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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1365506 |
審判番号 | 不服2019-1274 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-01-30 |
確定日 | 2020-08-20 |
事件の表示 | 特願2013-187613「画像表示装置、画像表示装置の製造方法及び画像表示装置の光透過率改善方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月23日出願公開、特開2015- 55680〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成25年9月10日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成29年 6月26日付け:拒絶理由通知書 平成29年 9月 4日提出:意見書、手続補正書 平成30年 2月23日付け:拒絶理由通知書(最後) 平成30年 5月 7日提出:意見書、手続補正書 平成30年10月22日付け:平成30年5月7日提出の手続補正書でした手続補正についての補正の却下の決定 平成30年10月22日付け:拒絶査定(以下、当該拒絶査定を「原査定」という。) 平成31年 1月30日提出:審判請求書 平成31年 1月30日提出:手続補正書 令和 2年 1月 6日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 3月 9日提出:意見書、手続補正書 第2 本願発明 本件出願の請求項1?請求項3に係る発明は、令和2年3月9日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項3に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のものである。 「バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材と偏光子とがこの順に積層され、画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板を備える画像表示装置であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上0.30以下であり、厚みが5μm?300μmであり、 前記バックライト光源と前記面内に複屈折率を有する光透過性基材との間に、偏光分離フィルムを有し、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とのなす角度が、0°±5°となるように積層されている ことを特徴とする画像表示装置。」 第3 原査定の概要 原査定の拒絶の理由のうち、「理由1(進歩性)」(以下、「原査定拒絶理由1」という。)は、概略、本件出願の請求項1?9に係る発明は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記引用例に記載された発明に基づいて、本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用例1:国際公開第2013/080949号 引用例2:国際公開第2009/013917号 引用例3:特開2011-90042号公報 引用例4:国際公開第2011/162198号 (当合議体注:「原査定拒絶理由1」は、引用例1を主引用例とし、引用例1の[0007]、[0010]、[0013]、[0023]、[0026]、[0060]、[0081][表1]等の記載に基づき、「偏光子保護フィルム(ポリエステルフィルム)」の「配向主軸」(遅相軸)と「偏光子」の「偏光軸」(吸収軸)とが略平行であって、例えば、「偏光子保護フィルム(ポリエステルフィルム)」のReが5177nm、厚みが50μmである、偏光板に基づいて引用発明を認定したものである。また、引用例2、3は、光源とバックライト側偏光板との間に偏光を出射する偏光分離フィルムを介在させることが周知技術であることを示すために例として挙げられたものである。) 第4 引用例1の記載及び引用発明 1 引用例1の記載 原査定拒絶理由1において引用された、国際公開第2013/080949号(以下、同じく「引用例1」という。)は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されているところ、そこには、以下の事項が記載されている(当合議体注:下線は、当合議体が付したものである。)。 (1) 「技術分野 [0001] 本発明は、液晶表示装置に関する。詳しくは、虹斑の発生が改善された液晶表示装置に関する。 背景技術 [0002] 液晶表示装置(LCD)に使用される偏光板は、通常ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成であり、偏光子保護フィルムとしては通常トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが用いられている。近年、LCDの薄型化に伴い、偏光板の薄層化が求められるようになっている。しかし、このために保護フィルムとして用いられているTACフィルムの厚みを薄くすると、充分な機械強度を得ることが出来ず、透湿性が高くなり偏光子が劣化しやすくなる。また、TACフィルムは非常に高価であり、安価な代替素材が強く求められている。 [0003] そこで、偏光板の薄層化のため、偏光子保護フィルムとして厚みが薄くても高い耐久性が保持できるよう、TACフィルムの代わりにポリエステルフィルムを用いることが提案されている(特許文献1?3)。 ・・・略・・・ 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0005] ポリエステルフィルムは、TACフィルムに比べ耐久性に優れるが、TACフィルムと異なり複屈折性を有するため、これを偏光子保護フィルムとして用いた場合、光学的歪みにより画質が低下するという問題があった。すなわち、複屈折性を有するポリエステルフィルムは所定の光学異方性(リタデーション)を有することから、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察すると虹状の色斑が生じ、画質が低下する。そのため、特許文献1?3では、ポリエステルとして共重合ポリエステルを用いることで、リタデーションを小さくする対策がなされている。しかし、その場合であっても虹状の色斑を完全になくすことはできなかった。 [0006] 本発明者等は、上記の問題を解決する手段として、バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色光源を用い、更に偏光子保護フィルムとして一定のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用いることを見出した。しかしながら、発明者等は、かかる構成を有する液晶表示装置について更なる検討を重ねた末、そのように改良された液晶表示装置であっても、一対の偏光板の両方に偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた場合、斜め方向から観察したときに、角度によっては虹斑が生じ得る場合が存在し、虹斑の問題は完全には解決されていないことを再発見した。 [0007] 即ち、偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた偏光板を用いて液晶表示装置を工業的に生産する場合、偏光子の偏光軸とポリエステルフィルムの配向主軸の方向は、通常互いに垂直になるように配置される。これは、偏光子であるポリビニルアルコールフィルムは、縦一軸延伸をして製造されるところ、その保護フィルムであるポリエステルフィルムは、通常、縦延伸した後、横延伸をして製造されるため、ポリエステルフィルム配向主軸方向は横方向となり、これらの長尺物を貼り合わせて偏光板が製造されると、ポリエステルフィルムの配向主軸と偏光子の偏光軸は通常垂直方向となるためである。この場合、ポリエステルフィルムとして特定のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用い、バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色光源を用いることにより、虹斑は大幅に改善されるものの、斜め方向から観察したときに、角度によっては薄く虹斑が観察されることが再発見された。 課題を解決するための手段 [0008] 本発明者は、上記の問題について日夜検討した結果、液晶の両側に配置される2枚の偏光板について、偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸を略平行とすることにより、液晶表示装置を眺める角度によって生じる虹斑が大幅に減少することを見出した。本発明は、係る知見に基づき、更なる研究と改良を重ねた結果完成した発明である。 [0009] 代表的な本発明は、以下の通りである。 項1. バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、 前記バックライト光源は連続的な発光スペクトルを有する白色光源であり、 前記2つ偏光板は、各々偏光子とその両側の保護フィルムからなり、 前記の両側の保護フィルムの少なくとも一方は、3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムであり、 前記偏光子の偏光軸とその保護フィルムである配向ポリエステルフィルムの配向主軸は略平行である、 液晶表示装置。 項2. 前記配向ポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が0.2以上1.2以下である項1に記載の液晶表示装置。 項3. 前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードである、項1又は2のいずれかに記載の液晶表示装置。 項4. 前記ポリエステルフィルムが3層以上からなり、 最外層以外の層に紫外線吸収剤を含有し、 380nmの光線透過率が20%以下である、 項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。 発明の効果 [0010] 本発明の液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムは、いずれの観察角度においても透過光のスペクトルは光源に近似したスペクトルを得ることが可能となり、虹状の色斑の発生が有意に抑制された良好な視認性を確保することができる。また、好適な一実施形態において、本発明の偏光子保護フィルムは、薄膜化に適した機械的強度を備えている。」 (2) 「発明を実施するための形態 [0011] 一般に、液晶表示装置は、バックライト光源側から画像を表示する側(視認側)に向かう順に、後面モジュール、液晶セルおよび前面モジュールを有する。後面モジュールおよび前面モジュールは、一般に、透明基板と、その液晶セル側表面に形成された透明導電膜と、その反対側に配置された偏光板とから構成されている。ここで、偏光板は、後面モジュールでは、バックライト光源側に配置され、前面モジュールでは、画像を表示する側(視認側)に配置されている。 [0012] 本発明の液晶表示装置は少なくとも、バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを構成部材として含む。また、これら以外の他の構成、例えばカラーフィルター、レンズフィルム、拡散シート、反射防止フィルムなどを適宜有しても構わない。 [0013] バックライトの構成としては、導光板や反射板などを構成部材とするエッジライト方式であっても、直下型方式であっても構わないが、本発明では、液晶表示装置のバックライト光源として連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源を用いることが好ましい。ここで連続的で幅広い発光スペクトルとは、少なくとも450nm?650nmの波長領域、好ましくは可視光の領域において光の強度がゼロとなる波長が存在しない発光スペクトルを意味する。このような連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源としては、例えば、白色発光ダイオード(白色LED)を挙げることができる。白色LEDには、蛍光体方式、すなわち化合物半導体を使用した青色光、もしくは紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子や、有機発光ダイオード(Organic light-emitting diode:OLED)等が含まれる。蛍光体としては、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体やテルビウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体等がある。なかでも、化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオードは、連続的で幅広い発光スペクトルを有しているとともに発光効率にも優れるため、本発明のバックライト光源として好適である。また、本発明の方法により消費電力の小さい白色LEDを広汎に利用可能になるので、省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。 [0014] 従来からバックライト光源として広く用いられている冷陰極管や熱陰極管等の蛍光管は、発光スペクトルが特定波長にピークを有する不連続な発光スペクトルしか有していないことから、本発明の所期の効果を得ることが困難であるため好ましくない。 [0015] 偏光板は、PVAなどにヨウ素を染着させた偏光子の両側を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成を有するが、本発明は、偏光板を構成する偏光子保護フィルムの少なくとも一つとして、特定範囲のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いることを特徴とする。 [0016] 上記態様により虹状の色斑の発生が抑制される機構としては、次のように考えている。 [0017] 偏光子の片側に複屈折性を有する配向ポリエステルフィルムを配した場合、偏光子から出射した直線偏光はポリエステルフィルムを通過する際に乱れを生じる。透過した光は配向ポリエステルフィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。そのため、光源として冷陰極管や熱陰極管など不連続な発光スペクトルを用いると、波長によって異なる透過光強度を示し、虹状の色斑が生じる(参照:第15回マイクロオプティカルカンファレンス予稿集、第30?31頁)。 [0018] これに対して、白色発光ダイオードでは、通常、少なくとも450nm?650nmの波長領域、好ましくは可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有する。そのため、複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目すると、配向ポリエステルフィルムのリタデーションを制御することで、光源の発光スペクトルと相似なスペクトルを得ることが可能となる。このように、光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似形となることで、虹状の色斑が発生せずに、視認性が顕著に改善すると考えられる。 [0019] 以上のように、幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを光源に用いることにより、比較的簡便な構成のみで透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。 [0020] 上記効果を奏するために、偏光子保護フィルムに用いられる配向ポリエステルフィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm、次に好ましい下限値は5000nm、より好ましい下限値は6000nm、更に好ましい下限値は8000nm、より更に好ましい下限値は10000nmである。 [0021] 一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。 [0022] なお、本発明のリタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることもできるし、KOBRA-21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。本明細書においてリタデーションとは、面内のリタデーションを意味する。 [0023] 本発明では、偏光子の両側に設けられる保護フィルムの少なくとも一つが上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムであることを特徴とする。当該特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムは、入射光側(光源側)と出射光側(視認側)の両方の偏光板に用いられる。入射光側に配される偏光板において、上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムは、その偏光子を起点として入射光側に配置していても、液晶セル側に配置していても、両側に配置されていても良いが、少なくとも入射光側に配置されていることが好ましい。出射光側に配置される偏光板については、上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムは、その偏光子を起点として液晶側に配置されても、出射光側に配置されていても、両側に配置されていてもよいが、少なくとも出射光側に配置されていることが好ましい。良好な偏光特性を確保する観点から、入射光側に配される偏光板の入射光側の偏光子保護フィルム、及び、出射光側に配される偏光板の出射光側の偏光子保護フィルムに、上記特定のリタデーションを有する偏光子保護フィルムを用いることが好ましい。 [0024] 本発明の偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させたフィルム等の公知の偏光子の両側を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構造を有し、少なくともいずれかの偏光子保護フィルムが上記特定のリタデーションを有する偏光板保護フィルムであることを特徴とする。他方の偏光子保護フィルムには、TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系フィルムに代表されるような複屈折が無いフィルムを用いることが好ましい。 [0025] 偏光子の両側の保護フィルムとして配向ポリエステルフィルムが用いられる場合、両方の配向ポリエステルフィルムの配向主軸は互いに略平行であることが好ましい。 [0026] 本発明の液晶表示装置において、偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸は略平行である。ここで略平行であるとは、偏光子の偏光軸と偏光子保護フィルムの配向主軸とがなす角が、-15°?15°、好ましくは-10°?10°、より好ましく-5°?5°、更に好ましくは-3°?3°、より更に好ましくは-2°?2°、一層好ましくは-1°?1°であることを意味する。好ましい一実施形態において、略平行とは実質的に平行である。ここで実質的に平行であるとは、偏光子と保護フィルムとを張り合わせる際に不可避的に生じるずれを許容する程度に偏光軸と配向主軸とが平行であることを意味する。そのメカニズムは未だ解明されていないが、このように2つの偏光板の偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルムの配向主軸が略平行であることにより、液晶表示画面に虹斑が生じることを抑制することができる。配向主軸の方向は、分子配向計(例えば、王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)で測定して求めることができる。 [0027] 偏光子及び偏光子保護フィルムが上記のような関係を満たす偏光板は、例えば、次のような手順で得ることができる。即ち、偏光子と配向ポリエステルフィルムを適当な大きさに切断し、偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルムの配向主軸を略平行になるように貼り合わせることができる。また、縦一軸延伸されたポリビニルアルコールからなる偏光子フィルムの長尺物と、実質的に縦一軸延伸された配向ポリエステルフィルムの長尺物を、連続的に張り合わせることで、偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルムの主配向軸が略平行となる偏光板を製造することもできる。 ・・・略・・・ [0029] 本発明に用いられる配向ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを用いることができるが、他の共重合成分を含んでも構わない。これらの樹脂は透明性に優れるとともに、熱的、機械的特性にも優れており、延伸加工によって容易にリタデーションを制御することができる。特に、ポリエチレンテレフタレートは固有複屈折が大きく、フィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られるので、最も好適な素材である。 [0030] また、ヨウ素色素などの光学機能性色素の劣化を抑制することを目的として、本発明の保護フィルムは、波長380nmの光線透過率が20%以下であることが望ましい。380nmの光線透過率は15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。前記光線透過率が20%以下であれば、光学機能性色素の紫外線による変質を抑制することができる。なお、本発明における透過率は、フィルムの平面に対して垂直方法に測定したものであり、分光光度計(例えば、日立U-3500型)を用いて測定することができる。 [0031] 本発明の保護フィルムの波長380nmの透過率を20%以下にするためには、フィルム中に紫外線吸収剤を添加したり、紫外線吸収剤を含有した塗布液をフィルム表面に塗布することで達成され、紫外線吸収剤の種類、濃度、及びフィルムの厚みを適宜調節することが望ましい。本発明で使用される紫外線吸収剤は公知の物質である。紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤が挙げられるが、透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、環状イミノエステル系等、及びその組み合わせが挙げられるが本発明の規定する吸光度の範囲であれば特に限定されない。しかし、耐久性の観点からはベンゾトアゾール系、環状イミノエステル系が特に好ましい。2種以上の紫外線吸収剤を併用した場合には、別々の波長の紫外線を同時に吸収させることができるので、より紫外線吸収効果を改善することができる。 [0032] ・・・略・・・環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては例えば2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジノン-4-オン)、・・・略・・・などが挙げられる。しかし特にこれらに限定されるものではない。 [0033] ・・・略・・・また、高い透明性を奏するためにはポリエステルフィルムに実質的に粒子を含有しないことも好ましい。 ・・・略・・・ [0035] 本発明においては、偏光子との接着性を改良のために、本発明のフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂またはポリアクリル樹脂の少なくとも1種類を主成分とする易接着層を有することが好ましい。ここで、「主成分」とは易接着層を構成する固形成分のうち50質量%以上である成分をいう。本発明の易接着層の形成に用いる塗布液は、水溶性又は水分散性の共重合ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂の内、少なくとも1種を含む水性塗布液が好ましい。 ・・・略・・・ [0036] 易接着層は、前記塗布液を縦方向の1軸延伸フィルムの片面または両面に塗布した後、100?150℃で乾燥し、さらに横方向に延伸して得ることができる。乾燥後の最終的な易接着層の塗布量は、0.05?0.20g/m^(2)に管理することが好ましい。塗布量が0.05g/m^(2)未満であると、得られる偏光子との接着性が不十分となる場合がある。一方、塗布量が0.20g/m^(2)を超えると、耐ブロッキング性が低下する場合がある。ポリエステルフィルムの両面に易接着層を設ける場合は、両面の易接着層の塗布量は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して上記範囲内で設定することができる。 [0037] 易接着層には易滑性を付与するために粒子を添加することが好ましい。微粒子の平均粒径は2μm以下の粒子を用いることが好ましい。粒子の平均粒径が2μmを超えると、粒子が被覆層から脱落しやすくなる。易接着層に含有させる粒子としては、例えば、酸化チタン、・・・略・・・シリカ、・・・略・・・等の無機粒子や、・・・略・・・有機ポリマー系粒子等が挙げられる。これらは、単独で易接着層に添加されてもよく、2種以上を組合せて添加することもできる。 [0038] また、塗布液を塗布する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、リバースロール・コート法、・・・略・・・などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。 ・・・略・・・ [0040] 本発明の保護フィルムである配向ポリエステルフィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、テンターにより横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。 [0041] 本発明の配向ポリエステルフィルムは一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもかまわないが、二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合、フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。 [0042] この現象が起こる原因は、二軸延伸フィルムが、走行方向、幅方向、厚さ方向で異なる屈折率を有する屈折率楕円体からなり、フィルム内部での光の透過方向によりリタデーションがゼロになる(屈折率楕円体が真円に見える)方向が存在するためである。従って、液晶表示画面を斜め方向の特定の方向から観察すると、リタデーションがゼロになる点を生じる場合があり、その点を中心として虹状の色斑が同心円状に生じることとなる。そして、フィルム面の真上(法線方向)から虹状の色斑が見える位置までの角度をθとすると、この角度θは、フィルム面内の複屈折が大きいほど大きくなり、虹状の色斑は見え難くなる。二軸延伸フィルムでは角度θが小さくなる傾向があるため、一軸延伸フィルムのほうが虹状の色斑は見え難くなり好ましい。 [0043] しかしながら、完全な1軸性(1軸対称性)フィルムでは配向方向と直交する方向の機械的強度が著しく低下するので好ましくない。本発明は、実質的に虹状の色斑を生じない範囲、または液晶表示画面に求められる視野角範囲において虹状の色斑を生じない範囲で、2軸性(2軸対称性)を有していることが好ましい。 [0044] 本発明者等は、保護フィルムの機械的強度を保持しつつ、虹斑の発生を抑制する手段として、保護フィルムのリタデーション(面内リタデーション)と厚さ方向のリタデーション(Rth)との比が特定の範囲に収まるように制御することを見出した。厚さ方向位相差は、フィルムを厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz、△Nyzにそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られる位相差の平均を意味する。面内リタデーションと厚さ方向リタデーションの差が小さいほど、観察角度による複屈折の作用は等方性を増すため、観察角度によるリタデーションの変化が小さくなる。そのため、観察角度による虹状の色斑が発生し難くなると考えられる。 [0045] 本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは0.200以上、より好ましくは0.500以上、さらに好ましくは0.600以上である。上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなる。そして、完全な1軸性(1軸対称性)フィルムでは上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は2.0となる。しかし、前述のように完全な1軸性(1軸対称性)フィルムに近づくにつれ配向方向と直交する方向の機械的強度が著しく低下する。 [0046] 一方、本発明のポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下である。観察角度による虹状の色斑発生を完全に抑制するためには、上記リタデーションと厚さ方向位相差の比(Re/Rth)が2.0である必要は無く、1.2以下で十分である。また、上記比率が1.0以下であっても、液晶表示装置に求められる視野角特性(左右180度、上下120度程度)を満足することは十分可能である。 [0047] 本発明のポリエステルフィルムの製膜条件を具体的に説明すると、縦延伸温度、横延伸温度は80?130℃が好ましく、特に好ましくは90?120℃である。縦延伸倍率は1.0?3.5倍が好ましく、特に好ましくは1.0倍?3.0倍である。また、横延伸倍率は2.5?6.0倍が好ましく、特に好ましくは3.0?5.5倍である。リタデーションを上記範囲に制御するためには、縦延伸倍率と横延伸倍率の比率を制御することが好ましい。縦横の延伸倍率の差が小さすぎるとリタデーション高くすることが難しくなり好ましくない。また、延伸温度を低く設定することもリタデーションを高くする上では好ましい対応である。続く熱処理においては、処理温度は100?250℃が好ましく、特に好ましくは180?245℃である。 [0048] リタデーションの変動を抑制する為には、フィルムの厚み斑が小さいことが好ましい。延伸温度、延伸倍率はフィルムの厚み斑に大きな影響を与えることから、厚み斑の観点からも製膜条件の最適化を行う必要がある。特にリタデーションを高くするために縦延伸倍率を低くすると、縦厚み斑の値が高くなることがある。縦厚み斑は延伸倍率のある特定の範囲で非常に高くなる領域があることから、この範囲を外したところで製膜条件を設定することが望ましい。 [0049] 本発明のフィルムの厚み斑は5.0%以下であることが好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましく、4.0%以下であることがよりさらに好ましく、3.0%以下であることが特に好ましい。フィルムの厚み斑は、任意の手段で測定することが出来るが、例えば、フィルムの流れ方向に連続したテープ状サンプル(長さ3m)を採取し、(株)セイコー・イーエム製電子マイクロメータ(ミリトロン1240)等の測定機を用いて、1cmピッチで100点の厚みを測定し、厚みの最大値(dmax)、最小値(dmin)、平均値(d)を求め、下記式にて厚み斑(%)を算出することができる。 厚み斑(%)=((dmax-dmin)/d)×100 [0050] 前述のように、フィルムのリタデーションを特定範囲に制御することは、延伸倍率や延伸温度、フィルムの厚みを適宜設定することにより行なうことができる。例えば、縦延伸と横延伸の延伸倍率差が高いほど、延伸温度が低いほど、フィルムの厚みが厚いほど高いリタデーションを得やすくなる。逆に、縦延伸と横延伸の延伸倍率差が低いほど、延伸温度が高いほど、フィルムの厚みが薄いほど低いリタデーションを得やすくなる。また、延伸温度が高いほど、トータル延伸倍率が低いほど、リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が低いフィルムが得やすくなる。逆に延伸温度が低いほど、トータル延伸倍率が高いほど、リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が高いフィルムが得やすくなる。最終的な製膜条件は、リタデーションの制御に加えて、加工に必要な物性等を勘案して設定する必要がある。 [0051] 本発明の配向ポリエステルフィルムの厚みは任意であるが、15?300μmの範囲が好ましく、より好ましくは15?200μmの範囲である。15μmを下回る厚みのフィルムでも、原理的には3000nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。特に好ましい厚みの下限は25μmである。一方、偏光子保護フィルムの厚みの上限は、300μmを超えると偏光板の厚みが厚くなりすぎてしまい好ましくない。偏光子保護フィルムとしての実用性の観点からは厚みの上限は200μmが好ましい。特に好ましい厚みの上限は一般的なTACフィルムと同等程度の100μmである。上記厚み範囲においてもリタデーションを本発明の範囲に制御するために、フィルム基材として用いるポリエステルはポリエチレンテレフタレートが好適である。 [0052] また、本発明におけるポリエステルフィルムに紫外線吸収剤を配合する方法としては、公知の方法を組み合わせて採用し得るが、例えば予め混練押出機を用い、乾燥させた紫外線吸収剤とポリマー原料とをブレンドしマスターバッチを作製しておき、フィルム製膜時に所定の該マスターバッチとポリマー原料を混合する方法などによって配合することができる。フィルム中に添加する紫外線吸収剤の添加重量は、好ましくは0.3?1.5%であり、より好ましくは0.4?1.0%である。 [0053] この時マスターバッチの紫外線吸収剤濃度は紫外線吸収剤を均一に分散させ、且つ経済的に配合するために5?30質量%の濃度にするのが好ましい。マスターバッチを作製する条件としては混練押出機を用い、押し出し温度はポリエステル原料の融点以上、290℃以下の温度で1?15分間で押し出すのが好ましい。290℃以上では紫外線吸収剤の減量が大きく、また、マスターバッチの粘度低下が大きくなる。滞留時間1分以下では紫外線吸収剤の均一な混合が困難となる。・・・略・・・ [0054] また、本発明ではフィルムを少なくとも3層以上の多層構造とし、フィルムの中間層に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。中間層に紫外線吸収剤を含む3層構造のフィルムは、具体的には次のように作製することができる。外層用としてポリエステルのペレット単独、中間層用として紫外線吸収剤を含有したマスターバッチとポリエステルのペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、2台以上の押出機、3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて、両外層を構成するフィルム層、中間層を構成するフィルム層を積層し、口金から3層のシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。なお、発明では、光学欠点の原因となる、原料のポリエステル中に含まれている異物を除去するため、溶融押し出しの際に高精度濾過を行うことが好ましい。溶融樹脂の高精度濾過に用いる濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は、15μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズが15μmを超えると、20μm以上の異物の除去が不十分となりやすい。」 (3) 「実施例 [0055] 以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。 [0056](1)フィルム配向主軸 フィルムの配向主軸方向は、分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて求めた。 [0057](2)リタデーション(Re) リタデーションとは、フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△Nxy)は、以下の方法により求めた。分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて、フィルムの配向主軸方向を求め、配向主軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△Nxy)とフィルムの厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた。 [0058](3)厚さ方向リタデーション(Rth) 厚さ方向リタデーションとは、フィルム厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz(=|Nx-Nz|)、△Nyz(=|Ny-Nz|)にそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られるリタデーションの平均を示すパラメーターである。リタデーションの測定と同様の方法でNx、Ny、Nzとフィルム厚みd(nm)を求め、(△Nxz×d)と(△Nyz×d)との平均値を算出して厚さ方向リタデーション(Rth)を求めた。 [0059](4)波長380nmにおける光線透過率 分光光度計(日立製作所製、U-3500型)を用い、空気層を標準として各フィルムの波長300?500nm領域の光線透過率を測定し、波長380nmにおける光線透過率を求めた。 [0060](5)虹斑観察 PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に後述する方法で作成したポリエステルフィルム1?10のいずれかを偏光子の偏光軸とフィルムの配向主軸が垂直又は平行になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フイルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板を作成した。得られた偏光板を液晶を挟んで両側に一枚ずつ、各偏光板がクロスニコルの条件下になるよう配置して液晶表示装置を作製した。この時、各偏光板は前記ポリエステルフィルムが液晶とは反対側(遠位)となるように配置された。液晶表示装置の光源には、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学、NSPW500CS)に用いた。このような液晶表示装置の偏光板の正面、及び斜め方向から目視観察し、虹斑の発生有無について、以下のように判定した。 [0061] A: いずれの方向からも虹斑の発生無し。 B: 斜め方向から観察したときに、角度によっては薄い虹斑が観察できる。 C: 斜め方向から観察した時に、虹斑が観察できる。 D: 正面方向及び斜め方向から観察した時に、虹斑が観察できる。 [0062](6)引裂き強度 東洋精機製作所製エレメンドルフ引裂試験機を用いて、JIS P-8116に従い、各フィルムの引裂き強度を測定した。引裂き方向はフィルムの配向主軸方向と平行となるように行ない、以下のように判定した。 ○:引裂き強度が50mN以上 ×:引裂き強度が50mN未満 [0063](製造例1-ポリエステルA) エステル化反応缶を昇温し200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部およびエチレングリコール64.6質量部を仕込み、撹拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部、酢酸マグネシウム4水和物を0.064質量部、トリエチルアミン0.16質量部を仕込んだ。ついで、加圧昇温を行いゲージ圧0.34MPa、240℃の条件で加圧エステル化反応を行った後、エステル化反応缶を常圧に戻し、リン酸0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部を添加した。次いで15分後に、高圧分散機で分散処理を行い、15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃で減圧下重縮合反応を行った。 [0064] 重縮合反応終了後、95%カット径が5μmのナスロン製フィルターで濾過処理を行い、ノズルからストランド状に押出し、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却、固化させ、ペレット状にカットした。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は0.62dl/gであり、不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。(以後、PET(A)と略す。) [0065](製造例2-ポリエステルB) 乾燥させた紫外線吸収剤(2,2’-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジノン-4-オン)10質量部、粒子を含有しないPET(A)(固有粘度が0.62dl/g)90質量部を混合し、混練押出機を用い、紫外線吸収剤含有するポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を得た。(以後、PET(B)と略す。) [0066](製造例3-接着性改質塗布液の調整) 常法によりエステル交換反応および重縮合反応を行って、ジカルボン酸成分として(ジカルボン酸成分全体に対して)テレフタル酸46モル%、イソフタル酸46モル%および5-スルホナトイソフタル酸ナトリウム8モル%、グリコール成分として(グリコール成分全体に対して)エチレングリコール50モル%およびネオペンチルグリコール50モル%の組成の水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を調製した。次いで、水51.4質量部、イソプロピルアルコール38質量部、n-ブチルセルソルブ5質量部、ノニオン系界面活性剤0.06質量部を混合した後、加熱撹拌し、77℃に達したら、上記水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂5質量部を加え、樹脂の固まりが無くなるまで撹拌し続けた後、樹脂水分散液を常温まで冷却して、固形分濃度5.0質量%の均一な水分散性共重合ポリエステル樹脂液を得た。さらに、凝集体シリカ粒子(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)3質量部を水50質量部に分散させた後、上記水分散性共重合ポリエステル樹脂液99.46質量部にサイリシア310の水分散液0.54質量部を加えて、撹拌しながら水20質量部を加えて、接着性改質塗布液を得た。 [0067](偏光子保護フィルム1) 基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また、PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層および外層III用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2種のポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。 [0068] 次いで、リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.08g/m^(2)になるように、上記接着性改質塗布液を塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。 [0069] この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.0倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度225℃、30秒間で処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約50μmの一軸配向PETフィルムを得た。 [0070](偏光子保護フィルム2) 未延伸フィルムの厚みを変更することにより、厚み約100μmとすること以外は偏光子保護フィルム1と同様にして一軸配向PETフィルムを得た。 ・・・略・・・ [0073](偏光子保護フィルム5) 偏光子保護フィルム1と同様の方法で、中間層に紫外線吸収剤を含有するPET樹脂(B)を用いずに、フィルム厚み50μmの一軸配向PETフィルムを得た。 [0074](偏光子保護フィルム6) 偏光子保護フィルム3と同様の方法で、走行方向に4.0倍、幅方向に1.0倍延伸して、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。 [0075](偏光子保護フィルム7) 偏光子保護フィルム1と同様の方法で、走行方向に1.0倍、幅方向に3.5倍延伸して、フィルム厚み約75μmの一軸配向PETフィルムを得た。 [0076](偏光子保護フィルム8) 偏光子保護フィルム1と同様の方法を用い、未延伸フィルムの厚みを変更することにより、厚み約275μmの一軸配向PETフィルムを得た。 ・・・略・・・ [0079](偏光子保護フィルム11) 単層にした以外は、偏光子保護フィルム5と同様にして、フィルム厚み50μmの一軸配向PETフィルムを得た。なお、液晶表示装置の光源に、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDに変えてOLEDを用いて虹斑観察を行った。 [0080] 偏光子保護フィルム1?11を用いて上述するように作製した液晶表示装置について虹斑観察及び引裂き強度を測定した結果を以下の表1に示す。 [0081] [表1] (当合議体注:表1を90度回転している。) [0082] 表1中「配向主軸-偏光軸の関係」とは、液晶表示装置における偏光板の偏光子の偏光軸と保護フィルムとして用いられた配向ポリエステルフィルムの配向主軸の関係を意味する。表1において、偏光子保護フィルムNo.1-1は、偏光子保護フィルムとして偏光子保護フィルム1を用い、光源として冷陰極管を用いた場合を示す。偏光子保護フィルムNo.1-2とは、偏光子保護フィルムNo.1をその配向主軸と偏光子の偏光軸とが成す角度が8°となるように偏光子に張り合わせた場合(略平行)を示す。偏光子保護フィルムNo.1-3とは、偏光子保護フィルムNo.1をその配向主軸と偏光子の偏光軸とが成す角度が4°となるように偏光子に張り合わせた場合(略平行)を示す。 [0083] 表1に示されるように、偏光子保護フィルム1?8又は11を用い、且つ、偏光板の偏光子の偏光軸と配向ポリエステルフィルムの配向主軸がなす角を略平行に配置することで、いずれの角度から液晶表示装置の画面を眺めても虹斑が観察されることはなかった。一方、同じ偏光子保護フィルム1?8及び11を用いても、偏光板を構成するポリエステルフィルムの配向主軸と偏光子の偏光軸とが互いに垂直である場合は、液晶表示装置の画面を眺める角度によっては虹斑が発生する場合があった。更に、偏光子保護フィルム9又は10を用いた場合や光源として冷陰極管を用いた場合は、液晶表示装置の画面を斜めから観察した際に明らかな虹斑が観られた。」 2 引用発明 (1) 引用例1の[0007]の記載から、「縦一軸延伸をして製造される」、「偏光子であるポリビニルアルコールフィルム」の「長尺物」と、「通常、縦延伸した後、横延伸をして製造される」、「配向主軸方向」が「横方向」である「ポリエステルフィルム」の「長尺物」を「貼り合わせて偏光板」を「製造」すると、「偏光子の偏光軸」の方向と「ポリエステルフィルム」の「配向主軸の方向」(「横方向」)「は、通常互いに垂直になる」ことが把握できる。 そうすると、「偏光子の偏光軸」の方向は、「横方向」(幅方向)とは垂直である、「縦一軸延伸」の「延伸」方向に対応していることが分かる。 一方、「縦一軸延伸をして製造される」「偏光子であるポリビニルアルコールフィルム」においては、「偏光子」の吸収軸の方向は、「縦一軸延伸」の「延伸」方向に対応することは技術常識である。 してみると、引用例1でいう「偏光子の偏光軸」は、「偏光子」の「吸収軸」に対応すると理解できる。 (2) 引用例1でいう「本発明は、液晶表示装置に関する」([0001])ものであるところ、上記(1)及び[0055]?[0083]の実施例の記載(特に、[0060]の「(5)虹斑観察」のための「液晶表示装置」、[0063]?[0069]の「偏光子保護フィルム1」、[0081][表1]の「偏光子保護フィルムNo.1」の欄等)から、引用例1には、「いずれの角度から液晶表示装置の画面を眺めても虹斑が観察されること」([0082])がない「液晶表示装置」の発明(以下、「引用発明」という。)として、以下のものが記載されていると認められる。なお、[0081][表1]における「Re」、「Rth」、「虹斑観察」、「引裂き強度」、「380nm光線透過率(%)」は、[0057]?[0062]に定義されるものである。 「 いずれの角度から液晶表示装置の画面を眺めても虹斑が観察されることがない液晶表示装置であって、 液晶表示装置は、PVAとヨウ素からなる偏光子の片側に、偏光子保護フィルム1を、偏光子の偏光軸と偏光子保護フィルム1の配向主軸が平行になるように貼り付け、その反対の面にTACフィルム(富士フィルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けて偏光板を作成し、得られた偏光板を液晶を挟んで両側に一枚ずつ、各偏光板がクロスニコルの条件下になるよう配置して作製されたものであり、この時、各偏光板は前記偏光子保護フィルム1が液晶とは反対側(遠位)となるように配置され、液晶表示装置の光源に、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LED(日亜化学、MSPW500CS) を用いたものであり、ここで、偏光子の偏光軸は偏光子の吸収軸に対応し、 偏光子保護フィルム1は、厚み約50μmの一軸配向PETフィルムであり、リタデーション(Re)は5177nm、厚さ方向リタデーション(Rth)は6602nm、Re/Rthは0.784、虹斑観察はA、引裂き強度は○、380nmにおける光線透過率は8.5%であり、ここで、リタデーション(Re)、厚さ方向リタデーション(Rth)、虹斑観察、引裂き強度、380nmにおける光線透過率は、以下の測定、判定方法によるものである、 液晶表示装置。 [リタデーション(Re)] リタデーション(Re)とは、偏光子保護フィルム1上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx-Ny|)と偏光子保護フィルム1の厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、二軸の屈折率の異方性(△Nxy)を、分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて、偏光子保護フィルム1の配向主軸方向を求め、配向主軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとし、このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)として求め、偏光子保護フィルム1の厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、屈折率の異方性(△Nxy)と偏光子保護フィルム1の厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた。 [厚さ方向リタデーション(Rth)] 厚さ方向リタデーション(Rth)とは、偏光子保護フィルム1の厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz(=|Nx-Nz|)、△Nyz(=|Ny-Nz|)にそれぞれ偏光子保護フィルム1の厚さdを掛けて得られるリタデーションの平均を示すパラメーターであり、リタデーション(Re)の測定と同様の方法でNx、Ny、Nzと偏光子保護フィルム1の厚みd(nm)を求め、(△Nxz×d)と(△Nyz×d)との平均値を算出して厚さ方向リタデーション(Rth)を求めた。 [虹斑観察] 前記液晶表示装置の偏光板の正面、及び斜め方向から目視観察し、虹斑の発生有無について、以下のように判定した。 A: いずれの方向からも虹斑の発生無し。 B: 斜め方向から観察したときに、角度によっては薄い虹斑が観察できる。 C: 斜め方向から観察した時に、虹斑が観察できる。 D: 正面方向及び斜め方向から観察した時に、虹斑が観察できる。 [引裂き強度] 東洋精機製作所製エレメンドルフ引裂試験機を用いて、JIS P-8116に従い、偏光子保護フィルム1の引裂き強度を測定し、ここで、引裂き方向は偏光子保護フィルム1の配向主軸方向と平行となるように行ない、以下のように判定した。 ○:引裂き強度が50mN以上 ×:引裂き強度が50mN未満 [波長380nmにおける光線透過率] 分光光度計(日立製作所製、U-3500型)を用い、空気層を標準として偏光子保護フィルム1の波長300?500nm領域の光線透過率を測定し、波長380nmにおける光線透過率を求めた。」 (当合議体注:「ポリエステルフィルム1」や「リタデーション(Re)」等の定義における「フィルム」を「偏光子保護フィルム1」に統一して記載している。「Re」、「Rth」及び「380nm光線透過率」を、それぞれ「リタデーション(Re)」、「厚さ方向リタデーション(Rth)」及び「波長380nmにおける光線透過率」に統一して記載している。) 第5 対比 本願発明と、引用発明とを対比する。 1 光透過性基材 (1) 引用発明の「偏光子保護フィルム1」は、「厚み約50μmの一軸配向PETフィルムであ」る。ここで、「厚み約50μmの一軸配向PETフィルム」は、光透過性の基材であることは技術常識である(当合議体注:液晶表示装置の偏光板には、高い光透過性が求められることからも明らかなことである。)。 そうすると、引用発明の「偏光子保護フィルム1」は、本願発明の「光透過性基材」に相当する。 (2) 引用発明の「偏光子保護フィルム1」の「リタデーション(Re)は5177nm」である。 ここで、「リタデーション(Re)とは、偏光子保護フィルム1上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx-Ny|)と偏光子保護フィルム1の厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、二軸の屈折率の異方性(△Nxy)を、分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA-6004型分子配向計)を用いて、偏光子保護フィルム1の配向主軸方向を求め、配向主軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとし、このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T、測定波長589nm)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)として求め、偏光子保護フィルム1の厚みd(nm)を電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、屈折率の異方性(△Nxy)と偏光子保護フィルム1の厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた」ものである。 ここで、上記「リタデーション(Re)」の測定方法及び(1)より、引用発明の「偏光子保護フィルム1」の「|Nx-Ny|」(「ΔNxy」)は、0.10354(=5177(nm)/50(μm))であることが分かる。 また、引用発明の「偏光子保護フィルム1」の「二軸の屈折率」である「Nx」、「Ny」のうち屈折率が大きい方向を遅相軸方向といい、屈折率が小さい方向であって、遅相軸方向と直交する方向を進相軸ということは技術常識である。 そうすると、上記(1)より、引用発明の「偏光子保護フィルム1」は、本願発明の「光透過性基材」における、「面内に複屈折率を有する」及び「光透過性部材は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上0.30以下であり、厚みが5μm?300μmであり」という要件を満たす。 (当合議体注:本願発明の「(nx-ny)」の値が、仮に、本件出願の明細書の【0053】、【0054】、【0056】、【0058】等に記載されているように、「波長550nm」における光透過性基材(c1、c2、c4、d)の「nx」、「ny」に基づいて計算されるものであるとしても、引用発明の「測定波長589nm」での|Nx-Ny|の値(0.10354)からみて、引用発明の「偏光子保護フィルム1」の「直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)」を測定波長「550nm」で求めたとしても、引用発明の|Nx-Ny|の値が、「0.05以上0.30以下」の範囲から外れることはない。) 2 光透過性基材と偏光子との積層構造 (1) 引用発明の「偏光子」は、その文言のとおり、本願発明の「偏光子」に相当する。 (2) また、引用発明の「偏光子」は、「片側に、偏光子保護フィルム1を、偏光子の偏光軸と偏光子保護フィルム1の配向主軸が平行になるように貼り付け」られるものである。ここで、引用発明の「偏光子の偏光軸は偏光子の吸収軸に対応」する。 (3) 加えて、「一軸延伸PETフィルム」である「偏光子保護フィルム1」の「配向主軸」が「遅相軸」に対応すること、さらには、「吸収軸」及び「透過軸」並びに「遅相軸」及び「進相軸」が、それぞれ互いに直交することは技術常識である。 (4)上記1及び(2)?(3)によれば、引用発明は、本願発明の、「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とのなす角度が、0°±5°となるように積層されている」という要件を満たすことは明かである。 3 バックライト光源、偏光板、画像表示装置 (1)引用発明の「偏光板」は、その文言のとおりのものである。また、画像表示装置は、液晶表示装置の上位概念である。 そうすると、引用発明の「偏光板」及び「液晶表示装置」は、本願発明の「偏光板」及び「画像表示装置」に相当する。 さらに、引用発明の「液晶表示装置の光源」は、その機能からみて、本願発明の「バックライト光源」に相当する。 (2)引用発明の「偏光板」は、「偏光子の片側に、偏光子保護フィルム1を、」「貼り付け」「得られた」ものであるところ、引用発明の「液晶表示装置は、偏光板を液晶を挟んで両側に一枚ずつ、各偏光板がクロスニコルの条件下になるよう配置して作製されたものであり、この時、各偏光板は前記偏光子保護フィルム1が液晶とは反対側(遠位)となるように配置され」るものである。 そうすると、「液晶を挟んで両側に一枚ずつ」「配置」される、上記「偏光板」のうちの一枚が、「画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる」ものといえる。そして、当該「バックライト光源側に配置して用いられる」「偏光板」は、「偏光子保護フィルム1が液晶とは反対側(遠位)」、すなわち、バックライト光源側となるように配置されるものと理解される。 以上勘案すると、引用発明の「液晶表示装置」は、本願発明の「画像表示装置」における、「バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材と偏光子とがこの順に積層され、画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板を備える」という要件を満たす。 4 一致点及び相違点 (1) 一致点 本願発明と、引用発明とは、 「バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材と偏光子とがこの順に積層され、画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板を備える画像表示装置であって、 前記面内に複屈折率を有する光透過性部材は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上0.30以下であり、厚みが5μm?300μmであり、 前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とのなす角度が、0°±5°となるように積層されている、 画像表示装置。」である点で一致する。 (2) 相違点 本願発明と、引用発明とは、以下の点で相違する。 (相違点1) バックライト光源と前記面内に複屈折率を有する光透過性基材との間に、本願発明は、偏光分離フィルムを有しているのに対して、引用発明はこれを有していない点。 第6 判断 上記相違点1について検討する。 1 液晶表示装置において、バックライト光源と背面側(バックライト光源側)偏光板との間に、照明光のうち特定の直線偏光成分を透過し、これと直交する直線偏光成分を反射する偏光分離フィルム(例えば、「DBEF」等)を配置して、照明光の利用効率や輝度を向上する技術は、本件出願の出願前に周知の技術である(例えば、原査定拒絶理由1において引用例2として引用された国際公開第2009/013917号の[0018]、[0034]、図1、引用例3として引用された特開2011-90042号公報の【0091】、【0092】、【0194】等を参照。あるいは、特開2004-4699号公報の【0006】?【0010】、【0014】?【0020】、図1、図2、図4や、令和2年1月6日付け拒絶理由通知書によって当合議体が通知した拒絶理由において引用された特開2009-169389号の【0105】等を参照。)。 また、照明光の利用効率や輝度の向上によって、低消費電力が達成されることも、当業者にとって自明の事項である。 2 ここで、引用例1の[0013]には、「本発明の方法により消費電力の小さい白色LEDを広汎に利用可能になるので、省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。」との記載がある。 当該記載に接した当業者ならば、「液晶表示装置の光源に」「白色LED(日亜化学、MSPW500CS) を用いた」引用発明の「液晶表示装置」は、低消費電力化の効果を奏するものと理解する。 あるいは、光源を備えた「液晶表示装置」において、光源からの照明光の利用効率の輝度の向上や低消費電力化は、当業者にとって周知の課題である。 加えて、引用例1の[0012]の記載から、引用発明の「液晶表示装置」は、「構成部材」として含まれる、「バックライト光源と」「2つの偏光板の間に配された液晶セル」「以外の他の構成」「を適宜有しても構わない」ことが理解できる。 そうしてみると、「いずれの角度から液晶表示装置の画面を眺めても虹斑が観察されることがない」引用発明において、低消費電力化、あるいは、照明光の利用効率、輝度の向上を考慮し、上記の本件出願前に周知の、光源と液晶セルの背面側偏光板との間に偏光分離フィルムを配置する技術を採用して、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、引用発明の改良を試みる当業者が、容易になし得たことである。 3 本願発明の効果について 本件出願の明細書の【0045】には、【発明の効果】として、「本発明の偏光板は、・・・略・・・面内に複屈折率を有する光透過性基材が用いられた場合であっても、光透過率に優れたものとなり、また、従来の面内に位相差を持たないトリアセチルセルロースに代表されるセルロースエステルからなるフィルムが用いられた偏光板であっても、あえて、複屈折率を持たせることで、透過率が優れたものとなる。」と記載されている。また、同【0044】には、「本発明の画像表示装置は、このような本発明の偏光板を備えたものであるため、本発明の画像表示装置も光透過率が改善されたものとなる。」と記載されている。 しかしながら、このような効果は、引用発明において、上記相違点1に係る構成としたものが奏する効果として、技術常識(空気層との界面の反射率の屈折率依存性等)に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものとは認められない。 4 令和2年3月9日提出の意見書における請求人の主張について (1) 令和2年1月6日付けの当審の拒絶理由通知書に対して、請求人は、「(4)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について」「(4-1)補正後の本願発明(請求項1)の説明」において、「(イ)補正後の本願発明(請求項1)は」、「バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材と偏光子とがこの順に積層され、画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板を備える画像表示装置であって、・・・略・・・、前記バックライト光源と前記面内に複屈折率を有する光透過性基材との間に、偏光分離フィルムを有し、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材と前記偏光子とは、前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とのなす角度が、0°±5°となるように積層されていることを特徴とする画像表示装置。」(下線部補正箇所)であります。」、「(4-2)補正後の本願発明(請求項1)と引用発明との対比について」、「(イ)引用文献1を主引例とする場合について」において、「審判官殿のご認定の通り、引用文献1では、補正前の請求項4の構成要件、すなわち、『バックライト光源と面内に複屈折率を有する光透過性基材との間に、偏光分離フィルムを有する』ことについては、記載も示唆もされておりません。また、上述した補正後の本願発明(請求項1)の構成によって得られる極めて優れた効果は、引用文献1からは予測することができません。」、「したがって、補正後の本願発明(請求項1)は、引用文献1には記載されていない発明であり、また、当業者であっても引用文献1に基づいて、容易に発明できたものにも該当致しません。」旨主張している。 (2) しかしながら、「いずれの角度から液晶表示装置の画面を眺めても虹斑が観察されることがない」引用発明において、本件出願の出願前に周知の技術を採用して、相違点1に係る本願発明の構成とすることが当業者が容易になし得たものであることは、上記1?3において示したとおりである。 5 本審決が、特許法159条2項において準用する同法50条本文の規定を満たすかについて念のため検討する。 (1) 原査定拒絶理由1に対し、請求人は、平成30年5月7日提出の意見書の「(3)特許法第29条第2項について」において、「(ロ)上記拒絶理由通知において、審査官殿は、引用文献1には、ポリエステルフィルムへの入射光が偏光であるか否か明らかでない以外は、本願の請求項1の構成を満たす記載があり、引用文献2及び3を掲げて、光利用効率向上のために、光源とバックライト側偏光板との間に偏光を出射する偏光分離フィルムを介在させることは周知技術であるとして、補正前の本願請求項1に係る偏光板の構成は容易に得ることができるとご認定されました。」、「ここで、審査官殿は、ポリエステルフィルムの進相軸と偏光子の偏光軸(吸収軸)(偏光子の『透過軸』」の誤記と思われます)とのなす角度は略0°であると認められるとご認定されました。」、「(ハ)これに対し、補正後の本願発明(請求項1)に係る偏光板は、面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、偏光子の透過軸とのなす角度は『90°±30°』に限定されております。」、「そして、引用文献1の段落番号[0083]などでは、偏光子の偏光軸(吸収軸)と配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸(遅相軸)とを略平行とすることにより、液晶表示装置を眺める角度によって生じる虹斑が観察されることはなかったと記載されています。」、「逆に、偏光子の偏光軸(吸収軸)と配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸(遅相軸)とを垂直とすると、液晶表示装置の画面を眺める角度によっては虹斑が発生する場合があったと記載されています。」、「これらの記載から、引用文献1及び2には、補正後の本願発明(請求項1)に係る構成を得るのに反対教唆を有するものと思慮致します。」旨主張している。 (2) また、請求人は、平成31年1月30日提出の審判請求書の「(3)本願発明が特許されるべき理由」、「(3-2)本願発明(請求項1)と引用文献に記載の発明との対比」、「(ロ)引用文献1、3、5、6・・・に基づく特許法第29条第2項について」において、「引用文献1に記載の発明が解決しようとする課題は、液晶の両側に配置される偏光板の偏光板保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた場合、液晶表示装置を斜め方向から観察したときに虹斑が観察されることであり(引用文献1[0005]?[0007])、この虹斑が観察されるという課題を、偏光子の偏光軸と所定のリタデーションを有する配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸を略平行とし、バックライト光源を所定のものにすることで解決したものです(引用文献1の請求項1、[0008])。」、「実際、引用文献1に記載の実施例では、所定のバックライト光源を用い偏光子の偏光軸と所定のリタデーションを満たす配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸とを略平行としたときに、虹斑の評価は全て“A”となっているのに対し、当該“A”評価の実施例に対し、偏光子の偏光軸と所定のリタデーションを満たす配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸とを略垂直とした例は“B?C”となっています(引用文献1[0081]、表1)。すなわち、偏光子の偏光軸と所定のリタデーションを満たす配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸とを略垂直としたときには、上述した引用文献1に記載の発明が解決しようとする課題を解決できていません。」、「すなわち、偏光子の偏光軸と所定のリタデーションを満たす配向ポリエステルフィルム(偏光子保護フィルム)の配向主軸とを略垂直としたときは、引用文献1に記載の発明において明示的に排除された構成であり、所望の効果、すなわち、虹斑の発生を抑制できないとされる構成です。」、「更に、補正後の本願発明(請求項1)では、光透過性基材の進相軸と偏光子の透過軸とのなす角度が90°±5°であり、光透過性基材と偏光子とのなす角度がこのような角度であることで、透過率は極めて優れたものとなります(補正後の表1における実施例9、11、15及び17)。このような補正後の本願発明(請求項1)の効果は、紫外線吸収剤を含有しないポリエステルフィルムの透過率が80%弱であるとご認定された引用文献1に記載の効果と比較しても、極めて優れたものです。」旨主張している。 (3) 上記(1)、(2)によれば、[1]請求人は、引用例1を主引用例とし、引用例1の[0007]、[0010]、[0026]、[0060]、[0081][表1]等の記載から把握される、「偏光子保護フィルム(ポリエステルフィルム)」の「配向主軸」と「偏光子」の「偏光軸」(吸収軸)とが略平行であって、例えば「偏光子保護フィルム(ポリエステルフィルム)」のReが5177nm、厚みが50μmである、偏光板及び当該偏光板を備える画像表示装置等を引用発明とし、光源とバックライト側偏光板との間に偏光を出射する偏光分離フィルムを介在させることが周知技術であるとの原査定拒絶理由1を正しく理解していたこと、[2]請求人は、原査定拒絶理由1を解消するために、補正によって、補正後の発明を「引用文献1に記載の発明において明示的に排除された構成であり、所望の効果、すなわち、虹斑の発生を抑制できないとされる構成」である、「面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と、偏光子の透過軸とのなす角度」が、「90°±30°」、あるいは「90°±5」であるものに限定したことが理解できる。 加えて、平成29年9月4日提出の手続補正書により補正された請求項6に係る発明に、本願発明が含まれるところ、原査定拒絶理由1は同請求項6に対しても通知されていたのであるから、原査定拒絶理由1は、同請求項6に係る発明よりも限定された本願発明にも妥当するものであったということができる(当合議体注:本願発明は、同請求項6に係る発明(請求項1及び請求項5の記載を引用する請求項6に係る発明)において、「光透過性基材」について、「差(nx-ny)が、0.05以上」であったものを、「差(nx-ny)が、0.05以上0.30以下であり、厚みが5μm?300μm」のものに限定するとともに、「進相軸」と「偏光子の透過軸」とのなす角度が、「0°±30°又は90°±30°」であったものを、「0°±5°」であるものに限定したものに相当する。)。 そうしてみると、原査定拒絶理由1が請求人に示され、原査定拒絶理由1に対して意見書(及び補正書)の提出の機会が与えられたのであるから、本審決は、特許法159条2項において準用する同法50条本文の規定に違反するものではない。 6 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び本件出願の出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び本件出願の出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-06-12 |
結審通知日 | 2020-06-16 |
審決日 | 2020-07-03 |
出願番号 | 特願2013-187613(P2013-187613) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小西 隆 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 河原 正 |
発明の名称 | 画像表示装置、画像表示装置の製造方法及び画像表示装置の光透過率改善方法 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |