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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04H
管理番号 1364886
異議申立番号 異議2019-700657  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-21 
確定日 2020-06-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6494054号発明「免震構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6494054号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6494054号の請求項1?5に係る特許を維持する。 特許第6494054号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6494054号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成29年12月7日に出願され、平成31年3月15日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月3日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての手続の経緯は、次のとおりである。
令和1年 8月21日 :特許異議申立人出川栄一郎(以下、「申立人
」という。)による請求項1?6に係る特許
に対する特許異議の申立て
令和1年11月28日付け:取消理由通知
(令和1年12月 4日発送)
令和2年 1月31日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者、
以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本 件訂正請求」という。)
令和2年 3月13日 :意見書の提出(特許異議申立人)

第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所を示す。以下、同様。)

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、
前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、
前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられているか、または、
前記対向壁の表面に、前記側壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記側壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離または前記対向壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記側壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さいことを特徴とする免震構造。」
と記載されているのを、
「上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、
前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、
前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さく、
前記衝撃吸収部材は、前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少していることを特徴とする免震構造。」に訂正する。
請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2ないし5も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

ウ 訂正事項3
明細書段落【0011】に、
「本発明の免震構造は、上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられているか、または、前記対向壁の表面に、前記側壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記側壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離または前記対向壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記側壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さいことを特徴とする。」
と記載されているのを、
「本発明の免震構造は、上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さく、前記衝撃吸収部材は、前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少していることを特徴とする。」
に訂正する。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の拡張または変更、新規事項の追加について
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられているか、または、
前記対向壁の表面に、前記側壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記側壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離または前記対向壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記側壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さい」として衝撃吸収部材が側壁及び対向壁に設置される場合について択一的な記載がされていたものを、訂正後の請求項1においては、衝撃吸収部材が対向壁に設置されるものを削除して、「前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さく」とし、さらに衝撃吸収部材を「前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」構成のものに限定する訂正であるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正である。

(イ)特許請求の範囲の拡張または変更について
訂正事項1は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)新規事項の追加について
本件明細書の段落【0048】?【0053】には、第三実施形態として断面積が変化する例について説示しており、段落【0049】には、「本実施形態において説明する衝撃吸収部材40は、側壁12から対向壁22に向かって、断面積が連続的または断続的に減少している。・・・」と記載されている。
よって、訂正事項1は、明細書に記載された事項の範囲内でしたものと認められ、新規事項の追加に該当しない。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項6の記載を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

ウ 訂正事項3
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、明細書の段落【0011】の記載と訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)特許請求の範囲の拡張または変更について
訂正事項3に係る訂正は、上記(ア)のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)新規事項の追加について
訂正事項3に係る訂正は、上記(ア)のとおり、明細書の記載と訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であり、訂正後の請求項1は、上記ア(ウ)のとおり、明細書に記載された事項の範囲内でしたものであるから、訂正事項3に係る訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1?6について、訂正前の請求項2?6は訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?6に対応する訂正後の請求項1?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1?6〕について請求されたものである。
よって、訂正事項1?3の訂正は、一群の請求項〔1?6〕に対して請求されたものである。

(3)独立特許要件について
本件においては、訂正前の請求項1?6について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1の訂正は、いずれも特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正事項1により特許請求の範囲の限定的減縮が行われていても、訂正後の請求項1?6に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、
前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、
前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さく、
前記衝撃吸収部材は、前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少していることを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記発泡樹脂体がポリプロピレン系樹脂発泡体またはポリエチレン系樹脂発泡体である請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材の中間部において、前記側壁に対し略平行な方向に延在する荷重分散板が配置されている請求項1または2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記上部構造の角部の頂点近傍または頂点を覆う箇所に前記衝撃吸収部材が配置されている請求項1から3のいずれか一項に記載の免震構造。
【請求項5】
前記側壁の前記衝撃吸収部材が配置された第一領域、または前記対向壁の前記衝撃吸収部材に対向する第二領域の少なくともいずれか一方に金属補強手段が設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の免震構造。
【請求項6】
(削除)」

第4 申立人により提出された証拠、参考資料及びそれらの記載内容について
1 証拠、参考資料一覧
申立人が特許異議申立書とともに提出した証拠及び令和2年3月13日付けの意見書とともに提出した参考資料は、以下の通りである。
甲第1号証:特開2017-82433号公報
甲第2号証:特開2016-199910号公報
甲第3号証:特開2017-48546号公報
甲第4号証:特開2016-180292号公報
甲第5号証:特開2007-70857号公報
参考資料1:特開2014-77229号公報
参考資料2:特開2001-207682号公報

2 証拠及び参考資料の記載内容
(1)甲第1号証:特開2017-82433号公報
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に出願公開がされた甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

ア 「【0009】
図1は、設計しようとする免震構造物1の概略図である。図1に示すように、下部構造物である基礎2が地盤に設けられ、基礎2の周縁部に擁壁(離間物)4が立設されている。基礎2上には複数の免震基礎(下部免震基礎)5が凸状に設けられ、免震装置6が免震基礎5上にそれぞれ設置されている。図1に示す建物7は、複数階の上部構造物である。建物7の各柱の下端部には柱脚部(上部免震基礎)8が設けられ、各柱脚部8が免震装置6上に搭載された状態で免震装置6に連結され、免震装置6によって建物7が水平方向に移動可能に支持されている。これら柱脚部8は擁壁4の内側に配置され、柱脚部8の高さ方向の大部分が擁壁4の上端よりも下に位置している。そして、建物7の周縁部に配置された柱脚部8と擁壁4との間に隙間9が設けられている。その隙間9の幅、つまり柱脚部8から擁壁4までの水平距離をL[mm]とすると、L[mm]の具体的な値は例えば500?700[mm]である。」

イ 「【0011】
図2?図5は、図1に示すα部を拡大して示すものである。図2?図5に示すように、免震構造物1には4つの仕様がある。
図2に示すように、第1仕様の免震構造物1では、擁壁4と柱脚部8との間が単なる空間とされており、擁壁4と柱脚部8との間には障害物等が設けられていない。
図3及び図4に示すように、第2及び第3仕様では、周辺部に配置された柱脚部8の近傍において、緩衝材10が擁壁4に設けられている。
第2仕様と第3仕様の相違について説明する。図3に示すように、第2仕様の免震構造物1では、その擁壁4の内側の一部分が緩衝材10となっており、緩衝材10から柱脚部8までの水平距離が柱脚部8から擁壁4までの水平距離Lに等しい。つまり、緩衝材10が擁壁4の内面4aにおいて露出するようにして擁壁4に埋設され、その緩衝材10の表面10aと擁壁4の内面4aが面一となっている。一方、図4に示すように、第3仕様の免震構造物1では、緩衝材10が擁壁4の内面4aに張り付けられるようにして設置され、緩衝材10の表面10aと擁壁4の内面4aとの間に段差が形成されており、緩衝材10から柱脚部8までの距離が柱脚部8から擁壁4までの水平距離Lよりも小さい。
図5に示すように、第4仕様の免震構造物1では、周辺部に配置された柱脚部8の側面に緩衝材10が取り付けられており、緩衝材10から擁壁4までの距離が柱脚部8から擁壁4までの水平距離Lよりも小さい。
【0012】
緩衝材10は、例えば樹脂製(例えばポリプロピレン製)のハニカム構造板やゴム製の防舷材である。このような緩衝材10が設けられることで、大地震或いは巨大地震の発生時に柱脚部8が緩衝材10に衝突したときに、緩衝材10が塑性的に圧縮されることによって建物7の振動エネルギーが吸収され、柱脚部8や擁壁4の破損を防止できる。また、柱脚部8と緩衝材10の衝突によって建物7の振幅を小さく抑えることができ、免震装置6の過大な変形を防止できる。なお、緩衝材10は、柱脚部8との衝突によって建物7の振動エネルギーを吸収するものであれば、ハニカム構造板に限るものではない。」


ウ 図5






エ 上記ア?ウを踏まえると、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

甲1発明
「下部構造物である基礎2が地盤に設けられ、基礎2の周縁部に擁壁4が立設され、
基礎2上には複数の免震基礎5が凸状に設けられ、免震装置6が免震基礎5上にそれぞれ設置され、
上部構造物である建物7の各柱の下端部には柱脚部8が設けられ、
各柱脚部8が免震装置6上に搭載された状態で免震装置6に連結され、
免震装置6によって建物7が水平方向に移動可能に支持されており、
柱脚部8は擁壁4の内側に配置され、柱脚部8の高さ方向の大部分が擁壁4の上端よりも下に位置し、建物7の周縁部に配置された柱脚部8と擁壁4との間に隙間9が設けられており、
第4仕様の免震構造物1では、周縁部に配置された柱脚部8の側面に緩衝材10が取り付けられ、緩衝材10から擁壁4までの距離が柱脚部8から擁壁4までの水平距離Lよりも小さくされており、
緩衝材10は、例えば樹脂製(例えばポリプロピレン製)のハニカム構造板やゴム製の防舷材であって、大地震或いは巨大地震の発生時に柱脚部8が緩衝材10に衝突したときに、緩衝材10が塑性的に圧縮されることによって建物7の振動エネルギーが吸収され、柱脚部8や擁壁4の破損を防止できるものである、免震構造物1の免震構造。」

(2)甲第2号証:特開2016-199910号公報
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に出願公開がされた甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0017】
(第1の実施形態)
図1および図2は、本発明に係る免震構造の第1の実施形態を示すもので、基礎1と建物2との間に免震装置3が介装されることにより免震層4が形成された免震建物の周囲に、擁壁5が構築されている。
【0018】
ここで、免震装置3は、その上下フランジ3a、3bが各々基礎1上および建物2の柱6の下部に一体に構築された台座7、8に取り付けられている。そして、図2に示す平面視において、台座8が建物2の梁9から外方に突出して形成されており、この台座(外周部)8と擁壁5との間に、レベル2以下の地震動に対して建物2が水平変位しても台座8が擁壁5に衝突しない間隔の免震クリアランスCが形成されている。
【0019】
そしてさらに、擁壁5の台座8と対向する部分には、当該擁壁5が取り除かれた凹部10が形成されている。この凹部10は、鉛直方向および水平方向に台座8よりも高さ寸法および水平方向の寸法が大きく形成されており、その内壁面には土圧を支持するための鋼板等からなる補強板11がアンカー12によって擁壁5に固定されている。
【0020】
そして、この凹部10内に減衰材13が貼り付けられている。この減衰材13は、巨大地震時に建物2が大きく水平変位して台座8が擁壁5に衝突した際にそのエネルギーを吸収可能な材料、例えば減衰ゴム、防舷材、発泡スチロール等によって方形板状に形成されたもので、その外表面が擁壁5の表面と略同一平面上に位置する厚さ寸法に形成されている。」

イ 「【0026】
(第3の実施形態)図5は、本発明の第3の実施形態を示すもので、この免震構造は、擁壁5と対向する建物2の台座8に凹部17を形成し、この凹部17内に第1の実施形態に示したものと同様の減衰材13を設けたものである。」

ウ 上記ア、イに摘記した記載を踏まえると、甲第2号証には以下の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されていると認められる。

甲2技術事項
「免震構造において、
基礎1と建物2との間に免震装置3が介装されることにより免震層4が形成された免震建物の周囲に、擁壁5が構築され、
台座8が建物2の梁9から外方に突出して形成され、
この台座(外周部)8と擁壁5との間に、建物2が水平変位しても台座8が擁壁5に衝突しない間隔の免震クリアランスCが形成され、
この台座8の擁壁5と対向する部分に形成された凹部17内に方形板状に形成された減衰材13が貼り付けられ、
この減衰材13を、巨大地震時に建物2が大きく水平変位して台座8が擁壁5に衝突した際にそのエネルギーを吸収可能な材料、例えば発泡スチロールによって形成した点。」

(3)甲第3号証:特開2017-48546号公報
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に出願公開がされた甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0003】
一方、従来、建造物の基礎に用いられる免震構造としては種々のものがある。
例えば、住宅を構築する地盤を、住宅の外周形状よりやや大きく凹状に掘削して、外周に周壁を有する凹部を形成し、且つ該凹部の底盤面に平滑性を持たせる一方、強度性と柔軟性を有する天然ゴム、合成ゴムあるいは合成樹脂により形成され、上・下面シートの外周を周壁板で一体に接合して中空部を設け、且つ該中空部内に前記上・下面シートよりは小巾で、且つ摩擦係数が小さい合成樹脂板より成る中間板を装入すると共に、前記中空部内に潤滑性を有する液状・クリーム状・粉状あるいはゼリー状の潤滑材を多少の空隙部を残して充填密封して形成された免震マットを前記凹部の底盤面上に載置し、且つ前記免震マット上に布基礎を設置して住宅を構築し、更に前記周壁と該周壁に対面する布基礎間の間隙部に巨大地震による衝撃力を受けると崩壊して見掛け上の容積を減少する崩壊性材料を充填したことを特徴とする一般用住宅の免震装置がある(特許文献1参照)。」

イ 「【0011】
本実施形態の免震構造1は、建造物2を構築する地盤3を掘削し、その掘削された部分に配置するもので、複数枚積層された板状の免震部材10(10a、10b、10c)を含む。本実施形態では、免震部材10を3枚積層するが、3枚に限定されるわけではなく、それ以上でも、それ以下であっても良い。
【0012】
図2に示すように免震構造1は、鉛直方向の下から、割り栗石11と、捨コン12と、免震部材10(10a、10b、10c)と、基礎部材14とを備える。捨コン12は、免震部材10を敷設するための水平レベルを出すための流動性の固化剤である。
・・・(中略)・・・
【0014】
割り栗石11と捨コン12と免震部材10の上の、基礎部材14が配置されていない部分、すなわち基礎部材14の外周には、30倍発泡ポリエチレンの緩衝材13が配置されている。
また、免震構造1は、基礎部材14の中を通って免震部材10まで延びるパイプ5を備える。基礎部材14の外部よりパイプ5にグリースを注入すると、グリースはパイプ5を通って、積層された免震部材10a、10b、10cの間に供給される。グリースは、例えばリチウム石鹸グリース(静摩擦抵抗をμ=0.01)である。このグリースによって、隣接する免震部材10a、10b、10cは互いに対して水平方向に相対移動しやすくなる。」

ウ 「【0042】
免震部材10は基礎下全面に敷設されているので、建造物2の荷重が掛かった場合にヘルツ接触応力が小さくなる。したがって、免震部材10は変形しにくく、耐久性が向上する。
免震部材10と地盤3の間には変位を吸収するために30倍発泡ポリエチレンの緩衝材13が配置されているので、緩衝材36で地震動や交通振動の変位を吸収することができる。」


エ 図2




上記イ段落【0011】の「本実施形態の免震構造1は、建造物2を構築する地盤3を掘削し、その掘削された部分に配置するもので」との記載を踏まえると、図2において免震構造1が設置されているのは地盤の掘削された部分であり、当該掘削された部分は、底盤面とそこから立ち上がる立ち上がり部を有することが看取される。また、図2からは、13の符号が付された部分が基礎部材14の外周から地盤3の立ち上がり部までの隙間の全域にわたっていることが看取されるから、上記ウ段落【0042】「免震部材10と地盤3の間には変位を吸収するために30倍発泡ポリエチレンの緩衝材13が配置されている」との記載を踏まえると、図2には、「30倍発泡ポリエチレンの緩衝材13は、基礎部材14の外周から掘削された地盤3の立ち上がり部までの隙間の全域にわたって配置される」点が記載されていると認められる。

オ 上記アないしエを踏まえると、甲第3号証には以下の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されていると認められる。

甲3技術事項
「鉛直方向の下から、割り栗石11と、捨コン12と、免震部材10(10a、10b、10c)と、基礎部材14とを備える免震構造1において、割り栗石11と捨コン12と免震部材10の上の、基礎部材14が配置されていない部分、すなわち基礎部材14の外周から掘削された地盤3の立ち上がり部までの隙間の全域にわたって配置した緩衝材13を、30倍発泡ポリエチレンとして、変位を吸収するようにした点。」

(4)甲第4号証:特開2016-180292号公報
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に出願公開がされた甲第4号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0018】
本発明を図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。まず、図1?4に示した第1の実施の形態に係る免震建物構造について説明する。図1において、免震建物構造は、基本的に基礎構造1と上部構造2との間に免震装置3が配置され、基礎構造1は地盤4に打ち込んだ杭5の頭部にラップル基礎6を設けると共に、杭5の頭部周辺と地盤4の上面を覆うマットスラブ7が形成され、該マットスラブ7に連結させて基礎部分の外周を囲う立ち上がり壁8が設けられている。上部構造2は、建物の各柱9を支えるフーチング10がそれぞれ設けられると共に、該各フーチング10間をつなぐ大梁(地中梁)11が設けられ、該大梁11の上面にスラブ12が形成されている。そして、免震装置3は杭頭部のラップル基礎6とフーチング10との間に設置されている。また、前記立ち上がり壁8と免震建物の上部構造躯体2(図1ではフーチング10)との間にクリアランスAが形成されている。
【0019】
本発明に係る第1の発明においては、前記クリアランスAに変形制御装置13を設けた構成に特徴がある。即ち、変形制御装置13は、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15とからなるものであって、立ち上がり壁8に所要の箱抜き凹部16を設けて一方のエネルギー吸収部材14を配設し、他方の変形ストッパー部材15はエネルギー吸収部材14に対向させてフーチング10側に取り付けるのである。この場合に重要なことは、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15との間に所要の遊間距離aをもって設置することである。
【0020】
そして、図2に示したように、地震が発生した時に、基礎構造1からの地震エネルギーは免震装置3によって吸収され、揺れを上部構造2に伝わらないようにするが、免震装置3の限界(許容変形能力)を超えるような地震が生じた場合に、その限界を超える前に、変形制御装置13によって地震エネルギーを吸収し、揺れによる変形を制御するのである。つまり、設計通りの地震範囲内では、免震装置3によって地震エネルギーを充分吸収できるのであるが、それを超える地震が生じた時に、免震装置3の限界を超える前に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に当接し、エネルギー吸収部材14の弾性変形により地震エネルギーを吸収し、免震装置3の限界を超えないようにしているのである。地震後、免震装置3と共に変形制御装置13が元の状態に復元する。更に、設計上想定以上の巨大地震が生じた場合に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に押圧し、エネルギー吸収部材14が押し潰されることにより地震エネルギーを吸収し、免震装置3が過大変形および破損しないようにしているのである。なお、立ち上がり壁8を含めて外周部は蓋部材19によって全面的にカバーされている。
【0021】
変形制御装置13におけるエネルギー吸収部材14は、図3(a)に示したように、プレート17と弾性体または粘弾性体18とで2段以上の多段構造としたものであり、プレート17は金属であり、弾性体は、例えば、天然ゴム、合成ゴムや高減衰ゴム、または低反発弾性ゴム等から適宜選んで使用するものであり、また、粘弾性体としては、例えば、低反発材やシリコーン樹脂等から適宜選択して使用するものであって、特に限定されるものではない。各段の弾性体または粘弾性体は、全て同一材料とすることができる。また、弾性体と粘弾性体を両方使用することもできる。例えば、4段とする場合は、第1段目を粘弾性体とし、第2段目以後に弾性体とすることができる。
【0022】
さらに、各段の弾性体を異なる材料とし、弾性体のバネ係数を異なるように1段目をK1、2段目以降をそれぞれK2、K3、・・・Knとし、表面側から裏面側、即ち、取付部まで順に大きくし、その大きさの順は、下記の関係とすることが好ましい。
K2=α2・K1、
K3=α3・K2、・・・
Kn=αn・K(n-1)
K1、K2、K3、・・・・Kn :表面からの順に各段の弾性体のバネ係数
α2、α3、・・・αn:各段の割増し係数
1<α2、α3、・・・・αn<10
n:段数
【0023】
ようするに、各段の弾性体の硬さを変えて、表面から取付部までの順に弾性体の変形量を調整することによって、地震エネルギーを十分に吸収して地震力の衝撃を和らげることが好ましい。例えば、4段とする場合には、第1段に最も柔らかいもの、例えば、低反発弾性ゴムとし、先に変形してエネルギーを吸収して地震力の衝撃を和らげ、変形能力が殆ど尽してから第2段の柔らかい弾性ゴムが続けて変形して同様にエネルギーを吸収する、以後、第3段と第4段の順に硬くして変形し難くなり、図3(b)に示したように、最大変形時の各段の変形量がδ1>δ2>δ3>δ4となり、免震装置の過大変形を防ぐことができる。
なお、上記の各段の割増し係数α2、α3・・・αnは、免震装置の使用種類、配置方法や建物の規模、重量、地盤状況によって適切に設定することができる。例えば、4段とする場合は、α2:α3:α4=1:2:3とする場合もあるし、α2:α3:α4=2:2:2とする場合もある。さらに、α2:α3:α4=1:3:8とする可能性もある。なお、矢印Pは、地震揺れに基づき変形ストッパー部材15による押圧力を示すものである。
【0024】
遊間距離aは、予め免震装置3の許容変形能力(最大許容変形値)に合せて設定することができるものである。例えば、免震装置3における積層ゴム支承の許容最大変形角が45度であるとする場合は、遊間距離aを積層ゴム支承の変形角が35度?40度になった時の変形量に合せて設定することが望ましい。つまり、免震装置3の許容変形能力(最大許容変形値)の70%?80%に合せて所要の遊間距離aを設定することが好ましい。例えば、許容変形能力の70%に達した時点から、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に接触して変形制御し始め、表面の第1段目の弾性材とする弾性ゴム18が最も大きく変形してエネルギーを吸収しながら地震力の衝撃を和らげ、次の2段目から弾性ゴム18の変形量が順次に小さくなる。免震装置3の変形が大きくなってくると、次の各段の弾性体とも順次に変形が大きくなりエネルギーを吸収し免震装置3の変形を制御する。地震後、免震装置3と共に変形制御装置13が元の状態に復元する。設計上想定した以上の巨大地震が発生した場合には、免震装置3の最大許容変形値である変形角が45度になると、変形制御装置の変形も最大となり、免震装置3がそれ以上の変形しないように、免震装置3の代わりに弾性ゴム18を順次押し潰してエネルギー吸収をして変形を抑制する。つまり、免震装置本体は破損することなく、免震装置3が最大許容変形値以上の変形を抑制するように変形制御装置13で対応して免震建物全体の変位を制御する構造仕組みである。なお、巨大地震によって変形制御装置13が塑性変形して潰された場合には、地震後、変形制御装置13は簡単に取替できるため、免震建物構造を速やかに復元することができる。
【0025】
また、弾性体のバネ特性として、図4(a)(b)に示したように、線形バネまたは非線形バネのいずれかとすることができる。ようするに、弾性体を最も一般的な完全弾性ゴムとすることはいうまでもないである。その他には、降伏点荷重Qまで第1剛性として荷重が上がり、降伏点に達してから、荷重が上がらず変形のみ進行し、一定の変形を経て再び第2剛性として荷重が上がる。第1剛性に比べ第2剛性が高くなりゴムが硬くなる特性を持つ非線形弾性ゴムとすることによって、降伏までの第1剛性の段階では、主にエネルギー吸収段階として作用し、降伏後の第2剛性の段階では、主に変位制御段階として作用するのである。
【0026】
変形ストッパー部材15は、例えば、軽量かつ高強度の鉄骨製とすることが好ましいが、これに限ることなく、表面と裏面に鋼板を打込んだコンクリートブロックとしてもよい。その形状は、円形や正方形または多角形としてもよい。その表面の大きさは、エネルギー吸収部材14の表面より小さくし、免震建物の揺れによって上下にずれが生じても、確実にエネルギー吸収部材14の表面内に接することが確保されるのである。
【0027】
また、前記第1の実施の形態に係る他の実施例として、図5,6に示したように、クリアランスAに設置された変形制御装置13内に、例えば、外部から石ころや泥などの落下物、およびネズミなど小動物が入り込まないように、樹脂製の蛇腹状カバー20を取り付けて変形制御装置13を保護することが望ましい。このようにカバーを取り付けることにより、変形制御装置13がどのような場合でも常に正常に機能するようになる。
【0028】
次に、第2の実施の形態に係る免震建物構造について図7?図8について説明する。
この免震建物構造は、前記第1実施例の免震建物構造と、異なる点は、変形制御装置13の一部構造と取り付け位置とが異なるのみで、他の構成部分は実質的に同一であるので、同一符号を付してその詳細についての説明は重複するので省略する。
即ち、図7に示したように、外周を囲う立ち上がり壁8とフーチング10との間に形成されたクリアランスAに変形制御装置13が設置される。即ち、変形制御装置13は、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15とからなるものであって、エネルギー吸収部材14は、フーチング10側に取り付けられ、変形ストッパー部材15は、立ち上がり壁8側に取り付けられるのである。そして、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15との間に遊間距離aを設けること、およびエネルギー吸収部材14の構成については前記第1の実施の形態と同一である。そこで、立ち上がり壁8側に取り付けられる変形ストッパー部材15は平板状を呈するものであり、支圧板として受ける衝撃力を均等にコンクリート製立ち上がり壁8に伝達してコンクリート壁を破損しないようにするものであり、そして、立ち上がり壁8に凹部を形成しないで取り付けることができる点で相違する。この実施の形態により、コンクリート製立ち上がり壁8を厚くする必要はないため、従来通りの壁にも適用でき、特に、既存の免震建物の補強に簡単に対応できるのである。」

イ 図3(a)及び(b)





上記ア段落【0021】の記載を踏まえると、図3(a)からは、「立ち上がり壁8の側にエネルギー吸収部材14を設ける場合について、立ち上がり壁8に設けたエネルギー吸収部材14が、その中間部位において、立ち上がり壁8に対し略平行方向に延在する金属のプレート17を配置した点、立ち上がり壁8に固定する面にプレート状の部材を備えた」点が看取される。

ウ 図7



上記段落【0028】の記載を踏まえると、図7からは、「上部構造2であるフーチング10にエネルギー吸収部材14を設ける場合には、外周を囲う立ち上がり壁8の、エネルギー吸収部材14に対向する領域に、変形ストッパー部材15を設けた」点が看取される。

エ 上記アないしウを踏まえると、甲第4号証には以下の技術事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されていると認められる。

甲4技術事項
「地盤4の上面を覆うマットスラブ7が形成され、該マットスラブ7に連結させて基礎部分の外周を囲う立ち上がり壁8が設けられた基礎構造1と、上部構造2との間に、免震装置3が配置された免震建物構造において、
立ち上がり壁8と上部構造2との間に形成されたクリアランスAに、エネルギー吸収部材14と変形ストッパー部材15とからなる変形制御装置13を設け、
設計通りの地震範囲を超える地震が生じた時に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に当接し、エネルギー吸収部材14の弾性変形により地震エネルギーを吸収させ、更に、設計上想定以上の巨大地震が生じた場合に、変形ストッパー部材15がエネルギー吸収部材14に押圧し、エネルギー吸収部材14が押し潰されることにより地震エネルギーを吸収し、
エネルギー吸収部材14は、金属のプレート17と弾性体または粘弾性体18とで2段以上の多段構造としたものであり、各段の弾性体または粘弾性体は弾性体のバネ係数を表面から取付部までの順に大きくし、表面の第1段目の弾性体が最も大きく変形し、次の2段目から弾性ゴムの変形量が順次に小さくなるように弾性体の変形量が調整されており、
立ち上がり壁8の側にエネルギー吸収部材14を設ける場合について、立ち上がり壁8に設けたエネルギー吸収部材14が、その中間部位において、立ち上がり壁8に対し略平行方向に延在する金属のプレート17を配置し、立ち上がり壁8に固定する面にプレート状の部材を備えており、エネルギー吸収部材14に対向する、上部構造2であるフーチング10側に、変形ストッパー部材15を設け、
上部構造2であるフーチング10にエネルギー吸収部材14を設ける場合には、外周を囲う立ち上がり壁8の、エネルギー吸収部材14に対向する領域に、変形ストッパー部材15を設け、
変形ストッパー部材15は、平板状を呈し、支圧板として受ける衝撃力を均等に伝達して壁を破損しないようにして、既存の免震建物の補強に簡単に対応できるようにしたものである点。」

(5)甲第5号証:特開2007-70857号公報
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の出願前に出願公開がされた甲第5号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0007】
本発明にかかる建造物の免震構造は、地盤にコンクリート基礎構造を介して構築される建造物における免震構造であって、前記コンクリート基礎構造を設置する地盤の底面と前記地盤の内底面との間に配置され、互いに水平方向に滑る一対の免震滑り面からなる滑り免震部と、前記基礎構造の外周面と基礎構造の外周面を囲む地盤の内周面との間に配置され、前記基礎構造の外周面のうち外隅部を構成する2面にわたって当接する隅部緩衝材と、前記基礎構造の外周面と基礎構造の外周面を囲む地盤の内周面との間に配置され、前記基礎構造の外周面のうち平坦面に当接する平坦部緩衝材とを備え、前記隅部緩衝材および平坦部緩衝材が、前記基礎構造の外周面に沿って間隔をあけて複数個所に配置されている。」

イ 「【0014】
隅部緩衝材の材料は、通常の免震構造における免震用の緩衝材と共通する材料が採用できる。但し、隅部緩衝材は、後述する平坦部緩衝材とは、変形特性の異なるものを用いることが望ましい。具体的には、地震による大きな震動が加わったときに主に、弾性変形によって震動を吸収するものよりも、塑性変形を起こして震動を吸収するものが望ましい。小さな震動であれば、弾性変形によって震動を吸収するものが望ましい。このような変形特性を有する材料として、スチレン樹脂などの合成樹脂の発泡体が採用できる。合成樹脂の発泡体は、隅部緩衝材を所定形状に成形したり加工したりするにも適し、取り換えの手間やコストも少なくて済む。
【0015】
隅部緩衝材の構造は、基礎構造の外隅部に対応する内面形状と、地盤の内周面に対応する外面形状を有していればよい。通常、基礎構造の外隅部および地盤の内周面は互いに平行で直角に屈曲しているので、隅部緩衝材の平面形状も、直角に屈曲したL字形をなすことが多い。基礎構造の外隅部が直角以外の角度をなしている場合や丸みを有する場合は、隅部緩衝材の内面形状もそれに対応する形状に設定できる。
基礎構造が、断面逆T字形をなす布基礎など、外周面に段差や凹凸がある場合、隅部緩衝材にも対応する凹凸形状を設けておくことができる。例えば、断面逆T字形の布基礎に対して、布基礎の水平下辺の側端面から上面を経て布基礎の垂直辺の側面にかけて当接するように隅部緩衝材を配置することができる。隅部緩衝材が布基礎を上から押さえる形態になり、垂直方向の震動を吸収したり減衰したりする機能も発揮できる。」

ウ 「【0016】
〔平坦部緩衝材〕
基礎構造の外周面と基礎構造の外周面を囲む地盤の内周面との間に配置され、基礎構造の外周面のうち平坦面に当接する。
平坦部緩衝材の材料は、通常の免震構造における免震用の緩衝材と共通する材料が採用できる。但し、前記したように、隅部緩衝材とは、変形特性の異なるものを用いることが望ましい。具体的には、地震による大きな震動が加わったときに主に、弾性変形によって震動を吸収するものが望ましい。このような変形特性を有する材料として、吸振バネ、吸振ゴムなど弾性吸振材が採用できる。」

エ 「【0026】
基礎構造10の四方の平坦な外側面には平坦部緩衝材40bが配置され、四隅の直角に張り出した隅部には隅部緩衝材40aが配置されている。
図1に示すように、基礎構造10は、下辺部分が外側に張り出し、下辺部分の中央から垂直部分が延びる形状を有しているので、隅部緩衝材40aは、基礎構造10の下辺部分から垂直部分の途中までの外面形状に沿った、逆L字形の断面形状を有している。隅部緩衝材40aのうち、人工地盤30の内周面に対応する面は平坦な垂直面である。図1には示されていないが、平坦部緩衝材40bも、断面形状は隅部緩衝材40aと共通している。
【0027】
図3(a)に示すように、隅部緩衝材40aは、全体が発泡ポリスチレン成形体からなるブロック状をなしている。前記した逆L字形の垂直断面形状を有するとともに、基礎構造10の直角をなす隅部の両側辺に沿って当接するように、平面形状が直角に屈曲した形状を有している。
図3(b)に示すように、平坦部緩衝材40bは、弾性的復元性に優れた吸振ゴム材料で形成されている。前記した逆L字形の断面形状が一定の長さで延びている。
隅部緩衝材40aおよび平坦部緩衝材40bは、基礎構造10および人工地盤30の一方あるいは両方に接着などの手段で接合されており、みだりに移動しないようにしている。
【0028】
〔免震機能〕
以上の構造を備えた免震構造は、地震がない通常時には、隅部緩衝材40aおよび平坦部緩衝材40bが、基礎構造10および上部構造90の確実に位置決めしており、風などの外力が加わっても、住宅全体が動くことはない。特に、隅部緩衝材40aが、基礎構造10の四隅を確実に止定しているので、住宅全体が捻られたり旋回したりするような運動が確実に防止できる。
地震が発生すると、地盤Eが震動を起こす。地盤Eとともに人工地盤30および滑り面板22が震動するが、滑り面板22に対して滑り底板24が水平方向に滑り運動を行うことで、滑り底板24よりも上方の基礎構造10および上部構造90は、静止状態を維持することができる。滑り免震機能が発揮される。
【0029】
このような地震の震動に伴う基礎構造10と人工地盤30との相対運動により、平坦部緩衝材40bがその厚み方向に弾力的に変形し弾力的に復元することで、地震の震動エネルギーを吸収、減衰させることができる。人工地盤30の震動に比べて、基礎構造10および住宅全体の震動を小さくできる。隅部緩衝材40aは、地震の震動による基礎構造10と人工地盤30との間の水平面内での旋回方向の運動を抑制することができる。隅部緩衝材40bは、小さな震動であれば、材料が有する弾性変形によって吸収、減衰させる作用が発揮されるとともに、大きな震動の場合は、塑性変形を起こすことで、大きなエネルギーを吸収することができる。平坦部緩衝材40bだけであれば、弾力的な復元力だけで、人工地盤30に対する基礎構造10の相対的運動を抑えようとするので、復元力が却って相対的運動をいつまでも持続させてしまうことがある。しかし、隅部緩衝材40aが塑性変形を起こせば弾力的な復元力が弱くなるので、相対的運動による振動を迅速に終息させることができる。
【0030】
地震が収まったあとは、平坦部緩衝材40bの弾力的復元力によって、基礎構造10および上部構造90を地震前の位置および姿勢へと確実に戻すことができる。隅部緩衝材40aが大きく塑性変形を起こした場合は、隅部緩衝材40aを取り換えたり、損傷部分を補修したりすることによって、平坦部緩衝材40bについては、そのまま継続して使用することが可能である。地震の度に、緩衝部材の全てを取り換えるのに比べて、はるかに経済的であり、復旧工事も簡単かつ迅速に完了させることができる。」

オ 図1




カ 図2




キ 図3




ク 上記オ図1及び上記カ図2から、「隅部緩衝材40aは、基礎構造10、人工地盤30の両方に当接するように隙間無く配置されている」ことが看取される。
上記エ段落【0026】の「図1には示されていないが、平坦部緩衝材40bも、断面形状は隅部緩衝材40aと共通している」との記載を踏まえると、上記オ図1、上記カ図2及び上記キ図3(a)、図3(b)から、「平坦部緩衝材40bは、基礎構造10、人工地盤30の両方に当接するように隙間無く配置されている」ことが看取される。
また、上記イ段落【0015】の「 隅部緩衝材の構造は、基礎構造の外隅部に対応する内面形状と、地盤の内周面に対応する外面形状を有していればよい。・・・断面逆T字形の布基礎に対して、布基礎の水平下辺の側端面から上面を経て布基礎の垂直辺の側面にかけて当接するように隅部緩衝材を配置することができる。隅部緩衝材が布基礎を上から押さえる形態になり、垂直方向の震動を吸収したり減衰したりする機能も発揮できる。」、上記エ段落【0026】の「図1に示すように、基礎構造10は、下辺部分が外側に張り出し、下辺部分の中央から垂直部分が延びる形状を有しているので、隅部緩衝材40aは、基礎構造10の下辺部分から垂直部分の途中までの外面形状に沿った、逆L字形の断面形状を有している。隅部緩衝材40aのうち、人工地盤30の内周面に対応する面は平坦な垂直面である。」との記載を踏まえると、図3(a)からは、「隅部緩衝材40aは、人工地盤30の内周面に対応する面は平坦な垂直面であり、下辺部分が外側に張り出し、下辺部分の中央から垂直部分が延びる形状を有した基礎構造10に沿う部分は当該外面形状に当接する形状の面となり、全体として逆L字形の断面形状である」ことが看取される。

ケ 上記アないしクに摘記した記載を踏まえると、甲第5号証には以下の2の技術事項(以下「甲5技術事項1」及び「甲5技術事項2」という。)が記載されていると認められる。

甲5技術事項1
「人工地盤30に基礎構造10を介して構築される建造物の免震構造において、
平面形状が直角に屈曲した形状を有した隅部緩衝材40aが、基礎構造10の外周面と基礎構造10の外周面を囲む人工地盤30の内周面との間に両方に当接するように隙間無く配置され、
隅部緩衝材40aの垂直断面形状は、基礎構造10の外側に張り出した下辺部分と、下辺部分の中央から垂直部分の途中までの外面形状に当接する形状の面及び人工地盤30の内周面に対応する平坦な垂直面を有する逆L字形の垂直断面形状であって、
前記隅部緩衝材40aの材料としては、地震による大きな震動が加わったときに主に、弾性変形によって震動を吸収するものよりも、塑性変形を起こして震動を吸収するものが望ましく、小さな震動であれば、弾性変形によって震動を吸収するものが望ましく、このような変形特性を有する材料として、スチレン樹脂などの合成樹脂の発泡体を採用した点。」

甲5技術事項2
「人工地盤30に基礎構造10を介して構築される建造物の免震構造において、
基礎構造10の外周面のうち平坦面に当接する平坦部緩衝材40bが、基礎構造10の外周面と基礎構造10の外周面を囲む人工地盤30の内周面との間に両方に当接するように隙間無く配置され、
平坦部緩衝材40bの垂直断面形状は、基礎構造10の外側に張り出した下辺部分と、下辺部分の中央から垂直部分の途中までの外面形状に当接する形状の面及び人工地盤30の内周面に対応する平坦な垂直面を有する逆L字形の垂直断面形状であって、
前記平坦部緩衝材40bの材料としては、地震が収まったあとは、平坦部緩衝材40bの弾力的復元力によって、基礎構造および上部構造を地震前の位置および姿勢へと確実に戻すことができるよう、弾性的復元性に優れた吸振バネ、吸振ゴムなど弾性吸振材を採用した点。」

(6)参考資料1:特開2014-77229号公報
申立人が令和2年3月13日付け意見書に添付して提出した、本件特許の出願前に出願公開がされた参考資料1には、次の事項が記載されている。

ア 「【0012】
《免震建物10》
図1は、ここで提案される免震建物10の概略図である。免震建物10は、図1に示すように、基礎11と、免震装置12と、建物13と、衝撃吸収部材14とを備えている。
【0013】
基礎11は、例えば、建物13を支える構造体であり、建物が建てられる敷地に施工される。基礎11は、例えば、配筋にコンクリートを流し込むことによって構築される。免震装置12は、基礎11に配置されている。免震装置12の上には建物13が配置されている。免震装置12は、建物13が基礎11に対して水平に移動するのを許容する装置である。」

イ 「【0015】
《擁壁11a》
基礎11には、擁壁11aが設けられている。擁壁11aは、建物13の側壁13aの少なくとも一部に対して間隔を空けて対向している。建物13の側壁13aと擁壁11aとの間には、建物13が揺れ動くのを許容するべく、所要の空間(空隙)が確保されている。擁壁11aは、建物13が基礎11に対して過度に揺れ動く際に、建物13が敷地の外へ迫り出すのを防止する部位である。
【0016】
《衝撃吸収部材14》
衝撃吸収部材14は、ゴム製の部材であり、建物13の側壁13aと擁壁11aとが対向する部位において、建物13の側壁13aと擁壁11aとの少なくとも一方(図1に示す例では、擁壁11a)に設けられている。
【0017】
図2は、衝撃吸収部材14を拡大した側面図である。図3は、衝撃吸収部材14の正面図(対向する建物13の側壁13a側から見た図)である。衝撃吸収部材14は、図2および図3に示すように、基部21と、柱部22と、当接部23とを備えている。
・・・(中略)・・・
【0019】
柱部22は、対向する他方の壁(この実施形態では、建物13の側壁13a)に向けて、基部21から立ち上がっている。当接部23は、柱部22の先端において、建物13の側壁13aに対向するように設けられている。
【0020】
この実施形態では、柱部22は、2本のフランジ21a、21bからそれぞれ立ち上がった板状の部位である。2本のフランジ21a、21bからそれぞれ立ち上がった柱部22の間隔は、基部21側が広く先端側(当接部23側)に向かうにつれて狭くなっている。また、この実施形態では、柱部22の内壁は、中間部22aにおいて僅かに屈曲している。柱部22の内側面は、基部21から中間部22aまでは緩やかに内側に傾きつつ立ち上がっているが、中間部22aよりも先端側ではテーパがきつくなっている。この実施形態では、柱部22は、擁壁11aに平行に配置された2本のフランジ21a、21bからそれぞれ建物13の側壁13aに向けて間隔が徐々に狭くなるように立ち上がっている。かかる柱部22の内側面は、中間部22aを起点として外側に膨らんでいる。なお、図示例は、柱部22の内壁は、中間部22aにおいて僅かに屈曲しているが、柱部22の内壁は、中間部22aにおいて僅かに湾曲していてもよい。
【0021】
また、柱部22の先端に設けられた当接部23は、柱部22の先端部に架け渡された平板状の部位である。この実施形態では、当接部23は、長方形の板状の部位になっている。図2に示すように、基部21のフランジ21a、21bが擁壁11aに取り付けられ、柱部22が建物13の側壁13aに向けて立ち上がり、当接部23が建物13の側壁13aに対向している。」

ウ 「【0023】
建物13は、地震時に、基礎11に対して揺れ動く。図4は、図1に示された免震建物10において、建物13が基礎11に対して揺れ動き、建物13の側壁13aが衝撃吸収部材14に当った状態を示す図である。図5は、建物13が基礎11に対して過度に揺れ動く際に、建物13の側壁13aが衝撃吸収部材14に衝突した状態を示している。この実施形態では、図4に示すように、建物13が基礎11に対して過度に揺れ動く際に、建物13の側壁13aが衝撃吸収部材14に衝突する。
【0024】
その際、図5に示すように、建物13の側壁13aは、衝撃吸収部材14の当接部23に押し当たる。建物13の側壁13aが衝撃吸収部材14の当接部23に押し当たると、衝撃吸収部材14の柱部22は変形し、衝撃を緩和する。この実施形態では、衝撃吸収部材14の柱部22は、図2に示すように、中間部22aを起点として若干外側に膨らんでいる。建物13の側壁13aが衝撃吸収部材14の当接部23に押し当たると、柱部22は、図5に示すように、その形状のために中間部22aを起点として外側に膨らむ。
【0025】
このように、この免震建物10は、建物13の側壁13aと擁壁11aとの間に衝撃吸収部材14が介在している。このため、建物13が基礎11に対して過度に揺れ動いた場合でも、建物13の側壁13aと擁壁11aとが直接衝突しない。
【0026】
また、建物13の側壁13aが衝撃吸収部材14の当接部23に押し当たると、図5に示すように、衝撃吸収部材14の柱部22は外側に膨らむ。建物13が擁壁11aに当たるような大きな地震時には、建物13は基礎11に対して揺れ動き、建物13の側壁13aは衝撃吸収部材14に繰返し押し当たりうる。この実施形態では、衝撃吸収部材14は高減衰ゴムで成形されている。このため、衝撃吸収部材14の柱部22が繰り返し変形することによって相当のエネルギーが吸収される。
【0027】
《圧縮特性評価》
ここで、図6は、高減衰ゴムによって形成された衝撃吸収部材14に、柱部22が外側に膨らむように当接部23を繰返し押圧した際の押圧荷重と当接部23の変位との関係を示している。この衝撃吸収部材14は、当接部23を押圧する荷重と変位との関係において、図6に示すような履歴曲線(「ヒステリシスループ」とも称される)を示す。衝撃吸収部材14は、このように押圧荷重を繰返し受けると、一周期毎に、当該履歴曲線で囲まれた面積に相当するエネルギーを吸収し得る。」

エ 【図2】






オ 図3





カ 上記アないしオに摘記した記載を踏まえると、参考資料1には以下の技術事項(以下「参1技術事項」という。)が記載されていると認められる。

参1技術事項
「擁壁11aが設けられた基礎11に、免震装置12が配置され、免震装置12の上には建物13が配置され、擁壁11aは、建物13の側壁13aの少なくとも一部に対して間隔を空けて対向し、建物13の側壁13aと擁壁11aとが対向する部位において、衝撃吸収部材14が、建物13の側壁13aと擁壁11aとの少なくとも一方に設けられている免震建物において、衝撃吸収部材14は、ゴム製で、基部21と、柱部22と、当接部23とを備えた形状とし、柱部22は板状の部位で、当接部23は柱部22の先端部に架け渡された平板状の部位であり、建物13の側壁13aが衝撃吸収部材14の当接部23に押し当たると、衝撃吸収部材14の柱部22が変形して、衝撃を緩和する技術。」

(7)参考資料2:特開2001-207682号公報
申立人が令和2年3月13日付け意見書に添付して提出した、本件特許の出願前に出願公開がされた参考資料2には、次の事項が記載されている。

ア 「【0007】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明装置の概略縦断面図であり、木造モルタルや軽量鉄骨等により構築される一般用の住宅1を構築する地盤2に、前記住宅1の外周形状よりやや大きく凹状に掘削して、外周に周壁3を有する凹部4を形成すると共に、該凹部4の底盤面5に平滑性を持たせる。
【0008】前記平滑性を持たせた底盤面5上には免震マット6が載置される。前記免震マット6は、強度性と柔軟性を有する天然ゴム、合成ゴムあるいはポリエチレン・塩化ビニール樹脂等の合成樹脂により形成され、上・下面シート7・8の外周を周壁板9で一体に接合して中空部10を設け、且つ該中空部10内に前記上・下面シート7・8よりは小巾で、且つ摩擦係数が小さい合成樹脂製の中間板11を装入すると共に、前記中空部10内に潤滑性を有する液状・クリーム状・粉状あるいはゼリー状の潤滑材12を多少の空隙部を残して充填密封して形成されている。前記潤滑材12を中空部10内に空隙部を残すことなく充填すると、免震マット6を構成する上・下面シート7・8が、前記潤滑材12の潤滑性を利用してそれぞれ個別に遊動することがなくなるのと共に、破損する虞れが大きいので、潤滑材12は多少の空隙部を残して充填する。また、前記中間板11は上・下面シート7・8よりは摩擦係数が小さいポリエチレン・塩化ビニール樹脂等の合成樹脂製とすることにより上・下面シート7・8に癒着することがなく、更に上・下面シート7・8の中間に装入された中間板11が上・下面シート7・8の癒着を防止し、上・下面シート7・8が潤滑材12の作用によりそれぞれ個別に遊動可能となる。
【0009】前記免震マット6は住宅1の大きさによって異なるが、好ましくは板厚5?15mm程度の天然ゴム板、合成ゴム板あるいは合成樹脂板を用いて、全高が150?200mm程度とすることが推奨され、また免震マット6の周壁板9は蛇腹状13に形成して強度性を保持すると共に、上・下面シート7・8が個別に遊動するある程度の余裕をもたせている。更に、前記潤滑材としては、ひまし油、スピンドルオイル、セラミックスパウダー、かき殻の粉体等、腐敗しないものが好ましい。
【0010】前記免震マット6は、中空部10内に中間板11が装入されているが、上・下面シート7・8が摩擦係数が小さい材質で形成されれば、図4に示すように中間板11が不要である。
【0011】前記構成より成る免震マット6を前記凹部4の底盤面5上に載置すると共に、該底盤面5上に載置された免震マット6上に布基礎14が設置され、且つ該布基礎14上に住宅1が構築される。
【0012】更に、前記地盤2の周壁3と、該周壁3に対面する布基礎14間の間隙部15には、小・中程度の地震による振動エネルギーによっては崩壊せず、巨大地震による衝撃力を受けると崩壊して見掛け上の容積を減少する崩壊性材料16を充填し、常態においては該崩壊性材料16が地盤2の一部として機能して住宅1の地中部分を固定するよう形成されている。
【0013】前記崩壊性材料16の材質や構造等については限定する必要はないが、常態においては住宅1を支持するに充分な強度を有し、且つ一定以上の地震(巨大地震)が発生したときに初めて崩壊するものであれば充分であるし、また崩壊すると容積が減少し、地盤2の周壁3と布基礎14間に見掛け上の空隙が生じて、地震による地盤2の振動がそのまま布基礎14に伝達されないものであれば充分である。そして、前記崩壊性材料16としては、特に限定する必要はないが、好ましくは気孔率が50?70%程度の気泡コンクリート、あるいは発泡スチロールを用いることが推奨される。
【0014】而して、前記のように構成された本発明装置によれば、地震が発生しても、小・中程度の地震であれば、地盤2と共に、免震マット6の下面シート8が遊動するのみで、潤滑材12の作用により地震の振動エネルギーが吸収されて布基礎14より上方の住宅1が揺動することはなく、免震効果を有する。また、巨大地震であれば地盤が振動することにより生じる衝撃力により崩壊性材料16が崩壊すると、周壁3と布基礎14との間に見掛け上の空隙が生じ、地震の振動エネルギーが地盤2から布基礎14、すなわち住宅1に伝達されないという崩壊性材料16の作用と、前記小・中程度の地震におけると同様、免震マット6の下面シート8が遊動するのみで、潤滑材12の作用により地震の振動エネルギーが吸収されて上面シート7は遊動しないという免震マット6の作用の両作用が働いて巨大地震においても免震効果を有するのである。更に、崩壊性材料16があるため、住宅1は風力程度では移動することがない。」

イ 図1





ウ 上記ア、イに摘記した記載を踏まえると、参考資料2には以下の技術事項(以下「参2技術事項」という。)が記載されていると認められる。

参2技術事項
「地盤2に形成された、外周に周壁3を有する住宅1の外周形状よりやや大きい凹部4の底盤面5に上・下面シート7・8が潤滑材12の作用によりそれぞれ個別に遊動可能となった免震マット6が載置され、該載置された免震マット6上に布基礎14が設置され、且つ該布基礎14上に住宅1が構築された免震装置であって、前記地盤2の周壁3と、該周壁3に対面する布基礎14間の間隙部15に、小・中程度の地震による振動エネルギーによっては崩壊せず、巨大地震による衝撃力を受けると崩壊して見掛け上の容積を減少する崩壊性材料16を充填したものにおいて、崩壊性材料16として、気孔率が50?70%程度の気泡コンクリート、あるいは発泡スチロールを用いる技術。」

第5 当審が特許権者に通知した取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が令和1年11月28日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 進歩性
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布されたまたは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、本件請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件請求項1?5に係る特許は取り消されるべきものである。

第6 当審が特許権者に通知した取消理由についての当審の判断
1 本件訂正発明1?5について
上記第2の通り、本件訂正により本件の請求項1?5に係る発明は訂正されたので、以下、本件訂正前の請求項1?5に係る発明に対応する本件訂正発明1?5について判断する。
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲1発明との対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「下部構造物」、「免震装置6」、「上部構造物」は、それぞれ、本件訂正発明1における「下部構造体」、「免震装置」、「上部構造体」に相当する。

(イ)甲1発明の「緩衝材10」は、「例えば樹脂製(例えばポリプロピレン製)のハニカム構造板やゴム製の防舷材」であって、「大地震或いは巨大地震の発生時に柱脚部8が緩衝材10に衝突したときに、緩衝材10が塑性的に圧縮されることによって建物7の振動エネルギーが吸収され、柱脚部8や擁壁4の破損を防止できるものである」から、本件訂正発明1の「発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材」とは、「樹脂体を備える衝撃吸収部材」である点で共通する。

(ウ)甲1発明において、「上部構造物」(上部構造体)である「建物7」の「各柱の下端部」に設けられた「柱脚部8」は、それ自体も、「建物7」と一体的に「上部構造物」(上部構造体)を構成しているといえる。また、「建物7」の周縁部に配置された当該「柱脚部8」の「側面」は、「上部構造物」(上部構造体)の外周の面を規定するものであるから、本件訂正発明1の「上部構造体」が「有」する「側壁」に相当する。

(エ)甲1発明において、「下部構造物」(下部構造体)である「基礎2」の「周縁部」に「立設」された「擁壁4」は、それ自体も、「基礎2」と一体的に「下部構造物」(下部構造体)を構成しているといえるから、本件訂正発明1の「下部構造体」が「有」する「対向壁」に相当する。

(オ)甲1発明において、「柱脚部8」は、「擁壁4の内側に配置され」、「高さ方向の大部分が擁壁4の上端よりも下に位置」し、「擁壁4との間に隙間9が設けられ」ているものであることから、「柱脚部8」の「側面」と「擁壁4」とは「隙間9」を介して対向しているということができ、上記(エ)で述べた甲1発明の「擁壁4」(「下部構造体」が「有」する「対向壁」)は、本件訂正発明1と同様に、「上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに側壁と離間し」た構成を備えているといえる。

(カ)甲1発明において、「下部構造物」(下部構造体)である「基礎2」上に「凸状に設けられ」た複数の「免震基礎5」は、それ自体も、「基礎2」と一体的に「下部構造物」(下部構造体)を構成しているといえる。そうすると、「免震装置6が免震基礎5上に設置され」、上記(ウ)で述べた「上部構造物」(上部構造体)の各「柱脚部8」が、「免震装置6上に搭載された状態で免震装置6に連結され」ていることは、本件訂正発明1において、「免震装置」が「上部構造体と下部構造体との間に位置する」ことに相当する。

(キ)甲1発明の「第4仕様の免震構造物1」が、「周縁部に配置された柱脚部8の側面に緩衝材10が取り付けられ、緩衝材10から擁壁4までの距離が柱脚部8から擁壁4までの水平距離Lよりも小さくされ」ていることと、本件訂正発明1の「側壁の表面に、対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さく、前記衝撃吸収部材は、前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」こととは、「側壁の表面に、対向壁に面する位置に樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さい」点で共通する。

(ク)そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
「上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、
前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、
前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、
前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さい免震構造。」

(相違点)
「樹脂体を備える衝撃吸収部材」について、本件訂正発明1は、樹脂体が「発泡樹脂体」であり、樹脂体を備える衝撃吸収部材は、「前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」のに対し、甲1発明は、樹脂体が「発泡樹脂体」ではなく、衝撃吸収部材の形状が、「前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものではない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)甲2技術事項について
甲2技術事項は、上記第4 2(2)ウで認定したとおりのものであって、基礎1と建物2との間に免震装置3が介装されることにより免震層4が形成された免震建物の、建物2の台座8の擁壁5と対向する部分に形成された凹部17内に貼り付ける方形板状の「減衰材13」を「発泡スチロール」によって形成し、「巨大地震時に建物2が大きく水平変位して台座8が擁壁5に衝突した際にそのエネルギーを吸収」できるようにしている。
甲2技術事項の上記「減衰材13」は、エネルギーを吸収するとの作用を有する点で甲1発明の「緩衝材10」と共通するものであり、「緩衝材10」を発泡樹脂体である「発泡スチロール」によって形成することに関する教示はあるものの、その形状は「凹部」に収納された「方形板状」であり、「緩衝材10」の形状を、「側壁から対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとすることに関し、記載も示唆もない。
してみると、甲1発明に甲2技術事項を組み合わせたとしても、甲1発明の柱脚部8の側面に取り付けられた緩衝材10を「発泡樹脂体」とするとともに、さらにその形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとし、もって上記相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。

(イ)甲3技術事項について
甲3技術事項は、上記第4 2(3)オで認定したとおりのものであって、免震構造1の基礎部材14の外周から掘削された地盤3の立ち上がり部までの隙間の全域にわたって配置した「緩衝材13」を「30倍発泡ポリエチレン」として、「変位を吸収する」ようにしている。甲3技術事項が有する「緩衝材13」も免震構造に用いられる衝撃吸収部材であるから、甲3技術事項には、免震構造の衝撃吸収部材を発泡樹脂体である発泡ポリエチレンとすることについて教示があるとはいえる。
しかし、甲3技術事項に係る「緩衝材13」は、「基礎部材14の外周から掘削された地盤3の立ち上がり部までの隙間の全域にわたって配置した」ものであって、垂直断面の断面積を変化させるものではなく、甲1発明の擁壁との間に隙間9を空けて設けられる、緩衝材10の形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとすることに関し、記載も示唆もない。
してみると、甲1発明に甲3技術事項を組み合わせたとしても、甲1発明の柱脚部8の側面に取り付けられた緩衝材10を「発泡樹脂体」とするとともに、さらにその形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとし、もって上記相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。

(ウ)甲4技術事項について
甲4技術事項は、上記第4 2(4)エで認定したとおりのものであって、立ち上がり壁8と上部構造2との間に形成されたクリアランスAに、押しつぶされてエネルギーを吸収する弾性体を備えたエネルギー吸収部材14が設置されたものであり、上部構造2にエネルギー吸収部材14を、立ち上がり壁8に変形ストッパー部材15を設けるにあたり、エネルギー吸収部材14の弾性体のバネ係数を、表面側、すなわち取付部と反対の側であって最初に変形ストッパー部材15に衝突する側、から取付部まで順に異ならせるようにし、表面側が大きく変形するようにしたものである。
甲4技術事項は、このように、弾性体のバネ係数をエネルギー吸収部材内の各段で変更することで変形を制御するものであり、エネルギー吸収をする部材の形状や断面積を変化させるものではない。
してみると、甲4技術事項は、甲1発明の緩衝材10の形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとすることに関し、何らの記載も示唆も与えない。
よって、甲1発明に甲4技術事項を組み合わせたとしても、甲1発明の柱脚部8の側面に取り付けられた緩衝材10を「発泡樹脂体」とするとともに、さらにその形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとし、もって上記相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。

(エ)甲5技術事項1について
甲5技術事項1は、上記第4 2(5)ケで認定したとおりのものであって、免震構造における、基礎構造10の外周面と基礎構造10の外周面を囲む地盤30の内周面との間に配置する「隅部緩衝材40a」の材料として、「スチレン樹脂などの合成樹脂の発泡体」を採用し、「地震による大きな震動が加わったとき」に、「塑性変形を起こして震動を吸収」し、「小さな震動であれば、弾性変形によって震動を吸収する」ようにしている。
甲5技術事項1の「隅部緩衝材40a」は、エネルギーを吸収するとの作用を有する点で甲1発明の「緩衝材10」と共通するものであり、「緩衝材10」を「スチレン樹脂などの合成樹脂の発泡体」によって形成することに関する教示はある。また、甲5技術事項1の「隅部緩衝材40a」は、基礎構造の外側に張り出した下辺部分と、下辺部分の中央から垂直部分の途中までの外面形状に当接する形状の面及び人工地盤の内周面に対応する平坦な垂直面を有する逆L字形の垂直断面形状を有しており、断面積のみに着目すれば、途中で変化する構成を有している。
しかしながら、甲5技術事項1の「隅部緩衝材40a」は、基礎構造10と地盤30の両方に当接するように隙間無く配置されたために、基礎構造10の外面及び地盤30の内面の形状に対応して逆L字形の垂直断面形状となっているものと解される。
してみると、甲5技術事項1は、甲1発明の擁壁4との間に隙間9を空けて設けられる、緩衝材10の形状を変更することに関し、何らの記載も示唆も与えない。
よって、甲1発明に甲5技術事項1の「隅部緩衝材40a」の形状を適用する動機付けはなく、甲1発明及び甲5技術事項1に基いて上記相違点に係る本件訂正発明1の構成に至ることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

(オ)甲5技術事項2について
甲5技術事項2は、上記第4 2(5)ケで認定したとおりのものであり、その「平坦部緩衝材40b」の断面形状は、甲5技術事項1で検討した「隅部緩衝材40a」のそれと同様であって、基礎構造の外側に張り出した下辺部分と、下辺部分の中央から垂直部分の途中までの外面形状に当接する形状の面及び人工地盤の内周面に対応する平坦な垂直面を有する逆L字形の垂直断面形状を有しており、断面積のみに着目すれば、途中で変化する構成を有している。
しかしながら、甲5技術事項2の「平坦部緩衝材40b」は、基礎構造10と地盤30の両方に当接するように隙間無く配置されたために、基礎構造10の外面及び地盤30の内面の形状に対応して逆L字形の垂直断面形状となっているものと解される。
してみると、甲5技術事項2は、甲1発明の擁壁4との間に隙間9を空けて設けられる、緩衝材10の形状を変更することに関し、何らの記載も示唆も与えない。
よって、甲1発明に甲5技術事項2の「平坦部緩衝材40b」の形状を適用する動機付けはなく、甲1発明及び甲5技術事項2に基いて上記相違点に係る本件訂正発明1の構成に至ることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ 小括
以上の通りであるから、甲第2号証?甲第5号証のいずれにも、甲1発明の緩衝材を「発泡樹脂体」とするとともに、さらにその形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとすることについての教示はなく、甲第1?5号証記載の発明ないし技術事項を組み合わせても、当該構成を想到することが容易ということはできない。
よって、本件訂正発明1は、甲第1?5号証記載の発明ないし技術事項から当業者が容易に想到できたものではない。

エ 申立人の主張について
(ア)設計事項について
申立人は、本件訂正発明1と甲1発明との相違点である衝撃吸収部材の形状に関し、衝撃吸収部材の形状を「側壁から対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとすることは設計事項である旨主張をしている(特許異議申立書第21頁下から5行?22頁第9行)。
上記主張について検討するに、衝撃吸収部材の形状を「側壁から対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」とすることは、本願明細書段落【0049】に記載の「先端側ほど断面積が小さい衝撃吸収部材40は、対向壁22と衝突した際に塑性変形し易く衝撃を良好に吸収し易い。」との技術的意味を有する。
よって、衝撃吸収部材の形状を「側壁から対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」構成は、建物の形状や設計当初の地震力を考慮して適宜なし得たといえるものではなく、設計事項ということはできない。
してみると、甲1発明の側壁の表面に設置される衝撃吸収部材の樹脂体を「発泡樹脂体」とする際にその形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。

(イ)甲第5号証との組合せによる進歩性について
申立人は、令和2年3月13日付けの意見書において、衝撃吸収部材の断面積を減少させる構成は甲第5号証に記載されているから、本件訂正発明1の甲1発明との相違点に係る構成は、甲第5号証に基いて想到容易であった旨を主張している(意見書第1頁下から第4行?第2頁第6行)。
当該主張に関しては、上記イ(エ)及び(オ)にて判断したとおりであって、申立人の主張を考慮しても、当該判断を覆すべき事情はない。

(ウ)参考資料1との組合せによる進歩性について
申立人は、令和2年3月13日付けの意見書において、衝撃吸収部材の断面積を減少させる構成は参考資料1に記載されているから、本件訂正発明1の甲1発明との相違点に係る構成は、参考資料1に基いて想到容易であった旨を主張している(意見書第2頁第7?17行)。
上記申立人の主張について判断する。
参1技術事項は、上記第4 2(6)カで認定したとおりのものであって、建物13の側壁13aと基礎11の擁壁11aとが対向する部位において、設けられる衝撃吸収部材14をゴム製とするものである。
衝撃吸収部材14は、基部21と、柱部22と、当接部23とを備えた形状とし、柱部22は板状の部位で、当接部23は柱部22の先端部に架け渡された平板状の部位とされているが、このような形状は、ゴムを高減衰ゴムとした場合に、高減衰ゴムが繰り返しの変形を受けて所望のエネルギー吸収を行えるように設計したものであり、発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材の形状について記載も示唆も無い。
してみると、甲1発明に参1技術事項を組み合わせたとしても、甲1発明の柱脚部8の側面に取り付けられた緩衝材10を「発泡樹脂体」とするとともに、さらにその形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとし、もって上記相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
よって、申立人の上記主張を考慮しても、相違点に係る構成を容易に想到しえたものではないとの判断を覆すべき事情はない。

(エ)参考資料2との組合せによる進歩性について
申立人は、令和2年3月13日付けの意見書において、衝撃吸収部材の断面積を減少させる構成は参考資料2に記載されているから、本件訂正発明1の甲1発明との相違点に係る構成は、参考資料2に基いて想到容易であった旨を主張している(意見書第2頁第18行?第3頁第1行)。
上記申立人の主張について判断する。
参2技術事項は、上記第4 2(7)ウで認定したとおりのものであって、地盤2の周壁3と、該周壁3に対面する布基礎14間の間隙部15に充填する崩壊性材料16を、気孔率が50?70%程度の発泡スチロールとするものである。
しかし、この崩壊性材料16は、「地盤2の周壁3と、該周壁3に対面する布基礎14間の間隙部15に充填」したものであって、崩壊性材料16の形状は、間隙部を形成する布基礎や周壁3によって間隙部と同じ形状に規定されるものと認められる。また、当該崩壊性材料16は、上記のように布基礎の形状を反映するものであって、布基礎14(側壁)から周壁3(対向壁)に向かって、断面積が増加しているものである。
してみると、参2技術事項には、甲1発明の擁壁との間に隙間9を空けて設けられる緩衝材10の形状を変更することに関し、何らの記載も示唆もない。
よって、甲1発明に参2技術事項を組み合わせたとしても、甲1発明の擁壁との間に隙間9を空けて設けられる、柱脚部8の側面に取り付けられた緩衝材10を「発泡樹脂体」とするとともに、さらにその形状を、「柱脚部8の側面(側壁)から擁壁4(対向壁)に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している」ものとし、もって上記相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、申立人の上記主張を考慮しても、相違点に係る構成を容易に想到しえたものではないとの判断を覆すべき事情はない。

オ 本件訂正発明1についての小括
以上のとおりであるから、申立人の上記主張を考慮しても、本件訂正発明1は、甲第1?5号証及び参考資料1、2記載の発明ないし技術事項から当業者が容易に想到できたものではない。

(2)本件訂正発明2?5について
本件訂正発明2?5は、本件訂正発明1の構成を全て有した上でさらに限定を加えたものである。そして、先に検討したとおり、本件訂正発明1は、甲第1?5号証記載の発明ないし技術事項によっては容易に想到できたものではないから、本件訂正発明2?5も、甲第1?5号証記載の発明ないし技術事項から当業者が容易に想到できたものではない。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 本件訂正発明6について
上記第2の通り、本件訂正により請求項6は削除された。
その結果、請求項6に係る異議申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、不適法な特許異議の申立てであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、及び各証拠によっては、本件訂正発明1?5を取り消すことはできない。
さらに、他に本件訂正発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正発明6に係る特許は、上記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
免震構造
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造に関し、より具体的には、免震装置を備える免震構造において、当該免震構造が水平方向に過大な変位を示した場合にも安全性に優れる免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
免震構造として、上部構造体(例えば建造物)と下部構造体(たとえば基礎構造)とを弾性部材等を介して縁切りする免震装置が配置された免震構造が知られている。上記弾性部材としては例えばゴム(特には高減衰ゴム)が知られる。上記免震構造において、上部構造体の下部領域と下部構造体とは、一定のクリアランス(空間)が確保された状態で対向している。上記クリアランスは、上部構造体の下面と下部構造体の上面との間だけでなく、適宜、上部構造体の下部領域の側面(側壁)と、これに対向する下部構造体の鉛直壁面との間にも、同様に設けられている。地震などが発生し地盤とともに下部構造体が水平方向に揺れた場合、一般的には、下部構造体に対し縁切りされた上部構造体には当該下部構造体からの揺れの伝達量が少ない上、当該揺れは、免震装置に備わる弾性部材の変形等により減衰される。上記弾性部材の変位の例としては、地震発生時の上部構造体と下部構造体との水平方向における相対的な位置変位が挙げられる。設計上、上記相対的な位置変位は、上記クリアランスの範囲内であり、そのため、上部構造体と下部構造体との衝突は回避されると想定されている。
【0003】
しかしながら、大地震の発生などにより免震装置における弾性部材の水平方向における変位が甚大となった場合、あるいは長周期地震動が生じて地震動の周期と上部構造体の固有周期とが一致して共振し上部構造体が大きく揺れる場合等には、上部構造体と下部構造体との相対的な位置変位が甚大となり、その結果、上部構造体と下部構造体とが衝突する虞があった。かかる衝突により上部構造体または下部構造体が損傷する虞があり問題であった。特に長周期地震動に対する研究は、近年活発になってきてはいるが、未だ、充分な対策がとられているとは言い難く、新規に建造される建物はもちろんのこと、既存の建造物においてもその対策が迫られている。
【0004】
地震振動には、地中において伝搬される実体波(所謂、P波およびS波)と、地表に沿って伝搬される表面波とが知られる。表面波は、実体波に比べ、遠距離まで伝わるとともに、伝搬中の減衰が緩やかである上、地盤の柔らかい平野の堆積層にて強く増幅されることが多くの研究から明らかにされている。したがって震源地から遠く離れた土地で、長周期地震動が発生する場合がある。
一方、建物には、高さに応じた固有周期があり、建物の高さが高いほど固有周期が長くなることが知られている。そして固有周期と近い周期の地震が発生すると、共振現象が発生し、建物の揺れが持続するとともに揺れの大きさが増大する傾向にある。
したがって、特に上部構造体が高層ビルなどの長身の建造物である場合、当該上部構造体は、固有周期が長くなる傾向にあり、長周期地震動の周期と一致して共振し、震源地の地震がおさまっても揺れが継続し、かつ大きくなる傾向にあった。そのため、高層ビルなどの長身の建造物に対する長周期地震動の対策は、非常に重要である。
【0005】
上記問題に対応する技術として以下の免震構造500が提案されている。免震構造500の説明には、図5(a)(b)を用いる。図5(a)は、従来の衝撃吸収部材530を備える免震構造500の平常時の概略図であり、図5(b)は従来の衝撃吸収部材530を備える免震構造500の振動発生時の概略図である。
従来の免震構造500は、図5(a)に示すとおり、免震装置540を備え、建物510(上部構造体)と建物基礎550(下部構造体)の擁壁522とが対向する部位において、擁壁内面520にゴムによって形成された衝撃吸収部材530が設けられている(例えば下記特許文献1参照)。
免震構造500は、図5(b)に示すとおり、甚大な揺れが発生した場合に、建物510の側壁512と衝撃吸収部材530とが衝突することが予定される。これによって、建物510の側壁512と擁壁内面520とが直接に衝突することが回避される。建物510と衝撃吸収部材530との衝突により、衝撃吸収部材530が圧縮変形するとともに、建物510は衝撃吸収部材530から反力を受ける。この結果、衝突により建物510および擁壁522に生じる衝撃が緩和されることが特許文献1に説明されている。特許文献1には、衝撃吸収部材530を構成するゴムとして高減衰ゴムが推奨されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-77229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上述する免震構造500は、地震発生時等において建物510の揺れを抑制することを主目的とするにもかかわらず、衝撃吸収部材530としてゴムが用いられることで、以下に述べるとおり建物510の揺り戻しを助長する虞があり問題であった。
【0008】
即ち、ゴムは、一般的に弾性力が大きい。そのため、側壁512がゴムである衝撃吸収部材530に衝突すると当該ゴムは圧縮変形し、速やかに、その変形をもとに戻そうとする力(反発力)が発生する。つまり、免震構造500の衝撃吸収部材530としてゴムを用いた場合、建物510と衝撃吸収部材530との衝突力はゴムの圧縮変形によって一時的に受け止められるが、その直後にゴムの反発力として変換される。その結果、当該反発力を受けた建物510に揺り戻しが生じ、建物510の揺れが助長される虞があり問題であった。図5(b)における矢印は、ゴムの反発力を模擬的に示している。
【0009】
高減衰ゴムは、衝撃力が与えられた場合、変形するとともに、その変形を生じせしめたエネルギー(変形エネルギー)を熱エネルギーに変換する変換作用が発揮されることが知られる。ただし上記変換作用は、高減衰ゴムがせん断変形した際に顕著に発揮されるものの、圧縮変形した場合には小さい。そのため、圧縮変形した高減衰ゴムは、一般的なゴムに近い反発力を発揮し得る。
つまり、地震等により水平方向の揺れが発生した場合に、免震装置における弾性部材として用いられた高減衰ゴムは、せん断変形して揺れを減衰するとともに、上記変換作用の発揮により建物の揺り戻しを抑制する。したがって高減衰ゴムは、免震装置における弾性部材として適しているといえる。
しかし、免震構造500の衝撃吸収部材530として用いられた高減衰ゴムは、建物510との衝突で圧縮変形して衝突力を一端受け止めるものの、一般的なゴムと同様に当該衝突力の一部または全部が反発力に還元され得る。そのため、一般的なゴムと同様に高減衰ゴムも当該反発力により建物510が揺り戻される虞があり問題であった。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、水平方向における上部構造体と下部構造体との相対的な位置変位が甚大である場合でも、これらが直接に衝突することを回避するとともに、上部構造体の揺り戻しを抑制可能な免震構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の免震構造は、上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さく、前記衝撃吸収部材は、前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の免震構造は、上部構造体に衝撃吸収部材が設けられており、水平方向における上部構造体と下部構造体との相対的な位置変位が甚大である場合でも、上部構造体と下部構造体とは、衝撃吸収部材を介して間接的に衝突するにとどまる。したがって、衝突時における上部構造体および下部構造体の損傷が防止される。また本発明における衝撃吸収部材は、発泡樹脂体を用いて構成されるものであって、衝撃吸収部材と下部構造体との衝突によって発生した衝突力を良好に吸収するとともに、ゴムのような反発力を発生しない。そのため、本発明は、衝撃吸収部材の反発力による上部構造体の揺り戻しが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる免震構造の概略図である。
【図2】(a)から(c)は、本発明の第一実施形態における衝撃吸収部材の配置態様の例を示す概略上面図である。
【図3】本発明の第二実施形態にかかる免震構造の部分概略図である。
【図4】(a)から(c)は、本発明の第三実施形態における衝撃吸収部材の態様の例を示す概略側面図である。
【図5】(a)は従来の衝撃吸収部材を備える免震構造の平常時の概略図であり、(b)は従来の衝撃吸収部材を備える免震構造の振動発生時の概略図である。
【図6】(a)および(b)は免震装置を備える建物と建物基礎との相対的な位置変位を説明する説明図である。
【図7】従来の衝撃吸収部材を備える免震構造の動きを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略する。
本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、1つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。図示する本発明の実施態様は、理解容易のために、特定の部材を全体において比較的大きく図示する場合、または小さく図示する場合などがあるが、いずれも本発明の各構成の寸法比率を何ら限定するものではない。
【0015】
本発明または本明細書の記載に関し、特段の断りなく上下という場合には、任意の地点から天方向を上方とし、上記天方向に対し相対的に下向きの方向を下方という。また本発明においていう水平方向とは、上記上下方向に対し厳密に垂直な方向だけではなく、上下方向に交差する略水平方向も含める。
以下の説明において、衝撃吸収部材の側壁側(上部構造体側)の端部を基端部、衝撃吸収部材の対向壁側(下部構造体側)の端部を先端部といい、また水平方向において、上部構造体と下部構造体との間の任意の点から上部構造体側を基端側といい、下部構造体側を先端側という場合がある。
【0016】
<第一実施形態>
以下に、本発明の免震構造の第一実施形態について図1および図2を用いて説明する。また、従来技術を説明するために、適宜、図6および図7を用いる。図1は、本発明の第一実施形態にかかる免震構造100の概略図である。図2(a)から図2(c)は、本発明の第一実施形態における衝撃吸収部材40の配置態様の例を示す概略上面図である。
【0017】
図1に示すとおり、免震構造100は、上部構造体10と、下部構造体20と、上部構造体10と下部構造体20との間に位置する免震装置30と、を備える。下部構造体20は、上部構造体10の側壁12の一部に対し対向するとともに側壁12と離間した対向壁22を有している。免震構造100は、側壁12の、対向壁22に面する位置に発泡樹脂体42を備える衝撃吸収部材40が設置されているとともに、衝撃吸収部材40と対向壁22との間には、空間Sが設けられている(態様1)か、または、対向壁22の、側壁12に面する位置に発泡樹脂体42を備える衝撃吸収部材40が設置されているとともに、衝撃吸収部材40と側壁12との間には、空間Sが設けられる(態様2)。以下に述べる本実施形態では、具体的には、上記態様1を例に本発明について説明する。
【0018】
本実施形態にかかる免震構造100は、衝撃吸収部材40が設けられていることから、水平方向における上部構造体10と下部構造体20との相対的な位置変位が甚大である場合でも、これらが直接に衝突することが回避される。そのため、免震構造100では、大地震の発生などにより、上部構造体10と下部構造体20とが直接に衝突してこれらが損傷することが防止される。
また、本実施形態における衝撃吸収部材40は、発泡樹脂体42を用いて構成されているため、衝撃吸収部材40を介して上部構造体10と下部構造体20とが間接的に衝突した場合に、発泡樹脂体42が圧縮変形して衝突力が吸収される。しかも、発泡樹脂体42は、圧縮変形してもゴムのごとき反発力を発揮しないため、免震構造100は、衝撃を吸収した衝撃吸収部材40の反発力による上部構造体10の揺り戻しが抑制される。
かかる免震構造100によれば、大地震が発生した場合であっても、上部構造体10に対する揺れの伝達量を小さくし、また地盤から下部構造体20に伝達された揺れ自体を減衰するとともに、慣性により発生する上部構造体10の揺れを吸収することが可能である。そのため免震構造100によれば、地震等の発生による上部構造体10の揺れを小さくし、また揺れ時間を従来に比べて短縮することが可能である。
たとえば、上部構造体10が、長周期地震動に共振する虞のある高層ビルなどの長身の建造物であったとしても、免震構造100の実施により、上記共振を防止し、あるいは共振の影響を小さく抑えることが可能である。これによって、長周期地震動の発生による継続的な揺れ、あるいは揺れの増大という特有の地震動から上部構造体10を効果的に保護することが可能である。
【0019】
また本発明者らの検討によれば、衝撃吸収部材を備えない一般的な免震構造は、地震が発生した場合、地盤および下部構造体は大きく揺れる(第一段階の揺れ)が、免震装置が動作するため、上部構造体の揺れは抑制される。ところが、地震の揺れが収まった後、上部構造体10に働く慣性により上部構造体が大きく揺れ続ける(第二段階の揺れ)場合がある。この第二段階の揺れで上部構造体と下部構造体とが衝突する可能性がある。免震構造100は、上述する第二段階の揺れにより上部構造体10および下部構造体20の相対的な位置の変位が甚大となった場合であっても、これらの直接の衝突を防止し、また上部構造体10の揺れ戻しを抑制することができる。
以下に、本実施形態にかかる免震構造100についてさらに詳細に説明する。
【0020】
(上部構造体および下部構造体)
上部構造体10は、地盤上に設けられる構造体であって、免震装置30により地震の揺れを減衰可能な構造体である。たとえば上部構造体10としては、ビル若しくは家屋などの建造物、または鉄塔若しくは看板などの長身の構造物、あるいはかつて長周期地震動において火災事故が発生した石油タンクなどが挙げられる。
一方、下部構造体20は、地盤に構成され、少なくとも免震装置30を設置する底部24と、底部24から上方に起立し、上部構造体10の側面12の一部と所定の距離を空けて対向する対向壁22を備える。たとえば下部構造体20は、上部構造体10の荷重を支持するとともに地盤に伝達する基礎を兼ねることもできる。また、図示省略するが、底部24は、下方に杭基礎など異なる基礎が構築されてもよい。下部構造体20は、実質的に上部構造体10の基礎であってもよいし、基礎と任意の構造とが連続する構造物であってもよい。例えば、対向壁22は、上部構造体10の基礎を構成する基礎壁であってもよいし、あるいは基礎壁と、これに連続する任意の壁とを備える構造物であってもよい。
本実施形態において上部構造体10と下部構造体20とは、免震装置30を介して縁切りされている。
【0021】
(免震装置)
免震装置30は、上部構造体10と下部構造体20との間に配置されており、上部構造体10の下方に位置している。免震装置30は、上部構造体10と下部構造体20とを縁切りすることで下部構造体20から上部構造体10に対し伝達される揺れを抑制するとともに、地盤から下部構造体20に対し揺れが伝達された場合に、水平方向に動作することで、揺れを減衰可能な装置である。たとえば、免震装置30としては、ゴムなどの弾性部材を備え、かかる弾性部材のせん断変形により水平方向の揺れを減衰する装置の他、所謂滑り支承装置などが例示される。上記弾性部材としてはたとえば高減衰ゴムが好ましい。本実施形態では下部構造体20の底部24上に、複数の免震装置30が設けられており、免震装置30の上方に上部構造体10が構築されている。
【0022】
(衝撃吸収部材)
衝撃吸収部材40は、上部構造体10における側壁12の、対向壁22に面する位置に配置され固定されている。本実施形態における衝撃吸収部材40は、上面が、地盤面(G.L)よりも低い高さに位置している。ただし、これは本発明を限定するものではなく、たとえば、対向壁22が地盤面G.Lを超えて上方まで延在している場合には、適宜、衝撃吸収部材40の上面も地盤面G.Lを超えた高さになるよう配置されてもよい。衝撃吸収部材40が設けられることにより、上部構造体10と下部構造体20との相対的な位置変位が甚大な場合であっても、これらが直接に衝突することが回避されている。本実施形態における衝撃吸収部材40は、中実の発泡樹脂体42からなる直方体である。ただし本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明は、内部に空隙または空洞が形成された発泡樹脂体42を包含する。
【0023】
衝撃吸収部材40は、発泡樹脂体を備える。本実施形態における衝撃吸収部材40は実質的に発泡樹脂体42のみから構成されている。
上部構造体10と下部構造体20との相対的な位置変位が甚大な場合、衝撃吸収部材40と対向壁22とが衝突し、発泡樹脂体42が圧縮変形し、これによって衝突のエネルギーが発泡樹脂体42に吸収される。そのため、衝突による上部構造体10および下部構造体20の損傷が防止される。圧縮変形した発泡樹脂体42は、ゴムのような反発力を発揮しないため、上部構造体10が揺り戻されることが抑制される。
発泡樹脂体42において、衝突のエネルギーを吸収する圧縮変形とは、主として塑性変形を意味する。即ち、発泡樹脂体42は、対向壁22と衝突した際、速やかに塑性変形する性質を有しており、かかる塑性変形によって衝突のエネルギーを吸収する。発泡樹脂体42の厚み寸法や揺れの大きさにもよるが、発泡樹脂体42は、一般的には、一度の衝突では全てが塑性変形せず、衝突面側が塑性変形するとともに、その内側には非塑性変形領域(弾性変形し形状が復元する領域)を残す。そのため、発泡樹脂体42は、繰り返し、衝突のエネルギーを吸収することが可能である。尚、ここでいう塑性変形とは、圧縮のエネルギーを吸収可能な程度の圧縮変形を意味し、具体的には、圧縮変形により永久的に形状が復元しない変形だけではなく、圧縮変形し、瞬時には形状が復元しないものの時間をかけて形状の一部または全部が復元する変形も含む。
【0024】
発泡樹脂体42の塑性変形量が閾値よりも多くなった場合、または大地震などが発生した後等には、適宜、発泡樹脂体42の一部または全部を交換すればよい。即ち、本発明における発泡樹脂体42は、塑性変形により衝突のエネルギーを吸収することを前提とする部材であって、適宜のタイミングで交換可能な部材である。ゴムに比べて、発泡樹脂体42は軽量であり、取扱い性も容易なため、交換等の作業が容易である。
塑性変形量は、設置直後の発泡樹脂体42の厚み寸法(先端基端方向における寸法)に対する、計測時の厚み寸法の比率が設定値を下回った場合を目安にするとよい。
【0025】
また従来のゴムを衝撃吸収部材530として用いる免震構造500に比べ、本実施形態にかかる免震構造100は、免震装置30の劣化速度を緩やかにし寿命を延ばし得る。その理由について、図6(a)(b)および図7を用いて説明する。図6(a)(b)は、免震装置を備える建物510および建物基礎550との相対的な位置変位を説明する説明図である。図7は、ゴムからなる衝撃吸収部材530を備える免震構造500の動きを説明する説明図である。図6(a)(b)および図7は、いずれも建物510の上面から観察した状態を示し、建物510の下方に設けられた免震装置が図示省略されている。
【0026】
地震振動は、地盤を介して様々な方向から建物基礎550に伝達される。地盤から伝達された地震振動(揺れ)は、免震装置に設けられたゴム(以下では免震ゴムと称す)のせん断変形により減衰されるが、その際、建物基礎550と建物510との相対的な位置変位が生じる。建物基礎550と建物510との相対的な位置変位は、図6(a)に示すとおり、矢印a1方向のように直線的に生じる場合だけではなく、図6(b)に示すとおり、矢印b1方向のように回転方向に生じる場合がある。しかし図6(a)(b)のいずれの場合でも、免震装置に設けられた免震ゴムは、せん断変形後、せん断方向とは反対の方向(即ち、図6(a)における矢印a2方向、または図6(b)における矢印b2方向)に動作し、元の形状に戻ろうとする。ゴムは、一般的に、変形方向が多方向に亘るほど劣化が早い傾向にあるため、地震などにより免震ゴムにせん断変形が生じた場合には、当該免震ゴムがせん断方向とは反対の方向に動作して速やかにもとの形状に戻ることは望ましいといえる。
【0027】
ところが、図7に示すとおり、ゴムからなる衝撃吸収部材530を備える免震構造500において、回転方向(矢印b1方向)に建物基礎550と建物510との相対的な位置変位が生じ、衝撃吸収部材530と衝突した場合、衝撃吸収部材530の反発力により、建物510は、揺れた方向(即ち矢印b1方向)に直接関連のない不定な方向(たとえば矢印c1方向、矢印c2方向)に揺り戻される。そのため、免震装置に設けられた免震ゴムは、複雑な方向にせん断変形を繰り返しながらもとの形状に戻ることになり、当該免震ゴムの劣化が進み、結果として免震装置の寿命を短くする虞があった。
【0028】
これに対し、本実施形態にかかる免震構造100は、ゴムの替りに発泡樹脂体42を用いた衝撃吸収部材40を上部構造体10側に備える。上述のとおり、発泡樹脂体42は、ゴムのような反発力が生じ難いため、回転方向(図7の矢印b1方向参照)に免震装置30に備わる免震ゴムがせん断変形し、衝撃吸収部材40と対向壁22とが衝突した場合であっても、図7に示すような不定の方向への揺り戻しが抑制される。そのため、免震構造100では、免震装置30に設けられた免震ゴムが、回転方向にせん断変形した後、複雑な方向にせん断変形を繰り返しながらもとの形状に戻ることによって劣化が進むという問題が防止される。
【0029】
本実施形態では図1に示すとおり、衝撃吸収部材40と対向壁22の内側面(上部構造体10に面する側の面)との間には空間Sが確保されている。これによって、地盤において揺れが発生した際に、免震構造100は、上部構造体10と下部構造体20との相対的な位置変位を、衝撃吸収部材40に物理的に影響のない範囲である程度許容する。換言すると、空間Sが確保されることで、衝撃吸収部材40は、わずかな地盤の揺れの発生等で絶えず衝撃の負荷を受けることがない。
【0030】
空間Sを介する衝撃吸収部材40と対向壁22との距離mは、特に限定されない。しかし、距離mが小さすぎると多少の揺れでも衝撃吸収部材40が対向壁22に衝突し、衝撃吸収部材40を構成する発泡樹脂体42の負荷が大きくなる。これにより、大地震の際の衝撃吸収部材42におけるエネルギー吸収効果が小さくなるか、あるいは、衝撃吸収部材40の交換の頻度が増す虞がある。かかる観点からは、距離mは、たとえば、3cm以上であることが好ましく、5cm以上であることがより好ましく、8cm以上であることがさらに好ましい。
また、距離mが大きすぎると免震装置30に設けられた免震ゴムのせん断変形が大きくなり当該免震ゴムの劣化が進む虞があり、また免震装置30の慣性力により二次的に生じる上部構造体10の揺れが長く続く虞がある。かかる観点からは、距離mは、100cm以下であることが好ましく、50cm以下であることがより好ましく、30cm以下であることがさらに好ましく、10cm以下であることが特に好ましい。
【0031】
従来の免震装置が設けられた上部構造体は、免震装置が設けられていない上部構造体に比べて、中小規模の地震あるいは強風などによっても揺れが大きく、かつ揺れが持続する傾向にあった。これは、免震装置における免震ゴムがせん断変形するためである。このような揺れは、上部構造体に居る人に不快感を与える虞がある。
これに対し、本実施形態において、上記空間Sにおける距離mが3cm以上100cm以下の適度な範囲であれば、中小規模の地震や強風などの影響を受けた場合であっても、上部構造体10の揺れの発生や揺れの持続を抑制することが可能である。
【0032】
衝撃吸収部材40の基端部から先端部までの寸法nは、特に限定されず、上述する距離mおよび上部構造体10の規模などを勘案して適宜決定することができる。
【0033】
図1に示すとおり衝撃吸収部材40は、上部構造体10の側壁12の、対向壁22に面する位置に設置されている。衝撃吸収部材40は、上部構造体10の周方向に連続して設けられてもよいが、図2(a)に示すように、上部構造体10の周方向における任意の位置に、断続的に配置されても、充分に初期の課題を達成することができる。複数の衝撃吸収部材40を適当な間隔で配置し、地震発生後または定期点検等において、断続的に配置した複数の衝撃吸収部材40それぞれをチェックし、適宜交換することができる。
【0034】
また上部構造体10と下部構造体20とが衝突し易い箇所の例として、上部構造体10の角部が挙げられる。そこで、図2(b)に示すように、上部構造体10の角部の頂点16近傍に衝撃吸収部材40が配置され、あるいは、図2(c)に示すように、上部構造体10の角部の頂点16を覆う箇所に衝撃吸収部材40が配置されることが好ましい。かかる態様によれば、免震装置30に設けられた免震ゴムが回転方向にせん断変形した場合であっても、頂点16が下部構造体20の対向壁22に衝突することを回避することができる。
ここで頂点16とは、上部構造体10を水平方向に切断した際の断面において確認される頂点を意味する。頂点16の近傍に衝撃吸収部材40が配置されるとは、衝撃吸収部材40の、頂点16側の端部が頂点16に接する位置に配置される態様から、隣り合う頂点16、16間における2分の1の地点である中間点18よりもどちらかの頂点16に近い位置に衝撃吸収部材40が配置される態様までを含む。
【0035】
発泡樹脂体42としては、押出発泡成形されたものよりも、型内発泡成形されたものが好ましい。押出発泡成形された押出発泡樹脂体は、数%の圧縮歪(%)において急激に座屈する傾向にあるが、型内発泡成形された型内発泡樹脂体は、圧縮歪(%)の増加に伴い座屈することなく圧縮応力が漸増するからである。
【0036】
衝撃吸収部材40に用いられる発泡樹脂体42は、適度な衝撃吸収力を発揮するものであればよく、たとえばポリプロピレン系樹脂発泡体、ポリスチレン系樹脂発泡体、またはポリエチレン系樹脂発泡体などから構成することができる。なかでも、発泡樹脂体42として、ポリプロピレン系樹脂発泡体またはポリエチレン系樹脂発泡体が好ましく、ポリプロピレン系樹脂発泡体がより好ましく、型内発泡により形成されたポリプロピレン系樹脂発泡体であることがさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡体およびポリエチレン系樹脂発泡体は圧縮歪に対する耐久性が高いからである。
【0037】
建物基礎の一部や置き換え地盤などに用いられる発泡樹脂体(以下、基礎用発泡樹脂体ともいう)は、一般的に、繰り返しの交換を予定しないものであり、また建造物や地盤の荷重に長期的に耐えうる物性を備えるものが選択される。基礎用発泡樹脂体としては、具体的には、長期クリープ特性に優れるEPS(型内発泡により成形されたポリスチレン系樹脂)などが好例である。これに対し型内発泡により形成されたポリプロピレン系樹脂またはポリスチレン系樹脂は、同じ樹脂量において、圧縮応力が高く、またエネルギー吸収量が高い傾向にあり、発泡樹脂体42として適している。また、型内発泡成形されたポリプロピレン系樹脂発泡体またはポリスチレン系樹脂発泡体は、発泡樹脂粒子1粒ずつの変形により良好に衝撃を吸収することができる。エネルギーを吸収した発泡樹脂体42は、一部が塑性変形するが、衝突により塑性変形量が多くなった発泡樹脂体42は、適宜交換すればよい。
【0038】
発泡樹脂体42は、適度に圧縮強度が高いことが好ましく、発泡樹脂体42の圧縮強度の下限は好ましくは50kN/m^(2)以上であり、より好ましくは100kN/m^(2)以上であり、さらに好ましくは150kN/m^(2)以上である。
発泡樹脂体42の圧縮強度の上限は、特に限定されないが、好ましくは400kN/m^(2)以下であり、より好ましくは300kN/m^(2)以下である。発泡樹脂体42の圧縮強度の上限範囲が上述する範囲であることによって、衝撃吸収部材40と対向壁22との衝突エネルギーが良好に吸収される。
上記圧縮強度は、JIS K 7220:2006に示される計測方法に準じて計測することができる。具体的には、縦寸法約50mm×横寸法約50mm×厚さ約50mmの試験片を作成し、該試験片を載荷速度10mm/分で圧縮せしめ5%圧縮ひずみ時の圧縮応力を測定することができる。
【0039】
<第二実施形態>
以下に、本発明の免震構造の第二実施形態について図3を用いて説明する。図3は、本発明の第二実施形態にかかる免震構造100の部分概略図である。第二実施形態にかかる免震構造100は、衝撃吸収部材40に荷重分散板44が設けられている点、ならびに上部構造体10および下部構造体20に金属補強手段50が設けられている点で、第一実施形態と相違し、その他の点については、適宜第一実施形態と同様に実施することが可能である。そのため、以下では主として第二実施形態に特有の構成について説明する。
【0040】
本実施形態における衝撃吸収部材40は、中間部において、側壁12に対し略平行な方向に延在する荷重分散板44が配置されている。ここで中間部とは、衝撃吸収部材40の先端部と基端部との間の任意の位置を意味する。荷重分散板44の先端側および基端側にはそれぞれ、発泡樹脂体42、42が配置されている。本実施形態における衝撃吸収部材40は、荷重分散板44を基準として、基端側の発泡樹脂体42の先端側の側面42aと、先端側の発泡樹脂体42の基端側の側面42bとが、荷重分散板44の両側面にそれぞれ接合されている。
【0041】
荷重分散板44は、衝撃吸収部材40の先端部において負荷された衝突力(荷重)を基端側に均等に伝達させるための部材である。衝撃吸収部材40により衝突力(荷重)が分散されて基端側の発泡樹脂体42に伝達されるため、荷重分散板44よりも基端側に位置する発泡樹脂体42の劣化を遅らせることができる。したがって、地震が発生した後、または定期点検などで、適宜、荷重分散板44よりも先端側の発泡樹脂体42だけを交換するとよい。
【0042】
荷重分散板44は、先端側の発泡樹脂体42に負荷された荷重を受け止めて当該荷重を面内に分散可能な部材であればよく、例えば所定厚みの金属板や硬質樹脂板などが挙げられるがこれに限定されない。より具体的な例としては、荷重分散板44がステンレスまたは防錆加工がなされた鉄などの金属部材からなる板状体であり、発泡樹脂体42がポリプロピレン系樹脂発泡体であることが好ましい。鉄やステンレスなどの金属とポリプロピレン系樹脂発泡体は、熱融着などの簡易な方法でしっかりと接合されるからである。そのため先端側の発泡樹脂体42を交換する場合には、金属板である荷重分散板44から先端側の発泡樹脂体42を剥離させて取り外し、その後、熱融着にて新しい発泡樹脂体42を荷重分散板44の表面に容易に接合することができる。
【0043】
荷重分散板44の寸法および形状は特に限定されない。たとえば先端側からの荷重を基端側の発布樹脂体42により平均的に分散可能であるという観点からは、荷重分散板44は、基端側の発泡樹脂体42の先端側の側面42aと、略同等の形状であることが好ましい。
【0044】
本実施形態にかかる免震構造100は、側壁12の衝撃吸収部材40が配置された第一領域56、または対向壁22の衝撃吸収部材40に対向する第二領域58の少なくともいずれか一方に金属補強手段50が設けられている。図3には、第一領域56および第二領域58のいずれにも金属補強手段50が設けられた例を図示している。金属補強手段50は、第一領域56および第二領域58それぞれと同じ面積範囲で設けられてもよいし、図3に示すように、第一領域56または第二領域58を含みこれより大きな面積範囲で設けられてもよい。
【0045】
免震装置が設けられた従来の免震構造は、建物(上部構造体)と建物基礎(下部構造体)とが衝突しない前提で強度計算がなされているケースが多い。そのため、従来の免震構造に後付で衝撃吸収部材40を設けて免震構造100を実施する場合には、上部構造体10および下部構造体20をより充分に保護するという観点から、所定の領域に金属補強手段50を設けるとよい。
【0046】
金属補強手段50は、金属部材を用い、所定の領域の構造上の強度を向上させる手段である。図3に示すように、本実施形態における金属補強手段50は、ステンレス板や防錆加工がなされた鉄板などからなる板状の金属部材であり、当該板状の金属部材を、所定の領域(即ち、第一領域56、第二領域58を含む領域)にアンカーボルトなどの固定具52で固定することで補強を実施している。このように所定領域における上部構造体10または下部構造体20の表面から金属板などの金属補強手段50を配置固定することで、後付でも容易に免震構造100の保護を強化することができる。図示省略する他の金属補強手段50の設置としては、上部構造体10または下部構造体20の所定領域の内部に金属板を埋設し、あるいは、鉄筋の本数を増加させるなどが挙げられる。
【0047】
ところで、本実施形態では、金属補強手段50として、金属板を、上部構造体10の側壁12の第一領域56に配置固定している。当該金属板の先端側の面には衝撃吸収部材40の基端部が接合されており、当該金属板は、衝撃吸収部材40の基板54として兼用されている。このように本実施形態では、基板54である金属板に衝撃吸収部材40が支持されるとともに、当該基板54が所定の領域に配置工程されることで、上部構造体10に対する衝撃吸収部材40の取り付け姿勢が安定する。このように金属板を、基板54および金属補強手段50として兼用することによって、少ない部品点数で、衝撃吸収部材40の設置安定性と上部構造体10の補強の両方を図ることができる。尚、金属補強手段50との兼用を考えない場合には、基板54は、金属以外の部材から構成されてもよい。
【0048】
<第三実施形態>
以下に、本発明の免震構造の第三実施形態について図4(a)から図4(c)を用いて説明する。図4(a)から図4(c)は、本発明の第三実施形態における衝撃吸収部材40の種々の態様の例を示す概略側面図である。第三実施形態に示す衝撃吸収部材40は、第一実施形態または第二実施形態に説明する免震構造100における衝撃吸収部材40として適宜使用することができる。
【0049】
本実施形態において説明する衝撃吸収部材40は、側壁12から対向壁22に向かって、断面積が連続的または断続的に減少している。換言すると、本実施形態における衝撃吸収部材40は、基端側と先端側とを結ぶ先基端方向に対し垂直に切断してなる切断面の面積が、基端側から先端側に向けて、連続的または断続的に減少している。このように先端側ほど断面積が小さい衝撃吸収部材40は、対向壁22と衝突した際に塑性変形し易く衝撃を良好に吸収し易い。本実施形態における衝撃吸収部材40において、先端側を構成する発泡樹脂体だけが塑性変形した場合、塑性変形した部分を含む先端側の発泡樹脂体だけを新しい発泡樹脂体に付け替えればよいため、メンテナンスが容易である。
【0050】
図4(a)に示す衝撃吸収部材40は、基端側から先端側に向けて断面積が連続的に減少する発泡樹脂体42を備える。発泡樹脂体42は、所定面積の先端部45を有する円錐形状であり、側面がテーパーしている。かかる衝撃吸収部材40は、先端部45の面積よりも基端部46の面積の方が大きい。上記円錐形状の発泡樹脂体42の基端部46は、基板54の一方側面に接合されており、基板54は、アンカーボルトなどの固定具52で上部構造体10の側壁12に固定されている。上記円錐形状の発泡樹脂体42の先端側が塑性変形した場合、発泡樹脂体42全体を基板54から切り離し新しい発泡樹脂体と付け替えてもよいが、塑性変形した部分を含む先端側の一部分を切断し、部分的に新しい発泡樹脂体42と付け替えてもよい。
【0051】
図4(b)に示す衝撃吸収部材40は、基端側から先端側に向けて断面積が断続的に減少する発泡樹脂体を備える。当該発泡樹脂体は、一体成形されていてもよいが、図示するように、先端ブロック47、中間ブロック48、および基端ブロック49を個別に形成し、これらを順に接合して階段状の上記発泡樹脂体を構成してもよい。図4(b)では、先端ブロック47と基端ブロック49との間に1つの中間ブロック48が配置された態様を示したが、中間ブロック48は、2個以上であってもよいし、あるいは、なくてもよい。先端ブロック47、中間ブロック48、および基端ブロック49それぞれは、断面積略同一の構造体であって、たとえば円柱体、直方体または立方体などである。上記階段状の発泡樹脂体において、先端ブロック47のみ、あるいは先端ブロック47および中間ブロック48が塑性変形した場合、ブロック単位で切り離し、新しいブロック状の発泡樹脂体と付け替えてもよい。
【0052】
図4(c)に示す衝撃吸収部材40は、基端ブロック49が断面積略同一の構造体であり、先端ブロック47が、先端側に向かって先細りであり、かつ所定面積の先端部45を有する円錐形状である。このように、衝撃吸収部材40を構成する発泡樹脂体は、断面積が断続的に減少する箇所と、連続的に減少する箇所の両方を有していてもよい。
また図4(c)に示す衝撃吸収部材40は、先端ブロック47と基端ブロック49との間に荷重分散板44が設けられている。断面積のサイズが変化する任意の境界で荷重分散板44を設けることで、小面積の発泡樹脂体で受けとめた荷重を、大面積の発泡樹脂体に良好に分散することができる。もちろん図4(a)に示す衝撃吸収部材40の先端基端方向における任意の位置に荷重分散板44を配置してもよいし、図4(b)に示す衝撃吸収部材40の先端ブロック47と中間ブロック48との境界、中間ブロック48と基端ブロック49との境界、または図示省略する2以上の中間ブロック48を有する場合には、それら中間ブロック48、48の境界に、荷重分散板44を配置してもよい。
【0053】
図4(b)または図4(c)に示すように複数の発泡樹脂ブロックを接合して衝撃吸収部材40に用いる発泡樹脂体を構成する場合、これら複数の発泡樹脂ブロックは、同一の部材を用い同一の物性を備えるものであってもよいし、それぞれが異なる部材および/または異なる物性の発泡樹脂ブロックであってもよい。
【0054】
以上に本発明の第一実施形態から第四実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0055】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、前記側壁の、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられているか、または、前記対向壁の、前記側壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記側壁との間には、空間が設けられていることを特徴とする免震構造。
(2)前記発泡樹脂体がポリプロピレン系樹脂発泡体またはポリエチレン系樹脂発泡体である請求項1に記載の免震構造。
(3)前記衝撃吸収部材の中間部において、前記側壁に対し略平行な方向に延在する荷重分散板が配置されている請求項1または2に記載の免震構造。
(4)前記上部構造の角部の頂点近傍または頂点を覆う箇所に前記衝撃吸収部材が配置されている請求項1から3のいずれか一項に記載の免震構造。
(5)前記側壁の前記衝撃吸収部材が配置された第一領域、または前記対向壁の前記衝撃吸収部材に対向する第二領域の少なくともいずれか一方に金属補強手段が設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の免震構造。
(6)前記衝撃吸収部材は、前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少している請求項1から5のいずれか一項に記載の免震構造。
【符号の説明】
【0056】
10・・・・・上部構造体
12・・・・・側壁
16・・・・・頂点
18・・・・・中間点
20・・・・・下部構造体
22・・・・・対向壁
24・・・・・底部
30・・・・・免震装置
40・・・・・衝撃吸収部材
42・・・・・発泡樹脂体
42a、42b・・・・・側面
44・・・・・荷重分散板
45・・・・・先端部
46・・・・・基端部
47・・・・・先端ブロック
48・・・・・中間ブロック
49・・・・・基端ブロック
50・・・・・金属補強手段
52・・・・・固定具
54・・・・・基板
56・・・・・第一領域
58・・・・・第二領域
100・・・・・免震構造
500・・・・・免震構造
512・・・・・側壁
510・・・・・建物
520・・・・・擁壁内面
522・・・・・擁壁
530・・・・・衝撃吸収部材
540・・・・・免震装置
550・・・・・建物基礎
a1、a2、b1、b2、c1、c2・・・・・矢印
m・・・・・距離
n・・・・・寸法
S・・・・・空間
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と、下部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に位置する免震装置と、を備え、
前記下部構造体が、前記上部構造体の側壁の一部に対し対向するとともに前記側壁と離間した対向壁を有し、
前記側壁の表面に、前記対向壁に面する位置に発泡樹脂体を備える衝撃吸収部材が設置されているとともに、前記衝撃吸収部材と前記対向壁との間には、空間が設けられており、前記側壁の表面に設置された前記衝撃吸収部材と前記対向壁との距離が、前記側壁と前記対向壁との最短距離よりも小さく、
前記衝撃吸収部材は、前記側壁から前記対向壁に向かって、断面積が連続的または段階的に減少していることを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記発泡樹脂体がポリプロピレン系樹脂発泡体またはポリエチレン系樹脂発泡体である請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材の中間部において、前記側壁に対し略平行な方向に延在する荷重分散板が配置されている請求項1または2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記上部構造の角部の頂点近傍または頂点を覆う箇所に前記衝撃吸収部材が配置されている請求項1から3のいずれか一項に記載の免震構造。
【請求項5】
前記側壁の前記衝撃吸収部材が配置された第一領域、または前記対向壁の前記衝撃吸収部材に対向する第二領域の少なくともいずれか一方に金属補強手段が設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の免震構造。
【請求項6】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-08 
出願番号 特願2017-235078(P2017-235078)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (E04H)
最終処分 維持  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 土屋 真理子
有家 秀郎
登録日 2019-03-15 
登録番号 特許第6494054号(P6494054)
権利者 中村物産有限会社
発明の名称 免震構造  
代理人 細井 勇  
代理人 栗田 由貴子  
代理人 細井 勇  
代理人 栗田 由貴子  

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