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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12Q 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12Q 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12Q 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12Q |
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管理番号 | 1364012 |
異議申立番号 | 異議2020-700250 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-04-09 |
確定日 | 2020-07-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6588006号発明「p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6588006号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6588006号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成27年 2月23日(優先権主張 平成26年 2月24日)を国際出願日とする出願であって、令和 1年 9月20日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月 9日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、特許異議申立人 小川鐵夫(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?6に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、本件特許の請求項1?6に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等ということがある。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)。 「【請求項1】 がん患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中に含まれるCBPの機能抑制の有無を検出し、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性があると判定することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法。 【請求項2】 がん患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中におけるCBPの機能抑制の有無を検出し、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象として選別することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象を選別する方法。 【請求項3】 生物学的試料中におけるCBPの機能抑制の有無を、下記の(a)?(c)のいずれかに記載の分子を有効成分とする試薬により検出する、請求項1または2に記載の方法。 (a)CBP遺伝子に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプライマー (b)CBP遺伝子に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブ (c)CBPタンパク質に特異的に結合する抗体 【請求項4】 がんが、肺がん、膀胱がん、リンパ腫、および腺様嚢胞がんからなる群より選択される、請求項1?3のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 p300を阻害する化合物を含む、CBPの機能抑制が検出されたがんの治療剤。 【請求項6】 がんが、肺がん、膀胱がん、リンパ腫、および腺様嚢胞がんからなる群より選択される、請求項5に記載の治療剤。」 以下では、「p300を阻害する化合物」を「p300阻害化合物」ということがある。 第3 申立理由の概要及び提出した証拠 1 申立理由の概要 申立人は、甲第1?16号証を提出し、本件特許は、以下の理由1?5により、取り消されるべきものである旨主張している。 (1)申立理由1(新規性) 申立理由1-1 本件特許発明1、2及び4は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。 申立理由1-2 本件特許発明1、2及び4?6は、甲第11号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。 (2)申立理由2(進歩性) 本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載の発明、甲第11号証に記載の発明のいずれか、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明5及び6は、甲第11号証に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。 (3)申立理由3(明確性) 本件特許の請求項1?6に記載された発明は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。 (4)申立理由4(実施可能要件) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明5及び6に記載の発明を当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。 (5)申立理由5(サポート要件) 本件特許発明5及び6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。 2 証拠方法 (1)甲第1号証:国際公開第2011/085039号 (2)甲第2号証:Oncogene,2011,30:2135-2146 (3)甲第3号証:Clin. Cancer Res.,2005,11:512-519 (4)甲第4号証:PLOS ONE,2012,7(12):e52810(1-10) (5)甲第5号証:Oncogene,2004,23:4225-4231 (6)甲第6号証:Nature,2011,471(7337):189-195の著者原稿p.1-19 (7)甲第7号証:Nature,2011,471(7337):235-239の著者原稿p.1-13 (8)甲第8号証:Oncogene,1999,18:5714-5717 (9)甲第9号証:Chem Biol,2010,17(5):471-482の著者原稿p.1-24 (10)甲第10号証:Molecular Cancer,2014,13(29):1-13 (11)甲第11号証:Mo1. Cancer Ther.,2013,12(5):610-620の著者原稿p.1-19 (12)甲第12号証-1:Nature Genetics,2011,43(9):875-878の著者原稿p.1-14 (13)甲第12号証-2:甲12号証-1のSupplementary Information (14)甲第13号証:The Journa1 of Biological Chemistry,2012,287(6):4000-4013とSupplementary Information (15)甲第14号証:Nature,2012,488(7411):337-342の著者原稿p.1-17 (16)甲第15号証:Nat. Rev. Drug Discov.,2011,10(5):351-364の著者原稿p.1-31 (17)甲第16号証:Mo1. Cancer Ther.,2011,10(9):1644-1655 (以下、「甲第1号証」ないし「甲第16号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲16」という。) 第4 甲号証の記載事項 甲1?甲16には、それぞれ以下の記載がある。英語の文献は、日本語訳文を記載する。 1 甲1 甲1記載事項-1 「発明の概要 一態様において、p300/CBP HATの阻害により、腫瘍細胞増殖が阻害されることが観察されている。p300/CBP HATの阻害の効果は、白血病、脳癌、肺癌、中枢神経系(CNS)癌、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、結腸癌、卵巣癌、および乳癌細胞を含む広範囲の腫瘍細胞のスペクトルで観察される。これらの成長効果は、細胞停止、アポトーシス、および/または老化に対応している。また、p300/CBP HATのダウンストリームエフェクターも特定した。 したがって、一態様では、本発明は、p300/CBP HATの活性を阻害することにより、対象の癌を治療する方法を提供する。 別の態様では、本発明は、それを必要とする対象に有効量のP300/CBP HAT阻害剤を投与することによって癌を治療する方法を提供する。」(第1頁下から第4行?第2頁第7行) 甲1記載事項-2 「実施形態では、対象はヒトである。」(第4頁第1行) 甲1記載事項-3 「別の局面において、本発明は、癌を有すると診断された対象におけるp300/CBP HAT阻害剤の治療効果をモニタリングするための方法を提供する。実施形態では、方法は、P300/CBP HAT阻害剤の投与の前後に、対象の癌細胞における表4?6のいずれかで同定されたバイオマーカーの1つまたは複数の発現を検出することを含む。実施形態では、方法は、治療の前後にバイオマーカーの発現を比較することを含む。いくつかの実施形態では、発現の変化の検出は、阻害剤の治療効果を示す。」(第4頁第5?11行) 甲1記載事項-4 「本明細書で使用する場合、「p300/CBP HAT阻害剤」という用語は、当技術分野でよく知られている阻害アッセイ(結合分光光度アッセイ、直接放射性アッセイ、および本明細書に詳細に記載されるHATアッセイを含む)によって測定される、p300/CBP HATのヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を阻害する薬剤を指す。阻害剤は、そのような化合物またはフラグメントの類似体を含む、任意の小分子化学化合物またはそのフラグメントであり得る。p300/CBP HAT阻害剤は、100%の阻害をもたらす必要はない。阻害アッセイにおける薬剤の添加がヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の測定可能な減少に対応する場合、薬剤はp300/CBP HAT阻害剤である。」(第9頁下から第3行?第10頁第5行) 甲1記載事項-5 「p300/CBP HAT阻害剤が対象に投与される場合、阻害剤は、医薬的に許容される担体または賦形剤と組み合わせた組成物として投与され得る。薬学的に許容される担体は生理学的に許容され、組成物中に存在する小分子、抗体、核酸、またはペプチドの治療特性を保持する。」(第44頁第16?20行) 2 甲2 甲2記載事項-1 「非相同末端結合(NHEJ)は、電離放射線(IR)と抗がん剤によって生成されたDNA二本鎖切断(DSB)の主要な修復経路である。したがって、この経路に関与するタンパク質の活性を阻害することは、放射線療法と化学療法の両方に対して癌細胞を感作させる有望な方法である。」(第2135頁左欄第1?6行) 甲2記載事項-2 「これらの結果は、CBPおよびp300がNHEJのDSBサイトでヒストンH3およびH4アセチルトランスフェラーゼとして機能し、クロマチン緩和を促進することを示している。したがって、CBPとp300の活性を阻害すると、がん細胞が放射線療法と化学療法に敏感になる可能性がある。」(第2135頁左欄第24?28行) 3 甲3 甲3記載事項-1 「要旨 目的:マイクロアレイに基づく比較ゲノムハイブリダイゼーション分析により、肺癌細胞株のサイクリックAMP応答要素結合タンパク質結合タンパク質(CBP)遺伝子座でホモ接合性の欠失を検出することができた。CBPの発癌性の役割は機能的および遺伝的研究によって示唆されていた。したがって、肺の発癌におけるCBP遺伝子変化の関与が、人間の肺癌における遺伝的CBP変化の包括的な分析を行うことによって調査された。 ・・・ 結論:肺癌の一部はCBP遺伝子の変異および/または欠失をもち、これは、遺伝的CBPの変化が肺癌のサブセットの発生および/または進行に関与していることが示唆している。」(第512頁Abstract欄) 甲3記載事項-2 「CBP mRNAおよびタンパク質の発現。 CBP遺伝子の発現を59の肺癌細胞株と2つの原発腫瘍(Na98TとNa79T)でRT-PCR分析により調べた。」(第514頁右欄第44?46行) 甲3記載事項-3 「CBPタンパク質の発現を、NH_(2)末端およびCOOH末端タンパク質に対する抗体を用いたウェスタンブロット分析により、CBPの欠失または変異を含むいくつかの肺癌細胞株で調べた(図4)。」(第515頁左欄第11?14行) 4 甲4 甲4記載事項-1 「要旨 CBPとp300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)によるDNA二本鎖切断(DSB)サイトでのヒストンのアセチル化は、DSB修復タンパク質をクロマチンに動員するために重要です。ここでは、主要なDSB修復システムである、相同組換え(HR)に関与するBRCA1およびRAD51遺伝子を転写的に活性化することにより、CBPおよびp300 HATもDSB修復で機能することを示す。」(第1頁Abstract欄第1?5行) 5 甲5 甲5記載事項-1 「p300は、サイクリックAMP応答要素結合(CREB)タンパク質(CBP)と非常に相同性が高く、アミノ酸レベルで63%の相同性があります。」(第4225頁左欄下から第12行?下から第10行) 6 甲6 甲6記載事項-1 「これらの結果は、CREBBP/EP300変異(CBP/p300変異)をB-NHL(B細胞非ホジキンリンパ腫)の一般的な形態で共有される主要な病因メカニズムとして特定し、アセチル化/脱アセチル化メカニズムを標的とする薬物の使用に直接的な影響を及ぼす。」(p.2第11?13行) 甲6記載事項-2 「CrebbpまたはEp300のホモ接合ヌルマウスは初期胚致死21,22であり、同じことが化合物Crebbp/Ep300ダブルヘテロ接合マウス21,22にも当てはまる。」(p.2下から第3行?末行) 甲6記載事項-3 「特に、CREBBPとEP300の構造変化は、影響を受けるケースのごく一部でのみ共存する。」(p.4第25?26行) 甲6記載事項-4 「この研究の重要な観察結果の1つは、CREBBP/EP300病変のほとんどがヘテロ接合性で検出され、腫瘍抑制におけるハプロ不全の役割を示唆している。」(p.7第21?22行) 7 甲7 甲7記載事項-1 「再発した急性リンパ芽球性白血病(ALL)の新規変異を特定するために、23人のALL患者からの一致した診断と再発サンプルで300の遺伝子を再シーケンスした。これにより、32の遺伝子に52の体性非同義変異が同定され、その多くは新規であり、転写コアクチベーターCREBBPおよびNCOR1、転写因子ERG、SP11、TCF4、TCF7L2、Rasシグナル伝達経路の構成要素、ヒストン遺伝子、ヒストン修飾(CREBBPおよびCTCF)、および以前にALLで繰り返しDNAコピー数が変化する標的であることが示されている遺伝子を含む。」(p.1Abstract欄第6?12行) 8 甲8 甲8記載事項-1 「 ![]() 」(第5715頁図1のC) 甲8記載事項-2 「図1 P300とCBPは細胞増殖に不可欠です。(aおよびb)不活性p300(p300-RI)、活性p300(p300-R)、不活性CBP(CBP-RI)、または活性CBP(CBP-R)リボザイムを安定して発現するMCF-7細胞を、5Gyの放射線(IR)に曝露した。IRの1または3時間後に採取した細胞を、p300抗体またはCBP抗体を用いたイムノブロット分析に供した。(c)p300-RI(□)、p300-R(■)、CBP-RI(○)またはCBP-R(●)を発現する細胞を1×10^(5)/皿で播種し、増殖をモニターした。結果を平均±s.d.で表し、それぞれが3回行われた2つの実験から決定された。」(第5715頁図1の説明) 9 甲9 甲9記載事項-1 「細胞におけるC646によるヒストンのアセチル化と細胞増殖の阻害は、薬理学的プローブとしてのその有用性を立証し、p300/CBP HATが価値ある抗癌標的であることを示唆している。」(p.1下から第3行?末行) 10 甲10 甲10記載事項-1 「次に、p300shRNAとコントロールshRNAを発現するSUDHL2細胞の増殖を、4日間にわたって細胞を数えることで比較した。p300△C-820のノックダウンにより、液体培地でのSUDHL2の増殖が減少した(図4b)。)」(第6頁左欄第第8?12行) 甲10記載事項-2 「 ![]() 」(第7頁図4のb) 11 甲11 甲11記載事項-1 「興味深いことに、これらの類似体は、CBP(p300の細胞パラログ)、PCAFおよびGCN5に対して阻害活性を示したが、他のアセチルトランスフェラーゼ(KAT5、KAT6BおよびKAT7)、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)およびヒストンメチルトランスフェラーゼに対しては阻害活性を示さなかった。」(p.1下から第4行?下から第2行) 甲11記載事項-2 「1つの化合物(L002、ChemBridge ID 6625948)は、インビトロでp300触媒ドメインの強力な阻害を示し、IC_(50)は1.98μMだった。」(p.4第45?46行) 甲11記載事項-3 「p300に密接に関連するアセチルトランスフェラーゼであるCBPは、これらの類似体の一部によって阻害され、一般に、p300よりもCBPに対して効力が低かった(表1)。」(p.5第13?14行) 甲11記載事項-4 「癌細胞株に対するL002の細胞毒性をさらに検証するために、さまざまな種類の固形癌に由来する癌細胞株のパネルのL002に対する感度をテストした。表2および図4に示すように、これらの細胞株はL002に対してさまざまな感度を示した。特に、テストされた4つすべてのTNBC細胞株(トリネガティブ乳がん)は、低マイクロモル濃度のCC_(50)を含むL002による治療に対して非常に感受性が高かったが、管腔サブタイプ乳がんの細胞株はより耐性が高かった。癌細胞株のクローン増殖に対するL002治療の影響をさらに調べた。図4Bに示すように、1μMのL002の存在下では、MDA-MB-231細胞のクローン増殖は完全に抑制されたが、MCF7細胞のコロニーは、対照(DMSO処理細胞)と比較してほとんど影響を受けなかった。」(p.6第35?44行) 甲11記載事項-5 「図6Aは、L002が全身治療中に腫瘍の成長を効果的に抑制し、重要なことに、腫瘍は治療終了後に成長しなかったことを示している。」(p.7第22?23行) 甲11記載事項-6 「L002およびアセチルトランスフェラーゼに対する類似体の阻害効力 ![]() 」(p.18表1) 甲11記載事項-7 「HMECおよびさまざまな癌細胞株に対するL002のCC_(50)値 ![]() 」(p.19表2) 甲11記載事項-8 「p300およびCBPの多くの化学的阻害剤が同定されている。」(p.7Discussion欄第3?4行) 甲11記載事項-9 「実際、p300またはCBPのホモ接合型ノックアウト、およびそれらの複合ヘテロ接合型ノックアウトは、マウスに胚致死を引き起す(2、43、44)。これらの観察は、p300/CBPの薬理学的阻害が意図しない毒性を引き起こす可能性があることを示す。したがって、p300/CBPのターゲティングに基づく治療戦略は、過剰なp300/CBP活動に依存している疾患に対してより適切である可能性がある。」(p.8第30?34行) 12 甲12-1 甲12-1記載事項-1 「特に、移行上皮癌の97人の被験者の59%でクロマチンリモデリング遺伝子(UTX、MLL-MLL3、CREBBP-EP300、NCOR1、ARID1A、CHD6)の遺伝的異常を特定した。」(p.1Abstract欄第4?6行) 13 甲13 甲13記載事項-1 「我々は、p300とCBPがC4-2B前立腺癌細胞のモデルの異なるセットのアンドロゲン誘発性調節に寄与していることを発見した。」(4000頁左欄第7?9行) 甲13記載事項-2 「DHTによって誘発されるFKBP5 mRNAレベルは、p300とCBPの両方が枯渇した場合にのみ大幅に減少した。これは、p300またはCBPのいずれかが必要であり、これらのタンパク質の機能がFKBP5遺伝子発現のDHT誘発にとって冗長であることを示します(図2D)。」(4004頁左欄第10?14行) 14 甲14 甲14記載事項-1 「ホモ接合性欠失による腫瘍抑制遺伝子の不活性化は、癌ゲノムの原型的な事象であるが、そのような欠失はしばしば隣接遺伝子を包含する。」(p.1Abstract欄第1?2行) 甲14記載事項-2 「副次的脆弱性の原則は、機能的に冗長な本質的な活動をコードする他のパッセンジャー削除遺伝子に適用可能であり、そのようなゲノム事象を内包する癌に効果的な治療戦略を提供するはずである。」(p.2第1?3行) 甲14記載事項-3 「ウェスタンブロット分析により、D423-MGとGIi56におけるエノラーゼ1の損失とエノラーゼ2タンパク質の保持が確認されたが、D502-MGとテストした他のすべての神経膠腫および正常クリア細胞株には両方のタンパク質が存在した。」(p.3第28?30行) 甲14記載事項-4 「ENO2ノックダウンは野生型細胞ではなくENO1が削除された細胞の増殖を阻害する。」(p.3第31?32行) 甲14記載事項-5 「このENO2の切除は、ENO1-nul1 D423-MG細胞株でのみ細胞増殖の大きな阻害をもたらした。」(p.4第3?4行) 甲14記載事項-6 「ここで説明する膠芽腫(GBM)の実例は、他の多くの種類の癌に対する個別化された治療法の開発にも適用できる。」(p.6第1行?3行) 15 甲15 甲15記載事項-1 「標的療法で活用できる腫瘍のユニークな特徴は、現在の癌研究の主要な焦点となっている。そのようなアプローチの1つは合成致死スクリーニングとして知られている。これは、2つの変異の遺伝的相互作用の検索を含み、どちらか一方の変異の存在は細胞生存率に影響を与えないが、2つの変異の組み合わせは細胞死をもたらす。がん細胞にはこれらの変異の1つが存在するが正常細胞には存在しないため、標的療法で第2の遺伝子変異の効果を再現することにより、がん細胞を選択的に殺す機会が生まれる。」(p.1Abstract欄第1?7行) 16 甲16 甲16記載事項-1 「C646は血清によって阻害されたため(補足図S1)、化学阻害剤による処理は無血清HITES培地で24時間行われた。」(1645頁右欄第21?24行) 第5 判断 1 申立理由1-1(新規性:甲1)について (1)本件特許発明1(甲1) ア 甲1発明 上記甲1記載事項-1?5より、甲1には、 「がん患者に対して、p300/CBP HAT阻害剤を投与し、当該患者のがん細胞におけるバイオマーカーの発現について投与前後で比較することにより、p300/CBP HAT阻害剤の治療効果をモニタリングする方法」 に係る発明が記載されている(以下、上記括弧内を「甲1発明」という)。 イ 本件特許発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「がん細胞」は、本件特許発明1の「がん患者由来の生物学的試料」に相当し、「p300/CBP HAT阻害剤」は、「p300を阻害する化合物」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、前者が、がん患者由来の生物学的試料中の「CBPの機能抑制の有無を検出し、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性があると判定することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法」であるのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点で相違する。 したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、甲1発明の「p300/CBP HAT阻害剤」は、p300とCBPの両方のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を阻害するから、該阻害剤を投与することによりCBPの機能が抑制されることとなり、抑制されたか否かはがん細胞のバイオマーカーの発現をみることによりモニタリングされるから、「生物学的試料中のCBPの機能抑制の有無を検出すること」と「CBPの機能抑制が検出された患者」に相当する構成が甲1には記載されている旨、主張している。 しかしながら、本件特許発明1における「CBPの機能抑制の検出」は、当該請求項の記載や、本件特許明細書の【0001】、【0006】、【0017】、【0019】?【0020】等の記載から明らかなとおり、p300阻害化合物の治療に応答性があるがん患者を判定・予測するために、p300阻害化合物投与前のがん患者の試料により検出されることを意味しており、p300阻害化合物投与後の、当該化合物によるCBPの機能抑制の検出を意味するものではない。 したがって、甲1記載の「p300/CBP HAT阻害剤」が、p300とCBPの両方のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を阻害したとしても、そのことにより、本件特許発明1の新規性は否定されない。 甲1には、「p300/CBP HAT阻害剤」をがんの治療に用いることが記載されているだけであり、がん患者におけるCBPの機能抑制の有無を検出することも、また、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300阻害化合物によるがん治療への応答性があると判定・予測することも記載がない。 したがって、上記申立人の主張は採用できない。 (2)本件特許発明2(甲1) 本件特許発明2は、本件特許発明1の「がんの治療への応答性があると判定することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法」が、「がんの治療の対象として選別することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象を選別する方法」である点でのみ相違する。 そうすると(1)と同様の理由で、本件特許発明2は、がん患者由来の生物学的試料中の「CBPの機能抑制の有無を検出し、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象として選別することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象を選別する方法」であるのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点で相違するため、本件特許発明2は、甲1に記載された発明ということはできない。 (3)本件特許発明4(甲1) 上記(1)及び(2)に示したとおり、本件特許発明1、2は、甲1に記載された発明ではないから、その本件特許発明1、2をさらに限定した発明である本件特許発明4も、同様に、甲1に記載された発明ということはできない。 (4)小括 したがって、本件特許発明1、2及び4は、甲1に記載された発明ということはできず、申立理由1-1には理由がない。 2 申立理由1-2(新規性:甲11)について (1)本件特許発明1 ア 甲11-1発明 上記甲11記載事項-1?9より、甲11には、 「乳がんなどのがん細胞に対して、小分子阻害剤(L002等)を投与し、当該がん細胞におけるp300やCBP等の種々のアセチルトランスフェラーゼの阻害効力を評価すると共に、当該小分子阻害剤の、がん細胞におけるクローン増殖抑制効果を評価する方法。」 に係る発明が記載されている(以下、上記括弧内を「甲11-1発明」という)。 イ 本件特許発明1と甲11-1発明との対比 甲11-1発明の「乳がんなどのがん細胞」は、本件特許発明1の「がん患者由来の生物学的試料」に相当し、「小分子阻害剤(L002等)」は、「p300を阻害する化合物」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲11-1発明とは、前者が、がん患者由来の生物学的試料中の「CBPの機能抑制の有無を検出し、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性があると判定することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法」であるのに対し、甲11-1発明には、そのような特定がない点で相違する。 したがって、本件特許発明1は、甲11に記載された発明ということはできない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、甲11-1発明の「がん細胞におけるp300やCBP等の種々のアセチルトランスフェラーゼの阻害効力を評価すると共に、がん細胞におけるクローン増殖抑制効果を評価する方法」が、本件特許発明1の「CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性があると判定すること」に相当する旨、主張する。 しかしながら、甲11-1発明は、p300阻害化合物をがん細胞に投与することにより引き起こされるCBP等の阻害効果を検出し、そのp300阻害化合物のがん治療効果を評価する方法にすぎず、本件特許発明1に係る、p300阻害化合物の治療に応答性のあるがん患者を判定・予測するために、p300阻害化合物の投与前にがん患者試料のCBP機能抑制を検出する方法とは、その手段も目的も異なるものである。 したがって、甲11-1発明の「がん細胞におけるp300やCBP等の種々のアセチルトランスフェラーゼの阻害効力を評価すると共に、がん細胞におけるクローン増殖抑制効果を評価する方法」は、本件特許発明1の「CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性があると判定すること」とは異なるものであるから、上記申立人の主張は採用できず、本件特許発明1の新規性は否定されない。 (2)本件特許発明2(甲11) 本件特許発明2は、本件特許発明1の「がんの治療への応答性があると判定することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法」が、「がんの治療の対象として選別することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象を選別する方法」である点でのみ相違する。 そうすると(1)と同様の理由で、本件特許発明2は、がん患者由来の生物学的試料中の「CBPの機能抑制の有無を検出し、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象として選別することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象を選別する方法」であるのに対し、甲11-1発明には、そのような特定がない点で相違するため、本件特許発明2は、甲11に記載された発明ということはできない。 (3)本件特許発明4(甲11) 上記(1)及び(2)に示したとおり、本件特許発明1、2は、甲1に記載された発明ではないから、その本件特許発明1、2をさらに限定した発明である本件特許発明4も、同様に、甲11に記載された発明ということはできない。 (4)本件特許発明5(甲11) ア 甲11-2発明 上記甲11記載事項-1?9より、甲11には、 「アセチルトランスフェラーゼp300の小分子阻害剤を含む、抗がん剤。」 に係る発明が記載されている(以下、上記括弧内を「甲11-2発明」という)。 イ 本件特許発明5と甲11-2発明との対比 甲11-2発明の「アセチルトランスフェラーゼp300の小分子阻害剤」は、本件特許発明1の「p300を阻害する化合物」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲11-2発明とは、がんの治療剤の投与対象が、本件特許発明5は、「CBPの機能抑制が検出されたがん」に特定されているのに対し、甲11-2発明では、そのような特定がない点で相違する。 したがって、本件特許発明1は、甲11に記載された発明ということはできない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、「甲11の表2には、L002がp300遺伝子とCBP遺伝子の両方のアセチルトランスフェラーゼ活性を阻害することや、TNBC細胞株がL002による治療に対して非常に感受性が高かったことが記載され、また甲11には、L002が全身治療中に腫瘍の成長を効果的に抑制し、重要なことに、腫瘍が治療終了後に成長しなかったことを示している旨が記載されているから、アセチルトランスフェラーゼp300の小分子阻害剤であるL002は、CBPの機能抑制が検出されたがんを治療する効果を有すると言える」旨、主張する。 しかしながら、本件特許発明5は、p300阻害化合物を投与する前に、CBPの機能抑制が検出されたがんに対してのみ、当該p300阻害化合物を選択的に投与することを特定する発明であり、これは、甲11に記載のあるような、p300阻害化合物を投与することにより、がん細胞のCBPの機能が抑制される発明とは異なるものである。 したがって甲11には、L002投与による、がん細胞のCBP機能抑制については記載されているが、これは、本件特許発明5における「CBPの機能抑制が検出されたがん」を選んでp300阻害化合物を投与する治療剤には該当しない。 したがって、本件特許発明5は、甲11に記載された発明ではない。 (5)本件特許発明6(甲11) 上記(4)に示したとおり、本件特許発明5は、甲11に記載された発明ではないから、その本件特許発明5をさらに限定した発明である本件特許発明6も、同様に、甲11に記載された発明ということはできない。 (6)小括 したがって、本件特許発明1、2、及び4?6は、甲11に記載された発明ということはできず、申立理由1-2には理由がない。 3 申立理由2(進歩性)について (1)本件特許発明1 ア 本件特許発明1は、1、2で述べたとおり、甲1発明、甲11-1発明とは、本件特許発明1は、がん患者由来の生物学的試料中の「CBPの機能抑制の有無を検出し、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性があると判定することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法」であるのに対し、甲1発明、甲11-1発明では、そのような特定がない点で相違する。 この点について、申立人が提出したいずれの甲号証にも、CBPの機能が抑制されているがん細胞やがん患者において特異的に、p300阻害化合物が応答することなどは、記載も示唆もされていないから、患者由来の生物学的試料においてCBPの機能抑制が検出されたがん患者を、p300阻害化合物によるがんの治療への応答性があると判定・予測することを当業者が想到し得たとは認められない。 そして本件特許発明1は、当該判定・予測に基づいて、CBPの機能が抑制されているがん患者に特異的にp300阻害化合物を投与することにより、p300阻害化合物に応答する患者のみに投与できるという、いずれの甲号証からも当業者が予測し得ない、顕著な効果を奏するものと認められる。 以下詳述する。 イ 甲8について 甲8の図1Aからは、不活性p300リボザイム発現MCF-7細胞(p300-RI)、及び、活性p300リボザイム発現MCF-7細胞(p300-R)にそれぞれ5グレイの放射線曝露を行ったとき、CBPはいずれの細胞でも欠損しなかったが、p300はp300-Rで欠損が認められ、同様に図1Bからは、不活性CBPリボザイム発現MCF-7細胞(CBP-RI)、及び、活性CBPリボザイム発現MCF-7細胞(CBP-R)にそれぞれ5グレイの放射線曝露を行ったとき、p300はいずれの細胞でも欠損しなかったが、CBPはCBP-Rで欠損したことが認められる。 また甲8の図1Cからは、5グレイの放射線曝露をMCF-7細胞に行ったときに、p300-R(■)やCBP-R(●)の細胞増殖は、p300-RI(□)やCBP-RI(〇)の細胞増殖と比較して抑制されたことが認められる。 そしてこれらの結果を、図1説明文の冒頭では、「p300とCBPは細胞増殖に不可欠である。」と総括している。 しかしながらこれらの記載は、p300欠損細胞とCBP欠損細胞の放射線曝露による細胞増殖抑制の影響を別個に観察したものにすぎないから、当該記載から、放射線曝露ではなく、p300阻害化合物をCBP抑制細胞に適用することなどは想到し得ないし、CBP抑制細胞にp300阻害化合物を用いたときの、特異的ながん増殖抑制効果を予測することもできないと解される。 したがって、当該甲8の記載によっても、CBPの機能抑制が検出されたがん患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性があると判定・予測することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 ウ 甲6、甲11について 甲6には、複合CREBBP/EP300ダブルヘテロ接合マウスは初期胚致死であるとの記載があり、甲11には、p300及びCBPの複合ヘテロ接合型ノックアウトは、マウスに胚致死を引き起こす旨の記載があることが認められる。 しかしながらこれらは「胚」に係る知見であるから、当該知見をそのままがん細胞にも当てはまると解することはできない。また当てはめたとしても、これらの記載から、p300阻害化合物をCBP抑制細胞に特異的に適用することは想到できないし、CBP抑制細胞にp300阻害化合物を用いたときの、特異的ながん増殖抑制効果を予測することもできない。 エ 申立人は、甲14において、エノラーゼ1及びエノラーゼ2という、必須だが機能的冗長性を備える遺伝子のペアにおいて、一方の遺伝子が破壊されているがん細胞において、残りの遺伝子を阻害するとがん細胞の増殖を阻害することが示されており、この原理が、必須だが機能的冗長性を備える他の遺伝子のペアにも適用可能であることが示されていて、甲15も、潜在的な合成致死的相互作用を評価するためのアプローチについて説明し、多数の治療法の例を示しているところ、p300とCBPも機能的冗長性を備える遺伝子のペアであり(甲1?4、甲7、甲8、甲11)、p300遺伝子とCBP遺伝子の変異ががん細胞でよく見られていること(甲3、甲6、甲7、甲11、甲12-1、甲2)、そして、p300遺伝子とCBP遺伝子の阻害が癌の治療法としてすでに知られていたこと(甲1、甲9、甲13)を踏まえると、同様に適用可能である旨、主張する。 しかしながら、p300とCBPは、エノラーゼ1及び2とは、異なる遺伝子、異なる発現物に係るものであるから、実験も行わずに、エノラーゼ1及び2と同様のがん細胞の増殖制御をすると当業者が推認することはできないと解される。 オ 申立人は、甲8の図1Cにおいて、CBP遺伝子の機能を抑制するよりも、p300遺伝子の機能を抑制する方が、がん細胞の増殖抑制効果が高いことがわかり、また、甲10における図4bにおいて、p300shRNAのグラフは、B細胞リンパ腫細胞株のp300遺伝子をshRNAでノックダウンしたときのB細胞リンパ腫細胞株の増殖に対する影響を示したものであり、p300遺伝子をノックダウンしていないcontrolに比べて、大幅に増殖が抑えられていることが示されており、さらに、甲11には、特定の阻害剤はp300よりもCBPに対しての方が、効力が低いことが記載されているから、がん細胞の成長及び増殖を抑えるために、CBP遺伝子ではなく、p300遺伝子の機能を阻害する化合物を使用する動機付けがあり、当業者であれば、p300遺伝子の機能を阻害しようとすると考えられる旨、主張する。 しかしながらこれらの記載は、p300とCBPに関して、それぞれを別個に観察した結果を示すものにすぎないから、p300阻害化合物をCBP抑制細胞に適用することなどは想到し得ないし、CBP抑制細胞にp300阻害化合物を用いたときの、特異的ながん増殖抑制効果を予測することもできないと認められる。 カ 効果について 本件特許明細書の実施例(特に図1B、図1C、図2、図3、図6等)において、CBP変異型がん細胞はp300抑制により増殖が阻害されるのに対し、CBP野生型がん細胞は、p300抑制によっても増殖が阻害されないことをin vitro、in vivoの両系で確認していることからも理解されるとおり、本件特許発明1は、上記相違点に係る判定・予測に基づいて、CBPの機能が抑制されているがん患者に特異的にp300阻害化合物を投与することにより、p300阻害化合物に応答する患者のみに投与できるという、いずれの甲号証からも当業者が予測し得ない、顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明、甲11-1発明のいずれか、及び、甲1?甲16に記載の本件優先権主張日当時の技術常識に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (2)本件特許発明2 本件特許発明2は、本件特許発明1の「がんの治療への応答性があると判定することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法」が、「がんの治療の対象として選別することを含む、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象を選別する方法」である点でのみ相違する。 そうすると、(1)において述べたものと同じ理由により、いずれの甲号証にも、CBPの機能が抑制されているがん細胞やがん患者に特異的に、p300阻害化合物が応答することなどは、記載も示唆もされていないから、患者由来の生物学的試料においてCBPの機能抑制が検出されたがん患者を、p300阻害化合物によるがんの治療の対象として選別することを当業者が想到し得たとは認められない。 そして本件特許発明1は、当該選別に基づいて、CBPの機能が抑制されているがん患者を選別してp300阻害化合物を投与することにより、p300阻害化合物に応答する患者のみに投与できるという、いずれの甲号証からも当業者が予測し得ない、顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって、本件特許発明2は、甲1発明、甲11-1発明のいずれか、及び、甲1?甲16に記載の本件優先権主張日当時の技術常識に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (3)本件特許発明3、4 上記(1)、(2)に示したとおり、本件特許発明1、2は、甲1発明、甲11-1発明のいずれか、及び、甲1?甲16に記載の本件優先権主張日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができないものであるから、その本件特許発明1、2をさらに限定した発明である本件特許発明3、4も、同様に、甲1発明、甲11-1発明のいずれか、及び、甲1?甲16に記載の本件優先権主張日当時の技術常識に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (4)本件特許発明5 (1)、(2)において述べたとおり、いずれの甲号証にも、CBPの機能が抑制されているがん細胞やがん患者に特異的に、p300阻害化合物が応答であることなどは、記載も示唆もされていないから、p300阻害化合物によるがん治療剤の投与対象としてCBPの機能抑制が検出されたがんを選択することを当業者が容易に想到し得たとは認められない。 そして本件特許発明5は、CBPの機能が抑制されているがん患者を選択してp300阻害化合物を投与することにより、p300阻害化合物に応答する患者のみに投与できるという、いずれの甲号証からも当業者が予測し得ない、顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって、本件特許発明5は、甲11-2発明、及び、甲1?甲16に記載の本件優先権主張日当時の技術常識に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (5)本件特許発明6 上記(4)に示したとおり、本件特許発明5は、甲11-2発明、及び、甲1?甲16に記載の本件優先権主張日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、その本件特許発明5をさらに限定した発明である本件特許発明6も、同様に、甲11-2発明、及び、甲1?甲16に記載の本件優先権主張日当時の技術常識に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (6)小括 よって、本件特許発明1?4は、甲1号証に記載の発明、甲11号証に記載の発明のいずれか、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、また、本件特許発明5及び6は、甲11号証に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、申立理由2には理由がない。 4 申立理由3(明確性)について (1)「CBPの機能抑制」について ア 申立人の主張 本件特許明細書【0023】の「本発明における「CBP」・・・は・・・クロマチン制御に関与するヒストンアセチルトランスフェラーゼであり」との記載、【0024】の「本発明における「CBPの機能抑制」には、CBPの不活性化、活性低下および発現低下の双方が含まれる。」の記載などから、本件特許発明に記載の「CBPの機能抑制」とは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の不活性化と活性低下、及びCBPの発現低下を含むものと解されるが、「ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の活性低下」とは、何を基準にしてどの程度活性低下した場合までを含むものであるのか明細書中に明確に示されておらず、本件特許発明の出願時の技術常識を考慮しても明らかではないから、本件特許発明は不明確である。 イ 判断 本件特許発明に記載の「CBPの機能抑制」は、その文言のとおり「CBPの機能が抑制していること」を意味することは当業者に明らかであり、明確である。 そして本件特許明細書には、本件特許発明における「CBPの機能抑制」には、「CBPの不活性化、活性低下および発現低下の双方が含まれる。CBPの不活性化は、典型的には、CBPにおける不活性型変異に起因するものである。不活性型変異は、例えば、CBPのヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)ドメイン(配列番号:3に記載のアミノ酸配列の1342?1648位)におけるミスセンス変異、また、全領域に亘るナンセンス変異、遺伝子の全体あるいは部分的な欠失などにより生じうるが、CBPを不活性化させる限り、これらに制限されない。」との説明がなされ(【0024】)、具体的な検出方法として、CBP変異の検出方法(【0025】?【0046】)、CBP発現低下の検出方法(【0047】?【0051】)、その他の検出方法が記載され(【0052】)、それらの検出を行うためのプライマー、プローブ、抗体といった試薬の説明がなされている(【0061】?【0069】)。 そうすると、申立人が挙げるヒストンアセチルトランスフェラーゼであるCBPの活性低下についても、これらの本件特許明細書の記載と本件出願時の技術常識に基づいて当業者が通常行う手段によって検出され、その活性低下の程度が、当業者が通常用いる統計学的手法により「低下している」と評価できる程度に抑制されているときに、本件特許発明の「CBPの機能抑制」に該当することが認められ、当業者において明確である。 (2)「がんの治療への応答性」について ア 申立人の主張 本件特許発明1に記載の「がんの治療への応答性」については、本件特許明細書【0053】に、「「がんの治療への応答性」は、p300を阻害する化合物ががんに対して治療的効果を発揮し得るか否かを示す指標である。当該応答性の判定においては、応答性の有無のみならず、応答性がある場合におけるその程度の評価(例えば、高い応答性が期待できる、中程度の応答性が期待できる等の評価)を含めてもよい。」と記載されており、当該応答性の程度の評価基準が、高い応答性や中程度の応答性などという曖昧な記載があるのみで、本件特許の明細書中に明確に示されておらず、本件特許発明の出願時の技術常識を考慮しても明らかではないため、本件特許発明1、及び本件特許発明1を引用する本件特許発明3、4は明確ではない。 イ 判断 本件特許発明1、3、4に記載の「がんの治療への応答性」は、その文言のとおり、がんの治療において患者が応答し、がんの治療効果が発揮されることを意味することは当業者に明らかであり、明確である。 そして本件特許明細書【0053】には、本件特許発明における「がんの治療への応答性」は、「p300を阻害する化合物ががんに対して治療的効果を発揮し得るか否かを示す指標である。当該応答性の判定においては、応答性の有無のみならず、応答性がある場合におけるその程度の評価(例えば、高い応答性が期待できる、中程度の応答性が期待できる等の評価)を含めてもよい。従って、CBPの機能抑制の程度に応じて、例えば、中程度の応答性が期待できるレベルで、治療の対象となる患者を選別してもよい。」と説明されている。 そうすると、本件特許発明における「がんの治療への応答性」がある場合には、高いがん治療効果が発揮される場合のほか、中程度の治療効果が発揮される場合も含め得ると認められる。 そして、がんの治療効果の高い・中程度などの評価基準は、がんの種類や患者の年齢性別、再発・原発など種々の要素によって異なるところ、それらの要素の類型に応じて当業者が通常用いる基準に基づくものと認められるから、当業者において明確である。 (3)「CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象として選別する」について ア 申立人の主張 本件特許発明2に記載の「がんの治療の対象として選別すること」について、本件特許明細書【0053】には「例えば、中程度の応答性が期待できるレベルで、治療の対象となる患者を選別してもよい。」と記載されている。さらに、本件特許明細書【0054】に「一方、CBPの機能抑制が認められなかった場合には、当該患者をp300を阻害する化合物によるがんの治療の対象から除外することができる。これにより治療の奏功率を向上させることができる。」と記載されている。すなわち、がんの治療の対象として選別することとは、CBPの機能抑制が認められなかった場合には、当該患者をp300を阻害する化合物によるがんの治療の対象から除外することと解されるが、そもそも患者の治療を行わない形態を含むということであれば、本件特許発明2の技術的意義が不明確になり得るから、本件特許発明2、及び本件特許発明2を引用する本件特許発明3、4は明確ではない。 イ 判断 本件特許発明2?4に記載の「CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象として選別する」は、その言葉のとおり、CBPの機能抑制が検出された患者を、p300阻害化合物の投与対象として選択することを意味することは当業者に明らかであり、明確である。 そしてその裏返しとして、本件特許明細書【0054】に記載のとおりの、CBPの機能抑制が検出されなかった患者は、p300阻害化合物の投与対象からはずすことも意味しており、その結果、p300阻害化合物の治療効果が見込まれる患者にのみp300阻害化合物を投与し、治療効果の見込まれない患者に無駄な投与を行わないで済む、ということを意味している。 上記の「CBPの機能抑制が検出された患者を、p300を阻害する化合物によるがんの治療の対象として選別する」とは、そのような意味を表す表現として適切であるから、本件特許発明2?4は明確である。 (4)「CBPの機能抑制が検出されたがん」について ア 申立人の主張 本件特許発明5は、がんの治療剤に係る発明であるが、CBPの機能抑制を検出する工程が必須であるか否か、すなわち、CBPの機能抑制が確認されていない癌に適用する場合も本件特許発明の技術的範囲に含まれるのか明確ではないから、本件特許発明5、及び本件特許発明5を引用する本件特許発明6は明確ではない。 イ 判断 本件特許発明5は、「p300を阻害する化合物を含む、CBPの機能抑制が検出されたがんの治療剤。」であり、これはその文言のとおり、p300阻害化合物を、CBPの機能抑制が検出されたがんもしくはがん患者を投与対象とするがんの治療剤であることが明らかであり、明確である。 そして本件特許発明5では、CBPの機能抑制の検出されたがんもしくはがん患者であることが、p300阻害化合物の治療対象として選択される条件なのであるから、CBPの機能抑制の検出が、p300阻害化合物投与前になされていることは明らかである。 したがって、本件特許発明には、CBPの機能抑制が検出されていないがんに適用することは含まれないから、申立人の主張はその前提において誤っている。 よって、本件特許発明5及び6は明確である。 (5)「p300を阻害する化合物」について ア 申立人の主張 本件特許発明に記載の「p300を阻害する化合物」については、本件特許明細書【0073】に、「本発明における「p300の阻害」は、p300の活性の阻害および発現の阻害の双方を含む意である。CBPとp300の合成致死においては、p300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の消失が寄与していると考えられることから、スクリーニングの指標とするp300の阻害は、好ましくはp300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の阻害である。」と記載されているが、p300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を完全に消失させることを意味するのか、あるいはp300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を低減させることも意味するのか、低減させる場合は、何を基準にどの程度まで活性を低減させた場合までを含むものであるのか本件特許明細書中に明確に示されておらず、本件特許発明の出願時の技術常識を考慮しても明らかではないから、本件特許発明は明確ではない。 イ 判断 本件特許発明に記載の「p300を阻害する化合物」は、その文言のとおりp300を阻害する化合物を意味することは当業者に明らかであり、明確である。 そして本件特許明細書には、本件特許発明における「p300の阻害」は、「p300の活性の阻害および発現の阻害の双方を含む意である。CBPとp300の合成致死においては、p300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の消失が寄与していると考えられることから、スクリーニングの指標とするp300の阻害は、好ましくはp300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の阻害である。」との説明がなされ(【0073】)、ヒストンアセチルトランスフェラーゼの検出方法が記載され(【0073】?【0074】)、またその評価手法も「検出の結果、対照(例えば、被験化合物を添加しない場合)におけるp300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性と比較して、当該活性が減少していれば、p300の活性が阻害されたと評価することができる。」と説明されている(【0074】)。 そうすると、ヒストンアセチルトランスフェラーゼであるp300の活性阻害についても、これらの本件特許明細書の記載と本件出願時の技術常識に基づいて当業者が通常行う検出方法によって測定され、その結果得られるp300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性減少の程度が、【0073】?【0074】に示されるような評価手法において、当業者が通常用いる統計学的手法により「減少している」と認識できる程度に抑制されているときに、本件特許発明の「p300を阻害する」に該当することが認められ、当業者において明確である。 (6)小括 よって、本件特許の請求項1?6に記載された発明は明確であり、申立理由3には理由がない。 5 申立理由4(実施可能要件)について (1)申立人の主張 本件特許の詳細な説明には、「p300を阻害する化合物」として、p300遺伝子をノックダウンするsiRNA分子と、p300阻害剤であるC646化合物の2つのみが記載され、in vivo試験はp300のsiRNA分子を適用したもののみであり、C646化合物についてはin vivo試験は行われていない。実際、C646化合物は、血清により、その機能が阻害されるため(甲16記載事項-1)、in vivoにおける、C646化合物による腫瘍細胞の増殖抑制効果を確認することは難しいと考えられる。 したがって、本件特許発明5において、がんの治療剤として有効であると考えるp300を阻害する化合物の例はp300遺伝子をノックダウンするsiRNA分子のみであるから、本件特許明細書の記載内容からは、p300遺伝子を阻害するその他の化合物が、がんの治療剤として有効であると必ずしも言い切れない。 さらにp300遺伝子タンパク質は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を担うHATドメインの他に、複数のタンパク質と相互作用するためのドメインや、アセチル化リジンに結合するブロモドメインなどの機能ドメインを備えるため、これらのドメインに作用することによるp300を阻害する方法は多岐にわたり得る。そのため、p300を阻害する化合物について、当該化合物が人や動物の癌の治療剤として適切なものかどうかを評価するためには、少なくとも、当該化合物のp300遺伝子に対する作用機序を明らかにすべきであるが、本件特許の明細書にはそのような記載は存在しない。 したがって、本件特許発明5及び6は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (2)判断 本件特許発明5は、「p300を阻害する化合物を含む、CBPの機能抑制が検出されたがんの治療剤」に係る発明であるが、本件特許明細書には、CBPの機能抑制の検出手法等について【0024】?【0053】に、また、その検出のための試薬について【0061】?【0070】に具体的な説明がなされており、さらに、p300を阻害する化合物について【0071】?【0076】に説明がなされているから、当業者は、これらの説明にしたがって、CBPの機能抑制が検出されたがんを対象として、p300を阻害する化合物を投与することができる。 薬理効果の確認については、本件特許明細書の図1B、図1C、【0088】?【0090】、図2等の記載から、p300のsiRNAを作用させると、CBP変異型がん細胞では増殖が阻害されるが、CBPが変異していない野生型がん細胞では増殖が阻害されないことから、CBP機能抑制がん細胞において特異的に、p300を抑制することにより、がん細胞の増殖を阻害できることが理解できる。 また図6のin vivo前臨床バリデーションの記載から、CBP変異型の腫瘍細胞をマウスに移植した後に、p300標的shp300を発現させてp300を抑制すると、p300が阻害されて腫瘍体積の増殖が阻害されるのに対し(図6右下)、非標的shRNAを発現させた場合には、腫瘍細胞増殖は阻害されないことが記載されている。 このように本件特許明細書では、in vivo、in vitroの両系で、CBP変異がん細胞において特異的に、p300遺伝子をsiRNAで直接ノックダウンすることにより、がん細胞の増殖を阻害できることが確認されているのであるから、p300を阻害する物質であれば、同様にCBP変異がん細胞の増殖を阻害すると当業者は理解できると認められる。 実際siRNA以外のp300阻害剤であるC646も、同様にCBP野生型がん細胞には影響を与えず、CBP変異型がん細胞の増殖抑制をすることが記載されており(図3、【0091】)、また甲1、甲9、甲11にも種々のp300阻害剤が抗腫瘍剤であることが記載されているのであるから、当業者は一層、p300を阻害する化合物であれば、CBP変異がん細胞の増殖を抑制できることを理解することができる。申立人は、C646化合物が血清中でその機能が阻害されるため、in vivoにおける腫瘍細胞の増殖抑制効果を確認することは難しい旨も主張するが、仮にそうであるならば、血清に曝露されずにがん細胞に送達させる薬物送達手法を採ればよいだけであり、p300を阻害する化合物が、CBPの機能抑制が検出されたがんの治療に使用できるという発明を損ねるものではない。 また申立人は、p300のヒストンアセチルトランスフェラーゼ以外の機能を阻害するp300阻害剤について、人や動物の癌の治療剤として適切なものかどうかを評価するためには、少なくとも、当該化合物のp300遺伝子に対する作用機序を明らかにすべきである旨主張するが、本件特許明細書ではp300遺伝子をsiRNAでノックダウンすることによるCBP変異細胞のがん細胞増殖抑制を直接確認しているのであるから、本件特許発明5および6の実施可能要件の充足に必要な実験結果が、本件特許明細書には十分に記載されていると認められる。 そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明5及び6を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められ、申立理由4には理由がない。 6 申立理由5(サポート要件)について 申立人は、5(1)と同じ理由により、本件特許発明5及び6が、サポート要件を充足しない旨を主張する。 しかしながら、本件特許発明5は、「p300を阻害する化合物を含む、CBPの機能抑制が検出されたがんの治療剤」に係る発明であり、その発明が解決しようとする課題は、「CBPの機能抑制が検出されたがんの治療剤」の提供に係るものと認められるが(【0006】)、5(2)で述べたとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、CBPの機能抑制が検出されたがんを対象として用いるがん治療剤として、p300を阻害する化合物を投与することが、その具体的な薬理試験の結果と共に説明されている。 したがって、本件特許の請求項5及び6に記載された発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであると認められ、申立理由5には理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1?6に係る特許について、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-06-30 |
出願番号 | 特願2016-504207(P2016-504207) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C12Q)
P 1 651・ 121- Y (C12Q) P 1 651・ 537- Y (C12Q) P 1 651・ 113- Y (C12Q) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 戸来 幸男 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
田村 聖子 千葉 直紀 |
登録日 | 2019-09-20 |
登録番号 | 特許第6588006号(P6588006) |
権利者 | 国立研究開発法人国立がん研究センター 第一三共株式会社 |
発明の名称 | p300を阻害する化合物によるがんの治療への応答性を予測する方法 |
代理人 | 特許業務法人セントクレスト国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人セントクレスト国際特許事務所 |