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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1365966
審判番号 不服2019-13268  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-03 
確定日 2020-09-29 
事件の表示 特願2015- 92597「耐屈曲電線及びワイヤハーネス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-212965、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成27年4月30日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 1月22日付け :拒絶理由の通知
平成31年 3月25日 :意見書の提出
令和 元年 7月31日付け :拒絶査定(原査定)
令和 元年10月 3日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和元年7月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1 本願請求項1,3に係る発明は,以下の引用文献1に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2003-303515号公報

2 請求項2に係る発明は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が不明であるから,本願は,特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第3 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は,平成27年4月30日に提出の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
導電性の素線を複数本撚る下撚りによって形成される集合撚線を更に複数本撚る本撚りによって形成される複合撚線を導体部とする耐屈曲電線であって,
前記導体部は,当該導体部の最も断面中心側に位置する集合撚線である最内層撚線と,前記最内層撚線の周囲に複数層に重なって設けられる集合撚線である周囲撚線と,からなり,
前記周囲撚線は,各集合撚線の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向となっており,且つ,隣接する層同士において本撚り方向が逆方向となっており,
前記集合撚線の本数は各集合撚線を構成する複数本の素線の本数よりも多い
ことを特徴とする耐屈曲電線。
【請求項2】
前記最内層撚線の下撚り方向と,前記周囲撚線のうち前記最内層撚線に接する層を構成する集合撚線の下撚り方向とは,一致している
ことを特徴とする請求項1に記載の耐屈曲電線。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の耐屈曲電線を含む
ことを特徴とするワイヤハーネス。」

第4 理由1(進歩性)について
1 引用文献,引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2003-303515号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下,同様。)
「【0003】図2に,従来技術のアルミニウム製複合撚線導体の例を示した。図2(a)は,複合撚線導体の一部を切断して示した部分斜視図である。図2(b)は,複合撚線導体の断面略図である。図2(b)中の矢印は,下記で説明する素線の撚り方向を示したものである。
【0004】複合撚線導体31は複合撚線(親撚り)41と複合撚線(親撚り)47とで形成されている。複合撚線導体41は,アルミニウムの素線33を多数本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)35を中心にし,第1層として,アルミニウムの素線37を同数本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)39を6本使用して左方向に複合撚りされて作製される。
【0005】第1層の複合撚線41の周囲には,第2層の複合撚線(親撚り)47として,アルミニウムの素線43を同数本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)45を12本使用して右方向に複合撚りされて作製される。被覆絶縁体51は,例えばポリエチレン樹脂が,第2層の複合撚線(親撚り)47の周囲面に密着するように被覆されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】アルミニウム製の導体を用いた場合,自動車等の走行時に受ける路面からの振動やエンジンの振動による摩擦により導体が摩耗する。ことに,アルミニウムは摩擦抵抗が高いことから,金属疲労して断線しやすい。
【0007】そこで,本発明者等は上記アルミニウム導体の断線について調べた。すると,断線には以下のような形態があることがわかった。
(1)集合撚線(子撚り)の素線間の摩擦によるもの。
(2)複合撚線(親撚り)の集合撚線(子撚り)間の磨耗によるもの。
(3)絶縁体に密着された最外層の集合撚線(子撚り)とその下層の集合撚線(子撚り)層間における摩擦によるもの。
【0008】上記(1)?(3)を中心とした原因により,摩擦断線が生じていることがわかった。
また,摩擦断線した箇所を観察すると,複合撚線(親撚り)の集合撚線(子撚り)が交差する部分で擦れて断線していることもわかった。
【0009】図2を用いて説明する。前記従来の複合撚線導体31の場合,第2層の集合撚線(子撚り)45間の撚り溝部49に被覆用の絶縁体が嵌入しているため,第2層の集合撚線(子撚り)45と被覆絶縁体51とが強く密着した状態となっている。そのため,絶縁体を被覆した複合撚線導体31を曲げた場合には,第2層の集合撚線(子撚り)45と第1層の集合撚線(子撚り)39とが局部的に強く接触して,屈曲,振動による摩擦も大きくなり,擦られ磨耗して断線することが観測された。
【0010】導体にアルミニウムを用いて電線に加工した場合,銅に比べて導電率が低いために線径が大きくなるという問題点と,素線自体の強度が低いために曲げに対して弱いという問題点がある。また,アルミニウム複合撚線導体を圧着法や溶接法により端子に接続する際,端子内の複合撚線の素線同士が交差する箇所で圧縮されるため,素線に交差圧痕(ニッキング)がついてしまう。その結果,素線に局部的に変形した箇所ができて導体全体の強度が低下する。従って,以上の問題点に対処するためには,素線の交差部分を減少させることと,導体の素線を隙間なく並べることが必要となる。
【0011】すなわち,本発明は複合撚線導体について,素線の断線を防止することを目的とするものであり,屈曲,振動作用時にも摩擦による断線,磨耗による断線のしにくい耐屈曲性および耐振動性を備えたアルミニウム導体を提供するものである。」

「【0025】(実施形態の2)実施形態の2では,本発明をより具体的に説明する。複合撚線導体1は,例えば,直径が0.32mmのアルミニウムの素線3を13本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)5を中心にし,第1層として,直径が0.32mmのアルミニウムの素線7を13本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)9を6本使用して左方向に複合撚り(親撚り)11されて作製される。
【0026】第1層の複合撚線(親撚り)11は,集合撚線(子撚り)9と同一方向に撚り合わせたものである。同一方向にすることで,集合撚線(子撚り)11の素線の撚り型付けを開放させ,集合撚線(子撚り)11の撚り断面形状が崩れるように撚ることができる。すなわち,図1(b)に示すように,第1層の集合撚線11は,撚ることによって形状が潰されて断面が半扇型状となって,相隣り合う集合撚線(子撚り)同士が密着し,隙間が少なくなる。
【0027】なお,中心の集合撚線(子撚り)5は,同方向集合撚りとすることが望ましい。また,集合撚線(子撚り)を複合撚り(親撚り)する場合には,プラネタリー型撚り機(撚り返しあり)や,多本巻きをリジット型撚り機を用いて撚ることができる。
【0028】第1層の複合撚線11の周囲には,第2層の複合撚線17として,アルミニウムの素線13を13本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)15を12本使用して右方向に複合撚りされて作製される。
【0029】第2層の複合撚線17を,集合撚線(子撚り)15と同一方向に撚ることで,集合撚線(子撚り)15の素線の撚り型付けを開放させ,集合撚線(子撚り)15の撚り断面形状が崩れるように撚ることができる。
【0030】例えば,銅の導電率を100%とすると,アルミニウムの導電率は約60%と低い。そのため,直径が5.0mmの銅製導体と同等の特性をアルミニウムを用いて得る場合,従来方法で作製した導体は直径が6.5mmとなる。ところが,実施形態の2によれば直径は5.8mmとなり,従来方法で作製した導体に比べて直径を約11%小径化できる。
【0031】また,集合撚線の断面形状を崩した複合撚線は,銅に比べて外径を約16%増に押さえることができ,被覆外径も小さくする事ができる。さらに,表面の凹凸が減少することにより,絶縁被覆の厚さ比(絶縁被覆の内面凹凸)を低くすることができるので,被覆材使用量の減量化が図れる。
【0032】本発明によれば,表面の凹凸が減少することにより複合撚線の周囲に絶縁被覆材の嵌入がほとんどなくなる。そのため,絶縁被覆材と複合撚線の固着力が複合撚線に分担されるので,従来技術にあったような,固着力が集中することが緩和される。そして,屈曲しやすくなる(可撓性が良好となる)とともに,すべり性が向上し,耐屈曲性,耐磨耗性が向上する。」

「【0036】
【実施例】(実施例1)本発明の実施例1として,以下の手順で複合撚線導体を作製した。
まず,直径が0.32mmのアルミニウムの素線を13本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)を中心にし,その周囲に直径が0.32mmのアルミニウムの素線を13本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)を6本使用して左方向に複合撚りして第1層を作製した。
【0037】第1層の複合撚線の周囲に,アルミニウムの素線を13本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)を12本使用して右方向に複合撚りして第2層を作製した。比較のために従来技術の方法により複合撚線を作製した。」




上記【0004】,【0005】の記載及び図2によれば,引用文献1には,アルミニウム製複合撚線導体について以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「複合撚線(親撚り)41と複合撚線(親撚り)47とで形成され,
複合撚線導体41は,アルミニウムの素線33を多数本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)35を中心にし,第1層として,アルミニウムの素線37を同数本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)39を6本使用して左方向に複合撚りされて作製され,
第1層の複合撚線41の周囲には,第2層の複合撚線(親撚り)47として,アルミニウムの素線43を同数本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)45を12本使用して右方向に複合撚りされて作製され,
被覆絶縁体51が,第2層の複合撚線(親撚り)47の周囲面に密着するように被覆されている,
アルミニウム製複合撚線導体。」

2 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「アルミニウムの素線33を多数本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)35」,「アルミニウムの素線37を同数本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)39」,「アルミニウムの素線43を同数本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)45」は,本願発明1の「導電性の素線を複数本撚る下撚りによって形成される集合撚線」に相当するといえる。
(イ)引用発明の「アルミニウムの素線33を多数本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)35」は,「複合撚線導体41」の中心であるから,本願発明1の「導体部の最も断面中心側に位置する集合撚線である最内層撚線」に相当するといえる。
(ウ)引用発明の「アルミニウムの素線37を同数本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)39を6本使用して左方向に複合撚りされて作製され」た「第1層」及び「アルミニウムの素線43を同数本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)45を12本使用して右方向に複合撚りされて作製され」た「第1層の複合撚線41の周囲」の「第2層の複合撚線(親撚り)47」は,本願発明1の「前記最内層撚線の周囲に複数層に重なって設けられる集合撚線」であり,「各集合撚線の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向となっており,且つ,隣接する層同士において本撚り方向が逆方向となって」いる「周囲撚線」に相当するといえる。
(エ)引用発明の「複合撚線(親撚り)41と複合撚線(親撚り)47とで形成され」,「被覆絶縁体51が,第2層の複合撚線(親撚り)47の周囲面に密着するように被覆されている,アルミニウム製複合撚線導体」は,本願発明1の「導電性の素線を複数本撚る下撚りによって形成される集合撚線を更に複数本撚る本撚りによって形成される複合撚線を導体部とする耐屈曲電線」と「導電性の素線を複数本撚る下撚りによって形成される集合撚線を更に複数本撚る本撚りによって形成される複合撚線を導体部とする電線」である点では共通するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点及び相違点があるといえる。

(一致点)
「導電性の素線を複数本撚る下撚りによって形成される集合撚線を更に複数本撚る本撚りによって形成される複合撚線を導体部とする電線であって,
前記導体部は,当該導体部の最も断面中心側に位置する集合撚線である最内層撚線と,
前記最内層撚線の周囲に複数層に重なって設けられる集合撚線である周囲撚線と,からなり,
前記周囲撚線は,各集合撚線の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向となっており,且つ,隣接する層同士において本撚り方向が逆方向となっている,
ことを特徴とする電線。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1では,「集合撚線の本数は各集合撚線を構成する複数本の素線の本数よりも多い」のに対し,引用発明では,各「集合撚線(子撚り)」の「アルミニウムの素線33」の本数は,「多数本用いる」とされており,上記「集合撚線の本数は各集合撚線を構成する複数本の素線の本数よりも多い」という構成が特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は,「耐屈曲電線」であるのに対し,引用発明は,「自動車等に用いられる通電用の複合撚線導体」であるが,「耐屈曲」とは特定されていない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用文献1には,「直径が0.32mmのアルミニウムの素線を13本用いて左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)を中心にし,その周囲に直径が0.32mmのアルミニウムの素線を13本用いて右撚り(当審注:「左撚り」の誤記と認められる。)して束ねた集合撚線(子撚り)を6本使用して左方向に複合撚りして第1層を作製」(段落【0025】,【0035】)し,「第1層の複合撚線の周囲に,アルミニウムの素線を13本用いて右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)を12本使用して右方向に複合撚りして第2層を作製」(段落【0028】,【0037】)した「複合撚線導体」が記載されており,集合撚線(子撚り)の素線の本数が13本であり,第1層の集合撚線(子撚り)が6本,第2層の集合撚線(子撚り)が12本であるから,当該複合撚線導体は,集合撚線の本数が各集合撚線を構成する複数本の素線の本数よりも多い構成であるといえる。
しかしながら,上記構成は,第1層の複合撚線(親撚り)11は,集合撚線(子撚り)9と同一方向に撚り合わせたものであって,同一方向にすることで,集合撚線(子撚り)11の素線の撚り型付けを開放させ,集合撚線(子撚り)11の撚り断面形状が崩れるように撚ることができ,第1層の集合撚線11は,撚ることによって形状が潰されて断面が半扇型状となって,相隣り合う集合撚線(子撚り)同士を密着させ,隙間を少なくする(段落【0026】)こと,第2層の複合撚線17を,集合撚線(子撚り)15と同一方向に撚ることで,集合撚線(子撚り)15の素線の撚り型付けを開放させ,集合撚線(子撚り)15の撚り断面形状が崩れるように撚ることができる(段落【0029】)ようにすることを目的とし,周囲撚線が,各集合撚線の下撚り方向と本撚り方向とが同方向となるようにした場合の集合撚線の本数,各集合撚線を構成する複数本の素線の本数であるから,引用文献1には,周囲撚線が,各集合撚線の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向となっていることを前提とする相違点1に係る本願発明1の構成は記載されておらず,示唆されてもいない。
したがって,アルミニウムの素線37を右撚りして束ねた集合撚線(子撚り)39を左方向に複合撚りされて作製された第1層の複合撚線(親撚り)46及びアルミニウムの素線43を左撚りして束ねた集合撚線(子撚り)45を右方向に複合撚りされて作製された第2層の複合撚線(親撚り)47により形成された引用発明において,「集合撚線の本数は各集合撚線を構成する複数本の素線の本数よりも多い」ようにする動機付けはない。
また,上記相違点1に係る本願発明1の構成が,本願出願日前に周知技術であったとはいえない。

本願発明1は,上記相違点1に係る本願発明1の構成を有することにより,「各集合撚線の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向とし,且つ,隣接する層同士の本撚り方向を逆方向とすると,同じ層の集合撚線同士及び異なる層の集合撚線同士の素線が点接触することとなって耐屈曲性の低下が懸念されるが,集合撚線の本数が各集合撚線を構成する複数本の素線の本数よりも多くされているため,1本の集合撚線の素線本数を比較的少なくでき,屈曲時における集合撚線の内部歪みを小さくすることとなり,耐屈曲性の低下を抑制することができる。従って,導体部の形状の崩れや扁平を抑えつつも耐屈曲性の低下を抑制することができる。」(段落【0011】,【0012】及び【0056】,【0057】)という明細書記載の効果を奏するものである。

したがって,上記相違点2を検討するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明3について
本願発明3は,上記相違点1に係る本願発明1の構成と同様の構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 小結
したがって,本願発明1,3は,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

第5 理由2(実施可能要件明確性)について
1 本願明細書の【発明の詳細な説明】には,
「【0025】
ここで,本実施形態において周囲撚線11bは,各集合撚線11の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向となっており,且つ,隣接する層同士において本撚り方向が逆方向となっている。
【0026】
一例を説明する。表1は,本実施形態に係る耐屈曲電線1の撚り方向の一例を示す表である。

【0027】
例えば表1に示すように,第1層撚線11b1の下撚り方向はS方向となっている。このように第1層において集合撚線11の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向となっている。
【0028】
また,第2層撚線11b2の下撚り方向はZ方向となっているのに対して,本撚り方向はS方向となっている。さらに,第3層撚線11b3の下撚り方向はS方向となっているのに対して,本撚り方向はZ方向となっている。加えて,最外層撚線11b4の下撚り方向はZ方向となっており,本撚り方向はS方向となっている。
【0029】
このように,第2層,第3層及び最外層においても集合撚線11の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向となっている。
【0030】
ここで,各集合撚線11の下撚り方向と本撚り方向とが逆方向となっていると,屈曲時において一方向に力(例えば図2に示す断面において中心撚線11aを中心とする回転方向の力)が作用したとしても,この力と,下撚り方向及び本撚り方向のいずれか一方とが逆向きとなるため,集合撚線11の形状の崩れや扁平が発生し難くなる。
【0031】
また,表1に示すように,第1層撚線11b1の本撚り方向はZ方向となっており,第2層撚線11b2の本撚り方向はS方向となっている。このため,隣接する第1層と第2層とにおいて本撚り方向が逆方向となっている。
【0032】
さらに,第3層撚線11b3の本撚り方向はZ方向であり,最外層撚線11b4の本撚り方向はS方向であるため,第2層と第3層,第3層と最外層とについても本撚り方向が逆方向となっている。」と記載されており,【表1】には「中心層」の「下撚り方向」が「S」で,「1層」の「下撚り方向」が「S」の例が記載されている。
また,本願明細書の【発明の詳細な説明】には,
「【0040】
次に,実施例及び比較例に係る耐屈曲電線1を説明する。表2は,実施例及び比較例1,2に係る耐屈曲電線1の導体部10の詳細を示す表である。

【0041】
表2に示すように,実施例においては,径を0.08mmとする27本の錫入り銅合金の素線を撚って集合撚線を61束分作成し,これらをさらに層毎(中心撚線を除き4層構造)に撚って複合撚線を作成して導体部とした。ここで,中心撚線の撚り方向をS方向としピッチを12mmとした。また,第1層,第2層,第3層及び最外層撚線の下撚りピッチを17mmに統一した。下撚り方向は順にZ方向,S方向,Z方向,及びS方向とした。さらに,第1層,第2層,第3層及び最外層撚線の本撚りピッチは,順に25mm,49mm,73mm,及び93mmとした。本撚り方向は順にS方向,Z方向,S方向,及びZ方向とした。」と記載されており,【表2】にも,実施例1の「中心層」の「下撚り方向」が「S」で,「1層」の「下撚り方向」が「Z」であることが記載されている。

2 本願明細書の【発明の詳細な説明】には,実施例が表2の実施例1しか記載されておらず,表1の例は,「中心層」の「下撚り方向」が「S」で,「1層」の「下撚り方向」が「S」となっており,表2の実施例1と逆になっているが,表1の例は,請求項2の「前記最内層撚線の下撚り方向と,前記周囲撚線のうち前記最内層撚線に接する層を構成する集合撚線の下撚り方向とは,一致している」という記載に対応する実施形態を示すものであって,表1の‘例’が表2の実施例1と異なる‘実施例’として明記されていないからといって,請求項2に係る発明が明確でないとまではいえず,また,本願明細書の発明の詳細な説明に,当業者が実施できる程度に記載されていないともいえない。

3 したがって,請求項2に係る発明は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が不明であり,本願は,特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明1,3は,当業者であっても,引用発明に基づいて容易に発明できたものではない。加えて,請求項2に係る発明が明確でないとまではいえず,本願明細書の発明の詳細な説明に,当業者が実施できる程度に記載されていないともいえない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-09-02 
出願番号 特願2015-92597(P2015-92597)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01B)
P 1 8・ 121- WY (H01B)
P 1 8・ 536- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 辻本 泰隆
西出 隆二
発明の名称 耐屈曲電線及びワイヤハーネス  
代理人 中村 信雄  

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