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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06M |
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管理番号 | 1365294 |
審判番号 | 不服2019-15094 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-11 |
確定日 | 2020-08-11 |
事件の表示 | 特願2015-135513「繊維強化樹脂用繊維シートとその製造方法及びこれを用いた成形体とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年4月21日出願公開、特開2016-56491〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 この出願(以下「本願」という。)は、平成27年7月6日(優先権主張 平成26年9月11日 日本国)の出願であって、その主な手続は以下のとおりである。 平成31年2月19日付け 拒絶理由通知 同年4月15日 意見書及び手続補正書の提出 令和元年8月27日付け 拒絶査定(以下「原査定」という。) 同年11月11日 拒絶査定不服審判の請求、同時に手続補正書の提出 第2.令和元年11月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和元年11月11日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(下線部は補正箇所である。)。 (1)本件補正前(平成31年4月15日提出の手続補正書) 「【請求項1】 一方向または所定角度に配列された繊維層が保形糸で一体化されている繊維強化樹脂用繊維シートを複数枚積層し、当該複数枚積層した前記繊維強化樹脂用繊維シート内にマトリックス樹脂を含浸させて成形体を成形する繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、 前記保形糸は、オゾン酸化、波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ処理からなる群から選ばれる少なくとも一つの表面処理がされていることを特徴とする繊維強化樹脂用繊維シートの製造方法。」 (2)本件補正後(令和元年11月11日提出の手続補正書) 「【請求項1】 一方向または所定角度に配列された繊維層が保形糸で一体化されている繊維強化樹脂用繊維シートを複数枚積層し、当該複数枚積層した前記繊維強化樹脂用繊維シート内にマトリックス樹脂を含浸させて成形体を成形する繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、 前記保形糸は、オゾン酸化、波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ処理からなる群から選ばれる少なくとも一つの表面処理がされており、 前記繊維強化樹脂成形体の製造方法は、インフュージョン成形法であることを特徴とする繊維強化樹脂用繊維シートの製造方法。」 2.補正の目的 上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された「繊維強化樹脂成形体の製造方法」について、「インフュージョン成形法である」ことを限定したものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。そのため、上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。 3.独立特許要件 上記2.のとおり、本件補正のうち、上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。 そのため、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合すること(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること)を要する。 そこで、以下に本件補正発明の独立特許要件について検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載 ア.原査定において本件補正前の請求項1に係る発明に対する拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2014-163016号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 単繊維の繊度が1.2?2.4dtexである炭素繊維からなるトウ状の炭素繊維糸条を、複数本、並列に配置したシートを複数枚含み、それぞれのシートに含まれるトウ状の炭素繊維糸条の方向が、基準とする方向に対して、異なる角度をもって積層され、ステッチ糸で一体化された強化用多軸ステッチ基材。 ・・・ 【請求項7】 請求項1に記載の強化用多軸ステッチ基材を成形型内に配置し、さらにバギングフイルムで覆い、前記成形型と前記バギングフイルムの間をシールしてキャビティを形成し、前記キャビティ内を減圧するとともに液状樹脂組成物を注入した後、液状樹脂組成物を硬化させる炭素繊維強化複合材料の製造方法。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、炭素繊維糸条からなる強化用多軸ステッチ基材、強化用織物およびそれを用いた炭素繊維強化複合材料とその製造方法に関する。」 (ウ)「【0007】 特許文献1には、・・・一方、単繊維の直径が小さいと、強化用多軸ステッチ基材、更には炭素繊維糸条にマトリクス樹脂を含浸させて炭素繊維強化複合材料を製造する際の含浸性が悪くなるという問題がある。」 (エ)「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明の課題は、・・・目開きや厚み斑といった欠陥が無く、マトリクス樹脂の含浸性に優れ、生産コストを低くできる強化用多軸ステッチ基材、それを用いた炭素繊維強化複合材料およびその製造方法を提供することにある。・・・」 (オ)「【0023】 本発明の強化用多軸ステッチ基材または強化用織物を用いた炭素繊維強化複合材料の製造方法としては、前記強化用多軸強化用多軸ステッチ基材を成形型内に配置し、前記強化用多軸ステッチ基材をバギングフイルムで覆い、前記成形型と前記バギングフイルムの間をシールしてキャビティを形成し、前記キャビティ内を減圧して、液状樹脂組成物を吸引・注入するVaRTM法を用いることができる。・・・」 上記(ア)?(オ)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「単繊維の繊度が1.2?2.4dtexである炭素繊維からなるトウ状の炭素繊維糸条を、複数本、並列に配置したシートを複数枚含み、それぞれのシートに含まれるトウ状の炭素繊維糸条の方向が、基準とする方向に対して、異なる角度をもって積層され、ステッチ糸で一体化された強化用多軸ステッチ基材を成形型内に配置し、さらにバギングフイルムで覆い、前記成形型と前記バギングフイルムの間をシールしてキャビティを形成し、前記キャビティ内を減圧するとともに液状樹脂組成物を注入した後、液状樹脂組成物を硬化させる炭素繊維強化複合材料の製造方法。」 イ.原査定において本件補正前の請求項1に係る発明に対する拒絶の理由で引用された引用文献2(特開平5-416号公報)には、以下の記載がある。 なお、下線部は当審が付した。 (ア)「【請求項1】 繊維基材に紫外線を照射した後、樹脂ワニスを含浸、乾燥することを特徴とするプリプレグの製造方法。」 (イ)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】ところが、カップリング剤処理では、いまだ不充分であり、基材中に樹脂が充分含浸されず、ボイドを含むため、積層板の耐熱性が悪くなり、成形に高圧力を必要とする。・・・」 (ウ)「【0015】照射する紫外線としては波長が200?400nmのものを使用し、紫外線ランプを用い一般に公知の処理条件が採用される。紫外線ランプとしては100?1000nmの波長の光を放出する各種ランプ(例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ)が使用できる。」 (エ)「【0017】 【作用】紫外線のエネルギーによって基材又はカップリング剤表面の電子状態が不安定となり、・・・樹脂の含浸性が向上し、ボイドがなくなるため、低い圧力での成形が可能となり、従来のプリプレグが有していた種々の欠陥がなくなるものと考えられる。」 ウ.原査定において本件補正前の請求項1に係る発明に対する拒絶の理由で引用された引用文献3(特開2013-155379号公報)には、以下の記載がある。 なお、下線部は当審が付した。 (ア)「【請求項1】 [A]炭素繊維と[B]熱硬化性樹脂を含み、かつ下記(1)、(2)の少なくともいずれか一方を満たすプリプレグ。 (1)[C]熱可塑性樹脂の粒子または繊維、および[D]導電性の粒子または繊維を含み、[[C]の配合量(重量部)]/[[D]の配合量(重量部)]で表される重量比が1?1000である。 (2)[E]熱可塑性樹脂の核または芯が導電性物質で被覆された導電性の粒子または繊維を含む。 ・・・ 【請求項13】 前記[D]導電性の粒子または繊維、および、前記[E]熱可塑性樹脂の核または芯が導電性物質で被覆された導電性の粒子または繊維が、表面処理を施されたものである、請求項1?12のいずれかに記載のプリプレグ。 【請求項14】 前記表面処理が、カップリング処理、酸化処理、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、およびブラスト処理からなる群から選ばれた少なくとも一種の処理である、請求項13に記載のプリプレグ。」 (イ)「【0088】 本発明において、[D]導電性の粒子または繊維、および、[E]熱可塑性樹脂の核または芯が導電性物質で被覆された導電性の粒子または繊維の中には、[B]熱硬化性樹脂との接着性が低いものもあるが、これらに表面処理を施したものを用いれば、熱硬化性樹脂との強い接着を実現することができ、耐衝撃性のさらなる向上が可能となる。かかる観点から、カップリング処理、酸化処理、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、およびブラスト処理からなる群から選ばれた少なくとも一種の処理を施したものを適用することが好ましい。なかでも熱硬化性樹脂と化学結合、水素結合を形成しうるカップリング処理、酸化処理、プラズマ処理による表面処理を施したものは、熱硬化性樹脂との強い接着が実現できることからより好ましく用いられる。」 (ウ)「【0098】 オゾンによる表面処理は、一般に加熱器を有するチャンバー内にオゾンを導入し、被処理物を加熱処理する方法が好ましく用いられる。この場合、前記の粒子または繊維の表面が活性化された表面へと改質し、マトリックス樹脂との表面濡れ性が大きく向上し、強い接着が実現できる。さらに、被処理物をオゾン雰囲気下に紫外線照射して光酸化処理する方法も好ましく用いられる。 【0099】 プラズマによる表面処理としては、チャンバー内に反応性ガスを導入し、減圧下でプラズマ処理を施す方法が好ましく用いられる。反応性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、アンモニア、酸素、亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、シアン化臭素、シアン化水素、水素、水蒸気、空気、亜硫酸ガス、硫化水素等を単独で使用しても併用してもよい。被処理物にプラズマ処理を施すことで、活性化された表面に改質され、マトリックス樹脂との表面濡れ性が大きく向上し、強い接着が実現できる。」 (3)本件補正発明の進歩性についての判断 ア.対比 本件補正後の請求項1には、「・・・繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、・・・前記繊維強化樹脂成形体の製造方法は、インフュージョン成形法であることを特徴とする繊維強化樹脂用繊維シートの製造方法。」(下線部は当審が付した)と記載されているところ、全体として「繊維強化樹脂成形体」の製造方法が記載されていることからみて、本件補正発明1は、「繊維強化樹脂成形体の製造方法」に関する発明であると理解できる。 本件補正発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「シート」は、本件補正発明の「繊維層」に相当し、以下同様に、「強化用多軸ステッチ基材」は「繊維強化樹脂用繊維シート」に、「液状樹脂組成物」は「マトリックス樹脂」に、「炭素繊維強化複合材料の製造方法」は「繊維強化樹脂成形体の製造方法」「繊維強化樹脂用繊維シートの製造方法」にそれぞれ相当する。 引用発明1の「シート」が「単繊維の繊度が1.2?2.4dtexである炭素繊維からなるトウ状の炭素繊維糸条を、複数本、並列に配置した」ものであることは、本件補正発明の「繊維層」が「一方向または所定角度に配列され」ていることに相当する。 また、引用発明1の「シートを複数枚含み、それぞれのシートに含まれるトウ状の炭素繊維糸条の方向が、基準とする方向に対して、異なる角度をもって積層され、ステッチ糸で一体化され」ていることは、本件補正発明の「繊維層が保形糸で一体化されている」ことに相当する。 引用発明1の「強化用多軸ステッチ基材を成形型内に配置し、さらにバギングフイルムで覆い、前記成形型と前記バギングフイルムの間をシールしてキャビティを形成し、前記キャビティ内を減圧するとともに液状樹脂組成物を注入した後、液状樹脂組成物を硬化させる炭素繊維強化複合材料の製造方法」は、本件補正発明の「前記繊維強化樹脂用繊維シート内にマトリックス樹脂を含浸させて成形体を成形する繊維強化樹脂成形体の製造方法」に相当する。 また、引用発明1の「強化用多軸ステッチ基材を成形型内に配置し、さらにバギングフイルムで覆い、前記成形型と前記バギングフイルムの間をシールしてキャビティを形成し、前記キャビティ内を減圧するとともに液状樹脂組成物を注入した後、液状樹脂組成物を硬化させる炭素繊維強化複合材料の製造方法」は、「VaRTM法」(上記(2)ア.(オ))であるから、本件補正発明の「インフュージョン成形法」に相当する。 よって、本件補正発明と引用発明1は、以下の点で一致している。 <一致点> 「一方向または所定角度に配列された繊維層が保形糸で一体化されている繊維強化樹脂用繊維シート内にマトリックス樹脂を含浸させて成形体を成形する繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、 前記繊維強化樹脂成形体の製造方法は、インフュージョン成形法である繊維強化樹脂用繊維シートの製造方法。」 そして、本件補正発明と引用発明1は、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件補正発明は、「繊維強化樹脂用繊維シートを複数枚積層」するものであるのに対して、引用発明1は、強化用多軸ステッチ基材を複数枚積層するのか否か不明である点。 <相違点2> 本件補正発明は、「前記保形糸は、オゾン酸化、波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ処理からなる群から選ばれる少なくとも一つの表面処理がされて」いるのに対して、引用発明1は、表面処理について明記されていない点。 イ.相違点についての検討 <相違点1> 引用文献1の段落【0005】に 「一方、生産性に優れている繊維強化複合材料の代表的な成形法としては、圧縮成形法、RTM法やVaRTM法等が挙げられる。RTM法やVaRTM法では、マトリクス樹脂が含浸されていないドライな複数枚の強化繊維基材を成形型の中に配置し、これに低粘度の液状マトリクス樹脂を注入することにより、強化繊維基材にマトリクス樹脂を含浸させ、その状態で硬化させることにより繊維強化複合材料を成形する。」(下線部は当審が付した。) と記載されているように、引用発明1が採用しているVaRTM法においては、複数枚の強化繊維基材を成形型の中に配置して成型することが一般的であるのだから、引用発明1において強化用多軸ステッチ基材を複数枚積層するものとなすことは、当業者が適宜なし得るものである。 <相違点2> 引用文献2、3にあるように、繊維強化樹脂成形体において、繊維基材に対する樹脂の含浸性や接着性の向上という課題は、本願出願前に周知であり、また、その課題解決のため、繊維基材に、オゾン酸化、波長400nm以下の紫外線照射、プラズマ処理といった表面処理を施すという解決手段もまた本願出願前に周知の技術である。 そして、引用発明1は、上記(2)ア.(ウ)及び(エ)に摘記したとおり、繊維基材に対する樹脂の含浸性を課題としているものであるから、引用発明1において、当該課題の解決を目的として、上記周知技術を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そうすると、引用発明1の強化用多軸ステッチ基材は、繊維がステッチ糸で一体化されたものであるから、基材に対する表面処理の際に、繊維とステッチ糸が同時に表面処理されることとなる。 よって、引用発明1において上記周知技術を適用することで、<相違点2>に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。 そして、<相違点1>及び<相違点2>に係る本件補正発明の作用・効果は、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。 ウ.審判請求人の主張について (ア)審判請求人は、審判請求書において以下のように主張している。 a.「引用文献1には、一方向または所定角度に配列された繊維層が保形糸で一体化されている繊維強化樹脂用繊維シートが開示されています(請求項1以下)。 しかし、保形糸で一体化したシートを複数枚積層し、当該複数枚積層した前記繊維強化樹脂用繊維シート内にマトリックス樹脂を含浸させて成形体を成形することは開示されていません(以下「相違点1」という。)。」 (【本願発明が特許されるべき理由】3(1)) b.「保形糸(ステッチ糸)をオゾン酸化等で表面処理することは開示されていません(以下「相違点2」という。)。」 (【本願発明が特許されるべき理由】3(1)) c.「「インフュージョン成形」も開示されていません(以下「相違点3」という。)。」 (【本願発明が特許されるべき理由】3(1)) d.「引用文献2には、・・・保形糸(ステッチ糸)を使うことは必要ありません。 したがって、引用文献2は、引用文献1又は本願発明と組み合わせるには阻害要因があります。」 (【本願発明が特許されるべき理由】3(2)) e.「引用文献3の・・・保形糸(ステッチ糸)を使うことは必要ありません。 したがって、引用文献3は、引用文献1又は本願発明と組み合わせるには阻害要因があります。」 (【本願発明が特許されるべき理由】3(2)) (イ)上記審判請求人の主張について検討する a.上記イ.の<相違点1>について述べたとおり、引用発明1において強化用多軸ステッチ基材を複数枚積層するものとなすことは、当業者が適宜なし得るものである。 よって、請求人の主張a.は採用することができない。 b.上記イ.で述べたとおり、引用発明1において、周知技術である繊維基材に対する表面処理を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、引用発明1の強化用多軸ステッチ基材は、繊維がステッチ糸で一体化されたものであるから、基材に対する表面処理の際に、繊維とステッチ糸が同時に表面処理されることとなる。 この繊維とステッチ糸が同時に表面処理されることとなる点については、審判請求人の 『「繊維シート全体をオゾン酸化処理」すれば、保形糸も当然にオゾン酸化処理されるうえ、本願明細書の[0047]には、 「以上の結果から次のことが分かる。 (1)オゾン酸化処理をすると保形糸は水との動的接触が低くなり、保形糸の動的接触角が低いと繊維基材(積層繊維シート)はマトリックス樹脂と濡れやすくなり、繊維基材内にマトリックス樹脂が含浸しやすく、含浸時間が短縮できる。 (2)繊維基材の保形糸をオゾン酸化するとインフュージョン成形の際に、繊維基材内にマトリックス樹脂が含浸しやすく、ボイドが少ない良質な成形体が得られる。」 と記載されており、当業者であれば、本願発明の効果は保形糸がオゾン酸化されたことによるものと一見して理解できます。』 (【本願発明が特許されるべき理由】4) という主張にも裏付けられる。 すなわち、引用発明1において、周知技術である繊維基材に対する表面処理を適用した場合、本件補正発明と同様の効果を奏することは、当業者であれば理解できるものである。 よって、請求人の主張b.は採用することができない。 c.上記ア.で述べたとおり、引用発明1の「強化用多軸ステッチ基材を成形型内に配置し、さらにバギングフイルムで覆い、前記成形型と前記バギングフイルムの間をシールしてキャビティを形成し、前記キャビティ内を減圧するとともに液状樹脂組成物を注入した後、液状樹脂組成物を硬化させる炭素繊維強化複合材料の製造方法」すなわち「VaRTM法」(上記(2)ア.(オ))は、 本件補正発明の「インフュージョン成形法」に相当する。 よって、請求人の主張c.は採用することができない。 d.引用文献2、3には、繊維シートの表面処理にあたって、保形糸(引用発明1のステッチ糸)が存在した場合に処理ができないといった点は記載も示唆もない。 また、保形糸(引用発明1のステッチ糸)は、繊維であって、繊維層(引用発明1の積層されているトウ状の炭素繊維糸条)と一体となって繊維強化樹脂用繊維シート(引用発明1のシート)を構成するものである。 そうすると、引用文献2に記載された表面処理技術は繊維に対するものであるのだから、強化用繊維と一体となった他の繊維、すなわち保形糸(引用発明1のステッチ糸)を同時に表面処理することに阻害事由があるとする根拠はない。 そして、繊維シートに対する表面処理により、繊維と糸が同時に表面処理されることに阻害事由がないことは、上記b.に摘記した審判請求人の主張にも裏付けられる。 よって、請求人の主張d.及びe.は採用することができない。 e.以上のとおり、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。 エ.小括 したがって、本件補正発明は、引用発明1、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (4)本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反する上記補正を含むものであるから、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により、却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3.本件発明についての判断 1.本件発明 令和元年11月11日にされた手続補正は、上記第2.のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成31年4月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、上記第2.1.(1)に記載のとおりのものである。 2.拒絶査定の概要 令和元年8月27日付けでされた拒絶査定のうち、本件発明に係る拒絶の理由は、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。 引用文献1:特開2014-163016号公報 引用文献2:特開平5-416号公報 引用文献3:特開2013-155379号公報 3.引用文献の記載事項 引用文献1?3の記載事項は、上記第2.3.(2)ア.?ウ.に示したとおりである。 4.対比・判断 本件補正発明と、引用発明1との対比、及び相違点についての判断は、上記第2.3.(3)に示したとおりである。 また、本件発明は、本件補正発明が「前記繊維強化樹脂成形体の製造方法は、インフュージョン成形法である」としていたものが、そのような要件を限定しないものである。 そうすると、本件発明の発明特定事項をすべて含み、さらに「前記繊維強化樹脂成形体の製造方法は、インフュージョン成形法である」という発明特定事項を含む本件補正発明が、上記第2.3.(3)で述べたように、引用発明1、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明1、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.小括 よって、本件発明は、引用発明1、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない 第4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-05-27 |
結審通知日 | 2020-06-02 |
審決日 | 2020-06-23 |
出願番号 | 特願2015-135513(P2015-135513) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(D06M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長谷川 大輔 |
特許庁審判長 |
石井 孝明 |
特許庁審判官 |
横溝 顕範 中村 一雄 |
発明の名称 | 繊維強化樹脂用繊維シートとその製造方法及びこれを用いた成形体とその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人池内アンドパートナーズ |