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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1365505
審判番号 不服2018-17556  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-28 
確定日 2020-08-20 
事件の表示 特願2016-197797「光学系および撮像システム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開、特開2017- 58684〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月11日に出願した特願2012-199770号の一部を平成28年10月6日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年10月31日 :手続補正書
平成29年 8月30日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月28日 :意見書・手続補正書
平成30年 2月 7日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成30年 4月 9日 :意見書・手続補正書(以下、この手続補正
書による補正を「本件補正」という。)
平成30年 9月19日付け:本件補正の却下の決定(以下「本件却下決
定」という。)・拒絶査定
平成30年12月28日 :審判請求書

第2 本件却下決定の適否
請求人は、本件却下決定に対して不服を申し立てているので、以下、本件却下決定の適否を判断する。
1 本件却下決定の理由の概要
本件補正は、請求項1及び【0016】の記載に「前記反射面部材は、第1および第2のプリズムであって、前記第1のプリズムの斜面に第1の反射膜が形成され、前記第2のプリズムの斜面に第2の反射膜が形成され、これら第1および第2の反射膜を対向させて互いに固定され、」及び「前記第1および第2のプリズムを介して、前記第1および第2の反射膜に入射させ、これら第1および第2の反射膜により前記各広角レンズの前記後群に向かって互いに逆向きに反射させて射出させ、」という記載を導入することにより、反射膜として、第1の反射膜及び第2の反射膜の2つの反射膜が存在し、前記第1の反射膜が第1のプリズムの斜面に、また、前記第2の反射膜が第2のプリズムの斜面に、それぞれ形成された点を特定する補正を含んでいる。
しかしながら、反射膜が第1の反射膜及び第2の反射膜の2つの反射膜で構成されることは、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願当初明細書等」という。)には記載されておらず、また、本願当初明細書等の記載から自明な事項とはいえず、本願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないとする根拠は見いだせない。
したがって、本件補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反している。
よって、本件補正は、特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2 本件補正の内容
本件補正は、請求項1を、
「物体側から像側へ向かって負の屈折力の前群および正の屈折力の後群を有し画角が180度より広い、同一構造の2つの広角レンズと、
前記前群と前記後群の間に配され、入射する光を反射する反射面部材と、を備え、
前記反射面部材は、互いに固定された第1および第2のプリズムであって、これらが互いに対向するそれぞれの面に反射膜が形成され、
各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光を、前記第1および第2のプリズムの一方の及び他方の面に入射させ、前記第1および第2のプリズムの各面に関して互いに逆の方向にある各広角レンズの前記後群に向かって前記反射膜により反射して射出させ、
前記前群は結像光束の光束径を前記後群の側に絞って前記反射面部材に入射させ、前記後群の物体側に設けられた開口絞り以後は拡大させることを特徴とする全天球画像を撮像するための光学系。」

から、

「物体側から像側へ向かって負の屈折力の前群および正の屈折力の後群を有し画角が180度より広い、同一構造の2つの広角レンズと、
前記前群と前記後群の間に配され、入射する光を反射する反射面部材と、を備え、
前記反射面部材は、第1および第2のプリズムであって、前記第1のプリズムの斜面に第1の反射膜が形成され、前記第2のプリズムの斜面に第2の反射膜が形成され、これら第1および第2の反射膜を対向させて互いに固定され、
各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光を、前記第1および第2のプリズムを介して、前記第1および第2の反射膜に入射させ、これら第1および第2の反射膜により前記各広角レンズの前記後群に向かって互いに逆向きに反射させて射出させ、
前記前群は結像光束の光束径を前記後群の側に絞って前記反射面部材に入射させ、前記後群の物体側に設けられた開口絞り以後は拡大させることを特徴とする全天球画像を撮像するための光学系。」

へと補正する事項を含むものである(下線は、補正箇所として請求人が付したものである。)。

3 本願当初明細書等の記載
本願当初明細書等には、次の記載がある。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
180度より広い画角を持つ広角レンズと、この広角レンズによる像を撮像する撮像センサとを有する同一構造の撮像系を2つ組み合わせ、各撮像系により撮像された像を合成して4πラジアンの立体角内の像を得る全天球型の撮像システムであって、
各撮像系の広角レンズは、物体側から像側へ向かって、前群、反射面、後群を配し、前記反射面により前群の光軸を前記後群に向かって折り曲げるものであり、
2個の広角レンズは、前群の光軸同士を合致もしくは近接させて、前群の向きが逆になるように、かつ、後群の光軸が互いに平行で後群同士の向きが互いに逆になるように組み合わせられ、
かつ、反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、
該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなし、
2個の広角レンズの、各前群および各後群を組み付ける共通の鏡筒部分に、前記反射面部材を保持させたことを特徴とする全天球型の撮像システム。
【請求項2】
請求項1記載の全天球型の撮像システムにおいて、
反射面部材の2つの透明部材は、反射膜に当接する面の大きさが異なり、前記当接する面の大きい方は、光束反射領域外に自由表面部を有し、
反射面部材を保持する鏡筒部分に、前記自由表面部と当接し合う当接面が形成され、
前記反射面部材を、前記当接面に前記自由表面部を当接させて、鏡筒部分に対して位置合わせして、前記鏡筒部分に保持させたことを特徴とする全天球型の撮像システム。
【請求項3】
請求項2記載の全天球型の撮像システムにおいて、
反射面部材の2個の透明体が直角プリズムで、斜面部により反射膜を挟持し、一方の直角プリズムは、互いに直角をなすプリズム面の陵線方向の長さが他方の直角プリズムよりも大きく、他方の直角プリズムの斜面部から食み出した部分が自由表面部をなすことを特徴とする全天球型の撮像システム。
【請求項4】
請求項3記載の全天球型の撮像システムにおいて、
反射膜を挟持する2つの直角プリズムのうちの一方の、入射面および射出面のうちの、光束有効径の小さい面の、光束有効径外の部分を、この部分に当接するように鏡筒部分の形成された第2当接面に当接させたことを特徴とする全天球型の撮像システム。
【請求項5】
請求項4記載の全天球型の撮像システムにおいて、
第2当接面に当接する面が射出面であることを特徴とする全天球型の撮像システム。
【請求項6】
請求項4または5記載の全天球型の撮像システムにおいて、
鏡筒部分の第2当接面に当接する直角プリズムは、陵線方向の長さが大きい直角プリズムであることを特徴とする全天球型の撮像システム。
【請求項7】
請求項1?6の任意の1に記載の全天球型の撮像システムに用いられる撮像光学系であって、
物体側から像側へ向かって、前群、反射面、後群を配し、前記反射面により前群の光軸を前記後群に向かって折り曲げる、同一構造の広角レンズを2個有し、
該2個の広角レンズは、前群の光軸同士を合致もしくは近接させて、前群の向きが逆になるように、かつ、後群の光軸が互いに平行で後群同士の向きが互いに逆になるように、組み合わせられ、かつ、前記反射面は2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、
該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなし、
2個の撮像光学系の、各前群および各後群を組み付ける共通の鏡筒部分に、前記反射面部材を保持させたことを特徴とする撮像光学系。」

(2)「【技術分野】
【0001】
この発明は、全天球型の撮像システムおよびこれに用いられる撮像光学系に関する。」

(3)「【背景技術】
【0002】
全天球を「一度に撮像」する撮像システムとして、広角レンズを2つ使用したものが知られている(特許文献1、2)。
【0003】
このような全天球型の撮像システムは、同時に全方位(立体角にして4πラジアン)の画像情報を取得でき、防犯用監視カメラや車載カメラ等に有効に利用できる。
【0004】
例えば、ニュースの取材などの際に、小型の全天球型撮像システムを「手持ち状態」で使用すれば、極めて正確且つ公平な画像情報を記録できる。
【0005】
全天球の気象状態を撮像して、気象情報の分析に供することもできる。
【0006】
さらに、景観情報を撮像して、宣伝広告や芸術分野での利用に供することもできる。
【0007】
このような撮像システムでは、180度を超える画角をもつ広角レンズ(所謂「魚眼レンズ」)が2つ組合せて用いられる。
【0008】
各広角レンズによる撮影画像が、同一または個別の撮像手段により電気信号化され、電気信号の処理により全天球の画像を撮像できる。
【0009】
特許文献1、2は何れも、広角レンズ自体の具体的な構成を開示していない。
また、これ等の文献に記載された撮像システムでは、各撮像光学系による結像光束を、個別の導光手段(経路変換装置や反射光学機器)により撮像手段に導光している。
【0010】
このように広角レンズごとに導光手段が用いられるため、2つの広角レンズの間の「最大画角間距離」を小さくすることが難しい。「最大画角間距離」については後述する。
180度を超える画角の広角レンズを2つ組合せる場合、各広角レンズに入射する最大画角光束が、互いに重なり合わない空間部分が存在する。
【0011】
「広角レンズに入射する最大画角光束が、互いに重なり合わない空間部分」に存在する被写体は、撮像することができない。
かかる「空間部分」を、以下「撮像不能空間部分」と呼ぶ。撮像不能空間部分は出来る限り小さいことが好ましいことは言うまでも無い。
【0012】
上記「最大画角間距離」が大きいと、撮像不能空間部分を小さくすることが難しい。
最大画角間距離が大きい撮像システムで、撮像不能空間を小さくするには、組合せる2つの広角レンズの画角をより大きくする必要があり、レンズの設計条件が厳しくなる。
【0013】
また、撮影できる被写体でも、最大画角上の被写体と無限遠の被写体とで視差が異なり、撮像素子上でのずれが大きくなる。この点についても後述する。
【0014】
特許文献1、2は、広角レンズの具体的構成について言及しておらず、このような撮像不能空間部分の問題や、視差の問題に関して何ら開示していない。」

(4)「【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明は、上記問題を有効に解消できる、新規な全天球型の撮像システムの実現を課題としている。」

(5)「【課題を解決するための手段】
【0016】
全天球型の撮像システムは、180度より広い画角を持つ広角レンズと、この広角レンズによる像を撮像する撮像センサとを有する同一構造の撮像系を2つ組み合わせ、各撮像系により撮像された像を合成して4πラジアンの立体角内の像を得る全天球型の撮像システムであって、各撮像系の広角レンズは、物体側から像側へ向かって、前群、反射面、後群を配し、前記反射面により前群の光軸を前記後群に向かって折り曲げるものであり、2個の広角レンズは、前群の光軸同士を合致もしくは近接させて、前群の向きが逆になるように、かつ、後群の光軸が互いに平行で後群同士の向きが互いに逆になるように組み合わせられ、かつ、反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなし、2個の広角レンズの、各前群および各後群を組み付ける共通の鏡筒部分に、前記反射面部材を保持させたことを特徴とする。
【0017】
撮像光学系は、上記全天球型の撮像システムに用いられる撮像光学系であって、物体側から像側へ向かって、前群、反射面、後群を配し、前記反射面により前群の光軸を前記後群に向かって折り曲げる、同一機能の広角レンズを2個有し、該2個の広角レンズは、前群の光軸同士を合致もしくは近接させて、前群の向きが逆になるように、かつ、後群の光軸が互いに平行で後群同士の向きが互いに逆になるように組み合わせられ、かつ、前記反射面は2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなし、2個の撮像光学系の、各前群および各後群を組み付ける共通の鏡筒部分に、前記反射面部材を保持させたことを特徴とする。」

(6)「【発明の効果】
【0018】
この発明の全天球型の撮像システムでは、組合せられる2つの撮像系の各々の広角レンズが、前群と後群との間に反射面を有し、この反射面が2つの撮像系に共通化される。
【0019】
このため、組合せられる2つの広角レンズの「前群の最も物体側のレンズ」の間隔が小さくなり、2つの広角レンズの間の「最大画角間距離」が小さくなる。
【0020】
従って、撮像システムがコンパクトになるのみならず、最大画角における被写体と無限遠の被写体との視差を小さくでき、広角レンズの設計条件も容易になる。
【0021】
また、視差に基づく撮像素子上のずれも小さくできる。」

(7)「【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】撮像システムを構成する2つの撮像系を分離して示す図である。
【図2】視差と撮像不能空間を説明するための図である。
【図3】最大画角間距離と視差の関係を示す図である。
【図4】広角レンズの具体例の球面収差の図である。
【図5】広角レンズの具体例の像面湾曲の図である。
【図6】広角レンズの具体例の球面収差の図である。
【図7】広角レンズの具体例のOFT特性を示す図である。
【図8】広角レンズの具体例のOFT特性を示す図である。
【図9】反射面部材の実施の1例を示す図である。
【図10】反射面部材とその鏡筒部分への組み付けを説明するための図である。
【図11】鏡筒部分を説明するための図である。
【図12】反射面部材を構成する直角プリズムと結像光束との関係を示す図である。」

(8)「【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施の形態を説明する。
図1は、撮像システムを構成する2つの撮像系の例を示している。

即ち、撮像システムを構成する2つの撮像系は、図に示す撮像系Aと撮像系Bである。
これら撮像系A、Bは同一仕様である。
【0024】
2つの撮像系A、Bは何れも「180度より広い画角を持つ広角レンズと、この広角レンズによる像を撮像する撮像センサと」により構成されている。
撮像センサは「2次元の固体撮像素子」である。
【0025】
撮像系Aの広角レンズは、前群と、反射面と、後群とを有する。
「前群」はレンズLA1?LA3により構成され、「後群」はレンズLA4?LA7により構成される。符号PAは「直角プリズム」を示す。
【0026】
レンズLA4の物体側には、開口絞りSAが配置されている。
【0027】
撮像系Bの広角レンズは、前群と、反射面と、後群とを有する。
「前群」はレンズLB1?LB3により構成され、「後群」はレンズLB4?LB7により構成される。符号PBは「直角プリズム」を示す。
【0028】
レンズLB4の物体側には、開口絞りSBが配置されている。
【0029】
これら2個の広角レンズの「前群」は負の屈折力、「後群」は正の屈折力を持つ。
【0030】
直角プリズムPA、PBと「反射面」については、後述する。
【0031】
撮像系Aの広角レンズの「前群を構成するレンズ」は、物体側から順に、以下の3枚を配してなる。
即ち、ガラス材料による負メニスカスレンズLA1、プラスチック材料による負レンズLA2、ガラス材料による負メニスカスレンズLA3である。
【0032】
後群を構成するレンズは、開口絞りSA側から順に、以下の4枚を配してなる。
即ち、ガラス材料による両凸レンズLA4、ガラス材料による「両凸レンズLA5と両凹レンズLA6の貼合わせレンズ」、プラスチック材料による両凸レンズLA7である。
【0033】
撮像系Bの広角レンズの「前群を構成するレンズ」は、物体側から順に、以下の3枚を配してなる。
即ち、側から順に、ガラス材料による負メニスカスレンズLB1、プラスチック材料による負レンズLB2、ガラス材料による負メニスカスレンズLB3である。
【0034】
後群を構成するレンズは、開口絞りSB側から順に、以下の4枚を配してなる。
即ち、ガラス材料による両凸レンズLB4、ガラス材料による「両凸レンズLB5と両凹レンズLB6の貼合わせレンズ」、プラスチック材料による両凸レンズLB7である。
【0035】
これら撮像系A、Bにおいて、プラスチック材料による、負レンズLA2、LB2、両
凸レンズLA7、LB7は「両面が非球面」である。
そして、他のガラス材料による各レンズは球面レンズである。
【0036】
各広角レンズにおける前側主点の位置は、レンズLA2とLA3の間、レンズLB2とLB3との間に設定される。
【0037】
撮像系A、Bの広角レンズにおける、前群の光軸と反射面との交点と前側主点との距離が図1における「d1、d2」である。
【0038】
撮像系AとBは同一仕様であるから、d1=d2である。
【0039】
直角プリズムPA、PBは「d線の屈折率が1.8より大きい材質」で形成するのがよい。直角プリズムPA、PBは、前群からの光を後群に向かって「内部反射」させる。
【0040】
従って、各広角レンズの結像光束の光路は直角プリズムPA、PB内を通る。
プリズムの材料が上記の如き高屈折率であると、直角プリズム内の「光学的な光路長」が、実際の光路長より長くなり、光線を屈曲させる距離を広げることが出来る。
【0041】
従って、前群・直角プリズム・後群における「前群と後群の間の光路長」を機械的な光路長よりも長く出来、広角レンズをコンパクトに構成できる。
【0042】
また、光束径を絞る開口絞りSA、SBの近くに直角プリズムPA、PBを配置することにより、小さい直角プリズムを用いるができ、広角レンズ相互の間隔を小さくできる。
【0043】
このように、直角プリズムPA、PBは、前群と後群の間に配置される。
広角レンズの前群は「180度より大きい広画角の光線を取り込む機能」をもち、後群は「結像画像の収差の補正」に効果的に機能する。
【0044】
各広角レンズの後群の像側にそれぞれ、撮像センサが配置されている。図1において、符号ISA、ISBは、これら撮像センサの撮像面を示す。
擦像面ISA、ISBの広角レンズ側に、符号Fで示されているのは、撮像センサに用いられる各種フィルタおよびカバーガラスを示している。
【0045】
さて、図1においては、直角プリズムPA、PBを分離させて描いているが、これは、各撮像系A、Bの構成を明確に示すためである。
【0046】
実際の撮像システムにおいては、各撮像系A、Bの広角レンズの一部をなす直角プリズムPA、PBは、その斜面部を接している。
【0047】
各広角レンズにおける「反射面」は、2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、光学的に等価な2つの透明部材(直角プリズムPA、PB)により挟持される。
【0048】
即ち、直角プリズムPA、PBの斜面には反射膜が形成され、この反射膜が、直角プリズムPA、PBの斜面により挟まれる。
【0049】
この状態で、反射膜、直角プリズムPA、PBは一体化され「2個の広角レンズに共通化された反射面部材」をなす。
【0050】
そして、後述するように、反射面部材は、2個の広角レンズの「各前群および各後群を組み付ける共通の鏡筒部分」に保持される。
【0051】
このような構成により、撮像系A、Bは、入射光軸方向の幅を最も小さくできる。
【0052】
このような構成による効果を説明する。
図2は、撮像システムを簡略化して示している。

即ち、図2において、符号A1、B1は、2つの広角レンズの前群の「最も物体側のレンズ面(図1におけるレンズLA1、LB1の物体側レンズ面)」を示している。
【0053】
また、符号A2、B2は2つの広角レンズの後群を簡略化して示し、符号SNA、SNBは、撮像系A、Bの撮像センサを示す。
【0054】
符号PA、PBは直角プリズム、符号RFは「反射面」を示している。
符号LMAは、撮像系Aの広角レンズに最大画角で入射する最大画角光線、符号LMBは、撮像系Bの広角レンズに最大画角で入射する最大画角光線である。
【0055】
この最大画角光線LMAとLMBの「交点」を点P、前群の最物体側面B1の光軸AXとの交点位置Qを通り入射光軸に直交する平面と、点Pの間の距離をRとする。
【0056】
また、交点位置Qと、P点を通り光軸AXに平行な面までの距離をLとする。
【0057】
さらに、最大画角光線LMA、LMBの前群への入射位置の間の距離をMGKとする。
【0058】
この距離:MGKが、先に述べた「最大画角間距離」である。
【0059】
図から明らかなように「P点と、最大画角光線LMA、LMBで囲まれた空間部分」は、先に述べた「撮像不能空間部分」である。
【0060】
撮像不能空間部分内にある物体から出た光は、2つの広角レンズの何れによっても、擦像光として取り込まれることがない。
【0061】
撮像不能空間部分が大きいほど、全天球型の撮像システムとしては撮像できる情報が少なくなる。従って、撮像不能空間部分を小さくする工夫が必要になる。
【0062】
撮像不能空間部分の大きさを特徴付けるものは、上述の距離:RとLと最大画角間距離:MGKである。
これ等の距離:R、L、MGKの何れが大きくなっても、撮像不能空間部分は大きくなる。これ等の距離を小さくする方法を考えると、以下のようになる。
【0063】
第1の方法は、距離:Lを小さくする方法である。この方法を単独で実行しようとすると、広角レンズの画角を大きくしなければならない。
広角レンズの画角を大きくすることは、レンズ設計に対する制約も厳しくなるが、画角が大きくなると「視差」も大きくなる。
【0064】
第2の方法は、距離:Rを小さくすることである。
【0065】
距離:RとLとの間には、広角レンズの画角をΘとして、
L=-R・tanΘ
の関係がある。
【0066】
従って、Rが小さくなると、2つ広角レンズにより撮影される像が重なる距離:Lが短
くなり、撮像不能空間部分も小さくなる。
【0067】
距離:Rを小さくするには、最大画角間距離:MGKを小さくするのがよい。
【0068】
最大画角間距離:MGKを小さくするには、この発明のように、撮像系A、Bの2つの広角レンズに含まれる反射面を共通化するのが「最も有効」である。
【0069】
直角プリズムPAとPBの斜面で反射膜を挟み、直角プリズムPA、PBと共に一体化することにより、最大画角間距離:MGKを小さくでき、距離:Rを小さくできる。(当審注:「最大画角間距離:MGA」は、他の記載に照らして、「最大画角間距離:MGK」の明らかな誤記であると認められるので、誤記を正した上で認定した。)
【0070】
ここで「視差」について説明する。
【0071】
この発明の撮像システムでは、180度以上の画角を持つ広角レンズによる2つの画像をキャリブレーションで貼り合せることにより、立体角:4πラジアンの画像を得る。
【0072】
この明細書において言う「視差」は、キャリブレーションで貼合せられる2つの画像の「重なり量」を意味している。
【0073】
この発明のような全天球型の撮像システムの場合、貼合わせられた「合成画像」は視差の影響を受け「最大画角の視差」が画像ずれになる。
【0074】
視差を角度に換算して角:θとすると、視差:θは、被写体までの距離と最大画角間距離:MGKとに対して関数関係にある。
【0075】
1例として、被写体までの距離:20cmでキャリブレーションした場合、最大画角間距離が35mmだと、無限遠の画像の視差は5度である。
【0076】
即ち、無限遠の画像は5度ずれる。
【0077】
例えば、撮像センサとして500万画素のものを用いた場合には、画素は直交2方向に2592×1944(画素)の配列となる。
【0078】
この長方形の面積領域に広角レンズによる画像を結像させるので、像(円形である。)の直径は1994画素、即ち、略2000画素になる。
【0079】
仮に、広角レンズの画角を200度とすると、その1度当たりに割り当てられる画素数は、2000(画素)/200(度)=10(画素)/度となる。
【0080】
この場合、上記の如く「5度の視差」があると、無限遠の画像は50画素分ずれることになる。
【0081】
図3には、上記の場合に於いて、物体距離:20cmから無限遠を撮像範囲としたとき、張り合わせる2つの画像の継ぎ目のずれ量:θの変化を示している。
【0082】
横軸は最大画角間距離(図中「最大画角光線位置間距離」と表記している。)である。
縦軸は、ずれの「角度:θ(即ち「視差」)」である。図のように、ずれの角度:θは、最大画角間距離の増加に線形に比例して増加する。
【0083】
視差が大きいと、張り合わせる2つの画像の「重なり合う領域」が増大する。
【0084】
従って、重なり合う部分を除いた「周辺部から光軸部に到る部分」の画素密度が低くなり、合成画像の解像度の低下を来たす。
【0085】
この発明の撮像システムでは、上述の如く、直角プリズムPA、PBの斜辺で反射膜をはさみ、反射膜と1つの直角プリズムを一体化して反射面部材とする。
【0086】
これにより、2つの広角レンズの反射面間距離を0とすることにより、最大画角間距離を小さくし、視差を減少させる。
【0087】
広角レンズに関する具体的な例を挙げる。
【0088】
以下に挙げるデータは、図1に示した2つの撮像系A、Bに関するものである。撮像系A、Bは「同一仕様」であるから、以下のデータは各撮像系に共通である。
【0089】
距離:d1は、撮像系Aの広角レンズの「入射瞳と直角プリズムPAの反射面との光軸上の距離」である。
距離:d2は、撮像系Bの広角レンズの「入射瞳とプリズムPBの反射面との光軸上の距離」である。
【0090】
以下において、fは全系の焦点距離、NoはFナンバ、ωは画角である。
(中略)
【0101】
実施例の広角レンズにおいて「d1=d2=d=6mm」である。
また、最も物体側のレンズ面から直角プリズムの反射面までの距離:DAは、
DA=8.87mmである。
【0102】
従って、反射面を2つの広角レンズで共通化した場合、2つの広角レンズの前群の、最も物体側の面の光軸上の距離は、8.87×2=17.74mmである。
【0103】
これから、最大画角間距離は17mmとなる。
【0104】
最大画角間距離:17mmの場合の視差:θは、図3に示すように「2.4度」となり、無限遠の画像の「ずれ量」も24画素に軽減される。
【0105】
また、反射面が共通化されたことにより、2つの広角レンズの主点間隔が、d1+d2=2d1と小さくなり、このことも視差の低減に寄与している。
【0106】
上記広角レンズの具体例の球面収差の図を図4に示す。また、像面湾曲の図を図5に示す。図6には、コマ収差図を示す。
【0107】
図7、図8は、OTF特性を示す図であり、横軸は、図7では「空間周波数」、図8では半画角を「度」で表している。
【0108】
これらの図から明らかなように、具体例の広角レンズは性能が極めて高い。
【0109】
このように、撮像システムに含まれる2つの広角レンズの反射面を共通化し、これを2つの透明部材(直角プリズムPA、PB)で挟み、反射面部材として一体化している。
【0110】
これにより上に説明したように、視差を有効に軽減することができる。
【0111】
しかしながら、反射面を共通化したことにより、以下の点に留意する必要がある。
【0112】
即ち、個々の広角レンズが、別個に反射面を有するのであれば、各反射面は1つの広角レンズ内で、前群・後群に対する位置精度が保証されれば良い。
【0113】
しかし、2つの広角レンズで反射面を共通化した場合、共通化された反射面は、2つの広角レンズのそれぞれに対して、前群・後群との位置関係を保証されねばならない。
【0114】
即ち、反射面は、その傾きや位置に誤差があると、2つの広角レンズに影響する。
【0115】
反射面を成す反射膜は、直角プリズムPA、PBと一体化して1個の反射面部材となっており、組み付け上、1個の光学エレメントに性能が依存することになる。
【0116】
この問題は、以下の如く解決される。
【0117】
即ち、2個の広角レンズに共通化された反射膜は、光学的に等価な2個の透明部材に挟持される。
【0118】
この反射膜を挟持する2つの透明部材における「反射膜に当接する面の大きさ」を異ならせ、当接する面の大きい方の「光束反射領域外」を自由表面部とする。
【0119】
この自由表面部は反射膜の微小な膜厚を無視すれば「反射面と同一面」である。
【0120】
そこで、反射面部材を保持する鏡筒部分には、前記自由表面部に当接する当接面を形成し、この当接面に自由表面部を当接させて、鏡筒部分に対する位置合わせを行なう。
【0121】
このようにすると、鏡筒部分に対して反射面を「直接的に位置合わせ」できる。
一方、鏡筒部分には、2つの広角レンズの前群・後群が精度良く位置合わせして組み付けられる。
【0122】
従って、上記の如く鏡筒部分に組み付けられた反射面部材の反射面は、2つの広角レンズのそれぞれに精度良く位置合わせされることになる。
【0123】
これを、説明中の実施の形態に適用すると、以下のようになる。
【0124】
図9は、反射面部材を説明するための図である。説明の簡単のため、2個の直角プリズムを、符号200及び300で示す。

【0125】
直角プリズム200、300は、上述の広角レンズの具体例に用いられているものであり、屈折率:1.834、アッベ数:37.160487の同一材料で形成されている。
【0126】
直角プリズム200、300の斜面部にはアルミニウムのコーティングにより反射膜が形成されている。なお、図示の簡単のため「反射膜」は図示されていない。
【0127】
直角プリズム200、300の斜面部は、接着剤により、反射膜を介して5μm以下の間隔で接着固定されている。
【0128】
直角プリズム200、300のプリズム角を成す2つのプリズム面は「入射面・反射面」であり、これ等の面には反射防止処理がなされている。
【0129】
直角プリズム200、300のうち、直角プリズム200は「互いに直角をなすプリズム面の陵線方向の長さ」が、直角プリズム300よりも大きい。
【0130】
このため、直角プリズム200の斜面の一部(上記稜線方向の両端部側部分)は、直角プリズム300の斜面から食み出している。
図9において、符号201A、201Bで示す部分が「食み出した部分」で「自由表面部」である。この自由表面部201A、201Bは「反射面と同一面」である。
【0131】
図10(a)は、反射面部材を、上記「稜線方向」が上下方向となるように描いた図である。反射面部材は、この状態で鏡筒部分に組み付けられる。

【0132】
なお、図10(a)においては、反射面部材の直角プリズム200、300の接合面の端部を「面取り」している。
【0133】
図10(b)は、反射面部材を鏡筒部分100に取り付けた状態を説明図として示している。鏡筒部分100は、後群の光軸を含み、前群の光軸に平行な仮想面で切断した。
【0134】
図11には、鏡筒部分100における反射面部材を取り付ける部分を示す。

【0135】
図11の(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【0136】
図11(b)の正面図の上下方向は2つの広角レンズの「後群の光軸方向」であり、各前群は、図面に直交する方向において、鏡筒部分100の孔の部分に組み付けられる。
【0137】
鏡筒部分100には、反射面部材の反射面を受ける部分に段差を形成し、この段差の面を当接面101A、101Bとしている。
【0138】
当接面101A、101Bは、鏡筒部分100に組み付けられる2つの広角レンズの各前群・後群の位置態位に合わせて「反射面位置」として精度良く形成されている。
【0139】
直角プリズム200、300により構成される反射面部材における自由表面部201Aを当接面101Aに、自由表面部201Bを当接面101Bにそれぞれ当接させる。
【0140】
このようにすることにより、反射面部材の反射面を、各広角レンズの前群・後群に対して、あるべき態位に設定できる。
【0141】
上記の如くすることにより、反射面の態位は定まるが、この状態の反射面部材には「反射面に沿った方向への移動」の自由度がある。
【0142】
反射面の態位を適正に保ちつつ、反射面部材の位置を鏡筒部分100内で確定するには、自由表面部201A、201B以外の少なくとも1点を固定する必要がある。
説明中の実施の形態では、直角プリズム200の射出面202Aと、鏡筒部分に突出部として形成された第2当接面102A、102Bを当接させ、接着剤で接着する。
【0143】
このようにして、直角プリズム200が鏡筒部分100に固定され、反射面部材の鏡筒部分100に対する態位が確定する。
【0144】
説明中の実施の形態では、鏡筒部分100に第2当接面102A、102Bとして2つの突設部を設けたが、第2当接面102A、102Bの一方のみでも良い。
【0145】
説明中の実施の形態において、第2当接面102A、102Bには、直角プリズム200の射出面202Aを接着した。これには以下の如き意味がある。
【0146】
図12は、撮像システムを構成する撮像系(図1に示した撮像系A)の光路図を示している。前群から入射した光束は光束径を絞られて直角プリズム200に入射する。

【0147】
そして直角プリズム200内でさらに光束を狭められ、射出面から射出する。従って、結像光束の光束径(光束有効径)は、入射面で大きく、射出面で小さい。
そこで、反射膜を挟持する2つの直角プリズムのうちの直角プリズム200の、光束有効径の小さい射出面202Aの光束有効径外の部分を、第2当接面に当接させる。
【0148】
このようにすることで、第2当接面102A、102Bをなす突出部によって、結像光束の外周部が遮光される恐れがない。
【0149】
具体的には、図12の光束径:L1=3.8mm、L2=2.3mmであり、直角プリズム200の入・射出面の一辺の長さは5mmである。
【0150】
このように、反射面部材を鏡筒部分に対して固定する部位を、反射面にしている。
【0151】
このため、直角プリズムの大きさを変え、大きいほうの直角プリズムの反射面に自由表面部を設けて鏡筒部分の当接面にあてつける。
【0152】
このようにすることにより、反射面部材の外形精度に影響を受けることなく、反射面のシフトやチルトに起因する性能劣化原因を少なく出来る。
【0153】
上には反射面部材として、2個の直角プリズムを組合せる場合を説明したが、共通化された反射膜を挟持する光学的に等価な2つの透明部材は、直角プリズムに限らない。
【0154】
例えば、2つの等価な透明部材として、透明平行平板を用い、これらで反射膜を挟むようにしても良い。
【0155】
この場合にも、一方の透明平行平板を大きくして、反射面の延長部分に自由表面部を形成し、この自由表面部を当接面にあてつけて、位置を確定するようにしてもよい。
【0156】
原理的に言えば、上記2枚の透明平行平板で反射膜を挟む場合、反射面の延長部分に自由表面部を形成しないで、反射面の位置精度を出す方法はある。
【0157】
即ち、鏡筒部分の側に形成する当接面に、透明平行平板の反射面に接しない側の面を押し当てることにより位置精度を出すことが考えられる。
【0158】
この場合、透明平行平板の厚みをtとすれば、鏡筒部分の当接面位置を、反射面の理想的な位置から、垂直方向に「t」だけ平行移動させて形成すればよい。
【0159】
しかし、この方法の場合には、反射面自体で位置合わせをするのではないので、反射面の位置精度が、透明平行平板の平行度や、厚さの誤差に影響を受けてしまう。」

4 当審の判断
(1)明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法第17条の2第3項)、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。

(2)本願当初明細書等に記載されている技術的事項の認定
ア 上記3で認定した本願当初明細書等の記載によれば、本願当初明細書等には、次の技術的事項が記載されていると認められる。なお、以下、段落番号を付すときは、特に断らない限り、本願当初明細書等に対する記載を意味するものとする。
(ア)この発明は、全天球型の撮像システムおよびこれに用いられる撮像光学系に関する。(【0001】)

(イ)全天球を「一度に撮像」する撮像システムでは、180度を超える画角をもつ広角レンズが2つ組合せて用いられる。各広角レンズによる撮影画像が、同一または個別の撮像手段により電気信号化され、電気信号の処理により全天球の画像を撮像できる。(【0002】【0007】【0008】)

(ウ)従来技術における撮像システムは、広角レンズ自体の具体的な構成を開示していない。また、当該撮像システムは、各撮像光学系による結像光束を、個別の導光手段により撮像手段に導光しているが、広角レンズごとに導光手段が用いられるため、2つの広角レンズの間の「最大画角間距離」を小さくすることが難しい。「最大画角間距離」が大きいと、撮像不能空間部分を小さくすることが難しく、また、撮影できる被写体でも、最大画角上の被写体と無限遠の被写体とで視差が異なり、撮像素子上でのずれが大きくなる。(【0009】【0010】【0012】【0013】)

(エ)この発明は、上記問題を有効に解消できる、新規な全天球型の撮像システムの実現を課題としている。(【0015】)

(オ)この発明の全天球型の撮像システムは、180度より広い画角を持つ広角レンズと、この広角レンズによる像を撮像する撮像センサとを有する同一構造の撮像系を2つ組み合わせ、各撮像系により撮像された像を合成して4πラジアンの立体角内の像を得る全天球型の撮像システムであって、各撮像系の広角レンズは、物体側から像側へ向かって、前群、反射面、後群を配し、前記反射面により前群の光軸を前記後群に向かって折り曲げるものであり、2個の広角レンズは、前群の光軸同士を合致もしくは近接させて、前群の向きが逆になるように、かつ、後群の光軸が互いに平行で後群同士の向きが互いに逆になるように組み合わせられ、かつ、反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなし、2個の広角レンズの、各前群および各後群を組み付ける共通の鏡筒部分に、前記反射面部材を保持させたことを特徴とする。(【0016】【請求項1】)
また、この発明の撮像光学系は、上記全天球型の撮像システムに用いられる撮像光学系であって、物体側から像側へ向かって、前群、反射面、後群を配し、前記反射面により前群の光軸を前記後群に向かって折り曲げる、同一機能の広角レンズを2個有し、該2個の広角レンズは、前群の光軸同士を合致もしくは近接させて、前群の向きが逆になるように、かつ、後群の光軸が互いに平行で後群同士の向きが互いに逆になるように組み合わせられ、かつ、前記反射面は2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなし、2個の撮像光学系の、各前群および各後群を組み付ける共通の鏡筒部分に、前記反射面部材を保持させたことを特徴とする。(【0017】【請求項7】)

(カ)この発明の全天球型の撮像システムでは、組合せられる2つの撮像系の各々の広角レンズが、前群と後群との間に反射面を有し、この反射面が2つの撮像系に共通化されるため、組合せられる2つの広角レンズの「前群の最も物体側のレンズ」の間隔が小さくなり、2つの広角レンズの間の「最大画角間距離」が小さくなる。従って、撮像システムがコンパクトになるのみならず、最大画角における被写体と無限遠の被写体との視差を小さくでき、広角レンズの設計条件も容易になり、また、視差に基づく撮像素子上のずれも小さくできる。(【0018】?【0021】)

(キ)実施の形態の撮像システムは、各撮像系A、Bの広角レンズの一部をなす直角プリズムPA、PBは、その斜面部を接しており、各広角レンズにおける「反射面」は、2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、光学的に等価な2つの透明部材(直角プリズムPA、PB)により挟持される。即ち、直角プリズムPA、PBの斜面には反射膜が形成され、この反射膜が、直角プリズムPA、PBの斜面により挟まれている。この状態で、反射膜、直角プリズムPA、PBは一体化され「2個の広角レンズに共通化された反射面部材」をなし、反射面部材は、2個の広角レンズの「各前群および各後群を組み付ける共通の鏡筒部分」に保持される。このような構成により、撮像系A、Bは、入射光軸方向の幅を最も小さくできる。(【0046】?【0051】)

(ク)最大画角間距離:MGKを小さくするには、この発明のように、撮像系A、Bの2つの広角レンズに含まれる反射面を共通化するのが「最も有効」であり、直角プリズムPAとPBの斜面で反射膜を挟み、直角プリズムPA、PBと共に一体化することにより、最大画角間距離:MGKを小さくでき、距離:Rを小さくできる。(【0068】・【0069】)

(ケ)この発明の撮像システムでは、上述の如く、直角プリズムPA、PBの斜辺で反射膜をはさみ、反射膜と1つの直角プリズムを一体化して反射面部材とすることにより、2つの広角レンズの反射面間距離を0とすることにより、最大画角間距離を小さくし、視差を減少させる。(【0085】・【0086】)

(コ)実施例の広角レンズにおいて「d1=d2=d=6mm」であり、最も物体側のレンズ面から直角プリズムの反射面までの距離:DAは、DA=8.87mmである。従って、反射面を2つの広角レンズで共通化した場合、2つの広角レンズの前群の、最も物体側の面の光軸上の距離は、8.87×2=17.74mmである。また、反射面が共通化されたことにより、2つの広角レンズの主点間隔が、d1+d2=2d1と小さくなり、このことも視差の低減に寄与している。(【0101】?【0105】)

(サ)撮像システムに含まれる2つの広角レンズの反射面を共通化し、これを2つの透明部材(直角プリズムPA、PB)で挟み、反射面部材として一体化していることにより、視差を有効に軽減することができる。しかし、個々の広角レンズが、別個に反射面を有するのであれば、各反射面は1個の広角レンズ内で、前群・後群に対する位置精度が保証されれば良いが、2つの広角レンズで反射面を共通化した場合、共通化された反射面は、2つの広角レンズのそれぞれに対して、前群・後群との位置関係を保証されねばならない。反射面を成す反射膜は、直角プリズムPA、PBと一体化して1個の反射面部材となっており、組み付け上、1個の光学エレメントに性能が依存することになる。そこで、2個の広角レンズに共通化された反射膜は、光学的に等価な2個の透明部材に挟持されるところ、この反射膜を挟持する2つの透明部材における「反射膜に当接する面の大きさ」を異ならせ、当接する面の大きい方の「光束反射領域外」を自由表面部とする。この自由表面部は反射膜の微小な膜厚を無視すれば「反射面と同一面」であるので、反射面部材を保持する鏡筒部分には、前記自由表面部に当接する当接面を形成し、この当接面に自由表面部を当接させて、鏡筒部分に対する位置合わせを行なう。このようにすると、鏡筒部分に対して反射面を「直接的に位置合わせ」できる。従って、上記の如く鏡筒部分に組み付けられた反射面部材の反射面は、2つの広角レンズのそれぞれに精度良く位置合わせされることになる。(【0109】?【0122】)

(シ)上記(サ)を、説明中の実施の形態に適用した説明が、【0124】?【0153】に記載されている。(【0123】?【0153】)

イ 上記アで認定した技術的事項によれば、本願当初明細書等には、全天球型の撮像システムおよびこれに用いられる撮像光学系に属するものであって(上記ア(ア))、180度を超える画角をもつ広角レンズが2つ組合せて用いられる従来技術では、広角レンズごとに導光手段が用いられる(同(イ)・(ウ))ために、2つの広角レンズの間の「最大画角間距離」を小さくすることが難しいという課題が生じる(同(ウ))ので、これを解決するべく(同(エ))、反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなすとの課題解決手段を採用すること(同(オ))により、最大画角間距離を小さくする(同(カ))という技術的意義を有する技術的事項が記載されていると認められる。

(3)検討
ア まず、本件補正により特定された技術的事項について検討する。
上記2で認定した本件補正の内容によれば、本件補正は、本件補正前の請求項1の「互いに固定された第1および第2のプリズムであって、これらが互いに対向するそれぞれの面に反射膜が形成され」た「反射面部材」を、「第1および第2のプリズムであって、前記第1のプリズムの斜面に第1の反射膜が形成され、前記第2のプリズムの斜面に第2の反射膜が形成され、これら第1および第2の反射膜を対向させて互いに固定され」た「反射面部材」に補正する事項を含むものである。
このように、本件補正は、「前記第1のプリズムの斜面に第1の反射膜が形成され、前記第2のプリズムの斜面に第2の反射膜が形成され、これら第1および第2の反射膜を対向させて互いに固定され」たことを特定しているから、本件補正により、反射面部材には、反射膜が2枚存在することが特定されたことになる。

イ そこで、「反射膜」に関して本願当初明細書等に記載された技術的事項について検討する。
(ア)本願当初明細書等の請求項1には、「反射膜」に関して「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」(以下、当該記載における「反射膜」を「本件反射膜」という。)との記載があるところ、この記載の意味は、以下のとおり、1枚の反射膜の一方の面が、2個の広角レンズのうちの一方の広角レンズに配される反射面であり、当該1枚の反射膜の他方の面が、2個の広角レンズのうちの他方の広角レンズに配される反射面である、と解される。
a まず、本件反射膜の枚数については措き、本件反射膜の構成についてみると、本件反射膜は、2つの反射面を備えており、一方の反射面が、一方の広角レンズに配されており、他方の反射面が、他方の広角レンズに配されていることが理解できる。
すなわち、上記ア(オ)に係る【0016】【請求項1】【0017】【請求項7】によれば、本件反射膜は、「これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をな」すものである。このように、本件反射膜は、光学的に等価な2つの透明部材(以下、それぞれの透明部材を、「第1の透明部材」及び「第2の透明部材」ということがある。)に挟持されているのであるから、これを「反射面」という観点から整理すれば、本件反射膜は、反射面として、第1の透明部材側に向いた面と、第2の透明部材側に向いた面の2つを備えているといえる。
そして、反射面は、上記段落等の「各撮像系の広角レンズは、物体側から像側に向かって、前群、反射面、後群を配し、前記反射面により前群の光軸を前記後群に向かって折り曲げるものであり、」との記載によれば、各広角レンズの前群と後群の間に配されるとともに、前群の光軸を後群に向かって折り曲げるものである。しかるに、この記載のみからは、これらの広角レンズが配している当該「反射面」が、各広角レンズごとに別個の反射面からなる(すなわち、一方の反射面が、一方の広角レンズに配されており、他方の反射面が、他方の広角レンズに配されている)のか、各広角レンズが共用している反射面からなる(すなわち、2つの反射面のうち、一方の反射面のみが2個の広角レンズに共用されるように配されており、他方の反射面はいずれの広角レンズにも配されていない)のかは判然としないが、当該段落等には、「2個の広角レンズは、前群の光軸同士を合致もしくは近接させて、前群の向きが逆になるように、かつ、後群の光軸が互いに平行で後群同士の向きが互いに逆になるように組み合わせられ」ていると記載されており、このような2個の広角レンズの前群及び後群の配置関係に照らすと、2個の広角レンズは、1つの反射面を共用しているのではなく、それぞれ別個の反射面を配していると解される。
よって、本件反射膜は、2つの反射面を備えており、一方の反射面が、一方の広角レンズに配されており、他方の反射面が、他方の広角レンズに配されているといえる。

b 次に、本件反射膜の枚数について検討する。
上記のとおり、本願当初明細書等には、本件反射膜につき「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」と記載されているが、この記載において、「2個の広角レンズに共通化された」ものが「反射面」なのか「反射膜」なのかが必ずしも判然としない。この点、本願当初明細書等には、「反射面」が2個の広角レンズに共通化される旨の記載がある(【0018】【0102】等)けれども、「反射膜」が2個の広角レンズに共通化される旨の記載もある(【0047】【0117】等)。
しかしながら、それらのいずれに理解するとしても、「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」との記載からは、本件反射膜の枚数が1枚であると理解することが自然である。
すなわち、まず、「『反射膜』が2個の広角レンズに共通化される」ことの意味を検討するに、「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」との記載には、「反射膜」の枚数が複数枚であってよい旨の明記がない。そして、「共通」の字義は、「二つまたはそれ以上のもののどれにも通ずること。あてはまること。」であり、「化」の字義は、「形や性質がかわること。かえること。」(いずれも、広辞苑第五版(株式会社岩波書店、1998年11月11日発行)を参照。)である。そうすると、「『反射膜』が2個の広角レンズに共通化される」とは、1枚の「反射膜」が、2個の広角レンズのうちの一方の広角レンズのためだけに用いられる状態ではなく、一方の広角レンズ及び他方の広角レンズの双方のために用いられる状態になっていることを意味すると解するのが自然である。
次に、「『反射面』が2個の広角レンズに共通化される」ことの意味を検討するに、本件反射膜は、「反射面」として、上記aで検討したとおり、第1の透明部材側に向いた面と第2の透明部材側に向いた面との2つの面が存在するように構成されており、そのいずれの面も「反射面」として実際に光を反射するよう機能している。しかし、これら2つの面、すなわち、本件反射膜の一方の反射面と他方の反射面とが「(2個の広角レンズに)共通化」されているとみることは、「共通化」の上記字義に照らせば、困難である。とすれば、「『反射面』が2個の広角レンズに共通化される」とは、一方の反射面と他方の反射面とが「(2個の広角レンズに)共通化」されているということではなく、むしろ、一方の反射面と他方の反射面とを構成する「反射膜」が「(2個の広角レンズに)共通化」されている、すなわち、2個の広角レンズにそれぞれ配された各「反射面」が、別々の「反射膜」(2枚の反射膜)に由来している状態ではなく、同一の「反射膜」(1枚の反射膜)に由来している状態になっているという意味で、「(2個の広角レンズに)共通化」されていると解するのが自然である。
以上によれば、「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」との記載からは、「2個の広角レンズに共通化された」ものが「反射面」であるか「反射膜」であるかを問わず、本件反射膜の枚数が1枚であると理解することが、自然である。

c 上記aのとおり、本件反射膜は、2つの反射面を備えており、一方の反射面が、一方の広角レンズに配されており、他方の反射面が、他方の広角レンズに配されているのであり、上記bのとおり、本件反射膜の枚数は、1枚である。
そうすると、「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」の意味は、1枚の反射膜の一方の面が、2個の広角レンズのうちの一方の広角レンズに配される反射面であり、当該1枚の反射膜の他方の面が、2個の広角レンズのうちの他方の広角レンズに配される反射面である、といえる。

d 上記cの認定は、本願当初明細書等の他の記載と整合する。
(a)すなわち、上記(2)イで認定した技術的意義によれば、本願当初明細書等に記載された技術的思想は、反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなすとの課題解決手段を採用することにより、最大画角間距離を小さくするものであるところ、「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」の意味を上記cのとおり理解すれば、最大画角間距離が小さくなることが明らかである。

(b)上記(2)ア(カ)は、「この反射面が2つの撮像系に共通化される」(【0018】)ため、「2つの広角レンズの間の『最大画角間距離』が小さくなる」(【0019】)ということであるから、上記cの認定と整合する。

(c)上記(2)ア(キ)は、「各広角レンズにおける『反射面』は、2個の広角レンズに共通化された反射膜」(【0047】)であることにより、「撮像系A、Bは、入射光軸方向の幅を最も小さくできる」(【0051】)ということであるから、上記cの認定と整合する。
なお、【0048】には、「即ち、直角プリズムPA、PBの斜面には反射膜が形成され」と記載されているところ、この表現は、反射膜が1枚であっても成立し得るものである上、「即ち」という接続詞の意味からみて、その前にある【0047】の「各広角レンズにおける『反射面』は、2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、光学的に等価な2つの透明部材(直角プリズムPA、PB)により挟持される。」との記載の言い換えを意図したものと解される。そして、上記のとおり、【0047】の記載は、上記cの認定と整合するから、【0048】の当該記載により、上記cの認定が左右されることはない。

(d)上記(2)ア(ク)は、「2つの広角レンズに含まれる反射面を共通化する」(【0068】)ことにより、「最大画角間距離:MGKを小さくでき」る(【0069】)というものであるから、上記cの認定と整合する。

(e)上記(2)ア(ケ)は、「直角プリズムPA、PBの斜辺で反射膜をはさみ、反射膜と1つの直角プリズムを一体化して反射面部材とする」(【0085】)ことにより、「2つの広角レンズの反射面間距離を0とすることにより、最大画角間距離を小さく」する(【0086】)というものであるから、上記cの認定と整合する。
なお、上記の「反射面間距離を0とする」との記載について、上記cの認定によれば、反射面間距離は、1枚の反射膜の厚さ分だけ存在することになるので、厳密には「0」とはならないが、この点は、上記cの認定を左右しない。なぜならば、反射膜を設けた場合に、「反射面間距離を0」、すなわち、反射膜の膜厚を0、とすることは現実には不可能であるし、また、【0119】に「反射膜の微小な膜厚を無視」する旨の記載があることにも照らせば、「反射面間距離を0とする」との記載は、1枚の反射膜の厚さが微小なものとして無視されることを前提としたものであると解されるからである。

(f)上記(2)ア(コ)は、「実施例の広角レンズにおいて『d1=d2=d=6mm』である」(【0101】)ときに、「反射面が共通化されたことにより、2つの広角レンズの主点間隔が、d1+d2=2d1と小さくな」る(【0105】)というものであるから、「反射面が共通化された」ということは、1枚の反射膜の厚さが微小なものとして無視されることを前提に(上記(e))、反射面が1枚の反射膜のものであることを意味していると解されるのであり、よって、上記cの認定を左右しない。

(g)上記(2)ア(サ)は、「個々の広角レンズが、別個に反射面を有するのであれば、各反射面は1個の広角レンズ内で、前群・後群に対する位置精度が保証されれば良い」(【0112】)が、「2つの広角レンズで反射面を共通化した場合、共通化された反射面は、2つの広角レンズのそれぞれに対して、前群・後群との位置関係を保証されねばなら」ず(【0113】)、よって、「反射膜を挟持する2つの透明部材における『反射膜に当接する面の大きさ』を異ならせ、当接する面の大きい方の『光束反射領域外』を自由表面部と」し(【0118】)、「この自由表面部は反射膜の微小な膜厚を無視すれば『反射面と同一面』である」(【0119】)ので、「反射面部材を保持する鏡筒部分には、前記自由表面部に当接する当接面を形成し、この当接面に自由表面部を当接させて、鏡筒部分に対する位置合わせを行な」えば(【0120】)、「鏡筒部分に対して反射面を『直接的に位置合わせ』できる」(【0121】)というものであるから、「反射面を共通化した」とは、1枚の反射膜の厚さが微小なものとして無視されることを前提に(上記(e))、反射面が1枚の反射膜のものであることを意味していると解されるのであり、よって、上記cの認定を左右しない。

(h)上記(2)ア(シ)は、「これを、説明中の実施の形態に適用すると、以下のようになる。」(【0123】)との記載に照らすと、上記(2)ア(サ)の技術的事項を前提とするものといえるから、上記(g)と同様に、上記cの認定を左右しない。

(i)そして、本願当初明細書等には、他に、上記cの認定を左右する記載はない。

e したがって、本願当初明細書等に記載された「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」の意味は、1枚の反射膜の一方の面が、2個の広角レンズのうちの一方の広角レンズに配される反射面であり、当該1枚の反射膜の他方の面が、2個の広角レンズのうちの他方の広角レンズに配される反射面であると認められる。

(イ)上記(ア)の認定によれば、本願当初明細書等に記載された「該共通化された反射膜は、これを挟持する光学的に等価な2つの透明部材とともに、共通化された反射面部材をなす」における「反射面部材」は、光学的に等価な2つの透明部材により1枚の反射膜を挟持した構造であることを要すると認められる。
そして、本願当初明細書等には、「反射面部材」について、上記の認定に整合しない記載は存在しない。

ウ 上記イ(イ)のとおり、本願当初明細書等に記載された反射面部材は、それに設けられた反射膜の枚数が1枚にとどまる。そうすると、上記アのとおり、本件補正により特定されたところの、反射面部材には、反射膜が2枚存在するとの技術的事項は、本願当初明細書等に記載されていない。そして、本願当初明細書等の「反射面が2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、」との記載や「反射面」又は「反射膜」が共通化される旨の記載が、反射膜が2枚あることを意味しているとの技術常識があるともいえない。
さらに、本件補正により特定されたように、反射面部材に反射膜が2枚存在するようにすることは、本願当初明細書等に記載された技術的事項に整合しない。すなわち、本願当初明細書等では、上記(2)ア(キ)のとおり、各広角レンズにおける「反射面」は、2個の広角レンズに共通化された反射膜であり、光学的に等価な2つの透明部材(直角プリズムPA、PB)により挟持される、即ち、直角プリズムPA、PBの斜面には反射膜が形成され、この反射膜が、直角プリズムPA、PBの斜面により挟まれている構成により、撮像系A、Bは、入射光軸方向の幅を最も小さくできるとされている。しかしながら、反射膜を2枚にすると、反射膜を1枚にしたときよりも、入射光軸方向の幅が大きくなってしまうことが明らかである。したがって、本件補正により特定された事項は、本願当初明細書等に記載された技術的事項に整合しない。
加えて、本件補正により特定された「前記第1のプリズムの斜面に第1の反射膜が形成され、前記第2のプリズムの斜面に第2の反射膜が形成され、これら第1および第2の反射膜を対向させて互いに固定され」たとの技術的事項により、2個の広角レンズにそれぞれ含まれる2つの反射面の光学性能の均一化が図りやすいとの作用効果が新たに奏されるものと認められる。
以上によれば、本件補正は、本願当初明細書等の全ての記載を総合して導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえないというべきである。

エ これに対し、請求人は、【0126】には、「直角プリズム200、300の斜面部にはアルミニウムのコーティングにより反射膜が形成されている。なお、図示の簡単のため『反射膜』は図示されていない。」と記載されており、この記載によれば、直角プリズム200、300が互いに別体であること、反射膜は、直角プリズム200、300の斜面に形成されるが、「直角プリズム200、300の斜面部には」との記載から、反射膜は各プリズムの斜面に個別に形成されること、が明らかであり、これらに鑑みれば、互いに別体である2つのプリズムを個別に特定するために、第1及び第2のプリズムと呼ぶことはごく自然であり、これらの別個のプリズムに個別に形成された反射膜を第1及び第2の反射膜と呼ぶこともごく自然のことである旨主張する。
しかしながら、当該記載は、上記イ(ア)d(h)のとおり、上記イ(ア)cの認定を左右するものではなく、よって、上記イ(イ)の認定も左右しないことになる。
さらに、【0126】の記載をみたとしても、請求人の主張を採用することはできない。すなわち、反射膜が1枚であっても、「直角プリズム200、300の斜面部には」反射膜が形成されているといえる。そして、【0126】の記載が、文言上、直角プリズム200の斜面部と直角プリズム300の斜面部に、個別に反射膜が形成されていると理解する余地があるとしても、当該記載は、その理解のみが許容される表現ではないし、また、その理解は、上記の【0123】との文脈に照らした理解に明らかに整合しない。そうすると、【0126】の記載に接した当業者は、文脈に照らしてその意味を把握し、その結果、当該記載を、直角プリズム200の斜面部と直角プリズム300の斜面部に、個別に反射膜が形成されているとは理解しないとみるのが相当である。
したがって、請求人の主張は採用できない。

オ よって、本件補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反しているものである。

5 本件却下決定の適否の小括
以上のとおりであるから、本件補正を却下した本件却下決定は適法である。

第3 本願発明
1 本願発明の認定
上記第2のとおり、本件却下決定は適法であるから、本願の請求項に係る発明は、平成29年11月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。なお、便宜上、当審において分説を行った。
「A 物体側から像側へ向かって負の屈折力の前群および正の屈折力の後群を有し画角が180度より広い、同一構造の2つの広角レンズと、
B 前記前群と前記後群の間に配され、入射する光を反射する反射面部材と、を備え、
C 前記反射面部材は、互いに固定された第1および第2のプリズムであって、これらが互いに対向するそれぞれの面に反射膜が形成され、
D 各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光を、前記第1および第2のプリズムの一方の及び他方の面に入射させ、前記第1および第2のプリズムの各面に関して互いに逆の方向にある各広角レンズの前記後群に向かって前記反射膜により反射して射出させ、
E 前記前群は結像光束の光束径を前記後群の側に絞って前記反射面部材に入射させ、前記後群の物体側に設けられた開口絞り以後は拡大させる
F ことを特徴とする全天球画像を撮像するための光学系。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定は、本願発明が本願と同日に出願された特願2014-200931号(特許第5846275号公報)の請求項2に係る発明と同一と認められ、かつ、この出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない旨判断したものである。

3 当審の判断
以下、上記特願2014-200931号の経緯を認定した後、特許法第39条第5項非該当性、同日出願性、発明同一性、協議の要件について順に判断する。
(1)特願2014-200931号の経緯
特願2014-200931号(以下「引用出願」という。)は、平成24年9月11日に出願した特願2012-199770号の一部を平成26年9月30日に出願したものであり、その経緯は、次のとおりであると認められる。
平成24年 9月11日:遡及出願日
平成27年12月 4日:特許登録(特許第5846275号)
なお、引用出願と本願とは、いわゆる親出願を同じとするものである。

(2)引用出願発明の認定
原査定が提示した引用出願の請求項2に係る発明(以下「引用出願発明」という。)は、次のとおりである。なお、請求項2は、請求項1の従属項であるが、以下では、独立項として書き下している。また、便宜上、当審において分説を行った。
「G 物体側から像側へ向かって前群および後群を配した同一構造の180度より広い画角の2つの広角レンズと、
H 入射する光を反射する反射膜と、
I 前記前群と前記後群の間に配され、各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光の光軸同士を合致または近接させて前記反射膜の一方の面及び他方の面に入射し、前記反射膜の各面において互いに逆の方向にある各広角レンズの前記後群に向かって反射される光を出射させ、前記反射膜を挟持する2個の透明部材と、を備え、
J 前記前群は負の屈折力、前記後群は正の屈折力を有し、
K 前記前群は結像光束の光束径を前記後群側に絞って前記透明部材に入射させ、前記後群の物体側に設けられた開口絞り以後は拡大させる
L ことを特徴とする全天球画像を撮像するための光学系において、
M 2個の透明部材が、第1および第2のプリズムである
N ことを特徴とする光学系。」

(3)特許法第39条第5項非該当性
上記(1)によれば、引用出願は、特許法第39条第5項の規定により初めからなかったものとみなされる出願ではない。

(4)同日出願性
本願の出願日は、平成24年9月11日であり(上記第1)、引用出願の出願日は、平成24年9月11日である(上記(1))。
したがって、本願と引用出願は、「同日」の出願である。

(5)発明同一性
本願発明と引用出願発明とは同日出願に係るものである(上記(4))ので、両発明を同一と判断するためには、(i)本願発明を先願とし、引用出願発明を後願と仮定したとき、(ii)引用出願発明を先願とし、本願発明を後願と仮定したとき、のいずれにおいても、発明同一性が満たされる必要があると解される。
そこで、以下、これに沿って判断する。

ア 本願発明を先願とし、引用出願発明を後願と仮定した場合の判断
引用出願発明(後願)と本願発明(先願)とを対比する。
(ア)引用出願発明(後願)の「物体側から像側へ向かって前群および後群を配した同一構造の180度より広い画角の2つの広角レンズと、」(G)との特定事項について
本願発明(先願)の「物体側から像側へ向かって負の屈折力の前群および正の屈折力の後群を有し画角が180度より広い、同一構造の2つの広角レンズ」(A)は、引用出願発明(後願)の「物体側から像側へ向かって前群および後群を配した同一構造の180度より広い画角の2つの広角レンズ」(G)に相当する。
よって、本願発明(先願)は、引用出願発明(後願)の特定事項Gを備える。

(イ)引用出願発明(後願)の「入射する光を反射する反射膜と、」(H)との特定事項について
本願発明(先願)は、「入射する光を反射する反射面部材」(Bの一部)を備えるとともに、「前記反射面部材は、互いに固定された第1および第2のプリズムであって、これらが互いに対向するそれぞれの面に反射膜が形成され」(C)るものであるから、本願発明(先願)は、引用出願発明(後願)の特定事項Hを備える。

(ウ)引用出願発明(後願)の「前記前群と前記後群の間に配され、各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光の光軸同士を合致または近接させて前記反射膜の一方の面及び他方の面に入射し、前記反射膜の各面において互いに逆の方向にある各広角レンズの前記後群に向かって反射される光を出射させ、前記反射膜を挟持する2個の透明部材と、を備え、」(I)との特定事項について
a 本願発明(先願)は、「前記前群と前記後群の間に配され、入射する光を反射する反射面部材」(B)を備えており、「前記反射面部材は、互いに固定された第1および第2のプリズムであって、これらが互いに対向するそれぞれの面に反射膜が形成され」(C)ているから、引用出願発明(後願)の「前記前群と前記後群の間に配され」た、「前記反射膜を挟持する2個の透明部材」を備える。

b 本願発明(先願)は、「各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光を、前記第1および第2のプリズムの一方の及び他方の面に入射させ、前記第1および第2のプリズムの各面に関して互いに逆の方向にある各広角レンズの前記後群に向かって前記反射膜により反射して射出させ」(D)るものであり、「前記反射面部材は、互いに固定された第1および第2のプリズムであって、これらが互いに対向するそれぞれの面に反射膜が形成され」(C)ているから、引用出願発明(後願)でいう「各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光の光軸同士を合致または近接させて前記反射膜の一方の面及び他方の面に入射し、前記反射膜の各面において互いに逆の方向にある各広角レンズの前記後群に向かって反射される光を出射させ」るものといえる。

c よって、本願発明(先願)は、引用出願発明(後願)の特定事項Iを備える。

(エ)引用出願発明(後願)の「前記前群は負の屈折力、前記後群は正の屈折力を有し、」(J)との特定事項について
本願発明(先願)は、「負の屈折力の前群および正の屈折力の後群を有」(Aの一部)するものであるから、引用出願発明(後願)の特定事項Jを備える。

(オ)引用出願発明(後願)の「前記前群は結像光束の光束径を前記後群側に絞って前記透明部材に入射させ、前記後群の物体側に設けられた開口絞り以後は拡大させる」(K)との特定事項について
本願発明(先願)は、「前記前群は結像光束の光束径を前記後群の側に絞って前記反射面部材に入射させ、前記後群の物体側に設けられた開口絞り以後は拡大させる」(E)ものであり、「前記反射面部材は、互いに固定された第1および第2のプリズム」(Cの一部)であるから、引用出願発明(後願)の特定事項Kを備える。

(カ)引用出願発明(後願)の「ことを特徴とする全天球画像を撮像するための光学系において、」(L)との特定事項について
本願発明(先願)は、「全天球画像を撮像するための光学系」(F)であるから、引用出願発明(後願)の特定事項Lを備える。

(キ)引用出願発明(後願)の「2個の透明部材が、第1および第2のプリズムである」(M)との特定事項について
本願発明(先願)は、「前記反射面部材は、互いに固定された第1および第2のプリズム」(Cの一部)であるから、引用出願発明(後願)の特定事項Mを備える。

(ク)引用出願発明(後願)の「ことを特徴とする光学系。」(N)との特定事項について
上記(カ)と同様の理由で、本願発明(先願)は、引用出願発明(後願)の特定事項Nを備える。

(ケ)小括
よって、本願発明を先願とし、引用出願発明を後願と仮定した場合、両者は同一である。

イ 引用出願発明を先願とし、本願発明を後願と仮定した場合の判断
本願発明(後願)と引用出願発明(先願)とを対比する。
(ア)本願発明(後願)の「物体側から像側へ向かって負の屈折力の前群および正の屈折力の後群を有し画角が180度より広い、同一構造の2つの広角レンズと、」(A)との特定事項について
引用出願発明(先願)は、「物体側から像側へ向かって前群および後群を配した同一構造の180度より広い画角の2つの広角レンズ」(G)において、「前記前群は負の屈折力、前記後群は正の屈折力を有し」(J)ているから、本願発明(後願)の特定事項Aを備える。

(イ)本願発明(後願)の「前記前群と前記後群の間に配され、入射する光を反射する反射面部材と、を備え、」(B)との特定事項について
引用出願発明(先願)は、「入射する光を反射する反射膜」(H)を備えており、「前記前群と前記後群の間に配され」た、「前記反射膜を挟持する2個の透明部材」(Iの一部)を備えているから、本願発明(後願)の特定事項Bを備える。

(ウ)本願発明(後願)の「前記反射面部材は、互いに固定された第1および第2のプリズムであって、これらが互いに対向するそれぞれの面に反射膜が形成され、」(C)との特定事項について
引用出願発明(先願)は、「前記反射膜を挟持する2個の透明部材」(Iの一部)を備えるとともに、「2個の透明部材が、第1および第2のプリズム」(M)であるから、本願発明(後願)の特定事項Cを備える。

(エ)本願発明(後願)の「各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光を、前記第1および第2のプリズムの一方の及び他方の面に入射させ、前記第1および第2のプリズムの各面に関して互いに逆の方向にある各広角レンズの前記後群に向かって前記反射膜により反射して射出させ、」(D)との特定事項について
引用出願発明(先願)は、「各広角レンズのそれぞれの前群から入射する光の光軸同士を合致または近接させて前記反射膜の一方の面及び他方の面に入射し、前記反射膜の各面において互いに逆の方向にある各広角レンズの前記後群に向かって反射される光を出射させ、前記反射膜を挟持する2個の透明部材」(Iの一部)を備え、「2個の透明部材が、第1および第2のプリズム」(M)を備えるから、本願発明(後願)の特定事項Dを備える。

(オ)本願発明(後願)の「前記前群は結像光束の光束径を前記後群の側に絞って前記反射面部材に入射させ、前記後群の物体側に設けられた開口絞り以後は拡大させる」(E)との特定事項について
引用出願発明(先願)は、「前記前群は結像光束の光束径を前記後群側に絞って前記透明部材に入射させ、前記後群の物体側に設けられた開口絞り以後は拡大させる」(K)ものであって、「2個の透明部材が、第1および第2のプリズム」(M)であり、「2個の透明部材」は「前記反射膜を挟持する」(Iの一部)から、本願発明(後願)の特定事項Eを備える。

(カ)本願発明(後願)の「ことを特徴とする全天球画像を撮像するための光学系。」(F)との特定事項について
引用出願発明(先願)は、「全天球画像を撮像するための光学系」(L)であるから、本願発明(後願)の特定事項Fを備える。

(キ)小括
よって、引用出願発明を先願とし、本願発明を後願と仮定した場合、両者は同一である。

ウ 発明同一性の判断の小括
上記ア及びイによれば、本願発明と引用出願発明とは同一である。

(6)協議の要件
上記(1)のとおり、引用出願は、既に特許されている。そのため、協議をすることができない。

(7)特許法第39条第2項該当性の判断の小括
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-12 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-06-30 
出願番号 特願2016-197797(P2016-197797)
審決分類 P 1 8・ 4- Z (G02B)
P 1 8・ 55- Z (G02B)
P 1 8・ 561- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 野村 伸雄
山村 浩
発明の名称 光学系および撮像システム  
代理人 工藤 修一  

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