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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1365711
審判番号 不服2019-13257  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-03 
確定日 2020-09-03 
事件の表示 特願2017-103976「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月20日出願公開、特開2018-198667〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年5月25日の出願であって、平成31年2月8日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月9日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、令和1年8月1日付け(謄本送達日:同年8月6日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、それに対して、同年10月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和1年10月3日に提出された手続補正書による補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和1年10月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)本件補正は、特許請求の範囲についてする補正を含むものであって、平成31年4月9日に提出された手続補正書によって補正された本件補正前の請求項1に、
「 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
遊技の制御を行う遊技制御手段と、
前記遊技制御手段から送信された制御情報に基づいて演出の制御を行う演出制御手段とを備え、
前記遊技制御手段は、
通常区間から有利区間に移行させるとともに、該有利区間における遊技の内容に基づく終了条件が成立したときに該有利区間を終了する有利区間移行手段と、
前記有利区間であるときに、有利状態に制御可能な有利状態制御手段と、
所定契機において、前記有利区間に関する第1処理と前記有利状態に関する第2処理とを実行する処理実行手段と、
前記所定契機において、前記有利区間に関する第1制御情報と前記有利状態に関する第2制御情報とを前記演出制御手段に送信する制御情報送信手段とを含み、
前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行するときに、前記第1処理を実行した後に、前記第2処理を実行し、
前記制御情報送信手段は、前記所定契機において前記第1制御情報と前記第2制御情報とを送信するときに、前記第2制御情報を送信した後に、前記第1制御情報を送信する、
遊技機。」とあったものを、

「 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
遊技の制御を行う遊技制御手段と、
前記遊技制御手段から送信された制御情報に基づいて演出の制御を行う演出制御手段とを備え、
前記遊技制御手段は、
通常区間から有利区間に移行させるとともに、該有利区間における遊技の内容に基づく終了条件が成立したときに該有利区間を終了する有利区間移行手段と、
前記有利区間であるときに、有利状態に制御可能な有利状態制御手段と、
1ゲームにおける所定契機において、前記有利区間のゲーム数を更新する第1処理と前記有利状態のゲーム数を更新する第2処理とを実行する処理実行手段と、
前記所定契機において、前記有利区間のゲーム数を特定可能な第1制御情報と前記有利状態のゲーム数を特定可能な第2制御情報とを前記演出制御手段に送信する制御情報送信手段とを含み、
前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行するときに、前記第1処理を実行した後に、前記第2処理を実行し、
前記制御情報送信手段は、前記所定契機において前記第1制御情報と前記第2制御情報とを送信するときに、前記第2制御情報を送信した後に、前記第1制御情報を送信する、
遊技機。」とする補正を含むものである(下線は補正前後の箇所を明示するために合議体が付した。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、次の補正事項からなる。
(ア)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「所定契機」に関して、「1ゲームにおける」を付加する補正。

(イ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第1処理」に関して、「前記有利区間に関する」を、「前記有利区間のゲーム数を更新する」とする補正。

(ウ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第2処理」に関して、「前記有利状態に関する」を、「前記有利状態のゲーム数を更新する」とする補正。

(エ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第1制御情報」に関して、「前記有利区間に関する」を、「前記有利区間のゲーム数を特定可能な」とする補正。

(オ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第2制御情報」に関して、「前記有利状態に関する」を、「前記有利状態のゲーム数を特定可能な」とする補正。

2 本件補正の目的、新規事項追加の有無
(1)(ア)上記1(2)(ア)の補正は、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)の【0073】及び図4等の記載に基づいて、本件補正前の請求項1において記載されていた「所定契機」が、「1ゲームにおける」ものに限定するものである。

(イ)上記1(2)(イ)の補正は、当初明細書等の【0074】、【0175】及び図4等の記載に基づいて、本件補正前の請求項1において記載されていた「第1処理」が、「前記有利区間に関する」ものから「前記有利区間のゲーム数を更新する」ものに限定するものである。

(ウ)上記1(2)(ウ)の補正は、当初明細書等の【0079】、【0083】、【0085】、【0175】及び図4等の記載に基づいて、本件補正前の請求項1において記載されていた「第2処理」が、「前記有利状態に関する」ものから「前記有利状態のゲーム数を更新する」ものに限定するものである。

(エ)上記1(2)(エ)の補正は、当初明細書等の【0093】、【0096】?【0097】、【0164】及び図4等の記載に基づいて、本件補正前の請求項1において記載されていた「第1制御情報」が、「前記有利区間に関する」ものから「前記有利区間のゲーム数を特定可能な」ものに限定するものである。

(オ)上記1(2)(オ)の補正は、当初明細書等の【0093】、【0101】、【0164】及び図4等の記載に基づいて、本件補正前の請求項1において記載されていた「第2制御情報」が、「前記有利状態に関する」ものから「前記有利状態のゲーム数を特定可能な」ものに限定するものである。

(2)以上のとおり、本件補正後の請求項1に係る上記1(2)の補正は、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。また、本件補正後の請求項1に係る上記1(2)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な軸を限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明を再掲すると、次のとおりのものである。なお、記号AないしJは、分説するため合議体が付した。

「A 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 遊技の制御を行う遊技制御手段と、
C 前記遊技制御手段から送信された制御情報に基づいて演出の制御を行う演出制御手段とを備え、
D 前記遊技制御手段は、
通常区間から有利区間に移行させるとともに、該有利区間における遊技の内容に基づく終了条件が成立したときに該有利区間を終了する有利区間移行手段と、
E 前記有利区間であるときに、有利状態に制御可能な有利状態制御手段と、
F 1ゲームにおける所定契機において、前記有利区間のゲーム数を更新する第1処理と前記有利状態のゲーム数を更新する第2処理とを実行する処理実行手段と、
G 前記所定契機において、前記有利区間のゲーム数を特定可能な第1制御情報と前記有利状態のゲーム数を特定可能な第2制御情報とを前記演出制御手段に送信する制御情報送信手段とを含み、
H 前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行するときに、前記第1処理を実行した後に、前記第2処理を実行し、
I 前記制御情報送信手段は、前記所定契機において前記第1制御情報と前記第2制御情報とを送信するときに、前記第2制御情報を送信した後に、前記第1制御情報を送信する、
J 遊技機。」

(2)引用例
ア 先願1
原査定の拒絶の理由に先願1として引用され、本願の出願日前の特許出願であって、本願の出願後に出願公開された特願2016-146822号(特開2018-15165号)(出願日:平成28年7月26日、出願人:サミー株式会社、発明者:松田健二)(以下、「先願」という。)には、「遊技機」に関し、次の事項が図とともに記載されている(下線は引用発明の認定に関連する箇所を明示するために合議体が付した。)。

(ア)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ストップスイッチの有利な操作態様を表示する指示機能を作動させる指示機能作動遊技を実行可能な有利区間を備え、この有利区間に移行する旨をメイン制御基板側で決定するスロットマシンに関するものである。」

(イ)
「【0050】
以下、図面等を参照して、本発明の一実施形態について説明する。<第1実施形態>図1は、本実施形態におけるスロットマシン10の制御の概略を示すブロック図である。スロットマシン10に設けられた代表的な制御基板として、メイン制御基板50とサブ制御基板80とを備える。メイン制御基板50は、入力ポート51及び出力ポート52を有し、RWM53、ROM54、メインCPU55等を備える(図1で図示したもののみを備える意味ではない)。
・・・
【0053】
メインCPU55は、メイン制御基板50上に設けられたCPUを指し、遊技の進行に必要なプログラムの実行、演算等を行い、具体的には、役の抽選、リール31の駆動制御、及び入賞時の払出し等を実行する。
メインCPU55は、レジスタを内蔵する。特に本実施形態では、複数(たとえばAレジスタ?Lレジスタ、及び送信用レジスタ等)設けられている。」

(ウ)
「【0098】
図1において、サブ制御基板80は、遊技中及び遊技待機中における演出(情報)の選択や出力等を制御するものである。
ここで、メイン制御基板50とサブ制御基板80とは、電気的に接続されており、メイン制御基板50(後述する制御コマンド送信手段71)は、パラレル通信によってサブ制御基板80に一方向で、演出の出力に必要な情報(制御コマンド)を送信する。
なお、メイン制御基板50とサブ制御基板80とは、電気的に接続されることに限らず、光通信手段を用いた接続であってもよい。さらに、電気的接続及び光通信接続のいずれも、パラレル通信に限らず、シリアル通信であってもよく、シリアル通信とパラレル通信とを併用してもよい。」

(エ)
「【0166】
また、図20において、「表示内容1」は、指示機能の作動(メイン制御基板50の制御)により表示される内容を示し、本実施形態では、獲得数表示LED78に表示する押し順指示情報を示している。本実施形態では、押し順指示番号の「A」及び「0」?「3」は、それぞれ、LED(7セグ)の「=」及び「0」?「3」の表示に対応する。「=」を表示するときは、7セグのうち、図4中、セグメントD及びGを点灯させる(後述する図26参照)。また、押し順指示番号「A0」のときは、表示なし(いずれのセグメントも点灯させない)でもよい。」

(オ)
「【0308】
有利区間制御手段69は、通常区間から有利区間への移行(待機区間を含む)、有利区間を終了するか否かの判断、有利区間中の上乗せ、指示機能の作動制御等を実行する手段である。まず、有利区間制御手段69は、通常区間かつ非内部中遊技では、有利区間に移行するか否かを決定する。また、有利区間制御手段69は、有利区間かつ非内部中遊技では、有利区間の遊技回数を上乗せするか否かを決定する。」

(カ)
「【0340】
また、上述したように、本実施形態のデジットは、デジット1?9の合計9個を備えるが、これらのデジットを点灯させる方法としては、以下のように制御することが挙げられる。
メイン制御基板50は、毎遊技繰り返す処理である「(遊技進行)メイン処理」の他に、このメイン処理と並行して、2.235msごとに「割込み処理」を実行する。この割込み処理では、LEDの点灯制御、リール31の駆動制御、外部信号の送信処理等を行う。そして、本実施形態では、デジット1?9に対して、一割込み処理ごとに1個のデジットを点灯させるダイナミック点灯を実行する。たとえば、今回の割込み処理ではデジット1のみを点灯し、次回の割込み処理ではデジット2を点灯することである。これを繰り返すことで、9回の割込み処理で1回の割合で1つのデジットを点灯させる。なお、このようなダイナミック点灯に限らず、デジットごとに信号線を接続したスタティック点灯を実行してもよい。」

(キ)
「【0370】
図1において、サブ制御基板80のサブCPU85は、演出出力制御手段91を備える。
演出出力制御手段91は、上述したように、メイン制御基板50から送信されてくる制御コマンド、具体的には、RT番号、押し順指示番号、演出グループ番号、役物条件装置番号等の各制御コマンドに基づいて、どのようなタイミングで(スタートスイッチ41の操作時や各ストップスイッチ42の操作時等)、どのような演出を出力するか(ランプ21をどのように点灯、点滅又は消灯させるか、スピーカ22からどのようなサウンドを出力するか、及び画像表示装置23にどのような画像を表示させるか等)等の、具体的な演出内容を抽選によって決定する。
【0371】
そして、演出出力制御手段91は、その決定に従い、演出ランプ21、スピーカ22、
画像表示装置23の出力を制御する。また、1BB作動中や有利区間中は、獲得枚数、及び遊技回数(残り遊技回数又は消化遊技回数)等を画像表示する。さらに、有利区間中において、指示機能の作動時は、正解押し順を報知(画像表示)する。たとえば、有利区間中の遊技で小役B1に当選し、押し順指示番号「A1」に対応する制御コマンドを受信したときは、正解押し順である「左第一停止」、あるいは「1-○-○」等のように、遊技者が正解押し順を容易に知り得る内容を報知する。なお、有利区間中において、「A0」の押し順指示番号を受信したときは、押し順を報知しない。」

(ク)
「【0551】
続いて、本願発明の第3実施形態以降について説明する。第3実施形態以降において、用語の意味は、以下の通りである。「指示遊技区間」とは、有利区間において、ストップスイッチの有利な操作態様を有する遊技で指示機能作動遊技を常に実行するか、又は実行頻度を高くした遊技区間を指す。「指示遊技区間」は、従来のAT(「アシストタイム」の略称。リプレイ当選確率の高いRTにおいてATを実行する場合にあっては、「ART」。)に類似するものである。なお、以下の説明では、「指示遊技区間」を、必要に応じて「AT」と称する。」

(ケ)
「【0566】
<第3実施形態>
第3実施形態は、ATの遊技回数を上乗せ可能にすることを特徴とする。
上述したように、ATのパラメータについては種々挙げられるが、第3実施形態では、ATの終了条件は、遊技回数で定められるものとする。
第3実施形態では、メイン制御基板50側の処理として、図43(例1)?図52(例10)について説明する。
また、サブ制御基板80側の処理として、例1(図53)及び例2(図54)について説明する。
また、以下の例では、有利区間の開始と同時にATを開始する。そして、ATの終了と同時に有利区間を終了する。すなわち、「AT=有利区間」としている。
ただし、上述した第1実施形態や後述する第4実施形態等のように、有利区間であるが非AT期間(たとえば前兆、CZ、引戻し期間、特別遊技等)である場合を有することは、もちろんである(この点については後述する)。
・・・
【0568】
第3実施形態では、AT中に、第1実施形態における有利区間の上乗せに対応する条件装置(図17に示す条件装置)に当選したときに、ATの遊技回数を上乗せする。上乗せする遊技回数は、条件装置に応じて予め定めてもよく、あるいは、上乗せの対象となる条件装置に当選したときに、上乗せする遊技回数を抽選で決定してもよい。たとえば、図17中、置数「250」の小役E1に当選したときは、上乗せ遊技回数を「50」(50%)、「100」(40%)又は「200」(10%)に決定することが挙げられる。また、置数「750」の小役E1に当選したときは、上乗せ遊技回数を「30」(50%)、「50」(30%)又は「100」(20%)に決定することが挙げられる。また、上記の例にかかわらず、制御状態と条件装置とに基づいてATの上乗せ遊技回数を予め定めておくことや、制御状態と条件装置とに基づいてATの上乗せ遊技回数を抽選してもよい。この場合、たとえば同一の条件装置に当選した場合でも、実行中の制御状態によって決定又は抽選される上乗せ遊技回数を異ならせることができる。」

(コ)
「【0579】
(例1)図43は、メイン制御基板50側における制御処理の例1を示すフローチャートである。まず、メイン制御基板50は、カウンタとして、AT中の消化遊技回数をカウントするATカウンタと、有利区間の上限遊技回数「1500」をカウントする上限カウンタを備える。第3実施形態では、AT開始時に、初期値(遊技回数)として「100」が付与される。このため、AT開始時に、ATカウンタには「100」がセットされる。そして、毎遊技、「1」ずつ減算される(デクリメントカウンタ)。
【0580】
また、上限カウンタは、AT開始時に初期値「1500」がセットされる。そして、毎遊技、「1」ずつ減算される(デクリメントカウンタ)。以上より、ATカウンタ又は上限カウンタが「0」となったときは、ATの終了条件を満たす。なお、AT中に1BBに当選すると、1BB遊技の終了までATカウンタを更新しない(カウントを中断する)。一方、上限カウンタは、1BB遊技中であっても毎遊技更新する。すなわち、内部中遊技と1BB遊技中はATカウンタを更新しないため、1BB終了後は、1BB当選時のATカウンタ値から再開する。さらにまた、有利区間フラグは、第1実施形態において、デジット2のセグメントデータ中、8ビット目に相当するものであり、有利区間中は「1」がセットされ、有利区間でないときは「0」がセットされる。
【0581】
図43中、(a)において、ステップS401では、メイン制御基板50(メインCPU55)は、サブ制御基板80に対し、遊技開始時のコマンド送信処理を行う。この処理は、後述する図中(b)に示す処理である。次にステップS402に進み、スタートスイッチ41操作時の制御を実行する。ステップS402では、スタートスイッチ41が操作されたか否かを検知し続け、スタートスイッチ41が操作されたと判断したときは、次のステップS403に進む。
・・・
【0583】
次にステップS405に進み、メイン制御基板50は、サブ制御基板80に対し、スタートスイッチ41操作時のコマンド送信を行う。この処理は、後述する図中(d)に示す処理である。次のステップS406では、全リール31が停止したか否かを判断し続け、全リール31が停止したと判断したときはステップS407に進む。ステップS407では、遊技終了時の処理として、変数更新処理を行う。この処理は、図中(e)に示す処理である。そして、本フローチャートによる処理を終了する。
【0584】
図43(a)のステップS401に進むと、同図(b)の遊技開始時コマンド送信処理
を実行する。
まず、ステップS411では、ATカウンタ値を送信する。次のステップS412では、上限カウンタ値を送信する。さらに次のステップS413で、有利区間フラグの値を送信する。有利区間フラグの値は、有利区間中であるときは「1」を送信し、有利区間中でないときは、「0」を送信する。そして、本フローチャートによる処理を終了する。以上の処理により、メイン制御基板50は、サブ制御基板80に対し、ATカウンタ値、上限カウンタ値、及び有利区間フラグの値の3つのパラメータを送信する。

・・・
【0589】
図43(a)のステップS407に進むと、同図(e)の変数更新処理を実行する。まず、ステップS441では、ATカウンタ値を「1」減算する。次にステップS442に進み、上限カウンタ値を「1」減算する。次のステップS443では、上限カウンタ値が「0」であるか否かを判断する。「0」であると判断したとき(すなわち、有利区間の遊技回数が上限の「1500」に到達したとき)は、AT及び有利区間を終了するために、ステップS445以降の処理に進む。これに対し、「0」でないと判断したときは、ステップS444に進む。」


上記(ア)?(コ)からみて、先願1には、実施形態として、次の発明が記載されている。なお、aないしjについては本願補正発明のAないしJに対応させて付与し、引用箇所の段落番号等を併記した。

「a スロットマシン10であって(【0050】)、
c 遊技中及び遊技待機中における演出(情報)の選択や出力等を制御するサブ制御基板80であって(【0098】)、メイン制御基板50から送信されてくる制御コマンドに基づいて、どのようなタイミングでどのような演出を出力するか等の、具体的な演出内容を抽選によって決定し、その決定に従い、演出ランプ21、スピーカ22、画像表示装置23の出力を制御する演出出力制御手段91を備えるサブCPU85を有するサブ制御基板80と(【0370】?【0371】)、
b 遊技の進行に必要なプログラムの実行、演算等を行うメインCPU55を備えるメイン制御基板50と(【0050】、【0053】)、
d、e 通常区間から有利区間への移行、有利区間を終了するか否かの判断、有利区間中の上乗せ、ストップスイッチの有利な操作態様を有する指示機能作動遊技の作動制御を実行する有利区間制御手段69とを備え(【0308】、【0551】)、
有利区間制御手段69は、有利区間の開始と同時に、指示機能作動遊技を常に実行するか、又は実行頻度を高くしたATを開始し、ATの終了と同時に有利区間を終了し(【0551】、【0566】)、AT中に、有利区間の上乗せに対応する条件装置に当選したときに、ATの遊技回数を上乗せし(【0568】)、
f、g、h’、i メイン制御基板50は、AT中の消化遊技回数をカウントするATカウンタと、有利区間の上限遊技回数「1500」をカウントする上限カウンタを備え、AT開始時に、ATカウンタには「100」がセットされ、毎遊技、「1」ずつ減算され、上限カウンタは、AT開始時に初期値「1500」がセットされ、毎遊技、「1」ずつ減算され、ATカウンタ又は上限カウンタが「0」となったときは、ATの終了条件を満たすものであり、(【0579】?【0580】)
メイン制御基板50側における毎遊技繰り返す制御処理(【0340】、【0579】)において、メイン制御基板50のメインCPU55は、遊技開始時のコマンド送信処理(ステップS401)のステップS411でATカウンタ値をサブ制御基板80に対し送信し、次のステップS412で上限カウンタ値をサブ制御基板80に対し送信し(【0581】、【0584】)、
遊技終了時の変数更新処理(ステップS407)に進むと、まず、ステップS441でATカウンタ値を「1」減算し、次にステップS442に進み、上限カウンタ値を「1」減算する(【0583】、【0589】)、
j スロットマシン10。」(以下、「先願発明1-1」という。)

イ 引用例2
本願出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特許第6112527号公報(平成29年4月12日発行)は、上記アにおける先願1の特許公報であって、実施形態として、上記アで示した先願発明1-1と同じ発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

(3)先願発明1-1との対比
ア 本願補正発明と先願発明1-1とを対比する。なお、以下の見出し(a)ないし(j)は、本願補正発明のAないしJに対応させている。

(a)、(j)先願発明1-1の構成a及び構成jの「スロットマシン10」は、遊技を行うことが可能なことは技術常識であるから、本願補正発明の構成Aの「遊技を行うことが可能な遊技機」及び同構成Jの「遊技機」に相当する。

(b)先願発明1-1の構成bの「遊技の進行に必要なプログラムの実行、演算等を行う」ことは、本願補正発明の構成Bの「遊技の制御を行う」ことに相当する。よって、同構成bの「メイン制御基板50」は、本願補正発明の構成Bの「遊技制御手段」に相当する。

(c)先願発明1-1の構成cの「メイン制御基板50から送信されてくる制御コマンド」は、上記(b)の説示内容を踏まえると、本願補正発明の構成Cの「前記遊技制御手段から送信された制御情報」に相当する。
よって、同構成cの「メイン制御基板50から送信されてくる制御コマンドに基づいて」「具体的な演出内容を抽選によって決定」し、「その決定に従い、演出ランプ21、スピーカ22、画像表示装置23の出力を制御する」、「サブ制御基板80」は、本願補正発明の構成Cの「前記遊技制御手段から送信された制御情報に基づいて演出の制御を行う演出制御手段」に相当する。

(d)先願発明1-1の構成d、eの「有利区間制御手段69」は、「指示機能作動遊技」を実行する機能を有しているところ、当該機能は、メイン制御基板50の制御でもある(【0166】)ことから、「有利区間制御手段69」は、メイン制御基板50が有する機能部分であると認められる。
また、同構成d、eにおいて、「通常区間」及び「有利区間」は、本願補正発明の構成Dの「通常区間」及び「有利区間」に相当する。
そして、先願発明1-1において、「有利区間」では、「有利区間の開始と同時に」「ATを開始」することから、先願発明1-1の「通常区間から有利区間への移行」は、本願発明の構成Bの「通常区間から有利区間に移行させる」ことに相当する。
また、同構成d、eにおいて、「有利区間」は、「ATの終了と同時に」「終了」し、「AT」は、「AT中の消化遊技回数をカウントするATカウンタ」又は「有利区間の上限遊技回数「1500」をカウントする上限カウンタ」が「「0」となったとき」に終了するから、当該「AT中の消化遊技回数をカウントするATカウンタ」又は「有利区間の上限遊技回数「1500」をカウントする上限カウンタ」が「「0」となったとき」は、ATの終了条件が成立したときであると同時に、「有利区間」の「終了条件が成立したとき」でもあるといえ、「ATカウンタ」及び「上限カウンタ」が「0」になることは、有利区間において所定回数遊技を行った結果であって、所定回数遊技を行うことは、遊技の内容に基づくものであるといえる。
してみると、同構成d、eの「AT中の消化遊技回数をカウントするATカウンタ」又は「有利区間の上限遊技回数「1500」をカウントする上限カウンタ」が「「0」となったとき」は、本願補正発明の構成Dの「該有利区間における遊技の内容に基づく終了条件が成立したとき」に相当するといえる。
よって、同構成d、eの「AT中の消化遊技回数をカウントするATカウンタ」又は「有利区間の上限遊技回数「1500」をカウントする上限カウンタ」が「「0」となったとき」の「終了条件」に基づき、「通常区間から有利区間への移行」及び「有利区間を終了するか否かの判断を行」を行う「有利区間制御手段69」は、本願補正発明の構成Dの「有利区間移行手段」に相当する。

(e)先願発明1-1の構成d、eの「AT」は、「ストップスイッチの有利な操作態様を有する」「指示機能作動遊技」を実行する遊技区間であって、遊技者に有利な遊技状態であるから、本願補正発明の構成Eの「有利状態」に相当する。また、「AT」は、「有利区間の開始と同時に」実行されるから、「AT」が、「有利区間」であるときに実行されることは明らかである。
よって、同構成d、eの「ATを開始」する「有利区間制御手段69」は、本願補正発明の構成Eの「前記有利区間であるときに、有利状態に制御可能な有利状態制御手段」にも相当する。

(f)先願発明1-1の構成f、g、h’、iの「変数更新処理」は、「毎遊技繰り返す制御処理」における「遊技終了時」に行われるものであるから、1ゲームの遊技終了時における処理であることは明らかである。そして、遊技終了時は、所定の契機であるといえるから、同構成f、g、h’、iの「変数更新処理」は、1ゲームにおける所定契機において行われる処理であるといえる。
よって、同構成f、g、h’、iの「変数更新処理」における、「S441」で「ATカウンタ値を「1」減算」することは、上記(e)の説示内容も踏まえると、本願補正発明の構成Fの「1ゲームにおける所定契機において、前記有利状態のゲーム数を更新する第2処理」に相当し、「S442」で「上限カウンタ値を「1」減算」することは、上限カウンタが有利区間の上限遊技回数「1500」をカウントするカウンタであることから、本願補正発明の構成Fの「1ゲームにおける所定契機において、前記有利区間のゲーム数を更新する第1処理」に相当する。
したがって、同構成f、g、h’、iの「遊技終了時」に行われる「変数更新処理」(ステップS407)において、「S441」で「ATカウンタ値を「1」減算」し、「次に」「S442」で「上限カウンタ値を「1」減算」する機能を有する「メイン制御基板50のメインCPU55」は、本願補正発明の構成Fの「処理実行手段」に相当する。

(g)先願発明1-1の構成f、g、h’、iの「遊技開始時のコマンド送信処理」(S401)は、「毎遊技繰り返す制御処理」における「遊技開始時」に行われるものであるから、1ゲームの遊技開始時における処理であることは明らかである。そして、遊技開始時は、所定の契機であるといえるから、同構成f、g、h’、iの「遊技開始時のコマンド送信処理」は、1ゲームにおける所定契機において行われる処理であるといえる。
よって、同構成f、g、h’、iの「遊技開始時のコマンド送信処理」における、「S411」で「ATカウンタ値をサブ制御基板80に対し送信」することは、上記(c)、(e)の説示内容も踏まえると、本願補正発明の構成Gの「前記有利状態のゲーム数を特定可能な第2制御情報」「を前記演出制御手段に送信する」ことに相当し、「S412」で「上限カウンタ値をサブ制御基板80に対し送信」することは、本願補正発明の構成Gの「前記有利区間のゲーム数を特定可能な第1制御情報」「を前記演出制御手段に送信する」ことに相当する。
したがって、同構成f、g、h’、iの「遊技開始時のコマンド送信処理」(S401)における「S411」で「ATカウンタ値をサブ制御基板80に対し送信」し、「次に」「S412」で「上限カウンタ値をサブ制御基板80に対し送信」する機能を有する「メイン制御基板50のメインCPU55」は、本願補正発明の構成Gの「制御情報送信手段」に相当する。

(h’)上記(f)で説示のとおり、先願発明1-1の構成f、g、h’、iの「メイン制御基板50のメインCPU55」は、「変数更新処理」における「S441」で「ATカウンタ値を「1」減算」し、「次に」「S442」で「上限カウンタ値を「1」減算」していることから、本願補正発明の構成Hと、「前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行する」点で共通する。

(i)上記(g)の説示内容を踏まえると、先願発明1-1の構成f、g、h’、iの「メイン制御基板50のメインCPU55」は、「遊技開始時のコマンド送信処理」における「S411」で「ATカウンタ値をサブ制御基板80に対し送信」し、「次に」「S412」で「上限カウンタ値をサブ制御基板80に対し送信」することは、本願補正発明の構成Iの「前記制御情報送信手段は、前記所定契機において前記第1制御情報と前記第2制御情報とを送信するときに、前記第2制御情報を送信した後に、前記第1制御情報を送信する」ことに相当する。

イ したがって、本願補正発明と先願発明1-1とは、
「A 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 遊技の制御を行う遊技制御手段と、
C 前記遊技制御手段から送信された制御情報に基づいて演出の制御を行う演出制御手段とを備え、
D 前記遊技制御手段は、
通常区間から有利区間に移行させるとともに、該有利区間における遊技の内容に基づく終了条件が成立したときに該有利区間を終了する有利区間移行手段と、
E 前記有利区間であるときに、有利状態に制御可能な有利状態制御手段と、
F 1ゲームにおける所定契機において、前記有利区間のゲーム数を更新する第1処理と前記有利状態のゲーム数を更新する第2処理とを実行する処理実行手段と、
G 前記所定契機において、前記有利区間のゲーム数を特定可能な第1制御情報と前記有利状態のゲーム数を特定可能な第2制御情報とを前記演出制御手段に送信する制御情報送信手段とを含み、
H’ 前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行し、
I 前記制御情報送信手段は、前記所定契機において前記第1制御情報と前記第2制御情報とを送信するときに、前記第2制御情報を送信した後に、前記第1制御情報を送信する、
J 遊技機。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点(特定事項H)
「処理実行手段」に関し、
本願補正発明では、「前記第1処理を実行した後に、前記第2処理を実行」しているのに対し、
先願発明1-1では、「S441」で「ATカウンタ値を「1」減算」(第2処理)し、「次に」「S442」で「上限カウンタ値を「1」減算」(第1処理)する、すなわち、第2処理を実行した後に第1処理を実行しており、本願補正発明とは第1処理と第2処理の実行順序が逆である点。

(4)判断
ア 上記相違点について検討する。

(ア)先願発明1-1において、ATカウンタと上限カウンタは、別個のカウンタであって、一方のカウンタがカウンタ値を減算する際、他方のカウンタ値を参照するといった関連性を有しているとする根拠も認められないから、ATカウンタと上限カウンタは、それぞれ独立してカウンタ値を「1」減算することが可能であると認められる。

(イ)また、先願発明1-1において、「ATカウンタ値を「1」減算」(第2処理)するステップ「S441」と、「上限カウンタ値を「1」減算」(第1処理)するステップ「S442」は、連続するステップであって、遊技機における技術分野において、1ステップの処理の実行がミリ秒単位の短時間で行われる技術常識を考慮すると、両者は、実質的にほぼ同時に行われるものと認められる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、「ATカウンタ値を「1」減算」(第2処理)するステップ「S441」と「上限カウンタ値を「1」減算」(第1処理)するステップ「S442」のどちらを先に行っても、これら2つのステップが終了した時点における遊技機の状態に差異はなく、効果に差が生ずるとも認められない。
よって、「上限カウンタ値を「1」減算」(第1処理)するステップ「S442」を先に行ったところで、「ATカウンタ値を「1」減算」(第2処理)するステップ「S441」を先に行う場合と比較して新たな効果を奏するとは認められない。

(エ)審判請求書の(3)で請求人が主張する、「「有利区間のゲーム数を更新する処理の途中に、有利状態のゲーム数を更新する処理を実行する遊技機」と比較して、処理の集中化を防止でき、プログラム容量を増大させないようにすることができる。また、遊技機は、有利区間のゲーム数、および有利状態のゲーム数を更新することができる」効果に関しても、先願発明1-1は、上記(ア)及び(イ)で説示のとおり、ATカウンタと上限カウンタがほぼ同時にそれぞれ独立してカウンタ値を「1」減算しているから、「有利区間のゲーム数を更新する処理の途中に、有利状態のゲーム数を更新する処理を実行する遊技機」には当たらず、先願発明1-1においても、処理の集中化を防止でき、プログラム容量を増大させないようにする効果を奏すると認められる。

(オ)また、ATカウンタ値に関する処理と上限カウンタ値に関する処理の順序に関し、先願発明1は、カウンタ値の減算処理と送信処理のどちらも、ATカウンタ値に関する処理を先に、上限カウンタ値に関する処理を後に行っているが、減算処理と送信処理の両者において処理プログラムを共有しており、処理順序を入れ替えられない等の特別な事情も見当たらないことから、減算処理及び送信処理において、ATカウンタ値に関する処理と上限カウンタ値に関する処理の先後を統一させる必要があるとは認められず、減算処理と送信処理のどちらかの処理のみ、ATカウンタ値に関する処理と上限カウンタ値に関する処理の順序を入れ替えることに、何らの困難性も見当たらない。

(カ)上記(ア)?(オ)より、上記相違点は、課題解決のための具体化手段における微差であるといえ、本願補正発明と先願発明1-1は実質同一である。

イ 請求人の主張について
(ア)請求人は、令和1年10月3日提出の審判請求書において、次の主張をしている。
「 補正後の本願発明は、「1ゲームにおける所定契機において、前記有利区間のゲーム数を更新する第1処理と前記有利状態のゲーム数を更新する第2処理とを実行する処理実行手段」という構成D3と、「前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行するときに、前記第1処理を実行した後に、前記第2処理を実行し、」という構成Eとを有します。
補正後の本願発明は、構成D3と、構成Eとを有することにより、「有利区間のゲーム数を更新する第1処理を実行した後に、有利状態のゲーム数を更新する第2処理を実行する」という第1の特徴を有します。
先願1には、ATカウンタと有利区間カウンタとが記載されています(0567)。しかしながら、引用文献1には、有利区間カウンタを更新した後で、ATカウンタを更新する事項は記載されておりません。したがって、補正後の本願発明と、先願1に係る発明とを対比すると、補正後の本願発明は、第1の特徴を有する一方、先願1に係る発明はこのような特徴を有さない点で、両発明は相違します。
また、補正後の本願発明は、「前記所定契機において、前記有利区間のゲーム数を特定可能な第1制御情報と前記有利状態のゲーム数を特定可能な第2制御情報とを前記演出制御手段に送信する制御情報送信手段」という構成D4と、「前記制御情報送信手段は、前記所定契機において前記第1制御情報と前記第2制御情報とを送信するときに、前記第2制御情報を送信した後に、前記第1制御情報を送信する」という構成Fとを有します。
補正後の本願発明は、構成D4と、構成Fとを有することにより、「有利状態のゲーム数を特定可能な第2制御情報を演出制御手段に送信した後に、有利区間のゲーム数を特定可能な第1制御情報を演出制御手段に送信する」という第2の特徴を有します。
先願1には、ATカウンタと有利区間カウンタとが記載されています(0567)。しかしながら、引用文献1には、サブ制御基板にATカウンタ値を送信した後で、サブ制御基板に有利区間カウンタの値を送信する事項は記載されておりません。したがって、補正後の本願発明と、先願1に係る発明とを対比すると、補正後の本願発明は、第2の特徴を有する一方、先願1に係る発明はこのような特徴を有さない点で、両発明は相違します。
・・・
補正後の本願発明は、第1の特徴を有することにより、「「有利区間のゲーム数を更新する処理の途中に、有利状態のゲーム数を更新する処理を実行する遊技機」と比較して、処理の集中化を防止でき、プログラム容量を増大させないようにすることができる。また、遊技機は、有利区間のゲーム数、および有利状態のゲーム数を更新することができる」という新たな効果を奏します。
補正後の本願発明は、第2の特徴を有することにより、「有利状態のゲーム数を特定可能な第2制御情報を演出制御手段に送信した後に、有利区間のゲーム数を特定可能な第1制御情報を演出制御手段に送信することから、演出制御手段は、有利区間のゲーム数に基づく処理よりも先に、有利状態のゲーム数に基づく処理を実行することができる。また、演出制御手段は、有利状態のゲーム数および有利区間のゲーム数を特定することができる」という新たな効果を奏します。」

(イ)そこで上記(ア)の主張について検討すると、上記アにおいて検討したとおり、先願発明1-1は上記第1の特徴及び第1の特徴を有することによる「処理の集中化を防止でき、プログラム容量を増大させないようにすることができる」効果を有すると認められ、本願補正発明と先願発明1-1は相違しないから、上記請求人の主張を採用することはできない。

(ウ)また、先願発明1-1が上記第2の特徴を有することは、上記(3)の(i)において示したとおりであって、先願発明1-1も、上記「演出制御手段は、有利区間のゲーム数に基づく処理よりも先に、有利状態のゲーム数に基づく処理を実行することができ」、「有利状態のゲーム数および有利区間のゲーム数を特定することができる」本願発明と同様の効果を奏すると認められる。よって、この点でも先願発明1-1は本願補正発明と相違しないから、請求人の当該主張は採用することができない。、

(エ)以上のとおりであるから、請求人の審判請求書における主張はいずれも採用することができない。

(5)引用発明2との対比、判断
上記(2)イで説示のとおり、引用発明2は、先願発明1-1と同じ発明であるから、本願補正発明と引用発明2とを対比すると、上記(3)イで示したのと同様の一致点及び相違点を有する。
そして、当該相違点については、上記(4)アで説示のとおり、課題解決のための具体化手段における微差であるといえ、本願補正発明と引用発明2は実質同一である。
仮に実質同一でないとしても、当該相違点については、当業者が適宜設計変更し得る程度のものであって、本願補正発明は、引用発明2に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

(6)独立特許要件のむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明は、先願1に記載された発明と同一である。また、本件出願の発明者が先願1の発明者と同一ではなく、また本件の出願の時に、本件の出願人と先願1の出願人とが同一でもない。
また、本願補正発明は、引用例2に記載された発明、若しくは、引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。
よって、本願補正発明は、特許法第29条の2の規定、同法29条第1項第3号の規定又は同法29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下するものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成31年4月9日に提出された次のとおりのものである。なお、記号AないしJは、分説するため合議体が付した。

「A 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 遊技の制御を行う遊技制御手段と、
C 前記遊技制御手段から送信された制御情報に基づいて演出の制御を行う演出制御手段とを備え、
D 前記遊技制御手段は、
通常区間から有利区間に移行させるとともに、該有利区間における遊技の内容に基づく終了条件が成立したときに該有利区間を終了する有利区間移行手段と、
E 前記有利区間であるときに、有利状態に制御可能な有利状態制御手段と、
F2 所定契機において、前記有利区間に関する第1処理と前記有利状態に関する第2処理とを実行する処理実行手段と、
G2 前記所定契機において、前記有利区間に関する第1制御情報と前記有利状態に関する第2制御情報とを前記演出制御手段に送信する制御情報送信手段とを含み、
H 前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行するときに、前記第1処理を実行した後に、前記第2処理を実行し、
I 前記制御情報送信手段は、前記所定契機において前記第1制御情報と前記第2制御情報とを送信するときに、前記第2制御情報を送信した後に、前記第1制御情報を送信する、
J 遊技機。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の平成31年4月9日に提出された手続補正書により補正された請求項1に係る発明が、下記先願1の明細書等に記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、というものである。

先願1.特願2016-146822号(特開2018-15165号)

3 引用例
先願1には、上記第2[理由]3(2)アに記載した(ア)?(コ)に加え、さらに以下の事項が図とともに記載されている(下線は先願発明の認定に関連する箇所を明示するために合議体が付した。)。

(サ)
「【0582】
ステップS403では、内部抽選処理を実行する。この処理は、第1実施形態において、役抽選手段61による役の抽選と同じである。次のステップS404では、上乗せ抽選を行う。ここで、「上乗せ」とは、ATの遊技回数の上乗せである。したがって、当該遊技がAT中でないとき(通常区間のとき、及び有利区間であるが非ATのとき)は、ステップS404の上乗せ抽選は実行されない。ステップS404の上乗せ抽選は、図中(c)に示す処理である。なお、本実施形態では、第1実施形態の図17で示した条件装置の当選時に、ATの上乗せ抽選を実行するものとする。 また、上乗せ数とその当選確率については、後述する抽選テーブルに定められているものとする。
・・・
【0585】
図43(a)のステップS404に進むと、同図(c)の上乗せ抽選を実行する。 まず、ステップS421では、抽選テーブルをセットする。この抽選テーブルは、予めROM54に記憶されているものであり、当選役に対応する上乗せ数とその当選確率を定めたものである。具体的には、たとえば、小役E1単独当選時の置数「250」に当選したときは、上乗せ数を「50」に決定する確率を60%、上乗せ数を「40」に決定する確率を40%に設定することが挙げられる。また、小役E1単独当選時の置数「750」に当選したときは、上乗せ数を「30」に決定する確率を50%、上乗せ数を「20」に決定する確率を50%に設定することが挙げられる。他の条件装置についても、当選確率及び上乗せ数が定められている。
【0586】
次のステップS422では、ステップS421でセットした抽選テーブルを用いて上乗せ抽選を行う。そして、ステップS423に進み、ステップS422で抽選した結果(決定した上乗せ数)をATカウンタ値に加算する。たとえば、それまでのATカウンタ値が「50」(残り遊技回数)で、上乗せ数を「20」に決定したときは、ATカウンタ値を「70」に更新する。そして本フローチャートによる処理を終了する。」

上記第2[理由]3(2)アに記載した(ア)?(コ)及び上記(サ)からみて、先願1には、実施形態として、次の発明が記載されている。なお、aないしjについては本願発明のAないしJに対応させて付与し、引用箇所の段落番号等を併記した。

「a スロットマシン10であって(【0050】)、
c 遊技中及び遊技待機中における演出(情報)の選択や出力等を制御するサブ制御基板80であって(【0098】)、メイン制御基板50から送信されてくる制御コマンドに基づいて、どのようなタイミングでどのような演出を出力するか等の、具体的な演出内容を抽選によって決定し、その決定に従い、演出ランプ21、スピーカ22、画像表示装置23の出力を制御する演出出力制御手段91を備えるサブCPU85を有するサブ制御基板80と(【0370】?【0371】)、
b 遊技の進行に必要なプログラムの実行、演算等を行うメインCPU55を備えるメイン制御基板50と(【0050】、【0053】)、
d、e 通常区間から有利区間への移行、有利区間を終了するか否かの判断、有利区間中の上乗せ、ストップスイッチの有利な操作態様を有する指示機能作動遊技の作動制御を実行する有利区間制御手段69とを備え(【0308】、【0551】)、
有利区間制御手段69は、有利区間の開始と同時に、指示機能作動遊技を常に実行するか、又は実行頻度を高くしたATを開始し、ATの終了と同時に有利区間を終了し(【0551】、【0566】)、AT中に、有利区間の上乗せに対応する条件装置に当選したときに、ATの遊技回数を上乗せし(【0568】)、
f2、g2、h、i メイン制御基板50は、AT中の消化遊技回数をカウントするATカウンタと、有利区間の上限遊技回数「1500」をカウントする上限カウンタを備え、AT開始時に、ATカウンタには「100」がセットされ、毎遊技、「1」ずつ減算され、上限カウンタは、AT開始時に初期値「1500」がセットされ、毎遊技、「1」ずつ減算され、ATカウンタ又は上限カウンタが「0」となったときは、ATの終了条件を満たすものであり、(【0579】?【0580】)
メイン制御基板50側における毎遊技繰り返す制御処理(【0340】、【0579】)において、メイン制御基板50のメインCPU55は、ステップS401で、サブ制御基板80に対し、遊技開始時のコマンド送信処理を行い、次にステップS402に進み、スタートスイッチ41操作時の制御を実行し、次のステップS403では、内部抽選処理を実行し、次のステップS404では、ATの遊技回数の上乗せ抽選を行い(【0581】、【0582】)、
遊技開始時のコマンド送信処理(ステップS401)のステップS411では、ATカウンタ値をサブ制御基板80に対し送信し、次のステップS412で上限カウンタ値をサブ制御基板80に対し送信し、さらに次のステップS413で有利区間フラグの値を送信し(【0581】、【0584】)、
上乗せ抽選処理(ステップS404)のステップS422では、ATの遊技回数の上乗せ抽選を行う(【0581】?【0582】、【0585】?【0586】)、
j スロットマシン10。」(以下、「先願発明1-2」という。)

(3)対比
ア 本願発明と先願発明1-2とを対比する。なお、以下の見出し(a)ないし(j)は、本願発明のAないしJに対応させている。

上記第2の3(3)アで示したとおり、先願発明1-2の構成a?e、i?jは、それぞれ本願発明の構成A?E、I?Jに相当する。

(f2)先願発明1-2の構成f2、g2、h、iの「S413」で行われる「有利区間フラグの値を送信」する処理は、「遊技開始時」に行われるものである。ここで、遊技開始時は、「毎遊技繰り返す制御処理」の所定の契機であるといえるから、同構成f2、g2、h、iの「有利区間フラグの値を送信」する処理は、所定契機において行われる処理であるといえる。
また、同構成f2、g2、h、iにおいて、「S413」で「有利区間フラグの値を送信」する処理は、有利区間に関する処理であることから、上記第2の3(3)ア(d)の説示内容も踏まえると、本願発明の構成F2の「前記有利区間に関する第1処理」に相当する。
さらに、同構成f2、g2、h、iの「S422」で行われる「ATの遊技回数」「の上乗せ抽選を行う」処理は、「スタートスイッチ41が操作されたと判断したとき」に行われるものである。ここで、スタートスイッチ41が操作されたと判断したときもまた、「毎遊技繰り返す制御処理」の所定の契機であるといえるから、同構成f2、g2、h、iの「有利区間フラグの値を送信」する処理も、所定契機において行われる処理であるといえる。
そして、同構成f2、g2、h、iにおいて、「S422」で「ATの遊技回数」「の上乗せ抽選を行う」処理は、上記第2の3(3)ア(e)で説示のとおり有利状態に関する処理であることから、本願発明の構成F2の「前記有利状態に関する第2処理」に相当する。
したがって、同構成f2、g2、h、iの「S413」の「有利区間フラグの値を送信」する処理と、「S422」の「ATの遊技回数」「の上乗せ抽選を行う」処理を実行する機能を有する「メイン制御基板50のメインCPU55」は、本願発明の構成F2の「処理実行手段」に相当する。

(g2)先願発明1-2の構成f2、g2、h、iにおいて、「S413」の「有利区間フラグの値を送信」する処理は、「ステップS401」で行われる処理であり、「S422」の「ATの遊技回数」「の上乗せ抽選を行う」処理は、「ステップS401」の「次」の「次の」「次」に行われる処理であって、「ステップS401」の後に行われることは明らかである。
したがって、上記(f2)の説示内容を踏まえると、先願発明1-2の構成f2、g2、h、iにおいて、「メイン制御基板50のメインCPU55」が、「S413」で「有利区間フラグの値を送信」する処理を行い、「S422」で「ATの遊技回数」「の上乗せ抽選を行う」処理を行うことは、本願発明の構成G2の「前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行するときに、前記第1処理を実行した後に、前記第2処理を実行」することに相当する。

イ したがって、本願発明と先願発明1-2とは、
「A 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 遊技の制御を行う遊技制御手段と、
C 前記遊技制御手段から送信された制御情報に基づいて演出の制御を行う演出制御手段とを備え、
D 前記遊技制御手段は、
通常区間から有利区間に移行させるとともに、該有利区間における遊技の内容に基づく終了条件が成立したときに該有利区間を終了する有利区間移行手段と、
E 前記有利区間であるときに、有利状態に制御可能な有利状態制御手段と、
F2 所定契機において、前記有利区間に関する第1処理と前記有利状態に関する第2処理とを実行する処理実行手段と、
G2 前記所定契機において、前記有利区間に関する第1制御情報と前記有利状態に関する第2制御情報とを前記演出制御手段に送信する制御情報送信手段とを含み、
H 前記処理実行手段は、前記所定契機において前記第1処理と前記第2処理とを実行するときに、前記第1処理を実行した後に、前記第2処理を実行し、
I 前記制御情報送信手段は、前記所定契機において前記第1制御情報と前記第2制御情報とを送信するときに、前記第2制御情報を送信した後に、前記第1制御情報を送信する、
J 遊技機。」で一致し、相違点は見当たらない。

したがって、本願発明と先願発明1-2は同一である。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、先願1に記載された発明である。また、本件出願の発明者が先願の発明者と同一ではなく、また本件の出願の時に、本件の出願人と先願の出願人とが同一でもない。

したがって、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-06-24 
結審通知日 2020-06-30 
審決日 2020-07-14 
出願番号 特願2017-103976(P2017-103976)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金子 和孝  
特許庁審判長 長崎 洋一
特許庁審判官 赤坂 祐樹
伊藤 昌哉
発明の名称 遊技機  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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