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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1364589
審判番号 不服2019-11950  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-10 
確定日 2020-07-30 
事件の表示 特願2018- 46436「スクリーン印刷用メタルマスク」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月28日出願公開、特開2018- 99897〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年12月27日(以下,「原々出願日」という。)に出願された特願2013-273512号の一部を,平成30年1月23日に特願2018-8777号として出願したものの一部を,さらに同年3月14日に特願2018-46436号として出願したものであって,同月19日に手続補正書が提出され,平成30年12月28日付けで拒絶の理由が通知され,平成31年3月13日に意見書及び手続補正書が提出され,令和1年6月3日付けで拒絶の査定がなされ,同謄本は同月11日に請求人に送達された。
その後,令和1年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に,手続補正書が提出されたものである。

第2 令和1年9月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年9月10日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容について
(1)本件補正は,特許請求の範囲について補正するものであり,その補正の一部には,本件補正前の請求項1の記載を本件補正後の請求項1のとおりに補正する補正事項(以下,「本件補正事項」という。)を含むものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】 一群のパターン開口(1)を備えたマスク版(5)と,前記パターン開口(1)に対応する一群の調整開口(3)を備えたスキージ版(6)とを備えているスクリーン印刷用メタルマスクであって,
前記調整開口(3)には,開口内面同士を繋ぐ調整リブ(9)が形成されており,
前記調整開口(3)の開口形状は,前記パターン開口(1)の開口形状よりも大きく形成されており,
前記スキージ版(6)と前記マスク版(5)との厚み寸法の比率は,1:1.5から1:5に設定されていることを特徴とするスクリーン印刷用メタルマスク。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】 一群のパターン開口(1)を備えたマスク版(5)と,前記パターン開口(1)に対応する一群の調整開口(3)を備えたスキージ版(6)とを備えているスクリーン印刷用メタルマスクであって,
前記調整開口(3)には,開口内面同士を繋ぐ調整リブ(9)が形成されており,
前記調整開口(3)の開口形状は,前記パターン開口(1)の開口形状よりも大きく形成されており,
前記調整開口(3)の開口内面と,前記パターン開口(1)の開口周縁壁との間に段落ち部(8)が形成され,前記段落ち部(8)の幅寸法(w1)が1μm以上15μm以下に設定されており,
前記スキージ版(6)と前記マスク版(5)との厚み寸法の比率は,1:1.5から1:5に設定されていることを特徴とするスクリーン印刷用メタルマスク。」(下線は,補正箇所を示すために当審で付加したものである。)

2 本件補正の目的について
本件補正事項により,本件補正前の請求項1対して,本件補正後の請求項1においては,「調整開口(3)の開口内面」と,「パターン開口(1)の開口周縁壁との間」に「形成される」「段落ち部(8)」を有すること,当該「段落ち部(8)」の「幅寸法(w1)が1μm以上15μm以下」に設定されることが新たに特定されることになった。
そして,本件補正前の請求項1においては,「調整開口」の「開口形状」が「パターン開口の開口形状よりも大きく形成されている」ことは特定されていたものの,「調整開口の開口内面」,「パターン開口の開口周辺壁」,「段落ち部」については特定されておらず,「調整開口の開口内面」と「パターン開口の周辺壁」との間に形成される「段の落ち部」についても特定されていないから,本件補正事項により,当該「調整開口の開口内面」と「パターン開口の周辺壁」との間に形成される「段落ち部」を発明特定事項として追加したことは,本件補正前の請求項1における発明特定事項を限定したものではなく,いわゆる外的付加に相当するものであって,特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しないことは明らかである。
また,当該補正事項が誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことは明らかである。
してみると,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反してされたものというほかないから,同法第159条第1項において読み替えて適用される同法第53条の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件についての検討
上記のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当するものではないが,念のため,本件補正事項の目的がいわゆる限定的減縮に該当するものであると仮定し,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)イにおいて摘示したとおりの発明特定事項により特定されるものである。

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由の引用文献1として引用され,特許法第44条第2項の規定により本願の出願日とみなされる原々出願日前に頒布された刊行物である特開2004-17461号公報(以下,「引用文献1」という。)には,つぎの事項が記載されている。(下線は当審で付加したもの。(以下同じ。)
(ア)「【0012】
[第1実施形態,図1?図4]
図1はスクリーン印刷版の下面図であり,図2はスクリーン印刷版を上面側から見た一部拡大斜視図である。このスクリーン印刷版は,額縁状の枠部材2の下面にスクリーン印刷マスク1が装着されている。スクリーン印刷マスク1の中央部分を囲む一点鎖線4は,印刷対象のマザーセラミックグリーンシートに応じて設定される印刷領域である。
【0013】
スクリーン印刷マスク1は,図2に示すように,メッシュ部16と図形部17を厚み方向に備えた構造を有している。メッシュ部16には,格子状に規則的に2次元配置された複数の矩形状孔16aが形成されている。図形部17には,同一の図形を所定のピッチで複数配置した印刷パターンに対応する平面形状を有する複数の矩形状凹部17aが形成されている。凹部17aの平面形状は孔16aの平面形状(横断面形状)より大きく,かつ,凹部17aには複数の孔16aが連通している。孔16aと凹部17aは,電極形成部3(図2において点線で囲んで表示している)を構成している。一度の印刷で多数の内部電極をマザーセラミックグリーンシート上に形成できるように,スクリーン印刷マスク1の印刷領域4には,電極形成部3が格子状に多数配置されている。なお,図1において,電極形成部3はその一部しか表示されていない。」
(イ)「【0014】
このスクリーン印刷マスク1は,例えば図3に示す製造方法により得られる。まず,工程(A)に示すように,たとえばステンレス鋼からなる基材18が用意される。この基材18上には,第1のレジスト19が形成される。第1のレジスト19は,前述したメッシュ部16の孔16aとなるべき位置に形成されるように,たとえばフォトリソグラフィによりパターニングされる。次に,工程(B)に示すように,基材18上に,第1のレジスト19の形成領域を除いて,たとえばニッケルからなるメッシュ部16が電気めっきにより形成される。
【0015】
次に,工程(C)に示すように,第1のレジスト19およびメッシュ部16上に,所望の印刷パターン(図形部17の凹部17aの平面形状に相当するパターン)のネガパターンで第2のレジスト21が形成される。この第2のレジスト21のパターニングも,フォトリソグラフィにより行なわれる。次に,工程(D)に示すように,メッシュ部16上に,第2のレジスト21の形成領域を除いて,たとえばニッケルからなる図形部17が電気めっきにより形成される。
【0016】
次に,工程(E)に示すように,第1および第2のレジスト19および21が除去される 。これにより,孔16aを有したメッシュ部16と凹部17aを有した図形部17とからなる2層構造体が形成される。メッシュ部16の標準厚みは8?9μm(代表値),図形部17の標準厚みは16μm(代表値)である。また,孔16aの軸方向の長さLと穴径Dのアスペクト比(L/D)を1以下にすれば,ペーストの充填性が良くなるので好ましい。」
(ウ)図1


(エ)図2


(オ)上記摘記事項(ア)ないし(エ)から,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「標準厚みが8?9μmのニッケルにより形成されるメッシュ部16と,標準厚みが16μmのニッケルにより形成される図形部17を厚み方向に備えた構造を有し,メッシュ部16には,格子状に規則的に2次元配置された複数の矩形状孔16aが形成され,図形部17には,同一の図形を所定のピッチで複数配置した印刷パターンに対応する平面形状を有する複数の矩形状凹部17aが形成されており,凹部17aの平面形状は孔16aの平面形状(横断面形状)より大きく,かつ,凹部17aには複数の孔16aが連通し,孔16aと凹部17aにより構成された電極形成部3が格子状に多数配置されているスクリーン印刷マスク」

イ 原査定の拒絶の理由の引用文献2として引用され,本願の原々出願日前に頒布された刊行物である特開2007-118589号公報(以下,「引用文献2」という。)には,つぎの事項が記載されている。
(ア)「【0028】
以下,本発明を図面に則して詳細に説明する。
[本発明のメタルマスクスクリーン版]
<第1の実施形態>
図1(a)は,本発明の例示的一態様である第1の実施形態のメタルマスクスクリーン版を模式的に表す模式平面図であり,図1(b)は図1(a)のB-B断面図であり,図1(c)は図1(a)のC-C断面図である。図1に示されように,本実施形態のメタルマスクスクリーン版20は,金属板2の中央に矩形の開口部(パターン状の孔)8が設けられ,当該開口部8にはメッシュ4が配されている。当該図1においては,図1(a)の平面図では被印刷物側の面が上を向いた状態であるが,図1(b)および図1(c)では,スキージ面が上方を向いている(以降の図においても,特に指定がない限り同様である 。)。
(イ)「【0033】
それに対して,本実施形態のメタルマスクスクリーン版20は,図2(y)に示されるように,従来例のメタルマスク2’に相当する金属板2の開口部(パターン状の孔)8に,金属板2よりも薄膜のメッシュ4が形成されているため,版全体の厚さにメッシュ4の厚さT2は影響を与えず,金属板2の厚さT1と版全体の厚さとが同一になる。そのため,版全体として厚さを低減することができる。」
(ウ)「<構成部材の詳細>
次に,本発明のメタルマスクスクリーン版を構成する各部材について,詳細に説明する 。
【0045】
(金属板)
本発明において金属板の材料としては,特に制限はなく,従来からメタルマスクスクリーン版におけるメタルマスクの材料として用いられてきた各種金属を問題なく使用することができる。具体的には例えば,ニッケル,鉄,銅,およびこれらの金属を含む合金が挙げられる。加工性や経済性の観点から,これらの中でもニッケルおよびその合金が好ましい。
【0046】
本発明において金属板の厚みとしては,特に制限はないが,ある程度の耐久性を確保するためには,10μm以上であることが好ましく,12μm以上であることがより好ましい。一方,当該金属板の厚みの上限としては,目的に応じて適宜厚膜とすることもできるが,高精細な画像を得るためには,40μm以下であることが好ましく,35μm以下であることがより好ましい。
本発明において金属板の大きさとしては,印刷しようとする面の面積に依存し,特に制限はないが,一般的には一辺が200mm?650mmの範囲内の矩形状のものが選択される。勿論,メタルマスクの形状としては,矩形に制限されるものではない。
【0047】
(メッシュ)
本発明においてメッシュの材料としては,特に制限はない。ただし,後述するように,メッシュは前記金属板や後述するポストと一体成形することが,製造適性から好ましく,その観点からは,前記金属板や後述するポストと同一の材料とすることが望ましい。
【0048】
本発明において,メッシュの厚さとしては,少なくとも前記金属板よりも薄膜であることが要求され,前記金属板の厚さにもよるが,下限は7μm以上であることが好ましく,10μm以上であることがより好ましい。また,前記メッシュの厚さの上限は,前記金属板を厚膜とした場合,それに応じて適宜厚膜とすることができるが,高精細な画像を得るためには,30μm以下であることが好ましく,25μm以下であることがより好ましい。
【0049】
本発明において,メッシュを構成する繊維の太さとしては,メタルマスクスクリーン版としての機能を損なわない程度に細く,また,印刷時のある程度の柔軟性と耐久性とを確保するために,7μm?25μmの範囲から選択することが好ましく,10μm?20μmの範囲から選択することがより好ましい。」
(エ)「【0097】
本工程において積層する金属メッキ層の厚みは,(1-B)第1メッキ工程で形成された金属メッキ層との合計である金属メッキ層(金属板2)全体の厚みとして,最終的に得られるメタルマスクスクリーン版の金属板に要求される厚さになるように,適宜調整してやればよい。すなわち,例えば,全体として15μmの厚さで,メッシュ4を5μmの厚さにすることを望む場合,(1-B)第1メッキ工程で5μm,そして本工程(第2メッキ工程)で10μmの金属メッキを施せばよい。
【0098】
また,最終的に得られるメタルマスクスクリーン版にて印刷した時の印刷体(印刷されたハンダ等のインク)の厚みを薄膜化するべく,メッシュ4を10μmの厚さにすることを望む場合,(1-B)第1メッキ工程で10μm,本工程(第2メッキ工程)で5μmの金属メッキを施せばよい。
その他,金属メッキ層におけるメッキ材料やメッキ方法等は,「(1-B)第1メッキ工程」の場合と同一であるため,その詳細な説明は省略する。」
(オ)図1

(カ)図2

(キ)上記(オ)の図1及び上記(カ)の図2によれば,金属板2の開口部8に配されるメッシュ4には,複数の「孔」が「格子状に規則的に2次元配置されていることが看て取れる。

(ク)上記摘記事項(ア)及び(カ)から,引用文献2には以下の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「金属板2の中央に矩形の開口部(パターン状の孔)8が設けられ,当該開口部8には格子状に規則的に2次元配置された孔を備えるメッシュ4が配されているメタルマスクスクリーン版20であって,全体として15μmの厚さで,メッシュ4を5μmの厚さとしたメタルマスクスクリーン版20」

ウ 原査定の拒絶の理由の引用文献3として引用され,本願の原々出願日前に頒布された刊行物である特開2008-132738号公報(以下,「引用文献3」という。)には,つぎの事項が記載されている。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の上記形態のスクリーン印刷用マスクでは,メッシュパターンに対応する開口が印刷パターンに対応する開口の位置とは関係なく全体に形成されている。そのため,印刷パターンに対応する開口の端の部分にメッシュパターンが形成されていない場合がある。この場合,印刷パターンの端部分にインク等が十分に付着しないという課題がある。
本発明は,例えば,2層構造のマスクを用いてスクリーン印刷を行う場合に,印刷パターンの端部分にもインク等を十分に付着させることが可能な高い印刷精度のマスク及びその製造方法を提供することを目的とする。」
(イ)「【0018】
図1から図3に基づき1つ目の例について説明する。図1は,印刷パターンの形状を示す図である。マスク31に形成された開口32,33,34はそれぞれ印刷パターンに相当する開口である。図2は,メッシュパターンを示す図である。マスク31に形成された実線で示される複数の開口35はそれぞれメッシュパターンに相当する開口である。また,図2において破線は,図1に示した印刷パターンに相当する開口32,33,34を示す。図3は,図2に示すA-A’断面図である。図3に示すようにマスク31は,印刷パターンに相当する開口32,33,34を有する層と,メッシュパターンに相当する複数の開口35を有する層との2つの層を備える。また,図2,図3に示すように,メッシュパターンに相当する複数の開口35は,印刷パターンに相当する開口32,33,34が形成されている部分に応じて形成される。さらに,図2,図3に示すように,メッシュパターンに相当する複数の開口35は,印刷パターンに相当する開口32,33,34が形成されている部分の少し外側部分にまで形成することも可能である。つまり,メッシュパターンに相当する複数の開口35は,印刷パターンに相当する開口32,33,34が形成されている部分と,印刷パターンに相当する開口32,33,34が形成されていない部分とに跨って形成された開口を含んでいる。また,さらに,開口35は,通常印刷パターンに相当する開口32,33,34のそれぞれに対して複数形成されるが,1つであっても構わない。
メッシュパターンに相当する複数の開口35が印刷パターンに相当する開口32,33,34が形成されている部分の少し外側部分にまで形成されているため,1つ目の例に示す形状のマスクによれば,印刷パターンに相当する開口32,33,34の端の部分についてもインクを十分に充填することができる。しかし,マスクの形状は,これに限らず,図4,図5に示すようにメッシュパターンに相当する複数の開口35が印刷パターンに相当する開口32,33,34が形成されている部分の内側のみに形成されていても構わない。ここで,図4は,メッシュパターンを示す図であり,図5は,図4に示すB-B’断面図である。」
(ウ)図2


(エ)図3



(オ)上記(ウ)の図2および(エ)の図3によれば,「開口パターン」の内面と当該開口パターンが形成されている部分の少し外側部分に形成されたメッシュパターンの複数の開口の内面との間に段差部が形成されていることが看て取れる。
(カ)上記(ア)ないし(オ)によれば,引用文献3には,「印刷パターンに対応する開口の端の部分にメッシュパターンが形成されていない場合」に「印刷パターンの端部分にインク等が十分に付着しない」という課題を「印刷パターンに相当する開口を有する層と,メッシュパターンに相当する複数の開口を有する層との2つの層を備えるマスクにおいて,メッシュパターンに相当する複数の開口が印刷パターンに相当する開口が形成されている部分の少し外側部分にまで形成することにより,印刷パターンに相当する開口の端の部分についてもインクを十分に充填することができる」ようにして解決する技術事項が記載されている。

(3)引用発明1を主引用例とする場合の本件補正発明の容易想到性についての検討
ア 本件補正発明と引用発明1との対比
(ア)引用発明1の「格子状に規則的に2次元配置された複数の矩形状孔16aが形成され」た「メッシュ部16」,「同一の図形を所定のピッチで複数配置した印刷パターンに対応する平面形状を有する複数の矩形状凹部17aが形成され」た「図形部17」,「スクリーン印刷マスク」は,それぞれ,本件補正発明の「一群の調整開口(3)を備えたスキージ版(6)」,「一群のパターン開口(1)を備えたマスク版(5)」,「スクリーン印刷用メタルマスク」に相当する。
(イ)引用発明1の「電極形成部3」は,「孔16aと凹部17aにより」構成されており,当該「凹部17aの平面形状」は「孔16aの平面形状」「より大きく」,かつ,「凹部17aには複数の孔16aが連通し」ているものであり,かつ「電極形成部3」は,「格子状に多数配置されている」から,引用発明1「メッシュ部16」は,本件補正発明1の「前記パターン開口(1)に対応する一群の調整開口(3)を備えたスキージ版」である点においても相当するものである。
(ウ)引用発明1の「スクリーンマスク」の「電極形成部3」を構成する「凹部17」に連通する「メッシュ部16」の複数の「孔16a」は,「格子状に規則的に2次元配置され」ているものであり,図1及び図2によれば,「凹部17a」に対して,それぞれ,「所定数」ずつが対応して各々配置されて「電極形成部を構成」していることが看て取れるから,引用発明1の「所定数」の「格子状に規則的に2次元配置され」ている「孔16a」と「孔16a」との間には,「孔16a」の内面同士をつなぐリブが設けられているものといえるから,引用発明1の「凹部17a」に対して「所定数」配置されている「格子状に規則的に2次元配置され」た「孔16a」は,本件補正発明の「調整開口(3)には,開口内面同士を繋ぐ調整リブ(9)が形成されて」いることに相当する。
(エ)引用発明1の「標準厚みが8?9μmのメッシュ部16」と「標準厚みが16μmの図形部17」は,その厚み寸法の比率が「1:1.77?1:2」であるといえるから,本件補正発明の「スキージ版(6)」と「マスク版(5)」との「厚み寸法の比率」が「1:1.5から1:5」に設定されていることにおいても相当するものである。

イ 本件補正発明と引用発明1の一致点と相違点について
上記アの対比を踏まえると,本件補正発明と引用発明1とは,つぎの一致点1で一致し,相違点1において相違する。

<一致点1>
「一群のパターン開口を備えたマスク版と,前記パターン開口に対応する一群の調整開口を備えたスキージ版とを備えているスクリーン印刷用メタルマスクであって,
前記調整開口には,開口内面同士を繋ぐ調整リブが形成されており,
前記スキージ版と前記マスク版との厚み寸法の比率は,1:1.5から1:5に設定されているスクリーン印刷用メタルマスク。」

<相違点1>
本件補正発明の「調整開口の開口形状」が「パターン開口の開口形状よりも大きく形成されており,「調整開口の開口内面」と,「パターン開口の開口周縁壁との間に段落ち部が形成され」,「段落ち部の幅寸法が1μm以上15μm以下に設定されて」いるのに対して,引用発明1はそのようなものではない点

ウ 相違点1についての検討
(ア)上記(2)ウ(カ)において説示したように,引用文献3には,「印刷パターンに対応する開口の端の部分にメッシュパターンが形成されていない場合」に「印刷パターンの端部分にインク等が十分に付着しない」という課題を「印刷パターンに相当する開口を有する層と,メッシュパターンに相当する複数の開口を有する層との2つの層を備えるマスクにおいて,メッシュパターンに相当する複数の開口が印刷パターンに相当する開口が形成されている部分の少し外側部分にまで形成することにより,印刷パターンに相当する開口の端の部分についてもインクを十分に充填することができる」ようにして解決する技術事項が記載されているところ,引用発明1の「スクリーン印刷マスク」においても同様の課題が発生することは,引用文献3の記載に接した当業者であれば当然認識し得ることであるから,引用文献3の技術事項を引用発明1に適用することにより,「メッシュパターンに相当する複数の開口が印刷パターンに相当する開口が形成されている部分の少し外側部分にまで形成する」ようにすることで,本件補正発明の相違点1に係る構成の「調整開口の開口形状」が「パターン開口の開口形状よりも大きく形成され」るものとすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
そして,そのようにした場合には,「開口パターン」の内面と当該開口パターンが形成されている部分の少し外側部分に形成されたメッシュパターンの複数の開口の内面との間に段差部が形成されるものとなることは,引用文献3について上記(2)ウ(オ)において認定した事項に照らせば明らかである。
(イ)また,当該「段差部」の幅寸法をどの程度とするかは,インクの充填性や製造公差を考慮して適宜設定すべき設計的事項にすぎないし,導電性のインキペーストの充填を円滑に行うためにペースト充填孔を階段状孔壁とするものにおいて,階段毎の口径差を一般的にエッチング加工などにより10?50μm程度とすることは,例えば,特開2004?276384号公報(段落【0018】ないし【0020】)に示唆されているように,本件補正発明の幅寸法に含まれ得る「15μm」程度に設定することに格別の困難性はない。
さらに言えば,本願明細書の記載からは,幅寸法を「1?15μm」の範囲とすることにより格別の効果を有することや,当該範囲において臨界的な技術的意義の存在を認めることはできない。
(ウ)以上のとおりであるから,上記相違点1は,引用発明1に引用文献3に記載の技術事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得る程度のことである。

エ 小括
上記で検討したとおり,本件補正発明は,引用発明1に引用文献3に記載の技術事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)引用発明2を主引用例とする場合の本件補正発明の容易想到性についての検討
ア 本件補正発明と引用発明2との対比
(ア)引用発明2の「金属板2の中央に矩形の開口部(パターン状の孔)8が設けられ」た「金属板」,「開口部8」に「配されている」「格子状に規則的に2次元配置された孔を備えるメッシュ4」,「メタルマスクスクリーン版20」は,それぞれ,本件補正発明の「パターン開口(1)を備えたマスク版(5)」,「調整開口(3)を備えたスキージ版(6)」,「スクリーン印刷用メタルマスク」に相当する。
(イ)上記(2)イ(キ)のとおり,引用発明2の「メタルマスクスクリーン版」の「矩形の開口部」に「配されている」「メッシュ部4」には,複数の「孔」が「格子状に規則的に2次元配置され」ており,「孔」の内面同士をつなぐリブが設けられているものといえるから,引用発明2の「メッシュ部4」の「格子状に規則的に2次元配置され」た「孔」は,本件補正発明の「調整開口(3)には,開口内面同士を繋ぐ調整リブ(9)が形成されて」いることに相当する。
(ウ)引用発明2の「全体として15μmの厚さで,メッシュ4を5μmの厚さ」であることは,「メッシュ4」の厚み寸法と「メッシュ4を除いたメタルマスクスクリーン版」の厚み寸法の比率が「1:2」であるといえるから,本件補正発明の「スキージ版(6)」と「マスク版(5)」との「厚み寸法の比率」が「1:1.5から1:5」に設定されていることにおいても相当するものである。

イ 本件補正発明と引用発明2の一致点と相違点について
上記アの対比を踏まえると,本件補正発明と引用発明2とは,つぎの一致点2で一致し,相違点2及び3において相違する。

<一致点2>
「パターン開口を備えたマスク版と,前記パターン開口に対応する調整開口を備えたスキージ版とを備えているスクリーン印刷用メタルマスクであって,
前記調整開口には,開口内面同士を繋ぐ調整リブが形成されており,
前記スキージ版と前記マスク版との厚み寸法の比率は,1:1.5から1:5に設定されているスクリーン印刷用メタルマスク。」

<相違点2>
本件補正発明においては,「マスク版」が備える「パターン開口」と「スキージ版」が備える「調整開口」とが,「一群」のものであるのに対して,引用発明2においては,そのように特定されない点
<相違点3>
本件補正発明の「調整開口の開口形状」が「パターン開口の開口形状よりも大きく形成されており,「調整開口の開口内面」と,「パターン開口の開口周縁壁との間に段落ち部が形成され」,「段落ち部の幅寸法が1μm以上15μm以下に設定されて」いるのに対して,引用発明2はそのようなものではない点

ウ 相違点についての検討
(ア)相違点2について
メタルマスクスクリーン版において一群の印刷パターン用の開口を備えるよう構成することは,周知の技術であって,例えば引用文献1にもそのような構成が記載されている。
してみると,引用発明2において,「格子状に規則的に2次元配置された孔を備えるメッシュ4が配された矩形の開口部(パターン状の孔)」を一群のものとすることにより,本件補正発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度の設計的事項にすぎない。
(イ)相違点3について
相違点3は,上記(3)のイの相違点1と同じ相違点であるところ,上記(3)ウの相違点1についての検討と同様の理由により,相違点3は,引用発明2に,引用文献3に記載の技術事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得る程度のことである。

エ 小括
上記で検討したとおり,本件補正発明は,引用発明2に周知の技術及び引用文献3に記載の技術事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)独立特許要件についての検討のまとめ
以上検討したように,本件補正発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって,本願補正発明は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に違反する。

4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり,本件補正は,上記1において検討したように,本件補正事項の目的が特許法第17条の2第5項各号に規定するいずれにも該当しないことから,同項の規定に違反してされたものであり,また,仮に本件補正事項の目的が同項第2号に該当するとしても,本願補正発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,本件補正は,同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし3に係る発明は,平成31年3月13日にされた手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであって,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記第2の1(1)アにおいて説示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,本願発明は,原々出願日前に日本国内において,頒布された上記引用文献1又は2に記載の発明及び上記引用文献3に記載の技術事項に基づいて,原々出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をしたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

3 引用例及びその記載事項
原査定で引用された引用文献1ないし3記載の事項及び引用発明1及び2,並びに,引用文献3に記載された技術事項は,それぞれ,上記第2の3(2)において説示し,認定したとおりである。

4 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)引用発明1を主引用例とする場合の本願発明の想到容易性について
ア 上記第2の3(3)アの対比を踏まえると,本願発明と引用発明1とは,第2の3(3)イの一致点1で一致し,次の相違点4で相違する。

<相違点4>
本願発明の「調整開口の開口形状」が「パターン開口の開口形状よりも大きく形成されているのに対して,引用発明1はそのようなものではない点

イ 相違点4についての検討
上記第2の3(3)ウ(ア)において説示したように,引用文献3の技術事項を引用発明1に適用することにより,「メッシュパターンに相当する複数の開口が印刷パターンに相当する開口が形成されている部分の少し外側部分にまで形成する」ようにすることで,本願発明の相違点4に係る構成である「調整開口の開口形状」が「パターン開口の開口形状よりも大きく形成され」るものとすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。

ウ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明1に引用文献3の技術事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)引用発明2を主引用例とする場合の本願発明の想到容易性について
ア 上記第2の3(4)アの対比を踏まえると,本願発明と引用発明2とは,第2の3(4)イの一致点2で一致し,同相違点2及び次の相違点5で相違する。

<相違点5>
本願発明の「調整開口の開口形状」が「パターン開口の開口形状よりも大きく形成されているのに対して,引用発明2はそのようなものではない点

イ 相違点についての検討
(ア)相違点2については,上記第2の3(4)ウ(ア)において検討したとおり,引用発明2において,「格子状に規則的に2次元配置された孔を備えるメッシュ4が配された矩形の開口部(パターン状の孔)」を一群のものとすることにより,本願発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度の設計的事項にすぎない。
(イ)相違点5は,上記(1)のアの相違点4と同じ相違点であるところ,上記(1)イの相違点4についての検討と同様の理由により,相違点5は,引用発明2に,引用文献3に記載の技術事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得る程度のことである。

ウ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明2に引用文献3の技術事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
上記で検討したとおり,本願発明は,原々出願日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載の発明(引用発明1)又は引用文献2に記載の発明(引用発明2)及び引用文献3に記載の技術事項周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,上記結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-06-01 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-15 
出願番号 特願2018-46436(P2018-46436)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41N)
P 1 8・ 575- Z (B41N)
P 1 8・ 57- Z (B41N)
P 1 8・ 121- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 博之  
特許庁審判長 藤田 年彦
特許庁審判官 尾崎 淳史
吉村 尚
発明の名称 スクリーン印刷用メタルマスク  

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