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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1365709
審判番号 不服2019-12591  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-24 
確定日 2020-09-03 
事件の表示 特願2018-215316「円偏光板および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和2年2月13日出願公開,特開2020-24352〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-215316号(以下「本件出願」という。)は,平成30年11月16日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年7月31日)を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成31年 2月19日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月22日付け:意見書
平成31年 4月22日付け:手続補正書
令和 元年 6月14日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年 9月24日付け:審判請求書
令和 元年 9月24日付け:手続補正書

2 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前(平成31年4月22日にした補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「偏光板と位相差フィルムとが積層された円偏光板であって,
前記偏光板は,偏光子および保護フィルムを備え,
前記保護フィルムは,前記偏光子における前記位相差フィルム側とは反対側に配置され,
前記保護フィルムの透湿度は,150g/m^(2)・24時間以下であり,
前記偏光子の厚みは,15μm以下であり,
該円偏光板の寸法収縮速度が4.1×10^(-4)mm/時間以下である円偏光板。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであり,下線は補正箇所を示す。
「偏光板と位相差フィルムとが積層された円偏光板であって,
前記偏光板は,偏光子および保護フィルムを備え,
前記保護フィルムは,前記偏光子における前記位相差フィルム側とは反対側に配置され,
前記保護フィルムの透湿度は,150g/m^(2)・24時間以下であり,
前記偏光子の厚みは,15μm以下であり,
以下の測定方法により測定される該円偏光板の寸法収縮速度が4.1×10^(-4)mm/時間以下である円偏光板。
寸法収縮速度の測定方法:
円偏光板を位相差フィルムの遅相軸方向に50mm,位相差フィルムの進相軸方向に50mmの大きさに切り出し,
切り出された円偏光板を厚み0.4mmの無アルカリガラス(コーニング社製,製品名:イーグルXG)に貼合し,
高温高湿環境(温度60℃,相対湿度95%)のオーブンに168hr載置し,
前記オーブンから室温環境下(温度23℃,相対湿度55%)に取り出し,
取り出した直後に円偏光板の寸法を測定し,
その後,室温環境下に24hr保管した後に再度円偏光板の寸法を測定し,
その寸法変化の傾きから円偏光板の遅相軸方向の寸法収縮速度を計算する。」

(3) 補正の適否について
本件補正は,特許法17条の2第5項4号に掲げる事項を目的とする補正である。

3 本願発明について
本件出願の請求項1に係る発明は,前記2(2)に記載したとおりのものである。

4 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,国際公開第2007/119560号に記載された発明に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された国際公開第2007/119560号(以下「引用文献2」という。)は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,機械的強度に優れ,高温・高湿度環境下においても寸法変化がなく,高い視認性を維持することができ,耐擦傷性に優れた偏光板と,この偏光板を用いた液晶表示装置に関する。
背景技術
[0002] 液晶表示装置等に用いられる偏光板は,少なくとも,偏光子と,該偏光子を挟んで対向する形で配置される二つの保護フィルムとから構成される。
…(省略)…
[0003] 一方,前記保護フィルムには透明性が優れるなどの点からトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が広く用いられている。しかしながら,TACフィルムは,その透湿度が高いため,例えば高温・高湿度環境下では吸湿等によって寸法が変化して光学的歪み等が生じ得るため,その信頼性が必ずしも十分ではなかった。
…(省略)…
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0008] 前記各特許文献に開示の偏光板では,通常の使用時における密着性は十分であるものの,偏光板の機械的強度は依然として不十分なままであった。
…(省略)…
[0010] さらに,従来技術においては,上記に加え,寸法変化に伴う色むらなどの視認障害の低減,並びに表面の硬度,耐傷性,透明性,低熱膨張性,耐候性,紫外線透過防止効果,及び成形性等の特性の向上が,偏光板及びその保護フィルムに求められている。
[0011] 本発明は,前記従来の問題点に鑑みてなされたもので,その課題は,機械的強度が高く,高温・高湿下においても視認性を損なうことなく,耐擦傷性に優れ,寸法変化に伴う色むらなどの視認障害が少ない偏光板;そのような偏光板をの表面に用いることができ,表面の硬度,耐傷性,透明性,低熱膨張性,耐候性,紫外線透過防止効果,及び成形性等の特性を向上しうる保護フィルム;並びに該偏光板を用いた液晶表示装置を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0012] 本発明者らは,前記課題を解決するために,鋭意,実験,検討を重ねたところ,偏光板に用いる保護フィルムとして,熱可塑性樹脂を含む複数の層からなるフィルムを用い,この保護フィルムの偏光子から最も離れた位置の層をアクリル樹脂により構成し,さらに液晶セル側に配置される保護層を特定のものにすることによって,上記課題を解決しうることを見出した。
…(省略)…
発明の効果
[0014] 本発明の偏光板は,下記の効果を奏しうる:
・耐擦傷性および機械的強度が高く,高温・高湿下においても十分な視認性を奏することができる。
・機械的強度が高く,高温・高湿下の使用においても,これまでの偏光板に比して,光漏れが少なく,積層フィルムに剥がれが生じることがなく,良好な光学補償機能を有する。
・機械的強度が高く,高温・高湿下の使用においても,これまでの偏光板に比して,光漏れ,剥がれが少ない。
そのため本発明の偏光板は,タッチパネル,液晶表示装置等のフラットパネルディスプレイ,特に40インチ以上の大画面を有する表示装置に好適に用いることができる。」

イ 「発明を実施するための最良の形態
[0017]
…(省略)…
[0018] 以下に,本発明の偏光板を構成する偏光子,第1の保護フィルムを構成するアクリル樹脂及びその他の熱可塑性樹脂,第1の保護フィルムを構成する付加的構成要素である光学機能層,そして,第2の保護フィルムについて,順次に説明する。
[0019] 本発明に用いる偏光子は,液晶表示装置等に用いられている公知の偏光子である。例えば,ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素又は二色性染料を吸着させた後,ホウ酸浴中で一軸延伸することによって得られるもの,またはポリビニルアルコールフィルムにヨウ素又は二色性染料を吸着させ延伸しさらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって得られるものなどが挙げられる。
…(省略)…
[0020] 本発明に用いる偏光子に自然光を入射させると一方の偏光だけが透過する。本発明に用いる偏光子の偏光度は特に限定されないが,好ましくは98%以上,より好ましくは99%以上である。偏光子の平均厚みは好ましくは5?80μmである。
…(省略)…
[0022] 前記第1の保護フィルムを構成する熱可塑性樹脂は,アクリル樹脂に加え,例えば,ポリカーボネート樹脂,ポリエーテルスルホン樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,ポリイミド樹脂,ポリメチルメタクリレート樹脂,ポリスルホン樹脂,ポリアリレート樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,二酢酸セルロース,三酢酸セルロース,および脂環式オレフィンポリマーなどを用いることができる。
…(省略)…
[0086] 本発明において,第1の保護フィルムを構成する前記基材フィルムの一方の表面層(偏光子から最も離れた位置の層;偏光子と反対の面)の上に光学機能層を付与することにより,保護フィルムを完成させても良い。光学機能層の例としては,ハードコート層,反射防止層,防汚層,ガスバリア層,透明帯電防止層,プライマー層,電磁波遮蔽層,下塗り層が挙げられる。これらは前記表面層の上に一層または二層以上設けることができる。
[0087] ハードコート層は,JIS K5600-5-4で示す鉛筆硬度試験(試験板はガラス板)で「1H」以上の硬度を示す,熱や光硬化性の材料から形成されることが好ましい。
…(省略)…
[0091] 第1の保護フィルムにおいては,前記ハードコート層の上に,さらに反射防止層が積層されていることが好ましい。
…(省略)…
[0108] 次に,本発明の偏光板を構成する第2の保護フィルムについて説明する。第2の保護フィルムは,(i)その光弾性係数が20×10^(-13)cm^(2)/dyn以下であるか,(ii)二軸性を有するか,又は(iii)波長550nmで測定したレターデーション値Re(550)と,波長450nmで測定したレターデーション値Re(450)との比Re(450)/Re(550)が1.007以下である。
[0109] 第2の保護フィルムは,前記第1の保護フィルムと同一でも良いし,異なっていても良い。
…(省略)…
[0113] 具体的な材料としては,ポリカーボネート樹脂,ポリエーテルスルホン樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,ポリイミド樹脂,ポリメチルメタクリレート樹脂,ポリスルホン樹脂,ポリアリレート樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ジアセチルセルロース,トリアセチルセルロース(TAC),脂環式オレフィンポリマー(COP)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
…(省略)…
[0116] この中でも,透明性に優れること等から,ポリメチルメタクリレート樹脂,脂環式オレフィンポリマー,セルロースエステルが好ましい。
…(省略)…
[0118] この第2の保護フィルムとしては,視野角を広くする等の目的のために,複屈折性を有するフィルムを用いることができる。
…(省略)…
[0122] 上記複屈折性を有するフィルムとしては,熱可塑性樹脂を含有するフィルムを延伸したもの,無延伸の熱可塑性樹脂フィルム上に光学異方性層を形成したもの,熱可塑性樹脂を含有するフィルム上に光学異方性層を形成した後,さらに延伸したもの等を用いることができる。
…(省略)…
[0131] また,前記光学異方性層(光学補償層)の形成には,高分子化合物や液晶性化合物を用いることができる。これらは,単独で使用してもよいし併用してもよい。
…(省略)…
[0134] 前記光学異方性層は,一般にディスコティック化合物及び他の化合物(例,可塑剤,界面活性剤,ポリマー等)を溶剤に溶解した溶液を熱可塑性樹脂フィルム上に形成された配向膜上に塗布し,乾燥し,次いでディスコティックネマチック相形成温度まで加熱し,その後,配向状態(ディスコティックネマチック相)を維持して冷却することにより得ることができる。
…(省略)…
[0136] 本発明の偏光板において光学補償機能を付与する方法としては,セル側の保護フィルムに別途前記複屈折性を有するフィルムを積層することもできる。
…(省略)…
[0140] 本発明の液晶表示装置の好ましい具体例を図1に示す。図1に示す装置は,光源10と,入射側偏光板11と,液晶セル12と,出射側偏光板13とをこの順に有する液晶表示装置である。この例において,入射側偏光板11および出射側偏光板13はいずれも,偏光子2,第1の保護フィルム3及び第2の保護フィルム(本明細書において光学補償フィルムとも称される)4から構成される偏光板を有する。出射側偏光板13はさらに,偏光板の出射面側に光学機能層5を有する。
[0141] 本発明の液晶表示装置の別の態様として,反射板と,液晶セルと,出射側偏光板とをこの順に備える反射型の液晶表示装置であって,前記出射側偏光板が本発明の偏光板であるものが挙げられる。この場合において,前記本発明の偏光板における前記第2の保護フィルムが前記要件(iii)を満たし且つ光学補償フィルムが1/4波長板であるものは,円偏光板として機能する。特にこの円偏光板の1/4波長板が,この偏光板の偏光子よりも前記液晶セル側に位置することが好ましい。
[0142] 本発明の液晶表示装置のさらに別の態様として,入射側偏光板と,半透過型の液晶セルと,出射側偏光板とをこの順に備える半透過型の液晶表示装置であって,前記入射側偏光板および出射側偏光板の少なくともいずれかの偏光板が本発明の偏光板であるものが挙げられる。この場合においても,前記本発明の偏光板における前記第2の保護フィルムが前記要件(iii)を満たし且つ光学補償フィルムが1/4波長板であるものは円偏光板として機能する。特にこの円偏光板の1/4波長板が,この偏光板の偏光子よりも前記液晶セル側に位置することが好ましい。
[0143] 本発明のタッチパネルは,表示装置の表面に設けられるタッチパネルであって,前記表面側に設けられる第1透明基板と,この第1透明基板に間隔をあけて対向配置される第2透明基板とを備える。そして,前記第1透明基板は,その前記表面側に,前記本発明の偏光板を備える。ここで,前記偏光板において前記第2の保護フィルムは前記要件(iii)を満たし且つ光学補償フィルムが1/4波長板であるものは円偏光板として機能する。特に,この円偏光板の1/4波長板が,この偏光板の偏光子よりも前記第2基板側に位置することが,特に好ましい。
…(省略)…
[0151] 以下に,本発明にかかる偏光板および液晶表示装置の実施例および比較例を説明する。」

ウ 「実施例
[0152] 以下の例示において,偏光板は,偏光子(P)と,偏光子(P)の出射側に貼り付けられる出射側保護フィルム(第1の保護フィルム(A)),偏光子(P)の入射側に貼り付けられる入射側保護フィルム(第2の保護フィルム(B)),出射側保護フィルム(第1の保護フィルム(A))の視認側の表面に積層されるハードコート層(H),ハードコート層(H)の外表面に積層される低屈折率(反射防止)層(L)とから,構成した。
…(省略)…
[0160](製造例1:偏光子の作製)
波長380nmにおける屈折率が1.545,波長780nmにおける屈折率が1.521で,厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを,2.5倍に一軸延伸し,ヨウ素0.2g/L及びヨウ化カリウム60g/Lを含む30℃の水溶液中に240秒間浸漬し,次いでホウ酸70g/L及びヨウ化カリウム30g/Lを含む水溶液に浸漬すると同時に6.0倍に一軸延伸して5分間保持した。最後に,室温で24時間乾燥し,平均厚さ30μmで,偏光度.99.95%の偏光子(P)を得た。
[0161](製造例2:ハードコート層(H)の形成用材料の調製)
6官能ウレタンアクリレートオリゴマー30部,ブチルアクリレート40部,イソボロニルメタクリレート30部,および2,2-ジフェニルエタン-1-オン10部を,ホモジナイザーで混合し,五酸化アンチモン微粒子(平均粒子径20nm,水酸基がパイロクロア構造の表面に現れているアンチモン原子に1つの割合で結合している。)の40%メチルイソブチルケトン溶液を,五酸化アンチモン微粒子の重量がハードコート層形成用組成物全固形分の50重量%を占める割合で混合して,ハードコート層(H)形成用材料を調製した。
[0162](製造例3:低屈折率層(L)形成用材料の調製)
含フッ素モノマーである,フッ化ビニデリン70重量部およびテトラフルオロエチレン30重量部をメチルイソブチルケトンに溶解した。次に,この溶解物に,中空シリカイソプロパノール分散ゾル(触媒化成工業社製,固形分20重量%,平均一次粒子径約35nm,外殻厚み約8nm)を,含フッ素モノマー固形分に対して中空シリカ固形分で30重量%,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(信越化学社製)を前記固形分に対して3重量%,光ラジカル発生剤イルガキュア184(チバ・スペシャリティケミカルズ社製)を前記固形分に対して5重量%添加し,低屈折率層(L)形成用材料を調製した。
…(省略)…
[0164](製造例5:保護フィルム(A1)の作製)
弾性体粒子を含まないポリメチルメタクリレート樹脂(ガラス転移温度110℃,引張弾性率3.3GPa。表中及び以下PMMAと表記)を,目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを設置したダブルフライト型の一軸押出機に導入し,押出機出口温度260℃で溶融樹脂をダイスリップの表面粗さRaが0.1μmであるマルチマニホールドダイの一方に供給した。
[0165] 一方,数平均粒子径0.4μmの弾性体粒子を含むポリメチルメタクリレート樹脂(ガラス転移温度100℃,引張弾性率2.8GPa,表中及び以下R-PMMAと表記)と紫外線吸収剤(LA31;旭電化工業株式会社製,商品名)とを,前記紫外線吸収剤の濃度が5重量%となるように混合して混合物1を得た。上記混合物1を,目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを設置したダブルフライト型一軸押出機に投入し,押出機出口温度260℃で溶融樹脂をダイスリップの表面粗さRaが0.1μmであるマルチマニホールドダイの他方に供給した。
[0166] そして,溶融状態の弾性体粒子を含まないポリメチルメタクリレート樹脂,弾性体粒子を含むポリメチルメタクリレート樹脂のそれぞれをマルチマニホールドダイから260℃で吐出させ,130℃に温度調整された冷却ロールにキャストし,その後,50℃に温度調整された冷却ロールに通して,PMMA樹脂層(20μm)-R-PMMA樹脂層(40μm)-PMMA樹脂層(20μm)の3層構成からなる,幅600mm,厚さ80μmの保護フィルム(A1)を共押出成形により得た。
PMMA樹脂層の波長380nmにおける屈折率が1.512,波長780nmにおける屈折率が1.488であった。また,R-PMMA樹脂層の波長380nmにおける屈折率が1.507,波長780nmにおける屈折率が1.489であった。
[0167] 得られた保護フィルム(A1)の透湿度は51.0g/m^(2)・24hであった。また,この保護フィルム(A1)の表面の,線状凹部の深さまたは凸部の高さは,20nm以下であり,かつ幅が800nm以上の範囲であった。また,得られた保護フィルム(A1)のReは0.4nm,Rthは-2.6nmであった。
…(省略)…
[0194](製造例14:二軸性光学補償フィルム(B6)の作成)
トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(Re=3nm,Rth=45nm)のケン化処理が施された面に,下記組成の配向膜塗布液をワイヤーバーコーターで20ml/m^(2)塗布した。その後,60℃の温風で60秒,さらに100℃の温風で120秒乾燥し,膜を形成した。次に,形成した膜にフィルムの遅相軸方向と平行の方向にラビング処理を施して,配向膜を得た。
[0195](配向膜塗布液の組成)
下記の化学構造式で示される変性ポリビニルアルコール:10質量部
水:371質量部
メタノール:119質量部
グルタルアルデヒド:0.5質量部
[0196][化2]


[0197] 次に,下記のディスコティック液晶性化合物1.8g,エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360,大阪有機化学社製,商品名)0.2g,光重合開始剤(イルガキュアー907,チバ・スペシャリティケミカルズ社製,商品名)0.06g,増感剤(カヤキュアーDETX,日本化薬社製,商品名)0.02g,空気界面側垂直配向剤(含フッ素化合物,I-48)0.0036g,配向膜界面側垂直配向剤(オニウム塩,II-23)0.009gを3.9gのメチルエチルケトンに溶解し,得られた溶液を,前記配向膜上に#3のワイヤーバーで塗布した。これを金属の枠に貼り付けて,125℃の恒温槽中で3分間加熱し,下記化学式で示されるディスコティック液晶化合物を配向させた。
[0198][化3]


[0199] 次に,100℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて,30秒間UV照射しディスコティック液晶化合物を架橋し,光学異方性層を形成した。その後,室温まで放冷した。このようにして,二軸性光学補償フィルム(B6)を作製した。自動複屈折率計(KOBRA-21ADH,王子計測機器社製)を用いて,この二軸性光学補償フィルム(B6)のReの光入射角度依存性を測定し,予め測定したセルロースアセテートフィルムの寄与分を差し引くことによって,ディスコティック光学異方性層のみの光学特性を算出したところ,Reが130nm,Rthが-65nm,液晶の平均傾斜角は89.9°であり,ディスコティック液晶がフィルム面に対して垂直に配向していることが確認できた。
…(省略)…
[0202](製造例16:原反フィルム2の作製)
ノルボルネン系重合体(商品名:ZEONOR 1420R,日本ゼオン社製,ガラス転移温度:136℃,飽和吸水率:0.01重量%未満)のペレットを,空気を流通させた熱風乾燥器を用いて110℃で4時間乾燥した。そしてリーフディスク形状のポリマーフィルター(ろ過精度30μm)が設置され,ダイリップの先端部がクロムめっきされた平均表面粗さRa=0.04μmのリップ幅650mmのコートハンガータイプのTダイを有する短軸押出機を用いて,前記ペレットを260℃で溶融押出しして厚み100μm,幅600mmの原反フィルム2を得た。原反フィルム2の,波長550nmにおけるレターデーション値Re(550)は,3nmであった。
…(省略)…
[0204](製造例18:光学補償フィルム(B8)の作成)
製造例16で得られた原反フィルム2を,延伸機を使用して,オーブン温度(予熱温度,延伸温度,熱固定温度)140℃,延伸速度6m/分,縦延伸倍率1.5倍と1.3倍で延伸処理を行い,それぞれ光学補償フィルムC1及びC2を得た。得られた光学補償フィルムC1及びC2の波長550nmのレターデーション値Re(550)は,それぞれ,265nm,132.5nmであった。
[0205] 上記の光学補償フィルムC1の片面に,上記の光学補償フィルムC2をアクリル系接着剤(住友スリーエム社製,DP-8005クリア)を介して,それぞれの遅相軸の交差角が59°になるように貼り合わせ光学補償フィルム(B8)を得た。この光学補償フィルム(B8)のRe(550)と,波長450nmのレターデーション値Re(450)との比Re(450)/Re(550)は1.005であった。
[0206](製造例19:光学補償フィルム(B9)の作成)
光学補償フィルムC1の片面に,他の光学補償フィルム(日本石油社製 商品名NHフィルム)をアクリル系接着剤(住友スリーエム社製,DP-8005クリア)を介して,それぞれの遅相軸の交差角が59°になるように貼り合わせ光学補償フィルム(B9)を得た。この光学補償フィルム(B9)のRe(550)と波長450nmのレターデーション値Re(450)との比Re(450)/Re(550)は0.86であった。
…(省略)…
[0209](実施例1-1)
(ハードコート層および反射防止層の形成)
前記第1の保護フィルム(A1)の両面に,高周波発信機(出力0.8KW)を用いてコロナ放電処理を行い,その表面張力を0.055N/mに調整した。次に,この第1の保護フィルム(A1)の片面に,温度25℃,湿度60%RHの環境下で,ダイコーターを用いて前記ハードコート層(H)形成材料を塗工し,80℃の乾燥炉の中で5分間乾燥させて被膜を得た。さらに,この被膜に紫外線を照射(積算照射量300mJ/cm^(2))して,厚さ6μmのハードコート層(H)を形成し,ハードコート層付き第1の保護フィルム(A1-H)を得た。ハードコート層(H)の屈折率は1.62であり,ハードコート層(H)側の鉛筆硬度が4Hを越えるものであった。
[0210] 次に,前記フィルム(A1-H)のハードコート層(H)側に,温度25℃,湿度60%RHの環境下でワイヤーバーコーターを用いて前記低屈折率層(L)形成用材料を塗工し,1時間放置して乾燥させ,得られた被膜を120℃で10分間,酸素雰囲気下で熱処理し,次いで出力160W/cm,照射距離60mmの条件で紫外線を照射して厚さ100nmの低屈折率(反射防止)層(L)(屈折率1.37)を形成し,ハードコート層及び低屈折率層付き第1の保護フィルム(A1-H-L)を得た。
…(省略)…
[0250] 下記の実施例2-2?2-6及び比較例2-1?2-3においては,本発明における第1の保護フィルムを単に「保護フィルム」と,第2の保護フィルムを「光学補償フィルム」又は「二軸性光学補償フィルム」と,それぞれ称する。
…(省略)…
[0255](実施例2-3)
二軸性光学補償フィルム(B1)に代えて二軸性光学補償フィルム(B6)を用いた以外は,前記実施例1-1と同様にして観察者側偏光板FP2-3を得た。具体的には,偏光子(P)の両面にポリビニルアルコール系接着剤を塗布し,偏光子(P)の一方の面に,トリアセチルセルロースフィルムのケン化処理が施された面を,遅相軸と偏光子(P)の吸収軸が垂直になるように貼り合わせた。さらに,偏光子(P)の他方の面に反射防止層付き保護層の反射防止層が形成されていない面を向けて重ね,ロールトゥロール法により貼り合わせ観察者側偏光板FP2-3を得た。また,二軸性光学補償フィルム(B1)に代えて二軸性光学補償フィルム(B6)を用いた以外は,実施例1-1および観察者側偏光板FP2-3と同様にして,バックライト側偏光板BP2-3を得た。
…(省略)…
[0264] 以上説明した実施例2-2?2-6および比較例2-1?2-3の構成を,実施例1-1の構成と併せて下記表7及び表8に示した。
[0265][表7]


…(省略)…
[0267](評価)
前記各実施例1-1,2-2?2-6,および比較例2-1?2-3で得た偏光板に対して,以下の性能評価を行った。また,それに先だって,各積層の引張弾性(GPa),膜厚(μm),保護フィルムの膜厚を測定した。これらの測定値,および下記性能評価の結果は,表9?12に示した。
…(省略)…
[0285][表9]


…(省略)…
[0292] 下記の実施例3-1?3-6及び比較例3-1?3-3においては,本発明における第1の保護フィルムを単に「保護フィルム」と,第2の保護フィルムを単に「光学補償フィルム」と,それぞれ称する。
…(省略)…
[0299](観察者側偏光板の作製)
前記偏光子(P)の両面にポリビニルアルコール系接着剤を塗布し,偏光子(P)の一方の面に,前記光学補償フィルム(B8)を,光学補償フィルム(B8)を構成する光学補償フィルムC1の遅相軸と偏光子の吸収軸の交差角が15°になり,かつ光学補償フィルムの(B8)のC1側と偏光子Pが接する様に貼り合わせた。そして,この偏光子(P)の他方の面に,前記反射防止層(L)が積層された保護フィルム(A1)の反射防止層(L)が形成されていない面を向けて重ね,ロールトゥロール法により貼り合わせ観察者側偏光板FP3-1を得た。
…(省略)…
[0302](実施例3-2)
光学補償フィルム(B8)に代えて光学補償フィルム(B9)を用いた以外は,前記実施例3-1と同様にして観察者側偏光板FP3-2およびバックライト側偏光板BP3-2をそれぞれ得た。そして,実施例3-1の液晶表示装置3-1において,観察者側偏光板FP3-1に代えて観察者側偏光板FP3-2を用い,バックライト側偏光板BP3-1に代えてバックライト側偏光板BP3-2を用いて,液晶表示装置3-2を得た。
…(省略)…
[0311] 以上説明した実施例3-1?3-6および比較例3-1?3-3の構成を下記表13?14に示した。
[0312][表13]


…(省略)…
[0345] 以上説明したように,本発明の偏光板は,機械的強度が高く,高温・高湿下の使用においても,これまでの偏光板に比して,干渉縞の発生がなく,光漏れが少なく,積層フィルムに剥がれが生じることがなく,カール性,打ち抜き性,可撓性において良好な特性を有し,かつ良好な光学補償機能を有する。このように高温・高湿下での耐久性に優れる偏光板は,タッチパネル,液晶表示装置等のフラットパネルディスプレイ,特に40インチ以上の大画面を有する表示装置に好適に用いることができる。」

エ 図1





オ 図2





(2) 引用発明
引用文献2の[0265]の[表7]に記載された「実施例2-3」の「観察者側偏光板(FP2-3)」は,[0255]に記載の方法により作製されたものである。
ここで,[0255]に記載の「反射防止層付き保護層の反射防止層」に関して,[0209]及び[0210]の記載からは,「保護フィルム(A1)の片面に厚さ6μmのハードコート層(H)を形成し,次に,ハードコート層(H)側に厚さ100nmの反射防止層(L)を形成し」てなるという事項を理解することができる。
また,[0209]に記載の「保護フィルム(A1)」に関して,[0164]?[0167]の記載からは,「弾性体粒子を含まないポリメチルメタクリレート樹脂層(20μm),紫外線吸収剤の濃度が5重量%で弾性体粒子を含むポリメチルメタクリレート樹脂層(40μm),弾性体粒子を含まないポリメチルメタクリレート樹脂層(20μm)の3層構成からなり,透湿度は51.0g/m^(2)・24h,Reは0.4nm,Rthは-2.6nm」であるという事項を理解することができる。加えて,[0255]に記載の「偏光子(P)」に関して,[0160]及び[0019]の記載からは,「ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させ一軸延伸することによって得られ,平均厚さ30μmで,偏光度99.95%」のものであるという事項が,同様に,[0255]に記載の「二軸性光学補償フィルム(B6)」に関して,[0194]?[0199]の記載からは,「トリアセチルセルロースフィルム(Re=3nm,Rth=45nm),配向膜,ディスコティック光学異方性層(Re=130nm,Rth=-65nm)の積層体」であるという事項が,それぞれ理解できる。
そして,[0285]の[表9]の結果からみて,上記「観察者側偏光板(FP2-3)」は,[0014]に記載のとおり,「機械的強度が高く,高温・高湿下の使用においても,これまでの偏光板に比して,光漏れが少なく,積層フィルムに剥がれが生じることがなく,良好な光学補償機能を有する」とともに,「タッチパネル,液晶表示装置等のフラットパネルディスプレイ,特に40インチ以上の大画面を有する表示装置に好適に用いることができる」ものと理解される。

そうしてみると,引用文献2には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 保護フィルム(A1)の片面に厚さ6μmのハードコート層(H)を形成し,次に,ハードコート層(H)側に厚さ100nmの反射防止層(L)を形成し,保護フィルム(A1-H-L)を得,
偏光子(P)の両面にポリビニルアルコール系接着剤を塗布し,偏光子(P)の一方の面に,二軸性光学補償フィルム(B6)のトリアセチルセルロースフィルムのケン化処理が施された面を,遅相軸と偏光子(P)の吸収軸が垂直になるように貼り合わせ,さらに,偏光子(P)の他方の面に保護フィルム(A1-H-L)の反射防止層(L)が形成されていない面を向けて重ね,ロールトゥロール法により貼り合わせて得た観察者側偏光板(FP2-3)であって,
保護フィルム(A1)は,弾性体粒子を含まないポリメチルメタクリレート樹脂層(20μm),紫外線吸収剤の濃度が5重量%で弾性体粒子を含むポリメチルメタクリレート樹脂層(40μm),弾性体粒子を含まないポリメチルメタクリレート樹脂層(20μm)の3層構成からなり,透湿度は51.0g/m^(2)・24h,Reは0.4nm,Rthは-2.6nmであり,
偏光子(P)は,ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させ一軸延伸することによって得られ,平均厚さ30μmで,偏光度99.95%であり,
二軸性光学補償フィルム(B6)は,トリアセチルセルロースフィルム(Re=3nm,Rth=45nm),配向膜,ディスコティック光学異方性層(Re=130nm,Rth=-65nm)の積層体であり,
機械的強度が高く,高温・高湿下の使用においても,これまでの偏光板に比して,光漏れが少なく,積層フィルムに剥がれが生じることがなく,良好な光学補償機能を有するとともに,タッチパネル,液晶表示装置等のフラットパネルディスプレイ,特に40インチ以上の大画面を有する表示装置に好適に用いることができる,
観察者側偏光板(FP2-3)。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア 円偏光板
引用発明の「観察者側偏光板(FP2-3)」は,「偏光子(P)の両面にポリビニルアルコール系接着剤を塗布し,偏光子(P)の一方の面に,二軸性光学補償フィルム(B6)のトリアセチルセルロースフィルムのケン化処理が施された面を,遅相軸と偏光子(P)の吸収軸が垂直になるように貼り合わせ,さらに,偏光子(P)の他方の面に保護フィルム(A1-H-L)の反射防止層(L)が形成されていない面を向けて重ね,ロールトゥロール法により貼り合わせて得た」ものである。また,引用発明の「二軸性光学補償フィルム(B6)は,トリアセチルセルロースフィルム(Re=3nm,Rth=45nm),配向膜,ディスコティック光学異方性層(Re=130nm,Rth=-65nm)の積層体であ」る。
ここで,引用発明の「偏光子(P)」,「保護フィルム(A1-H-L)」及び「観察者側偏光板(FP2-3)」は,いずれも,その文言が意味するとおりの機能のものである。さらに,引用発明の「配向膜」と「ディスコティック光学異方性層」を併せたものは,機能的にみて,本願発明でいう「位相差フィルム」である(当合議体注:本件出願の図1(a),図1(b)及び【0011】?【0013】の記載からみて,本願発明でいう「位相差フィルム」には,「配向膜」と「重合性液晶化合物が硬化した層」を併せたものが含まれる。)。
そうしてみると,引用発明の「観察者側偏光板(FP2-3)」のうち,「保護フィルム(A1-H-L)」から「トリアセチルセルロースフィルム」までの部分は,本願発明の「偏光板」に相当する。また,引用発明の「観察者側偏光板(FP2-3)」のうち,「配向膜」と「重合性液晶化合物が硬化した層」を併せたものは,本願発明の「位相差フィルム」に相当する。加えて,引用発明の「偏光子(P)」及び「保護フィルム(A1-H-L)」は,それぞれ本願発明の「偏光子」及び「保護フィルム」に相当する。そうすると,引用発明の「観察者側偏光板(FP2-3)」と本願発明の「円偏光板」は,「偏光板と位相差フィルムとが積層された」位相差フィルム付き「偏光板」の点で共通する。さらに,引用発明の「観察者側偏光板(FP2-3)」は,本願発明の「円偏光板」における,「前記偏光板は,偏光子および保護フィルムを備え」,「前記保護フィルムは,前記偏光子における前記位相差フィルム側とは反対側に配置され」という要件を満たす。

イ 透湿度
引用発明の「保護フィルム(A1-H-L)」は,「保護フィルム(A1)の片面に厚さ6μmのハードコート層(H)を形成し,次に,ハードコート層(H)側に厚さ100nmの反射防止層(L)を形成し」たものである。また,引用発明の「保護フィルム(A1)」の「透湿度は51.0g/m^(2)・24h」である。
ここで,引用発明の「保護フィルム(A1-H-L)」の透湿度は,引用発明の「保護フィルム(A1)」に,さらに「厚さ6μmのハードコート層(H)」等を設けたものであるから,その透湿度は,「51.0g/m^(2)・24h」より小さいと考えられる。
そうしてみると,引用発明の「保護フィルム(A1-H-L)」は,本願発明の「保護フィルム」における,「透湿度は,150g/m^(2)・24時間以下であり」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「偏光板と位相差フィルムとが積層された位相差フィルム付き偏光板であって,
前記偏光板は,偏光子および保護フィルムを備え,
前記保護フィルムは,前記偏光子における前記位相差フィルム側とは反対側に配置され,
前記保護フィルムの透湿度は,150g/m^(2)・24時間以下である,
位相差フィルム付き偏光板。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「位相差フィルム付き偏光板」が,本願発明は「円偏光板」であり,また,「以下の測定方法により測定される該円偏光板の寸法収縮速度が4.1×10^(-4)mm/時間以下である」のに対して,引用発明は,これが明らかではない,又は,相違する点。
(当合議体注:「以下の測定方法」は,前記「第1」2(2)に記載のとおりのものである。)

(相違点2)
「偏光子」の厚みが,本願発明は,「15μm以下」であるのに対して,引用発明は,この要件を満たさない(30μmである)点。

(3) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「保護フィルム(A1-H-L)」は,ポリメチルメタクリレート樹脂からなり,透湿度は51.0g/m^(2)・24hを下回るから,引用発明の「観察者側偏光板(FP2-3)」の寸法収縮速度は,4.1×10^(-4)mm/時間以下である蓋然性が高いといえる。したがって,寸法収縮速度に関する相違点1は,実質的な相違点ではない。

さらにすすんで検討する。
引用発明の「観察者側偏光板(FP2-3)」は,「二軸性光学補償フィルム(B6)」に,厚さは不明であるが,透湿度が高く寸法安定性に劣る「トリアセチルセルロースフィルム」を含むため,「保護フィルム(A1-H-L)」の透湿度のみからでは蓋然性が高いとはいい切れないともいえる。その場合でも,次のとおり考えることができる。
引用発明の「トリアセチルセルロースフィルム」及び「二軸性光学補償フィルム(B6)」は,引用文献2の[0108]?[0143]において言及された,「第2の保護フィルム」及び「光学補償フィルム」の実施態様と理解できる。また,「第2の保護フィルム」に関して,引用文献2の[0109]及び[0116]には,「第2の保護フィルムは,前記第1の保護フィルムと同一でも良いし,異なっていても良い。」及び「この中でも,透明性に優れること等から,ポリメチルメタクリレート樹脂,脂環式オレフィンポリマー,セルロースエステルが好ましい。」と記載されている。さらに,[0136]には,「光学補償フィルム」に関して,「本発明の偏光板において光学補償機能を付与する方法としては,セル側の保護フィルムに別途前記複屈折性を有するフィルムを積層することもできる。」と記載されている。そして,引用文献2の[0141]?[0143]の記載から理解できるとおり,「光学補償フィルム」が1/4波長板であるものは,反射型又は半透過型液晶表示装置やタッチパネルにおける,円偏光板とすることができる。加えて,引用文献2の[0202],[0204]?[0206],[0299]及び[0302]の記載からは,「第2の保護フィルム」ないし「光学補償フィルム」として,2枚のノルボルネン系重合体(ゼオノア)からなるフィルムを用いてなる「観察者側偏光板FP3-1」や,「第2の保護フィルム」ないし「光学補償フィルム」として,ノルボルネン系重合体(ゼオノア)からなるフィルム及びNHフィルムを用いてなる「観察者側偏光板FP3-2」が開示されている(これら偏光板は,偏光子と1/2波長板と1/4波長板を組み合わせてなる,広帯域円偏光板と理解される。)。
以上勘案すると,例えば,引用発明の「二軸性光学補償フィルム(B6)」の「トリアセチルセルロースフィルム」を,[A]「保護フィルム(A1)」に置き換えたり,[B]「脂環式オレフィンポリマー」であるゼオノアフィルム(延伸前の原反)に置き換えたり,あるいは,引用発明の「二軸性光学補償フィルム(B6)」を,[C]2枚のゼオノアフィルム(1/2波長板及び1/4波長板)に置き換えたり,[D]ゼオノアフィルム(1/2波長板)及びNHフィルム(1/4波長板)に置き換えて,円偏光板となるように配置すること(所定の積層順及び角度で貼り合わせること)は,いずれも引用文献2の記載が示唆する範囲内の設計変更といえる。
(当合議体注:NHフィルムには種々の仕様のものがあるが,引用文献2の記載からみて,引用文献2の[0206]でいう「NHフィルム」は,特開2007-334147号公報の【0029】及び【0033】の記載から理解されるものと考えられる。)
そして,このようにしてなる円偏光板は,引き続き,上記一致点で一致し,さらに,本願発明の「寸法収縮速度が4.1×10^(-4)mm/時間以下である」という要件も満たす蓋然性が極めて高い。
仮にそうでないとしても,引用発明の,「機械的強度が高く,高温・高湿下の使用においても,これまでの偏光板に比して,光漏れが少なく,積層フィルムに剥がれが生じることがなく,良好な光学補償機能を有するとともに,タッチパネル,液晶表示装置等のフラットパネルディスプレイ,特に40インチ以上の大画面を有する表示装置に好適に用いることができる」という特徴を考慮した当業者が,相違点に係る本願発明の構成を具備するように保護フィルムの樹脂材料や厚さを最適化することは,当業者が容易に行うことができたものである。

イ 相違点2について
先の出願前の当業者において,厚みが「15μ以下」の偏光子は,周知であり,例えば,原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2018/034148号の[0112]には,厚さ5μmの偏光子(引用文献2の[0020]に記載された偏光子の平均厚みの下限値のもの)が開示されている。

あるいは,以下のとおり考えることもできる。
すなわち,引用発明の「偏光子(P)」は,比較的厚い(30μm)から,温度や湿度に対する収縮力も,比較的大きいと考えられる。しかしながら,上記のとおり創意工夫する当業者ならば,引用文献2の[0020]の記載が許容する範囲内で「偏光子(P)」の厚さを薄くし,その収縮力による影響が円偏光板の寸法収縮に及ぼす影響を排除するといえる。

いずれにせよ,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(4) 本願発明の効果について
本願発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0008】には,「高温高湿環境に置かれた後,室温環境に置かれた場合であっても反射色相の変化が小さい円偏光板を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら,このような効果は,引用発明が奏する効果の延長線上のものであり,当業者が期待する範囲内のものである。

(5) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書〔4〕において,概略,引用文献2には,偏光子の厚みを15μm以下とすることに関する記載はなく,また,厚み15μm以下の偏光子を,透湿度150g/m^(2)・24時間以下の保護フィルムと組合せることにより,高温高湿環境に置かれた後に室温環境に置かれた場合であっても,反射色相の変化が小さい円偏光板となしうることを示唆する記載はないと主張する。
しかしながら,前記(3)で述べたとおりであるから,請求人の主張を採用することはできない。

第3 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて,先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-26 
結審通知日 2020-06-30 
審決日 2020-07-17 
出願番号 特願2018-215316(P2018-215316)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆菅原 奈津子後藤 慎平清水 督史  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 円偏光板および表示装置  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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