、ギャラガー SC、マチオチ A PROC AM SOC CLIN ONCOL 2002 21 Abs 449
・化学療法を受ける予定である37人の癌患者における無作為二重盲検の平行グループ研究」

甲第14号証
(摘示事項14A)
タイトル、著者
「パロノセトロン:高度に嘔吐発生性の化学療法を受けている患者において、パロノセトロンの単一用量薬物動態学的性質を7日間の期間にわたって評価する第2相用量範囲研究。G.ピラシーニ、S.C.ギャラガー、A.マチオチ;ヘルシンヘルスケア SA、ルガーノ、スイス;MGIファーマ社、ブル-ミントン、ミネソタ州」

(提示事項14B)
5行?9行
「組織学的に癌であるとわかる、化学療法を受けたことのない、そしてシスプラチン(>70 mg/m^(2))あるいはシクロホスファミド(> 1100 mg/m^(2))の初期量を受けることが予定されている患者が試験に登録された。パロノセトロンは、化学療法の30分前に、30秒の静脈内投与で単回投与された。」

(摘示事項14C)
9行?12行
「薬物動態学的パラメータが、0.020 ng/mLの感度が確認された血漿の分析を使用して、7日間の期間にわたって0.3-1, 3,10, 30 あるいは90μg/kgの用量レベルで評価された。」

(摘示事項14D)
12行?13行
「11の血液サンプルが、投薬後最初の24時間と、48時間後、72時間後、120時間後、及び168時間後に、pk分析のために作成された。」

(摘示事項14E)
下から2行?末行
「血漿半減期(43.7?128時間)はこのクラスの他の化合物に比べて有意に長い。」

甲第15号証
(摘示事項15A)
95頁イントロダクション1行?10行
「RG12915(I)、即ち、N-[アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3(S)-イル]-2-クロロ-シス-5a(S)-9a(S)-5a,6,7,8,9,9a-ヘキサヒドロジベンゾフラン-4-カルボキサミドは、5-ヒドロキシトリプタミン_(3)は(5-HT_(3))受容体の非常に強力な拮抗薬である(Fitzpatrick et a1., 1990; Youssefyeh et a1., 1992a, b; Martin et al., 1993)。本薬は、化学療法薬によって誘発される嘔吐又はむかつきを軽減するので、化学療法を受ける患者のための制吐薬として開発されている。」

(提示事項15B)
95頁イントロダクション11行?18行
「水溶液中のRG12915は、多数の分解生成物を生じる光分解プロセス及び酸化分解プロセスを受けやすい。本研究は、本薬の分解生成物の単離及び同定について報告し、水溶液における光分解経路及び酸化分解経路を検討する。」

(摘示事項15C)
96頁スキーム1



(摘示事項15D)
102頁左欄17行?23行
「自己酸化の速度は基質濃度に比例することが述べられている(Bateman, 1954; Betts, 1971; Connors et al., 1986)。図4において定性的に示されるように、濃度が高いほど、速く酸化され、より低い百分率で横ばい状態になり、一方、濃度が低いほど、ゆっくり酸化され、より高い百分率で横ばい状態になる。」

(摘示事項15E)
102頁、図4



(摘示事項15F)
102頁左欄下から5行?3行
「分解に対するpHの影響を図5に示す。分解速度は、酸性度の増加と共に増加する。」

(摘示事項15G)
103頁、図5



甲第16号証
(摘示事項16A)
abstract 462頁 左欄1行?5行
「子宮摘出手術を受けた女性における術後悪心及び吐き気(PONV)の予防についての、強力で、長時間作用型の選択的5-HT_(3)受容体アンタゴニストであるRS-25259の安全性及び有効性を評価した。」

(提示事項16B)
abstract 462頁 左欄19行?右欄1行
「30μg/kg RS-25259のみが、吐き気の発生及び救済的な制吐剤の要求を有意に低下させた。」

(提示事項16C)
Methods 463頁 左欄24行?34行
「PONVの既往歴は、その後の手術後におけるPONVのリスク増大に関連するため(1)、患者を、PONVの既往歴に基づいて、全身麻酔後に、2つの階級の内の一方に割り当てた。各階級内で、患者を、6つの予防的処置群(プラセボ(生理食塩水)又は0.1、0.3、1.0、3.0、若しくは30μg/kg RS-25259)の内の1つにランダム化した。各用量の試験薬を、病院薬剤部により、総容量15mlの等張性塩化ナトリウム溶液に調製し、外科手術の終了前約20?30分に、30秒にわたって静注投与した。」

(提示事項16D)
464頁 Table 1



甲第17号証
(摘示事項17A)
3頁
「4 製剤の安定性試験
・・・
(2)長期保存試験及び加速試験
・・・
2)測定項目及び測定方法
丸付き数字1 測定項目としては,承認申請書の規格及び試験方法欄に設定する項目にとらわれることなく,保存により影響を受け易い項目,及び品質,安全性又は有効性に影響を与えるような項目を選定する。測定方法としては,バリデートされた測定方法を採用する。測定の繰返し回数(注1)は,分析法バリデーションの結果に基づき決定する。
丸付き数字2 測定項目には,化学的及び生物学的安定性のみならず,物理的性質及び特性,官能試験,保存剤の減少及び必要ならば微生物学的評価を含める(別記に例示)。保存剤を含む製剤では,保存剤の量又は効力を測定する。・・・」

(摘示事項17B)
最終頁
「別記
測定項目
承認申請書の規格及び試験方法欄に設定する項目のうち,保存により影響を受け易いと判断される項目のほか,医薬品の物性に関する変化,製剤特性に関する変化等安定性を検討するために有効な試験項目について行うことを原則とする。
長期保存試験,加速試験及び苛酷試験のそれぞれの目的に応じた試験項目について行う。
例えば,下記のような項目が挙げられる。
1)原薬については,含量(力価),分解生成物の量,性状,溶状,光学的純度等
2)製剤については,含量(力価),分解生成物の量,性状,製剤の有する特性等
3)製剤の剤形に応じて検討すべき項目の例
水分:錠剤,カプセル剤,散剤,用時溶解又は懸濁して用いる固形製剤等
溶出又は放出特性:錠剤,カプセル剤,懸濁剤,坐剤,経皮吸収剤等
pH:液状製剤,用時溶解又は懸濁して用いる固形製剤等
重量変化:プラスチック容器を用いた液剤又は半固形製剤等
粒度分布:懸濁剤,乳剤,吸入エアゾール剤等
粘度:乳剤等
溶出物:大容量注射剤等
不溶出微粒子:大容量注射剤等
粘着力:硬膏剤等
溶融温度:坐剤等
硬度:錠剤」

甲第21号証
(摘示事項21A)
164頁
「3 医薬品の安定性に及ぼす因子
医薬品の安定性に影響を及ぼす因子には,丸付き数字1温度,丸付き数字2光,丸付き数字3時間,丸付き数字4濃度,丸付き数字5溶解液,丸付き数字6pH,丸付き数字7その他(湿度,酸素量など)-等が考えられる。」

甲第23号証
(摘示事項23A)
「1595 一般ポスター 日曜日午後1:00?5:00
新規5-HT3受容体拮抗薬の薬物動態学的な特徴:
パロノセトロン (RS-25259-197)。・・・(中略)・・・
パロノセトロンは、動物モデルにおいて高い有効性を持つ、新規で強力な選択的 5-HT3受容体拮抗薬である。(1,2) それは、ニューロン活性化のカスケードを遮断することにより、中枢および胃腸部位において制吐作用を発揮する。 パロノセトロンによる治療は、即時性または長期に持続する制吐剤を必要とする、嘔吐発生性の化学療法を受ける患者か、外科手術を受ける患者を対象とする。 米国及び日本人患者にて行われた2つの第一相臨床試験である漸増試験は、0.1?90mcg/ kgの用量幅で静注投与されたパロノセトロンの薬物動態特性および安全性プロファイルを評価することを目的とした。 三つ目の試験は、血漿および尿中における[14C]-パロノセトロンの代謝および薬物動態プロファイルを決定するために、健康なボランティアで行われた。 これらの試験の結果は、パロノセトロンが血漿タンパクに適度に結合し(62%)、肝臓レベルで代謝され(50%)、そして一部は尿中で未変化体として検出された(42%)ことを示した。 パロノセトロンの薬物動態学的特性の重要な要素は、40 時間超(範囲24.0?64.2)の半減期(t1/2)を有することである。 一般に、パロノセトロンは、線形動態を示した。 この薬剤は十分な忍容性があり、用量に関連する有害事象(AEs)、または予期せぬ重大な有害事象は記録されなかった。 最も一般的な有害事象は頭痛や便秘で、概して軽度または中等度であった。 ヒトボランティアにおけるこれらの知見は、利用可能な治療法に関して有効性および長い作用持続時間の面で潜在的な治療上の利点を示唆している。
参考文献1. Wong EHF et al., British J Pharm,114:851-859,1995。
2. Eglen RM et al., British J Pharm,114:860-866,1995。」


甲第24号証
(摘示事項24A)
1頁 要約
「1 新規選択的5-HT_(3)受容体拮抗薬RS 25259-197のin vivoにおける薬理学的効果を検討した。
2 麻酔下のラットにRS 25259-197を静脈内投与、十二指腸内投与または皮内投与した結果、2-メチル5-HTによるベツォルド-ヤーリッシュ反射を用量依存的に阻害した。(ID_(50)=各0.04 μg kg^(-1)、i.v.、3.2 μg kg^(-1)、i.d.および32.8 μg/チャンバー)。十二指腸内投与した結果、RS 25259-197はオンダンセトロンやグラニセトロンよりも効果が高く、作用時間が長いことが示された。
3 意識下のフェレットにRS 25259-197を静脈内または経口投与した結果、シスプラチンによる嘔吐を用量依存的に阻害した。RS 25259-197のID_(50)の推定値は静脈内投与で1.1 μg kg^(-1)、経口投与で3.2 μg kg^(-1)であった。RS 25259-197はオンダンセトロンよりも効果が高く、グラニセトロンと同等であった。
4 意識下のイヌにRS 25259-197を静脈内または経口投与した結果、シスプラチン(ID_(50) =1.9 μg kg^(-1)、i.v.および8.5 μg kg^(-1)、p.o.)、ダカルバジン(ID_(50)= 4.1 μg kg^(-1)、i.v.および9.7 μg kg^(-1)、p.o.)、アクチノマイシンD(ID_(50)=4.9 μg kg^(-1)、i.v.および2.5 μg kg^(-1)、p.o.)ならびにメクロレタミン(ID_(50)=4.4 μg kg^(-1)、i.v.および3.0 μg kg^(-1)、p.o.)による嘔吐を用量依存的に阻害した。各催嘔吐性薬剤に対して、RS 25259-197はオンダンセトロンと比較して非常に効果が高かった。イヌにおいてシスプラチンによる嘔吐に対して同等用量にて試験した結果、RS 25259-197は鎮吐作用の持続時間がオンダンセトロンよりも長かった(それぞれ7時間と4時間)。最大1000 μg kg^(-1)の用量で経口投与した結果、RS 25259-197とオンダンセトロンのいずれもアポモルフィンによる嘔吐を阻害する作用は認められなかった。
5 最大100 μg kg^(-1)の用量で静脈内投与した結果、麻酔下のイヌにおいてRS 25259-197は意義のある血行動態変化を認めなかった。
6 要約すると、RS 25259-197はin vivoにおける選択的5-HT_(3)受容体拮抗薬である。鎮吐作用という点において、RS 25259-197は効果および作用時間でオンダンセトロンよりも有意な改善を認める。」

5-2.乙号証の記載事項
乙第1号証の1、乙第1号証の2、乙第2号証の1、乙第2号証の3、乙第3号証の1、乙第3号証の2、及び乙第3号証の3には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。

乙第1号証の1
(摘示事項乙1の1A)
表紙、吸湿性の項のB2-2
「RS-25259-197
RS-25259-007

予備処方に関して
・・・
吸湿性
実験
30?40mgのRS-25259-007(I相、ロット番号15303-28)及び12?18mgのRS-25259-007の一水和物の試料を正確に秤量し、軽量ボトルに入れ、すりガラスのふたをした。それらのボトルを、飽和塩溶液で一定相対湿度に保たれたチャンバー内に設置した。平衡に達するまで、試料を様々な時間間隔で秤量した。ある時間の、吸着・吸収された水分の百分率は次のように計算される。

%重量変化=〔(Wt-Wo)/Wo〕×100
(Wtは指示相対湿度に暴露後のある時間における試料の重量を示し、Woは試料の初期重量を示す)。

結果と考察
吸湿性の研究は遊離塩基のみについて行った。・・・

RS-25259-007の相Iにおける、水の吸脱着の結果を表B2-1に示す。・・・相対湿度93%では、試料の総水分量は1.7モル(9.4%)に達した。」

(摘示事項乙1の1B)
B2-3
表B2-1に、RS-25259-007の相Iの吸湿性
とのタイトルの下、相対湿度93% 時間1d 重量変化10.22% 総水分9.37% 総水分1.70モルであることが記載されている。

乙第1号証の2
(摘示事項乙1の2A)
1頁
「3.2.S.3.1 構造及びその他の特性の評価[パロノセトロン塩酸塩、ヘルシン・アドバンスト・シンセシス社]

目次
・・・
3.2.S.3.1.9.2 吸湿性 41頁」

(摘示事項乙1の2B)
41頁
「3.2.S.3.1.9.2 吸湿性
・・・パロノセトロンは82%RH以下では本質的に非吸湿性であることが分かった。75%RHで8日後、試料は0.2%の水を含んでいた。82%RHで8日後では、試料は0.5%の水を含んでいた。93%RHで4日後、前記化合物は0.6%の水を含んでいたが、8日後に潮解した。・・・」

乙第2号証の1
(摘示事項乙2の1A)
「・・・
7)・・・すべての我々の研究は、パロノセトロンの安定性が一般的に、パロノセトロンの濃度が低められるにつれて、改良し、そして、濃度が製品安定性の最も重要な決定因子であることを示す。
8)表1はリン酸緩衝された生理食塩水中、pH7.4で行われた我々の安定性試験結果を含んでいる。

表1.パロノセトロンHCl濃度-安定性研究(pH7.4、40℃)



9)見られるように、分子の安定性は、その濃度が下降するにつれて、この製剤においては改良し、そして最高の安定性が0.1mg/ml以下で見られた。我々は、下記により詳細に論じられるように。この同じ観察を他の研究において行った。
10)我々はまた、分子を配合する最良のpHを決定するためにpH-安定性研究を行った。この研究は、pH2.0,5.0,7.4及び10.0で緩衝された、60mg/mlのパロノセトロン水溶液により行われた。pH調節剤、pH緩衝液及びパロノセトロン以外、成分は存在しなかった。結果は表2に報告される。

表2.パロノセトロンHClの80℃でのpH-安定性研究



11)結果は、分子が60mg/mlのような低いパロノセトロン濃度で維持される場合、5.0のpHで非常に安定し、そして安定剤及び同様のものは、その安定性を維持するために不必要であることを示す。

12)我々はまた、安定性に対する種々の賦形剤の項かを評価し、そして安定性をさらに改良するために、追加の研究を実施した。

13)実際の理由のために配合についてのマンニトール及びクエン酸緩衝液を設定した後、我々は、訳5.0でpHを一定に維持し、そして同じ等張液(マンニトール)及び緩衝液(クエン酸三ナトリウム)を保持しながら、安定性に対するパロノセトロン及びEDTAの効果を研究した。安定性は、促進された安定性試験の標準条件(すなわち、40℃)下で、1,2,3及び6ヶ月で分解されないまま存続するパロノセトロンの百分率に基づいて測定された。

14)結果は、下記表3に報告される。



・・・
15)それらの結果からの1つの顕著な観察は、EDTAの存在が低パロノセトロン濃度で安定性を改良するが、しかし、実際、高パロノセトロンHCl濃度で安定性を低めることである。
・・・」

乙第2号証の3
(摘示事項乙2の3A)
p1 下から4行?p2 4行
「3.実験方法
0.015mg(パロノセトロンとして)/ml濃度のパロノセトロン塩酸塩の注射用溶液3ロット(ロット番号A、B及びC)、並びに0.15mg(パロノセトロンとして)/ml濃度のパロノセトロン塩酸塩の注射用溶液3ロット(ロット番号D、E及びF)を25℃±2℃で相対湿度60%±5%の条件下で、36箇月間貯蔵し、貯蔵開始時、3箇月後、6箇月後、9箇月後、12箇月後、18箇月後、24箇月後、及び36箇月後に、性状観察、pH測定、及びパロノセトロンの含量測定を行った。」

(摘示事項乙2の3B)
p2 6行?24行
「4.実験条件等
(1)ロット番号A、B及びC、並びにロット番号D、E及びFに関し、パロノセトロン以外の添加物の種類、及び100ml当りのそれら量は下記のとおりである。






(摘示事項乙2の3C)
p3 6行?p4 末行
「5.結果を下記の表に示す、pH測定は3回行い、その結果を平均値で示す。パロノセトロンの含量は3回測定し、名目濃度0.015mg/ml(100%とする)及び名目濃度0.15mg/ml(100%とする)に対する比率(%)として表示し、平均値で示す。下記の表中、性状を示す「a」は無色透明を示し、「Palo」はパロノセトロンの測定結果を示す。














(摘示事項乙2の3D)
p5 1行?4行
「6.結果
以上のとおり、注射用溶液中のパロノセトロンは、0.015mg/ml及び0.15mg/mlの濃度において、少なくとも36箇月にわたり、含量低下は認められず非常に安定であった。」

乙第3号証の1
(摘示事項乙3の1A)
サマリー 方法の項
「方法
高度に嘔吐発生性の化学療法(すなわち、シスプラチンまたはアントラサイクリンとシクロホスファミドの併用[AC/EC])を受けた1143名のがん患者を75箇所の日本の機関で2006年7月5日から2007年5月31日の間試験を行った。患者を無作為に分類し、第1日目の化学療法30分前に単一用量のパロノセトロン(0.75mg)またはグラニセトロン(40μg/kg)のどちらかを投与した。それぞれデキサメタゾン(16mg静脈内)も第1日目に投与し、さらに追加で第2または3日目も(8mg:シスプラチンを投与された患者に対し静脈注射で、又は4mg:AC/ECを投与された患者に対して経口で)投与した。・・・主な評価項目は、急性期間中の完全治癒患者(定義は、嘔吐症状がなく、レスキュー薬の使用もない患者)の比率(化学療法後0?24時間;グラニセトロンに対しての非劣性比較)、および遅延期間中の完全治癒患者の比率(化学療法後24?120時間;グラニセトロンに対しての優性比較)である。・・・」

(摘示事項乙3の1B)
図2に、完全治癒の時間経過(24時間毎)について、0-24、24-48、48-72、72-96、96-120時間(h)の、完全治癒(%)が、パロノセトロンについては、75.3、71.7、73.3、71.9、79.3%であり、グラニセトロンについては、73.3、66.9、65.1、61.9、71.2%であることが記載されている。パロノセトロンとグラニセトロンとの差の95%信頼区間は0より大きく、48-72、72-96、及び96-120時間におけるパロノセトロンの優位性が示されているとの記載がある。

乙第3号証の2
(摘示事項3の2A)
「ルーベン ギオルギノ博士の宣誓書

・・・
3.私は、「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導される悪心および嘔吐を防止する単一静脈内用量のパロノセトロンを評価するための第2相用量範囲の研究」と題するProceedings of American Society of Clinical Oncology, Vol.21(2002)の要約番号1480を吟味した。
・・・
7.該要約は、遅延期(2日から5日)の24時間毎の効能の結果を報告していない。」

乙第3号証の3
(摘示事項乙3の3A)
タイトル
「薬理学的に新規な5-HT_(3)受容体アンタゴニストであるパロノセトロンを用いた中程度に嘔吐発生性の化学療法により誘導される悪心及び嘔吐の改善された防止 ドラセトロンとの対比、単回用量第3相試験結果」

(摘示事項乙3の3B)
要約
「・・・
方法:現在の研究では、中程度に嘔吐発生性の化学療法を受ける30分前にパロノセトロン0.25mg、パロノセトロン0.75mg、またはドラセトロン100mgの単回、静脈内投与を受ける592人の患者が無作為化された。主要評価項目は、化学療法後最初の24時間に完全応答(CR;嘔吐症状なし、及びレスキュー薬なしと定義される)の患者の割合であった。副次的評価項目には、遅延性嘔吐の防止評価(化学療法後2?5日)が含まれた。
・・・
結論:パロノセトロンの単回投与は、中程度に応答発生性の化学療法後の急性CINVを防止することにおいてドラセトロンの単回投与と同程度に有効であり、遅延CINVにおいてドラセトロンより優れており、全ての治療群に匹敵する安全性プロフィールを有した。」

(摘示事項乙3の3C)
2478頁 副次的評価項目
「遅延した期間(24?120時間)及び全体の期間(0?120時間;表4図1)の間に、パロノセトロンの両用量について、ドラセトロンと比較して有意に高いCR率が観察された。各日の遅延CINVのCR率の比較は、パロノセトロンの両用量については2日目及び3日目において、また、パロノセトロン0.75mg用量については4日目において、ドラセトロンと比べて高い率を示した。
・・・
パロノセトロン0.25mgについては1、2、及び5日目にドラセトロンと比較して嘔吐症状のない患者の割合が高く、2、3日目に高かった(図2)。悪心のない患者の割合も、パロノセトロン両用量群については2、3日目において(P<0.05)、パロノセトロン0.75mgについては4日目も有意に高かった(図3)。
・・・」

6.当合議体の判断
当合議体は、以下のとおり判断する。
本件訂正発明5は、訂正により削除されたので、本件特許発明5の特許についての特許無効審判請求は不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。
本件訂正発明1?4、6?10の特許は、無効理由1?5によって無効にすべきものであるとはいえない。
その理由は、以下のとおりである。

6-1.無効理由1、2について
(1)本件訂正発明1について
ア 請求人の主張する、本件特許発明1に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)?(オ)のとおりのものである。
(ア)甲第1号証の摘示事項1C、1Dの記載からみて、甲第1号証には、
「(1a) パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物であって;
(1b) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及び悪心の5日間の治療が可能であり;
(1c) (b)患者の体重kg当り10μg、30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1d) (c)化学療法投与の30分前に、30秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1e) 医薬組成物。」の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されている。

(イ)本件特許発明1は、以下のとおり、分説することができる。
「(1A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物であって;
(1B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(1C) (b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D) (c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1E) ことを特徴とする医薬組成物。」

(ウ)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の構成1dにおける「化学療法投与」は、構成要件1Dの「嘔吐誘導事象」に相当し、当該「30分前」は、構成要件1Dの「前1時間」の範囲に含まれる。
甲1発明の構成1bにおける「患者の体重kg当り10μg、30μgの量」は、構成要件1Bの「患者の体重kg当り10μg?30μgの量」の範囲に含まれる。
よって、両者の発明の一致点・相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「(1A’) パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物であって;
(1B’) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の5日間の治療が可能であり;
(1C) (b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D) (c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1E) 医薬組成物。」

そして、以下の点で一応相違する。
<相違点>
(相違点1)
構成要件1Aについて、本件特許発明1は、「医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなる」のに対し、甲1発明は、そのような成分を含むことが特定されていない点
(相違点2)
構成要件1Bについて、本件特許発明1は、「嘔吐及びむかつき」の治療が可能であるのに対し、甲1発明は、「むかつき」について特定されていない点

(エ)甲1発明の構成1aにおける「パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物」は、注射によって投与される製剤であるから、当該医薬組成物に「医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤」を含んでなることは、当該技術分野における自明の事項または周知事項である。
よって、相違点1は、実質的な相違点でないか、または当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。

(オ)甲1発明は、12行?14行(摘示事項1C)によると、評価項目において、「嘔吐(emesis)」や「悪心(nausea)」を挙げている。
本件特許権者は、平成26年2月26日付けの誤訳訂正書(甲第6号証)および同日付け意見書(甲第7号証)により、本件特許発明1における「嘔吐(vomiting)」、「悪心(nausea)」および「むかつき(retching)」を包含する上位概念として、本件特許明細書では「嘔吐(emesis)」を使用している旨(摘示事項6A、7A)を説明している。
そうすると、甲1発明の構成1aにおける「嘔吐(emesis)」は、構成要件1Bの「むかつき(retching)」を含むことは明らかである。
また、「嘔吐および悪心」と「むかつき」との間に格別な差異があるともいえない。
よって、相違点2は、実質的な相違点でないか、または当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

請求人は、さらに、医薬組成物のパロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlと特定する点に関連して、弁駁書、口頭審理陳述要領書、及び弁駁書(第2回)において以下のとおり主張している。

(カ)(a)医薬品の貯蔵安定性を高めることは、当該分野における周知の課題である。たとえば、甲18には、パロノセトロンと同じ薬理作用を有し、化学構造が比較的近い化合物であるRG12915含有製剤が、その製剤濃度を下げるほど酸化分解しにくくなることが記載されており、パロノセトロンも、RG12915と同様酸化分解を受けやすいサイトである「アザビシクロ環の窒素原子」と「ベンゼン環に結合している3級炭素原子」とを有しているから、RG12915と同様の酸化分解を受けることが予想されるから、パロノセトロン製剤の濃度を下げて、その分解を抑制しようとすることは当業者が容易に想到できる事項である。
(b)そして、甲11には、おう吐処置方法において用いられる組成物に含まれる、パロノセトロンを含む式(I)で表される化合物の割合が、約0.001重量%?約99.5重量%、好ましくは約0.01重量%?約10.0重量%であることが記載されており、上記濃度範囲と部分的に重複する0.01?0.2mg/ml(すなわち、0.001重量%?0.02重量%)とパロノセトロンの濃度範囲を特定することに困難性はない。
(c)さらに、パロノセトロンを、「0.0118mg/ml?0.168mg/ml」という低濃度で含む液体医薬組成物は、例えば、甲第16号証に記載されているように公知のものである。
すなわち、甲第16号証のTable1によると、(i)3.0μg/kgのパロノセトロン投与量では体重73kg±14kg(すなわち59?87kg)の患者に対して投与されるとともに、(ii)30μg/kgのパロノセトロン投与量では体重71±13kg(すなわち58?84kg)の患者に対して投与されることが記載され(摘示事項16D)、463頁左欄のMethodsによると、上記の量のパロノセトロンを15mlの溶液に溶解して投与されたことが記載されている(摘示事項16C)。
上記(i)、(ii)の投与量を15mlの溶液濃度で算出すると、
(i)の下限値は、59(kg)×3.0(μg/kg)÷15(ml)×10-3=0.0118(mg/ml)、(ii)の上限値は、84(kg)×30(μg/kg)÷15(ml)×10-3=0.168(mg/ml)、となる。
よって、甲第16号証には、0.0118?0.168mg/mlという濃度が記載されている。
そうすると、CINVの予防のためのパロノセトロンの有効濃度範囲として、甲第1号証に記載された「3?90(mcg/kg)」に対応して、「0.0118?0.168mg/ml」を選択することは当業者が容易に想到できる事項である。

(キ)パロノセトロンの濃度の特定について、甲1には、本件特許明細書の「表6 投与量による応答者」と同様の投与量範囲で行われた試験結果が記載されていること、また、本件特許明細書の記載(段落0034?0036)によれば、パロノセトロンは5mlの溶液を含む約0.05mg/ml濃度のアンプルで提供されているといえることから、甲1記載の試験結果も、本件特許明細書記載のパロノセトロン濃度のものである蓋然性が高い。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1の特許を無効理由1及び無効理由2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)?(ウ)について
甲1発明認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明1は、前記3の【請求項1】に記載のとおりと認め、以下のとおり分説することができる。
「(1A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(1B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(1C) (b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D) (c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1E) ことを特徴とする医薬組成物。」

甲1発明の構成1dにおける化学療法投与の「30分前に」、「30秒の期間にわたり」は、構成要件1Dの化学療法の「前1時間より短い時間内に」、「10秒?60秒の期間にわたり」の範囲に含まれるから、甲1発明の構成1dは、構成要件1Dに相当する。
甲1発明の構成1bにおける「患者の体重kg当り10μg、30μgの量」は、構成要件1Bの「患者の体重kg当り10μg?30μgの量」の範囲に含まれるから、甲1発明の構成1bは、構成要件1Bに相当する。
よって、両者の発明の一致点・相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「(1A’) パロノセトロンを含む注射用液体医薬組成物であって;
(1B’) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐の5日間の治療が可能であり;
(1C’) (b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(1D’) (c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(1E) 医薬組成物。」

そして、以下の点で相違する。
<相違点>
(相違点A)
構成要件1Aについて、本件訂正発明1は、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである」のに対し、甲1発明は、パロノセトロンを含むがその他の成分を含むことは特定されておらず、また、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlであることが特定されていない点
(相違点2)
構成要件1Bについて、本件訂正発明1は、「嘔吐及びむかつき」の治療が可能であるのに対し、甲1発明は、「むかつき」について特定されていない点

(エ)(相違点1)、(相違点A)について
本件訂正発明1と甲1発明との相違点は、上記(ア)?(ウ)について、において説示のとおり、請求人が主張する相違点1ではなく、相違点Aである。
そこで、まず、相違点Aのうち、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlとする点について検討する。
甲1には、パロノセトロンの投与量は記載されているが、静脈内注射する際に用いた溶媒の量が記載されておらず、注射用液体中のパロノセトロンの濃度を計算することができないから、いかなる濃度のパロノセトロンが投与されたかは不明である。
そして、各甲号証の記載を検討しても、甲1発明のパロノセトロンの濃度が実質的に本件訂正発明1のパロノセトロンの濃度と同一であるといえる証拠は見いだせないし、また、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物の濃度を本件訂正発明1で規定される濃度範囲にすることが技術常識であったとは認められない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、相違点Aは実質的な相違点である。

一般に、医薬品製剤を患者に投与するに当たり、有効成分の含有量を適切な範囲に設定することは当業者が通常検討する技術的事項であるから、パロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物にあっては、パロノセトロンの注射用液体中の濃度が検討されるといえる。
そして、たとえば、甲11には、「好ましくは、活性化合物のレベルは、約0.01重量%?約10.0重量」(摘示事項11C)であるとの一般的記載がある。しかし、甲11には、パロノセトロン以外の種々の化合物も活性化合物(式(I))として記載されており、また、それら活性化合物の医薬用途についても、おう吐のほか、胃腸疾患、CNS疾患、心臓血管疾患およびとう痛から選ばれた状態の処置とされているから(摘示事項11A)、上記記載範囲は、それら種々の活性化合物すべてについての、種々の医薬用途に対する含有量の記載にすぎないものといえる。また、その投与方法も、注射以外に、経口的、全身的などが記載され、組成物も、溶液のほか、半固体、粉末など種々の形態のものが記載されているから(摘示事項11C)、注射用液体医薬組成物に限られたものではない。甲11には、さらに、ケナガイタチにおけるシスプラチンにより誘導された(1)おう吐開始までの時間、(2)全部のおう吐症状の発現および(3)全部の吐き気症状の発現として表されるおう吐反応(すなわち、おう吐/または吐き気)について、パロノセトロン塩酸塩投与群(摘示事項11D、11Eの表中M(HCl)の項)をレファレンス群と比較した場合に、静脈投与された式(I)の化合物が、抗おう吐性を示すことが記載されているが(摘示事項11E)、投与されたパロノセトロンの濃度について具体的な記載はないし、甲11に記載された嘔吐防止効果は、パロノセトロン塩酸塩投与後5時間までのおう吐反応観察から導き出されたものであるから、急性嘔吐に対する効果が記載されているにとどまる(摘示事項11C)。本件訂正発明1は、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るというものであり、パロノセトロン投与から5日間の遅延嘔吐をも治療できるものである。
そうであってみれば、一般に、医薬品製剤を患者に投与するに当たり、有効成分の含有量を適切な範囲に設定すること自体は、当業者が通常検討する技術的事項であるといえるものの、パロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物において、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlという特定の範囲にすることは、種々の活性化合物の種々の投与形態の発明が記載されている甲11から把握される周知技術に基いて、当業者といえども格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできない。
仮に、甲1発明に甲11に記載された有効成分の含有量に関する記載を適用することができたとしても、本件訂正発明1は、パロノセトロノンの濃度を0.01?0.2mg/mlとすることにより、下記の本件訂正発明1の効果について、の項に記載するとおり、甲1発明及び各甲号証のいずれからも当業者が予想し得ない顕著な効果を奏し得たものであるから、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。

また、甲1には、パロノセトロンの貯蔵安定性についての記載がなく、各甲号証のいずれの記載を参照しても、パロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物が不安定であるとか、その貯蔵中に安定性を失うまたは減弱することから、その貯蔵安定性についての改善が必要であるとの認識が存在していたと認めることができない。そうすると、たとえ、医薬組成物は一般に貯蔵安定性を有するべきものであるとの技術常識があったとしても、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物に関し、貯蔵安定性を有するものとすることが、当然の課題であったといえるものではない。
仮に、貯蔵安定性を有するパロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物を提供するとの課題が存在したとしても、パロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物の安定性がいかなる因子の影響を受けるのかは、各甲号証のいずれをみても不明である。そうすると、その貯蔵安定性を保持もしくは改善する手段を当業者が格別の創意を要することなく想到し得たとはいえない。
甲15には、RG12915含有製剤は、その製剤濃度が低いほど酸化速度が低くなることが記載されている(摘示事項15D、15E)。しかし、わずかに一の特定の化合物について、濃度と安定性とに相関関係が存在しているからといって、それと異なる化合物についても、直ちに同様の関係が成立するといえるものでもない。
また、甲21には、医薬品の安定性に影響を及ぼす因子として、「濃度」のほか、温度、光等種々の因子が挙げられている(摘示事項21A)。しかし、医薬品に影響を及ぼすことが知られるそれら因子をどのように調節して安定化を実現できるのかについて、甲21には記載されていないから、いかにして医薬品を安定化しうるかについて当業者が理解しうるものではない。そもそも、甲21には、該因子として、濃度のほか、上記した種々の因子が挙げられているのであって、そのうち、濃度に着目すべき記載も見当たらない。
そして、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの安定性を左右する因子が不明であることは上記のとおりであり、いかなる因子がパロノセトロンの貯蔵安定性に影響を及ぼすかについてはさらなる検討を要するといえるから、たとえ、医薬品の有効成分の濃度範囲を設定することにより安定性の改善を図れる場合のあることが知られていたとしても、注射用液体中のパロノセトロンの貯蔵安定性を改善するために、列挙されている種々の因子の中から「濃度」を選択して、さらにその濃度をいかなる数値範囲に設定するべきかを、当業者が格別の創意を要することなく想到し得たとはいえない。

したがって、相違点Aのその他の相違点、すなわち医薬組成物に含まれる他の成分や、前記ア(オ)について検討するまでもなく、当業者が本件訂正発明1を格別の創意を要さず想到し得たと認めることはできない。

請求人の上記主張(カ)、(キ)についての当審の見解は以下のとおりである。
(カ)について
(a)わずかに一の特定の化合物であるRG12915について濃度と安定化についての関係が存在しているからといって、それと異なる他の化合物であるパロノセトロンについても、直ちに同様の関係が成立するといえるものでもないことは、前記(エ)(相違点1)、(相違点A)について、の項で説示のとおりである。しかも、同項で説示のとおり、注射用液体医薬組成物中のパロノセトロンの安定性を左右する因子が不明である以上、化学構造が類似することを理由とする上記請求人の主張は、何ら根拠のあるものではない。
(b)パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlという特定の範囲にすることが、甲11から把握される周知技術に基いて当業者が格別の創意を要することなくなし得たものと認めることはできないこと、仮に、甲1発明に甲11に記載された有効成分の含有量に関する記載を適用することができたとしても、本件訂正発明1は、パロノセトロノンの濃度を0.01?0.2mg/mlとすることにより、甲1発明及び各甲号証のいずれからも当業者が予想し得ない顕著な効果を奏し得たものであることは前記(エ)(相違点1)、(相違点A)について、の項においてすでに説示したとおりである。
(c)甲16に記載の試験において用いられたパロノセトロンを含む液体医薬組成物は、術後悪心及び吐き気(PONV)を予防するためのものである。一方、甲1発明におけるような化学療法誘導性嘔吐(CINV)を予防するためのものではなく、原因が異なる嘔吐に対処するためのものであるから、当然に同じ投与量、同じ濃度で投与すべきといえるものではない。しかも、甲16には、術後悪心及び吐き気(PONV)の予防のために、試験薬物であるパロノセトロンが0.1、0.3、1.0、3.0、又は30μg/kgで投与したところ、30μg/kg投与量で有効であったとの結論を得たことが記載されている(要約、表1)から、甲16の上記記載に接した当業者は、パロノセトロンの投与量とPONVの予防作用との間に関連性があることを理解するといえるものの、甲16には濃度についての記載はなく、病院薬剤部により総容量15mlの等張性塩化ナトリウム溶液に調製された旨の記載(463頁 方法の項 27?33行)と上記投与量の記載とから、試験で使用されたパロノセトロンの濃度を算出できるにすぎず、これら記載によれば、甲16においてパロノセトロンの濃度に特段着目しているものとはいえない。ましてや、病院薬剤部により調製された旨の甲16の記載に照らせば、甲16記載の試験において使用されたパロノセトロンは、上記した投与量で手術終了前に静注投与するために用時調製されたものと理解するのが自然であり、貯蔵安定性を実現するために特定の濃度とすることを記載も示唆もしない。
そうすると、甲16に記載の投与量の値から算出された「0.0118?0.168mg/ml」という濃度に着目して、甲16とは用途の異なる甲1発明において採用する理由はなく、0.01?0.2 mg/mlという特定範囲濃度に当業者が容易に想到し得るということはできない。

(キ)について
しかし、上記表6は、パロノセトロンの投与量(mcg/kg)と作用とを評価したものであり、パロノセトロンの濃度に関する知見を与えない。被験者の体重あたりの投与量が表6の記載のものに合致する限りにおいて、試験薬物の濃度は種々に調整することが可能であるから、たとえ、同じ投与量範囲で行われた試験において同じ試験結果が得られたとしても、そのことが直ちに同一濃度の試験薬物を用いたことを意味するものではない。
よって、請求人の上記主張は根拠を欠いており、採用できない。

以上のとおり、請求人の主張について検討しても、上記判断は変わらない。

本件訂正発明1の効果について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、パロノセトロンの濃度と組成物としての利点について、以下の記載がある。
「【0036】
パロノセトロンの必要なより低い投与量の特に驚くべき利点は、パロノセトロンの濃度が減少するにつれて、溶液中のパロノセトロンの安定性が増加するという事実に由来する。こうして、このパロノセトロンの効力のために、広い範囲のパロノセトロン濃度、好ましくは約0.01 mg/ml?約0.20 mg/mlのパロノセトロン、最も好ましくは約0.05 mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる安定な組成物に処方することができる。こうして、1つの特定の態様において、パロノセトロンは5 mlの溶液を含んでなるアンプルで供給され、ここでこの量は約0.05 mg/mlの濃度における約0.25 mgのパロノセトロンに等しい。
【0037】
増強された安定性により、パロノセトロンは延長した期間の間貯蔵することができ、ここで期間は約1月、3ヶ月、6ヶ月、1年、または18ヶ月を超えるが、好ましくは30ヶ月を越えない (我々は安定性を試験し、これはFDAファイルの中に含まれている) 。この増強された安定性は、室温を含む種々の貯蔵条件において見られる。
この方法は、経口的、全身的 (例えば、経皮的、鼻内または坐剤による) または非経口的 (例えば、筋肉内、静脈内または皮下) を包含する事実上任意の投与方法を使用して実施することができる。好ましい態様において、パロノセトロンは経口的液体としてまたは静脈内に投与され、最も好ましくはパロノセトロンは静脈内に投与される。」

上記本件特許明細書の記載によれば、パロノセトロンの安定性とは、もっぱら貯蔵安定性を意味しており、注射用液状医薬組成物中のパロノセトロンが、たとえば、分解することなく、あるいは分解を抑えて、当初のまま、あるいは当初に近い状態で存在している場合を含むものと理解できる。
ところで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、0.01?0.20mg/mlの濃度のパロノセトロンを含んでなる組成物について、溶液中のパロノセトロンの安定性について具体的に確認した試験結果は記載されていないものの、上記した段落0036、0037の記載に接した当業者は、パロノセトロンの濃度が0.01?0.20mg/mlの注射用液体医薬組成物中、パロノセトロンが、室温を含む種々の貯蔵条件において安定であることを理解するといえる。
そして、上記理解が正しいことは、被請求人が提出した乙2の1、乙2の2、乙2の3の記載によって確認することができる。
乙2の2、及び乙2の3には、注射用液体組成物中のパロノセトロンが0.015mg/ml、及び0.15mg/mlの濃度において、25℃±2℃で相対湿度60%±5%の条件下で、少なくとも36箇月にわたり、含量低下が認められず非常に安定であったことが記載されている(乙2の3D)。また、乙2の1には、パロノセトロン塩酸塩の製剤中の、0.01、0.1、1.0、10、50mg/mlの濃度であるパロノセトロンの、pH7.4、40℃の条件下、8週後の残存率が、順に、100、101、99、23、49%であったことが記載されており、該試験結果から、パロノセトロンの安定性は、その濃度が下降するについて改良することが見られたことが記載されている(摘示事項乙2の1A 特に、表1)。
上記各乙号証には、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物中の安定性についての具体的な試験結果は記載されていないものの、乙2の1の上記記載によれば、パロノセトロンは、その濃度が上昇するにつれて、安定性が低下する傾向にあることを当業者は理解するものといえ、該理解を前提として、乙2の2、乙2の3の上記記載をみれば、パロノセトロンの濃度が0.15mg/mlと0.015mg/mlにおいてともにパロノセトロンが安定に存在しうることが確認されているのであるから、0.015mg/mlの近傍を下限値とし、0.15mg/mlの近傍をその下限値とする、0.01?0.2mg/mlの濃度においても、パロノセトロンは安定に存在しうるものと推認することができる。
そして、各甲号証のいずれをみても、パロノセトロンの安定な注射用液体医薬組成物を得るとの課題は見いだせない。また、たとえ、安定な注射用液体医薬組成物を提供することが医薬組成物の分野における当然の課題であるとしても、パロノセトロンの注射用液体医薬組成物における該課題を実現する手段について記載もしくは示唆する記載はなく、パロノセトロンが上記濃度において、その含有量が低下することなく安定に存在しうることが当業者の技術常識であったと認めることもできない以上、本件訂正発明1は、当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

請求人は、医薬組成物の貯蔵安定性に関連して以下のとおり主張している。
(ア)医薬組成物の安定性には、含量(力価)、分解生成物の量等の性質の異なる項目を多岐に包含する意味であることが一般に知られていたと主張し、証拠として甲17を提出する。それに対し、本件特許明細書には、医薬組成物の安定性の試験内容が全く記載されていないから、本件特許発明における安定性がどのような項目の安定性をいうのかについて、当業者は本件特許明細書の記載から明確に把握することができないため、貯蔵安定性という効果を本件特許発明の進歩性を肯定する要素となりえない。

(イ)本件特許明細書には具体的に貯蔵安定性を確認した試験結果が記載されていないこと、乙2の1?乙2の3の記載からは顕著な効果を確認できないこと、長期貯蔵安定性については本件特許の優先日当時、実際に確認されていたものではないこと、そして、パロノセトロンのような全身血中に移行して効果を発現する薬剤において重要な事項は濃度範囲というよりも投与量であることが当業者の技術常識であることから、請求項1、3に記載された濃度範囲の設定は、CINVからの遅延嘔吐の治療のための注射用医薬組成物における治療効果の観点からすれば、当業者にとって通常の創作能力の範囲内である旨主張する。

(ウ)乙2の1のうち、本件訂正発明1の安定性改善効果について、パロノセトロン濃度に依存することを確認できるデータといえるのは、表2が1種の濃度について実施した試験であるから、表1のpH7.4という特定のpHでの加速試験結果(40℃)だけであるし、また、表3の試験結果は、パロノセトロン溶液の安定性が、緩衝剤およびEDTAの含有する条件下で得られることを示したにすぎないから、本件訂正発明が、パロノセトロン濃度の全範囲にわたって貯蔵安定性に関して顕著な効果を示すことは立証されていない。

請求人の上記主張(ア)?(ウ)についての当審の見解は以下のとおりである。
(ア)について
本件特許明細書の記載によれば、パロノセトロンの安定性とは、もっぱら貯蔵安定性を意味しており、注射用液状医薬組成物中のパロノセトロンが、たとえば、分解することなく、あるいは分解を抑えて、当初のまま、あるいは当初に近い状態で存在している場合を含むものと理解できることは上記説示のとおりである。
よって、本件特許明細書の記載から明確に把握することができないことを前提として、貯蔵安定性という効果は本件特許発明の進歩性を肯定する要素となりえない、との請求人の主張は、前提を欠くものといえ、採用しえない。

(イ)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明に、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.20mg/mlである」とすることにより、貯蔵安定性が増強したパロノセトロンを含んでなる注射用液体医薬組成物が得られることが記載されていると認められること、そして、貯蔵安定性の増強は当業者が予想し得ない顕著な効果であることも上記説示のとおりであるから、請求人の主張は採用しえない。

(ウ)について
注射剤において、安定剤として、キレート剤、緩衝剤などが一般に使用されることは周知であり、そのpHは中性よりあまり大きく離れないことが望ましいとされているところであるから(必要なら、第十三改正 日本薬局方解説書 通則 製剤総則 一般試験法 A-112?128(特に注9、10) 1996 廣川書店発行)、乙2の1のA 表1、表3の結果は、上記技術常識を参酌すれば、各々、特定のpH、添加剤を配合した条件下というよりむしろ典型的なpH、添加剤を配合した条件下でなされた研究結果であるといえるものであるし、また、本件明細書の段絡0051に、キレート剤として例えばエチレンジアミン四酢酸、緩衝剤として例えば酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩などが列挙されているように、キレート剤や緩衝剤を添加した組成物は本件明細書の一態様といえるから、表3の結果は、本件明細書の記載からみても、特定の条件下ではなく本件訂正発明1の具体的態様に当たる条件下でなされた試験結果であるといえる。そして、上記試験結果を参酌すれば、本件訂正発明1がその範囲全体にわたり貯蔵安定性の増強という効果を奏することはすでに検討のとおりであるから、上記請求人の主張は採用し得ない。

以上のとおり、相違点Aは実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(2)本件訂正発明2について
ア 請求人の主張する、本件特許発明2に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)?(ウ)及び(カ)?(ク)のとおりのものである。
(ア)甲第1号証には、前記(1)本件特許発明1についての項で述べたとおり甲1発明が記載されている。

(イ)本件特許発明2は、以下のとおり、分説することができる。
「(2A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(2B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(2C) (b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(2D) (c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(2E) ことを特徴とする医薬組成物。」

(ウ)本件特許発明2と甲1発明とを対比する。
本件特許発明2の構成要件2B?2Eは、本件特許発明1の構成要件1B?1Eと同じである。よって、両者の発明は、相違点1、相違点2に加えて、次の点で相違する。
<相違点>
(相違点3)
構成要件2Aについて、本件特許発明2は、「パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlである」のに対し、甲1発明は、パロノセトロンの濃度が特定されていない点。

(カ)パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlであることは、注射剤として一般的な範囲内のものである。例えば、甲第11号証には、「好ましくは、活性化合物のレベルは、約0.01重量%?約10.0重量」(摘示事項11C)と記載されている。
また、本件特許明細書には、パロノセトロンの濃度を約0.05mg/mlに特定することによる技術的意義や作用効果について何ら記載されていない。
よって、相違点3は、当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。
(キ) 本件特許発明2に係る貯蔵安定性は、医薬組成物の効能効果を発揮する上で当然に求められる自明の課題である。
そして、医薬組成物が低濃度であると、安定性が増加することは、たとえば、甲第15号証には、パロノセトロンと共通の薬理作用(5-HT3受容体拮抗作用、嘔吐抑制作用)を有し(摘示事項15A)、化学構造が比較的近い化合物RG12915(下記に示した図、摘示事項15Cの左上に表示された構造式「I」を参照)に対する水溶液中での安定性(摘示事項15B)について、RG12915の製剤濃度(水溶液中での濃度)を下げるほど、RG12915が分解しにくくなることが記載されている(摘示事項15D、15E)(具体的に0.2mg/mLの例がある)。水溶液中のRG12915は酸化分解を受けやすく、その濃度が低いほど、ゆっくりと酸化される。パロノセトロンは「アザビシクロ環の窒素原子」と「ベンゼン環に結合している3級炭素原子」(矢印で示す部位)とを有しており、これらは、化合物RG12915と同様、酸化分解を受けやすいサイトである(上記構造式の矢印部位を参照)。よって、水溶液中のパロノセトロンも、G12915と同様の酸化分解を受け得ることが予想されるから、当業者にとって、パロノセトロン製剤の濃度を下げて、その分解を抑制しようとすることは容易に想到できる事項である。
したがって、上記のような技術事項に基づけば、低濃度にすることで貯蔵安定性を高めることは、当業者の通常の創作能力の発揮により容易に想到することができる設計事項である。
(ク)そして、パロノセトロンを、「0.0118mg/ml?0.168mg/ml」という低濃度で含む液体医薬組成物は、例えば、甲第16号証に記載されているように公知のものである。
すなわち、甲第16号証のTable1によると、(i)3.0μg/kgのパロノセトロン投与量では体重73kg±14kg(すなわち59?87kg)の患者に対して投与されるとともに、(ii)30μg/kgのパロノセトロン投与量では体重71±13kg(すなわち58?84kg)の患者に対して投与されることが記載され(摘示事項16D)、463頁左欄のMethodsによると、上記の量のパロノセトロンを15mlの溶液に溶解して投与されたことが記載されている(摘示事項16C)。
上記(i)、(ii)の投与量を15mlの溶液濃度で算出すると、
(i)の下限値は、59(kg)×3.0(μg/kg)÷15(ml)×10-3=0.0118(mg/ml)、(ii)の上限値は、84(kg)×30(μg/kg)÷15(ml) ×10-3=0.168(mg/ml)、となる。
したがって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明2の特許を無効理由1又は2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)?(ウ)について
甲1発明認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明2は、前記3の【請求項2】に記載のとおりと認め、以下のとおり分説することができる。
「(2A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(2B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(2C) (b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(2D) (c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(2E) ことを特徴とする医薬組成物。」

本件訂正発明2の構成要件2B?2Eは、本件訂正発明1の構成要件1B?1Eと同じであり、また、構成要件2Aは、本件訂正発明1の構成要件1Aのパロノセトロンの濃度0.01?0.2mg/mlを約0.05mg/mlに限定したものに相当する。
よって、本件訂正発明2と甲1発明とは、前記(1)イ(ア)?(ウ)について、の項で説示したとおりの一致点で一致し、相違点2及び以下の相違点Bで相違する。

<相違点>
(相違点B)
構成要件2Aについて、本件訂正発明2は、「パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlである」のに対し、甲1発明は、パロノセトロンを含むが、その他の成分を含むことは特定されておらず、また、パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlであることが特定されていない点

(カ)?(ク)(相違点3)について
本件訂正発明2と甲1発明との相違点は、上記(ア)?(ウ)について、において説示のとおり、請求人が主張する相違点3ではなく、相違点Bである。相違点Bは、相違点Aの濃度範囲をさらに限定したものである。
一方、本件訂正発明1と甲1発明との相違点は、上記説示のとおり、請求人が主張する相違点1ではなく、相違点Aであること、相違点Aが実質的な相違点であり、甲1発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないことは、前記(2)イ(エ)(相違点1)について、において説示したとおりである。
そうすると、該相違点Aをさらに限定した相違点Bも実質的な相違点であり、相違点Aに係るパロノセトロンの濃度0.01?0.2mg/mlとすることを当業者が格別の創意を要さず想到し得るといえないのであるから、約0.05mg/mlという特定の濃度とすることは、なおさら、甲1発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

そして、本件訂正発明1が、請求項に規定されているパロノセトロンの全濃度範囲において、貯蔵安定を有すると認められることは前記(1)イにおいて説示のとおりであるから、パロノセトロンが該範囲内の0.05mg/mlである場合も、当業者が予想することができない貯蔵安定性を有するものといえる。

以上のとおり、相違点Bは実質的な相違点であるから、本件訂正発明2は、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(3)本件訂正発明3について
ア 請求人の主張する、本件特許発明3に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)?(ウ)のとおりのものである。
(ア)甲第1号証には、前記(1)本件特許発明1についての項で述べたとおり甲1発明が記載されている。

(イ)本件特許発明3は、以下のとおり、分説することができる。
「(3A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなる注射用液体医薬組成物であって;
(3B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(3C) (b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(3D) (c)化学療法の前10時間より短い時間内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(3E) ことを特徴とする医薬組成物。」

(ウ)本件特許発明3と甲1発明を対比する。
本件特許発明3の構成要件3A?3C、3Eは、本件特許発明1の構成要件1A?1C、1Eと同じである。
甲1発明の構成1dの「化学療法投与の30分前」は、本件特許発明3の構成要件3Dにおける「化学療法の前10時間より短い時間内」に含まれる。
なお、本件特許発明3の構成要件3Dが、本件特許発明1の構成要件1Dにおける「10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスで」を特定していない点は、甲1発明との相違点にはならない。
よって、両者の発明は、相違点1、相違点2で相違する。そして、相違点1、2は、前記(1)ア(エ)、(オ)、の項で述べたとおり、実質的な相違点でないか、または当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。

したがって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明3の特許を無効理由1及び無効理由2によって無効にすることはできないものと判断する。

甲1発明認定は、上記ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明3は、前記3の【請求項3】に記載のとおりと認め、以下のとおり分説することができる。
「(3A) パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(3B) (a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(3C) (b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(3D) (c)化学療法の前10時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
(3E) ことを特徴とする医薬組成物。」

また、本件訂正発明3の構成要件3A?3C、3Eは、本件訂正発明1の構成要件1A?1C、1Eと同じである。また、甲1発明の構成1dの「化学療法投与の30分前」は、本件訂正発明3の構成要件3Dにおける「化学療法の前10時間より短い時間内」に含まれる。そして、本件訂正発明3の構成要件3Dが、本件訂正発明1の構成要件1Dにおける「10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスで」を特定していない点は、甲1発明との相違点にはならない。
よって、甲1発明と本件訂正発明3とは、前記(1)イ(ア)?(ウ)について、において説示したとおりの一致点、相違点A、2を有する。そして、上記相違点についての判断は、前記(1)イ(エ)について、において説示したとおり、本件訂正発明1におけると同様に判断される。
また、本件訂正発明3は、構成要件3Dが本件訂正発明1の構成要件1Dを包含する点で本件訂正発明1を包含するものといえるから、その効果については、前記(1)イ 本件訂正発明1の効果についての項で説示したとおりである。

以上のとおり、相違点Aは実質的な相違点であるから、本件訂正発明3は、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(4)本件訂正発明4、7及び9について
ア 請求人の主張する、本件特許発明4に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)(ケ)のとおりのものである。
(ア)本件特許発明4は、本件特許発明1?3のいずれかの発明特定事項をすべて備え、更に、「前記患者の体重の範囲が40?120kgである」こと(以下、「相違点4」という。)が特定された発明である。
(ケ)甲第1号証において投与された患者の体重が明示されていない。しかし、当該患者には通常の成人が含まれると考えられるから、甲1発明における患者の体重が「40?120kg」の範囲に含まれることは自明の事項である。
なお、本件特許明細書には、患者の体重の範囲が40?120kgにおいて所定の効果が得られることを裏付ける記載が見当たらない。

よって、先に本件特許発明1?3について検討したことを併せて判断すれば、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明4、7及び9の特許を無効理由1及び2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)、(ケ)について
甲1発明認定は、前記(1)ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明4、7及び9は、前記3の【請求項4】【請求項7】【請求項9】に記載のとおりであって、本件訂正発明1、2及び3のいずれかを、患者の体重の範囲が40?120kgである、とさらに限定したものである。よって、本件訂正発明4、7及び9と甲1発明とは、前記(1)?(3)の各イ、の項で説示した相違点に加えて、上記ア記載の相違点4で相違する。
すなわち、本件訂正発明4、7、及び9と甲1発明とは、上記相違点4のほか、前記(1)イ(ア)?(ウ)について、(2)イ(ア)?(ウ)について、又は、(3)イ、の項で説示したとおり、相違点A及び2、相違点B及び2、又は相違点A及び2で相違し、該相違点A、Bについては、前記(1)イ(エ)(相違点1)について、(2)イ(カ)?(ク)(相違点3)について、又は(3)イ、の項と同様に判断される。
そして、相違点A、Bが実質的な相違点であり、本件訂正発明1?3が、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえないことは、前記(1)イ、(2)イ、(3)イにおいて説示したとおりである。
したがって、本件訂正発明1?3のいずれかを引用してさらに限定した発明である本件訂正発明4、7及び9は、相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明1?3についての理由と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(5)本件訂正発明6、8及び10について
ア 請求人の主張する、本件特許発明6に係る無効理由1、2の論旨は、概略、以下の(ア)、(サ)、(シ)のとおりのものである。
(ア)本件特許発明6は、本件特許発明1?4のいずれかの発明特定事項をすべて備え、更に、「前記パロノセトロンがパロノセトロン塩酸塩として存在する」こと(以下、「相違点6」という。)が特定された発明である。
(サ)医薬組成物の有効成分を「塩」の形態とすることは、当該分野において一般的になされていることであり、「塩酸塩」により使用されることも周知である。例えば、パロノセトロンを塩酸塩とした医薬組成物は、甲第11号証に記載されており、パロノセトロンに相当する化合物(摘示事項11A)、「医薬的に許容し得る塩類」として「塩酸」が好適であること(摘示事項11B)、パロノセトロン塩酸塩の具体例(摘示事項14D)が記載されている。。
よって、本件特許発明6における上記の特定事項は、実質的な相違点ではなく、または、当業者が適宜になし得る程度の設計事項である。
(シ)さらに、甲第1号証に記載された試験は、甲1記載の研究者により、遅延嘔吐性の化学療法により誘導された悪心および嘔吐(CINV)に対するパロノセトロンの治療効果に関して行われてきたものであり、被験者に対してパロノセトロン塩酸塩が投与されてきた。この点は、以下の甲13及び甲14からも明らかである。
すなわち、甲13には、パロノセトロン塩酸塩が記載されており(摘記事項13A)、同物質が第1相臨床試験のほか、第2相、及び第3相臨床試験に付されていることが記載されている(摘記事項13B?E)。他方、甲14は、甲1と同じ学会「アメリカン ソサイアティ オブ クリニカル オンコロジー 第34年会 2002年5月18?21日開催」におけるポスター発表であり、その発表者には、甲1と共通するA.マチオチ、ヘルシンヘルスケア社等が表示されている(摘示事項14A)。甲1及び甲14(摘示事項14A?F)の記載内容によれば、両者の第2相試験はパロノセトロンによる治療効果を確認する一連の試験であると理解できる。また、甲13には、パロノセトロン塩酸塩が使用された文献として甲14が例示されている(摘示事項13B、F)。さらに、甲13は、参考文献として、甲23及び甲24を引用しており、甲23には、パロノセトロン塩酸塩が、遅発性及び急性嘔吐に対する用途として有用であること、既にフェーズIが実施されたことが(摘示事項23A)、また、甲24には、パロノセトロン塩酸塩が化学療法による嘔吐抑制薬として有用であることが(摘示事項24A)記載されている。そして、甲1と甲23の発表者の共通性からみて、甲1においても、甲23と同様にパロノセトロン塩酸塩が使用されたと解するのが自然である。
そうすると、甲1に記載された試験においても、甲13のパロノセトロン塩酸塩に関する参照として例示されている(摘示事項13B、F)甲14、甲23、甲24におけると同様に、パロノセトロン塩酸塩が投与されたと理解できる。
以上のことから、甲1には、パロノセトロン塩酸塩による試験が記載されているに等しいことは明らかである。
よって、先に本件特許発明1?4について検討したことを併せて判断すれば、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
または、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明6、8及び10の特許を無効理由1及び2によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)、(サ)、(シ)について
甲1発明認定は、前記(1)ア(ア)記載のとおりと認める。一方、本件訂正発明6、8及び10は、前記3の【請求項6】【請求項8】【請求項10】に記載のとおりであって、本件訂正発明1、2及び3のいずれかを、パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、とさらに限定したものである。よって、本件訂正発明6、8及び10と甲1発明とは、前記(1)?(4)の各イ、の項で説示した相違点に加えて、上記ア記載の相違点6で相違する。
すなわち、本件訂正発明6、8、及び10と甲1発明とは、上記相違点6のほか、前記(1)イ(ア)?(ウ)について、(2)イ(ア)?(ウ)について、(3)イ、又は(4)イ、の項で説示したとおり、相違点A及び2、相違点B及び2、相違点A及び2、又は相違点A、2及び4もしくはB、2及び4の点で相違し、該相違点A、Bについては、前記(1)イ(エ)(相違点1)について、(2)イ(カ)?(ク)(相違点3)について、(3)イ、又は(4)イ、の項と同様に判断される。
そして、相違点A、Bが実質的な相違点であり、本件訂正発明1?3が、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないことは、前記(1)イ、(2)イ、(3)イにおいて説示したとおりである。
したがって、本件訂正発明1?4、7及び9のいずれかを引用してさらに限定した発明である本件訂正発明6、8及び10は、相違点6について検討するまでもなく、本件訂正発明1?4、7、9についての理由と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

なお、甲2は、ASCO年次総会で、MGI及びヘルシンが、パロノセトロンがCINVに抑制活性を有することを記載した記事の写しであり、甲1に記載された事項を超える記載はない。甲3は、本件出願に対応する国際公開公報であり、甲4は、甲1の記載と甲3の記載との対応表である。また、甲5?甲10は、本件出願、及び本件の分割出願の出願手続書類の写しである。甲12は甲1の頒布日証明に利用しうるにすぎず、また、甲15は、G12915の光分解、酸化分解に関する文献、甲17?甲19は、医薬品の製造(輸入)承認申請に際して添付すべき安定性試験成績の取り扱いについての通知に関するものであり、甲20は甲19の頒布日証明に利用しうるにすぎない。甲26は乙2の1と実質的に同じであり、乙2の1の内容については検討しすでに説示したところである。そうすると、それら各甲号証の記載は、以上の認定、判断を左右しない。

(6)小括
以上のとおり、本件訂正発明1?4、6?10は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1号証に記載された発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、本件訂正発明1?4、6?10に係る特許は、無効理由1及び2によって無効にすべきものであるとはいえない。

6-2.無効理由3について
(1)本件訂正発明1について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明1に係る無効理由3の論旨は、概略、以下の(ア)、(イ)のとおりのものである。
上記(イ)は、本件弁駁書(第2回)の第19頁第9行?第22頁第7行において新たに主張された特許法第36条第4項第1号に関する無効理由であり、請求の理由の要旨を変更する補正事項を含むものである。
しかし、該補正事項は、本件訂正請求に起因して必要になった補正であり、また、審理を遅延させるおそれがなく、特許法第131条の2第2項に規定される要件を満たしていると認められるから、該補正事項を追加することによる請求の理由の補正については、これを許可する。

(ア)本件訂正発明1は、パロノセトロンを含む注射用医薬組成物に係る発明であって、その主な特徴は、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり」、「(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり」を特定した点にある。
本件特許発明1の上記特徴点について、被請求人は、本件特許に係る審査および審判手続において、本件特許明細書に記載された実施例5および表6のデータから支持されている旨を説明している(甲第8号証、甲第9号証)。
その一方で、被請求人は、本件特許(分割出願)の原出願(特願2004-553037号)に係る審査および審理手続で提出された、拒絶理由通知(甲第10号証)に対する意見書(甲第5号証)において、上記説明と相反する説明をしている。該説明は概略以下のとおりである。
上記本件特許の原出願の審査手続において提出された甲5には、甲1が発表された同じ会合において、図1(参考資料8)、図2(参考資料9)が含まれていたポスター発表がなされていたこと、図1、図2に記載のデータについて、該データには、プラシーボの結果が記載されていないので、図1に記載されている結果がパロノセトロンの薬理効果を示しているとはいえないこと、及び、統計的有意差が存在しないことから、図1は、10mcg/kgの投与量により、化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)に対して有意な抑制効果が得られたことを示すものではない、とか、図2は、5日間にわたる全遅延期間、及び投与量10mcg/kgを含めての試験した全ての投与量において、化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)に対して有意な抑制効果が得られたことを示すものではない、と被請求人は記載している。
しかし、上記図1、図2記載のデータと、本件特許明細書に記載された実施例5及び表6のデータとがほぼ合致することが明らかであることに照らせば、上記実施例5および表6の記載によって、本件訂正発明1の「高度に嘔吐発生性の化学療法により誘導された悪心及び嘔吐(CINV)からの遅延嘔吐」を治療する効果が確認されている旨の被請求人の審査および審判手続における上記説明に反し、実施例5及び表6からは、パロノセトロンの有意な薬理効果が開示されているとはいえない。
そうすると、本件特許発明1における「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり」、「(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり」とした発明特定事項については、この量のパロノセトロンによる薬理効果が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に示されていないことは明らかである。
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、上記の点で、本件特許発明1について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たしていない。

(イ)被請求人の主張によれば、本件訂正発明1は、パロノセトロン濃度を特定したことにより、貯蔵安定性が改善されたものである。
しかし、貯蔵安定性に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明に裏付けとなる安定性試験結果の記載があるとも、また、裏付けとなるような技術常識が存在していたとも認められない。
そして、乙2の1?乙2の3によっては、訂正発明における「パロノセトロン濃度が0.01?0.2mg/ml」であるとの構成要件を備えることで貯蔵安定性の顕著な効果が得られることは立証されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明1の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。

(ア)について
本件訂正発明1に係る注射用液体医薬組成物は、本件特許請求の範囲の請求項1の記載、及び本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落0002、0005、0010、及び0012の記載からみて、パロノセトロン及びその医薬として許容される塩を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり」、「(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであ」ると認める。
そこで、本件訂正発明1に係るパロノセトロン及びその医薬として許容される塩を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、その発明特定事項である、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり」、「(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するため」に使用することができるものであることを当業者が理解できるように記載されているか否かについて検討する。

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0012】
発明の要約
5-HT_(3)アンタゴニストが遅延嘔吐の治療または予防において最小の利益を有するという発表された報告と反対に、パロノセトロンは両方の中程度および高度に嘔吐発生性の化学療法的養生法において急性嘔吐および遅延嘔吐を軽減および防止すること、・・・を本発明者らは驚くべきことに発見した。したがって、1つの態様において、本発明は、治療的に有効量のパロノセトロンを投与することを含んでなる嘔吐発生性化学療法または放射線療法を受ける患者における急性嘔吐および遅延嘔吐を治療する方法を提供する。治療的に有効量は、この文書中のどこかでより詳細に開示する投与量の1つであることが好ましい。
【0026】
「遅延嘔吐」は、嘔吐誘導化学療法または放射線療法の事象の開始後約24時間以上において起こる嘔吐を意味する。こうして、嘔吐は、化学療法または放射線療法の事象後2、3、4、またはさらに5日までに起こる嘔吐を包含する。
「急性嘔吐」は、嘔吐誘導化学療法または放射線療法の事象の開始後約24時間以内に起こる嘔吐を包含する嘔吐を意味する。
「中程度に嘔吐発生性の化学療法」は、嘔吐発生潜在性がカルボプラチン、シスプラチン≦50 mg/m^(2)、シクロホスアミド<1500 mg/m^(2)、ドキソルビジン>25 mg/m^(2)、エピルビシン、イリノテカン、またはメトトレキセート>250 mg/m^(2)の嘔吐発生潜在性に匹敵するか、あるいは等しい化学療法を意味する。
【0027】
「高度に嘔吐発生性の化学療法」は、シスプラチン≧60 mg/m^(2)、シクロホスアミド>1500 mg/m^(2)、またはダカルバジンの嘔吐発生潜在性に匹敵するか、あるいは等しい化学療法を意味する。・・・
【0029】
「薬学上許容される」は、一般的に安全、無毒であり、生物学的にまたはその他の点で望ましい医薬組成物の製造において有用であり、そして獣医学的使用ならびにヒト薬学的使用に許容されるものを包含する。
【0030】
「薬学上許容される塩」は、上に定義したように、薬学上許容され、そして必要な薬理学的活性を有する塩を意味する。このような塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、・・・及びその他。
【0070】
実施例5.高度に嘔吐発生性の化学療法誘導悪心および嘔吐を防止する単一静脈内投与量のパロノセトロンの作用を評価するヒト実験
ランダム化二重盲式マルチセンター投与量範囲期II実験を実施して、パロノセトロンの単一静脈内投与量の間で投与量応答関係を同定した。普通に遅延嘔吐に関係付けられる、シクロホスファミド (>1100 mg/m^(2)) およびシスプラチン (>70 mg/m^(2)) を含む高度に嘔吐発生性の化学療法を受けた患者を、パロノセトロンの単一静脈内投与の5投与量群の1つに割り当てた。化学療法投与の30分前に、パロノセトロンを単独で (デキサメタゾンを使用しないで) 30秒の静脈内注射として投与した。一次終点は24時間の完全な応答 (嘔吐なし、レスキューなし) (CR) であった。二次終点は完全な抑制 (嘔吐なし、レスキューなし、軽度の悪心) (CC) および5日のCRを含んだ。
【0071】
161人の患者 (32人の女性、129人の男性) が参加した。主要な効能パラメーターおよび結果を下記表6に要約する。悪い事象の大部分 (83.9%)は軽度または中程度であり、そして投薬の研究に起因しなかった (86.0%) 。投薬の研究に関係づけられる最も普通に報告される悪い事象は下記のものを含む: 頭痛 (19.3%) 、便秘 (8.7%) 、眩暈感 (2.5%) および異常な疼痛 (2.5%) 。薬剤に関係する重大な事象は報告されなかった。
これらの患者において、パロノセトロンは急性嘔吐の治療において安全かつ有効であり、そして活性を5日間維持することが、結果から証明される。
【0072】
【表6】



【0073】
実施例6.
静脈内投与のために処方したパロノセトロンの代表的処方物を下記表7に示す。
【0074】
【表7】




本件訂正許発明1は、「(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり」、「(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであ」る。
ところで、「嘔吐」に、「遅延嘔吐」と「急性嘔吐」があること、そして、「遅延嘔吐」とは嘔吐誘導化学療法の開始後約24時間以上において、さらに5日までに起こる嘔吐を意味すること、「急性嘔吐」とは、嘔吐誘導化学療法または放射線療法の事象の開始後約24時間以内に起こる嘔吐を包含する嘔吐を意味することは、段落0026に記載のとおりである。本件請求項1には、「嘔吐」が「遅延嘔吐」か「急性嘔吐」のいずれであるかについて明示の記載はないが、「嘔吐の5日間の治療が可能であり」と規定されていることに照らせば、「遅延嘔吐」及び「急性嘔吐」の、両方の嘔吐に対する治療のためのものであるといえる。
そして、上記本件特許明細書の記載のうち、高度に嘔吐発生性の化学療法誘導悪心および嘔吐を防止する単一静脈内投与量のパロノセトロンの作用を評価するヒト実験の結果を記載した表6の遅延嘔吐に対する結果に相当する%CR(5日)の項目をみると、パロノセトロンを10mcg/kg(μg/kgに同じ)投与したときの5日目に完全な応答(応答なし、レスキューなし)をした患者の比率が32%であり、より少ない0.3?1mcgを投与した場合が17%であることが記載されている。また、同表の急性嘔吐に対する結果に相当する%CR(24時間)の項目、%CC(24時間)の項目をみると、パロノセトロンを10mcg/kg(μg/kgに同じ、以下、同じ)、30mcg/kg投与したときの24時間の完全奏功(嘔吐なし、レスキューなし)をした患者の比率が順に40%、50%であり、また、24時間の完全抑制(嘔吐なし、レスキューなし、軽度の悪心)をした患者の比率が順に、40%、48%であるのに対し、より少ない0.3?1mcg/kgを投与した場合が、24%であることが記載されている。同試験には、プラセボ群との比較が記載されておらず、パロノセトロン10μg/kg投与群、30μg/kg投与群が、プラセボ群、すなわちパロノセトロン非投与群に比べて統計学的に有意に優れた効果を有するか否かは不明であるものの、上記のとおり、より低用量投与した群に比べて優れた効果を奏することを確認することができるから、本件特許発明1に係る医薬組成物を、「患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与」した場合に、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るために有効であることは、上記試験結果に関する本件特許明細書の記載によって立証されていると認める。
ところで、上記段落0070?0072には、上記試験方法において、患者に投与されたパロノセトロンが医薬として許容される塩の形態であることは記載されていない。
しかし、上記段落0012の「本発明は、治療的に有効量のパロノセトロンを投与することを含んでなる・・・遅延嘔吐を治療する方法を提供する。」との記載があること、また、本件特許請求の範囲の請求項1の「(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与する」との記載、さらに段落0074の静脈内投与のためのパロノセトロンの処方においてパロノセトロンHClが記載されていることからみて、有効成分はパロノセトロンであること、そして、パロノセトロンの医薬として許容される塩は、パロノセトロン投与の一形態であることを当業者は理解するといえる。以上によれば、本件特許明細書の上記試験結果に接した当業者であれば、パロノセトロンについて認められた薬理効果は、その投与形態であるパロノセトロンの医薬として許容される塩についても同様に奏されると理解すると認められる。すなわち、本件特許明細書に、パロノセトロンについて、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るために有効であることが記載されているならば、パロノセトロンの医薬として許容される塩を投与した場合にも同様に所望の治療のために有効であることが記載されているといえる。
そして、本件特許明細書に、「患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与」した場合に、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るために有効であることが記載されているといえることは上記説示のとおりである。
よって、本件特許明細書には、「患者の体重kg当り10μg?30μgの量で」のパロノセトロンの医薬として許容される塩の投与もまた、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るために有効であることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
また、上記治療効果が、パロノセトロンの濃度を特定の範囲に限定したことにより失われるとは考えがたいから、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に特定したことによって上記判断は変わるものではない。
そうすると、本件特許特許明細書には、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」であって、「患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロン又はその医薬として許容される塩を投与」した場合、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るために有効であることが記載されているといえる。

(イ)について
請求人の主張はつまるところ、本件特許明細書には、パロノセトロン濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に選定することで、貯蔵安定性改善という効果を達成することについて、具体的な記載はないし、技術常識を参酌しても開示されているとはいえない、というものである。
しかし、そもそも、本件訂正発明1は、貯蔵安定性改善を発明特定事項とするものではないから、上記請求人の主張は、本件訂正発明1の発明特定事項に基づくものではなく、貯蔵安定性改善の有無は、いわゆる実施可能要件を満足するか否かの判断を左右しない。

以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

請求人は、本件特許(分割出願)の原出願(特願2004-553037号)に係る審査手続手続中における被請求人の主張(甲5)を引用し、上記ア(ア)記載のとおり、パロノセトロンの有意な薬理効果が開示されているとはいえないと主張する。
しかし、本件特許明細書に、パロノセトロンが「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」ることを当業者が認識できるように記載されているといえることは上記(ア)について、において説示のとおりであり、この判断は、被請求人の本件特許の原出願に係る審査手続における主張によって左右されない。

(2)本件訂正発明2について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明2に係る無効理由3の論旨は、概略、以下(ア)、(イ)のとおりのものである。
(ア)、(イ)前記(1)ア(ア)、(イ)で指摘したのと同じ理由がある。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明2の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)、(イ)について
前記(1)イ(ア)について、(イ)についての項で説示したとおりである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(3)本件訂正発明3について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明3に係る無効理由3の論旨は、概略、以下(ア)、(イ)のとおりのものである。
(ア)、(イ)前記(1)ア(ア)、(イ)で指摘したのと同じ理由がある。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明3の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)、(イ)について
前記(1)イ(ア)について、(イ)についての項で説示したとおりである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(4)本件訂正発明4、7及び9について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明4、7及び9に係る無効理由3の論旨は、概略、以下の(ア)?(ウ)のとおりのものである。
(ア)、(イ)前記(1)ア(ア)、(イ)で指摘したのと同じ理由がある。
(ウ)本件訂正発明4、7及び9の「前記患者の体重の範囲が40?120kgである」との発明特定事項については、本件訂正発明4、7及び9の特徴が裏付けられているとする本件特許明細書の実施例5に記載されておらず、本件訂正発明4、7及び9の医薬組成物がこのような特性や構造を有するものであることは何ら記載されていない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明4、7及び9について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明4、7及び9の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)、(イ)について
前記(1)イ(ア)について、(イ)についての項で説示したとおりである。
(ウ)について
「40?120kg」が、成人の一般的な体重の範囲と重複することは周知の事実である。
そして、本件訂正発明4、7及び9は、患者の体重kg当り10μg?30μgのパロノセトロンの量の範囲でパロノセトロンを投与するためのものであり、また、表6のパロノセトロンの投与量(mcg/kg)の記載によれば、本件特許明細書に記載された試験においても、該範囲内の量である体重kg当り10μg及び30μgのパロノセトロンの量として投与されたものである(摘示事項1D)。
そうすると、本件特許明細書に記載された試験結果から、本件訂正発明4、7及び9に係る医薬組成物が、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るために有効であることを当業者が認識できるように記載されていると認めることができる。
そして、上記認定は、患者の体重によって変わるものではないから、実施例にパロノセトロンが投与された患者の体重が記載されていないことは上記判断を左右しない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明4、7、及び9を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(5)本件訂正発明6、8及び10について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明6、8及び10に係る無効理由3の論旨は、概略、以下の(ア)、(イ)、(エ)のとおりのものである。
(ア)、(イ)前記(1)ア(ア)、(イ)及び(4)ア(ウ)で指摘したのと同じ理由がある。
(エ)本件訂正発明6、8及び10の「前記パロノセトロンがパロノセトロン塩酸塩として存在する」との発明特定事項については、本件訂正発明の特徴が裏付けられているとする本件特許明細書の実施例5に記載されておらず、本件訂正発明の医薬組成物がこのような特性や構造を有するものであることは何ら記載されていない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明6、8及び10について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 当合議体は以下に述べる理由から本件訂正発明6、8及び10の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)、(イ)について
前記(1)イ(ア)について、(イ)についての項で説示したとおりである。
(エ)について
ところで、本件特許明細書の高度に嘔吐発生性の化学療法誘導悪心および嘔吐を防止する単一静脈内投与量のパロノセトロンの作用を評価するヒト実験の試験方法において、患者に投与されたパロノセトロンが医薬として許容しうる塩の形態であることについて、本件特許明細書に明示的な記載はないものの、本件特許明細書の段絡0012、0074等の記載からみて、本件特許明細書に、「患者の体重kg当り10μg?30μgの量で」のパロノセトロンの医薬として許容される塩の投与もまた、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るために有効であることを当業者が認識できるように記載されているといえることは、前記(1)イ(ア)についての項で説示したとおりである。
そして、上記した本件特許明細書の段絡0012、0074等の記載からみて、パロノセトロン塩酸塩はパロノセトロンの医薬として許容される塩の一種であり、パロノセトロン投与の一形態であることを当業者は理解するといえる。以上によれば、本件特許明細書の上記試験結果に接した当業者であれば、パロノセトロンについて認められた薬理効果は、その投与形態であるパロノセトロンの医薬として許容される塩である、パロノセトロン塩酸塩についても同様に奏されると理解すると認められる。
よって、本件特許明細書には、「患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与する」量でのパロノセトロン塩酸塩の投与もまた、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」ることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明6、8及び10に関する無効理由3の点では、本件訂正発明6、8及び10を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められる。

(6)小括
以上のとおり、本件訂正発明1?4、6?10については、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当該発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められるから、本件訂正発明1?4、6?10に係る特許を無効理由3によって無効にすることはできない。

6-3.無効理由4について
(1)本件訂正発明1?4、6?10について
ア 請求人の主張する、本件訂正発明1?4、6?10に係る無効理由4の論旨は、概略、(ア)無効理由3で請求人が主張した本件特許明細書の記載上の不備の存在を理由とするもの、及び以下の(イ)のとおりのものである。
上記(イ)は、本件弁駁書(第2回)の第19頁第9行?第22頁第7行において新たに主張された特許法第36条第6項第1号に関する無効理由であり、請求の理由の要旨を変更する補正事項を含むものである。
しかし、該補正事項は、本件訂正請求に起因して必要になった補正であり、また、審理を遅延させるおそれがなく、特許法第131条の2第2項に規定される洋件を満たしていると認められるから、該補正事項を追加することによる請求の理由の補正については、これを許可する。

(イ)被請求人の主張によれば、本件訂正発明1?4、6?10は、パロノセトロン濃度を特定したことにより、貯蔵安定性が改善されたものである。
しかし、貯蔵安定性に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明に裏付けとなる安定性試験結果の記載があるとも、また、裏付けとなるような技術常識が存在していたとも認められない。
そして、乙2の1?乙2の3によっては、訂正発明における「パロノセトロン濃度が0.01?0.2mg/ml」であるとの構成要件を備えることで貯蔵安定性の顕著な効果が得られることは立証されていない。また、乙2の表2によれば、パロノセトロン溶液のpHが、2.0,5.0,7.4,10.0の範囲で貯蔵安定性の効果が大きく変動した結果が得られていることからも、パロノセトロン溶液のpHによる影響は大きいことは明らかであるから、パロノセトロン濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に選定することで、長期の貯蔵安定性を達成することは、本件出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明1?4、6?10の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

イ 当合議体は、以下に述べる理由から、本件訂正発明1?4、6?10の特許を無効理由3によって無効にすることはできないものと判断する。
(ア)について
請求人が主張する無効理由4は、上記のとおり無効理由3についての請求人の主張と同じ本件特許明細書の記載上の不備の存在を理由とするものであるから、無効理由3について説示した理由と同様に判断される。
(イ)について
請求人の主張はつまるところ、本件特許明細書には、パロノセトロン濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に選定することで、貯蔵安定性改善という効果を達成することについて、具体的な記載はないし、技術常識を参酌しても開示されているとはいえない、ことに基づくものである。

本件特許明細書には、同明細書記載の発明の目的に関し、以下の記載がある。
「【0010】
発明の目的
本発明の目的は、強化された効力を有し、そして不適当な副作用の発生率をより低くするより少ない投与量で投与できる5-HT_(3)レセプターアンタゴニストを使用して、嘔吐を抑制する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、化学療法剤または放射線療法により誘導される急性嘔吐および遅延嘔吐を抑制しかつ軽減する方法、およびこのような急性嘔吐および遅延嘔吐を抑制しかつ軽減する能力を有する薬剤を提供することである。
本発明の他の目的は、連続的24時間の期間においてほとんど任意の体重の患者に投与して即時型嘔吐および遅延型嘔吐を抑制できる、パロノセトロンの均一な規定された投与量を提供することである。
本発明のなお他の目的は、増加した血漿半減期および延長したin vivo 活性を有する5-HT_(3)アンタゴニストを提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、化学療法的養生法または放射線療法に先だって嘔吐抑制剤を投与するとき、前治療のためのウィンドウの大きさ増加することによって、より大きい柔軟性を提供することである。
本発明のなお他の目的は、嘔吐抑制剤を投与するとき、嘔吐抑制剤ボーラスの投与に必要な時間を短縮することによって、より大きい柔軟性を提供することである。
本発明のなお他の目的は、医師がパロノセトロンの不必要に増加した投与量を処方することを防止し、かつパロノセトロンが投与量の増加以外にパロノセトロンが有効であることが証明されないとき、医師が他の抗嘔吐剤に切り替えることを可能とすることによって、化学療法または放射線療法誘導嘔吐を治療する、いっそう明確に限定された養生法を提供することである。」

また、前記6-2(1)イ(ア)について、の項において指摘したとおり、段落0012には、発明の要約として、パロノセトロンが高度に嘔吐発生性の化学療法的養生法において急性嘔吐及び遅延嘔吐を軽減および防止することを発見した旨が記載されており、また、段落0070?0072には、高度に嘔吐発生性の化学療法誘導悪心および嘔吐を防止する単一静脈内投与量のパロノセトロンの作用を評価するヒト実験が行われ、その結果からパロノセトロンが急性嘔吐の治療において安全かつ有効であり、活性を5日間維持することが証明される旨が記載されている。

これら本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、本件特許明細書に記載された発明の課題は、高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能な医薬組成物を提供することであると認める。そして、該課題は、パロノセトロンの濃度を0.01?0.2mg/mlの範囲に特定した場合、もしくは該範囲内の0.05mg/mlである場合にも変わるものではないから、本件訂正発明1?4、6?10の課題もまた、高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能な医薬組成物を提供することであると認める。
そして、本件訂正発明1?4、6?10が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であること、並びに、本件特許明細書に、「パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物」又は「パロノセトロンの濃度が0.05mg/mlである注射用液体医薬組成物」であって、「患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロン又はその医薬として許容される塩を投与」した場合、「高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であ」るために有効であることが記載されているといえることは、前記6-2(1)?(5)の各イ、において説示したとおりである。
よって、本件訂正発明1?4、6?10は、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認める。

(2)小括
以上のとおり、本件訂正発明1?4、6?10は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件訂正発明1?4、6?10に係る特許を無効理由4によって無効にすることはできない。

6-4.無効理由5について
無効理由5も無効理由3で請求人が主張した本件特許明細書の記載上の不備の存在を理由とするものである。
しかしながら、無効理由3は、いわゆる実施可能要件に関するものであるところ、実施可能要件を満足しないことは、特許を受けようとする発明が明確でない理由とはならない。しかも、無効理由3が採用できないものであることは前記6-2において説示したとおりである。
以上のとおり、本件訂正発明1?4、6?10に、請求人が主張する記載上の不備はないから、本件訂正発明1?4、6?10の特許を無効理由5によって無効にすることはできない。

7.むすび
本件訂正請求による訂正を認める。
本件訂正発明5の特許についての特許無効審判請求は、却下する。
本件訂正発明1?4、6?10の特許は、無効理由1?5によって無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人及びその参加人の負担とすべきものである。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が約0.05mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前1時間より短い時間内に、10秒?60秒の期間にわたり静脈内ボーラスでパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
パロノセトロン又はその医薬として許容される塩、及び1又は複数の無菌の医薬として許容される注射用液体賦形剤を含んでなり、パロノセトロンの濃度が0.01?0.2mg/mlである注射用液体医薬組成物であって;
(a)高度に嘔吐発生性の化学療法からの嘔吐及びむかつきの5日間の治療が可能であり;
(b)患者の体重kg当り10μg?30μgの量でパロノセトロンを投与するためのものであり;そして
(c)化学療法の前10時間より短い時間内にパロノセトロンを単一投与するためのものである;
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項1又は4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項2又は7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記患者の体重の範囲が40?120kgである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記パロノセトロン又はその医薬として許容される塩がパロノセトロン塩酸塩として存在する、請求項3又は9に記載の医薬組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-10-30 
結審通知日 2018-11-01 
審決日 2018-12-14 
出願番号 特願2012-34259(P2012-34259)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A61K)
P 1 113・ 536- YAA (A61K)
P 1 113・ 537- YAA (A61K)
P 1 113・ 113- YAA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 公祐  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 前田 佳与子
穴吹 智子
登録日 2016-03-04 
登録番号 特許第5893950号(P5893950)
発明の名称 化学療法誘導嘔吐を治療するためのパロノセトロン  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 北村 明弘  
代理人 青木 篤  
代理人 新山 雄一  
代理人 藍原 誠  
代理人 福本 積  
代理人 中村 和美  
代理人 福本 積  
代理人 室伏 良信  
代理人 今村 正純  
代理人 中村 和美  
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