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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K |
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管理番号 | 1365507 |
審判番号 | 不服2019-3641 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-18 |
確定日 | 2020-08-20 |
事件の表示 | 特願2016-514737「液晶組成物および液晶表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月29日国際公開、WO2015/162950〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年1月21日〔優先権主張 平成26年4月25日(JP)日本〕を国際出願日とする出願であって、平成30年10月15日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月30日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年12月19日付けの拒絶査定に対して、平成31年3月18日付けで審判請求がなされ、令和元年12月23日付けの拒絶理由通知に対して、令和2年2月5日付けで意見書の提出とともに手続補正(以下「第2補正」という。)がなされたものである。 第2 本願発明 本願は、その発明の名称を「液晶組成物および液晶表示素子」とするものであって、第2補正により補正された特許請求の範囲の記載は、次の請求項1?16からなるものである。 「【請求項1】第一成分として式(1-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、シアノを有する化合物の割合が液晶組成物全体に対して3重量%未満である、液晶組成物。 式(1-1)および式(2)において、R^(11)、R^(21)およびR^(3)は独立して、炭素数1から12のアルキルであり;環A^(11)は独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、または2-フルオロ-1,4-フェニレンであり、環A^(3)、A^(4)およびA^(5)は独立して、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、または1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり;Z^(11)は独立して、単結合、エチレン、またはトランであり、Z^(3)、Z^(4)およびZ^(5)は独立して、単結合、ジフルオロメチレンオキシであり;X^(11)、X^(4)、X^(5)およびX^(6)は独立して、水素またはフッ素であるが、X^(4)およびX^(5)が同時にフッ素であることはなく;Y^(1)はフッ素または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;mは、1または2であり、mが2を表す場合、複数存在する環A^(4)およびZ^(4)は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。 【請求項2】液晶組成物の重量に基づいて、第一成分の割合が20重量%から70重量%の範囲であり、第二成分の割合が25重量%から75重量%の範囲である、請求項1に記載の液晶組成物。 【請求項3】第一成分として式(1-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する請求項1または2に記載の液晶組成物。 式(1-1)および式(2-1)において、R^(11)、R^(21)、およびR^(31)は独立して、炭素数1から12のアルキルであり;環A^(11)は、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、または2-フルオロ-1,4-フェニレンであり;環A^(31)は、1,4-フェニレン、または1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり;環A^(41)、および環A^(51)は独立して、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、または2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり;Z^(11)、Z^(31)、Z^(41)およびZ^(51)は独立して、単結合、エチレン、ジフルオロメチレンオキシ、またはトランであるが、Z^(31)、Z^(41)およびZ^(51)の少なくとも1つはジフルオロメチレンオキシであり;X^(11)、X^(51)およびX^(61)は独立して、水素またはフッ素であり;Y^(11)はフッ素または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;m^(1)は、1または2であり、m^(1)が2を表す場合、複数存在する環A^(41)およびZ^(41)は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。 【請求項4】第一成分として式(1-1-3)から式(1-1-6)、式(1-1-8)、式(1-1-11)および式(1-1-12)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶組成物。 これらの式において、R^(11)およびR^(21)は独立して、炭素数1から12のアルキルである。 【請求項5】液晶組成物の重量に基づいて、請求項1に記載の式(1-1)で表される化合物の割合が10重量%から50重量%の範囲である、請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶組成物。 【請求項6】第二成分として式(2-1-5)、式(2-1-6)、式(2-1-9)から式(2-1-13)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶組成物。 これらの式において、R^(31)は炭素数1から12のアルキルである。 【請求項7】液晶組成物の重量に基づいて、請求項3に記載の式(2-1)で表される化合物の割合が25重量%から70重量%の範囲である、請求項3から6のいずれか1項に記載の液晶組成物。 【請求項8】第二成分として式(2-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の液晶組成物。 式(2-2)において、R^(32)は、炭素数1から12のアルキルであり;環A^(32)は、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、または1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり;環A^(42)および環A^(52)は独立して、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、または2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり;Z^(32)、Z^(42)およびZ^(52)は独立して、単結合またはエチレンであり;X^(42)、X^(52)およびX^(62)独立して、水素またはフッ素であるが、X^(42)およびX^(52)が同時にフッ素であることはなく;Y^(12)はフッ素、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;m^(2)は、0、1または2であり、m^(2)が2を表す場合、複数存在する環A^(42)およびZ^(42)は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。 【請求項9】第二成分として式(2-2-4)から式(2-2-6)、式(2-2-8)、式(2-2-9)、式(2-2-11)および式(2-2-12)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の液晶組成物。 これらの式において、R^(32)は、炭素数1から12のアルキルである。 【請求項10】液晶組成物の重量に基づいて、式(2-2)で表される化合物の割合が0重量%から50重量%の範囲である、請求項8から9のいずれか1項に記載の液晶組成物。 【請求項11】第三成分として式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項1から10のいずれか1項に記載の液晶組成物。 式(3)において、R^(4)およびR^(5)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルであり;環A^(6)または環A^(7)は独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり;Z6は、単結合またはトランであり;Z^(7)は、単結合であり;nは、0、1または2であり、nが1または2である場合、Z^(6)はトランではなく、nが2を表す場合、複数存在する環A^(7)およびZ^(7)は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。 【請求項12】第三成分として式(3-1)から式(3-3)、式(3-5)、式(3-7)から式(3-9)および式(3-12)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項11に記載の液晶組成物。 これらの式において、R^(4)およびR^(5)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルである。 【請求項13】液晶組成物の重量に基づいて、第三成分の割合が10重量%から55重量%の範囲である、請求項11または12のいずれか1項に記載の液晶組成物。 【請求項14】請求項1から13のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶表示素子。 【請求項15】請求項1から13のいずれか1項に記載の液晶組成物をカプセルに内包させることを特徴とする、請求項14に記載の液晶表示素子。 【請求項16】請求項1から13のいずれか1項に記載の液晶組成物の液晶表示素子における使用。」 第3 令和元年12月23日付けの拒絶理由通知の概要 令和元年12月23日付けの拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)には、理由2?4として、次の理由が示されている。 理由2:この出願の請求項1?18に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由3:この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由4:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 そして、その「記」には、理由2について次の刊行物1?3が提示されるとともに、理由3?4について記載不備として、次の1(1)、1(2)ウ、エ、及び1(3)の点が指摘されている。 刊行物1:特開2005-232455号公報(原査定の文献1に同じ。) 刊行物2:特開2013-209652号公報 刊行物3:特開2004-210855号公報(原査定の文献5に同じ。) 記載不備1(1) 本願特許請求の範囲の記載は、請求項間の従属関係が不明確であるので、その特許を受けようとする発明が明確ではない。 記載不備1(2)ウ 本願請求項1に記載された第二成分は、式(2)で表される4環又は5環の化合物の群であるところ、それらの組み合わせは膨大なものであるが、本願の実施例では、僅か数種類を用いた例しか示されておらず、本願明細書における第二成分の「作用機序」についての説明や、本願出願時の「技術常識」に照らしても、これら例示化合物と他の選択肢の化合物とが、全て同様の特性を組成物に付与するものとは認められない。 記載不備1(2)エ 本願請求項1に記載された第一成分は、式(1-1)で表される3環の化合物の群であるところ、それらの組み合わせは膨大なものであるが、本願の実施例では、僅か数種類を用いた例しか示されておらず、本願明細書における第一成分の「作用機序」についての説明や、本願出願時の「技術常識」に照らしても、これら例示化合物と他の選択肢の化合物とが、全て同様の特性を組成物に付与するものとは認められない。 記載不備1(3) 本願請求項1におけるメソゲン化合物を定義する式は「基本骨格部分において非常に多くの化合物を含む表現」である上、これらに結合する置換基の選択肢も考慮すれば、その組み合わせによって膨大な数の化合物を表現し得るものとなっているところ、これらの化合物を製造又は入手する方法が「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要」がないといえる根拠が見当たらない。 第4 当審の判断 1.理由4(明確性要件)について 本願請求項1においては、その「第一成分として式(1-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」について「Z^(11)は独立して、単結合、エチレン、またはトランであり」と特定するとともに、その「第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」について「Z^(3)、Z^(4)およびZ^(5)は独立して、単結合、ジフルオロメチレンオキシであり」と特定している。 これに対して、例えば、当該請求項1を引用する請求項3においては、その「第一成分として式(1-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」及び「第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」について「Z^(11)、Z^(31)、Z^(41)およびZ^(51)は独立して、単結合、エチレン、ジフルオロメチレンオキシ、またはトランであるが、Z^(31)、Z^(41)およびZ^(51)の少なくとも1つはジフルオロメチレンオキシであり」と特定している。 してみると、本願請求項1の「式(1-1)」の「Z^(11)」の定義では「ジフルオロメチレンオキシ」の選択肢が含まれていないのに対して、当該請求項1を引用する請求項3の「式(1-1)」の「Z^(11)」の定義では「ジフルオロメチレンオキシ」の選択肢が含まれているという点において、本願特許請求の範囲の記載は、依然として、請求項間の従属関係が不明確であるので、その特許を受けようとする発明が明確ではない。 また、本願請求項1の「式(2)」の「Z^(3)、Z^(4)およびZ^(5)」の定義では「エチレン」及び「トラン」の選択肢が含まれていないのに対して、当該請求項1を引用する請求項3の「式(2-1)」の「Z^(31)、Z^(41)およびZ^(51)」の定義では「エチレン」及び「トラン」の選択肢が含まれているという点において、本願特許請求の範囲の記載は、依然として、請求項間の従属関係が不明確であるので、その特許を受けようとする発明が明確ではない。 なお、令和2年2月5日付けの意見書(以下「先の意見書」という。)の「明確性要件の拒絶に対応するために、請求項間の従属関係を見直しました。」との主張を斟酌しても、補正後の請求項1及びその従属項の記載が、明確であると認めるに至らない。 したがって、本願請求項1及びその従属項の記載は、依然として、相互の引用関係が不明確であるから、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。 2.理由4(サポート要件)について (1)本願明細書の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 記載a:発明が解決しようとする課題 「【0011】本発明の1つの目的は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、大きな光学異方性、大きな正の誘電率異方性、紫外線に対する高い安定性などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物を提供することである。他の目的は、少なくとも2つの特性のあいだで適切なバランスを有する液晶組成物を提供することである。別の目的は、このような組成物を含有する液晶表示素子を提供することである。別の目的は、このような液晶組成物がカプセルに内包された液晶表示素子を提供することである。別の目的は、このような液晶組成物が2D/3D間の切替表示を可能にする表示素子の構成要素となる液晶表示素子を提供することである。 記載b:課題を解決するための手段及び発明の効果 「【0012】本発明は、第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、シアノを有する化合物の割合が液晶組成物全体に対して3重量%未満である、液晶組成物、およびこの組成物を含有する液晶表示素子である。… 【0013】本発明の長所は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、大きな光学異方性、大きな正の誘電率異方性、紫外線に対する高い安定性などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物である。」 記載c:実施例、比較例及び産業上の利用可能性 「【0115】 [実施例1] 3-HB(F)TB-2 (1-1-3) 5% 3-HB(F)TB-3 (1-1-3) 5% 3-HB(F)TB-4 (1-1-3) 5% 3-H2BTB-2 (1-1-5) 3% 3-H2BTB-3 (1-1-5) 3% 3-H2BTB-4 (1-1-5) 3% 3-BB(F,F)XB(F,F)-F (2-1-2) 9% 3-BB(F)B(F,F)XB(F)-F (2-1-5) 3% 3-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 2% 4-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 7% 5-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 7% 3-BB(F,F)XB(F)B(F,F)-F(2-1-10) 6% 3-BB(F)B(F,F)-F (2-2-4) 3% 2-BTB-O1 (3-3) 7.8% 3-BTB-O1 (3-3) 7.8% 4-BTB-O1 (3-3) 7.8% 4-BTB-O2 (3-3) 7.8% 5-BTB-O1 (3-3) 7.8% NI=90.0℃;Tc<-20℃;Δn=0.246;Δε=9.4;Vth=1.88V;η=42.7mPa・s;γ1=279mPa・s;VHR-1=98.7%;VHR-3=97.0%. 【0116】 [比較例1] 実施例1の組成物は、第二成分である化合物(2)を含有する。化合物(2)は正の誘電率異方性を有する。比較のために、実施例1中の化合物(2)を全て抜いて、正の誘電異方性を有する、シアノ基を有する化合物を加えた組成物を比較例1とした。 3-HB(F)TB-2 (1-1-3) 7% 3-HB(F)TB-3 (1-1-3) 7% 3-HB(F)TB-4 (1-1-3) 7% 3-H2BTB-2 (1-1-5) 5% 3-H2BTB-3 (1-1-5) 4% 3-H2BTB-4 (1-1-5) 4% 2-BTB-O1 (3-3) 8.6% 3-BTB-O1 (3-3) 8.6% 4-BTB-O1 (3-3) 8.6% 4-BTB-O2 (3-3) 8.6% 5-BTB-O1 (3-3) 8.6% 1V2-BEB(F,F)-C 11% 2-BEB(F)-C 3% 3-BEB(F)-C 3% 2-HHB-C 3% 3-HHB-C 3% NI=93.7℃;Tc<-20℃;Δn=0.242;Δε=10.0;Vth=1.82V;η=32.3mPa・s;γ1=264mPa・s;VHR-1=97.5%;VHR-3=10.6%. シアノ基を有する化合物は紫外線を照射した後のVHRを著しく低下させるため、本発明の液晶組成物としては不適であることがわかる。… 【0119】 [比較例4] 比較のために、実施例1中の化合物(2)の一部を、正の誘電異方性を有する、シアノ基を有する化合物と置き換えた組成物を比較例4とした。 3-HB(F)TB-2 (1-1-3) 7% 3-HB(F)TB-3 (1-1-3) 7% 3-HB(F)TB-4 (1-1-3) 7% 3-H2BTB-2 (1-1-5) 5% 3-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 2% 4-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 8% 5-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 8% 3-BB(F,F)XB(F)B(F,F)-F(2-1-10) 7% 3-BB(F)B(F,F)-F (2-2-4) 3% 2-BTB-O1 (3-3) 8.6% 3-BTB-O1 (3-3) 8.6% 4-BTB-O1 (3-3) 8.6% 4-BTB-O2 (3-3) 8.6% 5-BTB-O1 (3-3) 8.6% 1V2-BEB(F,F)-C (-) 3% NI=95.2℃;Tc<-20℃;Δn=0.254;Δε=9.1;Vth=1.90V;η=39.4mPa・s;VHR-1=97.2%;VHR-3=81.6%. シアノ基を有する化合物は紫外線を照射した後のVHRを低下させるため、本発明の液晶組成物としては不適であることがわかる。… 【0139】 [実施例21] 3-HB(F)TB-2 (1-1-3) 5% 3-HB(F)TB-3 (1-1-3) 3% 3-BB(F)TB-2 (1-1-4) 8% 3-BB(F)TB-3 (1-1-4) 8% 3-BB(F)TB-4 (1-1-4) 8% 3-BB(F,F)XB(F,F)-F (2-1-2) 10% 3-BB(F)B(F,F)XB(F)-F (2-1-5) 3% 3-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 2% 4-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 8% 5-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F(2-1-6) 8% 3-BB(F,F)XB(F)B(F,F)-F(2-1-10) 6% 2-BTB-O1 (3-3) 6.2% 3-BTB-O1 (3-3) 6.2% 4-BTB-O1 (3-3) 6.2% 4-BTB-O2 (3-3) 6.2% 5-BTB-O1 (3-3) 6.2% NI=103.5℃;Tc<-10℃;Δn=0.278;Δε=10.6;Vth=1.94V;η=57.2mPa・s;γ1=316mPa・s.… 【0140】 本発明の液晶組成物は、高い上限温度、低い下限温度、大きな光学異方性、大きな正の誘電率異方性、紫外線に対する高い安定性などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する、または少なくとも2つの特性に関して適切なバランスを有する。この組成物を含有する液晶表示素子は、TN、OCB、IPS、FFS、またはFPAのモードを有するAM(active matrix)素子に用いることができ、特に、この組成物をカプセルに内包させることにより、製造コストを低減する、あるいはフレキシブルディスプレイに用いることができる。また、この組成物を含有する素子は、2D/3D間の切替表示を可能にする表示素子として用いることができる。」 (2)本願発明の解決しようとする課題 一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされているところ〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕、本願請求項1?16に係る発明の解決しようとする課題は、本願明細書の段落0011の記載からみて『ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、大きな光学異方性、大きな正の誘電率異方性、紫外線に対する高い安定性などの特定において、少なくとも1つの特性を充足する、または少なくとも2つの特性のあいだで適切なバランスを有する液晶組成物の提供』にあるものと認められる。 (3)記載不備1(2)ウに関して 本願請求項1に記載された第二成分は、式(2)で表される4環又は5環の化合物の群であって、当該請求項1を引用する請求項6においては「第二成分として式(2-1-5)、式(2-1-6)、式(2-1-9)から式(2-1-13)で表される化合物の群」が記載され、当該請求項1を引用する請求項9においては「第二成分として(2-2-4)から式(2-2-6)、式(2-2-8)、式(2-2-9)、式(2-2-11)および式(2-2-12)で表される化合物の群」が記載されている。 しかして、第二成分の環について「環A^(3)、A^(4)およびA^(5)は独立して、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、または1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり;」という多数の選択肢があるところ、第二成分の化合物の「環A^(3)、A^(4)およびA^(5)」が、全て「1,4-フェニレン」である場合のものや、全て「1,3-ジオキサン-2,5-ジイル」である場合のものなどが、請求項6及び9に記載された式(2-1-5)等の第二成分の化合物と同程度の有用性を示し得るといえる「試験結果」の裏付けや「作用機序」の説明は、本願明細書の発明の詳細な説明の全ての記載を精査しても見当たらず、その有用性についての本願出願時の「技術常識」の存在も見当たらない。 また、第二成分の環の連結基について「Z^(3)、Z^(4)およびZ^(5)は独立して、単結合、ジフルオロメチレンオキシであり;」という2つの選択肢があるところ、この選択肢は、本願請求項3の「エチレン」や「トラン」という選択肢や、本願請求項9の式(2-2-12)と整合性がないものであって、第二成分の化合物の「Z^(3)、Z^(4)およびZ^(5)」が、全て「ジフルオロメチレンオキシ」である場合のものなどが、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例の化合物と同程度の有用性を示し得るといえる「試験結果」の裏付けや「作用機序」の説明は、本願明細書の発明の詳細な説明の全ての記載を精査しても見当たらず、その有用性についての本願出願時の「技術常識」の存在も見当たらない。 さらに、第二成分の末端基Y^(1)ついて「Y^(1)はフッ素または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;」という選択肢があるところ、この選択肢は、本願請求項9の式(2-2-6)などと整合性がないものであって、当該「末端基Y^(1)」として、例えば「C_(12)I_(25)-」などのハロゲン化アルキルが、実施例で用いられている「フッ素」などと同程度の有用性を示し得るといえる「試験結果」の裏付けや「作用機序」の説明は、本願明細書の発明の詳細な説明の全ての記載を精査しても見当たらず、その有用性についての本願出願時の「技術常識」の存在も見当たらない。 したがって、本願請求項1及びその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 なお、先の意見書の「サポート要件の拒絶に対応するために、実施例に記載のない構造は選択しないことにして、すべて削除いたしました。」との主張について、本願明細書の発明の詳細な説明には、例えば、第二成分の化合物の「環A^(3)、A^(4)およびA^(5)」が、全て「1,4-フェニレン」である場合のものや、全て「1,3-ジオキサン-2,5-ジイル」である場合のものなどの実施例の記載が見当たらないことから、当該主張は採用できず、補正後の請求項1及びその従属項の記載が、サポート要件を満たす範囲にあると認めるに至らない。 (4)記載不備1(2)エに関して 本願請求項1に記載された第一成分は、式(1-1)で表される3環の化合物の群であって、当該請求項1を引用する請求項4においては「第一成分として式(1-1-3)から式(1-1-6)、式(1-1-8)、式(1-1-11)および式(1-1-12)で表される化合物の群」が記載されている。 ここで、第一成分の環の連結基について「Z^(11)は独立して、単結合、エチレン、またはトランであり、」という複数の選択肢があるところ、この選択肢は、本願請求項3の「ジフルオロメチレンオキシ」という選択肢と整合性がなく、一般に「トラン」は「ジフェニルアセチレン」を意味するという点で本願請求項4の式(1-1-11)などとも整合性がないものである。 そして、第一成分の環について「環A^(11)は独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、または2-フルオロ-1,4-フェニレンであり、」という複数の選択肢があり、末端基R^(11)及びR^(21)ついて「R^(11)、R^(21)…は独立して、炭素数1から12のアルキルであり」という広範な選択肢があるため、第一成分の「環の連結基」と「環」と「末端基」の組み合わせは膨大なものとなるが、本願の実施例では、僅か数種類を用いた例しか示されていない。 してみると、本願明細書の僅か数種類の実施例によっては、本願出願時の技術常識を参酌しても、本願請求項1に記載された第一成分の膨大な組み合わせの全範囲にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。 したがって、本願請求項1及びその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 (5)サポート要件のまとめ 以上総括するに、本願請求項1?16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 3.理由3(実施可能要件)について 本願請求項1及び3におけるメソゲン化合物を定義する式は「基本骨格部分において非常に多くの化合物を含む表現」である上、これらに結合する置換基の選択肢も考慮すれば、その組み合わせによって膨大な数の化合物を表現し得るものとなっているところ、例えば、本願請求項1の式(2)で表される化合物の「環A^(3)、A^(4)およびA^(5)」が全て「1,3-ジオキサン-2,5-ジイル」である場合のものや、本願請求項3の式(2-1)で表される化合物の「Z^(31)、Z^(41)およびZ^(51)」が全て「トラン」である場合のものについては、先の意見書の「実施可能要件の拒絶に対応するために、元の請求項14および17は削除いたしました。」との主張を斟酌しても、その「製造又は入手する方法」が「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要」がないといえる根拠が見当たらない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1?16に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 4.理由2(進歩性)について (1)引用刊行物及びその記載事項 刊行物1:特開2005-232455号公報(原査定の文献1に同じ。) 刊行物2:特開2013-209652号公報 上記刊行物1には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1?3 「【請求項1】下記式IAの1種または2種以上の化合物と式IBの1種または2種以上の化合物を含有する液晶媒体。 【化1】 (式中、 R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、それぞれ無置換、CNもしくはCF_(3)によるモノ置換またはハロゲンによる少なくともモノ置換された炭素数1?12のアルキル基であり、但し、この基において1または2以上のCH_(2)基は、O原子同士が直接結合しないことを条件として、-O-、-S-、 【化2】 、-CH=CH-、-C≡C-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-または-O-CO-O-で置換されていても良く、 Y^(1)?Y^(7)は、互いに独立して、それぞれHまたはFであり、 X^(0)は、F、Cl、または炭素数6までのハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニル、ハロゲン化アルコキシもしくはハロゲン化アルケニルオキシであり、 Aは、1,4-フェニレン、2-もしくは3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレンまたはトランス-1,4-シクロへキシレンであり、 rは、0または1である。) 【請求項2】式IA1の化合物の1種または2種以上を含有する請求項1記載の媒体。 【化3】 (式中、R1は請求項1で定義されたとおりである。) 【請求項3】式IB1およびIB2の1種または2種以上の化合物を含有する請求項1または2記載の媒体。 【化4】 (式中、R^(2)およびR^(3)は請求項1で定義されたとおりである。)」 摘記1b:段落0022及び0048?0054 「【0022】本発明は、特に、前述の不都合を有していないか、有していたとしてもより少ない程度であるような媒体、特にMLC、TNまたはSTNディスプレイ用の媒体であって、好ましくは同時に非常に高い比抵抗値、低しきい電圧および速いスイッチング時間を有するものを提供することを目的とする。それらは特に、フィールド順次モードディスプレイに適したものである。… 【0048】キャパシティ保持率(HR)の測定[…]により、式IAおよび式IBの化合物を含有する本発明の混合物は、式: 【0049】【化5】… 【0050】のシアノフェニルシクロヘキサン類や、式: 【0051】【化6】… 【0052】のエステル化合物類を式IAおよびIBの化合物の代わりに含有する混合物に比べて、高い温度でもHRの低下が著しく小さいことが示された。 【0053】本発明の混合物のUV安定性は極めて優れている。即ち、それらはUV照射によってもHRの低下が著しく小さい。 【0054】本発明の混合物は、シアノ基含有化合物を、好ましくはわずかだけ(≦10wt%)含むか、特に好ましくは全く含まない。本発明の混合物の保持率の値は、20℃において好ましくは98%より大きく、非常に好ましくは99%より大きい。」 摘記1c:段落0099及び0102?0103 「【0099】従来の液晶材料(しかし、特に式II、III、IV、V、VIおよび/またはVIIの1種または2種以上の化合物)に対して、式IAおよびIBの化合物の比較的少量の混合ですら、しきい電圧の低下および低複屈折率の達成にきわめて効果があり、しかも広いネマチック相であって同時に低いスメクチック-ネマチックの遷移温度が観察され、貯蔵安定性が改善されることが見出された。… 【0102】式IA、IBおよびII+III+IV+V+VI+VIIの化合物の最適な混合比は、実質上望まれる特性、式IA、IB、II、III、IV、V、VIおよび/またはVIIの成分の選択、およびさらに存在しているかもしれないその他の成分の選択に依存する。前述の与えられた範囲内での適切な混合比は、場合ごとに容易に決めることができる。 【0103】本発明の混合物で、式IA、IBおよびII?XIの化合物の合計量は、決定的なものではない。したがって、混合物は、様々な特性の最適化のためにさらに1種または2種以上の成分を含むことができる。」 摘記1d:段落0111?0118 「【0111】本出願および以下に示す例において、液晶化合物の構造は頭文字で示されており、その化学式への変換は下記表AおよびBに従って行われる。基C_(n)H_(2n+1)およびC_(m)H_(2m+1)は全部が、n個またはm個の炭素原子をそれぞれ有する直鎖状アルキル基である。nおよびmは好ましくは0、1、2、3、4、5、6または7である。表Bにおけるコードは自明である。表Aには、親構造にかかわる頭文字のみが示されている。それぞれの場合において、この親構造の頭文字の後に、ダッシュにより分離されて、置換基R^(1*)、R^(2*)、L^(1*)およびL^(2*)のためのコードが続く。 【0112】【表1】 … 【0113】本発明の混合物コンセプトに好適な混合物成分を、表Aおよび表Bに示す。 【0114】表A 【0115】【化16】 … … 【0116】表B 【0117】【化17】 … 【0118】【化18】 … 」 摘記1e:段落0128及び0133 「【0128】下記の例は、制限することなく、本発明を説明するものである。 上および下において、パーセンテージは重量パーセントである。温度はすべて摂氏で示される。m.p.は融点を表わし、cl.p.は透明点を表わす。さらにまた、C=結晶状態、N=ネマチック相、S=スメクチック相、およびI=アイソトロピック相である。これらの記号間のデータは相転移温度である。Δnは光学異方性、n0は屈折率を表わす(589nm、20℃)。流動粘度ν20(mm^(2)/s)、回転粘度γ1(mPa・s)はそれぞれ20℃で測定した。V10は、10%の透過(基板表面に垂直な視角)の電圧を表す。tonおよびtoffは、V10の2倍に対応する動作電圧におけるスイッチオン時間およびスイッチオフ時間を表す。Δεは、誘電異方性(Δε=ε?-ε⊥、ここでε?は分子軸に平行な誘電率、ε⊥は垂直の誘電率を表す。)を表わす。電気光学のデータは、特に別に述べない限り20℃で、TNセルにおいて第1次透過極小で(すなわち、0.5μmのd・Δn値で)測定した。光学的データは特に述べない限り、20℃で測定した。… 【0133】【表6】 … 」 上記刊行物2には、次の記載がある。 摘記2a:段落0021及び0069?0071 「【0021】よって、本発明は、特に、この型のMLC、TNまたはSTNディスプレイ用で、上記の不具合を有していないか、有していても低減されており、好ましくは同時に、高い透明点および低い回転粘度を有しており、更に好ましくは、速いスイッチング時間、高い比抵抗、低い閾電圧、および改良されたLTSを示す媒体を提供する目的を有している。… 【0069】-媒体は、以下の式から選択される1種類以上の化合物を付加的に含む。 【0070】【化18】 … … 【0071】【化19】 … 」 摘記2b:段落0110、0113及び0116 「【0110】たとえ比較的少ない量であっても式Iの化合物を、従来の液晶材料、しかしながら特に式II、III、IV、V、VIおよび/またはVIIの1種類以上の化合物と混合することにより、結果として閾電圧が著しく低下し、複屈折率の値が低くなり、同時に広い範囲でのネマチック相で低いスメクチック-ネマチック転移温度が観測され、貯蔵寿命が改良されることが判明した。式I?XVIIIの化合物は無色および安定で、互いにおよび他の液晶材料と容易に混和する。更に、本発明による混合物は高い透明点と同時に非常に低い値の回転粘度γ1によって区別される。… 【0113】式I?XXXIの化合物の最適な混合比は、所望の特性、式I?XXXIの成分の選択、および存在する場合もある任意の他の成分の選択に実質的に依存する。上で与えられる範囲内での適切な混合比は、場合ごとに容易に決定できる。… 【0116】式Iの化合物を含み、更に式II?XVIIIの1種類以上の化 合物を含む本発明による液晶媒体は、低い値の回転粘度、高い複屈折率、良好なLTSによって特徴付けられ、速い応答時間を示す。それらは、テレビ、ビデオおよびモニター用途に特に適する。」 摘記2c:段落0129?0130 「【0129】 … … 【0130】 … 」 (2)刊行物1に記載された発明 摘記1a?1d及び摘記1eの「例10」の記載からみて、刊行物1には、 『下記式IA1の1種または2種以上の化合物と、 (式中、R^(1)は炭素数1?12のアルキル基などである。) 下記式IB2の1種または2種以上の化合物を含有し、 (式中、R^(2)およびR^(3)は、炭素数1?12のアルキル基などであり、但し、この基において1または2以上のCH_(2)基は、O原子同士が直接結合しないことを条件として、-O-などで置換されていても良い。) 様々な特性の最適化のためにさらに1種または2種以上の成分を含むことができ、従来の液晶材料に対して、しきい電圧の低下および低複屈折率の達成に効果があり、しかも広いネマチック相であって同時に低いスメクチック-ネマチックの遷移温度が観察され、貯蔵安定性が改善される、シアノ基含有化合物を全く含まないUV安定性に優れた液晶媒体であって、 上記式IA1の化合物として下記式の基本骨格からなるPUQU-2-Fを10.00重量%と、 上記式IB2の化合物として下記式の基本骨格からなるCPTP-3O1を4.00重量%と、CPTP-3O2を4.00重量%と、CPTP-3O3を4.00重量%と、 さらに1種又は2種の成分として下記式の基本骨格からなるCCGU-2-Fを8.00重量%など、 とを含む液晶媒体。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比 本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)と刊1発明とを対比する。 刊1発明の「CPTP-3O1」は、本1発明の「 」において、R^(11)が「炭素数3のアルキル」であり、環A^(11)が「1,4-シクロヘキシレン」であり、Z^(11)が「単結合」であり、X^(11)が「水素」であり、R^(21)が「炭素数1のアルコキシ」である場合のものに該当する。 刊1発明の「CCGU-2-F」は、本1発明の「 」において、R^(3)が「炭素数2のアルキル」であり、環A^(3)及び環A^(4)が「1,4-シクロヘキシレン」であり、環A^(5)が「2-フルオロ-1,4-フェニレン」であり、Z^(3)、Z^(4)及びZ^(5)が「単結合」であり、X^(4)が「水素」であり、X^(5)及びX^(6)が「フッ素」であり、Y1がフッ素であり、mが「1」である場合のものに該当する。 刊1発明の「シアノ基含有化合物を全く含まないUV安定性に優れた液晶媒体」は、本1発明の「シアノを有する化合物の割合が液晶組成物全体に対して3重量%未満である、液晶組成物」に相当する。 してみると、本1発明と刊1発明は、両者とも『第一成分として式(1-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、シアノを有する化合物の割合が液晶組成物全体に対して3重量%未満である、液晶組成物。 式(1-1)および式(2)において、R^(11)およびR^(3)は独立して、炭素数1から12のアルキルであり;環A^(11)は独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、または2-フルオロ-1,4-フェニレンであり、環A^(5)は独立して、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、または1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり;Z^(11)は独立して、単結合、エチレン、またはトランであり、Z^(3)、Z^(4)およびZ^(5)は独立して、単結合、ジフルオロメチレンオキシであり;X^(11)、X^(4)、X^(5)およびX^(6)は独立して、水素またはフッ素であるが、X^(4)およびX^(5)が同時にフッ素であることはなく;Y^(1)はフッ素または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキルであり;mは、1または2であり、mが2を表す場合、複数存在する環A^(4)およびZ^(4)は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。』という点において一致し、次の(α)及び(β)の点で相違する。 (α)式(1-1)の「R^(21)」が、本1発明は「炭素数1から12のアルキル」であるのに対して、刊1発明は「炭素数1のアルコキシ」である点。 (β)式(2)の「環A^(3)、A^(4)」が、本1発明は「1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、または1,3-ジオキサン-2,5-ジイル」であるのに対して、刊1発明は「1,4-シクロへキシレン」である点。 (4)判断 ア.相違点(α)について 刊1発明の「CPTP-3O1」の上位概念としての「式IB2の化合物」は、その「R^(2)およびR^(3)は、炭素数1?12のアルキル基などであり、但し、この基において1または2以上のCH_(2)基は、O原子同士が直接結合しないことを条件として、-O-などで置換されていても良い。」との記載にあるように、右末端の「R^(3)」が「炭素数1?12のアルキル基」である場合を含むので、刊1発明の「CPTP-3O1」の右末端の置換基である「炭素数1のアルコキシ基」を「炭素数1?12のアルキル基」に置き換えることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。 イ.相違点(β)について 刊1発明は「様々な特性の最適化のためにさらに1種または2種以上の成分を含むことができ」る「液晶媒体」に関するものであるところ、刊行物2の段落0070?0071(摘記2a)及び段落0129?0130(摘記2b)には、刊1発明の「CCGU-2-F」に対応する刊行物2の式XVIの具体例の「CCGU-n-F」と同等の有用性を示す化合物として、刊行物2の式XXIIIの具体例の「PPGU-n-F」という化合物が例示され、当該「PPGU-n-F」は本1発明の式(2)の「環A^(3)、A^(4)」が「1,4-フェニレン」である場合のものに該当する。 そして、刊行物1の段落0022(摘記1b)の「本発明は、…特にMLC、TNまたはSTNディスプレイ用の媒体であって、好ましくは同時に非常に高い比抵抗値、低しきい電圧および速いスイッチング時間を有するものを提供することを目的とする。」との記載、及び刊行物2の段落0021(摘記2a)の「本発明は、特に、この型のMLC、TNまたはSTNディスプレイ用で、…更に好ましくは、速いスイッチング時間、高い比抵抗、低い閾電圧、および改良されたLTSを示す媒体を提供する目的を有している。」との記載にあるように、刊行物1に記載の発明と、刊行物2に記載の発明は、その技術分野や解決しようとする課題が共通するので、両者の組み合わせには強い動機付けがあるものと認められる。 してみると、刊1発明に、刊行物2に記載の技術を組み合わせて、相違点(β)の構成を導入することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。 ウ.本1発明の効果について 本願明細書の段落0116(記載c)の「シアノ基を有する化合物は紫外線を照射した後のVHRを著しく低下させるため、本発明の液晶組成物としては不適であることがわかる。」との記載、及び同段落0013(記載b)の「本発明の長所は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、大きな光学異方性、大きな正の誘電率異方性、紫外線に対する高い安定性などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物である。」との記載にあるように、本1発明の効果は、例えば『ネマチック相の高い上限温度が×、ネマチック相の低い下限温度が×、大きな光学異方性が×、大きな正の誘電率異方性が×、紫外線に対する高い安定性が○』のように、その「少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物」でしかないのに対して、刊1発明は「従来の液晶材料に対して、しきい電圧の低下および低複屈折率の達成に効果があり、しかも広いネマチック相であって同時に低いスメクチック-ネマチックの遷移温度が観察され、貯蔵安定性が改善される、シアノ基含有化合物を全く含まないUV安定性に優れた液晶媒体」に関するものであるから、本1発明に格別の効果があるとは認められない。 エ.請求人の主張について 先の意見書において、審判請求人は『本発明の実施例に開示されている組成物は、本願式(1-1)と本願式(2)の合計が、少なくとも50重量%以上であり(例えば、実施例15)、液晶組成物の主成分を占めており、液晶組成物の特性の決定に大きな影響を及ぼしているといえます。この様に、本件発明の液晶組成物と刊行物1の例10の液晶組成物は、化合物の混合比の最適化というには大きすぎる差があります。従って、当業者といえども、刊行物1の例10から、本発明の液晶組成物を想定することは出来ないと考えます。』と主張している。 しかしながら、本1発明は、式(1-1)と式(2)の合計が「少なくとも50重量%以上」であることが発明特定事項とされていないので、当該主張は採用できない。 オ.進歩性のまとめ 以上総括するに、本1発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許法第49条第4号の『その特許出願が第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていないとき』に該当し、また、同法第49条第2号の『その特許出願に係る発明が第29条の規定により特許をすることができないものであるとき』に該当するから、その余の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-06-04 |
結審通知日 | 2020-06-09 |
審決日 | 2020-06-30 |
出願番号 | 特願2016-514737(P2016-514737) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(C09K)
P 1 8・ 121- WZ (C09K) P 1 8・ 537- WZ (C09K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 磯貝 香苗 |
特許庁審判長 |
天野 斉 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 木村 敏康 |
発明の名称 | 液晶組成物および液晶表示素子 |