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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1364882
異議申立番号 異議2019-700495  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-21 
確定日 2020-06-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6443668号発明「支持ガラス基板及びこれを用いた積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6443668号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第6443668号の請求項1?4、6?11に係る特許を維持する。 特許第6443668号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第6443668号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成26年12月17日になされ、平成30年12月7日に特許権の設定登録がなされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許の全請求項(請求項1?11)に係る特許に対し、特許異議申立人 安東和恭(以下、「異議申立人」という。)より、令和1年6月21日付けで特許異議の申立てがなされた。
以降の手続の経緯は次のとおりである。

令和1年 9月25日付け 取消理由通知
同年11月21日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
令和2年 1月 6日 意見書の提出(異議申立人)
同年 1月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 3月19日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)

2 訂正の適否についての判断
令和2年3月19日になされた訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)は、以下のとおり、適法になされたものと判断する。
なお、先になされた令和1年11月21日付けの訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正の内容(当審注:下線を付した部分が訂正箇所である。)
本件訂正は、一群の請求項を構成する請求項1?11を訂正の単位として請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に従うものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「20?200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が28×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であり、板厚偏差が2μm以下であることを特徴とする」とあるのを、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?0%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有し、20?200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が28×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であり、板厚偏差が2μm以下であることを特徴とする」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項3?11も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「30?380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であり、板厚偏差が2μm以下であることを特徴とする」とあるのを、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有し、30?380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であり、板厚偏差が2μm以下であることを特徴とする」に訂正し、その結果として、請求項2を引用する請求項3?11も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6における引用項を「請求項5」から「請求項1?4の何れか」に訂正する

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7における引用項を「請求項1?6の何れか」から「請求項1?4、6の何れか」に訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8における引用項を「請求項1?7の何れか」から「請求項1?4、6、7の何れか」に訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9における引用項を「請求項1?7の何れか」から「請求項1?4、6、7の何れか」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)

ア 訂正事項1について
本件訂正前の請求項1の「支持ガラス基板」に対しては、ガラス組成についての特定がなかったところ、訂正事項1は、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有」するとの特定事項を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0027】には、「本発明の支持ガラス基板は、ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有することが好ましい。」という記載があるから、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。
また、前記の特定事項の付加によって、訂正前の請求項1には包含されていなかった支持ガラス基板が、新たに加わるなどということはないから、訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、上記アに示した訂正事項1と同様に、ガラス組成についての特定がなかった、本件訂正前の請求項2の「支持ガラス基板」について、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有」するとの特定事項を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2も、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項5を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項5を削除するというものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項4?7について
訂正事項4?7は、訂正事項3により削除した請求項5を引用しないように、引用請求項の中から請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4?7は、引用請求項の中から請求項5を削除するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
上記2のとおり本件訂正は適法になされたものと認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4、6?11に係る発明(以下、項番に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?4、6?11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有し、20?200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が28×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であり、板厚偏差が2μm以下であることを特徴とする支持ガラス基板。
【請求項2】
ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有し、30?380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であり、板厚偏差が2μm以下であることを特徴とする支持ガラス基板。
【請求項3】
半導体パッケージの製造工程で加工される加工基板の支持に用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の支持ガラス基板。
【請求項4】
ヤング率が75GPa以上であることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の支持ガラス基板。
【請求項6】
ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )55?70%、Al_(2)O_(3 )20?25%、B_(2)O_(3 )0?3%、MgO 0?3%、CaO 0?3%、SrO 0?3%、BaO 0?3%、ZnO 0?3%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?10%、Li_(2)O 0?7%、Na_(2)O 0?3%、K_(2)O 0?3%、TiO_(2 )0?5%、ZrO_(2 )0?5%、P_(2)O_(5 )0?5%を含有することを特徴とする請求項1?4の何れかに記載の支持ガラス基板。
【請求項7】
板厚が2.0mm未満であり、且つ板厚偏差が1μm以下であることを特徴とする請求項1?4、6の何れかに記載の支持ガラス基板。
【請求項8】
少なくとも加工基板と加工基板を支持するための支持ガラス基板とを備える積層体であって、支持ガラス基板が請求項1?4、6、7の何れかに記載の支持ガラス基板であることを特徴とする積層体。
【請求項9】
少なくとも加工基板と加工基板を支持するための支持ガラス基板とを備える積層体を用意する工程と、
加工基板に対して、加工処理を行う工程と、を有すると共に、支持ガラス基板が請求項1?4、6、7の何れかに記載の支持ガラス基板であることを特徴とする半導体パッケージの製造方法。
【請求項10】
加工処理が、加工基板の一方の表面に配線する工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の半導体パッケージの製造方法。
【請求項11】
加工処理が、加工基板の一方の表面に半田バンプを形成する工程を含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の半導体パッケージの製造方法。」

4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
本件訂正前(令和1年11月21日付けの訂正後)の請求項1?4、7?11に係る発明に対して、当審が令和2年1月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 本件訂正前の請求項1?4、7?11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである(以下、「取消理由1」という。)。

イ 本件訂正前の請求項1、2、4、7、8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1、2、4、7、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(以下、「取消理由2」という。)。

ウ 本件訂正前の請求項3、4、7?11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記引用例1?2に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項3、4、7?11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである(以下、「取消理由3」という。)。


引用例1:特表2014-517805号公報(甲第5号証)
引用例2:国際公開第2013/147358号(甲第4号証)

(2)当審の判断
ア 取消理由1について
取消理由1は、サポート要件適合性に関し、次の点を指摘したものである。
すなわち、本件発明の課題は、加工基板の寸法変化が生じ易いとの問題を解決することができる支持基板の提供にあるところ、発明の詳細な説明によれば、本件発明は、支持基板として、表面を平滑化し易く、且つ剛性を有する、ガラス基板を採択すると共に、このガラス基板の熱膨張係数を、20?200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が28×10^(-7)/℃超で50×10^(-7)/℃未満、または、30?380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10^(-7)/℃超で50×10^(-7)/℃未満に、厳密に規制することによって、半導体パッケージの高密度実装を行う場合の、加工基板と支持ガラス基板の熱膨張係数が整合し易くなるため、上記課題を解決し得るとの知見を得たとしながら、その知見を根拠付ける基板の具体例は限られたものであるため、当該知見を、支持ガラス基板のガラス組成について特定していない発明にまで拡張ないし一般化して考えることはできないというものであった。
しかしながら、本件訂正により、当該支持ガラス基板のガラス組成は特定され、本件発明1?4、6?11は、発明の詳細な説明において、上記課題が解決できることを当業者が認識できる範囲内のものとなったといえる。
よって、本件発明1?4、6?11は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、上記取消理由1は妥当しない。

イ 取消理由2、3について
(ア)引用例1(特表2014-517805号公報、甲第5号証)の記載事項
a 「【0002】
本開示は、未研磨ガラスウェハ…に関するものである。」

b 「【0006】
3次元集積回路110(3DIC 110)は、能動電子部品群からなる2つ以上の層を垂直方向及び水平方向の両方向に集積して単一回路とした半導体回路である。…
【0007】
…3DIC 110は、異なる層に在る部品群の全てがオンチップ制御素子と垂直方向または水平方向に関係なく通信するシングルチップとして機能する。3D ICパッケージ封止に関連し、かつ性能向上を予測するムーアの法則を延長し易くし、場合によっては、性能向上を予測するムーアの法則を更に延長し易くすることができる多くの利点がある。これらの利点として:
1.サイズ-3DIC 110の設置面積は、異なる技術を用いてパッケージ封止される同様の集積回路(IC)と比較してずっと小さい。…
【0008】
2.速度-伝搬遅延が配線長の2乗に比例して変化する場合、配線距離がずっと短いということは、3DIC 110の速度が、異なる技術を用いてパッケージ封止されるICと比較してずっと速いことを意味する。
【0009】
3.電力-効率が高くなり、かつ経路長が短くなるので消費電力が10倍改善される結果が、3DIC 110について、他のパッケージ封止技術で封止されるICと比較したときに観察されている。
【0010】
4.コスト-非常に複雑(高価)なICを幾つかの小規模ICに細分化することができるということは、欠陥が、他のパッケージ封止技術で封止されるICと比較したときに、完成品の3DIC 110のずっと小さな部分にしか影響しないことを意味する。
【0011】
従って、半導体産業では、正確に文書化される積極的なアプローチに着手して、出現したこの3DICパッケージ封止技術を進展させ、そして改善してきた。この技術を実行し、そして複数ICを3D ICパッケージ内で積層するために、シリコンウェハは、標準的なシリコンウェハ厚さよりもずっと薄くする-約700μmから約50μm?60μmにする…-必要がある。薄厚化シリコンに対するこの要求は、ITRS(国際半導体技術)ロードマップにも明確に文書化されている。従って、シリコンウェハを数十マイクロメートルにまで薄厚化して3DICパッケージ封止を利用する必要があることについては疑いの余地がない。
【0012】
シリコンウェハをこの厚さまで薄厚化するために、支持用ウェハまたは支持キャリアをシリコンウェハに仮接合接着して、余剰なシリコンをシリコンウェハから除去しながら機械的完全性を確保する。支持用ウェハは、2つの異なる基板、すなわちシリコンまたはガラスにより形成することができる。ガラスウェハは、コストの理由だけではなく、シリコンキャリアの熱膨張係数が低く、シリコンウェハとシリコンキャリアとの間の接合接着性の検査が不可能であり、そして更には、シリコンキャリアのフォームファクタに大きな制約があることから、主要キャリアとして現われた。…主要な半導体製造会社が開発を行なう際に最も広く利用されている薄厚化システムは、紫外線(UV)光源を利用して、キャリアとシリコンウェハとの間に挟まれる接合接着剤を固着させる接合システムと、そして接合接着剤を薄厚化プロセス後に除去するレーザと、を必要とする。シリコンウェハはUV光またはレーザビームを透過しないので、これは、ガラスウェハが多くの薄厚化システムに広く利用されることになることを意味する。
【0013】
ガラスウェハの場合、同時に達成することがこれまで過去の経緯から困難であり、かつ莫大な費用を要していた少なくとも2つの物理的属性がある。これらの2つの物理的属性は:
I.全体厚さバラツキ(TotalThickness Variation:TTV)-薄厚化対象のシリコンウェハのTTVは、ガラスキャリアウェハのTTVのみと同程度に良好である。シリコンウェハに関する要求が、更なる薄厚化に向かっているので、TTVは2.0μm未満にする必要がある。…
【0014】
II.反り(平坦度)-ガラスウェハの反りは、薄厚化シリコンウェハの性能にとって重要である。反りは、約60μm未満にする必要がある。…
【0017】
今日まで、幾つかの異なる手法が半導体産業において行なわれて、所望のTTV(全体厚さバラツキ)属性及び反り属性の両方を有するガラスウェハをコスト効率良く形成しようとしてきた。TTV属性及び反り属性を満たすために使用されてきた1つの手法では、ガラスウェハを研磨する。しかしながら、反り及びTTVの両方を、ガラスウェハを研磨するときに制御するのは、反り及びTTVが研磨プロセス中に互いに反対の方向に変化する場合が多いので困難である。…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、これらの不具合及び他の不具合を解決して、シリコンウェハを薄厚化するために効果的に使用することができるガラスウェハを提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
未研磨ガラスウェハ、薄厚化システム、未研磨ガラスウェハを使用して半導体ウェハを薄厚化する方法、及び未研磨ガラスウェハを製造する方法が本明細書において記載される。未研磨ガラスウェハ、薄厚化システム、未研磨ガラスウェハ使用して半導体ウェハを薄厚化する方法、及び未研磨ガラスウェハを製造する方法を含む更に別の実施形態についても記載される。」

c 「【0028】
図7A及び7Bを参照するに、例示的な未研磨ガラスウェハ700の斜視図及び側面図がそれぞれ図示されている。図示のように、例示的なガラスウェハ700は、互いに対して略平行な未研磨の第1表面704及び未研磨の第2表面706を有する本体702を含む。…本体702は、本明細書においてウェハ品質指標(waferquality index)と表記される物理属性を有し、このウェハ品質指標は、約6.0未満、または約4.5未満、或いは約3.0未満である。ウェハ品質指標は、TTV(μm)+[反り(μm)/10]に等しい。…
【0029】
ウェハ品質指標は、TTV及び反りの個々の属性が、これらの属性自体で重要
であるだけでなく、ガラスウェハ700の性能が、TTV及び反りの相互関係に
よっても異なるので提案された。」

d 「【0030】
ガラスウェハ700は更に、望ましい幾つかの物理属性及び組成属性を持つことができるので、ガラスウェハ700を効果的に利用して、半導体ウェハを薄厚化することができる。種々の物理属性及び組成属性は以下の通りとすることができる:
1.熱膨張係数(CTE)--ガラスウェハ700は、約3.0ppm/℃?3.5ppm/℃の範囲のCTEを有することができる。この場合、ガラスウェハ700及び半導体ウェハのCTEが一致する、または互いに少なくとも近接して一致し、この状態は、薄厚化プロセス中に、ガラスウェハ700が半導体ウェハに接合され、そして複合構造が熱サイクルを受ける可能性があるので望ましい場合が多い。ガラスウェハ700を当該ガラスウェハが約3.0ppm/℃?約3.5ppm/℃の範囲のCTEを有するように形成するために使用することができる例示的な組成は:SiO_(2):64.0?71.0;Al_(2)O_(3):9.0?12.0;B_(2)O_(3):7.0?12.0;MgO:1.0?3.0;CaO:6.0?11.5;SrO:0?2.0;BaO:0?0.1の公称組成(酸化物基準のモル百分率表示)を有し、この場合:(a)1.00≦Σ[RO]/[Al_(2)O_(3)]≦1.25の関係があり、式中、[Al_(2)O_(3)]は、Al_(2)O_(3)のモル百分率であり、そしてΣ[RO]は、MgO,CaO,SrO,及びBaOのモル百分率の合計に等しく、そして(b)ガラスは、以下の組成物特性:(i)酸化物基準で、ガラスが最大0.05モル百分率のSb_(2)O_(3)を含む;及び(ii)酸化物基準で、ガラスが最小0.01モル百分率のSnO_(2)を含むという(i)及び(ii)のうちの少なくとも1つの組成物特性を有する(以後、この組成を“compositionno.1(組成番号1)”と表記する)。

【0032】
2.TTV(全体厚さバラツキ)--半導体ウェハのTTVは、ガラスウェハ700のTTVと同程度に良好であるに過ぎない。その上、半導体ウェハの要求厚さがより薄くなるにつれて、ガラスウェハ700のTTVを更に小さくする必要がある。従って、例示的な実施形態では、ガラスウェハ700は、約2.0μm以下または約1.0μm以下のTTVを有する必要がある。

【0037】
4.反り-ガラスウェハ700の反りは、薄厚化半導体ウェハの性能/特性に大きく影響してしまう。ガラスウェハ700は、約60μm未満、または30μm未満、或いは20μm未満の反りを有するようにする必要がある。
【0038】
5.サイズ-円形本体702を有するガラスウェハ700の“高品質領域”のイズは、約300mmの外径にまで及ぶことができ、そして約450mmまで
拡大して、将来の大口径半導体ウェハに合わせることができる。具体的には、円形本体702を有するガラスウェハ700は、約150mm?約450mmの範囲の外径を有する必要がある。
【0039】
6.厚さ--ガラスウェハ700は、公称約0.7mmであり、そして約0.4mm以上、かつ約1.1mm以下である厚さを有する必要がある。」

e 「【0042】
表1は、前述の組成番号1を有していた全ての88枚のガラスウェハ700の平均TTV及び平均反りを示して、ガラス製造システムの再現性及び能力を強調している。
【0043】
【表1】



f 「【0055】…上に説明したように、約300mmの外径を有し、かつ研磨しない状態でTTVが約2.0μm未満であり、そして反りが約30μm未満である約0.7mmの厚さのガラスウェハ700をコスト効率良く製造した。これは、3DICパッケージ封止技術にとって、コストの観点からだけではなく、属性向上の観点、クリーニング性向上の観点、再利用率向上の観点、更には接合性/接合分離性向上の観点からも極めて重要である。…」

g 「



(イ)引用例1に記載された発明(引用1発明)
上記a?bによれば、引用例1には、3次元集積回路のパッケージ封止に利用されるシリコンウェハを薄厚化するための支持用ガラスウエハについて、所望のTTV(全体厚さバラツキ)属性及び反り属性の両方を有するガラスウェハを研磨によって得ることが困難であるとの問題を解決するための、未研磨ガラスウエハが記載されていると認められる。
また、当該未研磨ガラスウェハは、上記c?gによれば、300mmの外径を有し、かつ研磨しない状態でTTV(全体厚さバラツキ)が2.0μm未満であり、そして反りが30μm未満である0.7mmの厚さの未研磨ガラスウェハであって、熱膨張係数(CTE)が、半導体ウェハのCTEと一致または近接する、3.0ppm/℃?3.5ppm/℃の範囲である未研磨ガラスウエハであるとされており、さらに、半導体ウェハの要求厚さがより薄くなるにつれて、ガラスウェハ700のTTVを更に小さくする必要があり、1.0μm以下のTTVを有する必要があり、また、このガラスウエアは、薄厚化プロセス中に半導体ウェハに接合されて、複合構造で熱サイクルを受けるとされている。
そうすると、引用例1には、次の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されていると認められる。
「3次元集積回路のパッケージ封止に利用されるシリコンウェハを薄厚化するための支持用の未研磨ガラスウエハであって、300mmの外径を有し、かつ研磨しない状態でTTV(全体厚さバラツキ)が1.0μm以下であり、そして反りが30μm未満で、0.7mmの厚さで、熱膨張係数(CTE)が、半導体ウェハのCTEと一致または近接する、3.0ppm/℃?3.5ppm/℃の範囲である未研磨ガラスウェハ。」

(ウ)本件発明1について
a 本件発明1と引用1発明との対比
本件発明1と、引用1発明とを対比すると、引用1発明における「3次元集積回路のパッケージ封止に利用される半導体ウェハを薄厚化するための支持用の未研磨ガラスウエハ」、「研磨しない状態でTTV(全体厚さバラツキ)が1.0μm以下であ」ることは、それぞれ、本件発明1における「支持ガラス基板」、「板厚偏差が2μm以下である」ことに相当する。
したがって、両者は、以下の一致点及び相違点を有していると認められる。

<一致点>
「板厚偏差が2μm以下である支持ガラス基板」の点。

<相違点>
相違点1:本件発明1は、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有」するとの発明特定事項を備えているのに対し、引用1発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

相違点2:本件発明1は、「20?200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が28×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であ」るとの発明特定事項を備えているのに対し、引用1発明は、熱膨張係数(CTE)が、半導体ウェハのCTEと一致または近接する、3.0ppm/℃?3.5ppm/℃の範囲であるものの、当該発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

b 相違点1についての検討
引用1発明の、熱膨張係数(CTE)が3.0ppm/℃?3.5ppm/℃の範囲である未研磨ガラスウエハについて、上記(ア)dによれば、「例示的な組成は:SiO_(2):64.0?71.0;Al_(2)O_(3):9.0?12.0;B_(2)O_(3):7.0?12.0;MgO:1.0?3.0;CaO:6.0?11.5;SrO:0?2.0;BaO:0?0.1の公称組成(酸化物基準のモル百分率表示)」を有するとされており、実際、組成によって異なる所望のCTEを有することができるとされている。
ここで、前記の例示的な組成の範囲内で取り得る種々のガラス組成について、質量%への換算を行うと、SiO_(2) 57.7?67.2質量%、Al_(2)O_(3) 14.0?18.9質量%、MgO 0.6?1.9重量%、CaO 5.0?10.2質量%、SrO 0?3.2質量%、BaO 0?0.2質量%であると導出できるが、これは本件発明1と異なるガラス組成であり、特に、「Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O」が1?15質量%でない点で大きく異なる。
よって、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、引用例1に記載された発明ではない。
次に、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項の容易想到性について検討すると、引用例1には、熱膨張係数(CTE)が3.0ppm/℃?3.5ppm/℃の範囲である未研磨ガラスウエハについて、本件発明1と同組成とすること、特に「Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O」を1?15質量%とすることの記載や示唆はなく、また、ガラスの物性はその組成に影響されることは本件特許の出願時の技術常識であることに照らすと、引用1発明の「所望のTTV(全体厚さバラツキ)属性及び反り属性の両方を有するガラスウェハをコスト効率良く形成」するという課題(上記(ア)b【0017】参照)を解決しつつ、本件発明1と同組成とすること、特に「Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O」を1?15質量%とすることが、単なる設計変更であるとはいえない(引用1発明の例示的な組成を変更しても、同様の効果を維持できると直ちに認めることはできない。)。
したがって、引用1発明において、未研磨ガラスウエハの組成を本件発明1と同組成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
さらに、本件発明1の効果についていうと、当該組成とすることで、加工基板を支持するための支持基板に関し、その加工基板内で半導体パッケージの高密度実装を行う場合に、当該加工基板の寸法変化が生じ易いという課題(本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明【0002】?【0008】参照)を解決できるという、本件発明1の格別顕著な効果は、当業者が予測し得たとは到底認められない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(エ)本件発明2について
a 本件発明2と引用1発明との対比
本件発明2と、引用1発明とを対比すると、引用1発明における「3次元集積回路のパッケージ封止に利用される半導体ウエハを薄厚化するための支持用の未研磨ガラスウエハ」、「研磨しない状態でTTV(全体厚さバラツキ)が1.0μm以下であ」ることは、それぞれ、本件発明2における「支持ガラス基板」、「板厚偏差が2μm以下である」ことに相当する。
したがって、両者は、以下の一致点及び相違点を有していると認められる。

<一致点>
「板厚偏差が2μm以下である支持ガラス基板」の点。

<相違点>
相違点1’:本件発明2は、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有」するとの発明特定事項を備えているのに対し、引用1発明は、前記の発明特定事項を備えていない点。

相違点2’:本件発明2は、「30?380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であ」るとの発明特定事項を備えているのに対し、引用1発明は、熱膨張係数(CTE)が、半導体ウエハのCTEと一致または近接する、3.0ppm/℃?3.5ppm/℃の範囲であるものの、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

b 相違点1’についての検討
相違点1’は上記(ウ)aの相違点1と同様の相違点であるので、相違点1’についても上記(ウ)bでの検討と同様、実質的なものであるとともに、当該相違点1’に係る本件発明2の発明特定事項は容易想到のものではない。
したがって、本件発明2は、引用例1に記載された発明ではなく、また、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(オ)本件発明3、4、6?11と引用1発明との対比・判断
本件発明3、4、6?11は、上記(ウ)、(エ)において、引用例1に記載された発明ではなく、また、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないと判断した本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用するものであるから、これらの発明と同様、本件発明3、4、6?11についても、引用例1に記載された発明ではなく、また、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 異議申立人の意見について
本件発明1?4に相当する本件訂正前の請求項5に係る発明について、当審は既に、令和1年9月25日付け取消理由通知において特許法第29条第1項又は特許法第29条第2項所定の規定違反とはしていないが、この点について、令和2年1月6日提出の異議申立人の意見書に、特段の意見はなかった。

5 上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が令和2年1月28日付けで特許権者に通知した取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、以下のとおりである。

申立理由1:設定登録時の請求項1?11に係る発明は、甲第1号証に記載の発明であるか、又は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。

申立理由2:設定登録時の請求項1?11に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。

<甲号証一覧>
甲第1号証:特開2010-42469号公報
甲第2号証:特開2005-320234号公報
甲第3号証:特開2013-63870号公報
甲第4号証:国際公開第2013/147358号
甲第5号証:特表2014-517805号公報
甲第6号証:特開2013-14510号公報
甲第7号証:国際公開第2013/183681号
甲第8号証:国際公開2014/087971号
甲第9号証:「機械工学便覧」,社団法人日本機械学会,1987,p.B3-75)
なお、甲第6?9号証は、周知技術などについて主張するための証拠である。
以下、これら申立理由1、2について検討する。

(2)甲第1?5号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
(ア) 「【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の基板の加工工程において基板を支持するサポートプレートに…関する。」

(イ) 「【0004】
上述したような微細加工を行うためには、薄化後の基板の厚さのばらつきはできるだけ小さいほうが望ましい。そのため、特許文献1に記載のようなサポートプレートを用いて薄化した基板の厚さのばらつきを小さくするための技術が強く求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、サポートプレートを用いて薄化した基板の厚さのばらつきを小さくするための技術を提供することを主たる目的とする。」

(ウ) 「【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るサポートプレート1を示す断面図であり、図2は、基板3が張り合わされた状態のサポートプレート1を示す断面図であり、図3は、基板3が薄化されている状態のサポートプレート1を示す断面図である。
【0011】
サポートプレート1は、薄化される基板3を支持するサポートプレートである。サポートプレート1の面内の厚さのばらつきは、5μm以下であればよく、1μm以下であればより好ましい。…
【0012】
なお、本明細書において、用語「面内の厚さのばらつき」とは、サポートプレートの厚さの最大値と最小値との差を指し、TTV(TotalThickness Variation)またはRangeと称される場合もある。本実施形態において、上記「面内」とは、具体的には、サポートプレート1における基板3との接着面の面内を指す。すなわち、本実施形態におけるサポートプレート1の面内の厚さのばらつきは、図1のサポートプレート1において、基板3との接着面(上側)の任意の点から底面(下側)までの長さの最大値と最小値との差となる。
【0013】
サポートプレート1の面内の厚さのばらつきは、例えば、サポートプレート1の表面を研磨することにより調整することができる。または、研磨済のガラス板等を購入してサポートプレート1としてもよい。
【0014】
サポートプレート1の材質は、特に限定されず、ガラス、硬質プラスチック、金属、セラミック、シリコン等、貼り合わせる基板3の強度を保ち得る強度を有する物質から適宜選択することができるが、熱膨張係数が基板3の熱膨張係数に近似している物質を選択することが好ましい。
【0015】
サポートプレート1と基板3とで熱膨張係数が近似していれば、サポートプレート1に貼り合わされた基板3に対して、例えば、研磨処理のような熱が発生する処理を行ったとしても、サポートプレート1と基板3とを貼り合わせたものに反りが発生することを防止することができる。

【0023】
図2に示すようにサポートプレート1に貼り合わされた基板3を研削して、図3に示すように薄化された基板3を得る。薄化工程において、サポートプレート1は基板3を支持する役割を果たす。なお、基板3の薄化工程は、研磨熱により基板3が過熱することを防ぐために冷却水を噴きつけながら行ってもよい。基板3の薄化は、例えば、厚さが10?150μm程度となるまで行うことができる。
【0024】
ここで、サポートプレート1の面内の厚さのばらつきが小さければ、後述する実施例において示すように、薄化後の基板3の厚さのばらつきを小さくすることができる。…
【0025】
基板3には、上述の薄化工程以外の種々の加工工程を施してもよい。上記加工工程は、ウェットポリッシュ処理、エッチング処理、加熱処理、CVD処理、PVD処理、メッキ処理等の種々の処理を含んでよい。
【0026】
このように多様な処理を行う過程において、基板3を貼り合わせた状態のサポートプレート1が加熱されることによって、反りが発生する場合がある。この反りを抑制するために、サポートプレート1の熱膨張係数は基板3の熱膨張係数に近似していることが好ましい。サポートプレート1と基板3とで熱膨張係数が近似していれば、後述する実施例において示すように、サポートプレート1と基板3とを貼り合わせたものに反りが発生することを防止することができる。」

(エ) 「【実施例】
【0028】
〔実施例1〕
面内の厚さのばらつきが異なるサポートプレートを用いた際の、薄化後の基板の厚さのばらつきを比較した。
【0029】
サポートプレートとしてガラス(直径150mm、厚さ0.7mm)を用い、基板としてウエハ(6inch Si)を用いた。
ガラスとウエハとを接着剤を介して貼り付けた。貼り付けは200℃で2分間行い、また貼り付け圧は0.35kg/cm^(2)とした。貼り付け後における接着層の厚さの平均は15μm、厚さのばらつきは0.6μmであった。
【0030】
その後、ウエハの厚さの平均が50μmとなるように研削を行い、当該ウエハを薄化した。
【0031】
貼り付け後におけるガラスと接着層との合計の厚さのばらつき、および薄化後におけるウエハの厚さのばらつきを測定した。上記の測定には、浜松ホトニクスC8126-02を使用した。
【0032】
実施例として、サポートプレートとして用いるガラスに、面内の厚さのばらつきが0.9μmである研磨品を用いた。接着層を介してウエハと貼り付けた後における、ガラスと接着層との合計の厚さのばらつきを測定したところ、1.0μmであった。次にウエハを薄化し、薄化後におけるウエハの厚さのばらつきを測定したところ、1.9μmであった。
【0033】
また、比較例として、サポートプレートとして用いるガラスに、面内の厚さのばらつきが8.7μmである未研磨品を用いた。接着層を介してウエハと貼り付けた後における、ガラスと接着層との合計の厚さのばらつきを測定したところ、8.1μmであった。次にウエハを薄化し、薄化後におけるウエハの厚さのばらつきを測定したところ、8.2μmであった。
【0034】
上記実施例と比較例との比較により、用いるサポートプレートの面内の厚さのばらつきが、サポートプレートと接着層との合計の厚さのばらつきにそのまま影響し、さらに薄化後のウエハの厚さのばらつきにも影響することが示された。
【0035】
〔実施例2〕
次に、熱膨張係数が異なる材質からなるサポートプレートを用いた場合の、貼り付け後、薄化後および加熱処理後における反り量を比較した。
【0036】
サポートプレートとして貫通穴を有するガラス(直径200mm、厚さ0.7mm、穴直径0.3mm)を用い、基板としてウエハ(8inch)を用いた。なお、基板として用いたウエハの熱膨張係数は、3.2×10^(-6)であった。【0037】
ガラスとウエハとを接着剤を介して貼り付けた。貼り付けは200℃、45秒間行い、貼り付け圧は0.2kg/cm^(2)とした。貼り付け後における接着層の厚さの平均は15μmであった。その後ウエハの厚さの平均が50μmとなるように研削を行い、当該ウエハを薄化した。さらに、200℃において30分間加熱処理を行った。
【0038】
貼り付け後、薄化後および加熱処理後における反り量を測定した。反り量は、図4に示すように、サンプルを定盤上に置き、サンプルの直径(200mm)のうちの一方の端からの距離が0、50、100、150、および200mmの5箇所において、レーザー変位計を用いて変位量(反り量)を測定する方法にて行った。
【0039】
結果を図5?9に示す。図5?9では、サポートプレートとして、熱膨張係数3.7×10-6のガラスを用いた場合の結果を「A」、熱膨張係数3.2×10^(-6) のシリコン(基板と同じ材質)を用いた場合を「B」、熱膨張係数3.4×10^(-6)のガラスを用いた場合の結果を「C」としてそれぞれ示した。
【0040】
図5は、貼り付け後の反り量を示すグラフであり、図6は薄化後の反り量を示すグラフであり、図7は加熱処理後の反り量を示すグラフである。図5?7に示すように、基板との熱膨張係数の差が小さい程、反り量は小さくなっていた。」

(オ) 「【図1】

【図2】

【図3】



(カ) 「【図4】

【図5】

【図6】

【図7】




イ 甲第2号証の記載事項
(ア) 「【請求項13】
3.5?5.0・10^(6)/Kの熱膨張係数α_(20/300)、580?720℃の転移温度T_(g)、及び1240?1340℃の加工点をもつことを特徴とする請求項1?12のいずれか1項記載の平板フロートガラス。」

(イ) 「【0029】
本発明は、化学的及び熱的に焼戻し可能で経済的かつ環境的にやさしい製造に適した高耐熱性アルミノケイ酸リチウム平板フロートガラスを提供することを目的とする。」

(ウ) 「【0001】
本発明は化学的に及び熱的に焼戻し(temper)が可能な高熱安定性アルミノケイ酸リチウム平板フロートガラスに関する。」

(エ) 「【0083】
本発明に従った平板フロートガラスは、熱あるいは化学的焼戻し後、好ましくは強度及び/または引っ掻き傷耐久性に関して高度な要求が課される例えば宇宙船あるいは航空機の窓ガラス及び交通工学における安全ガラス、ボイラー検視窓、遠心機ガラス、時計ガラス、スキャナー機器カバー、ハードディスクメモリ基板、及び室内外間の温度勾配が大きい所での室内窓ガラス等の適用分野に使用される。その優れた熱安定性ゆえに、本発明に係るガラスは照明セクター、耐火窓ガラス、あるいはオーブン、暖炉覗き窓としての有利な使用にも適する。」

(オ) 「【0086】
【表1】



ウ 甲第3号証の記載事項
(ア) 「【0012】
本発明の目的は、酸化錫を用いて泡品位に優れた珪酸塩ガラスを容易に製造する方法を提供するものである。

(イ) 「【0078】
SnO_(2)は、清澄剤として作用するとともに、核形成剤としての機能も有しており、ZrO_(2-)TiO_(2-)SnO_(2)系結晶核を形成する。SnO_(2)の含有量が少なすぎると清澄効果が十分ではなく、結晶性が低下する。一方、SnO_(2)の含有量が多すぎるとFeイオンによる着色が著しくなり好ましくない。またガラス溶融が困難になったり、失透しやすくなったりする。SnO_(2)含有量の好適な範囲は0.01?1.8%である。」

(ウ) 「【0085】
【表2】



(エ) 「【0089】
表1、2から明らかなように、実施例であるNo.1?3及びNo.6?8の各試料は、泡数が40個/t以下と少なく、フラットパネルディスプレイ装置や電子部品に用いられるガラス基板やとして問題なく使用できるものであった。」

エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、ガラス基板を用いた半導体パッケージに関する記載があるが、当該ガラス基板の組成についての記載はない。

オ 甲第5号証の記載事項
上記4(2)イ(ア)a?gと同様である。

(3) 甲第1号証に記載された発明(甲第1号証発明)及び甲第5号証に記載された発明(甲第5号証発明)
ア 甲第1号証に記載された発明
上記(2)ア(ア)、(ウ)及び(オ)によれば、甲第1号証には、半導体ウエハ等の基板の加工工程において基板を支持するサポートプレートに関し、面内の厚さのばらつきが1μm以下であるサポートプレートを用いれば、多様な加工工程を行う過程において面内の厚さのバラツキの小さい半導体ウエハ等の基板が得られ、そのサポートプレートの熱膨張係数が前記基板の熱膨張係数に近似していれば、前記基板に反りが発生することを防止できるということが記載されていると認められる。
また、上記(2)ア(エ)及び(カ)によれば、上記サポートプレートは、具体的には、厚さ0.7mmで面内の厚さのバラツキが1μm以下であるガラスであり、そのガラスの熱膨張係数は、シリコン基板の熱膨張係数の3.2×10^(-6)に近似している3.7×10^(-6)又は3.4×10^(-6)であったことが記載されていると認められる。
そうすると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体ウエハ等の基板の加工工程においてその基板を支持するサポートプレートであって、厚さ0.7mmで面内の厚さのバラツキが1μm以下のガラスでなり、熱膨張係数が、シリコン基板の熱膨張係数の3.2×10^(-6)に近似している、3.7×10^(-6)または3.4×10^(-6)であるサポートプレート。」

イ 甲第5号証に記載された発明
甲第5号証は、上記引用例1のことであるから、甲第5号証には、上記4(2)イ(イ)において認定した引用1発明(以下では、「甲第5号証発明」ということとする。)が記載されていると認められる。

(4) 申立理由1についての判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲第1号証発明との対比
本件発明1と、甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明における「半導体ウエハ等の基板の加工工程においてその基板を支持するサポートプレートであって、」「ガラスでな」る「サポートプレート」は、本件発明1における「支持ガラス基板」に相当し、また、甲第1号証発明における「厚さ0.7mmで面内の厚さのバラツキが1μm以下」であることは、本件発明1における「板厚偏差が2μm以下である」ことに相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有していると認められる。
<一致点>
「板厚偏差が2μm以下である支持ガラス基板」の点。

<相違点>
相違点3:本件発明1は、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有」するとの発明特定事項を備えているのに対し、甲第1号証発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

相違点4:本件発明1は、「20?200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が28×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であ」るとの発明特定事項を備えているのに対し、甲第1号証発明は、熱膨張係数が、シリコン基板の熱膨張係数の3.2×10^(-6)に近似している、3.7×10^(-6)または3.4×10^(-6)であるものの、当該発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

(イ) 相違点3についての検討
相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
次に、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項の容易想到性について検討する。
甲第1号証には、サポートプレートのガラス組成について何ら記載や示唆はなく、また、ガラスの物性はその組成に影響されることは本件特許の出願時の技術常識であり、「サポートプレートを用いて薄化した基板の厚さのばらつきを小さくする」という課題(上記(2)ア(イ)参照)を解決しつつ、本件発明1と同組成とすることが、単なる設計変更であるともいえない。
さらに、本件発明1のガラス組成に関し、上記(2)イのとおり、甲第2号証の実施例3(上記(2)イ(オ)参照)には、SiO_(2 )66.3重量%、Al_(2)O_(3 )23.4重量%、B_(2)O_(3 )3.0重量%、MgO 0.8重量%、CaO 0.5重量%、Li_(2)O 4.2重量%、Na_(2)O 0.8重量%、ZrO_(2 )0.5重量%、SnO_(2 )0.5重量%であり、熱膨張係数α_(20/300)が4.28・10^(6)/Kであり、ハードディスクメモリ基板等に使用される平板フロートガラス(上記(2)イ(エ)参照)が記載されている。
同様に、上記(2)ウのとおり、甲第3号証の実施例No.6?8(上記(2)ウ(ウ)参照)には、SiO_(2 )65.0?68.0重量%、Al_(2)O_(3 )20.5?22.0重量%、P_(2)O_(5 )1.0?1.5重量%、MgO 1.0重量%、Li_(2)O 4?4.5重量%、Na_(2)O 0.5重量%、K_(2)O 0.5重量%、ZrO_(2 )2.0重量%、SnO_(2 )0.5?0.8重量%であり、フラットパネルディスプレイ装置や電子部品に用いられるガラス基板に使用されるガラス基板((2)ウ(エ)参照)が記載されている。
しかしながら、甲1号証発明は、「半導体ウエハ等の基板の加工工程においてその基板を支持するサポートプレートであって、」「ガラスでな」る「サポートプレート」であるのに対し、甲第2号証に記載の平板フロートガラス及び甲第3号証に記載のガラス基板はいずれも、そのようなサポートプレートではなく、甲1号証発明とは技術分野が異なる。
また、甲第1号証発明は、「サポートプレートを用いて薄化した基板の厚さのばらつきを小さくする」ことを課題(上記(2)ア(イ)参照)としているのに対し、甲第2号証記載のものは、「化学的及び熱的に焼戻し可能で経済的かつ環境的にやさしい製造に適した高耐熱性アルミノケイ酸リチウム平板フロートガラスを提供すること」(上記(2)イ(イ)参照)、甲第3号証記載のものは「酸化錫を用いて泡品位に優れた珪酸塩ガラスを容易に製造する方法を提供する」こと(上記(2)ウ(ア)参照)を、それぞれ課題としており、いずれも甲1号証発明とは課題が異なる。
そして、甲第1号証発明と、甲第2号証及び甲第3号証に記載されたものとでは、上記のとおり技術分野及び課題が異なることから、これに付随してガラス組成が果たす作用や機能が異なることも明らかである。
さらに、ガラスの物性はその組成に影響されるという本件特許の出願時の技術常識からすれば、甲第1号証発明において、当該甲第1号証発明とは技術分野も課題も作用機能も異なる甲第2号証や甲第3号証に記載のガラス組成を採用した場合、「サポートプレートを用いて薄化した基板の厚さのばらつきを小さくする」という甲第1号証発明の効果を維持できるかは不明である。
これらを考え合わせると、甲第1号証発明において、甲第2号証又は甲第3号証に記載されたガラス組成を採用することは、動機付けが存在せず、当業者といえども容易に想到し得たことではないというほかない。
そして、仮に甲第1号証発明に甲第2号証又は甲第3号証に記載されたガラス組成を転用することに想到し得たとしても、その結果として、加工基板を支持するための支持基板に関し、その加工基板内で半導体パッケージの高密度実装を行う場合に、当該加工基板の寸法変化が生じ易いという課題(本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明【0002】?【0008】参照)を解決できるという、本件発明1の格別顕著な効果が得られることを、当業者が予測し得たとまでは認められない。
また、甲第4号証(上記(2)エ参照)は、本件発明1のガラス組成に相当するガラス組成が記載されたものではないので、これによって、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項が、当業者において容易に想到し得るものではないことは明らかである
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、甲第6号証?甲第9号証は、本件発明1のガラス組成に相当するガラス組成が記載されたものではない。

イ 本件発明2について
(ア) 本件発明2と甲第1号証発明との対比
本件発明2と、甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明における「半導体ウエハ等の基板の加工工程においてその基板を支持するサポートプレートであって、」「ガラスでな」る「サポートプレート」は、本件発明2における「支持ガラス基板」に相当し、また、甲第1号証発明における「厚さ0.7mmで面内の厚さのバラツキが1μm以下」であることは、本件発明2における「板厚偏差が2μm以下である」ことに相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有していると認められる。
<一致点>
「板厚偏差が2μm以下である支持ガラス基板」の点。

<相違点>
相違点3’:本件発明2は、「ガラス組成として、質量%で、SiO_(2 )50?80%、Al_(2)O_(3 )15?25%、B_(2)O_(3 )0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2 )0?7%、ZrO_(2 )0?7%、P_(2)O_(5 )0?10%を含有」するとの発明特定事項を備えているのに対し、甲第1号証発明は、当該発明特定事項を備えていない点。

相違点4’:本件発明2は、「30?380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であ」るとの発明特定事項を備えているのに対し、甲第1号証発明は、熱膨張係数が、シリコン基板の熱膨張係数の3.2×10^(-6)に近似している、3.7×10^(-6)または3.4×10^(-6)であるものの、当該発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

(イ)相違点3’についての検討
相違点3’は上記ア(ア)の相違点3と同様の相違点であるので、相違点3’については上記ア(イ)での検討と同様である。
したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3、4、6?11について
本件発明3、4、6?11は、上記ア?イにおいて、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断した本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用するものであるから、これらの発明と同様、本件発明3、4、6?11についても、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5) 申立理由2についての判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲第5号証発明との対比
本件発明1と甲第5号証発明とは、上記4(2)イ(ウ)aにおいて認定したのと同様の一致点及び相違点1、2を有する。

(イ) 相違点1についての検討
上記4(2)イ(ウ)bで検討したとおり、相違点1は実質的な相違点であり、また、甲第5号証発明の課題を解決しつつ、本件発明1と同組成とすること、特に「Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O」を1?15質量%とすることが、単なる設計変更であるとはいえない。
さらに、上記(4)ア(イ)のとおり、甲第2号証及び甲第3号証には、本件発明1のガラス組成に関する記載が認められるものの、甲5号証発明は、「3次元集積回路のパッケージ封止に利用されるシリコンウエハを薄厚化するための支持用の未研磨ガラスウエハ」であるのに対し、甲第2号証に記載の平板フロートガラス及び甲第3号証に記載のガラス基板は、そのような「支持用」のガラスウェハではなく、甲5号証発明とは技術分野が異なるし、甲第5号証発明は、所望のTTV(全体厚さバラツキ)属性及び反り属性の両方を有するガラスウェハをコスト効率良く形成することを課題としているのに対し、甲第2、3号証に記載されたものは、化学的及び熱的に焼戻し可能で経済的かつ環境的にやさしい製造に適した高耐熱性アルミノケイ酸リチウム平板フロートガラスを提供すること、及び、酸化錫を用いて泡品位に優れた珪酸塩ガラスを容易に製造する方法を提供することをそれぞれ課題としており、甲5号証発明とは課題が異なるものである。
その上、このような技術分野及び課題の違いに起因する、ガラス組成が果たす作用や機能の違いをも考慮すると、当該甲第2号証や甲第3号証に記載のガラス組成を採用した場合にあっても、甲第5号証発明の効果が奏されるとは限らないから、当業者といえども甲第5号証発明において、甲第2号証又は甲第3号証に記載されたガラス組成を採用することには、困難性があるといわざるを得ない。
また、これらの証拠からみて、本件発明1の効果が予測可能であるものとも認められない。
したがって、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2について
(ア) 本件発明2と甲第5号証発明との対比
両者は上記4(2)イ(エ)aと同様の一致点及び相違点1’、2’を有するものである。

(イ) 相違点1’についての検討
相違点1’は上記ア(ア)の相違点1と同様の相違点であるので、相違点1’については上記ア(イ)での検討と同様である。
したがって、本件発明2は、甲第5号証に記載された発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3、4、6?11について
本件発明3、4、6?11は、上記ア?イにおいて、甲第5号証に記載された発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断した本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用するものであるから、これらの発明と同様、本件発明3、4、6?11についても、甲第5号証に記載された発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?4、6?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?4、6?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の特許請求の範囲の請求項5は、本件訂正により削除された。これにより、当該請求項5に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 50?80%、Al_(2)O_(3) 15?25%、B_(2)O_(3) 0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2) 0?7%、ZrO_(2) 0?7%、P_(2)O_(5) 0?10%を含有し、20?200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が28×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であり、板厚偏差が2μm以下であることを特徴とする支持ガラス基板。
【請求項2】
ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 50?80%、Al_(2)O_(3) 15?25%、B_(2)O_(3) 0?5%、MgO 0?5%、CaO 0?5%、SrO 0?5%、BaO 0?5%、ZnO 0?5%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?15%、Li_(2)O 0?10%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、TiO_(2) 0?7%、ZrO_(2) 0?7%、P_(2)O_(5) 0?10%を含有し、30?380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が30×10^(-7)/℃超であり、且つ50×10^(-7)/℃未満であり、板厚偏差が2μm以下であることを特徴とする支持ガラス基板。
【請求項3】
半導体パッケージの製造工程で加工される加工基板の支持に用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の支持ガラス基板。
【請求項4】
ヤング率が75GPa以上であることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の支持ガラス基板。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 55?70%、Al_(2)O_(3) 20?25%、B_(2)O_(3) 0?3%、MgO 0?3%、CaO 0?3%、SrO 0?3%、BaO 0?3%、ZnO 0?3%、Li_(2)O+Na_(2)O+K_(2)O 1?10%、Li_(2)O 0?7%、Na_(2)O 0?3%、K_(2)O 0?3%、TiO_(2) 0?5%、ZrO_(2) 0?5%、P_(2)O_(5) 0?5%を含有することを 特徴とする請求項1?4の何れかに記載の支持ガラス基板。
【請求項7】
板厚が2.0mm未満であり、且つ板厚偏差が1μm以下であることを特徴とする請求項1?4、6の何れかに記載の支持ガラス基板。
【請求項8】
少なくとも加工基板と加工基板を支持するための支持ガラス基板とを備える積層体であって、支持ガラス基板が請求項1?4、6、7の何れかに記載の支持ガラス基板であることを特徴とする積層体。
【請求項9】
少なくとも加工基板と加工基板を支持するための支持ガラス基板とを備える積層体を用意する工程と、
加工基板に対して、加工処理を行う工程と、を有すると共に、支持ガラス基板が請求項1?4、6、7の何れかに記載の支持ガラス基板であることを特徴とする半導体パッケージの製造方法。
【請求項10】
加工処理が、加工基板の一方の表面に配線する工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の半導体パッケージの製造方法。
【請求項11】
加工処理が、加工基板の一方の表面に半田バンプを形成する工程を含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の半導体パッケージの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-08 
出願番号 特願2014-255236(P2014-255236)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 851- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 村岡 一磨
宮澤 尚之
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6443668号(P6443668)
権利者 日本電気硝子株式会社
発明の名称 支持ガラス基板及びこれを用いた積層体  
代理人 熊野 剛  
代理人 友廣 真一  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
代理人 城村 邦彦  
代理人 友廣 真一  

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