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審決分類 |
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61H |
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管理番号 | 1365582 |
審判番号 | 無効2018-800007 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2018-01-29 |
確定日 | 2020-09-02 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5162718号「椅子式マッサージ機」の特許無効審判事件についてされた平成31年 1月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成31年(行ケ)第10027号、令和 1年12月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5162718号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1 本件特許出願 本件特許第5162718号に係る出願(特願2012-163159号、以下「本件出願」という。)は、平成18年8月11日(以下「遡及出願日」という。)に出願された特願2006-220454号の一部を平成23年8月29日に新たな特許出願とした特願2011-185543号(以下「原出願」という。)の一部をさらに平成24年7月23日に新たな特許出願としたものであって、同日に特許請求の範囲及び明細書についての手続補正書(以下、この補正書による手続補正を「本件補正」という。)が提出され、その後、特許権の設定登録が平成24年12月21日にされたものである。設定登録時の請求項の数は2である。 2 本件無効審判の請求 審判請求人(ファミリーイナダ株式会社。以下「請求人」という。)は、平成30年1月29日に、本件特許第5162718号の無効審判請求をした。 3 第1次審決までの主な手続 平成31年1月29日付け審決(以下「第1次審決」という。)までの主な手続の経緯は、次のとおりである。 平成30年 1月29日 審判請求書、証拠説明書の提出 同年 2月19日 手続補正書の提出 同年 5月 1日 審判事件答弁書、証拠説明書の提出 同年 5月25日付け 審理事項通知 同年 8月14日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 同年 8月14日 口頭審理陳述要領書、証拠説明書の提出(被請求人) 同年 8月27日付け 審理事項通知(2) 同年 9月11日 口頭審理陳述要領書(2)、証拠説明書の提出(請求人) 同年 9月11日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(被請求人) 同年 9月11日 第1回口頭審理 同年10月 5日 上申書の提出(請求人) 同年10月26日 上申書の提出(被請求人) 同年11月 9日 上申書(2)の提出(請求人) 平成31年 1月29日付け 第1次審決 4 第1次審決の結論及びこれに対する審決取消訴訟 (1)第1次審決の結論 第1次審決では、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との結論の審決がなされた。 (2)審決取消訴訟及びその後の経緯 請求人は、同人を原告とし被請求人を被告とする、第1次審決の取消訴訟を平成31年3月6日に知的財産高等裁判所に提起した。 同裁判所において、この訴訟は、平成31年(行ケ)第10027号事件として審理され、第1次審決を取り消す旨の判決(以下「取消判決」という。)が令和元年12月25日に言い渡され、その後取消判決は確定した。 なお、被請求人から特許法第134条の3に基づく申立てはなかった。 その後、令和2年3月23日付けで審決の予告をしたが、請求人及び被請求人からは応答がなかった。 第2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は、願書に添付した特許請求の範囲に記載された次のとおりのものであり、便宜上、以下に示すとおり、構成要件A?Gに分説する。また、各請求項に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」などといい、本件発明1?2を「本件発明」と総称し、各構成要件を「構成要件A」などというこことする。さらに、本件特許の明細書及び図面を「本件明細書」といい、本件特許の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面を「本件当初明細書等」ということとする。 「【請求項1】 A 座部と前記座部の後側でリクライニング可能に連結された背凭れ部を有する椅子本体と、前記背凭れ部の左右の側壁部と、該椅子本体の両側部に設けた肘掛部と、を有する椅子式マッサージ機において、 B 前記左右の側壁部は、前記座部に着座した施療者の肩または上腕側方となる位置に配設しており、 前記左右の側壁部の内側面には夫々左右方向に重合した膨縮袋を備えて、これら重合した膨縮袋の基端部を前記側壁部に取り付けるように構成しており、 C 前記肘掛部は、施療者の前腕部を載置しうるための底面部、及び外側立上り壁により形成され、 前腕部の長手方向において前記外側立上り壁に複数個配設された膨縮袋で前記底面部に載置した施療者の前腕部にマッサージを施すための前腕部施療機構を備えており、 D 前記肘掛部の後部と前記背凭れ部の側部とを連結する連結部と、前記肘掛部の下部に設けられ、前記背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結部を介して前記肘掛部全体を前記座部に対して回動させる回動部とを設け、 E 前記肘掛部全体が、前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して、リクライニングする方向に傾くように構成されて、 F 前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身における着座姿勢を保ちながら、肩または上腕から前腕に亘って側壁部及び外側立上り壁側から空圧施療を行う事を特徴とする椅子式マッサージ機。 【請求項2】 G 前記肘掛部が前記背凭れ部の側部付近まで延設されており、かつ前記外側立上り壁が施療者の前腕部から肘部に位置するように構成されている事を特徴とする請求項1記載の椅子式マッサージ機。」 第3 当事者の主張及び第1次審決の理由の要旨 1 請求人の主張 請求人は、「特許第5162718号発明の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として甲第1号証?甲第13号証を提出するとともに、無効とすべき理由として、次のような主張をしている。 (無効理由1)本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、本件特許は同法123条1項1号に該当し、無効とすべきものである。 (無効理由2)本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。 (無効理由3)本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。 (無効理由4)本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。 (無効理由5)本件発明1及び2は、甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。 (無効理由6)本件発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、また、本件発明2は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。 [証拠方法] ・甲第1号証:特開2003-310683号公報 ・甲第2号証:特開2005-192603号公報 ・甲第3号証:特開平10-179675号公報 ・甲第4号証:特開2005-177279号公報 ・甲第5号証:特開2005-28045号公報 ・甲第6号証:特開2011-235180号公報 ・甲第7号証:本件出願の願書並びに願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書 ・甲第8号証:本件出願の平成24年7月23日付け手続補正書 ・甲第9号証:「weblio辞書の『三省堂 大辞林』における『着座』」のウェブページを出力した文書、インターネット<URL:https://www.weblio.jp/content/%E7%9D%80%E5%BA%A7> ・甲第10号証:「コトバンクの『デジタル大辞泉』における『姿勢』」のウェブページを出力した文書、インターネット<URL:https://kotobank.jp/word/%E5%A7%BF%E5%8B%A2-519836> ・甲第11号証:「コトバンクの『世界大百科事典第2版』における『姿勢』」のウェブページを出力した文書、インターネット<URL:https://kotobank.jp/word/%E5%A7%BF%E5%8B%A2-519836> ・甲第12号証:「コトバンクの『大辞林第三版』における『姿勢』」のウェブページを出力した文書、インターネット<URL:https://kotobank.jp/word/%E5%A7%BF%E5%8B%A2-519836> ・甲第13号証:「weblio辞書の『三省堂 大辞林』における『保つ』」のウェブページを出力した文書、インターネット<URL:https://www.weblio.jp/content/%E4%BF%9D%E3%81%A4> 2 被請求人の主張 被請求人は、請求人主張の無効理由はいずれも理由がなく、本件審判の請求は成り立たない旨主張し、証拠方法として乙第1号証?乙第2号証を提出している。 [証拠方法] ・乙第1号証:本件出願の平成24年7月23日付け上申書 ・乙第2号証:動画ファイル「無効2018-800007【乙第2号証】.mp4」を記録したCD-R 以下、甲第1号証などの各文献については、その番号に応じ、「甲1文献」などといい、甲第1号証に記載された発明を、その番号に応じ、「甲1発明」などという。) 3 第1次審決の理由の要旨 審決の理由の要旨は、次のとおりである。 (1)無効理由1について 構成要件D、Fに係る事項の追加を含む本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内でした補正であるから、無効理由1によっては、本件特許を無効とすることはできない。 (2)無効理由2について 本件明細書の記載が、本件発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない、とはいえず、無効理由2によっては、本件特許を無効とすることはできない。 (3)無効理由3について 本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、無効理由3によっては、本件特許を無効とすることはできない。 (4)無効理由4について 「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身における着座姿勢を保ちながら」なる事項を発明特定事項として含む本件発明が明確でないとはいえず、無効理由4によっては、本件特許を無効とすることはできない。 (5)無効理由5について 本件出願は適法な分割出願であり、その出願日は遡及出願日に遡及する。ところで、甲6文献の公開日は平成23年11月24日であるから、甲6文献は、本件特許の遡及出願日前に頒布された刊行物ではない。そうすると、請求人の主張はその前提において失当であって、無効理由5によっては、本件特許を無効とすることはできない。 (6)無効理由6について 本件発明は、甲1発明?甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。よって、無効理由6によっては、本件特許を無効とすることはできない。 第4 取消判決における取消事由と結論 取消事由1:補正要件についての判断の誤り(構成要件D)(無効理由1) 取消事由2:補正要件についての判断の誤り(構成要件F)(無効理由1) 取消事由3:実施可能要件についての判断の誤り(無効理由2) 取消事由4:サポート要件についての判断の誤り(無効理由3) 取消事由5:明確性要件についての判断の誤り(無効理由4) 取消事由6:進歩性欠如に関する判断の誤り まる1(無効理由5) 取消事由7:進歩性欠如に関する判断の誤り まる2(無効理由6) (当審注:丸の中に数字の1を記載したものを「まる1」などと表記する。以下同じ。) 取消判決の結論は、取消事由3は理由があり、その余の取消事由を考慮するまでもなく、第1次審決にはその結論に影響を及ぼす違法があるから取り消すというものである。 第5 取消判決の拘束力 審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245号)。 したがって、当審は、取消判決の判決主文が導き出されるのに必要な認定判断に係る、次の判示事項に拘束されるものである。 1 実施可能要件について、「特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないことを規定するものであり、同号の要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。」(取消判決42ページ3?10行) 2 「本件においては、構成要件D?Fを充足するような、[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部を連結する連結手段、[2]肘掛部全体を座部に対して回動する回動手段及び[3]背凭れ部を座部に対し連結する連結手段の具体的な組み合わせが問題になっており、したがって、これらの各手段は何の制約もなく部材を連結又は回動させれば足りるのではなく、それぞれの手段が協調して構成要件D?Fに示された機能を実現する必要がある。このような機能を実現するための手段の選択には、技術的創意が必要であり、単に適宜の手段を選択すれば足りるというわけにはいかないのであるから、明細書の記載が実施可能要件を満たしているといえるためには、必要な機能を実現するための具体的構成を示すか、少なくとも当業者が技術常識に基づき具体的構成に至ることができるような示唆を与える必要があると解されるところ、本件明細書には、このような具体的構成の記載も示唆もない。」(取消判決43ページ22?44ページ8行) 第6 当審の判断 1 本件発明について (1)特許請求の範囲 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2に記載のとおりである。 (2)本件明細書の記載 本件明細書には、以下の記載がある。 ア 技術分野 「【0001】 本発明は、肘掛部に施療者の前腕部をマッサージする前腕部施療機構を備えた椅子式マッサージ機に関するものである。」 イ 背景技術 「【0002】 従来の、座部と背凭れ部、そして該座部の左右両側に肘掛部を設けた椅子式マッサージ機において、肘掛部の上部に前腕部施療機構を備えて、着座した施療者の腕部をマッサージする形態のものは既に存在し、市場では商品化されている。 【0003】 例えば、図19に示すような、前腕部施療機構を備えた椅子式マッサージ機が開示されている。すなわち、手揉機能付施療機1として、肘幅方向両側に各々立上り壁211・211を設けた肘掛部21を椅子本体2の両側に設けており、その肘掛部21の各立上り壁211・211間に人体手部を各々嵌脱自在で該人体手部に膨縮施療を付与し得るよう、圧縮空気給排気手段を配設して成り、施療者が着座状態で人体手部を両肘掛部21・21上面部に安定的に保持させて、人体手部及び腕部を効率良く空圧施療する事ができるよう構成したものである。尚、肘掛部21の前側上面部は、立上り壁211が形成されておらず、平坦になっている。 【0004】 さらに、前述したような左右一対の立上り壁を左右の肘掛部の長さ方向全域に夫々設けた形態のものを図20に示す。すなわち、凹部の内壁に、人体の肢体を挿入するための空間を設けるように空気袋を夫々取着して施療部を形成し、空気袋に空気を給排気して空気袋を膨張及び収縮させる給排気装置を連通して設けてなるエアーマッサージ機3を、椅子20の肘掛けの上部全域に設けた構成である。」 ウ 発明が解決しようとする課題 「【0006】 ところで、従来の図20に示すような、肘掛部の長さ方向全域に前腕部施療機構として左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機は、手部及び前腕部の広範を同時にマッサージする事ができて便利であるが、施療者の肘関節付近にまで該各立上り壁が形成されているため、図18に示すように、上腕部内側の肘関節付近を施療者側である内側立上り壁623が圧迫して、施療者に不快感を与えたり、また、前腕部施療機構における腕部の載脱行為を妨げたりするなどの欠点があった。特に、施療者の身長が低くて小柄である程、内側立上り壁623による圧迫が大きくなると考えられる。 【0007】 また、着座した施療者が立ち上がる際、或いは着座する際において、通常は肘掛部の前端部を手で掴んで体重を掛けるのであるが、図20に示す形態の椅子式マッサージ機は、肘掛部の前端部にまで左右の立上り壁が形成されているため、肘掛部の前端部の上面部が開口された形態となり、そのような部分に体重を掛ける事は困難であった。 【0008】 一方で、左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機において、図19に示すような肘掛部の前側上面部に該立上り壁が形成されず、平坦になった部分を有する構成のものに関しては、該平坦になった部分を手掛け部として体重を掛ける事ができるのであるが、左右一対の立上り壁間に形成される凹部の底面部と、該手掛け部の平坦になった部分とが同じ高さの同面であるため、手掛け部を掴んで立ち上がろうとする際、前述した図18に示すのと同様、内側立上り壁623によって上腕部内側の肘関節付近が圧迫を受け、その付近と共に前腕部の内側が摺擦されながら、凹部から腕部が離脱する事になり、この場合も施療者に対して不快感を与えるものとなると考えられ、解決すべく問題となっていた。 【0009】 そこで、本発明は、上記問題点を解消する為に成されたものであり、施療者の腕部に対し、前腕部施療機構の立上り壁が不必要に圧迫して不快感をもたらす要因を解消し、前腕部施療機構における腕部の載脱をスムーズに行うよう構成すると共に、前腕部施療機構を有していても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるよう構成した椅子式マッサージ機を提供する事を目的とするものである。」 エ 課題を解決するための手段 「【0010】 すなわち、本発明の椅子式マッサージ機は、 座部と前記座部の後側でリクライニング可能に連結された背凭れ部を有する椅子本体と、前記背凭れ部の左右の側壁部と、該椅子本体の両側部に設けた肘掛部と、を有する椅子式マッサージ機において、前記左右の側壁部は、前記座部に着座した施療者の肩または上腕側方となる位置に配設しており、前記左右の側壁部の内側面には夫々左右方向に重合した膨縮袋を備えて、これら重合した膨縮袋の基端部を前記側壁部に取り付けるように構成しており、前記肘掛部は、施療者の前腕部を載置しうるための底面部、及び外側立上り壁により形成され、前腕部の長手方向において前記外側立上り壁に複数個配設された膨縮袋で前記底面部に載置した施療者の前腕部にマッサージを施すための前腕部施療機構を備えており、前記肘掛部の後部と前記背凭れ部の側部とを連結する連結部と、前記肘掛部の下部に設けられ、前記背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結部を介して前記肘掛部全体を前記座部に対して回動させる回動部とを設け、前記肘掛部全体が、前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して、リクライニングする方向に傾くように構成されて、前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身における着座姿勢を保ちながら、肩または上腕から前腕に亘って側壁部及び外側立上り壁側から空圧施療を行う構成ものである。 また、本発明の椅子式マッサージ機は、前記肘掛部が前記背凭れ部の側部付近まで延設されており、かつ前記外側立上り壁が施療者の前腕部から肘部に位置するように構成する。 【0013】 また、本発明の椅子式マッサージ機は、前記肘掛部を、椅子本体に対して前後方向に移動可能に設けられており、前記背凭れ部のリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持しながら前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して前記肘掛部が椅子本体に対して前後方向に移動するように構成している。」 オ 発明の効果 「【0015】 よって、本発明の椅子式マッサージ機は、肘掛部に、肘掛部の内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部を有しており、該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の前腕部を挿入保持するための空洞部を設け、該空洞部の内部壁面各所に施療者の前腕部にマッサージを施すための前腕部施療機構を設けた構成のものであるため、前腕部に対する不必要な圧迫や摺擦をもたらす要因がなくなる。よって、前腕部施療機構におけるスムーズな前腕部の載脱が可能となり、施療者が起立及び着座を快適に行う事ができる。 【0018】 また、前記肘掛部は、椅子本体に対して前後方向に移動可能に設けられており、前記背凭れ部のリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持しながら前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して前記肘掛部が椅子本体に対して前後方向に移動するように構成する事により、背凭れ部のリクライニング角度に関係なく、肘掛部に設けた前記前腕部施療機構における前腕部の位置が可及的に変わらないようにする事ができ、安定した前腕部に対するマッサージを行う事ができる。」 カ 発明を実施するための形態 「【0021】 以下に、本発明の椅子式マッサージ機を、図面に示す一実施形態に基づきこれを詳細に説明する。図1は本発明の椅子式マッサージ機の一実施形態を示す斜視図であり、図2は本発明の椅子式マッサージ機の一実施形態を示す使用時の斜視図であり、図3及び図4は本発明の椅子式マッサージ機の一実施形態を示す使用時の右側面図であり、図5は本発明の椅子式マッサージ機における背凭れ部の一実施形態を示す横断面説明図であり、図6は本発明の椅子式マッサージ機における肘掛部の一実施形態を示す使用時の平面説明図であり、図7乃至図12は本発明の椅子式マッサージ機における肘掛部の一実施形態を示す縦断面説明図であり、図13乃至図16は本発明の椅子式マッサージ機における肘掛部の一実施形態を示す斜視説明図であり、図17は、本発明の椅子式マッサージ機の一実施形態を示す使用時の部分正面説明図であり、図18乃至図20は従来技術を示す参考図である。 【0022】 すなわち、本発明の椅子式マッサージ機は、図1乃至図3の実施形態で示したように、施療者の臀部または大腿部が当接する座部11a、及び施療者の背部が当接する背凭れ部12aを有する椅子本体10aと、該椅子本体10aの両側部に肘掛部14aを有する椅子式マッサージ機1aであり、前記背凭れ部12aは、座部11aの後側にリクライニング可能に連結されると共に、座部11aの前側に上下方向へ揺動可能に連結した足載せ部13aを設け、また、背凭れ部12aの左右両側に前方に向かって突出した側壁部2aを夫々配設している。 【0023】 図1に示すように、前記背凭れ部12aには、その中央部に左右一対の施療子31aを備えた昇降自在の施療子機構3aを設けている。該施療子機構3aは、背凭れ部12aの内部左右に設けた左右一対のガイドレール32aに沿って背凭れ部12aの上端から下端にかけて昇降するようにしている。 【0024】 前記施療子機構3aは、モータ等を駆動源として前記左右一対の施療子31aを作動させる機械式のマッサージ機構であり、前記背凭れ部12aに凭れた施療者の首部、背部、腰部、臀部等の背面全域を、たたき、揉み、ローリング、振動、指圧などの多様な形態で施療するようにしたものである。 【0025】 また、前記椅子式マッサージ機1aの各所定の位置には、空気の給排気により膨縮を繰り返す事が可能な膨縮袋4aを夫々埋設している。該膨縮袋4aは、エアーコンプレッサー及び各膨縮袋4aに空気を分配するための分配器等からなる空気給排装置42aによる 給排気により膨縮動作を行うようにしており、該空気給排装置42aは前記座部11aの下部空間に配備している。」 「【0054】 また、図4に示すように、前記肘掛部14aは、椅子本体10aに対して前後方向に移動可能に設けられており、前記背凭れ部12aのリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持しながら前記背凭れ部12aのリクライニング動作に連動して前記肘掛部14aが椅子本体10aに対して前後方向に移動するようにしている。 【0055】 すなわち、前記肘掛部14aの下部に前後方向に回動するための回動部141aを設けると共に、肘掛部14aの後部で回動可能に前記背凭れ部12aの側部と連結する連結部142aを設けて構成している。 【0056】 または、図示しないが、前記回動部141aの代わりに、ガイドレールなどを採用した水平スライド機構を設けて、前記肘掛部14a全体が前記背凭れ部12aのリクライニング動作と連動して、水平にスライド移動するようにしてもよい。」 キ 図面 「【図1】 ![]() 【図2】 ![]() 【図3】 ![]() 【図4】 ![]() 【図19】 ![]() 【図20】 ![]() 」 (3)本件発明の特徴 上記(2)によれば、本件発明は、概要次のとおりのものであると認められる。 ア 本件発明は、肘掛部に施療者の前腕部をマッサージする前腕部施療機構を備えた椅子式マッサージ機に関するものである(【0001】)。 イ 本件発明は、施療者の腕部に対し、前腕部施療機構の立ち上がり壁が不必要に圧迫して不快感をもたらす要因を解消し、前腕部施療機構における腕部の載脱をスムーズに行うよう構成すると共に、前腕部施療機構を有していても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるよう構成した椅子式マッサージ機を提供する事を目的とするものである(【0009】)。 ウ 本件発明は、上記イの目的のため、特許請求の範囲に記載の構成を採用した(【0010】)。 エ 本件発明の椅子式マッサージ機は、肘掛部に、肘掛部の内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部を有しており、前腕挿入開囗部から延設して肘掛部の内部に施療者の前腕部を挿入保持するための空洞部を設け、空洞部の内部壁面各所に施療者の前腕部にマッサージを施すための前腕部施療機構を設けた構成のものであるため、前腕部に対する不必要な圧迫や摺擦をもたらす要因がなくなる。よって、前腕部施療機構におけるスムーズな前腕部の載脱が可能となり、施療者が起立及び着座を快適に行う事ができる。また、肘掛部は、椅子本体に対して前後方向に移動可能に設けられており、背凭れ部のリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持しながら背凭れ部のリクライニング動作に連動して肘掛部が椅子本体に対して前後方向に移動するように構成する事により、背凭れ部のリクライニング角度に関係なく、肘掛部に設けた前腕部施療機構における前腕部の位置が可及的に変わらないようにする事ができ、安定した前腕部に対するマッサージを行う事ができる(【0015】、【0018】)。 2 無効理由2(実施可能要件違反)について 事案に鑑み、無効理由2について判断する。 (1)実施可能要件について 特許法36条4項1号は、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないことを規定するものであり、同号の要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。 (2)本件明細書の記載 ア 本件明細書には、(ア)本件発明のマッサージ機は、施療者の臀部または大腿部が当接する座部11a、及び施療者の背部が当接する背凭れ部12aを有する椅子本体10aと、該椅子本体10aの両側部に肘掛部14aを有する椅子式マッサージ機1aであり、前記背凭れ部12aは、座部11aの後側にリクライニング可能に連結されていること(段落【0022】)、(イ)肘掛部14aは、椅子本体10aに対して前後方向に移動可能に設けられ、背凭れ部12aのリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持しながら背凭れ部12aのリクライニング動作に連動して前記肘掛部14aが椅子本体10aに対して前後方向に移動するようにされていること(段落【0054】)、(ウ)肘掛部14aの下部に前後方向に回動するための回動部141aを設けること(段落【0055】)、(エ)肘掛部14aの後部で回動可能に背凭れ部12aの側部と連結する連結部142aを設けること(段落【0055】)が記載されている。 また、【図4】は、背凭れ部12aが座部に対してリクライニングすると、背凭れ部12aに連結された肘掛部14aが前後方向に回動することを概略的に図示している(段落【0054】、【0055】)。 イ 上記アによれば、本件明細書には、[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部とを、「肘掛部全体が、前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して、リクライニングする方向に傾くように」(構成要件E)連結する連結手段については連結部142aによる回動関係が、[2]肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段については回動部141aによる回動関係が開示されているが、[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し連結する連結手段の具体的な構成は記載されていない。また、本件明細書には、「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身における着座姿勢を保」つように(構成要件F)、[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部とを、「肘掛部全体が、前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して、リクライニングする方向に傾くように」連結する連結手段(構成要件D、E)、[2]背凭れ部のリクライニング動作の際に上記の連結手段を介して肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段(構成要件D)及び[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し連結する連結手段(構成要件D)の具体的な組み合わせの記載はない。 ウ そして、上記イのとおり、本件においては、構成要件D?Fを充足するような、[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部を連結する連結手段、[2]肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段及び[3]背凭れ部を座部に対し連結する連結手段の具体的な組み合わせが問題になっており、したがって、これらの各手段は何の制約もなく部材を連結又は回動させれば足りるのではなく、それぞれの手段が協調して構成要件D?Fに示された機能を実現する必要がある。そうすると、このような機能を実現するための手段の選択には、技術的創意が必要であり、単に適宜の手段を選択すれば足りるというわけにはいかないのであるから、明細書の記載が実施可能要件を満たしているといえるためには、必要な機能を実現するための具体的構成を示すか、少なくとも当業者が技術常識に基づき具体的構成に至ることができるような示唆を与える必要があると解されるところ、本件明細書には、このような具体的構成の記載も示唆もない。 エ 被請求人は、平成30年8月14日の口頭審理陳述要領書において、本件明細書の記載から当業者が実施し得る本件発明1の具体的な構成として、以下の【参考図まる1-1】?【参考図まる3】に示されたとおり動作するマッサージ機の具体的構成(以下「被請求人主張構成」という。)を主張する。 【参考図まる1-1】 ![]() 【参考図まる1-2】 ![]() 【参考図まる2】 ![]() 【参考図まる3】 ![]() 被請求人主張構成は、[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部とを本件明細書の【図4】同様の回動手段により連結し、[2]肘掛部の下部の椅子本体に設けられた回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部に挿入され、[3]座部の後端に軸心を設けて背凭れ部を回動させる回動手段を設けた構成であり、リクライニング前は、肘掛部の下部に設けられた回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する埀洞部の奥まで達しており(【参考図まる1-2】)、これをリクライニングすると、背凭れ部のリクライニング動作に連動して肘掛部全体がリクライニングする方向に傾くに従って、肘掛部全体が円柱状部材から上記空洞部に沿って遠ざかるように移動する(【参考図まる2】から【参考図まる3】)というものである。 しかし、本件明細書には被請求人主張構成の記載や示唆はないから、被請求人主張構成が直ちに実施可能要件適合性を裏付けるものではない上に、当業者が、上記ア及びイのとおりの本件明細書の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、被請求人主張構成を採用し得たというべき技術常識ないし周知技術に関する的確な証拠もない。 オ 以上によれば、本件明細書には、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるということはできず、この点は、本件発明1を引用する本件発明2についても同様である。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 (3)以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるということはできず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、本件特許は、無効理由2によって無効とすべきものである。 3 結論 以上のとおり、無効理由2は理由があるから、その余の無効理由を考慮するまでもなく、本件特許は無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-07-02 |
結審通知日 | 2020-07-06 |
審決日 | 2020-07-21 |
出願番号 | 特願2012-163159(P2012-163159) |
審決分類 |
P
1
113・
536-
ZC
(A61H)
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最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
芦原 康裕 井上 哲男 |
登録日 | 2012-12-21 |
登録番号 | 特許第5162718号(P5162718) |
発明の名称 | 椅子式マッサージ機 |
代理人 | 特許業務法人R&C |
代理人 | 手代木 啓 |
代理人 | 三山 峻司 |
代理人 | 丸山 英之 |
代理人 | 辻本 希世士 |
代理人 | 重冨 貴光 |
代理人 | 古庄 俊哉 |
代理人 | 杉野 文香 |
代理人 | 石津 真二 |
代理人 | 富田 詩織 |
代理人 | 辻本 良知 |
代理人 | 矢倉 雄太 |