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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06Q
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06Q
審判 全部申し立て 2項進歩性  G06Q
管理番号 1363960
異議申立番号 異議2019-700539  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-09 
確定日 2020-05-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6454793号発明「健全度判定装置、健全度判定方法および健全度判定プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6454793号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕,〔12,13〕について訂正することを認める。 特許第6454793号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6454793号の請求項1?13に係る特許についての出願は,2016年(平成28年)8月17日(優先権主張 平成27年9月16日)を国際出願日とする出願であって,平成30年12月21日にその特許権の設定登録がされ,平成31年1月16日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議申立ての経緯は,次のとおりである。
令和 元年 7月 9日 :特許異議申立人田中貞嗣,小山卓志(以下,「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 元年10月18日付け:取消理由通知
令和 元年12月18日 :特許権者による意見書・訂正請求書の提出
令和 2年 2月 5日 :申立人による意見書の提出


第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
令和元年12月18日付け本件訂正請求による訂正の内容は,以下の(1)?(5)のとおりである。

(1)請求項1に係る訂正について(訂正事項1)
ア 訂正前請求項1の「前記建造物の損傷の部位との相対的位置関係」を「前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離」に訂正する。

イ 訂正前請求項1の「と,を備える健全度判定装置。」を「と,を備え,前記重要部位の位置は,前記建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置である,健全度判定装置。」に訂正する。

(2)請求項2に係る訂正について(訂正事項2)
訂正前請求項2の「前記建造物の損傷の部位との間の距離」を「前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離」に訂正する。

(3)請求項3に係る訂正について(訂正事項3)
訂正前請求項3の「前記建造物の損傷の部位との相対的位置関係」を「前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離」に訂正する。

(4)請求項5に係る訂正について(訂正事項4)
訂正前請求項5の「前記建造物の損傷の部位との間の距離」を「前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離」に訂正する。

(5)請求項12に係る訂正について(訂正事項5)
ア 訂正前請求項12の「前記建造物の損傷の部位との相対的位置関係」を「前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離」に訂正する。

イ 訂正前請求項12の「と,を備える健全度判定方法。」を「と,を備え,前記重要部位の位置は,前記建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置である,健全度判定方法。」に訂正する。

本件訂正請求のうち,上記(1)?(4)は,一群の請求項〔1?11〕に対して請求されたものであり,上記(5)は,一群の請求項〔12,13〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1に係る訂正について(訂正事項1)
上記1(1)アは,「損傷の部位」との不明確な記載を「損傷の部位の位置」との明確な記載に訂正するとともに「前記建造物の損傷の部位との相対的位置関係」との不明確な記載を「前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離」との明確な記載に訂正するものであり,また,上記1(1)イは,「重要部位の位置」が「前記建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置」である点を明確にするものであるから,いずれも,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,上記1(1)ア,イは,本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでなく,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないと認められる。

(2)請求項2に係る訂正について(訂正事項2)
請求項2の記載を上記1(1)アによる訂正後の請求項1の記載に対応させて明確にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また,本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでなく,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないと認められる。

(3)請求項3に係る訂正について(訂正事項3)
請求項3の記載を上記1(1)アによる訂正後の請求項1の記載に対応させて明確にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また,本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでなく,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないと認められる。

(4)請求項5に係る訂正について(訂正事項4)
請求項5の記載を上記1(1)アによる訂正後の請求項1の記載に対応させて明確にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また,本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでなく,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないと認められる。

(5)請求項12に係る訂正について(訂正事項5)
請求項1に対する訂正事項1に対応する内容であり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,上記1(5)ア,イは,本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでなく,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないと認められる。

3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?11〕,〔12,13〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明1?13

本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る発明(以下,それぞれ,「本件発明1」?「本件発明13」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は,特許権者が付与した訂正箇所。)。

[本件発明1]
任意の建造物の表面を被写体とした撮影画像から1または複数の前記建造物の損傷の部位を抽出する損傷部位抽出手段と,
前記撮影画像における前記建造物の構造上の重要部位の位置を決定する重要部位位置決定手段と,
前記重要部位位置決定手段が決定した前記建造物の重要部位の位置と,前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離に基づいて,前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を,前記建造物の損傷の部位ごとに算出する損傷影響度算出手段と,
前記損傷影響度算出手段が算出した前記建造物の損傷の部位ごとの損傷影響度に基づいて,前記建造物の健全度を判定する健全度判定手段と,を備え,
前記重要部位の位置は,前記建造物の健全性の判定ポイントとなる部材の位置である,
健全度判定装置。

[本件発明2]
前記損傷影響度算出手段は,前記建造物の重要部位の位置と,前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離の逆数に応じて,前記損傷影響度を算出する請求項1に記載の健全度判定装置。

[本件発明3]
前記損傷部位抽出手段の抽出した前記建造物の損傷の部位における損傷の種類および損傷の程度を抽出する損傷抽出手段をさらに備え,
前記損傷影響度算出手段は,前記重要部位位置決定手段が決定した前記建造物の重要部位の位置と前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離と,前記損傷抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位における損傷の種類および損傷の程度とに基づいて,前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を算出する請求項1または2に記載の健全度判定装置。

[本件発明4]
前記建造物の重要部位は,前記建造物の部材の接合部,支承およびコンクリートの配筋箇所のうち少なくとも1つを含む請求項3に記載の健全度判定装置。

[本件発明5]
前記重要部位位置決定手段の決定した前記建造物の重要部位の位置は,コンクリート橋桁支間中央部または鋼橋桁支間中央部であり,
前記建造物の損傷の部位における損傷の種類は,コンクリート橋桁のひびわれ,鋼コンクリート橋桁の腐食,亀裂および破断のうち少なくとも1つを含み,
前記建造物の損傷の部位における損傷の程度は,コンクリート橋桁のひびわれ,鋼コンクリート橋桁の腐食,亀裂および破断の進行度のうち少なくとも1つを含み,
前記損傷影響度算出手段は,前記建造物の重要部位の位置と,前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離の逆数に,前記コンクリート橋桁のひびわれ,鋼コンクリート橋桁の腐食,亀裂および破断の進行度のうち少なくとも1つを乗じた値に応じて,前記損傷影響度を算出する請求項4に記載の健全度判定装置。

[本件発明6]
前記コンクリート橋桁のひびわれ,鋼コンクリート橋桁の腐食,亀裂および破断の進行度は,前記コンクリート橋桁のひびわれの長さおよび幅,前記鋼コンクリート橋桁の腐食の面積,前記鋼コンクリート橋桁の亀裂および破断の長さおよび幅のうち少なくとも1つを含む請求項5に記載の健全度判定装置。

[本件発明7]
前記コンクリート橋桁のひびわれ,鋼コンクリート橋桁の腐食,亀裂および破断の進行度は,前記コンクリート橋桁のひびわれの長さおよび幅の変化率,前記鋼コンクリート橋桁の腐食の面積の変化率,前記鋼コンクリート橋桁の亀裂および破断の長さおよび幅の変化率のうち少なくとも1つを含む請求項5に記載の健全度判定装置。

[本件発明8]
前記建造物の構造情報を取得する構造情報取得手段をさらに備え,
前記重要部位位置決定手段は,前記構造情報取得手段が取得した前記建造物の構造情報に基づいて,前記建造物の重要部位の位置を決定する請求項1?7のいずれか1項に記載の健全度判定装置。

[本件発明9]
前記構造情報取得手段は,前記建造物を被写体とした撮影画像から前記建造物の構造情報を取得する請求項8に記載の健全度判定装置。

[本件発明10]
前記健全度判定手段の判定した前記建造物の健全度を出力する健全度出力手段をさらに備える請求項1?9のいずれか1項に記載の健全度判定装置。

[本件発明11]
前記健全度出力手段は,前記損傷影響度算出手段が算出した前記建造物の損傷の部位ごとの前記損傷影響度に応じて,前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の撮影画像の全部または一部を出力する請求項10に記載の健全度判定装置。

[本件発明12]
任意の建造物の表面を被写体とした撮影画像から1または複数の前記建造物の損傷の部位を抽出する損傷部位抽出ステップと,
前記撮影画像における前記建造物の構造上の重要部位の位置を決定する重要部位位置決定ステップと,
前記重要部位位置決定ステップが決定した前記建造物の重要部位の位置と,前記損傷部
位抽出ステップが抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離に基づいて,前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を,前記建造物の損傷の部位ごとに算出する損傷影響度算出ステップと,
前記損傷影響度算出ステップが算出した前記建造物の損傷の部位ごとの損傷影響度に基づいて,前記建造物の健全度を判定する健全度判定ステップと,を備え,
前記重要部位の位置は,前記建造物の健全性の判定ポイントとなる部材の位置である,
健全度判定方法。

[本件発明13]
請求項12に記載の健全度判定方法をコンピュータに実行させるための健全度判定プログラム。


第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 令和元年10月18日付け取消理由通知の概要
訂正前の請求項1?13に係る特許に対して,当審が令和元年10月18日付けで特許権者に通知した取消理由通知の要旨は,次のとおりである。
請求項1?13に係る特許は,特許請求の範囲の記載が下記の不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1)請求項1の「任意の建造物の表面を被写体とした撮影画像から1または複数の前記建造物の損傷の部位を抽出する損傷部位抽出手段と,
前記撮影画像における前記建造物の構造上の重要部位の位置を決定する重要部位位置決定手段と,
前記重要部位位置決定手段が決定した前記建造物の重要部位の位置と,前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位との相対的位置関係に基づいて,前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を,前記建造物の損傷の部位ごとに算出する損傷影響度算出手段と,」との記載について,
(1-1)「重要部位の位置」が,どのような位置であるのか不明確である。
(1-2)「損傷の部位」(「損傷の部位の位置」)が,どのようなものであるのか不明である。
(1-3)「相対的位置関係」の意味内容が不明である。
(1-4)「部位」,「部材」,「位置」の用語の異同が不明である。
(2)「重要部位位置決定手段」の機能の範囲が不明である。


第5 当審の判断

1 特許法36条6項2号について
(1)「重要部位の位置」について
通知した取消理由においては,第一に,「重要部位の位置」について,請求項の文言上,例えば橋の場合,重要な「主桁」「横桁」等であると解釈されるのに対し,発明の詳細な説明では,「重要部位の位置」が「ポイント部材位置」であること(段落【0035】),旨の解釈が示されていること,第二に,発明の詳細な説明において,「ポイント部材位置」について,「建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置」である旨(段落【0060】),床板下面,損傷を受けやすい端支点部,部材の接合部,橋脚基礎部等である旨(段落【0037】?【0040】)のように,様々な観点のものが含まれており,発明の詳細な説明を参酌するにしても,「重要部位の位置」と「ポイント部材位置」との関係が不明であること,を指摘したところ,以下のとおり,指摘した事項は,本件訂正請求により,いずれも解消している。
すなわち,まず,第一の点については,本件訂正請求による訂正後の請求項1においては,文言上,建造物の「部位」は,建造物の部分である「部材」等であり,「建造物」の「重要部位の位置」は,「前記建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置」である旨が明示されている。そして,この請求項1の文言は,発明の詳細な説明の段落【0035】,段落【0060】の記載に整合する内容を示すものとなっており,発明の詳細な説明の記載内容とも整合している。
また,第二の点については,請求項1の文言と発明の詳細な説明の段落【0060】の記載によれば,「ポイント部材位置」は,「建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置」であるような「建造物の部材の位置」であるところ,発明の詳細な説明の段落【0037】?【0040】の記載は,床板下面,損傷を受けやすい端支点部,部材の接合部,橋脚基礎部等をこのような「ポイント部材位置」に「特定され」たものの例として示した記載であるとして,整合的に理解することができる。してみると,これらの発明の詳細な説明の記載は,訂正後の請求項1が明確でない根拠にならない。
よって,通知した取消理由において指摘した事項は,いずれも解消している。

(2)「損傷の部位」(「損傷の部位の位置」)について
訂正により,訂正前請求項1の「前記建造物の損傷の部位との相対的位置関係」を「前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離」に訂正した(下線は,当審で付与した。)。
本件発明1の「損傷の部位」は,文言上「部位」であり,全体に対する部分の位置,あるいは,全体の中のある位置を占める部分の二通りに解釈できるが,上記訂正により「損傷の部位の位置」としたことから,「部位」は全体の中にある位置を占める部分を意味することが明確化された。そのため,本件発明1の「損傷の部位の位置」は,損傷がある「部分」の位置となることは明らかである。
また,本件発明1の「損傷の部位の位置」は,「建造物の重要部位の位置」との間の距離に基づいて損傷影響度を算出するために用いられるものであり,発明の詳細な説明には,次の事項が記載されている(下線は,当審で付与した。)。
「【0045】
例えば,図4の(a)部分の撮影画像の撮影位置は,図3のP-14であり,図4の(b)部分の撮影画像の撮影位置は図3のP-15であり,図4の(c)部分の撮影画像の撮影位置は図3のP-18である。撮影位置は,1次的な点でもよいし,2次元あるいは3次元的な範囲でもよいが,範囲の場合は,この範囲の中心や重心などの1次的な点を撮影位置とする。これは後述のように,ポイント部材位置と撮影位置との間の距離を求めるためである。
【0046】(省略)
【0047】
検査データ分析部16は,検査特定部14によって特定されたポイント部材位置ごとに,ポイント部材位置の近傍(例えばポイント部材位置から橋軸方向に半径5m以内)を撮影位置とする画像データを検査データ取得部15から取得して分析し,この画像データから,検査対象として特定された損傷種類の損傷が存在するか否か,および,その損傷が存在する場合はその損傷の程度を決定する。以下では,これらの損傷の有無および損傷の程度を示す情報を,損傷情報と呼ぶ。損傷部位抽出手段および損傷抽出手段は,検査データ分析部16の上記機能に対応する。
【0048】(省略)
【0049】
損傷影響度算出部17は,検査特定部14が特定した損傷ごとに,当該損傷に最も近いポイント部材位置と,当該損傷の画像の撮影位置と,当該損傷の程度とから,当該損傷が建造物全体の健全性に与える影響度(以下,損傷影響度と呼ぶ)を算出する。損傷影響度算出手段は,損傷影響度算出部17の上記機能に対応する。」
「【0061】
検査データ分析部16は,検査特定部14によって特定されたポイント部材位置の近傍を撮影位置とする画像データを検査データ取得部15から取得して分析し,この画像データから,検査対象として特定された損傷種類の損傷が存在するか否か,および,その損傷が存在する場合はその損傷の程度を決定する(損傷部位抽出ステップ)。」
これらの記載によれば,発明の詳細な説明における「損傷の画像の撮影位置」は,検査対象として特定された損傷種類の損傷が存在する画像データの撮影位置であって,これが,ポイント部材位置の近傍の位置として,影響度の算出のためにポイント部材位置との間の距離を求めるために用いられているものである。そして,「損傷の部位の位置」と「損傷画像の撮影位置」は損傷がある「部分」の位置である点で影響度の算出にあたっては同じ意味を有しており,この点で請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載の間に技術的な不一致はないし,発明の詳細な説明の「損傷の画像の撮影位置」が本件発明1の「損傷の部位の位置」に対応することは明らかである。
そうすると,本件発明1の「損傷の部位の位置」がどのような内容を含むか明確である。
よって,本件訂正請求による訂正後の請求項1においては,通知した取消理由において指摘した点は解消している。

(3)「相対的位置関係」について
本件訂正請求による訂正後の請求項1においては,「相対的位置関係」の用語は用いられていないから,通知した取消理由において指摘した点は解消している。
なお,訂正後の請求項1の「建造物の損傷の部位の位置」は,発明の詳細な説明における「ポイント部材の位置」の「近傍」において検査対象となる損傷の部位の位置を示す「撮影位置」(段落【0047】)に対応しており,訂正後の請求項1の「建造物の重要部位の位置」と「建造物の損傷の部位の位置」との間の「距離」は,発明の詳細な説明における「ポイント部材位置と撮影位置との間の距離」(段落【0045】)に対応しているから,訂正後の請求項1における「前記重要部位位置決定手段が決定した前記建造物の重要部位の位置と前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離」の文言は,文言上のみならず,発明の詳細な説明の記載と整合している点からも,明確である。

(4)「部位」,「部材」,「位置」の用語の異同について
(1)?(3)に示したとおり,本件訂正請求による訂正後の請求項1においては,建造物の「部位」は,建造物の部分である「部材」等を意味しており,「部位の位置」は,その位置を意味していることが明らかであり,「部位」と「部材」,「部位」と「位置」の異同関係は明らかである。
よって,本件訂正請求による訂正後の請求項1においては,通知した取消理由において指摘した点は解消している。

(5)「重要部位位置決定手段」の機能の範囲について
ア 発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は,当審で付与した。)。
「【0035】
検査特定部14は,建造物構造情報DB18の建造物構造情報に基づき,建造物の構成部材の中から,建造物の健全性の判定のポイントとなる建造物の重要部位の位置であるポイント部材位置と,そのポイント部材位置の近傍での健全性の判定対象となる損傷種類を特定する。これは,健全性の判定にあたって,構造上重要な部材位置と,その近傍で問題となる損傷の種類を予め特定する機能である。一例として,ポイント部材位置と損傷種類の特定は以下の通りとなる。重要部位位置決定手段は,検査特定部14の上記機能に対応する。
【0036】
建造物構造情報DB18に蓄積された建造物構造情報において,検査対象となる建造物の基本構造の形式は桁橋,桁橋の上部構造の主桁および横桁は鋼製,床版はコンクリート製,支承はゴム製と定義されているとする。
【0037】
この場合,検査特定部14は,桁橋の上部構造の主桁の支間中央部の鋼製部材をポイント部材位置に特定し,かつ,主桁の支間中央部の鋼製部材の腐食,破断,亀裂,たわみ,ボルトまたはナットの脱落を,検査対象の損傷種類に特定する。これは,鋼製部材全てを検査するのでなく,構造力学的に特に過重のかかる(曲げモーメント最大位置)主桁の支間中央部とその近傍を重点的に検査するためである。図3の符号I2,I4,I6は,ポイント部材位置に特定された主桁の支間中央部の鋼製部材の位置を例示する。
【0038】
また,検査特定部14は,床版下面をポイント部材位置に特定し,かつ床版下面のひび割れおよびコンクリート剥離および浮きを検査対象の損傷種類に特定する。図3の符号I12,I13,I14は,ポイント部材位置に特定された床版下面の位置を例示する。
【0039】
その他,コンクリート橋の場合,支承反力,地震,温度変化による水平力等により損傷を受けやすい端支点部,負の曲げモーメントおよびせん断力が最大となりひび割れが発生しやすい中間支点部,鉄筋の曲げ上げ点で鉄筋量が少なくひび割れの発生しやすい支間1/4付近,引張応力の集中によるひび割れが発生しやすい定着部,局部的な応力集中によるひび割れの発生するゲルバーヒンジ部や桁切欠部,打継目部,支承,ボルト,ナット,およびリベットなどの部材の接合部,および配筋箇所などをポイント部材位置に特定し,ひび割れを検査対象の損傷種類に特定することができる。鋼橋の場合,せん断亀裂の発生する支間1/4付近,局部的な応力集中による亀裂の発生するヒンジ部,支承,ボルト,ナット,およびリベットなどの部材の接合部,コンクリート製壁や床版の配筋箇所などをポイント部材位置に特定し,亀裂を検査対象の損傷種類に特定することができる。」

イ 本件発明1の「重要部位位置決定手段」は「前記撮影画像における前記建造物の構造上の重要部位の位置を決定する」ものであり,「重要部位の位置」は,「建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置」であるから,「重要部位位置決定手段」は,このような「重要部位の位置」を「前記撮影画像」について「決定」するための手段であることが明らかである。さらに,発明の詳細な説明においても,重要部位位置決定手段の機能に対応する検査特定部14について,「検査対象となる建造物の基本構造の形式は桁橋,桁橋の上部構造の主桁および横桁は鋼製,床版はコンクリート製,支承はゴム製と定義」されている場合,「桁橋の上部構造の主桁の支間中央部の鋼製部材をポイント部材位置に特定」し,「鋼製部材全てを検査するのでなく,構造力学的に特に過重のかかる(曲げモーメント最大位置)主桁の支間中央部とその近傍を重点的に検査するためである。」(段落【0037】),「コンクリート橋の場合」,「支承反力,地震,温度変化による水平力等により損傷を受けやすい端支点部,負の曲げモーメントおよびせん断力が最大となりひび割れが発生しやすい中間支点部,鉄筋の曲げ上げ点で鉄筋量が少なくひび割れの発生しやすい支間1/4付近,引張応力の集中によるひび割れが発生しやすい定着部,局部的な応力集中によるひび割れの発生するゲルバーヒンジ部や桁切欠部,打継目部,支承,ボルト,ナット,およびリベットなどの部材の接合部,および配筋箇所など」を「ポイント部材位置に特定」する(段落【0039】)等の記載があり,「ポイント部材位置」「ポイント部材位置と撮影位置との間の距離」の両端のうちの一端の位置であること(段落【0045】)も記載されている。請求項1の文言は,これらの記載と整合しているといえる。
よって,通知した取消理由において指摘した点は,解消している。

(6)申立人の主張について
ア 申立人は,上記(1)で示した第二の点に関連して,発明の詳細な説明の段落【0037】?【0040】の記載からみて,ポイント部材位置とは,建造物を構成する部材上の何らかの一点の位置とも解釈できると主張している(異議申立書16?17頁)。
しかし,(1)において上記したように,これらの段落の記載は,「ポイント部材位置に特定され」た建造物の部材の位置における床板下面,損傷を受けやすい端支点部,部材の接合部,橋脚基礎部等の例を示すものであって,ポイント部材位置が部材上の一点の位置であることを示す記載でないことが明らかであるから,申立人の主張を採用することはできない。

イ 申立人は,本件明細書の記載を参酌すると,本件発明1の「損傷の部位の位置」は,どのような内容を含むか不明確であり,審査基準の「請求項の記載がそれ自体明確であると認められる場合は,審査官は,明細書又は図面に請求項に記載された用語についての定義又は説明があるか否かを検討し,その定義又は説明によって,かえって請求項の記載が不明確にならないかを判断する。」との点を参照し,審査基準に沿って検討すると,「重要部位の位置と,…(略)…損傷の部位の位置との間の距離」についても,依然としてどのような内容を含むのか不明確である旨主張する(申立人意見書2?4頁)。
しかしながら,「損傷の部位の位置」は,上記(2)のとおり,発明の詳細な説明の「損傷の画像の撮影位置」に対応することは明らかであり,「重要部位の位置」は,上記(1)のとおり,「ポイント部材位置」に対応することは明らかである。そうすると,発明の詳細な説明を参酌しても,「重要部位の位置と,…(略)…損傷の部位の位置との間の距離」が不明確になるものではない。
したがって,申立人の主張は採用できない。

2 小括
以上のとおり,請求項1?13に係る特許は明確であるから,特許法第36条6項2号の規定に違反してされたものであるということはできない。


第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 特許法36条6項1号について
(1)正確かつ効率的な健全度判定を行うことについて
ア 申立人の主張の概要
「損傷の部位」及び「相対的位置関係」の明確な定義の記載はなく,本件明細書における唯一の実施の形態として開示された構成(発明の詳細な説明【0035】【0045】【0047】【0049】)から,請求項1の「損傷の部位」は「撮影画像の撮影位置」に相当する。ここで,「撮影画像の撮影位置」は,【0045】から,撮影画像ごとにある建造物上の一点として定められると解釈される。ところで,発明の詳細な説明【0045】の記載から,例えば建造物上の同じ部位について撮影画像を撮影する場合でも,撮影範囲の位置や大きさは様々に変わりうる,つまり,一枚の撮影画像に撮影される建造物の範囲の広さは様々であり,撮影画像に撮影される損傷の位置,大きさ又は数は,撮影される範囲又は損傷の状況によって様々となることが常識的に理解される。そうすると,請求項1の「重要部位の位置と,…(略)…損傷の部位の位置との相対的位置関係」における「損傷の部位」に相当する「撮影画像の撮影位置」は,各損傷の実際の位置とは無関係に定められるものであって,各損傷の実際の位置を示すものとはならない。このことは,本件明細書の唯一の実施の形態として開示された構成では,重要部位の位置(ポイント部材位置)と損傷の実際の位置との「相対的位置関係」を考慮できるものではない。
よって,本件明細書における唯一の実施の形態として開示された構成では,「発明が解決しようとする課題」(発明の詳細な説明【0012】)及び「発明の効果」(発明の詳細な説明【0027】)として記載された「正確かつ効率的な健全度判定」を行うことができず,本件特許発明1は,発明の詳細な説明における実施の形態を参酌して解釈すると,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(特許異議申立書(以下,「申立書」という。)13?15頁)

イ 当審の判断
第5の1(3)において上記したとおり,訂正後の請求項1の「建造物の損傷の部位の位置」は,発明の詳細な説明における「ポイント部材の位置」の「近傍」において検査対象となる損傷の部位の位置を示す「撮影位置」(段落【0047】)に対応しており,訂正後の請求項1の「建造物の重要部位の位置」と「建造物の損傷の部位の位置」との間の「距離」は,発明の詳細な説明における「ポイント部材位置と撮影位置との間の距離」(段落【0045】)に対応している。
そして,発明の詳細な説明における実施の形態においては,「損傷ごと」に「当該損傷に最も近いポイント部材位置」と「当該損傷の画像の撮影位置」と,「当該損傷の程度」とから「当該損傷が建造物全体の健全性に与える影響度」を算出する(段落【0049】)ものであるところ,当該損傷の画像の撮影位置は,当該損傷の位置を示すものであるといえてもこれと無関係であるとはいえない。
さらに,段落【0049】?【0056】における,影響度の算出に損傷の画像の撮影位置を用いた例の記載に続けて,「すなわち,ポイント部材位置から損傷抽出位置までの距離の式に従い,損傷の影響度を算出する。つまり,ポイント部材位置から損傷抽出位置までの距離が小さければ,重要部材に対する損傷の影響度が高くなり,当該距離が大きければ,損傷の影響度が低くなる。」(段落【0057】)とも記載されている。この記載を踏まえて段落【0049】?【0056】の記載をみれば,発明の詳細な説明において「建造物の損傷の部位の位置」として「当該損傷の画像の撮影位置」が用いられているのは,「損傷の程度」が同じであってもポイント部材位置からの距離に応じて適切に「当該損傷が建造物全体の健全性に与える影響度」の高低を生ずる位置である「損傷抽出位置」乃至これに代替する位置として選択されていることが明らかであり,「当該損傷の画像の撮影位置」が損傷の実際の位置と厳密に同じでないことは,このような「影響度」の算出やそのように算出された「影響度」を用いた「正確かつ効率的な健全度判定」という本件発明の課題の達成とも無関係の事情である。
以上を踏まえれば,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された課題の解決手段を示すものとなっており,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載した範囲を超えている旨の申立人の主張は,理由がない。

(2)「重要部位の位置と,…(略)…損傷の部位との相対的な位置関係に基づいて,…(略)…損傷影響度を,…(略)…算出する損傷影響度算出手段」について
ア 申立人の主張の概要
「損傷の部位」は,その文言上は,損傷の実際の位置を示すものとも解釈されるが,本件明細書における唯一の実施の形態では,「損傷の画像の撮影位置」を指しており,この「損傷の画像の撮影位置」は,損傷の実際の位置を示すものではないから,本件特許発明1の「重要部位の位置と,…(略)…損傷の部位との相対的な位置関係に基づいて,…(略)…損傷影響度を,…(略)…算出する損傷影響度算出手段」は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。(申立書15?16頁)

イ 当審の判断
本件訂正請求により,「損傷の部位」を「損傷の部位の位置」と訂正することで明確化され,さらに,「相対的位置関係」の用語は用いられていない。
そして,訂正後の「重要部位の位置と,…(略)…損傷の部位の位置との間の距離に基づいて,…(略)…損傷影響度を,…(略)…算出する損傷影響度算出手段」について検討をしても,「損傷の部位の位置」は上記第5 1(2)のとおりであり,「建造物の重要部位の位置」と「建造物の損傷の部位の位置」との間の「距離」は上記第5 1(3)のとおりであり,発明の詳細な説明に記載された事項であるから,「重要部位の位置と,…(略)…損傷の部位の位置との間の距離に基づいて,…(略)…損傷影響度を,…(略)…算出する損傷影響度算出手段」も発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって,申立人の上記主張を採用することができない。

(3)小括
以上のとおり,請求項1?13に係る特許は,発明の詳細な説明に記載されたものであるから,特許法第36条6項1号の規定に違反してされたものであるということはできない。
したがって,申立人の上記主張は,採用することができない。

2 特許法36条4項1号について
(1)「重要部位の位置の決定」について
ア 申立人の主張の概要
本件発明1の「前記撮影画像における前記建造物の構造上の重要部位の位置を決定する「重要部位位置決定手段」の「重要部位の位置」は,発明の詳細な説明【0035】から「ポイント部材位置」に相当し,発明の詳細な説明【0035】【0036】?【0040】に「ポイント部材位置」について「構造物工場増情報DB18の建造物構造情報に基づき,建造物の構造部材の中から」決定すること,及び,決定結果の事例の記載はあるが,「ポイント部材位置」を,建造物構造情報に基づいて,どのような手法又はアルゴリズムを用いて決定するかについての具体的な記載はなく,「ポイント部材位置」は構造物を構成する部材のそれ自体を意味するのか,構造物を構成する部材上の何らかの一点の位置を意味するかが不明確である。(申立書18?19頁)

イ 当審の判断
重要部位の位置の決定は,上記第5のとおり,重要部位位置決定手段が行うものであり,重要部位位置決定手段が決定する「重要部位の位置」に対応する「ポイント部材位置」がどのような位置であるか明確であり,発明の詳細な説明【0036】?【0039】には,建造物の構造に応じてポイント部材位置の特定の具体例が理由を含めて記載されていることから,建造物構造情報に基づいて,どのような手法又はアルゴリズムを用いて決定するかについての具体的な記載をする必要はない。このため,技術常識を考慮すれば,発明の詳細な説明を,当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって,申立人の上記主張は採用できない。

(2)「損傷の部位」の取得について
ア 申立人の主張の概要
本件発明1の「前記重要部位位置決定手段が決定した前記建造物の重要部位の位置と,前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離に基づいて,前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を,前記建造物の損傷の部位ごとに算出する損傷影響度算出手段」について,「損傷の部位」は,実施の形態の「損傷の画像の撮影位置」に相当するものの,発明の詳細な説明【0042】等を参照しても,「撮影画像の撮影位置」としての「建造物上の一点」の情報をどのように取得するかについての具体的な開示がない。(申立書19?20頁)

イ 当審の判断
上記第5とおり,発明の詳細な説明の「損傷画像の撮影位置」は,本件発明1の「損傷の部位の位置」に対応し,発明の詳細な説明【0045】の「ポイント部材位置と撮影位置との間の距離」の両端のうちの一端の位置であることは明らかである。そして,発明の詳細な説明【0045】において「撮影位置は,1次的な点でもよいし,2次元あるいは3次元的な範囲でもよいが,範囲の場合は,この範囲の中心や重心などの1次的な点を撮影位置とする。」と説明されていることから,「撮影画像の撮影位置」としての「建造物上の一点」の情報は,発明の詳細な説明に記載されていることは明らかである。
よって,申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおり,請求項1?13に係る特許について,発明の詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に,明確かつ十分に記載したものであるから,特許法第36条4項1号の規定に違反してされたものであるということはできない。

3 特許法29条1項3号及び同法29条2項について
(1)申立人の主張の概要
新規性について,甲第1号証を証拠として,請求項1,3,10,12,13に係る特許は,特許法29条1項3号の規定に違反してされたものである。

進歩性について,甲第1号証を証拠として,請求項1,3,10,12,13に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,また,甲第1号証を主たる証拠とし,甲第3号証を従たる証拠として,請求項4に係る発明は,特許法第29条2項の規定に違反してされたものであり,また,甲第1号証を主たる証拠とし,甲第2号証を従たる証拠として,請求項8に係る発明は,特許法第29条2項の規定に違反してされたものであり,また,甲第1号証を主たる証拠とし,甲第2,4号証を従たる証拠として,請求項9に係る発明は,特許法第29条2項の規定に違反してされたものであり,また,甲第1号証を主たる証拠とし,甲第4号証を従たる証拠として,請求項11に係る発明は,特許法第29条2項の規定に違反してされたものである。

(2)証拠方法
甲第1号証:特開平11-259656号公報
甲第2号証:特開2002-279043号公報
甲第3号証:特開2011-80211号公報
甲第4号証:橋梁補修・補強マニュアル(案),長崎県土木部道路維持課,平成27年3月

(3)検討
ア 甲第1号証?甲第4号証に記載された事項
(ア)甲第1号証(特開平11-259656号公報)
甲第1号証には以下の記載がある(下線は,当審で付加した。)。
「【0018】
【発明の実施の形態】〔実施例1〕本発明の第1の実施例に係るトンネル壁面判定装置を図1に示す。本実施例はトンネル等のコンクリート壁面を可視カメラと赤外線カメラで撮影し,その画像に対し画像処理で壁面の変状を分類,抽出した後,変状の性質,程度から補修の可否を決める基準となる健全度を出力する装置である。
【0019】特に,本実施例では,変状をひび,漏水(水漏れ),剥離に分類し,変状の長さ,幅,深さ,位置(発生箇所)等を基本特徴量として,変状の形状を形状特徴量として,時間的な劣化の進行の程度を経年特徴量として抽出し健全度の判定を行う。
【0020】即ち,可視カメラで取得した可視画像又は記録装置に記録された可視画像は可視画像メモリ1に処理単位毎に順次取り込まれる。ひび特徴抽出回路3は,可視画像メモリ1から可視画像データ2を取り出した後,画像処理によりひび基本特徴量4を抽出し,ひびデータベース6に保存すると共にひび形状判定回路5,ひび経年変化抽出回路9,健全度判定回路27にデータを送る。ここで,ひび基本特徴量とは,ひびの幅,長さ,方向(場所)のことを言う。
【0021】ひび形状判定回路5は,ひびの形状を判定し,判定結果であるひび形状特徴量7をひびデータベース6に保存すると共にひび経年変化抽出回路9,健全度判定回路27に送る。ここで,ひび形状特徴量により,図3(A)に示す閉塞型ひび,図3(B)に示す層状ひび,図3(C)に示すV字状ひび,その他に分けられる。」

「【0023】漏水特徴抽出回路13では,両画像データを画像処理し,漏水基本特徴量14を抽出する。ここで,漏水基本特徴量とは,漏水の面積,位置(場所)を言う。漏水基本特徴量14は,漏水データベース15に保存されると共に漏水経年変化抽出回路17,健全度判定回路27に送られる。」

「【0025】剥離特徴抽出回路19では,赤外画像メモリ11から赤外画像データ12を取り出した後,画像処理により剥離基本特徴量20を抽出し,剥離データベース22に保存すると共に剥離形状判定回路21,剥離経年変化抽出回路25,健全度判定回路27にデータを送る。ここで,剥離基本特徴量とは,剥離の面積,深さ,位置(場所)を言う。
【0026】剥離形状判定回路21は,剥離の形状を判定し,判定結果である剥離形状特徴量23を剥離データベース22に保存すると共に剥離経年変化抽出回路25,健全度判定回路27に送る。ここで,剥離形状特徴量により,図3(D)に示す閉塞型剥離,図3(E)に示す帯状剥離,その他に分けられる。」

「【0028】健全度判定回路27では,ひび,漏水,剥離の基本特徴量,形状特徴量,経年特徴量を用い,変状の複合的な要因が健全度に与える影響を加味して健全度を算出し,判定結果として出力する。」

「【0031】処理画像上の存在位置は次の様にして位置特徴量に変換する。可視画像はトンネルの進行方向及び上下方向の画像を処理単位(フレーム)に分割され,逐次可視画像メモリ1に取り込まれる(赤外画像も同様)。よって,「現在処理しているフレームがトンネル全体のどの部分にあたるか」という位置情報と求めた「処理画面上におけるひびの存在位置」によりトンネル全体におけるひびの位置データを得る。
【0032】基本特徴量はフレーム上にひびが複数個存在すればその各々のひび(番号)iに対し求める。ひび形状判定回路5では,ひび特徴抽出回路3で求めたラベル画像を用い,図3(A)(B)(C)に示す健全度が低いと考えられる閉塞型,層状,V字状のひび形状に該当するか否かを判定する。
【0033】ひび特徴抽出回路3で求めた2値画像,ラベル画像,ひび基本特徴量(幅,長さ,方向,位置)4及び使用した可視画像データ,ひび形状判定回路5で判定したひび形状特徴量7はひび番号毎にひびデータベース6に保存される。ひび経年変化抽出回路9では,ひびデータベース6に保存されている過去の特徴量と今回新たに抽出した特徴量を照合比較し,個々のひびの幅,長さの増加量をひび経年特徴量10として出力する。ここで形状変化をひび経年特徴量10に含んでも良い。
【0034】漏水特徴抽出回路13では,可視画像メモリ1から取り出した可視画像データ2に対し雑音除去の為のフィルタ処理を施した後,画像を2値化し漏水2値画像を得て,更にラベリング処理を行いラベル画像を求める。一方,赤外画像メモリ11から取り出した赤外画像データ12に対しても雑音除去の為のフィルタ処理を施した後,画像を2値化し漏水2値画像を得て,更にラベリング処理を行いラベル画像を求める。
【0035】可視ラベル画像上の画像に存在する領域のうち赤外ラベル画像上で周囲に比べ温度が低いと判定される領域を漏水領域と判断し,その面積,位置といった基本特徴量を求める。本実施例では,漏水に関して形状特徴量を求めていないが,形状が健全度判定に有効と考えられる場合には漏水形状判定回路を付加しても良い。
【0036】漏水特徴抽出回路13で求めた2値画像,ラベル画像,漏水基本特徴量(面積,位置)14及び使用した可視,赤外画像データは漏水番号毎に漏水データベース15に保存される。漏水経年変化抽出回路17では,漏水データベース15に保存されている過去の特徴量と,今回新たに抽出した特徴量を照合比較し個々の漏水の面積の増加量を漏水経年特徴量18として出力する。
【0037】剥離特徴抽出回路19では,赤外画像メモリ11から取り出した赤外画像データ12に対し雑音除去の為のフィルタ処理を施した後,画像を2値化し剥離2値画像を得て,さらにラベリング処理を行いラベル画像を求めた後,剥離の面積,深さ,位置といった基本特徴量を求める。剥離形状判定回路21では,剥離特徴抽出回路19で求めたラベル画像を用い,図3(D)(E)に示す健全度が低いと考えられる閉塞型,帯状の剥離形状に該当するか否かを判定する。
【0038】剥離特徴抽出回路19で求めた2値画像,ラベル画像,剥離基本特徴量(面積,深さ,位置)20及び使用した赤外画像データ,剥離形状判定回路21で判定した剥離形状特徴量23を剥離番号毎に剥離データベース22に保存する。剥離経年変化抽出回路25では剥離データベース22に保存されている過去の特徴量と,今回新たに抽出した特徴量を照合比較し個々の剥離の面積の増加量,形状変化を剥離経年特徴量26として出力する。」

「【0040】ここで,健全度は壁面の補修の必要性の判断に用いる性質上,健全度の低い箇所(補修の必要性の高い箇所)が注目すべき箇所となる。この為,本回路27では「健全度が低い(補修の必要性の高い)」部分程,以降に述べる健全度ポイント,健全度レベルの計算において「ポイント又はレベルの値が大きく」なる様計算が実行される。
【0041】即ち,健全度判定回路27は,図2に示すひび個別特徴健全度ポイント計算ブロック28,漏水個別特徴健全度ポイント計算ブロック30,剥離個別特徴健全度ポイント計算ブロック32により,先ず,個々のひび,漏水,剥離についてその特徴量から健全度の度合(ポイント)を算出する。即ち,ひび個別特徴健全度ポイント計算ブロック28は,図4に示す様に,ひびiに関し,各特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する。
【0042】具体的には,ひび基本特徴量については,幅ポイントC_(w,i)を大,中,小に区分し,長さポイントC_(l,i)を長,中,短,極短に区分し,方向ポイントC_(dir,i)を横,斜め,縦に区分し,位置ポイントC_(p,i)をP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算する。また,ひび形状特徴量については,形状ポイントCs,iをS1(閉塞型),S2(層状),S3(V字型),S4(その他)に区分して計算する。更に,ひび経年特徴量については,幅増加ポイントC_(aw,i)を大,中,小に区分し,長さ増加ポイントC_(al,i)を大,中,小に区分して計算を行う。」

「【0044】同様に,漏水個別特徴健全度ポイント計算ブロック30は,図5に示す様に,漏水jに関し,各特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する。具体的には,漏水基本特徴量については,面積ポイントW_(a,j)を大,中,小に区分し,位置ポイントW_(p,j)をP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算を行う。また,漏水経年特徴量については,面積増加ポイントW_(aa,j)を大,中,小に区分して計算を行う。
【0045】同様に,剥離個別特徴健全度ポイント計算ブロック32は,図6に示す様に,剥離kに関し,各特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する。具体的には,剥離基本特徴量については,面積ポイントD_(a,k)を大,中,小に区分し,深さポイントD_(dep,k)を深い,浅いに区分し,位置ポイントD_(p,k)をP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算を行う。また,剥離形状特徴については,形状ポイントD_(S,k)をS1(閉塞型),S2(層状),S3(V字型),S4(その他)に区分して計算を行う。更に,剥離経年特徴量については,面積増加ポイントD_(aa,k)を大,中,小に区分し,形状変化ポイントD_(as,k)をAS1(閉塞型への変化有),AS2(閉塞型のまま),AS3(閉塞型以外で変化無し)に区分して計算を行う。
【0046】このように変状の各特徴量のポイント計算を実施した後,図2に示すように,単体ひび健全度レベル計算ブロック34,単体漏水健全度レベル計算ブロック36,単体剥離健全度レベル計算ブロック38により,各特徴量の健全度ポイントを集計し1つの変状の健全度レベルを算出する。即ち,単体ひび健全度レベル計算ブロック34は,図7に示すように,ひび個別特徴健全度ポイント計算ブロック28により計算された幅ポイントC_(w,i),長さポイントC_(l,i),方向ポイントC_(dir,i),位置ポイントC_(p,i),形状ポイントCs,i,幅増加ポイントC_(aw,i),長さ増加ポイントC_(al,i)よりなるひび個別特徴健全度ポイント29に基づいて,単体ひび健全度レベルC_(i)を計算する。
【0047】例えば,ひびiの場合を例にとると,下式に示すように,幅,長さ,方向,位置,形状,幅増加量,長さ増加量の各特徴量についての健全度ポイントを積和演算により計算し,ひびiが持つ健全度レベル「単体ひび健全度レベル:Ci」を求める。
C_(i)=F_(c)(C_(w,i),C_(l,i),C_(dir,i),C_(p,i),C_(s,i),C_(aw,i),C_(al,i))
但し,F_(c)は,C_(w,i),C_(l,i),C_(dir,i),C_(p,i),C_(s,i),C_(aw,i),C_(al,i)を要素とする以下のような積和演算関数である。
F_(c)(x1,x2,x3,x4,x5,x6,x7)=(a1×x1)×(a2×x2)×{(a3×x3)+(a4×x4)+(a5×x5)}+(a6×x6)+(a7×x7)+a8
但し,a1?a8は定数である。
【0048】同様に,単体漏水健全度レベル計算ブロック36は,図8に示すように,漏水個別特徴健全度ポイント計算ブロック30により計算された面積ポイントW_(a,j),位置ポイントW_(p,j),面積増加ポイントW_(aa,j)よりなる漏水個別特徴健全度ポイント31に基づいて,単体漏水健全度レベルW_(j)を計算する。例えば,漏水jの場合を例にとると,下式に示すように,各健全度ポイントを積和演算により計算し,漏水jが持つ健全度レベル「単体漏水健全度レベル:W_(j)」を求める。
W_(j)=F_(w)(W_(a,j),W_(p,j),W_(aa,j))
但し,F_(w)はW_(a,j),W_(p,j),W_(aa,j)を要素とする以下の様な積和演算関数である。
F_(w)(x1,x2,x3)=(b1×x1)×(b2×x2)×(b3×x3)+b4
但し,b1?b4は定数である。
【0049】同様に,単体剥離健全度レベル計算ブロック38は,図9に示すように,剥離個別特徴健全度ポイント計算ブロック32により計算された面積ポイントD_(a,k),深さポイントD_(dep,k),位置ポイントD_(p,k)形状ポイントD_(S,k),面積増加ポイントD_(aa,k),形状変化ポイントD_(as,k)よりなる剥離個別特徴健全度ポイント33に基づいて,単体剥離健全度レベルD_(k)を計算する。例えば,剥離kの場合を例にとると,下式に示すように,各健全度ポイントを積和演算により計算し,剥離kが持つ健全度レベル「単体剥離健全度レベル:D_(k)」を求める。
D_(k)=F_(d)(D_(a,k),D_(dep,k),D_(p,k) ,D_(s,k) ,D_(aa,k),D_(as,k))
但しF_(d)はD_(a,k),D_(dep,k),D_(p,k),D_(s,k),D_(aa,k),D_(as,k)を要素とする以下の様な積和演算関数である。
Fd(x1,x2,x3,x4,x5,x6)={(c1×x1)+(c2×x2)}×(c3×x3)×(c4×x4)+(c5×x5)+(c6×x6)+c7
但し,c1?c7は定数である。
【0050】このようにひび,漏水,剥離各々の健全度レベルを算出する一方,図2に示す複合健全度レベル計算ブロック40により複合健全度レベルを算出する。複合健全度とは,例えば壁面の同じ位置にひびと剥離が存在すれば,ひびが単独で存在する場合に比べ幅,長さ等のひび特徴量の程度は同じであっても健全度が低いと考え,単体ひび健全度レベルに付加する要素である。」

「【0054】以上,単体ひび,漏水,剥離健全度レベルと複合健全度レベルの計算を健全度を判定する判定区間の全ての変状に対し行い,計算が終了したら,図2の判定区間内総合健全度判定ブロック42で判定区間内の健全度レベルの集計を行う。具体的には,図11に示す通り,判定区間内総合健全度判定ブロック42は,判定区間内のひび,漏水,剥離健全度レベルを各々複合健全度係数及び定数を加味して集計し,健全度レベルの集計値によりその判定区間の健全度ランクを判定し結果として出力する。
【0055】例えば,次式により健全度レベルの集計を行う。
健全度レベル=C+W+D+F
ここで,C:判定区間内のひび健全度レベル総和,
W:判定区間内の漏水健全度レベル総和,
D:判定区間内の剥離健全度レベル総和,
F:判定区間内の複合健全度定数総和である。」

【図2】

上図には,「複合健全度レベル計算」は,「ひび基本特徴量」等,「漏水基本特徴量」等,「剥離基本特徴量」等に基づき求められることが示されている。

以上の記載から,甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「トンネル等のコンクリート壁面を可視カメラと赤外線カメラで撮影し,その画像に対し画像処理で壁面の変状を分類,抽出した後,変状の性質,程度から補修の可否を決める基準となる健全度を出力する装置であって,(【0018】)
可視画像データ2を画像処理し,ひび基本特徴量(幅,長さ,方向,位置)4を抽出するひび特徴抽出回路3と,(【0020】【0033】)
可視カメラと赤外線カメラで撮影した両画像データを画像処理し,漏水基本特徴量(面積,位置)14を抽出する漏水特徴抽出回路13と,(【0023】【0034】?【0036】)
赤外画像データ12を画像処理し,剥離基本特徴量(面積,深さ,位置)20を抽出する剥離特徴抽出回路19と,(【0025】【0037】【0038】)
ひびiに関し,ひび基本特徴量について,位置ポイントC_(p,i)をP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算することで,ひび基本特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する個別特徴健全度ポイント計算ブロック28と,(【0041】【0042】)
漏水jに関し,漏水基本特徴量について,位置ポイントW_(p,j)をP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算することで,漏水基本特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する漏水個別特徴健全度ポイント計算ブロック30と,(【0044】)
剥離kに関し,剥離基本特徴量について,位置ポイントD_(p,k)をP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算することで,剥離基本特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する剥離個別特徴健全度ポイント計算ブロック32と,(【0045】)
ひび個別特徴健全度ポイント計算ブロック28により計算された,位置ポイントC_(p,i),を含むひび個別特徴健全度ポイント29に基づいて,単体ひび健全度レベルC_(i)を計算する単体ひび健全度レベル計算ブロック34と,(【0046】【0047】)
漏水個別特徴健全度ポイント計算ブロック30により計算された,位置ポイントW_(p,j)を含む漏水個別特徴健全度ポイント31に基づいて,単体漏水健全度レベルW_(j)を計算する単体漏水健全度レベル計算ブロック36と,(【0048】)
剥離個別特徴健全度ポイント計算ブロック32により計算された,位置ポイントD_(p,k)を含む剥離個別特徴健全度ポイント33に基づいて,単体剥離健全度レベルD_(k)を計算する単体剥離健全度レベル計算ブロック38と,(【0049】)
「ひび基本特徴量」等,「漏水基本特徴量」等,「剥離本特徴量」等に基づき複合健全度レベルを算出する複合健全度レベル計算ブロック40と,(【0050】【図2】)
単体ひび,漏水,剥離健全度レベルと複合健全度レベルの計算を健全度を判定する判定区間の全ての変状に対し行い,計算が終了したら,判定区間内の健全度レベルの集計を行い,健全度レベルの集計値によりその判定区間の健全度ランクを判定し結果として出力する判定区間内総合健全度判定ブロック42と,(【0054】)
備える装置。」

(イ)甲第2号証(特開2002-279043号公報)
甲第2号証には以下の記載がある(下線は,当審で付加した。)。
「【0018】この建物維持保全システムAは,図1に示すように,建物の維持保全管理者等のユーザが建物維持保全システムAを利用するためのユーザ端末1と,ユーザ側端末1に内蔵されたデータベースアクセス手段2と,データ検索処理手段3と,建物における建材・設備・備品などの構成要素に関する第1データベース4と,建物の図面に関する第2データベース5とを備えている。」

「【0021】構成要素に関する第1データベース4は,構成要素に関する書記的情報で構築してあり,例えば,図2に示すように,各構成要素について,構成要素識別番号,建物内の使用場所の識別番号,部位ID,構成要素名,使用場所名,メーカーID,品番,耐用年数,修繕の履歴等のデータを備えている。ユーザは,ユーザ端末に表示される所定の入力フォームに沿って入力することでこのデータベースを作成することができる。」

「【0028】また,第1データベース4及び第2データベース5には,地震後における建物の安全性の点検を容易なものとすべく,建物の基礎建築構造に基づいて計算した強度データを備えていることが望ましく,第1データベース4から基礎建築構造の強度データの一覧や,応力が集中し易く点検が必要な箇所(応力集中予想箇所)の一覧を抽出して,応力集中予想箇所のみを重点的に安全点検し,比較的強度の強い部分は応力集中予想箇所の点検結果から安全性を推考することにより,地震後の安全性の点検作業を簡易化・簡略化することができる。また,第2データベース5では強度データに基づいて,応力集中予想箇所が図面上で視覚的に認識できるようにしてもよい。」

以上の記載から,甲第2号証には以下の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「建物の基礎建築構造に基づいて計算した強度データの一覧,応力が集中し易く点検が必要な箇所(応力集中予想箇所)の一覧を備える第1データベース4。」

(ウ)甲第3号証(特開2011-80211号公報)
甲第3号証には以下の記載がある(下線は,当審で付加した。)。

「【請求項1】
複数の部材で構成される構造物を材料の非線形性を考慮可能な要素でモデル化して構造解析用のモデルを作成し,当該モデルを使用して荷重増分法による弾塑性有限変位解析を行うことで,重点的に点検を行うべき点検対象部材を決定する点検対象部材の決定方法であって,
前記構造物を構成する複数の部材のうちの一つを着目部材とし,前記着目部材に断面欠損が発生したと仮定して,当該断面欠損を反映した感度解析用モデルを作成し,当該感度解析用モデルが終局状態に至るまで荷重増分法による弾塑性有限変位解析を行うことで,前記感度解析用モデルにおける終局荷重を得る感度解析ステップと,
前記感度解析ステップで得られた終局荷重と断面欠損が無いと仮定した場合の終局荷重とを対比することで,前記着目部材が前記構造物の終局耐力に大きな影響を及ぼす虞のある要注意部材であるか否かを判定する判定ステップと,
前記要注意部材に断面欠損が発生したと仮定して,当該断面欠損を反映した経年解析用モデルを作成し,当該経年解析用モデルを使用して,設計荷重に至るまで荷重増分法による弾塑性有限変位解析を行う擬似経年解析ステップと,を含み,
前記要注意部材の断面欠損率を変更して前記擬似経年解析ステップを複数回行い,或る断面欠損率において前記経年解析用モデルが終局状態に至った場合に,前記要注意部材を点検対象部材として決定する,ことを特徴とする点検対象部材の決定方法。」

「【0012】
本発明の実施形態に係る点検対象部材の決定方法は,複数の部材で構成される橋梁を対象とするものであり,材料の非線形性を考慮可能な要素で橋梁をモデル化して構造解析(数値解析)用のモデルを作成し,当該モデルを使用して荷重増分法による弾塑性有限変位解析を行うことで,重点的に点検を行うべき点検対象部材を決定する,というものである。なお,本実施形態では,鋼製トラスと鋼製床版とを具備する鋼構造の橋梁を例示するが,構造物の種類や使用材料等を限定する趣旨ではない。
【0013】
モデルの作成および弾塑性有限変位解析は,図1に示す解析用コンピュータCを利用して実行する。」

「【0024】
次に,本実施形態に係る点検対象部材の決定方法の具体的な手順を詳細に説明する。
図4に示すように,本実施形態に係る点検対象部材の決定方法は,準備ステップと,感度解析ステップと,判定ステップと,擬似経年解析ステップと,点検対象部材決定ステップとを含むものである。」

「【0026】
基本モデルが作成されたならば,基本モデルが終局状態に至るまで荷重増分法による弾塑性有限変位解析を行い,基本モデルの終局荷重(すなわち,各部材に断面欠損が無いと仮定した場合の終局荷重)を演算する(ステップS2)。解析を行う際には,解析プログラム12を起動し,解析用コンピュータCを構造解析手段22として機能させればよい。解析プログラム12の起動後,オペレータの操作により基本モデルファイル13を指定すると,構造解析手段22によって,基本モデルファイル13の中から基本モデルに関するデータが読み出され,基本モデルに対して荷重増分法による弾塑性有限変位解析が実行される。構造解析手段22は,基本モデルが不安定構造になったときに,「基本モデルが終局状態に至った」と判定し,そのときの載荷荷重を終局荷重として結果ファイル17に書き込む。なお,或る部材に破断や座屈が発生したとしても,不安定構造に至らない場合があるので,本実施形態では,橋梁の重要箇所(例えば,スパン中央や支承部分など)に対応するファイバー要素またはシェル要素の変位量(節点の変位量)が収束しない状態を,「基本モデルの終局状態」とする。
【0027】
感度解析ステップは,一の部材の断面欠損が橋梁の終局状態(終局耐力)に与える影響を調査するために行われる。感度解析ステップでは,橋梁を構成する複数の部材のうちの一つを着目部材として選定したうえで(ステップS3),当該着目部材に断面欠損が発生したと仮定して,当該断面欠損を反映した感度解析用モデルを作成する(ステップS4)。」

「【0030】
感度解析用モデルが作成されたならば,感度解析用モデルが終局状態に至るまで荷重増分法による弾塑性有限変位解析を行い,感度解析用モデルの終局荷重(すなわち,着目部材αに断面欠損が有ると仮定した場合の終局荷重)を取得する(ステップS5)。解析を行う際には,解析プログラム12を起動し,解析用コンピュータCを構造解析手段22として機能させればよい。解析プログラム12の起動後,オペレータの操作により感度解析用モデルファイル14を指定すると,構造解析手段22によって,感度解析用モデルファイル14の中から感度解析用モデルに関するデータが読み出され,感度解析用モデルに対して荷重増分法による弾塑性有限変位解析が実行される。構造解析手段22は,感度解析用モデルが不安定構造になったときに,「感度解析用モデルが終局状態に至った」と判定し,そのときの載荷荷重を終局荷重として結果ファイル17に書き込む。本実施形態では,橋梁の重要箇所(例えば,スパン中央や支承部分など)に対応するファイバー要素またはシェル要素の変位量(節点の変位量)が収束しない状態を,「感度解析用モデルの終局状態」とする。」

「【0033】
判定ステップでは,感度解析ステップで得られた終局荷重(感度解析用モデルの終局荷重)Pnと,準備ステップで得られた終局荷重(基本モデルの終局荷重)P0とを対比することで,着目部材αが橋梁の終局耐力に大きな影響を及ぼす虞のある要注意部材βであるか否かを判定する(ステップS7)。要注意部材βであるか否かの判断は,オペレータが行う。
【0034】
判定方法に制限はないが,影響度の高い着目部材αに断面欠損が生じた場合ほど,終局荷重Pnが低下する傾向にあるので,例えば,終局荷重の減少率ΔP(=(1-Pn/P0)×100)を算出し,減少率ΔPが予め規定した基準減少率ΔP0以上である場合に,着目部材αを要注意部材βとして抽出するとよい。なお,図5に示すグラフは,準備ステップおよび感度解析ステップで得られた解析結果を示すグラフであって,「載荷荷重」を縦軸とし,橋梁の重要箇所(例えば,スパン中央など)に対応する要素における「変位」を横軸としたものである。白丸は降伏状態に至ったときの載荷荷重と変位との関係をプロットしたものであり,黒丸は終局状態に至ったときの載荷荷重(=終局荷重)と変位との関係をプロットしたものである。図5中の曲線L0は,基本モデルに対する弾塑性有限変位解析により得られたものであり,曲線Ln(n=1?5)は,感度解析用モデルに対する弾塑性有限変位解析により得られたものである。ちなみに,曲線L1?L5は,着目部材α1?α5に対応している。」

「【0037】
要注意部材βを選定したならば,ステップS8に進み,擬似経年解析ステップにおいて要注意部材βに適用すべき断面欠損率K1,K2,…,Kmを設定する。すなわち,各要注意部材βに適用すべき断面欠損の進行パターンを設定する。本実施形態では,複数の進行パターンが欠損パターン規定ファイル16に格納されていて,オペレータが進行パターンを指定すると,欠損パターン規定ファイル16の中から当該進行パターンに対応する断面欠損率K1,K2,…,Kmが抽出される。なお,図6に示すように,断面欠損の進行パターンは,時間の経過ととともに断面欠損が進行していく(断面欠損率が大きくなる)様子を模擬したものである。進行パターンAは,断面欠損率が時間経過と比例関係にある場合を規定したものであり,進行パターンBは,時間経過とともに断面欠損率の増加率が増大する場合を規定したものである。なお,図6では,二つの進行パターンA,Bを例示しているが,進行パターンを限定する趣旨ではない。断面欠損の進行パターンは,環境や使用材質によって異なるので,状況に応じて適宜設定すればよい。」

「【0041】
要注意部材βの断面欠損率を「K1」とした経年解析用モデルが作成されたならば,当該経年解析用モデルを使用して,設計荷重に至るまで荷重増分法による弾塑性有限変位解析を行い,設計荷重作用時に経年解析用モデルにおいて発生する変位量を取得する(ステップS10)。解析を行う際には,解析プログラム12を起動し,解析用コンピュータCを構造解析手段22として機能させればよい。解析プログラム12の起動後,オペレータが経年解析用モデルファイル15を指定すると,構造解析手段22によって,経年解析用モデルファイル15の中から経年解析用モデルに関するデータが読み出され,経年解析用モデルに対して荷重増分法による弾塑性有限変位解析が実行される。なお,構造解析手段22は,設計荷重に至る前に経年解析用モデルが不安定構造になったとき(すなわち,経年解析用モデルが終局状態に至ったとき)には,解析を終了するとともに,終了時点において経年解析用モデルに発生した変位量を結果ファイル17に書き込む。」

以上の記載から,甲第3号証には以下の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「複数の部材で構成される橋梁を対象とするものであり,材料の非線形性を考慮可能な要素で橋梁をモデル化して構造解析(数値解析)用のモデルを作成し,当該モデルを使用して荷重増分法による弾塑性有限変位解析を行うことで,重点的に点検を行うべき点検対象部材を決定する点検対象部材の決定方法」

(エ)甲第4号証(橋梁補修・補強マニュアル(案),長崎県土木部道路維持課,平成27年3月)
甲第4号証によると,以下の点が示されているものと認められる。
a 16ページ図中「詳細点検」中の「点検作業」で,「損傷写真の撮影」を行うこと,「結果の整理(橋梁点検支援システム)」で「損傷写真を所定のフォルダに保存し登録」すること。

b 104ページには,「調査設計の実施」段階であって,コンクリート橋の表面の写真と共に,次の事項が記載されている。
「□詳細点検の主な結果
主桁:ひびわれ[C],剥離・鉄筋露出[E],漏水・遊離石灰[C]
横桁:剥離・鉄筋露出[E]
橋台・橋脚:ひびわれ[D],漏水・遊離石灰[E]
防護柵:防食機能の劣化[C]
舗装:路面の凹凸[E],舗装の異常[E]
※1遊離石灰からはさび汁は確認されていない。」

以上の記載から,甲第4号証には以下の事項(以下「甲4記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「コンクリート橋の表面を被写体とした損傷写真を保存すること」

イ 対比(本件発明1について)
(ア)甲1発明の,「トンネル等のコンクリート壁面を可視カメラと赤外線カメラで撮影し」,「可視画像データ2を画像処理し,ひび基本特徴量(幅,長さ,方向,位置)4を抽出するひび特徴抽出回路3」,「可視カメラと赤外線カメラで撮影した両画像データを画像処理し,漏水基本特徴量(面積,位置)14を抽出する漏水特徴抽出回路13」及び「赤外画像データ12を画像処理し,剥離基本特徴量(面積,深さ,位置)20を抽出する剥離特徴抽出回路19」は,トンネル等の構造物の壁面を被写体とした可視画像データ及び赤外画像データから,ひび基本特徴量(幅,長さ,方向,位置),漏水基本特徴量(面積,位置),剥離基本特徴量(面積,深さ,位置)というトンネル等の損傷の位置を抽出するものであるから,ひび基本特徴量(幅,長さ,方向,位置),漏水基本特徴量(面積,位置)及び剥離基本特徴量(面積,深さ,位置)と,本件発明1の「損傷の部位」とは,「損傷の位置」で共通する。そうすると,甲1発明の「ひび特徴抽出回路3」,「漏水特徴抽出回路13」及び「剥離特徴抽出回路19」からなるものと,本件発明1の「任意の建造物の表面を被写体とした撮影画像から1または複数の前記建造物の損傷の部位を抽出する損傷部位抽出手段」とは,「任意の建造物の表面を被写体とした撮影画像から1または複数の前記建造物の損傷の位置を抽出する損傷部位抽出手段」で共通する。

(イ)甲1発明の,「ひびiに関し,ひび基本特徴量について,位置ポイントCp,iをP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算することで,ひび基本特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する個別特徴健全度ポイント計算ブロック28」,「漏水jに関し,漏水基本特徴量について,位置ポイントWp,jをP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算することで,漏水基本特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する漏水個別特徴健全度ポイント計算ブロック30」及び「剥離kに関し,剥離基本特徴量について,位置ポイントDp,kをP1(天井),P2(天井・側壁境界),P3(側壁上部),P4(その他)に区分して計算することで,剥離基本特徴量の大きさに応じた健全度のポイントを算出する剥離個別特徴健全度ポイント計算ブロック32」は,可視画像データ又は赤外画像データから抽出された,ひびi,漏水j,剥離kに関し,位置情報を含む,それぞれ,ひび基本特徴量,漏水基本特徴量,剥離基本特徴量の大きさに応じて「健全度のポイント」を算出するものであって,これらの2つの位置の間の距離とは無関係に算出された「健全度のポイント」と,本件発明1の「損傷影響度」とは,「影響度」で共通する。そうすると,甲1発明の「個別特徴健全度ポイント計算ブロック28」,「漏水個別特徴健全度ポイント計算ブロック30」及び「剥離個別特徴健全度ポイント計算ブロック32」からなるものは,本件発明1の「前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離に基づいて,前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を,前記建造物の損傷の部位ごとに算出する損傷影響度算出手段」とは,「前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の位置に基づいて,前記建造物の損傷の位置の影響度を,前記建造物の損傷の位置ごとに算出する損傷影響度算出手段」で共通する。

(ウ)甲1発明の,「ひび個別特徴健全度ポイント計算ブロック28により計算された,位置ポイントCp,i,を含むひび個別特徴健全度ポイント29に基づいて,単体ひび健全度レベルCiを計算する単体ひび健全度レベル計算ブロック34」,「漏水個別特徴健全度ポイント計算ブロック30により計算された,位置ポイントWp,jを含む漏水個別特徴健全度ポイント31に基づいて,単体漏水健全度レベルWjを計算する単体漏水健全度レベル計算ブロック36」,「剥離個別特徴健全度ポイント計算ブロック32により計算された,位置ポイントDp,kを含む剥離個別特徴健全度ポイント33に基づいて,単体剥離健全度レベルDkを計算する単体剥離健全度レベル計算ブロック38」,「「ひび基本特徴量」等,「漏水基本特徴量」等,「剥離本特徴量」等に基づき複合健全度レベルを算出する複合健全度レベル計算ブロック40」及び「単体ひび,漏水,剥離健全度レベルと複合健全度レベルの計算を健全度を判定する判定区間の全ての変状に対し行い,計算が終了したら,判定区間内の健全度レベルの集計を行い,健全度レベルの集計値によりその判定区間の健全度ランクを判定し結果として出力する判定区間内総合健全度判定ブロック42」は,判定区間内総合健全度判定ブロック42が判定区間内の,単体ひび健全度レベル計算ブロック34で計算された「単体ひび健全度レベルCi」,単体漏水健全度レベル計算ブロック36で計算された「単体漏水健全度レベルWj」,単体剥離健全度レベル計算ブロック38で計算された「単体剥離健全度レベルDk」,及び,複合健全度レベル計算ブロック40で算出された「複合健全度レベル」の集計を行い,健全度レベルの集計値によりその判定区間の健全度ランクを判定し結果として出力するものである。このため,甲1発明の「健全度ランク」は,「判定区間」において集計された集計値により判定されるものであって「損傷の部位ごと損傷影響度に基づいて」に判定されるものではないものの,影響度に基づいて判定される点で,本件発明1の「健全度」に対応する。
そうすると,甲1発明の「単体ひび,漏水,剥離健全度レベルと複合健全度レベルの計算を健全度を判定する判定区間の全ての変状に対し行い,計算が終了したら,判定区間内の健全度レベルの集計を行い,健全度レベルの集計値によりその判定区間の健全度ランクを判定し結果として出力する判定区間内総合健全度判定ブロック42」と,本件発明1の「前記損傷影響度算出手段が算出した前記建造物の損傷の部位ごとの損傷影響度に基づいて,前記建造物の健全度を判定する健全度判定手段」とは,「前記損傷影響度算出手段が算出した影響度に基づいて,前記建造物の健全度を判定する健全度判定手段」で共通する。

(エ)そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「任意の建造物の表面を被写体とした撮影画像から1または複数の前記建造物の損傷の位置を抽出する損傷部位抽出手段と,
前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の位置に基づいて,前記建造物の損傷の位置の影響度を,前記建造物の損傷の位置ごとに算出する損傷影響度算出手段と,
前記損傷影響度算出手段が算出した影響度に基づいて,前記建造物の健全度を判定する健全度判定手段と
備える健全度判定装置。」

<相違点>
(相違点1)
本件発明1は,「損傷の位置」が「損傷の部位」であるのに対し,甲1発明では,「損傷の位置」が,ひび基本特徴量(幅,長さ,方向,位置),漏水基本特徴量(面積,位置)及び剥離基本特徴量(面積,深さ,位置)であって,「損傷の部位」ではない点。

(相違点2)
本件発明1は,「前記撮影画像における前記建造物の構造上の重要部位の位置を決定する重要部位位置決定手段」を備え,「前記重要部位の位置は,前記建造物の健全性の判定ポイントとなる部材の位置」であるのに対し,甲1発明は,そのような構成を備えていない点。

(相違点3)
本件発明1は,「影響度」が「前記重要部位位置決定手段が決定した前記建造物の重要部位の位置と,前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離に基づいて,前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度」であるのに対し,甲1発明では,「影響度」が「可視画像データ又は赤外画像データから抽出された,ひびi,漏水j,剥離kに関し,位置情報を含む,それぞれ,ひび基本特徴量,漏水基本特徴量,剥離基本特徴量の大きさに応じて健全度のポイント」であり,2つの位置の間の距離とは無関係に算出される点。

(相違点4)
本件発明1は,「健全度」が「損傷の部位ごと損傷影響度に基づいて」判定されるのに対し,甲1発明では,「健全度」に対応する「健全度ランク」が「判定区間」において集計された集計値により判定される点。

ウ 判断
(ア)新規性について
上記イ(エ)のとおり,本件発明1と甲1発明と間に差異がある。
したがって,本件発明1は,甲1発明ではない。

(イ)進歩性について
事案に鑑み,相違点2について検討をする。
甲2記載事項,甲3記載事項,甲4記載事項は,撮影画像における建造物の構造上の重要部位の位置を決定するものではない。また,甲第2号証?甲第4号証には,この点について,記載も示唆もされてない。さらに技術常識を考慮しても,撮影画像における建造物の構造上の重要部位の位置を決定することは周知技術であるということもできない。
そうすると,上記相違点1,3,4について判断するまでもなく,本件発明1は,当業者であっても,甲1発明及び甲2記載事項?甲4記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,本件発明1は,甲1発明及び甲2記載事項?甲4記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることできたものではない。

エ 本件発明3,10,12,13ついて
(ア)新規性について
本件発明3,10は,請求項1を引用する請求項に係る発明であって,甲1発明と対比すると,イ(エ)において上記した相違点が存在するから,甲1発明でない。
また,本件発明1とカテゴリーの異なる本件発明12及び13についても,甲1発明と対比すると,同様の相違点が存在するから,甲1発明でない。

(イ)進歩性について
本件発明3,4,8?11は,請求項1を引用する請求項に係る発明であって,甲1発明と対比すると,イ(エ)において上記した相違点が存在し,このうち相違点2については,ウ(イ)に上記したとおり,当業者が容易に発明をすることができない。
また,本件発明1とカテゴリーの異なる本件発明12及び13についても,甲1発明と対比すると同様の相違点が存在し,このうち相違点2については,ウ(イ)に上記したとおり,当業者が容易に発明をすることができない。

オ 小括
以上ア?エに記載したとおり,本件発明1,3,10,12,13は,甲1発明でないから,請求項1,3,10,12,13に係る特許が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできず,また,本件発明1,3,4,8?13は,甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証に基づいて,当業者が容易に発明をすることできたものではないから,請求項1,3,4,8?13に係る特許が特許法第29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。


第7 むすび

以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,訂正後の本件請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。また,他に訂正後の本件請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の建造物の表面を被写体とした撮影画像から1または複数の前記建造物の損傷の部位を抽出する損傷部位抽出手段と、
前記撮影画像における前記建造物の構造上の重要部位の位置を決定する重要部位位置決定手段と、
前記重要部位位置決定手段が決定した前記建造物の重要部位の位置と、前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離に基づいて、前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を、前記建造物の損傷の部位ごとに算出する損傷影響度算出手段と、
前記損傷影響度算出手段が算出した前記建造物の損傷の部位ごとの損傷影響度に基づいて、前記建造物の健全度を判定する健全度判定手段と、を備え、
前記重要部位の位置は、前記建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置である、
健全度判定装置。
【請求項2】
前記損傷影響度算出手段は、前記建造物の重要部位の位置と、前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離の逆数に応じて、前記損傷影響度を算出する請求項1に記載の健全度判定装置。
【請求項3】
前記損傷部位抽出手段の抽出した前記建造物の損傷の部位における損傷の種類および損傷の程度を抽出する損傷抽出手段をさらに備え、
前記損傷影響度算出手段は、前記重要部位位置決定手段が決定した前記建造物の重要部位の位置と前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離と、前記損傷抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位における損傷の種類および損傷の程度とに基づいて、前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を算出する請求項1または2に記載の健全度判定装置。
【請求項4】
前記建造物の重要部位は、前記建造物の部材の接合部、支承およびコンクリートの配筋箇所のうち少なくとも1つを含む請求項3に記載の健全度判定装置。
【請求項5】
前記重要部位位置決定手段の決定した前記建造物の重要部位の位置は、コンクリート橋桁支間中央部または鋼橋桁支間中央部であり、
前記建造物の損傷の部位における損傷の種類は、コンクリート橋桁のひびわれ、鋼コンクリート橋桁の腐食、亀裂および破断のうち少なくとも1つを含み、
前記建造物の損傷の部位における損傷の程度は、コンクリート橋桁のひびわれ、鋼コンクリート橋桁の腐食、亀裂および破断の進行度のうち少なくとも1つを含み、
前記損傷影響度算出手段は、前記建造物の重要部位の位置と、前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離の逆数に、前記コンクリート橋桁のひびわれ、鋼コンクリート橋桁の腐食、亀裂および破断の進行度のうち少なくとも1つを乗じた値に応じて、前記損傷影響度を算出する請求項4に記載の健全度判定装置。
【請求項6】
前記コンクリート橋桁のひびわれ、鋼コンクリート橋桁の腐食、亀裂および破断の進行度は、前記コンクリート橋桁のひびわれの長さおよび幅、前記鋼コンクリート橋桁の腐食の面積、前記鋼コンクリート橋桁の亀裂および破断の長さおよび幅のうち少なくとも1つを含む請求項5に記載の健全度判定装置。
【請求項7】
前記コンクリート橋桁のひびわれ、鋼コンクリート橋桁の腐食、亀裂および破断の進行度は、前記コンクリート橋桁のひびわれの長さおよび幅の変化率、前記鋼コンクリート橋桁の腐食の面積の変化率、前記鋼コンクリート橋桁の亀裂および破断の長さおよび幅の変化率のうち少なくとも1つを含む請求項5に記載の健全度判定装置。
【請求項8】
前記建造物の構造情報を取得する構造情報取得手段をさらに備え、
前記重要部位位置決定手段は、前記構造情報取得手段が取得した前記建造物の構造情報に基づいて、前記建造物の重要部位の位置を決定する請求項1?7のいずれか1項に記載の健全度判定装置。
【請求項9】
前記構造情報取得手段は、前記建造物を被写体とした撮影画像から前記建造物の構造情報を取得する請求項8に記載の健全度判定装置。
【請求項10】
前記健全度判定手段の判定した前記建造物の健全度を出力する健全度出力手段をさらに備える請求項1?9のいずれか1項に記載の健全度判定装置。
【請求項11】
前記健全度出力手段は、前記損傷影響度算出手段が算出した前記建造物の損傷の部位ごとの前記損傷影響度に応じて、前記損傷部位抽出手段が抽出した前記建造物の損傷の部位の撮影画像の全部または一部を出力する請求項10に記載の健全度判定装置。
【請求項12】
任意の建造物の表面を被写体とした撮影画像から1または複数の前記建造物の損傷の部位を抽出する損傷部位抽出ステップと、
前記撮影画像における前記建造物の構造上の重要部位の位置を決定する重要部位位置決定ステップと、
前記重要部位位置決定ステップが決定した前記建造物の重要部位の位置と、前記損傷部位抽出ステップが抽出した前記建造物の損傷の部位の位置との間の距離に基づいて、前記建造物の損傷の部位の影響度を示す損傷影響度を、前記建造物の損傷の部位ごとに算出する損傷影響度算出ステップと、
前記損傷影響度算出ステップが算出した前記建造物の損傷の部位ごとの損傷影響度に基づいて、前記建造物の健全度を判定する健全度判定ステップと、を備え、
前記重要部位の位置は、前記建造物の健全性の判定のポイントとなる部材の位置である、健全度判定方法。
【請求項13】
請求項12に記載の健全度判定方法をコンピュータに実行させるための健全度判定プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-04-28 
出願番号 特願2017-539787(P2017-539787)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G06Q)
P 1 651・ 537- YAA (G06Q)
P 1 651・ 121- YAA (G06Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 海江田 章裕  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 相崎 裕恒
松田 直也
登録日 2018-12-21 
登録番号 特許第6454793号(P6454793)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 健全度判定装置、健全度判定方法および健全度判定プログラム  
代理人 松浦 憲三  
代理人 松浦 憲三  

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