• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16C
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16C
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F16C
管理番号 1364909
異議申立番号 異議2019-700747  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-19 
確定日 2020-06-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6487957号発明「焼結軸受の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6487957号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。 特許第6487957号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6487957号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成24年7月26日に出願された特願2012-165844号の一部を平成29年3月17日に新たな特許出願として出願され、平成31年3月1日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人玉井伸幸(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?2に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。

本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和1年 9月19日 :特許異議申立人による特許異議の申立て
令和1年12月18日付け:取消理由通知書
令和2年 3月 6日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出

なお、特許異議申立人に対して、令和2年3月23日付けで、特許権者により訂正の請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、期間内に意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年3月6日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)?(4)のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受において、
原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、
黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、かつ軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%?80%とし、
原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%?15重量%とし、
前記造粒粉の平均粒径が60μm?500μmであり、
潤滑油を含浸させずに使用されることを特徴とする焼結軸受。」
と記載されているのを、
「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受の製造方法において、
原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、
黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、かつ軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で28%よりも大きく、80%以下とし、
前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%?15重量%の量とし、
原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%?15重量%とし、
前記造粒粉の平均粒径が60μm?500μmであり、
潤滑油を含浸させずに使用されることを特徴とする焼結軸受の製造方法。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「焼結軸受。」と記載されているのを、「焼結軸受の製造方法。」に訂正する。

(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の【発明の名称】に、「焼結軸受」と記載されているのを、「焼結軸受の製造方法」に訂正する。

(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0001】に、「焼結軸受」と記載されているのを、「焼結軸受の製造方法」に訂正する。

2 一群の請求項
訂正前の請求項1?2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?2に対応する訂正後の請求項1?2は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されている。

3 訂正の要件
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
(ア)訂正事項1は、訂正前の請求項1における「原料粉を成形および焼結して得られた」を、「原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られた」として、成形および焼結した後の処理を特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項1は、訂正前の請求項1における「鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉」に関して、「前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%?15重量%の量」とすることを特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ウ)訂正事項1は、訂正前の請求項1における、軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で「25%?80%」と記載されているのを、「28%よりも大きく、80%以下」として、上記面積比の数値範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0038】?【0044】の記載との関係で不合理を生じている記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(エ)訂正事項1は、訂正前の請求項1が「焼結軸受」という物の発明であるにもかかわらず、その物の製造方法が記載されているために不明瞭となっていたものを、「焼結軸受の製造方法」とすることにより、不明瞭な記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(オ)したがって、訂正事項1の各訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1が、「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られ」、「原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%?15重量%とし、前記造粒粉の平均粒径が60μm?500μm」とする製造条件により得られた、「軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%?80%」という特性を有する「焼結軸受」の発明であったものを、
「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られ」、「原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%?15重量%の量とし、原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%?15重量%とし、前記造粒粉の平均粒径が60μm?500μm」とする製造条件により、「軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で28%よりも大きく、80%以下」という特性を有する「焼結軸受」の「製造方法」の発明とするものである。
すなわち、訂正事項1は、訂正前の請求項1に特定されていた製造方法の製造条件や、当該製造方法により得られた物の特性を、より狭い範囲に限定するとともに、「物の発明」から「物を生産する方法の発明」へと、発明のカテゴリーを変更するものである。

(イ)ところで、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項において、訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定しているのは、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が、訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるためである。
ここで、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」の実施について比較すると、「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当し、「物の発明」の実施と「物を生産する方法の発明」の実施において、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。

(ウ)これを踏まえ、訂正前の請求項1に係る発明と訂正後の請求項1に係る発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為が、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為を、実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
訂正前の請求項1に係る発明の「実施」には、訂正前の請求項1に特定されている製造条件により製造され、かつ、当該請求項に特定されている特性を有する「焼結軸受」についてだけでなく、当該製造条件により製造され、かつ、当該請求項に特定されている特性を有する「焼結軸受」と同一の構造を有する「焼結軸受」についても含まれる。それに対し、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」には、訂正前の請求項1に特定されていた製造条件より狭い範囲に限定された、訂正後の請求項1に特定されている製造条件により製造され、かつ、訂正前の請求項1に特定されていた特性より狭い範囲に限定された特性を有する「焼結軸受」についてだけが含まれるものである。
よって、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはなく、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。

(エ)したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項の有無
(ア)願書に添付した明細書の段落【0032】には、原料粉を成形および焼結した後、「サイジングを施すこと」が記載されている。

(イ)願書に添付した明細書の段落【0025】には、造粒のためのバインダの量は、「黒鉛微粉に対して5重量%?15重量%」とすることが記載されている。

(ウ)願書に添付した明細書の段落【0038】には、従来品の軸受面における黒鉛の面積比は「28%」であることが記載されている。
よって、訂正前の請求項1に記載されていた、軸受面における遊離黒鉛の割合の面積比での数値範囲「25%?80%」のうち、最小値を変更して、「28%よりも大きく、80%以下」とする訂正後の数値範囲は、訂正前の数値範囲内のものであり、訂正後の数値範囲の最小値を特定する数値「28%」は、願書に添付した明細書に記載されている。
そうすると、訂正後の数値範囲は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。

(エ)願書に添付した明細書の段落【0021】?【0032】には、焼結軸受の製造方法が記載されている。

(オ)したがって、訂正事項1の各訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項2が「焼結軸受」という物の発明であるにもかかわらず、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に、その物の製造方法が記載されているために不明瞭となっていたものを、「焼結軸受の製造方法」とすることにより、不明瞭な記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記(1)イと同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項の有無
願書に添付した明細書の段落【0021】?【0032】には、焼結軸受の製造方法が記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3及び4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3及び4は、上記訂正事項1及び2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3及び4は、上記訂正事項1及び2と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項の有無
訂正事項3及び4は、上記訂正事項1及び2と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

エ 明細書の訂正と関係する請求項
訂正事項3及び4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、これは一群の請求項1?2に関係する訂正である。
したがって、訂正事項3及び4は、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。

4 小括
上記3のとおり、訂正事項1?4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
なお、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前のすべての請求項に対して特許異議の申立てがされているため、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?2に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受の製造方法において、
原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、
黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、かつ軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で28%よりも大きく、80%以下とし、
前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%?15重量%の量とし、
原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%?15重量%とし、
前記造粒粉の平均粒径が60μm?500μmであり、
潤滑油を含浸させずに使用されることを特徴とする焼結軸受の製造方法。
【請求項2】
前記造粒粉の見かけ密度を、1.0g/cm^(3)以下とした請求項1に記載の焼結軸受の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?2に係る特許に対して、当審が令和1年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(進歩性)本件特許の請求項1?2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<引用文献等>
甲第1号証:特開2006-207783号公報
甲第2号証:特公平6-21140号公報
甲第3号証:特開2002-187924号公報
甲第4号証:特開2003-48935号公報
甲第5号証:社団法人日本トライボロジー学会固体潤滑研究会編、「新版 固体潤滑ハンドブック」、第1版、株式会社養賢堂、2010年3月2日、p17-18
甲第6号証:特開平11-117044号公報
甲第8号証:特開昭57-63653号公報
甲第9号証:特開昭57-73149号公報
甲第10号証:特開昭57-123951号公報

2 甲号証の記載
(1)甲第1号証
取消理由通知において引用した甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
ア「【0007】
この発明によれば、EGRバルブのバルブステムの軸部と摺接する焼結摺動層が、C:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、残部が主にNi-Cu-Sn系合金からなる組成とされる。焼結摺動層は、Cの残部が、Ni-Cu-Sn系合金とされており、Cの添加によって低下した焼結摺動層の強度を、Snを添加することによって、向上させることができる。また、焼結摺動層は、Ni-Cu-Sn系合金にCが固溶せず、CがNi-Cu-Sn系合金から遊離した状態とされ、Ni-Cu-Sn系合金の金属結合によって高い強度が確保される。また、Cとして黒鉛を用いると、遊離黒鉛の粒界にSnが析出して焼結摺動層のNi-Cu-Sn系合金の表面がSnリッチとなり高い耐食性が確保できる。
また、回転摺動用としては、正逆回転でのCの堆積を避けるため、C:1.5(mass%)以上3.0(mass%)以下が好適とされ、軸線方向摺動用としては、バルブステムの軸部の往復動でCの介在を確保するため、C:3.0(mass%)以上7.0(mass%)以下が特に好適である。」

イ「【0033】
次に、以上のように構成された粉末成形装置20により、圧粉体を形成する方法について説明する。・・・
次に、図3に示すように、第1下パンチ23aを後退移動させ、第1空間31を形成した後に、図4に示すように、第1シューボックス29aを前進移動させ、第1空間31の上方に到達したときに、このシューボックス29aにより第1空間31に第1粉末33を充填する(図9に示すB)。この際、第2空間32に充填された第2粉末34の上面にも第1粉末33が堆積される。
【0034】
ここで、第1粉末は、黒鉛:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、二硫化モリブデンMoS_(2):1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、残部がNi-Cu-Sn系合金:約86.0(mass%)以上97.0(mass%)以下と不可避不純物とからなる組成とされる。ここで、黒鉛は、粉末を圧粉する際により安定した成形性を確保するため、約数μmの天然又は人造黒鉛を材料として約50μm?200μmに造粒したものが好ましい。
【0035】
その後、図5に示すように、仕切り筒22を後退移動させた後に(図9に示すC)、図6に示すように、上パンチ26を前進移動し、このパンチ26の下面と、第1、第2下パンチ23a、23bおよび仕切り筒22の上面とにより第1、第2粉末33、34を前記軸線方向に圧縮する。この際、上パンチ26をその前進端位置に到達させた状態で、第1、第2下パンチ23a、23b、および仕切り筒22をダイ21に対して漸次前進移動させ、第1、第2粉末33、34をさらに圧縮する(図9に示すD)。以上により、内周面側および軸方向における一方の端面(図示の例では上面)10eが第1粉末33により一体的に形成され、外周面側が第2粉末34により形成された圧粉体35を形成する。
【0036】
そして、・・・、圧粉体35を前記空間31、32から取り出す(図9に示すE)。
次に、この圧粉体35を焼結することにより、図1に示す摺動部材10が形成される。・・・
【0037】
以上説明したように、本実施形態による摺動部材10によれば、焼結摺動層10aが、黒鉛:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、MoS_(2):1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、残部がNi-Cu-Sn系合金から構成されており、Ni-Cu-Sn系合金が、約86.0(mass%)以上であることから、EGRバルブ140のバルブステム142が往復及び回転運動することによって発生する力に対して十分な機械的強度が確保され、Cと固体潤滑剤の自己潤滑性に基づいて、バルブステム142が往復及び回転運動する際の摺動抵抗を小さく維持することができるため、非常に高い潤滑性が確保される。したがって、EGRバルブ140のバルブステム142の回転摺動や軸線方向摺動のいずれに対しても安定した潤滑性が確保される。・・・」

ウ「【0043】
次に、この発明の第2の実施形態について説明する。
図10は、本発明に係る第2の実施形態を示す図であって、摺動部材をEGRバルブ140のバルブステム142の軸受(摺動部材)15に用いる場合について説明する。
第2の実施の形態の軸受15は、内周面15c側を構成する焼結摺動層15aと、外周面側を構成する焼結金属層15bとを備えており、焼結金属層15bは内周面15を構成する孔と同軸の大径外周面15dと、小径外周面15eとを備えた二段円筒形とされている。
【0044】
また、軸受15は、焼結摺動層15aが、黒鉛:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、残部が主にNi-Cu-Sn系合金から構成され、Ni:12?40(mass%)、Sn:5?18.5(mass%)、残部がCuの組成とされている。
また、EGRバルブ用としては、バルブステムの軸部が往復動する際にCの介在を確保するために、黒鉛:3.0(mass%)以上7.0(mass%)以下が特に好適である。
【0045】
また、焼結金属層15bは、気孔率が12%より大きく35%以下に構成され、焼結摺動層10aと互いに焼結結合されている。
また、摺動部材15には潤滑油を含油させていない。
また、Ni-Cu-Sn系合金の粒径は、黒鉛の粒界に安定して保持されるように平均粒径約40μmとすることが好ましい。他の事項については、第1の実施の形態と同様である。」

エ「【0049】
第2の実施の形態において、黒鉛はNi-Cu-Sn系合金に固溶されずに、焼結摺動層15aは遊離した遊離黒鉛とNi-Cu-Sn系合金から構成され、Ni-Cu-Sn系合金の金属結合によって高い強度が確保される。また、遊離黒鉛の粒界にSnが析出して焼結摺動層のNi-Cu-Sn系合金の表面がSnリッチとなり高い耐食性が確保できる。
その結果、高い潤滑性と、耐食性を共に備えることができる。」

したがって、これらの記載を総合すれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1粉末33を第1空間31に充填し、その後、第1粉末33を圧縮することによって圧粉体35を成形し、圧粉体35を焼結させて得られた、回転摺動用又は軸線方向摺動用の軸受15の製造方法において、
第1粉末33は、黒鉛:1.5?7.0重量%、残部が主にNi-Cu-Sn系合金から構成され、Ni:12?40重量%、Sn:5?18.5重量%、残部がCuの組成とされており、
黒鉛として、天然又は人造黒鉛を材料として造粒した黒鉛が用いられ、
軸受15の焼結摺動層15aは、遊離した遊離黒鉛を有し、
前記造粒した黒鉛は約50μm?200μmであり、
軸受15には潤滑油を含油させていない、軸受15の製造方法。」

(2)甲第2号証
取消理由通知において引用した甲第2号証(特に、第3欄第9?24行、及び第6欄第45行?第9欄第13行を参照。)には、軸受けなどの成形材料である、黒鉛・フェノール樹脂粒状物の製造方法に関して、実施例1、2、5、及び7として、鱗片状黒鉛とフェノール樹脂とを混合して造粒し、粒子径状の大きさが60μm?500μmとしたものが記載されている。

(3)甲第3号証
取消理由通知において引用した甲第3号証(特に、段落【0001】、【0023】?【0030】、及び【0034】?【0037】を参照。)には、軸受けなどの成形材料である、カーボン・フェノール樹脂成形材料の製造方法に関して、実施例1?6として、鱗片状黒鉛粉末とフェノール樹脂とを混合して造粒し、粒度が150μm?300μmのものが少なくとも77.3%以上としたものが記載されている。

(4)甲第4号証
取消理由通知において引用した甲第4号証(特に、段落【0001】、【0035】?【0043】、【0045】、及び【0049】?【0052】を参照。)には、軸受けなどの成形材料である、カーボン・フェノール樹脂成形材料の製造方法に関して、実施例1?4として、鱗片状黒鉛とフェノール樹脂とを混合して造粒し、粒度が150μm?300μmのものが少なくとも72.5%以上としたものが記載されている。

(5)甲第5号証
取消理由通知において引用した甲第5号証(第17頁下から第5行?最下行及び「表1.7 黒鉛の種類」、並びに第18頁第1?10行を参照。)には、黒鉛は人造黒鉛と天然黒鉛に分類され、更にこの天然黒鉛は、外観が鱗状で薄い形状の「鱗片状黒鉛」(Flake graphite)、外観が塊状の「鱗状黒鉛」(Veingraphite or plumbago)、及び土状または土塊状の「土状黒鉛」(Amorphous graphite)の3種類に分類されることが記載されている。

(6)甲第6号証
取消理由通知において引用した甲第6号証(特に、段落【0004】?【0007】を参照。)には、初期なじみ性のすぐれた遊離黒鉛析出型鉄系焼結材料製軸受に関して、析出遊離黒鉛を5面積%?35面積%とすることが記載されている。

(7)甲第8号証
取消理由通知において引用した甲第8号証(特に、第1頁右下欄第3?5行、及び第3頁右上欄第15行?同頁左下欄第5行を参照。)には、耐摩耗性黄銅合金に関して、摺動面積に対する黒鉛粒子露出面積を15%?50%とすることが記載されている。

(8)甲第9号証
取消理由通知において引用した甲第9号証(特に、第1頁右下欄第6?8行、及び第3頁左下欄第2?12行を参照。)には、耐摩耗性黄銅合金に関して、摺動面積に対する黒鉛粒子露出面積を15%?50%とすることが記載されている。

(9)甲第10号証
取消理由通知において引用した甲第10号証(特に、第1頁左下欄第9?12行、及び第2頁左上欄第13?17行を参照。)には、黒鉛及び鉛分散アルミニウム合金に関して、摺動面積に対する黒鉛粒子露出面積比を15%?50%とすることが記載されている。

第5 当審の判断
1 特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「第1粉末33」は、本件発明1の「原料粉」に、以下同様に、「回転摺動用又は軸線方向摺動用の軸受15」は「回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受」に、「造粒した黒鉛」は「造粒粉」に、「軸受15には潤滑油を含油させていない」ことは「潤滑油を含浸させずに使用される」ことに、それぞれ相当する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「原料粉を成形および焼結して得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受の製造方法において、
潤滑油を含浸させずに使用される焼結軸受の製造方法。」

<相違点1>
原料粉に関して、本件発明1では、原料粉は、「黒鉛粉と金属粉とを含む」もので、「銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末」であるのに対して、
甲1発明では、第1粉末は、混合粉末であるか否かは明らかでないものの、黒鉛と金属を含むもので、黒鉛:1.5?7.0重量%、残部が主にNi-Cu-Sn系合金から構成され、Ni:12?40重量%、Sn:5?18.5重量%、残部がCuの組成である粉末である点。

<相違点2>
本件発明1では、原料粉を成形および焼結した後、「サイジングを行」うのに対し、
甲1発明では、そのようなことが特定されていない点。

<相違点3>
原料粉における黒鉛に関して、本件発明1では、「黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉」が用いられ、「原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%?15重量%」とし、「造粒粉の平均粒径が60μm?500μm」であるのに対して、
甲1発明では、第1粉末における黒鉛として天然又は人造黒鉛を材料として造粒した黒鉛が用いられ、第1粉末における造粒した黒鉛の割合は1.5?7.0重量%であり、造粒した黒鉛は約50μm?200μmである点。

<相違点4>
軸受面における遊離黒鉛の割合に関して、本件発明1では、「面積比で28%よりも大きく、80%以下」であるのに対して、
甲1発明では、軸受面における遊離黒鉛の割合は明らかでない点。

<相違点5>
本件発明1では、「前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%?15重量%の量」とするのに対し、
甲1発明では、黒鉛を造粒する際のバインダの量は明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑みて先に相違点5について検討する。
甲第2?4号証には、上記第4の2(2)?(4)のとおり、軸受けの成形材料である、黒鉛・フェノール樹脂粒状物の製造において、鱗片状黒鉛とフェノール樹脂とを混合して造粒し、粒径を60μm?500μmまたは150μm?300μmとすることが開示されている。しかしながら、甲第2?4号証には、この成形材料をバインダの焼成を伴う「焼結」で使用することは記載されておらず、焼結後の無定形炭素の量が少なくなるように、造粒のためのバインダを鱗状黒鉛粉に対して5重量%?15重量%の量とすることも記載されていない。
また、甲第6及び8?10号証には、上記第4の2(6)?(9)のとおり、摺動面積に対する黒鉛粒子露出面積を5%?35%または15%?50%とすることが開示されているものの、造粒した黒鉛粉に関する記載はなく、造粒のためのバインダの量に関する記載もない。
一方、本件発明1は、相違点5に係る構成により、焼結後に、軸受面に現れる無定形炭素を少なくして、軸受面に柔らかい黒鉛組織を多量に存在させることを可能にし、軸受面の潤滑性を向上させることができるとともに、サイジングによる寸法矯正を意義あるものとし、寸法や軸受性能のばらつきを小さくすることができるという効果を発揮し得るものと認められる(下記「2 特許法第36条第6項第1号について」を参照。)ところ、これを当業者が予測し得たとは認められない。
したがって、本件発明1は、相違点1?4を検討するまでもなく、当業者であっても甲1発明及び甲第2?6、8?10号証に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2も、本件発明1と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても甲1発明及び甲第2?6、8?10号証に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 特許法第36条第6項第1号について
本件特許明細書の段落【0004】?【0016】には、ドライ軸受において、軸受面の潤滑性を向上させることや、量産時でも偏析による軸受性能や寸法精度のばらつきを抑制することが課題として記載されており、本件発明1?2には、「黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ」、「造粒のためのバインダは、鱗状黒鉛粉に対して5重量%?15重量%の量」と、バインダの量を少なくすることが、他の発明特定事項とともに特定されている。
そして、本件特許明細書の記載に接した当業者であれば、技術常識から、黒鉛の造粒の際に、黒鉛微粉に対して加えられるバインダとしての樹脂(例えば、本件特許明細書の段落【0025】に記載された「フェノール樹脂」)は、焼結時に焼成されて炭化し、非晶質の無定形炭素(炭)に変化するが(例えば、特開2010-105891号公報の段落【0009】を参照。)、この無定形炭素は、黒鉛のような結晶構造を持たず、他部材との摺動時に層状に剥離することはないため、焼成後に無定形炭素が軸受面に多量に存在すると、たとえ黒鉛量が増量されていても潤滑性の向上効果を達成することはできないこと、また、バインダの焼成で生じる無定形炭素は黒鉛に比べて硬質となるため、軸受面に多量の無定形炭素が存在すると、焼結後にサイジングを行っても無定形炭素が塑性変形しづらいため、精度の良い軸受面を得ることができないことが認識でき、バインダ量を少なくした造粒黒鉛粉を使用することで、焼結後に、軸受面に現れる無定形炭素を少なくして、軸受面に柔らかい黒鉛組織を多量に存在させることを可能にし、軸受面の潤滑性を向上させることができるとともに、サイジングによる寸法矯正を意義あるものとし、寸法や軸受性能のばらつきを小さくすることができることは、容易に理解することができると認められる。

なお、本件発明1?2には、軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で「28%よりも大きく、80%以下」とすることが特定されており、本件特許明細書の段落【0037】?【0044】に記載の、上記面積比が28%の「従来品」は、本件発明1?2から除かれている。

したがって、本件発明1?2は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。

3 特許法第36条第6項第2号について
本件発明1?2は、製造方法に係る発明であるから、「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合」には該当せず、特許を受けようとする発明が不明確であるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
焼結軸受の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結金属からなる焼結軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密小型モータ用の軸受として、その優れた静粛性から焼結軸受が広く用いられている。この焼結軸受は、銅を主体とする銅系、鉄を主体とする鉄系、銅と鉄を主体とする銅鉄系に大別される。何れのタイプの焼結軸受も、通常はその多孔質組織の空孔に潤滑油を含浸させて使用される。例えば潤滑油を含浸させた銅鉄系の焼結軸受として、直径45μm以下の銅系粉末を用い、かつ銅の比率や通油度を所定範囲に規定したものが公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特開2012-67893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、焼結軸受の使用環境によっては、潤滑油を使用することが好ましくない場合がある。例えば、複写機や印刷機では、軸受から漏洩した潤滑油で紙を汚す可能性がある。また、自動車用電装部品では、軸受の周辺が高温となって潤滑油が短期間で劣化もしくは蒸散し、軸受性能を害する可能性がある。さらに潤滑油によって軸と軸受とが電気的に絶縁されることで生じる静電気の帯電が問題となる場合もある。
【0005】
これら潤滑油を使用することが好ましくない用途では、潤滑油を含浸させていない、いわゆるドライタイプの焼結軸受(ドライ軸受)を用いることが考えられる。しかしながら、ドライ軸受ではどうしても潤滑不良が生じ易く、そのままでは回転数や荷重等の使用条件が大きく制約される。そこで、対策として、原料粉に配合される固体潤滑剤としての黒鉛の配合量を増やし、軸受自体の自己潤滑性能を強化することが考えられる。
【0006】
しかしながら、黒鉛粉の比重や粒径は金属粉のそれらよりもかなり小さいため(例えば比重は金属粉の1/4程度である)、黒鉛の配合量を増やせば、それだけ原料粉全体の流動性が低下する。すなわち、原料粉を成形用の金型に充填し、これを圧縮して圧粉体を成形する際に、粉体の落下速度が不均一となり、偏析等による重量、寸法、密度等にバラツキを生じるおそれがある。また、原料粉を均一に混合することが難しく、このことも焼結体における偏析の発生を助長する。さらに黒鉛を多く含む原料粉は固まり難いので、圧粉体の強度が低下し、この結果、欠け、割れ、クラック等が発生し易くなる。
【0007】
また、金属粉間の結合強度を強化するために原料粉に錫を添加した場合、原料粉中の黒鉛の添加量が多いと、黒鉛が錫による金属粉の結合機能を阻害するため、焼結体の強度低下を招く。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、高強度で量産時の寸法や軸受性能のばらつきが小さい焼結軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る焼結軸受は、黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた焼結軸受において、原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、黒鉛粉として造粒粉が用いられ、かつ軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%?80%としたことを特徴とするものである。
【0010】
このように軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%?80%とすることで、軸受面における潤滑性が高まる。また、潤滑油を含浸させないドライな状態でも高い潤滑性を得ることができる。
【0011】
このように軸受面に多くの黒鉛を遊離させるため、黒鉛粉の配合量を既存品よりも増やす必要があるが、その場合でも黒鉛の造粒粉、すなわち黒鉛の微粉を造粒して大径化したものを使用することで、黒鉛粉1粒子当たりの重量を大きくすることができる。これにより1粒子当りの黒鉛粉と金属粉の重量差が小さくなるので、原料粉の流動性を向上させることができる。また、原料粉を均一混合も可能となる。従って、量産時の偏析による寸法や軸受性能のばらつきを小さくすることができ、かつ複雑な形状の軸受も製作可能となる。また、黒鉛の存在領域が集約されるため、多量の黒鉛が分散して存在する場合に比べ、圧粉体強度や焼結体強度を向上させることができる。
【0012】
上記構成においては、前記造粒粉の平均粒径を、60μm?500μmに設定するのが望ましい。
【0013】
原料粉末における黒鉛の造粒粉の配合割合は、3重量%?15重量%にするのが望ましい。既存品では、上記の問題から黒鉛の配合割合は3重量%よりも小さくせざるを得なかったが、本発明によれば3重量%以上の黒鉛粉を配合することが可能となる。そのため、上記のとおり軸受面の広大な領域に黒鉛組織を形成することが可能となる。
【0014】
黒鉛の造粒粉の見かけ密度は、1.0g/cm^(3)以下とするのが望ましい。
【0015】
本発明にかかる焼結軸受は、上記のとおり潤滑油を含浸させないドライ軸受として使用することができるが、潤滑油を含浸させる含油軸受としても使用することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軸受面の潤滑性を向上させることができる。また、量産時でも偏析による軸受性能や寸法精度のばらつきを抑制することができ、かつ圧粉体や焼結体の強度を向上させることができる。また、複雑な形状を有する焼結軸受を製作することも可能となり、軸受形状の自由度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る焼結軸受の軸方向断面図である。
【図2】金型による圧粉体の成形工程を示す断面図である。
【図3】焼結軸受における軸受面の顕微鏡写真を示す図で、(A)が本発明の実施品、(B)が従来品のものである。
【図4】ラトラ試験の結果(ラトラ値)を示す図である。
【図5】圧環強さを示す図である。
【図6】成形重量を示す図である。
【図7】圧粉体長さを示す図である。
【図8】焼結軸受の内径面の摩耗量を示す図である。
【図9】焼結軸受の摩擦係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態では、焼結軸受1は、内周に軸受面1aを有する円筒状に形成される。この焼結軸受1の内周にステンレス鋼等からなる軸2を挿入し、その状態で軸を回転させ、あるいは焼結軸受1を回転させると、軸2の外周面が焼結軸受1の軸受面1aによって回転自在に支持される。
【0020】
本発明の焼結軸受1は、各種粉末を混合した原料粉を金型に充填し、これを圧縮して圧粉体を成形した後、圧粉体を焼結することで形成される。
【0021】
本実施形態の焼結軸受1は、いわゆる銅鉄系と呼ばれるものであり、原料粉として、銅粉、鉄粉、低融点金属粉、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられる。この混合粉末には、必要に応じて各種成形助剤、例えば離型性向上のための潤滑剤(金属セッケン等)が添加される。以下、焼結軸受1の実施形態について、その原料粉末および製造手順を詳細に述べる。
【0022】
[銅粉]
銅粉としては、焼結軸受用として汎用されている球状や樹枝状の銅粉が広く使用可能であるが、本実施形態では、電解粉又は水アトマイズ粉が用いられる。なお、これらの混合粉も使用可能である。銅粉の平均粒径は、例えば40μm?160μmとし、見かけ密度は、例えば1.5?3.0g/cm^(3)とする。見かけ密度の定義は、JIS Z 8901の規定に準じる(以下、同じ)。銅粉として扁平銅粉を使用することもできる。
【0023】
[鉄粉]
鉄粉としては、還元鉄粉、水アトマイズ鉄粉等の公知の粉末が広く使用可能であるが、本実施形態では、還元鉄粉を使用する。還元鉄粉は、略球形でありながら不規則形状でかつ多孔質状をなし、表面に微小な凹凸を有する海綿状となることから、海綿鉄粉とも呼ばれる。鉄粉としては、例えば、平均粒径60μm?200μm、見かけ密度2.0?3.0g/cm^(3)のものを使用する。なお、鉄粉に含まれる酸素量は0.2重量%以下とする。
【0024】
[低融点金属粉]
低融点金属粉は、焼結温度よりも低融点の金属粉であり、本発明では、融点が700℃以下の金属粉、例えば錫、亜鉛、リン等の粉末が使用される。この中でも焼結時の蒸散が少ない錫が好ましい。また、錫粉としてはアトマイズ粉を使用する。これら低融点金属粉は、融点が700℃以下で焼結温度よりも低融点であり、また、焼結時の蒸散が少ない。錫粉は、銅に対して高いぬれ性を持つため、原料粉に配合することで、焼結時に、液相焼結と固相焼結が進行し、鉄組織と銅組織や銅組織同士の結合強度が強化される。
【0025】
[黒鉛粉]
黒鉛粉としては、黒鉛の微粉を造粒し、大径化させた黒鉛造粒粉が使用される。微粉としては、鱗状又は球状の天然黒鉛粉で、平均粒径が40μm以下のものを用いる。造粒後の黒鉛粉は、平均粒径60μm?500μmの範囲とし、見かけ密度は1.0g/cm^(3)以下とする。造粒のためのバインダとしては、例えばフェノール樹脂を使用する。バインダの量は、黒鉛微粉に対して5重量%?15重量%とするのが望ましい。
【0026】
[配合比]
上記各粉末を公知の混合機で均一に混合することで原料粉が得られる。原料粉に対する黒鉛粉の配合割合は3重量%?15重量%とする(望ましくは5重量%?12重量%)。原料粉における低融点金属粉の配合割合は任意に定めることができ、例えば1重量%?4重量%とする。鉄粉と銅粉の配合割合は、軸受の使用条件やコストを勘案して任意に定めることができる。
【0027】
[成形]
混合後の原料粉は成形機の金型3に供給される。図2に示すように、金型3は、コア3a、ダイ3b、上パンチ3c、および下パンチ3dからなり、これらによって区画されたキャビティに原料粉末が充填される。上下パンチ3c,3dを接近させて原料粉体を圧縮すると、原料粉末が、コア3aの外周面、ダイ3bの内周面、上パンチ3cの端面、および下パンチ3dの端面からなる成形面によって成形され、焼結軸受1に対応した形状(本実施形態では円筒状)の圧粉体4が得られる。
【0028】
[焼結]
その後、圧粉体4は焼結炉にて焼結される。焼結条件は、黒鉛に含まれる炭素が鉄と反応しない(炭素の拡散が生じない)条件とする。焼結では900℃を超えてから炭素(黒鉛)と鉄の反応が始まり、パーライト相γFeが生じる。パーライト相γFeが生じると、軸受面1aに遊離する黒鉛組織の量が減少し、本発明の目的を達成できない。また、パーライト相γFeは硬い組織(HV300以上)で相手材に対する攻撃性が強いため、過剰にパーライト相が析出すると軸2の摩耗を進行させるおそれがある。
【0029】
また、従来の焼結軸受の製造工程では、焼結雰囲気として、液化石油ガス(ブタン、プロパン等)と空気を混合してNi触媒で熱分解させた吸熱型ガス(RXガス)を使用する場合が多い。しかしながら、吸熱型ガス(RXガス)では炭素が拡散して表面を硬化させるおそれがある。
【0030】
以上の観点から、本実施形態では、焼結は900℃以下の低温焼結、具体的には700℃(望ましくは760℃)?840℃の焼結温度とする。また、焼結雰囲気は、炭素を含有しないガス雰囲気(水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス等)あるいは真空とする。これらの対策により、原料粉では炭素と鉄の反応が生じず、従って焼結後の鉄組織は全て軟らかいフェライト相αFe(HV200以下)となる。焼結に伴い、各種成形助剤や黒鉛造粒粉に含まれるバインダは焼結体内部から揮散する。
【0031】
なお、パーライト相(γFe)がフェライト相(αFe)の粒界に点在する程度であれば、軸2に対する攻撃性はそれほど高まらず、その一方で軸受面1aの摩耗を抑制する効果を得ることができる。ここでいう「粒界」は、フェライト相の間やフェライト相と他の粒子との間に形成される粒界の他、フェライト相中の結晶粒界の双方を意味する。このような態様でパーライト相をフェライト相の粒界に存在させるためには、焼結温度を上記例示よりも上げて820℃?900℃とし、かつ炉内雰囲気として炭素を含むガス、例えば天然ガスや吸熱型ガス(RXガス)を用いて焼結する。これにより、焼結時にはガスに含まれる炭素が鉄に拡散し、パーライト相を形成することができる。
【0032】
以上に述べた焼結工程を経ることで、多孔質の焼結体が得られる。この焼結体にサイジングを施すことにより、図1に示す焼結軸受1が完成する。本実施形態の焼結軸受はドライ軸受として使用されるので、サイジング後における潤滑油の含浸は行われない。上記のように、焼結時に炭素と鉄を反応させず、鉄組織を軟質のフェライト相にすることにより、サイジング時に焼結体が塑性流動を生じやすくなり、高精度のサイジングを行うことができる。
【0033】
本発明では、上記のように原料粉における黒鉛粉の配合割合を3重量%以上としているので、軸受面1aに黒鉛組織を面積比で25%以上の割合で形成することができる。そのため、軸受面1aの自己潤滑性を高めて、軸受の潤滑性能と導電性を向上させることができ、高速回転や高荷重の条件下でも高い耐久寿命を有する焼結軸受を提供することができる。また、潤滑油を多孔質組織に含浸させないドライ軸受としての使用も可能となり、複写機や印刷機(例えばマグロール)、自動車用電装部品、家庭用電化製品、高真空機器等において、潤滑油が使用できない部位にも使用することが可能となる。なお、軸受面1aに遊離する黒鉛組織の面積が過剰になると、軸受面1aの強度低下を招くため、面積比の上限は80%とする。
【0034】
なお、軸受面1aにおける面積比の測定は画像解析により行うことができる。この画像解析は、例えば次のように行う。
(1)金属顕微鏡((株)ニコン製ECLIPSE ME600)で撮影(100倍)。(2)画像取得は(株)ニコン製Digital SigahtDS-U3で行う。
(3)画像処理は(株)ニコンインストルメンツカンパニー製NIS-ElementsDで行う。
(4)デジタル画像解析ソフト(イノテック(株)製Quick Grain)で黒鉛の面積比率を算出する。
【0035】
更に、本発明では黒鉛粉として造粒粉を使用しているので、黒鉛粉1粒子当たりの重量を大きくすることができる。これにより1粒子当りの黒鉛粉と金属粉の重量差が小さくなるので、原料粉の流動性を向上させることができる。また、原料粉を均一混合も可能となる。従って、量産時の偏析による寸法や軸受性能のばらつきを小さくすることができ、かつかつ複雑な形状の軸受も製作可能となる。また、多孔質組織において黒鉛の存在領域が集約されるため、多量の黒鉛が分散して存在する場合に比べ、圧粉体強度や焼結体強度を向上させることができる
【0036】
なお、以上の説明では、焼結軸受の例示として、金属粉として銅粉、鉄粉、および低融点金属粉を使用する銅鉄系を挙げたが、本発明はこれに限られず、金属粉として銅粉と低融点金属粉を使用する銅系焼結軸受や、金属粉として鉄粉と微量の銅粉を使用する鉄系焼結軸受にも同様に適用することができる。
【実施例1】
【0037】
次に、本発明の実施品(以下、本発明品と記す)について、造粒黒鉛粉を使用しない従来品と比較して説明する。この本発明品と従来品は、上記実施形態とは異なり、銅系焼結軸受である。
【0038】
図3は焼結軸受1の軸受面1aを拡大した顕微鏡写真であり、(A)図が本発明品を、(B)図が従来品を示す。両図において、明部が銅組織(Snとの合金部分も含む)を示し、暗部が黒鉛組織を示す。微細な暗部は、表面に開口した空孔である。本発明品では従来品よりも黒鉛の分布量が多くなっていることが分かる。また、本発明品では、黒鉛が均一に分散していることも理解できる。ちなみに、(A)図における黒鉛の面積比は78%であり、(B)図における黒鉛の面積比は28%である。なお、この面積比率を測定するための画像解析は、上述の機器と方法を使用した。
【0039】
図4は、圧粉体の強さを評価するために行ったラトラ試験の結果を示す。ここで、ラトラ試験とは、金属圧粉体のラトラ試験法(日本粉末冶金工業会規格:JSPM標準4-69)に基づいて測定を行い、得られる測定結果から算出する値を用いて、試験片(圧紛体)の崩壊のしやすさ(圧紛体の強さを数値化)を求める方法で、得られるラトラ値が低い方が圧紛体は強い。図4から分かるように、本発明品は、従来品よりラトラ値が低いので、圧紛体の強度が優れ、欠け、割れ等を抑制できる。
【0040】
図5は、圧粉体の強さを評価するために測定した圧環強さを示す。図5から分かるように、本発明品は、従来品より圧環強さが大きいため、圧紛体の強度が優れ、欠け、割れ等を抑制できる。
【0041】
図6は、成形重量のばらつきを評価するために測定した成形重量の最大値、平均値、最小値を示す。図6から分かるように、本発明品は、従来品より成形重量の最大値と最小値との差が小さく、成形重量のばらつきが小さい。
【0042】
図7は、圧粉体長さのばらつきを評価するために測定した圧粉体長さの平均値、最小値を示す。図7から分かるように、本発明品は、従来品より圧粉体長さの最大値と最小値との差が小さく、圧粉体長さのばらつきが小さい。
【0043】
図8は、以下の条件での運転後の軸受内径面の摩耗量を示す。また、同条件の運転での摩擦係数の変化を図9に示す。
周速:V=7m/min
面圧:P=2MPa
温度:100℃
試験軸:SUS420J2(HRC=50、Ra=0.4μm)
隙間:15μm
【0044】
図8から分かるように、本発明品は、従来品に比較して、軸受内径面の摩耗量を抑制することができる。また、図9から分かるように、10min経過後では、本発明品は、従来品と比較して、摩擦係数を抑制することができる。
【0045】
以上の説明では、焼結軸受として軸の回転運動を支持する軸受を例示したが、本発明にかかる焼結軸受は、軸等の摺動部材の直線運動を支持するいわゆるリニア軸受としても使用することができる。また、本発明の焼結軸受は、潤滑油を含浸させないドライ軸受として使用するだけでなく、サイジング後に潤滑油を含浸させる含油軸受としても使用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 焼結軸受
1a 軸受面
2 軸
3 金型
4 圧粉体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受の製造方法において、
原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、
黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、かつ軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で28%よりも大きく、80%以下とし、
前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%?15重量%の量とし、
原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%?15重量%とし、
前記造粒粉の平均粒径が60μm?500μmであり、
潤滑油を含浸させずに使用されることを特徴とする焼結軸受の製造方法。
【請求項2】
前記造粒粉の見かけ密度を、1.0g/cm^(3)以下とした請求項1に記載の焼結軸受の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-19 
出願番号 特願2017-52667(P2017-52667)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (F16C)
P 1 651・ 537- YAA (F16C)
P 1 651・ 121- YAA (F16C)
P 1 651・ 851- YAA (F16C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 古▲瀬▼ 裕介尾形 元岡澤 洋  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 井上 信
内田 博之
登録日 2019-03-01 
登録番号 特許第6487957号(P6487957)
権利者 NTN株式会社
発明の名称 焼結軸受の製造方法  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ