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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1363984
異議申立番号 異議2019-700211  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-18 
確定日 2020-06-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6393658号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 1 特許第6393658号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。 2 特許第6393658号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等
特許第6393658号(請求項の数は2。以下「本件特許」という。)は,平成27年5月25日にされた特許出願に係るものであって,平成30年8月31日にその特許権が設定登録され,同年9月19日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後,平成31年3月18日に特許異議申立人佐藤雅彦(以下,単に「申立人」という。)より本件特許の請求項1?2に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てがされ,令和1年7月1日付けで取消理由が通知され,同年8月27日に特許権者より意見書が提出され,同年9月24日付けで申立人に対し審尋がされ(特許法120条の8第1項で準用する134条4項),同年10月8日に申立人より回答書が提出され,同年12月12日付けで取消理由(以下「決定の予告」という。)が通知され,令和2年2月4日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求書が提出されることで特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)が請求され,同月7日付けで申立人に対し特許法120条の5第5項所定の通知がされ,同年3月9日に申立人より意見書が提出された。

第2 本件訂正の可否
1 特許権者の請求の趣旨
結論第1項に同旨。
2 訂正の内容
訂正請求書及びそれに添付された訂正特許請求の範囲によれば,特許権者の求める訂正は,実質的に,以下のとおりである。
【訂正事項】 特許請求の範囲を以下のとおり訂正する(決定注:訂正事項は,訂正請求書によらず,本決定において整理した。)。
・ 本件訂正前
「【請求項1】
トレッド踏面に,タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも2本の周方向主溝と,相互に隣り合う2本の前記周方向主溝で区画形成される少なくとも1本のリブ状陸部と,を備えた空気入りタイヤであって,
前記リブ状陸部は,前記周方向主溝に一端が開口し,当該リブ状陸部内で他端が終端する一端開口サイプと,前記リブ状陸部内で両端が終端する両端閉口サイプと,を有し,
前記一端開口サイプの深さ,前記両端閉口サイプの深さおよび前記周方向主溝の深さの関係が,
周方向主溝の深さ≧両端閉口サイプの深さ>一端開口サイプの深さ
であることを特徴とする,空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記両端閉口サイプは,トレッド踏面視で円形の小穴である,請求項1に記載の空気入りタイヤ。」
・ 本件訂正後
「【請求項1】
トレッド踏面に,タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも2本の周方向主溝と,相互に隣り合う2本の前記周方向主溝で区画形成される少なくとも1本のリブ状陸部と,を備えた空気入りタイヤであって,
前記リブ状陸部は,前記周方向主溝に一端が開口し,当該リブ状陸部内で他端が終端する一端開口サイプと,前記リブ状陸部内で両端が終端する両端閉口サイプと,を有し,
前記一端開口サイプの深さ,前記両端閉口サイプの深さおよび前記周方向主溝の深さの関係が,
周方向主溝の深さ≧両端閉口サイプの深さ>一端開口サイプの深さ
であり,
前記一端開ロサイプは,一端が前記周方向主溝に連通し,タイヤ幅方向に延び,他端が前記リブ状陸部内で終端する,幅方向サイプ部分と,一端が前記幅方向サイプ部分の前記他端と連通し,タイヤ周方向に延び,他端が前記リブ状陸部内で終端する,周方向サイプ部分と,からなることを特徴とする,空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド踏面に,タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも2本の周方向主溝と,相互に隣り合う2本の前記周方向主溝で区画形成される少なくとも1本のリブ状陸部と,を備えた空気入りタイヤであって,
前記リブ状陸部は,前記周方向主溝に一端が開口し,当該リブ状陸部内で他端が終端する一端開口サイプと,前記リブ状陸部内で両端が終端する両端閉口サイプと,を有し,
前記一端開口サイプの深さ,前記両端閉口サイプの深さおよび前記周方向主溝の深さの関係が,
周方向主溝の深さ≧両端閉口サイプの深さ>一端開口サイプの深さ
であり,
前記両端閉口サイプは,トレッド踏面視で円形の小穴であることを特徴とする,空気入りタイヤ。」
3 本件訂正の許否についての判断
(1) 請求項1についての訂正
請求項1についての訂正は,請求項1に係る発明の構成要件である「一端開口サイプ」について,「前記一端開ロサイプは,一端が前記周方向主溝に連通し,タイヤ幅方向に延び,他端が前記リブ状陸部内で終端する,幅方向サイプ部分と,一端が前記幅方向サイプ部分の前記他端と連通し,タイヤ周方向に延び,他端が前記リブ状陸部内で終端する,周方向サイプ部分と,からなる」との限定を加えるものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。しかも,上述の限定事項については,例えば願書に添付した明細書の【0027】や図2などに記載がある。
よって,請求項1についての訂正は,法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから,同条9項で準用する法126条5項で規定する要件を満たすといえる。また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,同126条6項で規定する要件を満たすと判断される。
(2) 請求項2についての訂正
請求項2についての訂正は,本件訂正前において請求項1の記載を引用していた記載を引用しないものとするものであるから,いわゆる引用関係の解消を目的とするものであるといえる。
よって,請求項2についての訂正は,法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とするものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかであるから,同条9項で準用する法126条5項で規定する要件を満たすといえる。また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,同126条6項で規定する要件を満たすと判断される。
(3) 小括
以上のとおりであるから,本件訂正は,法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項で準用する法126条5?6項で規定する要件を満たす。
よって,結論の第1項のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で検討のとおり本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?2に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」,「本件発明2」といい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。
「【請求項1】
トレッド踏面に,タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも2本の周方向主溝と,相互に隣り合う2本の前記周方向主溝で区画形成される少なくとも1本のリブ状陸部と,を備えた空気入りタイヤであって,
前記リブ状陸部は,前記周方向主溝に一端が開口し,当該リブ状陸部内で他端が終端する一端開口サイプと,前記リブ状陸部内で両端が終端する両端閉口サイプと,を有し,
前記一端開口サイプの深さ,前記両端閉口サイプの深さおよび前記周方向主溝の深さの関係が,
周方向主溝の深さ≧両端閉口サイプの深さ>一端開口サイプの深さ
であり,
前記一端開ロサイプは,一端が前記周方向主溝に連通し,タイヤ幅方向に延び,他端が前記リブ状陸部内で終端する,幅方向サイプ部分と,一端が前記幅方向サイプ部分の前記他端と連通し,タイヤ周方向に延び,他端が前記リブ状陸部内で終端する,周方向サイプ部分と,からなることを特徴とする,空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド踏面に,タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも2本の周方向主溝と,相互に隣り合う2本の前記周方向主溝で区画形成される少なくとも1本のリブ状陸部と,を備えた空気入りタイヤであって,
前記リブ状陸部は,前記周方向主溝に一端が開口し,当該リブ状陸部内で他端が終端する一端開口サイプと,前記リブ状陸部内で両端が終端する両端閉口サイプと,を有し,
前記一端開口サイプの深さ,前記両端閉口サイプの深さおよび前記周方向主溝の深さの関係が,
周方向主溝の深さ≧両端閉口サイプの深さ>一端開口サイプの深さ
であり,
前記両端閉口サイプは,トレッド踏面視で円形の小穴であることを特徴とする,空気入りタイヤ。」

第4 申立人の主張に係る申立理由の概要
異議申立人の主張は,概略,本件発明1?2は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である,というものである。
1 すなわち,本件発明1?2は,甲1に記載された発明を主たる引用発明(以下「甲1発明」という。)としたとき,この甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(以下,決定の便宜上,「申立理由1」という。)。
2 また,本件発明1?2は,甲2に記載された発明を主たる引用発明(以下「甲2発明」という。)としたとき,この甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(同様に,「申立理由2」という。)。
3 また,証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1?6)を提出する。
・甲1: 特開2008-273301号公報
・甲2: 特開2007-182097号公報
・甲3: 特開平7-81329号公報
・甲4: 特開2010-30350号公報
・甲5: 特開2010-30583号公報
・甲6: 特開2013-39899号公報

第5 当合議体の判断
当合議体は,以下述べるように,上記申立理由1?2(上記第4)はいずれも理由がないと判断する。
1 引用発明
(1) 甲1の記載
甲1には,次の記載がある。(下線は本決定による。以下同じ。)
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド表面にタイヤ周方向に連続して形成された主溝と,
少なくとも前記主溝により区画される陸部と,
前記陸部のタイヤ幅方向における両端のうち少なくとも一方に,タイヤ周方向に連続して複数個形成されるサイプと,
を備える空気入りタイヤにおいて,
前記複数個のサイプは,
スリット状に形成され,かつ一方の端部が前記陸部のうち,当該陸部が路面に接地した際における接地面を除く部分に開口し,他方の端部が当該陸部の内部で閉塞するオープンサイプと,
略環状あるいは環状に形成され,前記陸部の内部で閉塞するクローズドサイプと,
により構成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。…
【請求項5】
前記オープンサイプは,主溝の深さをD,前記オープンサイプのタイヤ径方向の距離をd1とした場合に,d1/Dが0.5以上1以下の範囲内となることを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記クローズドサイプは,主溝の深さをD,前記クローズドサイプのタイヤ径方向の距離をd2とした場合に,d2/Dが0.5以上1以下の範囲内となることを特徴とする請求項1?5のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,空気入りタイヤに関するものであり,さらに詳しくは,陸部にタイヤ周方向連続するサイプが形成される空気入りタイヤに関するものである。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
…オープンサイプがエッジ部領域にタイヤ周方向に連続的に形成される空気入りタイヤでは,オープンサイプ近傍の陸部の変形に起因して,オープンサイプ近傍の陸部が剥離するティアが発生するという問題があった。…
【0008】
本発明は,上記に鑑みてされたものであって,耐偏摩耗性能と耐ティア性能との両立を図ることができる空気入りタイヤに関するものである。」
・「【0010】
本発明によれば,空気入りタイヤは,エッジ部領域に連続的に形成するオープンサイプの一部を,クローズドサイプに置き換える。つまり,空気入りタイヤは,サイプがタイヤ周方向に連続的に複数個形成されている。また,クローズドサイプは,オープンサイプと同様に,空気入りタイヤが路面と接地した際に,荷重によるエッジ部領域の変形を促進することができる。従って,エッジ部領域の路面に対する接地圧を低減することができ,陸部の接地圧の均一化を図ることができるので,オープンサイプのみの配列を有する空気入りタイヤと比較して,耐偏摩耗性能を確保することができる。また,クローズドサイプは,略環状あるいは環状であることにより,エッジ部に力が加わった際に,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部が変形するが,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部は,変形により中実部と接触する。中実部がクローズドサイプ近傍の陸部から独立していない場合は,クローズドサイプの中実部と,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部とが接触することにより,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部と,中実部を含む他のクローズドサイプ近傍の陸部が一体化する。中実部がクローズドサイプ近傍の陸部から独立している場合は,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部がさらに変形することにより,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部が接触している中実部と,クローズドサイプ近傍の陸部とが接触することにより,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部と,中実部を含む他のクローズドサイプ近傍の陸部が一体化する。従って,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部と,中実部を含む他のクローズドサイプ近傍の陸部とが一体化することにより,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部の過剰な変形を抑制できるため,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部に発生するティアを抑制することができる。従って,オープンサイプを略環状あるいは環状のクローズドサイプに置き換えることにより,サイプに起因するティアの発生を抑制することができる。これにより,空気入りタイヤの耐ティア性能を向上させることができる。」
・「【0038】
オープンサイプ5は,主溝31の深さをD,オープンサイプ5のタイヤ径方向の距離をd1とした場合に,d1/Dが0.5以上1以下の範囲内となることが好ましい。これにより,エッジ部領域44のタイヤ周方向に連続して,オープンサイプ5がd1/Dが0.5以上1以下の範囲内となることにより,耐偏摩耗性能の確実な確保と耐ティア性能の効率的な向上を図ることができる。例えば,d1/D<0.5の範囲のオープンサイプ5を形成する空気入りタイヤ1は,d1/Dが0.5以上1以下の範囲のオープンサイプ5を形成する空気入りタイヤ1と比較して,非接地面開口部5bのタイヤ周方向へ開口する幅が小さすぎるため,エッジ部領域44が変形しにくくなる。従って,d1/Dが0.5以上1以下の範囲のオープンサイプ5を形成する空気入りタイヤ1と比較して,空気入りタイヤ1の耐偏摩耗性能が低下する虞がある。また,d1/D>1.0の範囲のオープンサイプ5を形成する空気入りタイヤ1は,オープンサイプ5により主溝31の深さDよりも深い切り込みd1がトレッド表面2に刻み込まれることにより,オープンサイプ5近傍の陸部の力に対する変形が大きくなる。従って,d1/Dが0.5以上1以下の範囲のオープンサイプ5を形成する空気入りタイヤ1と比較して,空気入りタイヤ1の耐ティア性能が低下する虞がある。
【0039】
クローズドサイプ6は,主溝31の深さをD,クローズドサイプ6のタイヤ径方向の距離をd2とした場合に,d2/Dが0.5以上1以下の範囲内となることが好ましい。これにより,エッジ部領域44のタイヤ周方向に連続して,クローズドサイプ6がd2/Dが0.5以上1以下の範囲内となることにより,耐偏摩耗性能の確実な確保と耐ティア性能の効率的な向上を図ることができる。例えば,d2/D<0.5の範囲のクローズドサイプ6を形成する空気入りタイヤ1は,d2/Dが0.5以上1以下の範囲のクローズドサイプ6を形成する空気入りタイヤ1と比較して,タイヤ径方向に小さすぎるため,エッジ部領域44が変形しにくくなる。従って,d2/Dが0.5以上1以下の範囲のクローズドサイプ6を形成する空気入りタイヤ1と比較して,空気入りタイヤ1の耐偏摩耗性能が低下する虞がある。また,d2/D>1.0の範囲のクローズドサイプ6を形成する空気入りタイヤ1は,クローズドサイプ6により主溝31の深さDよりも深い切り込みd2がトレッド表面2に刻み込まれることにより,クローズドサイプ6近傍の陸部の力に対する変形が大きくなる。従って,d2/Dが0.5以上1以下の範囲のクローズドサイプ6を形成する空気入りタイヤ1と比較して,空気入りタイヤ1の耐ティア性能が低下する虞がある。」
・「


・「


(2) 甲1に記載された発明
上記(1)での摘記,特に【請求項1】,【請求項5】,【請求項6】,【0038】,【0039】,【図1】及び【図2】の記載から,甲1には次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「トレッド表面にタイヤ周方向に連続して形成された主溝と,少なくとも前記主溝により区画される陸部と,前記陸部のタイヤ幅方向における両端のうち少なくとも一方にタイヤ周方向に連続して複数個形成されるサイプと,を備える空気入りタイヤにおいて,
前記複数個のサイプは,スリット状に形成されかつ一方の端部が前記陸部のうち当該陸部が路面に接地した際における接地面を除く部分に開口し,他方の端部が当該陸部の内部で閉塞するオープンサイプと,略環状あるいは環状に形成され前記陸部の内部で閉塞するクローズドサイプとにより構成され,
前記オープンサイプは,主溝の深さをD,前記オープンサイプのタイヤ径方向の距離をd1とした場合に,d1/Dが0.5以上1以下の範囲内であり,
前記クローズドサイプは,主溝の深さをD,前記クローズドサイプのタイヤ径方向の距離をd2とした場合に,d2/Dが0.5以上1以下の範囲内である空気入りタイヤ。」
(3) 甲2の記載
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に,タイヤ周方向に直線状で連続してのびる少なくとも2本の主溝が設けられることにより,前記タイヤ周方向に連続してのびる少なくとも3本のリブが区分された重荷重用タイヤであって,
前記リブの主溝に面する各側縁には,前記主溝からタイヤ軸方向と平行にのびかつリブ内部で終端するセミオープンタイプの第1のサイピングがタイヤ周方向に隔設され,
前記第1のサイピングは,厚さが0.3?1.0mm,タイヤ軸方向の長さが前記リブのタイヤ軸方向の幅の5?15%及びタイヤ半径方向の深さが前記主溝の深さの50?100%であり,しかも
タイヤ1本当たりの第1のサイピングの総本数は,タイヤの外径(mm)の無名数の4倍以上かつ8倍以下であることを特徴とする重荷重用タイヤ。…
【請求項4】
前記リブは,タイヤ軸方向にのびかつ両端が該リブ内部で終端するクローズドタイプの第2のサイピングがタイヤ周方向に隔設され,
リブ1本当たりの第2のサイピングの合計本数が60?120本である請求項1乃至3のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。…」
・「【0043】
第2のサイピング6は,タイヤ軸方向と平行に直線状でのびても良いが,好ましくは図3に示されるように,タイヤ軸方向に対して一方側に傾いてのびる(この例では右上がりにのびる)一方のサイプ片6aと,該一方のサイプ片6aに連なりかつタイヤ軸方向に対して他方側に傾いてのびる(この例では右下がりにのびる)他方側のサイプ片6bとを含む少なくとも一つのコーナ部6Cを含む折れ線状が望ましい。
【0044】
リブ4は,タイヤ周方向に連続する円形の表面を有する,それが路面に接地する際には平坦化する。従って,リブ4の表面は接地時に路面に対してスリップする。このスリップによってリブ4に摩耗が生じるのであるが,クローズドサイプである第2のサイピング6を設けることによって,前記スリップ量を小さく抑えることができる。従って,第2のサイピング6は,リブ4の摩耗を抑制し,かつリブ4の剛性を損ねることなく接地時のリブ表面の圧縮歪を緩和できる。
【0045】
また,タイヤにスリップ角が与えられた場合,接地面内においてリブ表面は捻られる。この際,第2のサイピング6は,前記折れ線状部分を含むことによって,その捻りに伴う歪を緩和しスリップを抑えるとともに,サイピング面同士が噛み合うことで該サイピング6の開きを抑制でき,ひいてはサイピング6からのクラックの成長をも抑制しうる。
【0046】
上述の効果を有効に発揮させるために,リブ1本当たりの第2のサイピング6の合計本数は,好ましくは60本以上,より好ましくは70本以上が望ましく,また,好ましくは120本以下,より好ましくは100本以下が望ましい。とりわけ,第2のサイピング6は,接地面内の中で各リブに5?8本含まれることが望ましい。また,第2のサイピング6は,タイヤ周方向に実質的に等ピッチで形成されるのが良い。」
・「【0048】
第2のサイピング6の深さSD2は特に限定されないが,小さすぎると摩耗によって早期に上記効果が損なわれるおそれがあり,逆に大きすぎると,該第2のサイピング6の底部においてクラック等が発生しやすくなる。このような観点より,第2のサイピング6の深さSD2は第1のサイピング5と同様に,主溝3の深さの50?100%が望ましい。」
・「


・「


(4) 甲2に記載された発明
上記(3)での摘記,特に【請求項1】,【請求項4】,【0048】の記載から,甲2には次のとおりの発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「トレッド部に,タイヤ周方向に直線状で連続してのびる少なくとも2本の主溝が設けられることにより,前記タイヤ周方向に連続してのびる少なくとも3本のリブが区分された重荷重用タイヤであって,
前記リブの主溝に面する各側縁には,前記主溝からタイヤ軸方向と平行にのびかつリブ内部で終端するセミオープンタイプの第1のサイピングがタイヤ周方向に隔設され,当該第1のサイピングは,厚さが0.3?1.0mm,タイヤ軸方向の長さが前記リブのタイヤ軸方向の幅の5?15%及びタイヤ半径方向の深さが前記主溝の深さの50?100%であり,
前記リブには,タイヤ軸方向にのびかつ両端が該リブ内部で終端するクローズドタイプの第2のサイピングがタイヤ周方向に隔設され,当該第2のサイピング6の深さは主溝の深さの50?100%である,重荷重用タイヤ。」

2 申立理由1について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「主溝」は本件発明1の「周方向主溝」に相当し,同様に,「陸部」は「リブ状陸部」に,「オープンサイプ」は「一端開口サイプ」に,「クローズドサイプ」は「両端閉口サイプ」にそれぞれ相当する。
また,甲1発明の「オープンサイプのタイヤ径方向の距離(d1)」は本件発明1の「一端開口サイプの深さ」に相当するものであり,同様に,「クローズドサイプのタイヤ径方向の距離(d2)」は「両端閉口サイプの深さ」に相当する。
また,周方向主溝(主溝)の深さ(D)と一端開口サイプ(オープンサイプ)の深さ(d1)あるいは両端閉口サイプ(クローズドサイプ)の深さ(d2)との関係について,甲1発明は「d1/Dが0.5以上1以下の範囲内」であり「d2/Dが0.5以上1以下の範囲内」であるから,周方向主溝の深さが両端閉口サイプの深さより深く,一端開口サイプの深さより深いとの関係が成り立つ点で本件発明1で特定される式を満足しているといえる。
そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりであると認められる。
・ 一致点
「トレッド踏面に,タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも2本の周方向主溝と,相互に隣り合う2本の前記周方向主溝で区画形成される少なくとも1本のリブ状陸部と,を備えた空気入りタイヤであって,
前記リブ状陸部は,前記周方向主溝に一端が開口し,当該リブ状陸部内で他端が終端する一端開口サイプと,前記リブ状陸部内で両端が終端する両端閉口サイプと,を有し,
前記一端開口サイプの深さ,前記両端閉口サイプの深さおよび前記周方向主溝の深さの関係が,
[周方向主溝の深さ]≧[両端閉口サイプの深さ,一端開口サイプの深さ]
である,空気入りタイヤ。」である点。
・ 相違点1-1
両端閉口サイプの深さ(d2)と一端開口サイプの深さ(d1)との関係について,本件発明1は「両端閉口サイプの深さ>一端開口サイプの深さ」と特定するのに対し,甲1発明はそのような特定を有しない点。
・ 相違点1-2
一端開口サイプについて,本件発明1は「一端が前記周方向主溝に連通し,タイヤ幅方向に延び,他端が前記リブ状陸部内で終端する,幅方向サイプ部分と,一端が前記幅方向サイプ部分の前記他端と連通し,タイヤ周方向に延び,他端が前記リブ状陸部内で終端する,周方向サイプ部分と,からなる」と特定するのに対し,甲1発明はそのような特定を有しない点。
イ 事案に鑑み,まず,上記相違点1-2について検討する。
申立人は,相違点1-2に係る構成が甲4?6に開示されていることを前提に,当該構成は当業者であれば想到容易である旨主張するので(令和2年3月9日付け意見書),検討するに,以下述べるように,甲4?6には相違点1-2に係る構成は開示されていないから,甲1発明において甲4?6に開示されている技術事項に基づいて相違点1-2に係る構成を想到するのは当業者であっても容易でない。
すなわち,申立人が記載されていると主張する甲4に記載されているサイプ(例えば,図番12,22,33,42,52で示されたもの)は,一端が主溝(周方向主溝)に連通しタイヤ幅方向に延び,他端が陸部(リブ状陸部)内で終端する幅方向サイプ部分と,一端が前記幅方向サイプ部分の前記他端と連通しタイヤ周方向に延び,他端がリブ状陸部内で終端する周方向サイプ部分とからなる構成を有していない。この点,申立人は,甲4に記載されている「屈曲溝41」は上記構成を有しており,甲1発明のオープンサイプ(一端開口サイプ)について,この屈曲溝の構成を採用することは想到容易である旨主張するが,サイプの構成について検討するにあたり,甲4に接した当業者が,サイプではなく溝(屈曲溝)の構成に着目する動機はない。
また,申立人が記載されていると主張する甲5に記載されているサイプ(例えば,図番8,9示されたもの)も,相違点に係る構成を有するものではない。申立人は,甲5に記載されている「サブ溝7」が上記構成を有している旨主張するが,サイプの構成について検討するにあたり,当業者がサイプではなく溝の構成に着目する動機はないといえるのは,上述したとおりである。
さらに,甲6にも相違点に係る構成の開示はない。この点,申立人は,タイヤ幅方向に延びるタイヤ幅方向外側サイプ107にタイヤ周方向に延びる周方向サイプ110を付加したものが上記構成に相当する旨主張するが,甲6の例えば【0026】や図面の記載から理解されるとおり,周方向サイプ110は横溝106を通過して設けられたもの,すなわち,周方向サイプは横溝106に対して開口しているのであるから,周方向溝102に対して開口しているタイヤ幅方向外側サイプ107に横溝106に対して開口している周方向サイプ110を付加したものは,もはや一端開口サイプとはいえない。
ウ そうすると,相違点1-1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明を主たる引用発明としたとき,甲1発明から容易に発明できたものということはできない。
(2) 本件発明2と甲1発明との対比・判断
ア 本件発明2と甲1発明とを対比すると,上記相違点1-1と同じ相違点のほか,次の点で相違するといえる。
・ 相違点2-1
両端閉口サイプ(クローズドサイプ)について,本件発明2は「円形の小穴」であるのに対し,甲1発明は「略環状あるいは環状」である点。
イ そこで,事案に鑑み,まず相違点2-1について検討すると,甲1発明は,「オープンサイプがエッジ部領域にタイヤ周方向に連続的に形成される空気入りタイヤでは,オープンサイプ近傍の陸部の変形に起因して,オープンサイプ近傍の陸部が剥離するティアが発生するという問題があった」(甲1の【0007】),「本発明は,上記に鑑みてされたものであって,耐偏摩耗性能と耐ティア性能との両立を図る」(【0008】)との課題に対し,特にクローズドサイプについて「略環状あるいは環状に形成」との構成を有することで,「クローズドサイプは,略環状あるいは環状であることにより,エッジ部に力が加わった際に,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部が変形するが,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部は,変形により中実部と接触する。…従って,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部と,中実部を含む他のクローズドサイプ近傍の陸部とが一体化することにより,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部の過剰な変形を抑制できるため,クローズドサイプとエッジ部との間の陸部に発生するティアを抑制することができる。従って,オープンサイプを略環状あるいは環状のクローズドサイプに置き換えることにより,サイプに起因するティアの発生を抑制することができる。」(【0010】)との作用効果を得て,上記課題を解決するものであるといえる。
そうすると,甲1発明において,「略環状あるいは環状」であるクローズドサイプの形状を「円形の小穴」としてしまうと,「中実部」がなくなることとなるから、甲1発明はもはや上記課題を解決できなくなってしまうことが明らかである。すなわち,仮にサイプの形状として円形の小穴が周知技術であるとしても,甲1発明において相違点2に係る構成を採用することには阻害事由があるといわざるを得ない。
この点,申立人は,甲1に記載の「環状」のクローズドサイプは本件発明2の「円形の小穴」に相当する旨主張する(回答書3ページなど)ので検討するに,甲1の環状のクローズドサイプは「中実部」を含むものであるところ,他方で,本件発明2の「小穴」は,本件明細書の【0010】に定義があるほか,実施例,比較例には特定の径,深さを有する穴として記載されていることからすれば,中実部を含むような穴であるとまではいえない。申立人の上記主張は,採用できない。
ウ したがって,本件発明2は,甲1発明を主たる引用発明としたとき,甲1発明から容易に発明できたものということはできない。
(3) 以上のとおりであるから,申立人主張の申立理由1には理由がない。

3 申立理由2について
(1) 本件発明1と甲2発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲2発明とを対比すると,これら両発明の一致点及び相違点については,本件発明1と甲1発明との一致点並びに相違点1-1及び1-2(上記2(1)ア)と同旨のものを認めることができる。
そして,相違点1-2が想到容易とはいえないのは,上記2(1)で検討のとおりである。
イ したがって,本件発明1,甲2発明を主たる引用発明としたとき,甲2発明から容易に発明できたものということはできない。
(2) 本件発明2と甲2発明との対比・判断
ア 本件発明2と甲2発明とを対比すると,上記相違点1-1と同じ相違点のほか,次の点で相違するといえる。
・ 相違点2-2
両端閉口サイプ(クローズドタイプの第2のサイピング)について,本件発明2は「円形の小穴」であるのに対し,甲2発明は「タイヤ軸方向にのび」との構成を有する点。
イ そこで,事案に鑑み,まず相違点2-2について検討すると,甲2発明のクローズドタイプの第2のサイピングは上述のとおり「タイヤ軸方向にのび」て構成されるものであるところ(甲2には,例えば【0043】に「タイヤ軸方向と平行に直線状でのびても良いが,好ましくは…,タイヤ軸方向に対して一方側に傾いてのびる…一方のサイプ片6aと,該一方のサイプ片6aに連なりかつタイヤ軸方向に対して他方側に傾いてのびる…他方側のサイプ片6bとを含む少なくとも一つのコーナ部6Cを含む折れ線状が望ましい。」との記載がある。),このような構成からなるサイプの形状を「円形の小穴」とするには阻害事由があるといわざるを得ない。
ウ したがって,本件発明2は,甲2発明を主たる引用発明としたとき,甲2発明から容易に発明できたものということはできない。
(3) 以上のとおりであるから,申立人主張の申立理由2には理由がない。

第6 決定の予告の概要
決定の予告で通知した取消理由は,要するに,本件発明1は,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は同法113条2号に該当し取り消すべきであり,他方,請求項2に係る特許は申立人の主張に係る申立て理由などによって取り消すことができないから維持されるべき,というものである。
そして,決定の予告で通知した取消理由は上記申立理由1及び2にすべて包含されるところ,申立理由1及び2に理由がないのは上記第5で検討のとおりであるから,決定の予告で通知した取消理由についても同様に理由がない。

第7 むすび
したがって,申立人の主張する申立理由並びに決定の予告で通知した取消理由によっては,請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。また,他に当該特許が法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
また,本件訂正が認められるのは,上記第2で述べたとおりである。
よって,結論の第1項及び第2項のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも2本の周方向主溝と、相互に隣り合う2本の前記周方向主溝で区画形成される少なくとも1本のリブ状陸部と、を備えた空気入りタイヤであって、
前記リブ状陸部は、前記周方向主溝に一端が開口し、当該リブ状陸部内で他端が終端する一端開口サイプと、前記リブ状陸部内で両端が終端する両端閉口サイプと、を有し、
前記一端開口サイプの深さ、前記両端閉口サイプの深さおよび前記周方向主溝の深さの関係が、
周方向主溝の深さ≧両端閉口サイプの深さ>一端開口サイプの深さ
であり、
前記一端開口サイプは、一端が前記周方向主溝に連通し、タイヤ幅方向に延び、他端が前記リブ状陸部内で終端する、幅方向サイプ部分と、一端が前記幅方向サイプ部分の前記他端と連通し、タイヤ周方向に延び、他端が前記リブ状陸部内で終端する、周方向サイプ部分と、からなることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも2本の周方向主溝と、相互に隣り合う2本の前記周方向主溝で区画形成される少なくとも1本のリブ状陸部と、を備えた空気入りタイヤであって、
前記リブ状陸部は、前記周方向主溝に一端が開口し、当該リブ状陸部内で他端が終端する一端開口サイプと、前記リブ状陸部内で両端が終端する両端閉口サイプと、を有し、
前記一端開口サイプの深さ、前記両端閉口サイプの深さおよび前記周方向主溝の深さの関係が、
周方向主溝の深さ≧両端閉口サイプの深さ>一端開口サイプの深さ
であり、
前記両端閉口サイプは、トレッド踏面視で円形の小穴であることを特徴とする、空気入りタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-05-22 
出願番号 特願2015-105601(P2015-105601)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
須藤 康洋
登録日 2018-08-31 
登録番号 特許第6393658号(P6393658)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 鈴木 治  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 山口 雄輔  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 山口 雄輔  
代理人 杉村 憲司  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 田浦 弘達  
代理人 田浦 弘達  
代理人 鈴木 治  
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