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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C10M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
管理番号 1364883
異議申立番号 異議2019-700695  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-05 
確定日 2020-06-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6476738号発明「転がり軸受用グリース組成物及び転がり軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6476738号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6476738号の請求項1、6、7に係る特許を維持する。 特許第6476738号の請求項2-5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成26年10月22日に特許出願され、平成31年2月15日にその特許権の設定登録がされ、同年3月6日に特許掲載公報が発行された。その後、令和元年9月5日に相見 彩(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがあり、その後次のとおりに手続がされた。
令和元年11月28日付 取消理由通知書
令和2年 2月 3日 特許権者による訂正請求(以下「本件訂正」という。)及び意見書の提出
令和2年 3月19日 申立人による意見書の提出

第2 本件訂正について
1 訂正前の特許請求の範囲
本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
基油とウレア系増ちょう剤と金属不活性化剤とを含有する、転がり軸受用グリース組成物であって、
前記基油のアニリン点が、110℃以上であり、
前記ウレア系増ちょう剤が、下記式(1):
R^(1)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(3) (1)
(式中、R^(1)及びR^(3)は、互いに同一でも異なっていてもよく、C_(6-30)アルキル基、C_(5-8)シクロアルキル基、又はC_(6-10)アリール基を示し、R^(2)は、炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示す)で表されるジウレア化合物から選択される少なくとも一種であり、
前記金属不活性化剤が、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール、チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記転がり軸受用グリース組成物。
【請求項2】
前記ウレア系増ちょう剤が、下記式(2)?(4):
R^(4)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(4) (2)
R^(4)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(5) (3)
R^(5)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(5) (4)
(式中、R^(2)は、炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R^(4)は、C_(10-26)アルキル基を示し、R^(5)は、C_(5-7)シクロアルキル基を示す)で表されるジウレア化合物から選択される少なくとも一種である、請求項1記載の転がり軸受用グリース組成物。
【請求項3】
前記ウレア系増ちょう剤において、R^(4)とR^(5)の総モル数に対するR^(4)のモル数の割合[100×(R^(4)のモル数)/(R^(4)のモル数+R^(5)のモル数)]が、50?90モル%である、請求項2記載の転がり軸受用グリース組成物。
【請求項4】
前記金属不活性化剤の割合が、グリース組成物に対して、0.1?10質量%である、請求項1?3のいずれか1項記載の転がり軸受用グリース組成物。
【請求項5】
前記基油が、鉱油及び/又は合成炭化水素油である、請求項1?4のいずれか1項記載の転がり軸受用グリース組成物。
【請求項6】
前記基油の40℃における動粘度が15?200mm^(2)/sである、請求項1?5のいずれか1項記載の転がり軸受用グリース組成物。
【請求項7】 請求項1?6のいずれか1項記載の転がり軸受用グリース組成物が封入された、転がり軸受。」
2 訂正事項
本件訂正は、次の訂正事項からなるものである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「前記基油のアニリン点が、110℃以上であり、」との記載を、「前記基油が、鉱油と合成炭化水素油との混合油であり、鉱油と合成炭化水素油との質量比が、鉱油/合成炭化水素油=50/50?99/1であり、前記基油のアニリン点が、110℃以上であり、」と訂正する。(請求項1を引用する請求項6、7も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項1の「下記式(1):
R^(1)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(3) (1)
(式中、R^(1)及びR^(3)は、互いに同一でも異なっていてもよく、C_(6-30)アルキル基、C_(5-8)シクロアルキル基、又はC_(6-10)アリール基を示し、R^(2)は、炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示す)で表されるジウレア化合物」との記載を、「下記式(3):
R^(4)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(5) (3)
(式中、R^(2)は、炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R^(4)は、C_(10-26)アルキル基を示し、R^(5)は、C_(5-7)シクロアルキル基を示し、R^(4)とR^(5)の総モル数に対するR^(4)のモル数の割合[100×(R^(4)のモル数)/(R^(4)のモル数+R^(5)のモル数)]が、50?90モル%である)
で表されるジウレア化合物」と訂正する。(請求項1を引用する請求項6、7も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項1の「前記金属不活性化剤が、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール、チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種である」との記載を、「前記金属不活性化剤が、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール、チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、その含有量が、組成物の全質量を基準として、0.3?5質量%である」と訂正する。(請求項1を引用する請求項6、7も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項2を削除する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項3を削除する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項4を削除する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項5を削除する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項6の「請求項1?5のいずれか1項記載の」との記載を、「請求項1記載の」と訂正する。(請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
本件訂正前の請求項7の「請求項1?6のいずれか1項記載の」との記載を、「請求項1又は6記載の」と訂正する。
3 訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項2?7は、請求項1を直接または間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1?7は、一群の請求項である。したがって、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものと認められ、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(2)訂正事項1
訂正事項1は、登録時の願書に添付された明細書の段落【0016】の「・・・油及び/又は合成炭化水素油において、鉱油と合成炭化水素油との割合は、特に限定されるものではないが、例えば、前者/後者(質量比)=50/50?100/0(例えば、60/40?99/1)・・・」という記載に基いて、本件発明における基油の種類を鉱油と合成炭化水素油との混合油に限定するとともに、その組成の上限と下限を特定したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の9で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載された式(1)の化合物を、その下位概念である訂正前の請求項2に記載された式(2)?(4)のうち、式(3)の化合物に限定し、かつ訂正前の請求項3に記載されたようにR^(4)とR^(5)とのモル比を特定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の9で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項1においては特定されていなかった「金属不活性化剤」の含有量を、「組成物の全質量を基準として、0.3?5質量%」と特定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の9で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項4?7
訂正事項4?7は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、これらの訂正事項が、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の9で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項8及び9
訂正事項8及び9は、いずれも前記訂正事項4?7により削除された請求項を引用する部分を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定される明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、これらの訂正事項が、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の9で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
4 本件訂正についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について
1 本件発明
本件特許の請求項1、6、7に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1、6及び7の記載により特定される次のとおりの発明(以下「本件発明1」、「本件発明6」及び「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」という。)である。なお、分説のための記号A?K、(a)?(f)は当審で付した。
「【請求項1】
A 基油とウレア系増ちょう剤と金属不活性化剤とを含有する、転がり軸受用グリース組成物であって、
I’ 前記基油が、鉱油と合成炭化水素油との混合油であり、鉱油と合成炭化水素油との質量比が、鉱油/合成炭化水素油=50/50?99/1であり、
B 前記基油のアニリン点が、110℃以上であり、
G 前記ウレア系増ちょう剤が、下記式(3):
R^(4)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(5) (3)
(式中、R^(2)は、炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R^(4)は、C_(10-26)アルキル基を示し、R^(5)は、C_(5-7)シクロアルキル基を示し、R^(4)とR^(5)の総モル数に対するR^(4)のモル数の割合[100×(R^(4)のモル数)/(R^(4)のモル数+R^(5)のモル数)]が、50?90モル%である)
で表されるジウレア化合物から選択される少なくとも一種であり、
D 前記金属不活性化剤が、
(a)1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール、
(b)チアジアゾール、
(c)2-メルカプトチアジアゾール、
(d)2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、
(e)2-メルカプトベンゾイミダゾール、
(f)2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール
からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
H’ その含有量が、組成物の全質量を基準として、0.3?5質量%である、前記転がり軸受用グリース組成物。
【請求項6】
J 前記基油の40℃における動粘度が15?200mm^(2)/sである、請求項1記載の転がり軸受用グリース組成物。
【請求項7】
K 請求項1又は6記載の転がり軸受用グリース組成物が封入された、転がり軸受。」

第4 取消理由について
1 令和元年11月28日付取消理由の概要
(1)本件特許の請求項1、6、7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記2(1)の、刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記3の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 特許法第29条第2項について
(1)引用文献一覧
引用文献1:特開2003-222144号公報
引用文献2:再公表WO2003/006590号
引用文献3:特開2008-69282号公報
引用文献4:特開2004-204218号公報
引用文献5:特許第5531392号公報
引用文献6:特開2004-149620号公報
引用文献7:特開2011-42792号公報
引用文献8:特開2014-55214号公報
引用文献9:特表2009-513781号公報
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
引用文献1には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】 内輪と外輪との間に保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持してなり、かつ、増ちょう剤の長さが3μm以上である長繊維状物を含むウレア化合物を増ちょう剤として含有するグリースを封入したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】 前記ウレア化合物が、下記一般式(1)で表されることを特
徴とする請求項1記載の転がり軸受。
【化1】

(式中、R_(1)は炭素数6?20のアルキル基またはシクロヘキシル基または炭素数7?12のアルキルシクロヘキシル基を示し、また2つのR_(1)は同一でも異なっていてもよく、更に(炭素数6?20のアルキル基のモル数)/(炭素数6?20のアルキル基のモル数+シクロヘキシル基または炭素数7?12のアルキルシクロヘキシル基のモル数)の値が0.5?1.0であり、R_(2)は炭素数6?15の2価の芳香族環含有炭化水素基を示す。)」
(イ)「【0009】
本発明において、転がり軸受自体の構造には制限がなく、例えば図1に示す玉軸受を例示することができる。図示される玉軸受1は、内輪10と外輪11との間に、保持器12を介して複数の玉13が転動自在に保持され、軸受内部空間Sに後述されるグリース(図示せず)が充填され、シール14により封止されている。
【0010】
封入されるグリースの基油は、特に制限されるものではないが、エステル油、エーテル油、合成炭化水素油等の合成油、鉱油を使用できる。これらは単独でもよいし、複数種を併用してもよい。以下に、それぞれの好ましい具体例を例示する。」
(ウ)「【0018】
合成炭化水素油としては、ポリ-α-オレフィン等が挙げられる。
【0019】
また、基油の動粘度は、18?200mm^(2)/s(40℃)の範囲であり、定トルク性を考慮すると18?100mm^(2)/s(40℃)の範囲が好ましい。
【0020】
上記基油に配合される増ちょう剤の長さが3μm以上である長繊維状物を含むウレア化合物である。長繊維状物の増ちょう剤の長さが3μm未満では、繊維構造が破壊されやすく、内外輪と転動体との接触部の摩耗や、音響上昇、トルク上昇を招きやすくなる。尚、長繊維状物の増ちょう剤の長さの上限については、長繊維状物が長過ぎると回転時に内外輪と転動体との接触部に入り込み易くなり、抵抗となって起動トルクや音響特性に悪影響を及ぼすことから、10μm以下であることが好ましい。また、長繊維状物の増ちょう剤の太さは、特に制限されるものではないが、1μm未満である。」
(エ)「【0032】
〔防錆剤〕
防錆剤として、例えば有機スルホン酸のアンモニウム塩、バリウム、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等アルカリ金属、アルカリ土類金属の有機スルホン酸塩、有機カルボン酸塩、フェネート、ホスホネート、アルキルもしくはアルケニルこはく酸エステル等のアルキル、アルケニルこはく酸誘導体、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル、オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類、1-メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類あるいはその金属塩、ステアリン酸等の高級脂肪酸類、イソステアリルアルコール等の高級アルコール類、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール等のチアゾール類、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール、ベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、あるいは、2,5-ビス(ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール等のジスルフィド系化合物、あるいは、トリスノニルフェニルフォスファイト等のリン酸エステル類、ジラウリルチオプロピオネート等のチオカルボン酸エステル系化合物等を使用することができる。また、亜硝酸塩等も使用することができる。
〔金属不活性化剤〕
金属不活性化剤として、例えばベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール等のトリアゾール系化合物を使用することができる。」
(オ)「【0036】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0037】
(グリースAの調製)
第1の容器に合成炭化水素油(PAO)の半量を入れ、そこへシクロヘキシルアミン及びステアリルアミンをアミン比を変えて(アルキル基のモル数)/(アルキル基のモル数+シクロヘキシル基のモル数)の値が0?1.0となるように添加し、70?80℃に加熱した。また、第2の容器にPAOを半量入れ、ジフェニルメタンジイソシアネートを添加して70?80℃に加熱し、これを第1の容器に加えて攪拌した。反応熱のため、反応物の温度は上昇するが、約30分間この状態で攪拌を続けて反応をさせ、高温で加熱保持した後、冷却した。その後、酸化防止剤を添加し、ロールミルを通すことで、ウレア化合物を増ちょう剤とするグリースAを得た。尚、ウレア化合物長繊維状物の長さを電子顕微鏡写真により測定したところ、0.9?3.5μmの範囲であった。また、混和ちょう度は230?250の範囲であった。
【0038】
(グリースBの調製)
比較のために、特願2000-234739に従い、ステアリン酸と水酸化リチウムとを合成炭化水素油(PAO)中で反応させ、長繊維状物を含むリチウム石けんを生成し、室温まで冷却してリチウム石けんを増ちょう剤とするグリースBを得た。尚、リチウム石けん長繊維状物の長さは、3?10μmの範囲であった。また、混和ちょう度は240であった。
【0039】
上記のグリースA及びグリースBの性状を、下記表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】


(カ)「【0041】 (音響試験)グリースA,Bを、試験軸受(日本精工(株)製玉軸受「型番695」:内径5mm、外径13mm、幅4mm)に10mg封入し、外輪回転速度2800min^(-1)、アキシアル荷重17.6N、雰囲気温度110℃にて60時間連続回転させた後、軸受音響を測定した。尚、軸受音響は、試験軸受のアキシアル方向の加速度振動値(G値)を測定した。そして、回転前の軸受音響との比較を行い、G値の上昇値が20mG(196×10^(-3)m/sec^(2))以下の場合を合格とした。
【0042】図2に、(アルキル基のモル数)/(アルキル基のモル数+シクロヘキシル基のモル数)の値と、G値の上昇値並びに長繊維状物の長さとの関係をグラフにして示すが、G値の上昇値が20mG以下を満足するのは、(アルキル基のモル数)/(アルキル基のモル数+シクロヘキシル基のモル数)の値が0.5?1.0の範囲であり、これは即ちウレア化合物長繊維状物の長さが3μm以上の範囲である。
【0043】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、内外輪と転動体との接触部の摩耗を防ぎ、音響上昇やトルク上昇を抑えることができ、かつ、高温下での使用にも十分に耐え得る転がり軸受が得られる。」
(キ)「【図1】


(ク)「【図2】


イ 引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】合成炭化水素油を含む基油と、増ちょう剤と、式(1)で表される化合物の脂肪酸塩とを含むボールジョイント用潤滑剤組成物。
R^(1)-NH-R^(2)-NH_(2) (1)
(式中、R^(1)は炭素数1?24の炭化水素基、R^(2)は炭素数2?4のアルキレン基を示す。)
【請求項2】合成炭化水素油が、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレンと炭素数5?12のα-オレフィンとの共重合体、ポリブテン、ポリイソブテン、炭素数5?12のα-オレフィンの重合体及びこれらの混合物からなる群より選択される請求の範囲1の組成物。」
(イ)3頁7?35行
「本発明の組成物における基油は、合成炭化水素油である。
合成炭化水素油としては、例えば、ポリオレフィン油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、ビフェニル油、ジフェニルアルカン油、ジ(アルキルフェニル)アルカン油が挙げられる。これらの中でもポリオレフィン油が好ましく用いられる。
ポリオレフィン油としては、任意のものが使用できるが、中でも炭素数2?12のオレフィンを1種又は2種以上重合させたものが好ましい。また、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、又は炭素数5?12の直鎖状末端オレフィン(以下、α-オレフィンと呼ぶ)を1種又は2種以上重合させたものがより好ましい。
これらの中でも、エチレンとプロピレンとの共重合体;エチレンと炭素数5?12のα-オレフィンとの共重合体;ポリブテン、ポリイソブテン又は、炭素数5?12のα-オレフィンの重合体が好ましく、エチレンと炭素数5?12のα-オレフィンの共重合体、炭素数5?12のα-オレフィンの重合体がより好ましい。
本発明の組成物に用いる基油としては、上記オレフィンの重合体を水素化処理したものであっても良い。
上記合成炭化水素油は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上の異なる合成炭化水素油を混合して使用しても良い。
本発明の組成物に用いる基油の粘度は任意であるが、100℃における動粘度が通常1?600mm^(2)/s、好ましくは2?150mm^(2)/s、より好ましくは5?50mm^(2)/sである。
本発明の組成物において基油の含有割合は特に制限はないが、低温時の摩擦特性の点からその下限値は、組成物全量基準で10重量%が好ましく、20重量%より好ましく、40重量%が更に好ましい。また摩擦特性の点からその上限値は、組成物全量基準で87重量%が好ましく、70重量%がより好ましく、60重量%が更に好ましい。
本発明の組成物に用いる基油には、合成炭化水素油以外のその他の基油、例えば、エステル油、ポリグリコール油、ポリフェニルエーテル油等の含酸素系合成油や鉱油を併用しても良い。しかし、例えば、鉱油を配合した場合では低温性能が低下する、エステル油を配合した場合にはシート材に悪影響を与えることから、その他の基油の含有割合は組成物全量基準で15重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下が更に好ましく、含有しないことが最も好ましい。」
(ウ)3頁44行?4頁10行
「ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物又はこれらの混合物が挙げられる。
ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物及びウレタン化合物としては、例えば、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物(ジウレア化合物、トリウレア化合物及びテトラウレア化合物は除く)、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物等が挙げられる。好ましくはジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物が挙げられる。具体的には、例えば、式(2)で表される化合物単独もしくはこれらの混合系が好ましい。
A-CONH-R^(3)-NHCO-B (2)
式(2)中、R^(3)は2価の炭化水素基を示し、A及びBは同一でも異なっていてもよく、それぞれ-NHR^(4)、-NR^(5)R^(6)又は-OR^(7)を示す。ここで、R^(4)?R^(7)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数6?20の炭化水素残基を示す。
式(2)中のR^(3)は、好ましくは炭素数6?20、特に好ましくは炭素数6?15の2価の炭化水素基である。2価の炭化水素基としては、例えば、直鎖状又は分枝状のアルキレン基、直鎖状又は分枝状のアルケニレン基、シクロアルキレン基、芳香族基が挙げられる。R^(3)の具体例としては、エチレン基、2,2-ジメチル-4-メチルヘキシレン基又は下記式で表される基が挙げられ、中でも式(a)又は(b)が特に好ましい。」
(エ)4頁下から3行?5頁18行
「上記R^(4)?R^(7)としては、例えば、直鎖状又は分枝状のアルキル基、直鎖状又は分枝状のアルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基が挙げられる。具体例としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の直鎖状又は分枝状のアルキル基;ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、エイコセニル基等の直鎖状又は分枝状のアルケニル基;シクロヘキシル基;メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、1-メチル-3-プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、アミルシクロヘキシル基、アミルメチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基、オクチルシクロヘキシル基、ノニルシクロヘキシル基、デシルシクロヘキシル基、ウンデシルシクロヘキシル基、ドデシルシクロヘキシル基、トリデシルシクロヘキシル基、テトラデシルシクロヘキシル基等のアルキルシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;トルイル基、エチルフェニル基、キシリル基、プロピルフェニル基、クメニル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基、ジメチルナフチル基、プロピルナフチル基等のアルキルアリール基;ベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。これらの中でもシクロヘキシル基、オクタデシル基及びトルイル基の使用が特に好ましい。」
(オ)6頁40行?7頁14行
「実施例1?7及び比較例1?5
表1に示す組成により、実施例及び比較例の組成物をそれぞれ調製した。尚、調製は、まず、基油と増ちょう剤とを加熱溶融した後、その他の添加剤を加えて溶解させ、ロールミルに通して行った。組成物に用いた各成分を以下に示す。なお、表1において各成分の数値の単位は重量%である。
基油
ポリα-オレフィン油(100℃動粘度:8mm^(2)/s)、
エチレン-α-オレフィンのオリゴマー(100℃動粘度:2000mm^(2)/s)、
鉱油(100℃動粘度:10mm^(2)/s)
増ちょう剤
ウレア系増ちょう剤:ジウレア化合物、
リチウム石鹸:リチウムステアレート
添加剤
デュオミンT-ジオレート:式(1)においてR1が牛脂脂肪酸の炭化水素基、R2がエチレン基である化合物とオレイン酸との塩(モル比1:2)、
ジアミド化合物:エチレンジアミンとオレイン酸とのジアミド化合物
その他の添加剤:以下の添加剤の混合物(含有割合は、全て組成物全量基準)
酸化防止剤1(ヨシノックスBHT(商品名)、吉富ファインケミカル社製)1重量%、酸化防止剤2(IrganoxL101(商品名)、チバ・スペシャルティケミカルズ社製)0.5重量%、さび止め剤(ペレテックスOS100(商品名)、ミヨシ油脂社製)0.45重量%、及び金属不活性化剤(Irgamet(商品名)39、チバ・スペシャルティケミカルズ社製)0.05重量%
次いで、調整した実施例1?5及び比較例1?3の潤滑剤組成物並びに市販のボールジョイント用グリース(比較例4及び5)に対して、以下に示す方法により摩擦係数及び滴点を測定した。結果を表1に示す。」
(カ)8頁上部
「表1


ウ 引用文献3の記載事項
引用文献3には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
基油と増ちょう剤と添加剤とを含む等速ジョイント用グリース組成物であって、前記基油は鉱油を必須成分とし、前記増ちょう剤は下記(1)式で表されるジウレア系増ちょう剤であり、前記添加剤は少なくともポリ(メタ)アクリレートを含むことを特徴とする等速ジョイント用グリース組成物。
【化1】

(式中、R^(1)とR^(2)は同一もしくは異なる、炭素数8?20のアルキル基を表す。)
(イ)「【0018】
本発明に使用される基油は、鉱油を必須成分とする。必要に応じて、エステル油、エーテル油または合成炭化水素油等の合成油を混合して使用できる。
具体的には、エーテル油としてはジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油等を、エステル油としてはジエステル油、ポリオールエステル油またはこれらのコンプレックスエステル油、芳香族エステル油等を挙げることができる。合成炭化水素油としてはポリ-α-オレフィン(以下、PAOと記す)油等を挙げることができる。中でも、潤滑性能並びに潤滑寿命を考慮すると、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、PAO油の合成油が含有されることが望ましい。
また、低温性能および潤滑性能が低下しないためには、流動点が-40℃以下であるもの、40℃における動粘度が40mm^(2)/sec以上のものが好ましい。
【0019】
グリース組成物全体に占める基油(混合油の場合は合計)の含有量としては、例えば、5?40重量%とすることができ、10?40重量%とするのが好ましいが、これらに限定されるわけではない。」
(ウ)「【0023】
[防錆剤・金属不活性化剤]
防錆剤として、例えば以下の化合物を使用することができる。即ち、有機スルホン酸のアンモニウム塩、バリウム、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等アルカリ金属、アルカリ土類金属の有機スルホン酸塩、有機カルボン酸塩、フェネート、ホスホネート、アルキルもしくはアルケニルこはく酸エステル等のアルキル、アルケニルこはく酸誘導体、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル、オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類、1-メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類あるいはその金属塩、ステアリン酸等の高級脂肪酸類、イソステアリルアルコール等の高級アルコール類、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール等のチアゾール類、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール、ベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、あるいは、2,5-ビス(ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール等のジスルフィド系化合物、あるいは、トリスノニルフェニルフォスファイト等のリン酸エステル類、ジラウリルチオプロピオネート等のチオカルボン酸エステル系化合物等を使用することができる。また、金属表面を不動態化させる、亜硝酸塩、硝酸塩、クロム酸塩、リン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等の腐食抑制剤も使用することができる。金属不活性化剤として、例えばベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール等のトリアゾール系化合物を使用することができる。」
(エ)「【実施例】
【0031】
実施例1?実施例6および比較例1?比較例4
鉱油中で、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアナート(1モル)、オクチルアミン(2モル)を反応させ、生成したジウレア系化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合となるように基油と添加剤を加え、三段ロールミルにて混練し、JISK2220混和ちょう度グレードNO.2に調整した。
得られたグリースについて低温時(-15℃)の摩擦係数を測定するため、以下に示すSRV摩擦摩耗試験を行なった。結果を表1に併記する。
【0032】
[SRV摩擦摩耗試験]
テストピース: ボール 直径 10mm(SUJ2)
円筒プレート 直径 24mm×7.85mm(S53C)
評価条件: 点接触面圧 2GPa
周波数 15Hz
振幅 0.8mm
時間 30min.
試験温度 -15℃
測定項目: 摩擦係数(測定時間内で一定となった値)の平均値
【0033】
【表1】


エ 引用文献4
引用文献4には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
一般式
(a)R_(1)NHCONHR_(2)NHCONHR_(1)
(b)R_(3)NHCONHR_(2)NHCONHR_(3)
(c)R_(1)NHCONHR_(2)NHCONHR_(3)
(式中、R_(2)はジフェニルメタン基、R_(1)は炭素数6?10の飽和アルキル基、
R_(3)は炭素数14?20の飽和もしくは不飽和のアルキル基で、その成分の内不飽和成分を20モル%以上含むアルキル基である。)
で表わされる化合物で、
(1)(a)化合物を、(a)化合物+(b)化合物に対して80?20モル%を含有する(a)化合物と(b)化合物とからなる混合物、
(2)(1)の混合物に(c)化合物を混合した混合物、または
(3)(c)化合物のみ、
の何れかを鉱油または合成油もしくはそれらの混合油に対して2?30重量%含有せしめたことを特徴とするウレアグリース組成物。
・・・
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載のウレアグリース組成物からなることを特徴とする軸受用潤滑剤。
【請求項6】
請求項1?4のいずれかに記載のウレアグリース組成物からなることを特徴とする相対運動を行う機械の摺動面用の潤滑剤。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
一般的にウレアグリースは、リチウム石けんを増ちょう剤とする汎用リチウム石けん系グリースよりも滴点が高く、熱安定性に優れることから耐熱グリースとして知られてきた。最近では、ウレアグリースは各種金属石けんや無機物を増ちょう剤としたグリースよりも耐摩耗性や潤滑性に優れることが明らかになってきた。この理由は、ウレアグリースの場合には、潤滑摺動面にウレア皮膜および酸化皮膜を形成することにより優れた耐摩耗性を示すものと考えられている。
ウレアグリースは、自動車の等速ジョイント、ボールジョイント、ホイールベアリング、オルタネーターや冷却ファン等の各種軸受、工作機械のボールねじやリニアガイド、建設機械の各種摺動部、および鉄鋼設備やその他諸工業機械設備における軸受、歯車などのあらゆるグリース潤滑箇所に好適に用いられるグリースとして急速に成長してきた。特に、小型軽量化および使用条件の苛酷化などにより耐久性や摺動部の摩擦摩耗の低減が強く要求されている自動車のCVJ(等速ジョイント)を始めとした各種自動車部品、および耐熱性、耐摩耗性ならびに潤滑性に優れたグリースが必要とされている鉄鋼設備の用途では、その使用量が着実に増加してきた。」
オ 引用文献5の記載事項
引用文献5には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
基油、ウレア系増ちょう剤、及び添加剤を含むグリース組成物において、
該基油が、合成油であること、
前記基油が、エステル系合成油、合成炭化水素油、エーテル系合成油又はこれらの混合物であり、
該添加剤が、過塩基性Caスルホネート、過塩基性Naスルホネート、過塩基性Baスルホネート、過塩基性Liスルホネート及び過塩基性Pbスルホネートからなる群から選ばれる過塩基性金属スルホネートを含有すること、
該過塩基性金属スルホネートの含有量が、グリース組成物の全量に対して、0.05-0.40質量%であることを特徴とするグリース組成物。
・・・
【請求項3】
前記基油が、合成炭化水素油、エーテル系合成油又はこれらの混合物である請求項1記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記ウレア系増ちょう剤が、下記式(1)で表される請求項1?3のいずれか1項記載のグリース組成物。
R^(1)NH-CO-NH-R^(3)-NH-CO-NHR^(2) (1)
(式中、R^(1)及びR^(2)は同一もしくは異なる、炭素原子数6?30のアルキル基、炭素原子数6又は7のアリール基もしくはシクロヘキシル基である。R^(3)は、-C_(6)H_(4)-CH_(2)-C_(6)H_(4)-、-C_(6)H_(4)-、-C_(6)H_(3)(CH_(3))-を示す。)」
(イ)「【発明の効果】
【0006】
本発明は、ジウレア化合物を増ちょう剤とするグリースに極少量の特定の過塩基性金属スルホネートを添加することにより、長期間の高温、高速等の厳しい条件においても、生成した酸化劣化物を補足し、グリースの硬化を抑え、潤滑部へグリースを流入し続けることができ、グリースの寿命を顕著に延長することが出来る。」
カ 引用文献6の記載事項
引用文献6には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
基油及び増ちょう剤を含み、腐食防止剤をグリース全量に対して0.5?10質量%含有することを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記腐食防止剤が、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体であることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。」
(イ)「【0009】
腐食防止剤は、金属表面に防食皮膜を形成して腐食を防止する。そのため、転がり軸受にあってはその内外輪及び転動体の表面がこの防食皮膜で保護されて金属新生面の発生が抑えられ、その結果、グリースの分解による水素の発生も抑えられて白色組織剥離の発生を防止する。
【0010】
また、腐食防止剤は、グリースの酸化を防止し、酸化性物質の破壊、腐食性酸化生成物の抑制等の作用がある。グリースは酸化劣化することにより潤滑剤の分解が促進され、低分子物質が生成する。特に自動車の電装部品やエンジン補機等では、軸受は高温、高荷重下で使用されるため、低分子物質の生成が促進され、更にはより低分子のものへと分解が進み、それに伴い水素が発生する可能性が高くなる。腐食防止剤により、このようなグリースの酸化劣化も同時に防止されるため、より使用条件が過酷になるほど、従来に比べて白色組織剥離の抑制効果がより顕著に表れてくる。」
(ウ)「【0019】
[腐食防止剤]
腐食防止剤は、金属表面に防食皮膜を形成させるものであれば全て使用することができるが、中でも窒素化合物、硫黄及び窒素を含む化合物等が好ましい。窒素化合物としてはN-C-N結合を持つ化合物が好ましく、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、イミダゾリン、ピリミジン等が挙げられる。硫黄及び窒素を含む化合物としてはN-C-S結合を持つ化合物が好ましく、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカルバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール等が挙げられる。その他にも、防食防止剤としてβ-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル、プロピオン酸、ジアルキルジチオリン酸塩等が使用できる。これらの中でも、ベンソトリアゾール及びベンソトリアゾール誘導体が、一般的な軸受材料である軸受鋼やSCr420等の肌焼き鋼等の表面に防食皮膜を形成しやすいことから好ましい。
【0020】
これら防食防止剤は単独で、もしくは複数種を組み合わせて使用することができ、グリース組成物全量に対して0.5?10質量%、好ましくは0.5?5質量%添加される。この添加量が0.5質量%未満では十分な防食皮膜を形成できず、10質量%を超える場合は増分に見合う防食効果が得られないばかりか、焼付きが起こりやすくなる。」
キ 引用文献7の記載事項
引用文献7には、次の記載がある。
「【0033】
・・・
特に好ましいトリアゾール環を有する化合物はChibaからIRGAMET 39の商標の下販売されている、1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾールである。
・・・」
ク 引用文献8の記載事項
引用文献8には、次の記載がある。
(ア)「【0021】
本発明の油圧作動油組成物に用いられる基油または基油部分は、JIS K 2256「アニリン点試験方法」において110℃?130℃であることが好ましく、120℃?130℃であることがさらに好ましい。アニリン点を110℃以上とすることで、高粘度指数、低密度となりやすい傾向にあるため好ましい。またアニリン点を130℃以下とすることで、添加剤の溶解性を確保しやすい傾向にあるため好ましい。また、シール材料適合性を確保する観点からも、アニリン点を適切な範囲にする必要があり、この観点からも110℃?130℃であることが好ましい。」
(イ)「【0053】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、インダゾール及びその誘導体、ベンズイミダゾール及びその誘導体、インドール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体、等が用いられ、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体が好ましく用いられる。・・・」
ケ 引用文献9の記載事項
引用文献には、次の記載がある。
「【0019】
アニリン点は、試験方法ASTM D 611-01aによって決定されるように、等体積のアニリンが、指定された量の石油生成物中に溶解する最低温度であり、したがって、炭化水素の溶媒力の経験的尺度である。一般に、炭化水素のアニリン点が低くなるほど、炭化水素の溶解力は高くなる。パラフィン系炭化水素は、芳香族炭化水素よりも高いアニリン点を有する。異なるタイプの潤滑基油に関するいくつかの典型的なアニリン点は:ポリα-オレフィン(APIグループIV->115℃、APIグループIII->115℃、APIグループII->102℃、APIグループI-80から125℃である。」
(3)引用文献1を主引用例とした場合の検討
ア 引用発明1の認定
前記(2)ア(オ)に摘記した引用文献1のグリースAのうち、前記(2)ア(ク)に摘記した図2において、横軸の「アルキル基のモル数/(アルキル基のモル数+シクロヘキシル基のモル数)の比」が0.5と読み取れる例について検討すると、次のとおりの発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていることがわかる。
「合成炭化水素油(PAO)を基油とし、同モルのシクロヘキシルアミンとステアリルアミンとの混合物をジフェニルメタンジイソシアネートと反応させたウレア化合物を増ちょう剤とする転がり軸受用グリース。」
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)相違点1
本件発明1と引用発明1とは、少なくとも次の点で相違する(以下「相違点1」という)。
本件発明1においては、基油が「鉱油と合成炭化水素油との混合油であり、鉱油と合成炭化水素油との質量比が、鉱油/合成炭化水素油=50/50?99/1」であって、「アニリン点が、110℃以上」と特定されており、また、金属不活性化剤の含有率が、「組成物の全質量を基準として、0.3?5質量%である」のに対して、引用発明1においては、基油が「合成炭化水素油(PAO)」単独であって、金属不活性化剤が含有されていない点。
(イ)相違点1についての検討
a 前記(2)ウ(エ)に摘記した引用文献3の実施例3には、基油として、鉱油78部と合成炭化水素油10部との混合油を用いる点が記載されているものの、引用発明1の基油をその構成に置き換える動機があるといえないから、本件発明1の基油の質量比として、「鉱油/合成炭化水素油=50/50?99/1」を選択すること自体が、当業者が容易になし得ることということはできない。
b さらに、引用発明1においては、基油が合成炭化水素油(PAO)が単独で用いられており、この合成炭化水素油(PAO)は、前記(2)ケに摘記した引用文献9の記載におけるAPIグループIVに属するものであり、その典型的なアニリン点は、115℃を超えるところ、既にアニリン点が110℃以上であるにもかかわらず、わざわざ、合成炭化水素油に鉱油をブレンドすることに動機付けがあると認めるに足りる証拠はない。
c 引用文献1等には、グリースに金属不活性化剤を添加することは示唆されているものの、「組成物の全質量を基準として、0.3?5質量%」の量で添加することは、記載されていない。
d 作用効果について
前記a?cにおける相違点により、本件発明1は、「高温領域における音響寿命を改善する」という格別の効果を奏するものと認められる。
(ウ)以上から、本件発明1は、引用発明1及び引用文献1?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明6、7について
本件発明6、7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、引用発明1及び引用文献1?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
エ 小括
以上のように、本件発明1、6、7は、引用発明1及び引用文献1?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1、6、7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるということはできない。
(4)引用文献2を主引用例とした場合の検討
ア 引用発明2の認定
(ア)前記(2)イ(オ)?(カ)に摘記した実施例7に注目すると、「基油」が、ポリαオレフィン油とエチレンαオレフィンのオリゴマーとのブレンドであって、「増ちょう剤」として、ウレア系増ちょう剤であるジウレア化合物が用いられており、同(オ)に「その他の添加剤」の項に記載のように、金属不活性化剤として、Irgamet(商品名)39が0.05重量%添加された「ボールジョイント用グリース」が読み取れる。
(イ)引用文献2に記載の「ジウレア化合物」は、前記(2)ウに摘記した「式(2)」において、2つのウレア結合(-NHCONH-)を有するところ、式(2)のA及びBの両方が、-NHR^(4)であり、R^(4)が、「炭素数6?20の炭化水素残基」である場合を含むものである。
(ウ)前記(2)キに摘記した引用文献7の記載のとおり、「Irgamet(商品名)39」は、1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾールであると認められる。
(エ)前記(ア)から(ウ)から、引用文献2及び技術常識を踏まえ、次の発明(以下「引用発明2」という。)が認定できる。
「ポリαオレフィン油とエチレンαオレフィンのオリゴマーとのブレンドを基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、金属不活性剤として、1-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾールを0.05重量%添加したボールジョイント用グリース」
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)相違点
本件発明1と引用発明2とを対比すると、両者は少なくとも次の2点(以下「相違点2-1」及び「相違点2-2」という。)で相違するといえる。
a 相違点2-1
本件発明1においては、基油が「鉱油と合成炭化水素油との混合油であり、鉱油と合成炭化水素油との質量比が、鉱油/合成炭化水素油=50/50?99/1」であり、「アニリン点が、110℃以上」と特定されており、また、金属不活性化剤の含有率が、「組成物の全質量を基準として、0.3?5質量%である」のに対して、引用発明2においては、基油が「ポリαオレフィン油とエチレンαオレフィンのオリゴマーとのブレンド」であって、そのアニリン点が明らかでなく、また、金属不活性化剤の含有量が「0.05重量%」である点。
b 相違点2-2
本件発明1は、軸受用グリースであるのに対し、引用発明2は、ボールジョイント用グリースである点。
(イ)相違点2-1についての検討
a 前記(2)ウ(エ)に摘記した引用文献3の実施例3には、基油として、鉱油78部と合成炭化水素油10部との混合油を用いる点が記載されているものの、引用発明2において、その基油を選択する動機があるといえず、本件発明1のように基油の質量比として、「鉱油/合成炭化水素油=50/50?99/1」を選択し、かつ、アニリン点を110℃以上とすること自体が、当業者が容易になし得ることということはできない。
b また、引用発明2における金属不活性化剤の含有量を0.05%から、本件発明1のように「0.3?5質量%」に変更することにも動機付けがあるということはできない。
c 作用効果について
上記相違点により、本件発明1は、「高温領域における音響寿命を改善する」という格別の効果を奏するものと認められる。
(ウ)以上から、本件発明1は、引用発明2及び引用文献1?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明6、7について
本件発明6、7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、引用発明2及び引用文献1?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
エ 小括
以上のように、本件発明1、6、7は、引用発明2及び引用文献1?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1、6、7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるということはできない。
(5)特許法第29条第2項についての小括
前記(3)、(4)において検討したとおり、本件発明は、引用発明1及び引用発明2のいずれからも当業者が容易に発明することができた発明ではないから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明といえず、本件発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当するとはいえないから、取り消すことはできない。
3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)取消理由の概要
本件明細書の段落【0010】に記載された「ころがり軸受の高温領域での音響寿命を改善する」という課題が解決できることが実証されているのは、本件発明のうち、金属不活性化剤として(a)1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール、(d)2,5ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、(e)2-メルカプトベンゾイミダゾールを用いた場合に限られているから、金属不活性化剤として(b)チアジアゾール、(c)2-メルカプトチアジアゾール、(f)2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾールを用いた場合に、上記課題が解決できるということはできない。
(2)特許権者の主張
ア 化学構造について
前記(b)、(c)、(f)は、いずれも窒素を有する5員環構造を有している点で、前記(a)、(d)、(e)と共通する化学構造を有しているものであり、その窒素が金属に結合することから、前記(a)、(d)、(e)と同様に金属不活性化剤として機能するものである。
イ 技術常識について
(ア)前記(2)ク(イ)に摘記したように、引用文献8の段落【0053】には、「金属不活性化剤としては、・・・チアジアゾール及びその誘導体が好ましく用いられる。」と記載されている。
(イ)前記(2)ア(エ)に摘記したように、引用文献1の段落【0032】には、「防錆剤として、・・・2-メルカプトチアジアゾール、・・・2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール・・・」と記載されている。
(ウ)前記(ア)、(イ)の記載を踏まえると、前記(b)、(c)、(f)を用いた場合であっても、金属表面に結合することで本件明細書に記載された課題を解決できることが理解できる。
(3)申立人の主張
申立人は、意見書において次のように主張する。
ア 本件明細書には、その段落【0038】に、「このような金属不活性化剤の音響寿命の改善作用は、これまで知られておらず」と記載されているように、課題が新規であるというのであるから、前記(a)、(d)、(e)に替えて、前記(b)、(c)、(f)を用いた際に課題が解決できるということはできない。
イ 金属不活性化剤により、金属表面に皮膜が形成されるとしても、本件明細書の段落【0038】に記載されているように「ウレア系増ちょう剤の分散状態を維持」できることも、本件課題解決のために必要であるから、この観点でも、前記(a)、(d)、(e)に替えて、前記(b)、(c)、(f)を用いた際に課題が解決できるということはできない。
ウ 本件発明においては、基油のアニリン点を110℃以上と特定しているが、そのような基油に対する溶解性が、前記(a)、(d)、(e)と比べて、前記(b)、(c)、(f)においても同等であるという技術常識も存在しない。
(4)当審の判断
ア 本願出願時の技術常識の認定
前記(2)イに記載したように、引用文献1の段落【0032】には、「防錆剤として、・・・2-メルカプトチアジアゾール、・・・2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール・・・」と記載され、引用文献8の段落【0053】には、「金属不活性化剤としては、・・・チアジアゾール及びその誘導体が好ましく用いられる。」と記載されている。
そして、引用文献1及び引用文献8はいずれも、グリース組成物に添加される添加剤に関するものであるから、前記(b)、(c)、(f)が、グリース組成物に添加される防錆剤ないし金属不活性化剤として周知のものであったといえる。
イ 検討
(ア)化学構造について
前記(b)、(c)は、窒素原子2、硫黄原子1、炭素原子2を有する5員環構造を有する点で前記(d)と化学構造が共通し、また、前記(f)は、ベンゾイミダゾール環構造を有する点で前記(e)と化学構造が共通するものである。
(イ)そうすると、前記アで検討したように、前記(b)、(c)、(f)は、金属不活性化剤・防錆剤として周知であって、前記(a)、(d)、(e)と化学構造が類似しているのであるから、課題が解決することができることが実証されている前記(a)、(d)、(e)と同様の金属不活性化剤として機能すると推認するのが合理的である。
(ウ)申立人は、前記(b)、(c)、(f)が金属不活性化剤・防錆剤として周知であっても、本件発明における新規な課題を解決することが実証されていないと主張するが、前記のとおり、化学構造の類似性からみて、前記(b)、(c)、(f)を採用した場合においても、前記(a)、(d)、(e)を採用した場合と同様の作用効果が奏されると推認できることは、前記(イ)で述べたとおりであり、その推認を妨げる証拠は見当たらない。
(エ)また、申立人は、ウレア系増ちょう剤の分散状態を維持できるかどうか、及び、基油への溶解性についても実証されていない旨主張するが、前記(b)、(c)、(f)を採用した場合においても、前記(a)、(d)、(e)を採用した場合と同様の作用効果が奏されると推認でき、その推認を妨げる証拠も見当たらないことは前述のとおりである。
ウ 小括
以上のとおり、本件特許に係る特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たさないということはできないから、本件特許は、特許法第113条第4号に該当するといえず、この取消理由により本件特許を取り消すことはできない。

第5 取消理由に採用しなかった異議申立理由
1 申立人は、特許異議申立書において、金属不活性化剤である「(d)2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール」における「アルキル」が不明確であると主張する。
しかしながら、アルキル基とは、-C_(n)H_(2n+1)の基であることは技術常識であって、しかも、金属不活性化剤として使用し得る程度にその外延は定まっており、そのnが明らかでなくとも、第三者に不測の不利益をもたらすほど不明確とはいえない。
2 したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たすものであるから、特許法第113条第4号に該当せず、この異議申立理由により本件特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1、6、7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により請求項2-5は削除され、当該請求項2-5に係る特許についての特許異議の申立ては、対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油とウレア系増ちょう剤と金属不活性化剤とを含有する、転がり軸受用グリース組成物であって、
前記基油が、鉱油と合成炭化水素油との混合油であり、鉱油と合成炭化水素油との質量比が、鉱油/合成炭化水素油=50/50?99/1であり、前記基油のアニリン点が、110℃以上であり、
前記ウレア系増ちょう剤が、下記式(3):
R^(4)-NHCONH-R^(2)-NHCONH-R^(5) (3)
(式中、R^(2)は、炭素数6?15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R^(4)は、C_(10-26)アルキル基を示し、R^(5)は、C_(5-7)シクロアルキル基を示し、R^(4)とR^(5)の総モル数に対するR^(4)のモル数の割合[100×(R^(4)のモル数)/(R^(4)のモル数+R^(5)のモル数)]が、50?90モル%である)
で表されるジウレア化合物から選択される少なくとも一種であり、
前記金属不活性化剤が、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール、チアジアゾール、2-メルカプトチアジアゾール、2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、その含有量が、組成物の全質量を基準として、0.3?5質量%である、前記転がり軸受用グリース組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記基油の40℃における動粘度が15?200mm^(2)/sである、請求項1記載の転がり軸受用グリース組成物。
【請求項7】
請求項1又は6記載の転がり軸受用グリース組成物が封入された、転がり軸受。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-09 
出願番号 特願2014-215463(P2014-215463)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C10M)
P 1 651・ 121- YAA (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一宮地 慧  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 門前 浩一
川端 修
登録日 2019-02-15 
登録番号 特許第6476738号(P6476738)
権利者 協同油脂株式会社
発明の名称 転がり軸受用グリース組成物及び転がり軸受  
代理人 須田 洋之  
代理人 服部 博信  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 市川 さつき  
代理人 須田 洋之  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 松田 七重  
代理人 山崎 一夫  
代理人 松田 七重  

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