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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1363704
審判番号 不服2018-9819  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-18 
確定日 2020-07-01 
事件の表示 特願2017-535892「電子装置の液浸転写」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月14日国際公開、WO2016/110362、平成30年 2月15日国内公表、特表2018-504779〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
本願は、2015年(平成27年)11月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年1月6日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成29年11月21日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月27日提出:意見書
平成30年 3月12日付け:拒絶査定
平成30年 7月18日提出:審判請求書
平成30年 7月18日提出:手続補正書
令和 元年 8月 9日付け:拒絶理由通知書(以下、この拒絶理由通知書で通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。)
令和 元年11月15日提出:意見書
令和 元年11月15日提出:手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「3Dオブジェクト上に電子装置を付与する液浸転写プロセスであって、前記液浸転写プロセスは、
箔提供段階で、固体担体に箔を提供するステップと、
前記箔提供段階の後、電子装置提供段階で、前記箔に電子配線及び電子構成要素を提供して、前記電子装置を提供するステップと、
前記電子装置提供段階の後、液体付与段階で、前記固体担体を除去し、前記固体担体が除去された後に前記箔を液体上又は液体中に配するステップと、
前記液体付与段階の後、転写段階で、前記電子装置を前記3Dオブジェクトに転写するステップとを含む、液浸転写プロセス。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由のうちの理由2(拡大先願)は、概略、本願の(本件補正前の)請求項1?12に係る発明は、その優先権主張の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願(引用出願1:特願2014-189263号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない、というものである。

第4 当合議体の判断
1 引用出願1の当初明細書等の記載
当審拒絶理由に引用された引用出願1(特願2014-189263号)の当初明細書等(特開2016-60089号公報参照)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した(【0019】冒頭の「タッチ位置検出機能付き表示装置」の下線、【0022】冒頭の「転写箔」の下線、【0041】冒頭の「タッチパネルセンサ」の下線、【0046】冒頭の「転写箔の製造方法」の下線及び【0056】冒頭の「タッチ位置検出機能付き表示装置の製造方法」の下線は除く。)。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体からの液圧を利用した転写によって被転写物上に複数の導電パターンを形成するための転写箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複雑な三次元形状を有する物品の表面を装飾する方法として、装飾層を含む転写箔を、水圧を利用して物品の表面に転写する水圧転写法が知られている。水圧転写法においては、例えば特許文献1に記載されているように、はじめに、水溶性あるいは水膨潤性の基材フィルムと、印刷などによって基材フィルム上に設けられた装飾層と、を含む転写箔が準備される。次に、有機溶剤からなる活性剤を装飾層上に塗布して、装飾層を膨潤、粘着化させる。また、基材フィルムを下方に向けた状態で転写箔を水面上に浮遊させ、転写箔に物品を押し付け、水圧によって転写箔を物品の表面に密着させる。その後、基材フィルムを除去する。このようにして、物品の表面に装飾層を転写することができる。
【0003】
また、装飾以外の用途で水圧転写法を利用することも提案されている。例えば特許文献2においては、導電性を有する複数の導電パターンを含む回路層を、水圧転写法を利用して物品の表面に転写し、これによって、物品の表面に導電パターンを形成することが提案されている。
【0004】
特許文献2に記載の転写箔は、水に対する可溶性を有する親水性基材フィルムと、親水性基材フィルム上に設けられ、油に対する可溶性を有する親油性基材フィルムと、親油性基材フィルム上に設けられた回路層と、を備えている。この場合、はじめに、転写箔を親水性溶媒中に漬け込み、転写箔を物品に密着させる。この際、親水性基材フィルムが親水性溶媒中に溶解する。次に、回路層および親油性基材フィルムが密着している物品を、親油性溶媒中に漬け込み、これによって、親油性基材フィルムを親油性溶媒中に溶解させる。これによって、物品の表面に複数の導電パターンが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-69503号公報
【特許文献2】特許第5472098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
導電性を有する上述の複数の導電パターンにおいては、通常、各導電パターンが互いに導通しないよう、各導電パターンが離間して配置されている。一方、上述の親水性基材フィルムや親油性基材フィルムなど、所定の液体に対する可溶性を有する基材フィルムは、液体に溶解するときに膨張することがある。このため、転写箔において複数の導電パターンが基材フィルム上に設けられている場合、基材フィルムが溶解する際に、基材フィルムの膨張に応じて各導電パターンの位置が互いに独立に変化してしまうことが考えられる。この結果、転写によって物品の表面に形成された複数の導電パターンにおいて、各導電パターンの間の相対的な位置関係が設計からずれてしまうことが考えられる。
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、高い位置精度で物品の表面に導電パターンを形成することができる転写箔および転写箔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液体からの液圧を利用した転写によって被転写物上に複数の導電パターンを形成するための転写箔であって、前記液体に対する可溶性または前記液体に起因する膨潤性を有する基材フィルムと、前記基材フィルム上に設けられた下地層と、少なくとも部分的に前記下地層上に設けられた回路層と、を備え、前記回路層は、少なくとも部分的に前記下地層上に設けられた複数の導電パターンを有し、前記下地層は、電子線照射、紫外線照射、電磁波照射、荷電粒子線照射または加熱によって硬化する硬化性樹脂から構成されている、転写箔である。
・・・(中略)・・・
【0013】
本発明は、液体からの液圧を利用した転写によって被転写物上に複数の導電パターンを形成するための転写箔の製造方法であって、前記液体に対する可溶性または前記液体に起因する膨潤性を有する基材フィルムを準備する工程と、前記基材フィルム上に下地層を設ける工程と、前記下地層上に回路層を設ける回路層形成工程と、を備え、前記回路層形成工程は、前記下地層上に複数の導電パターンを設ける導電パターン形成工程を有し、前記下地層は、電子線照射、紫外線照射、電磁波照射、荷電粒子線照射または加熱によって硬化する硬化性樹脂から構成されている、転写箔の製造方法である。
【0014】
本発明による転写箔の製造方法において、前記導電パターン形成工程は、前記下地層上に導電層を設ける導電層形成工程と、前記導電層をパターニングして前記導電パターンを形成する工程と、を含んでいてもよい。この場合、前記導電層形成工程においては、好ましくは、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、めっき法またはイオンプレーティング法によって前記導電層が形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明による転写箔において、液体に対する可溶性を有する基材フィルムと、複数の導電パターンを有する回路層との間には、電子線照射、紫外線照射、電磁波照射、荷電粒子線照射または加熱によって硬化する硬化性樹脂から構成された下地層が設けられている。このため、基材フィルムが液体に溶解したり、液体に起因して基材フィルムが膨張したりする場合であっても、基材フィルムの変化に起因して各導電パターンの位置が互いに独立に変化してしまうことを抑制することができる。このことにより、高い位置精度で被転写物の表面に導電パターンを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態におけるタッチ位置検出機能付き表示装置を示す展開図。
【図2】図2は、図1に示すタッチパネルセンサの回路層を示す平面図。
【図3】図3は、図2に示す回路層をIII線に沿って切断した場合を示す断面図。
【図4】図4は、回路層を備えた転写箔を示す断面図。
【図5】図5(a)?(d)は、転写箔を製造する方法の一例を示す図。
【図6】図6(a)?(d)は、転写箔を用いて被転写物の表面に回路層を転写する方法の一例を示す図。
【図7】図7は、転写箔の回路層が転写によって被転写物の湾曲面上に転写される例を示す断面図。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1乃至図5(a)?(d)を参照して、本発明の実施の形態の一例について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0018】
本実施の形態においては、転写箔に含まれる回路層が、タッチパネルセンサを構成するための導電パターンを少なくとも部分的に含む例について説明する。すなわち、水からの水圧を利用した水圧転写によって転写箔の回路層を被転写物上に転写することにより、被転写物上にタッチパネルセンサの導電パターンが少なくとも部分的に形成される例について説明する。
【0019】
タッチ位置検出機能付き表示装置
はじめに図1を参照して、転写箔からの転写によって形成されたタッチパネルセンサ32を備えたタッチ位置検出機能付き表示装置10について説明する。図1に示すように、タッチ位置検出機能付き表示装置10は、タッチパネルセンサ32と、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置15とを組み合わせることによって構成されている。タッチパネルセンサ32は、後述する転写箔からの水圧転写によって形成された回路層30によって少なくとも部分的に構成されている。例えばタッチパネルセンサ32は、表示装置15を保護するために表示装置15上に設けられるカバー部材17と、カバー部材の面のうち表示装置15と対向する側の面上に形成された回路層30と、を含んでいる。このように本実施の形態においては、カバー部材17が、転写箔からの転写によって回路層30が形成される被転写物となっている。
【0020】
図示された表示装置15は、フラットパネルディスプレイとして構成されている。表示装置15は、表示面16aを有した表示パネル16と、表示パネル16に接続された表示制御部(図示せず)と、を有している。表示パネル16は、映像を表示することができるアクティブエリアと、アクティブエリアを取り囲むようにしてアクティブエリアの外側に配置された非アクティブエリア(額縁領域とも呼ばれる)と、を含んでいる。表示制御部は、表示されるべき映像に関する情報を処理し、映像情報に基づいて表示パネル16を駆動する。表示パネル16は、表示制御部の制御信号に基づいて、所定の映像を表示面16aに表示する。すなわち、表示装置15は、文字や図等の情報を映像として出力する出力装置としての役割を担っている。なお図1においては、カバー部材17が表示パネル16と同様に平坦な形状を有し、そして回路層30がカバー部材17の平坦な面に転写される例が示されているが、これに限られることはない。後述するように、カバー部材17が湾曲面を有し、そして湾曲面上に回路層30が転写されてもよい。
【0021】
回路層30や表示装置15を適切に保護することができる限りにおいて、カバー部材17を構成する材料が特に限られることはない。例えば、ガラスやプラスチック材料などを用いてカバー部材17を構成することができる。
【0022】
転写箔
次に図4を参照して、タッチパネルセンサ32のカバー部材17上に転写される回路層30を備えた転写箔20について説明する。ここでは、転写箔20が、水圧転写用の転写箔である例について説明する。図4に示すように、転写箔20は、基材フィルム22と、基材フィルム22上に設けられた下地層24と、下地層24上に設けられた回路層30と、回路層30上に設けられた接着層26と、を備えている。
【0023】
(基材フィルム)
基材フィルム22は、水に対する可溶性または水に起因する膨潤性を有するよう構成されている。基材フィルム22を構成する材料としては、例えば上述の特許文献1に記載されているように、ポリビニルアルコール樹脂、・・・(中略)・・・等の各種水溶性ポリマーを挙げることができる。
・・・(中略)・・・
【0024】
基材フィルム22の厚みは、水に対する溶解性や、基材フィルム22上に設けられる回路層30の生産性、基材フィルム22自体の生産性などを考慮して設定されるが、例えば10μm?100μmの範囲内になっている。
【0025】
(下地層)
下地層24は、水圧転写の際に生じる基材フィルム22の溶解や膨張に起因して回路層30の各導電パターンの位置が変化してしまうことを抑制するための層である。例えば下地層24は、水に対する溶解性、および水に起因する膨潤性が、基材フィルム22に比べて低くなるよう、構成されている。例えば下地層24は、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物を含んでいる。
・・・(中略)・・・
【0031】
(回路層)
回路層30は、上述のように、タッチパネルセンサ32の導電パターンを構成するための層である。図4に示すように、回路層30は、回路層30は、第1絶縁層34上に設けられた複数の第1導電パターン41と、第1導電パターン41を少なくとも部分的に覆うよう下地層24上に設けられた第1絶縁層34と、第1絶縁層34上に設けられた複数の第2導電パターン46と、第2導電パターン46を少なくとも部分的に覆うよう第1絶縁層34上に設けられた第2絶縁層36と、を有している。回路層30の導電パターン41,46の具体的な配置等については、後述する。
【0032】
タッチ位置を検出する上で必要になる導電性を導電パターン41,46が有し、かつ、表示装置15からの映像光がタッチパネルセンサ32のアクティブエリアAa1を十分な透過率で透過することができる限りにおいて、導電パターン41,46を構成する材料が特に限られることはない。例えば導電パターン41,46が、透光性および導電性を有する金属酸化物からなる金属酸化物層によって構成されていてもよく、若しくは、金属材料からなる金属層によって構成されていてもよい。金属酸化物としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛、酸化インジウム、アンチモン添加酸化錫、フッ素添加酸化錫、アルミニウム添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、シリコン添加酸化亜鉛や、酸化亜鉛-酸化錫系、酸化インジウム-酸化錫系、酸化亜鉛-酸化インジウム-酸化マグネシウム系などの材料を挙げることができる。また金属材料としては、銀、銀合金、銅、銅合金などの材料を挙げることができる。なお導電パターン41,46が金属材料によって構成される場合、導電パターン41,46として、網目状に配置された金属細線からなる、いわゆるメッシュタイプのパターンが採用されてもよい。
【0033】
絶縁層34,36は、下地層24と同様に、透光性を有し、かつ電子線照射、紫外線照射または加熱によって硬化する硬化性樹脂から構成されている。第1絶縁層34は、下地層24と同様に、はじめに、硬化前の硬化性樹脂を含む塗膜を下地層24上に設け、その後、塗膜を硬化させることによって形成される。同様に第2絶縁層36は、はじめに、硬化前の硬化性樹脂を含む塗膜を第1絶縁層34上に設け、その後、塗膜を硬化させることによって形成される。このため、下地層24の場合と同様に、小さな厚みを有し、かつ所定の硬度を有する絶縁層34,36を得ることができる。従って、転写箔20の柔軟性および箔切れ性を十分に確保することができる。
【0034】
絶縁層34,36を構成する材料としては、下地層24を構成する材料と同様の材料を用いることができる。例えば絶縁層34,36を構成する材料として、アクリル系樹脂を用いることができる。
【0035】
第1絶縁層34の厚みは、第1導電パターン41を保護することができ、かつ転写箔20の柔軟性を十分に確保することができるよう設定される。また第2絶縁層36の厚みは、第2導電パターン46を保護することができ、かつ転写箔20の柔軟性を十分に確保することができるよう設定される。例えば第1絶縁層34の厚みおよび第2絶縁層36の厚みはそれぞれ、3?10μmの範囲内になっている。また、第1絶縁層34および第2絶縁層36を含む絶縁層全体の厚みは、例えば6?20μmの範囲内になっている。
・・・(中略)・・・
【0040】
(接着層)
接着層26は、カバー部材17に対する回路層30の密着性を高めるために設けられる層である。例えば接着層26は、水圧転写用の転写箔において一般に用いられる活性剤組成物を含んでいる。活性剤組成物とは、水に溶解することや、水に起因して膨潤することによって軟化するよう構成された組成物である。活性剤組成物としては、例えば上述の特許文献1に記載されているように、エステル類、アセチレングリコール類、エーテル類などの溶剤に樹脂を溶解させることにより得られる組成物を用いることができる。接着層26の厚みは、例えば1?3μmの範囲内になっている。
【0041】
タッチパネルセンサ
次に図2および図3を参照して、転写箔20の回路層30が転写されたタッチパネルセンサ32について説明する。図2は、タッチパネルセンサ32を回路層30側から見た場合を示す平面図である。図3は、図2のタッチパネルセンサ32の回路層30を図2のIII線に沿って切断した場合を示す断面図である。図3に示すように、転写箔20は、接着層26が被転写物17に面するように被転写物17に取り付けられる。また転写箔20の基材フィルム22は水圧転写の際に除去されるので、タッチパネルセンサ32の最表面は、転写箔20の基材フィルム22と回路層30との間に設けられていた下地層24によって構成されている。
【0042】
以下、回路層30の導電パターン41,46の配置等について、図2を参照して説明する。ここでは、回路層30によって構成されるタッチパネルセンサ32が、投影型の静電容量結合方式のタッチパネルセンサとして構成される例について説明する。なお、「容量結合」方式は、タッチパネルの技術分野において「静電容量」方式や「静電容量結合」方式等とも呼ばれており、本件では、これらの「静電容量」方式や「静電容量結合」方式等と同義の用語として取り扱う。典型的な静電容量結合方式のタッチパネルセンサは、導電性のパターンを有しており、外部の導体(典型的には人間の指)がタッチパネルセンサに接近することにより、外部の導体とタッチパネルセンサの導電性のパターンとの間でコンデンサ(静電容量)が形成される。そして、このコンデンサの形成に伴った電気的な状態の変化に基づき、タッチパネルセンサ上において外部導体が接近している位置(タッチ位置)の位置座標が特定される。
【0043】
図2に示すように、各第1導電パターン41は、アクティブエリアAa1内に配置され、第1方向D1に沿って延びる第1センサ電極42と、アクティブエリアAa1の周辺に位置する非アクティブエリアAa2内に配置され、第1センサ電極42に電気的に接続された第1額縁配線43と、を有している。また各第2導電パターン46は、アクティブエリアAa1内に配置され、第1方向D1に交差する第2方向D2に沿って延びる第2センサ電極47と、非アクティブエリアAa2内に配置され、第2センサ電極47に電気的に接続された第2額縁配線48と、を有している。第2方向D2は例えば、第1方向D1に直交する方向となっている。
【0044】
図3に示すように、カバー部材17上に転写された後の下地層24は、カバー部材17とは反対側に位置するタッチパネルセンサ32の表面側から、第1導電パターン41の第1センサ電極42および第2導電パターン46の第2センサ電極47を覆うようになる。すなわち下地層24が、第1導電パターン41の第1センサ電極42および第2導電パターン46の第2センサ電極47を保護する保護層として機能する。なお図示はしないが、第1導電パターン41の第1額縁配線43や第2導電パターン46の第2額縁配線48も、下地層24によって覆われていてもよい。この際、導電パターン41,46からの信号を外部に取り出せるようにするため、額縁配線43,48はそれぞれ少なくとも部分的に下地層24から露出していてもよい。また、導電パターン41,46からの信号を外部に取り出すための貫通孔が下地層24に形成されていてもよい。
【0045】
本実施の形態によれば、上述のように、電子線照射によって硬化する硬化性樹脂を用いて下地層24および絶縁層34,36を構成することにより、下地層24および絶縁層34,36の厚みを小さくすることができる。このことは、以下に説明するように、特にタッチパネルセンサ32が相互容量方式のタッチパネルセンサである場合に有利に作用する。
相互容量方式の場合、センサ電極42,47の一方が、外部の制御回路から伝達される駆動電圧が印加される駆動電極となり、センサ電極42,47の他方が、センサ電極42,47の一方を通った駆動電圧を制御回路へ戻す検出回路になる。例えば、第1センサ電極42が駆動電極であり、第2センサ電極47が検出電極である場合について考える。この場合、駆動電圧は、第1センサ電極42と第2センサ電極47との間の容量結合によって、第1センサ電極42から第2センサ電極47へ伝達される。
ここで本実施の形態において、第2センサ電極47は、第1センサ電極42を覆う第1絶縁層34上に設けられている。また、硬化性樹脂、例えば電子線照射によって硬化する硬化性樹脂を用いて第1絶縁層34を構成することにより、第1絶縁層34の厚みを小さくすることができる。このため、従来のように誘電体の一方の側の面に駆動電極が設けられ誘電体の他方の側の面に検出電極が設けられる場合に比べて、駆動電極(第1センサ電極42)と検出電極(第2センサ電極47)との間の距離を小さくすることができる。これによって、駆動電極と検出電極との間の静電容量を大きくすることができ、このことにより、タッチ位置の検出感度を高めることができる。この結果、駆動電圧として必要な振幅を従来よりも低減させることができるので、タッチパネルセンサ32の消費電力を低減することが可能である。また、駆動電極と検出電極との間における電圧降下の程度が小さくなるので、駆動電圧の電圧が従来と同等である場合、タッチパネルセンサ32を大型化することが可能である。」

(3)「【0046】
転写箔の製造方法
次に、以上のような構成からなる転写箔20を製造する方法について、図5(a)?(d)を参照して説明する。
【0047】
(下地層形成工程)
はじめに基材フィルム22を準備する。次に図5(a)に示すように、基材フィルム22の一方の側の面上に下地層24を設ける。下地層24を設ける下地層形成工程においては、例えば、はじめに、アクリル系樹脂などの硬化性樹脂を含む塗膜を基材フィルム22上に設ける。次に、塗膜に電子線を照射することにより、硬化性樹脂を含む塗膜を硬化させる硬化工程を実施する。このようにして、所定の硬度を有し、かつ厚みの小さな下地層24を基材フィルム22上に形成することができる。
【0048】
(回路層形成工程)
次に、下地層24上に回路層30を形成する回路層形成工程を実施する。はじめに図5(b)に示すように、下地層24上に複数の第1導電パターン41を形成する第1導電パターン形成工程を実施する。
【0049】
〔第1導電パターン形成工程〕
具体的には、はじめに、導電性を有する導電層を下地層24の一方の側の面上に設ける導電層形成工程を実施する。次に、導電層上に、第1導電パターン41に対応するパターンを有するレジストを設ける。その後、ウェットエッチングによって導電層をパターニングすることにより、複数の第1導電パターン41を得ることができる。
下地層24上に導電層を形成する方法が特に限られることはなく、様々な成膜方法を用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、めっき法またはイオンプレーティング法などを用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0053】
〔第1絶縁層形成工程〕
その後、図5(c)に示すように、複数の第1導電パターン41を覆うよう下地層24上に第1絶縁層34を形成する第1絶縁層形成工程を実施する。第1絶縁層形成工程においては、上述の下地層形成工程と同様に、例えば、はじめに、アクリル系樹脂などの硬化性樹脂を含む塗膜を下地層24上に設ける。次に、塗膜に電子線を照射することにより、硬化性樹脂を含む塗膜を硬化させる硬化工程を実施する。このようにして、第1導電パターン41を覆い、所定の硬度を有し、かつ厚みの小さな第1絶縁層34を下地層24上に形成することができる。この第1絶縁層34は、第1導電パターン41と後述する第2導電パターン46とが導通することを防ぐという役割を果たすことができる。また第1絶縁層34は、下地層24に対して第1導電パターン41をより強固に固定するという役割も果たしている。
【0054】
その後、図5(d)に示すように、第1絶縁層34上に複数の第2導電パターン46を形成する第2導電パターン形成工程と、複数の第2導電パターン46を覆うよう第1絶縁層34上に第2絶縁層36を形成する第2絶縁層形成工程と、を実施する。第2導電パターン形成工程および第2絶縁層形成工程は、上述の第1導電パターン形成工程および第1絶縁層形成工程と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0055】
次に、回路層30の一方の側に、具体的には回路層30の第2絶縁層36上に接着層26を設ける接着層形成工程を実施する。このようにして、図4に示す転写箔20を得ることができる。
【0056】
タッチ位置検出機能付き表示装置の製造方法
次に、得られた転写箔20を用いて、タッチ位置検出機能付き表示装置10を製造する方法について、図6(a)?(d)を参照して説明する。
【0057】
はじめに図6(a)に示すように、水51が収容された水槽52を準備する。次に基材フィルム22を水51側に向けた状態で、転写箔20を水面上に浮遊させる。その後、図6(b)に示すように、回路層30が転写される被転写物、ここではカバー部材17を、転写箔20の接着層26に接触させる。次に図6(c)に示すように、カバー部材17を下方へ押圧することにより、転写箔20を水中に漬け込む。これによって、転写箔20が水圧によってカバー部材17側へ押されるようになり、このことにより、転写箔20をカバー部材17の表面に密着させることができる。その後、カバー部材17を水51から引き上げることにより、図6(d)に示すように、回路層30が転写されたカバー部材17を得ることができる。なお転写箔20の基材フィルム22は、少なくとも部分的に水に溶解するか、若しくは、水に起因して膨潤しており、この結果、基材フィルム22は、少なくとも部分的に除去されているか、若しくは除去され易い状態になっている。その後、基材フィルム22を十分に除去するための洗浄工程を実施してもよい。
【0058】
ここで本実施の形態によれば、上述のように、転写箔20の基材フィルム22と回路層30との間には、透光性を有し、かつ電子線照射、紫外線照射、電磁波照射、荷電粒子線照射または加熱によって硬化する硬化性樹脂から構成された下地層24が設けられている。このため、基材フィルム22が水に溶解したり、水に起因して基材フィルム22が膨張したりする場合であっても、基材フィルム22の変化に起因して回路層30の各導電パターン41,46の位置が互いに独立に変化してしまうことを抑制することができる。このことにより、高い位置精度で被転写物17の表面に導電パターン41,46を形成することができる。なお上述の絶縁層34,36によっても、導電パターン41,46の位置ずれが抑制され得る。
【0059】
また本実施の形態において、水圧転写の際に導電パターン41,46の位置がずれるのを抑制するという役割を果たした下地層24は、水圧転写の後には、タッチパネルセンサ32の最表面を構成するようになる。従って、タッチパネルセンサ32の最表面に導電パターン41,46が露出してしまうことを少なくとも部分的に防ぐことができる。このように下地層24は、水圧転写の際の導電パターン41,46の位置ずれを抑制するという役割だけでなく、カバー部材17上に転写された後の回路層30を保護するという役割も果たすことができる。これによって、高い品質を備えた回路層30を含むタッチパネルセンサ32を得ることができる。
【0060】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、図面を参照しながら、いくつかの変形例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。また、上述した実施の形態において得られる作用効果が変形例においても得られることが明らかである場合、その説明を省略することもある。
【0061】
(被転写物の変形例)
上述の本実施の形態においては、カバー部材17の平坦な面に回路層30が転写される例を示したが、これに限られることはない。例えば図7に示すように、カバー部材17が湾曲面19を有し、この湾曲面19上に回路層30が転写されてもよい。被転写物17が湾曲面19のような三次元的な形状を有する場合であっても、水圧転写によれば、水圧を利用することによって、転写箔20を万遍なく被転写物17に密着させることができる。このため、カバー部材17の表面に適切に回路層30を形成することができる。これによって、例えば、車のダッシュボードの湾曲面に沿ったタッチパネルセンサ32を作製することが可能になる。なお図7においては、外方に向かって凸となる湾曲面19上に回路層30が形成される例を示したが、これに限られることはなく、図示はしないが、内方に向かって凹んでいる湾曲面上に回路層30を形成することもできる。
・・・(中略)・・・
【符号の説明】
【0070】
10 タッチ位置検出機能付き表示装置
15 表示装置
17 カバー部材(被転写物)
20 転写箔
22 基材フィルム
24 下地層
26 接着層
30 回路層
34 第1絶縁層
36 第2絶縁層
41 第1導電パターン
46 第2導電パターン」

(4)「











2 引用先願発明
前記1(1)?(4)によると、引用出願1の当初明細書等には、転写箔20を用いて、タッチ位置検出機能付き表示装置10を製造する方法として、次の発明(以下、「引用先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「得られた転写箔20を用いて、タッチ位置検出機能付き表示装置10を製造する方法であって、
転写箔20は、
水に対する可溶性または水に起因する膨潤性を有する基材フィルム22を準備し、次に、基材フィルム22の一方の側の面上に下地層24を設け、次に、下地層24上に複数の第1導電パターン41を形成し、各第1導電パターン41は、第1センサ電極42と第1センサ電極42に電気的に接続された第1額縁配線43とを有し、その後、複数の第1導電パターン41を覆うよう下地層24上に第1絶縁層34を形成し、その後、第1絶縁層34上に複数の第2導電パターン46を形成し、各第2導電パターン46は、第2センサ電極47と第2センサ電極47に電気的に接続された第2額縁配線48とを有し、その後、複数の第2導電パターン46を覆うよう第1絶縁層34上に第2絶縁層36を形成して、下地層24上に回路層30が形成され、回路層30によりタッチ位置検出機能を有するタッチパネルセンサ32が構成され、次に、回路層30の第2絶縁層36上に接着層26を設けることにより得られ、
基材フィルム22を水51側に向けた状態で、得られた転写箔20を水面上に浮遊させ、その後、回路層30が転写される被転写物である、湾曲面19のような三次元的な形状を有するカバー部材17を、転写箔20の接着層26に接触させ、次に、カバー部材17を下方へ押圧することにより、転写箔20を水中に漬け込み、転写箔20をカバー部材17の表面に密着させ、その後、カバー部材17を水51から引き上げることにより回路層30が転写されたカバー部材17を得て、その後、基材フィルム22を十分に除去するための洗浄工程を実施する、
方法。」

3 対比
本願発明と引用先願発明とを対比する。

(1)引用先願発明の「基材フィルム22」は「水に対する可溶性または水に起因する膨潤性を有する」ものであり、その材料として、ポリビニルアルコール樹脂が例示され(引用出願1の当初明細書等【0023】)、厚みとして、10μm?100μmが例示されている(同【0024】)。また、引用先願発明は「基材フィルム22を水51側に向けた状態で、得られた転写箔20を水面上に浮遊させ」るものである。さらに、「基材フィルム22」は「洗浄」により「十分に除去」されるものである。
一方、本願発明の「箔」は、「液体付与段階で液体に溶解することができる比較的薄い層であ」(本願明細書【0021】)り、「特定の実施形態では、」「液溶性材料を含」み、「水、又は水性液体に溶解性の箔の材料は、ポリビニルアルコール(PVA)とすることができる」(同【0022】)。また、本願発明は「箔を液体上又は液体中に配するステップ」を含む。さらに、「箔」は濯ぎ落とされることが想定されている(同【0053】)。
そうすると、引用先願発明の「基材フィルム22」は、本願発明の「箔」に相当する。

(2)ア 引用先願発明の「回路層30」は、複数の、「第1センサ電極42と第1センサ電極42に電気的に接続された第1額縁配線43とを有」する「第1導電パターン41」、「第1絶縁層34」、複数の、「第2センサ電極47と第2センサ電極47に電気的に接続された第2額縁配線48とを有」する「第2導電パターン46」及び「第2絶縁層36」を備え、「回路層30によりタッチ位置検出機能を有するタッチパネルセンサ32が構成され」る。
一方、本願明細書の、「本明細書における「電子装置」という用語は、電子配線及び電子構成要素を指すことができる」(【0018】)、「本発明は、電子配線のみを、3Dオブジェクト、及び/又は電子タッチボタンなどの受動電子構成要素(これらの要素は、任意選択で、ボタンを示し、且つ/又はボタン又はシステムの状態を示すための固体光源、或いは接触を感知するセンサなどの能動素子を含むこともある)に付与するために使用することもできる。したがって、(液浸転写プロセス又は3Dオブジェクトなどの)実施形態では、電子構成要素は、固体光源、センサ、電子太陽電池、電子タッチボタン、バッテリのフットプリント、固体状態電力蓄積デバイス(例えばスーパーキャパシタ)、電気的インタフェース(コネクタ)、抵抗器、インダクタ、コンデンサなどの受動構成要素などのうちの1つ又は複数を含む」(【0019】)等の記載からすると、本願発明の「電子装置」には、配線及びセンサが含まれることになる。
そうすると、引用先願発明の「額縁配線」及び「センサ電極」は、それぞれ本願発明の「電子配線」及び「電子構成要素」に相当する。また、引用先願発明の「額縁配線」及び「センサ電極」を備える「回路層30」は、本願発明の「電子配線」及び「電子構成要素」である「電子装置」に相当する。

イ 引用先願発明において、「基材フィルム22」の上に(「下地層24」を介して)「額縁配線」及び「センサ電極」を形成することは、「基材フィルム22」の上に「額縁配線」及び「センサ電極」を備える「回路層30」をセンサ用途で供すること、すなわち提供することであるということもできる。
そして、前記アを踏まえると、引用先願発明の「基材フィルム22の一方の側の面上に下地層24を設け、次に、下地層24上に複数の第1導電パターン41を形成し、各第1導電パターン41は、第1センサ電極42と第1センサ電極42に電気的に接続された第1額縁配線43とを有し、その後、複数の第1導電パターン41を覆うよう下地層24上に第1絶縁層34を形成し、その後、第1絶縁層34上に複数の第2導電パターン46を形成し、各第2導電パターン46は、第2センサ電極47と第2センサ電極47に電気的に接続された第2額縁配線48とを有し、その後、複数の第2導電パターン46を覆うよう第1絶縁層34上に第2絶縁層36を形成して、下地層24上に回路層30が形成」されることと、本願発明の「前記箔提供段階の後、電子装置提供段階で、前記箔に電子配線及び電子構成要素を提供して、前記電子装置を提供するステップ」とは、「電子装置提供段階で、前記箔に電子配線及び電子構成要素を提供して、前記電子装置を提供するステップ」である点で共通する。

(3)引用先願発明は、「基材フィルム22を水51側に向けた状態で、得られた転写箔20を水面上に浮遊させ」る。これは、転写箔20が得られた後、すなわち「基材フィルム22」に「回路層30」が形成された後、「基材フィルム22」を液体である「水」上に配して、水を付与することであるといえる。
そうすると、引用先願発明の「基材フィルム22を水51側に向けた状態で、得られた転写箔20を水面上に浮遊させ」ることと、本願発明の「前記電子装置提供段階の後、液体付与段階で、前記固体担体を除去し、前記固体担体が除去された後に前記箔を液体上又は液体中に配するステップ」とは、「前記電子装置提供段階の後、液体付与段階で」、「前記箔を液体上又は液体中に配するステップ」という点で共通する。

(4)引用先願発明の「湾曲面19のような三次元的な形状を有するカバー部材17」は、3次元物体である。また、引用先願発明は、「基材フィルム22を水51側に向けた状態で、得られた転写箔20を水面上に浮遊させ、その後、回路層30が転写される被転写物である、湾曲面19のような三次元的な形状を有するカバー部材17を、転写箔20の接着層26に接触させ、次に、カバー部材17を下方へ押圧することにより、転写箔20を水中に漬け込み、転写箔20をカバー部材17の表面に密着させ、その後、カバー部材17を水51から引き上げることにより回路層30が転写されたカバー部材17を得て」いる。これは、「基材フィルム22」を液体である「水」上に配して、水を付与した後、「回路層30」を3次元物体である「湾曲面19のような三次元的な形状を有するカバー部材17」に転写することであるといえる。
そうすると、引用先願発明の「基材フィルム22を水51側に向けた状態で、得られた転写箔20を水面上に浮遊させ、その後、回路層30が転写される被転写物である、湾曲面19のような三次元的な形状を有するカバー部材17を、転写箔20の接着層26に接触させ、次に、カバー部材17を下方へ押圧することにより、転写箔20を水中に漬け込み、転写箔20をカバー部材17の表面に密着させ、その後、カバー部材17を水51から引き上げることにより回路層30が転写されたカバー部材17を得」ることは、本願発明の「前記液体付与段階の後、転写段階で、前記電子装置を前記3Dオブジェクトに転写するステップ」に相当する。

(5)引用先願発明の「得られた転写箔20を用いて、タッチ位置検出機能付き表示装置10を製造する方法」は、「転写箔20」を液体である「水」に浸して「転写」することにより、3次元物体である「湾曲面19のような三次元的な形状を有するカバー部材17」に「回路層30」を形成する方法であるともいえる。
そうすると、引用先願発明の「得られた転写箔20を用いて、タッチ位置検出機能付き表示装置10を製造する方法」は、本願発明の「3Dオブジェクト上に電子装置を付与する液浸転写プロセス」に相当する。

4 一致点
上記3によると、本願発明と引用先願発明は次の点で一致する。

「3Dオブジェクト上に電子装置を付与する液浸転写プロセスであって、前記液浸転写プロセスは、
電子装置提供段階で、前記箔に電子配線及び電子構成要素を提供して、前記電子装置を提供するステップと、
前記電子装置提供段階の後、液体付与段階で、前記箔を液体上又は液体中に配するステップと、
前記液体付与段階の後、転写段階で、前記電子装置を前記3Dオブジェクトに転写するステップとを含む、液浸転写プロセス。」

5 相違点
他方、本願発明と引用先願発明とは、次の点で一応相違する。

(相違点)
本願発明は「箔提供段階で、固体担体に箔を提供するステップ」、「前記箔提供段階の後、電子装置提供段階で、前記箔に電子配線及び電子構成要素を提供して、前記電子装置を提供するステップ」、及び「前記電子装置提供段階の後、液体付与段階で、前記固体担体を除去し、前記固体担体が除去された後に前記箔を液体上又は液体中に配するステップ」を含むのに対し、引用先願発明はそのようなステップを含むのかが一応明らかでない点。なお、下線は、相違点を明確にするために、当合議体が付した。

6 判断
前記相違点について検討する。
(1)引用先願発明は「水に対する可溶性または水に起因する膨潤性を有する基材フィルム22を準備」する工程を有する。ここで、「基材フィルム22の厚みは、」「例えば10μm?100μmの範囲内になって」(引用出願1の当初明細書等【0024】)おり、「基材フィルム22」は薄いものである。この薄い「基材フィルム22」を宙に浮かせておくことは想定できず、また、「基材フィルム22」の上には「下地層24」、「回路層30」等が形成されるから、技術的にみて、「基材フィルム22」を「準備」するに際し、「基材フィルム22」を支持する部材、すなわち担う部材(本願発明の「固体担体」に相当する部材)が必要となるといえる。そうすると、引用先願発明の「水に対する可溶性または水に起因する膨潤性を有する基材フィルム22を準備」する段階においては、「基材フィルム22」を支持する部材に「基材フィルム22」を支持させている、すなわち「基材フィルム22」を支持する部材に「基材フィルム22」を供しているといえる。
したがって、引用先願発明は、本願発明の「箔提供段階で、固体担体に箔を提供するステップ」に相当するステップを含んでいる。
なお、転写用フィルムに、「基材フィルム22」のような水等の液体に溶ける部材(フィルム・層)を支持する部材(フィルム・層)を設けることは、周知技術であり(例えば、特許第5584374号公報の【0013】-【0027】、【図1】-【図6】、特開2004-291439号公報の【0001】【発明の実施の形態】、【図1】-【図3】等を参照のこと。)、新たな効果を奏するものではない。

(2)引用先願発明において、「基材フィルム22」の上に「額縁配線」及び「センサ電極」を備える「回路層30」を形成するのは、「基材フィルム22」を支持する部材に「基材フィルム22」を供した後(本願発明でいう、「前記箔提供段階の後」)であるといえる。

(3)引用先願発明は、「基材フィルム22を水51側に向けた状態で、得られた転写箔20を水面上に浮遊させ」る。そうすると、「基材フィルム22」を「水」上に配するのは、「基材フィルム22」が「基材フィルム22」を支持する部材から離された後、すなわち「基材フィルム22」を支持する部材を除去し、「基材フィルム22」を支持する部材が除去された後(本願発明でいう、「前記固体担体を除去し、前記固体担体が除去された後」)であるといえる。

(4)前記(1)?(3)により、前記相違点は実質的な相違点ではない。
したがって、本願発明は引用先願発明と同一である。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、その優先権主張の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた引用出願1(特願2014-189263号)の当初明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-30 
結審通知日 2020-02-04 
審決日 2020-02-18 
出願番号 特願2017-535892(P2017-535892)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
P 1 8・ 161- WZ (H05K)
P 1 8・ 537- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
関根 洋之
発明の名称 電子装置の液浸転写  
代理人 特許業務法人M&Sパートナーズ  

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