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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B09B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B09B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B09B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B09B
管理番号 1364013
異議申立番号 異議2020-700297  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-27 
確定日 2020-07-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6598373号発明「廃石膏ボードの処理方法及び処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6598373号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6598373号(設定登録時の請求項の数は4。以下「本件特許」という。)は、平成28年3月10日になされた特許出願に係るものであって、令和1年10月11日にその特許権が設定登録され、本件特許に係る特許掲載公報が同年同月30日に発行されたところ、特許異議申立人 松永健太郎(以下、単に「特許異議申立人」という。)は、令和2年4月27日、本件特許の請求項1ないし4に係る特許に対して特許異議の申立てを行ったものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件特許発明1」などといい、これらを併せて「本件特許発明」という場合がある。)。

「【請求項1】
化粧加工が施された石膏ボードの廃材から剥離して回収した石膏付着紙を破砕し、
該石膏付着紙の破砕物を分級して粗粒側破砕物と微粒側破砕物とに分離し、
該分離して得られた粗粒側破砕物をセメントキルンに供給することを特徴とする廃石膏ボードの処理方法。
【請求項2】
前記石膏付着紙を廃プラスチックと混合して破砕することを特徴とする請求項1に記載の廃石膏ボードの処理方法。
【請求項3】
前記石膏付着紙の破砕又は前記石膏付着紙及び前記廃プラスチックの破砕後、破砕物を分級して所定の粒径以上のものを除去し、該除去物をセメントキルンの窯前に供給すると共に、前記除去後破砕物をさらに分級して粗粒側破砕物と微粒側破砕物とに分離し、得られた粗粒側破砕物をセメントキルンに供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃石膏ボードの処理方法。
【請求項4】
化粧加工が施された石膏ボードの廃材から剥離して回収した石膏付着紙を破砕する破砕装置と、
該破砕装置から排出された破砕物を分級して粗粒側破砕物と微粒側破砕物とに分離する分級装置と、
該分級装置から排出された粗粒側破砕物をセメントキルンに供給する供給装置とを備えることを特徴とする廃石膏ボードの処理装置。」


第3 特許異議申立理由の概要
1 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

(1)申立理由1(甲1を根拠とする新規性欠如)
本件特許発明1及び4は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるベきものである。

(2)申立理由2(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし4は、甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1ないし4についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件特許の請求項1ないし4についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。以下、甲各号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。
・甲第1号証:特開平10-286552号公報
・甲第2号証:特開2002-87816号公報
・甲第3号証:特開2003-2705号公報
・甲第4号証:特開2011-57465号公報


第4 当審の判断
当審は、以下述べるように、申立理由1ないし4には、いずれも理由はないと判断する。

1 申立理由1(新規性欠如)及び2(進歩性欠如)について
(1) 甲1の記載事項
甲1には、「廃棄石膏ボード処理方法」に関し、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が記した。以下同様。

ア 「【請求項1】廃棄石膏ボードを破砕して、石膏ボード本体から当て紙を大まかに剥離する第1の工程と、
所定のメッシュサイズで廃棄石膏ボードの破砕片を分別する第2の工程と、
該第2の工程で、前記所定のメッシュサイズよりも大きいサイズであると分別された破砕片を取り出す第3の工程と、
取り出された破砕片を焼却処理する第4の工程と、を具備することを特徴とする廃棄石膏ボード処理方法。
【請求項2】
前記第4の工程は、
前記破砕片をロータリーキルンで焼却する第1のサブ工程と、
この第1のサブ工程で焼却した焼却灰から、紙片灰を取り除く第2のサブ工程と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の廃棄石膏ボード処理方法。
【請求項3】
前記第4の工程は、前記破砕片を焼却炉で焼却することを特徴とする請求項1に記載の廃棄石膏ボード処理方法。」

イ 「【0028】{廃棄石膏ボードの処理方法の説明}次に、図2A及び図2Bに示すフローチャートを参照して、この発明の特徴となる廃棄石膏ボードの処理方法の具体的手順を説明する。
【0029】先ず、廃棄石膏ボードSBが処理場に搬入されてくると、この廃棄石膏ボードSBは集積場にいったん集積され、ここで、パワーシャベル等の重機を用いて、極めて大まかに破砕処理して、大破砕片を形成する(ステップS10)。このように破砕処理された大破砕片を、次に、第1のベルトコンベアー14を介して第1の剥離ステーション16に搬送し、ここで一次剥離処理して、小破砕片を形成する(ステップS12)。この一次剥離処理においては、廃棄石膏ボードを構成するボード本体から、これに貼着された当て紙は剥離して、両者は通常、互いに分離した状態となるが、勿論、例外も存在し、当て紙が付着したボード本体を有する小破砕片も存在することは、言うまでもない。
【0030】このように小破砕片に破砕されて剥離されたた廃棄石膏ボードSBは、第2のベルトコンベアー18を介して、分別ステーション20の第1のふるいユニット22に搬送され、ここに上方から落下する。そして、小破砕片は、この第1のふるいユニット22の粗ふるいにかけられる一次粗ふるい処理を受ける(ステップS14)。そして、振るい落とされずに残った小破砕片(大)、即ち、20mmのメッシュサイズよりもオーバーサイズであると分別(分粒)された小破砕片(大)は(即ち、ステップS16でYESと判断された場合)、焼却処理を受けるべく、第3のベルトコンベアー28を介して搬出され、一時集積場40に排出される(ステップS18)。
【0031】そして、石膏灰の市場の動向や、顧客の要求等を考慮して、焼却処理後の石膏灰を再利用に供するのか、又は、廃棄処分とするのかが判断され(ステップS20)、廃棄処分すると判断される場合には(即ち、ステップS20でYESと判断される場合には)、小破砕片(大)は、パワーシャベル等の重機で一時集積場40から焼却炉44に搬送され(ステップS22)、ここで、焼却処分する(ステップS24)。このように焼却処分された石膏灰は、有機成分である紙片も焼却されて無機質の灰になっているので、これを地中に埋設処理したとしても、これが嫌気発酵する虞も無く、管理型処分場で確実に処分され得ることになる。
【0032】一方、焼却処理後の石膏灰を再利用に供すると判断される場合には(即ち、ステップS20でNOと判断される場合には)、パワーシャベル等の重機で一時集積場40からロータリーキルン26に搬送され(ステップS26)、ここで、焼却処分する(ステップS28)。このように焼却処分された石膏灰(換言すれば、無水石灰粉)は、紙片の焼却灰を含んでいるので、バグフィルター42を介してこれを除去して取り出す(ステップS30A)か、図示しないふるいでふるい処理される(ステップS30B)。このようにして形成された無水石灰粉は、市場性の大いにある商品として、販売に供せられることになる。」

ウ 「【図1】

【図2A】



(2) 甲1に記載された発明
甲1には、特に段落【0029】ないし【0032】の記載から、次のとおりの発明が記載されていると認める。

ア 甲1発明
「廃棄石膏ボードSBを、パワーシャベル等の重機を用いて、極めて大まかに破砕処理して、大破砕片を形成し(ステップS10)、
第1の剥離ステーション16に搬送し、ここで一次剥離処理して、小破砕片を形成し(ステップS12)、
小破砕片は、この第1のふるいユニット22の粗ふるいにかけられる一次粗ふるい処理を受け(ステップS14)、
振るい落とされずに残った小破砕片(大)、即ち、20mmのメッシュサイズよりもオーバーサイズであると分別(分粒)された小破砕片(大)は、焼却処理を受けるべく、第3のベルトコンベアー28を介して搬出され、一時集積場40に排出され(ステップS18)、
焼却処理後の石膏灰を再利用に供すると判断される場合には、パワーシャベル等の重機で一時集積場40からロータリーキルン26に搬送され(ステップS26)、ここで、焼却処分する(ステップS28)廃棄石膏ボード処理方法。」(以下「甲1発明」という。)

イ 甲1装置発明
「廃棄石膏ボードSBを、パワーシャベル等の重機を用いて、極めて大まかに破砕処理して、得られた大破砕片を、一次剥離処理して小破砕片を形成する第1の剥離ステーション16と、
小破砕片を、一次粗ふるい処理する第1のふるいユニット22と、
振るい落とされずに残った小破砕片(大)を焼却処理すべく、一時集積場40に搬出する第3のベルトコンベアー28及び一時集積場40からロータリーキルン26に搬送するパワーシャベル等の重機とを備える、廃棄石膏ボードの処理装置。」(以下「甲1装置発明」という。)

(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「廃棄石膏ボードSB」は、本件特許発明1の「化粧加工が施された石膏ボードの廃材」に相当し、
甲1発明における「パワーシャベル等の重機を用いて、極めて大まかに破砕処理」して形成された「大破砕片」は、当然に相当量の石膏が付着していると解され、本件特許明細書の段落【0015】の「石膏付着紙とは、化粧加工が施された石膏ボードの廃材から剥離して回収した紙であって、30?60質量%(内割り)の石膏が付着したものをいう」との記載から、本件特許発明1の「石膏付着紙」に相当する。
甲1発明における「一次剥離処理」は、「大破砕片」から「小破砕片」を形成する破砕処理といえるから、本件特許発明1の「石膏付着紙」を破砕して「石膏付着紙の破砕物」を得る処理に相当する。
また、甲1発明の「小破砕片(大)」は、焼却処理のため、パワーシャベル等の重機で「ロータリーキルン26に搬送され」るのに対し、本件特許発明1の「粗粒側破砕物」は、「セメントキルンに供給」され、共に「キルン」に供給される点において共通する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。

<一致点>
「化粧加工が施された石膏ボードの廃材から剥離して回収した石膏付着紙を破砕し、
該石膏付着紙の破砕物を分級して粗粒側破砕物と微粒側破砕物とに分離し、
該分離して得られた粗粒側破砕物をキルンに供給する廃石膏ボードの処理方法。」

<相違点1>
石膏付着紙の破砕物を分級して得られた粗粒側破砕物に関し、本件特許発明1は、「セメントキルンに供給する」のに対し、甲1発明は、「ロータリーキルン26に搬送され」る点。

イ 相違点1についての検討
(ア) 新規性に関する検討
甲1発明における「ロータリーキルン26」は、甲1の段落【0030】及び段落【0031】に記載されるように「焼却処理後の石膏灰を再利用に供すると判断される場合」に石膏灰(換言すれば、無水石灰粉)を回収するものであるのに対し、本件特許発明1における「セメントキルン」は、セメントを得るための手段であることに加え、「石膏が取り除かれた紙をセメントキルンで燃料として利用する」(本件特許明細書の段落【0008】)ものであるから、両者は明らかに相違する。
よって、相違点1は、実質的な相違点である。

(イ) 進歩性に関する検討
甲1発明の「ロータリーキルン26」は、甲1の段落【0032】に、「焼却処理後の石膏灰を再利用に供すると判断される場合には・・・ロータリーキルン26に搬送され」と記載されるように、小破砕片(大)の廃棄処分ではなく再利用を選択した際に用いられ、小破砕片(大)の焼却処分時における、石膏の残存を前提とするものである。
そして、甲1には、廃棄処分を判断した場合に「焼却炉44に搬送され(ステップS22)、ここで、焼却処分する(ステップS24)」(段落【0031】)ことが記載されているが、この焼却炉44をセメントキルンに置換することは、甲1に記載又は示唆がない。
そうすると、甲1発明において、石膏の再利用のための「ロータリーキルン26」への搬送から、燃料としての廃棄処分のためのセメントキルンへの供給に置換することは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書第24?26ページにおいて、相違点3(上記(3)アにおける、相違点1)について、概略以下の主張をする。

a 「セメントキルン」は、セメント製造用のロータリーキルンといえ、実質的な相違点を構成しないし、ともに窯業で使用される同一の機能を有する回転式の加熱窯であり、「ロータリーキルン」に代えて「セメントキルン」を用いることを妨げるような事情もない。

b 廃石膏ボードを石膏部分と紙部分とに分離したうえで、当該紙部分をセメントクリンカ焼成用のロータリーキルンに供給することは、本件特許の出願時における技術常識である(例えば、甲2及び甲3等)。

c 甲1ないし3の技術分野及び廃石膏ボードの処理において石膏部分と紙部分とを分離する課題、並びにロータリーキルンとセメントキルンの機能の共通性から、甲1の、廃石膏ボードからの剥離紙から効率よく石膏を回収することで、廃石膏ボードからの廃石膏ボードからの石膏回収率を向上させ、SO_(3)に伴う問題を防ぎながら剥離紙をセメントキルンで利用するとの課題(本件特許明細書の段落【0006】)を解決するために、当業者が甲2及び甲3を参照して、セメントキルンを採用する動機付けがある。

そこで、上記主張について検討する。
上記aの主張について、上記(ア)で述べたように、甲1発明のロータリーキルンは、石膏灰を回収する目的のものであり、他方、本件特許発明1のセメントキルンは、セメントを製造する目的のものであって、両者はその目的が大きく異なる。よって、甲1発明の「ロータリーキルン」に代えて「セメントキルン」を用いることは、当業者にとって容易に想到し得ることではないから、上記aの主張は、採用できない。
また、上記bの主張について、甲1発明は、紙部分と石膏部分とが焼却前に分離できていないことを前提にして、ロータリーキルンによって石膏灰を得るものであるから、このような甲1発明に、紙部分と石膏部分を分離し、分離した紙を燃料として利用する甲2や甲3記載の技術を適用することは、動機がない。
さらに、上記cの主張について、セメントキルンを使用しない甲1において、セメントキルンにおいて発生するSO_(3)に伴う課題について、甲1に記載も示唆も無いことから、セメントキルンを採用して、該課題を解決する動機がない。
よって、特許異議申立人の上記主張は、いずれも採用できない。

ウ 本件特許発明1についての小括
そうすると、本件特許発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明1が、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2及び3についても同様に、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明4について
ア 対比
本件特許発明4と、甲1装置発明を対比する。
甲1装置発明における、「剥離ステーション16」、「第1のふるいユニット22」並びに「ベルトコンベアー28及びパワーシャベル等の重機」は、それぞれ本件特許発明4の「破砕装置」、「分級装置」及び「供給装置」に相当する。
そうすると、本件特許発明4と甲1装置発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。

<一致点>
「化粧加工が施された石膏ボードの廃材から剥離して回収した石膏付着紙を破砕する破砕装置と、
該破砕装置から排出された破砕物を分級して粗粒側破砕物と微粒側破砕物とに分離する分級装置と、
該分級装置から排出された粗粒側破砕物をキルンに供給する供給装置とを備える廃石膏ボードの処理装置。」

<相違点2>
石膏付着紙の破砕物を分級して得られた粗粒側破砕物に関し、本件特許発明4の「供給装置」は、「セメントキルンに供給する」ものであるのに対し、甲1装置発明の「ベルトコンベアー28」及び「パワーシャベル等の重機」は、小破砕片(大)を「ロータリーキルン26」に搬送するものである点。

イ 相違点2についての検討
相違点2は、粗粒側破砕物(小破砕片(大))の供給装置の供給先が、セメントキルンあるいはロータリーキルンと相違するというものであるから、実質的に、上記相違点1と同旨である。
そうすると、上記(1)の検討と同様に、本件特許発明4も、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 申立理由1及び2のまとめ
したがって、本件特許発明1及び4は、甲1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとする申立理由1には、理由がない。
また、本件特許発明1ないし4は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする申立理由2は、理由がない。

4 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の判断基準
実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、方法の発明の場合には、その方法を使用することができる程度の記載があるか、物の発明の場合には、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
これを踏まえ、以下検討する。

(2) 発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、概略、次の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、廃石膏ボードを処理する方法及び装置に関し、特に、化粧加工が施された石膏ボードの廃材から剥離して回収した石膏付着紙を処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の解体や改装の際に廃棄される石膏ボードは、不燃物として最終処分場に埋立処理されていたが、廃石膏ボードの排出量は年々増加傾向にあるため、最終処分場の逼迫に鑑みて有効利用する技術が提案されている。
【0003】
化粧加工が施された廃石膏ボードには紙が付着しているため、これを処理したり有効利用するにあたっては、廃石膏ボードに付着した紙を剥離する必要がある。例えば、特許文献1には、廃石膏ボードを二水石膏と剥離紙とに分離し、二水石膏をセメントキルンで焼成して無水石膏として回収し、剥離紙をセメントクリンカ焼成における補助燃料としてキルンバーナから主燃料と共にセメントキルン内に吹き込んで処理する方法等が開示されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような剥離紙には30?60質量%(内割り)の石膏が付着しているため、廃石膏ボードからの石膏回収率にはまだ改善の余地がある。また、石膏が付着した剥離紙をセメントキルンに供給して燃料として使用する場合、剥離紙を窯前に供給するとセメント焼成装置から排出されるクリンカのSO_(3)濃度が変動し、剥離紙を窯尻に供給するとセメント焼成装置のプレヒータの最下段サイクロンから排出されたセメント原料等にSO_(3)が濃縮し、いずれにしてもセメントキルンに供給される石膏由来のSO_(3)により不具合が生ずるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、廃石膏ボードからの石膏回収率を向上させ、SO_(3)に付随する問題を防ぎながら剥離紙をセメントキルンで利用することを目的とする。」

イ 「【0018】
破砕・分級装置3は、回転刃に破砕対象物を押しつけて削り取るように破砕する一軸破砕機等を備えた装置等を用いることができる。この破砕・分級装置3によって混合装置2からの混合物Mを破砕すると共に、分級して微粒側破砕物F1と粗粒側破砕物C1とに分離する。尚、破砕・分級装置3に代えて混合物Mの分級は行わずに破砕のみを行う破砕装置を用いてもよい。
【0019】
分級装置4は、破砕・分級装置3から排出された微粒側破砕物F1を分級して微粒側破砕物F2と粗粒側破砕物C2とに分離するために備えられる。尚、破砕・分級装置3で分級を行わない場合には、破砕・分級装置3から排出される破砕物が分級装置4にそのまま供給される。分級装置4は、振動篩や気流式分級器等を用いることができるが、微粒側破砕物F1や破砕・分級装置3からの破砕物を分級できるものであれば、これら以外のものを用いることができる。」

ウ 「【0020】
次に、上記構成を有する廃石膏ボードから回収した石膏付着紙の処理装置1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0021】
受け入れた石膏付着紙Pと廃プラスチックWとを混合装置2に供給して混合する。混合装置2から排出した混合物Mを破砕・分級装置3で破砕及び分級し、破砕・分級装置3から排出される微粒側破砕物F1を分級装置4に供給すると共に、粗粒側破砕物C1を供給装置(不図示)によってセメントキルンの窯前に供給し、燃料として利用する。
【0022】
微粒側破砕物F1を分級装置4で分級して微粒側破砕物F2と粗粒側破砕物C2とに分離し、微粒側破砕物F2は、石膏の含有率が大きくて紙の含有率が小さいため、セメント製造工程の仕上工程等で有効利用することができる。
【0023】
一方、粗粒側破砕物C2を供給装置(不図示)によってセメントキルンの窯前又は窯尻に燃料として供給する。粗粒側破砕物C2の石膏含有率は低いため、セメントキルンの窯前に投入してもセメントキルン内のクリンカのSO_(3)濃度の変動を招くことがない。また、粗粒側破砕物C2を窯尻に投入しても、セメント焼成装置のプレヒータの最下段サイクロンから排出されるセメント原料等にSO_(3)が濃縮することがない。さらに、混合物Mを破砕・分級装置3で破砕して粒径を小さくしたため、混合物Mから得られた粗粒側破砕物C2をセメントキルンの窯前に投入することもできる。
【0024】
以上のように、上記実施の形態によれば、石膏付着紙Pを破砕して分級することにより、石膏付着紙Pに含まれる石膏を微粒側破砕物F2として効率よく回収することができる。これにより、廃石膏ボードからの石膏回収率を向上させることができる。また、石膏が略々含まれない粗粒側破砕物C2をセメントキルンに供給することで、石膏由来のSO_(3)による不具合を防ぎながら、石膏が取り除かれた紙をセメントキルンで燃料として利用することができる。」

(3) 判断
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、「本件特許明細書の記載を参照しても、当業者には、石膏付着紙をどのような条件で破砕したうえで、どのような基準をもって粗粒側破砕物と微粒側破砕物と決定し、どのような条件であれば粗粒側破砕物と微粒側破砕物とに分離することができるのかを全く理解できない。
そして、本件特許発明の属する技術分野において、粗粒及び微粒の定義が定まっているような事情もない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは到底いえない」と主張する(特許異議申立書第33ページ)。
以下、本件特許発明1ないし4に係る、発明の詳細な説明の記載について検討するとともに、特許異議申立人の主張についても検討する。

イ 本件特許発明1に係る、発明の詳細な説明の記載について
本件特許発明1は、「化粧加工が施された石膏ボードの廃材から剥離して回収した石膏付着紙を破砕し、該石膏付着紙の破砕物を分級して粗粒側破砕物と微粒側破砕物とに分離」することを特定事項とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0021】には、「破砕・分級装置3で破砕及び分級し、破砕・分級装置3から排出される微粒側破砕物F1を分級装置4に供給すると共に、粗粒側破砕物C1を供給装置(不図示)によってセメントキルンの窯前に供給し、燃料として利用する」と、その手順が記載されているとともに、段落【0018】には、「破砕・分級装置3は、回転刃に破砕対象物を押しつけて削り取るように破砕する一軸破砕機等を備えた装置等」が、段落【0019】には、「分級装置4は、振動篩や気流式分級器等を用いることができるが、微粒側破砕物F1や破砕・分級装置3からの破砕物を分級できるものであれば、これら以外のものを用いることができる」として具体的手段も記載されている。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1の方法を使用することができる程度の記載といえる。

ウ 本件特許発明2及び3に係る、発明の詳細な説明の記載について
本件特許発明2で特定される、「石膏付着紙と廃プラスチックと混合して破砕すること」は、本件特許明細書の段落【0021】に「受け入れた石膏付着紙Pと廃プラスチックWとを混合装置2に供給して混合する。混合装置2から排出した混合物Mを破砕・分級装置3で破砕及び分級し」との記載から、混合装置及び破砕・分級装置の調整によって実施できることである。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2及び3の方法を使用することができる程度の記載といえる。

エ 本件特許発明4に係る、発明の詳細な説明の記載について
本件特許発明4に関し、上記アで示したように、破砕装置及び分級装置の例が本件特許明細書に記載されており、また、セメントキルンへの供給装置も、破砕物が単なる輸送できればよいものであるし、これらの一連の処理装置は、一般的なものである。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明4の処理装置を生産し、使用することができる程度の記載といえる。

(4) 申立理由3のまとめ
したがって、石膏付着紙の破砕条件及び粗粒及び微粒の分離条件、その効果を問わず、石膏付着紙の破砕と分級を行い、その粗粒側をセメントキルンに送るという、本件特許発明1ないし3の方法の発明及び本件特許発明4の装置の発明の実施は、上記(3)で述べたように当業者の過度の試行錯誤を要するものではないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、いわゆる実施可能要件を満たすと判断されるから、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないとする申立理由3は、理由がない。

5 申立理由4(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
上記4(2)に記載のとおりである。

(3)検討
ア 本件特許発明1及び4について
本件特許明細書の、発明の詳細な説明の特に段落【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明の解決しようとする課題は、「廃石膏ボードから分離された、30?60質量%(内割り)の石膏が付着している剥離紙をセメントキルンで補助燃料として処理する際の廃石膏ボードからの石膏回収率を向上させ、SO_(3)に付随する問題を防ぎながら剥離紙をセメントキルンで利用すること」(以下、「解決課題」という。)にあると認められる。

そして、発明の詳細な説明の段落【0018】ないし【0024】には、本件特許発明に用いる一連の装置及び操作が記載されており、係る記載から、この一連の装置を用いて、石膏付着紙の破砕と分級、及び粗粒側をセメントキルンに送ることが理解でき、その結果、廃石膏ボードから分離された、30?60質量%(内割り)の石膏が付着している剥離紙を、そのままセメントキルンで補助燃料として処理する従前の処理に比べ、石膏回収率が向上し、セメントキルンに供給される石膏量減少に伴い、SO_(3)に付随する問題が防止されることによって上記解決課題が解決されることは、当業者にとって明らかである。
よって、本件特許の請求項1又は4に係る本件特許発明1又は4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。

イ 本件特許発明2及び3について
本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2又は3に係る発明である本件特許発明2及び3についても、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する方法の発明であるから、上記アで述べたように、本件特許発明1が、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである以上、本件特許発明2及び3についても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「破砕条件、粗粒側破砕物と微粒側破砕物とを分ける基準、及び分離条件等の記載が無い本件特許発明が所期の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない」と主張する(特許異議申立書第34ページ)。
しかしながら、破砕や分級の条件が特定されなくても、廃石膏ボードから分離された剥離紙を破砕し、分級して得られる粗粒側破砕物が、微粒側破砕物より、紙の含有量が多く、石膏の含有量が少なくなり、上記イに記載した課題を定性的に解決する廃石膏ボードの破砕・分級及び石膏が付着した剥離紙によってもたらされるセメントキルンにおけるSO_(3)影響の作用機序は、当業者にとって予測困難なものではない。
したがって、本件特許発明1ないし4の発明特定事項によって、上記課題が解決されることは、当業者が充分認識できることであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できるものではない。

(3) 申立理由4のまとめ
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は、いわゆるサポート要件を満たすと判断されるから、特許異議申立人が主張する申立理由4には理由がない。


第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2020-07-01 
出願番号 特願2016-46901(P2016-46901)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B09B)
P 1 651・ 537- Y (B09B)
P 1 651・ 121- Y (B09B)
P 1 651・ 113- Y (B09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 啓二  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大畑 通隆
加藤 友也
登録日 2019-10-11 
登録番号 特許第6598373号(P6598373)
権利者 太平洋セメント株式会社
発明の名称 廃石膏ボードの処理方法及び処理装置  
代理人 中井 潤  

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