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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C04B
管理番号 1363361
審判番号 不服2019-6024  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-09 
確定日 2020-07-07 
事件の表示 特願2015- 47905「セラミックス回路基板」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-169111、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月11日の出願であって、平成30年11月21日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年1月25日付けで意見書が提出され、同年2月4日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和1年5月9日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。
1.(新規性)本願請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物である引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)本願請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物である引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2014-90144号公報

第3 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」といい、それらをまとめて「本願発明」という。)は、本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

「【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブから選択される少なくとも一種の活性金属と錫とを含有するAg-Cuろう材を介して接合されてなるセラミックス回路基板であって、ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】
セラミックス基板が窒化アルミニウムまたは窒化ケイ素からなることを特徴とする請求項1記載のセラミックス回路基板。」

第4 引用文献1に記載された事項と引用発明
引用文献1には、以下の(ア)?(ウ)の事項が記載されている(当審注:下線は当審で付した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。

(ア)「【請求項1】
セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック基板の鏡面光沢度が5.0以上、セラミック回路基板の接合ボイドが10%以下であって、セラミック回路基板のろう材層がAgを含有する合金中にCuを含有する合金が分散した構造を有し、その厚みが11?24μmであり、Ti化合物の厚みが0.4?0.6μmで、その占有面積が12?85%であることを特徴とするセラミック回路基板。
・・・
【請求項3】
基板表面の鏡面光沢度5.0以上のセラミック基板を用い、ろう材金属成分がAg及びCuを含有し、活性金属と成分としてTiH2の含有量が1?4質量%で、ろう材金属に含まれる酸素量が0.15質量%以下(0を含まず)であるろう材を用いて、真空度10-3Pa以下、接合温度780?810℃、保持時間10?30分で接合することを特徴とする請求項1または2記載のセラミック回路基板の製造方法。」

(イ)「【0022】
本発明に関わるセラミック回路基板の接合温度は、真空度10-3Pa以下の真空炉で780?810℃であることが好ましく、その保持時間は、いずれも10?30分であることが望ましい。接合温度がこれより低くかったり、保持時間を短かくした場合、Ti化合物の生成が十分にできないために部分的に接合できない場合があるためであり、逆に高温であったり、保持時間が長すぎる場合には、銅板へのろう材成分の拡散が進行し、ろう材層の厚みが薄くなり、応力緩和の効果が減ぜられ、セラミック基板にクラックを生じる場合があるためである。」

(ウ)「【実施例】
【0025】
実施例1?10 比較例1?10
Ag粉末(比表面積0.6m2/g、酸素量0.16質量%)、Cu粉末(比表面積0.7m2/g、酸素量0.05質量%)、TiH2粉末(特級試薬)、Sn粉末(特級試薬)を、表1に示す各種比率にて混合した。この粉末100質量部に、テレピネオール15質量部、ポリイソブチルメタクリレートのトルエン溶液を固形分として1.3質量部を三本ロールにて混合し、目開き20μmのナイロンメッシュを通過させ、ろう材ペーストを調整した。これを、厚み0.635mm×52mm×45mmの窒化アルミニウム基板(熱伝導率180W/mK、3点曲げ強度500MPa、鏡面光沢度15.2)の表面及び裏面に、ろう材層の厚み(乾燥後の厚み)が所望の厚みとなるようロールコーターを用いて塗布した。その後、表面に回路形成用銅板を、裏面に放熱板形成用銅板(いずれも無酸素銅板)を重ね、6.5×10^(-4)Paの真空炉中、400℃まで昇温し、真空度が5.0×10^(-3)Paになるまで保持した後、800℃まで昇温し20分保持した後、冷却速度5℃/minにて600℃まで冷却し、4時間保持した後、1℃/minにて冷却し、銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造した。
【0026】
接合体の回路形成用銅板に、スクリーン印刷によりUV硬化型エッチングレジストを回路パターンに印刷し、UV硬化させた後、さらに放熱面形状を印刷しUV硬化させた。これをエッチャントとして塩化第2銅水溶液にてエッチングをおこない、続いて60℃のチオ硫酸アンモニウム水溶液とフッ化アンモニウム水溶液で随時処理し、回路パターンと放熱板パターンを形成し、ろう材の金属成分やろう材厚の異なった回路基板の中間体を種々製造した。
【0027】
尚、比較例9では銅粉(比表面積2.1m^(2)/g、酸素量0.3質量%)に、実施例7,8及び比較例8では鏡面光沢度の異なる窒化アルミニウム基板に、また、実施例9、10及び比較例10ではセラミック基板を鏡面光沢度の異なる窒化けい素(熱伝導率90W/m・K、抗折強度710MPa)に変更した以外は実施例1と同様の処理をし、回路基板の中間体を製造した。
【0028】
ついで、無電解Ni-Pめっきを施した回路基板を製造し、以下の評価をおこなった。
・・・
【0033】
各試験評価結果を表1に示す。
【0034】


(エ)引用発明1
前記(ウ)において、セラミック回路基板の製法と表1の実施例1に注目すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「厚み0.635mm×52mm×45mmの窒化アルミニウム基板(熱伝導率180W/mK、3点曲げ強度500MPa、鏡面光沢度15.2)の表面及び裏面に、ろう材をロールコーターを用いて塗布し、その後、表面に回路形成用銅板を、裏面に放熱板形成用銅板(いずれも無酸素銅板)を重ね、6.5×10^(-4)Paの真空炉中、400℃まで昇温し、真空度が5.0×10^(-3)Paになるまで保持した後、800℃まで昇温し20分保持した後、冷却速度5℃/minにて600℃まで冷却し、4時間保持した後、1℃/minにて冷却して銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造し、当該接合体の回路形成用銅板に、スクリーン印刷によりUV硬化型エッチングレジストを回路パターンに印刷し、UV硬化させた後、さらに放熱面形状を印刷しUV硬化させ、これをエッチャントとして塩化第2銅水溶液にてエッチングをおこない、続いて60℃のチオ硫酸アンモニウム水溶液とフッ化アンモニウム水溶液で随時処理し、回路パターンと放熱板パターンを形成して回路基板の中間体とし、ついで、無電解Ni-Pめっきを施して製造した回路基板であって、ろう材金属成分が、Ag:87質量%、Cu:9質量%、TiH2:2質量%、Sn:2質量%、酸素量0.14質量であり、ろう材層の厚みが11μm、Ag/Cuピーク比が1.6であり、Ti化合物の厚みが0.5μm、占有面積が42%であるセラミック回路基板。」

(オ)引用発明2
前記(ア)より、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック基板の鏡面光沢度が5.0以上、セラミック回路基板の接合ボイドが10%以下であって、セラミック回路基板のろう材層がAgを含有する合金中にCuを含有する合金が分散した構造を有し、その厚みが11?24μmであり、Ti化合物の厚みが0.4?0.6μmで、その占有面積が12?85%であるセラミック回路基板。」

第5 対比・判断
1 原査定の理由1(新規性)について
(1)本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「窒化アルミニウム基板」、「回路形成用銅板」、「放熱板形成用銅板」、「TiH2」は、それぞれ本願発明1における「セラミックス基板」、「銅回路」、「銅放熱板」、「チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブから選択される少なくとも一種の活性金属」に相当し、引用発明1のろう材はAgとCuとが主要な成分であるから、本願発明1における「Ag-Cuろう材」に相当し、更に錫を含有するものである。
そうすると、両者は以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。

【一致点】
「セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブから選択される少なくとも一種の活性金属と錫とを含有するAg-Cuろう材を介して接合されてなるセラミックス回路基板。」である点。

【相違点】
本願発明1は「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満である」が、引用発明1は、当該発明の製法によって製造することで、セラミックス回路基板が係る構成を有するに至ったかが明らかではない点。

イ 引用発明1との相違点についての判断
以下、相違点について検討する。
引用発明1における、窒化アルミニウム基板への銅板の接合条件は、「6.5×10^(-4)Paの真空炉中、400℃まで昇温し、真空度が5.0×10^(-3)Paになるまで保持した後、800℃まで昇温し20分保持した後、冷却速度5℃/minにて600℃まで冷却し、4時間保持した後、1℃/minにて冷却し」たものである。
ここで、本願明細書の実施例には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【実施例】
【0027】
[実施例1]厚み0.32mmの窒化ケイ素からなるセラミックス基板に、銀粉末(福田金属箔粉工業(株)製:AgC-BO)90質量部および銅粉末(福田金属箔粉工業(株)製:SRC-Cu-20)10質量部の合計100質量部に対して、チタン((株)大阪チタニウムテクノロジーズ製:TSH-350)を3.5質量部及び錫(三津和薬品化学:すず(粉末)<-325mesh>)を3質量部含む活性金属ろう材を塗布し、回路面に厚み0.3mm、裏面に0.3mmの無酸素銅板を1.0×10-3Pa以下の真空中にて830℃且つ60分の条件で接合した。
・・・
【0032】
[比較例5]放熱銅板の接合に使用するろう材の銀粉末と銅粉末の比率を85質量部:15質量部とした以外は実施例1と同様に行った。


(イ)「【0033】



(ウ)「【0034】
表1に示す通り、真空度1×10^(-3)Pa以下、接合温度780℃?850℃且つ保持時間10?60分で接合した回路基板については、Ag成分の銅板への拡散距離が10?80μmであり、かつ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満であり、熱サイクル試験後の水平クラック発生率が1%未満となることを確認した。更に接合温度が780℃?830℃、保持時間10?60分で接合された回路基板は、Ag成分の銅板への拡散距離が10?60μm範囲内であり、熱サイクル試験後の水平クラック発生率が0.5%未満となることが認められた。
【0035】
一方、接合温度が780℃より小さい場合、または、接合時間が10分より短い場合は、Ag成分の銅板への拡散距離が10μm未満となり、銅板とセラミックス基板との接合が不十分となることが確認された。また接合温度が850℃より高い場合、または、接合時間が60分より長い場合は、Ag成分の銅板への拡散距離が長くなる結果、銅板硬度が高くなり熱サイクル性が低下することを確認した。
【0036】
また、比較例5については特性については問題なかったが、回路パターンの精度がその他の基板に対して悪化してしまった。

そうすると、前記(ア)?(ウ)から、以下の(a)及び(b)のことが示されているといえる。
(a)実施例1?13には、銀90質量部、銅10質量部の合計100質量部に対し、チタン3.5質量部、錫3質量部を含むろう材の接合条件を、接合温度780℃?850℃且つ保持時間10?60分間の間で変化させたことが示され、実施例1?8では、接合時間を60分で固定して接合温度を780℃から850℃の間で10℃刻みに変化させた場合の接合後のAgの拡散距離の値が、実施例9?13は接合温度を830℃で固定して接合時間を10?50分の間で10分刻みに変化させた場合の接合後のAgの拡散距離の値がそれぞれ示されており、これらの各実施例を対比すると、接合温度が低くなるか、接合時間が短くなるほどAg成分の銅板への拡散距離が短くなる。
(b)【0032】、【0036】及び比較例5から、放熱銅板の接合に使用するろう材の銀粉末と銅粉末の比率を、90質量%及び10質量%から85質量%及び15質量%に変化させたことにより、銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μmを超えるものとなり、回路パターンの精度が悪化した。

上記(a)を踏まえ、実施例1?13の各実施例におけるAg成分の銅板への拡散距離の変化の傾向から引用発明1におけるAg成分の銅板への拡散距離について検討するに、実施例1?8の比較から推測される接合温度を低下させた場合のAg成分の銅板への拡散距離に与える影響と、実施例9?13から推測される接合時間を短縮した場合のAg成分の銅板への拡散距離に与える影響とを、それぞれ接合温度が830℃で接合時間が20分である実施例10と、接合温度が800℃で接合時間が60分である実施例4に当てはめてみると、実施例10の接合後のAg拡散距離は銅回路側で24μm、銅放熱板側で25μmであるが、実施例1?8の傾向からみて、接合温度を800℃まで低下させた場合には、拡散距離は24、25μmから相当低下するものと推定されるし、実施例4の接合後のAg拡散距離は銅回路側で39μm、銅放熱板側で40μmであるが、実施例9?13の傾向からみて、同様に拡散距離は相当低下するものと推定される。
そして、実施例1?8または実施例9?13で示されている拡散距離の変化量が、それぞれ接合時間及び接合温度が異なる場合にも同程度の挙動を示すかは判然としないが、接合温度または接合時間を低下させた際の拡散距離の低下の程度が、それぞれ実施例10及び実施例4においても同程度であると仮定し、実施例10及び実施例4から接合温度を800℃かつ接合時間を20℃とした場合のAg成分の銅板への拡散距離に対する影響を推定すると、Ag成分の銅板への拡散距離が10μmを超えることが自明であるいえるほど、拡散距離に及ぼす影響が小さいとまでは認められない。
同様に、接合温度が830℃、接合時間が60分の実施例1と、接合温度が830℃、接合時間が20分の場合の実施例10との関係を、接合温度が800℃、接合時間が60℃である実施例4との関係に当てはめて、同程度のAg成分の銅板への拡散距離の低下が生じると仮定し、接合温度を800℃かつ接合時間を20℃とした場合の拡散距離に対する影響を推定すると、Ag成分の銅板への拡散距離が10μmを超えることが自明であるいえるほど、拡散距離に及ぼす影響が小さいとまでは認められない。
加えて、本願明細書の実施例及び比較例からは、真空度がAg成分の銅板への拡散距離に与える影響は判然としないものの、引用発明1の接合温度である800℃における真空度が5.0×10^(-3)Paであって、本願発明において好ましいとされる1.0×10^(-3)を超えていることも勘案すると、引用発明1において、Ag成分の銅板への拡散距離が10μmを超えていると認めるに足りる根拠が見いだせない。
つぎに、上記(b)の点を踏まえ、銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差について検討するに、本願明細書の比較例5は、放熱銅板の接合に使用するろう材の銀粉末と銅粉末の比率を90質量%及び10質量%から、85質量%及び15質量%に変化させたこと、すなわち、銀の比率を下げて銅の比率を高めたことにより、銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μmを超えたことを示す意図と認められる。
ここで、引用発明1の銀と銅の比率は87質量%:9質量%であり、比率でみれば本願発明の90:10より銀の比率が高いものである(換算すると、銀96.6:銅10となる。)が、本願明細書や引用文献1の記載からでは、銀の比率が高い場合に、銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満となるかは明らかではなく、また、そのような技術常識が存在したとも認められない。
さらに、本願発明1のろう材と引用発明1のろう材とは、銀と銅の絶対量や活性金属や錫の含有量についても相違し、本願明細書や引用文献1から、ろう材中の成分組成が銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差に及ぼす影響は明らかではなく、また、ろう材中の成分組成の差異が銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差に影響を及ぼさないという技術常識が存在したとも認められない。
そうすると、引用発明1において「銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満」であると認めるに足りる根拠が見いだせない。
以上のとおりであるから、引用発明1が「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満である」とはいえない。
したがって、本願発明1は引用発明1ではなく、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。

ウ 本願発明1と引用発明2との対比・判断
本願発明1と引用発明2とを対比すると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。

【一致点】
「セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブから選択される少なくとも一種の活性金属と錫とを含有するAg-Cuろう材を介して接合されてなるセラミックス回路基板。」である点。

【相違点】
本願発明1は「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満である」が、引用発明2は係る構成を有するものではない点。

したがって、本願発明1は引用発明2ではなく、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。

(2)本願発明2について
本願発明2は、本願発明1のすべての発明特定事項を有し、さらに技術的事項を付加したものであるから、上記と同様の理由により、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。

オ 小括
よって、本願発明1及び2は、引用発明1若しくは引用発明2ではないから、引用文献1に記載された発明ではない。

2 原査定の理由2(進歩性)について
事案に鑑み、まず、本願発明1と引用発明2との対比・判断を行う。

(1)本願発明1と引用発明2との対比・判断
前記1(1)ウでの検討のとおり、本願発明1は「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満である」が、引用発明2は係る構成を有するものではない点において相違する。
当該相違点について検討するに、前記第4(ア)の請求項3によれば、引用発明2に係るセラミックス回路基板の接合条件は、真空度10^(-3)Pa以下、接合温度780?810℃、保持時間10?30分であって、第4(イ)から、接合温度が低いか保持時間が短い場合には接合が不十分となり、接合温度が高いか保持時間が長い場合には、銅板へのろう材成分の拡散が進行してろう材層の厚みが薄くなり、セラミック基板にクラックを生じることが理解される。
しかし、前記第4(ア)及び(イ)には、ろう材層の成分や接合条件が「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離」や「銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差」に与える影響や、これらの発明特定事項がセラミックス回路基板の品質に与える影響について何ら記載ないし示唆がない。
そうすると、当業者といえども、引用文献1の記載によっては、本願発明2について「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満」となるような接合条件は理解し得ないし、そのような接合条件を採用する動機付けも見いだせない。
したがって、本願発明2は、引用発明2及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることできたものであるとはいえない。

(2)本願発明1と引用発明1との対比・判断
前記1(1)イでの検討のとおり、本願発明1は「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満である」が、引用発明1は、当該発明の製法によって製造することで、係る構成を有するに至ったかが明らかではない点において相違する。
当該相違点について検討するに、前記2(1)での検討のとおり、引用文献1には、ろう材層の成分や接合条件が「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離」や「銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差」に与える影響や、これらの発明特定事項がセラミックス回路基板の品質に与える影響について何ら記載ないし示唆がないのであるから、前記2(1)と同様の理由により、本願発明1は、引用発明1及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることできたものであるとはいえない。

(3)本願発明2について
本願発明2は、本願発明1のすべての発明特定事項を有し、さらに技術的事項を付加したものであるから、前記2(1)及び(2)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることできたものであるとはいえない。

(4)小括
よって、本願発明1及び2は、引用発明1若しくは引用発明2及び引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願請求項1及び2に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではなく、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-06-16 
出願番号 特願2015-47905(P2015-47905)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (C04B)
P 1 8・ 121- WY (C04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 櫛引 明佳
金 公彦
発明の名称 セラミックス回路基板  

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